JP7214974B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
熱間圧延工程では、化学組成が質量%で、C:0.020~0.100%、Si:3.30~3.75%、Mn:0.010~0.300%、S及び/又はSe:合計で0.001~0.050%、sol.Al:0.010~0.065%、N:0.002~0.015%、Sn:0~0.500%、Cr:0~0.500%、Cu:0~0.500%、Bi:0~0.0100%、及び、残部:Fe及び不純物、からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する。
冷間圧延工程では、熱間圧延工程後の鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する。
最終冷間圧延前焼鈍工程では、1又は複数回の冷間圧延のうち、最終の冷間圧延前の鋼板に対して焼鈍処理を実施する。
脱炭焼鈍工程は、昇温工程と、脱炭工程とを含む。昇温工程では、冷間圧延工程後の鋼板を脱炭焼鈍温度まで加熱する。昇温工程では、500~600℃の温度域での昇温速度S1が300~1500℃/秒であり、600~700℃の温度域での昇温速度S2が300~750℃/秒であり、昇温速度S1及び前記昇温速度S2は式(1)を満たす。
0.50≦S2/S1≦0.90 (1)
脱炭工程では、800~950℃の脱炭焼鈍温度で前記鋼板を保持して脱炭焼鈍を実施する。
焼鈍分離剤塗布工程では、脱炭焼鈍工程後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する。
仕上げ焼鈍工程では、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する。
0.50≦S2/S1≦0.90 (1)
熱間圧延工程では、化学組成が質量%で、C:0.020~0.100%、Si:3.30~3.75%、Mn:0.010~0.300%、S及び/又はSe:合計で0.001~0.050%、sol.Al:0.010~0.065%、N:0.002~0.015%、Sn:0~0.500%、Cr:0~0.500%、Cu:0~0.500%、Bi:0~0.0100%、及び、残部:Fe及び不純物、からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する。
冷間圧延工程では、熱間圧延工程後の鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する。
最終冷間圧延前焼鈍工程では、1又は複数回の冷間圧延のうち、最終の冷間圧延前の鋼板に対して焼鈍処理を実施する。
脱炭焼鈍工程は、昇温工程と、脱炭工程とを含む。昇温工程では、冷間圧延工程後の鋼板を脱炭焼鈍温度まで加熱する。昇温工程では、500~600℃の温度域での昇温速度S1が300~1500℃/秒であり、600~700℃の温度域での昇温速度S2が300~750℃/秒であり、昇温速度S1及び昇温速度S2は式(1)を満たす。
0.50≦S2/S1≦0.90 (1)
脱炭工程では、800~950℃の脱炭焼鈍温度で鋼板を保持して脱炭焼鈍を実施する。
焼鈍分離剤塗布工程では、脱炭焼鈍工程後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する。
仕上げ焼鈍工程では、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する。
図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法のフロー図である。図1を参照して、本製造方法は、スラブに対して熱間圧延を実施する熱間圧延工程(S1)と、熱間圧延工程後の鋼板(熱延鋼板)に対して1又は複数回の冷間圧延(S20)を実施する冷間圧延工程(S2)と、1又は複数回の冷間圧延のうち、最終の冷間圧延前の鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)と、冷間圧延工程後の鋼板(冷延鋼板)に対して脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程(S4)と、脱炭焼鈍工程後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程(S5)と、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程(S6)とを含む。以下、各工程S1~S6について説明する。
熱間圧延工程(S1)は、準備されたスラブに対して熱間圧延を実施して熱延鋼板を製造する。スラブの化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.020~0.100%
炭素(C)は、製造工程中における脱炭焼鈍工程完了までの組織制御に有効である。しかしながら、C含有量が0.020%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.100%を超えれば、後述の脱炭焼鈍工程を実施しても、脱炭が不十分となり、磁気時効が起こってしまう。この場合、十分な鉄損特性が得られない。したがって、C含有量は0.020~0.100%である。C含有量の好ましい下限は0.030%であり、さらに好ましくは0.040%である。C含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%である。
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて、鉄損のうちの渦電流損を低減する。Si含有量が3.30%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が3.75%を超えれば、鋼の冷間加工性が低下する。したがって、Si含有量は3.30~3.75%である。Si含有量の好ましい下限は3.35%であり、さらに好ましくは3.40%である。Si含有量の好ましい上限は3.70%であり、さらに好ましくは3.60%である。
