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JP7348100B2 - 遮熱膜部材 - Google Patents

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JP7348100B2
JP7348100B2 JP2020025270A JP2020025270A JP7348100B2 JP 7348100 B2 JP7348100 B2 JP 7348100B2 JP 2020025270 A JP2020025270 A JP 2020025270A JP 2020025270 A JP2020025270 A JP 2020025270A JP 7348100 B2 JP7348100 B2 JP 7348100B2
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Description

本開示は、ピストンを軸方向に沿って摺動可能に収容するシリンダライナに装着される遮熱膜部材に関する。
エンジンの低燃費率化を実現するためには、エンジンの燃焼室内の熱損失量の低減が重要である。エンジンの燃焼室を区画するシリンダライナの内壁面に、遮熱膜を形成することで、燃料と空気とが混合された混合気の燃焼による熱が、上記内壁面を通じて燃焼室の外部に放出されるのを抑制し、燃焼室内の熱損失の低減を図るような構造が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載のシリンダライナは、シリンダ軸線方向の上方側に位置する部位(主に燃焼室を構成する部位)における内壁面に成膜される第1遮熱膜と、上記部位よりもシリンダ軸線方向の下方側の部位における内壁面に成膜される第2遮熱膜と、を有している。第1遮熱膜および第2遮熱膜の夫々は、シリンダライナの内壁面における周方向の全体に亘り形成されている。また、第2遮熱膜は、第1遮熱膜の熱伝導率よりも小さな熱伝導率を有している。
特開2018-21537号公報
エンジンを長期間に亘り運転させると、遮熱膜が損傷したり摩耗したりする虞がある。例えば、特許文献1に記載のシリンダライナでは、シリンダライナ内をシリンダ軸線方向に沿ってピストンが上下方向に運動するのに伴い、ピストンに装着されたピストンリングが遮熱膜に接触して摺りながら動くため、遮熱膜がシリンダライナから剥がれたり、遮熱膜の表面が削られて遮熱膜の厚さが減少したりする虞がある。また、エンジンの運転中におけるエロ―ジョンにより遮熱膜の表面が削られて遮熱膜の厚さが減少する虞がある。
また、エンジンを長期間に亘り運転させると、混合気の燃焼により生じるカーボン(煤)などの堆積物が燃焼室壁面に付着し、エンジンの燃費効率を低下させる可能性がある。エンジンの燃費効率の低下を避けるために、上記堆積物を例えば金属ブラシでこすり落として燃焼室壁面から除去するメンテナンス作業を行うことがあるが、メンテナンス作業の際に遮熱膜を損傷させる虞がある。このため、遮熱膜の遮熱性能を維持するためには、シリンダライナなどの遮熱膜が形成された部品の交換作業を行う必要がある。シリンダライナなどの遮熱膜が形成された部品全体を交換するので、遮熱層の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を招く虞がある。
上述した事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態の目的は、遮熱膜の損傷を抑制し、遮熱層の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる遮熱膜部材を提供することにある。
本開示にかかる遮熱膜部材は、
ピストンを軸方向に沿って摺動可能に収容するシリンダライナにおけるエンジンの燃焼室に面する内壁面に装着される少なくとも一つの遮熱膜部材であって、
前記シリンダライナの前記内壁面に形成された凹部に対して脱着可能に嵌合するように構成された基盤層と、
前記基盤層における前記シリンダライナの前記内壁面とは反対側の面に成膜される遮熱膜層と、を備え、
前記遮熱膜層は、前記ピストンが上死点に到達した時点における前記シリンダライナの前記軸方向の最も上側に位置するピストンリングよりも上方に設けられた。
本開示の少なくとも一実施形態によれば、遮熱膜の損傷を抑制し、遮熱層の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる遮熱膜部材が提供される。
本開示の一実施形態における燃焼室を有するエンジンの概略断面図である。 図1におけるエンジンの燃焼室近傍を拡大して示す概略断面図である。 本開示の一実施形態における遮熱膜部材を説明するための説明図であって、シリンダライナの中心軸に沿った断面を概略的に示す説明図である。 本開示の一実施形態における遮熱膜部材を説明するための説明図であって、燃焼室を軸方向の下方から視認した平面を概略的に示す説明図である。 本開示の一実施形態における遮熱膜部材の第1の変形例を説明するための説明図である。 本開示の一実施形態における遮熱膜部材の第2の変形例を説明するための説明図である。 本開示の一実施形態における遮熱膜部材の第3の変形例を説明するための説明図である。 本開示の一実施形態における遮熱膜部材の第4の変形例を説明するための説明図である。 本開示の一実施形態における遮熱膜部材の第5の変形例を説明するための説明図である。 本開示の一実施形態における遮熱膜部材の第6の変形例を説明するための説明図である。 本開示の一実施形態における遮熱膜部材の第7の変形例を説明するための説明図である。 本開示の一実施形態における遮熱膜部材の第8の変形例を説明するための説明図である。
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
(エンジン)
図1は、本開示の一実施形態における燃焼室を有するエンジンの概略断面図である。図2は、図1におけるエンジンの燃焼室近傍を拡大して示す概略断面図である。図1および図2に示されるように、幾つかの実施形態にかかる遮熱膜部材7は、エンジン1の燃焼室10に面するシリンダライナ6の内壁面61に装着されるものである。まず、エンジン1の燃焼室10について説明する。
図1に示されるように、エンジン1は、シリンダブロック3と、シリンダヘッド4と、ピストン5と、シリンダライナ6と、を備える。以下、シリンダライナ6の中心軸CAの延在する方向(図1中上下方向)を軸方向とし、軸方向において、ピストン5に対してシリンダヘッド4が位置する側(図1中上側)を上側とし、この上側とは反対側を下側と定義する。また、シリンダライナ6の軸方向に直交する方向を径方向とし、径方向において、シリンダライナ6の中心軸CAに向かう側を内側とし、中心軸CAから離れる側を外側と定義する。
シリンダブロック3には、軸方向に沿って延在する筒状の空間30が形成されている。この筒状の空間30には、軸方向に沿って延在する筒状のシリンダライナ6が軸方向における上側から嵌め込まれる。シリンダライナ6は、ピストン5を軸方向に沿って摺動可能に収容するように構成されている。
ピストン5は、シリンダライナ6の内壁面61により画定される内部空間60に収容される。ピストン5は、軸方向の上側から視て円形状の輪郭形状を有するヘッド部51と、ヘッド部51の軸方向のおける下側の外周縁から軸方向に沿って下側に向かって延在する筒状のスカート部52と、を有する有底筒状に形成されている。ピストン5は、ヘッド部51の軸方向における上側に設けられた頂面53を有する。図1に示される実施形態では、頂面53は、径方向の内側に向かうにつれて軸方向の下側に凹む凹曲面531を有する。
ピストン5は、ピストンピン13を介してコンロッド14の一端部141に機械的に連結されている。コンロッド14は、上記一端部141と、一端部141とは反対側に位置する他端部142と、を含む。コンロッド14の他端部142は、クランクシャフト15に機械的に連結されている。
シリンダヘッド4は、軸方向の下側に位置する下端部41が、シリンダブロック3の軸方向の上側に位置する上端部31に当接するようにして、シリンダブロック3に取り付けられる。なお、上端部31と下端部41との間に不図示のガスケットを挟むようにしてもよい。
