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JP7488709B2 - 猫の排泄行動阻害抑制剤 - Google Patents

猫の排泄行動阻害抑制剤 Download PDF

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JP7488709B2 JP2020121282A JP2020121282A JP7488709B2 JP 7488709 B2 JP7488709 B2 JP 7488709B2 JP 2020121282 A JP2020121282 A JP 2020121282A JP 2020121282 A JP2020121282 A JP 2020121282A JP 7488709 B2 JP7488709 B2 JP 7488709B2
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Description

本発明は、猫の排泄行動の阻害を抑制するための猫の排泄行動阻害抑制剤に関する。
猫は概してきれい好きであり、排泄物等により汚れたトイレを嫌う傾向がある。猫にとって不快なトイレ環境であると、トイレ以外の場所に粗相をしたり、或いは猫がトイレを我慢して膀胱炎を起こしたりすることがある。例えば、2つの異なる環境における猫の排泄行動を観察したところ、狭い室内に小さなトイレ(悪い環境)では、広い室内に大きなトイレ(良い環境)に比べて、排尿回数が少なく、排尿1回あたりの所要時間は長くなるといった行動が観察されたことが報告されている(非特許文献1)。猫自身が不快に感じることなく安心して排泄するためには、猫尿臭等の猫が忌避する要素をトイレ環境から排除することが望まれる。
一方、ペット等の排泄物を処理する処理具において、飼い主に排泄物から生じる臭気が知覚されないようにする目的で、消臭を該処理具に配することが行われている。例えば、特許文献1には、特定の化学式で表されるアルミノシリケートを含有するペット用消臭剤が開示されている。また特許文献2には、フェノール性化合物及び/又はメディエータと、それらを酸化することができる酵素とを含む消臭剤を含有する消臭剤含有製品が開示されている。特許文献1及び2には、アセチルセドレン等の香料をペット用の消臭剤に用いることが開示されている。
しかしながら、これまでにアセチルセドレン及びフロルヒドラルの猫の排泄行動に及ぼす影響を検討した報告例はない。
特開2007-229151号公報 特開2005-65750号公報
Anim. Behav. Sci., 2017, 194,: 67-78
本発明は、猫の排泄行動の阻害を抑制することができる猫の排泄行動阻害抑制剤を提供することに関する。
本発明者は、アセチルセドレン及びフロルヒドラルによって、猫の排泄行動の阻害を抑制し得ることを見出した。
すなわち、本発明は以下の1)~2)に係るものである。
1)アセチルセドレン及びフロルヒドラルからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、猫の排泄行動阻害抑制剤。
2)アセチルセドレン及びフロルヒドラルからなる群より選択される少なくとも1種を、猫が排泄する環境にある対象物に適用することを含む、猫の排泄行動阻害の抑制方法。
本発明によれば、猫の排泄行動の阻害を抑制することができ、猫が我慢をすることなく排泄可能な快適なトイレ環境を提供することができる。
試験例1で用いたシート1で、長手方向に沿う中央域で幅方向に沿って切断したときの厚み方向断面図。 猫用トイレを模式的に示す分解斜視図。 図2に示す猫用トイレの使用状態を示す斜視図。 図3のV-V線に沿う断面模式図。 猫用トイレでの排尿回数と滞在時間の結果を示す図。 (A)シート1に対する嗅ぎ行動の回数と総時間を示す図。(B)シート1に対する到達回数と滞在時間を示す図。 種々の濃度の猫尿臭原因物質に対する嗅覚受容体ポリペプチドの応答。A:FcOR2M3、B:FcOR2M3-like、C:HsOR2M3、いずれも左がMMFに対する応答、右がMMBに対する応答。データは平均値±SE(それぞれn=3)。 アセチルセドレンによる、猫尿臭原因物質に対する嗅覚受容体ポリペプチドの応答の抑制。A:FcOR2M3、B:FcOR2M3-like、C:HsOR2M3、いずれも左がMMFに対する応答、右がMMBに対する応答。横軸はアセチルセドレン濃度、縦軸は応答強度。データは平均値±SE(n=3)。 フロルヒドラルによる、猫尿臭原因物質に対する嗅覚受容体ポリペプチドの応答の抑制。A:FcOR2M3、B:FcOR2M3-like、C:HsOR2M3、いずれも左がMMFに対する応答、右がMMBに対する応答。横軸はフロルヒドラル濃度、縦軸は応答強度。データは平均値±SE(n=3)。
