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JPWO2006109664A1 - フェライト系耐熱鋼 - Google Patents

フェライト系耐熱鋼 Download PDF

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Abstract

高温長時間クリープ強度及びクリープ疲労強度に優れた耐熱鋼である。この耐熱鋼は、質量%で、C:0.01〜0.13%、Si:0.15〜0.50%、Mn:0.2〜0.5%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Cr:8.0%を超えて12.0%未満、Mo:0.1〜1.5%、W:1.0〜3.0%、V:0.1〜0.5%、Nb:0.02〜0.10%、sol.Al:0.015%以下、N:0.005〜0.070%、Nd:0.005〜0.050%、B:0.002〜0.015%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物のうちのNiが0.3%未満、Coが0.3%未満、Cuが0.1%未満であり、かつNd介在物を含み、その密度が10000個/mm3以上であるフェライト系耐熱鋼である。この鋼は、上記成分に加えて、Ta、Hf、Ti、CaおよびMgのうちの1種以上を含有することができる。

Description

本発明は、フェライト系耐熱鋼に関する。さらに詳しくは高温長時間クリープ強度とクリープ疲労強度に優れたフェライト系耐熱鋼に関する。本発明の耐熱鋼は、ボイラ、原子力発電設備および化学工業設備などの高温、高圧環境下で使用される熱交換用鋼管、圧力容器用鋼板、タービン材料等に適するものである。
ボイラ、原子力発電設備および化学工業設備等の高温、高圧環境で使用される耐熱鋼には、一般に高温クリープ強度、クリープ疲労強度、耐食性および耐酸化性等が要求される。
高Crフェライト鋼は、500〜650℃の温度において、強度および耐食性の点で低合金鋼よりも優れている。また、高Crフェライト鋼は、熱伝導率が高く、かつ熱膨張率が小さいことから、オーステナイト系ステンレス鋼と比較して耐熱疲労特性に優れ、かつ安価であるという特徴がある。さらには、スケール剥離が起こりにくいこと、応力腐食割れを起こさないことなど数々の利点がある。
1980年代後半から1990年代にかけて、高強度のフェライト系耐熱鋼として、ASME P91鋼が実用化され、蒸気温度566℃以上の超臨界圧ボイラに使用されてきた。さらに近年、クリープ強度を高めたASME P92の鋼が実用化され、この鋼を用いて蒸気温度600℃程度の超々臨界圧ボイラが実用化されている。
現在、環境保護のためにCO排出量の削減が求められている。そのために火力発電ボイラにおいても、更なる高温高圧化が求められている。現在実用化されているASME P92の鋼も、更に高温域、例えば約630℃、で使用するためには、肉厚の厚い部材にして使用しなければならない。
火力発電プラントでは、起動と停止が頻繁に行われるため、特に厚肉部材では、クリープ疲労強度が重要になる。ASME P92の鋼は、ASME P91の鋼と比較してクリープ強度は大幅に高められているが、クリープ疲労強度は同等である。より一層の高温高圧ボイラの実用化のためには、ASME P92の鋼のクリープ疲労強度の改善が不可欠である。
特許文献1および2には、8〜14%のCrを含む耐熱鋼の発明が開示されている。また、特許文献3には8〜13%のCrを含む耐熱鋼の発明が開示されている。しかし、これらの文献に開示される発明は、耐熱鋼のクリープ疲労強度の改善を目的としてなされたものではない。これらの発明の鋼は、Ndを含有してもよいものであるが、後述するNd介在物の有効な作用を活用した鋼ではない。
特開2001-192781号公報 特開2002-224798号公報 特開2002-235154号公報
本発明の目的は、高温長時間クリープ強度に優れ、かつクリープ疲労強度にも優れたフェライト系耐熱鋼を提供することにある。