図2に示されるように、ピストン5が上死点に位置するとき、軸方向におけるピストン5とシリンダヘッド4との間に燃焼室10が区画される。燃焼室10は、ピストン5の頂面53と、シリンダヘッド4のピストン5の頂面53に対向する位置に設けられた下面42と、シリンダライナ6の内壁面61と、により区画される。
ピストン5のヘッド部51の外周部には、ピストンリング12が取り付けられる少なくとも一つの環状のピストンリング溝54が形成されている。図2に示される実施形態では、ヘッド部51の外周部には、軸方向において互いに離れた位置に三つのピストンリング溝54が形成されている。ピストンリング溝54に装着されたピストンリング12は、ヘッド部51の外周面55よりも径方向における外側に突出するとともに、シリンダライナ6の内壁面61に当接する外周面121を有する。この外周面121は、シリンダライナ6内をピストン5が軸方向に沿って摺動する際に、シリンダライナ6の内壁面61上を滑動する。シリンダライナ6の内壁面61とピストン5の外周面55との間の隙間は、ピストンリング12により閉塞される。
図2に示されるように、シリンダヘッド4の内部には、燃焼用気体を燃焼室10に送るための吸気流路16と、燃焼室10から排ガスを排出するための排気流路17と、が形成されている。吸気流路16は、シリンダヘッド4の下面42に形成された吸気ポート16Aを通じて、燃焼室10との間で気体(燃焼用気体)の流通が可能となっている。排気流路17は、シリンダヘッド4の下面42に形成された排気ポート17Aを通じて、燃焼室10との間で気体(排ガス)の流通が可能となっている。
エンジン1は、図2に示されるように、吸気ポート16Aを開閉可能に構成された吸気バルブ18と、排気ポート17Aを開閉可能に構成された排気バルブ19と、を備える。吸気バルブ18により吸気ポート16Aを全閉すると、吸気流路16から燃焼室10への吸気の供給が遮断される。また、排気バルブ19により排気ポート17Aを全閉すると、燃焼室10から排気流路17への排気の排出が遮断される。
エンジン1は、図2に示されるように、着火装置24を備える。図2に示される実施形態では、着火装置24は、混合気を着火(点火)することが可能な点火プラグ241からなる。また、図2に示される実施形態では、エンジン1は、上述した燃焼室10を形成する燃焼室形成部11と、副燃焼室20を形成する副燃焼室形成部21と、を備える副燃焼室式のエンジン1Aからなる。エンジン1Aでは、着火装置24は副燃焼室20に設けられる。燃焼室形成部11は、燃焼室10を画定する部材であるシリンダヘッド4、ピストン5およびシリンダライナ6を含む。なお、本開示では副燃焼室式のエンジン1Aを例に挙げて説明するが、本開示の幾つかの実施形態にかかる遮熱膜部材7は、着火装置24が燃焼室10に設けられる直噴式のエンジンにも適用可能である。本開示の幾つかの実施形態にかかる遮熱膜部材7は、ディーゼルエンジン、ガスエンジンおよびガソリンエンジンの何れに対しても適用可能である。
図2に示される実施形態では、副燃焼室形成部21は、燃焼室10の上部(軸方向におけるピストン5とは反対側)に位置するように、シリンダヘッド4に設けられた副室口金22からなる。副燃焼室20は、副室口金22の内部に形成されている。副燃焼室形成部21は、その内部に形成された副燃焼室20と外部とを連通する複数の噴孔23が形成され、これらの複数の噴孔23を介して燃焼室10と副燃焼室20とが連通している。
図2に示される実施形態では、エンジン1は、燃焼室10を介さずに副燃焼室20に燃料ガスを直接供給する燃料供給装置25を備える。燃料供給装置25は、図2に示されるように、副燃焼室20に燃料ガスを供給するように構成されており、燃料供給バルブ26の開度により副燃焼室20への燃料ガスの供給量が制御される。
エンジン1(1A)は、吸気行程において、ピストン5が下降する際には、吸気バルブ18が吸気ポート16Aを開き、排気バルブ19が排気ポート17Aを閉じる。吸気ポート16Aが開放されると、吸気流路16から燃料ガスと空気を混合させた希薄予混合気が燃焼室10に導入される。また、燃料供給バルブ26を開くことにより、燃料ガスが副燃焼室20に導入される。他方、圧縮行程において、ピストン5が上昇する際には、燃料供給バルブ26が閉じる。そして、吸気ポート16Aを介して燃焼室10に導入された希薄予混合気は、ピストン5の上昇に伴って圧縮され、その一部が、副燃焼室20の複数の噴孔23の各々を通って副燃焼室20に導入される。
燃焼行程において、燃焼室10から副燃焼室20に導入された希薄予混合気は、燃料ガスと混合して、副燃焼室20に着火に適した濃度の混合気が生成される。そして、ピストン5が圧縮上死点近傍に位置する際の所定のタイミングで着火装置24により副燃焼室20の混合気を着火すると、副燃焼室20の混合気が燃焼する。副燃焼室20における燃焼により生じた燃焼火炎は、複数の噴孔23の各々から燃焼室10へ噴出し、燃焼室10内の希薄予混合気を着火する。これにより、燃焼室10の希薄予混合気の燃焼に至る。燃焼室10内の希薄予混合気の燃焼圧力を受けたピストン5は、シリンダライナ6内を軸方向に沿って往復運動(上下運動)を行う。ピストン5の往復運動は、コンロッド14およびクランクシャフト15を介して回転運動に変換される。
図3は、本開示の一実施形態における遮熱膜部材を説明するための説明図であって、シリンダライナの中心軸に沿った断面を概略的に示す説明図である。図4は、本開示の一実施形態における遮熱膜部材を説明するための説明図であって、燃焼室を軸方向の下方から視認した平面を概略的に示す説明図である。
幾つかの実施形態にかかる遮熱膜部材7は、例えば図2に示されるように、シリンダライナ6の内壁面61に形成された凹部62に対して脱着可能に嵌合するように構成された基盤層8と、基盤層8におけるシリンダライナ6の内壁面61とは反対側の面(内側面)82に成膜される遮熱膜層9と、を備える。この遮熱膜層9は、図2に示されるように、ピストン5が上死点に到達した時点におけるシリンダライナ6の軸方向の最も上側に位置するピストンリング12(燃焼室側ピストンリング12A)よりも上方に設けられた。
図示される実施形態では、シリンダライナ6の内壁面61は、図3に示されるように、軸方向に沿って延在してピストンリング12の外周面121が当接する内壁面65と、内壁面65よりも上方、且つ径方向における外側において軸方向に沿って延在する段差壁面63と、を含む。段差壁面63の上端は、シリンダライナ6の上面66に連なる。また、段差壁面63の下端と内壁面65の上端との間には、それらを繋ぐ段差面64が形成される。この段差面64は、軸方向に交差(例えば、直交)する方向に沿って延在している。上述した凹部62は、段差壁面63と、段差面64と、を含む。図4に示される実施形態では、凹部62(段差壁面63および段差面64)は、シリンダライナ6の周方向に沿って延在する環状に形成されている。
図示される実施形態では、基盤層8は、図3に示されるように、軸方向に沿って延在する筒状に形成されている。この基盤層8は、径方向における外側に位置する外側面81と、この外側面81とは反対側、すなわち径方向における内側に位置する内側面82と、を有する。遮熱膜層9は、基盤層8の内側面82に成膜される一面91と、一面91とは反対側に位置し、燃焼室10に面する他面92と、を有する。図3に示される実施形態では、遮熱膜層9は、内側面82の上端から下端までに亘り内側面82を成膜している。遮熱膜部材7は、シリンダライナ6の凹部62に取り付けられると、基盤層8の外側面81が段差壁面63に対向し、基盤層8の下端部83が段差面64に当接する。この段差面64および基盤層8の下端部83は、ピストン5が上死点に到達した時点におけるピストン5の上端56よりも下方に位置している。また、図4に示されるように、遮熱膜層9は、内側面82に対してシリンダライナ6の周方向における全周に亘り成膜されている。
