上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、半導体装置を提供する。半導体装置は、第1導電型のドリフト領域を有する半導体基板を備えてよい。半導体装置は、ドリフト領域と半導体基板の下面との間に設けられ、ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のバッファ領域を備えてよい。バッファ領域は、半導体基板の深さ方向における異なる位置に配置された、2つ以上のヘリウム化学濃度ピークを有してよい。
バッファ領域は、第1のヘリウム化学濃度ピークと、第1のヘリウム化学濃度ピークよりも半導体基板の下面から離れて配置された第2のヘリウム化学濃度ピークとを有してよい。第2のヘリウム化学濃度ピークの分布幅は、第1のヘリウム化学濃度ピークの分布幅よりも大きくてよい。第1のヘリウム化学濃度ピークは、第2のヘリウム化学濃度ピークよりもヘリウム化学濃度が高くてよい。第1のヘリウム化学濃度ピークは、第2のヘリウム化学濃度ピークよりもヘリウム化学濃度が低くてよい。
2つ以上のヘリウム化学濃度ピークは、深さ方向においてそれぞれのピーク間隔を有して配置されてよい。第1のピーク間隔が、第1のピーク間隔よりも半導体基板の下面から離れた位置における第2のピーク間隔よりも大きくてよい。第1のピーク間隔が、第1のピーク間隔よりも半導体基板の下面から離れた位置における第2のピーク間隔よりも小さくてよい。
バッファ領域は、1つ以上の水素化学濃度ピークを有してよい。それぞれのヘリウム化学濃度ピークは、いずれの水素化学濃度ピークとも異なる深さ位置に配置されていてよい。
それぞれのヘリウム化学濃度ピークの半値全幅は、それぞれのヘリウム化学濃度ピークよりも半導体基板の下面から離れて配置されたいずれの水素化学濃度ピークの半値全幅より小さくてよい。
バッファ領域は、半導体基板の深さ方向における異なる位置に配置された、2つ以上のドーピング濃度ピークを有してよい。2つ以上のドーピング濃度ピークは、半導体基板の下面から最も離れて配置された最深ドーピング濃度ピークを含んでよい。2つ以上のヘリウム化学濃度ピークは、最深ドーピング濃度ピークと、半導体基板の下面との間に配置されていてよい。
バッファ領域は、ドリフト領域の上端から半導体基板の下面に向かってドリフト領域およびバッファ領域のネット・ドーピング濃度を積分した積分濃度が臨界積分濃度に達する空乏層エッジ位置を含んでよい。バッファ領域は、空乏層エッジ位置よりも半導体基板の下面側に配置された第1のヘリウム化学濃度ピークを有してよい。バッファ領域は、空乏層エッジ位置よりも半導体基板の上面側に配置された第2のヘリウム化学濃度ピークを有してよい。
バッファ領域は、第1のドーピング濃度ピーク、第1のドーピング濃度ピークよりも半導体基板の下面から離れて配置された第2のドーピング濃度ピーク、および、第2のドーピング濃度ピークよりも半導体基板の下面から離れて配置された第3のドーピング濃度ピークを有してよい。第1のヘリウム化学濃度ピークは、第1のドーピング濃度ピークと第2のドーピング濃度ピークの間に配置されてよい。第2のヘリウム化学濃度ピークは、第2のドーピング濃度ピークと第3のドーピング濃度ピークの間に配置されていてよい。
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
本明細書では、半導体基板の上面および下面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板の上面および下面と垂直な軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸の方向を深さ方向と称する場合がある。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板の上面および下面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。
また、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の上面までの領域を、上面側と称する場合がある。同様に、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の下面までの領域を、下面側と称する場合がある。
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタのいずれかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をND、アクセプタ濃度をNAとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はND-NAとなる。本明細書では、ネット・ドーピング濃度を単にドーピング濃度と記載する場合がある。
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を水素ドナーと称する場合がある。
本明細書において半導体基板は、N型のバルク・ドナーが全体に分布している。バルク・ドナーは、半導体基板の元となるインゴットの製造時に、インゴット内に略一様に含まれたドーパントによるドナーである。本例のバルク・ドナーは、水素以外の元素である。バルク・ドナーのドーパントは、例えばリン、アンチモン、ヒ素、セレンまたは硫黄であるが、これに限定されない。本例のバルク・ドナーは、リンである。バルク・ドナーは、P型の領域にも含まれている。半導体基板は、半導体のインゴットから切り出したウエハであってよく、ウエハを個片化したチップであってもよい。半導体のインゴットは、チョクラルスキー法(CZ法)、磁場印加型チョクラルスキー法(MCZ法)、フロートゾーン法(FZ法)のいずれかで製造されよい。本例におけるインゴットは、MCZ法で製造されている。MCZ法で製造された基板に含まれる酸素濃度は1×1017~7×1017/cm3である。FZ法で製造された基板に含まれる酸素濃度は1×1015~5×1016/cm3である。酸素濃度が高い方が水素ドナーを生成しやすい傾向がある。バルク・ドナー濃度は、半導体基板の全体に分布しているバルク・ドナーの化学濃度を用いてよく、当該化学濃度の90%から100%の間の値であってもよい。また、半導体基板は、リン等のドーパントを含まないノンドープ基板を用いてもよい。その場合、ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(D0)は例えば1×1010/cm3以上、5×1012/cm3以下である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(D0)は、好ましくは1×1011/cm3以上である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(D0)は、好ましくは5×1012/cm3以下である。尚、本発明における各濃度は、室温における値でよい。室温における値は、一例として300K(ケルビン)(約26.9℃)のときの値を用いてよい。
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。本明細書の単位系は、特に断りがなければSI単位系である。長さの単位をcmで表示することがあるが、諸計算はメートル(m)に換算してから行ってよい。
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の原子密度を指す。化学濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。キャリアとは、電子または正孔の電荷キャリアを意味する。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア濃度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア濃度を、アクセプタ濃度としてもよい。本明細書では、N型領域のドーピング濃度をドナー濃度と称する場合があり、P型領域のドーピング濃度をアクセプタ濃度と称する場合がある。
また、ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。本明細書において、単位体積当りの濃度表示にatоms/cm3、または、/cm3を用いる。この単位は、半導体基板内のドナーまたはアクセプタ濃度、または、化学濃度に用いられる。atоms表記は省略してもよい。
SR法により計測されるキャリア濃度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。キャリア濃度が低下する理由は、下記の通りである。SR法では、拡がり抵抗を測定し、拡がり抵抗の測定値からキャリア濃度を換算する。このとき、キャリアの移動度は結晶状態の移動度が用いられる。一方、格子欠陥が導入されている位置では、キャリア移動度は低下しているにもかかわらず、結晶状態のキャリア移動度によりキャリア濃度が算出される。そのため、実際のキャリア濃度、すなわちドナーまたはアクセプタの濃度よりも低い値となる。
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度の0.1%から10%程度である。
図1は、半導体装置100の一例を示す上面図である。図1においては、各部材を半導体基板10の上面に投影した位置を示している。図1においては、半導体装置100の一部の部材だけを示しており、一部の部材は省略している。
半導体装置100は、半導体基板10を備えている。半導体基板10は、半導体材料で形成された基板である。一例として半導体基板10はシリコン基板である。半導体基板10は、上面視において端辺162を有する。本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板10の上面側から見ることを意味している。本例の半導体基板10は、上面視において互いに向かい合う2組の端辺162を有する。図1においては、X軸およびY軸は、いずれかの端辺162と平行である。またZ軸は、半導体基板10の上面と垂直である。
半導体基板10には活性部160が設けられている。活性部160は、半導体装置100が動作した場合に半導体基板10の上面と下面との間で、深さ方向に主電流が流れる領域である。活性部160の上方には、エミッタ電極が設けられているが図1では省略している。
活性部160には、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80の少なくとも一方が設けられている。図1の例では、トランジスタ部70およびダイオード部80は、半導体基板10の上面における所定の配列方向(本例ではX軸方向)に沿って、交互に配置されている。他の例では、活性部160には、トランジスタ部70およびダイオード部80の一方だけが設けられていてもよい。
図1においては、トランジスタ部70が配置される領域には記号「I」を付し、ダイオード部80が配置される領域には記号「F」を付している。本明細書では、上面視において配列方向と垂直な方向を延伸方向(図1ではY軸方向)と称する場合がある。トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
ダイオード部80は、半導体基板10の下面と接する領域に、N+型のカソード領域を有する。本明細書では、カソード領域が設けられた領域を、ダイオード部80と称する。つまりダイオード部80は、上面視においてカソード領域と重なる領域である。半導体基板10の下面には、カソード領域以外の領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。本明細書では、ダイオード部80を、後述するゲート配線までY軸方向に延長した延長領域81も、ダイオード部80に含める場合がある。延長領域81の下面には、コレクタ領域が設けられている。
トランジスタ部70は、半導体基板10の下面と接する領域に、P+型のコレクタ領域を有する。また、トランジスタ部70は、半導体基板10の上面側に、N型のエミッタ領域、P型のベース領域、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲート構造が周期的に配置されている。
半導体装置100は、半導体基板10の上方に1つ以上のパッドを有してよい。本例の半導体装置100は、ゲートパッド164を有している。半導体装置100は、アノードパッド、カソードパッドおよび電流検出パッド等のパッドを有してもよい。各パッドは、端辺162の近傍に配置されている。端辺162の近傍とは、上面視における端辺162と、エミッタ電極との間の領域を指す。半導体装置100の実装時において、各パッドは、ワイヤ等の配線を介して外部の回路に接続されてよい。
ゲートパッド164には、ゲート電位が印加される。ゲートパッド164は、活性部160のゲートトレンチ部の導電部に電気的に接続される。半導体装置100は、ゲートパッド164とゲートトレンチ部とを接続するゲート配線を備える。図1においては、ゲート配線に斜線のハッチングを付している。
本例のゲート配線は、外周ゲート配線130と、活性側ゲート配線131とを有している。外周ゲート配線130は、上面視において活性部160と半導体基板10の端辺162との間に配置されている。本例の外周ゲート配線130は、上面視において活性部160を囲んでいる。上面視において外周ゲート配線130に囲まれた領域を活性部160としてもよい。また、外周ゲート配線130は、ゲートパッド164と接続されている。外周ゲート配線130は、半導体基板10の上方に配置されている。外周ゲート配線130は、アルミニウム等を含む金属配線であってよい。
