JPWO2019058924A1 - 立毛人工皮革 - Google Patents

Abstract

繊維を絡合させた不織布と高分子弾性体とを含み、 高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（Ｂ）とが、Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，Ａ＞０、の関係式を満たし、不織布の、JIS L 1096（6.17．5E法，マーチンデール法）に準じた、押圧荷重１２ｋＰａ（ｇｆ／ｃｍ２）、摩耗回数２万回の摩耗減量（Ｃ）が４５ｍｇ以下である立毛人工皮革。

Description

本発明は、衣料、靴、家具、カーシート、雑貨製品等の表面素材として好ましく用いられる立毛人工皮革に関する。

従来、スエード調人工皮革やヌバック調人工皮革のような立毛人工皮革が知られている。立毛人工皮革は、高分子弾性体を含浸付与された不織布の一面を立毛処理することにより形成される立毛した繊維を含む立毛面を有する。このような立毛人工皮革には耐摩耗性が求められている。

立毛人工皮革の耐摩耗性に関し、例えば、下記特許文献１には、極細繊維と高分子弾性体からなる皮革用シート状物において、高分子弾性体の付与後に混合繊維の一成分を抽出した後、再び高分子弾性体を付与して得られるスエード調人工皮革を開示する。また、下記特許文献２は、表面繊維層として単繊維繊度０．５デニール以下の極細繊維からなる繊維層を含む不織シート状物に、エマルジョン粒子の平均粒径が０．１〜２．０μｍである水系ポリウレタンエマルジョンに無機塩類を溶解、混合した処理液を付与し、加熱乾燥して得られる、柔軟で耐摩耗性の良好な人工皮革を開示する。また、下記特許文献３は、人工皮革基体の作成後、高分子弾性体を溶剤膨潤させ、その後、圧縮することにより極細繊維と高分子弾性体とを接着させて得られる人工皮革を開示する。

特開昭５１−７５１７８号公報 特開平０６−３１６８７７号公報 特開２００１−８１６７７号公報

特許文献１に開示されたスエード調人工皮革は、耐摩耗性は向上されるが、高分子弾性体が極細繊維を拘束するために風合いが硬いという問題があった。また、特許文献２に開示された人工皮革も、耐摩耗性は向上されるが、風合いが硬いという問題があった。さらに、特許文献３に開示された人工皮革も、高分子弾性体が極細繊維を拘束するために、耐摩耗性を充分に向上させようとすると、風合いが硬くなるという問題があった。

本発明は、上述した問題を解決した、しなやかな風合いと高い耐摩耗性とを兼ね備えた立毛人工皮革を提供することを目的とする。

本発明の一局面は、繊維の絡合体である不織布と不織布に付与された高分子弾性体とを含み、少なくとも一面は、繊維を立毛させた立毛面であり、高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（質量％）（Ｂ）とが、Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，Ａ＞０、の関係式を満たし、不織布の、JIS L 1096（6.17．5E法，マーチンデール法）に準じた、押圧荷重１２ｋＰａ（ｇｆ／ｃｍ^２）、摩耗回数２万回の摩耗減量（Ｃ）が４５ｍｇ以下である立毛人工皮革である。このような立毛人工皮革によれば、しなやかな風合いと高い耐摩耗性とを兼ね備えた立毛人工皮革が得られる。

本発明によれば、しなやかな風合いと高い耐摩耗性とを兼ね備えた立毛人工皮革を提供できる。

図１は、実施例１〜７及び比較例１〜４で得られた立毛人工皮革の高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（Ｂ）との関係をプロットしたグラフである。 図２は、実施例８〜１１及び比較例５〜７で得られた立毛人工皮革の高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（Ｂ）との関係をプロットしたグラフである。

本実施形態の立毛人工皮革は、繊維の絡合体である不織布と不織布に付与された高分子弾性体とを含み、少なくとも一面は、繊維を立毛させた立毛面であり、高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（質量％）（Ｂ）とが、Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，Ａ＞０、の関係式を満たし、不織布の、JIS L 1096（6.17．5E法，マーチンデール法）に準じた、押圧荷重１２ｋＰａ（ｇｆ／ｃｍ^２）、摩耗回数２万回の摩耗減量（Ｃ）が４５ｍｇ以下である。以下、本実施形態の立毛人工皮革について、その製造方法に沿って詳しく説明する。

