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JP7210780B2 - オーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

オーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法 Download PDF

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JP7210780B2 JP2021571373A JP2021571373A JP7210780B2 JP 7210780 B2 JP7210780 B2 JP 7210780B2 JP 2021571373 A JP2021571373 A JP 2021571373A JP 2021571373 A JP2021571373 A JP 2021571373A JP 7210780 B2 JP7210780 B2 JP 7210780B2
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Description

本発明は、自動車部品、電子機器類、バネ、その他工業部品用として好適なオーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法に係り、耐食性、とくに耐孔食性の向上に関する。
フェライト系ステンレス鋼板の耐食性向上方法として、例えば、特許文献1に、「延性、耐摩耗性および耐銹性に優れた電気材料用フェライト系ステンレス鋼の製造方法」が記載されている。特許文献1に記載された技術では、仕上げ焼鈍後、10%以上の冷間圧延を施し、再加熱処理を行ったのち、例えば10%硝酸(20℃)中での硝酸電解を施して表面のスケールを除去することにより、耐食性を劣化させることなく、延性、耐摩耗性、および耐銹性に優れたフェライト系ステンレス鋼を製造できるとしている。
また、特許文献2には、「耐銹性に優れたフェライト系ステンレス鋼光輝焼鈍材の製造方法」が記載されている。特許文献2に記載された技術では、フェライト系ステンレス鋼板を焼鈍後、中性塩電解法および硝酸電解法を用いて脱スケールした後、冷間圧延を行い、さらに光輝焼鈍することにより、従来よりも、耐銹性に優れたフェライト系ステンレス鋼光輝焼鈍材が製造できるとしている。なお、硝酸電解法は、15%硝酸(50℃)中で交番電解した旨の記載がある。
また、特許文献3には、「耐食性の良好なステンレス鋼の製造方法」が記載されている。特許文献3に記載された技術では、Cr:11wt%以上35wt%以下を含有し、O:0.01wt%以下、S:0.01wt%以下に低減したステンレス鋼に対して、酸化剤を含む酸性水溶液を研磨液に用いて、機械研摩を行うことにより、耐食性が向上したステンレス鋼となるとしている。特許文献3に記載された技術では、機械研磨としてラッピング研磨、ベルト研磨を用いている。
一方、オーステナイト系ステンレス鋼板は通常、熱処理後に冷間圧延することで機械的性質を向上させており、ある程度の耐孔食性は有している。しかし、塩素イオンを含む環境下や隙間構造、高温高湿といった環境下では、孔食が発生しやすい。そのため、このような環境下では、CrやMoを増加した鋼種(SUS316L等)が使用されることが多い。しかし、このような鋼種は高価であり、コスト面から、全ての環境下で使用できるものではない。
一般的に、オーステナイト系ステンレス鋼板の製造時には、内部応力除去、固溶化、その他機械的特性改善のために、熱処理が行われる。しかし、窒素と水素の混合ガス中又は水素ガス雰囲気中などの還元雰囲中で熱処理を行っても、完全には酸化を防ぐことができず、表層に酸化被膜ができることがあり、表層直下にCr欠乏層ができて、耐食性が劣化することがある。そのため、耐食性を回復するために、従来から、還元性雰囲気中での熱処理後に、酸性液中に浸漬する処理を行ったり、電解研磨して耐食性を回復させることが行われている。
特開平04-371518号公報 特開平11-50202号公報 特開平03-193885号公報
特許文献1及び特許文献2に記載された技術は、いずれもフェライト系ステンレス鋼板の耐食性向上に関するものであり、特許文献1及び特許文献2には、オーステナイト系ステンレス鋼板についての記載はない。
また、特許文献3に記載された技術は、オーステナイト系ステンレス鋼板へも適用するとしているが、耐食性向上のために、酸性水溶液を用いてラッピング研摩等の機械研摩を行うことをその要件としている。オーステナイト系ステンレス鋼板では、表層の研摩時に機械的性質が変わる可能性があり、また表層の研摩により耐食性が劣化する懸念もある。さらに、表層の粗さを規定する製品に対しては、ラッピング研摩では対応できないという問題もある。
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、耐食性、とくに耐孔食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、オーステナイト系ステンレス鋼板の耐孔食性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。
その結果、熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とするに際し、1回又は複数回の冷間圧延を施して冷延鋼板を製造するに当たり、前記冷間圧延のうちの最終の冷間圧延の後に、あるいは前記冷間圧延のうちの最終以外の冷間圧延の後に、特定条件の熱処理を施したのちに、適正条件の希硝酸電解処理を施すことにより、鋼板表面の孔食発生電位が高くなり、従来対応できなかった環境下においても、耐孔食性が向上することを知見した。
