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JP7582776B2 - 表面処理性に優れた高靭性冷間工具鋼からなる工具 - Google Patents

表面処理性に優れた高靭性冷間工具鋼からなる工具 Download PDF

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JP7582776B2
JP7582776B2 JP2019222702A JP2019222702A JP7582776B2 JP 7582776 B2 JP7582776 B2 JP 7582776B2 JP 2019222702 A JP2019222702 A JP 2019222702A JP 2019222702 A JP2019222702 A JP 2019222702A JP 7582776 B2 JP7582776 B2 JP 7582776B2
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本発明は、高い耐摩耗性、耐割れ性が要求とされる冷間加工用金型として好適な表面処理膜の密着性に優れた高靱性冷間工具鋼およびその鋼を用いた金型等の工具に関する。
近年、冷間加工技術の発展に伴って、より高硬度の被加工材を加工したり、強加工による迅速成形したりする工程か多くなるなど、冷間加工条件が過酷化している。
そのため使用される金型には、特に耐摩耗性が求められるため、チタンやバナジウムの炭化物や窒化物といった硬質物質を数ミクロンメーターの厚さに被覆するいわゆる硬質皮膜処理が用いられており、たとえば、TRD処理(溶融塩浸漬法(熱反応析出拡散法):Thermo-reactive Deposition and Diffusion )やCVD処理(化学的蒸着法:Chemical Vapor Deposition)によって金型等の表面に硬質な表面処理膜が施されている。
TRD処理は、処理炉の損傷を抑えるため処理温度が1000℃と通常の冷間工具鋼の焼入温度より低い温度で実施される。またCVD処理も処理温度が1000℃であり、その後、再焼入焼戻しを行うときに熱処理による変形を抑えるため、再焼入れ時の焼入温度もCVD処理と同様に1000℃と低い温度とすることがある。
すると、例えばJIS-SKD11鋼を用いた金型を焼入焼戻ししても57HRC程度しか硬さが得られないこととなる。そこで、金型として使用すると、冷間加工時の応力で母材のSKD11が変形を起こし、表面処理膜がその変形により追随できず早期に破壊・剥離することがあった。
また、SKD11は粗大炭化物が多く、粗大炭化物上に形成された表面処理膜は炭化物との密着性が悪く、剥離しやすかった。また鋼材自体の靭性が低く、表面処理膜が剥離した箇所で摩耗等により鋼材に発生した微細割れが早期に進展し、剥離に気づく前に金型が大割れし生産阻害を起こすことがあった。
そこで、出願人は、表面処理膜の高い密着性を向上させた冷間工具鋼を焼入焼戻した表面処理工具を提案している(特許文献1参照。)。この特許では、980~1030℃の溶融塩浴に浸漬する浸透拡散処理による焼入後、焼戻により62~64HRCの高硬度が得られる。また、鋼中の炭化物サイズが20μm以下で、炭化物凝集部のサイズが100μm以下である、表面処理工具を開発している。
もっとも、この鋼には、CやMo、Vが多く含まれているため、各炭化物のサイズは小さくても炭化物量は多く、その炭化物を伝って割れが進展しやすいために、靭性が低く、金型の大割れによる生産阻害が起きる場合があった。
さらに、Cr量を限定し母材中に残存する炭化物量を増加させることで表面処理膜直下にできるC欠乏層を抑制しつつ62~64HRCの母材硬度を有する表面処理性に優れた冷間工具鋼が提案されている(特許文献2参照。)。しかし、この発明鋼も炭化物量が多く存在させているため、靭性が低く、金型の大割れによる生産阻害が起きる場合があった。
また、高硬度が得られ、母材と硬質被膜の密着性が高い工具鋼が提案されている(特許文献3参照。)。この提案の工具鋼では、表面処理温度で6~13wt%炭化物が残存することで表面処理時の硬質皮膜形成時のC源となり、硬質被膜直下の母材表面部の硬さ低下を抑制できることが示されている。しかし、炭化物の大きさや量については考慮されておらず、被膜直下に粗大炭化物が残ることがあり、その粗大炭化物上の表面処理膜が剥離してしまうことがあった。
特許3970678号公報 特開2005-187900号公報 特開2006-328521号公報
