白上フブキ×Revo(Sound Horizon)異色の“二国間会談” 文化の壁も越える、音楽エンタメの面白さ
2025年1月15日に白上フブキの1stフルアルバム『FBKINGDOM “Blessing”』が発売される。アルバムに収録される楽曲のひとつ、「僕らの星座」は白上フブキの建国した王国・FBKINGDOM(フブキングダム)の“国歌”として書き下ろされたもので、作詞・作曲をSound Horizonの主宰・Revoが手掛ける。熱烈なローラン(Sound Horizonファンの愛称)としても知られる白上フブキと、自身の音楽プロジェクトであるSound Horizonを「移動王国」と称し、ライブの最後にはファンとともに“Sound Horizon Kingdom国歌斉唱”を行うサウンドクリエイター・Revo。二人のコラボレーションが実現した背景について、白上フブキ・Revoの両名にお話を伺った。(白石倖介)
2度も国歌を作るというのは前人未到(Revo)
ーー白上さんは以前よりSound Horizonが好きだということをおっしゃっていますが、知ったきっかけはどのようなものでしたか。
白上フブキ(以下、白上):友達のお姉さんから『Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜』を聴かせてもらったことがきっかけでした。そのころSound Horizonの活動は第二期に入っており、すでにいろんな作品が世に出ていて、「これからどうする? 過去に行きたい? 未来に行きたい?」と聞かれて、「じゃあ過去に行きたい!」と伝えて、そこから『Chronicle 2nd』『Lost』などの過去作品に触れて、その後『Roman』や『Moira』などのメジャーデビュー後の作品を聴きました。私も創作をすること、創作に触れることがとても好きだったので、歌の中から伝わるキャラクターやストーリーが“ぶっ刺さり”まして。アルバムに世界観があって、歌のなかに人物像が見えて、それが過去の作品とつながっていたりして。「作ってる方の頭の中はどうなってるんだろう?」と、とても興味を持ちました。VTuberとして活動する以前から、友達とカラオケに行って歌ったりもしていました。カラオケだと、なぜか私がいつもJIMANGさんパートの担当になるんですが(笑)。
ーーVTuberのみなさんともコラボレーションしてSound Horizonの楽曲をたくさん歌っていらっしゃいますね。
白上:VTuberの世界にはサンホラ好きが多くて、「この人も歌ってる、あの人も歌ってる!」と驚きました。ホロライブはもちろん、にじさんじさんにも歌っている方がいて、「どこにでもいるやん! この世界にもローランは存在したんだ!」と思いました。同志がいるのは嬉しいですね。
ーー今回のアルバムのテーマになっているFBKINGDOM(フブキングダム)という言葉は、どのようにして生まれたものなんですか。
白上:これは元々私のあだ名に由来していて、同期でもあるホロライブ1期生の夏色まつりちゃんがデビュー当時に“フブキング”って呼んでくれたんです。そう呼ばれているうちにファンの人から「王様なら、国とか作っちゃえば?」と言われて、そこからノリと勢いで、建国してしまいました。王としてどういうことをしたいのかということはあまりはっきりしていなかったんですが、ソロライブをきっかけにちゃんと確立していこうと思っているんです。
ーーでは、Revoさん・白上さんに「僕らの星座」という楽曲が産まれた背景についてお聞きします。制作のきっかけは白上さん側からのオファーだったということですが、どういった経緯でご依頼をなさったんでしょうか。
白上:昨年の3月〜4月ごろ、アルバムを作ることとソロライブを行うこと、2つのプロジェクトがほぼ同時に走りはじめました。ライブのタイトルが『FBKINGDOM “ANTHEM”』に決まり、「やっぱり国歌が欲しいよな」と思ったとき、私の中ではもうRevoさん一択だったんです。そういう思いでホロライブの音楽制作を担当している方に「Revoさんに依頼できませんか?」と相談したら「行ってきます!」って言われて。その後良い感触のお返事をいただけて、嬉しくて床を叩きましたね。そこがこの曲のスタートでした。