繊維を絡合させた不織布は、極細繊維の不織布であることがとくに好ましい。本実施形態においては、例えば、海島型（マトリクス-ドメイン型）複合繊維のような極細繊維発生型繊維を絡合処理し、極細繊維化処理することにより得られる極細繊維の不織布を用いる場合について詳しく説明する。なお、極細繊維としては、海島型複合繊維以外の極細繊維発生型繊維に由来する繊維を用いても、また、極細繊維発生型繊維を用いずに、直接極細繊維を紡糸した繊維であってもよい。以下では、海島型複合繊維を用いた例について詳しく説明する。

極細繊維を絡合させた不織布の製造方法としては、例えば、海島型複合繊維を溶融紡糸してウェブを製造し、ウェブを絡合処理した後、海島型複合繊維から海成分を選択的に除去して極細繊維を形成する方法が挙げられる。また、海島型複合繊維の海成分を除去して極細繊維を形成するまでの何れかの工程において、水蒸気あるいは熱水あるいは乾熱による熱収縮処理等の繊維収縮処理を施して海島型複合繊維を緻密化させてもよい。

ウェブを製造する方法としては、スパンボンド法などにより紡糸した長繊維の海島型複合繊維をカットせずにネット上に捕集して長繊維ウェブを形成する方法や、長繊維をステープルにカットして短繊維ウェブを形成する方法等が挙げられる。これらの中では、絡合状態を調整しやすく、高い充実感が得られる点から長繊維ウェブを用いることがとくに好ましい。また、形成されたウェブには、その形態安定性を付与するために融着処理が施されてもよい。以下では、海島型複合繊維の長繊維を用いた例について詳しく説明する。

なお、長繊維とは、紡糸後に意図的にカットされた短繊維ではない、連続的な繊維であることを意味する。さらに具体的には、例えば、繊維長が３〜８０ｍｍ程度になるように意図的に切断されたような短繊維ではないフィラメントまたは連続繊維を意味する。極細繊維化する前の海島型複合繊維の繊維長は１００ｍｍ以上であることが好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、製造工程において不可避的に切断されない限り、数ｍ、数百ｍ、数ｋｍあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。なお、絡合時のニードルパンチや、表面のバフィングにより、製造工程において不可避的に長繊維の一部が切断されて短繊維になることもある。

不織布を形成する極細繊維の種類は特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート（ＰＥＴ），イソフタル酸変性ＰＥＴ，スルホイソフタル酸変性ＰＥＴ，カチオン染料可染性変性ＰＥＴ等の変性ＰＥＴやポリブチレンテレフタレート，ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル；ポリ乳酸，ポリエチレンサクシネート，ポリブチレンサクシネート，ポリブチレンサクシネートアジペート，ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート樹脂等の脂肪族ポリエステル；ナイロン６，ナイロン６６，ナイロン１０，ナイロン１１，ナイロン１２，ナイロン６−１２等のナイロン；ポリプロピレン，ポリエチレン，ポリブテン，ポリメチルペンテン，塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン等の繊維が挙げられる。なお、変性ＰＥＴは、未変性ＰＥＴのエステル形成性のジカルボン酸系単量体単位、または、ジオール系単量体単位の少なくとも一部を置換可能な単量体単位で置き換えたＰＥＴである。ジカルボン酸系単量体単位を置換する変性単量体単位の具体例としては、例えば、テレフタル酸単位を置換するイソフタル酸、ナトリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、等に由来する単位が挙げられる。また、ジオール系単量体単位を置換する変性単量体単位の具体例としては、例えば、エチレングリコール単位を置換するブタンジオール，ヘキサンジオール等のジオールに由来する単位が挙げられる。

繊維の繊度は特に限定されないが、平均繊度０．０５〜１．０ｄｔｅｘ、さらには０．０７〜０．５ｄｔｅｘである極細繊維であることが繊維の剛性が低くなり、しなやかな風合いが得られやすい点からとくに好ましい。繊維の平均繊度が低すぎる場合には、風合いはしなやかになるが、耐摩耗性が低下する傾向がある。なお、平均繊度は、立毛調人工皮革の厚さ方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡（ＳＥＭ）で３０００倍に拡大撮影し、万遍なく選択された１５本の繊維径から繊維を形成する樹脂の密度を用いて算出した平均値として求められる。

また、繊維中には、必要に応じて、例えば、カーボンブラック等の濃色顔料、亜鉛華，鉛白，リトポン，二酸化チタン，沈降性硫酸バリウムおよびバライト粉等の白色顔料、耐候剤、防黴剤、加水分解防止剤、滑剤、微粒子、摩擦抵抗調整剤等を本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。