マンガン(Mn)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減する。Mnはさらに、熱間加工性を高めて、熱間圧延における割れの発生を抑制する。Mnはさらに、最終冷間圧延前焼鈍工程において、S及び/又はSeと結合して微細なMnS及び/又は微細MnSeを形成する。微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、最終冷間圧延前焼鈍工程において、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。Mn含有量が0.010%未満であれば、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが析出しない。一方、Mn含有量が0.300%を超えれば、方向性電磁鋼板の磁束密度が低下する。したがって、Mn含有量は0.010~0.300%である。Mn含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.030%である。Mn含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
硫黄(S)及びセレン(Se)は、製造工程中において、Mnと結合して、上述の微細MnS及び/又は微細MnSeを形成する。微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、最終冷間圧延前焼鈍工程において、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。S及び/又はSeの合計含有量が0.001%未満であれば、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが得られない。一方、S及び/又はSeの合計含有量が0.050%を超えれば、仕上げ焼鈍工程後の鋼板中においてもMnS及び/又はMnSeが残存する場合がある。この場合、磁気特性が低下する。したがって、S及び/又はSeの合計含有量は0.001~0.050%である。S及び/又はSeの合計含有量の好ましい下限は0.005%である。S及び/又はSeの合計含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
アルミニウム(Al)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Nと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。sol.Al含有量が0.010%未満であれば、インヒビターとして機能する十分な量のAlNが得られない。一方、sol.Al含有量が0.065%を超えれば、AlNが粗大化して、インヒビター強度が低下する。したがって、sol.Al含有量は0.010~0.065%である。sol.Al含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.055%であり、さらに好ましくは0.045%である。なお、本明細書において、sol.Alは酸可溶Alを意味する。したがって、sol.Al含有量は、酸可溶Alの含有量である。
窒素(N)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Alと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。N含有量を0.002%未満とするためには、製鋼工程において過度の精錬を必要とし、この場合、製造コストが高くなる。したがって、N含有量の下限は0.002%である。一方、鋼材中のN含有量が0.015%を超えれば、冷間圧延時に鋼板にブリスタ(空孔)が多数生成しやすくなる。したがって、N含有量は0.002~0.015%である。N含有量の好ましい下限は0.004%であり、さらに好ましくは0.006%である。N含有量の好ましい上限は0.012%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
上述のスラブの化学組成は、Feの一部に代えて、Sn、Cr及びCuからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
すず(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。含有される場合、Snは、脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上し、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。さらに、Snは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。Snはさらに、粒界偏析元素であり、二次再結晶を安定化する。しかしながら、Sn含有量が0.500%を超えれば、鋼板の表面が酸化されにくくなり、一次被膜の形成が不十分になる場合がある。したがって、Sn含有量は0~0.500%である。Sn含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Sn含有量の好ましい上限は0.300%であり、さらに好ましくは0.200%である。
