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JPWO2020170710A1 - 高強度鋼板、熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法および高強度鋼板の製造方法 - Google Patents

高強度鋼板、熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法および高強度鋼板の製造方法 Download PDF

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Abstract

加工性と耐抵抗溶接部割れ性に優れる高強度鋼板を提供する。
所定の成分組成を有するとともに、体積分率で、フェライトが30%以上70%以下、マルテンサイトが20%以上70%以下、パーライトが10%以下(0%含む)およびベイナイトが20%以下(0%含む)であり、前記フェライトが、平均結晶粒径6μm以下、かつ平均アスペクト比2.0以下を有し、前記マルテンサイトが、平均結晶粒径5μm以下、かつ平均アスペクト比2.0以下を有し、前記ベイナイトが、平均結晶粒径5μm以下を有し、前記マルテンサイトの平均自由行程が8.0μm以下であり、前記マルテンサイトのうち、マルテンサイト粒内に、粒径0.1μm以上の炭化物が10個以上存在するマルテンサイト粒が、全マルテンサイトに対する体積分率で50%以上であるミクロ組織を有することを特徴とする高強度鋼板である。

Description

本発明は、高強度鋼板、熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法および高強度鋼板の製造方法に関する。
近年、環境問題の高まりからCO2排出規制が厳格化しており、自動車分野においては燃費向上に向けた車体の軽量化が課題となっている。そのために自動車部品への高強度鋼板の適用による薄肉化が進められており、引張強度(TS)が780MPa以上の鋼板の適用が進められている。
自動車の構造用部材や補強用部材に使用される高強度鋼板は、加工性に優れることが要求される。特に、複雑形状を有する部品の加工には、伸び、穴広げ性といった個別の特性が優れているだけでなく、その全てが優れていることが求められる。
さらに、プレス成形された部品は、抵抗溶接(スポット溶接)により組み合わせることが多く、溶融亜鉛めっき鋼板と溶接される場合がある。この場合、スポット溶接時に、鋼板表面の亜鉛が溶融し、また、溶接部近傍に残留応力が生成することで、液体金属脆性が発生して鋼板に割れが生じてしまう懸念がある。これは、高強度鋼板が非亜鉛めっき鋼板であっても、溶接されるもう一方の鋼板が亜鉛めっき鋼板であれば、その亜鉛が溶融してしまうため、起こり得る問題である。さらにスポット溶接後は、自動車車体全体の剛性を保つために溶接部に応力がかかることから、使用環境から進入する水素によって遅れ破壊が生じることが懸念される。
そのため、上記の用途に高強度鋼板を適用するには、高強度鋼板が加工性を有し、液体金属脆性や遅れ破壊による抵抗溶接部の割れが生じ難く、耐抵抗溶接部割れ性に優れていることが必要である。
これまでに、高強度鋼板の耐抵抗溶接部割れ性を向上させる手段はいくつか報告されている。例えば、特許文献1には、Si、Al、Mnの含有量を制御することで、抵抗溶接時の耐表面割れ性を改善する技術が開示されている。
特開2002-294398号公報
しかしながら、特許文献1に開示される鋼板において、引張強度(TS)が780MPa以上の高強度を同時に達成することは困難であり、十分な強度と穴広げ性を確保しているとはいえない。このように、高強度鋼板において、加工性と耐抵抗溶接部割れ性の双方に優れたものを実現することは困難であり、その他の鋼板を含めても、これらの特性を兼備する鋼板は開発されていないのが実情である。
本発明は、上記実情に鑑み開発されたものであって、加工性と耐抵抗溶接部割れ性に優れる高強度鋼板を提供することを目的とする。
ここで、本発明における高強度鋼板は、引張強度(TS)が780MPa以上の鋼板をいうこととする。
本明細書において、優れた加工性は、優れた伸びと優れた穴広げ性の両方を兼ね備えることをいう。例えば、優れた伸びと優れた穴広げ性とは、後述する試験で、それぞれ伸び14%以上、穴広げ率35%以上のものを意味し得る。
本明細書において、耐抵抗溶接部割れ性は、抵抗溶接時の割れの発生および使用環境中の水素による抵抗溶接部の割れの発生がいずれも抑制されていることをいう。例えば、後述する試験で、鋼板と電極を所定の角度(例えば、6度)をもって溶接した場合に抵抗溶接部に割れが生じず、溶接体に対して陰極電解チャージにて水素を添加した場合に所定の時間後の破断が見られないものを意味し得る。
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、高強度鋼板において、加工性(伸びおよび穴広げ性)と耐抵抗溶接部割れ性の両方を向上させるためには、鋼板のミクロ組織について、フェライト、マルテンサイト、パーライトおよびベイナイトの体積分率を特定の比率となるようにするとともに、これらの結晶粒を微細化し、球状(断面の場合円形)に近い性状に制御すること、中でも、穴広げ性に及ぼす影響が大きいマルテンサイトの分散状態とマルテンサイト性状を制御することが有効であることを見出した。詳細には、以下のとおりである。
(1)穴広げ試験における打ち抜き時に、軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトにボイドが生成してしまい、そのボイド数が多くなると穴広げ性が劣化する。このボイド生成抑制には、フェライトとマルテンサイトとの硬度差を低減させることが有効であり、また、ボイド生成挙動はフェライトおよびマルテンサイトの形状によって変化するところ、これらを球状(断面の場合円形)に近い形状にすることが有効である。所定の成分組成で、所定の熱処理を実施することで、球状(断面の場合円形)に近い形状のオートテンパーされたマルテンサイトを含有させることが可能となり、穴広げ性が飛躍的に向上する。
(2)抵抗溶接時の液体金属脆性による割れは、溶接時に鋼板表面の亜鉛が溶融し、また、溶接部近傍に残留応力が発生することによるもので、ナゲット近傍の熱影響部(HAZ部)に発生する。スパッタが発生しない適正な電流範囲においても、引張強度が780MPa級まで高強度となると、鋼板同士が重なりあっている表面で割れ(内割れ)が生じることがあり、特に、溶接用の電極が鋼板と所定の角度で溶接されると、内部応力が増加し割れが生成しやすくなる。本明細書における抵抗溶接部割れには、この内割れを含む。この内割れが発生すると、特に溶接部の疲労強度の減少などが懸念されるため、自動車用等に使用される場合はこの内割れを回避する必要がある。