本発明で用いられるアセチルセドレンは、メチルセドリルケトンとも称される化合物であり、1-[(1S,2R,5R,7S)-2,6,6,8-tetramethyltricyclo[5.3.1.01,5]undec-8-en-9-yl]ethanone、CAS登録番号:32388-55-9である。
フロルヒドラルは、β-Methyl-3-(1-methylethyl)benzenepropanal、CAS登録番号:125109-85-5である。
アセチルセドレン及びフロルヒドラルは、いずれも市販のものを購入することができる。例えば、これらの化合物は、International Flavors&Fragrances,Inc.やGivaudan SA等から入手することが可能である。或いは、化学合成によって、該市販品と同一物質又はそれを含む組成物を製造することが可能である。
本発明では、アセチルセドレン及びフロルヒドラルのいずれか一方又は両方を用いる。好ましくはアセチルセドレン及びフロルヒドラルの両方を用いる。この場合、アセチルセドレンとフロルヒドラルの比率は、質量比で1:0.001~1:1が好ましく、1:0.005~1:0.5がより好ましく、さらに、1:0.01~1:0.2が最も好ましい。
アセチルセドレン及びフロルヒドラルは、猫嗅覚受容体であるFcOR2M3及びFcOR2M3-likeの活性化を阻害する物質として機能するアンタゴニスト香料である。FcOR2M3は、猫嗅細胞で発現している嗅覚受容体であり、GenBankにAccession number:XP_011281372として登録されている。FcOR2M3-likeは、GenBankにAccession number:XP_003980593として登録されている、推定猫嗅覚受容体である。
本発明者の研究によって、FcOR2M3及びFcOR2M3-likeが、猫尿臭に特徴的な成分であるチオール類、3-メルカプト-3-メチルブチルフォルメート(MMF)と3-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール(MMB)に応答する猫嗅覚受容体であること、さらに、アセチルセドレン及びフロルヒドラルが、当該FcOR2M3及びFcOR2M3-likeの活性化を阻害する物質として機能することが見出された(後記参考例を参照)。アセチルセドレン及びフロルヒドラルは、これまで香料素材として知られていたが、FcOR2M3及びFcOR2M3-likeに対するアンタゴニスト作用を有することや、チオール類に起因する猫尿臭に対する猫の嗅覚を抑制する機能があることは知られていなかった。
本明細書において、アンタゴニストとは、受容体に結合するが、受容体を活性化しないか、又はアゴニストに対する受容体の応答を抑制する(或いは受容体活性を阻害する)物質をいい、アンタゴニスト香料とは、結合部位が嗅覚受容体である場合に、目的の匂い分子が嗅覚受容体に結合して該受容体が活性化して匂い情報が伝達されるときに、目的の匂い分子を他の分子とともに適用することにより、当該他の分子によって目的の匂い分子に対する嗅覚受容体の活性化を阻害し、結果的に個体に認識される匂いを抑制するために用いられる当該他の分子のことである。つまり、アンタゴニスト香料を用いることで、嗅覚受容体アンタゴニズムによる匂いの抑制を達成することができる。嗅覚受容体アンタゴニズムによる匂いの抑制は、目的の匂い分子と他の匂い分子をともに適用することにより、当該他の匂い分子によって目的の匂い分子に対する受容体応答を阻害し、結果的に個体に認識される匂い(悪臭を含む)を抑制する手段である。嗅覚受容体アンタゴニズムによる匂い抑制は、同様に他の匂い分子を用いる手段であっても、芳香剤等の、目的の匂いを別の強い匂いによって打ち消す手段(いわゆる香りによるマスキング)とは区別される。
このように、アセチルセドレンやフロルヒドラルにより、チオール類臭を嗅覚受容体アンタゴニズムによる匂いの抑制によって抑えることで、猫個体における猫尿臭の認識を抑制できる。
猫は排泄後、自身の排泄物の匂いを隠そうとする性質がある。例えば、猫は、排尿後に自身の尿を砂で埋めて、敵や捕食動物から自分の存在を隠すためのものとして排尿後の砂かきを位置づけている(Spooner, S. K., 1990, Determination of the Normal Ethogram of Feline Urinary Behavior. University of Montreal Masters Thesis.)。猫自身の排泄物の匂いが消えにくいと、排泄後の砂かき時間が延び、且つ、排泄回数自体も少なくなる。すなわち、猫にとって尿臭等の排泄物の匂いは、自身の排泄行動を阻害する要因であり、他方、猫が排泄後に排泄物の匂いを認識しなければ、排泄後の滞在時間は短くなり、且つ、排泄回数は多く、これは猫にとって快適なトイレ環境であるといえる(非特許文献1;Anim. Behav. Sci., 2017, 194,: 67-78)。