活性側ゲート配線131は、活性部160に設けられている。活性部160に活性側ゲート配線131を設けることで、半導体基板10の各領域について、ゲートパッド164からの配線長のバラツキを低減できる。
活性側ゲート配線131は、活性部160のゲートトレンチ部と接続される。活性側ゲート配線131は、半導体基板10の上方に配置されている。活性側ゲート配線131は、不純物がドープされたポリシリコン等の半導体で形成された配線であってよい。
活性側ゲート配線131は、外周ゲート配線130と接続されてよい。本例の活性側ゲート配線131は、活性部160を挟む一方の外周ゲート配線130から他方の外周ゲート配線130まで、活性部160をY軸方向の略中央で横切るように、X軸方向に延伸して設けられている。活性側ゲート配線131により活性部160が分割されている場合、それぞれの分割領域において、トランジスタ部70およびダイオード部80がX軸方向に交互に配置されてよい。
また、半導体装置100は、ポリシリコン等で形成されたPN接合ダイオードである不図示の温度センス部や、活性部160に設けられたトランジスタ部の動作を模擬する不図示の電流検出部を備えてもよい。
本例の半導体装置100は、上面視において、活性部160と端辺162との間に、エッジ終端構造部90を備える。本例のエッジ終端構造部90は、外周ゲート配線130と端辺162との間に配置されている。エッジ終端構造部90は、半導体基板10の上面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部90は、活性部160を囲んで環状に設けられたガードリング、フィールドプレートおよびリサーフのうちの少なくとも一つを備えていてよい。
図2は、図1における領域Dの拡大図である。領域Dは、トランジスタ部70、ダイオード部80、および、活性側ゲート配線131を含む領域である。本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面側の内部に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、それぞれがトレンチ部の一例である。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面の上方に設けられたエミッタ電極52および活性側ゲート配線131を備える。エミッタ電極52および活性側ゲート配線131は互いに分離して設けられる。
エミッタ電極52および活性側ゲート配線131と、半導体基板10の上面との間には層間絶縁膜が設けられるが、図2では省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール54が、当該層間絶縁膜を貫通して設けられる。図2においては、それぞれのコンタクトホール54に斜線のハッチングを付している。
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15の上方に設けられる。エミッタ電極52は、コンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15およびベース領域14と接触する。また、エミッタ電極52は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極52は、Y軸方向におけるダミートレンチ部30の先端において、ダミートレンチ部30のダミー導電部と接続されてよい。
活性側ゲート配線131は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ゲートトレンチ部40と接続する。活性側ゲート配線131は、Y軸方向におけるゲートトレンチ部40の先端部41において、ゲートトレンチ部40のゲート導電部と接続されてよい。活性側ゲート配線131は、ダミートレンチ部30内のダミー導電部とは接続されない。
エミッタ電極52は、金属を含む材料で形成される。図2においては、エミッタ電極52が設けられる範囲を示している。例えば、エミッタ電極52の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金、例えばAlSi、AlSiCu等の金属合金で形成される。エミッタ電極52は、アルミニウム等で形成された領域の下層に、チタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。さらにコンタクトホール内において、バリアメタルとアルミニウム等に接するようにタングステン等を埋め込んで形成されたプラグを有してもよい。
ウェル領域11は、活性側ゲート配線131と重なって設けられている。ウェル領域11は、活性側ゲート配線131と重ならない範囲にも、所定の幅で延伸して設けられている。本例のウェル領域11は、コンタクトホール54のY軸方向の端から、活性側ゲート配線131側に離れて設けられている。ウェル領域11は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型の領域である。本例のベース領域14はP-型であり、ウェル領域11はP+型である。
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれは、配列方向に複数配列されたトレンチ部を有する。本例のトランジスタ部70には、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40と、1以上のダミートレンチ部30とが交互に設けられている。本例のダイオード部80には、複数のダミートレンチ部30が、配列方向に沿って設けられている。本例のダイオード部80には、ゲートトレンチ部40が設けられていない。
本例のゲートトレンチ部40は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの直線部分39(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)と、2つの直線部分39を接続する先端部41を有してよい。図2における延伸方向はY軸方向である。
先端部41の少なくとも一部は、上面視において曲線状に設けられることが好ましい。2つの直線部分39のY軸方向における端部どうしを先端部41が接続することで、直線部分39の端部における電界集中を緩和できる。
トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30はゲートトレンチ部40のそれぞれの直線部分39の間に設けられる。それぞれの直線部分39の間には、1本のダミートレンチ部30が設けられてよく、複数本のダミートレンチ部30が設けられていてもよい。ダミートレンチ部30は、延伸方向に延伸する直線形状を有してよく、ゲートトレンチ部40と同様に、直線部分29と先端部31とを有していてもよい。図2に示した半導体装置100は、先端部31を有さない直線形状のダミートレンチ部30と、先端部31を有するダミートレンチ部30の両方を含んでいる。
ウェル領域11の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30のY軸方向の端部は、上面視においてウェル領域11に設けられる。つまり、各トレンチ部のY軸方向の端部において、各トレンチ部の深さ方向の底部は、ウェル領域11に覆われている。これにより、各トレンチ部の当該底部における電界集中を緩和できる。
配列方向において各トレンチ部の間には、メサ部が設けられている。メサ部は、半導体基板10の内部において、トレンチ部に挟まれた領域を指す。一例としてメサ部の上端は半導体基板10の上面である。メサ部の下端の深さ位置は、トレンチ部の下端の深さ位置と同一である。本例のメサ部は、半導体基板10の上面において、トレンチに沿って延伸方向(Y軸方向)に延伸して設けられている。本例では、トランジスタ部70にはメサ部60が設けられ、ダイオード部80にはメサ部61が設けられている。本明細書において単にメサ部と称した場合、メサ部60およびメサ部61のそれぞれを指している。
それぞれのメサ部には、ベース領域14が設けられる。メサ部において半導体基板10の上面に露出したベース領域14のうち、活性側ゲート配線131に最も近く配置された領域をベース領域14-eとする。図2においては、それぞれのメサ部の延伸方向における一方の端部に配置されたベース領域14-eを示しているが、それぞれのメサ部の他方の端部にもベース領域14-eが配置されている。それぞれのメサ部には、上面視においてベース領域14-eに挟まれた領域に、第1導電型のエミッタ領域12および第2導電型のコンタクト領域15の少なくとも一方が設けられてよい。本例のエミッタ領域12はN+型であり、コンタクト領域15はP+型である。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、深さ方向において、ベース領域14と半導体基板10の上面との間に設けられてよい。
トランジスタ部70のメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したエミッタ領域12を有する。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ゲートトレンチ部40に接するメサ部60には、半導体基板10の上面に露出したコンタクト領域15が設けられていてよい。
メサ部60におけるコンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、X軸方向における一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで設けられる。一例として、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿って交互に配置されている。
他の例においては、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿ってストライプ状に設けられていてもよい。例えばトレンチ部に接する領域にエミッタ領域12が設けられ、エミッタ領域12に挟まれた領域にコンタクト領域15が設けられる。
ダイオード部80のメサ部61には、エミッタ領域12が設けられていない。メサ部61の上面には、ベース領域14およびコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてベース領域14-eに挟まれた領域には、それぞれのベース領域14-eに接してコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてコンタクト領域15に挟まれた領域には、ベース領域14が設けられてよい。ベース領域14は、コンタクト領域15に挟まれた領域全体に配置されてよい。
それぞれのメサ部の上方には、コンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール54は、ベース領域14-eに挟まれた領域に配置されている。本例のコンタクトホール54は、コンタクト領域15、ベース領域14およびエミッタ領域12の各領域の上方に設けられる。コンタクトホール54は、ベース領域14-eおよびウェル領域11に対応する領域には設けられない。コンタクトホール54は、メサ部60の配列方向(X軸方向)における中央に配置されてよい。
ダイオード部80において、半導体基板10の下面と隣接する領域には、N+型のカソード領域82が設けられる。半導体基板10の下面において、カソード領域82が設けられていない領域には、P+型のコレクタ領域22が設けられてよい。カソード領域82およびコレクタ領域22は、半導体基板10の下面23と、バッファ領域20との間に設けられている。図2においては、カソード領域82およびコレクタ領域22の境界を点線で示している。
カソード領域82は、Y軸方向においてウェル領域11から離れて配置されている。これにより、比較的にドーピング濃度が高く、且つ、深い位置まで形成されているP型の領域(ウェル領域11)と、カソード領域82との距離を確保して、耐圧を向上できる。本例のカソード領域82のY軸方向における端部は、コンタクトホール54のY軸方向における端部よりも、ウェル領域11から離れて配置されている。他の例では、カソード領域82のY軸方向における端部は、ウェル領域11とコンタクトホール54との間に配置されていてもよい。
(第1実施例)
図3は、図2におけるe-e断面の一例を示す図である。e-e断面は、エミッタ領域12およびカソード領域82を通過するXZ面である。本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。
層間絶縁膜38は、半導体基板10の上面に設けられている。層間絶縁膜38は、ホウ素またはリン等の不純物が添加されたシリケートガラス等の絶縁膜、熱酸化膜、および、その他の絶縁膜の少なくとも一層を含む膜である。層間絶縁膜38には、図2において説明したコンタクトホール54が設けられている。
エミッタ電極52は、層間絶縁膜38の上方に設けられる。エミッタ電極52は、層間絶縁膜38のコンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面21と接触している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23に設けられる。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成されている。本明細書において、エミッタ電極52とコレクタ電極24とを結ぶ方向(Z軸方向)を深さ方向と称する。
