JP6207408B2 - 優れた被削性、硬さ、耐摩耗性および耐食性を有するステンレス鋼 - Google Patents
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Cは、鋼の硬さおよび耐摩耗性に寄与する元素であり、0.40%より少ないとその効果が小さい。Cが1.10%を超えると数百μmオーダーの巨大な炭化物が析出することで、被削性および耐食性の悪化に繋がる。そこで、Cは0.40〜1.10%とする。望ましくは、Cは0.40〜0.70%とする。
Siは製鋼時の脱酸剤として有用なかつ材料強度に寄与する元素であるものの、過多の場合、高度上昇により被削性を悪化する。そこで、Siは0.60%以下とする。望ましくは、Siは0.40%以下とする。さらに望ましくは、Siは0.25%以下とする。
Mnは、Sと結合して硫化物を形成し、被削性を向上させる元素である。基地よりも腐食しやすいMnSが一定量を超えると、耐食性が悪化する。そこで、Mnは0.80%以下とする。望ましくは、Mnは0.40%以下とする。
Sは、Mnと結合して硫化物を形成し、被削性を向上させる元素である。Sが0.050%よりも少ない場合は被削性の向上に寄与しない。Sが0.200%よりも過多の場合は基地よりも強度の低いMnSが増加して熱間加工性を悪化させる。そこで、Sは0.050〜0.200%とする。望ましくは、Sは0.100〜0.180%とする。
Crは、耐食性の向上に必須の元素であり、また、固溶強化元素として材料強度の向上に寄与する元素である。Crが9.00%より少ない場合は充分な耐食性が得られない。Crが17.00%より過多の場合は材料の基地および硫化物が硬化し、加えて数百μmオーダーの巨大な炭化物の析出量も増加するため、被削性が悪化する。そこで、Crは9.00〜17.00%とする。望ましくは、Crは10.50〜15.50%とする。
Niは、材料の延性および靭性に寄与する元素であるが、強力なオーステナイト生成元素であり、マルテンサイトと比べて硬さおよび耐摩耗性が低いオーステナイトが生成することは望ましくない。また、Niは高価な元素でありコスト上昇にも繋がる。そこで、Niは0.30%以下とする。
Moは、耐食性を向上させる元素であるが、Moが0.20%よりも少ないと十分に耐食性を向上させることができず、Moが2.00%を超えると脆化相の析出を促進し、またコスト上昇にも繋がる。そこで、Moは0.01〜2.00%とする。
Pは、鋼の靭性を低下する元素であるため、極力少なくすることが望ましい。ところが過度の低減はコスト上昇に繋がる。そこで、Pは0.050%以下とする。
Alは、製鋼時の強力な脱酸剤として有用な元素であるが、過多の場合、硬質な酸化物の形成により加工性および被削性を悪化する。そこで、Alは0.100%以下とする。
Cuは、Feよりも酸化し難く、溶製過程での除去が困難な元素である。さらにCは高温での粒界脆化、熱間加工性の阻害、高温割れの要因となる。そこで、Cuは0.30%以下とする。
Bは、熱間加工性の改善効果を有する元素であるが、Bが0.001%より少ないと熱間加工性の改善効果は十分でない。一方、Bが0.020%を超えると、硼化物が生成し、逆に熱間加工性が悪化する。そこで、Bは0.001〜0.020%とする。
Nは、耐食性の向上および強度の向上に寄与する元素である。しかし、Nが0.002%未満ではその効果が乏しくなる上に精錬が困難となり、生産性が低下し製造コストの上昇を招く。一方、Nが過多の場合、熱間加工性が悪化する。そこで、Nは0.002〜0.100%とする。
Vは、安定した微細な炭化物を形成し、結晶粒を微細化して鋼の強度、延性および靭性を向上させる元素である。しかし、Vが0.05%より少ないと鋼の強度、延性および靭性を十分に向上させることができない。一方、Vが0.50%を超えて含有されると鋼の冷間加工性を低下させ、延性および靭性を低下させる。そこで、Vは0.05〜0.50%とする。
Nbは、Vと同様に安定した微細な炭化物を形成し、結晶粒を微細化して鋼の強度、延性および靭性を向上させる元素である。しかし、Nbが0.05%より少ないと鋼の強度、延性および靭性を十分に向上させることができない。一方、Nbが0.50%を超えて含有されると鋼の冷間加工性を低下させ、延性および靭性を低下させる。そこで、Nbは0.05〜0.50%とする。
Zrは、VおよびNbと同様に安定した微細な炭化物を形成し、結晶粒を微細化して鋼の強度、延性および靭性を向上させる元素である。しかし、Zrが0.05%より少ないと鋼の強度、延性および靭性を十分に向上させることができない。一方、Zrが0.50%を超えて含有されると鋼の冷間加工性を低下させ、延性および靭性を低下させる。そこで、Zrは0.05〜0.50%とする。
Coは、基地に固溶したまま析出物の凝集を抑制し、時効軟化を阻止する元素である。しかし、Coが0.05%より少ないと時効軟化を十分に阻止できない。一方、Coが0.50%より過多の場合、Co3Alなどの金属間化合物を形成し、冷間加工性を低下する。そこで、Coは0.05〜0.50%とする。