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
質量%で、Cr:10.5~23.2%、Ni:0~35.1%、Mo:0~7.00%、N:0.02~0.07%、C:0.01~0.10%、Si:0.34~0.67%、Mn:0.65~1.10%を含む組成の焼鈍・酸洗済みの熱延鋼板(板厚:2.5mm)に、3回の冷間圧延を施して、冷延鋼板(板厚:0.1mm)とした。冷延鋼板を製造するに当たり、最終の冷間圧延後、又は3回目の冷間圧延後に希硝酸電解を施す際の2回目の冷間圧延後に施した熱処理は、加熱温度:145~720℃で、20s~49hr保持する処理とし、上記以外の熱処理は850~1050℃、3~5min保持する処理とした。そして、得られた冷延鋼板にさらに、希硝酸電解処理を施したのち、表層を研磨せずに、JIS G 0577の規定に準拠して、各鋼板表面の孔食発生電位Vcを測定した。なお、孔食発生電位の測定では、試験溶液(塩化ナトリウム水溶液)の脱気は実施しなかった。照合電極はAg/AgCl(塩化銀)電極とした。また、一部の鋼板については希硝酸電解処理は実施しなかった。
希硝酸電解処理の条件は、硝酸濃度:3%の希硝酸水溶液(液温:60℃)中で、電流密度:±30mA/cm2で、陽極・陰極電解を合計で20s間、とした。得られた孔食発生電位Vcと、孔食指数X(=Cr+3.3Mo)との関係を図1に示す。
図1から、希硝酸電解処理を、冷間圧延後の熱処理と、組み合わせて施した場合(●印)は、希硝酸電解処理を施さず熱処理のみを施した場合(〇印)に比べて、孔食発生電位が高くなることがわかる。すなわち、希硝酸電解処理と熱処理とを組み合わせることが、耐孔食性の向上に有効であることになる。なお、孔食指数X(=Cr+3.3Mo)は、ステンレス鋼の孔食発生の難易度を表す指数である。孔食指数が高いほど耐孔食性が高くなる傾向を示す。
この実験結果から、希硝酸電解処理による孔食発生電位増加の閾値として、孔食指数X(=Cr+3.3Mo)との関係で、次式
A = 0.039X3-5.2X2+232X-2311
(ここで、X=Cr+3.3Mo)
を定義した。この式は、希硝酸電解前の孔食電位を上回りつつ、希硝酸電解後の孔食発生電位の数値をプロットした際、それらの点の下限より小さい境界近辺の値で作成された近似曲線である。なお、Moを含有しない場合には、当該元素は0%として、Xを算出するものとする。
そして、ステンレス鋼板表面の孔食発生電位Vcが、上記したA値を超えて高くなる場合を、耐孔食性が向上しているとした。なお、孔食指数が15.0未満である鋼板では、希硝酸電解処理と熱処理とを組み合わせても、上記したA値を超えて、孔食発生電位の増加は認められなかった。このため、Xの範囲を15.0~50.0に限定した。
このようなことから、熱延鋼板に、1回又は複数回の冷間圧延を施して冷延鋼板を製造するに当たり、前記冷間圧延のうちの最終の冷間圧延の後に、あるいは前記冷間圧延のうちの最終以外の冷間圧延の後に、特定条件の熱処理を施し、適正条件の希硝酸電解処理を施すことにより、鋼板表面の孔食発生電位が高くなり、従来対応できなかった環境下においても適用可能な、優れた耐孔食性を有するステンレス鋼板(ステンレス冷延鋼板)とすることができることを知見した。なお、希硝酸電解処理の前又は後に、冷間圧延を施しても問題はないことを知見している。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成したものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
[1]質量%で、
C:0.40%以下、 Si:1.00%以下、
Mn:2.00%以下、 P:0.045%以下、
S:0.030%以下、 Ni:3.5~36.0%、
Cr:15.00~30.00%、 Mo:0~7.0%、
N:0.25%以下
を含有し、かつCr、Moを次(2)式
X=Cr+3.3Mo……(2)
ここで、Cr、Mo:各元素の含有量(質量%)
で定義されるXが15.0~50.0を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ表面の孔食発生電位Vcが、次(1)式
Vc > 0.039X3-5.2X2+232X-2311 ……(1)
を満足することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板。
[2]上記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.01~1.00%、Nb:0.01~1.00%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.0001~1.50%、Ca:0.001~0.01%、Mg:0.001~0.01%、V:0.01~1.00%、Co:0.01~0.5%、W:0.01~1.0%、B:0.001~0.01%%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする[1]に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
