西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 第38回 アウトサイドキックの名手たち 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察…
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第38回 アウトサイドキックの名手たち
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。
今回は、三笘薫、モハメド・サラーなど、アウトサイドキックを有効に使うプレーヤーを紹介します。過去の名手にも足の外側を多用する選手たちがいました。
三笘薫(左)とモハメド・サラー(右)。プレミアリーグでアウトサイドキックを使う名手たちだ
photo by Getty Images
【ワンテンポ早く蹴れる】
三笘薫は今季プレミアリーグで7ゴール。ダニー・ウェルベック、ジョアン・ペドロと並んで今のところブライトンの最多得点者だ。左に膨らんでパスを受ける動きから、斜めにスプリントして裏でもらう動きが効果的。相手は三笘のドリブルの威力を知っているので、左へ開いて足下で受ける動きに釣られやすいのだろう。
三笘と言えばドリブル突破だったが、現在はむしろフィニッシャーとしてのプレーのほうが多くなっているかもしれない。ドリブラーは足下でボールを受けてからが勝負というタイプが少なくないが、それだとどうしてもプレーの幅が狭くなる。相手も警戒してふたりで抑えにくるので、足下からのドリブルだけだと有効なプレーの機会は限られてしまうのだ。
もともとドリブラーはスピードのある選手が多いので、裏をつくフリーランニングができると相手にとっては脅威が増す。足下と裏、ふたつあるので相手は的が絞りにくい。ドリブルへの警戒感が増していた段階でプレーの幅を広げている三笘は、自分のプレーをプロデュースできる賢さが光る。
ドリブル、裏抜けとともに三笘のトレードマークとも言えるプレーに、アウトサイドでのパスがある。
左サイドから右足のアウトサイドでGKとDFの間を狙う。足が長くて可動域が広く、以前からドリブルで食い込んだ時にはアウトのラストパスはよく使っていた。ただ、ドリブル突破からと、アーリークロスでは蹴り方が少し違っていて、ドリブル突破からのアウトサイドは角度を合わせて叩くだけ。一方、アーリークロスの場合は左足を踏み込んでから右足にウエイトを移し、右足も少し振り抜く感じの蹴り方になっている。
キックに使える時間と、届ける距離が違うためだが、アウトサイドを使う利点はほぼ同じ。左足で蹴るよりワンテンポ早い。右前にあるボールに対して、右足を踏み込んでから左で蹴ると、ひと手間多くかかってしまう。そのまま右アウトで蹴ったほうが早い。
【タイミングが合わずDFはブロックできない】
アウトサイドのアーリークロスは、リバプールのモハメド・サラーもよく使っている。
プレミアリーグですでに25ゴール17アシストと、圧倒的な数字を叩き出しているサラーは左利きの右ウイング。左足のアウトサイドを使ったラストパスは十八番。アウトサイドは予備動作が少ないので守備側はタイミングがわかりにくく、たいがいブロックが間に合わない。ボールはDFの足のすぐ横を通過しているのだが、タイミングが合わないので足が出ないのだ。
また、アウトサイドと言えばルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)も有名だ。シュートでもパスでもよく使っている。足首がよほど柔軟なのか、左足の前にあるボールでもアウトサイドでもっていく。
ブラジルではアウトサイドキックを「三本指のキック」と呼ぶことがある。
中指、薬指、小指の三本指でインパクトするからだが、三笘やサラーのキックはもっと足首に近い深い部分で蹴っている。
三本指のキックはカーブをかけやすい半面、ボールのスピードはあまり期待できない。なかにはエドゥー(ジーコの兄)のように指全部を丸めてトゥキックの凄いシュートを蹴る選手もいた国なので、三本指でも強烈なのを蹴る人もいそうだが、一般論で言えば強いキックはやりにくい。
キック全般に言えることだが、ボールへのインパクトは足先よりも足首に近いほうがボールからの反発に負けにくいので、強いボールを蹴りやすい。木の枝にボールを当てれば、枝はしなって勢いを吸収するが、木の幹に当てれば強く跳ね返る。より硬くて動かない部分で蹴ったほうが、強いキックができるわけだ。
三笘やサラーのアウトサイドでのアーリークロスはパススピードが必要なので、三本指ではなく、より足首に近い部分に当てる。ほぼ真っ直ぐ蹴りだされた後に途中で回転がかかって曲がる。GKへ向かう軌道にブレーキがかかるような感じになっている。
【アウトの使い手はクセの強い名手たち】
クロスボールでのアウトサイド多用が印象的だったのが、リカルド・クアレスマだ。ルイス・フィーゴとクリスティアーノ・ロナウドの中間にあたる世代で、スポルティング、バルセロナ、ポルト、インテル、チェルシーと名門クラブでプレーした左ウイング。左サイドから右足アウトで繰り出すクロスボールがトレードマークだった。
左足で蹴ってもよそうな場合でも、右アウトで蹴るタイプ。だが、右アウトのクロスはコントロールが利いていて球速もあり、それでハイクロスも蹴る。曲芸みたいだった。
アウトサイドの名手は昔から存在していて、最高峰はフランツ・ベッケンバウアーだろう。パス、シュート、FKとほとんどアウトで蹴っていた。この人の場合はアウトサイドが自然だったようで、むしろインサイドキックが得意ではなかったそうだ。
同世代のヨハン・クライフもアウトを多用していた。利き足の右だけでなく左のアウトも蹴れた。足の内側、外側を両足で使えるから、タイミングの調節が自在。
さらに遡ると、ジジがやはり左右どちらもアウトサイドを使えた。1950~60年代を代表するプレーメーカー。「枯れ葉」と呼ばれた壁を越えて落ちるFKの第一人者でもあった。現在よりボールが重く、シューズもガチガチのブーツの時代によくこんな器用な選手がいたものだと思う。
ペレ、ガリンシャのアウトサイドによる曲がるシュートは有名で、「バナナシュート」と呼ばれたが、1978年アルゼンチンW杯の3位決定戦で右サイドからバナナシュートを決めたネリーニョは、右足の内側で蹴ると聞いたことがある。
ボールの左側を右足のインフロントで叩いて右方向へカーブさせるというのだ。アウトサイドよりさらに曲芸的だが、当時の南米にはこういうクセの強い選手がけっこういたのを懐かしく思い出す。
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