図1は、クリープ疲労試験のひずみ波形の一例を示す図である。同図の(a)に示すのは、PP波形であり、これは引張側、圧縮側ともにクリープひずみが生じないように高速でひずみを負荷する波形である。(b)に示すのは、CP波形である。これは、引張のクリープひずみを導入するために、引張側を低速、圧縮側を高速としてひずみを負荷する波形である。
上記のPP波形下の寿命とCP波形下の寿命を比較すると、クリープ損傷を受けるCP波形下の方が、寿命は短くなる。一般に、ボイラ、原子力発電設備および化学工業設備の高温高圧環境で使用される耐熱鋼の寿命は、0.4〜1.5%の全ひずみ範囲でクリープ疲労試験を実施して評価する。
前記ボイラ等の設備は、高温高圧下で長時間使用されるため、各部材にはクリープひずみが生じ、CP型の負荷を受ける。また、通常、実機では高温高圧下で使用される部材のクリープ疲労寿命を確保するために、発生ひずみを低減するような構造がとられる。従って、これらの設備に使用される高Crフェライト鋼ではCP波形下で前記クリープ疲労試験の全ひずみ範囲、即ち、0.4〜1.5%の中の低ひずみの領域である0.5%程度の全ひずみでクリープ疲労寿命を確保する必要がある。
前記のASME P91とP92の鋼の600℃における10万時間クリープ強度は、それぞれ約98MPaおよび128MPaであり、P92の鋼の方が高強度である。しかしながら、600℃において、図1のCP波形で全ひずみ範囲0.5%のクリープ疲労試験を実施したところ、寿命はいずれも約3000サイクルと大差ないことが明らかになった。すなわち、P92の鋼は、P91の鋼よりもクリープ強度が向上しているにもかかわらず、クリープ疲労強度は向上していないという結果が得られた。この結果から、P92の鋼は、クリープ疲労強度が向上しない何らかの原因、言い換えれば、クリープ疲労強度が低下する原因を内包していると考えられる。そこで、本発明者らは、P92の鋼のクリープ疲労強度を向上させるべく鋭意検討を行った。
まず、クリープ疲労強度が向上しない原因として考えられる合金元素の偏析に起因する微量のδフェライトの影響について、下記(a)の検討を行った。
(a) δフェライトの影響の調査
P92の鋼は、従来の9Crフェライト系耐熱鋼に含まれる成分に加えて、フェライト形成元素(Mo、W、Nb、Vなど)が多く含有されている。従って、粒界部に極微量のδフェライトが残存する可能性がある。δフェライトを完全に消去する目的で、P92の鋼に微量のCu、NiまたはCo(これらはオーステナイト形成元素である)をそれぞれ含有させた素材を用意し、クリープ疲労強度を比較した。試験温度は600℃、全ひずみ範囲は0.5%とした。その結果、寿命は約1600〜2100サイクルとP92の鋼と比較して、むしろ低下する傾向が認められた。
上記の結果から、P92の鋼のクリープ疲労強度が向上しないのは、δフェライトに起因するのではなく、むしろ過剰なオーステナイト形成元素を含有させると、クリープ疲労強度は低下することが明らかになった。
次に、クリープ疲労強度への粒界の寄与を明確にする目的で、下記(b)の調査を行った。
(b) P92の鋼のクリープ疲労強度に及ぼす旧オーステナイト粒径の影響の調査
焼ならし温度を1050℃および1200℃としてP92の鋼を処理し、旧オーステナイト粒径を約25μmと125μmに変化させた。次いで、焼戻しにより引張強度が約710MPaになるように調質した後、クリープ疲労試験を実施した。試験温度は600℃、全ひずみ範囲は0.5%とした。
上記の試験の結果、通常の粒径25μmでの寿命が約3000サイクルであったのに対し、粒径125μmの粗粒の鋼の寿命は約2300サイクルであった。このことから粗粒鋼の場合は、強度が細粒鋼と同等であっても、クリープ疲労寿命が低下することが明らかになった。
(c) 細粒鋼の方がクリープ疲労強度が高い理由の解明
上記(b)の試験結果に見られるように細粒鋼の方がクリープ疲労強度が高い理由について考察した。
一般に、高温におけるクリープ特性は粗粒の場合の方が優れる傾向があるといわれる。そこで、(b)の試験で用いたサンプルの600℃、160MPaにおけるクリープ強度を調査した。その結果、粒径25μmの試料の破断時間は約6000時間であるのに対し、粒径125μmの試料の破断時間は約9000時間であり、従来から言われているように、粗粒の場合の方がクリープ強度は高い。この結果から、細粒鋼におけるクリープ疲労強度の向上は、引張強度およびクリープ強度では説明できないことが判明した。
