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JP7541911B2 - ガスバリア性積層体、ガスバリア性積層体により構成された包装用袋およびガスバリア性積層体により包装された食品 - Google Patents

ガスバリア性積層体、ガスバリア性積層体により構成された包装用袋およびガスバリア性積層体により包装された食品 Download PDF

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JP7541911B2 JP2020203614A JP2020203614A JP7541911B2 JP 7541911 B2 JP7541911 B2 JP 7541911B2 JP 2020203614 A JP2020203614 A JP 2020203614A JP 2020203614 A JP2020203614 A JP 2020203614A JP 7541911 B2 JP7541911 B2 JP 7541911B2
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Description

本発明は、ガスバリア性積層体、ガスバリア性積層体により構成された包装用袋およびガスバリア性積層体により包装された食品に関する。
例えば食品包装などに好ましく適用されるガスバリア性材料として、基材層上にガスバリア性層である無機物層を設けた積層体が用いられている。
しかしながら、この無機物層は摩擦等に対して弱く、このようなガスバリア性積層体は、後加工の印刷時、ラミネート時または内容物の充填時に、擦れや伸びにより無機物層にクラックが入りガスバリア性が低下することがある。
そのため、ガスバリア性材料として、ガスバリア性層として有機物層を用いた積層体も用いられている。
ガスバリア性層として有機物層を用いたガスバリア性材料として、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物により形成されたガスバリア性層を備える積層体が知られており、このようなガスバリア性積層体に関する技術として、例えば、特許文献1および2に記載のものが挙げられる。
特許文献1には、ポリカルボン酸と、ポリアミンおよび/またはポリオールから製膜されたガスバリア性層を有し、ポリカルボン酸の架橋度が40%以上であるガスバリア性フィルムが開示されている。同文献には、このようなガスバリア性フィルムは高湿度条件下においても低湿度条件下と同様の優れたガスバリア性を有すると記載されている。
特許文献2には、プラスチックフィルムからなる基材の少なくとも片面に、ポリアミンとポリカルボン酸を重量比でポリアミン/ポリカルボン酸=12.5/87.5~27.5/72.5となるように混合してなる混合物が塗布されたフィルムが開示されている。同文献には、このようなガスバリア性フィルムはボイル処理後もガスバリア性、特に酸素遮断性に優れ、かつ可撓性、透明性、耐湿性、耐薬品性等に優れると記載されている。
特開2005-225940号公報 特開2013-10857号公報
ガスバリア性材料の各種特性について要求される技術水準は、ますます高くなっている。ガスバリア性材料においては、水蒸気などの気体のバリア性を一層高めることが求められている。例えば、レトルト食品の製造の際には、レトルト処理、すなわち、食品をガスバリア性材料で包装した後に加熱処理が行われるが、レトルト処理後にも良好なバリア性が得られることが求められている。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、水蒸気などの気体のバリア性が改善されたガスバリア性材料を提供することである。
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
本発明は、以下である。
1.
基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に設けられたガスバリア性層と、前記基材層と前記ガスバリア性層との間に設けられた無機物層と、を備え、
前記ガスバリア性層を飛行時間型二次イオン質量分析した際の、PO の質量ピーク強度をI(PO )、PO の質量ピーク強度をI(PO )、C の質量ピーク強度をI(C )としたとき、{I(PO )+I(PO )}/I(C )の値が0.02~5であり、
前記ガスバリア性層は、Zn、Ca、Mg、BaおよびAlからなる群より選ばれる1または2以上の金属元素を含み、前記ガスバリア性層をX線光電子分光分析することで求められる、前記ガスバリア性層中の前記金属元素の組成比率は1~15atomic%であるガスバリア性積層体。
2.
1.に記載のガスバリア性積層体であって、
前記ガスバリア性層を飛行時間型二次イオン質量分析した際の、CNの質量ピーク強度をI(CN)、C の質量ピーク強度をI(C )としたとき、I(CN)/I(C )の値が2以下であるガスバリア性積層体。
3.
1.または2.に記載のガスバリア性積層体であって、
前記ガスバリア性層を全反射測定法により赤外分光測定することで得られる吸収スペクトルにおいて、
吸収帯1493cm-1以上1780cm-1以下の範囲における全ピーク面積をAとし、吸収帯1493cm-1以上1598cm-1以下の範囲における全ピーク面積をDとしたとき、面積比率D/Aが0.5以上であるガスバリア性積層体。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載のガスバリア性積層体であって、
前記無機物層は前記基材層と接しているか、または、前記無機物層と前記基材層の間にはアンダーコート層が設けられているガスバリア性積層体。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載のガスバリア性積層体であって、
前記無機物層は、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびアルミニウムからなる群から選択される1または2以上の無機物を含むガスバリア性積層体。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載のガスバリア性積層体であって、
前記ガスバリア性層の厚みが0.01~15μmであるガスバリア性積層体。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載のガスバリア性積層体であって、
さらに、前記ガスバリア性層の、前記無機物層とは反対の面側に、シーラント層が設けられたガスバリア性積層体。
8.
7.に記載のガスバリア性積層体であって、
前記シーラント層は前記ガスバリア性層と接しているか、または、前記ガスバリア性層と前記シーラント層とは接着剤層により接着されているガスバリア性積層体。
9.
7.に記載のガスバリア性積層体であって、
前記ガスバリア性層と前記シーラント層の間にポリアミド含有層が設けられたガスバリア性積層体。
10.
1.~9.のいずれか1つに記載のガスバリア性積層体であって、
食品包装用であるガスバリア性積層体。
11.
1.~10.のいずれか1つに記載のガスバリア性積層体であって、
レトルト食品の製造に用いられるガスバリア性積層体。
12.
1.~11.のいずれか1つに記載のガスバリア性積層体により構成された包装用袋。
13.
1.~12.のいずれか1つに記載のガスバリア性積層体により包装された食品。
本発明によれば、気体のバリア性が改善されたガスバリア性材料が提供される。
ガスバリア性積層体の構造の一例を模式的に示す断面図である。 ガスバリア性積層体の構造の一例を模式的に示す断面図である。 質量分析のデータ解析に用いられる三角形状関数Y(m)について説明するための図(グラフ)である。 質量分析のデータのカーブフィッティングの例を示す図(グラフ)である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に図2以降において、図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
<ガスバリア性積層体>
図1は、本実施形態のガスバリア性積層体の構成の一例を模式的に示す断面図である。
ガスバリア性積層体100は、基材層101と、基材層101の少なくとも一方の面に設けられたガスバリア性層103と、基材層101とガスバリア性層103との間に設けられた無機物層102と、を含む。
ガスバリア性層103を飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)した際の、PO の質量ピーク強度をI(PO )、PO の質量ピーク強度をI(PO )、C の質量ピーク強度をI(C )としたとき、{I(PO )+I(PO )}/I(C )の値は、0.02~5、好ましくは0.05~3である。
また、ガスバリア性層103は、Zn、Ca、Mg、BaおよびAlからなる群より選ばれる1または2以上の金属元素を含み、ガスバリア性層103をX線光電子分光分析することで求められる、ガスバリア性層103中の上記金属元素の組成比率は、1~15atomic%、好ましくは1.5~12atomic%である。
{I(PO )+I(PO )}/I(C )の値が0.02~5であるということや、ガスバリア性層103中の上記金属元素の組成比率が1~15atomic%であることは、以下のように意味づけられる。
質量分析によりガスバリア性層103からPO やPO が検出されるということは、ガスバリア性層103が、リン酸を代表例とするリン化合物を含むことを意味する。そして、I(PO )+I(PO )の値は、ガスバリア性層103中のリン化合物の量(濃度)と相関した値であると考えられる。
また、質量分析によりガスバリア性層103からC が検出されるということは、ガスバリア性層103が、ポリアクリル酸またはその誘導体/類似化合物(ポリアクリル酸等)のポリカルボン酸を含むことを意味する。そして、I(C )の値は、ガスバリア性層103中に含まれるポリカルボン酸のカルボキシル基の量(濃度)と相関した値であると考えられる。
本発明者らの知見・検討によれば、リン酸を代表例とするリン化合物は、Zn、Ca、Mg、Ba、Alなどの多価金属と相互作用して、ガスバリア性層103中でリン酸-多価金属結合を形成しうる。詳細は不明であるが、このリン酸-多価金属の結合は、水和により切断されにくい結合であるため、レトルト処理などに耐性があり、リン酸-多価金属の結合の存在により、レトルト処理後においても良好なガスバリア性が得られると考えられる。
{I(PO )+I(PO )}/I(C )の値が0.02~5であるということは、ガスバリア性層103中に、ポリカルボン酸等を基準として相対的に十分な量のリン化合物が含まれていることを意味する。
また、ガスバリア性層103中の上記金属元素の組成比率は1~15atomic%であることは、ガスバリア性層103中に、リン酸等と架橋する多価金属が適量含まれていることを意味する。
つまり、ガスバリア性層103の{I(PO )+I(PO )}/I(C )の値が0.02~5であり、ガスバリア性層103中の上記金属元素の組成比率が1~15atomic%であるということは、ガスバリア性層103中に、十分な量のリン酸-多価金属の結合(レトルト処理などに耐性がある)が存在することに対応している。
ちなみに、本発明者らの知見によれば、ガスバリア性層103が、Zn、Ca、Mg、BaおよびAlのいずれか1種以上の金属元素を含むことで、ガスバリア性層103には、例えば、ポリアクリル酸等が有するカルボキシ基と金属元素との間で形成されうる-COO...M...OOC-のような架橋構造が導入されると考えられる。バリア性層103がこのような架橋構造を含むことにより、バリア性が一層高まると考えられる。
念のため述べておくと、「ガスバリア性層103中のZN、Ca、Mg、BaおよびAlの組成比率」とは、ガスバリア性層103が複数種の金属元素を含む場合にはそれらの合計の比率を表す。
TOF-SIMSによるガスバリア性層103の分析について補足しておく。
ガスバリア性層103の内部を分析するため、分析前に、ガスバリア性層103の表層をTOF-SIMS分析装置に付帯するAr-ガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)によりスパッタエッチングし、ガスバリア性層103の内部を露出させることが好ましい。Ar-GCIBの使用は、エッチングによるガスバリア性層103のダメージを軽減する。