内割れ部を観察すると、熱影響部(HAZ)の溶接後にマルテンサイト単相となる場所で粒界破壊しているため、内割れの抑制には、溶接後の結晶粒を微細化させることが有効であり、そのためには母材の結晶粒を微細化しておくことが重要である。さらに、粒界強度を上昇させることにより、耐液体金属脆性が向上する。所定の成分組成で、所定の熱処理を実施することで、最適なミクロ組織が得られ、耐抵抗溶接部割れ性が向上する。
(3)自動車車体として仕上げた後、製造した自動車について、実際に走行を繰り返していると、雨等により電気化学的に水素が鋼板上に発生し、一部は鋼板に侵入する。鋼板に応力が発生していなければ、この水素を要因とした遅れ破壊は生じないが、抵抗スポット溶接により応力が生じている場合がある。水素が侵入しても炭化物が水素のトラップサイトとすることで、遅れ破壊を抑制することができる。そのためには、マルテンサイトをオートテンパーすることで、炭化物を生成させておくことが有用である。
この発明は、上記の知見に立脚するものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
[1] 質量%で、
C:0.05%以上0.18%以下、
Si:0.8%以下、
Mn:1.5%以上3.0%以下、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Al:0.01%以上0.10%以下、
N:0.010%以下、
Mo:0.05%以上0.50%以下、
Ti:0.01%以上0.10%以下、および
B:0.0002%以上0.0100%以下を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
ここで、Mo、N、TiおよびBが式(1):
[Mo]+2×([Ti]−3.4×[N])+45×[B]≧0.20
(ここで、[Mo]、[Ti]、[N]および[B]は、それぞれ、Mo、Ti、NおよびBの含有量(質量%)であり、[N]は0質量%であってもよい。)を満たし、
体積分率で、
フェライトが30%以上70%以下、
マルテンサイトが20%以上70%以下、
パーライトが10%以下(0%含む)および
ベイナイトが20%以下(0%含む)であり、
ここで、
前記フェライトが、平均結晶粒径6μm以下、かつ平均アスペクト比2.0以下を有し、
前記マルテンサイトが、平均結晶粒径5μm以下、かつ平均アスペクト比2.0以下を有し、
前記ベイナイトが、平均結晶粒径5μm以下を有し、
前記マルテンサイトの平均自由行程が8.0μm以下であり、かつ
前記マルテンサイトのうち、マルテンサイト粒内に、粒径0.1μm以上の炭化物が10個以上存在するマルテンサイト粒が、全マルテンサイトに対する体積分率で50%以上であるミクロ組織を有する、
高強度鋼板。
[2] 前記成分組成が、質量%で、さらに
V:0.06%以下、および
Nb:0.05%以下からなる群より選択される1種以上を含有する、[1]の高強度鋼板。
[3] 前記成分組成が、質量%で、さらに
Cr:0.80%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Sb:0.02%以下、ならびに
CaおよびREMから選択される1種以上:0.0050%以下からなる群より選択される1種以上を含有する、[1]または[2]に記載の高強度鋼板。
[4] [1]〜[3]のいずれかの成分組成を有する鋼素材を、仕上げ圧延の最終パスの圧下率:12%以上、前記最終パスの直前のパスの圧下率:11%以上、仕上げ圧延終了温度:840℃以上950℃以下の条件で熱間圧延し、
前記熱間圧延後、70℃/s以上の第1次平均冷却速度で、700℃以下の第1冷却停止温度まで1次冷却をし、
前記第1次冷却後、5℃/s以上50℃/s以下の第2次平均冷却速度で、610℃以下の巻取り開始温度まで第2次冷却をし、
次いで、巻き取る、
熱延鋼板の製造方法。
[5] [4]の製造方法で得られた熱延鋼板を酸洗し、冷間圧延する、冷延フルハード鋼板の製造方法。
[6] [5] の製造方法で得られた冷延フルハード鋼板を、0.5℃/min以上5.0℃/min以下の平均加熱速度で、750℃以上900℃以下の均熱温度まで加熱し、前記温度で1時間以上保持した後、1.0℃/h以上100℃/h以下の平均冷却速度で室温まで冷却する、高強度鋼板の製造方法。
本発明によれば、高い引張強度、優れた加工性(優れた伸びおよび穴広げ性)を有し、優れた耐抵抗溶接部割れ性を有する高強度鋼板が、その製造方法とともに提供される。
また、本発明によれば、上記高強度鋼板をもたらすことができる、熱延鋼板の製造方法、冷延フルハード鋼板の製造方法が提供される。
本発明の高強度鋼板を自動車の構造部品の部材等とすることで、車体軽量化による燃費改善を図ることができる。また、本発明の製造方法は、このような高強度鋼板を安定して提供することを可能とする。このため、本発明の産業的な利用価値は大きい。
以下、本発明について具体的に説明する。
[高強度鋼板の成分組成]
本発明の一実施形態である高強度鋼板の成分組成について説明する。成分組成における単位はいずれも「質量%」であるが、特に断らない限り、単に「%」で表わす。
C : 0.05%以上0.18%以下
Cは鋼板の高強度化に有効な元素であり、また、第1相であるフェライト以外の第2相(パーライト、ベイナイト、マルテンサイトを含む)の形成に寄与する重要な元素である。Cの含有量が0.05%未満では、必要なパーライト、ベイナイト、マルテンサイトの体積分率の確保が難しく、所望の強度を得るのが困難である。このため、その含有量は0.05%以上とする。好ましくは0.075%以上である。Cの含有量が過剰であると、抵抗溶接後の硬度が硬くなり、抵抗溶接時の靭性が低下し、耐抵抗溶接部割れ性が低下する。また炭化物の生成が不十分な高硬度のマルテンサイトが過剰となり、良好な穴広げ性および遅れ破壊特性が得られない。さらに、マルテンサイトの体積分率が多くなり、フェライトの体積分率の確保が困難となり、伸びが低下する。このため、その含有量は0.18%以下とする。好ましくは0.16%以下である。
Si : 0.8%以下
Siはフェライトを固溶強化することで高強度化に寄与する元素であるが、含有量が過剰であると、抵抗溶接時における靭性が低下し、耐抵抗溶接部割れ性が劣化する。また所定量の炭化物が生成したマルテンサイトが得られず、良好な穴広げ性および遅れ破壊特性が得られない。このため、その含有量は0.8%以下とする。好ましくは0.50%以下である。より好ましくは0.30%以下である。下限は特に限定されないが、極めて低いSi化はコストを上昇させるため、0.005%以上が好ましい。
Mn : 1.5%以上3.0%以下
Mnは固溶強化および第2相の生成を促進することで高強度化に寄与する元素である。また、オーステナイトを安定化させる元素であり、第2相の体積分率の制御に必要である。これらの効果を得るため、その含有量は1.5%以上とする。好ましくは2.1%以上である。より好ましくは2.2%以上である。一方、含有量が過剰であると、Mnバンドが生成するため、穴広げ性および耐抵抗溶接部割れ性が劣化する。このため、その含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.6%以下である。