細粒鋼では、粒界の面積が増える。粒界の面積が増加すると、P、S、As、Snなどの不純物元素、特にSの偏析が抑制されることが考えられる。そこで、粒界へのSの偏析について考察した。
通常、フェライト系耐熱鋼は、不純物として0.001%程度のSを含有する。実製品レベルでは、Sを0.001%より少ないレベルまで低下させるのは難しい。実験室での製造においても、合金元素からのSの混入が避けられないため、通常の溶製方法ではSの低減により偏析を解消することは難しい。
一般的に、Sなどの偏析が原因となる現象には、焼戻し脆性が知られている。焼戻し脆性は600℃前後のある一定温度域でマルテンサイトを焼戻した場合に生じるが、その低減には微量Moが有効であることが知られている。
クリープ疲労現象がSの偏析と相関するのであれば、Mo含有量とクリープ疲労特性が何らかの相関を持つことが考えられる。そこで、Mo含有量を0.01%、0.07%、0.13%、0.33%および1.83%と変化させた場合のクリープ疲労強度(試験温度は600℃、全ひずみ範囲は0.5%)を調査した。その結果、Mo含有量が0.13%と0.33%の場合には、寿命は約3000サイクルであったが、Mo含有量の少ない場合(0.01%および0.07%)は、約2000サイクル前後とクリープ疲労強度が低下した。このことから、Moはクリープ疲労強度に対し、一定の寄与をしていることが明らかになった。Mo含有量を更に増加させて、1.83%とした場合、クリープ疲労寿命は約2500サイクルとなり、疲労特性はむしろ低下する傾向が認められた。
次に、鋼中におけるSの存在状態について調査した。その結果、図2に示すように、SはMnSの形で存在することが明らかになった。高温におけるクリープ疲労試験の実施中に、MnSとしてトラップされていたSがフリーになって粒界に偏析すれば、このSがクリープ疲労特性に悪影響を及ぼすと考えられる。
(d) Sの固定
上記のようにフリーになったSの偏析がクリープ疲労特性に悪影響を及ぼすとすると、Mnに加えて、Sをより強固にトラップする元素を含有させることにより、クリープ疲労強度を高めることが可能と考えられる。
そこで、硫化物を形成する可能性があるCa、Mg、Nd、LaおよびCeのクリープ疲労強度に及ぼす影響について検討を行った。
その結果、Ndを0.025%含有させた場合、MnSに加えて、Nd介在物がSを固定することが明らかになった。このNd介在物とは、「Ndの酸化物」および「Ndの酸化物と硫化物との複合介在物」を意味する。「Ndの酸化物と硫化物との複合介在物」は、いわば直接的にSを固定する。一方、「Ndの酸化物」もその周りにSが偏析することによって、間接的にSを固定する。Nd介在物の一例として、Nd含有鋼に観察される「Ndの酸化物と硫化物との複合介在物」を図3に示す。
上記のように、直接的および間接的にSを固定するNdを含有する鋼を、前述の条件、即ち、試験温度600℃、全ひずみ範囲0.5%でクリープ疲労試験したところ、疲労寿命は約7000サイクルと飛躍的に向上することが明らかになった。
また、Ca、Mg、LaおよびCeをそれぞれ単独で含有する鋼のクリープ疲労寿命(試験温度は600℃、全ひずみ範囲0.5%)は、約3000〜4000サイクルであるが、上記の成分をNdとともに含有する鋼では6000〜7000サイクルの寿命になり、クリープ疲労寿命が飛躍的に向上することが明らかになった。
(e) NdとCu、NiまたはCoとの複合添加
前述の(a)に述べたとおり、オーステナイト形成元素であるCu、NiまたはCoを微量含有する鋼では、クリープ疲労強度は低下する傾向がみられた。この現象をさらに明確にするため、微量のNdを含有する鋼に、Cu、NiまたはCoを微量含有させた鋼のクリープ疲労寿命を評価した。
その結果、Ndとともに微量のCu、NiまたはCoを含有する鋼のクリープ疲労寿命は、約4000サイクルで、Ndを含有させていない鋼と比較するとクリープ疲労特性は向上しているが、Ndを単独で含有させた鋼と比較すると、クリープ疲労寿命は大幅に劣ることが判明した。
以上の検討から、下記(1)から(4)までの結論が得られる。