絡合処理としては、例えば、長繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも１つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチや高圧水流処理するような方法が挙げられる。また、ニードルパンチ処理のパンチ密度としては、１５００〜５５００パンチ／ｃｍ^２、さらには、２０００〜５０００パンチ／ｃｍ^２程度であることが、高い耐摩耗性が得られやすい点から好ましい。パンチ密度が低すぎる場合には、耐摩耗性が低下する傾向があり、パンチ密度が高すぎる場合には繊維が切断され絡合度が低下する傾向がある。

また、海島型複合繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、長繊維ウェブに油剤や帯電防止剤を付与してもよい。さらに、必要に応じて、長繊維ウェブを７０〜１５０℃程度の温水に浸漬する収縮処理を行うことにより、長繊維ウェブの絡合状態を予め緻密にしておいてもよい。このようにして得られる絡合ウェブの目付としては１００〜２０００ｇ／ｍ²程度の範囲であることが好ましい。さらに、絡合ウェブを必要に応じて熱収縮させることにより繊維密度および絡合度合をさらに高める処理を施してもよい。また、熱収縮処理により緻密化された絡合ウェブをさらに緻密化するとともに、絡合ウェブの形態を固定化したり、表面を平滑化したりすること等を目的として、必要に応じて、熱プレス処理を行うことによりさらに、繊維密度を高めてもよい。

立毛人工皮革の製造においては、不織布に形態安定性や充実感を付与するために、海島型複合繊維を絡合した不織布に、高分子弾性体を含浸付与する。高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン，アクリロニトリルエラストマー，オレフィンエラストマー，ポリエステルエラストマー，ポリアミドエラストマー，アクリルエラストマー等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタンがとくに好ましい。ポリウレタンの具体例としては、例えば、ポリカーボネートウレタン，ポリエーテルウレタン，ポリエステルウレタン，ポリエーテルエステルウレタン，ポリエーテルカーボネートウレタン，ポリエステルカーボネートウレタンなどが挙げられる。ポリウレタンは、ポリウレタンをN,N-ジメチルホルムアミド（ＤＭＦ）等の溶媒に溶解させた溶液を不織布に含浸させた後、ポリウレタンを湿式凝固させて固化させたポリウレタン（溶剤系ポリウレタン）であっても、ポリウレタンを水に分散させたエマルジョンを不織布に含浸させた後、乾燥して固化させたポリウレタン（水系ポリウレタン）であってもよい。ポリウレタン量を増やしても繊維と適度に解離させることができ、しなやかな風合いを低下させにくい点からは溶剤系ポリウレタンがとくに好ましい。

なお、高分子弾性体には、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック等の顔料や染料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などが配合されてもよい。

高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）は、４〜１５ＭＰａ、さらには、４．５〜１２．５ＭＰａであることが、耐摩耗性としなやかな風合いとのバランスに優れる立毛人工皮革が得られやすい点から好ましい。

また、立毛人工皮革中の不織布に含浸付与された高分子弾性体の含有率（Ｂ）は、１３〜５０質量％、さらには、１５〜４５質量％、とくには２０〜４５質量％であることが、耐摩耗性としなやかな風合いとのバランスに優れる立毛人工皮革が得られやすい点から好ましい。

海島型複合繊維を絡合した不織布の海島型複合繊維から海成分ポリマーを除去することにより、極細繊維を絡合させた不織布が形成される。海島型複合繊維から海成分ポリマーを除去する方法としては、海成分ポリマーのみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で海島型複合繊維を絡合した不織布を処理するような、従来から知られた極細繊維の形成方法が特に限定なく用いられる。例えば、海成分ポリマーとして水溶性ＰＶＡを用いる場合、８５〜１００℃の熱水中で１００〜６００秒間処理することにより、水溶性ＰＶＡの除去率が９５〜１００％程度になるまで抽出除去することが好ましい。なお、ディップニップ処理を繰り返すことにより、水溶性ＰＶＡは効率的に抽出除去される。

このようにして得られる不織布の目付は、１４０〜３０００ｇ／ｍ²、さらには２００〜２０００ｇ／ｍ²であることが好ましい。

高分子弾性体を含浸付与した不織布の片面または両面をバフィングすることにより、表層の繊維が立毛された立毛面を有する人工皮革基体が得られる。バフィングは、好ましくは、１２０〜６００番手、さらに好ましくは３２０〜６００番手程度のサンドペーパーやエメリーペーパーを用いて行われる。このようにして、片面又は両面に立毛された繊維が存在する立毛面を有する人工皮革基体が得られる。