P : 0.05%以下
Pは固溶強化により高強度化に寄与する元素であるが、含有量が過剰であると、粒界への偏析が著しくなって粒界を脆化させるため、耐抵抗溶接部割れ性が低下する。このため、その含有量は0.05%以下とする。好ましくは0.04%以下である。下限は特に限定されないが、極めて低いP化は製鋼コストを上昇させるため、0.0005%以上が好ましい。
S : 0.005%以下
Sは含有量が多くなると、MnS等の硫化物の生成が多くなり、穴広げ試験の打ち抜き時にボイドの起点となって、穴広げ性を低下させる元素である。このため、その含有量は0.005%以下とする。好ましくは、0.0045%以下である。下限は特に限定されないが、極めて低いS化は製鋼コストを上昇させるため、0.0002%以上が好ましい。
Al : 0.01%以上0.10%以下
Alは脱酸に必要な元素であり、この効果を得るため、その含有量は0.01%以上とする。一方、0.10%を超えると効果が飽和するため、その含有量は0.10%以下とする。好ましくは0.06%以下である。
N : 0.010%以下
Nは粗大な窒化物を形成して穴広げ性を劣化させる元素である。Nが0.010%を超えると、この傾向が顕著となる。このため、その含有量は0.010%以下とする。好ましくは0.008%以下である。下限は特に限定されないが、極めて低いN化はコストを上昇させるため、0.0005%以上が好ましい。
Mo : 0.05%以上0.50%以下
Moは第2相の生成を促進することで高強度化に寄与する元素である。また、焼鈍中にオーステナイトを安定化させる元素であり、第2相の体積分率の制御に必要である。さらに、焼鈍中の冷却速度が低くても焼入れ性を確保できる点から、本発明において重要な元素である。これらの効果を得るため、その含有量は0.05%以上とする。好ましくは0.08%以上である。一方、含有量が過剰であると、第2相が過剰に生成し、伸びや穴広げ性が劣化する。このため、その含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.43%以下である。
Ti : 0.01%以上0.10%以下
Tiは微細な炭窒化物を形成することで高強度化に寄与する元素である。また、本発明において必須の元素であるBが、Nと反応するのを抑制することにも寄与する。さらに、焼鈍中の微細な炭窒化物の粒成長を制御し、球状に近いフェライトやマルテンサイトを生成することができる点から、本発明において重要な元素である。これらの効果を得るため、その含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.03%以上である。より好ましくは0. 04%以上である。一方、多量にTiを添加すると、伸びが著しく低下するため、その含有量は0.10%以下とする。好ましく0.09%以下である。
B : 0.0002%以上0.0100%以下
Bは焼入れ性を向上させ、第2相の生成を促進することで高強度化に寄与し、焼入れ性を確保しつつ、マルテンサイト変態開始点を低下させない元素である。また粒界に偏析することで粒界強度を向上させるため、耐遅れ破壊特性に有効である。これらの効果を得るため、その含有量は0.0002%以上とする。好ましくは0.0005%以上である。一方、含有量が過剰であると、靭性を劣化させ、耐抵抗溶接割れ性を低下させる。このため、その含有量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0050%以下である。
本発明では、Mo、Ti、NおよびBの含有量が式(1)を満足する必要がある。
[Mo]+2×([Ti]−3.4×[N])+45×[B]≧0.20・・・(1)
ここで、[Mo]、[Ti]、[N]および[B]は、それぞれ、Mo、Ti、NおよびBの含有量(質量%)であり、[N]は0質量%であってもよい。
上記式(1)は、所定の組織を確保し、強度、加工性や耐抵抗溶接部割れ性を確保する上での指標になるものであり、左辺の値が0.20未満では、所定の組織が得られず、強度、加工性や耐抵抗溶接部割れ性を兼備することが困難になり得る。このため、左辺の値は、0.20以上とする。好ましくは0.21以上である。上限は、1.15であり、焼入れ元素増加に伴い延性が確保困難のため、好ましくは0.85以下である。
本発明の高強度鋼板は、以下の成分の1種または2種以上を、さらに含有することができる。
V : 0.06%以下
Vは微細な炭窒化物を形成することで強度上昇に寄与する元素である。Vを含有させる場合、この効果を得るため、その含有量は0.01%以上が好ましい。より好ましくは0.015%以上である。一方、多量に含有させると、抵抗溶接時における靭性が低下して耐抵抗溶接部割れ性に悪影響を与え得る。このため、その含有量は0.06%以下とする。好ましくは0.055%以下である。
Nb : 0.05%以下
NbもVと同様に微細な炭窒化物を形成することで高強度化に寄与する元素であるが。Nbを含有させる場合、この効果を得るため、その含有量は0.005%以上が好ましい。より好ましくは0.01%以上である。一方、多量に含有させると、抵抗溶接時における靭性が低下して耐抵抗溶接部割れ性が劣化する。このため、その含有量は0.05%以下とする。好ましくは0.035%以下である。
Cr : 0.80%以下
Crは第2相の生成を促進することで高強度化に寄与する元素である。また、Crは焼鈍中にオーステナイトを安定化させる元素であり、第2相の体積分率の制御に有効である。Crを含有させる場合、これらの効果を得るため、その含有量は0.01%以上が好ましい。より好ましくは0.05%以上である。含有量が過剰であると、第2相が過剰に生成し、伸びと曲げ加工性に悪影響を与え得るうえに、表面酸化物が過剰に生成し、亜鉛めっき性や化成処理性が劣化する。このため、その含有量は0.80%以下とする。好ましくは0.65%以下である。
Cu : 0.50%以下
Cuは固溶強化により高強度化に寄与し、また、第2相の生成を促進することでも高強度化に寄与する元素である。Cuを含有させる場合、これらの効果を得るため、その含有量は0.05%以上が好ましい。より好ましくは0.12%以上である。一方、含有量が0.50%を超えると効果が飽和し、またCuに起因する表面欠陥が発生しやすくなる。このため、その含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.33%以下である。
Ni : 0.50%以下
NiもCuと同様、固溶強化により高強度化に寄与し、また、第2相の生成を促進することでも高強度化に寄与する元素である。Niを含有させる場合、これら効果を得るため、その含有量は0.05%以上が好ましい。より好ましくは0.08%以上である。Niは、Cuと同時に含有させると、Cu起因の表面欠陥を抑制する効果があるため、Cuを含有させる場合に、特に有効である。一方、多量に含有させると、抵抗溶接時における靭性が低下し、耐抵抗溶接部割れ性に悪影響を与え得る。このため、その含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.35%以下である。