(1) 0.1%以上のMoは、クリープ疲労特性に寄与する。
(2) Sの大部分はMnSとして固定されているが、高温での疲労試験中に一部のSがフリーになって粒界に偏析し、クリープ疲労強度を低下させる。
(3) Ndを含有させ、SをNdの酸化物により、または酸化物と硫化物との複合介在物として固定し、一部をMnSとして固定することにより、クリープ疲労強度は大幅に改善される。その効果は、Nd介在物の密度が10000個/mm以上であるときに顕著である。なお、「Nd介在物」とは、上記の「Ndの酸化物」と「Ndの酸化物と硫化物の複合介在物」の総称である。
(4) オーステナイト形成元素であるCu、NiおよびCoは、クリープ疲労強度を低下させる。この傾向は、微量のNdを含有させた鋼においても認められる。このような現象が生じるのは、MnSとして固定されているSがクリープ疲労試験中にフリーになる現象をCu、NiおよびCoが促進するためと考えられる。
上記の検討結果を基にしてなされた本発明は、下記の耐熱鋼を要旨とする。以下、成分含有量に関する%は、質量%を意味する。
(1)C:0.01〜0.13%、Si:0.15〜0.50%、Mn:0.2〜0.5%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Cr:8.0%を超えて12.0%未満、Mo:0.1〜1.5%、W:1.0〜3.0%、V:0.1〜0.5%、Nb:0.02〜0.10%、sol.Al:0.015%以下、N:0.005〜0.070%、Nd:0.005〜0.050%、B:0.002〜0.015%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物のうちのNiが0.3%未満、Coが0.3%未満、Cuが0.1%未満である鋼であって、Nd介在物を含み、そのNd介在物の密度が10000個/mm以上であるフェライト系耐熱鋼。
(2)Feの一部に代えて、Ta:0.04%以下、Hf:0.04%以下およびTi:0.04%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする上記(1)のフェライト系耐熱鋼。
(3) Feの一部に代えて、Ca:0.005%以下およびMg:0.005%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする上記(1)または(2)のフェライト系耐熱鋼。
(4) 不純物中のNdを除く希土類元素の総量が0.04%以下であることを特徴とする上記(1)から(3)までのいずれかのフェライト系耐熱鋼。
(5) ひずみ速度が引張側で0.01%/sec、圧縮側で0.8%/secであって、全ひずみ範囲が0.5%の条件下での600℃でのCP波形におけるクリープ疲労寿命が5000サイクル以上であることを特徴とする上記(1)から(4)までのいずれかのフェライト系耐熱鋼。
図1は、クリープ疲労試験のひずみ波形の一例を示す図である。 図2は、ASME P92鋼に観察される硫化物を示す図である。 図3は、Nd含有鋼に観察される「Ndの酸化物と硫化物の複合介在物」を示す図である。
発明を実施する最良の形態
1.化学組成
まず、本発明の耐熱鋼を構成する成分の作用効果と含有量の限定理由を説明する。
C:0.01〜0.13%
Cは、オーステナイト安定化元素として鋼の組織を安定化する。またMC炭化物またはM(C,N)炭窒化物を形成して、クリープ強度の向上に寄与する。MCおよびM(C,N)のMは合金元素である。しかし、0.01%未満のCでは上記の効果が充分得られない上に、δフェライト量が多くなり強度を低下させる場合がある。一方、Cの含有量が0.13%を超えると、加工性や溶接性が劣化するだけでなく、使用初期から炭化物の凝集粗大化が起こり、長時間クリープ強度の低下を招く。従って、C含有量は0.13%以下に制限する必要がある。より望ましい下限と上限は、それぞれ0.08%および0.11%である。
Si:0.15〜0.50%
Siは、鋼の脱酸元素として含有され、また耐水蒸気酸化性能を高めるためにも必要な元素である。下限は、耐水蒸気酸化性能を損なわない0.15%とする。一方、Siの含有量が0.50%を超えるとクリープ強度の低下が著しいので、上限を0.50%とする。特に耐水蒸気酸化を重視する場合にはSi量の下限を0.25%とするのが望ましい。