ーーRevoさんはこのオファーについて、どんな印象を持ちましたか。
Revo:驚きましたし、ウケますよね。この現代に国歌の制作を依頼されること、ありますか? っていう(笑)。普通に音楽家をやっていたらそんな経験はほとんどないはずで、でもありがたいことにフブキさんは僕に依頼をしてくれて、その折に考えたんです。そもそも国歌を作ったことのある存命の音楽家がどのぐらいいるんだろうと。ましてや2度も国歌を作るというのは結構前人未到の領域なのかな? 調べたことがないのでわかりませんが、とても光栄なことだし面白いと思いました。創作の世界ではそういうことが起こりうるんだなと。しかもフブキさんは「ちゃんと国を作るので、国歌をお願いします」というプロセスを踏まれているじゃないですか。ネタ的な依頼ではなくて、そこにちゃんと理由となるストーリーがあった。それも踏まえるとこのお話が僕に来たことも1つ……運命というか、自分が今までやってきたことの延長線上に未来があるので、それによって繋がるものがあったんだろうなと。僕が自分の活動を別の形でやっていたとしたらこんなオファーはなかっただろうし、この世界線ではこういう事が起きる運命だったのかもしれないと思ったんです。
白上:灰になりそうです、今。泣きそう。すごく嬉しいです。私の国は建国したばかりでまだ曖昧な世界だから「これからどうしよう」と考えているんですけど、国歌という国の柱になるような楽曲が作れたら嬉しいと思って、でもそれをRevoさんに頼むなんて、本当にそんなことしていいのかなと思っていたので、今Revoさんのお言葉を聞くことができて、マジで泣きそうです。本当に嬉しい。
ーー国歌の発注があった段階で、Revoさんは白上さんのことはご存知でしたか。
Revo:そうですね。そこまで詳しく知っていたわけではないので、すこん部(白上フブキのファンの愛称)の皆さんに少しでも付いていけるよう履修中なのですが、VTuberの文化の中で真っ先に名前が挙がってくるような方ですし、古くから活動している有名な方だったので。それに、僕の曲をカバーしてくださっている動画も実は以前に観たことがあったんです。
白上:ありがとうございます。
Revo:なのでVTuberの方々も昨日今日に突然やって来たわけじゃなくて、そういう文化が起こって、そこで頑張ってきた人たちが今歴史を作っていることは以前から知っていて、一方僕たちはまた別の文化でやってきたんですけど、それがこんなふうに繋がる未来もあるんだなって。それが“令和”なのかもしれないね。
ーーRevoさんは昨年メジャーデビュー20周年を迎えられましたが、こういう形で自身の楽曲のフィードバックが返ってくる未来を想像していましたか?
Revo:していなかったですね。長く活動しているなかで「誰かに良い影響を与えられたらいいな」と思ってはいましたが、さすがにVTuberみたいな存在が世の中に現れることは、自分が活動し始めた時は想像していませんでした。……もし自分が活動を始めたときにVTuberっていう文化があったら、自分がやっていたかもしれない感じ、あるじゃないですか。僕が生まれてくるのが早すぎたんですよ。すごく面白い文化だと思っているんですけど、いまさらおじさんが乗っかるのはちょっと(笑)。でも実は今、こっそりLive2Dに手を出しているんですよ。
白上;そうですよね!
Revo:はい、まだ腕が動かないんですけど。VTuberさんみたいに新しいテクノロジーの近くでいろんなことに挑戦している方々への興味があって、今回楽曲提供という形ではありますが、少し勉強させていただくというか、そういう新しい文化により深く触れる1つのきっかけになると感じています。
白上:バーチャルっていう曖昧な存在の我々をそんなふうに認知していただけることはもちろん嬉しいですし、物語をたくさん作ってきたRevoさんが我々の文化を知って、もしそれがRevoさんの創作に活かされるなら、ファンとしても本当に嬉しいです。Live2Dの身体を手に入れて、いつかは3Dになって、バーチャルで全身を動かす陛下が観られるかもしれない!