JP7307873B2 - 高性能な繊維および該繊維の製造に用いられる紡糸原液 - Google Patents
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Description
本発明の繊維は、極限粘度が1.3~4.0dL/gであるビニル系重合体より形成される繊維であって、広角X線回折を使用して測定された結晶配向度が96.6~98%である繊維、または、ビニル系重合体より形成される繊維であって、前記ビニル系重合体の極限粘度が1.3~5.0dL/gであり、広角X線回折を使用して測定された結晶配向度が96.6~98%であり、前記ビニル系重合体がポリアクリロニトリル系重合体であり、前記ポリアクリロニトリル系重合体は数平均分子量が15万~40万である繊維である。
2θ=36±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(IA)
と
2θ=40±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(IB)
との比(IA/IB)が0.8~2.0であり、引張強度が0.7~2.5GPaであり、引張弾性率が15~40GPaであることが好ましい。
本発明の繊維は、前記ビニル系重合体がポリアクリロニトリル系重合体であり、前記ポリアクリロニトリル系重合体は、数平均分子量が15万~40万であり、アクリロニトリルの共重合率が90モル%以上であることが好ましい。
本発明の繊維は、繊維の直径が20~27μmであることが好ましい。
本発明の紡糸原液は、前記イオン液体のカチオン種がイミダゾリウム系であることが好ましい。
本発明の紡糸原液は、前記イオン液体のカチオン種が1,3-ジアルキルイミダゾリウム系であることが好ましい。
本発明の紡糸原液は、前記イオン液体のカチオン種が1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムのいずれか1種以上であることが好ましい。
本発明においてビニル系重合体とは以下のモノマーを使用することができる。即ち、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどに代表されるアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ウラリル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどの不飽和モノマー類;p-スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びこれらのアルカリ金属塩などが例示できる。
本発明において、好適に使用できるPAN系重合体について説明する。
PAN系重合体としては、アクリロニトリル(AN)の単独重合体(PAN単独重合体)、又はANと他のモノマーとの共重合体(PAN系共重合体)を用いることができる(以下、PAN単独重合体とPAN系共重合体を合わせて、適宜「PAN系重合体」と略する)。
本発明の繊維に使用するPAN系重合体などのビニル系重合体の極限粘度は、1.3~5.0dL/gである。1.3dL/g以上であれば、後述する延伸工程にて高い延伸を達成しやすく、5.0dL/g以下であれば安定的な高い生産性を達成しやすい。前記観点から、極限粘度は1.4~4.0dL/gがより好ましく、1.5~3.0dL/gがさらに好ましい。
PAN系重合体等のビニル系重合体を重合する方法は、特に限定されるものではなく、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等を用いることができる。
イオン液体は、100℃以下で液体状態となる、比較的分子サイズの大きな有機イオンなどからなる低温溶融塩の一種である。その特長として、例えば以下のようなことが挙げられる。
また、アニオン種はハロゲン系であることが親水性や融点の面から好ましく、さらには塩素イオンであることがコストの面からより好ましい。
本発明において、紡糸原液は前記のPAN系重合体を、前記のイオン液体に溶解することにより得られる。溶解の方法は特に限定されないが、イオン液体の融点以上の溶融状態、もしくは過冷却液体状態においてPAN系重合体等のビニル系重合体を分散し、スラリーを作製し、その後、高温にすることで紡糸原液とすることが望ましい。
イオン液体を用いた紡糸原液の作製において、その撹拌方法などは特に限定されない。
前記観点から、紡糸原液の濃度は10~20質量%がより好ましい。
前記観点から、紡糸原液の温度は、60~110℃がより好ましく、75~100℃がさらに好ましい。
本発明において、紡糸原液は金型(ノズルなど)から押し出され、凝固浴で凝固やゲル化形成が進行することで繊維形成される。紡糸方法は繊維の品質の面で有利な乾湿式紡糸法を採用できる。