Mn:0.2〜0.5%
Mnは、脱酸元素およびオーステナイト安定化元素として寄与する。また、MnSを形成してSを固定する。それらの効果を得るためには0.2%以上の含有が必要である。一方、0.5%を超えるとクリープ強度の低下を招く。従って、Mnの適正含有量は0.2〜0.5%である。さらに好ましい下限は0.3%である。
P:0.02%以下、S:0.005%以下
不純物であるPおよびSは、鋼の熱間加工性、溶接性、クリープ強度、クリープ疲労強度などを悪化させるので、含有量は低いほど望ましい。ただし、著しい鋼の清浄化は大幅なコストアップを招くため、許容上限をPでは0.02%、Sでは0.005%とする。
Cr:8.0%を超えて12.0%未満
Crは、本発明鋼の高温における耐食性や耐酸化性、特に耐水蒸気酸化特性を確保するために不可欠な元素である。さらに、Crは炭化物を形成してクリープ強度を向上させる。それらの効果を得るためには、その含有量が8.0%を超えている必要がある。しかし、Crの含有量が過多になると、長時間クリープ強度の低下を招くため、12.0%未満とした。より好ましい下限は8.5%であり、また、より好ましい上限は10.0%未満である。
Mo:0.1〜1.5%
Moは、固溶強化元素としてクリープ強度の向上に寄与する。更に、Mo含有量とクリープ疲労強度との相関を詳細に検討した結果、0.1%以上のMoがクリープ疲労特性の改善に寄与していること、および含有量が1.5%を超えると長時間クリープ強度の低下を招くことが判明した。従って、Moの含有量は0.1〜1.5%が適正である。より好ましい下限と上限は、それぞれ0.3%および0.5%である。
W:1.0〜3.0%
Wは、固溶強化元素としてクリープ強度の向上に寄与する。さらに、一部がCr炭化物中に固溶して、炭化物の凝集・粗大化を抑制してクリープ強度に寄与する。しかしながら1.0%未満ではそれらの効果は小さい。一方、Mo含有量が3.0%を超えるとδフェライトの生成が促進され、クリープ強度の低下を招く。従って、W含有量の適正範囲は1.0〜3.0%である。より好ましい下限は1.5%を超える量であり、また、より好ましい上限は2.0%である。
V:0.1〜0.5%
Vは、固溶強化作用により、また微細な炭窒化物を形成して、クリープ強度の向上に寄与する。その効果を発揮させるためには、その含有量を0.1%以上とする必要がある。一方、V含有量が0.5%を超えるとδフェライトの生成を促進し、クリープ強度の低下を招くので、0.5%を上限とするべきである。より好ましい下限と上限は、それぞれ0.15%および0.25%である。
Nb:0.02〜0.10%
Nbは、微細な炭窒化物を形成して長時間クリープ強度の向上に寄与する。その効果を発揮させるためには、0.02%以上の含有が必要である。しかし、その含有量が多すぎるとδフェライトの生成を促進し、長時間クリープ強度の低下を招く。従って、Nbの適正含有量は0.02〜0.10%である。より好ましい下限と上限は、それぞれ0.04%および0.08%である。
Al:0.015%以下
Alは、溶鋼の脱酸剤として用いるが、その含有量が0.015%を超えるとクリープ強度の低下を招くので、上限を0.015%以下に抑えるべきである。より好ましい上限は0.010%である。
N:0.005〜0.070%
Nは、Cと同様にオーステナイト安定化元素として有効である。またNは窒化物または炭窒化物を析出させて鋼の高温強度を高める。その効果を発揮させるためには0.005%以上の含有が必要である。一方、Nの含有量が過多になると、溶解時にブローホールを生成させたり、溶接欠陥の原因になったりするだけでなく、窒化物および炭窒化物の粗大化によるクリープ強度の低下をもたらす。従って、N含有量の上限は0.070%とするべきである。より好ましいNの含有量の下限は0.020%である。
Nd:0.005〜0.050%
Ndは、前述のように、クリープ疲労強度を大幅に向上させる。その効果を発揮させるためには、0.005%以上の含有が必要である。しかし、0.050%を超えると粗大な窒化物を形成し、クリープ強度の低下を招くので上限を0.050%とするべきである。より好ましい含有量の上限は0.040%である。