Ar-GCIBエッチングの具体的な条件の一例を示す。
GCIB出力:5kV、5μA
GCIB処理時間:TOF-SIMSのスペクトルパターンが変化しなくなった時点
また、TOF-SIMS分析の具体的な条件の一例を示す。
分析装置:アルバック・ファイ社製PHI NaNo TOF II
1次イオン:Bi3++
1次イオン源出力:30kV、0.5μA
分析領域:300×300μm(1次イオンビームの走査領域として)
分析時に装置に付属の低エネルギー電子線および低エネルギーArイオン照射により、帯電中和を実施
TOF-SIMSで得たデータの解析方法について記しておく。
詳細な質量スペクトル解析を行うため、正と負の各2次イオンについて、質量数mと、それに対応するカウント数cをペアとする生データ列、及びTotal IoN CouNts(C)を分析装置より取得することが好ましい。ここで、i=0,1,...,Nである。生データ列は、mについて昇順に並んでいるものとする。Cは、検出器で検出された2次イオンの総カウント数である。
注目する質量スペクトルピーク周辺の質量数の範囲をi=N,N+1,...,Nとする。分析で得た、この範囲のカウント数のデータcを、次式のようなyで近似する。具体的には、バックグランドレベルbと、K個の三角形状関数Y(m)を用いたカーブフィッティングにより、cを近似する。
Figure 0007541911000001
上記数式において、bは定数である。Y(m)は、図3に示すような、質量数x の時にピーク値Y を持つ関数(三角形状関数)で、次式で表される。
Figure 0007541911000002
三角形状関数Y(m)の半値幅は、(B +B )/2となる。
、x 、Y 、B 、B がフィッティングパラメータとなる。jは、j=1,...,Kである。
例えば、スペクトルのバックグランドが一定値でなく、mに対して直線的に変化する場合は、bと三角形状関数Y(m)とを組み合わせて、バックグランドを近似する。
注目する質量スペクトルピークがシングルピークの場合は、バックグランドを除き、1つの三角形状関数で近似することとし、その他の質量ピークと近接している場合は、その他の質量ピークも含め複数の三角形状関数を用いて近似するものとする。
近似した注目する質量スペクトルピークが、K個の三角形状関数のうち、j=k番目のピークであるとすると、ピーク強度Iは、i=N,...,NまでのY(m)の総和を、Total IoN CouNts(C)で規格化した数値で表し、次式から求める。
Figure 0007541911000003
質量スペクトルピークにテール部分が存在すると、カウントすべき質量数の範囲を定義する事が困難になる。よって、上記ではこれを避けるべく、質量スペクトルピークを三角形状関数で近似した。これにより、質量スペクトルピークのテール部分のカウント数は無視する。質量スペクトルピークの中央部分が、三角形状関数に合うようにカーブフィッティングを行うものとする。
本実施形態において注目しているフラグメントの質量数を計算して以下に示しておく。同位体の原子質量は、https://physics.nist.gov/に依った。
Figure 0007541911000004
本実施形態において注目しているフラグメントの質量ピーク強度の算出について補足しておく。
(PO の質量ピーク強度の算出)
負の2次イオンスペクトルの質量数=62.5~63.3の範囲に着目し、3116 に相当する62.964近傍の質量ピークを近似した三角形状関数とmのデータから、カウント数の総和を計算し、Cで規格化した値をPO の質量ピーク強度I(PO )とする。
カーブフィッティングの例を図4に、その際に用いたパラメータとカウント数の総和の計算結果を下表に示す。ターゲットであるPO の質量ピーク形状を近似した三角形状関数とmのデータから得たカウント数の総和が436である。この時の負の2次イオンのTotal IoN CouNts(CT)=6838528であるので、PO の質量ピーク強度I(PO )は、以下のようになる。
I(PO )=436/6838528=5.48×10-5
Figure 0007541911000005
カーブフィッティングの例を示す図4について補足しておく。
(i)ターゲットとするピーク位置近傍の測定データcを再現する近似曲線yを得るには、「バックグランドb」と「他の成分の三角形状関数近似」の曲線と、「ターゲットとする三角形状関数Y(m)」の曲線が必要である。
(ii)図4の例では、質量数(m/z)が62.94~62.98近傍において、測定データcを再現した「近似曲線y」を、得るために、「バックグランドb」と、「ターゲットとする三角形状関数Y(m)」の曲線(表2において、j=1)と、「他の成分の三角形状関数近似」の曲線(表2において、j=0)を用いた。
(iii)m/zが63~63.05付近の大きなピークを三角形状関数で近似していないのは、ターゲットとするピーク成分と明らかに重なっていないためである。
(PO の質量ピーク強度の算出)
負の2次イオンスペクトルの質量数=78.5~79.3の範囲に着目し、3116 に相当する78.959近傍の質量ピークを近似した三角形状関数とmのデータから、カウント数の総和を計算し、Cで規格化した値をPO の質量ピーク強度I(PO )とする。
(C の質量ピーク強度の算出)
負の2次イオンスペクトルの質量数=70.7~71.4の範囲に着目し、カーブフィッティングより得た12 16 に相当する71.013近傍の質量ピークを近似した三角形状関数Y(m)とmのデータから、カウント数の総和を計算し、Cで規格化した値をC の質量ピーク強度I(C )とする。
(CNの質量ピーク強度の算出)
負の2次イオンスペクトルの質量数=70.7~71.4の範囲に着目し、カーブフィッティングより得た1214に相当する26.003近傍の質量ピークを近似した三角形状関数Y(m)とmのデータから、カウント数の総和を計算し、Cで規格化した値をCNの質量ピーク強度I(CN)とする。
X線光電子分光法によるガスバリア性層103の分析について補足しておく。
分析の具体的な条件の一例を示す。
分析装置:KRATOS社製AXIS-NOVA
X線源:単色化Al-Kα
X線源出力:15kV、10mA
分析領域:300×700μm
分析時に帯電補正用の中和電子銃使用
ガスバリア性層103の内部を分析するため、分析前に、ガスバリア性層の表層をスパッタエッチングする事が望ましい。但し、エッチングによるガスバリア性層へのダメージを軽減するため、Ar-ガスクラスターイオンビーム源によるエッチングが望ましい。
ワイドスキャンにより、検出元素を特定し、個々の元素についてナロースキャンでスペクトルを取得する。そして、得られたスペクトルから、Shirley法で求めたバックグラウンドを除き、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて、検出元素の原子組成比率(atomic%)を算出する。
ちなみに、一般的なXPS分析における原子組成比率の検出感度は、0.1atomic%程度とされている。例えば、ガスバリア性層中にリン化合物が微量添加されている場合、XPS分析ではPの含有を検出できない場合がある。
別観点として、ガスバリア性層103は、ある程度多くのカルボン酸塩構造を含むこと(そして、その結果として、フリーのカルボキシ基の量が少ないこと)が好ましい。このことは、ガスバリア性層103が、例えば金属-カルボキシ基の架橋構造をある程度含むことを表したものと言える。ガスバリア性層103がある程度多くのカルボン酸塩構造を含むことにより、ガスバリア性を一層高めることができる。
具体的には、ガスバリア性層103を全反射測定法により赤外分光測定することで得られる吸収スペクトルにおいて、吸収帯1493cm-1以上1780cm-1以下の範囲における全ピーク面積をAとし、吸収帯1493cm-1以上1598cm-1以下の範囲における全ピーク面積をDとしたとき、面積比率D/Aは、0.5以上が好ましく、0.58以上がより好ましく、0.6以上がより好ましい。D/Aの上限値は、例えば0.8以下である。
赤外分光法の過去知見や本発明者らの知見によれば、フリーのカルボン酸のνC=Oに基づく吸収が1700cm-1付近であることや、カルボン酸塩のν(C=O)に基づく吸収が1540~1560cm-1付近であることから、D/Aを、ガスバリア性層103が含むカルボン酸塩構造の量の指標とすることができる。ちなみに、後述のように、ガスバリア性層103中にポリアミンを含めた場合、アミド結合のν(C=O)に基づく吸収が1630~1685cm-1付近にみられる場合がある。
全反射測定法により赤外分光測定は、具体的には以下のようにして行うことができる。
まず、ガスバリア性層103から1cm×3cmの測定用サンプルを切り出す。
次いで、そのガスバリア性層103の表面の赤外線吸収スペクトルを赤外線全反射測定(ATR法)により得る。
得られた赤外線吸収スペクトル中、1493cm-1における測定点と1780cm-1における測定点とを直線(ベースライン:N)で結び、得られた赤外線吸収スペクトルとNとの差スペクトルを得てこれをスペクトル(SBN)とする。但し、ガスバリア性層103の厚みがおおよそ0.5μm以下の場合、測定された赤外線吸収スペクトルにガスバリア性層よりも下層の影響を含む。
その場合は、ガスバリア性層の無い下層のみで構成される基材も測定サンプルとして用意し、同様に基材表面のATR-IRスペクトルを得て、ベースラインNとの差スペクトルを求め、これをスペクトル(SSN)とする。1493cm-1から1780cm-1の波数範囲において、明らかな吸収ピークを示す場合には、次式に従った差スペクトル解析を行い、基材の影響を除いたスペクトル(SBN')を得る。
<スペクトル(SBN')>=<スペクトル(SBN)>-α*<スペクトル(SSN)>
ここで、αは、基材の影響を除くための係数で、0≦α<1である。
得られた差スペクトル(SBN')において、1493cm-1から1780cm-1の波数範囲のスペクトルの面積を全ピーク面積Aとし、1493cm-1から1598cm-1の波数範囲のスペクトルの面積を全ピーク面積Dとする。
ここで、具体例として、基材層がポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである場合について、基材層や無機層等で構成される基材の影響を除くための係数αの決定方法について補足する。
PETは、1700cm-1近傍に大きな吸収ピークを持つため、1493cm-1から1780cm-1の波数範囲におけるピーク面積の計算に影響する。この影響を除くため、一般的な差スペクトル解析法を用いた。例えば、1493cm-1から1780cm-1の波数範囲に隣接し、ガスバリア性層の吸収ピークと被らないPETの鋭い吸収ピークとして1340cm-1近傍の吸収ピークを選び、これを基準ピークとする。上述した差スペクトル解析で得たスペクトル(SBN')において、1340cm-1近傍の基準ピークが無くなるように係数αを調節する事で、1700cm-1近傍のPETの吸収ピークの影響が除かれたスペクトル(SBN')を得ることができる。
また、係数αは、次のように赤外線吸収スペクトルの面積比として求めることもできる。
ガスバリア性層の表面から測定した赤外線吸収スペクトルと、ガスバリア性層の無い下層のみで構成される基材の赤外線吸収スペクトルについて、1325cm-1における測定点と1355cm-1における測定点とを直線(ベースライン:M)で結び、1325cm-1~1355cm-1の波数範囲において、得られた赤外線吸収スペクトルとベースラインMとの差スペクトルを得て、それぞれスペクトル(SBM)、スペクトル(SSM)とする。スペクトル(SBM)及びスペクトル(SSM)について、1325cm-1以上1355cm-1以下のピーク面積をそれぞれ面積(ABM)、面積(ASM)とすると、係数αは次式から求められる。
α=ABM/ASM
赤外線吸収スペクトルの測定(赤外線全反射測定:ATR法)は、例えば、日本分光社製IRT-5200装置を用い、PKM-GE-S(GermaNium)結晶を装着して入射角度45度、室温、分解能4cm-1、積算回数100回の条件で行うことができる。
図2は、ガスバリア性積層体の他の構成例を模式的に示す断面図である。