乾湿式紡糸法において、吐出孔から凝固液面までの距離は1~100mmであることが好ましい。1mmより長いことで液面揺れした凝固液がノズルに当たりにくくなり、ノズル詰まり等のトラブルを回避できる。また、100mmより短いことで繊維の余計な揺れを回避でき、これは特にマルチフィラメントでの生産面では融着を防げるため有効となる。同様の理由から7~20mmがより好ましい。
凝固浴内の凝固液の組成は水、もしくは水とイオン液体の混合液であると良く、凝固の観点から、凝固液の水の組成が30~100質量%であることが好ましい。30質量%以上であれば適度な凝固速度のもとで安定的な紡糸が可能となる。
前記凝固液の水の含有率は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
本発明では、紡糸工程に続く後工程として、洗浄槽における洗浄工程と乾燥機における乾燥工程を設ける。洗浄工程は、紡糸工程終了時に繊維内部に残存しているイオン液体を繊維外へ除外するために行われる。また、乾燥工程は洗浄工程で繊維に付着した水等を蒸発させるために行われる。
乾燥した繊維はそのまま続く延伸工程に連続して入れるでも良いし、一度ワインダー等で巻き取りプロセスを分離しても良い。また、巻き取った状態で更に乾燥を追加するなどをしても構わない。
本発明では、乾燥した繊維を加熱雰囲気下で延伸する工程を含む。加熱手段としては、各種加熱炉や熱板、蒸気延伸機等を用いることができる。特に、本発明では、紡糸工程においてイオン液体を有効に使用したことによって、繊維の延伸性が大幅に向上しているので、加熱チャンバーによる熱板延伸によっても十分に延伸することができる。繊維を熱板上で熱延伸することは、簡易な装置で行えるので、少ない設備投資と少ない原動費で繊維を高延伸できるというメリットがある。加熱温度は100℃以上280℃以下であることが、延伸安定性の面で好ましい。100℃以上であると延伸性が高く、安定な生産も可能となる。280℃以下であればPANの分解反応を回避できるため、糸切れも少なく安定的に延伸できる。なお、熱板延伸では繊維と接触式であるか非接触式であるかは特に限定されない。
本発明における延伸倍率は、前記の凝固浴および洗浄槽で延伸するいわゆる紡糸工程での延伸倍率と、それを後で熱延伸する際の加熱チャンバーでの延伸倍率に分けられる。また、紡糸工程の延伸倍率と加熱チャンバーの延伸倍率をかけあわせて、総延伸倍率となる。これらの延伸倍率の用語の定義は実施例の項にて、さらに詳しく説明する。
本発明の紡糸方法はノズル吐出直後の段階で高速で巻き取り、高い延伸をかけることが可能である特徴もある。ノズル吐出部での線速度と、それを引き取る第一巻き取りロール(図1では4Aロールに該当。図3では4Gロールに該当。)との速度に起因する延伸倍率を一般的にはジェットストレッチ(JS)と呼び、(式1)によって定義される。
なお、ノズル孔での吐出線速度とは、(式2)より算出することができる。
この場合、その後の繊維の延伸倍率は、5倍以下で良い。
本発明の繊維は、その繊維径に特に制限はないが、繊維形成のし易さから繊維径は5~50μmが好ましく、15~40μmがより好ましく、20~30μmがさらに好ましい。長繊維・短繊維といった形態は特に制限はない。
本発明の繊維の結晶配向度は、96.6~98%である。前記結晶配向度が90%以上であれば、結晶配向度は力学的に高物性な繊維を製造する上で基本的には高いことが好ましい。高い引張強度を得る観点から、前記結晶配向度は92%以上が好ましく、95%以上がさらに好ましい。
本発明により製造した繊維は広角X線回折にて測定された子午線方向の回折プロフィール中に観測される
2θ=36±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(IA)
と
2θ=40±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(IB)
との比(IA/IB)に特徴がある。IAおよびIBが何を表しているかは未だに議論の余地があるが、例えば、非特許文献2ではIAは平面ジグザグ構造をとっているポリマーの回折を、IBはα-へリックス構造をとっているポリマーの回折を示していると報告しており、これが一般的な認識であると考えられる。
本発明の繊維の引張強度は0.7~2.5GPaであることが好ましい。引張強度が0.7以上であれば、加工工程の通過性や製品の使用上の問題が少なくなる。前記観点から、引張強度は0.9GPa以上がより好ましく、1.2GPa以上がさらに好ましい。
本発明の繊維はその密度に制限がないが、1.14~1.22g/cm3であることが好ましい。1.14g/cm3以上であると繊維内部の構造が密であるため強度、弾性率等の物性発現に有利となる。また、1.22g/cm3以下であれば伸度の極端な低下を防げる。