半導体基板10は、N型またはN-型のドリフト領域18を有する。ドリフト領域18は、トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれに設けられている。
トランジスタ部70のメサ部60には、N+型のエミッタ領域12およびP-型のベース領域14が、半導体基板10の上面21側から順番に設けられている。ベース領域14の下方にはドリフト領域18が設けられている。メサ部60には、N+型の蓄積領域16が設けられてもよい。蓄積領域16は、ベース領域14とドリフト領域18との間に配置される。
エミッタ領域12は半導体基板10の上面21に露出しており、且つ、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。エミッタ領域12は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高い。
ベース領域14は、エミッタ領域12の下方に設けられている。本例のベース領域14は、エミッタ領域12と接して設けられている。ベース領域14は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。
蓄積領域16は、ベース領域14の下方に設けられている。蓄積領域16は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高いN+型の領域である。すなわち蓄積領域16は、ドナー濃度がドリフト領域18よりも高い。ドリフト領域18とベース領域14との間に高濃度の蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、オン電圧を低減できる。蓄積領域16は、各メサ部60におけるベース領域14の下面全体を覆うように設けられてよい。
ダイオード部80のメサ部61には、半導体基板10の上面21に接して、P-型のベース領域14が設けられている。ベース領域14の下方には、ドリフト領域18が設けられている。メサ部61において、ベース領域14の下方に蓄積領域16が設けられていてもよい。
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれにおいて、ドリフト領域18の下にはN+型のバッファ領域20が設けられてよい。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高い濃度ピークを有してよい。濃度ピークのドーピング濃度とは、濃度ピークの頂点におけるドーピング濃度を指す。また、ドリフト領域18のドーピング濃度は、ドーピング濃度分布がほぼ平坦な領域におけるドーピング濃度の平均値を用いてよい。
バッファ領域20は、半導体基板10の深さ方向(Z軸方向)において、2つ以上の濃度ピークを有してよい。バッファ領域20の濃度ピークは、例えば水素(プロトン)またはリンの化学濃度ピークと同一の深さ位置に設けられていてよい。バッファ領域20は、ベース領域14の下端から広がる空乏層が、P+型のコレクタ領域22およびN+型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。本明細書では、バッファ領域20の上端の深さ位置をZfとする。深さ位置Zfは、ドーピング濃度が、ドリフト領域18のドーピング濃度より高くなる位置であってよい。
トランジスタ部70において、バッファ領域20の下には、P+型のコレクタ領域22が設けられる。コレクタ領域22のアクセプタ濃度は、ベース領域14のアクセプタ濃度より高い。コレクタ領域22は、ベース領域14と同一のアクセプタを含んでよく、異なるアクセプタを含んでもよい。コレクタ領域22のアクセプタは、例えばボロンである。
ダイオード部80において、バッファ領域20の下には、N+型のカソード領域82が設けられる。カソード領域82のドナー濃度は、ドリフト領域18のドナー濃度より高い。カソード領域82のドナーは、例えば水素またはリンである。なお、各領域のドナーおよびアクセプタとなる元素は、上述した例に限定されない。コレクタ領域22およびカソード領域82は、半導体基板10の下面23に露出しており、コレクタ電極24と接続している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23全体と接触してよい。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成される。
半導体基板10の上面21側には、1以上のゲートトレンチ部40、および、1以上のダミートレンチ部30が設けられる。各トレンチ部は、半導体基板10の上面21から、ベース領域14を貫通して、ドリフト領域18に到達している。エミッタ領域12、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられている領域においては、各トレンチ部はこれらのドーピング領域も貫通して、ドリフト領域18に到達している。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
上述したように、トランジスタ部70には、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30が設けられている。ダイオード部80には、ダミートレンチ部30が設けられ、ゲートトレンチ部40が設けられていない。本例においてダイオード部80とトランジスタ部70のX軸方向における境界は、カソード領域82とコレクタ領域22の境界である。
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられる。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。
ゲート導電部44は、深さ方向において、ベース領域14よりも長く設けられてよい。当該断面におけるゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われる。ゲート導電部44は、ゲート配線に電気的に接続されている。ゲート導電部44に所定のゲート電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する界面の表層に電子の反転層によるチャネルが形成される。
ダミートレンチ部30は、当該断面において、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー導電部34は、エミッタ電極52に電気的に接続されている。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられる。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。例えばダミー導電部34は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ダミー導電部34は、深さ方向においてゲート導電部44と同一の長さを有してよい。
本例のゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われている。なお、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40の底部は、下側に凸の曲面状(断面においては曲線状)であってよい。本明細書では、ゲートトレンチ部40の下端の深さ位置をZtとする。
半導体基板10の上面21側には、上面側ライフタイムキラー210が設けられてよい。上面側ライフタイムキラー210は、深さ方向において局所的に形成された格子欠陥等の再結合中心である。各図においては、深さ方向におけるライフタイムキラーの密度分布のピーク位置をバツ印で模式的に示している。本明細書では、当該ピーク位置を、ライフタイムキラーの位置として説明する。バツ印は、X軸方向において離散的に配置されているが、特に説明する場合を除き、ライフタイムキラーはX軸方向において一様に設けられている。
上面側ライフタイムキラー210は、半導体基板10の上面21から、ヘリウム等の粒子を所定の深さ位置に注入することで形成できる。上面側ライフタイムキラー210と同一の深さ位置に、ヘリウム等の粒子の濃度ピークが配置されてよい。上面側ライフタイムキラー210は、各トレンチ部よりも下方に配置されてよい。また、上面側ライフタイムキラー210は、上面視においてゲートトレンチ部40と重ならない位置に設けられることが好ましい。これにより、ゲート絶縁膜42にダメージを与えずに、ヘリウム等の粒子を注入して上面側ライフタイムキラー210を形成できる。本例の上面側ライフタイムキラー210は、上面視においてダイオード部80の全体に設けられている。図3における上面側ライフタイムキラー210は、トランジスタ部70に設けられていないが、他の例では、トランジスタ部70の一部の領域に上面側ライフタイムキラー210が設けられていてもよい。
半導体基板10の下面23側には、下面側ライフタイムキラー220が設けられている。下面側ライフタイムキラー220は、半導体基板10の下面23側からヘリウム等の粒子を注入することで形成してよい。下面側ライフタイムキラー220は、深さ方向において異なる位置に複数個配置されてよい。図3の例では、異なる深さ位置に、第1の下面側ライフタイムキラー220-1および第2の下面側ライフタイムキラー220-2が配置されている。ただし、下面側ライフタイムキラー220は、3つ以上の深さ位置に設けられていてもよい。それぞれの下面側ライフタイムキラー220と同一の深さ位置には、ヘリウム化学濃度のピークが設けられてよい。
バッファ領域20内に、2つ以上の下面側ライフタイムキラー220が設けられてよい。これにより、バッファ領域20内におけるライフタイムキラーの分布を制御しやすくなる。従って、キャリアライフタイムを精度よく制御できる。
下面側ライフタイムキラー220は、上面視においてダイオード部80の全体に設けられてよい。また、下面側ライフタイムキラー220は、上面視においてトランジスタ部70の全体に設けられてよい。下面側ライフタイムキラー220は、上面視において活性部160の全体に設けられてよく、上面視において半導体基板10の全体に設けられてもよい。第1の下面側ライフタイムキラー220-1および第2の下面側ライフタイムキラー220-2は、上面視において同一の範囲に設けられてよい。
図4Aは、図3のF-F線におけるドーピング濃度分布、水素化学濃度分布、ヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布の一例を示す図である。図4Aにおいて、半導体基板10の深さ方向における中央位置をZcとする。つまり、半導体基板10の上面21側の領域とは、上面21と中央位置Zcとの間の領域であり、下面23側の領域とは、下面23と中央位置Zcとの間の領域である。
エミッタ領域12は、リン等のN型ドーパントを含む。ベース領域14は、ボロン等のP型ドーパントを含む。蓄積領域16は、リンまたは水素等のN型ドーパントを含む。ドーピング濃度分布は、エミッタ領域12、ベース領域14および蓄積領域16においてそれぞれ濃度ピークを有してよい。
ドリフト領域18は、ドーピング濃度がほぼ平坦な領域である。ドリフト領域18のドーピング濃度Ddは、半導体基板10のバルク・ドナー濃度と同一であってよく、バルク・ドナー濃度よりも高濃度であってもよい。
本例のバッファ領域20は、ドーピング濃度分布において、複数のドーピング濃度ピーク25-1、25-2、25-3、25-4を有する。それぞれのドーピング濃度ピーク25は、水素イオンを局所的に注入することで形成されていてよい。他の例では、それぞれのドーピング濃度ピーク25は、リン等のN型ドーパントを注入することで形成されてもよい。コレクタ領域22は、ボロン等のP型ドーパントを含む。また、図3に示したカソード領域82は、リン等のN型ドーパントを含む。
本例の水素化学濃度分布は、バッファ領域20において局所的な水素化学濃度ピーク103を複数有する。バッファ領域20に水素イオンを注入することで、水素、格子欠陥および酸素が結合したVOH欠陥が形成され、ドナーとして機能する。本例の水素化学濃度ピーク103は、ドーピング濃度ピーク25と同一の深さ位置に設けられている。2つのピークが同一の深さ位置に設けられるとは、一方のピークの半値全幅の範囲内に、他方のピークの頂点が配置されていることを指す。水素化学濃度ピーク103の濃度が十分高くない場合、当該水素化学濃度ピーク103と同一の深さ位置に明瞭なドーピング濃度ピーク25が観察されない場合もある。本例の水素化学濃度は、バッファ領域20からドリフト領域18に入った直後において急峻に低下している。このため、ドリフト領域18にはVOH欠陥がほとんど形成されていない。他の例では、水素はドリフト領域18の内部まで拡散してVOH欠陥を形成してもよい。この場合、ドリフト領域18のドーピング濃度は、バルク・ドナー濃度よりも高くなる。
バッファ領域20は、半導体基板10の深さ方向における異なる位置に配置された、2つ以上のヘリウム化学濃度ピーク221を有する。本例では、第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1と、第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2が、バッファ領域20に設けられている。第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2は、第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1よりも下面23から離れて配置されている。