遮熱膜層9は、基盤層8やシリンダライナ6よりも熱伝導率が低くなるように構成されている。例えば、遮熱膜層9は、ジルコニア、酸化チタン、酸化アルミニウムなどを材料とするセラミックスを、溶射加工やめっき加工、真空蒸着加工などの表面処理により、基盤層8の内側面82の表面に担持させることで形成されてもよい。また、遮熱膜層9は、陽極酸化により基盤層8の内側面82の表面に生じる陽極酸化被膜であってもよい。また、遮熱塗料又は断熱塗料を基盤層8の内側面82の表面に塗布することで形成されてもよい。遮熱膜層9は、燃焼室10内の気体の温度への追従性が高く構成されていることが望ましい。例えば、遮熱膜層9の熱容量が小さく、遮熱膜層9の上記追従性が高いと、遮熱膜層9と燃焼室10内の気体との温度差を小さくできるため、燃焼室10における熱損失の低減が可能である。
基盤層8は、シリンダライナ6と熱伝導率が同じ、又はシリンダライナ6よりも熱伝導率が低くなるように構成されている。図示される実施形態では、基盤層8は、シリンダライナ6と同種のアルミニウムをその材料として構成されている。なお、基盤層8やシリンダライナ6は、アルミニウムではなく、鋼、チタン、ニッケル、銅やそれらの合金などを材料としてもよいし、基盤層8は、シリンダライナ6とは別の種類の材料により構成されていてもよい。例えば、或る実施形態では、基盤層8は、シリンダライナ6よりも線膨張係数が小さく、且つ遮熱膜層9よりも線膨張係数が高くなっている。この場合には、基盤層8と遮熱膜層9との間の線膨張係数の差が小さいので、燃焼室10内の熱が伝達されて基盤層8や遮熱膜層9が膨張した際に、遮熱膜層9が基盤層8から剥離することを抑制できる。
図1に基づいて、遮熱膜部材7の交換作業について説明する。まず、シリンダヘッド4をシリンダブロック3から取り外す。そして、遮熱膜部材7を軸方向における上側に引き抜いてシリンダライナ6から取り外し、新品の遮熱膜部材7に交換する。遮熱膜部材7を交換した後は、シリンダブロック3にシリンダヘッド4を取り付ける。遮熱膜部材7の交換作業は、遮熱膜が直接成膜されているシリンダライナ6の交換作業よりも簡単且つ迅速に行うことができる。
図示される実施形態では、凹部62の段差面64および基盤層8の下端部83の夫々は、図3に示されるように、ピストン5が上死点に到達した時点における燃焼室側ピストンリング12Aよりも上方に設けられている。この場合には、エンジン1に組み込まれたピストン5の位置に関わらず、シリンダライナ6から遮熱膜部材7を取り出せるので、遮熱膜部材7の交換作業が容易となる。また、凹部62の段差面64および基盤層8の下端部83の夫々が、ピストン5が上死点に到達した時点における燃焼室側ピストンリング12Aよりも上方に設けられていると、シリンダライナ6と遮熱膜部材7との間を滑らかに接続しなくてもよいので、遮熱膜部材7に対して厳密な寸法管理が不要となる。なお、他の幾つかの実施形態では、凹部62の段差面64および基盤層8の下端部83の夫々を、ピストン5が上死点に到達した時点における燃焼室側ピストンリング12Aよりも下方に設けてもよい。
また、仮にシリンダライナ6に遮熱膜が直接成膜されている場合には、製造時や部品交換時において、シリンダライナ6の上方からピストン5を組み付けると、シリンダライナ6の遮熱膜がピストン5により破損する虞がある。シリンダライナ6の遮熱膜の破損を回避するために、シリンダライナ6の下方からピストン5を組み付けるには、ピストン5を予め組み込んだシリンダライナ6をエンジン1に組み付けることが必要となるので、多大な労力がかかることになる。これに対して、シリンダライナ6に対して脱着可能な遮熱膜部材7に遮熱膜層9を設けることで、上述したピストン5の組み付け作業が容易となる。具体的には、ピストン5をエンジン1に組み付ける際に、遮熱膜部材7をシリンダライナ6から外しておくことで、遮熱膜層9を破損することなく、シリンダライナ6の上方からピストン5を組み付けることができる。エンジン1にピストン5を組み付けた後に、遮熱膜部材7をシリンダライナ6に取り付けることで、遮熱膜層9の破損を抑制できる。
上述したように、幾つかの実施形態にかかる遮熱膜部材7は、例えば図2に示されるように、シリンダライナ6の内壁面61に形成された凹部62に対して脱着可能に嵌合するように構成された上述した基盤層8と、基盤層8におけるシリンダライナ6の内壁面61とは反対側の面(内側面)82に成膜される上述した遮熱膜層9と、を備える。この遮熱膜層9は、図2に示されるように、ピストン5が上死点に到達した時点における燃焼室側ピストンリング12Aよりも上方に設けられた。
上記の構成によれば、遮熱膜部材7は、基盤層8と、基盤層8におけるシリンダライナ6の内壁面61とは反対側の面(内側面)82に成膜される遮熱膜層9と、を備える。そして、遮熱膜部材7は、基盤層8がシリンダライナ6の凹部62に脱着可能に嵌合するように構成されている。このため、遮熱膜部材7を交換することで、シリンダライナ6を交換しなくても遮熱膜層9の交換が可能である。これに対して、シリンダライナ6に遮熱膜層9が直接成膜されている場合には、遮熱膜層9の交換にはシリンダライナ6の交換が必要となる。よって、上述した遮熱膜部材7によれば、シリンダライナ6を交換しなくても遮熱膜層9の交換が可能であるので、仮にシリンダライナ6に直接遮熱膜層9が成膜されている場合に比べて、遮熱膜層9の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる。
具体的には、上記の構成によれば、遮熱膜部材7の交換作業を簡単且つ迅速に行うことができる。そして、遮熱膜部材7をシリンダライナ6から取り外した状態で、遮熱膜層9に付着した堆積物を除去できるので、仮にシリンダライナ6に直接遮熱膜が成膜されている場合に比べて、遮熱膜層9のメンテナンス作業を簡単且つ迅速に行うことが可能である。よって、上述した遮熱膜部材7によれば、遮熱膜層9の交換作業やメンテナンス作業を簡単且つ迅速に行うことが可能であるので、遮熱膜層9の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制可能である。また、高性能の遮熱膜層9が開発された場合には、上記高性能の遮熱膜層9への変更が容易である。
仮に遮熱膜層9が、ピストン5が上死点に到達した時点におけるシリンダライナ6の軸方向の最も上側に位置するピストンリング(燃焼室側ピストンリング12A)に対して上方から下方までに亘り設けられている場合には、ピストン5が軸方向に沿って上下運動した際に、ピストンリング12が遮熱膜層9に接触して摺りながら動くため、遮熱膜層9がピストンリング12との接触により破損し、遮熱膜層9の遮熱性能が低下する虞がある。これに対して、上記の構成によれば、遮熱膜層9は、ピストン5が上死点に到達した時点における燃焼室側ピストンリング12Aよりも上方に設けられている。このため、ピストン5が軸方向に沿って上下運動しても、ピストンリング12が遮熱膜層9に接触することがない。よって、上述した遮熱膜部材7によれば、ピストンリング12との接触による遮熱膜層9の遮熱性能の低下を防止することができ、長期間に亘り遮熱膜層9の遮熱性能を維持できる。これにより、遮熱膜部材7の交換頻度を低くできるので、遮熱膜層9の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる。
また、燃焼室10からシリンダライナ6への熱損失(入熱)は、燃焼室10内で熱に晒される時間が長いシリンダライナ6の上部(例えば、ピストン5の上端56よりも上方に位置する部位)の方が、シリンダライナ6の下部よりも大きい。このため、シリンダライナ6の上部を遮熱する上述した遮熱膜部材7により、十分な遮熱効果を得ることができる。
以下、図5~図12を用いて、上述した遮熱膜部材7(7A)の幾つかの変形例について説明する。以下で説明する遮熱膜部材7は、上述した遮熱膜部材7(7A)と基本的構成は同様である。以下の変形例では、遮熱膜部材7(7A)の構成と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し、各変形例の特徴的な構成を中心に説明する。
一般に、ピストン5は、シリンダライナ6内で軸方向に沿って上下運動する際に、ピストン5を回転可能に支持するピストンピン13の軸線CBを回転中心とする回転方向に首振り運動を行う。ピストン5の首振り運動により、ピストン5の上部が遮熱膜層9に衝突すると、遮熱膜層9が破損する虞がある。