B:0.002〜0.015%
Bは、焼入れ性を高め、高温強度の確保に重要な役割を果たす。その効果は0.002%以上で顕著となるが0.015%を超えると溶接性および長時間クリープ強度を低下させる。
Ni:0.3%未満、Co:0.3%未満、Cu:0.1%未満
これらのオーステナイト安定化元素は、前述のように、わずかな含有量でもクリープ疲労強度を低下させる。しかし、微量のNi、CoおよびCuは溶解原料からの混入を避けられない場合がある。そこで、本発明では、NiおよびCoはそれぞれ0.3%未満、Cuは0.1%未満に抑えることとした。上記の範囲であれば、クリープ疲労強度への悪影響は小さい。
第1群の成分:Ta、HfおよびTi
これらは必要に応じて1種または2種以上添加される成分である。添加する場合のそれぞれの適正な含有量は下記のとおりである。
Ta:0.04%以下、Hf:0.04%以下、Ti:0.04%以下
Ta、HfおよびTiは、微細な炭窒化物を形成してクリープ強度の向上に寄与するため必要に応じて含有させる。その効果を充分に発揮させるためには、それぞれ0.005%以上の含有が望ましい。しかし、それぞれの含有量が0.04%を超えてもその効果は飽和し、かえってクリープ強度を劣化させる。従って、それぞれの含有量の上限は0.04%とするのがよい。
第2群の成分:CaおよびMg
これらも必要に応じて1種または2種添加される成分である。添加する場合のそれぞれの適正な含有量は、下記のとおりである。
Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下
これらの元素は、いずれも鋼の熱間加工性を向上させる。従って、鋼の熱間加工を特に改善したい場合に、いずれか一方を単独でまたは両方を複合して含有させる。その効果はそれぞれ0.0005%以上で顕著になるので、含有量の下限はそれぞれ0.0005%とするのが望ましい。しかし、いずれも含有量が0.005%を超えると、クリープ強度が低下するため、0.005%を上限とするべきである。
Ndを除く希土類元素:0.04%以下
La、Ceなどの希土類元素は、Ndを添加する際に、不純物として混入する場合がある。しかし、Ndを除く希土類元素の含有量の合計が0.04%以下であれば、クリープ強度、クリープ延性などの特性に大きな影響を及ぼさないので、0.04%までの含有が許容される。
2.Nd介在物
本発明鋼の特徴の一つは、Nd介在物が10000個/mm以上の密度で含まれていることである。
本発明鋼の中で観察されるNd介在物は、前述のように、「Ndの酸化物」および「Ndの酸化物と硫化物の複合介在物」である。具体的には、NdO、NdOS、NdOSO、NdOSなどである。
Nd介在物の直径は、約0.3μm〜1μm程度とまちまちであるが、微量のNdを含む鋼には、通常、Nd介在物が観察される。しかし、Co、NiおよびCuを多く含む鋼ではMnSが多くなり、Nd介在物が著しく減少する。そして、Nd介在物の密度が10000個/mm未満になると、クリープ疲労強度の改善は認められなくなる。従って、Nd介在物の密度は、10000個/mm以上にしなければならない。
3.製造方法
本発明鋼は、工業的に通常用いられている製造設備によって製造することができる。すなわち、本発明で規定する化学組成の鋼を得るには、電気炉、転炉などの炉によって精錬し、脱酸および合金元素の含有によって成分調整すればよい。特に厳密な成分調整を必要とする場合には、合金元素を添加する前に溶鋼に真空処理などの適宜な処理を施す方法を採ってもよい。
10000個/mm以上のNd介在物を鋼中に導入する方法は、以下のとおりである。すなわち、予め、製銑から製鋼までの段階でC、Si、Mn、Alなどで充分な脱酸を行う。溶鋼中の酸素含有量が多いと、Nd添加の歩留まりが悪くなるからである。この後、造塊法の場合には、インゴットに鋳込む前にNd以外の組成を調整し、鋳込む直前にNdを添加することにより、Nd介在物を生成させる。また、連続鋳造法の場合には、タンディッシュに溶鋼を導入する前までに、Nd以外の組成を調整し、その後にタンディッシュにNdを添加することにより、Nd介在物を生成させる。Ndのみを最終調整することにより、適切な量のNd介在物を生成させることができる。鋳造されたスラブ、ビレットまたは鋼塊はさらに鋼管や鋼板などに加工される。