なお、人工皮革基体の立毛面には、立毛された繊維の素抜けを抑制したり、摩擦により起こされにくくして外観品位を向上させたりすることを目的として、立毛された繊維の根元近傍を局所的に固着する高分子弾性体をさらに付与してもよい。具体的には、例えば、立毛面に高分子弾性体を含有する溶液やエマルジョンを塗布した後、乾燥することにより、高分子弾性体を固化させる。立毛面に存在する立毛された繊維の根元近傍を局所的に固着する高分子弾性体を付与することにより、立毛面に存在する繊維の根元近傍が高分子弾性体で拘束されて、繊維が素抜けしにくくなる。立毛面に付与される高分子弾性体の具体例としては、上述したものと同様のものが用いられる。

立毛面に付与される高分子弾性体の量としては、１〜１０ｇ／ｍ²、さらには２〜８ｇ／ｍ²であることが、立毛面を硬くしすぎずに繊維の根元近傍をしっかりと固定することができる点から好ましい。なお、付与された根元近傍を固着する高分子弾性体の含有率も、高分子弾性体の含有率（Ｂ）の一部となる。

立毛面を有する人工皮革基体には、さらに風合いを調整するために柔軟性を付与する収縮加工処理や揉み柔軟化処理が施されたり、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃処理等の仕上げ処理が施されたりしてもよい。

立毛面を有する人工皮革基体は染色されて、立毛人工皮革に仕上げられる。染料は繊維の種類により適切なものが適宜選択される。例えば、繊維がポリエステル系樹脂から形成されている場合には分散染料やカチオン染料で染色することが好ましい。分散染料の具体例としては、例えば、ベンゼンアゾ系染料（モノアゾ、ジスアゾなど）、複素環アゾ系染料（チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、キノリンアゾ、ピリジンアゾ、イミダゾールアゾ、チオフェンアゾなど）、アントラキノン系染料、縮合系染料（キノフタリン、スチリル、クマリンなど）等が挙げられる。これらは、例えば、「Ｄｉｓｐｅｒｓｅ」の接頭辞を有する染料として市販されている。これらは、単独で用いても２種以上を組み合わせて用いてもよい。また、染色方法としては、高圧液流染色法、ジッガー染色法、サーモゾル連続染色機法、昇華プリント方式等による染色方法が特に限定なく用いられる。

立毛人工皮革の見かけ密度は、０．４〜０．７ｇ／ｃｍ³、さらには０．４５〜０．６ｇ／ｃｍ³であることがボキ折れしない充実感と柔軟な風合いとのバランスに優れた立毛人工皮革が得られる点から好ましい。立毛人工皮革の見かけ密度が低すぎる場合には、充実感が低いためにボキ折れしやすくなり、また、立毛面を摩擦することにより繊維が引きずり出されやすくなり低い外観品位になりやすくなる傾向がある。一方、立毛人工皮革の見かけ密度が高すぎる場合には、しなやかな風合いが低下する傾向がある。

本実施形態の立毛人工皮革は、JIS L 1096（6.17．5E法，マーチンデール法）に準じた、押圧荷重１２ｋＰａ（ｇｆ／ｃｍ^２）、摩耗回数２万回の摩耗減量（Ｃ）が４５ｍｇ以下である、繊維を絡合させた不織布を含む。このような耐摩耗性を有する繊維を絡合させた不織布は、繊維の繊度、繊維の種類、繊維の絡合度合いを調整することにより実現できる。

摩耗回数２万回の摩耗減量（Ｃ）は４５ｍｇ以下であり、４０ｍｇ以下、さらには３５ｍｇ以下、とくには３０ｍｇ以下であることが、耐摩耗性に優れた立毛人工皮革がとくに得られやすくなる点から好ましい。なお、摩耗回数２万回の摩耗減量（Ｃ）の下限は特に限定されないが、５ｍｇ程度であることが好ましい。