図2のガスバリア性積層体110の基本構成は、図1のガスバリア性積層体100と同様であるが、基材層101と無機物層102とが直接には接しておらず、基材層101と無機物層102との間に設けられたアンダーコート層104をさらに含む点で異なる。
ガスバリア性積層体110においても、ガスバリア性積層体100と同様の効果が得られる。加えて、ガスバリア性積層体110では、基材層101と無機物層102との間にアンダーコート層104を設けることにより、基材層101と無機物層102との接着性をさらに向上することができる。
本実施形態のガスバリア性積層体は、適切な素材を適量用い、適切な製造方法・製造条件を選択することにより製造することができる。これらの詳細については追って述べるが、架橋構造の形成という点では、素材の種類や量に加え、例えばガスバリア性層103の形成時の製造条件(後述する加熱処理の温度や時間)を適切に設定することが好ましい。
以下、ガスバリア性積層体が含むことができる層について具体的に説明する。
(ガスバリア性層)
ガスバリア性層103は、例えば、ポリアクリル酸などのポリカルボン酸と、ポリアミン化合物と、多価金属化合物と、を含む混合物の硬化物により構成される。さらに具体的には、ガスバリア性層103は、上記硬化物により構成されたフィルム(ガスバリア性フィルム10)である。
さらに具体的には、ガスバリア性層103は、例えば、無機物層102等のガスバリア性層103の直下に配置される層に、硬化前の混合物(ガスバリア用塗材)を塗布した後、乾燥、熱処理を行い、ガスバリア用塗材を硬化させて得ることができる。
以下、硬化前の混合物(ガスバリア用塗材)が含むことができる成分について説明する。これら成分の種類や量を適切に選択してガスバリア性層103を設けることにより、本実施形態のガスバリア性積層体を製造することができる。
・ポリカルボン酸
ポリカルボン酸は、分子内に2個以上のカルボキシ基を有するものである。具体的には、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、桂皮酸、3-ヘキセン酸、3-ヘキセン二酸等のα,β-不飽和カルボン酸の単独重合体またはこれらの共重合体が挙げられる。また、上記α,β-不飽和カルボン酸と、エチルエステル等のエステル類、エチレン等のオレフィン類等との共重合体であってもよい。
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、桂皮酸の単独重合体またはこれらの共重合体が好ましく、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、および、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群から選択される1または2以上の重合体であることがより好ましく、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸から選択される少なくとも一種の重合体であることがさらに好ましく、アクリル酸の単独重合体およびメタクリル酸の単独重合体から選択される少なくとも1つの重合体であることがさらにより好ましい。
ここで、本実施形態において、ポリアクリル酸とは、アクリル酸の単独重合体、アクリル酸と他のモノマーとの共重合体の両方を含む。アクリル酸と他のモノマーとの共重合体の場合、ポリアクリル酸は、重合体100質量%中に、アクリル酸由来の構成単位を、通常は90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上含む。
また、本実施形態において、ポリメタクリル酸とは、メタクリル酸の単独重合体、メタクリル酸と他のモノマーとの共重合体の両方を含む。メタクリル酸と他のモノマーとの共重合体の場合、ポリメタクリル酸は、重合体100質量%中に、メタクリル酸由来の構成単位を、通常は90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上含む。
ポリカルボン酸はカルボン酸モノマーが重合した重合体である。ポリカルボン酸の分子量は、ガスバリア性および取扱い性のバランスに優れる観点から、500~2,500,000が好ましく、5,000~2,000,000がより好ましく、10,000~1,500,000がより好ましく、100,000~1,200,000がさらに好ましい。
ここで、本実施形態において、ポリカルボン酸の分子量はポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
ポリカルボン酸は、揮発性塩基により少なくとも一部が中和されていてもよい。揮発性塩基でポリカルボン酸を中和することにより、多価金属化合物やポリアミン化合物とポリカルボン酸とを混合する際に、ゲル化が起こることを抑制することができる。したがって、ポリカルボン酸において、ゲル化防止の観点から揮発性塩基によってカルボキシ基の部分中和物または完全中和物とすることが好ましい。中和物は、ポリカルボン酸のカルボキシ基を揮発性塩基で部分的にまたは完全に中和する、すなわち、ポリカルボン酸のカルボキシ基を部分的または完全にカルボン酸塩とすることにより得ることができる。このことにより、ポリアミン化合物や多価金属化合物を添加する際、ゲル化を防止できる。
部分中和物は、ポリカルボン酸重合体の水溶液に揮発性塩基を添加することにより調製するが、ポリカルボン酸と揮発性塩基の量比を調節することにより、所望の中和度とすることができる。本実施形態においてはポリカルボン酸の揮発性塩基による中和度は、ポリアミン化合物のアミノ基との中和反応に起因するゲル化を十分に抑制する観点から、70~300当量%が好ましく、90~250当量%がより好ましく、100~200当量%がさらに好ましい。
揮発性塩基としては、任意の水溶性塩基を用いることができる。
揮発性塩基としては、たとえば、アンモニア、モルホリン、アルキルアミン、2-ジメチルアミノエタノール、N-メチルモノホリン、エチレンジアミン、トリエチルアミン等の三級アミンまたはこれらの水溶液、あるいはこれらの混合物が挙げられる。良好なガスバリア性を得る観点から、アンモニア水溶液が好ましい。
・ポリアミン化合物
硬化前の混合物は、好ましくはポリアミン化合物を含む。ポリアミン化合物は、ポリカルボン酸と反応して架橋構造(アミド結合)を形成することができる。これにより、ガスバリア性を一層高めることができる。
ポリアミン化合物は、主鎖あるいは側鎖あるいは末端にアミノ基を2つ以上有する化合物であり、好ましくはポリマーである。具体的には、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリ(トリメチレンイミン)等の脂肪族ポリアミン類;ポリリジン、ポリアルギニンのように側鎖にアミノ基を有するポリアミド類;等が挙げられる。また、アミノ基の一部を変性したポリアミンでもよい。
良好なガスバリア性を得る観点から、ポリアミン化合物は好ましくはポリエチレンイミンを含み、より好ましくはポリエチレンイミンである。
ポリアミン化合物の数平均分子量は、ガスバリア性および取り扱い性のバランスに優れる観点から、50~2,000,000が好ましく、100~1,000,000がより好ましく、1,500~500,000がさらに好ましく、1,500~100,000がさらにより好ましく、1,500~50,000がさらにより好ましく、3,500~20,000がさらにより好ましく、5,000~15,000がさらにより好ましく、7,000~12,000がよりいっそう好ましい。
ポリアミン化合物の分子量は、沸点上昇法や粘度法を用いて測定することができる。
(混合物中のポリアミン化合物に含まれるアミノ基のモル数)/(混合物中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)は、レトルト処理後のガスバリア性能をより一層向上する観点から、好ましくは0.20以上であり、より好ましくは0.25以上、さらに好ましくは0.30以上、さらにより好ましくは0.35以上、よりいっそう好ましくは0.40以上である。
同様の観点から、(混合物中のポリアミン化合物に含まれるアミノ基のモル数)/(混合物中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)は、好ましくは0.90以下であり、より好ましくは0.85以下、さらに好ましくは0.80以下、さらにより好ましくは0.75以下、よりいっそう好ましくは0.70以下である。
かかる理由の詳細は、明らかではないが、ポリアミン化合物を構成するアミノ基によるアミド架橋と、ポリカルボン酸と多価金属との塩を構成する多価金属による金属架橋がバランスよく緻密な構造を形成することにより、レトルト処理後のガスバリア性能に優れたガスバリア性層103およびこれを有するガスバリア性積層体を得ることができると考えられる。
ポリアミン化合物に関連し、ガスバリア性層103を飛行時間型二次イオン質量分析した際の、CNのピーク強度をI(CN)、C のピーク強度をI(C )としたとき、I(CN)/I(C )の値は、2以下、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.5以下である。I(CN)/I(C )の値の下限は、例えば0、好ましくは0.2、さらに好ましくは0.4である。飛行時間型二次イオン質量分析の詳細については前述の通りである。
質量分析で検出されるCNは、ポリアミンに由来すると考えられる。よって、I(CN)/I(C )の値が適当な数値であることは、上記の「ポリアミン化合物を構成するアミノ基によるアミド架橋と、ポリカルボン酸と多価金属との塩を構成する多価金属による金属架橋がバランスよく緻密な構造を形成すること」に対応していると考えられる。
・金属
前述のように、ガスバリア性層103は、好ましくはZn、Ca、Mg、BaおよびAlからなる群より選ばれる1または2以上の金属元素を含む。よって、硬化前の混合物は、これら金属の化合物を含むことが好ましい。これらの中でも、レトルト食品の包装への適用を鑑みると、Mg含有化合物およびZn含有化合物が好ましく、Zn含有化合物がより好ましい。
金属化合物としては、上記金属の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩等が挙げられる。耐水性や不純物等の観点からは、金属の酸化物もしくは金属水酸化物が好ましい。
好ましく使用可能な金属化合物としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム等の酸化物および水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化亜鉛等の水酸化物からなる群から選択される1または2以上の化合物であり、より好ましくは酸化亜鉛および水酸化亜鉛の少なくとも1つであり、さらに好ましくは酸化亜鉛である。
本実施形態において、(混合物中の金属化合物のモル数)/(混合物中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)は、レトルト処理後のガスバリア性能をより一層向上する観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.13以上、さらに好ましくは0.15以上、さらにより好ましくは0.18以上である。
同様の観点から、(混合物中の多価金属化合物のモル数)/(混合物中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)は、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.70以下、さらに好ましくは0.60以下、さらにより好ましくは0.55以下、よりいっそう好ましくは0.50以下である。
本実施形態において、(混合物中の金属化合物のモル数)/(混合物中のポリアミン化合物由来のアミノ基のモル数)は、レトルト処理後のガスバリア性能をより一層向上する観点から、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.35以上、さらに好ましくは0.40以上である。
同様の観点から、(混合物中の金属化合物のモル数)/(混合物中のポリアミン化合物由来のアミノ基のモル数)は、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.60以下、さらに好ましくは0.55以下である。
