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JP7513946B1 - 溶接継手 - Google Patents

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JP7513946B1
JP7513946B1 JP2024522409A JP2024522409A JP7513946B1 JP 7513946 B1 JP7513946 B1 JP 7513946B1 JP 2024522409 A JP2024522409 A JP 2024522409A JP 2024522409 A JP2024522409 A JP 2024522409A JP 7513946 B1 JP7513946 B1 JP 7513946B1
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美奈江 西角
卓哉 光延
将明 浦中
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Abstract

【課題】亜鉛めっき鋼板を素材とした重ね隅肉溶接による溶接継手において、溶接重ね部の耐食性を更に向上させること。【解決手段】本発明は、平面視において延伸方向を長手とする溶接ビード部に接続された第1鋼板と第2鋼板とを有する溶接継手に関するものであり、溶接重ね部には、継手の隙間が存在しており、第1鋼板及び第2鋼板のそれぞれにおいて、少なくとも表面が対向している側の面は、地鉄と、地鉄上のめっき層と、を有しており、延伸方向に直交する方向で切断した断面視にて、延伸方向及び第2の鋼板の表面に対する法線方向に直交する方向における、溶接ビード部に最も近い、めっき層の厚みが1μm未満の領域の、溶接ビード部から遠い側の端部と、溶接重ね部の先端部と、の距離は、1000μm以下である。【選択図】図4

Description

本発明は、溶接継手に関する。
自動車の足回り部材をはじめとする自動車部材や各種の建材部材は、複数の鋼材を溶接した溶接継手を用いて製造されることが多い。これら自動車部材及び建材部材は、様々な環境に曝露された上で使用されることから、製造された溶接継手は、優れた耐食性を有していることが望まれる。そこで、かかる溶接継手の素材として、合金化溶融亜鉛めっき鋼板等をはじめとする各種の亜鉛系めっき鋼板が用いられている。
ここで、亜鉛めっき鋼板を溶接して溶接継手を製造する場合に以下の特有な問題がある。JIS Z3001(2018)で規定される「止端」の近傍における、溶接時のめっき中のZn蒸発の結果形成されるブローホールに起因する、溶接継手の機械的特性の低下が懸念される。更に、めっき中のZn蒸発は犠牲防食層が損なわれるため、耐食性についても低下することとなる。
上記のようなブローホール形成の問題を解決するために、従来、様々な提案がなされている。例えば以下の特許文献1では、鋼板と、鋼板の表面に配され、Zn-Al-Mg合金層を含むめっき層と、を有し、Zn-Al-Mg合金層の断面において、MnZn相の面積分率が45~75%、MgZn相及びAl相の合計の面積分率が70%以上、かつ、Zn-Al-MgZn三元共晶組織の面積分率が0~5%であり、めっき層が所定の化学組成を有するめっき鋼材が提案されている。
国際公開第2018/139620号
ここで、上記特許文献1で提案されているめっき鋼材を用いることで、ブローホール形成の問題を解決することは可能である。ここで、本発明者らが鋭意検討した結果、亜鉛めっき鋼板を溶接することで得られた溶接継手において、耐食性が期待される部位として、上記特許文献1で検討されているような止端の近傍部以外に、重ね隅肉溶接された溶接継手における、鋼板が互いに重ね合わされた部位(以下、溶接重ね部ともいう。)がある。
上記のような溶接重ね部における耐食性について、上記特許文献1では言及されておらず、亜鉛めっき鋼板を素材とした重ね隅肉溶接による溶接継手における、溶接重ね部の耐食性に関して、改善の余地が望まれる。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、亜鉛めっき鋼板を素材とした重ね隅肉溶接による溶接継手において、溶接重ね部の耐食性を更に向上させることが可能な、溶接継手を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、溶接重ね部におけるめっき層の存在状態を制御することで、溶接重ね部での耐食性の更なる向上が実現可能となることを見出した。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)平面視において延伸方向を長手とする溶接ビード部に接続された第1鋼板及び第2鋼板を有しており、前記第1鋼板及び前記第2鋼板は、前記溶接ビード部の周囲に位置する熱影響部と、溶接による熱影響が無い非熱影響部と、を有し、前記第1鋼板の表面と前記第2鋼板の表面とが対向する部位である溶接重ね部には、前記第1鋼板と前記第2鋼板との間に存在する隙間である、継手の隙間が存在しており、前記第1鋼板及び前記第2鋼板のそれぞれにおいて、少なくとも表面が対向している側の面は、地鉄と、前記地鉄上のめっき層と、を有しており、前記めっき層は、質量%で、Al:10.00~70.00%、Mg:3.00~20.00%、Fe:0.01~15.00%を含有し、選択的に、下記元素群A、元素群B、元素群C、元素群D、元素群E、元素群F、及び、元素群Gからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有し、残部が、5.00質量%以上のZnと、不純物とからなる化学組成を有するめっき層であり、前記溶接重ね部を、前記溶接ビード部の延伸方向からみたときに、前記延伸方向に対して直交する方向に沿って、前記継手の隙間の中心軸を前記溶接ビード部に向かって仮想的に延長し、前記中心軸上における前記溶接ビード部の端部との交点を、前記溶接重ね部の先端部と定義し、前記延伸方向に直交する方向で切断した断面視にて、前記延伸方向及び前記第2の鋼板の表面に対する法線方向に直交する方向における、前記溶接ビード部に最も近い、前記めっき層の厚みが1μm未満の領域の、前記溶接ビード部から遠い側の端部と、前記溶接重ね部の先端部と、の距離は、1000μm以下である、溶接継手。
[元素群A]:Si:0%超10.00%以下、及び、Ca:0%超4.00%以下からなる群より選択される1種又は2種
[元素群B]:Sb:0%超0.5000%以下、Pb:0%超0.5000%以下、及び、Sr:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群C]:Cu:0%超1.0000%以下、Ti:0%超1.0000%以下、Cr:0%超1.0000%以下、Nb:0%超1.0000%以下、Ni:0%超1.0000%以下、Mn:0%超1.0000%以下、Mo:0%超1.0000%以下、Co:0%超1.0000%以下、及び、V:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群D]:Sn:0%超1.0000%以下、In:0%超1.0000%以下、及び、Bi:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群E]:Zr:0%超1.0000%以下、Ag:0%超1.0000%以下、及び、Li:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群F]:La:0%超0.5000%以下、Ce:0%超0.5000%以下、及び、Y:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群G]:B:0%超0.5000%以下
(2)前記元素群Aを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(3)前記元素群Bを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(4)前記元素群Cを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(5)前記元素群Dを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(6)前記元素群Eを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(7)前記元素群Fを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(8)前記元素群Gを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(9)前記めっき層は、Al:18.00~50.00質量%、Mg:6.00~15.00質量%含有し、かつ、元素群Aとして、Ca:0.05~4.00質量%含有する、(1)~(8)の何れか1つに記載の溶接継手。
(10)前記非熱影響部の前記地鉄における、グロー放電発光分光法による炭素分布に関する深さプロファイルに基づき算出されるC濃度について、当該C濃度が0.05質量%以下となる深さが、前記地鉄と前記めっき層との界面から10μm以上である、(1)~(8)の何れか1つに記載の溶接継手。
(11)前記非熱影響部の前記地鉄における、グロー放電発光分光法による炭素分布に関する深さプロファイルに基づき算出されるC濃度について、当該C濃度が0.05質量%以下となる深さが、前記地鉄と前記めっき層との界面から10μm以上である、(9)に記載の溶接継手。
(12)前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかの引張強度は、780MPa以上である、(1)~(8)の何れか1つに記載の溶接継手。
(13)前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかの引張強度は、780MPa以上である、(9)に記載の溶接継手。
(14)前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかの引張強度は、780MPa以上である、(10)に記載の溶接継手。
(15)前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかの引張強度は、780MPa以上である、(11)に記載の溶接継手。
(16)前記距離は、500μm以下である、(1)に記載の溶接継手。
(17)前記距離は、100μm以下である、(1)に記載の溶接継手。
以上説明したように本発明によれば、亜鉛めっき鋼板を素材とした重ね隅肉溶接による溶接継手において、溶接重ね部の耐食性を更に向上させることが可能となる。
本発明の実施形態に係る溶接継手の構造の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る溶接継手について説明するための説明図である。 同実施形態に係る溶接継手における溶接重ね部について説明するための説明図である。 同実施形態に係る溶接継手における溶接重ね部について説明するための説明図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(溶接継手について)
まず、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る溶接継手の全体的な構成について説明する。図1は、本実施形態に係る溶接継手の構造の一例を模式的に示した説明図である。
なお、以下では、便宜的に、図1に示したような座標系を用いて、適宜説明を行うものとする。図1では、2つの鋼板をアーク溶接により溶接した溶接継手を例に挙げて図示を行っている。
