ホンダ・日産の統合“破断”は「もったいない」
ホンダと日産の経営統合の計画は、ホンダによる日産の子会社化提案に日産が反発して“破談”になりました。一言でいえば「もったいない」という感想です。
そもそも日産は12月の経営統合発表の時から、対等な関係を強調していましたが、ホンダの時価総額は日産の5倍もあるので、そもそも対等な関係をホンダが受け入れるのに無理があったとも考えられます。無理があるにもかかわらず両社が数を求めて統合を目論んだ背景にはデジタル化の脅威があったと思われます。
筆者は、自動車業界が直面するデジタル化の状況は、20年前に日本のエレクトロニクス産業が後退した状況と酷似していると考えます。デジタル化の脅威とその対応法については後半に述べるとして、まずは、今回の破談の問題点について触れたいと思います。
ホンダも日産もこれまで中国と北米の市場を強みとしてきましたが、中国は中国製EVの台頭で両社とも苦戦を強いられています。北米について言えば明暗が分かれていて、ホンダはトヨタとともにHEVの売り上げが好調である一方、日産は強いHEVなどの商品を持たないことから苦戦している状況です。
日産には「今、売れる車がない」
日本が得意なハイブリッドシステムの代表であるトヨタの「THS」やホンダの「e:HEV」は、エンジン主体、モーター主体の違いはあるものの、高速時にモーターだけでなく、エンジンの動力を使って燃費の良い走行を実現しています。一方、日産の「e-Power」は、高速時も100%モーターで走るシリーズ方式のハイブリッドを採用しています。e-Powerは高速走行時の燃費が良くないため、長距離移動の多い北米などでは不向きであり、実際日産はe-Powerを北米市場に投入していません。強みとしてきた北米で今売る車がないというのが日産の直面する課題と言えます。
自動車各社は、将来のEVシフトやSDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)などへの備えとして巨額な投資を行う必要があります。そのために規模を追求しようとしているわけですが、そもそも日産は将来の備えの以前に、現在の市場で「今売れる車がない」という問題があるわけです。これはカルロス・ゴーンのマネジメント以降、効率性を過度に重視し、EV以外への投資を極度に怠ったためでもあります。
日産はすぐにでも足元の既存ビジネスを立て直さないと将来への投資どころではない状況であると言えます。その点、ホンダとの経営統合が進めばホンダの好調なHEV技術を活用して、今売れる車を北米や東南アジアなどの市場に投入することもできたと思いますが、その可能性を日産はみずから断ち切ってしまったといえます。その意味で今回の結果は非常にもったいないといえるのではないでしょうか。