JPWO2006109664A1 - フェライト系耐熱鋼 - Google Patents
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Abstract
Description
P92の鋼は、従来の9Crフェライト系耐熱鋼に含まれる成分に加えて、フェライト形成元素(Mo、W、Nb、Vなど)が多く含有されている。従って、粒界部に極微量のδフェライトが残存する可能性がある。δフェライトを完全に消去する目的で、P92の鋼に微量のCu、NiまたはCo(これらはオーステナイト形成元素である)をそれぞれ含有させた素材を用意し、クリープ疲労強度を比較した。試験温度は600℃、全ひずみ範囲は0.5%とした。その結果、寿命は約1600〜2100サイクルとP92の鋼と比較して、むしろ低下する傾向が認められた。
焼ならし温度を1050℃および1200℃としてP92の鋼を処理し、旧オーステナイト粒径を約25μmと125μmに変化させた。次いで、焼戻しにより引張強度が約710MPaになるように調質した後、クリープ疲労試験を実施した。試験温度は600℃、全ひずみ範囲は0.5%とした。
上記(b)の試験結果に見られるように細粒鋼の方がクリープ疲労強度が高い理由について考察した。
上記のようにフリーになったSの偏析がクリープ疲労特性に悪影響を及ぼすとすると、Mnに加えて、Sをより強固にトラップする元素を含有させることにより、クリープ疲労強度を高めることが可能と考えられる。
前述の(a)に述べたとおり、オーステナイト形成元素であるCu、NiまたはCoを微量含有する鋼では、クリープ疲労強度は低下する傾向がみられた。この現象をさらに明確にするため、微量のNdを含有する鋼に、Cu、NiまたはCoを微量含有させた鋼のクリープ疲労寿命を評価した。
(1) 0.1%以上のMoは、クリープ疲労特性に寄与する。
まず、本発明の耐熱鋼を構成する成分の作用効果と含有量の限定理由を説明する。
Cは、オーステナイト安定化元素として鋼の組織を安定化する。またMC炭化物またはM(C,N)炭窒化物を形成して、クリープ強度の向上に寄与する。MCおよびM(C,N)のMは合金元素である。しかし、0.01%未満のCでは上記の効果が充分得られない上に、δフェライト量が多くなり強度を低下させる場合がある。一方、Cの含有量が0.13%を超えると、加工性や溶接性が劣化するだけでなく、使用初期から炭化物の凝集粗大化が起こり、長時間クリープ強度の低下を招く。従って、C含有量は0.13%以下に制限する必要がある。より望ましい下限と上限は、それぞれ0.08%および0.11%である。
Siは、鋼の脱酸元素として含有され、また耐水蒸気酸化性能を高めるためにも必要な元素である。下限は、耐水蒸気酸化性能を損なわない0.15%とする。一方、Siの含有量が0.50%を超えるとクリープ強度の低下が著しいので、上限を0.50%とする。特に耐水蒸気酸化を重視する場合にはSi量の下限を0.25%とするのが望ましい。
Mnは、脱酸元素およびオーステナイト安定化元素として寄与する。また、MnSを形成してSを固定する。それらの効果を得るためには0.2%以上の含有が必要である。一方、0.5%を超えるとクリープ強度の低下を招く。従って、Mnの適正含有量は0.2〜0.5%である。さらに好ましい下限は0.3%である。
不純物であるPおよびSは、鋼の熱間加工性、溶接性、クリープ強度、クリープ疲労強度などを悪化させるので、含有量は低いほど望ましい。ただし、著しい鋼の清浄化は大幅なコストアップを招くため、許容上限をPでは0.02%、Sでは0.005%とする。
Crは、本発明鋼の高温における耐食性や耐酸化性、特に耐水蒸気酸化特性を確保するために不可欠な元素である。さらに、Crは炭化物を形成してクリープ強度を向上させる。それらの効果を得るためには、その含有量が8.0%を超えている必要がある。しかし、Crの含有量が過多になると、長時間クリープ強度の低下を招くため、12.0%未満とした。より好ましい下限は8.5%であり、また、より好ましい上限は10.0%未満である。
Moは、固溶強化元素としてクリープ強度の向上に寄与する。更に、Mo含有量とクリープ疲労強度との相関を詳細に検討した結果、0.1%以上のMoがクリープ疲労特性の改善に寄与していること、および含有量が1.5%を超えると長時間クリープ強度の低下を招くことが判明した。従って、Moの含有量は0.1〜1.5%が適正である。より好ましい下限と上限は、それぞれ0.3%および0.5%である。