図1は、第1鋼板と、第2鋼板と、をアーク溶接又はレーザー溶接により重ね隅肉溶接することで得られた溶接継手の全体的な構成を、模式的に示したものであり、溶接ビード部の延伸方向に対して垂直な溶接継手の断面を示している。図1に模式的に示したように、本実施形態に係る溶接継手1は、第1鋼板10と、第2鋼板20と、溶接ビード部30とを有している。また、第1鋼板10および第2鋼板20のうち溶接ビード部30近傍には、熱影響部40が形成されている。図1に示したように、以下では、第2鋼板20の表面に対する法線方向をZ軸方向とし、溶接ビード部30の延伸方向をY軸方向とし、Z軸方向及びY軸方向に直交する方向をX軸方向とする。
ここで、溶接継手1を構成する第1鋼板10及び第2鋼板20の素材となる鋼板(以下、「素材鋼板」とも称する。)として、以下で詳述するようなめっき層を有する亜鉛系めっき鋼板を用いることが好ましい。この際に、かかる素材鋼板において、少なくとも、Z軸方向において第1鋼板10となる側の素材鋼板の表面と、第2鋼板20となる側の素材鋼板の表面とが対向する領域には、以下で詳述するようなめっき層が設けられている。
また、溶接ビード部30は、アーク溶接又はレーザー溶接によって形成された部位であり、溶接の際に必要に応じて用いられる溶接ワイヤと、素材鋼板との間で、構成元素の相互拡散が生じる。図1では、溶接ビード部30と、第1鋼板10又は第2鋼板20と、の接合界面は、図示の便宜上、滑らかな曲線や直線として示されているが、実際の接合界面は、溶接中の溶融金属がアークプラズマ等によって揺動することにより、複雑な曲面となっている。また、かかる溶接ビード部30は、図中のY軸方向に沿って延伸しており、かかる溶接ビード部30によって、第1鋼板10と第2鋼板20とが接合されている。
なお、かかる溶接ビード部30を構成する成分は、用いられる溶接ワイヤの種別や、素材鋼板の化学組成等に応じて変化するため、全ての可能性を網羅するような成分を一義的に定めることは困難である。しかしながら、2つの素材鋼板を重ね合わせた部位である重ね合わせ部(lap)において、素材鋼板上にめっき層が存在している場合、かかる溶接ビード部30は、少なくとも重ね合わせ部に存在しためっき層を構成する各種元素のうち、「酸化されやすい元素」の酸化物を主成分とする(「酸化されやすい元素」の酸化物の含有量が50質量%以上となる)ことが一般的である。このような酸化されやすい元素としては、例えば、AlやMgやSi等を挙げることができる。
また、着目する溶接継手1における溶接ビード部30に該当する部位を特定する場合、エッチング液を用いた、溶接ビード部30、熱影響部40、及び、非熱影響部が含まれる溶接継手1の断面のエッチング処理により、容易に可視化することができる。例えば、エッチング液としては、ナイタール(配合:エタノール95%、硫酸5%)や、水2400ccに対し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム60gとピクリン酸36gとエタノール60ccと家庭用洗剤液(例えば、食器用洗剤等の一般的なもの)60ccとを混合したエッチング液等を用いることが可能である。
なお、溶接時に生成する酸化物は、スケールとスラグの2種類に大別される。溶接時に、溶接ビード部30の表面に生成する酸化物であるスケールは、酸素を除外したときの質量%で、50%以上のFeを含有し、残部が、酸化されやすい元素及び不純物からなるものである。また、スラグは、酸素を除外したときの質量%で、酸化されやすい元素を50%以上含有し、残部が、50質量%未満のFeと不純物からなるものである。ここで、「酸化されやすい元素」の具体例として、Ca、Mg、In、Bi、Cr、Zr、Li、La、Ce、Sr、Y、Si、Mn、Al、Tiが挙げられる。
なお、上記のスケールとスラグとは、電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)が設けられた走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)による成分分析を実施することで、容易に判別が可能である。より詳細には、スケール又はスラグと思われる部位の断面を、EPMAの点分析に供し、上記の「酸化されやすい元素」と、Feのどちらの含有量が50質量%以上となっているかに応じて、判断する。Feの含有量が50質量%以上となっていれば、着目する部位はスラグであると判断でき、「酸化されやすい元素」の含有量が50質量%以上となっていれば、着目する部位はスケールであると判断できる。
ここで、JIS Z3001(2018)において、「地鉄の表面と溶接ビードの表面とが交わる点」は、「止端」と規定されている。図1に示したような溶接継手1においては、溶接ビード部30の表面と、第1鋼板10又は第2鋼板20における地鉄又は熱影響部の表面と、が交わる点が、かかる「止端」に対応している。本実施形態に係る溶接継手1は、かかる止端Tの近傍部における耐食性に着目したものとなっている。
また、アーク溶接やレーザー溶接による入熱は、通常、溶接継手1のある一方の側から行われることが一般的である。アーク溶接やレーザー溶接の入熱側には、母材となる鋼板の表面に溶接ビード部30が露出し、溶接による入熱が伝播していく方向ほど、溶接ビードの幅は狭まっていく。そのため、表面に露出している溶接ビード部30の有無や、溶接ビードが示す形状に着目することで、アーク溶接時やレーザー溶接時の入熱方向を特定することができる。なお、上記の「溶接ビード部30が露出」した態様には、溶接ビード部30上に形成されたスケールが露出した態様が含まれる。
また、本実施形態において、上記のようなアーク溶接又はレーザー溶接の入熱側に位置している鋼板を第1鋼板10とし、アーク溶接又はレーザー溶接の入熱側とは反対側に位置している鋼板を第2鋼板20とする。
図1に模式的に示したたように、溶接ビード部30の周囲には、熱影響部40が形成されている。この熱影響部40は、アーク溶接やレーザー溶接による素材鋼板への入熱の結果、素材鋼板の金属組織が変質することで生じる。かかる熱影響部40の大きさは、アーク溶接又はレーザー溶接の際の入熱量に依存し、入熱量が高いほど、熱影響部40の範囲も大きくなることが一般的である。また、素材鋼板の金属組織が変質することにより、素材鋼板の変質しなかった部位とは、目視したときの様子(見た目)が相違するようになるため、熱影響部40を容易に見分けることができる。
また、本実施形態に係る溶接継手1において、Z軸方向において第1鋼板10の表面と第2鋼板20の表面とが対向する領域(より詳細には、第1鋼板10の表面と第2鋼板20の表面とが対向する領域のうち、溶接ビード部30及び熱影響部40以外の部位)を、「溶接重ね部50」と称することとする。この溶接重ね部50については、以下で改めて説明する。
<非熱影響部について>
続いて、本実施形態に係る溶接継手1のうち、溶接による熱影響が無い部位の構成について、詳細に説明する。
以下の説明において、溶接継手1のうち溶接による熱影響が無い部位(換言すれば、溶接ビード部30及び熱影響部40ではない部位)を、「非熱影響部」と称することとする。図1に示したような溶接継手1では、止端Tを起点として、溶接ビード部30の延伸方向(図1におけるY軸方向)に対して直交し、かつ、溶接ビード部30から離れる方向(図1におけるX軸方向)に、非熱影響部が存在していると考えることができる。例えば、図1において破線で囲った領域R1、R1’は、溶接ビード部30からある程度離隔した位置(例えば、X軸方向に止端Tから溶接ビード部30の反対側に向かって5mm以上離れた位置)に存在していることから、明らかに非熱影響部と考えることができる。
図2は、非熱影響部R1、R1’における板厚方向に平行な断面の一部を模式的に示す図である。第1鋼板10又は第2鋼板20の少なくとも何れかにおける非熱影響部R1、R1’は、図2に模式的に示したように、地鉄101と、地鉄101の表面の少なくとも一部に位置するめっき層103とを有している。なお、本実施形態に係る溶接継手1の非熱影響部R1において、めっき層103は、地鉄101の両方の表面上に存在している。
以下では、非熱影響部が有している地鉄101、及び、めっき層103について、詳細に説明する。
≪地鉄101について≫
本実施形態に係る溶接継手1において、素材鋼板の基材に対応する地鉄101の寸法、成分、組織、機械的特性は、特に限定されるものではない。例えば、溶接継手1に求められる機械的強度(例えば、引張強度)等に応じて、各種の鋼板が地鉄101として用いられ得る。このような鋼板として、例えば、各種のAlキルド鋼、Ti、Nb等を含有させた極低炭素鋼、極低炭素鋼にP、Si、Mn等の強化元素を更に含有させた高強度鋼、その他各種の成分(Cr、N、Cu、B、Ni、Mg、Ca、V、Co、Zn、As、Y、Zr、Mo、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi、REM等)を含有した種々の鋼板等を挙げることができる。
上記のような高強度鋼の中でも、例えば、引張強度が780MPa以上である高強度鋼(いわゆる、780MPa級以上の高強度鋼)を用いることで、溶接継手1としての堅牢性をより向上させることが可能となるため、好ましい。ここで、地鉄101の引張強度は、公知の方法で測定することができる。一例として、引張強度を測定したい溶接継手1の非熱影響部の地鉄101に対応する部位から、JIS Z 2241(2011)に規定されている試験片のうち、溶接継手1から採取可能な大きさの試験片を作製し、得られた試験片につきJIS Z 2241(2011)に規定されている方法で引張強度を測定すればよい。
また、地鉄101の厚みについては、特に限定されるものではなく、溶接継手1に求められる機械的強度等に応じて、適宜設定される。
≪めっき層103について≫
めっき層103は、図2に模式的に示したように、例えば、非熱影響部における地鉄101上に設けられている。かかるめっき層103は、溶接継手1の素材としてのめっき鋼板が有しているめっき層に由来している。
以下では、まず、かかるめっき層103の化学組成について、詳細に説明する。
◇めっき層103の化学組成について
本実施形態に係るめっき層103の化学組成は、ある態様によれば、質量%で、Al:10.00~70.00%、Mg:3.00~20.00%、Fe:0.01~15.00を含有し、残部が、5.0000質量%以上のZnと、不純物とからなる化学組成を有する。つまり、本実施形態に係るめっき層103の化学組成において、Al、Mg、Feの含有量が上記の範囲内で、かつ、これら含有量の合計が95.0000質量%以下であり、残部は、5.0000質量%以上のZnと、不純物である。
また、本実施形態に係るめっき層103の化学組成は、別の態様によれば、質量%で、Al:10.00~70.00%、Mg:3.00~20.00%、Fe:0.01~15.0000%を含有し、更に、下記元素群A、元素群B、元素群C、元素群D、元素群E、元素群F、及び、元素群Gからなる群より選択される1種又は2種以上を含有し、残部が、5.0000質量%以上のZn及び不純物からなる化学組成を有する。つまり、本実施形態に係るめっき層103の化学組成において、Al、Mg、Feの含有量が上記の範囲内で、かつ、これらAl、Mg、Fe、元素群A~元素群Gの含有量の合計が95.0000質量%以下であり、残部は、5.00質量%以上のZnと不純物である。
[元素群A]:Si:0%超10.00%以下、及び、Ca:0%超4.00%以下からなる群より選択される1種又は2種
[元素群B]:Sb:0%超0.5000%以下、Pb:0%超0.5000%以下、及び、Sr:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群C]:Cu:0%超1.0000%以下、Ti:0%超1.0000%以下、Cr:0%超1.0000%以下、Nb:0%超1.0000%以下、Ni:0%超1.0000%以下、Mn:0%超1.0000%以下、Mo:0%超1.0000%以下、Co:0%超1.0000%以下、及び、V:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群D]:Sn:0%超1.0000%以下、In:0%超1.0000%以下、及び、Bi:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群E]:Zr:0%超1.0000%以下、Ag:0%超1.0000%以下、及び、Li:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群F]:La:0%超0.5000%以下、Ce:0%超0.5000%以下、及び、Y:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群G]:B:0%超0.5000%以下