上述したように、それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の近傍には、下面側ライフタイムキラー220が形成されている。下面側ライフタイムキラー220は、キャリアの再結合を促進する再結合中心であってよい。再結合中心は、格子欠陥であってよい。格子欠陥は、単原子空孔(V)、複原子空孔(VV)等の、空孔を主体としてよく、転位であってよく、格子間原子であってよく、遷移金属等であってよい。例えば、空孔に隣接する原子は、ダングリング・ボンドを有する。広義では、格子欠陥にはドナーやアクセプタも含まれ得るが、本明細書では空孔を主体とする格子欠陥を空孔型格子欠陥、空孔型欠陥、あるいは単に格子欠陥と称する場合がある。本明細書では格子欠陥を、キャリアの再結合に寄与する再結合中心として、単に再結合中心、あるいはライフタイムキラーと称する場合がある。ライフタイムキラーは、ヘリウムイオンを半導体基板10に注入することにより形成されてよい。ヘリウムを注入したことで形成されたライフタイムキラーは、バッファ領域20に存在する水素により終端される場合があるので、ライフタイムキラーの密度ピークの深さ位置と、ヘリウム化学濃度ピーク221の深さ位置とは一致しない場合がある。
バッファ領域20の2か所以上の深さ位置にヘリウムを注入することで、バッファ領域20における下面側ライフタイムキラー220の密度分布を制御しやすくなる。それぞれの深さ位置には、3Heまたは4Heを注入してよい。3Heは、2個の陽子と1個の中性子を含むヘリウム同位体である。4Heは、2個の陽子と2個の中性子を含むヘリウム同位体である。
3Heまたは4Heを、緩衝材(アルミニウム等)を経由することなく、注入深さが一義的にきまる最も小さい加速エネルギーで注入することで、ヘリウム化学濃度の濃度ピークの深さ方向における半値幅を小さくできる。
図4Bは、イオンの注入深さ(Rp)と、注入に要する加速エネルギーの関係を示す図である。本例では、緩衝材を経由せずに、シリコンの半導体基板10に直接ヘリウムイオンを注入している。図4Bにおける横軸は飛程Rp(μm)、縦軸は注入に必要な加速エネルギーE(eV)である。図4Bでは、3Heの例を実線で示し、4Heの例を破線で示している。
log10(Rp)をx、log10(E)をyとする。
3Heでは、飛程Rpと加速エネルギーEの関係は式(1)で与えられてよい。
y=4.52505E-03x6 - 4.71471E-02x5 + 1.67185E-01x4 - 1.72038E-01x3 - 2.92723E-01x2 + 1.39782E+00x + 5.33858E+00 ・・・式(1)
なお、E-Aは10-Aであり、E+Aは10Aである。
半導体装置100の製造時における実際の飛程Rp'を式(1)に代入して算出される加速エネルギーをEとする。製造時における実際の加速エネルギーE'が、式(1)から算出された加速エネルギーEの±20%以内であれば、3Heを使用しているとみなしてよい。
4Heでは、飛程Rpと加速エネルギーEの関係は式(2)で与えられてよい。
y=2.90157E-03x6 - 3.66593E-02x5 + 1.59363E-01x4 - 2.31938E-01x3 -2.00999E-01x2 + 1.45891E+00x + 5.27160E+00 ・・・式(2)
製造時における実際の加速エネルギーE'が、実際の飛程Rp'を用いて式(2)から算出された加速エネルギーEの±20%以内であれば、4Heを使用しているとみなしてよい。
図4Bに示されるように、飛程Rpが8μm~10μmの領域の値を境界値として、飛程Rpが境界値以上の場合は、4Heの加速エネルギーの方が、3Heの加速エネルギーよりも10%程度高くなっている。飛程Rpが境界値以下の場合は、 3
Heの加速エネルギーの方が、4Heの加速エネルギーよりも10%程度高くなっている。同位体の中性子の個数により、電子阻止能と核阻止能のバランスが変化することによると推測される。一例として、飛程Rpが10μm以下の場合は4Heを用いてよい。これにより、10%程度小さい加速エネルギーでヘリウムイオンを注入することが可能である。飛程Rpが10μmより大きい場合には、3Heを用いてよい。
図4Cは、イオンの注入深さ(Rp)と、注入方向のストラグリング(ΔRp、標準偏差)の関係を示す図である。本例における注入方向は、半導体基板10の深さ方向である。本例においても、緩衝材を経由せずに、シリコンの半導体基板10に直接ヘリウムイオンを注入している。図4Cにおける横軸は飛程Rp(μm)、縦軸はストラグリングΔRp(μm)である。図4Cでは、3Heの例を実線で示し、4Heの例を破線で示している。
ストラグリングΔRpは、ヘリウム濃度分布をガウス分布と仮定して算出してよい。例えばストラグリングΔRpは、濃度ピーク値の0.60653倍の濃度になる2点間の距離(分布幅)としてよく、濃度ピーク値の0.6倍の濃度になる2点間の距離としてもよい。隣り合う濃度ピークの間の極小値等が濃度ピーク値の0.6倍よりも大きい場合は、濃度分布の極小値等の変曲点間の距離を、ストラグリングΔRpとしてもよい。
log10(Rp)をx、log10(ΔRp)をyとする。
3Heでは、飛程RpとストラグリングΔRpの関係は式(3)で与えられてよい。
y=5.00395E-04x6 + 9.91651E-03x5 - 9.76015E-02x4 + 2.12587E-01x3 + 1.30994E-01x2 + 2.25458E-01x - 8.59463E-01 ・・・式(3)
半導体装置100の製造時における実際の飛程Rp'を式(3)に代入して算出されるストラグリングをΔRpとする。製造時における実際のストラグリングΔRp'が、式(3)から算出されたストラグリングΔRpの±20%以内であれば、3Heを使用しているとみなしてよい。実際のストラグリングΔRp'は、熱的アニールによるヘリウムの拡散分を含まないことが好ましい。実際のストラグリングΔRp'は、ヘリウムの注入後、熱的アニールの前に測定した値であってよく、熱的アニールの後に測定した値から、ヘリウムの拡散分を差し引いた値であってもよい。
4Heでは、飛程RpとストラグリングΔRpの関係は式(4)で与えられてよい。
y=3.10234E-03x6 - 9.20762E-03x5 -6.13612E-02x4 +2.34304E-01x3 + 3.88591E-02x2 + 2.22955E-01x - 8.01967E-01 ・・・式(4)
製造時における実際のストラグリングΔRp'が、実際の飛程Rp'を用いて式(4)から算出されたストラグリングΔRpの±20%以内であれば、4Heを使用しているとみなしてよい。実際のストラグリングΔRp'は、熱的アニールによるヘリウムの拡散分を含まないことが好ましい。
図4Cに示されるように、飛程Rpが10~20μmの領域の値を境界値として、飛程Rpが境界値以下の場合は、3HeのストラグリングΔRpのほうが、4HeのストラグリングΔRpよりも10%程度小さくなっている。飛程Rpが境界値以上の場合は、3Heと4Heとで、ストラグリングΔRpはほぼ等しい。同位体の中性子の個数により、電子阻止能と核阻止能のバランスが変化することによると推測される。
一例として、飛程Rpが20μm以下の場合は3Heを用いてよい。これにより、10%程度小さいストラグリングΔRpとすることが可能である。あるいは、ストラグリングΔRpの10%程度の相違が、ヘリウム化学濃度分布あるいは電気的特性に与える相違が十分小さい場合は、飛程Rpが20μm以下の場合においても、3Heと4Heとで、ストラグリングΔRpはほぼ等しいとみなしてもよい。この場合、半導体基板10に注入するヘリウム原子は、3Heでもよいし、4Heでもよい。
一例として4Heを注入した場合のヘリウム化学濃度ピーク221の半値全幅は1μm以下である。ヘリウム化学濃度ピーク221の半値全幅は0.5μm以下であってもよい。半値幅の小さいヘリウム化学濃度ピーク221を、バッファ領域20に複数配置することで、下面側ライフタイムキラー220の分布の形状を容易に制御できる。また、ヘリウムを注入したことにより形成されるVOH欠陥が、広範囲に分布することを抑制できる。このため、バッファ領域20のドーピング濃度分布が広範囲に変動することを抑制できる。
また、複数のヘリウム化学濃度ピーク221を設けることで、下面側ライフタイムキラー220の総濃度を高く維持できる。このため、半導体装置100のターンオフ時等においてキャリアのライフタイムを短くし、テール電流を抑制できる。
なお、3Heの加速エネルギーEがおよそ20MeV以上(飛程Rpが270μm以上)で、ストラグリングΔRpが10μm以上となる。4Heの加速エネルギーEがおよそ21MeV以上(飛程Rpが250μm以上)で、ストラグリングΔRpが10μm以上となる。この場合、バッファ領域20の深さ方向の幅に比べて、ヘリウム化学濃度ピーク221の半値全幅を十分小さくできない。このため、バッファ領域20の広範囲においてVOH欠陥が形成され、ドーピング濃度分布が変動してしまう。このため、バッファ領域20において局所的に電界が集中して、短絡電流耐量が低下する場合がある。これに対してヘリウム化学濃度ピーク221の半値幅を小さくすることで、短絡電流耐量を維持しやすくなる。よって、3Heおよび4Heのいずれかを注入する場合において、加速エネルギーEは20MeV以下であってよく、10MeV以下であってよい。あるいは、複数のヘリウム化学濃度ピーク221のうちの、少なくとも1つ以上または2つ以上のヘリウム化学濃度ピーク221の加速エネルギーEが、10MeV以下であってよく、5MeV以下であってよい。
図5Aは、バッファ領域20におけるドーピング濃度分布、水素化学濃度分布、ヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布の一例を示す図である。それぞれの濃度分布は、図4Aにおいて説明した各濃度分布と同様であってよい。
本例のドーピング濃度分布は、半導体基板10の下面23側から順番に、ドーピング濃度ピーク25-1、25-2、25-3、25-4を有する。ドーピング濃度ピーク25-4は、下面23から最も離れて配置された最深ドーピング濃度ピークの一例である。それぞれのドーピング濃度ピーク25の深さ位置を、下面23側から順番にZd1、Zd2、Zd3、Zd4とする。それぞれの深さ位置Zdは、下面23からの距離を示している。なお、いずれかのドーピング濃度ピーク25は、明瞭なピークでなくてもよい。例えばドーピング濃度分布の傾きの変曲点(キンク)を、ドーピング濃度ピーク25としてよい。ドーピング濃度ピーク25-1は、濃度値が最大のドーピング濃度ピーク25であってよい。ドーピング濃度ピーク25-2は、濃度値が2番目に大きいドーピング濃度ピーク25であってよい。ドーピング濃度ピーク25-3は、濃度値が最小のドーピング濃度ピーク25であってよい。ドーピング濃度ピーク25-4は、ドーピング濃度ピーク25-3よりも高濃度のドーピング濃度ピーク25であってよい。
本例の水素化学濃度分布は、半導体基板10の下面23側から順番に、水素化学濃度ピーク103-1、103-2、103-3、103-4を有する。それぞれの水素化学濃度ピーク103の深さ位置を、下面23側から順番にZh1、Zh2、Zh3、Zh4とする。それぞれの深さ位置Zhは、下面23からの距離を示している。深さ位置Zdkは、深さ位置Zhkと同一位置であってよい。ただし、kは1から4の整数である。水素化学濃度ピーク103-1は、濃度値が最大の水素化学濃度ピーク103であってよい。水素化学濃度ピーク103-2は、濃度値が2番目に大きい水素化学濃度ピーク103であってよい。水素化学濃度ピーク103-3は、濃度値が最小の水素化学濃度ピーク103であってよい。水素化学濃度ピーク103-4は、水素化学濃度ピーク103-3よりも高濃度の水素化学濃度ピーク103であってよい。
本例のヘリウム化学濃度分布は、半導体基板10の下面23側から順番に、第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1、第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2を有する。それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の深さ位置を、下面23側から順番にZk1、Zk2とする。それぞれの深さ位置Zkは、下面23からの距離を示している。また、それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の濃度値を、下面23側から順番にPk1、Pk2とする。
2つ以上のヘリウム化学濃度ピーク221は、最深ドーピング濃度ピークであるドーピング濃度ピーク25-4と、半導体基板10の下面23との間に配置されている。少なくとも一つのヘリウム化学濃度ピーク221は、深さ位置Zd1とZd2の間に配置されてよい。本例では、全てのヘリウム化学濃度ピーク221が、深さ位置Zd1とZd2の間に配置されている。ヘリウム化学濃度ピーク221-2の半値全幅は、ヘリウム化学濃度ピーク221-1の半値全幅より大きくてよい。加速エネルギーの違いにより、ヘリウム化学濃度ピーク221-1と、ヘリウム化学濃度ピーク221-2の半値全幅を異ならせてよい。本例では、複数の下面側ライフタイムキラー220を、コレクタ領域22の近傍に配置できる。
図5Bは、バッファ領域20におけるドーピング濃度分布、水素化学濃度分布、ヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布の一例を示す図である。本例においては、ヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布が図5Aの例と相違する。他の分布は、図5Aの例と同様であってよい。