Sb : 0.02%以下
Sbは、鋼板表層部に生じる脱炭層を抑制する効果を有し、表層の硬度分布を均一とすることで、耐抵抗溶接部割れ性の向上に寄与する元素である。Sbを含有させる場合、これらの効果を得るため、その含有量は0.002%以上が好ましい。より好ましくは0.005%以上である。一方、含有量が0.02%を超えると、圧延負荷荷重が増大し、生産性を低下させる。このため、Sb量は0.02%以下とする。好ましくは0.015%以下である。
CaおよびREMから選択される1種以上:0.0050%以下
CaおよびREMは、硫化物の形状を球状化して穴広げ性への悪影響を低減する元素である。CaおよびREMから選択される1種以上を含有させる場合、これらの効果を得るため、その含有量は0.0005%以上が好ましい。より好ましくは0.0008%以上である。一方、含有量が0.0050%を超えると、効果が飽和する。このため、その含有量は0.0050%以下とする。好ましくは、0.0032%以下である。
上記以外の残部はFeおよび不可避的不純物とする。不可避的不純物としては、例えば、Zn、Co、Sn、Zr等が挙げられ、これらの含有量の許容範囲は、Zn:0.01%以下、Co:0.10%以下、Sn:0.10%以下、Zr:0.10%以下である。
[高強度鋼板のミクロ組織]
次に、本発明の一次実施形態である高強度鋼板のミクロ組織について詳細に説明する。前記ミクロ組織は、
体積分率で、
フェライトが30%以上70%以下、
マルテンサイトが20%以上70%以下、
パーライトが10%以下(0%含む)および
ベイナイトが20%以下(0%含む)であり、
前記フェライトが、平均結晶粒径6μm以下、かつ平均アスペクト比2.0以下を有し、
前記マルテンサイトが、平均結晶粒径5μm以下、かつ平均アスペクト比2.0以下を有し、
前記ベイナイトが、平均結晶粒径5μm以下を有し、
前記マルテンサイトの平均自由行程が8.0μm以下であり、かつ
前記マルテンサイトのうち、マルテンサイト粒内に、粒径0.1μm以上の炭化物が10個以上存在するマルテンサイト粒が、全マルテンサイトに対する体積分率で50%以上である。
体積分率、平均結晶粒径、アスペクト比、平均自由行程等の測定方法:
フェライト、マルテンサイト、ベイナイトおよびパーライトの体積分率は、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、3 vol.%ナイタールで腐食し、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて3000倍の倍率で、表面から板厚方向に1/4の位置について、10視野(1視野は50μm×40μm)を観察し、ポイントカウント法(ASTM E562−83(1988)に準拠)により、面積分率を測定し、その面積分率を体積分率としたものである。このようにして求められる体積分率は、熱間プレス部材の全体に対する体積分率である。なお、本発明においては、ミクロ組織中、粒状の炭化物が観察されるが、各相の面積分率の算出にあたっては、各相中に炭化物が存在する場合、これらの炭化物の面積も含めた面積分率とする。以下も同様である。
フェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの平均結晶粒径は、Media Cybernetics社のImage−Proを用いて、鋼板組織写真からフェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの結晶粒をあらかじめ識別しておいた写真を取り込むことで、各相の面積を算出可能にしておき、フェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの結晶粒について円相当直径を算出し、フェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトのそれぞれについて、円相当直径の値を平均することにより求めたものである。
フェライトおよびマルテンサイトのアスペクト比については、上記写真から、それぞれ平均結晶粒径の大きいものから25個の結晶粒について、長軸長さと短軸長さを算出し、結晶粒ごとに長軸長さを短軸長さで除し、それらの値を平均して求めたものである。
マルテンサイトのうち、マルテンサイト粒内に粒径0.1μm以上の炭化物が10個以上存在するマルテンサイト粒の体積分率は、以下のようにして求めたものである。鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、3 vol.%ナイタールで腐食し、TEM(透過型電子顕微鏡)用いて20000倍の倍率で、表面から板厚方向に1/4の位置について、10視野(1視野は0.5μm×0.5μm)を観察し、マルテンサイト粒を、平均結晶粒径の大きい順にマルテンサイト粒を25個選択し、それぞれについて、ポイントカウント法(ASTM E562−83(1988)に準拠)により、面積分率を求め、体積分率とする。また、選択した25個のマルテンサイト粒について、粒内に存在する粒径0.1μm以上の炭化物の数をカウントする。その際、炭化物の粒径は、円相当直径とする。粒内に粒径0.1μm以上の炭化物が10個以上存在するマルテンサイト粒の面積分率を求め、体積分率とする。25個のマルテンサイト粒の体積分率の合計(X)に対する、マルテンサイト粒内に粒径0.1μm以上の炭化物が10個以上存在するマルテンサイト粒の体積分率の合計(X)の割合を求め、マルテンサイトのうち、粒内に粒径0.1μm以上の炭化物を10個以上有するマルテンサイト粒の体積分率(Xc/X×100)とする。
マルテンサイトの平均自由行程は下記数式1で求めたものである。
Figure 2020170710
L:マルテンサイトの平均自由行程
:マルテンサイトの平均結晶粒径
π:円周率
f:マルテンサイトの面積率(=体積分率)
フェライト:
フェライトの体積分率が70%超では、引張強度780MPaを達成することが困難である。このため、体積分率は70%以下とする。好ましくは65%以下である。一方、体積分率が30%未満では、第2相が過剰に生成し、穴広げ試験における打ち抜き時にボイドが生成し易いため、穴広げ性が劣化する。さらに、体積分率が30%未満では、伸びが低下する。このため、体積分率は30%以上とする。好ましくは35%であり、より好ましくは40%以上である。
フェライトの平均結晶粒径が6μm超では、抵抗溶接時に結晶粒がさらに粗大化することで靭性が劣化し抵抗溶接部割れが生じ、さらに、抵抗溶接部の遅れ破壊特性を劣化する。このため、フェライトの平均結晶粒径は6μm以下とする。一方、下限は特に限定されないが、工業的には0.5μm以上とすることができる。5.5μm以下が好ましく、また、2μm以上が好ましい。