このように、本実施形態に係る第1めっき層103は、質量%で、Al:10.00~70.00%、Mg:3.00~20.00%、Fe:0.01~15.00%を含有し、選択的に、元素群A、元素群B、元素群C、元素群D、元素群E、元素群F、及び、元素群Gからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有し、残部が、5.0000質量%以上のZnと、不純物とからなる化学組成を有するめっき層である。
[Al:10.00~70.00質量%]
Alは、本実施形態に係るめっき層103の主たる金属組織(Zn-Al-Mg系金属組織)を構成するために必要な元素であり、めっき鋼板として、熱影響部となる部位の耐食性、及び、非熱影響部となる部位の耐食性を確保するうえで、一定以上含有される。めっき層103におけるAl含有量が10.00質量%未満である場合には、上記のような熱影響部及び非熱影響部となる部位の耐食性を担保することができない。これは、Al含有量が不足すると、溶接時のめっき層と地鉄との合金化反応を制御することが不可能となり、結果として腐食しやすいη―Zn相の形成量が増加するためである。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、Al含有量は、10.00質量%以上である。Al含有量は、好ましくは18.00質量%以上であり、より好ましくは30.00質量%以上である。Al含有量が、上記のような範囲となることで、めっき鋼板としての耐食性を担保することが可能となる。
一方、めっき層103におけるAl含有量が70.00質量%超となる場合には、腐食環境に置かれた場合にカソードとして機能するAl相が過剰に増加することで耐食性に優れるMg-Zn相の形成量が相対的に減少することで犠牲防食性が低下し、地鉄の腐食が進行しやすくなるため、めっき鋼板としての耐食性を担保することができない。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、Al含有量は、70.00質量%以下である。Al含有量は、好ましくは50.00質量%以下であり、より好ましくは48.00質量%以下である。
[Mg:3.00~20.00質量%]
Mgは、耐食性向上元素であるとともに、本実施形態に係るめっき層103の主たる金属組織(Zn-Al-Mg系金属組織)を構成するために必要な元素であり、めっき鋼板として、熱影響部となる部位の耐食性、及び、非熱影響部となる部位の耐食性を確保するうえで、一定以上含有される。そのため、溶接部においても十分な耐食性を得るために、本実施形態に係るめっき層103において、Mg含有量は、3.00質量%以上である。Mg含有量は、好ましくは6.00質量%以上であり、より好ましくは9.00質量%以上である。Mg含有量が、上記のような範囲となることで、めっき鋼板としての耐食性を担保することが可能となる。
一方、めっき層103におけるMg含有量が20.00質量%超となる場合には、腐食環境に置かれた場合にめっき層のアノード溶解が進みやすくなるため、めっき鋼板としての耐食性を担保することができない。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、Mg含有量は、20.00質量%以下である。Mg含有量は、好ましくは15.00質量%以下であり、より好ましくは13.00質量%以下である。Mg含有量が、上記のような範囲となることで、めっき鋼板としての耐食性を担保することが可能となる。
[Fe:0.01~15.00質量%]
めっき層103には、基材である地鉄101から、鋼板を構成する元素が混入することがある。特に、溶融めっき法では、地鉄101とめっき層103との間での固液反応による元素の相互拡散によって、地鉄101を構成する元素がめっき層103へ混入し易くなる。このような元素の混入により、めっき層103中には、一定量のFeが含有され、その含有量は、0.01質量%以上となることが一般的である。上記相互拡散が促進されれば、地鉄101とめっき層103との密着性が向上する。地鉄101とめっき層103との密着性の向上という観点からは、めっき層103中のFe含有量は、0.20質量%以上であることが好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲内で、めっき層103を製造する際に用いられるめっき浴中に意図的にFeを添加してもよい。ただし、めっき浴中のFe含有量が高まると、めっき浴中にFeとAlの高融点な金属間化合物が形成し、かかる高融点の金属間化合物がドロスとしてめっき層103に付着して外観品位を著しく低下させる傾向があるため、好ましくない。かかる観点から、めっき浴中のFe含有量が調整されることにより、めっき層103中のFe含有量は、15.00質量%以下である。めっき層103中のFe含有量は、より好ましくは10.00質量%以下である。
めっき層103において、上記Al、Mg、Feの残部は、5.0000質量%以上のZnと、不純物である。
Znは、本実施形態に係るめっき層103の主たる金属組織(Zn-Al-Mg系金属組織)を構成するために必要な元素であり、めっき鋼板の耐食性を向上させるために重要な元素である。また、めっき層103が上記Al、Mg、Feを上記の範囲内で含有し、更に、5.00質量%以上のZnを含有することで、めっき鋼板に求められる耐食性を確保することが可能となる。
続いて、本実施形態の別の態様に係るめっき層103の化学組成が選択的に有しうる、元素群A~元素群Eについて、詳細に説明する。
なお、本実施形態に係るめっき層103において、下記元素群B~元素群Eに属する元素の少なくとも何れかを含有させる場合には、下記元素群B~元素群Eに属する元素の少なくとも何れかを、下記の含有量の範囲内、かつ、合計含有量が5.0000質量%以下で含有することが好ましい。
元素群B~元素群Eに属する元素の合計含有量を5.0000質量%以下とすることで、以下で詳述するような、各元素の添加により発現される効果を、互いに損なうことなく享受することが可能となる。元素群B~元素群Eに属する元素の合計含有量は、好ましくは1.00質量%以下であり、より好ましくは0.2000質量%以下である。
また、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103は、化学組成として、Mgを9.00質量%以上15.00質量%以下で含有し、かつ、元素群Aとして、Caを0.05質量%以上4.00質量%以下含有することが、より好ましい。めっき層103がこのような化学組成を有することで、より優れた耐食性を発現することが可能となる。
◇元素群A
本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Aについて説明する。以下に示す元素群Aの少なくとも何れかの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群A]:Si:0%超10.00%以下、及び、Ca:0%超4.00%以下からなる群より選択される1種又は2種
[Si:0~10.00質量%]
本実施形態に係るめっき層103においてSiを含有しない場合も考えうるため、その含有量の下限は、0質量%である。一方、Siは、めっき層103と地鉄101の界面に形成するFe-Al系金属組織の過剰な成長を抑制し、めっき層と地鉄の密着性を更に向上させることが可能な元素である。めっき層103中にSiを含有させる場合、Fe-Al系金属組織の過剰な成長を抑制するために、Siの含有量は、0.05質量%以上が好ましく、0.20質量%以上がより好ましい。
一方、Siの含有量が10.00質量%を超える場合には、SiがMgと高融点化の金属間化合物を過剰に形成し、Zn蒸発抑制効果を有するAl-Mg酸化物の形成を阻害する可能性があるため、かかるめっき鋼板を溶接した際のZn蒸発を抑制することが困難となる。そのため、めっき層103中のSiの含有量は、10.00質量%以下であることが好ましい。また、めっき層103を製造するためのめっき浴中のSi含有量が多すぎる場合、めっき浴の粘性が必要以上に増加して、めっき鋼板の製造時の操業性(以下、「めっき操業性」と称する。)が低下する可能性がある。そのため、めっき操業性の観点からめっき浴中のSi含有量が調整されることにより、めっき層103中のSi含有量は、好ましくは5.00質量%以下であり、より好ましくは2.00質量%以下である。
[Ca:0~4.00質量%]
本実施形態に係るめっき層103においてCaを含有しない場合も考えうるため、その含有量の下限は、0質量%である。一方、Caは、めっき層103中に含有されると、Al及びZnと金属間化合物を形成する。更に、めっき層103中にCaと共にSiが含有される場合、CaはSiと金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、融点が高く、安定な構造であるため、めっき鋼板の溶接時の液体金属脆化割れ(Liquid Metal Embrittlement:LME)を更に抑制することが可能となる。めっき層103中にCaを含有させる場合、かかる溶接時のLMEの抑制効果は、Ca含有量を0.01質量%以上とすることで発現される。めっき層103中におけるCa含有量は、より好ましくは0.05質量%以上である。
一方、めっき層103中のCa含有量が4.00質量%を超える場合には、めっき鋼板の耐食性が低下する可能性がある。かかる観点から、めっき層103中のCa含有量は、4.00質量%以下である。めっき層103中のCa含有量は、好ましくは2.50質量%以下であり、より好ましくは1.50質量%以下である。
◇元素群B
続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Bについて説明する。以下に示す元素群Bの少なくとも何れかの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群B]:Sb:0%超0.5000%以下、Pb:0%超0.5000%以下、及び、Sr:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[Sb:0~0.5000質量%]
[Pb:0~0.5000質量%]
[Sr:0~0.5000質量%]
本実施形態に係るめっき層103においてSb、Pb、Srを含有しない場合も考えうるため、これら元素の含有量の下限は、0質量%である。一方、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されると、めっき層103の表面にスパングルが形成されて、金属光沢の向上を図ることが可能となる。そのため、めっき鋼板の更なる意匠性向上という観点から、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されることが好ましい。かかる意匠性向上効果は、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかの含有量が0.0500質量%以上となった場合に発現される。そのため、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかをめっき層103に含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.0500質量%以上とされることが好ましい。
一方、Sb、Pb、Srの含有量の何れかが0.5000質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103を形成するために用いるめっき浴中のドロス生成量が多くなり、めっき性状の良好なめっき鋼板を製造できない。そのため、めっき層103中のSb、Pb、Srの含有量は、それぞれ独立に、0.5000質量%以下である。Sb、Pb、Srの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.2000質量%以下である。