継目無鋼管を製造する場合には、例えば、ビレットを押し出し製管したり、傾斜ロール式のピアサで圧延製管したり、エルハルト製管法により大径の鍛造管とすればよい。鋼管の製造においては、必要に応じて冷間加工を施して寸法を整えることもできる。製管された鋼管は、適宜熱処理した後、必要に応じてショットピーニング、酸洗などの表面処理を施す。
鋼板としては熱延鋼板と冷延鋼板がある。スラブを熱間圧延することによって熱延鋼板を得ることができ、この熱延鋼板を冷間圧延すれば冷延鋼板を得ることができる。
真空誘導溶解炉を用いて表1に示す化学組成を有する鋼を溶製し、直径144mmの50kgインゴットとした。符号A〜Mが本発明鋼、符号1〜22が比較鋼である。符号A〜Mの鋼および符号15〜20の鋼については、C、Si、MnおよびAlによる脱酸を充分に行った後、鋳込み直前にNdを添加した。符号21の鋼には溶解開始時からNdを添加し、符号22の鋼では炭素(C)による脱酸のみを実施した後にNdを添加した。
これらのインゴットを熱間鍛造し、熱間圧延して20mm厚の板とした。次いで1050℃の温度で1時間保持した後、空冷(AC)した。更に760℃〜780℃で3時間保持して空冷(AC)する焼戻し処理を行った。これらの板から試験片の長さ方向が圧延方向となるように試験片を採取し、下記の条件でクリープ破断試験、クリープ疲労試験およびNd介在物の分布の調査を行った。
(1)クリープ破断試験
試験片:直径6.0mm、標点間距離:30mm、試験温度:600℃、負荷応力:160Mpa、
試験項目:破断時間 (h)。
(2)クリープ疲労試験
試験片:直径10mm、標点間距離:25mm、試験温度:600℃(大気中)
ひずみ波形:CP波形、全ひずみ範囲Δεt=0.5%、
ひずみ速度:引張側;0.01%/sec、圧縮側;0.8%/sec
試験項目:クリープ疲労寿命N (cycle)
(3)Nd介在物の分布調査
熱間加工のままの素材から試験片を切り出し、研磨、腐食後、C蒸着により抽出レプリカを作製し、2000倍で電子顕微鏡観察を実施するとともに、EDX分析(Energy Dispersive X-Ray Analysis)により、介在物の同定を行い、Nd介在物の個数(個/mm2)を定量し、その値を3/2乗することにより、析出密度(個/mm3)に換算した。なお、10視野で観察を行い、その平均値を析出密度とした。
表2に本発明鋼および比較鋼のクリープ破断試験結果、クリープ疲労試験結果およびNd介在物の分布調査結果を示す。
Figure 2006109664
Figure 2006109664
表2に示すとおり、符号1のASME P91の鋼と比較して、符号2、符号6のASME P92の鋼は、クリープ破断時間が長く、明らかに高クリープ強度である。しかし、クリープ疲労寿命は、ほぼ同等である。即ち、ASME P92の鋼にはクリープ疲労寿命の顕著な改善はみられない。
微量のCu、NiまたはCoを含有させた符号3から5までの鋼は、クリープ強度は符号2の鋼と同レベルであるが、クリープ疲労寿命には明らかな低下が認められる。
符号2、6、7、8および9の鋼でクリープ破断強度およびクリープ疲労強度に及ぼすMoの影響について調査したところ、Mo含有量の少ない符号7と符号8の鋼では、符号2および符号6の鋼と比較して、クリープ疲労強度が劣る。また、Mo含有量が多い符号9の鋼もクリープ疲労強度が劣る。
微量のLa、Ce、CaまたはMgを含有させた符号10から符号13までの鋼では、クリープ強度およびクリープ疲労強度とも、符号2の鋼と同レベルであり、特性の改善は認められない。
一方、本発明で規定する条件を満たす符号Aから符号Mまでの鋼は、クリープ破断時間は符号2の鋼と同レベルであるが、クリープ疲労寿命が著しく向上している。
Nd含有量が本発明の規定する範囲を下回る符号14の鋼は、クリープ疲労強度の改善が不十分である。一方、Ndを過剰に含有させた符号15の鋼はクリープ強度が低い。