・リン化合物またはその塩
前述のように、バリア性層103を質量分析したとき、PO および/またはPO が検出される。このようなバリア性層103を設けるためには、硬化前の混合物は、リン化合物またはその塩を含むことが好ましい。
リン化合物またはその塩におけるリン化合物は、分子構造中に1つ以上の-P-OH基を含む。リン化合物は塩として混合物に配合されてもよい。
レトルト処理後の水蒸気バリア性をさらに向上する観点から、リン化合物は、好ましくは2個以上の-P-OH基を含み、より好ましくは3個以上の-P-OH基を含む。また、生産性の観点から、リン化合物中の-P-OH基の数は、例えば10個以下であってもよい。
リン化合物の具体例として、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、これらの誘導体が挙げられる。
ポリリン酸は、具体的には、分子構造中に2以上のリン酸の縮合構造を有し、たとえば、二リン酸(ピロリン酸)、三リン酸、4つ以上のリン酸が縮合したポリリン酸などが挙げられる。
誘導体の具体例として、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉等の上述のリン化合物のエステル;塩化物等のハロゲン化物;十酸化四リン等の無水物;およびニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N',N'-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)等のリン原子に結合する水素原子がアルキル基に置換された構造を有する化合物が挙げられる。
バリア性および生産性のバランスをさらに向上する観点から、リン化合物は、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ホスホン酸およびこれらの塩からなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくはリン酸および亜リン酸、ホスホン酸およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つである。
また、リン化合物の塩における塩の具体例として、ナトリウム、カリウム等の1価の金属の塩;アンモニウム塩が挙げられる。バリア性の観点から、リン化合物の塩は好ましくはアンモニウム塩である。
本実施形態において、(混合物中のリン化合物またはその塩由来のリン化合物のP原子のモル数)/(混合物中のポリカルボン酸由来の-COO-基のモル数)は、バリア性向上の観点から、好ましくは0.0005以上、より好ましくは0.001以上、さらに好ましくは0.003以上、さらにより好ましくは0.005以上である。リン酸のように化学式中にP原子が1個含まれるリン化合物においては、P原子のモル数とリン化合物のモル数は同じ意味になる。
また、バリア性および生産性(塗液の安定性、塗膜の均一性/外観)の観点から、(混合物中のリン化合物またはその塩由来のリン化合物のモル数)/(混合物中のポリカルボン酸由来の-COO-基のモル数)は、好ましくは0.3以下であり、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.08以下、さらにより好ましくは0.05以下である。
・その他の成分
硬化前の混合物は、上述の成分以外の成分を含んでもよい。
例えば、混合物は炭酸系アンモニウム塩をさらに含むことが好ましい。炭酸系アンモニウム塩は、多価金属化合物を、炭酸多価金属アンモニウム錯体の状態にして、多価金属化合物の溶解性を向上させ、多価金属化合物を含む均一な溶液を調製するために添加するものである。硬化前の混合物が炭酸系アンモニウム塩を含むことにより、多価金属化合物の溶解量を増やすことができ、その結果、多価金属化合物が配合された混合物をさらに均質なものとすることができる。
炭酸系アンモニウム塩として、たとえば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられ、揮発しやすく、得られるガスバリア性層に残存し難い点から、炭酸アンモニウムが好ましい。
(混合物中の炭酸系アンモニウム塩のモル数)/(混合物中の金属化合物のモル数)は、多価金属化合物の溶解性をより一層向上する観点から、0.05以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.25以上がさらに好ましく、0.50以上がさらにより好ましく、0.75以上が特に好ましい。
また、ガスバリア用塗材としての塗工性をより一層向上する観点から、(ガスバリア用塗材中の炭酸系アンモニウム塩のモル数)/(ガスバリア用塗材中の金属化合物のモル数)は、10.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましく、1.5以下がさらにより好ましい。
また、硬化前の混合物は、ガスバリア用塗材として塗布する際にはじきが発生するのを抑制する観点から、好ましくは界面活性剤をさらに含む。
界面活性剤の添加量は、混合物の固形分全体を100質量%としたとき、0.01~3質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましい。
界面活性剤としては、例えば、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、良好な塗工性を得る観点から、非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類がより好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、シリコーン系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、含フッ素界面活性剤等が挙げられる。
ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル類としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等を挙げることができる。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類を挙げることができる。
ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル等を挙げることができる。
ソルビタン脂肪酸エステル類としては、例えば、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等を挙げることができる。
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン等を挙げることができる。
アセチレンアルコール系界面活性剤としては、たとえば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3オール等を挙げることができる。
含フッ素系界面活性剤としては、例えば、フッ素アルキルエステル等を挙げることができる。
硬化前の混合物は、上述の成分以外の添加剤を含んでもよい。例えば、滑剤、スリップ剤、アンチ・ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機また有機の充填剤等の各種添加剤を含んでもよい。
また、硬化前の混合物の固形分濃度は、ガスバリア用塗材として塗工する際の塗工性を向上する観点から、0.5~15質量%とすることが好ましく、1~10質量%とすることがさらに好ましい。
・ガスバリア性層の製造方法
ガスバリア性層103は、具体的には、硬化前の混合物(ガスバリア性用塗材)を塗工し、硬化することにより製造できる。
混合物は、以下のようにして得ることができる。
まず、ポリカルボン酸に、適宜揮発性塩基を加えることによりポリカルボン酸のカルボキシ基を完全にまたは部分的に中和する。さらに多価金属塩化合物および適宜炭酸系アンモニウム塩を混合して、揮発性塩基と中和した上記ポリカルボン酸のカルボキシ基の全部または一部、および揮発性塩基と中和しなかったポリカルボン酸のカルボキシ基において金属塩を形成する。
その後、さらにポリアミン化合物を添加し、最後にリン化合物またはその塩を添加することによって、硬化前の混合物が得られる。これにより、リン化合物と多価金属化合物またはポリアミンのアミノ基とにおいて塩が形成される。
このような手順でポリカルボン酸、多価金属塩化合物、リン化合物またはその塩、適宜炭酸系アンモニウム塩およびポリアミン化合物を混合することにより、凝集物の生成を抑制でき、より均一な混合物を得ることができる。これにより、ポリカルボン酸に含まれる-COO-基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基との脱水縮合反応をより効果的に進めることが可能となる。
より詳細には、以下の通りである。以下では、揮発性塩基および炭酸系アンモニウム塩を混合物中に配合する場合を例に説明する。
まず、ポリカルボン酸を構成するカルボキシ基の完全または部分中和溶液を調製する。
ポリカルボン酸に、揮発性塩基を添加して、ポリカルボン酸のカルボキシ基が完全中和または部分中和する。当該ポリカルボン酸のカルボキシ基を中和することにより、多価金属化合物やポリアミン化合物の添加時にポリカルボン酸を構成するカルボキシ基と、多価金属化合物やポリアミン化合物を構成するアミノ基とが反応することによって発生するゲル化を効果的に防止し、より均一な混合物を得ることができる。
次いで、多価金属塩化合物および炭酸系アンモニウム塩を添加、溶解させ、生成された多価金属イオンによりポリカルボン酸を構成する-COO-基との多価金属塩を形成する。このとき多価金属イオンと塩を形成する-COO-基は上記塩基と中和しなかったカルボキシ基および塩基によって中和された-COO-基の双方をいう。塩基と中和した-COO-基の場合は上記多価金属化合物由来の多価金属イオンが入れ替わって配位して-COO-基の多価金属塩を形成する。
そして、多価金属塩を形成した後、さらにポリアミン化合物、および、リン化合物またはその塩を添加することによって、混合物を得ることができる。このとき、-COO-基に配位した多価金属塩がリン化合物中の-P-O基にも配位して、-COO-多価金属-O-P-構造が形成される。また、ポリアミン中の-NH基とリン化合物中の-P-O基との間にイオン結合が形成される。
このように製造された混合物をガスバリア用塗材として無機物層102または無機物層102上に形成されたガスバリア性層103との介在層上に塗布し、乾燥、硬化させることにより、ガスバリア性層103を形成する。このとき、ポリカルボン酸を構成する-COO-基の多価金属塩の多価金属が金属架橋を形成し、ポリアミンを構成するアミノ基によりアミド架橋を形成し、リン化合物中の-P-O基と多価金属またはポリアミン中のアミノ基とのイオン架橋を形成して、優れたガスバリア性を有するガスバリア性層103が得られる。ガスバリア性層103のより詳細な製造方法については後述する。
乾燥、硬化後のガスバリア性層103の厚みは、バリア性向上の観点から、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上である。
また、ガスバリア性積層体全体の薄型化の観点から、乾燥、硬化後のガスバリア性層103の厚みは、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。
(基材層)
基材層101は、単層であっても、2種以上の層であってもよい。基材層101の形状は、限定されないが、たとえば、シートまたはフィルム形状、トレー、カップ、中空体等の形状が挙げられる。
基材層101の材料としては、基材層101上に無機物層102を安定的に形成でき、また、無機物層102の上部にガスバリア用塗材の溶液を塗工できるものであれば、限定されず、用いることができる。基材層101の材料として、たとえば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂や紙等の有機質材料;ガラス、陶、セラミック、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素、セメント、アルミニウム、酸化アルミニウム、鉄、銅、ステンレス等の金属等の無機質材料;有機質材料同士または有機質材料と無機質材料との組み合せからなる多層構造の基材層等が挙げられる。これらの中でも、たとえば、包装材料やパネル等の各種フィルム用途の場合、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を用いたプラスチックフィルム、または、紙等の有機質材料が好ましい。
熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂を用いることができる。たとえば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。たとえば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、フッ素樹脂あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
これらの中でも、透明性を良好にする観点では、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミドおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1または2以上の樹脂が好ましい。
また、耐ピンホール性、耐破れ性および耐熱性等に優れる観点では、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1または2以上の樹脂が好ましい。同様の観点から、基材層101は、好ましくはポリアミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1または2以上の樹脂を含む層であり、より好ましくはこれら1または2以上の樹脂の層である。
また、基材層101にポリアミド等の吸湿性のある材料を用いた場合、ガスバリア性積層体において、基材層101が水分を吸収して膨潤し、高湿度下のガスバリア性能やレトルト処理後のガスバリア性能、酸性の内容物を充填した際のガスバリア性能等が低下しやすいが、本実施形態においては、基材層101として、吸湿性のある材料を用いた場合でも、ガスバリア性積層体の高湿度下でのガスバリア性能やレトルト処理後のガスバリア性能の低下を好適に抑制することができる。
また、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂により形成されたフィルムを少なくとも一方向、好ましくは二軸方向に延伸して基材層101もよい。
透明性、剛性および耐熱性に優れる観点から、基材層101は、好ましくはポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミドおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1または2以上の熱可塑性樹脂により形成された二軸延伸フィルムであり、より好ましくはポリアミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1または2以上の熱可塑性樹脂により形成された二軸延伸フィルムである。
また、基材層101の表面に、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニアルコール共重合体、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等がコーティングされていてもよい。
さらに、基材層101はガスバリア性層103との接着性を改良するために、表面処理が施されたものであってもよい。具体的には、基材層101のガスバリア性層103との対向面に、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、プライマーコート処理等の表面活性化処理をおこなってもよい。
基材層101の厚さは、良好なフィルム特性を得る観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。
(アンダーコート層)
図2で説明したように、基材層101と無機物層102との間にはアンダーコート層104が設けられてもよい。
アンダーコート層104を設けることによりこれらの接着性をさらに向上することができ、また、レトルト処理後におけるバリア性をさらに向上することができる。
基材層101と無機物層102との接着性向上の観点から、アンダーコート層104の材料としては、たとえば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、オキサゾリン樹脂、(メタ)アクリル樹脂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
ポリウレタン樹脂としては、各種ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリ尿素樹脂およびそれらのプレポリマー等が例示できる。このようなウレタン樹脂の具体例としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート等のジイソシアネート成分と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエチレングリコール等のジオール成分との反応物;末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、アミノ化合物、アミノスルホン酸塩、ポリヒドロキシカルボン酸、重亜硫酸等との反応物;等を挙げることができる。
また、レトルト処理後におけるバリア性および基材層101と無機物層102との間の接着性をさらに良好にする観点から、アンダーコート層104において、ポリウレタン樹脂が、芳香族環構造を主鎖に有するポリウレタン樹脂により構成されていることも好ましい。芳香族環構造を主鎖に有するポリウレタン系樹脂は、たとえば、ポリオールと有機ポリイソシアネートと鎖伸長剤との反応により水分散型ポリウレタン樹脂として得ることができる。これにより、ポリウレタン系樹脂の主鎖に芳香族環構造を導入することができる。
芳香族環構造を主鎖に有するポリウレタン樹脂として、さらに具体的には、特開2018-171827号公報に記載のものを用いることができる。
水分散型ポリウレタン樹脂などのポリウレタン樹脂については、耐熱性、耐水性、および耐加水分解性等を向上する目的で架橋剤を併用してもよい。架橋剤は、ポリウレタン樹脂にとは別成分である外部架橋剤でもよく、ポリウレタン樹脂の分子構造内に予め架橋構造となる反応点を導入する内部架橋剤でもよい。
架橋剤としては、イソシアネート基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基、メラミン樹脂、およびシラノール基等を有する化合物を好適に用いることができ、カルボジイミド基を有する化合物がさらに好適である。また、カルボジイミド基を有する化合物を架橋剤として用いる場合、カルボジイミド基を有する化合物の添加量は、ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基1.0molに対し、カルボジイミド基が好ましくは0.1~3.0mol、さらに好ましくは0.2~2.0mol、特に好ましくは0.3~1.0molとなるような量である。
アンダーコート層104に用いられるポリエステル樹脂としては、各種ポリエステル樹脂およびそれらの変性物が例示できる。このようなポリエステル樹脂の具体例としては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、2-スルホイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、ドデカン二酸等の多価カルボン酸成分と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール等のジオール成分との反応物が挙げられ、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等による変性物も含まれる。
アンダーコート層104にオキサゾリン樹脂を使用する場合、アンダーコート層104は、オキサゾリン基含有水性ポリマー、水性(メタ)アクリル樹脂および水性ポリエステル樹脂を含むオキサゾリン系樹脂組成物により構成されていることが好ましい。
オキサゾリン系樹脂組成物は、たとえば、オキサゾリン基含有量が6.0~9.0mmol/gであるオキサゾリン基含有水性ポリマー、カルボキシル基含有量が0.5~3.5mmol/gである水性(メタ)アクリル樹脂およびカルボキシル基含有量が0.5~2.0mmol/gである水性ポリエステル樹脂により構成されている。
また、オキサゾリン系樹脂組成物は、オキサゾリン基含有水性ポリマー、水性(メタ)アクリル樹脂および水性ポリエステル樹脂の合計量を100質量%として、たとえば、オキサゾリン基含有水性ポリマーを10~55質量%、水性(メタ)アクリル樹脂を10~80質量%、水性ポリエステル樹脂を10~80質量%含有する。
また、オキサゾリン系樹脂組成物においては、たとえば、オキサゾリン基のモル数とカルボキシル基のモル数の比率〔オキサゾリン基のモル数(xmmol)とカルボキシル基のモル数(ymmol)の比(x/y)×100[mol%]で示される。〕が150~420mol%である。
アンダーコート層104に用いられるオキサゾリン樹脂として、さらに具体的には、国際公開第2016/186074号に記載のものを用いることができる。
アンダーコート層104の厚さは、良好な接着性を得る観点から、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.005μm以上、さらに好ましくは0.01μm以上、さらにより好ましくは0.05μm以上、よりいっそう好ましくは0.1μm以上、さらにまた好ましくは0.2μm以上である。
また、経済的であるという観点からアンダーコート層104の厚さは、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.6μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下、さらにより好ましくは0.1μm、よりいっそう好ましくは0.05μm以下である。
(無機物層)
無機物層102を構成する無機物は、たとえば、バリア性を有する薄膜を形成できる金属、金属酸化物、金属窒化物、金属弗化物、金属酸窒化物等が挙げられる。
無機物層102を構成する無機物としては、たとえば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表2A族元素;チタン、ジルコニウム、ルテニウム、ハフニウム、タンタル等の周期表遷移元素;亜鉛等の周期表2B族元素;アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の周期表3A族元素;ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表4A族元素;セレン、テルル等の周期表6A族元素等の単体、酸化物、窒化物、弗化物、または酸窒化物等から選択される一種または二種以上を挙げることができる(周期表の族名は旧CAS式で示している)。
さらに、上記無機物の中でも、バリア性、コスト等のバランスに優れていることから、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびアルミニウムからなる群から選択される1または2以上の無機物が好ましく、酸化アルミニウムがより好ましい。
なお、酸化ケイ素には、二酸化ケイ素の他、一酸化ケイ素、亜酸化ケイ素が含有されていてもよい。
無機物層102は上記無機物により形成されている。無機物層102は、バリア性、コスト等のバランスに優れていることから、好ましくは酸化アルミニウムにより構成された酸化アルミニウム層を含む。
無機物層102は単層の無機物層から構成されていてもよいし、複数の無機物層から構成されていてもよい。また、無機物層102が複数の無機物層から構成されている場合には同一種類の無機物層から構成されていてもよいし、異なった種類の無機物層から構成されていてもよい。