◇元素群C
続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Cについて説明する。以下に示す元素群Cの少なくとも何れかの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群C]:Cu:0%超1.0000%以下、Ti:0%超1.0000%以下、Cr:0%超1.0000%以下、Nb:0%超1.0000%以下、Ni:0%超1.0000%以下、Mn:0%超1.0000%以下、Mo:0%超1.0000%以下、Co:0%超1.0000%以下、及び、V:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[Cu:0~1.0000質量%]
[Ti:0~1.0000質量%]
[Cr:0~1.0000質量%]
[Nb:0~1.0000質量%]
[Ni:0~1.0000質量%]
[Mn:0~1.0000質量%]
[Co:0~1.0000質量%]
[V :0~1.0000質量%]
本実施形態に係るめっき層103においてCu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vを含有しない場合も考えうるため、これら元素の含有量の下限は、0質量%である。一方、Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されると、かかるめっき鋼板を溶接した際に、これら元素が、溶接によって生成されるFe-Al系金属組織に取り込まれ、形成される溶接部の耐食性を更に向上させることが可能となる。かかる溶接部耐食性の向上効果は、めっき層103中のCu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの少なくとも何れかの含有量が0.0050質量%以上となった場合に発現される。そのため、Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの少なくとも何れかをめっき層103中に含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.0050質量%以上とされることが好ましい。
一方、Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの含有量の何れかが1.0000質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103を形成するためのめっき浴中でこれら元素が様々な金属間化合物を形成し、めっき浴の粘性の上昇を招いて、めっき性状の良好なめっき鋼板を製造できない。よって、めっき層103中のCu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの含有量は、それぞれ独立に、1.0000質量%以下とされる。Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.20質量%以下である。
[Mo:0~1.0000質量%]
本実施形態に係るめっき層103においてMoを含有しない場合も考えうるため、その含有量の下限は、0質量%である。一方、Moがめっき層103中に含有されると、耐食性を向上させることが可能となる。かかる耐食性の向上効果は、Moの含有量が0.0100質量%以上となった場合に発現される。そのため、Moを含有させる場合には、その含有量は、0.0100質量%以上とすることが好ましい。
一方、Moの含有量が1.0000質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、用いるめっき浴中に多量のドロスが発生する原因となるため、好ましくない。そのため、Moの含有量は、1.0000質量%以下である。Moの含有量は、好ましくは0.0500質量%以下である。
◇元素群D
続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Dについて説明する。以下に示す元素群Dの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群D]:Sn:0%超1.0000%以下、In:0%超1.0000%以下、及び、Bi:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[Sn:0~1.0000質量%]
[In:0~1.0000質量%]
[Bi :0~1.0000質量%]
本実施形態に係るめっき層103においてSn、In、Biを含有しない場合も考えうるため、その含有量の下限は、0質量%である。Sn、In、Biは、めっき層103が腐食環境に置かれた場合にMg溶出速度を上昇させる元素である。Mgの溶出速度が上昇すると、地鉄101が露出した部分にMgイオンが供給され、耐食性が向上する。かかる観点から、Sn、In、Biを含有させる場合には、Sn、In、Biの含有量を、それぞれ独立に、0.0050質量%以上とすることが好ましい。
一方で、過剰なSn、In、Bi添加は、Mg溶出速度を過剰に促進し、めっき鋼板の耐食性が低下する可能性がある。かかるMg溶出速度の上昇は、Sn、In、Biの含有量が1.0000質量%を超えると顕著となるため、Sn、In、Biの含有量は、それぞれ独立に、1.0000質量%以下である。Sn、In、Biの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.2000質量%以下である。
◇元素群E
続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Eについて説明する。以下に示す元素群Eの少なくとも何れかの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群E]:Zr:0%超1.0000%以下、Ag:0%超1.0000%以下、及び、Li:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[Zr:0~1.0000質量%]
[Ag:0~1.0000質量%]
[Li:0~1.0000質量%]
本実施形態に係るめっき層103においてZr、Ag、Liを含有しない場合も考えうるため、これら元素の含有量の下限は、0質量%である。一方、Zr、Ag、Liの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されると、めっき操業性を更に向上させることが可能となる。かかるめっき性の向上効果は、めっき層103中のZr、Ag、Liの少なくとも何れかの含有量が0.0100質量%以上となった場合に発現される。そのため、Zr、Ag、Liのすくなくとも何れかを含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.0100質量%以上とされることが好ましい。
一方、Zr、Ag、Liの含有量の何れかが1.0000質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103の形成に用いるめっき浴中に多量のドロスが発生しやすい。そのため、Zr、Ag、Liのすくなくとも何れかの含有量は、それぞれ独立に、1.0000質量%以下である。Zr、Ag、Liのすくなくとも何れかの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.1000質量%以下である。
◇元素群F
続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Fについて説明する。以下に示す元素群Fの少なくとも何れかの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群F]:La:0%超0.5000%以下、Ce:0%超0.5000%以下、及び、Y:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[La:0~0.5000質量%]
[Ce:0~0.5000質量%]
[Y :0~0.5000質量%]
本実施形態に係るめっき層103においてLa、Ce、Yを含有しない場合も考えうるため、これら元素の含有量の下限は、0質量%である。一方、La、Ce、Yは、Caとほぼ同等の効果を発現する元素であり、溶接時のブローホール形成をより抑制する。これは、各元素の原子半径がCaの原子半径と近いことに起因する。これらの元素がめっき層103中に含有されると、Ca位置に置換する。そのため、これらの元素は、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)においてCaと同位置に検出される。
かかる溶接時のブローホール形成の抑制効果は、これら元素の含有量を、それぞれ独立に、0.0100質量%以上とすることで発現される。そのため、Zr、Ag、Liのすくなくとも何れかを含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.0100質量%以上とされることが好ましい。めっき層103中におけるLa、Ce、Yの含有量は、それぞれ独立に、より好ましくは0.0500質量%以上である。
一方、めっき層103を製造するためのめっき浴中において、La、Ce、Y含有量が多すぎる場合、めっき浴の粘性が必要以上に増加してめっき操業性が低下する可能性がある。そのため、めっき操業性の観点からめっき浴中のLa、Ce、Y含有量が調整されることにより、La、Ce、Yの含有量は、それぞれ独立に、0.5000質量%以下となる。La、Ce、Yの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.1000質量%以下である。
◇元素群G
続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Gについて説明する。以下に示す元素群Gの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群G]:B:0%超0.5000%以下
[B:0~0.5000質量%]
本実施形態に係るめっき層103においてBを含有しない場合も考えうるため、その含有量の下限は、0質量%である。一方、Bは、めっき層103中に含有されると、LMEをより抑制する効果がある。これは、Bがめっき層103中に含有されると、Zn、Al、Mg、Caの少なくとも何れかと化合して、様々な金属間化合物を形成するためと推察される。また、めっき層103中にBが存在することで、Bはめっき層103から地鉄101へと拡散し、粒界強化によって地鉄101のLMEを抑制する効果があると考えられる。更に、Bに関して形成される各種の金属間化合物は、融点が極めて高いために、溶接時におけるZn蒸発の抑制にも作用していると推察される。これらの改善効果は、Bを0.0500質量%以上含有させることで発現される。そのため、Bを含有させる場合には、Bの含有量は、好ましくは0.0500質量%以上である。
一方、めっき層103中にBを含有させるために、めっき浴中に過剰にBを含有させると、めっき融点の急激な上昇を引き起こしてめっき操業性が低下し、めっき性状に優れるめっき鋼板を製造することができない。かかるめっき操業性の低下は、Bの含有量が0.5000質量%を超える場合に顕著となるため、Bの含有量は0.5000質量%以下である。Bの含有量は、好ましくは0.1000質量%以下である。
[化学成分の計測方法]