[3]鋼板の表面粗さがISO 25178の規定に準拠したSaで0.80μm以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
[4][1]または[2]に記載の組成を有する熱延鋼板に、1回又は複数回の冷間圧延を施して冷延鋼板を製造するに当たり、
前記冷間圧延のうちの最終の冷間圧延の後に、あるいは前記冷間圧延のうちの最終以外の冷間圧延の後に、150~600℃の範囲の温度で30s~10min保持する熱処理を施し、最終に、希硝酸電解処理を施すことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
[5][1]または[2]に記載の組成を有する熱延鋼板に、1回又は複数回の冷間圧延を施して冷延鋼板を製造するに当たり、
前記冷間圧延のうちの最終の冷間圧延の後に、あるいは前記冷間圧延のうちの最終以外の冷間圧延の後に、150~700℃の範囲の温度で、15min~48hr保持する熱処理を施し、最終に、希硝酸電解処理を施すことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
[6]前記希硝酸電解処理が、硝酸濃度:3~10%、温度:40~80℃の希硝酸水溶液中で、電流密度:±10~80mA/cm2で、陰極および陽極電解を合計で10~60s行う処理であることを特徴とする[4]または[5]に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
本発明によれば、表面の孔食発生電位が高くなり、耐孔食性に優れたステンレス鋼板とすることができ、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、例えば、孔食指数の低い鋼板に関しては、従来では対応できなかったような腐食環境下においても適用可能となり、また、孔食指数の高い鋼板に関しては、孔食発生電位が1000mVを超え、ハステロイ等のニッケル基超合金並みの耐食性が得られるようになるという効果もある。なお、本発明によれば、オーステナイト系ステンレス鋼板に限らず、析出硬化系ステンレス鋼板やJIS G 4305に規定される二相ステンレス鋼板においても同様の効果を奏する。
孔食発生電位と孔食指数との関係を示すグラフである。
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼板で、質量%で、
C:0.40%以下、 Si:1.00%以下、
Mn:2.00%以下、 P:0.045%以下、
S:0.030%以下、 Ni:3.5~36.0%、
Cr:15.00~30.00%、 Mo:0~7.0%、
N:0.25%以下
を含有し、かつCr、MoをX=Cr+3.3Moが15.0~50.0を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する。以下、組成に係る質量%は、単に%で記す。
まず、組成の限定理由について説明する。
C:0.40%以下
Cは、少量の含有で、強度等の機械的特性や耐摩耗性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが好ましい。一方、0.40%超えて含有すると、結晶粒界にCr炭化物が生成しやすくなり、粒界腐食の発生を招きやすい。さらに0.40%超えて含有すると、延性を低下させプレス加工性を阻害する。このため、Cは0.40%以下に限定した。なお、好ましくは0.01~0.20%である。
Si:1.00%以下
Siは、溶鋼の脱酸剤として作用するとともに、弾性限や引張強さ等の強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには、Siは0.10%以上含有することが好ましい。一方、1.00%を超えて含有すると、熱間圧延時に耳割れが発生し製品歩留りを低下させる。このため、Siは1.00%以下に限定した。
Mn:2.00%以下
Mnは、引張強さ等の強度増加や靭性向上に寄与するとともに、溶鋼の脱酸に有効に作用する元素である。このような効果を得るためには0.10%以上含有することが好ましい。一方、2.00%を超えて含有すると、鋼中にMnS等の介在物が増加し、加工性に悪影響を及ぼすため、Mnは2.00%以下に限定した。
P:0.045%以下、S:0.030%以下
P、Sは、鋼中に不可避的に存在し、機械的特性に悪影響を及ぼす元素である。このため、P、Sは、できるだけ低減することが望ましいが、Pは0.045%までの含有、Sは0.030%までの含有であれば、実用的に問題はなく、許容できる。このため、P:0.045%以下、S:0.030%以下にそれぞれ限定した。なお、好ましくはP:0.030%以下、S:0.010%以下である。
Ni:3.5~36.0%
Niは、耐食性の向上や、靱性、強度、耐熱性の向上にも寄与する元素である。このような効果を得るためには、3.5%以上の含有を必要とする。3.5%未満の含有では、室温での組織がフェライト相となる。一方、36.0%を超えて含有すると、加工性が低下し、また溶接性も低下する。このため、Niは3.5~36.0%の範囲に限定した。
Cr:15.00~30.00%
Crは、Niとともに、耐食性の向上に寄与し、さらにNiとともに、室温での組織をオーステナイト相とする。このような効果を得るためには、Crは15.00%以上の含有を必要とする。一方、30.00%を超えて含有すると、延性が低下するとともに、材料コストの高騰を招く。このため、Crは15.00~30.00%の範囲に限定した。なお、好ましくは16.00~30.00%である。
Mo:0~7.0%