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、鋼の成分組成、炭化物の硬化能と安定性を表す値のCP値の式、炭化物面積率、を規定することで、硬さが60HRC以上で、かつ、これらの鋼に表面処理した際の表面処理膜の密着性に優れる高靭性の冷間工具鋼からなる工具が得られることを見出した。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、金型の大割れによる生産阻害が抑制でき、高い耐摩耗性、耐割れ性および表面処理膜の密着性に優れた冷間工具鋼からなる工具を提供することである。
上記の課題を解決するための第1の手段は、質量%で、C:0.7~0.9%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.2~0.8%、Cr:4.0~9.0%、Mo+W/2:1.5~4.0%、V+Nb/2:0.3~0.5%、N:500ppm以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつCP値が28~43である冷間工具鋼を用いた、鋼表面に硬質皮膜が形成された冷間工具鋼からなる工具であって、皮膜形成された状態での工具母材の硬さが60HRC以上であり、20μm2以上のサイズの炭化物が該母材中に占める面積率が10%以下であること、を特徴とする硬質皮膜された冷間工具鋼からなる工具である。
ただし、ここにCP値とは式C×{5Cr+2(Mo+W/2)+12(V+Nb/2)}で求まる値であって、式中のC,Cr,Mo,W,V,Nbには、鋼中の各元素の組成量を質量%で代入して求める。
上記の手段とすることで、本願の発明の冷間工具鋼を用いた工具は、炭化物の硬化能と安定性が良好であり、硬さが60HRC以上であり、鋼中の炭化物の面積率は10%以下であり、靭性を示すシャルピー衝撃値25J/cm2以上であり、かつ、表面処理膜の密着性を示す臨界剥離荷重が35N以上であって、冷間工具鋼としての金型の使用中に割れて生産阻害をおこすこともなく、また硬質の表面処理膜が破壊して剥離することもないなど、安定して、金型等の工具として使用することができる。
発明を実施するための形態の記載に先立って、本願発明の冷間工具鋼の化学成分の限定理由およびCP値の限定理由、該鋼の表面に硬質皮膜を形成させた際の処理温度1000℃における焼戻し温度500℃以上としたときの硬さ、20μm2以上の炭化物が鋼中に占める面積率、靭性の評価としてのシャルピー衝撃値および臨界剥離荷重で示す表面処理膜の未着性について、記載する。なお、化学成分における%は、質量%である。
C:0.7~0.9%
Cは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性を高める元素である。その効果を得るためには、Cは0.7%以上含有させる必要がある。しかし、Cが0.9%より多く含有されると、鋼中に粗大な炭化物を形成し、靭性および加工性を悪化する。そこで、Cは0.7~0.9%とする。
Si:0.5~0.9%
Siは、製鋼時の脱酸剤であり、得られた鋼の硬さを得るために必要な元素である。そのためには、Siは0.5%以上が必要である。しかし、Siが0.5%より多く含有されると、鋼の靭性および加工性が悪化する。そこで、Siは0.5~0.9%とする。
Mn:0.2~0.8%
Mnは、製鋼時の脱酸剤であり、得られた鋼の焼入性を得るために必要な元素であり、そのためには少なくとも0.2%以上が必要である。もっとも、Mnが0.8%より多く含有されると、マトリックスを脆化させ靭性が悪化する。そこで、Mnは0.2~0.8%とする。
Cr:4.0~9.0%
Crは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに焼入性を高める元素である。これらの効果を得るためには、Crは4.0%以上が必要である。しかし、Crが9.0%より多く含有されると、粗大な炭化物を形成し、靭性および加工性を悪化する。そこで、Crは4.0~9.0%とする
Mo+W/2:1.5~4.0%
MoとWは、鋼中で共に硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに焼入性を高める効果を有する元素であり、かつMoに対してW/2が同等の効果を有する。そこで、MoとW/2の合わせた量で効果を勘案すべきところである。そして、これらの効果を得るためには、Mo+W/2は1.5%より多く含有される必要がある。しかし、Mo+W/2は4.0%より多く含有されると、粗大な炭化物を形成して靭性および加工性を悪化する。そこで、Mo+W/2は1.5~4.0%とする。