後記実施例に示すように、アセチルセドレン及びフロルヒドラルにより、猫の排尿後の滞在時間が短縮され、且つ、排尿回数は多くなる。すなわち、アセチルセドレン及びフロルヒドラルは、嗅覚受容体アンタゴニズムによって猫における猫尿臭の認識を抑制することができ、猫の排泄行動の阻害を抑制する作用を有する。
従って、アセチルセドレン及びフロルヒドラルからなる群より選択される少なくとも1種(以下、本明細書においては「アセチルセドレン及びフロルヒドラルからなる群より選択される少なくとも1種」を「アセチルセドレン等」と記載することがある)は、猫の排泄行動の阻害を抑制する排泄行動阻害抑制剤となり得、また、猫の排泄行動阻害抑制剤を製造するために使用することができる。また、アセチルセドレン等は、猫の排泄行動の阻害を抑制するために使用することができる。排泄行動の阻害が抑制されることにより、猫は安心して排泄可能となり、猫にとって快適なトイレ環境となる。
本明細書において、猫の排泄行動は、好ましくは猫の排尿である。
本発明の猫の排泄行動阻害抑制剤は、アセチルセドレン及びフロルヒドラルからなる群より選択される少なくとも1種を猫の排泄行動阻害を抑制するための有効成分とし、該化合物から本質的に構成されていてもよいが、さらに他の成分を含む組成物であってもよい。
他の成分としては、例えば、抗菌剤、界面活性剤、消臭剤、キレート剤、水溶性溶剤、油分、pH調整剤、保湿剤、増粘剤、安定剤、防腐剤、天然抽出物、色素、アセチルセドレン及びフロルヒドラル以外の香料、有機溶剤等が挙げられ、なかでも、抗菌の観点、均一配合の観点から、抗菌剤、界面活性剤、消臭剤を含むことが好ましい。
抗菌剤は、ウレアーゼ活性を持つ菌の増殖を抑えるものであることが好ましい。本明細書において、ウレアーゼ活性を持つ菌とは、尿に含まれる尿素を加水分解により二酸化炭素とアンモニアに分解する酵素(ウレアーゼ)を産生し尿中で増殖することによりアンモニアを発生させる菌を意味し、そのような菌としては、Brevundimonas intermedia、Sporosarcina ureae、Proteus mirabilis、Psedomonas aeruginosa,Klebsiella属、Morganella morganii,Corynebacterium等が挙げられる。ウレアーゼ活性を持つ菌の増殖を抑える抗菌剤を含んでいることにより、ウレアーゼ活性を持つ菌の増殖を抑え、該菌の作用により非常に強い刺激臭を有するアンモニアが発生することを抑えることができるため、猫尿臭を一層効果的に抑制することが可能になる。
抗菌剤としては、ピロクトンオラミン、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸エステル、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、イソプロピルメチルフェノール等が挙げられる。尚、フロルヒドラルは当該抗菌剤でもあるが、本明細書においては抗菌剤に含めないものとする。
抗菌剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、低い濃度で効果が期待される観点から、ピロクトンオラミン、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウムが好ましい。
界面活性剤は、イオン性界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤)、非イオン性界面活性剤、高分子界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、均一配合の観点から、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸又はその塩、エーテルカルボン酸又はその塩、N-アシルアミノ酸塩等のカルボン酸基を有するアニオン性界面活性剤が好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルポリグルコシド、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられる。