無機物層102の厚さは、バリア性向上および取り扱い性向上のバランスの観点から、通常1nm以上であり、好ましくは4nm以上であり、また、通常1000nm以下であり、好ましくは500nm以下である。
ここで、無機物層102の厚さは、たとえば透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡による観察画像により求めることができる。
無機物層102の形成方法は限定されず、たとえば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学気相成長法、物理気相蒸着法、化学気相蒸着法(CVD法)、プラズマCVD法、ゾルゲル法等により基材層101の片面または両面に無機物層102を形成することができる。中でも、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相蒸着法(CVD)、物理気相蒸着法(PVD)、プラズマCVD法等の減圧下での製膜が望ましい。これにより、窒化珪素や酸化窒化珪素等の珪素を含有する化学的に活性な分子種が速やかに反応することにより、無機物層102の表面の平滑性が改良され、孔を少なくすることができるものと予想される。これらの結合反応を迅速におこなうには、その無機原子や化合物が化学的に活性な分子種もしくは原子種であることが望ましい。
また、ガスバリア性積層体のバリア性と生産性とのバランスを向上する観点から、無機物層102は好ましくは蒸着膜である。
無機物層102は、ガスバリア性積層体のバリア性と生産性とのバランスを向上する観点から、基材層101上に、あるいは、基材層101と無機物層102との間に介在層を有する場合にはかかる介在層上に設けられた蒸着膜であって、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびアルミニウムからなる群から選択される1または2以上の無機物により構成される。
(シーラント層)
レトルト食品の製造などの実用上の観点から、ガスバリア性層103の、無機物層102とは反対の面側に、シーラント層が設けられていることが好ましい。
シーラント層はガスバリア性層103と接しているか、または、ガスバリア性層103とシーラント層とは接着剤層により接着されている。接着剤層については追って説明する。
シーラント層は、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-1-ペンテン、オクテン-1等のα-オレフィンの単独重合体もしくは共重合体、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリエチレン、ホモポリプロピレン、プロピレンと炭素数が2または4以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体、低結晶性あるいは非晶性のエチレン・プロピレンランダム共重合体等から選択される一種または二種以上のポリオレフィンを含む樹脂組成物により形成される層、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を含む樹脂組成物により形成される層、EVAおよびポリオレフィンを含む樹脂組成物により形成される層などが挙げられる。
これらの中でも、ヒートシール性の観点から、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ホモポリプロピレン、および、プロピレンと炭素数2または4~10のα-オレフィンとのランダム共重合体から選ばれる一種または二種以上の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
また、熱可塑性樹脂の形態として、無延伸または延伸された低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(延伸LLDPE)、プロピレンと炭素数が2または4以上10以下のα-オレフィンとのランダムコポリマーなども好ましい。
レトルト食品の製造への適用の観点では、シーラント層は、無延伸のポリプロピレン系ポリマーを含むことが好ましい。ポリプロピレン系ポリマーとしては、プロピレンのホモポリマー、プロピレンと炭素数が2または4以上10以下のα-オレフィンとのランダムコポリマーなどが挙げられる。
シーラント層は、熱可塑性樹脂以外の成分を含んでもよい。例えば、防曇剤やアンチブロッキング剤等の添加剤、ウレタン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキッド系樹脂等の接着性の樹脂が含まれていてもよい。
また、シーラント層は接着剤として設けてもよく、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキッド系樹脂等の接着性樹脂を含む接着剤を乾燥・硬化させることにより設けることができる。
シーラント層の厚みは、好ましくは10~100μm、より好ましくは15~80μm、更に好ましくは20~60μmである。この厚みとすることで、十分なヒートシール性を得つつ、フィルムのハンドリング性を良好とすることができる。
(接着剤層)
ガスバリア性積層体には、接着剤層がさらに設けられてもよい。具体的には、ガスバリア性層103と上述のシーラント層とは接着剤層により接着されていてもよい。
接着剤層は、公知の接着剤を含むものであればよい。接着剤としては、有機チタン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性シリコーン樹脂およびアルキルチタネート、ポリエステルポリブタジエン等から組成されているラミネート接着剤、または一液型、二液型のポリオールと多価イソシアネート、水系ウレタン、アイオノマー等が挙げられる。または、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等を主原料とした水性接着剤を用いてもよい。
また、ガスバリア性積層体の用途に応じて、接着剤に硬化剤、シランカップリング剤等の他の添加物を添加してもよい。ガスバリア性積層体の用途が、レトルト等の熱水処理に用いられるものである場合、耐熱性や耐水性の観点から、ポリウレタン接着剤に代表されるドライラミネート用接着剤が好ましく、溶剤系の二液硬化タイプのポリウレタン接着剤がより好ましい。
(ポリアミド含有層)
ガスバリア性層103とシーラント層の間には、ポリアミド含有層(例えば、ナイロン層)が設けられてもよいし、設けられていなくてもよい。ポリアミド含有層を設けることによりフィルム自体の強度を向上させることができる。例えば、包装体の落下時に破袋しにくくなる。
ポリアミド含有層は、例えば、ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等のうち1または2以上を含むことができる。
ポリアミド含有層を設ける場合、その厚みは、8~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましく、13~30μmが特に好ましい。
(ガスバリア性積層体の製造方法)
本実施形態において、ガスバリア性積層体100の製造方法は、基材層101を準備する工程と、基材層101上に無機物層102を形成する工程と、無機物層102が形成された基材層101の上部にガスバリア性層103を形成する工程と、を含むことができる。
無機物層102を形成する工程の後であってガスバリア性層103を形成する工程の前に、無機物層102上にアンダーコート層104を形成する工程をさらに含んでもよい。
基材層101上に無機物層102を形成する工程については、無機物層102の形成方法をとして前述したとおりである。
ガスバリア性層103を形成する工程は、例えば、硬化前の混合物をガスバリア用塗材として無機物層102に塗工し、次いで、乾燥することにより塗工層を得る工程と、上記塗工層を加熱し、ポリカルボン酸に含まれるカルボキシル基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基とを脱水縮合反応させることにより、アミド結合を有するガスバリア性層103を形成する工程と、を含む。
ガスバリア用塗材を無機物層102に塗布する方法は、限定されず、公知の方法を用いることができる。たとえば、メイヤーバーコーター、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、グラビアリバースおよびジェットノズル方式等のグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーターおよびノズルフィードリバースコーター等のリバースロールコーター、5本ロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター、ダイコーター等、公知の塗工機を用いて塗工する方法が挙げられる。
塗工量(ウエット厚み)は、得られるガスバリア性積層体のバリア性能をより良好なものとする観点から、好ましくは0.05μmであり、より好ましくは1μm以上である。
また、得られるガスバリア性積層体がカールすることを抑制する観点、および、ポリカルボン酸に含まれる-COO-基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基との脱水縮合反応をより効果的に進める観点から、ウェット厚みは、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
乾燥および熱処理については、乾燥後、熱処理を行ってもよいし、乾燥と熱処理を同時に行ってもよい。
乾燥、加熱処理する方法は、本発明の効果が得られるものであれば限定されず、ガスバリア用塗材を硬化させられるもの、硬化したガスバリア用塗材を加熱できる方法であればよい。たとえば、オーブン、ドライヤー等の対流伝熱によるもの、加熱ロール等の伝導伝熱によるもの、赤外線、遠赤外線・近赤外線のヒーター等の電磁波を用いる輻射伝熱によるもの、マイクロ波等内部発熱によるものが挙げられる。乾燥、加熱処理に使用する装置としては製造効率の観点から乾燥と加熱処理の双方をおこなえる装置が好ましい。その中でも具体的には乾燥、加熱、アニーリング等の種々の用途に利用できるという観点から熱風オーブンを用いることが好ましく、また、フィルムへの熱伝導効率に優れているという観点から加熱ロールを用いることが好ましい。また、乾燥、加熱処理に使用する方法を適宜組み合わせてもよい。具体的には、熱風オーブンと加熱ロールを併用してもよく、たとえば、熱風オーブンでガスバリア用塗材を乾燥後、加熱ロールで加熱処理をおこなえば、加熱処理工程が短時間となり製造効率の観点から好ましい。また、熱風オーブンのみで乾燥と加熱処理をおこなうことが好ましい。
加熱処理条件については、たとえば、加熱処理温度が80~250℃、加熱処理時間が1秒~10分であり、好ましくは、加熱処理温度が120~240℃、加熱処理時間が1秒~1分、より好ましくは、加熱処理温度が170℃~230℃、加熱処理時間が1秒~30秒、さらに好ましくは、加熱処理温度が200℃~220℃、加熱処理時間が1秒~10秒である。さらに、上述したように加熱ロールを併用することで短時間での加熱処理が可能となる。
なお、架橋構造の形成(例えば、ポリカルボン酸に含まれる-COO-基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基とのアミド結合形成)を効果的に進める観点から、加熱処理温度および加熱処理時間はガスバリア用塗材のウエット厚みに応じて調整することが重要である。適切な加熱処理温度および加熱処理時間を選択することで、適切な架橋構造が形成される。
ガスバリア用塗材が乾燥、熱処理されることにより、ポリカルボン酸のカルボキシル基がポリアミンや多価金属化合物と反応し、共有結合および/またはイオン架橋されることにより、レトルト処理後においても良好なガスバリア性を有するガスバリア性層103が形成される。
(層構成の具体例)
本実施形態において、ガスバリア性積層体を含んで構成される積層構造の具体例を以下に示す。
(積層構造例1)基材層101(PET基材)/無機物層102(アルミナ蒸着層)/ガスバリア性層103/接着剤層/ポリオレフィン層
(積層構造例2)基材層101(PET基材)/アンダーコート層104/無機物層102(アルミナ蒸着層)/ガスバリア性層103/接着剤層/ポリオレフィン層