Moは、耐孔食性の向上に寄与するとともに、機械的特性の向上にも寄与する元素であり0%を含み、必要に応じて含有できる。このような効果を得るために含有する場合は、0.001%以上含有することが好ましい。Moの含有量が0.001%未満では、機械的特性が若干低下する。一方、7.0%を超える含有は、σ相の析出を促進させ、熱処理時に靭性が低下する。また、多量の含有は材料コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Moは7.0%以下に限定した。なお、好ましくは0.5~3.0%である。
N:0.25%以下
Nは、オーステナイト相を安定化させるとともに、侵入型に固溶して固溶強化により強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが好ましい。一方、0.25%を超えて含有すると、高温割れの助長、二次加工性の低下、粒界腐食の促進などの悪影響を及ぼす。そのため、Nは0.25%以下に限定した。なお、好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.01~0.10%である。
X:15.0~50.0
次(2)式
X=Cr+3.3Mo……(2)
ここで、Cr、Mo:各元素の含有量(質量%)
で定義される孔食指数Xが15.0未満であると、希硝酸電解処理と冷間圧延後の熱処理とを組み合わせても、孔食発生電位の増加が認められない。なお、Moを含有しない場合には、(2)式Xの算出において、Moは0%として扱うものとする。一方、Xが50.0を超えると、合金元素量が多くなりすぎて延性が低下するとともに、材料コストの高騰を招く。このため、上記したCr、Moを含有し、かつXは15.0~50.0の範囲に限定した。
上記した成分が基本の成分であるが、本発明では、上記した基本の成分に加えてさらに、選択元素として、必要に応じて、Ti:0.01~1.00%、Nb:0.01~1.00%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.0001~1.50%、Ca:0.001~0.01%、Mg:0.001~0.01%、V:0.01~1.00%、Co:0.01~0.5%、W:0.01~1.0%、B:0.001~0.01%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有してもよい。
Ti:0.01~1.00%、Nb:0.01~1.00%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.0001~1.50%、Ca:0.001~0.01%、Mg:0.001~0.01%、V:0.01~1.00%、Co:0.01~0.5%、W:0.01~1.0%、B:0.001~0.01%のうちから選ばれた1種または2種以上
Ti、Nb、Cu、Al、Ca、Mg、V、Co、W、Bはいずれも、鋼中に微細析出物として分散することにより、鋼板の強度上昇、耐食性向上に寄与する元素であり、また、Bは高温特性の改善に効果があり、必要に応じて選択して1種または2種以上を含有できる。このような効果を得るためには、Ti:0.01%以上、Nb:0.01%以上、Cu:0.01%以上、Al:0.0001%以上、Ca:0.001%以上、Mg:0.001%以上、V:0.01%以上、Co:0.01%以上、W:0.01%以上、B:0.001%以上をそれぞれ含有する必要がある。一方、Ti:1.00%、Nb:1.00%、Cu:3.00%、Al:1.50%、Ca:0.01%、Mg:0.01%、V:1.00%、Co:0.5%、W:1.0%、B:0.01%をそれぞれ超えて含有すると、析出物の生成量が多くなり、耐食性の低下や伸びの低下を招きやすくなる。このため、含有する場合には、Ti:0.01~1.00%、Nb:0.01~1.00%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.0001~1.50%、Ca:0.001~0.01%、Mg:0.001~0.01%、V:0.01~1.00%、Co:0.01~0.5%、W:0.01~1.0%、B:0.001~0.01%の範囲にそれぞれ限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
なお、O(酸素)は、不可避的に含有され、鋼中では酸化物として存在し、延性、靭性等に悪影響を及ぼす。そのため、O(酸素)は、不純物としてできるだけ低減することが好ましいが、0.010%までは許容できる。なお、0.001%未満の過剰な低減は精錬コストを高騰させるため、O(酸素)は、0.001%以上とすることが好ましい。
本発明オーステナイト系ステンレス鋼板は、上記した組成を有し、かつ次(1)式
Vc > 0.039X3-5.2X2+232X-2311 ……(1)
ここで、X=Cr+3.3Mo……(2)
X:15.0~50.0、
Cr、Mo:各元素の含有量(質量%)
を満足する表面の孔食発生電位Vcを有する。測定された鋼板表面の孔食発生電位Vcが低く、(1)式を満足しない場合には、所望の耐孔食性を確保できなくなる。なお、鋼板表面の孔食発生電位Vcは、表層を研磨しないサンプルを用いて、JIS G 0577の規定に準拠して測定した値を用いるものとする。なお、孔食発生電位の測定に際しては、試験溶液(塩化ナトリウム水溶液)の脱気は施さないものとする。また、照合電極はAg/AgCl(塩化銀)電極とする。