カチオン界面活性剤(但し、上記抗菌剤を除く)は、親水性部位として正電荷の親水基を有する。親水基としては、例えば、第一級、第二級又は第三級アミン塩、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
消臭剤は、それ自体が臭気(臭気物質)に直接作用して、臭気(臭気物質)を吸着、中和、分解等して、消臭効果を発現し得る物質であり、消臭用途に汎用されているものを用いることができる。消臭剤としては、例えば、多孔性粒子や、水溶性のpH緩衝剤が挙げられる。
多孔性粒子は、少なくとも粒子表面に多数の細孔を有する粒子であって、揮発する臭い成分をその孔に捕集、吸着及び/又は包摂できるものである。例えば、活性炭、シリカ、二酸化ケイ素(シリカゲル)、ケイ酸カルシウム、ハイシリカゼオライト(疎水性ゼオライト)、セピオライト、カンクリナイト、ゼオライト、水和酸化ジルコニウム等の無機多孔質物質等が挙げられる。
水溶性のpH緩衝剤は、猫の排尿等により発生した酸性やアルカリ性の臭い成分を中和し、pHの変化を小さくする剤である。例えば、クエン酸等の弱酸やその共役塩基、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンといったポリヒドロキシアミン化合物等の弱塩基やその共役酸、或いはそれらの混合物、それらの塩等が挙げられる。
本発明の猫の排泄行動阻害抑制剤は、猫を飼育する室内や施設といった猫が生活する環境、特に猫が排泄する環境にある対象物に対して適用され得る。
猫が排泄する環境にある対象物としては、特に限定するものではなく、猫が排泄する環境に備わる床、壁、家具、カーテン、カーペット等のインテリア、トイレ、該トイレ用品(トイレ用砂やシート)、ケージ、ハウス、ベッド等が挙げられる。
好適には、本発明の猫の排泄行動阻害抑制剤は、猫のトイレ用品に使用される製品や製剤に配合して使用される。
当該製品や製剤の形態としては、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、液状、ゲル状、ペースト状、固形状とすることができる。
また、紙、天然繊維、再生繊維(レーヨン等)及び/又は合成繊維(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等)の織布又は不織布に、アセチルセドレン及びフロルヒドラルを塗布、或いは含浸した形態とすることができる。
具体的な製品や製剤の形態としては、例えば、洗浄剤、消臭剤、防臭剤、芳香剤、ウェット拭き取り用品が挙げられる。
本発明の猫の排泄行動阻害抑制剤におけるアセチルセドレン等の含有量は、その形態により異なるが、合計で0.01~10質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましく、さらに0.1~3質量%が最も好ましい。
さらなる態様として、本発明は、アセチルセドレン等を猫が排泄する環境にある対象物に適用することを含む、猫の排泄行動阻害の抑制方法を提供する。猫が排泄する環境にある対象物は、好ましくは猫のトイレ用品である。
チオール類は猫尿に元々含まれるため、チオール類臭は排尿直後から発生し、また、そのまま時間が経過しても発生し続ける。そのため、アセチルセドレン等は、猫が排泄する前、或いは排泄後に適用することが好ましい。
猫の排泄行動の阻害を抑制するためには、猫が排泄する環境にある対象物にアセチルセドレン等を接触させればよい。接触は、特に限定するものではなく、塗布又は噴霧する、浸漬する、添加する、揮散する等が挙げられる。
本発明のアセチルセドレン等の使用量は、猫個体における猫尿臭の認識を抑制でき、猫の排泄行動の阻害を抑制し得る量であればよく、その使用形態により適宜決定することができる。
下記の試験で用いたアンタゴニスト香料と猫尿臭原因物質の詳細を次に示す。
(アンタゴニスト香料)
アセチルセドレン(メチルセドリルケトン;[1-[(1S,2R,5R,7S)-2,6,6,8-tetramethyltricyclo[5.3.1.01,5]undec-8-en-9-yl]ethanone);(CAS登録番号:32388-55-9;商品名:Vertofix;International Flavors&Fragrances,Inc.)
フロルヒドラル(β-Methyl-3-(1-methylethyl)benzenepropanal);(登録商標(国際登録0534879))(CAS登録番号:125109-85-5)(Givaudan SA)
アセチルセドレンとフロルヒドラルを、質量比98:2の割合で混合し、アンタゴニスト香料として用いた。
(猫尿臭原因物質)
3-Mercapto-3-methybutyl Formate(MMF)(Sigma aldrich Co.)