図5~図8の夫々は、本開示の一実施形態における遮熱膜部材の第1~第4の変形例の夫々を説明するための説明図である。図5~図8では、エンジン1におけるシリンダライナ6の中心軸CAに沿った断面を概略的に示している。
幾つかの実施形態では、図5~図8に示されるように、上述した基盤層8は、遮熱膜層9が成膜された被成膜部84と、遮熱膜層9が成膜されていない露出部85と、を含む。この露出部85の少なくとも一部は、被成膜部84よりも内壁面61とは反対側に突出する突出部86を有する。突出部86のうち、基盤層8の軸方向の下端部83に形成される突出部86を下方側突出部87とする。
図5に示される実施形態では、上述した基盤層8の内側面82は、基盤層8の上端から下方に向かって軸方向に沿って延在する上方側内側面821と、上方側内側面821よりも下方、且つ上方側内側面821よりも径方向の内側において軸方向に沿って延在する下方側内側面822と、上方側内側面821の下端と下方側内側面822の上端とを繋ぐ段差面823と、を含む。この段差面823は、軸方向に交差(例えば、直交)する方向に沿って延在している。遮熱膜層9は、上方側内側面821の上端から下端までに亘り成膜されており、下方側内側面822には成膜されていない。そして、下方側内側面822は、遮熱膜層9の燃焼室10に面する他面92よりも径方向の内側に位置している。つまり、上述した被成膜部84は、上方側内側面821を含み、上述した突出部86(下方側突出部87)は、下方側内側面822を含む。
図6に示される実施形態では、上述した基盤層8の内側面82は、基盤層8の上端から下方に向かって軸方向に沿って延在する上方側内側面821と、上方側内側面821の下端から軸方向のおける下方に向かうにつれて径方向における内側に傾斜する下方側傾斜面824と、を含む。遮熱膜層9は、上方側内側面821の上端から下方側傾斜面824の上部824Aまでに亘り成膜されており、下方側傾斜面824の下部には成膜されていない。そして、下方側傾斜面824の下部は、遮熱膜層9の燃焼室10に面する他面92よりも径方向の内側に位置している。つまり、上述した被成膜部84は、上方側内側面821および下方側傾斜面824の上部824Aを含み、上述した下方側突出部87(突出部86)は、下方側傾斜面824の下部を含む。
図7に示される実施形態では、上述した基盤層8の内側面82は、基盤層8の上端から下端までに亘り形成される傾斜面825を含む。この傾斜面825は、軸方向の下方に向かうにつれて径方向における内側に傾斜している。遮熱膜層9は、傾斜面825における上側の部分825Aに成膜されており、傾斜面825における下側の部分825Bには、成膜されていない。図示される実施形態では、遮熱膜層9は、傾斜面825の上端から傾斜面825の中央位置よりも下側までに亘り傾斜面825を成膜している。また、傾斜面825の下側の部分825Bは、遮熱膜層9の燃焼室10に面する他面92よりも径方向の内側に位置している。つまり、上述した被成膜部84は、傾斜面825における上側の部分825Aを含み、上述した下方側突出部87(突出部86)は、傾斜面825における下側の部分825Bを含む。
図8に示される実施形態では、上述した基盤層8の内側面82は、基盤層8の上端から下方に向かって軸方向に沿って延在する上方側内側面821と、上方側内側面821よりも下方において軸方向に沿って延在する下方側内側面826と、下方側内側面826の下端から軸方向のおける下方に向かうにつれて径方向における内側に傾斜する下方側傾斜面827と、上方側内側面821と下方側内側面826の間において、上方側内側面821および下方側内側面826の夫々よりも径方向における内側に突出する突出面部828と、を含む。図示される実施形態では、突出面部828は、上方側内側面821の下端から下方に向かうにつれて径方向における内側に傾斜する上側傾斜面828Aと、下方側内側面826の上端から上方に向かうにつれて径方向における内側に傾斜する下側傾斜面828Bと、を含む。
図8に示される実施形態では、上述した遮熱膜層9は、少なくとも上方側内側面821を成膜する第1遮熱膜層9Aと、少なくとも下方側内側面826を成膜する第2遮熱膜層9Bと、を含む。図示される実施形態では、第1遮熱膜層9Aは、上側傾斜面828Aの上部をさらに成膜している。また、第2遮熱膜層9Bは、下側傾斜面828Bの下部および下方側傾斜面827の上部827Aをさらに成膜している。突出面部828における上側傾斜面828Aの下部および下側傾斜面828Bの上部、並びに下方側傾斜面827の下部は、第1遮熱膜層9Aおよび第2遮熱膜層9Bの夫々の他面92よりも径方向の内側に位置している。つまり、上述した被成膜部84は、上方側内側面821、上側傾斜面828Aの上部、下側傾斜面828Bの下部、下方側内側面826および下方側傾斜面827の上部827Aを含む。上述した下方側突出部87は、下方側傾斜面827の下部を含み、上述した突出部86は、下方側突出部87よりも軸方向の上側に位置する上方側突出部88をさらに含む。図示される実施形態では、上方側突出部88は、突出面部828の先端部、すなわち上側傾斜面828Aの下部および下側傾斜面828Bの上部を含む。
上記の構成によれば、上述した遮熱膜部材7の基盤層8は、被成膜部84よりも内壁面61とは反対側に突出する突出部86を有する。この場合には、ピストン5が首振り運動した際に、ピストン5の上部を遮熱膜層9が成膜されていない突出部86に衝突させることで、ピストン5の上部と遮熱膜層9との衝突を抑制できる。ピストン5の上部と遮熱膜層9との衝突を抑制することで、長期間に亘り遮熱膜層9の遮熱性能を維持できる。
幾つかの実施形態では、図5~図8に示されるように、上述した突出部86は、基盤層8の軸方向の下端部83に形成される上述した下方側突出部87を含み、上述した被成膜部84は、下方側突出部87よりも軸方向の上側に位置するように構成された。上記の構成によれば、下方側突出部87は、被成膜部84(遮熱膜層9)よりも軸方向の下側に位置している。この場合には、ピストン5が首振り運動しながら上昇した際に、下方側突出部87にピストン5の上部を早期に衝突させることができる。これにより、ピストン5の首振り運動を抑制し、ピストン5の位置を正すことができるため、下方側突出部87よりも上側に位置する遮熱膜層9と、ピストン5の上部と、の衝突を効果的に抑制できる。
幾つかの実施形態では、図5、図6、図8に示されるように、上述した被成膜部84は、軸方向に沿って延在する第1の内面841を有する。図5、図6における上方側内側面821が、第1の内面841に該当する。また、図8における上方側内側面821および下方側内側面826の夫々が、第1の内面841に該当する。
上記の構成によれば、被成膜部84は、軸方向に沿って延在する第1の内面841を有する。第1の内面841に成膜される遮熱膜層9は、その成膜の際にその厚さを均一なものとすることが容易である。遮熱膜層9の厚さを均一なものとすることで、遮熱膜層9の部分毎の遮熱性能のばらつきを抑制できるため、遮熱膜層9の遮熱効果を効果的に発揮させることができる。
幾つかの実施形態では、図6~図8に示されるように、上述した被成膜部84は、軸方向における上側に向かうにつれてシリンダライナ6の中心軸CAからの距離が大きくなるように傾斜する第2の内面842を有する。図6における下方側傾斜面824の上部824A、および図7における傾斜面825の上側の部分825Aの夫々が、第2の内面842に該当する。また、図8における上側傾斜面828Aの上部および下方側傾斜面827の上部827Aの夫々が、第2の内面842に該当する。
上記の構成によれば、被成膜部84は、軸方向における上側に向かうにつれて、シリンダライナ6の中心軸CAからの距離が大きくなるように傾斜する第2の内面842を有する。この第2の内面842に成膜される遮熱膜層9は、その下端縁93を成膜する際に下端側に向かうにつれてその肉厚を薄くすることが容易である。遮熱膜層9の下端縁93を先細り形状とすることで、遮熱膜層9の基盤層8からの剥離を抑制できる。遮熱膜層9の基盤層8からの剥離を抑制することで、長期間に亘り遮熱膜層9の遮熱性能を維持できる。これにより、遮熱膜部材7の交換頻度を低くできるので、遮熱膜層9の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる。