MnとSはステンレス鋼中において硫化物であるMnSを形成し、その被削性を改善する。また、Cr濃度の高いステンレス鋼中においては、一部のMnがCrと入れ替わり、(Mn,Cr)Sを形成する。この(Mn,Cr)SはMnSと比較して、一般に耐食性が良好である。しかし、硫化物中のMn濃度が高まるに伴って硫化物中のCr濃度が低くなり、それを含有するステンレス鋼の耐食性を悪化させることとなる。この耐食性の悪化を回避するためには、鋼中のMnとSの濃度比を制限し、硫化物中のMn濃度の上昇を抑制して、Cr濃度を15%以上にまで上昇させる必要がある。しかし、硫化物中のMn濃度の上昇を抑制して、Cr濃度を45%よりも高くすると、硫化物の硬さが適正範囲である約150〜400HVを超えるため被削性の悪化に繋がる。Cr:9.00〜17.00%という本発明の範囲では、硫化物中の組成であるMnとSの質量比が決まればおのずと硫化物中のCr量も決定する。そこで、硫化物中の組成であるMnとSの質量比が0.38≦Mn/S≦1.13(式1)を満足するものとする。望ましくは0.63≦Mn/S≦1.00とする。
ステンレス鋼中に析出する炭化物は硬さ、耐摩耗性、耐食性および被削性に影響する。炭化物量が増大するほど硬さおよび耐摩耗性は向上し、耐食性および被削性は悪化する。また、ステンレス鋼中に介在物として存在する硫化物は耐食性および被削性に影響する。硫化物量が増大するほど被削性は向上し、耐食性は悪化する。ただし、上記したように硫化物組成中のCr濃度が増加するほど該硫化物自体の耐食性は向上する。加えて、硬さ、耐摩耗性、耐食性および被削性には、炭化物や硫化物などの大きさや量も影響する。10μm2以上の粗大な硬い炭化物が鋼中に多量に存在すると、耐食性および被削性が大幅に悪化する。また、被削性に好影響を与える1.0μm2以上の硫化物の数が、10μm2以上の炭化物の数に対して少ないと充分な被削性が保てない。よって、10μm2以上の大きさで存在する炭化物の個数と1.0μm2以上の大きさで存在する硫化物の個数が(硫化物個数)≧(炭化物個数)×2.4(式2)を満足するものとする。
供試材の鍛伸方向に垂直な断面における、直径の1/4の位置付近を切り出し、エメリー紙とバフを用いて鏡面まで研磨した後に試料の約20視野を観察した。観察された10μm2以上の大きさで存在する炭化物の個数、および1.0μm2以上の大きさで存在する硫化物の個数を計測した。その計測結果を表2に示す。10μm2以上の大きさで存在する炭化物の個数と1.0μm2以上の大きさで存在する硫化物の個数が(硫化物個数)≧(炭化物個数)×2.4(式2)を満足するものを○で、満足しないものを×で示した。
ドリル寿命試験は、縦150mm、横350mm、高さ150mmの試料を作製し、以下の条件にて試験を実施した。評価は、比較例のNo.1のドリル寿命(穴数)に対する各供試材の比で表した。
試験条件
(a)ドリル:SKH51、直径5mm、ストレートシャンクツイストドリル
(b)周速:15m/min
(c)送り:0.03mm/rev
(d)穿孔深さ:15mm
(e)切削油:なし
(f)寿命判定:折損または溶損により穿孔不能となるまで
旋削工具摩耗試験は、直径65mmに鍛伸後に上記熱処理を施した試料について、周方向に一定の下記の条件で旋削を行い、切削距離200mのときの工具逃げ面摩耗を測定した。評価は、比較例のNo.1の工具摩耗量(mm)に対する各供試材の比で表した。
(a)使用工具:超硬P20、正方形ネガティブチップ、刃先R0.4mm
(b)切削速度:200m/min
(c)切込量:1.5mm
(d)送り量:0.2mm/rev
(e)クーラント:なし
Claims (3)
- 質量%で、C:0.40〜1.10%、Si:0.60%以下、Mn:0.80%以下、S:0.050〜0.200%、Cr:9.00〜17.00%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつMnとSの質量比が0.38≦Mn/S≦1.13(式1)を満足する組成の硫化物を含有し、さらに1.0μm2以上の大きさの硫化物と10μm2以上の大きさの炭化物を含有しかつ該硫化物の個数と炭化物の個数が(硫化物個数)≧(炭化物個数)×2.4(式2)を満足するものであることを特徴とするステンレス鋼。
- 請求項1に記載した化学成分に、質量%で、さらにNi:0.30%以下、Mo:0.01〜2.00%、P:0.050%以下、Al:0.100%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつMnとSの質量比が0.38≦Mn/S≦1.13(式1)を満足する組成の硫化物を含有し、さらに1.0μm2以上の大きさの硫化物と10μm2以上の大きさの炭化物を含有しかつ該硫化物の個数と炭化物の個数が(硫化物個数)≧(炭化物個数)×2.4(式2)を満足するものであることを特徴とするステンレス鋼。
- 請求項2に記載した化学成分に、質量%で、さらにCu:0.30%以下、B:0.001〜0.020%、N:0.002〜0.100%、V:0.05〜0.50%、Nb:0.05〜0.50%、Zr:0.05〜0.50%、Co:0.05〜0.50%のうち1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつMnとSの質量比が0.38≦Mn/S≦1.13(式1)を満足する組成の硫化物を含有し、さらに1.0μm2以上の大きさの硫化物と10μm2以上の大きさの炭化物を含有しかつ該硫化物の個数と炭化物の個数が(硫化物個数)≧(炭化物個数)×2.4(式2)を満足するものであることを特徴とするステンレス鋼。
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