上記のめっき層103の化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)又はICP-MS(lnductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)を使用して、計測することが可能である。なお、0.1質量%単位までの化学成分の分析を行う場合には、ICP-AESを用いることとし、0.1質量%未満の微量な化学成分の分析を行う場合には、ICP-MSを用いることとする。溶接継手1の非熱影響部から切り出したサンプルを、インヒビターを加えた10%HCl水溶液に対して1分程度浸潰し、めっき層部分を剥離し、このめっき層を溶解した溶液を準備する。得られた溶液を、ICP-AES又はICP-MSによって分析して、めっき層の全体平均としての化学成分を得ることができる。
◇めっき層103の付着量について
以上説明したようなめっき層103の付着量については、特に規定するものではないが、例えば、地鉄101の片面当たり、15~250g/m程度であることが好ましい。めっき層103の付着量が上記のような範囲内となることで、本実施形態に係るめっき層103は、十分な耐食性を示すことが可能となる。かかる付着量を有するめっき層103の厚みは、概ね5~40μm程度となる。
なお、かかるめっき層103の付着量は、以下のように測定される。まず、溶接継手1の非熱影響部から、平面視において30mm×30mmの大きさにサンプルを切り出し、予めそのサンプルの質量を測定しておく。なお、サンプルを切り出す際には、厚み方向は全て切り出すようにする。このサンプルの一方の面にはテープシールを貼り、当該一方の面側のめっき層は次工程で溶解しないようにする。その上で、インヒビター添加した10%HCl水溶液にかかるサンプルを浸漬してめっき層103を酸洗剥離し、酸洗後のサンプルの質量を測定する。酸洗前後のサンプルの質量変化から、片面当たりのめっき層103の付着量を決定することが可能である。
◇めっき層103の金属組織について
続いて、以上説明したような化学組成を有するめっき層103の金属組織について、説明する。
本実施形態に係るめっき層103は、上記のような化学組成を有し、また、以下で詳述するような製造方法を経て形成されることで、FeAl相、FeAl相、FeAl相、ηZn相、α相、MgZn相、MgZn相、MgZn相、Mg相等の金属組織を含有している。また、めっき層103が更に含有しうる元素によっては、上記のような金属組織に加えて、Al-Si-Ca相、Al-Si-Ca-Fe相、MgSi相、MgSn相等の金属組織を含有しうる。本実施形態に係るめっき層103は、上記のような金属組織を有することで、LMEの発生を抑制し、耐食性にも優れるという性質を示すようになる。
ここで、本実施形態に係るめっき層103がどのような金属組織を有しているかについては、めっき層103の断面を、SEMにより観察することで特定可能である。すなわち、めっき層103の凝固組織をSEMにより観察し、観察視野において、SEM-EPMAによる点分析結果から、どのような金属組織を有しているかを特定することができる。
より詳細には、観察位置は、裏面側の非熱影響部内とし、観察する領域の大きさは、40μm×40μmとする。かかる範囲を、加速電圧:15.0kV、照射電流:5.0×10-7A、照射時間:50ミリ秒として、倍率2000倍で観察する。かかる条件で、着目する範囲の反射電子像を取得した後、反射電子像のコントラストを用いて、各金属組織の点分析を3点ずつ実施する。このような測定を、任意の5視野について実施すればよい。
◇非熱影響部における地鉄の表層部分の炭素(C)濃度について
また、本実施形態に係る溶接継手1の非熱影響部を、めっき層103の表面を起点として深さ方向(地鉄101の厚さ方向)にグロー放電発光分析法(GDS:Glow Discharge Optical Emission Spectrometry)により測定し、Zn、Fe、Cの分布に関する深さプロファイルを測定する。
なお、かかるGDSによる測定は、市販のグロー放電発光分析装置を用いて、以下の条件で実施することが可能である。
◇市販のグロー放電発光分析装置(例えば、LECOジャパン合同会社製GDS850A等)
・Arガス圧力:0.27MPa
・アノード径:4mmφ
・RF(高周波)出力:30W
得られた測定結果において、まず、めっき層103と地鉄101との界面となる位置を規定する。より詳細には、得られたZnとFeの分布に関する深さプロファイルにおいて、Znの強度を示す曲線とFeの強度を示す曲線とが交差する深さを、めっき層103と地鉄101との界面とする。次に、Cの分布に関する深さプロファイルにおいて、上記のようなめっき層103と地鉄101との界面の位置を起点として、C濃度の深さ方向の推移を確認する。以下で着目するC濃度は、めっき層103との界面に隣接する地鉄101の部分におけるC濃度であると言える。
本実施形態に係る溶接継手1の非熱影響部において、C濃度が0.05質量%以下となる深さは、めっき層103と地鉄101との界面から10μm以上であることが好ましい。鋼中のCは、LMEを助長する元素である。そのため、LME割れが発生する起点となる、地鉄101のめっき層103との界面部分のC濃度を低下させることで、溶接時のLMEを更に抑制し、耐LME性をより向上させることが可能となる。C濃度が0.05質量%以下となる深さは、より好ましくは、15μm以上である。一方で、C濃度が0.05質量%以下となる深さの上限は、特に限定されるものではない。
ここで、地鉄101のめっき層103との界面部分のC濃度は、地鉄101に施される脱炭焼鈍の条件を制御することで所望の値とされる。かかる脱炭焼鈍は、本実施形態に係る溶接継手1において、素材となるめっき鋼板の製造時に必要に応じて実施される。
<溶接重ね部50について>
続いて、図3及び図4を参照しながら、本実施形態に係る溶接継手1における溶接重ね部50について、詳細に説明する。図3及び図4は、本実施形態に係る溶接継手1における溶接重ね部50について説明するための説明図である。
図3は、図1に示した溶接重ね部50の近傍における断面を、Y軸方向から見たときの様子を、拡大して模式的に示したものである。
アーク溶接又はレーザー溶接により、第1鋼板10及び第2鋼板20が溶接された溶接継手1において、溶接重ね部50の近傍を拡大してみると、図3に模式的に示したように、第1鋼板10と、第2鋼板20との間に、隙間60が存在している。この隙間は、「継手の隙間」と呼ばれる(重ね継手の隙間と呼ばれることもある。)。図3では、かかる継手の隙間60を強調して図示しているため、一見、かなりの大きさの隙間が存在しているかのように見えるが、継手の隙間60の大きさ(図3におけるd)は、一般的に、10~500μm程度である。かかる大きさからも明らかなように、肉眼では2つの鋼板が完全に接触しているように見える溶接継手1においても、拡大してみれば、継手の隙間60は存在しているといえる。
かかる溶接重ね部50において、溶接ビード部30の延伸方向(図3におけるY軸方向)に対して直交する方向(図3におけるX軸方向)に沿って、継手の隙間60の中心軸を、溶接ビード部30に向かって仮想的に延長することを考える。本実施形態において、継手の隙間60の中心軸を表す仮想的な直線を、直線Lと表記する。本実施形態に係る溶接継手1において、継手の隙間60から溶融金属が流れ込み、溶接ビード部30が露出することもある。この場合、継手の隙間60の中心軸を表す仮想的な直線L上には、熱影響部40が存在しなくなる。このような状況も踏まえ、本実施形態においては、継手の隙間60の中心軸を表す仮想的な直線L上における溶接ビード部30の端部との交点を、「溶接重ね部の先端部」と定義する。
なお、アーク溶接やレーザー溶接に際して、めっき鋼板の種類や溶接条件等によっては、いわゆるブローホールが形成されてしまうことも考えられる。しかしながら、ブローホールは溶接ビード部30の内部に形成されるものであるため、上記のような定義によれば、ブローホールの発生有無を問わずに、溶接重ね部の先端部を特定することが可能となる。
ここで、実際の溶接継手1の断面における、熱影響部40と溶接ビード部30との境界位置は、エッチング液を用いた、溶接ビード部30、及び、熱影響部40が含まれる溶接継手1の断面のエッチング処理により、容易に可視化することができる。例えば、エッチング液としては、ナイタール(配合:エタノール95%、硫酸5%)や、水2400ccに対し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム60gとピクリン酸36gとエタノール60ccと家庭用洗剤液60ccとを混合したエッチング液等を用いることが可能である。
本実施形態に係る溶接継手1は、非熱影響部におけるめっき層103の化学組成からも明らかなように、素材鋼板として亜鉛めっき鋼板が用いられている。アーク溶接やレーザー溶接に際して、溶接を行っている部位に近ければ近いほど、溶接の際の入熱量は多くなる。本実施形態に係る溶接継手1の場合、めっき層103が比較的低い融点を有する亜鉛系めっきであるために、溶接の際にめっき層103が蒸発することで、消失していく。また、溶接を行っている部位から離れるほど、溶接の際に到達する熱量は減少していくことから、溶接を行っている部位からある程度まで離れると、溶接後においても、めっき層103が存在しているようになる。
本発明者らが、溶接重ね部50の耐食性について検討した結果、このようなめっき層103の蒸発を抑制することで、めっき層103の消失量を減少させることができれば、溶接後にめっき層103が残存している領域が増える結果、溶接重ね部50の耐食性の向上を図ることができることを見出した。
本実施形態に係る溶接継手1では、先だって説明したような化学組成を有するめっき層103を有するめっき鋼板を、素材鋼板として用いることで、上記のような溶接の際のめっき層103の蒸発を抑制することができる。その結果、本実施形態に係る溶接継手1では、溶接重ね部の耐食性の向上を図ることが可能となる。
次に、上記のようなめっき層103の消失の程度を、どのように具体化するかについて説明する。
本実施形態に係る溶接継手1の隙間60において、X軸方向に溶接ビード部30(溶接重ね部の先端部51)に最も近い、めっき層103の厚みが1μm未満の領域を、「めっき消失部」と称することとする。例えば、図4に示した模式図において破線で囲った領域が、上記のめっき消失部に対応する。
本実施形態に係る溶接継手1では、上記のように定義した、溶接重ね部の先端部51を起点として、めっき消失部53の大きさを規定する。すなわち、溶接ビード部30及び熱影響部40の近傍から、溶接ビード部30の延伸方向(図4におけるY軸方向)に対して直交し、かつ、溶接ビード部30から離隔する方向(図4におけるX軸正方向)に向かって、めっき消失部53がどこまで続くかを特定していく。この際に、地鉄101の表面において、初めて、1μm以上の厚みで、金属Znを含有するめっき層が存在するようになった位置(図4における位置A)を、めっき消失部53の終端部とする。その上で、めっき消失部53の終端部と、溶接重ね部の先端部51との間の距離(図4における距離L)を、めっき消失部53の長さと定義する。換言すると、Y軸方向に直行する方向に切断した断面視にて、X軸方向におけるめっき消失部53の端部のうち溶接ビード部30から遠い側の端部と、溶接重ね部の先端部51との距離を、めっき消失部53の長さと定義する。
例えば図4の例では、めっき層103の端部が、位置Aに存在していることから、図4における位置Aが、めっき消失部53における溶接ビード部30から遠い側の端部(めっき消失部53の終端部と捉えることもできる。)となる。そのため、図4の例の場合、かかるめっき消失部53の終端部と、溶接重ね部の先端部51との間の距離(図4における距離L)が、めっき消失部53の長さに対応する距離となる。
ここで、図4では、一例として、第1鋼板10の側のめっき消失部53の終端部の位置と、第2鋼板20の側のめっき消失部53の終端部の位置とが一致している場合について図示している。第1鋼板10の側のめっき消失部53の終端部の位置と、第2鋼板20の側のめっき消失部53の終端部の位置と、が相違する場合には、溶接重ね部の先端部51から、より遠い側の終端部の位置を、着目する溶接継手1における、めっき消失部53の終端部として取り扱う。