また、本実施形態の立毛人工皮革は、高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（Ｂ）とが関係式：Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，Ａ＞０、を満たすように、高分子弾性体を含有する。立毛人工皮革がこのように高分子弾性体を含有し、且つ、不織布の摩耗回数２万回の摩耗減量（Ｃ）が４５ｍｇ以下である場合には、しなやかな風合いと高い耐摩耗性とを兼ね備えた立毛人工皮革が得られる。具体的には、ＪＩＳ Ｌ １０９６（６．１７．５Ｅ法 マーチンデール法）に準じた、押圧荷重１２ｋＰａ（ｇｆ／ｃｍ^２）、摩耗回数５万回の摩耗減量が５０ｍｇ以下、さらには４０ｍｇ以下であることと、ソフトネステスターで測定されるソフトネスが３．５ｍｍ以上、さらには、３．７ｍｍ以上のしなやかさを兼ね備えた立毛人工皮革が得られる。

以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されて解釈されるものではない。

はじめに、本実施例で用いた評価方法を以下にまとめて説明する。

（高分子弾性体の含有率（Ｂ）の測定）
はじめに、立毛人工皮革の重量を測定した。そして、立毛人工皮革をN,N’-ジメチルホルムアミド（ＤＭＦ）に１２時間浸漬した後プレス処理を行い、その後さらにＤＭＦに５分間浸漬後プレス処理を行う動作を５回繰り返し、高分子弾性体であるポリウレタンを溶剤抽出した。そして、抽出後の不織布を乾燥した。そして、乾燥後の不織布の重量を測定した。
そして、（立毛人工皮革の重量−不織布の重量）／立毛人工皮革の重量×１００から高分子弾性体の含有率（Ｂ）（質量％）を算出した。

（不織布の摩耗減量（Ｃ））
立毛人工皮革をＤＭＦに１２時間浸漬した後プレス処理を行い、その後さらにＤＭＦに５分間浸漬後プレス処理を行う動作を５回繰り返し、ポリウレタンを溶剤抽出した。そして、抽出後の不織布を乾燥した。そして、得られた不織布の摩耗減量を、JIS L 1096（6.17．5E法，マーチンデール法）に準じて、押圧荷重１２ｋＰａ（ｇｆ／ｃｍ^２）、摩耗回数２万回でマーチンデール摩耗試験機を用いて摩耗試験を行い、摩耗減量（Ｃ）を測定した。

（高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）の測定）
各実施例及び比較例で用いたポリウレタンの厚さ約４００μｍのフィルムを作成し、２．５ｃｍ幅に切り出したものをオートグラフで強伸度測定した。得られたＳＳカーブの伸度１００％の強力を読み取り、フィルム厚みと２．５ｃｍ幅から得られた断面積で割り、１００％モジュラス（Ａ：ＭＰａ）を算出した。

（ソフトネス）
ソフトネステスター（皮革ソフトネス計測装置ＳＴ３００：英国、ＭＳＡエンジニアリングシステム社製）を用いてソフトネスを測定した。具体的には、直径２５ｍｍの所定のリングを装置の下部ホルダーにセットした後、下部ホルダーに立毛人工皮革をセットした。そして、上部レバーに固定された金属製のピン（直径５ｍｍ）を立毛人工皮革に向けて押し下げた。そして、上部レバーを押し下げて上部レバーがロックしたときの数値を読み取った。なお、数値は侵入深さを表し、数値が大きいほどしなやかであることを表す。

（立毛人工皮革の摩耗減量）
立毛人工皮革の摩耗減量を、JIS L 1096（6.17．5E法，マーチンデール法）に準じて、押圧荷重１２ｋＰａ（ｇｆ／ｃｍ^２）、摩耗回数５万回でマーチンデール摩耗試験機を用いて摩耗試験を行い、摩耗減量を測定した。

［実施例１］
水溶性ポリビニルアルコール樹脂（ＰＶＡ；海成分）と、変性度６モル％のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト（島成分）とを、海成分／島成分が２５／７５（質量比）となるように２６０℃で溶融複合紡糸用口金（島数：１２島／繊維）より単孔吐出量１．５ｇ／ｍｉｎで吐出した。そして、紡糸速度が３７００ｍ／ｍｉｎとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度４．５デシテックスの長繊維をネット上に捕集して、スパンボンドシート（繊維ウェブ）を得た。

得られた繊維ウェブを総目付が４９７ｇ／ｍ²になるように、クロスラッピングして重ねて積重体を得、針折れ防止油剤をスプレーした。次に、バーブ数１個でニードル番手４２番のニードル針、及びバーブ数６個でニードル番手４２番のニードル針を用いて積重体を４１８９パンチ／ｃｍ^２でニードルパンチ処理して絡合させることによりウェブ絡合シートを得た。ウェブ絡合シートの目付は６２６ｇ／ｍ²、層間剥離力は１１．４ｋｇ／２．５ｃｍであった。また、ニードルパンチ処理による面積収縮率は２０．６％であった。

