連載:あなたを作る10曲(第一回)
水溜りボンド・カンタの盟友、映画監督・竹中貞人を作る10曲とは? 映画を耳から感じるプレイリスト公開
アーティストや俳優、クリエイター、お笑い芸人など、さまざまな著名人に音楽体験について伺いながら、とっておきの曲を厳選してプレイリストを作成していただく連載「あなたを作る10曲」。
第1回は、AOI biotope所属の映画監督・竹中貞人が登場。東京藝術大学大学院を卒業後、水溜りボンドのYouTubeで企画構成作家を担当。「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM 2022」でグランプリを受賞し、現在は代表作『少年と戦車』を筆頭に長編作品を制作している(Netflixにて配信中)。
そんな竹中は、幼い頃から母の影響で映画に親しみ、映画音楽にも興味を持つようになる。彼がこれまでの人生で特に影響を受けた映画についても伺いながら、映画と音楽の関係性や思い入れのある楽曲のエピソードを語ってもらった。
「音楽が入ると嘘になる」音楽に期待する映画での役割
――ドラマや映画などを手掛けられている竹中さんですが、監督としてどんな1日を過ごしていらっしゃるのでしょうか?
竹中:1日のスケジュールは毎日バラバラなんです。ただ、映画監督の良いところだと思っています。撮影はもちろん、撮影に向けた準備やその後の編集作業もあります。そして、一つの作品が終われば、次の作品に。合間で映画もたくさん観てインプットをしています。自分の作品欲を高めるために音楽も結構聴いています。
――なるほど。普段、どんなシチュエーションで音楽を聴くことが多いですか?
竹中:移動中や、脚本の執筆中に聴いていることが多いです。あとは、お風呂場。Spotifyの「シンガロング」機能を使って、カラオケみたいにして歌っています。ボーカルの音量だけが下がるから、アカペラで歌うのはちょっと恥ずかしくても歌いやすいし、ストレス発散にもなります。
――最近は、どんな音楽を聴いていますか?
竹中:お風呂場ではよく、Mr.ChildrenやBUMP OF CHICKENを歌います。「シンガロング」機能のおかげでテンションが上がってついモノマネしながら気持ちよく歌っています(笑)。あとは、流行りに乗ってK-POPもよく聴いています。最近「aespa」を覚えました。
――特にたくさん音楽を聴いていた時期はありますか?
竹中:中学生の頃です。ORANGE RANGEとか、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとか、サスケとか……あとは、羞恥心とか。でも中学生の頃って、どこかで「俺しか聴いてない」って思うようなものを選びたくなるんですよね。
それで地元のTSUTAYAでCDを探して、チャットモンチーやRed Hot Chili Peppersを聴くようになって。でも結局、当時はみんな同じTSUTAYAで曲を探していたから「俺しか聴いてない」音楽なんて手に入らないことに気が付きました。
――なるほど。竹中さんが映画に興味を持ったきっかけは何だったんですか?
竹中:音楽をたくさん聴いていた頃、音楽と同じくらい身近にあったのが映画でした。母がすごく映画好きで、その影響を受けて僕も映画をたくさん観て、音楽も聴いて。そうしているうちに「映画のサウンドトラックっていうのがあるんだ」と知りました。
当時は曲を簡単に探せるサービスなんてなかったから、映画のエンドロールに曲名が載っていても、それが一体どの曲なのか、合致させるのが大変でした。いまはネットが普及して、探している曲にすぐにたどり着けるようになって、便利な時代になったなあと思います。
――今回のプレイリストに入れた曲以外に「このサウンドトラックが良い!」という映画はありますか?
竹中:まず、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『リコリス・ピザ』。あとは作曲家のアレクサンドル・デスプラが好きなので『シェイプ・オブ・ウォーター』も良いですね。「聴いた方がいいサウンドトラックはなに?」かなんて聞かれたら、いくらでも出せます!
――映画を作るにあたって、音楽に期待する役割はなんですか?
竹中: 役割……。音楽が入ると「嘘」になるんです。作中の描写がどれだけリアルを保っていたとしても、音楽が入ると、その描写は嘘になる。だって本当にその場で流れているわけじゃないので。
だからこそ、映画における音楽は、足し算を間違えると観る人の心を離しかねません。でも、入れ方やタイミングが合えば、そのシーンを何倍にも良くしてくれるものでもある。観客の心を動かす、そういう力があると思うんです。すごく奥が深いのですが、音楽が作品においてプラスに働くように心がけています。