図6~図8に示される実施形態は、被成膜部84が上述した第2の内面842を有し、遮熱膜層9の下端縁93は、先細り形状を有する。この場合には、厚さが均一に設けられた遮熱膜層9に比べて、ピストン5の外周面55と基盤層8の内側面82との間の隙間が大きくなるのを抑制しつつ、遮熱膜層9を基盤層8のより下側まで成膜することができる。上記隙間を小さくすることで、該隙間による燃焼室10内の熱損失を抑制できる。
幾つかの実施形態では、図8に示されるように、上述した被成膜部84は、軸方向における下側に向かうにつれて、シリンダライナ6の中心軸CAからの距離が大きくなるように傾斜する第3の内面843を有する。図8における下側傾斜面828Bの下部が、第3の内面843に該当する。
上記の構成によれば、被成膜部84は、軸方向における下側に向かうにつれて、シリンダライナ6の中心軸CAからの距離が大きくなるように傾斜する第3の内面843を有する。この第3の内面843に成膜される遮熱膜層9は、その上端縁94を成膜する際に上端側に向かうにつれてその肉厚を薄くすることが容易である。遮熱膜層9の上端縁94を先細り形状とすることで、遮熱膜層9の基盤層8からの剥離を抑制できる。遮熱膜層9の基盤層8からの剥離を抑制することで、長期間に亘り遮熱膜層9の遮熱性能を維持できる。これにより、遮熱膜部材7の交換頻度を低くできるので、遮熱膜層9の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる。
幾つかの実施形態では、上述した突出部86は、図8に示されるように、下方側突出部87と、下方側突出部87よりも軸方向の上側に位置する上方側突出部88と、を含む。図8に示されるように、上方側突出部88は、少なくとも一部(図示例では全部)が、ピストン5が上死点に到達した時点におけるピストン5の上端56よりも下方に位置している。上記の構成によれば、突出部86は、下方側突出部87と、下方側突出部87よりも軸方向の上側に位置する上方側突出部88と、を含む。この場合には、軸方向位置が互いに異なる上方側突出部88および下方側突出部87の何れかに一方に、ピストン5の上部を衝突させることで、ピストン5の上部と遮熱膜層9との衝突を効果的に抑制できる。
幾つかの実施形態では、図6~図8に示されるように、上述した遮熱膜層9は、その上端縁94又は下端縁93の少なくとも一方が、先端側に向かうにつれて肉厚が薄くなるように構成された。上記の構成によれば、遮熱膜層9は、その上端縁94又は下端縁93の少なくとも一方が、先端側に向かうにつれて肉厚が薄くなるように構成されているので、その上端縁94又は下端縁93が基盤層8から剥離することを抑制できる。遮熱膜層9の基盤層8からの剥離を抑制することで、長期間に亘り遮熱膜層9の遮熱性能を維持できる。これにより、遮熱膜部材7の交換頻度を低くできるので、遮熱膜層9の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる。
図9~図12の夫々は、本開示の一実施形態における遮熱膜部材の第5~第8の変形例の夫々を説明するための説明図である。図9~図12では、エンジン1における燃焼室10を軸方向の下方から視認した平面を概略的に示している。また、図9~図11では、シリンダライナ6のハッチングを省略して示している。
幾つかの実施形態では、上述した突出部86は、図9に示されるように、燃焼室10を軸方向の下方から視認した平面視において、シリンダライナ6の中心軸CAからピストンピン13の軸線CBに直交する方向に延ばした第1の直線SL1を基準としてシリンダライナ6の周方向における所定範囲R1、R2(少なくとも、±30°の範囲)に形成された。図示される実施形態では、基盤層8は、シリンダライナ6の周方向における所定範囲R1と所定範囲R2との間に位置する一対の範囲の夫々には、突出部86が形成されていない。
図9では、上記平面視において、第1の直線SL1と基盤層8の内側面82との交点P1、P2のうち、一方の交点P1の位置を0°位置とし、中心軸CAを中心とした時計回りを正方向とし、0°位置に対する正方向における周方向の角度をθと定義する。
図9に示される実施形態では、上述した突出部86は、0°位置を基準とする所定範囲R1に形成される一方側突出部86Aと、180°位置を基準とする所定範囲R2に形成される他方側突出部86Bと、を含む。所定範囲R1、R2の夫々を大きくすると、その分だけ突出部86がピストン5の上部に衝突する可能性が高まるが、その分だけ基盤層8における遮熱膜層9が成膜される領域が小さくなるので、遮熱膜層9による遮熱効果が低下する。
図示される実施形態では、一方側突出部86Aは、-30°≦θ≦30°の範囲に少なくとも形成される。他方側突出部86Bは、150°≦θ≦210°の範囲に少なくとも形成される。上述した所定範囲R1、R2は、例えば、±30°の範囲であってもよく、±45°の範囲であってもよい。
ピストン5は、ピストンピン13の軸線CBに直交する方向に向かって首振り運動を行うため、ピストンピン13の軸線CBに直交する方向に延ばした第1の直線SL1を基準とするシリンダライナ6の周方向における所定範囲R1、R2(例えば、±30°)内において、ピストン5の上部が遮熱膜部材7に衝突する可能性が高い。上記の構成によれば、遮熱膜部材7におけるピストン5の上部が衝突する可能性が高い上記所定範囲R1、R2に突出部86(一方側突出部86Aおよび他方側突出部86B)を設け、この突出部86にピストン5の上部を衝突させることで、ピストン5の上部と遮熱膜層9との衝突を効果的に抑制できる。
また、上述した遮熱膜部材7は、シリンダライナ6の周方向において、突出部86が形成される範囲を限定することで、シリンダライナ6の周方向における全周に突出部86を形成する場合に比べて、基盤層8における遮熱膜層9が成膜される領域を大きなものとすることができるため、遮熱膜層9による遮熱効果を高めることができる。
幾つかの実施形態では、図10に示されるように、上述した基盤層8は、遮熱膜層9が成膜された被成膜部84と、遮熱膜層9が成膜されていない露出部85と、を含む。被成膜部84は、図10に示されるように、燃焼室10を軸方向の下方から視認した平面視において、シリンダライナ6の中心軸CAからピストンピン13の軸線CBに直交する方向に延ばした第1の直線SL1を基準としてシリンダライナ6の周方向における所定範囲R3、R4(例えば、±30°の範囲)以外の範囲に形成された。図示される実施形態では、基盤層8は、シリンダライナ6の周方向における所定範囲R3および所定範囲R4の夫々には、被成膜部84が形成されていない。
図10では、図9と同様に、上記平面視において、第1の直線SL1と基盤層8の内側面82との交点P1、P2のうち、一方の交点P1の位置を0°位置とし、中心軸CAを中心とした時計回りを正方向とし、0°位置に対する正方向における周方向の角度をθと定義する。
図10に示される実施形態では、上述した被成膜部84は、シリンダライナ6の周方向において、0°位置を基準とする所定範囲R3と180°位置を基準とする所定範囲R4との間に位置する一対の範囲R5、R6のうちの、一方の範囲R5に形成される一方側被成膜部84Aと、他方の範囲R6に形成される他方側被成膜部84Bと、を含む。被成膜部84が形成されていない所定範囲R3、R4の夫々を大きくすると、その分だけ遮熱膜層9にピストン5の上部が衝突する可能性が低くなるが、その分だけ基盤層8における遮熱膜層9が成膜される領域が小さくなるので、遮熱膜層9による遮熱効果が低下する。
図示される実施形態では、一方側被成膜部84Aは、60°≦θ≦120°の範囲に少なくとも形成される。他方側被成膜部84Bは、240°≦θ≦300°の範囲に少なくとも形成される。上述した所定範囲R3、R4は、例えば、±30°の範囲であってもよく、±45°の範囲であってもよい。