3-Mercapto-3-methy-1-butanol(MMB)(東京化成工業(株))
試験例1
表1の処方に従って液剤を配合した。この液剤を図1に示すシート1に10g/シートの量でスプレーし50℃で2時間乾燥を行った。
Figure 0007488709000001
シート1は長手方向45cm幅方向35cmで吸収体4の大きさはそれぞれ40cm、30cmであった。構成は次のとおりである。
・表面シート2 :ポリオレフィン系不織布、20gsm
・裏面シート3 :ポリエチレン系シート、20gsm
・表面側のコアラップシート44a:薄葉紙、16gsm
・裏面側のコアラップシート44b:薄葉紙、16gsm
・吸液性材料46上層部 :パルプ、100gsm
・高吸収性ポリマー47 :ポリアクリル酸ナトリウムの架橋体の吸水性樹脂、117gsm
・吸液性材料46下層部 :パルプ、100gsm
シート1の表面材側から全体にスプレーされた液剤は吸収体4の表面側すなわち、44aの薄葉紙に多くが吸収される。
乾燥後のシート1を図2~4のように、システムトイレ10のシート格納トレー16に収納し、スノコ12の上に木製のチップ32を配置した。
木製のチップ32は植物由来の素材の粉砕物と結合剤とを固めたもので、植物由来の素材の粉砕物として、針葉樹の粉砕物等を用いた。結合剤としては、合成樹脂を用いることで、チップの撥水性を高め、そうすることで、尿はチップでは吸収されず、下部に配置したシートに吸収される。
実施例1又は比較例1の液剤をスプレーしたシートをそれぞれ、シート格納部16に配置した2台のシステムトイレセットを用いて下記実験を行った。
確認事項:トイレでの排尿回数及びトイレの中での滞在時間(排泄前、排泄、排泄後)
実施場所:猫とのふれあい施設(室内)
広さ:50m2
猫の数:15頭
トイレ配置:30cm間隔で左右にトイレを並べて配置、左右の配置を30分間隔で入れ替え
実施時間:AM9時~PM16時(7時間)
試験結果を図5に示す。
図5に示すとおり、アセチルセドレン及びフロルヒドラルを含む液剤をスプレーした実施例のトイレでは、比較例のトイレに比べて排尿回数が多くなり、また、排尿後の滞在時間が短くなった。この結果は、実施例がより猫にとって好ましいトイレ環境になっていることを示している(非特許文献1)。
試験例2
(1)猫の尿添加シートに対する行動試験
実施例1で製造した実施例1液剤添加シート及び比較例1液剤添加シートの中央直径5cmの領域に、滅菌ろ過した雄猫(年齢1~10)の尿混合物を5mL滴下した。24頭の猫(年齢3~13、雌雄12頭ずつ)を自由行動下で飼育している環境下に、該猫尿を滴下した実施例1液剤添加シート及び比較例1液剤添加シートを載置した。猫は猫尿臭を認識すると好奇心をもって嗅ぎ行動を示す。猫による猫尿臭の認識が実施例1液剤により抑制されたならば、その猫の猫尿臭に対する嗅ぎ行動は減少するはずである。本試験では、60分間の試験時間内にいずれかのシート中央部の尿添加部分に到達及び匂い嗅ぎ行動を示した猫を解析対象とした。
7頭の猫がいずれかのシート中央部に嗅ぎ行動を示した。それらの猫のシートに対する嗅ぎ行動の回数及び総時間を図6Aに示す。猫の尿添加部分に対する嗅ぎ行動は、主に比較例1液剤添加シート上の尿臭に向けられ、実施例1液剤添加シートに対してはほとんど観察されなかった(図6A左)、実施例1液剤添加シート及び比較例1液剤添加シートに対する嗅ぎ行動の回数には、統計学的な有意差がみられた(p=0.0082,Paired t-test)。猫が嗅ぎを行った総時間についても、実施例1液剤添加シートでは短い傾向がみられた(図6A右)。したがって、アンタゴニスト香料が猫尿臭に対する猫の嗅覚を抑制することが実証され、アンタゴニスト香料によって、猫に快適なトイレ環境をもたらすことが示された。
(2)猫の実施例液剤添加シートに対する嗜好性
上記(1)における実施例1液剤添加シートでの猫の尿臭嗅ぎ行動の減少が、アンタゴニスト香料による猫尿臭抑制効果によるものであることを確認する試験を行った。すなわち、シートから発せられたアンタゴニスト香料の匂いが猫にとって不快なものであったために、猫が尿臭を認識してもシートの嗅ぎ行動を控えた可能性が考えられた。本試験では、そのような可能性を検証した。試験例2と同じ24頭の猫を自由行動下で飼育している環境下に、実施例1液剤添加シート及び比較例1液剤添加シートを載置した。30分間の試験時間内にいずれかのシートに到達及び滞在した猫を解析対象とした。