フェライトの平均アスペクト比が2.0超では、穴広げ試験における打ち抜き時に生成したボイドが、穴広げ時に連結しやすくなるため、穴広げ性が劣化する。このため、平均アスペクト比は2.0以下とする。一方、下限は1.0であり、1.0であってもよい。1.8以下が好ましく、また、1.3以上が好ましい。さらに好ましくは1.6以下が好ましい。
マルテンサイト:
マルテンサイトの体積分率は、所望の強度を確保するため、20%以上とする。好ましくは23%以上である。一方で、体積分率が70%超では、穴広げ試験における打ち抜き時のボイド生成が過剰に増加するため、穴広げ性が劣化する。このため、体積分率は70%以下とする。好ましくは65%以下であり、より好ましくは60%以下である。
マルテンサイトの平均結晶粒径が5μm超では、抵抗溶接時に結晶粒がさらに粗大化して、靭性を劣化させ、抵抗溶接部割れを生じやすく、また、マルテンサイトとフェライトとの界面に生成するボイドが連結しやすく、穴広げ性が劣化する。このため、マルテンサイトの平均結晶粒径は5μm以下とする。一方、下限は特に限定されないが、工業的には0.2μm以上とすることができる。4.5μm以下が好ましく、また、2.5μm以上が好ましい。
マルテンサイトの平均アスペクト比が2.0超では、穴広げ試験における時の打ち抜き時に生成したボイドが、穴広げ時に連結しやすくなるため、穴広げ性が劣化する。このため、平均アスペクト比は2.0以下とする。一方、下限は1.0であり、1.0であってもよい。1.8以下が好ましく、また、1.3以上が好ましい。
また、マルテンサイトのうち、粒内に粒径0.1μm以上の炭化物を10個以上有するマルテンサイト粒が全マルテンサイト中の体積分率で50%以上とする。体積分率が50%未満では、高硬度のマルテンサイトが多数となり、打ち抜き時にボイド生成が過剰に増加するため、穴広げ性が劣化する。さらに、抵抗溶接部および熱影響部(HAZ)の水素のトラップサイトが不十分となるため、十分な耐遅れ破壊特性が得られにくい。そのため、体積分率は50%以上とする。好ましくは、55%以上である。一方、上限は95%とすることができ、好ましくは90%以下である。
マルテンサイトの平均自由行程が8.0μm超では、穴広げ試験の打ち抜き時のボイド生成が過剰に増加するため、穴広げ性が劣化する。さらに、抵抗溶接後の熱影響部(HAZ)にMn等の濃度分布が生じ、抵抗溶接時の内割れや、抵抗溶接後の遅れ破壊特性が低下する。このため、マルテンサイトの平均自由行程は8.0μm以下とする。平均自由工程は、例えば、3.0μm以上とすることができる。
パーライト:
パーライトは高強度化に寄与するため、ミクロ組織内に生成していてもよいが、硬いセメンタイトを多く含むため、体積分率が10%超では、穴広げ試験時の打ち抜き後のボイド生成が過剰に増加するため、穴広げ性が劣化する。このため、体積分率は10%以下とする。好ましくは5%以下であり、0%であってもよい。
ベイナイト:
ベイナイトは高強度化に寄与するため、ミクロ組織内に生成していてもよいが、高い転位密度を含むため体積分率が20%超では、穴広げ試験における打ち抜き後のボイド生成が過剰に増加するため、穴広げ性が劣化する。このため、体積分率は20%以下とする。好ましくは15%以下であり、0%であってもよい。
ベイナイトの平均結晶粒径が5μm超では、抵抗溶接時に結晶粒がさらに粗大化することで靭性が劣化し内割れや、抵抗溶接後に遅れ破壊が生じる。このため、ベイナイトの平均結晶粒径は5μm以下とする。一方、下限は特に限定されないが、工業的には0.5μm以上とすることができる。4μm以下が好ましく、また、2μm以上が好ましい。
残部組織:
本発明の高強度鋼板のミクロ組織は、基本的に、フェライト、マルテンサイト、パーライトおよびベイナイトから構成されるが(ただし、パーライト、ベイナイトの体積分率は0%であってもよい。)、これら以外に残留オーステナイトや未再結晶フェライトが含まれる場合がある。この場合であっても、フェライト、マルテンサイト、パーライトおよびベイナイトが上記の条件を満たせば、本発明の目的を達成できる。フェライト、マルテンサイト、パーライトおよびベイナイト以外の残部組織は5%以下が好ましく、さらに好ましくは3%以下であり、0%であってもよい。
本発明の高強度鋼板は、めっき層を備えていてもよい。めっき層は、特に限定されず、例えば、溶融めっき層、電気めっき層のいずれでもよく、また、合金化されためっき層でもよい。めっき金属は、特に限定されず、亜鉛めっき以外に、アルミニウムめっき等であってもよい。本発明の高強度鋼板は、めっき鋼板を包含する。
高強度鋼板の板厚は、特に限定されず、0.4mm以上3.0mm以下とすることができる。板厚は、0.5mm以上が好ましく、0.55mm以上がより好ましく、また、2.8mm以下が好ましく、2.6mm以下がより好ましい。なお、高強度鋼板がめっき層を備える場合、板厚は、めっき層を除いた母材鋼板としての板厚を指すものとする。
[高強度鋼板の製造方法]
次に、本発明の一実施形態である高強度鋼板の製造方法について説明する。この製造方法は、
上記成分組成を有する鋼素材を、仕上げ圧延の最終パスの圧下率:12%以上、前記最終パスの直前のパスの圧下率:11%以上、仕上げ圧延終了温度:840℃以上950℃以下の条件で熱間圧延し、
前記熱間圧延後、70℃/s以上の第1次平均冷却速度で、700℃以下の第1冷却停止温度まで第1次冷却をし、
前記第1次冷却後、5℃/s以上50℃/s以下の第2次平均冷却速度で、610℃以下の巻取り開始温度まで第2次冷却をし、
次いで、巻き取って、熱延鋼板を得て、
熱延鋼板に酸洗を施した後、引き続き、冷間圧延を行い、冷延フルハード鋼板を得て、
次いで、冷延鋼板を、0.5℃/min以上5.0℃/min以下の平均加熱速度で、750℃以上900℃以下の均熱温度まで加熱し、前記温度で1時間以上保持した後、1.0℃/h以上100℃/h以下の平均冷却速度で室温まで冷却することを含む方法である。
<熱延鋼板の製造方法>
本発明において、鋼スラブの熱間圧延開始温度は、好ましくは、1100℃以上1300℃以下であり、鋼スラブを鋳造後、再加熱することなく1100℃以上1300℃以下の温度で熱間圧延を開始するか、あるいは1100℃以上1300℃以下に再加熱した後、熱間圧延を開始することが好ましい。すなわち、本発明においては、鋼スラブを製造した後、いったん室温まで冷却し、その後、再加熱する従来法に加え、冷却することなく、温片のままで加熱炉に装入する方法、あるいは保熱を行った後に直ちに圧延する方法、あるいは鋳造後そのまま圧延する直送圧延・直接圧延する方法等の省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
・仕上げ圧延の最終パスの圧下率:12%以上