前記観点から、繊維密度は1.17~1.20g/cm3がより好ましく、1.18~1.19g/cm3がさらに好ましい。
実施例において、各物性値及び特性は以下の方法により測定した。
1H-NMR法(日本電子GSX-400型超伝導FT-NMR)により測定した。
イメージングプレートシステムによるX線繊維図形は、リガク社製のRA-micro7エックス線発生装置を用いて測定した。出力電圧40kV、出力電流20mAでNiフィルターで単色化したCu-Kα線(波長0.15418nm)を用いて試料にX線を垂直入射させて所定時間露光することで撮影した。
配向度=(360-Wtotal)/(360)
理学電機(株)製のRU-200型X線発生装置を用い、線源はNiフィルターで単色化したCu-kα線(0.15418nm)を使用した(出力電圧40kV、電流150mA)測定には理学電機(株)製のゴニオメーターPMG-GAを用いた。測定は子午線方向についておこなった。子午線方向回折角2θ=36°、40°付近の回折にそれぞれIAとIBピークが観察された。回折角方向のプロファイルを得て、曲線のフィッティングは2本のガウス関数と1本のベースラインによって近似を行い、IA/IBを決定した。
測定はサーチ(株)製のDENICONDC-21を用いた。測定は恒温恒湿室(20℃,65%)で行った。測定試験長は2.5cmで、重りは0.4gである。
引張特性の測定は、(株)島津製作所製の島津小型卓上試験機EZTestEZ-S引張り試験機を用いて、20℃,65%RHの標準状態で行った。試料は、試験前に24時間以上標準状態に保ったものを使用した。試験条件は50Nのロードセルを用い、初期試料長は20mm、引張速度は20mm/分で行った。得られた応力-歪曲線から破断強度、破断伸度、初期弾性率を求めた。
約10gの試料を雰囲気温度が80℃の乾燥機に120分保持して乾燥後、精秤し、DMFを加え室温で完全に溶解し、3~4種類の濃度cのPAN/DMF溶液を調製する(本発明において、実施例1~3、参考例1~3および比較例1~2に用いたポリアクリロニトリルは0.25g/dL、0.50g/dL、0.75g/dL、1.00g/dLの4種類を、実施例4~5に用いたポリアクリロニトリルは0.17g/dL、0.33g/dL、0.50g/dLの3種類を調整した)。25℃にコントロールされた恒温槽中でウベローデ粘度計を使用して、ブランクDMF液と試料を溶解したサンプルDMF溶液の落下時間をそれぞれ測定する。それぞれ5回の測定値の平均値を求めた後、ブランクDMFの落下時間をt0、サンプルDMF溶液の落下速度をtとして比粘度ηspを式(1)で求める。続いて、各濃度のηsp/cと濃度cの関係をプロットし、ハギンズの式(2)に基づいて、c→0に外挿したときの切片から極限粘度[η]を求めた。
ηsp=(t/t0)-1 ・・・(1)
ηsp/c=[η]+k’[η]2c ・・・(2)
数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。数平均分子量とはMiの分子量を持つ高分子がNi個存在する場合、以下の計算式
数平均分子量(Mn)=Σ(NiMi)/Σ(Ni)
で表される値である。数平均分子量はポリスチレン換算での相対値を用いる。
25℃、トルエン-四塩化炭素系にて浮沈法を用いて繊維の密度を測定した。
長さ5mmの繊維を1mg程度量りとり、繊維の大部分がガラス容器の中心付近で浮遊するようにトルエン-四塩化炭素混合液を調整し、そのときの液体密度を、ピクノメータを用いて、繊維の密度とした。
紡糸原液を巻き取る第一巻き取りロールのロール速度とワインダーの巻き取り速度との比(例として、図1では[4Dロール速度/4Aロール速度]に対応)を、紡糸工程での延伸倍率とした。
加熱チャンバーへの供給するクリールの速度と加熱チャンバーを出た後のワインダーの速度の比(例として図2では[4Fロール速度/4Eロール速度]に対応)を、加熱チャンバーでの延伸倍率とした。
上記の紡糸工程での延伸倍率と、同じく上記の加熱チャンバーでの延伸倍率を掛け合わせることで総延伸倍率とした。それゆえ、ジェットストレッチの倍率は本発明では総延伸倍率に加味されない。
まず、図1に示すような乾湿式紡糸装置により、紡糸工程を行った。