Wは、固溶強化元素としてクリープ強度の向上に寄与する。さらに、一部がCr炭化物中に固溶して、炭化物の凝集・粗大化を抑制してクリープ強度に寄与する。しかしながら1.0%未満ではそれらの効果は小さい。一方、Mo含有量が3.0%を超えるとδフェライトの生成が促進され、クリープ強度の低下を招く。従って、W含有量の適正範囲は1.0〜3.0%である。より好ましい下限は1.5%を超える量であり、また、より好ましい上限は2.0%である。
Vは、固溶強化作用により、また微細な炭窒化物を形成して、クリープ強度の向上に寄与する。その効果を発揮させるためには、その含有量を0.1%以上とする必要がある。一方、V含有量が0.5%を超えるとδフェライトの生成を促進し、クリープ強度の低下を招くので、0.5%を上限とするべきである。より好ましい下限と上限は、それぞれ0.15%および0.25%である。
Nbは、微細な炭窒化物を形成して長時間クリープ強度の向上に寄与する。その効果を発揮させるためには、0.02%以上の含有が必要である。しかし、その含有量が多すぎるとδフェライトの生成を促進し、長時間クリープ強度の低下を招く。従って、Nbの適正含有量は0.02〜0.10%である。より好ましい下限と上限は、それぞれ0.04%および0.08%である。
Alは、溶鋼の脱酸剤として用いるが、その含有量が0.015%を超えるとクリープ強度の低下を招くので、上限を0.015%以下に抑えるべきである。より好ましい上限は0.010%である。
Nは、Cと同様にオーステナイト安定化元素として有効である。またNは窒化物または炭窒化物を析出させて鋼の高温強度を高める。その効果を発揮させるためには0.005%以上の含有が必要である。一方、Nの含有量が過多になると、溶解時にブローホールを生成させたり、溶接欠陥の原因になったりするだけでなく、窒化物および炭窒化物の粗大化によるクリープ強度の低下をもたらす。従って、N含有量の上限は0.070%とするべきである。より好ましいNの含有量の下限は0.020%である。
Ndは、前述のように、クリープ疲労強度を大幅に向上させる。その効果を発揮させるためには、0.005%以上の含有が必要である。しかし、0.050%を超えると粗大な窒化物を形成し、クリープ強度の低下を招くので上限を0.050%とするべきである。より好ましい含有量の上限は0.040%である。
Bは、焼入れ性を高め、高温強度の確保に重要な役割を果たす。その効果は0.002%以上で顕著となるが0.015%を超えると溶接性および長時間クリープ強度を低下させる。
これらのオーステナイト安定化元素は、前述のように、わずかな含有量でもクリープ疲労強度を低下させる。しかし、微量のNi、CoおよびCuは溶解原料からの混入を避けられない場合がある。そこで、本発明では、NiおよびCoはそれぞれ0.3%未満、Cuは0.1%未満に抑えることとした。上記の範囲であれば、クリープ疲労強度への悪影響は小さい。
これらは必要に応じて1種または2種以上添加される成分である。添加する場合のそれぞれの適正な含有量は下記のとおりである。
Ta、HfおよびTiは、微細な炭窒化物を形成してクリープ強度の向上に寄与するため必要に応じて含有させる。その効果を充分に発揮させるためには、それぞれ0.005%以上の含有が望ましい。しかし、それぞれの含有量が0.04%を超えてもその効果は飽和し、かえってクリープ強度を劣化させる。従って、それぞれの含有量の上限は0.04%とするのがよい。
これらも必要に応じて1種または2種添加される成分である。添加する場合のそれぞれの適正な含有量は、下記のとおりである。
これらの元素は、いずれも鋼の熱間加工性を向上させる。従って、鋼の熱間加工を特に改善したい場合に、いずれか一方を単独でまたは両方を複合して含有させる。その効果はそれぞれ0.0005%以上で顕著になるので、含有量の下限はそれぞれ0.0005%とするのが望ましい。しかし、いずれも含有量が0.005%を超えると、クリープ強度が低下するため、0.005%を上限とするべきである。