V+Nb/2:0.3~0.5%
VとNbは、鋼中で共に硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに焼入時の結晶粒の粗大化を抑制する効果を有し、靭性の向上に寄与する元素であり、かつVに対してNb/2が同等の効果を有する。そこで、VとNb/2の合わせた量で効果を勘案すべきところである。そして、これらの効果を得るためには、V+Nb/2は0.3%より多く含有される必要がある。しかし、V+Nb/2は0.5%より多く含有されると、粗大な炭化物を形成して靭性および加工性を悪化する。そこで、VとNbは0.3~0.5%とする。
N:500ppm以下、望ましくは280ppm以下
Nは、鋼中に窒化物を形成する元素である。そして、窒化物が耐摩耗性を向上させるとともに結晶粒の粗大化を防止し、靭性の低下を抑制する。もっとも、Nが500ppmより多く含有されると、粗大な窒化物を形成し、靭性、加工性が悪化する。そこで、Nは500ppm以下とする。望ましくは、窒化物量自体を少なくし微細な窒化物分散状態とするため、280ppm以下とする。
CP値:28~43
ただし、CP値とは式C×{5Cr+2(Mo+W/2)+12(V+Nb/2)}で求まる値であって、式中のC,Cr,Mo,W,V,Nbには、鋼中の各元素の組成量を質量%で代入して求める。
CP値の式は、炭化物の硬化能と安定性を表している。CP値が28より低すぎると、1000℃でのTRD処理やCVD処理による表面処理後の再焼入を1000℃で実施しても、焼戻し処理後の母材の硬さが60HRC以上にならないこととなる。
一方、CP値が43より高すぎると、表面処理時に固溶が進まず炭化物の固溶が、20μm2以上の面積を有する粗大炭化物が多く残存しやすくなり、表面処理膜の剥離が起こり易くなり、靭性の低下を招くこととなる。
そこで、CPの値は、28~43とする。
表面硬化膜形成後の母材の硬さ:60HRC以上
母材の硬さが60HRCより低いと、冷間加工時の応力で母材が変形を起こし、TRD処理やCVD処理による表面処理膜が変形に追従できず、早期に破壊・剥離してしまう。そこで、1000℃で実施の表面硬化膜形成処理後の母材の硬さは、60HRC以上とする。
20μm2以上の大きさの炭化物が工具母材の鋼中に占める面積率:10%以下
20μm2以上の面積を有する粗大炭化物が多く存在すると、その炭化物上に形成されたTRD処理やCVD処理による表面処理膜は、炭化物との密着性が悪いために剥離し易いものとなりやすい。そこで、20μm2以上の面積の炭化物が工具母材の鋼中に占める面積率(以下、この明細書において「炭化物面積率」という。)は10%以下とする。0.5mm2視野内における炭化物面積率を評価することで適切に評価することができる。
次いで、発明を実施するための形態について、以下に実施例を通じて説明する。
表1に示す、発明鋼の各No.1~15と比較鋼の各No.16~28のそれぞれの化学成分と、その残部のFeおよび不可避不純物からなる各100kg鋼塊を真空誘導溶解炉にて溶製した。
なお、CP値の式は、炭化物の硬化能と安定性を表している。CPは、C×{5Cr+2(Mo+W/2)+12(V+Nb/2)}で、各元素に成分組成の質量%の値を代入して求めた値である。
これらの溶製した鋼をそれぞれ角50mmの棒鋼に鍛伸した。
次いで、これらの鍛伸した棒鋼を工具として想定し、その鋼表面に硬質皮膜を形成させた。まず、1000℃に加熱してCVDによりそれぞれの棒鋼上にTiCの表面膜を形成して炉冷し、さらに、これらを1000℃に加熱して空冷する焼入処理を施し、次いで、これらを500~600℃の焼戻し処理温度に加熱して空冷する、焼戻処理を2回繰り返し実施した。この場合、焼戻温度は500℃以上の焼戻処理温度範囲で最も高くなる温度とした。
この方法により、それぞれの棒鋼に、CVD処理にて8μm厚のTiC膜を形成させた。
以下では、硬質皮膜処理として、CVD処理により8μm厚のTiC膜を形成させる例を用いて説明する。
なお、本発明の規定する化学成分からなる冷間工具鋼を用いた工具は、その表面にTRD処理によって、硬質皮膜を形成させることもできる。TRD処理では、外熱加熱式で1000 ℃に保持された、炭化物生成金属粉末又は合金粉末を添加した溶融塩浴中に、所望する厚さに応じて0.5~10時間浸漬した後、塩浴から取り出し直接焼入れを行い、焼戻すことで、表面にたとえば2~20μmの炭化物のVC膜等を形成させるものである。
Figure 0007582776000001