12頭の猫がいずれかのシートに到達した。それらの猫のシートに対する到達回数及び滞在時間を図6Bに示す。猫は、比較例1液剤添加シートよりも実施例1液剤添加シートに高頻度に到達し、且つ長く滞在した。これらの結果から、アンタゴニスト香料の匂いが猫にとって忌避行動を引き起こすような不快な匂いではないことが示された。したがって、上記(1)で認められた猫の尿臭嗅ぎ行動の減少は、アンタゴニスト香料による猫尿臭抑制によるものであることが確認された。
試験例3
表2の処方に従って液剤を配合した。
本試験では、カーペットの切れはし(30cm×30cm)の中央部に試験例2と同じ尿混合物5mLを添加した。その後、同じ場所に10mLの液剤をスプレーした。その後の処理を下記液剤のタイプ別にA,B,Cとして表2に記載した。
後処理直後とそのまま1週間放置した後の評価を表2に示した。評価方法並びに評価の基準としては次のとおりである。
(後処理方法)
A:なし
B:ふき取る
C:水で洗い流す
(評価方法)
それぞれの後処理をしたカーペットを試験例2と同様の方法で猫飼育施設に並べて設置して、猫の行動を観察した。評価の基準は、猫が匂いを嗅ぎに行った回数がそれぞれのタイプの比較例に対して三分の一以下であれば◎、二分の一以下であれば〇、二分の一より大きければ×とした。
Figure 0007488709000002
表2に示すとおり、実施例の液剤をスプレーしたカーペットに対しては猫の嗅ぎ行動の回数は少なく、アンタゴニスト香料が猫尿臭に対する猫の嗅覚を抑制することが実証された。
参考例1 猫尿臭原因物質に応答する嗅覚受容体ポリペプチドの同定
1)嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子の合成
GenBankに登録されている配列情報を基に、猫嗅覚受容体ポリペプチドFcOR2M3及びFcOR2M3-likeをコードする遺伝子(それぞれ配列番号1及び2)を合成した。遺伝子の合成には、Thermo Fisher ScientificによるDNA合成サービスを利用した。またGenBankに登録されている配列情報を基に、猫尿臭原因物質に応答するヒト嗅覚受容体HsOR2M3(GenBank Accession number:KP290147、特願2019-005550参照)をコードする遺伝子をhuman genomic DNA female(G1521:Promega)よりクローニングした。各遺伝子をpME18Sベクター上のFlag-Rhoタグ配列の下流に組込んだ。
2)pME18S-ヒトRTP1Sベクターの作製
ヒトRTP1Sをコードする遺伝子(配列番号3)をpME18SベクターのEcoRI、XhoIサイトへ組み込んだ。
3)嗅覚受容体発現細胞の作製
各嗅覚受容体ポリペプチドをそれぞれ発現させたHEK293細胞を作製した。表3に示す組成の反応液を調製しクリーンベンチ内で15分間静置した。マルチウェルプレート(96ウェルプレート、BioCoat)の各ウェルに反応液10μLを添加し、次いでHEK293細胞(2×105細胞/cm2)90μLを添加して細胞を播種した。細胞を37℃、5%CO2を保持したインキュベータ内で24時間培養した。対照として、嗅覚受容体を発現させない細胞(mock)を用意した。
Figure 0007488709000003
4)嗅覚受容体応答のルシフェラーゼアッセイ
HEK293細胞に発現させた嗅覚受容体ポリペプチドは、細胞内在性のGαsと共役しアデニル酸シクラーゼを活性化することで、細胞内cAMP量を増加させる。本実施例での猫尿臭原因物質に対する細胞の応答測定には、細胞内cAMP量の増加をホタルルシフェラーゼ遺伝子(fluc2P-CRE-hygro)由来の発光値としてモニターするルシフェラーゼレポータージーンアッセイを用いた。また、CMVプロモータ下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたもの(hRluc-CMV)を同時に細胞に遺伝子導入し、遺伝子導入効率や細胞数の誤差を補正する内部標準として用いた。ルシフェラーゼの活性測定には、Dual-GloTMluciferase assay system(Promega)を用いた。3)の操作後、嗅覚受容体発現細胞の培養物から培地を取り除き、各ウェルに猫尿臭原因物質を含む培地又は含まない培地を75μLずつ添加した。培地には、300μM CuCl2を含むDMEM溶液を用いた。猫尿臭原因物質としては、MMF(最終濃度0~0.03mM)又はMMB(最終濃度0~0.1mM)を用いた。猫尿臭原因物質添加の4時間後に、製品の操作マニュアルに従って発光を測定し、ホタルルシフェラーゼ由来の発光値をウミシイタケルシフェラーゼ由来の発光値で除した値[fLuc/hRluc]を算出した。猫尿臭原因物質刺激に対する嗅覚受容体の応答性の指標として、下記式に従ってFold increaseを算出した。