本発明において、仕上げ圧延の最終パスの圧下率を12%以上にすることは、オーステナイト粒内にせん断帯が多数導入され、熱間圧延後のフェライト変態の核生成サイトが増大して、熱延鋼板の組織の微細化が図れる点、さらにMnバンドが解消され、熱延鋼板、冷延フルハード鋼板、および焼鈍後の高強度鋼板におけるマルテンサイトの平均自由行程を低下できるという点から必要である。また、フェライト及びマルテンサイトについて、所定のアスペクト比を得るためにも必要である。好ましくは、最終パスの圧下率は13%以上である。より好ましくは、最終パスの圧下率は16%以上である。一方、上限は、特に限定されないが、熱延負荷荷重が増大することで、板の幅方向での板厚変動が大きくなり、耐抵抗溶接部割れ性が劣化することを回避するため、30%以下が好ましい。
・最終パスの直前のパスの圧下率:11%以上
本発明において、最終パスの直前のパスの圧下率を11%以上にすることは、歪蓄積効果がより高まってオーステナイト粒内にせん断帯が多数導入され、フェライト変態の核生成サイトがさらに増大して、熱延鋼板の組織がより微細化することにより、Mnバンドが解消され、マルテンサイトの平均自由行程を低下できるという観点から必要である。また、フェライト及びマルテンサイトについて、所定のアスペクト比を得るためにも必要である。好ましくは、最終パスの直前のパスの圧下率は12%以上である。一方、上限は、特に限定されないが、熱延負荷荷重が増大することで、板の幅方向での板厚変動が大きくなり、耐抵抗溶接部割れ性が劣化することを回避するため、16%以下が好ましい。
最終パスの圧下率に対する最終パスの直前のパスの圧下率の比は、1.1以下が好ましい。最終パスの直前のパスの圧下率が最終パスの圧下率より過度に高い場合、フェライト及びマルテンサイトについて、所定のアスペクト比が得られない場合がある。最終パス、最終パスの直前のパス以外のパスの回数、圧下率は特に限定されない。例えば、パスの回数は、最終パスと最終パスの直前のパスの2つがあればよく、この2つも含め合計で4以上としてもよく、例えば5以上が挙げられ、また、20以下とすることができ、16以下が好ましい。
・仕上げ圧延終了温度
熱間圧延は、鋼板内の組織均一微細化、材質の異方性低減により、焼鈍後の耐抵抗溶接部割れ性を向上させるため、さらにフェライト及びマルテンサイトについて、所定のアスペクト比を確保し穴広げ性を向上させるため、オーステナイト単相域にて終了する必要がある。このため、仕上げ圧延終了温度は840℃以上とする。好ましくは870℃以上である。一方、仕上げ圧延終了温度が950℃超では、熱延組織が粗大になり、焼鈍後の結晶粒も粗大化する。このため、仕上げ圧延終了温度は950℃以下とする。好ましくは930℃以下である。
・仕上げ圧延後の冷却条件
第1次冷却として70℃/s以上の第1次平均冷却速度で、仕上げ圧延終了温度から700℃以下の第1冷却停止温度まで冷却した後、2次冷却として5℃/s以上50℃/s以下の第2次平均冷却速度で610℃以下まで冷却する。
熱間圧延終了後、冷却過程でオーステナイトがフェライト変態するが、高温ではそのフェライトが粗大化するため、熱間圧延終了後は急冷を実施することで、組織を出来るだけ均質化すると同時に、析出物生成を抑制する。このため、第1次冷却として70℃/s以上の第1次平均冷却速度で700℃以下の第1冷却停止温度まで冷却する。
第1次平均冷却速度が70℃/s未満ではフェライトおよびマルテンサイトが粗大化されるため、熱延鋼板の鋼板組織が不均質となり、穴広げ性、耐抵抗溶接部割れ性および遅れ破壊特性が低下する。このため、第1次平均冷却温度は70℃/s以上とする。好ましくは75℃/s以上である。第1次平均冷却温度の上限は、特に限定されないが、例えば150℃/s以下とすることができる。
第1次冷却における第1冷却停止温度が700℃超では、熱延鋼板の組織が粗大化し、最終的なミクロ組織が粗大となり、穴広げ性、耐抵抗溶接部割れ性および遅れ破壊特性が低下する。このため、第1冷却停止温度は700℃以下とする。好ましくは680℃以下である。第1冷却停止温度は、610℃以下である巻取り開始温度より高い温度であれば、特に限定されず、例えば、630℃以上とすることができる。
その後の2次冷却として、5℃/s以上50℃/s以下の第2次平均冷却速度で、上記冷却停止温度から610℃以下の巻取り開始温度まで冷却する。第2次平均冷却速度が5℃/s未満の冷却では、熱延鋼板のミクロ組織にフェライトまたはパーライトが過剰に生成し、焼鈍後の薄鋼板の穴広げ性や耐抵抗溶接部割れ性が低下する。第2次平均冷却速度は5℃/s以上とし、好ましくは8℃/s以上である。第2次平均冷却速度が50℃/sを超えると、所定量の炭化物が生成したマルテンサイトが得られず、良好な穴広げ性および良好な遅れ破壊破特性が得られない。第2次平均冷却速度は45℃/s以下とすることができ、好ましくは40℃/s以下である。
一方、610℃超の温度までの冷却では、熱延鋼板の組織が粗大化して、焼鈍後の組織が粗大化し、薄鋼板の穴広げ性、耐抵抗溶接部割れ性および遅れ破壊特性が低下する。上記平均冷却速度で、610℃以下の巻取り開始温度に冷却し、続けて巻取りを開始する。巻取り開始温度の下限は、特に限定されないが、巻取り時の温度が低温になりすぎて、硬質なマルテンサイトが過剰に生成し、冷間圧延負荷が増大することを回避する点から、300℃以上が好ましい。
・巻取り開始温度:610℃以下
巻取り開始温度が610℃超では、熱延鋼板の組織に粗大なパーライトが生成して、最終的な鋼板組織に粗大なマルテンサイトが生成し、穴広げ性や耐抵抗溶接部割れ性が劣化する。巻取り開始温度は、好ましくは600℃以下である。巻取り開始温度は、300℃以上が好ましい。
上記巻取り後、空冷等により鋼板は冷やされ、下記の冷延フルハード鋼板の製造に用いられる。なお、熱延鋼板が中間製品として取引対象となる場合、通常、巻取後に冷やされた状態で取引対象となる。
熱延鋼板の板厚は、特に限定されず、0.8mm以上5.0mm以下が好ましく、より好ましくは1.1mm以上4.5mm以下である。
<冷延フルハード鋼板の製造方法>
冷延フルハード鋼板は、上記製造方法で得られた熱延鋼板を冷間圧延することにより製造することができる。本明細書において、冷延フルハード鋼板とは、冷間圧延後に焼鈍処理を施さない状態、つまりフルハードの状態で各種用途へ供される冷延鋼板をいう。各種用途には、高強度鋼板の製造も含むこととし、冷延フルハード鋼板の製造後、連続的に高強度鋼板を製造してもよい。
冷間圧延条件は、例えば、所望の厚み等の観点から適宜設定することができる。本発明においては、フェライトの再結晶を促進させ、未再結晶フェライトが過剰に残存し、延性と穴広げ性が低下することを回避するため、30%以上の圧下率で冷間圧延を施すことが好ましい。なお、通常、冷間圧延の圧下率は30%以下である。
熱延鋼板表面のスケールを除去する目的で、上記冷間圧延の前に酸洗を行う。酸洗条件は適宜設定することができる。
冷延フルハード鋼板の板厚は、特に限定されず、0.4mm以上3.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.5mm以上2.8mm以下である。