本実施形態に係る溶接継手1では、図4に示したようなめっき消失部53の長さLは、1000μm以下となっている。めっき消失部53の長さLが1000μm以下と短いということは、本実施形態に係る溶接継手1の溶接重ね部50には、めっき層103が十分に存在していることを意味している。このようなめっき層103の存在によって、本実施形態に係る溶接継手1では、溶接重ね部50の耐食性が向上する。図4に例示したようなめっき消失部53の長さLは、短ければ短いほど良く、500μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
ここで、上記のようなめっき消失部53の長さLは、以下のようにして測定することが可能である。
すなわち、溶接継手1を溶接ビード部30の延伸方向の任意の位置でY軸方向に直交するように切断した断面に対し、上記のようなエッチング液を用いたエッチング処理を施し、SEMによる観察により観察する。この際、加速電圧は15kVとし、200μm×180μmの大きさの視野を、反射電子像で観察する。かかる観察により、溶接重ね部50の先端部51の位置を特定する。その上で、かかる先端部51を起点として、めっき消失部の長さを測定する。このような観察・測定操作を、任意の3か所の断面で実施し、得られた測定値の平均を、めっき消失部53の長さLとする。
以上、図3~図4を参照しながら、本実施形態に係る溶接継手1の溶接重ね部50について、詳細に説明した。
なお、本実施形態に係る溶接継手1の非熱影響部は、上記のめっき層103上に、更に1層又は2層以上の各種の皮膜を有していてもよい。このような皮膜として、例えば、クロメート皮膜、リン酸塩皮膜、クロメートフリー皮膜、有機樹脂皮膜等が挙げられる。
(素材となるめっき鋼板の製造方法について)
次に、以上説明したような、溶接継手1の素材となるめっき鋼板の製造方法の一例を説明する。
本実施形態に係る溶接継手1の素材となるめっき鋼板は、上記のような地鉄101を基材として、かかる地鉄101の表面に対して、重研削によりひずみを付与した後に、ひずみの付与された表面に対してめっき層を形成することで製造される。その後、地鉄101の表面に形成されためっき層に対して、特定の熱処理を施すことで、溶接継手1の素材となるめっき鋼板が製造される。
ここで、地鉄101の表面を重研削ブラシにより研削して、表面にひずみを付与することで、素材となるめっき鋼板が溶接に供された際に、FeとAlの合金化を促進させることができる。溶接時のFeとAlの合金化が促進されることで、溶接時に存在する液相中にMg(めっき層の化学組成によっては、更にCa)が濃化し、液相Mg-Zn金属組織の表面に、緻密なMg-Ca酸化物が形成される。その結果、地鉄101の耐食性に有利に作用するMg-Zn金属組織の蒸発を抑制することが可能となり、上記のようなめっき消失部53の長さを、上記のような本実施形態の範囲内とすることができる。
めっき層の形成には、溶融めっき法の他、溶射法、コールドスプレー法、スパッタリング法、蒸着法、電気めっき法等を適用できる。ただし、自動車等で一般的に使われる程度の厚さのめっき層を形成するには、溶融めっき法がコスト面で最も好ましい。
その後、得られためっき鋼板に対して、以下で説明するような特定の熱処理工程を施すことで、素材となるめっき鋼板を製造することができる。
以下では、溶融めっき法を用いて、存在となるめっき鋼板を得る製造方法の一例について、詳細に説明する。
かかるめっき鋼板の製造工程では、まず、母材として用いる鋼板を、ゼンジミア法により圧延して所望の板厚とした後、コイル状に巻き取って、溶融めっきラインに設置する。
溶融めっきラインでは、鋼板をコイルから繰り出しながら連続的に通板させる。通板の際、所定位置に設けられた重研削ブラシにより、鋼板の表面にひずみが付与されるようにする。その後、ライン上に設けられた焼鈍設備により、鋼板を、例えば、酸素濃度が20ppm以下の酸化が生じづらい環境下、N-(1~10)%Hガス、露点-60~10℃の雰囲気にて、700~900℃で0秒超300秒以下加熱還元処理した後、後段のめっき浴の浴温+20℃前後までNガスで空冷して、めっき浴に浸漬させる。なお、上記の流れでは、鋼板に対して焼鈍前にひずみを付与しているが、付与したひずみの少なくとも一部が焼鈍によって開放された場合であっても、FeとAlの合金化を促進することが可能である。
ここで、めっき浴中には、前述のような化学成分を有する、溶融状態にあるめっき合金を準備しておく。めっき浴の浴温は、めっき合金の融点以上(例えば、460~660℃程度)としておく。めっき合金の材料作製の際は、合金材料として純金属(純度99%以上)を用いて調合することが好ましい。まず、上記のようなめっき層の組成となるように合金金属の所定量を混合して、真空又は不活性ガス置換状態で高周波誘導炉やアーク炉などを使用して、完全に溶解させて合金とする。更に、所定の成分(上記めっき層の組成)で混合された当該合金を大気中で溶解して、得られた溶融物をめっき浴として利用する。
なお、以上述べたようなめっき合金の作製には、特に純金属を使用する制約はなく、既存のZn合金、Mg合金、Al合金を溶解して使用してもよい。この際、不純物が少ない所定の組成合金さえ用いれば、問題はない。
鋼板を、上記のようなめっき浴中に浸漬させた後、所定の速度で引き上げる。この際に、形成されるめっき層が所望の厚みとなるように、例えばNワイピングガスによりめっき付着量を制御する。ここで、浴温以外の条件については、一般的なめっき操業条件を適用すればよく、特別な設備や条件は要しない。
続いて、鋼板上に位置する溶融状態にあるめっき合金に対して、以下のような第1冷却工程及び第2冷却工程を実施して、溶融状態にあるめっき合金をめっき層103とする。以下、第1冷却工程及び第2冷却工程について、詳細に説明する。
第1冷却工程は、めっき合金の温度が、浴温~250℃の範囲内である際に実施される冷却工程であり、上記のような温度範囲内にあるめっき鋼板を、露点-20℃以下の雰囲気下において、平均冷却速度10℃/秒以上で急冷する。浴温~250℃の温度領域は、めっき層表面に粗な酸化物が形成しやすいことから、露点を-20℃以下とし、平均冷却速度を10℃/秒以上とすることにより、高温域での酸化を防止するためである。なお、めっき工程において溶融めっき法を採用した場合、かかる第1冷却工程は、鋼板がめっき浴から出た直後から実施される。これにより、鋼板の表面に位置しているめっき合金が固化して、めっき層が形成される。
その後、めっき合金(めっき層)の温度が250~50℃の範囲内である際に、第2冷却工程を実施する。この第2冷却工程は、250~50℃の温度範囲内にあるめっき鋼板を、露点0℃以上の雰囲気下において、平均冷却速度10℃/秒未満で徐冷する工程である。かかる第2冷却工程において、露点を0℃以上とし、平均冷却速度を10℃/秒未満とすることで、低温域で密な酸化物を形成させることができる。
なお、第1冷却工程から第2冷却工程への平均冷却速度及び露点の切り替えについては、露点制御のために吹き付ける雰囲気ガスの配管系統を2系統以上設けておくことで、スムーズな切り替えが可能となるため、好ましい。また、温度250℃を境に、平均冷却速度と露点の双方を同時に切り替えるのが困難な場合には、平均冷却速度については250℃を境に切り替えを行うとともに、露点制御のための雰囲気ガスについては温度260~240℃の範囲内で切り替えるようにしてもよい。
上記のように、地鉄101の表面に対して重研削ブラシによりひずみを付与した上でめっき層を形成し、更に、かかるめっき層を、浴温~250℃の温度範囲では急冷し、250~50℃の温度範囲では徐冷するという、2段階の冷却工程に供することで、溶接時であってもZnが蒸発しにくいめっき層103を実現することが可能となる。
ここで、第1冷却工程を終了してから第2冷却工程を開始するまでの間隔は、3秒以内とすることが好ましく、第1冷却工程を終了した後、直ちに第2冷却工程を開始することが好ましい。第1冷却工程を終了してから第2冷却工程を開始するまでの間隔が3秒を超える場合には、意図しない冷却過程が生じ、上記のような本実施形態の範囲内となるめっき層103を実現することができない。
ここで、上記第1冷却工程において、露点の下限値は特に規定するものではないが、例えば-90℃程度が実質的な下限となる。また、平均冷却速度は、より好ましくは40℃/秒以上である。なお、平均冷却速度の上限値は、特に規定するものではないが、例えば90℃/秒程度が実質的な上限となる。
また、上記第2冷却工程において、露点の上限値は特に規定するものではないが、例えば20℃程度が実質的な上限となる。また、平均冷却速度は、より好ましくは4℃/秒以下である。
なお、たとえ地鉄101の表面にひずみが適切に付与されていたとしても、上記のような第1冷却工程又は第2冷却工程の何れか一方を実施しない場合には、上記のような本実施形態の範囲内となるめっき層103を実現することはできない。地鉄101の表面にひずみを適切に付与した上で、更に、上記のような第1冷却工程及び第2冷却工程の双方を施すことで、本実施形態に係るめっき層103を実現することができる。
また、上記の第2冷却工程の後に、一般的に合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造で施されることが多い合金化熱処理工程(例えば、到達板温480~550℃程度の加熱を伴う熱処理工程)を施した場合、第1冷却工程及び第2冷却工程により制御しためっき層の生成状態が崩れ、本実施形態で着目するようなZnの蒸発抑制効果を得ることができない。かかる観点から、第2冷却工程後の熱処理工程を実施しないことが重要である。
ここで、上記のような冷却処理においては、Nガス冷却といった一般的に知られた方法を適用できる。また、冷却ガスには、Nガス以外にも、Heガス、水素ガスなど抜熱効果の高いガスを使用しても良い。
なお、めっき層の温度の実測方法としては、例えば、接触式の熱電対(K-type)を用いればよい。接触式の熱電対を母材となる地鉄101に取り付けることで、めっき層全体の平均温度を常にモニタリングできる。また、機械的に、各種速度や厚みの制御を行い、地鉄101の予熱温度やめっき浴の温度等といった各種操業条件を統一すれば、かかる製造条件におけるその時点でのめっき層全体の温度を、ほぼ正確にモニタリングすることが可能となる。これにより、第1冷却工程及び第2冷却工程での冷却処理を、精密に制御することが可能となる。なお、接触式ほど、正確ではないが、めっき層の表面温度は、非接触式の放射温度計によって測定してもよい。
また、熱伝導解析を行うシミュレーションによって、めっき層の表面温度とめっき層全体の平均温度との関係を求めておいてもよい。具体的には、地鉄101の予熱温度やめっき浴の温度、めっき浴からの鋼板の引き上げ速度、地鉄101の板厚、めっき層の層厚、めっき層と製造設備との熱交換熱量、めっき層の放熱量等といった各種の製造条件に基づいて、めっき層の表面温度及びめっき層全体の平均温度を求める。その後、得られた結果を利用して、めっき層の表面温度とめっき層全体の平均温度との関係を求めればよい。これにより、めっき鋼板の製造時にめっき層の表面温度を実測することで、その製造条件におけるその時点でのめっき層全体の平均温度を推定することが可能となる。その結果、第1冷却工程及び第2冷却工程での冷却処理を、精密に制御することが可能となる。
以上、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法の一例について、具体的に説明した。
なお、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法では、上記の第2冷却工程の後に、更に1層又は2層以上の各種の皮膜を形成する処理を実施してもよい。このような処理として、例えば、クロメート処理、リン酸塩処理、クロメートフリー処理、有機樹脂皮膜形成処理等が挙げられる。
クロメート処理には、電解によってクロメート皮膜を形成する電解クロメート処理、素材との反応を利用して皮膜を形成させ、その後余分な処理液を洗い流す反応型クロメート処理、処理液を塗布して水洗することなく乾燥させて皮膜を形成する塗布型クロメート処理等があり、いずれのクロメート処理を採用してもよい。