本例のバッファ領域20は、1つのヘリウム化学濃度ピーク221-0と、1つの下面側ライフタイムキラー220-0を有する。ヘリウム化学濃度ピーク221-0の深さ方向における位置をZk0とし、濃度をPk0とする。
ヘリウム化学濃度ピーク221-0の深さ位置Zk0は、深さ位置Zk1とZk2の間に配置される。深さ位置Zk0の近傍に、再結合中心濃度ピーク(下面側ライフタイムキラー220-0)が配置される。また、ヘリウム化学濃度ピーク221-0の濃度Pk0は、Pk1およびPk2のいずれよりも高濃度であってよい。下面側ライフタイムキラー220-0も、下面側ライフタイムキラー220-1および220-2のいずれよりも高濃度であってよい。
図5Aおよび図5Bの例では、ターンオフ時等においてベース領域14の下端から広がる空乏層が下面側ライフタイムキラー220まで達すると、再結合中心はキャリアの発生中心として機能する。これにより、漏れ電流が増加し、半導体装置の発熱が促進され、半導体装置の温度が上昇し、ターンオフ等の耐量が低下する場合がある。図5Aの例のように、複数の下面側ライフタイムキラー220とすることで、ヘリウム化学濃度(再結合中心濃度)のピーク濃度を低下させることができる。これにより、キャリアの発生中心の濃度も低下でき、漏れ電流を低減するほか、半導体装置の温度上昇も抑制し、ターンオフ等の耐量を高くできる。また、コレクタ領域22からドリフト領域18への正孔キャリアの注入を抑制できる。
また、図5Aの例において、深さ位置Zd1に最も近い第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1と、深さ位置Zd2に最も近い第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2との距離(Zk2-Zk1)は、距離(Zd2-Zd1)の半分以上であってよい。これにより、複数の下面側ライフタイムキラー220を、ある程度の範囲にわたって配置できる。また、深さ方向において隣り合うヘリウム化学濃度ピーク221の間隔(本例ではZk2-Zk1)は、2μm以上であってよく、3μm以上であってよく、4μm以上であってよく、5μm以上であってもよい。
それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の濃度値Pkは、それぞれ同一であってよい。他の例では、いずれかの濃度値Pkは、他の濃度値Pkと異なっていてもよい。それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221に対応するヘリウムイオンの注入ドーズ量は、1×1011(/cm2)以上であってよく、3×1011(/cm2)以上であってよく、1×1012(/cm2)以上であってよい。それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221に対応するヘリウムイオンの注入ドーズ量は、1×1013(/cm2)以下であってよく、3×1012(/cm2)以下であってよく、1×1012(/cm2)以下であってよい。
なお、それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221は、いずれの水素化学濃度ピーク103とも異なる深さ位置に配置されていてよい。つまり、それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の頂点の深さ位置Zkは、いずれの水素化学濃度ピーク103の半値全幅の範囲に含まれていない。これにより、ヘリウム注入により形成したライフタイムキラーが水素により終端されることを抑制し、下面側ライフタイムキラー220の濃度を維持しやすくなる。
それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221は、水素化学濃度ピーク103の深さ位置Zhとの距離が大きいほど、濃度値Pkが大きくなっていてもよい。これにより、ヘリウム注入により形成したライフタイムキラーがVOH欠陥を形成することを抑制でき、バッファ領域20におけるドーピング濃度分布の形状の変動を抑制できる。
なお、SR法により測定したキャリア濃度分布をドーピング濃度分布とした場合、ドーピング濃度分布は、いずれかのヘリウム化学濃度ピーク221と同一の深さ位置において谷部35を有してよい。谷部35は、ドーピング濃度が極小値を示す領域である。本例では、ヘリウム化学濃度ピーク221と同一の深さ位置に下面側ライフタイムキラー220が設けられるので、当該位置におけるキャリア移動度が低下する。これにより、上述のようにキャリア濃度が低下する。以降のドーピング濃度分布を示す図面において、ヘリウム化学濃度ピーク221と同一の深さ位置において谷部35を省略しているが、谷部35が設けられていてよい。
図6は、バッファ領域20におけるヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布の他の例を示す図である。図6におけるドーピング濃度分布および水素化学濃度分布は、図5Aの例と同一である。本例のヘリウム化学濃度分布は、半導体基板10の下面23側から順番に、第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1、第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2、第3のヘリウム化学濃度ピーク221-3を有する。それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の深さ位置を、下面23側から順番にZk1、Zk2、Zk3とする。また、それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の濃度値を、下面23側から順番にPk1、Pk2、Pk3とする。再結合中心濃度も、ヘリウム化学濃度と同様の分布を有する。
本例においても、全てのヘリウム化学濃度ピーク221が、深さ位置Zd1とZd2の間に配置されている。他の例では、いずれかのヘリウム化学濃度ピーク221は、バッファ領域20の他の領域に配置されていてもよい。
第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1は、第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2および第3のヘリウム化学濃度ピーク221-3の少なくとも一方よりも濃度値Pkが高くてよい。第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1は、濃度値Pkが最大のヘリウム化学濃度ピーク221であってよい。また、半導体基板10の下面23から離れるほど、ヘリウム化学濃度ピーク221の濃度値Pkが小さくなっていてもよい。また、半導体基板10の下面23から離れるほど、ヘリウム化学濃度ピーク221のストラグリングΔRpまたは半値全幅が大きくなっていてもよい。
なお、それぞれの下面側ライフタイムキラー220の濃度の相対的な大小関係は、対応するヘリウム化学濃度ピーク221の濃度の相対的な大小関係と同一であってよい。つまり、対応するヘリウム化学濃度ピーク221が高濃度であるほど、下面側ライフタイムキラー220が高濃度であってよい。
本例によれば、高濃度の下面側ライフタイムキラー220が、下面23の近傍に配置される。このため、コレクタ領域22からドリフト領域18への正孔キャリアの注入を抑制できる。また、漏れ電流の増加を抑え、ターンオフ時等における耐量を向上できる。
図7は、バッファ領域20におけるヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布の他の例を示す図である。図7におけるドーピング濃度分布および水素化学濃度分布は、図5Aの例と同一である。本例のヘリウム化学濃度分布は、それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の濃度の相対的な大小関係が、図6の例と相違する。他の構造は、図6の例と同一である。再結合中心濃度も、ヘリウム化学濃度と同様の分布を有する。
第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1は、第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2および第3のヘリウム化学濃度ピーク221-3の少なくとも一方よりも濃度値Pkが低くてよい。第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1は、濃度値Pkが最小のヘリウム化学濃度ピーク221であってよい。また、半導体基板10の下面23から離れるほど、ヘリウム化学濃度ピーク221の濃度値Pkが大きくなっていてもよい。また、半導体基板10の下面23から離れるほど、ヘリウム化学濃度ピーク221のストラグリングΔRpまたは半値全幅が大きくなっていてもよい。
本例によれば、高濃度の下面側ライフタイムキラー220が、ドリフト領域18の近傍に配置される。このため、半導体装置100ターンオフ時等において、ドリフト領域18から下面23側に流れるキャリアのライフタイムを短くできる。このため、テール電流が流れる期間を短くできる。また、漏れ電流の増加を抑え、ターンオフ時等における耐量を向上できる。
図8は、バッファ領域20におけるヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布の他の例を示す図である。図8におけるドーピング濃度分布および水素化学濃度分布は、図5Aの例と同一である。本例では、ヘリウム化学濃度ピーク221-kと、ヘリウム化学濃度ピーク221-(k+1)の深さ方向におけるピーク間隔をLk(図8では、L1、L2)とする。他の構造は、図5Aから図7において説明したいずれかの例と同一である。深さ方向において隣り合う2つのヘリウム化学濃度ピーク221のピーク間隔(図8では、L1、L2)が、バッファ領域20において均一であってよい。再結合中心濃度も、ヘリウム化学濃度と同様の分布を有する。
図9は、バッファ領域20におけるヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布の他の例を示す図である。図9におけるドーピング濃度分布および水素化学濃度分布は、図5Aの例と同一である。本例では、それぞれのピーク間隔Lkが、図8の例と相違する。他の構造は、図8の例と同一である。
本例では、第1のピーク間隔L1が、第1のピーク間隔L1よりも下面23から離れた位置における第2のピーク間隔L2よりも小さい(L1<L2)。つまり、バッファ領域20において、下面23に近いほど、高密度にヘリウム化学濃度ピーク221が配置されている。再結合中心濃度も、ヘリウム化学濃度と同様の分布を有する。
本例によれば、コレクタ領域22の近傍に、下面側ライフタイムキラー220を多く形成できる。このため、コレクタ領域22からドリフト領域18への正孔キャリアの注入を抑制できる。
図10Aは、バッファ領域20におけるヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布の他の例を示す図である。図10Aにおけるドーピング濃度分布および水素化学濃度分布は、図5Aの例と同一である。本例では、それぞれのピーク間隔Lkが、図8の例と相違する。他の構造は、図8の例と同一である。
本例では、第1のピーク間隔L1が第2のピーク間隔L2よりも大きい(L1>L2)。つまり、バッファ領域20において、ドリフト領域18に近いほど、高密度にヘリウム化学濃度ピーク221が配置されている。再結合中心濃度も、ヘリウム化学濃度と同様の分布を有する。
本例によれば、ドリフト領域18の近傍に、下面側ライフタイムキラー220を多く形成できる。このため、半導体装置100ターンオフ時等において、ドリフト領域18から下面23側に流れるキャリアのライフタイムを短くできる。このため、テール電流が流れる期間を短くできる。
図10Bは、バッファ領域20におけるヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布の他の例を示す図である。図10Bにおけるドーピング濃度分布および水素化学濃度分布は、図5Aの例と同一である。
深さ方向において隣り合う2つのドーピング濃度ピーク25の間の領域を、ピーク間領域105とする。深さ方向において隣り合う2つの水素化学濃度ピーク103の間の領域を、ピーク間領域105としてもよい。本例では、深さ位置Zd1とZd2(またはZh1とZh2)の間をピーク間領域105-1、深さ位置Zd2とZd3(またはZh2とZh3)の間をピーク間領域105-2、深さ位置Zd3とZd4(またはZh3とZh4)の間をピーク間領域105-3とする。
本例では、2つ以上のピーク間領域105に、ヘリウム化学濃度ピーク221が配置されている。ヘリウム化学濃度ピーク221は、互いに隣り合う2つのピーク間領域105に配置されてよい。それぞれのピーク間領域105には、1つまたは複数のヘリウム化学濃度ピーク221が配置されてよい。ピーク間領域105のうち、下面23に近いほど、多くのヘリウム化学濃度ピーク221が配置されてよい。図10Bの例では、ピーク間領域105-1に2つのヘリウム化学濃度ピーク221が配置され、ピーク間領域105-2に1つのヘリウム化学濃度ピーク221が配置されている。
それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の濃度の大小関係は、図5Aから図10Aにおいて説明したいずれかの例と同様であってよい。図10Bの例では、下面23から離れるほど、ヘリウム化学濃度ピーク221の濃度が小さくなっている。それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の間隔は、図5Aから図10Aにおいて説明したいずれかの例と同様であってよい。再結合中心濃度も、ヘリウム化学濃度と同様の分布を有してよい。
図10Cは、バッファ領域20におけるヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布の他の例を示す図である。図10Cにおけるドーピング濃度分布および水素化学濃度分布は、図5Aの例と同一である。
本例では、ヘリウム化学濃度ピーク221が配置された2つのピーク間領域105の間のピーク間領域105に、ヘリウム化学濃度ピーク221が配置されていない。図10Cの例では、ピーク間領域105-1に2つのヘリウム化学濃度ピーク221が配置され、ピーク間領域105-2にはヘリウム化学濃度ピーク221が配置されておらず、ピーク間領域105-3に1つのヘリウム化学濃度ピーク221が配置されている。それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の濃度は、図10Bの例と同様であってよい。再結合中心濃度も、ヘリウム化学濃度と同様の分布を有してよい。
図10Dは、バッファ領域20に含まれる空乏層エッジ位置Zeを説明する図である。図10Dは、バッファ領域20におけるドーピング濃度分布、水素化学濃度分布、ヘリウム化学濃度分布、再結合中心濃度分布およびドーピング濃度の積分濃度分布を示している。これらの分布は、図1から図10Cにおいて説明したいずれかの分布と同一であってよく、異なっていてもよい。図10Dに示したドーピング濃度分布および水素化学濃度分布は、図10Bと同一である。本例の積分濃度分布は、トレンチ部の下端位置Ztから下面23に向かってドーピング濃度を積分した積分値(/cm2)の分布である。
空乏層エッジ位置Zeは、ドリフト領域18の上端から半導体基板10の下面23に向かってドリフト領域18およびバッファ領域20のネット・ドーピング濃度を積分した積分濃度が臨界積分濃度ncに達する深さ位置である。本明細書では、コレクタ電極24およびエミッタ電極52間に順バイアスが印加されてアバランシェ降伏が発生した場合において、ドリフト領域18の上端からバッファ領域20の特定位置までが空乏化している場合に、ドリフト領域18の上端から当該特定位置までネット・ドーピング濃度を積分した値を、臨界積分濃度と称する。つまり、空乏層エッジ位置Zeは、アバランシェ降伏が発生した場合に、ベース領域14の下端から半導体基板10の下面23に向かって広がる空乏層が到達する最も下面23側の位置である。臨界積分濃度ncは、半導体基板10の構成原子に依存する。半導体基板10がシリコンからなる場合は、臨界積分濃度ncは約1.2×1012/cm2である。コレクタ電極24およびエミッタ電極52間に半導体装置100の定格電圧を印加した場合に、当該空乏層が到達する最も下面23側の位置を空乏層エッジ位置Zeとしてもよい。空乏層エッジ位置Zeをバッファ領域20に配置することで、空乏層がコレクタ領域22またはカソード領域82に到達することを防げる。
なおドリフト領域18の上端とは、図3に示した例では、ドリフト領域18と蓄積領域16との境界位置である。ドリフト領域18と蓄積領域16との境界位置の判別が困難な場合、トレンチ部の下端位置Ztをドリフト領域18の下端としてもよい。また、ドリフト領域18とベース領域14とが接している場合、ドリフト領域18とベース領域14の境界のPN接合の位置が、ドリフト領域18の上端である。
本例のバッファ領域20は、第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1および第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2を有する。なお第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1および第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2と対応する位置には、第1の下面側ライフタイムキラー220-1および第2の下面側ライフタイムキラー220-2が配置されている。
第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1は、空乏層エッジ位置Zeよりも下面23側に配置されている。これにより、第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1を空乏層が到達する範囲の外側に配置できるので、リーク電流を抑制できる。
また、第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2は、空乏層エッジ位置Zeよりも上面21側に配置されている。ヘリウム化学濃度ピーク221を分散して設けることで、各ピークの濃度が高くなりすぎることを抑制できる。このため、キャリア消滅時の電流変動di/dtを緩やかにして、サージの発生を抑制できる。また第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2を設けることで、空乏層が空乏層エッジ位置Zeに到達するよりも早いタイミングでキャリア消滅を促進できる。これにより、テール期間等の逆回復動作の終盤における電流変動di/dtを緩やかにでき、サージの発生を抑制できる。
第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1の濃度Pk1は、第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2の濃度Pk2よりも高くてよい。空乏層の到達範囲の外側に配置した第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1を高濃度にすることで、キャリアのライフタイムを短くできる。また、空乏層の到達範囲の内側に配置した第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2を低濃度にすることで、キャリアライフタイムを調整しつつ、リーク電流の増大を抑制できる。濃度Pk1は、濃度Pk2の1.1倍以上であってよく、1.5倍以上であってよく、2倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。
第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1は、ドーピング濃度ピーク25-1(第1のドーピング濃度ピーク)と、ドーピング濃度ピーク25-2(第2のドーピング濃度ピーク)との間のピーク間領域105-1に配置されてよい。また、第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2は、ドーピング濃度ピーク25-2(第2のドーピング濃度ピーク)と、ドーピング濃度ピーク25-3(第3のドーピング濃度ピーク)との間のピーク間領域105-2に配置されてよい。
第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1の半値全幅は、ピーク間領域105-1より小さい。第1のヘリウム化学濃度ピーク221-1の半値全幅は、ピーク間領域105-1の半分以下であってよく、0.2倍以下であってよく、0.1倍以下であってもよい。第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2の半値全幅は、ピーク間領域105-2より小さい。第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2の半値全幅は、ピーク間領域105-2の半分以下であってよく、0.2倍以下であってよく、0.1倍以下であってもよい。
それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221は、重なっていなくてよい。ヘリウム化学濃度ピーク221が重なるとは、それぞれのピークの半値全幅の深さ範囲が重複することを指してよい。
なお、下面側ライフタイムキラー220の分布は、ヘリウム化学濃度ピーク221の分布と同様であってよい。本明細書において説明したヘリウム化学濃度ピーク221の濃度、形状、配置等に関する説明は、下面側ライフタイムキラー220にも適用できる。
空乏層エッジ位置Zeは、ドーピング濃度ピーク25-2の半値全幅FWHMの範囲に配置されていてよい。これにより、空乏層がバッファ領域20よりも下側まで到達することを抑制できる。
図10Eは、バッファ領域20におけるドーピング濃度分布、水素化学濃度分布および積分濃度分布の他の例を示す図である。図10Eにおけるヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布は、図1から図10Dにおいて説明したいずれかの例と同様である。図10Eでは、図10Dの例と同様のヘリウム化学濃度分布および再結合中心濃度分布を示している。
図10Dに示したドーピング濃度分布は、ピーク間期間105-1がピーク間期間105-2よりも大きい。図10Eに示すドーピング濃度分布においては、ピーク間期間105-2がピーク間期間105-1よりも大きい。ドーピング濃度分布の他の構造は、図1から図10Dにおいて説明したいずれかの例と同様である。本例においても、空乏層エッジ位置Zeは、ドーピング濃度ピーク25-2の半値全幅内に配置されてよい。
図10Fは、上面側ライフタイムキラー210および下面側ライフタイムキラー220の一例を示す図である。図10Fにおいては、上面側ライフタイムキラー210に対応するヘリウム化学濃度ピーク211と、下面側ライフタイムキラー220に対応するヘリウム化学濃度ピーク221を合わせて示している。下面側ライフタイムキラー220およびヘリウム化学濃度ピーク221の分布は、図1から図10Eにおいて説明したいずれかの例と同様である。
図3において説明したように、上面側ライフタイムキラー210は、半導体基板10の上面21側に配置されている。上面側ライフタイムキラー210は、半導体基板10の深さ方向における中央よりも上面21側に配置されてよい。上面側ライフタイムキラー210は、ドリフト領域18の深さ方向における中央よりも上面21側に配置されてもよい。図3においてはダイオード部80に上面側ライフタイムキラー210を設けているが、上面側ライフタイムキラー210は、トランジスタ部70の少なくとも一部の領域に設けられてもよい。図10Fに示す分布例は、ダイオード部80における分布例であってよく、トランジスタ部70における分布例であってもよい。
図10Gは、ダイオード部80における電圧波形および電流波形の一例を示す図である。図10Gは、エミッタ電極52とコレクタ電極24との間に印加される電圧の波形と、エミッタ電極52とコレクタ電極24との間に流れる電流の波形を示している。図10Gにおいては、ダイオード部80がターンオフする場合の、参考例1、参考例2および実施例における波形を示している。参考例1および参考例2では、バッファ領域20にヘリウム化学濃度ピークを1つだけ設けている。実施例では、図10Dまたは図10Eに示したように、空乏層エッジ位置Zeより下面23側のバッファ領域20と、空乏層エッジ位置Zeより上面21側のバッファ領域20とに、ヘリウム化学濃度ピークを1つずつ設けている。
参考例1は、ヘリウム化学濃度ピークの濃度(つまり再結合中心濃度)が参考例2よりも大きい。この場合、逆回復時に空乏層がヘリウム化学濃度ピークに到達したタイミングで電流が急激に減少する。このため電圧波形にサージが発生する。参考例2では、再結合中心濃度が小さいので、逆回復動作の終盤までキャリアが多く残存する。このため参考例2では、逆回復動作の終盤において電流バンプが発生して、電流が急減に減少する。このため電圧波形にサージが発生する。
これに対して実施例においては、複数のヘリウム化学濃度ピーク221を設けることで各ピークの濃度を抑制でき、サージの発生を抑制できる。また、第2のヘリウム化学濃度ピーク221-2を設けることで、早いタイミングでキャリア消滅を促進でき、逆回復の終盤における電流バンプの発生を抑制し、電圧サージの発生を抑制できる。
図11は、ヘリウム化学濃度ピーク221の半値全幅Wkを説明する図である。本例では、水素化学濃度ピーク103の半値全幅をWhとする。図11においては、一つのヘリウム化学濃度ピーク221と、一つの水素化学濃度ピーク103だけを示し、他のピークを省略している。
それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221の半値全幅Wkは、それぞれのヘリウム化学濃度ピーク221よりも半導体基板の下面23から離れて配置されたいずれの水素化学濃度ピーク103の半値全幅Whより小さい。例えば図10Aに示したそれぞれのヘリウム化学濃度ピーク221-1、221-2、221-3の半値全幅は、水素化学濃度ピーク103-2、103-3、103-4のいずれの半値全幅よりも小さい。それぞれの半値全幅Wkは、より下面23から離れた水素化学濃度ピーク103の半値全幅Whの半分以下であってよい。ヘリウム化学濃度ピーク221の半値全幅Wkを小さくすることで、バッファ領域20のドーピング濃度分布の形状が、広い範囲にわたって変化することを抑制できる。