Fold increase=X/Y
X:猫尿臭原因物質刺激により誘導されたfLuc/hRluc
Y:猫尿臭原因物質刺激なしの場合のfLuc/hRluc
結果を図7に示す。mockにおいてはMMF及びMMBに対する応答が観察されなかったのに対し、FcOR2M3及びFcOR2M3-likeを発現した細胞においては、MMF及びMMBのいずれに対しても濃度依存的な応答が観察された(図7A及びB)。これらの応答は、ヒトのMMF及びMMB受容体HsOR2M3(本出願人による特願2019-005550)と同様であった(図7C)。
以上の結果から、FcOR2M3及びFcOR2M3-likeは、猫尿臭の成分であるMMF及びMMBを認識する猫由来嗅覚受容体ポリペプチドであることが示された。
参考例2 アセチルセドレン及びフロルヒドラルによる嗅覚受容体ポリペプチド応答の抑制活性
アセチルセドレン又はフロルヒドラル存在下でのMMF又はMMBに対する嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定し、応答強度の変化を調べた。参考例1と同様の手順に従って、嗅覚受容体ポリペプチド発現HEK293細胞のルシフェラーゼアッセイを行った。MMFの最終濃度は0.01mM、MMBの最終濃度は0.03mMに調整した。アセチルセドレン及びフロルヒドラルの最終濃度は0~0.3mMの範囲で調整した。MMF又はMMB単独刺激により誘導されたfLuc/hRluc値(X)、MMF又はMMBで刺激しなかった細胞でのfLuc/hRluc値(Y)、及び、MMF又はMMBとアセチルセドレン又はフロルヒドラルとの共刺激により誘導されたfLuc/hRluc値(Z)を求めた。下記式により、アセチルセドレン又はフロルヒドラル存在下での嗅覚受容体ポリペプチドのMMF又はMMBに対する応答強度(Response(%))を求めた。
Response(%)=(Z-Y)/(X-Y)×100
独立した実験を3回行い、各回の実験で得られた応答強度の平均値を求めた。
結果を図8及び9に示す。アセチルセドレン(図8)及びフロルヒドラル(図9)のいずれも、濃度依存的にMMF及びMMBに対するFcOR2M3及びFcOR2M3-likeの応答を抑制した。以上の結果から、これら2つの化合物がFcOR2M3及びFcOR2M3-likeのアンタゴニスト香料であることが確認された。またこれらの化合物は、従来の知見(特願2019-005550)と同様に、MMF及びMMBに対するHsOR2M3の応答を抑制した。
以上の結果から、嗅覚受容体FcOR2M3又はFcOR2M3-likeのアンタゴニストであるアセチルセドレン及びフロルヒドラルにより、MMFやMMB等による猫尿臭に対する猫の嗅覚が抑制されることが示された。

Claims (5)

  1. アセチルセドレン及びフロルヒドラルからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、猫の排泄行動阻害抑制剤。
  2. アセチルセドレン及びフロルヒドラルの両方を有効成分とする、請求項1記載の猫の排泄行動阻害抑制剤。
  3. ピロクトンオラミン、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド及び塩化ベンザルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の抗菌剤と組み合わせて用いる、請求項1又は2記載の猫の排泄行動阻害抑制剤。
  4. 洗浄剤又は消臭剤の形態である請求項1~3のいずれか1項記載の猫の排泄行動阻害抑制剤。
  5. アセチルセドレン及びフロルヒドラルからなる群より選択される少なくとも1種を、猫が排泄する環境にある対象物に適用することを含む、猫の排泄行動阻害の抑制方法。
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