つぎに、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明では、上記した組成を有し、焼鈍および酸洗済みの熱延鋼板に、1回又は複数回の冷間圧延を施して、所定板厚の冷延鋼板とする。その際、本発明では、複数回の冷間圧延のうちの最終の冷間圧延の後に、あるいは複数回の冷間圧延のうちの最終以外の冷間圧延の後に、熱処理を施す。
上記した熱処理としては、機械的特性の回復及び向上を目的として、150~600℃の範囲の温度で30s~10min保持する熱処理(以下、熱処理Aともいう)とすることが好ましい。熱処理温度が、150℃未満では機械的特性の回復が不十分であり、一方、600℃超えでは窒化層やCr欠乏層の成長が大きく、それらをその後の電解処理で除去するためには、電解処理液の酸濃度を高め、電気量を高める必要がある。そのような電解処理を行うと、表面肌が大きく変化する。このため、熱処理Aでは、上記した温度範囲での保持時間は30s~10minの範囲に限定することが好ましい。
また、上記した熱処理に代えて、再結晶又は逆変態を目的として、150~700℃の範囲の温度で15min~48hr保持する熱処理(以下、熱処理Bともいう)としてもよい。熱処理温度が、150℃未満では再結晶が不十分であり、一方、700℃超えでは、Cr欠乏層が大きく成長するため、その後に希硝酸電解処理を施しても、所望の孔食発生電位を確保できない。このため、熱処理温度は150~700℃の範囲の温度に限定することが好ましい。また、上記した温度範囲での保持時間が、15min未満では再結晶が不十分であり、一方、48hrを超えて長くなると、Cr欠乏層が大きく成長する。このため、熱処理Bでは、上記した温度範囲での保持時間は15min~48hrの範囲に限定することが好ましい。
なお、本発明では焼鈍雰囲気に特に限定はなく、大気雰囲気以外にも、例えば不活性ガス雰囲気や、燃焼ガス・酸素等を含む雰囲気中で行ってもよい。また、焼鈍は、水素を含有する還元性雰囲気下における光輝焼鈍(BA焼鈍と呼称される場合もある)を行ってもよい。
本発明では、上記した熱処理を施したのち、工程の最終として、希硝酸電解処理を施す。
希硝酸電解処理としては、硝酸濃度:3~10%、温度:40~80℃の希硝酸水溶液中で、電流密度:±10~80mA/cm2で、陰極・陽極電解を合計で10~60s行う処理とすることが好ましい。
硝酸濃度が3%未満では、希硝酸電解処理の効果が不足し、一方、10%を超えると、鋼板表層の溶解が著しくなり、板厚精度の低下を招く。このため、希硝酸水溶液の硝酸濃度は3~10%に限定した。なお、同じ電流密度や同じ電解時間の場合、硝酸濃度が3~10%の範囲では、溶解量の変化は少なく、また表面粗さの変化もほとんどないが、硝酸濃度の増加に伴い表層に形成される不動態被膜が強固になり、孔食電位が上昇する。
また、希硝酸水溶液の温度が、40℃未満では本発明における熱処理条件と希硝酸電解の組み合わせでは、希硝酸電解の効果が不足し、一方、80℃を超えると、鋼板表層の溶解が著しくなる。このため、希硝酸水溶液の温度は40~80℃の範囲に限定した。また、電流密度が、10mA/cm2未満では希硝酸電解の効果が不足し、一方、80mA/cm2を超えて大きくなると、表層の溶解が大きくなりすぎる。このため、電流密度は10~80mA/cm2の範囲に限定した。また、電解時間が合計で10s未満では希硝酸電解の効果が不足し、一方、60sを超えて長くなると溶解量が大きくなりすぎる。このため、電解時間は陰極・陽極電解の合計で10~60sの範囲に限定した。なお、希硝酸電解処理では、表層の除去という観点からは、陰極電解、陽極電解の順番を入れ替えてもよく、また、陰極電解と陽極電解とを繰り返し行っても、効果は同じである。
また、上記した希硝酸電解処理であれば、光沢感のある表面肌を得ることができる。その場合、面粗さSaは0.80μm以下である。面粗さSaが0.80μmを超えて粗くなると、光沢感のある表面肌とすることができない。本発明では面粗さをSaで0.80μm以下とする。なお、面粗さはISO 25178の規定に準拠して測定された算術平均高さSaを用いるものとする。
面粗さは、光沢感の指標として製品にとって重要であるが、耐食性にも強く影響する。面粗さがSaで0.80μmを超えると、耐食性が不安定となりやすい。なお、耐食性の安定化という点からは、面粗さをSaで0.40μm以下とすることが好ましい。より好ましくはSaで0.35μm以下、さらに好ましくはSaで0.30μm以下である。また、とくに安定した耐食性が必要とされる場合には、面粗さは、Saで0.25μm以下とすることが有効であり、好ましくはSaで0.20μm以下、さらに好ましくはSaで0.15μm以下である。
上記した熱処理を施したのち、工程の最終として、希硝酸電解処理を施すことにより、図1にも一例を示すように、希硝酸電解処理前(〇印)に比べて、希硝酸電解処理後の孔食発生電位Vc(●印)が向上し、耐孔食性がさらに向上する。
これは以下のような現象が起きているためであると考えられる。
冷延鋼板に熱処理を施すと、Crが鋼板表面に向かって拡散し、一部は表面からガス成分として炉内に蒸発するが、鋼板表面に近づくにしたがい濃度が高くなり、Cr濃化層が形成される。一方、最表層には、熱処理中に窒化層や酸化層(被膜)が形成される。これらの層が、希硝酸電解処理により除去されることにより、Cr濃化層が現われ、耐孔食性が向上する。