La、Ceなどの希土類元素は、Ndを添加する際に、不純物として混入する場合がある。しかし、Ndを除く希土類元素の含有量の合計が0.04%以下であれば、クリープ強度、クリープ延性などの特性に大きな影響を及ぼさないので、0.04%までの含有が許容される。
本発明鋼の特徴の一つは、Nd介在物が10000個/mm3以上の密度で含まれていることである。
本発明鋼は、工業的に通常用いられている製造設備によって製造することができる。すなわち、本発明で規定する化学組成の鋼を得るには、電気炉、転炉などの炉によって精錬し、脱酸および合金元素の含有によって成分調整すればよい。特に厳密な成分調整を必要とする場合には、合金元素を添加する前に溶鋼に真空処理などの適宜な処理を施す方法を採ってもよい。
試験片:直径6.0mm、標点間距離:30mm、試験温度:600℃、負荷応力:160Mpa、
試験項目:破断時間 (h)。
試験片:直径10mm、標点間距離:25mm、試験温度:600℃(大気中)
ひずみ波形:CP波形、全ひずみ範囲Δεt=0.5%、
ひずみ速度:引張側;0.01%/sec、圧縮側;0.8%/sec
試験項目:クリープ疲労寿命Nf (cycle)
熱間加工のままの素材から試験片を切り出し、研磨、腐食後、C蒸着により抽出レプリカを作製し、2000倍で電子顕微鏡観察を実施するとともに、EDX分析(Energy Dispersive X-Ray Analysis)により、介在物の同定を行い、Nd介在物の個数(個/mm2)を定量し、その値を3/2乗することにより、析出密度(個/mm3)に換算した。なお、10視野で観察を行い、その平均値を析出密度とした。
Wは、固溶強化元素としてクリープ強度の向上に寄与する。さらに、一部がCr炭化物中に固溶して、炭化物の凝集・粗大化を抑制してクリープ強度に寄与する。しかしながら1.0%未満ではそれらの効果は小さい。一方、W含有量が3.0%を超えるとδフェライトの生成が促進され、クリープ強度の低下を招く。従って、W含有量の適正範囲は1.0〜3.0%である。より好ましい下限は1.5%を超える量であり、また、より好ましい上限は2.0%である。
Alは、溶鋼の脱酸剤として用いるが、その含有量が0.015%を超えるとクリープ強度の低下を招くので、上限を0.015%以下に抑えるべきである。より好ましい上限は0.010%である。
Claims (5)
- 質量%で、C:0.01〜0.13%、Si:0.15〜0.50%、Mn:0.2〜0.5%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Cr:8.0%を超えて12.0%未満、Mo:0.1〜1.5%、W:1.0〜3.0%、V:0.1〜0.5%、Nb:0.02〜0.10%、sol.Al:0.015%以下、N:0.005〜0.070%、Nd:0.005〜0.050%、B:0.002〜0.015%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物のうちのNiが0.3%未満、Coが0.3%未満、Cuが0.1%未満である鋼であって、Nd介在物を含み、そのNd介在物の密度が10000個/mm3以上であるフェライト系耐熱鋼。
- Feの一部に代えて、質量%で、Ta:0.04%以下、Hf:0.04%以下およびTi:0.04%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系耐熱鋼。
- Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.005%以下およびMg:0.005%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフェライト系耐熱鋼。
- 不純物中のNdを除く希土類元素の総量が0.04質量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のフェライト系耐熱鋼。
- ひずみ速度が引張側で0.01%/sec、圧縮側で0.8%/secであって、全ひずみ範囲が0.5%の条件下での600℃でのCP波形におけるクリープ疲労寿命が5000サイクル以上であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載のフェライト系耐熱鋼。
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