(積層構造例3)基材層101(PET基材)/無機物層102(アルミナ蒸着層)/ガスバリア性層103/接着剤層/ポリアミド層/接着剤層/ポリオレフィン層
(積層構造例4)基材層101(PET基材)/アンダーコート層104/無機物層102(アルミナ蒸着層)/ガスバリア性層103/接着剤層/ポリアミド層/接着剤層/ポリオレフィン層
ここで、積層構造中に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等のポリオレフィンにより構成されるポリオレフィン層を含むことにより、ガスバリア性積層体において、耐ピンホール性、耐破れ性および耐熱性等を良好にしながら、高湿度下のガスバリア性能やレトルト処理後のガスバリア性能の低下をより一層抑制することができる。
(用途)
本実施形態のガスバリア性積層体は、ガスバリア性能に優れており、例えば、包装材料、中でも高いガスバリア性が要求される内容物の食品包装材料を始め、医療用途、工業用途、日常雑貨用途等さまざまな包装材料として好適に使用することができる。本実施形態のガスバリア性積層体は、特に、食品包装用途に適用されることが好ましく、レトルト食品の製造に適用されることがより好ましい。
また、本実施形態におけるガスバリア性積層体は、高いバリア性能が要求される、真空断熱用フィルム;エレクトロルミネセンス素子、太陽電池等を封止するための封止用フィルム;等としても好適に使用することができる。
<ガスバリア性積層体により構成された包装用袋、ガスバリア性積層体により包装された食品>
上述のガスバリア性積層体により包装用袋を構成することができる。この包装用袋は、例えばレトルト食品の製造に好ましく用いられる。すなわち、ガスバリア性積層体により包装された食品(レトルト食品)を製造することができる。
包装用袋を構成するガスバリア性積層体においては、通常、基材層のある側が外表面側、ガスバリア性層のある側が内表面側となる。シーラント層がある場合にはシーラント層のある側が内表面側となる。
レトルト食品の製造の方法は、当該分野における通常の方法を採用することができる。包装用袋でヒートシールした食品を、100℃以上の加圧熱水・蒸気により湿熱殺菌すること(例えば130℃で30分間程度)により、長期常温保存可能な食品を製造することができる。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
(実施例1)
(1)ガスバリア用塗材の作製
ポリアクリル酸(PAA)水溶液(東亜合成社製、製品名:AC-10H、重量平均分子量:800,000)を精製水で希釈し、PAAの濃度10%の水溶液を作成した。この水溶液中に10%のアンモニア水を添加した。アンモニアの量は、PAAのカルボキシル基1molに対して1.5molのアンモニアになるようにした。このようにして、PAAの濃度が7.38%のポリアクリル酸アンモニウム水溶液を得た。
次いで、得られたポリアクリル酸アンモニウム水溶液に、酸化亜鉛(ZnO:関東化学社製)および炭酸アンモニウム(関東化学社製)を添加して混合、撹拌した。ここで、酸化亜鉛の添加量は、(酸化亜鉛)/(PAAのカルボキシル基)がmol比で0.3となる量とした。また、炭酸アンモニウムは、PAAのカルボキシル基に対してmol比で0.3となる量とした。このようにして、混合液(A)を作製した。
次いで、ポリエチレンイミン(PEI:日本触媒社製、製品名:SP-200、数平均分子量:10,000)に精製水を添加して、PEIの濃度10%のポリエチレンイミン水溶液を得た。
次に、上記混合液(A)と上記ポリエチレンイミン水溶液とを、(PEIの窒素)/(PAAのカルボキシル基)がmol比で0.55となる割合で混合して、混合液(B)を調製した。
さらに、上記混合液(B)に、PAA+ZnO+PEIの固形分濃度が2%になるように精製水を添加し、均一溶液になるまで撹拌した。
さらに、リン酸水素アンモニウム(関東化学社製、(NHHPO)の量がPAAのカルボキシル基1molに対して1×10-3molとなるように、固形分濃度2%のリン酸水素アンモニウム水溶液を添加・撹拌した。
その後、活性剤(花王社製、商品名:エマルゲン120)の量が、PAA+ZnO+PEIの固形分に対して0.3質量%となるように、固形分濃度1%の活性剤水溶液を混合した。
以上のようにして、ガスバリア用塗材を調製した。
(2)ガスバリア性積層体の作製
無機物層として酸化アルミを基材層の12μmPETフィルムに蒸着した透明蒸着フィルム(三井化学東セロ株式会社製、型番:TL-PET-H)をガラス板に張り付けた。この透明蒸着フィルムの蒸着面に、アプリケータにて乾燥後の膜厚が0.2μmとなるようにガスバリア用塗材を塗布した。塗布後、ガラス板ごと120℃で5分熱風乾燥器にて乾燥した。
乾燥したフィルムの両端を固定してフィルムを中空状態としたうえで、150℃で時間1分の条件で熱風乾燥器にて熱処理を行い、透明蒸着フィルム上にガスバリア性層を形成した。このようにしてガスバリア性積層体を作製した。
ガスバリア性層の作製条件を表3に示す。
(3)ガスバリア性層の分析
上記(2)で得られたガスバリア性積層体のガスバリア性層に対して、ATR-IR分析、XPS分析およびTOF-SIMS分析を行った。
(3-1)ATR-IR分析
前述の記載のようにして、基材(PET)の影響を除いたスペクトルを得た。そして、そのスペクトルに基づき、ピーク面積比率D/Aを求めた。
(3-2)XPS分析
ガスバリア性積層体を1×1cmに切断したサンプルを用いて分析した。具体的な分析条件は前述の通りとした。
(3-3)TOF-SIMS分析
まず、前処理として、Ar-GCIBエッチングにより、ガスバリア性層の内部を露出させた。Ar-GCIBエッチングの具体的条件は前述の通りとした。
その後、TOF-SIMS分析を行った。具体的な条件は前述の通りとした。
TOF-SIMS分析で得たデータを上述した方法に基づき解析した結果を表5に示す。表5において、C の強度で規格化した相対質量ピーク強度とは、各フラグメントの質量ピーク強度をC の強度:I(C )で割った値である。
(4)2層ラミネート構造のガスバリア性積層体の作製
厚さ70μmの無延伸ポリプロピレン(三井化学東セロ社製、商品名:RXC-22)のコロナ放電処理面に接着剤を塗工し、上記(2)で得られたガスバリア性積層体のガスバリア性面と張り合わせ、2層ラミネート構造のガスバリア性積層体を作製した。接着剤としては、三井化学社製、商品名:タケラックA525S):9質量部、イソシアネート系硬化剤(三井化学社製、商品名:タケネートA50):1質量部および酢酸エチル:7.5質量部を配合したものを用いた。
(5)レトルト処理後のガスバリア性評価
(4)で得られたガスバリア性積層体を、無延伸ポリプロピレンが内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にした。その後、内容物として水を70cc入れ、もう一方をヒートシールにより袋を作製した。この袋を、高温高圧レトルト殺菌装置を用いて、130℃で30分レトルト処理した。レトルト処理後、内容物の水を抜き、シール部を除いてレトルト処理後(水充填)のフィルムを得た。
上記の方法で得られたレトルト処理後のフィルムを、無延伸ポリプロピレンが内面になるように重ねてガスバリア性積層フィルムを折り返し、2方をヒートシールし、袋状にした。その後、内容物として塩化カルシウムを入れ、もう1方をヒートシールにより表面積が0.01mとなるように袋を作製した。この袋を40℃、90%RHの条件で300時間放置した。放置前後の重量変化により、水蒸気透過率[g/(m・day)]を測定した。
レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に示す。
(実施例2)
リン酸水素アンモニウムの濃度を、ポリアクリル酸のカルボキシル基1molに対し、0.01molにしたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア用塗材を作製し、そしてガスバリア性積層体を作製した。作製条件を表3に併せて示す。
実施例1と同様に、得られたガスバリア積層体のガスバリア性層に対して行った分析の結果を表4および5に示す。また、レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に示す。
(実施例3)
リン酸水素アンモニウムの濃度を、ポリアクリル酸のカルボキシル基1molに対し、0.1molにしたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア用塗材を作製し、そしてガスバリア性積層体を作製した。作製条件を表3に示す。
実施例1と同様に、得られたガスバリア積層体のガスバリア性層に対して行った分析の結果を表4および5に示す。また、レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に示す。
(実施例4)
リン酸水素アンモニウムの濃度を、ポリアクリル酸のカルボキシル基1molに対し、0.2molにしたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア用塗材を作製し、そしてガスバリア性積層体を作製した。作製条件を表3に示す。
実施例1と同様に、得られたガスバリア積層体のガスバリア性層に対して行った分析の結果を表4,5に示す。また、レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に示す。
(実施例5)
実施例1の固形分濃度2%のリン酸水素アンモニウム((NHHPO)水溶液に代え、ホスホン酸(別名、亜リン酸)(関東化学社製、HPO)をアンモニア水で中和した、固形分濃度2%のホスホン酸アンモニウム塩((NHHPO)水溶液を用いたこと、また、ホスホン酸アンモニウム塩の濃度をポリアクリル酸のカルボキシル基1molに対し、0.01molにしたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア用塗材を作製し、そしてガスバリア性積層体を作製した。作製条件を表3に示す。
実施例1と同様に、得られたガスバリア積層体のガスバリア性層に対して行った分析の結果を表4および5に示す。また、レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に示す。
(実施例6)
実施例1の固形分濃度2%のリン酸水素アンモニウム((NHHPO)水溶液に代え、ホスフィン酸(別名、次亜リン酸)(関東化学社製、HPO)をアンモニア水で中和した、固形分濃度2%のホスフィン酸アンモニウム塩((NH)HPO)水溶液を用いたこと、また、ホスフィン酸アンモニウム塩の濃度をポリアクリル酸のカルボキシル基1molに対し、0.01molにしたこと、以外は実施例1と同様にガスバリア用塗材を作製し、そしてガスバリア性積層体を作製した。作製条件を表3に示す。
実施例1と同様に、得られたガスバリア積層体のガスバリア性層に対して行った分析の結果を表4および5に示す。また、レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に示す。
(比較例1)
リン酸水素アンモニウムの濃度を、ポリアクリル酸のカルボキシル基1molに対し、0.0001molにしたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア用塗材を作製し、そしてガスバリア性積層体を作製した。作製条件を表3に示す。
実施例1と同様に、得られたガスバリア積層体のガスバリア性層に対して行った分析の結果を表4および5に示す。また、レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に示す。
(実施例7)
(1)ガスバリア用塗材の作製
まず、ポリアクリル酸(東亜合成社製、製品名:AC-10H、重量平均分子量:800,000)のカルボキシル基に対して10%アンモニア水(和光純薬工業社製)のアンモニアが150当量%になるよう添加、更に精製水を添加して濃度が7.29質量%のポリアクリル酸アンモニウム水溶液を得た。