次に、ウェブ絡合シートを１１０℃、２３．５％ＲＨの条件でスチーム処理した。そして、９０〜１１０℃のオーブン中で乾燥させた後、さらに、１１５℃で熱プレスすることにより、目付１０４３ｇ／ｍ^２、比重０．４３ｇ／ｃｍ^３、厚み２．４３ｍｍの熱収縮処理されたウェブ絡合シートを得た。

次に、熱収縮処理されたウェブ絡合シートに、ポリカーボネート系無黄変樹脂であり１００％モジュラス１２．５ＭＰａであるポリウレタンのＤＭＦ溶液（固形分１８％）を高分子弾性体（ポリウレタン）の含有率（Ｂ）が３９質量％程度になるように含浸させた。その後、４０℃、ＤＭＦ３０％水溶液へ浸漬させてポリウレタンを凝固させた。次に、ポリウレタンが付与されたウェブ絡合シートを、ニップ処理、及び高圧水流処理しながら９５℃の熱水中に１０分間浸漬することによりＰＶＡを溶解除去し、さらに、乾燥することにより、単繊維繊度０．３ｄｔｅｘ、目付１０５３ｇ／ｍ^２、比重０．４５１ｇ／ｃｍ^３、厚み１．８５ｍｍである、ポリウレタンと極細繊維の長繊維の繊維束の絡合体である不織布との複合体である繊維基材を得た。

次に、繊維基材を半裁した後、表面へポリウレタンのＤＭＦ溶液（固形分３５％）を塗布、乾燥することにより表面繊維を目止めし、その後、裏面を♯１２０ペーパーで、表面を♯２４０、♯３２０、♯６００ペーパーを用い、速度３．０ｍ／ｍｉｎ、回転数６５０ｒｐｍの条件で両面を研削することにより、立毛面を有する人工皮革基体を得た。その後、人工皮革基体を分散染料を用いて１２０℃で高圧染色することにより染色して、目付３７０ｇ／ｍ^２、見かけ密度０．４５１ｇ／ｃｍ^３、厚み０．８２ｍｍであるスエード調人工皮革を得た。そして、スエード調人工皮革を上記評価方法に従って評価した。結果を表１に示す。

［実施例２〜３、比較例２〜３］
実施例１において、熱収縮処理されたウェブ絡合シートに含浸させるポリウレタンのＤＭＦ溶液の割合を表１に示すように変更した以外は実施例１と同様にしてスエード調人工皮革を得た。そして、スエード調人工皮革を上記評価方法に従って評価した。結果を表１に示す。

［実施例４〜７、比較例１、比較例４］
実施例１において用いた１００％モジュラス１２．５ＭＰａのポリウレタンのＤＭＦ溶液の代わりに、１００％モジュラス４．５ＭＰａのポリウレタンのＤＭＦ溶液（実施例５、比較例１）、１００％モジュラス６ＭＰａのポリウレタンのＤＭＦ溶液（実施例６）、１００％モジュラス８ＭＰａのポリウレタンのＤＭＦ溶液（実施例７、比較例４）、または、１００％モジュラス１０ＭＰａのポリウレタンのＤＭＦ溶液（実施例４）のいずれかを用い、熱収縮処理されたウェブ絡合シートに含浸させるポリウレタンのＤＭＦ溶液の割合をそれぞれ変更した以外は実施例１と同様にしてスエード調人工皮革を得た。そして、スエード調人工皮革を上記評価方法に従って評価した。結果を表１に示す。

実施例１〜７及び比較例１〜４で得られた立毛人工皮革の高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（Ｂ）との関係をプロットしたグラフを図１に示す。実施例１〜７及び比較例１〜４で得られた立毛人工皮革中の不織布の摩耗減量（Ｃ）は１８〜２０ｍｇ程度であった。そして、図１に示すように、高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（Ｂ）とが、Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，Ａ＞０、の関係式を満たす実施例１〜７で得られた立毛人工皮革は表１に示すように、摩耗回数５万回の摩耗減量が５０ｍｇ以下である高い耐摩耗性と、ソフトネステスターで測定されるソフトネスが３．５ｍｍ以上であるしなやかな風合いとを兼ね備えていた。一方、Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，Ａ＞０、の関係式を満たさない比較例１〜４で得られた立毛人工皮革は耐摩耗性が劣っていた。