ポリアクリロニトリル(極限粘度=1.56dL/g、数平均分子量=190,000、AN組成≧99%)を1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(BmimCL)に溶解し、固形分濃度が15質量%のPAN系重合体含有溶液を調製した。該PAN系重合体含有溶液を90℃まで加温し、ヒーター1で同じく90℃に加温した原液タンク2に詰め、紡糸原液とした。紡糸原液は、ノズル3の直径0.52mmの1ホールの吐出孔から0.30g/分で定量吐出され、凝固浴5を通過させることで凝固させた。凝固直後のロール4Aの巻き取り速度を2.6m/minとして、ジェットストレッチによる延伸倍率を2.2倍とした。ノズル3の吐出孔から凝固浴5の液面10までは10mmのエアギャップを設けて、乾湿式紡糸とした。凝固浴5の凝固液は10℃の水とし、続く第1洗浄槽6の洗浄液は32℃の水、第2洗浄槽7の洗浄液は60℃の水として繊維を洗浄した。
巻き取った乾燥した繊維を、長さ2mの加熱チャンバー13内で延伸した。チャンバーの温度は160℃で、この工程での延伸倍率は10倍で安定的に紡糸でき、総延伸倍率30倍を達成した。
加熱チャンバー内で延伸を9倍(総延伸倍率27倍)にした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。このアクリル繊維の直径は27μm、引張強度は1.11GPa、弾性率は23.0GPa、伸度は10.8%、密度は1.18g/cm3、結晶配向度は96.8%、子午線方向のX線回折強度比(IA/IB)は1.33であった。
溶媒を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(EmimCL)に変えた点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。繊維の直径は33μm、引張強度は1.03GPa、弾性率は19.4GPa、伸度は10.3%、密度は1.20g/cm3、結晶配向度は94.2%、子午線方向のX線回折強度比(IA/IB)は1.00であった。
原液温度を95℃に、凝固浴の温度を30℃に、加熱チャンバーでの延伸倍率を6倍とし、総延伸倍率を18倍とした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。本方法では凝固浴中で繊維がわずかに白濁した。このアクリル繊維の直径は31μm、引張強度は1.03GPa、弾性率は21.6GPa、伸度は10.3%、密度は1.18g/cm3、結晶配向度は92.9%、子午線方向のX線回折強度比(IA/IB)は1.19であった。
原液温度を95℃に、凝固浴の温度を2℃に、加熱チャンバーでの延伸倍率を8倍とし、総延伸倍率を24倍とした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。このアクリル繊維の直径は26μm、引張強度は1.45GPa、弾性率は25.2GPa、伸度は9.9%、密度は1.19g/cm3、結晶配向度は96.6、子午線方向のX線回折強度比(IA/IB)は1.49であった。
原液温度を95℃に、紡糸工程を、図1に示すような乾湿式紡糸装置に代えて図3に示すような乾湿式紡糸装置により行うようにして、凝固浴直後のロール4Gの巻き取り速度を193.0m/minに上げてジェットストレッチによる延伸倍率を160.8倍に変更し、紡糸工程での延伸は行わず、乾燥機8の内部雰囲気温度を60℃から25℃に変更し、加熱チャンバー13での延伸倍率を3倍とし、総延伸倍率を9倍とした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。このアクリル繊維の直径は9μm、引張強度は1.26GPa、弾性率は18.9GPa、伸度は11.9%、密度は1.18g/cm3であった。なお、サンプル量が少量であったため、結晶配向度及び子午線方向のX線回折強度比(IA/IB)は測定しなかった。
溶媒をジメチルホルムアミド(DMF)とし、エアギャップを5mmとし、第1洗浄槽の洗浄温度を35℃とし、加熱チャンバーでの延伸倍率を4倍とし、総延伸倍率を12倍とした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。凝固浴に入った瞬間に白濁した繊維が形成され、顕微鏡観察からは多数のボイドが見受けられた。加熱チャンバーでの延伸倍率4倍は最大延伸倍率であり、この倍率で糸が切れはじめたため、総延伸倍率は12倍が限界であった。
溶媒をジメチルアセトアミド(DMAc)とし、エアギャップを5mmとし、第1洗浄槽の洗浄温度を35℃とし、加熱チャンバーでの延伸倍率を3倍とし、総延伸倍率を9倍とした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。凝固浴に入った瞬間に白濁した繊維が形成され、顕微鏡観察からは多数のボイドが見受けられた。加熱チャンバーでの延伸倍率3倍は最大延伸倍率であり、この倍率で糸が切れはじめたため、総延伸倍率は9倍が限界であった。
まず、図1に示すような乾湿式紡糸装置により、紡糸工程を行った。