電解クロメート処理としては、例えば、クロム酸、シリカゾル、樹脂(リン酸樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、酢酸ビニルアクリルエマルション、カルボキシル化スチレンブタジエンラテックス、ジイソプロパノールアミン変性エポキシ樹脂等)、及び、硬質シリカを使用する電解クロメート処理を例示することができる。
リン酸塩処理としては、例えば、リン酸亜鉛処理、リン酸亜鉛カルシウム処理、リン酸マンガン処理等を例示することができる。
クロメートフリー処理は、特に、環境に負荷を与えることがないために、好適である。かかるクロメートフリー処理には、電解によってクロメートフリー皮膜を形成する電解クロメートフリー処理、素材との反応を利用して皮膜を形成させ、その後余分な処理液を洗い流す反応型クロメートフリー処理、処理液を塗布して水洗することなく乾燥させて皮膜を形成する塗布型クロメートフリー処理等があり、いずれのクロメートフリー処理を採用してもよい。
また、有機樹脂皮膜形成処理に用いる有機樹脂は、特定の樹脂に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、これら樹脂の変性体等、各種の樹脂を用いることが可能である。ここで、変性体とは、これら樹脂の構造中に含まれる反応性官能基に対し、かかる官能基と反応しうる官能基を構造中に含む他の化合物(例えば、モノマーや架橋剤等)を反応させた樹脂のことをいう。
有機樹脂として、上記のようなもの1種を単独で用いてもよいし、2種以上の有機樹脂(変性していないもの)を混合して用いてもよい。また、少なくとも1種の有機樹脂の存在下で、少なくとも1種のその他の有機樹脂を変性することによって得られる有機樹脂を、1種又は2種以上混合して用いてもよい。また、水に溶解又は分散することで、水系化した有機樹脂を用いてもよい。更に、かかる有機樹脂皮膜中には、各種の着色顔料や防錆顔料を含有させてもよい。
(溶接継手の製造方法について)
本実施形態に係る溶接継手は、上記のようにして製造しためっき鋼板を、例えば、溶接継手を製造する際の第1鋼板及び第2鋼板の素材鋼板としたうえで、かかる素材鋼板を溶接継手に求める形状となるように配置し、素材鋼板を溶接することで製造される。
ここで、素材鋼板の溶接には、アーク溶接法、又は、レーザー溶接法を用いることが可能である。この際に、各溶接法において、以下で説明するような溶接条件で溶接を行うことで、上記のような止端近傍部の状態を実現することが可能となる。
より詳細には、アーク溶接により溶接継手を製造する場合には、例えば以下のような溶接条件により、素材鋼板を溶接すればよい。
溶接電流:250A、溶接電圧:26.4V、溶接速度:100cm/分
溶接ガス:20%CO+Ar、ガス流量:20L/分
溶接ワイヤ:YGW16 日鉄溶接工業株式会社製 φ1.2mm
(C:0.1質量%、Si:0.80質量%、Mn:1.5質量%、P:0.015質量%、S:0.008質量%、Cu:0.36質量%)
溶接トーチの傾斜角:45°
また、レーザー溶接により溶接継手を製造する場合には、例えば以下のような溶接条件により、素材鋼板を溶接すればよい。
出力:7kW、溶接速度:400cm/分、前進・後進角:0°
以上、本実施形態に係る溶接継手の製造方法の一例について、説明した。
なお、上記の実施形態では、第1鋼板10及び第2鋼板20の素材鋼板として、上述しためっき層103が地鉄101上に設けられた亜鉛系めっき鋼板を用いる場合を例に挙げて、説明を行った。しかしながら、上述しためっき層103は、少なくとも、第1鋼板10及び第2鋼板20において、互いに重ね合わせられる側の面に存在していればよい。
以下、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る溶接継手について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る溶接継手の一例に過ぎず、本発明に係る溶接継手が下記に示す例に限定されるものではない。
以下に示す実施例及び比較例では、地鉄101となる鋼板として、引張強度590MPa級、780MPa級、980MPa級の熱延鋼板(いずれも日本製鉄株式会社製)を用いた。熱延鋼板の板厚は、いずれも3.2mmとした。これら熱延鋼板を用いて、各熱延鋼板について試験片を複数作製した。
準備した試験片に対して、以下の2種類の重研削ブラシを用いて、試験片の表面にひずみを付与した。なお、研削する際には、鋼板表面に対し、1.0~5.0%のNaOH水溶液を塗布しておいた。ブラシ圧下量を0.5~10.0mmの範囲内で、ブラシ回転数を100~1000rpmの範囲内で適宜調整することで、表面に付与されるひずみ量を制御した。なお、以下に示す2種類の重研削ブラシのうちブラシ種Aの方が、より研削力の強いブラシである。なお、比較のために、このような重研削を施さなかった試験片も準備した。
ブラシ種 A:株式会社ホタニ製 D-100
ブラシ種 B:株式会社ホタニ製 M-33
以下の表1に示すような組成のめっき層を実現するためのめっき浴をそれぞれ準備し、自社製のバッチ式の溶融めっき試験装置にそれぞれ設置して、上記試験片にめっきを施した。ここで、試験片の中心部にスポット溶接した熱電対を用いて、試験片の温度を測定した。また、めっき浴に浸漬させる試験片に対して、めっき浴浸漬前に、酸素濃度20ppm以下の炉内において、N-5%Hガス雰囲気にて、800℃でめっき原板表面を加熱還元処理した。加熱還元処理後は試験片をNガスで空冷し、試験片の温度が浴温+20℃に到達した後に、溶融めっき試験装置のめっき浴に試験片を約3秒浸漬した。
めっき浴浸漬後、引上速度20~200mm/秒で試験片を引上げた。引上げ時、Nワイピングガスにより、所望のめっき付着量となるように制御した。以下の実施例及び比較例では、試験片の片面あたりの乾燥後のめっき層の付着量が40~120g/mとなるように、めっき付着量を制御した。めっき浴から試験片を引上げた後、以下の表1に示す条件で、めっき浴温から室温まで試験片を冷却した。以下に示す実施例及び比較例では、第1冷却工程の終了後、第2冷却工程を直ちに開始した(すなわち、第1冷却工程終了後から、第2冷却工程開始までの間隔は、0.2秒以下にした)。
ここで、上記のようにめっきした試験片から30mm×30mmの大きさに鋼板を切り出し、インヒビター添加した10%HCl水溶液に当該めっき鋼板を浸漬してめっき層を酸洗剥離した後、水溶液中に溶出した元素をICP分析することでめっき層の組成を測定した。
また、得られた試験片から、150mm×50mmの大きさに切り出した鋼板を第1鋼板とし、150mm×30mmの大きさに切り出した鋼板を第2鋼板とした。これら鋼板の長辺側を重ね合わせて、アーク溶接により溶接して(重ね隅肉溶接)、溶接継手とした。
ここで、アーク溶接における溶接条件は、以下の通りである。
溶接電流:250A、溶接電圧:26.4V、溶接速度:100cm/分
溶接ガス:20%CO+Ar、ガス流量:20L/分
溶接ワイヤ:YGW16 日鉄溶接工業株式会社製 φ1.2mm
(C:0.1質量%、Si:0.80質量%、Mn:1.5質量%、P:0.015質量%、S:0.008質量%、Cu:0.36質量%)
溶接トーチの傾斜角:45°
重ね代:10mm
鋼板サイズ:上板側(第1鋼板)150×50mm、下板側(第2鋼板)150×30mm
板隙:0mm
また、レーザー溶接における溶接条件は、以下の通りである。
出力:7kW、溶接速度:400cm/分、前進・後進角:0°
鋼板サイズ:上板側(第1鋼板)150×50mm、下板側(第2鋼板)150×30mm
重ね代:10mm
板隙:0mm
<地鉄のC濃度に関するGDS測定>
上記のようにして得られた溶接継手の非熱影響部について、先だって説明した方法に即して、GDSにより、Zn、Fe、C濃度に関して測定を行い、C濃度が0.05質量%以下となる深さを測定した。
<溶接重ね部におけるめっき消失部の長さLの測定>
上記のようにして得られた溶接継手について、先だって説明した方法に即して、SEMにより溶接重ね部の断面観察を行い、めっき消失部の長さLを測定した。
<溶接重ね部の耐食性の評価>
上記のような溶接継手に対して、自動車用リン酸化成処理(Znリン酸処理、SD5350システム:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)、及び、電着塗装(PN110パワーニクスグレー:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)を施した。この際、電着膜厚は20μmとした。電直塗装後のサンプルをJASO(M609-91)に従った複合サイクル腐食試験に供して、溶接重ね部の断面における赤錆発生タイミングを評価した。評価基準は、以下の通りである。
≪評価基準≫
評点「AAA」:赤錆発生タイミングが、120サイクル超
「AA」:赤錆発生タイミングが、60サイクル超120サイクル以下
「A」:赤錆発生タイミングが、30サイクル超60サイクル以下
「B」:赤錆発生タイミングが、30サイクル以下
また、上記のような赤錆発生タイミングが30サイクル超であれば、着目する試験片の溶接重ね部は、良好な耐食性を有していると評価することができる。
得られた結果を、以下の表1にまとめて示した。
Figure 0007513946000001
上記表1から明らかなように、本発明の実施例に該当する例では、溶接重ね部において優れた耐食性を実現できているのに対し、本発明の比較例に該当する例では、溶接重ね部における耐食性について、十分な性能を発現できていないことがわかる。
例えば、めっき層のAl含有量が本発明の範囲外であったNo.26は、Fe-Al合金化が早期に終了してしまい、液相Mg-Zn金属組織と地鉄との合金化が過剰に進行した結果、液相Mg-Zn金属組織の表面に緻密なMg酸化物を形成させることができなかったために、溶接時にZnが蒸発してしまい、溶接重ね部の耐食性が不十分であった。めっき層のAl含有量が本発明の範囲外であったNo.27は、Fe-Al合金化に時間が掛かったことで、めっき層と地鉄との合金化が不十分となった結果、液相Mg-Zn金属組織の表面に緻密なMg系酸化物を形成させることができなかった。これにより、溶接時にZnが蒸発してしまい、溶接重ね部の耐食性が不十分であった。
めっき層のMg含有量が本発明の範囲外であったNo.28は、液相Mg-Zn金属組織の表面に緻密なMg系酸化物を形成させることができなかったために、溶接時にZnが蒸発してしまい、溶接重ね部の耐食性が不十分であった。めっき層のMg含有量が本発明の範囲外であったNo.29は、Mgが過剰となったために、過剰なMgがFe-Al合金化を抑制してしまい、めっき層と地鉄との合金化が不十分となった結果、液相Mg-Zn金属組織の表面に緻密なMg系酸化物を形成させることができなかった。これにより、溶接時にZnが蒸発してしまい、溶接重ね部の耐食性が不十分であった。
第1冷却工程の平均冷却速度が本発明の範囲外であったNo.30と、第1冷却工程の冷却媒体の流量が本発明の範囲外であったNo.31は、めっき層を構成するZnが溶接時に過度に燃焼してしまった結果、耐食性が不十分であった。
第2冷却工程の平均冷却速度が本発明の範囲外であったNo.32と、第2冷却工程の冷却媒体の流量が本発明の範囲外であったNo.33は、めっき層を構成するZnが溶接時に過度に燃焼してしまった結果、耐食性が不十分であった。
地鉄へのひずみ付与を実施しなかったNo.36は、合金化制御ができずにη相が形成されてしまった結果、耐食性が不十分であった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではない。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲、後述するような本発明の技術的範囲に属する構成及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。例えば、上記実施形態の構成要件は、その効果を損なわない範囲内で、任意に組み合わせることが可能である。また、当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的又は例示的なものであって、限定的ではない。つまり、本発明に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