［実施例８］
ＰＶＡ（海成分）と、カーボンブラックを１．５質量％含有する、変性度６モル％のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト（島成分）とを、海成分／島成分が２５／７５（質量比）となるように２６０℃で溶融複合紡糸用口金（島数：１２島／繊維）より単孔吐出量１．２ｇ／ｍｉｎで吐出した。そして、紡糸速度が３７００ｍ／ｍｉｎとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度３．６デシテックスの長繊維をネット上に捕集して、スパンボンドシート（繊維ウェブ）を得た。そして、得られた繊維ウェブを総目付が５２８ｇ／ｍ²になるように、クロスラッピングして重ねて積重体を得、針折れ防止油剤をスプレーした。次に、バーブ数１個でニードル番手４２番のニードル針、及びバーブ数６個でニードル番手４２番のニードル針を用いて積重体を４１８９パンチ／ｃｍ^２でニードルパンチ処理して絡合させることによりウェブ絡合シートを得た。ウェブ絡合シートの目付は６３５ｇ／ｍ²、層間剥離力は９．０ｋｇ／２．５ｃｍであった。また、ニードルパンチ処理による面積収縮率は１６．８％であった。

実施例１で用いたウェブ絡合シートに代えて、上記ウェブ絡合シートを用いた以外は同様にして、スエード調人工皮革を得た。得られたスエード調人工皮革は、単繊維繊度０．２５ｄｔｅｘの繊維を含む不織布を含み、目付３６５ｇ／ｍ^２、見かけ密度０．４５６ｇ／ｃｍ^３、厚み０．８０ｍｍであった。

そして、スエード調人工皮革を上記評価方法に従って評価した。結果を表１に示す。

［実施例９〜１１、比較例５〜７］
実施例８において、熱収縮処理されたウェブ絡合シートに含浸させるポリウレタンのＤＭＦ溶液の割合と種類とを表１に示したように変更した以外は実施例１と同様にしてスエード調人工皮革を得た。そして、スエード調人工皮革を上記評価方法に従って評価した。結果を表１に示す。

実施例８〜１１及び比較例５〜７で得られた立毛人工皮革の高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（Ｂ）との関係をプロットしたグラフを図２に示す。実施例８〜１１及び比較例５〜７で得られた立毛人工皮革中の不織布の摩耗減量（Ｃ）は３９．９〜４３．３ｍｇであった。そして、高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（Ｂ）とが、Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，４≦Ａ≦１５，Ａ＞０、の関係式を満たす実施例８〜１１で得られた立毛人工皮革は表１に示すように、しなやかな風合いと高い耐摩耗性とを兼ね備えていた。一方、Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，４≦Ａ≦１５，Ａ＞０、の関係式を満たさない比較例５〜７で得られた立毛人工皮革は耐摩耗性が劣っていた。

［比較例８］
ポリエチレン（海成分）と、変性度６モル％のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト（島成分）とを、海成分／島成分が５０／５０（質量比）となるように２７０℃で溶融複合紡糸用口金（島数：１２島／繊維）より単孔吐出量１．２ｇ／ｍｉｎで吐出した。そして、紡糸速度が３７００ｍ／ｍｉｎとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度３．６デシテックスの長繊維をネット上に捕集して、スパンボンドシート（繊維ウェブ）を得た。

得られた繊維ウェブを総目付が４９７ｇ／ｍ²になるように、クロスラッピングして重ねて積重体を得、針折れ防止油剤をスプレーした。次に、バーブ数１個でニードル番手４２番のニードル針、及びバーブ数６個でニードル番手４２番のニードル針を用いて積重体を２０２０パンチ／ｃｍ^２でニードルパンチ処理して絡合させることによりウェブ絡合シートを得た。ウェブ絡合シートの目付量は７５０ｇ／ｍ²、層間剥離力は９．４ｋｇ／２．５ｃｍであった。

次に、ウェブ絡合シートを９０℃の熱水に浸漬し収縮させ、さらに９０℃で熱プレスすることにより、目付１０９０ｇ／ｍ^２、比重０．４３ｇ／ｃｍ^３、厚み２．５４ｍｍの熱収縮処理されたウェブ絡合シートを得た。