Ndとオーステナイト形成元素のCu、NiまたはCoを微量含有させた符号16から18までの鋼は、クリープ強度は符号2の鋼と同レベルであり、クリープ疲労強度も符号2の鋼と比較すると若干改善されてはいる。しかし、Cu、NiまたはCoを含まないか、またはこれらの含有量を低くした符号AからMまでの鋼と比較すると、クリープ疲労強度は明らかに劣っている。
Ndを本発明で規定する範囲内で含有しているが、Moが本発明で規定する範囲を外れている符号19および符号20の鋼は、Ndを含有しないものと比較すると、クリープ疲労寿命が高い。しかし、Mo含有量が本発明で規定する範囲内である符号AからMまでの鋼と比較すると、クリープ疲労強度が明らかに劣る。
符号21および符号22の鋼は、化学組成は本発明で規定する範囲内にあるが、Nd介在物の分布密度が本発明で規定する範囲を満たさないものである。これらでは、充分に脱酸を行わずに、Ndを添加したため、非常に粗大なNd酸化物が形成され、Nd介在物の密度が著しく低下し、クリープ疲労寿命は低位である。
本発明鋼は、600〜650℃の高温下における長時間クリープ強度とクリープ疲労強度に優れた耐熱鋼である。この鋼は、火力発電、原子力発電や化学工業等の分野で用いられる熱交換用鋼管、圧力容器用鋼板、タービン用材料として優れた効果を発揮し、産業上極めて有益である。
W:1.0〜3.0%
Wは、固溶強化元素としてクリープ強度の向上に寄与する。さらに、一部がCr炭化物中に固溶して、炭化物の凝集・粗大化を抑制してクリープ強度に寄与する。しかしながら1.0%未満ではそれらの効果は小さい。一方、含有量が3.0%を超えるとδフェライトの生成が促進され、クリープ強度の低下を招く。従って、W含有量の適正範囲は1.0〜3.0%である。より好ましい下限は1.5%を超える量であり、また、より好ましい上限は2.0%である。
sol.Al:0.015%以下
Alは、溶鋼の脱酸剤として用いるが、その含有量が0.015%を超えるとクリープ強度の低下を招くので、上限を0.015%以下に抑えるべきである。より好ましい上限は0.010%である。

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.13%、Si:0.15〜0.50%、Mn:0.2〜0.5%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Cr:8.0%を超えて12.0%未満、Mo:0.1〜1.5%、W:1.0〜3.0%、V:0.1〜0.5%、Nb:0.02〜0.10%、sol.Al:0.015%以下、N:0.005〜0.070%、Nd:0.005〜0.050%、B:0.002〜0.015%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物のうちのNiが0.3%未満、Coが0.3%未満、Cuが0.1%未満である鋼であって、Nd介在物を含み、そのNd介在物の密度が10000個/mm以上であるフェライト系耐熱鋼。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Ta:0.04%以下、Hf:0.04%以下およびTi:0.04%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系耐熱鋼。
  3. Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.005%以下およびMg:0.005%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフェライト系耐熱鋼。
  4. 不純物中のNdを除く希土類元素の総量が0.04質量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のフェライト系耐熱鋼。
  5. ひずみ速度が引張側で0.01%/sec、圧縮側で0.8%/secであって、全ひずみ範囲が0.5%の条件下での600℃でのCP波形におけるクリープ疲労寿命が5000サイクル以上であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載のフェライト系耐熱鋼。
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