ピストン5は、ピストンピン13の軸線CBに直交する方向に向かって首振り運動を行うため、ピストンピン13の軸線CBに直交する方向に延ばした第1の直線SL1を基準とするシリンダライナ6の周方向における所定範囲R3、R4(例えば、±30°)内において、ピストン5の上部が遮熱膜部材7に衝突する可能性が高い。仮に遮熱膜部材7の遮熱膜層9にピストン5の上部が衝突し、遮熱膜層9の基盤層8からの剥離が生じると、剥離した部位の近傍が剥離し易くなるので、遮熱膜層9の基盤層8からの剥離が進行してしまい、遮熱膜層9の遮熱性能が早期に低下する虞がある。上記の構成によれば、遮熱膜部材7におけるピストン5の上部が衝突する可能性が高い上記所定範囲R3、R4(例えば、±30°)に被成膜部84を形成しないことで、ピストン5の上部が遮熱膜層9に衝突することを効果的に抑制できる。遮熱膜層9にピストン5の上部が衝突することを抑制することで、遮熱膜層9の基盤層8からの剥離を抑制できるため、長期間に亘り遮熱膜層9の遮熱性能を維持できる。
幾つかの実施形態では、図11に示されるように、上述した基盤層8は、遮熱膜層9が成膜された被成膜部84と、遮熱膜層9が成膜されていない露出部85と、を含む。被成膜部84は、図11に示されるように、燃焼室10を軸方向の下方から視認した平面視において、シリンダライナ6の中心軸CAから延びて吸気ポート16Aの中心CPを通る第2の直線SL2を基準としてシリンダライナ6の周方向における所定範囲R7、R8(例えば、±15°の範囲)以外の範囲に形成された。
図11では、上記平面視において、第2の直線SL2と基盤層8の内側面82との交点P3の位置を0°位置とし、中心軸CAを中心とした時計回りを正方向とし、0°位置に対する正方向における周方向の角度をθと定義する。
図11に示される実施形態では、シリンダヘッド4の下面42には、シリンダライナ6の周方向において互いに離れた位置に二つの吸気ポート16Aが形成されている。二つの吸気ポート16Aのうちの、一方の吸気ポート16Aの中心CPを通る第2の直線SL2を基準とするシリンダライナ6の周方向における所定範囲R7、および他方の吸気ポート16Aの中心CPを通る第2の直線SL2を基準とするシリンダライナ6の周方向における所定範囲R8の夫々には、被成膜部84が形成されていない。
図11に示される実施形態では、上述した被成膜部84は、シリンダライナ6の周方向において、上述した所定範囲R7と所定範囲R8との間に位置する一対の範囲R9、R10のうちの、その範囲が狭い一方の範囲R9に形成される一方側被成膜部84Cと、その範囲が広い他方の範囲R10に形成される他方側被成膜部84Dと、を含む。被成膜部84が形成されていない所定範囲R7、R8の夫々を大きくすると、遮熱膜層9に蓄えられた熱が燃焼用気体への伝達を抑制できるが、その分だけ基盤層8における遮熱膜層9が成膜される領域が小さくなるので、遮熱膜層9による遮熱効果が低下する。上述した所定範囲R7、R8は、例えば、±30°の範囲であってもよく、±45°の範囲であってもよい。
仮に吸気ポート16Aの近傍に遮熱膜層9を配置すると、吸気ポート16Aから燃焼室10内に導入された燃焼用気体(例えば、燃焼用空気)が、遮熱膜層9に蓄えられた熱により燃焼前に加熱されて膨張してしまい、燃焼効率が低下する可能性がある。上記の構成によれば、遮熱膜層9は、吸気ポート16Aの近傍、すなわち、燃焼室10を軸方向の下方から視認した平面視において、シリンダライナ6の中心軸CAから延びて吸気ポート16Aの中心CPを通る第2の直線SL2を基準とするシリンダライナ6の周方向における所定範囲R7、R8(例えば、±15°)内に被成膜部84を形成せずに、上記所定範囲R7、R8以外の範囲R9、R10に被成膜部84が形成されている。このように吸気ポート16Aの近傍に被成膜部84を形成しないことで、吸気ポート16Aから燃焼室10内に導入された燃焼用気体が、遮熱膜層9に蓄えられた熱により燃焼前に加熱されることを抑制でき、ひいては燃焼効率の低下を抑制できる。
上述した幾つかの実施形態では、上述した遮熱膜部材7の基盤層8は、例えば図4に示されるように、シリンダライナ6の周方向に沿って延在する環状に形成されていたが、図12に示されるように、シリンダライナ6の周方向に沿って延在する円弧状(図示例では半円状)に形成してもよい。図12に示されるように、シリンダライナ6の凹部62に複数(図示例では二つ)の遮熱膜部材7が脱着可能に嵌合するようにしてもよい。また、シリンダライナ6の凹部62は、シリンダライナ6の周方向に沿って延在する円弧状の溝部であってもよい。
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。例えば、遮熱膜部材7が装着されるエンジン1は、船舶用のエンジン、発電用のエンジン、自動車用のエンジンの何れの用途に用いられるものであってもよい。なお、エンジン1が船舶用のエンジンや発電用のエンジンである場合には、長期間にわたりエンジンを稼働させるので、自動車用のエンジンに比べて、交換作業やメンテナンス作業が多く発生するとともに、交換作業やメンテナンス作業を迅速に行う必要がある。よって、本発明は、船舶用のエンジンや発電用のエンジンに特に有用である。
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
1)本開示の少なくとも一実施形態にかかる遮熱膜部材(7)は、
ピストン(5)を軸方向に沿って摺動可能に収容するシリンダライナ(6)におけるエンジン(1)の燃焼室(10)に面する内壁面(61)に装着される少なくとも一つの遮熱膜部材(7)であって、
前記シリンダライナ(6)の前記内壁面(61)に形成された凹部(62)に対して脱着可能に嵌合するように構成された基盤層(8)と、
前記基盤層(8)における前記シリンダライナ(6)の前記内壁面(61)とは反対側の面(内側面82)に成膜される遮熱膜層(9)と、を備え、
前記遮熱膜層(9)は、前記ピストン(5)が上死点に到達した時点における前記シリンダライナ(6)の前記軸方向の最も上側に位置するピストンリング(燃焼室側ピストンリング12A)よりも上方に設けられた。
上記1)の構成によれば、遮熱膜部材(7)は、基盤層(8)と、基盤層(8)におけるシリンダライナ(6)の内壁面(61)とは反対側の面(内側面82)に成膜される遮熱膜層(9)と、を備える。そして、遮熱膜部材(7)は、基盤層(8)がシリンダライナ(6)の凹部(62)に脱着可能に嵌合するように構成されている。このため、遮熱膜部材(7)を交換することで、シリンダライナ(6)を交換しなくても遮熱膜層(9)の交換が可能である。これに対して、シリンダライナ(6)に遮熱膜層(9)が直接成膜されている場合には、遮熱膜層(9)の交換にはシリンダライナ(6)の交換が必要となる。よって、上述した遮熱膜部材(7)によれば、シリンダライナ(6)を交換しなくても遮熱膜層(9)の交換が可能であるので、仮にシリンダライナ(6)に直接遮熱膜層(9)が成膜されている場合に比べて、遮熱膜層(9)の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる。
仮に遮熱膜層(9)が、ピストン(5)が上死点に到達した時点におけるシリンダライナ(6)の軸方向の最も上側に位置するピストンリング(燃焼室側ピストンリング12A)に対して上方から下方までに亘り設けられている場合には、ピストン(5)が軸方向に沿って上下運動した際に、ピストンリング(12)が遮熱膜層(9)に接触して摺りながら動くため、遮熱膜層(9)がピストンリング(12)との接触により破損し、遮熱膜層(9)の遮熱性能が低下する虞がある。これに対して、上記1)の構成によれば、遮熱膜層(9)は、ピストン(5)が上死点に到達した時点における燃焼室側ピストンリング(12A)よりも上方に設けられている。このため、ピストン(5)が軸方向に沿って上下運動しても、ピストンリング(12)が遮熱膜層(9)に接触することがない。よって、上述した遮熱膜部材(7)によれば、ピストンリング(12)との接触による遮熱膜層(9)の遮熱性能の低下を防止することができ、長期間に亘り遮熱膜層(9)の遮熱性能を維持できる。これにより、遮熱膜部材(7)の交換頻度を低くできるので、遮熱膜層(9)の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる。
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の遮熱膜部材(7)であって、
前記基盤層(8)は、
前記遮熱膜層(9)が成膜された被成膜部(84)と、