ポリアクリロニトリル(極限粘度=3.90dL/g、数平均分子量=380,000、AN組成≧99%)を1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(BmimCL)に溶解し、固形分濃度が10質量%のPAN系重合体含有溶液を調製した。該PAN系重合体含有溶液を100℃まで加温し、ヒーター1で同じく100℃に加温した原液タンク2に詰め、紡糸原液とした。紡糸原液は、ノズル3の直径0.52mmの1ホールの吐出孔から0.30g/分で定量吐出され、凝固浴5を通過させることで凝固させた。凝固直後のロール4Aの巻き取り速度を2.6m/minとして、ジェットストレッチによる延伸倍率を2.2倍とした。ノズル3の吐出孔から凝固浴5の液面10までは10mmのエアギャップを設けて、乾湿式紡糸とした。凝固浴5の凝固液は2℃の水とし、続く第1洗浄槽6の洗浄液は30℃の水、第2洗浄槽7の洗浄液は60℃の水として繊維を洗浄した。
巻き取った乾燥した繊維を、長さ2mの加熱チャンバー13内で延伸した。チャンバーの温度は185℃で、この工程での延伸倍率は9倍で安定的に紡糸でき、総延伸倍率27倍を達成した。
固形分濃度を12質量%、原液温度を120℃、加熱チャンバーの温度を190℃に、加熱チャンバー内で延伸を10倍とし、総延伸倍率を30倍とした点以外は実施例4と同様の方法でアクリル繊維を得た。このアクリル繊維の直径は22μm、引張強度は1.88GPa、弾性率は25.8GPa、伸度は12.8%、密度は1.18g/cm3、結晶配向度は97.0%、子午線方向のX線回折強度比(IA/IB)は1.50であった。
2 原液タンク
3 ノズル
4A ロール(A速度)
4B ロール(B速度)
4C ロール(C速度)
4D ロール(D速度)
4E ロール(E速度)
4F ロール(F速度)
4G ロール(G速度)
5 凝固浴
6 第1洗浄槽
7 第2洗浄槽
8 乾燥機
9 ワインダー
10 凝固液または洗浄液の液面
11 繊維
12 クリール
13 加熱チャンバー
Claims (11)
- ビニル系重合体より形成される繊維であって、前記ビニル系重合体の極限粘度が1.3~4.0dL/gであり、広角X線回折を使用して測定された結晶配向度が96.6~98%であり、前記ビニル系重合体がポリアクリロニトリル系重合体であり、前記ポリアクリロニトリル系重合体はアクリロニトリルの共重合率が90モル%以上である繊維。
- ビニル系重合体より形成される繊維であって、前記ビニル系重合体の極限粘度が1.3~5.0dL/gであり、広角X線回折を使用して測定された結晶配向度が96.6~98%であり、前記ビニル系重合体がポリアクリロニトリル系重合体であり、前記ポリアクリロニトリル系重合体は数平均分子量が15万~40万であり、前記ポリアクリロニトリル系重合体はアクリロニトリルの共重合率が90モル%以上である繊維。
- 広角X線回折を使用して測定された繊維の子午線方向の回折プロフィール中に観測される
2θ=36±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(IA)
と
2θ=40±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(IB)
との比(IA/IB)が0.8~2.0であり、引張強度が0.7~2.5GPaであり、引張弾性率が15~40GPaである請求項1または2に記載の繊維。 - 繊維の密度が1.14~1.22g/cm3である請求項1~3のいずれかに記載の繊維。
- 繊維の直径が20~27μmである請求項1~4のいずれかに記載の繊維。
- 極限粘度が1.3~4.0dL/gであるビニル系重合体をイオン液体により溶解したことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の繊維の製造に用いられる紡糸原液。
- 前記ビニル系重合体が、数平均分子量が10万~40万のポリアクリロニトリル系重合体であり、前記ポリアクリロニトリル系重合体の含有量が、紡糸原液の質量に対して5~30質量%である請求項6に記載の紡糸原液。
- 前記イオン液体のカチオン種がイミダゾリウム系である請求項6または7に記載の紡糸原液。
- 前記イオン液体のカチオン種が1,3-ジアルキルイミダゾリウム系である請求項8に記載の紡糸原液。
- 前記イオン液体のカチオン種が1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムのいずれか1種以上である請求項9に記載の紡糸原液。
- 前記イオン液体のアニオン種が塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンのいずれか1種以上からなる請求項6または7に記載の紡糸原液。
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