図12Aは、バッファ領域20におけるドーピング濃度分布と、水素化学濃度分布の一例を示す図である。ドーピング濃度分布および水素化学濃度分布は、図5Aから図11において説明した例と同様であってよい。また、ヘリウム化学濃度分布は、図5Aから図11において説明したいずれかの例と同一である。
本例では、半導体基板10の下面23から最も離れた2つのドーピング濃度ピーク25-3およびドーピング濃度ピーク25-4は、明瞭な濃度ピークとして観察されない。ドーピング濃度ピーク25-3およびドーピング濃度ピーク25-4の濃度値のうちの大きいほうに対する、ドーピング濃度ピーク25-3およびドーピング濃度ピーク25-4の間の領域におけるドーピング濃度の最小値の比率をnとする。比率nは、50%以下であってよく、20%以下であってよく、10%以下であってもよい。
また、半導体基板10の下面23から最も離れた2つの水素化学濃度ピーク103-3および水素化学濃度ピーク103-4の濃度値のうちの大きいほうに対する、水素化学濃度ピーク103-3および水素化学濃度ピーク103-4の間の領域における水素化学濃度の最小値の比率をmとする。比率mは、比率nより大きくてよい。つまり、深さ位置Zd3からZd4までの範囲において、水素化学濃度分布の揺らぎの振幅は、ドーピング濃度分布の揺らぎの振幅よりも大きくてよい。
また、深さ位置Zd1から深さ位置Zd2までを領域Xとし、深さ位置Zd2から深さ位置Zd4を領域Yとする。領域Xにおいて、ドーピング濃度の最小値に対する水素化学濃度の最小値の比をαとする。同様に、領域Yにおいて、ドーピング濃度の最小値に対する水素化学濃度の最小値の比をβとする。比αは、比βより大きくてよい。また、深さ方向において、領域Yは領域Xよりも長くてよい。領域Yは領域Xの1.5倍以上の長さであってよく、2倍以上の長さであってもよい。
図12Bは、半導体装置100の製造方法における一部の工程を示す図である。本例では、上面側構造形成段階S1200において、半導体基板10の上面21側の構造を形成する。上面21側の構造は、エミッタ領域12、ベース領域14、蓄積領域16等の、半導体基板10の上面21側の各ドープ領域の少なくとも一つを含んでよい。上面21側の構造は、各トレンチ部を含んでよい。上面21側の構造は、エミッタ電極52等の、半導体基板10の上面21よりも上方の構造を含んでよい。上面21側の構造は、エッジ終端構造部90を含んでよい。
次に基板研削段階S1202において、半導体基板10の下面23を研削して、半導体基板10を薄板化する。S1202では、半導体装置100が有するべき耐圧に応じた厚さに、半導体基板10を薄化してよい。
次に下面側領域形成段階S1204において、半導体基板10の下面ドープ領域を形成する。下面ドープ領域は、後の工程で形成するコレクタ電極24等の下面23に形成される電極と接するドープ領域である。下面ドープ領域は、カソード領域82およびコレクタ領域22の少なくとも一方を含んでよい。
次に第1イオン注入段階S1206において、バッファ領域20を形成するためのイオンを半導体基板10に注入する。S1206においては、半導体基板10の下面23から、バッファ領域20を形成すべき領域にイオン注入してよい。S1206においては、水素イオン(例えばプロトン)、または、リンイオン等のドナーイオンを注入してよい。
次に第1アニール段階S1208において、半導体基板10を熱アニールする。S1208では、半導体基板10を電気炉に投入して、半導体基板10(またはウエハー)の全体をアニールしてよい。S1208におけるアニール温度は、320℃以上、420℃以下であってよい。S1208では、水素および窒素を含む雰囲気でアニールしてよい。
次に第2イオン注入段階S1210において、下面側ライフタイムキラー220を形成するためのイオンを、半導体基板10に注入する。S1210においては、半導体基板10の下面23からイオンを注入してよい。S1210においては、プロトン等の水素イオン、または、ヘリウムイオンを注入してよい。本例では、ヘリウムイオンを注入する。
S1210では、図5Aから図10Gにおいて説明した下面側ライフタイムキラー220を形成する。ヘリウムイオン等の加速エネルギーを順次変更することで、深さ方向の複数の位置に下面側ライフタイムキラー220を形成できる。S1210では、深さ方向の複数の位置のうち、下面23に対して近い位置から順番にヘリウムイオン等を注入してよく、下面23に対して遠い位置から順番にヘリウムイオン等を注入してもよい。本例では、下面23に対して遠い位置から順番にヘリウムイオンを注入する。また、S1210では、ドーズ量が大きい下面側ライフタイムキラー220から順番にイオン注入してよく、ドーズ量が小さい下面側ライフタイムキラー220から順番にイオン注入してもよい。
次に第2アニール段階S1212において、半導体基板10を熱アニールする。S1212では、半導体基板10を電気炉に投入して、半導体基板10(またはウエハー)の全体をアニールしてよい。S1212におけるアニール温度は、S1208におけるアニール温度よりも低くてよい。S1212におけるアニール温度は、300℃以上、400℃以下であってよい。S1212では、窒素雰囲気、または、水素および窒素を含む雰囲気でアニールしてよい。
S1212は、S1210において一つの深さ位置にヘリウムイオン等を注入する毎に行ってよく、複数の深さ位置にヘリウムイオン等を注入する毎に行ってもよい。S1210とS1212の工程のセットを、複数回繰り返してよい(S1213)。
次に下面電極形成段階S1214において、下面23に接する電極を形成する。S1214では、コレクタ電極24を形成してよい。このような工程により、半導体装置100を形成できる。
図13は、比較例のバッファ領域20における、キャリア濃度分布およびヘリウム化学濃度分布の一例を示している。本例のバッファ領域20は、3Heを注入して形成したヘリウム化学濃度のピークを1つだけ有している。また、図13においては、ヘリウムを注入しない場合のキャリア濃度分布を実線で示し、ヘリウムを注入した場合のキャリア濃度分布を破線で示している。ヘリウムを注入しない場合のキャリア濃度分布は、図5A等におけるドーピング濃度分布と同様である。
本例では、バッファ領域20に単一のヘリウム化学濃度のピークが設けられている。このため、ライフタイムキラーの分布を制御しにくくなる。また、ヘリウム化学濃度ピークの半値幅が大きい場合、ヘリウムを注入しない場合に比べて、キャリア濃度分布が広い範囲で変動してしまう。これに対して図1から図12Bの例においては、バッファ領域20に複数のヘリウム化学濃度ピークを配置するので、ライフタイムキラーの分布を精度よく調整できる。また、ヘリウム化学濃度ピークの半値幅を小さくすることで、キャリア濃度分布の広い範囲での変動を抑制できる。
(第2実施例)
図14は、e-e断面の他の例を示す図である。本例の半導体装置100は、バッファ領域20の形成方法が、図1から図13において説明した第1実施例とは相違する。バッファ領域20の形成方法は後述する。他の部分については、第1実施例と同様である。なお、本例の半導体装置100は、バッファ領域20に下面側ライフタイムキラー220が設けられてよく、設けられていなくてもよい。つまり、バッファ領域20にヘリウム化学濃度ピーク221が設けられてよく、設けられていなくてもよい。
図15は、図14のF-F線におけるドーピング濃度分布および水素化学濃度分布の一例を示す図である。ドーピング濃度分布および水素化学濃度分布は、図5Aの例と同様であってよい。なお図15では、ドーピング濃度分布における各ドーピング濃度ピークが明瞭に観察できる例を示しているが、図5Aの例と同様に、いずれかのドーピング濃度ピークは明瞭に観察されなくてもよい。
図16は、バッファ領域20の形成方法の一例を示す図である。図16においては、バッファ領域20にドーパントを注入する注入工程を示している。まず、半導体基板10の注入面から第1注入位置にN型の第1ドーパントを注入する(S1601)。本例において注入面は下面23であり、第1注入位置は、図5A等において説明した深さ位置Zd1(またはZh1)である。また、第1ドーパントは例えば水素イオンまたはリンイオンである。
第1ドーパントを注入した後に、半導体基板10の注入面(本例では下面23)から、第1注入位置よりも注入面からの距離が大きい第2注入位置にN型の第2ドーパントを注入する(S1602)。本例において第2注入位置は、図5A等において説明した深さ位置Zd2(またはZh2)である。また、第2ドーパントは例えば水素イオンまたはリンイオンである。第2ドーパントは第1ドーパントと同一元素であってよい。例えば、第1ドーパントおよび第2ドーパントは、ともに水素イオンである。他の例では、第1ドーパントと第2ドーパントの一方がリンイオンであり、他方が水素イオンであってもよい。
第2ドーパントを注入した後に、半導体基板10の注入面(本例では下面23)から、第2注入位置よりも注入面からの距離が大きい第3注入位置にN型の第3ドーパントを注入する(S1603)。本例において第3注入位置は、図5A等において説明した深さ位置Zd3(またはZh3)である。また、第3ドーパントは例えば水素イオンまたはリンイオンである。第3ドーパントは、第1ドーパントまたは第2ドーパントと同一元素であってよい。例えば、第1ドーパント、第2ドーパントおよび第3ドーパントは、いずれも水素イオンである。他の例では、第1ドーパント、第2ドーパントおよび第3ドーパントの一部が水素イオンであり、一部がリンイオンであってもよい。
第3ドーパントを注入した後に、半導体基板10の注入面(本例では下面23)から、第3注入位置よりも注入面からの距離が大きい第4注入位置にN型の第4ドーパントを注入する(S1604)。本例において第4注入位置は、図5A等において説明した深さ位置Zd4(またはZh4)である。また、第4ドーパントは例えば水素イオンまたはリンイオンである。第4ドーパントは、第1ドーパント、第2ドーパントまたは第3ドーパントと同一元素であってよい。例えば、第1ドーパント、第2ドーパント、第3ドーパントおよび第4ドーパントは、いずれも水素イオンである。他の例では、第1ドーパント、第2ドーパント、第3ドーパントおよび第4ドーパントの一部が水素イオンであり、一部がリンイオンであってもよい。
注入工程においては、半導体基板10の注入面から、第1ドーパントおよび第2ドーパントを含む3以上のN型のドーパントを、それぞれ異なる深さの注入位置に注入してよい。図16の例では、ドーパントを4つの深さ位置に注入したが、ドーパントを注入する深さ位置は、2つ以上であればよい。
半導体基板10にドーパントを注入すると、注入面にパーティクル等の異物が付着する場合がある。注入面に異物が付着した状態で、注入面から更にドーパントを注入すると、異物によりドーパントが遮蔽されて、ドーパントを精度よく注入することができない場合がある。特に、ドーパントを注入する深さ位置と注入面との距離が短い場合は、ドーパントの加速エネルギーが小さいので、異物によりドーパントが遮蔽されやすい。
本例によれば、第1ドーパントを注入してから、より深い位置に第2ドーパントを注入する。このため、第2ドーパントを注入する工程(S1602)で注入面に異物が付着しても、第1ドーパントの注入には影響しない。このため、加速エネルギーが比較的に小さい第1ドーパントの注入を精度よく行うことができる。
注入工程において、バッファ領域20に注入する複数のドーパントのうち、半導体基板10の下面23に最も近い注入位置に注入するドーパントを最初に注入することが好ましい。本例では、下面23に最も近い注入位置に注入する第1ドーパントを最初に注入する。これにより、加速エネルギーが最も小さい第1ドーパントの注入を精度よく行うことができる。他の例では、バッファ領域20は、第1ドーパントよりも後に注入され、且つ、第1ドーパントよりも下面23の近くに注入されるドーパントを含んでもよい。
また、注入工程において、バッファ領域20に注入する複数のドーパントのうち、半導体基板10の下面23から最も遠い注入位置に注入するドーパントを最後に注入してよい。本例では、下面23から最も遠い注入位置に注入する第4ドーパントを最後に注入する。これにより、第4ドーパントよりも加速エネルギーが小さい各ドーパントの注入を精度よく行うことができる。
また図16に示したように、注入工程においては、半導体基板10の下面23からの距離が近い注入位置から順番にドーパントを注入してよい。これにより、加速エネルギーが小さいドーパントから順番に注入できるので、それぞれのドーパントの注入を精度よく行うことができる。
なお、バッファ領域20に注入する複数のドーパントの注入位置のうち、半導体基板10の下面23からの距離が最も遠い深さ位置Zd4と、半導体基板10の下面23との距離は、半導体基板10の厚みの半分以下であってよい。つまり、深さ位置Zd4は、半導体基板10の中央位置Zc(図4A参照)と、下面23との間に配置されている。半導体装置100の製造工程においては、同一の注入面(本例では下面23)から半導体基板10の当該注入面側(本例では下面23側)の領域に注入する同一導電型のドーパントを、当該注入面に近いものから順番に注入してよい。
また上面視において、第1ドーパントを注入する範囲と、第2ドーパントを注入する範囲とは同一であってよい。注入工程においてバッファ領域20に注入するすべての第1導電型のドーパントの注入範囲が同一であってもよい。
図17は、比較例に係るコレクタ領域22の断面形状を示す図である。本例においては、バッファ領域20に対して、下面23から遠い位置から順番にドーパントを注入している。この場合、例えば第1ドーパントのように、注入位置が浅く加速エネルギーが小さいドーパントが、注入面のパーティクルにより遮蔽される場合がある。第1ドーパントが局所的に遮蔽されると、ドーピング濃度ピーク25-1がXY平面において局所的に欠落してしまう。