<高強度鋼板の製造方法>
高強度鋼板は、冷延フルハード鋼板を加熱し冷却(焼鈍)することにより製造することができる。
この焼鈍工程は、フェライトの再結晶を進行させるとともに、高強度化のためミクロ組織に微細なフェライト、マルテンサイトやベイナイトを形成するための工程であり、0.5℃/min以上5.0℃/min以下の平均加熱速度で750℃以上900℃以下の均熱温度まで加熱し、前記温度で1時間以上保持した後、1.0℃/h以上100℃/h以下の平均冷却速度で室温まで冷却する。
・平均加熱速度:0.5℃/min以上5.0℃/min以下
焼鈍後の加熱温度を制御することによって、焼鈍後の結晶粒を微細化させることができる。急速に加熱すると再結晶が進行しにくくなり、アスペクト比の大きい結晶粒になり易く、穴広げ性が低下する。また、所定量の炭化物が生成したマルテンサイトが得られず、良好な遅れ破壊破特性が得られない。このため、平均加熱速度は5.0℃/min以下とする。好ましくは4.5℃/min以下である。
また、加熱速度が小さすぎるとフェライトやマルテンサイト粒が粗大化し、また、所定のマルテンサイトの平均自由工程が得られず、穴広げ性が劣化し、耐抵抗溶接部割れ性および遅れ破壊特性が低下する。このため、平均加熱速度は0.5℃/min以上とする。好ましくは1.0℃/min以上である。
・均熱温度(保持温度):750℃以上900℃以下
均熱温度はフェライトとオーステナイトの2相域もしくはオーステナイト単相域である温度域とする。750℃未満ではフェライト分率が多くなるため、強度確保が困難になる。また、所定量の炭化物が生成したマルテンサイトが得られず、良好な穴広げ性および良好な遅れ破壊破特性が得られない。このため、均熱温度は750℃以上とする。均熱温度が高すぎると、オーステナイトの結晶粒成長が顕著となり、結晶粒が粗大化することで耐抵抗溶接部割れ性が低下する。このため、均熱温度は900℃以下とする。好ましくは880℃以下である。
・均熱時間:1時間以上
上記の均熱温度において、再結晶の進行、結晶粒の球状化および一部もしくは全ての組織のオーステナイト変態のためには、均熱時間は1時間以上必要である。また、均熱時間が1時間に満たない場合、フェライト分率が多くなるため、強度確保が困難になる。また、所定量の炭化物が生成したマルテンサイトが得られず、良好な穴広げ性および良好な遅れ破壊破特性が得られない。好ましくは、2時間以上である。一方、上限は特に限定されないが、均熱時間が過剰に長いと、Mnのミクロ偏析が助長され、穴広げ性や耐抵抗溶接部割れ性が劣化し得るため、100時間以下が好ましい。より好ましくは72時間以下である。
・焼鈍時の冷却条件:1.0℃/h以上100℃/h以下の平均冷却速度で室温まで冷却
上記の均熱後は、均熱温度から室温まで、1.0℃/h以上100℃/h以下の平均冷却速度で冷却する必要がある。平均冷却速度が1.0℃/h未満では、冷却中にフェライト変態が進行して、第2相の体積分率が減少するため、強度確保が困難である。このため、平均冷却速度は1.0℃/h以上とする。好ましくは1.3℃/h以上である。一方、平均冷却速度が100℃/h超では、マルテンサイトが過剰に生成、高TS低El化するとともに、所望のフェライトおよびマルテンサイトのアスペクト比を得ることができず、穴広げ性が低下する。また、所定量の炭化物が生成したマルテンサイトが得られず、良好な遅れ破壊破特性が得られない。このため、平均冷却速度は100℃/h以下とする。好ましくは73℃/h以下である。
焼鈍後、鋼板をめっき処理し、めっき層を設けてもよい。めっき層は、溶融めっき層、電気めっき層のいずれでもよく、また、合金化されためっき層でもよい。めっき金属は、特に限定されず、亜鉛めっき以外に、アルミニウムめっき等であってもよい。ただし、本発明の高強度鋼板は、めっき処理をせずとも、上記の成分組成およびミクロ組織の制御により、穴広げ性や耐抵抗溶接部割れ性は確保できる。
めっき処理は、溶融亜鉛めっきが好ましい。溶融亜鉛めっきは、通常の条件で行うことができる。めっき浴に浸漬する鋼板温度は、(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃以上(溶融亜鉛めっき浴温度+50)℃以下とすることが好ましい。めっき浴に浸漬する鋼板温度が(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃を下回ると、鋼板がめっき浴に浸漬される際に、溶融亜鉛の一部が凝固してしまい、めっき外観を劣化させる場合がある。このため、下限を(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃とすることが好ましい。また、めっき浴に浸漬する鋼板温度が(溶融亜鉛めっき浴温度+50)℃を超えると、めっき浴の温度が上昇するため、量産性に問題がある。このため、上限を(溶融亜鉛めっき浴温度+50)℃とすることが好ましい。
めっき後は、450℃以上600℃以下の温度域で亜鉛めっきを合金化処理することができる。450℃以上600℃以下の温度域で合金化処理することにより、めっき中のFe濃度は7%以上15%以下に制御することができ、めっきの密着性や塗装後の耐食性が向上する。450℃未満では、合金化が十分に進行せず、犠牲防食作用の低下や摺動性の低下を招き、600℃より高い温度では、合金化の進行が顕著となり、耐パウダリング性が低下する。
溶融亜鉛めっきには、Al量を0.10質量%以上0.20質量%以下含む亜鉛めっき浴を用いることが好ましい。めっき後は、めっきの目付け量を調整するために、ワイピングを行うことができる。
焼鈍後に調質圧延を実施してもよい。この場合、伸長率の好ましい範囲は0.05%以上2.0%以下である。
以下、本発明の実施例を説明する。
本発明は、以下の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す成分組成の鋼を溶製し、鋳造して厚さ220mmのスラブを製造した後に、熱間圧延加熱温度を1250℃、仕上げ圧延終了温度(FDT)を表2に示す条件で仕上げ圧延の総パス回数7回で熱間圧延を行い、熱延鋼板とした。
次いで、表2で示す第1次平均冷却速度(冷速1)で第1冷却停止温度まで冷却した後、第2次平均冷却温度(冷速2)で巻取り開始温度(CT)まで冷却し、巻取を行い、熱延鋼板(HR)を得た。
得られた熱延鋼板を酸洗した後、表2に示す板厚となるよう冷間圧延を施し、冷延フルハード鋼板(FH)を製造した。
得られた冷延鋼板を箱型焼鈍炉(BAF)において、表2に示す条件で焼鈍処理を行い、冷延鋼板(CR)を得た。なお一部は溶融亜鉛めっき処理を施した後、合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を得た。ここで、めっき処理は、亜鉛めっき浴温度:460℃、亜鉛めっき浴Al濃度:0.14質量%(合金化処理する場合)、0.18質量%(合金化処理を施さない場合)、片面あたりのめっき付着量45g/m2(両面めっき)とした。なお一部の鋼板においては亜鉛めっきの合金化をせずに非合金の溶融亜鉛めっき鋼板(GI)とした。