Crは、O(酸素)やNといったガス成分との親和力が強い。そのため、Crは熱処理中に、雰囲気ガスと接触している表面近傍に濃化すると考えられる。濃化したCrは、雰囲気から侵入したO、N、Cと、あるいは鋼中に存在するO、N、Cと、結びつき、Cr析出物を形成することが考えられる。Cr析出物が形成されると、母相中に固溶したCr量(固溶Cr量)が減少する。Crによる耐食性の向上は固溶Cr量に由来するため、固溶Cr量の減少は、鋼板自体の耐食性の低下を招くと考えられる。また、Cr析出物が形成されると、表層にCrが拡散してくるため、その内側にCr欠乏層が生成する。
例えば、950℃超に加熱する通常の焼鈍(熱処理)では、上記したCr欠乏層の厚さが厚くなり、鋼板表面近傍の耐食性を低下させることがある。一方、950℃以下の低温での焼鈍(熱処理)では、950℃超に加熱する通常の焼鈍(熱処理)に比べて、Crの欠乏量は少なく、耐食性が損なわれることは少ないものと考えられる。むしろ、表面近傍におけるC欠乏層の形成により、析出が生じた最表面の内側では、Cr炭化物などの析出が抑制され、有効Cr量(固溶Cr量)が増加することが考えられる。そして、最表層に生成したCr析出物を含む層を、希硝酸電解処理で除去すると、その内側に存在するCr析出物が少なく、有効Cr量(固溶Cr量)が増加した耐食性に優れる部分が露出し、鋼板表面の耐食性が向上するものと、考えられる。とくに、本発明におけるような700℃以下(150℃以上)の低温での焼鈍(熱処理)では、700℃超えの高温域における場合に比べて、Cr欠乏層の厚さがさらに薄くなり、Cr欠乏量も少なく、またCr炭化物の析出もより少なくなるため、有効Cr量がさらに増加するものと、考えられる。そのため、組成範囲が同じ鋼板で比較すると、150℃以上700℃以下の温度範囲で熱処理を施された鋼板の方が、700℃超えの温度範囲で熱処理を施された鋼板に比べ、希硝酸電解処理後の孔食発生電位がより高くなり、耐孔食性が顕著に向上すると考えられる。
Crは、鋼板最表層ではCr酸化層を形成し、表面近傍では、CrがO(酸素)、Cなどと結びつき、微細なCr酸化物やCr炭化物等として表面直下の鋼板側に析出する。Cr析出物が析出することにより、その部分での有効Cr量(固溶Cr量)が減少し、耐食性が低下する。また、Cr炭化物が形成された部分の近傍では、C濃度が減少したC欠乏層が形成されることが考えられる。
例えば、950℃超に加熱する通常の焼鈍(熱処理)では、上記した鋼板最表層の脱炭や、Cr酸化層の形成、さらに表面近傍におけるCr析出物の生成が著しくなる。脱炭等によるCの減少は、有効Cr量を増加させるという観点からは、耐食性向上に有利に作用するとも考えられるが、Cr酸化層の形成に伴う脱Cr層の形成や、表面近傍におけるCr析出物の生成は、表面近傍における有効Cr量を減少させ、耐食性を低下させる。
一方、950℃以下の低温での熱処理においては、速度は遅いが、同様の現象が生じていると考えられる。しかし、低温での熱処理であるため、Crの拡散速度は遅く、また、Cr酸化物の生成は少なく、脱Cr層の形成による耐食性低下の影響は少ないと考えられる。一方、表面近傍でのCr炭化物の生成により、その近傍での母相中のC濃度は減少する。しかし、Cの拡散速度が十分に速くないため、それを補うのに必要なCの拡散供給が間に合わず、Cが減少したCの欠乏層(C欠乏層)が形成されることが考えられる。C欠乏層の形成により、その部分の有効Cr量が増加する。最表層に形成したCr析出物を含む層を希硝酸電解処理により除去すれば、耐食性が向上したC欠乏層が表面に露出し、結果として鋼板の耐食性が向上すると考えられる。
とくに、本発明におけるような700℃以下(150℃以上)の低温での焼鈍(熱処理)では、700℃超えの高温域における場合に比べて、Crの拡散速度がさらに遅くなり、Cr酸化物の生成がより少なくなるため、脱Cr層形成による耐孔食性(耐食性)の低下が少なくなると考えられる。さらに、700℃以下(150℃以上)の低温での焼鈍(熱処理)では、700℃超えの高温域における場合に比べて、Cの拡散も遅くなることが考えられ、C欠乏層の形成が少なくなり、その分、有効Cr量が増加すると考えられる。そのため、700℃以下(150℃以上)の低温での熱処理を施した場合には、700℃超えの高温域での熱処理を施した場合に比べて、希硝酸電解処理後の孔食発生電位が高くなり、耐食性向上効果が大きくなると考えられる。
上記したように、表面近傍に存在するCは、表面近傍に存在するCrと結びつき、Cr炭化物として析出するため、表面近傍ではC量が減少し、それに伴い有効Cr量が増加する。雰囲気中のガス成分との反応に伴う蒸発は、C量の低い鋼板に比べて、C量の高い鋼板で多くなると考えられる。このため、C量の高い鋼板の方が、熱処理によるC量減少に伴う有効Cr量の変化(増加)が大きくなる。このようなことから、本発明では、熱処理後の希硝酸電解処理による耐食性改善効果が高C鋼板で著しくなるものと考えられる。
また、Moも、Crと同様に、固溶状態となることで鋼板の耐食性(耐孔食性)向上に寄与する。すなわち、有効Mo量(固溶Mo量)が多くなることで、鋼板の耐食性(耐孔食性)が改善される。また、Moも、Crと同様にCと結合しやすいため、熱処理中に、表面近傍で鋼中Cのガス化が生じると、C減少が生じ、表面近傍での有効Mo量が増加することになる。この有効Mo量の増加は、Mo含有量が多いほど多くなることから、Mo含有量の多い鋼板ほど耐孔食性の向上効果が大きくなるものと考えられる。
なお、Moが、3.0~7.0%の範囲では、Moの増加による効果が徐々に少なくなるため、3.0%超えるMo含有範囲では、3.0%以下のMo含有範囲に比べて、単位Mo量当たりの耐孔食性改善効果が少なくなる。