なお、以下のような構成も、本発明の技術的範囲に属する。
(1)
平面視において延伸方向を長手とする溶接ビード部に接続された第1鋼板及び第2鋼板を有しており、
前記第1鋼板及び前記第2鋼板は、前記溶接ビード部の周囲に位置する熱影響部と、溶接による熱影響が無い非熱影響部と、を有し、
前記第1鋼板の表面と前記第2鋼板の表面とが対向する部位である溶接重ね部には、前記第1鋼板と前記第2鋼板との間に存在する隙間である、継手の隙間が存在しており、
前記第1鋼板及び前記第2鋼板のそれぞれにおいて、少なくとも表面が対向している側の面は、地鉄と、前記地鉄上のめっき層と、を有しており、
前記めっき層は、質量%で、
Al:10.00~70.00%
Mg:3.00~20.00%
Fe:0.01~15.00%
を含有し、選択的に、下記元素群A、元素群B、元素群C、元素群D、元素群E、元素群F、及び、元素群Gからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有し、残部が、5.00質量%以上のZnと、不純物とからなる化学組成を有するめっき層であり、
前記溶接重ね部を、前記溶接ビード部の延伸方向からみたときに、前記延伸方向に対して直交する方向に沿って、前記継手の隙間の中心軸を前記溶接ビード部に向かって仮想的に延長し、前記中心軸上における前記溶接ビード部の端部との交点を、前記溶接重ね部の先端部と定義し、
前記延伸方向に直交する方向で切断した断面視にて、前記延伸方向及び前記第2の鋼板の表面に対する法線方向に直交する方向における、前記溶接ビード部に最も近い、前記めっき層の厚みが1μm未満の領域の、前記溶接ビード部から遠い側の端部と、前記溶接重ね部の先端部と、の距離は、1000μm以下である、溶接継手。
[元素群A]:Si:0%超10.00%以下、及び、Ca:0%超4.00%以下からなる群より選択される1種又は2種
[元素群B]:Sb:0%超0.5000%以下、Pb:0%超0.5000%以下、及び、Sr:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群C]:Cu:0%超1.0000%以下、Ti:0%超1.0000%以下、Cr:0%超1.0000%以下、Nb:0%超1.0000%以下、Ni:0%超1.0000%以下、Mn:0%超1.0000%以下、Mo:0%超1.0000%以下、Co:0%超1.0000%以下、及び、V:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群D]:Sn:0%超1.0000%以下、In:0%超1.0000%以下、及び、Bi:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群E]:Zr:0%超1.0000%以下、Ag:0%超1.0000%以下、及び、Li:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群F]:La:0%超0.5000%以下、Ce:0%超0.5000%以下、及び、Y:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群G]:B:0%超0.5000%以下
(2)
前記元素群Aを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(3)
前記元素群Bを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(4)
前記元素群Cを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(5)
前記元素群Dを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(6)
前記元素群Eを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(7)
前記元素群Fを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(8)
前記元素群Gを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(9)
前記めっき層は、Al:18.00~50.00質量%、Mg:6.00~15.00質量%含有し、かつ、元素群Aとして、Ca:0.05~4.00質量%含有する、(1)~(8)の何れか1つに記載の溶接継手。
(10)
前記非熱影響部の前記地鉄における、グロー放電発光分光法による炭素分布に関する深さプロファイルに基づき算出されるC濃度について、当該C濃度が0.05質量%以下となる深さが、前記地鉄と前記めっき層との界面から10μm以上である、(1)~(9)の何れか1つに記載の溶接継手。
(11)
前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかの引張強度は、780MPa以上である、(1)~(10)の何れか1つに記載の溶接継手。
(12)
前記距離は、500μm以下である、(1)~(11)の何れか1つに記載の溶接継手。
(13)
前記距離は、100μm以下である、(1)~(12)の何れか1つに記載の溶接継手。
1 溶接継手
10 第1鋼板
20 第2鋼板
30 溶接ビード部
40 熱影響部
50 溶接重ね部
51 溶接重ね部の先端部
60 継手の隙間
101 地鉄
103 めっき層
T 止端

Claims (17)

  1. 平面視において延伸方向を長手とする溶接ビード部に接続された第1鋼板及び第2鋼板を有しており、
    前記第1鋼板及び前記第2鋼板は、前記溶接ビード部の周囲に位置する熱影響部と、溶接による熱影響が無い非熱影響部と、を有し、
    前記第1鋼板の表面と前記第2鋼板の表面とが対向する部位である溶接重ね部には、前記第1鋼板と前記第2鋼板との間に存在する隙間である、継手の隙間が存在しており、
    前記第1鋼板及び前記第2鋼板のそれぞれにおいて、少なくとも表面が対向している側の面は、地鉄と、前記地鉄上のめっき層と、を有しており、
    前記めっき層は、質量%で、
    Al:10.00~70.00%
    Mg:3.00~20.00%
    Fe:0.01~15.00%
    を含有し、選択的に、下記元素群A、元素群B、元素群C、元素群D、元素群E、元素群F、及び、元素群Gからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有し、残部が、5.00質量%以上のZnと、不純物とからなる化学組成を有するめっき層であり、
    前記溶接重ね部を、前記溶接ビード部の延伸方向からみたときに、前記延伸方向に対して直交する方向に沿って、前記継手の隙間の中心軸を前記溶接ビード部に向かって仮想的に延長し、前記中心軸上における前記溶接ビード部の端部との交点を、前記溶接重ね部の先端部と定義し、
    前記延伸方向に直交する方向で切断した断面視にて、前記延伸方向及び前記第2の鋼板の表面に対する法線方向に直交する方向における、前記溶接ビード部に最も近い、前記めっき層の厚みが1μm未満の領域の、前記溶接ビード部から遠い側の端部と、前記溶接重ね部の先端部と、の距離は、1000μm以下である、溶接継手。
    [元素群A]:Si:0%超10.00%以下、及び、Ca:0%超4.00%以下からなる群より選択される1種又は2種
    [元素群B]:Sb:0%超0.5000%以下、Pb:0%超0.5000%以下、及び、Sr:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    [元素群C]:Cu:0%超1.0000%以下、Ti:0%超1.0000%以下、Cr:0%超1.0000%以下、Nb:0%超1.0000%以下、Ni:0%超1.0000%以下、Mn:0%超1.0000%以下、Mo:0%超1.0000%以下、Co:0%超1.0000%以下、及び、V:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    [元素群D]:Sn:0%超1.0000%以下、In:0%超1.0000%以下、及び、Bi:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    [元素群E]:Zr:0%超1.0000%以下、Ag:0%超1.0000%以下、及び、Li:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    [元素群F]:La:0%超0.5000%以下、Ce:0%超0.5000%以下、及び、Y:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    [元素群G]:B:0%超0.5000%以下
  2. 前記元素群Aを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  3. 前記元素群Bを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  4. 前記元素群Cを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  5. 前記元素群Dを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  6. 前記元素群Eを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  7. 前記元素群Fを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  8. 前記元素群Gを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  9. 前記めっき層は、Al:18.00~50.00質量%、Mg:6.00~15.00質量%含有し、かつ、元素群Aとして、Ca:0.05~4.00質量%含有する、請求項1~8の何れか1項に記載の溶接継手。
  10. 前記非熱影響部の前記地鉄における、グロー放電発光分光法による炭素分布に関する深さプロファイルに基づき算出されるC濃度について、当該C濃度が0.05質量%以下となる深さが、前記地鉄と前記めっき層との界面から10μm以上である、請求項1~8の何れか1項に記載の溶接継手。
  11. 前記非熱影響部の前記地鉄における、グロー放電発光分光法による炭素分布に関する深さプロファイルに基づき算出されるC濃度について、当該C濃度が0.05質量%以下となる深さが、前記地鉄と前記めっき層との界面から10μm以上である、請求項9に記載の溶接継手。
  12. 前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかの引張強度は、780MPa以上である、請求項1~8の何れか1項に記載の溶接継手。
  13. 前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかの引張強度は、780MPa以上である、請求項9に記載の溶接継手。
  14. 前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかの引張強度は、780MPa以上である、請求項10に記載の溶接継手。
  15. 前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかの引張強度は、780MPa以上である、請求項11に記載の溶接継手。
  16. 前記距離は、500μm以下である、請求項1に記載の溶接継手。
  17. 前記距離は、100μm以下である、請求項1に記載の溶接継手。

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