得られた鋼板のミクロ組織(体積分率、平均結晶粒径、アスペクト比、特定のマルテンサイト粒の体積分率、平均自由行程)について、前述の方法で測定を行った。結果を表3に示す。
特性の評価は以下のようにして行った。結果を表3に示す。
引張強さ(TS)および伸び(El):
得られた鋼板から、圧延直角方向がJIS5号引張試験片の長手方向(引張方向)となるようにJIS5号引張試験片を採取し、引張試験(JIS Z 2241:2011)により、引張強さ(TS)、伸び(El)を測定した。El(%)が、14%以上を有するものを良好な伸びを有する鋼板とした。
穴広げ性:
得られた鋼板から、JIS Z 2256:2010に準拠し、クリアランス12.5%にて、10mmφの穴を打抜き、かえりがダイ側になるように試験機にセットした後、60°の円錐ポンチで成形することにより穴広げ率(λ)を測定した。λ(%)が、35%以上を有するものを良好な穴広げ性を有する鋼板とした。
耐抵抗溶接部割れ性:
得られた鋼板の圧延方向に対して直角の方向を長手として、50×150mmに切断した試験片を1枚用いて、もう1枚は板厚1.2mmの590MPa級溶融亜鉛めっき鋼板を用いて、抵抗溶接(スポット溶接)を実施した。サーボモータ加圧式で単相直流(50Hz)の抵抗溶接機を用いて、2枚の鋼板を重ねた板組を6°傾けた状態で抵抗スポット溶接を実施した。溶接条件は加圧力を3.5kN、ホールドタイムは0.1秒とした。溶接電流と溶接時間はナゲット径が4.2mmになるように調整した。溶接後は試験片を半切して、断面を光学顕微鏡で観察し、0.1mm以上のき裂が認められないものを耐抵抗溶接部割れ性が良好(○)とした。
抵抗スポット溶接後の遅れ破壊に関しては、JIS Z 3136:1999に準拠して得られた引張せん断試験片を2枚用いて抵抗溶接(スポット溶接)を実施した。サーボモータ加圧式で単相直流(50Hz)の抵抗溶接機を用いて、2枚の鋼板を重ねた板組に抵抗スポット溶接を実施した。溶接条件は加圧力を3.5kN、ホールドタイムは0.1秒とした。溶接電流と溶接時間はナゲット径が4.2mmになるように調整した。
得られた溶接体をJIS Z 3136:1999に準拠した引張せん断試験によって鋼板が剥離するときの荷重を測定した。このときの剥離強度をFSとし、上記と同様の方法で引張せん断試験片を作製し、0.8×FSの荷重を負荷した。その後に、室温で3.0%NaCl+0.3% NH4SCN溶液に浸漬して、陰極電解チャージにて水素を添加した。電流密度は1.5mA/cm2、対極は白金とした。100時間後も破断しないものを耐遅れ破壊特性が良好(○)とした。
Figure 2020170710
Figure 2020170710
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発明例はいずれも、TSが780MPa以上の高強度を有し、かつ加工性(伸びおよび穴広げ性)と耐抵抗溶接部割れ性の両方を兼備する鋼板であることがわかる。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.05%以上0.18%以下、
    Si:0.8%以下、
    Mn:1.5%以上3.0%以下、
    P:0.05%以下、
    S:0.005%以下、
    Al:0.01%以上0.10%以下、
    N:0.010%以下、
    Mo:0.05%以上0.50%以下、
    Ti:0.01%以上0.10%以下、および
    B:0.0002%以上0.0100%以下を含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    ここで、Mo、N、TiおよびBが式(1):
    [Mo]+2×([Ti]−3.4×[N])+45×[B]≧0.20
    (ここで、[Mo]、[Ti]、[N]および[B]は、それぞれ、Mo、Ti、NおよびBの含有量(質量%)であり、[N]は0質量%であってもよい。)を満たし、
    体積分率で、
    フェライトが30%以上70%以下、
    マルテンサイトが20%以上70%以下、
    パーライトが10%以下(0%含む)および
    ベイナイトが20%以下(0%含む)であり、
    ここで、
    前記フェライトが、平均結晶粒径6μm以下、かつ平均アスペクト比2.0以下を有し、
    前記マルテンサイトが、平均結晶粒径5μm以下、かつ平均アスペクト比2.0以下を有し、
    前記ベイナイトが、平均結晶粒径5μm以下を有し、
    前記マルテンサイトの平均自由行程が8.0μm以下であり、かつ
    前記マルテンサイトのうち、マルテンサイト粒内に、粒径0.1μm以上の炭化物が10個以上存在するマルテンサイト粒が、全マルテンサイトに対する体積分率で50%以上であるミクロ組織を有する、
    高強度鋼板。
  2. 前記成分組成が、質量%で、さらに
    V:0.06%以下、および
    Nb:0.05%以下からなる群より選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の高強度鋼板。
  3. 前記成分組成が、質量%で、さらに
    Cr:0.80%以下、
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.50%以下、
    Sb:0.02%以下、ならびに
    CaおよびREMから選択される1種以上:0.0050%以下からなる群より選択される1種以上を含有する、請求項1または2に記載の高強度鋼板。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の成分組成を有する鋼素材を、仕上げ圧延の最終パスの圧下率:12%以上、前記最終パスの直前のパスの圧下率:11%以上、仕上げ圧延終了温度:840℃以上950℃以下の条件で熱間圧延し、
    前記熱間圧延後、70℃/s以上の第1次平均冷却速度で、700℃以下の第1冷却停止温度まで第1次冷却をし、
    前記第1次冷却後、5℃/s以上50℃/s以下の第2次平均冷却速度で、610℃以下の巻取り開始温度まで第2次冷却をし、
    次いで、巻き取る、
    熱延鋼板の製造方法。
  5. 請求項4に記載の製造方法で得られた熱延鋼板を酸洗し、冷間圧延する、冷延フルハード鋼板の製造方法。
  6. 請求項5に記載の製造方法で得られた冷延フルハード鋼板を、0.5℃/min以上5.0℃/min以下の平均加熱速度で、750℃以上900℃以下の均熱温度まで加熱し、前記温度で1時間以上保持した後、1.0℃/h以上100℃/h以下の平均冷却速度で室温まで冷却する、高強度鋼板の製造方法。

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