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Crは脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上し、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。さらに、Crは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。しかしながら、Cr含有量が0.500%を超えれば、一次被膜の形成が不安定になる場合がある。したがって、Cr含有量は0~0.500%である。Cr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Cr含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは、AlNの生成核となる微細MnSの析出を促進する。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、CuS析出物が析出し、CuS析出物が仕上げ焼鈍後にも残存する場合が生じる。鋼中にCuS析出物が残存していれば、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。したがって、Cu含有量は0~0.500%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.050%である。Cu含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%である。
Bi:0~0.0100%
ビスマス(Bi)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Bi含有量は0%であってもよい。含有される場合、Biは硫化物等の析出物を安定化してインヒビターとしての機能を強化する。しかしながら、Bi含有量が高すぎれば、一次被膜が安定して形成できなくなる場合がある。したがって、Bi含有量は0~0.0100%である。Bi含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%である。Bi含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%である。
以上の化学組成を有するスラブの製造方法の一例は次のとおりである。上記化学組成を有する溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いて、連続鋳造法により、スラブを製造する。
準備された上記化学組成を有するスラブに対して、熱間圧延機を用いて熱間圧延を実施して鋼板(熱延鋼板)を製造する。初めに、スラブを加熱する。たとえば、スラブを周知の加熱炉又は周知の均熱炉に装入して、加熱する。スラブの好ましい加熱温度は1300~1400℃であり、さらに好ましくは、1320~1380℃である。
冷間圧延工程(S2)では、製造された鋼板に対して、1又は複数回の冷間圧延を実施する。冷間圧延は、冷間圧延機を用いて実施する。冷間圧延機は、1つ、又は、一列に配列された複数の冷間圧延スタンドを備える。各冷間圧延スタンドは、複数の冷間圧延ロールを含む。冷間圧延機は、リバース式の圧延機であってもよいし、タンデム式の圧延機であってもよい。
冷延率(%)=100-最終の冷間圧延後の冷延鋼板の板厚/最初の冷間圧延開始前の鋼板の板厚×100
最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)では、冷間圧延工程(S2)における1又は複数回の冷間圧延(S20)のうち、最終の冷間圧延(S20)前の鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍処理を実施する。最終冷間圧延前焼鈍処理の条件は、上述の中間焼鈍処理での条件と同じである。最終冷間圧延前焼鈍工程での焼鈍温度はたとえば900~1200℃であり、焼鈍温度での保持時間は30~180秒である。
脱炭焼鈍工程(S4)では、冷間圧延工程(S2)後の鋼板(冷延鋼板)に対して、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶を発現させる。
昇温工程(S41)では、初めに、冷間圧延工程後の鋼板を熱処理炉に装入する。本実施形態における脱炭焼鈍用の熱処理炉では、たとえば、高周波誘導加熱により、冷延鋼板を脱炭焼鈍温度まで昇温する。図2を参照して、昇温工程において、500~600℃の温度域での昇温速度をS1(℃/秒)と定義し、600~700℃の温度域での昇温速度をS2(℃/秒)と定義する。昇温工程では、昇温速度S1及びS2を次のとおり設定する。
500~600℃の温度域の昇温速度S1を300~1500℃/秒とする。500~600℃の温度域で昇温速度を速めて急速加熱を実施することにより、一次再結晶組織が改善される。以下、これらの点を説明する。
昇温速度S1で500~600℃までの昇温した後、600~700℃の温度域での昇温速度S2を300~750℃/秒とする。
昇温速度S1及びS2はさらに、次の式(1)を満たす。
0.50≦S2/S1≦0.90 (1)
昇温工程における500~700℃以外の他の温度域(常温~500℃未満、及び、700℃超~脱炭焼鈍温度)での昇温速度は特に制限されない。たとえば、常温~500℃未満の範囲内で数秒程度の保持をしてもよい。これらの温度域の昇温速度はたとえば、300~1500℃/秒の範囲で適宜選択されればよい。
脱炭焼鈍工程(S4)における脱炭工程(S42)では、昇温工程(S41)後の鋼板を脱炭焼鈍温度Taで保持して、脱炭焼鈍を実施する。これにより、鋼板に一次再結晶を発現させる。脱炭工程中の雰囲気は、周知の雰囲気で足り、たとえば、水素及び窒素を含有する湿潤窒素水素混合雰囲気である。脱炭焼鈍を実施することにより、鋼板中の炭素が鋼板から除去され、一次再結晶が発現する。脱炭工程での製造条件は次のとおりである。