前記遮熱膜層(9)が成膜されていない露出部(85)と、を含み、
前記露出部(85)の少なくとも一部は、前記被成膜部(84)よりも前記内壁面(61)とは反対側に突出する突出部(86)を有する。
一般に、ピストン(5)は、シリンダライナ(6)内で軸方向に沿って上下運動する際に、ピストンピン(13)を回転中心とする回転方向に首振り運動を行う。ピストン(5)の首振り運動により、ピストン(5)の上部が遮熱膜層(9)に衝突すると、遮熱膜層(9)が破損する虞がある。上記2)の構成によれば、上述した遮熱膜部材(7)の基盤層(8)は、被成膜部(84)よりも前記内壁面(61)とは反対側に突出する突出部(86)を有する。この場合には、ピストン(5)が首振り運動した際に、ピストン(5)の上部を遮熱膜層(9)が成膜されていない突出部(86)に衝突させることで、ピストン(5)の上部と遮熱膜層(9)との衝突を抑制できる。ピストン(5)の上部と遮熱膜層(9)との衝突を抑制することで、長期間に亘り遮熱膜層(9)の遮熱性能を維持できる。
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載の遮熱膜部材(7)であって、
前記突出部(86)は、前記基盤層()の前記軸方向の下端部に形成される下方側突出部(87)を含み、
前記被成膜部(84)は、前記下方側突出部(87)よりも前記軸方向の上側に位置するように構成された。

上記3)の構成によれば、下方側突出部(87)は、被成膜部(84)よりも軸方向の下側に位置している。この場合には、ピストン(5)が首振り運動しながら上昇した際に、下方側突出部(87)にピストン(5)の上部を早期に衝突させることができる。これにより、ピストン(5)の首振り運動を抑制し、ピストン(5)の位置を正すことができるため、ピストン(5)の上部と遮熱膜層(9)との衝突を効果的に抑制できる。
4)幾つかの実施形態では、上記3)に記載の遮熱膜部材(7)であって、
前記被成膜部(84)は、前記軸方向に沿って延在する第1の内面(841)を有する。
上記4)の構成によれば、被成膜部(84)は、軸方向に沿って延在する第1の内面(841)を有する。第1の内面(841)に成膜される遮熱膜層(9)は、その成膜の際にその厚さを均一なものとすることが容易である。遮熱膜層(9)の厚さを均一なものとすることで、遮熱膜層(9)の部分毎の遮熱性能のばらつきを抑制できるため、遮熱膜層(9)の遮熱効果を効果的に発揮させることができる。
5)幾つかの実施形態では、上記3)又は4)に記載の遮熱膜部材(7)であって、
前記被成膜部(84)は、前記軸方向における上側に向かうにつれて前記シリンダライナ(6)の中心軸(CA)からの距離が大きくなるように傾斜する第2の内面(842)を有する。
上記5)の構成によれば、被成膜部(84)は、軸方向における上側に向かうにつれてシリンダライナ(6)の中心軸(CA)からの距離が大きくなるように傾斜する第2の内面(842)を有する。この第2の内面(842)に成膜される遮熱膜層(9)は、その下端縁(93)を成膜する際に、下端側に向かうにつれてその肉厚を薄くすることが容易である。遮熱膜層(9)の下端縁(93)を先細り形状とすることで、遮熱膜層(9)の基盤層(8)からの剥離を抑制できる。遮熱膜層(9)の基盤層(8)からの剥離を抑制することで、長期間に亘り遮熱膜層(9)の遮熱性能を維持できる。これにより、遮熱膜部材(7)の交換頻度を低くできるので、遮熱膜層(9)の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる。
6)幾つかの実施形態では、上記3)~5)の何れかに記載の遮熱膜部材(7)であって、
前記突出部(86)は、前記下方側突出部(87)よりも前記軸方向の上側に位置する上方側突出部(88)をさらに含む。
上記6)の構成によれば、突出部(86)は、下方側突出部(87)と、下方側突出部(87)よりも軸方向の上側に位置する上方側突出部(88)と、を含む。この場合には、軸方向位置が互いに異なる上方側突出部(87)および下方側突出部(87)の何れかに一方に、ピストン(5)の上部を衝突させることで、ピストン(5)の上部と遮熱膜層(9)との衝突を効果的に抑制できる。
7)幾つかの実施形態では、上記2)~6)の何れかに記載の遮熱膜部材(7)であって、
前記突出部(86)は、前記燃焼室(10)を前記軸方向の下方から視認した平面視において、前記シリンダライナ(6)の中心軸(CA)から前記ピストン(5)を回転可能に支持するピストンピン(13)の軸線(CB)に直交する方向に延ばした第1の直線(SL1)を基準として前記シリンダライナ(6)の周方向における±30°の範囲に形成された。
ピストン(5)は、ピストンピン(13)の軸線(CB)に直交する方向に向かって首振り運動を行うため、ピストンピン(13)の軸線(CB)に直交する方向に延ばした第1の直線(SL1)を基準とするシリンダライナ(6)の周方向における所定範囲(R1、R2(例えば、±30°))内において、ピストン(5)の上部が遮熱膜部材(7)に衝突する可能性が高い。上記7)の構成によれば、遮熱膜部材(7)におけるピストン(5)の上部が衝突する可能性が高い上記所定範囲(R1、R2)に突出部(86)を設け、この突出部(86)にピストン(5)の上部を衝突させることで、ピストン(5)の上部と遮熱膜層(9)との衝突を効果的に抑制できる。
8)幾つかの実施形態では、上記1)~7)の何れかに記載の遮熱膜部材(7)であって、
前記遮熱膜層(9)は、その上端縁(94)又は下端縁(93)の少なくとも一方が、先端側に向かうにつれて肉厚が薄くなるように構成された。
上記8)の構成によれば、遮熱膜層(9)は、その上端縁(94)又は下端縁(93)の少なくとも一方が、先端側に向かうにつれて肉厚が薄くなるように構成されているので、その上端縁(94)又は下端縁(93)が基盤層(8)から剥離することを抑制できる。遮熱膜層(9)の基盤層(8)からの剥離を抑制することで、長期間に亘り遮熱膜層(9)の遮熱性能を維持できる。これにより、遮熱膜部材(7)の交換頻度を低くできるので、遮熱膜層(9)の遮熱性能の維持にかかるコストの増大化を抑制できる。
9)幾つかの実施形態では、上記1)~8)の何れかに記載の遮熱膜部材(7)であって、
前記基盤層(8)は、
前記遮熱膜層(9)が成膜された被成膜部(84)と、
前記遮熱膜層(9)が成膜されていない露出部(85)と、を含み、
前記被成膜部(84)は、前記燃焼室(10)を前記軸方向の下方から視認した平面視において、前記シリンダライナ(6)の中心軸(CA)から前記ピストン(5)を回転可能に支持するピストンピン(13)の軸線(CB)に直交する方向に延ばした第1の直線(SL1)を基準として前記シリンダライナ(6)の周方向における±30°以外の範囲に形成された。
ピストン(5)は、ピストンピン(13)の軸線(CB)に直交する方向に向かって首振り運動を行うため、ピストンピン(13)の軸線(CB)に直交する方向に延ばした第1の直線(SL1)を基準とするシリンダライナ(6)の周方向における所定範囲(R3、R4(例えば、±30°))内において、ピストン(5)の上部が遮熱膜部材(7)に衝突する可能性が高い。仮に遮熱膜部材(7)の遮熱膜層(9)にピストン(5)の上部が衝突し、遮熱膜層(9)の基盤層(8)からの剥離が生じると、剥離した部位の近傍が剥離し易くなるので、遮熱膜層(9)の基盤層(8)からの剥離が進行してしまい、遮熱膜層(9)の遮熱性能が早期に低下する虞がある。上記9)の構成によれば、遮熱膜部材(7)におけるピストン(5)の上部が衝突する可能性が高い上記所定範囲(R3、R4(例えば、±30°))に被成膜部(84)を形成しないことで、ピストン(5)の上部が遮熱膜層(9)に衝突することを効果的に抑制できる。遮熱膜層(9)にピストン(5)の上部が衝突することを抑制することで、遮熱膜層(9)の基盤層(8)からの剥離を抑制できるため、長期間に亘り遮熱膜層(9)の遮熱性能を維持できる。
10)幾つかの実施形態では、上記1)~9)の何れかに記載の遮熱膜部材(7)であって、
前記基盤層(8)は、
前記遮熱膜層(9)が成膜された被成膜部(84)と、
前記遮熱膜層(9)が成膜されていない露出部(85)と、を含み、