次いで、得られたポリアクリル酸アンモニウム水溶液に、酸化亜鉛(関東化学社製)および炭酸アンモニウムを添加して混合、撹拌して混合液(A)を作成した。ここで、酸化亜鉛の添加量は、(ガスバリア用塗材中の酸化亜鉛のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリアクリル酸に含まれる-COO-基のモル数)が0.225になる量とした。また、炭酸アンモニウムは、(ガスバリア用塗材中の炭酸系アンモニウム塩のモル数)/(ガスバリア用塗材中の酸化亜鉛のモル数)が1.0になる量とした。
次いで、ポリエチレンイミン(日本触媒社製、製品名:SP-200、数平均分子量:10,000)に精製水を添加して10%溶液にしたポリエチレンイミン水溶液を得た。
また、リン酸水素二アンモニウム(関東化学社製(NHHPO)に精製水を添加して10%水溶液を調製した。
次に、上記混合液(A)、上記ポリエチレンイミン水溶液および上記リン酸水素二アンモニウム溶液を、(ガスバリア用塗材中のポリエチレンイミンに含まれるアミノ基のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリアクリル酸に含まれる-COO-基のモル数)が0.55、また、((NH4HPOのモル数)/(ポリアクリル酸に含まれる-COO-基のモル数)が0.01になる割合で混合して混合液(B)を調製した。
さらに、上記混合液(B)の固形分濃度が1.5%になるように精製水を添加し、均一溶液になるまで撹拌した。そして、活性剤(花王社製、商品名:エマルゲン120)を、混合液(B)の固形分に対して0.3質量%となるように添加、混合した。以上のようにしてガスバリア用塗材を調製した。
(2)ガスバリア性積層体の作製
厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、PET12)のコロナ処理面に、以下の方法でアンダーコート層(UC)を形成した。
厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、PET12)を基材とし、この片面に下記組成の樹脂組成物をメイヤーバーにて塗布して乾燥した。これにより、乾燥後の厚みが0.20μmのアンダーコート(UC)層を形成した。
(組成)
主剤:ポリウレタン樹脂水分散液(三井化学社製、製品名:タケラックWS-4033、芳香族ポリエステル型ポリウレタン樹脂)
架橋剤:カルボジイミド基を有する化合物(日清紡ケミカル社製、製品名:カルボジライトSV-02)
配合比:主剤中のポリウレタン樹脂のカルボキシル基1.0molに対し、架橋剤中のカルボジイミド基が0.4molとなるように、主剤に架橋剤を配合した。」
次に、アンダーコート層上に、以下の方法でアルミナ蒸着層を形成した。
UC層上に、高周波誘導加熱方式により、アルミニウムを加熱蒸発させ、酸素を導入しながら蒸着することで、厚さ7Nmの酸化アルミニウム膜を形成した。これにより酸化アルミニウム蒸着PETフィルムを得た。この酸化アルミニウム蒸着PETフィルムの水蒸気透過度は1.5g/(m・24h)であった。
そして、蒸着層の上に、上記(1)で作製したガスバリア用塗材を、メイヤーバーにて乾燥後の塗工量が0.2μmになるように塗布し、熱風乾燥器を使用して温度;130℃、時間;6.5秒の条件で熱処理した。作製条件を表3に示す。
(3)ガスバリア性層の分析
上記(2)で得られたガスバリア積層体のガスバリア性層に対して、実施例1の(3)と同様の分析をした。分析の結果を表4および5に示す。
(4)2層ラミネート構造のガスバリア性積層体の作製
上記(2)で得られたガスバリア積層体のガスバリア性層に対して、実施例1の(4)と同様に2層ラミネート構造のガスバリア性積層体を作製した。
(5)レトルト処理後のガスバリア性評価
上記(4)で得られたガスバリア性積層体に対して、実施例1の(6)と同様にレトルト処理後のガスバリア性評価を行った。結果を表6に示す。
(実施例8)
リン酸水素二アンモニウムの濃度を、ポリアクリル酸のカルボキシル基1molに対し、0.03molにしたこと以外は、実施例7と同様にガスバリア用塗材を作製し、そしてガスバリア性積層体を作製した。作製条件を表3に示す。
実施例7と同様に、得られたガスバリア積層体のガスバリア性層に対して行った分析の結果を表4および5に示す。また、レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に示す。
Figure 0007541911000006
Figure 0007541911000007
Figure 0007541911000008
Figure 0007541911000009
各表に示される情報より、{I(PO )+I(PO )}/I(C )の値(C の強度で規格化したPO +PO の強度)ある程度大きく、かつ、金属元素(Zn)の組成比率が1~15atomic%であるガスバリア性層を備えるガスバリア性積層体(実施例1~8)は、レトルト処理後においても比較的小さな水蒸気透過率を示した。
<追加実施例:3層ラミネート構造のガスバリア性積層体の作製と評価>
上記実施例1~8では、2層ラミネート構造のガスバリア性積層体を作製し、評価した。
これらに加え、以下のようにして、3層ラミネート構造のガスバリア性積層体の作製・評価も行った。
(実施例2')
(1)ガスバリア用塗材の作製
実施例2と同様にして、まず、ガスバリア用塗材を作製した。
(2)ガスバリア性積層体の作製
ガスバリア用塗材として上記のものを用いた以外は、実施例1の(2)と同様にしてガスバリア性積層体を作製した。
(3)3層ラミネート構造のガスバリア性積層体の作製
まず、厚さ60μmの無延伸ポリプロピレン(三井化学東セロ社製、商品名:RXC-22)のコロナ放電処理面に接着剤を塗工し、厚さ15μmのナイロンフィルム(ユニチカ社製、商品名:(エンブレムONBC)を張り合わせた積層体を用意した。
上記積層体のナイロンフィルム面に接着剤を塗工し、(2)で得られたガスバリア性積層体のガスバリア性面と張り合わせ、3層ラミネート構造のガスバリア性積層体を作製した。使用した接着剤は、実施例1の(4)と同様である。
(4)レトルト処理後のガスバリア性評価
(3)で得られたガスバリア性積層体を、無延伸ポリプロピレンが内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にした。その後、内容物として水を70cc入れ、もう一方をヒートシールにより袋を作製した。この袋を、高温高圧レトルト殺菌装置を用いて、130℃で30分レトルト処理した。レトルト処理後、内容物の水を抜き、シール部を除いてレトルト処理後(水充填)のフィルムを得た。
上記の方法で得られたレトルト処理後のフィルムの酸素透過率[mL/(m・day・MPa)]を、モコン社製OX-TRAN2/21を用いて、JIS K 7126に準じ、20℃、90%RHの条件で測定した。
また、上記の方法で得られたレトルト処理後のフィルムを、無延伸ポリプロピレンが内面になるように重ねてガスバリア性積層フィルムを折り返し、2方をヒートシールし、袋状にした。その後、内容物として塩化カルシウムを入れ、もう1方をヒートシールにより表面積が0.01mとなるように袋を作製した。この袋を40℃、90%RHの条件で300時間放置した。放置前後の重量変化により、水蒸気透過率[g/(m・day)]を測定した。
レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表7に示す。
(実施例5')
ガスバリア用塗材として実施例5で作製したものを用いた以外は、実施例2'と同様にしてガスバリア性積層体を作製した。そして、実施例2'と同様にレトルト処理後のガスバリア性を評価した。評価結果を表7に示す。
(実施例6')
ガスバリア用塗材として実施例6で作製したものを用いた以外は、実施例2'と同様にしてガスバリア性積層体を作製した。そして、実施例2'と同様にレトルト処理後のガスバリア性を評価した。評価結果を表7に示す。
Figure 0007541911000010
表7に示されるとおり、実施例1~8とは層構成が異なる場合においても、レトルト後のガスバリア性は良好であった。
10 ガスバリア性フィルム
100 ガスバリア性積層体
101 基材層
102 無機物層
103 ガスバリア性層
104 アンダーコート層

Claims (13)

  1. 基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に設けられたガスバリア性層と、前記基材層と前記ガスバリア性層との間に設けられた無機物層と、を備え、
    前記ガスバリア性層を飛行時間型二次イオン質量分析した際の、PO の質量ピーク強度をI(PO )、PO の質量ピーク強度をI(PO )、C の質量ピーク強度をI(C )としたとき、{I(PO )+I(PO )}/I(C )の値が0.02~5であり、
    前記ガスバリア性層は、Zn、Ca、Mg、BaおよびAlからなる群より選ばれる1または2以上の金属元素を含む化合物、1つ以上の-P-OH基を含むリン化合物またはその塩、およびポリカルボン酸を含む混合物の硬化物を含み、前記ガスバリア性層をX線光電子分光分析することで求められる、前記ガスバリア性層中の前記金属元素の組成比率は1~15atomic%であるガスバリア性積層体。
  2. 請求項1に記載のガスバリア性積層体であって、
    前記ガスバリア性層を飛行時間型二次イオン質量分析した際の、CNの質量ピーク強度をI(CN)、C の質量ピーク強度をI(C )としたとき、I(CN)/I(C )の値が2以下であるガスバリア性積層体。
  3. 請求項1または2に記載のガスバリア性積層体であって、
    前記ガスバリア性層を全反射測定法により赤外分光測定することで得られる吸収スペクトルにおいて、
    吸収帯1493cm-1以上1780cm-1以下の範囲における全ピーク面積をAとし、吸収帯1493cm-1以上1598cm-1以下の範囲における全ピーク面積をDとしたとき、面積比率D/Aが0.5以上であるガスバリア性積層体。
  4. 請求項1~3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体であって、
    前記無機物層は前記基材層と接しているか、または、前記無機物層と前記基材層の間にはアンダーコート層が設けられているガスバリア性積層体。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体であって、
    前記無機物層は、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびアルミニウムからなる群から選択される1または2以上の無機物を含むガスバリア性積層体。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体であって、
    前記ガスバリア性層の厚みが0.01~15μmであるガスバリア性積層体。
  7. 請求項1~6のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体であって、
    さらに、前記ガスバリア性層の、前記無機物層とは反対の面側に、シーラント層が設けられたガスバリア性積層体。
  8. 請求項7に記載のガスバリア性積層体であって、
    前記シーラント層は前記ガスバリア性層と接しているか、または、前記ガスバリア性層と前記シーラント層とは接着剤層により接着されているガスバリア性積層体。
  9. 請求項7に記載のガスバリア性積層体であって、
    前記ガスバリア性層と前記シーラント層の間にポリアミド含有層が設けられたガスバリア性積層体。
  10. 請求項1~9のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体であって、
    食品包装用であるガスバリア性積層体。
  11. 請求項1~10のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体であって、
    レトルト食品の製造に用いられるガスバリア性積層体。
  12. 請求項1~11のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体により構成された包装用袋。
  13. 請求項1~12のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体により包装された食品。
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