銀行に預けた金が勝手に融資に使われる
2.浮き貸し
これは前述の預かり金着服の進化形で、顧客から預かった金または自己の金を勝手に他の顧客に融資し、金利を稼ぐ手口だ。古典的なやり口で、ここ数年だけでも、琉球銀行、おかやま信用金庫、いちい信用金庫(愛知県)、青和信用組合(東京都)などで発生している。
筆者が働いた都銀でも、都心の支店でこれが起き、やった行員は懲戒解雇、海外勤務や本店の花形部門も経験し出世街道を驀進していた上司の融資課長は左遷された。
平成10年(1998年)には、富士銀行春日部支店の行員が、顧客から預かった2500万円をある運送業者に浮き貸しし、発覚を防ぐため顧客の老夫婦を殺害するという事件まで起きた(犯人は無期懲役)。
これを防ぐには、預金・融資とも、金利計算書を確認したり、インターネットバンキングやATMで残高や取引内容を確認したりすることだ。
3.インターネット口座の乗っ取り
インターネットバンキングは便利なものだが、当然リスクもある。ハッキングやマルウェア(悪意あるソフトウェア)の被害に遭わないよう、アンチウイルスソフトやVPNを使うとか、パソコンを定期的にスキャンする等の用心が必要だ。
しかし、内部の行員が犯罪に加担すると、防ぐのはきわめて難しい。以下は筆者の経験である。
英国に送金した390万円が忽然と消えた
以前、3週間の日本滞在中、2万ポンド(約390万円)を英国の自分の銀行口座に送金したことがあった。ロンドンに戻った翌朝、入金を確認するため、家の近所にある銀行のCD(現金自動支払い機)で残高をチェックした。
スクリーンに表示された残高は、2100ポンドあまり。
思わず数字を凝視した。日本から送金した分を含めて2万7000ポンドくらいなくてはおかしい。いろいろな可能性に思いを巡らしたが、まったく心当たりがない。
急いで自宅に戻り、何が起きたかを確認するため、銀行に電話した。
「ミスター・ベイグ(Beig)に8900ポンド、ミスター・アシュファク(Ashfaq)に8900ポンド、当行の別の口座に7000ポンド送金されています」
コールセンターの男性の答えに愕然となった。
「そんな名前は聞いたことがないし、自分はそんな送金もしていない。それは絶対にフロード(詐欺)だ!」
いつ送金されたのか訊くと、今日だという。そして、送金の指示はインターネットでなされていた。しかしわたしは、当時インターネットバンキングは利用していなかった。
「あなたに身に覚えがないのであれば取り消します」と相手は言う。
「ぜひ、そうしてください」
「取引店とも話しました。あなたの暗証番号を廃止し、インターネットバンキングもテレフォンバンキングも使えなくしました。暗証番号を復活し、詐欺に対処するには、身分証明書を持って取引店に行ってください」