前記被成膜部(84)は、前記燃焼室(10)を前記軸方向の下方から視認した平面視において、前記シリンダライナ(6)の中心軸(CA)から延びて吸気ポート(16A)の中心(CP)を通る第2の直線(SL2)を基準として前記シリンダライナ(6)の周方向における±15°以外の範囲に形成された。
仮に吸気ポート(16A)の近傍に遮熱膜層(9)を配置すると、吸気ポート(16A)から燃焼室(10)内に導入された燃焼用気体(例えば、燃焼用空気)が、遮熱膜層(9)に蓄えられた熱により燃焼前に加熱されて膨張してしまい、燃焼効率が低下する可能性がある。上記10)の構成によれば、遮熱膜層(9)は、吸気ポート(16A)の近傍、すなわち、燃焼室(10)を軸方向の下方から視認した平面視において、シリンダライナ(6)の中心軸(CA)から延びて吸気ポート(16A)の中心(CP)を通る第2の直線(SL2)を基準とするシリンダライナ(6)の周方向における所定範囲(R7、R8(例えば、±15°))内に被成膜部(84)を形成せずに、上記所定範囲(R7、R8)以外の範囲(R9、R10)に被成膜部(84)が形成されている。このように吸気ポート(16A)の近傍に被成膜部(84)を形成しないことで、吸気ポート(16A)から燃焼室(10)内に導入された燃焼用気体が、遮熱膜層(9)に蓄えられた熱により燃焼前に加熱されることを抑制でき、ひいては燃焼効率の低下を抑制できる。
1,1A エンジン
3 シリンダブロック
4 シリンダヘッド
5 ピストン
6 シリンダライナ
7 遮熱膜部材
8 基盤層
9 遮熱膜層
9A 第1遮熱膜層
9B 第2遮熱膜層
10 燃焼室
11 燃焼室形成部
12 ピストンリング
12A 燃焼室側ピストンリング
13 ピストンピン
14 コンロッド
15 クランクシャフト
16 吸気流路
16A 吸気ポート
17 排気流路
17A 排気ポート
18 吸気バルブ
19 排気バルブ
20 副燃焼室
21 副燃焼室形成部
22 副室口金
23 噴孔
24 着火装置
25 燃料供給装置
26 燃料供給バルブ
30 空間
42 下面
51 ヘッド部
52 スカート部
53 頂面
54 ピストンリング溝
55 外周面
56 上端
60 内部空間
61,65 内壁面
62 凹部
63 段差壁面
64 段差面
66 上面
81 外側面
82 内側面
83 下端部
84,84A~84D 被成膜部
85 露出部
86,86A,86B 突出部
87 下方側突出部
88 上方側突出部
91 一面
92 他面
93 下端縁
94 上端縁
821 上方側内側面
822,826 下方側内側面
823 段差面
824,827 下方側傾斜面
825 傾斜面
828 突出面部
828A 上側傾斜面
828B 下側傾斜面
841 第1の内面
842 第2の内面
843 第3の内面
CA 中心軸
CB 軸線
CP 中心
P1~P3 交点
R1~R10 範囲
SL1 第1の直線
SL2 第2の直線

Claims (10)

  1. ピストンを軸方向に沿って摺動可能に収容するシリンダライナにおけるエンジンの燃焼室に面する内壁面に装着される少なくとも一つの遮熱膜部材であって、
    前記シリンダライナの前記内壁面に形成された凹部に対して脱着可能に嵌合するように構成された基盤層であって、前記凹部の前記軸方向に沿って延びる壁面に対向する外側面及び前記外側面よりも径方向における内側に位置する内側面を有する基盤層と、
    前記基盤層の前記内側面に成膜される遮熱膜層と、を備え、
    前記遮熱膜層は、前記ピストンが上死点に到達した時点における前記シリンダライナの前記軸方向の最も上側に位置するピストンリングよりも上方に設けられ、
    前記基盤層は、
    前記遮熱膜層が成膜された被成膜部と、
    前記遮熱膜層が成膜されていない露出部と、を含み、
    前記露出部の少なくとも一部は、前記被成膜部に成膜された前記遮熱膜層よりも前記径方向における内側に突出する突出部を有する、
    遮熱膜部材。
  2. 前記遮熱膜層は、前記シリンダライナの前記ピストンリングが当接する壁面よりも前記径方向における外側に設けられた、
    請求項1に記載の遮熱膜部材。
  3. 前記突出部は、前記基盤層の前記軸方向の下端部に形成される下方側突出部を含み、
    前記被成膜部は、前記下方側突出部よりも前記軸方向の上側に位置するように構成された、
    請求項1又は2に記載の遮熱膜部材。
  4. 前記被成膜部は、前記軸方向に沿って延在する第1の内面を有する、
    請求項3に記載の遮熱膜部材。
  5. 前記被成膜部は、前記軸方向における上側に向かうにつれて前記シリンダライナの中心軸からの距離が大きくなるように傾斜する第2の内面を有する、
    請求項3又は4に記載の遮熱膜部材。
  6. 前記突出部は、前記下方側突出部よりも前記軸方向の上側に位置する上方側突出部をさらに含む、
    請求項3乃至5の何れか1項に記載の遮熱膜部材。
  7. 前記遮熱膜層は、その上端縁又は下端縁の少なくとも一方が、先端側に向かうにつれて肉厚が薄くなるように構成された、
    請求項1乃至の何れか1項に記載の遮熱膜部材。
  8. 前記基盤層は、
    前記遮熱膜層が成膜された被成膜部と、
    前記遮熱膜層が成膜されていない露出部と、を含み、
    前記被成膜部は、前記燃焼室を前記軸方向の下方から視認した平面視において、前記シリンダライナの中心軸から前記ピストンを回転可能に支持するピストンピンの軸線に直交する方向に延ばした第1の直線を基準として前記シリンダライナの周方向における±30°以外の範囲に形成された、
    請求項1乃至の何れか1項に記載の遮熱膜部材。
  9. ピストンを軸方向に沿って摺動可能に収容するシリンダライナにおけるエンジンの燃焼室に面する内壁面に装着される少なくとも一つの遮熱膜部材であって、
    前記シリンダライナの前記内壁面に形成された凹部に対して脱着可能に嵌合するように構成された基盤層であって、前記内壁面に対向する外側面及び前記外側面よりも径方向における内側に位置する内側面を有する基盤層と、
    前記基盤層の前記内側面に成膜される遮熱膜層と、を備え、
    前記遮熱膜層は、前記ピストンが上死点に到達した時点における前記シリンダライナの前記軸方向の最も上側に位置するピストンリングよりも上方に設けられ、
    前記基盤層は、
    前記遮熱膜層が成膜された被成膜部と、
    前記遮熱膜層が成膜されていない露出部と、を含み、
    前記露出部の少なくとも一部は、前記被成膜部よりも前記径方向における内側に突出する突出部を有し、
    前記突出部は、前記燃焼室を前記軸方向の下方から視認した平面視において、前記シリンダライナの中心軸から前記ピストンを回転可能に支持するピストンピンの軸線に直交する方向に延ばした第1の直線を基準として前記シリンダライナの周方向における少なくとも±30°の範囲に形成され、且つ前記シリンダライナの前記周方向における一部の範囲には形成されていない、
    遮熱膜部材。
  10. ピストンを軸方向に沿って摺動可能に収容するシリンダライナにおけるエンジンの燃焼室に面する内壁面に装着される少なくとも一つの遮熱膜部材であって、
    前記シリンダライナの前記内壁面に形成された凹部に対して脱着可能に嵌合するように構成された基盤層であって、前記内壁面に対向する外側面及び前記外側面よりも径方向における内側に位置する内側面を有する基盤層と、
    前記基盤層の前記内側面に成膜される遮熱膜層と、を備え、
    前記遮熱膜層は、前記ピストンが上死点に到達した時点における前記シリンダライナの前記軸方向の最も上側に位置するピストンリングよりも上方に設けられ、
    前記基盤層は、
    前記遮熱膜層が成膜された被成膜部と、
    前記遮熱膜層が成膜されていない露出部と、を含み、
    前記被成膜部は、前記燃焼室を前記軸方向の下方から視認した平面視において、前記シリンダライナの中心軸から延びて吸気ポートの中心を通る第2の直線を基準として前記シリンダライナの周方向における±15°以外の範囲に形成された、
    熱膜部材。
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