脱炭焼鈍温度Taは、上述のとおり、脱炭焼鈍を実施する熱処理炉の炉温に相当し、脱炭焼鈍中の鋼板の温度に相当する。脱炭焼鈍温度Taが800℃未満であれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が小さすぎる。この場合、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。一方、脱炭焼鈍温度Taが950℃を超えれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が大きすぎる。この場合も、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。脱炭焼鈍温度Taが800~950℃であれば、一次再結晶後の鋼板の結晶粒が適切なサイズとなり、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現する。
冷却工程(S43)では、脱炭工程(S42)後の鋼板を周知の方法で常温まで冷却する。冷却方法は放冷であってもよいし、水冷であってもよい。好ましくは、脱炭工程後の鋼板を放冷する。以上の工程により脱炭焼鈍工程(S4)では、鋼板に対して脱炭焼鈍処理を実施する。
脱炭焼鈍工程(S4)後の鋼板に対して、焼鈍分離剤塗布工程(S5)を実施する。焼鈍分離剤塗布工程(S5)では、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布する。具体的には、鋼板表面に焼鈍分離剤を含有する水性スラリーを塗布する。水性スラリーは、焼鈍分離剤に水を加えて攪拌して作製する。焼鈍分離剤は、酸化マグネシウム(MgO)を含有する。好ましくは、MgOは焼鈍分離剤の主成分である。ここで、「主成分」とは、焼鈍分離剤中のMgO含有量が、質量%で60.0%以上であることを意味する。焼鈍分離剤は、MgO以外に、周知の添加剤を含有してもよい。たとえば、MgOとともに、Ca化合物、Ce化合物、La化合物、Pr化合物、Nd化合物、Sc化合物、Y化合物等を含有してもよい。
焼鈍分離剤塗布工程(S5)後の鋼板に対して、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施して、二次再結晶を発現させる。仕上げ焼鈍工程は、熱処理炉を用いて実施する。仕上げ焼鈍工程での製造条件はたとえば、次のとおりである。なお、仕上げ焼鈍における炉内雰囲気は、周知の雰囲気である。
仕上げ焼鈍温度での保持時間:5~30時間
仕上げ焼鈍温度が1150℃未満であれば、十分な二次再結晶が発現せず、また二次再結晶に用いた析出物を除去する純化が十分ではない。そのため、製造された方向性電磁鋼板の磁気特性が低くなる。一方、仕上げ焼鈍温度が1250℃を超えても二次再結晶、純化に対する効果が低いとともに、鋼板の変形などの問題が生じる。仕上げ温度が1150~1250℃であれば、上記保持時間が適切であることを前提として、十分な二次再結晶が発現して、磁気特性が高まる。さらに、上述の脱炭焼鈍工程での昇温速度S1及びS2が適切であり、式(1)を満たすことを条件として、鋼板表面上にフォルステライト(Mg2SiO4)を含有する一次被膜が安定して形成される。
本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法ではさらに、仕上げ焼鈍工程(S6)後に、絶縁被膜形成工程を実施してもよい。絶縁被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程の冷却後の方向性電磁鋼板の一次被膜上に絶縁被膜処理剤を塗布する。
[磁区細分化処理工程]
本実施形態による方向性電磁鋼板はさらに、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程又は絶縁被膜形成工程後に、磁区細分化処理工程を実施してもよい。磁区細分化処理工程では、方向性電磁鋼板の表面に、磁区細分化効果のあるレーザ光を照射したり、表面に溝を形成したりする。この場合、さらに磁気特性に優れる方向性電磁鋼板が製造できる。
化学組成が、質量%で、C:0.075%、Si:3.45%、Mn:0.075%、S:0.028%、sol.Al:0.028%、N:0.008%を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
[磁気特性評価試験]
次の方法により、各試験番号の方向性電磁鋼板の磁気特性(磁束密度B8、及び、鉄損W17/50)をJIS C2556:2015に準拠して、評価した。具体的には、各サンプルに800A/mの磁場を付与して、磁束密度B8(T)を測定した。飽和磁束密度Bs(T)はSi含有量(質量%)を用い、次の式で求めた。
Bs=2.2032-0.0581Si
得られた磁束密度B8及び飽和磁束密度Bsとに基づいて、飽和磁束密度Bsに対する磁束密度B8の比であるゴス方位集積度(B8/Bs)を求めた。
各試験番号の方向性電磁鋼板の板幅中央位置から30mm×80mm×板厚の試験片を採取した。試験片を直径20mmの円筒に巻き付けて、180°曲げた。180°曲げられた試験片に残存する絶縁被膜の面積率(%)を次の式から求めた。
面積率=試験片に残存する絶縁被膜の面積/試験片の面積×100
得られた面積率が95.0%以上であった場合、被膜密着性に非常に優れると判断した(表中で「VG」)。得られた面積率が90.0以上95.0%未満であった場合、被膜密着性に優れると判断した(表中で「G」)。得られた面積率が85.0~90.0%未満であった場合、被膜密着性が良好と判断した(表中で「F」)。得られた面積率が80.0%未満であった場合、被膜密着性が低いと判断した(表中で「B」)。なお、製造工程中において鋼板に割れが確認された場合、及び、仕上げ焼鈍工程後の二次再結晶が不良であった場合(つまり、ゴス方位集積度B8/Bsが低かった場合)、被膜密着性評価試験を実施しなかった。得られた面積率が80.0%以上の場合、被膜密着性に優れると判断した。