次に、熱収縮処理されたウェブ絡合シートに、ポリカーボネート系無黄変樹脂であり１００％モジュラス１２．５ＭＰａのポリウレタンのＤＭＦ溶液（固形分１８％）を高分子弾性体の含有率（Ｂ）が３９％程度になるように含浸させた。その後、４０℃、ＤＭＦ３０％水溶液へ浸漬させ凝固させた。次に、ポリウレタンが充填されたウェブ絡合シートを、トルエンへ浸漬しプレスする処理を複数回繰り返してポリエチレンを溶解除去し、さらに、乾燥することにより、単繊維繊度０．１５ｄｔｅｘ、目付８６５ｇ／ｍ^２、比重０．４３ｇ／ｃｍ^３、厚み２．０１ｍｍである、ポリウレタンと極細繊維の長繊維の繊維束の絡合体である不織布との複合体である繊維基材を得た。

次に、繊維基材を半裁した後、表面へポリウレタンのＤＭＦ溶液（固形分３５％）を塗布、乾燥して表面繊維を目止めし、その後、裏面を♯１２０ペーパーで、表面を♯２４０、♯３２０、♯６００ペーパーを用い、速度３．０ｍ／ｍｉｎ、回転数６５０ｒｐｍの条件で両面を研削することにより、人工皮革基体を得た。その後、人工皮革基体を分散染料を用い１２０℃で高圧染色することにより染色して、目付３３６ｇ／ｍ^２、比重０．４２ｇ／ｃｍ^３、厚み０．８０ｍｍであるスエード調人工皮革を得た。そして、スエード調人工皮革を上記評価方法に従って評価した。結果を表１に示す。

［比較例９〜１２］
比較例８において、熱収縮処理されたウェブ絡合シートに含浸させるポリウレタンのＤＭＦ溶液の割合と種類とを表１に示したように変更した以外は実施例１と同様にしてスエード調人工皮革を得た。そして、スエード調人工皮革を上記評価方法に従って評価した。結果を表１に示す。

比較例８〜１２で得られた立毛人工皮革中の不織布の摩耗減量（Ｃ）は何れも４７．８〜４９ｍｇであった。そして、高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と高分子弾性体の含有率（Ｂ）とが、Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，Ａ＞０、の関係式を満たす比較例８〜１１で得られた立毛人工皮革、及び、Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，Ａ＞０、の関係式を満たさない比較例１２の立毛人工皮革の何れもが耐摩耗性が劣っていた。

本発明で得られる立毛人工皮革は、衣料、靴、家具、カーシート、雑貨製品等の表皮素材として好ましく用いられる。

Claims (8)

1. 繊維の絡合体である不織布と前記不織布に付与された高分子弾性体とを含み、
   少なくとも一面は、前記繊維を立毛させた立毛面であり、
   前記高分子弾性体の１００％モジュラス（Ａ）と前記高分子弾性体の含有率（質量％）（Ｂ）とが、
   Ｂ≧−１．８Ａ＋４０，Ａ＞０、の関係式を満たし、
   前記不織布の、JIS L 1096（6.17．5E法，マーチンデール法）に準じた、押圧荷重１２ｋＰａ（ｇｆ／ｃｍ^２）、摩耗回数２万回の摩耗減量（Ｃ）が４５ｍｇ以下である立毛人工皮革。
2. ４≦Ａ≦１５である請求項１に記載の立毛人工皮革。
3. １３≦Ｂ≦５０である請求項１または２に記載の立毛人工皮革。
4. 前記高分子弾性体は溶剤系ポリウレタンである請求項１〜３の何れか1項に記載の立毛人工皮革。
5. 前記不織布は、平均繊度０．０５〜１．０ｄｔｅｘの極細繊維を含む請求項１〜４の何れか1項に記載の立毛人工皮革。
6. 前記高分子弾性体の一部は、立毛された前記繊維の根元近傍に局所的に固着する請求項１〜５の何れか１項に記載の立毛人工皮革。
7. 前記繊維は、カーボンブラックを含有する請求項１〜６の何れか１項に記載の立毛人工皮革。
8. JIS L 1096（6.17．5E法，マーチンデール法）に準じた、押圧荷重１２ｋＰａ（ｇｆ／ｃｍ^２）、摩耗回数５万回の摩耗減量が５０ｍｇ以下であり、且つ、ソフトネステスターで測定されるソフトネスが３．５ｍｍ以上である請求項１〜７の何れか１項に記載の立毛人工皮革。

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