以上から、本発明におけるような700℃以下(150℃以上)の低温での熱処理では、700℃超えの高温域における場合に比べて、Cr欠乏層が少なくなり、有効Cr量も増加するため700℃以下の低温での熱処理を施した、とくに3.0%までのMo含有鋼板では、希硝酸電解後の孔食発生電位が700℃超えの高温域での熱処理を施した場合に比べ高くなるものと考えられる。
なお、上記した希硝酸電解処理を行ったのち、酸素を富化した大気雰囲気中で、150℃以下の後熱処理を行うことにより、耐食性に優れる健全な不動態被膜が形成され、耐食性、耐孔食性を向上させることができる。また、硝酸溶液への浸漬により、不動態被膜の生成を促進させることができる。不動態被膜の生成・成長を促進させる目的で酸化性の酸への浸漬を行うことも有効である。
なお、健全な不動態被膜の形成には、母相の耐食性を向上させておくこと、具体的には、炭化物の析出を抑制し、耐食性に有効に働くCr量を高めること、熱処理時に形成される粗い酸化被膜およびその直下に形成される可能性がある脱クロム層を除去すること、さらに不動態被膜が形成される素地となる金属表面が平滑であること、などが有効である。
なお、熱処理後に、できた酸化層やCr欠乏層を含んだ表層の除去においては、上記した希硝酸電解処理以外にも、例えば、アルカリを用いた電解処理をはじめ、スパッタリングや機械的研磨等を用いた、あらゆる工業的な表層除去方法を適用することも可能である。また、電解処理において、電解液は希硝酸に限定されるものでもなく、非酸化性の硫酸、塩酸等を用いた処理としてもよい。
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
(実施例1)
表1に示す組成を有する焼鈍・酸洗済みの熱延鋼板(板厚:2.5mm)に、3回の冷間圧延を施して、板厚:0.1mmの冷延鋼板とした。なお、最終の冷間圧延後、表2に示す機械的特性の回復及び向上を主たる目的とする熱処理Aを施した。なお、最終以外の冷間圧延の後に、それぞれ表2に示す熱処理(軟化を目的とした熱処理)を施した。一部の鋼板では、最終の冷間圧延後には熱処理を施さず、最終以外の冷間圧延の後に表2に示す熱処理(機械的特性の回復及び向上を目的とする熱処理)を施した。
そして、得られた冷延鋼板にさらに、希硝酸電解処理を施したのち、研磨しないサンプルを用いて、JIS G 0577の規定に準拠して、各鋼板表面の孔食発生電位Vcを測定した。なお、孔食発生電位の測定では、試験溶液(塩化ナトリウム水溶液)の脱気は実施しなかった。照合電極はAg/AgCl(塩化銀)電極とした。また、一部の鋼板については希硝酸電解処理は実施しなかった。希硝酸電解処理の条件は、硝酸濃度:3%の希硝酸水溶液(液温:60℃)中で、電流密度:±30mA/cm2で、陽極・陰極電解を合計で20s間、とした。電解は、鋼板側がアノード、カソードになるような順番で行った。また、希硝酸電解処理後の鋼板について、ISO 25178の規定に準拠して、算術平均高さSaを測定した。測定視野は、1.0μm×1.0μm、測定間隔は25μmとした。
得られた結果を表2に示す。
Figure 0007210780000001
Figure 0007210780000002
本発明例はいずれも、孔食発生電位Vcが(1)式を満足し、高い孔食発生電位を有するステンレス鋼板となっており、優れた耐孔食性を有することが推察される。一方、本発明を外れる比較例は、孔食発生電位Vcが(1)式を満足せず、耐孔食性が低いことが推察される。なお、鋼板No.A5、No.A6とNo.A7、No.A8とは、等しい孔食指数Xを有するが、孔食発生電位Vcは、C含有量の多い鋼板No.A7、No.A8の方が高い値を示している。また、孔食指数Xが本発明の範囲を外れる鋼板No.A18、No.A19は、孔食発生電位Vcが0以下となり、耐孔食性が要求される使途には適用できない。
(実施例2)
表1に示す組成を有する焼鈍・酸洗済みの熱延鋼板(板厚:2.5mm)に、3回の冷間圧延を施して、実施例1と同様に、板厚:0.1mmの冷延鋼板とした。なお、最終の冷間圧延後で、表3に示す、再結晶又は逆変態を目的とする熱処理Bを施し、最終以外の冷間圧延の後に、それぞれ表3に示す軟化を目的とした熱処理を施した。一部の鋼板では、最終の冷間圧延後には熱処理を施さず、最終以外の冷間圧延の後に表3に示す熱処理(再結晶又は逆変態を目的とする熱処理)を施した。
そして、得られた冷延鋼板にさらに、希硝酸電解処理を施したのち、研磨しないサンプルを用いて、実施例1と同様に、各鋼板表面の孔食発生電位Vcを測定した。なお、孔食発生電位の測定では、実施例1と同様に、試験溶液(塩化ナトリウム水溶液)の脱気は実施しなかった。また、一部の鋼板については希硝酸電解処理は実施しなかった。希硝酸電解処理の条件は、実施例1と同様とした。得られた結果を表3に示す。
Figure 0007210780000003
本発明例はいずれも、孔食発生電位Vcが(1)式を満足し、高い孔食発生電位を有するステンレス鋼板となっており、優れた耐孔食性を有することが推察される。一方、本発明を外れる比較例は、孔食発生電位Vcが(1)式を満足せず、耐孔食性が低いことが推察される。なお、鋼板No.B5、No.B6とNo.B7、No.B8とは、等しい孔食指数Xを有するが、孔食発生電位Vcは、C含有量の多い鋼板No.B7、No.B8の方が高い値を示している。また、孔食指数Xが本発明の範囲を外れる鋼板No.B18、No.B19は、孔食発生電位Vcが0以下となり、耐孔食性用が要求される使途には適用できない。
(実施例3)