ドーピング濃度ピーク25-1が局所的に欠落すると、当該領域のドナー濃度が低くなるので、コレクタ領域22が当該領域に入り込みやすくなる。この結果、図17に示すように、コレクタ領域22の一部において、上方に突出した部分が発生してしまう。このため、半導体装置100のオフ時にベース領域14の下端から広がる空乏層が、コレクタ領域22に到達しやすくなり、耐圧が低下してしまう。
図18は、半導体装置の耐圧試験の結果を示す図である。図18の横軸は、オフ状態の半導体装置のエミッタコレクタ間に印加する電圧を示し、縦軸は、半導体装置のエミッタコレクタ間に流れる電流を示す。図17において説明した比較例の半導体装置では、エミッタコレクタ間電圧Vceが1400V以下で、大きなエミッタコレクタ間電流Icesが流れてしまう。これに対して、実施例に係る半導体装置100では、エミッタコレクタ間電圧Vceが1600V程度でも、大きなエミッタコレクタ間電流Icesは流れなかった。つまり、実施例に係る半導体装置100は、比較例よりも耐圧が向上している。
図19は、半導体装置の耐圧試験の結果を示す図である。図19では、耐圧試験により不良と判定された半導体装置の個数を示している。耐圧試験においては、所定の耐圧以下の半導体装置を不良と判定している。図19においては、図17に示した比較例と、実施例に係る半導体装置100に加えて、注入面を洗浄して各ドーパントを注入した参考例の半導体装置の試験結果を示している。参考例においては、比較例と同一の注入順序でバッファ領域20にドーパントを注入し、且つ、ドーパントを注入する毎に注入面を水で洗浄した。
図19に示すように、実施例によれば、比較例に対して、バッファ領域20の各濃度分布の設計を変更せずに、不良数を大幅に低減できた。また、注入面を洗浄した参考例と比べても、実施例は不良数を低減できている。
図20は、半導体装置100の他の例を示す図である。図14から図16において説明した例では、バッファ領域20が複数のドーピング濃度ピーク25を有する例を説明した。本例の半導体装置100は、蓄積領域16が複数のドーピング濃度ピーク25を有している。図20では、蓄積領域16に対するドーパントの注入工程を説明する。バッファ領域20は、図14から図16の例と同様の工程で形成された複数のドーピング濃度ピーク25を有してよく、有していなくてもよい。
蓄積領域16に対するドーパントの注入工程においては、図14から図16において説明したバッファ領域20に対するドーパントの注入工程と同様の順番で、各ドーパントを注入してよい。なお本例においては、注入面が上面21であり、各ドーパントの注入位置の基準位置が上面21である点で、図14から図16の例と相違する。他の内容は、図14から図16の例と同一であってよい。例えば、図16における注入工程の説明において、「バッファ領域20」を「蓄積領域16」と読み替え、「下面23」を「上面21」に読み替えてよい。
図20の例では、まず、半導体基板10の注入面から第1注入位置にN型の第1ドーパントを注入する(S2001)。本例において注入面は上面21である。また、第1注入位置は、上面21から距離Zd1またはZh1離れた位置である。また、第1ドーパントは例えば水素イオンまたはリンイオンである。
第1ドーパントを注入した後に、半導体基板10の注入面(本例では上面21)から、第1注入位置よりも注入面からの距離が大きい第2注入位置にN型の第2ドーパントを注入する(S2002)。本例において第2注入位置は、上面21から距離Zd2またはZh2離れた位置である。本例においては、第1ドーパントを注入する第1深さ位置(第1注入位置)と、第2ドーパントを注入する第2深さ位置(第2注入位置)とが、蓄積領域16内に配置されている。また、第2ドーパントは例えば水素イオンまたはリンイオンである。第2ドーパントは第1ドーパントと同一元素であってよい。例えば、第1ドーパントおよび第2ドーパントは、ともに水素イオンである。他の例では、第1ドーパントと第2ドーパントの一方がリンイオンであり、他方が水素イオンであってもよい。
図20の例では、蓄積領域16は、2つのドーピング濃度ピーク25を有しているが、ドーピング濃度ピーク25の個数は2つ以上であればよい。本例によれば、第1ドーパントを注入してから、より深い位置に第2ドーパントを注入する。このため、第2ドーパントを注入する工程(S2002)で注入面に異物が付着しても、第1ドーパントの注入には影響しない。このため、加速エネルギーが比較的に小さい第1ドーパントの注入を精度よく行うことができる。
図21は、半導体装置100の製造工程の他の例を示す図である。本例においては、図16において説明した注入工程の前に、通過領域形成工程S2102を実行する。また、バッファ領域20に注入するいずれかのドーパントは水素イオンである。ドーピング濃度が比較的に高い第1ドーパントおよび第2ドーパントの少なくとも一方が水素イオンであってよい。また、他のドーパントが水素イオンであってもよい。
通過領域形成工程S2101においては、下面23から荷電粒子を注入する。荷電粒子は水素イオン、ヘリウムイオン、電子線等である。荷電粒子の飛程は、半導体基板10の厚みの半分以上である。荷電粒子の飛程は、半導体基板10の厚みより大きくてもよい。荷電粒子が通過した半導体基板10の領域を、通過領域と称する。通過領域は、深さ方向においてドリフト領域18の半分以上を含んでよく、全体を含んでもよい。
半導体基板10において過電粒子が通過した通過領域には、過電粒子が通過したことにより、単原子空孔(V)、複原子空孔(VV)等の、空孔を主体とする格子欠陥が形成されている。空孔に隣接する原子は、ダングリング・ボンドを有する。格子欠陥には格子間原子や転位等も含まれ、広義ではドナーやアクセプタも含まれ得るが、本明細書では空孔を主体とする格子欠陥を空孔型格子欠陥、空孔型欠陥、あるいは単に格子欠陥と称する場合がある。本明細書では、空孔を主体とする格子欠陥の濃度を、空孔濃度と称する場合がある。また、半導体基板10への過電粒子注入により、格子欠陥が多く形成されることで、半導体基板10の結晶性が強く乱れることがある。本明細書では、この結晶性の乱れをディスオーダーと称する場合がある。
通過領域形成工程S2101の後に、注入工程S2103を行う。通過領域形成工程S2101と注入工程S2103の間に、半導体基板10をアニールするアニール工程S2102を行ってもよい。
注入工程S2103は、図16において説明したS1601からS1604の工程を含む。上述したように、注入工程S2103においては、バッファ領域20の少なくとも一つの深さ位置に対して、水素イオンを注入する。このため、バッファ領域20には水素が含まれる。
注入工程S2103の後に、水素拡散工程S2104を行う。水素拡散工程S2104においては、半導体基板10をアニールすることで、バッファ領域20の水素を通過領域に拡散させる。水素拡散工程S2104のアニール温度は、アニール工程S2102におけるアニール温度以下であってよい。
半導体基板10の全体には酸素が含まれる。当該酸素は、半導体のインゴットの製造時において、意図的にまたは意図せずに導入される。半導体基板10の内部では、水素(H)、空孔(V)および酸素(O)が結合し、VOH欠陥が形成される。また、通過領域を形成した後に水素を拡散させることで、通過領域の格子欠陥と水素が結合し、VOH欠陥の形成が促進される。VOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を単に水素ドナーと称する場合がある。
本例の半導体基板10には、水素イオンの通過領域に水素ドナーが形成される。通過領域の水素ドナーは、通過領域に形成された空孔型格子欠陥のダングリング・ボンドを水素が終端し、さらに酸素と結合して形成される。そのため、通過領域の水素ドナーのドーピング濃度分布は、空孔濃度分布に従ってよい。通過領域における水素化学濃度は、通過領域に形成される空孔濃度の10倍以上であってよく、100倍以上であってよい。通過領域の水素は、水素イオンの通過後に残留する水素であってよく、後述する水素供給源から拡散した水素であってよい。水素ドナーのドーピング濃度は、水素の化学濃度よりも低い。水素の化学濃度に対する水素ドナーのドーピング濃度の割合を活性化率とすると、活性化率は0.1%~30%の値であってよい。本例では、活性化率は1%~5%である。
半導体基板10の通過領域に水素ドナーを形成することで、通過領域におけるドナー濃度を、バルク・ドナー濃度よりも高くできる。通常は、半導体基板10に形成すべき素子の特性、特に定格電圧または耐圧に対応させて、所定のバルク・ドナー濃度を有する半導体基板10を準備しなければならない。この場合、図4Aにおいて説明したように、ドリフト領域18のドーピング濃度は、バルク・ドナー濃度とほぼ等しい。これに対して、図21に示した半導体装置100によれば、荷電粒子または水素イオンのドーズ量を制御することで、半導体基板10のドナー濃度を調整できる。このため、素子の特性等に対応していないバルク・ドナー濃度の半導体基板を用いて、所定のドーピング濃度のドリフト領域18を有する半導体装置100を製造できる。半導体基板10の製造時におけるバルク・ドナー濃度のバラツキは比較的に大きいが、水素イオンのドーズ量は比較的に高精度に制御できる。このため、水素イオンを注入することで生じる格子欠陥の濃度も高精度に制御でき、通過領域のドナー濃度を高精度に制御できる。
なお、図21の例では、通過領域形成工程S2101の後に注入工程S2103を行った。他の例では、注入工程S2103と、水素拡散工程S2104との間に、通過領域形成工程S2101を行ってもよい。
図22は、図21に示した半導体装置100の、ドーピング濃度分布および水素化学濃度分布の一例を示す図である。図22においては、図3に示したF-F線と対応する位置の濃度分布を示している。本例では、通過領域形成工程S2101において、半導体基板10の厚みより大きい飛程で、荷電粒子を半導体基板10に注入している。つまり、荷電粒子の大部分は、半導体基板10を貫通する。
上述したように、半導体基板10の内部において荷電粒子が通過した領域には、格子欠陥が形成される。本例では、半導体基板10の全体が通過領域である。そして、水素拡散工程S2104においてバッファ領域20から拡散した水素が、格子欠陥と結合してVOH欠陥を形成する。このため、通過領域におけるドーピング濃度は、バルク・ドナー濃度D0よりも高くなる。
また、水素化学濃度は、バッファ領域20から上面21に向かって、単調に減少してよく、平坦でよく、単調に増加してもよい。例えば、通過領域形成工程S2101において荷電粒子として水素イオンを注入した場合、水素化学濃度は、バッファ領域20から上面21に向かって単調に増加してよい。ドーピング濃度は、バッファ領域20から上面21に向かって単調に減少してよく、平坦でよく、単調に増加してもよい。
(第3実施例)
図23は、e-e断面の他の例を示す図である。本例の半導体装置100は、バッファ領域20が複数のドーピング濃度ピーク25と、複数の下面側ライフタイムキラー220とを有する点で、図1から図22において説明した各例と相違する。複数のドーピング濃度ピーク25の構造および形成方法は、図14から図22において説明した第2実施例と同一である。また、複数の下面側ライフタイムキラー220の構造および形成方法は、図1から図13において説明した第1実施例と同様である。バッファ領域20は、図1から図13において説明した第1実施例と同様に、複数の下面側ライフタイムキラー220と対応する複数のヘリウム化学濃度ピーク221を有する。バッファ領域20以外の構造は、図1から図22において説明したいずれかの例と同一である。
図24は、図23に示したバッファ領域20の形成方法の一例を示す図である。本例では、まず注入工程S2401において、バッファ領域20の複数の深さ位置に水素イオン等のドーパントを注入する。注入工程S2401は、図16において説明したS1601からS1604の工程を含む。
次に、第1アニール工程S2402において、半導体基板10をアニールする。これにより、バッファ領域20に複数のドーピング濃度ピーク25を形成できる。
次に、ヘリウム注入工程S2403において、下面23からバッファ領域20の異なる深さ位置にヘリウムイオンを注入する。ヘリウム注入工程S2403においては、下面23からの距離が近い深さ位置から順番にヘリウムイオンを注入してよい。他の例では、異なる順番でヘリウムイオンを注入してもよい。ヘリウム注入工程S2403においては、下面23からの距離が遠い深さ位置から順番にヘリウムイオンを注入してもよい。ヘリウム化学濃度ピーク221が局所的に欠落した場合でも、図17に示したような、コレクタ領域22の突出部は形成されない。また、ヘリウム注入工程S2403よりも前に注入工程S2401を行うことで、ヘリウム注入工程S2403で注入面に付着した異物に、注入工程S2401のドーパントが遮蔽されるのを防ぐことができる。
ヘリウム注入工程S2403の後に、半導体基板10をアニールする第2アニール工程S2404を行ってよい。これにより、ヘリウム注入工程S2403で発生した過剰な格子欠陥等を水素で終端できる。第2アニール工程S2404のアニール温度は、第1アニール工程S2402のアニール温度より低くてもよい。
本例では、注入工程S2401よりも後にヘリウム注入工程S2403を行っている。他の例では、ヘリウム注入工程S2403よりも後に、注入工程S2401を行ってもよい。各注入工程の後には、アニール工程を行うことが好ましい。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。