次に、上記で得られたCVD処理による8μm厚のTiC膜を有する、発明鋼の各No.1~15と、比較鋼の各No.16~28とのそれぞれの棒鋼について、それらの鋼の母材の硬さをロックウェル硬さで評価して、表2に示した。
なお、母材の硬さが60HRC以上であると、皮膜との密着性が高まり母材と剥離しにくくなるので、母材の硬さが60HRCを下回るものを下線で示した。
また、上記の焼戻処理後の棒鋼からなる角50mmのそれぞれの試料を用いて、その中心部から、縦15mm、横15mmおよび長さ15mmの試験片を割出し、それぞれの試験片をナイタールにより腐食し、光学顕微鏡の100倍の視野で3箇所ランダムに撮影し、撮影した画像を画像解析装置を使用して、0.5mm2視野内を観察した。0.5mm2視野内における20μm2以上の大きさの炭化物を観察してその面積率を炭化物面積率(%)として求めた。表2では各試験片について、3箇所の平均値を炭化物面積率(%)として示している。20μm2以上の大きさの炭化物が10%を超えるものについて、本発明の範囲外として下線で示した。
さらに、上記の焼戻処理後の試料を用いて、中心部から縦10mm、横10mm、長さ55mmのシャルピー衝撃試験片を割り出した。これらの試験片のノッチ形状は10R-2mmCノッチに加工した。これらの試験片を用いて、それぞれの靭性はシャルピー衝撃試験で評価した。
ところで、JIS鋼種であるSKD11は、焼戻し硬さが60HRCのときシャルピー衝撃試験値は15J/cm2であるので、25J/cm2以上の高いシャルピー衝撃値が得られれば、靱性に優れていると評価し、25J/cm2より低いシャルピー衝撃値が得られれば、靱性に劣るものと評価して、表2に下線で示した。
さらに、上記の焼戻処理後の試料を用いて、スクラッチ試験により密着性を評価した。この場合、最小荷重を1N、荷重スピードを30N/min、スクラッチスピードを1.51mm/min、圧子をダイヤモンド、圧子曲率半径を200μmとして、スクラッチ試験を発明鋼および比較鋼それぞれのNo.の鋼について実施した。
JIS鋼種であるSKD11は、臨界剥離荷重が30Nであるため、臨界剥離荷重が35N以上であれば、密着性に優れているとし、低ければ密着性が悪いとして評価して、表2に下線で示した。
Figure 0007582776000002
本願の発明鋼であるNo.1~15は、いずれも規定の化学成分を有する鋼で、CP値は28~43、硬さは60HRC以上、炭化物面積率は10%以下、靭性を示すシャルピー衝撃値は25J/cm2以上、CVD処理膜の密着性を示す臨界剥離荷重は35N以上であった。そこで、1000℃での熱処理においても、皮膜の密着性と靱性に優れ、炭化物が粗大化せず割れによる生産阻害が起きにくい、といった特性が確認された。
これに対して、比較鋼のNo.16~38は、化学成分あるいはCP値のいずれかが規定した範囲から外れており、硬さ、炭化物面積率、シャルピー衝撃値、臨界剥離強度のいずれか1つ以上の指標が、本願の発明の範囲を外れており、密着性あるいは靱性、割れなどの特性に劣ることが確認された。

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.7~0.9%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.2~0.8%、Cr:4.0~9.0%、Mo+W/2:1.5~4.0%、V+Nb/2:0.3~0.5%、N:500ppm以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつCP値が28~43である冷間工具鋼を用いた、鋼表面に硬質皮膜が形成された、1000℃から焼入れされた冷間工具鋼からなる工具であって、
    皮膜形成された状態での工具母材の硬さが60HRC以上であり、20μm2以上のサイズの炭化物が該母材中に占める面積率が10%以下であること、を特徴とする硬質皮膜された冷間工具鋼からなる工具。
    ただし、ここにCP値とは式C×{5Cr+2(Mo+W/2)+12(V+Nb/2)}で求まる値であって、式中のC,Cr,Mo,W,V,Nbには、鋼中の各元素の組成量を質量%で代入して求める。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2012107265A (ja) 2010-11-15 2012-06-07 Sanyo Special Steel Co Ltd 耐焼付き性に優れたアルミ製缶用工具およびその製造方法
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