表1に示す鋼No.Dの組成を有する熱延鋼板(板厚:2.5mm)に、表4に示す条件の2回の冷間圧延を施して、冷延鋼板(板厚:0.1mm)とした。1回目と2回目の冷間圧延の間に、軟化を目的とした熱処理(1050℃×5min、1000℃×2min)を施した。最終の冷間圧延後、機械的特性の回復を目的とした熱処理A(500℃×2min)を施し、さらに表4に示す条件で希硝酸電解処理を施した。
そして、実施例1と同様に、各鋼板表面の孔食発生電位Vcを測定した。また、鋼板表面の粗さをISO 25178の規定に準拠して、面粗さ(算術平均高さ)Saを測定した。
得られた結果を表4に示す。
Figure 0007210780000004
本発明例はいずれも、孔食発生電位Vcが(1)式を満足し、高い孔食発生電位を有するステンレス鋼板となっており、優れた耐孔食性を有することが推察される。また、本発明例はいずれも、面粗さSaが0.80μm以下と優れた表面性状を呈している。一方、孔食発生電位Vcが(1)式を満足せず、本発明を外れる比較例は、耐孔食性が低いことが推察される。また、希硝酸電解処理条件が本発明範囲を低く外れる比較例は、孔食発生電位Vcが(1)式を満足せず、耐孔食性が低いことが推察される。一方、希硝酸電解処理条件が本発明範囲を高く外れる比較例では、孔食発生電位Vcは(1)式を満たすが、面粗さ(算術平均高さ)Saが0.80μmを超えて荒れた表面となっている。なお、希硝酸電解処理の温度が本発明範囲で高く外れる比較例は、孔食発生電位Vcが(1)式を満足していない。また、面粗さSaが0.40μm以下の本発明例は、孔食電位Vcが安定して1000mV以上となっている。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C:0.40%以下、 Si:1.00%以下、
    Mn:2.00%以下、 P:0.045%以下、
    S:0.030%以下、 Ni:3.5~36.0%、
    Cr:15.00~30.00%、 Mo:0~7.0%、
    N:0.25%以下
    を含有し、かつCr、Moを下記(2)式で定義されるXが15.0~50.0を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する熱延鋼板に、1回又は複数回の冷間圧延を施して冷延鋼板を製造するに当たり、
    前記冷間圧延のうちの最終の冷間圧延の後に、あるいは前記冷間圧延のうちの最終以外の冷間圧延の後に、150~600℃の範囲の温度で30s~10min保持する熱処理を施し、最終に、希硝酸電解処理を施し、
    JIS G 0577の規定に準じて測定した表面の孔食発生電位Vc(mV)が、下記(1)式を満足するオーステナイト系ステンレス鋼板とすることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。

    Vc > 0.039X 3 -5.2X 2 +232X-2311 ……(1)
    ここで、X=Cr+3.3Mo ……………(2)
    Cr、Mo:各元素の含有量(質量%)
  2. 質量%で、
    C:0.40%以下、 Si:1.00%以下、
    Mn:2.00%以下、 P:0.045%以下、
    S:0.030%以下、 Ni:3.5~36.0%、
    Cr:15.00~30.00%、 Mo:0~7.0%、
    N:0.25%以下
    を含有し、かつCr、Moを下記(2)式で定義されるXが15.0~50.0を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する熱延鋼板に、1回又は複数回の冷間圧延を施して冷延鋼板を製造するに当たり、
    前記冷間圧延のうちの最終の冷間圧延の後に、あるいは前記冷間圧延のうちの最終以外の冷間圧延の後に、150~700℃の範囲の温度で15min~48hr保持する熱処理を施し、最終に、希硝酸電解処理を施し、
    JIS G 0577の規定に準じて測定した表面の孔食発生電位Vc(mV)が、下記(1)式を満足するオーステナイト系ステンレス鋼板とすることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。

    Vc > 0.039X 3 -5.2X 2 +232X-2311 ……(1)
    ここで、X=Cr+3.3Mo ……………(2)
    Cr、Mo:各元素の含有量(質量%)
  3. 前記希硝酸電解処理が、硝酸濃度:3~10%、温度:40~80℃の希硝酸水溶液中で、電流密度:±10~80mA/cm2で、陰極および陽極電解を合計で10~60s行う処理であることを特徴とする請求項またはに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.01~1.00%、Nb:0.01~1.00%、Cu:0.01~3.00%、Al:0.0001~1.50%、Ca:0.001~0.01%、Mg:0.001~0.01%、V:0.01~1.00%、Co:0.01~0.5%、W:0.01~1.0%、B:0.001~0.01%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
  5. 前記オーステナイト系ステンレス鋼板の表面粗さがISO 25178の規定に準拠したSaで0.80μm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法
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