得られた試験結果を表1に示す。表1を参照して、試験番号11、12、17、18、23~25、30~32、37及び40では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.910T以上と高く、ゴス方位集積度B8/Bsは0.954以上と高かった。さらに鉄損W17/50も0.831W/kg以下と低かった。被膜密着性評価試験では、いずれも面積率が80.0%以上であり、優れた被膜密着性を示した。
化学組成が、質量%で、C:0.075%、Mn:0.075%、S:0.028%、sol.Al:0.028%、N:0.008%、を含有し、さらに、表2に示す含有量(質量%)のSiを含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8、ゴス方位集積度B8/Bs、鉄損W17/50、及び被膜密着性を評価した。
得られた試験結果を表2に示す。表2を参照して、試験番号12~14、16、20~22、24、28~30、32、36~38及び40では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.901T以上と高く、ゴス方位集積度B8/Bsは0.954以上と高かった。さらに鉄損W17/50も0.831W/kg以下と低かった。被膜密着性評価試験では、いずれも面積率が80.0%以上であり、優れた被膜密着性を示した。
化学組成が、質量%で、C:0.075%、Si:3.45%、Mn:0.075%、S:0.028%、sol.Al:0.028%、N:0.008%、Sn:0.110%、Cu:0.070%、Cr:0.035%を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8、ゴス方位集積度B8/Bs、鉄損W17/50、及び被膜密着性を評価した。
得られた試験結果を表3に示す。表3を参照して、試験番号11、12、17、18、23~25、30~32、37及び40では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.915T以上と高く、ゴス方位集積度B8/Bsは0.956以上と高かった。さらに鉄損W17/50も0.806W/kg以下と低かった。被膜密着性評価試験では、いずれも面積率が80.0%以上であり、優れた被膜密着性を示した。
化学組成が、質量%で、C:0.075%、Si:3.50%、Mn:0.075%、S:0.028%、sol.Al:0.028%、N:0.008%、Sn:0.110%、Cu:0.070%、Cr:0.035%、及び、Bi:0.0020%を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8、ゴス方位集積度B8/Bs、鉄損W17/50、及び被膜密着性を評価した。なお、磁束密度B8が1.90T以上の試料に対しては、レーザー照射で磁区細分化処理を実施して、その後に、実施例1と同じ方法で鉄損W17/50を測定した。
得られた試験結果を表4に示す。表4を参照して、試験番号11、12、17、18、23~25、30~32、37及び40では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.926T以上と高く、ゴス方位集積度B8/Bsは0.963以上と高かった。さらにレーザー照射後の鉄損W17/50も0.741W/kg以下と低かった。被膜密着性評価試験では、いずれも面積率が80.0%以上であり、優れた被膜密着性を示した。
Claims (3)
- 化学組成が、
質量%で、
C:0.020~0.100%、
Si:3.30~3.75%、
Mn:0.010~0.300%、
S及び/又はSe:合計で0.001~0.050%、
sol.Al:0.010~0.065%、
N:0.002~0.015%、
Sn:0~0.500%、
Cr:0~0.500%、
Cu:0~0.500%、
Bi:0~0.0100%、及び、
残部:Fe及び不純物、
からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の前記鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する冷間圧延工程と、
1又は複数回の前記冷間圧延のうち、最終の前記冷間圧延前の前記鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程と、
冷間圧延工程後の前記鋼板を脱炭焼鈍温度まで加熱する昇温工程と、800~950℃の脱炭焼鈍温度で前記鋼板を保持して脱炭焼鈍を実施する脱炭工程とを含む、脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程とを備え、
前記脱炭焼鈍工程の前記昇温工程では、
500~600℃の温度域での昇温速度S1が350~1500℃/秒であり、
600~700℃の温度域での昇温速度S2が300~750℃/秒であり、
前記昇温速度S1及び前記昇温速度S2は式(1)を満たす、
方向性電磁鋼板の製造方法。
0.50≦S2/S1≦0.90 (1) - 請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記スラブの化学組成は、
Sn:0.005~0.500%、
Cr:0.010~0.500%、及び、
Cu:0.010~0.500%、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項1又は請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
Bi:0.0010~0.0100%、
を含有する、
方向性電磁鋼板の製造方法。
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