JP7288466B2 - 抗原結合分子の血漿中滞留性と免疫原性を改変する方法 - Google Patents
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Description
〔1〕イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子のFc領域が、pH中性域の条件下で二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターを含むヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変することを含む、以下のいずれかの方法;
(a) 抗原結合分子の薬物動態を改善する方法、または
(b) 抗原結合分子の免疫原性を低減させる方法、
〔2〕前記ヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変することが、Fc領域の活性型Fcγレセプターに対する結合活性が、天然型ヒトIgGのFc領域の当該活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも低いFc領域に改変することを含む、〔1〕に記載の方法、
〔3〕前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
〔4〕前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される235位、237位、238位、239位、270位、298位、325位および329位のいずれかひとつ以上のアミノ酸を置換することを含む、〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の方法、
〔5〕前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
234位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、ThrまたはTrpのいずれか、
235位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはArgのいずれか、
236位のアミノ酸をArg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、ProまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、TyrまたはArgのいずれか、
238位のアミノ酸をAla、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、TrpまたはArgのいずれか、
239位のアミノ酸をGln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、TyrまたはArgのいずれか、
265位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
266位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
267位のアミノ酸をArg、His、Lys、Phe、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
269位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
270位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
271位のアミノ酸をArg、His、Phe、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸をArg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸をArg、Gly、LysまたはProのいずれか、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をArg、Gly、Lys、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
324位のアミノ酸をLysまたはProのいずれか、
325位のアミノ酸をAla、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、TrpTyr、もしくはValのいずれか、
327位のアミノ酸をArg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
328位のアミノ酸をArg、Asn、Gly、His、LysまたはProのいずれか、
329位のアミノ酸をAsn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、ValまたはArgのいずれか、
330位のアミノ酸をProまたはSerのいずれか、
331位のアミノ酸をArg、GlyまたはLysのいずれか、もしくは
332位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
のいずれかひとつ以上に置換することを含む、〔4〕に記載の方法、
〔6〕前記ヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変することが、Fc領域の抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高いFc領域に改変することを含む、〔1〕に記載の方法、
〔7〕前記抑制型FcγレセプターがヒトFcγRIIbである、〔6〕に記載の方法、
〔8〕前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、〔6〕または〔7〕に記載の方法、
〔9〕EUナンバリングで表される238または328のアミノ酸を置換することを含む〔6〕から〔8〕のいずれか一項に記載の方法、
〔10〕EUナンバリングで表される238のアミノ酸をAsp、または328のアミノ酸をGluに置換することを含む、〔9〕に記載の方法、
〔11〕 EUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
233位のアミノ酸をAsp、
234位のアミノ酸をTrp、またはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Leu、Met、Phe、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸をAsp、
267位のアミノ酸をAla、GlnまたはValのいずれか、
268位のアミノ酸をAsn、Asp、またはGluのいずれか、
271位のアミノ酸をGly、
326位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Leu、Met、SerまたはThrのいずれか、
330位のアミノ酸をArg、Lys、またはMetのいずれか、
323位のアミノ酸をIle、Leu、またはMetのいずれか、
296位のアミノ酸をAsp、
のいずれかひとつ以上に置換することを含む〔9〕または〔10〕に記載の方法、
〔12〕前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される237、248、250、252、254、255、256、257、258、265、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、および436のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含むFc領域である、〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の方法、
〔13〕前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
298位のアミノ酸がGly、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis、Ile、Leu、Phe、ThrまたはVal 、
のいずれかひとつ以上の組合せである、〔12〕に記載の方法、
〔14〕前記抗原結合ドメインが、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔1〕から〔13〕のいずれか一項に記載の方法、
〔15〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔14〕に記載の方法、
〔16〕前記抗原結合ドメインが、pHの条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔1〕から〔13〕のいずれか一項に記載の方法、
〔17〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔16〕に記載の方法、
〔18〕前記抗原結合ドメインが抗体の可変領域である、〔1〕から〔17〕のいずれか一項に記載の方法、
〔19〕前記抗原結合分子が抗体である、〔1〕から〔18〕のいずれか一項に記載の方法、
〔20〕前記ヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変することが、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRn結合活性を有し、他方がpH中性域の条件下でのFcRn結合活性を有しないFc領域に改変することを含む、〔1〕に記載の方法、
〔21〕前記Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237、248、250、252、254、255、256、257、258、265、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、および436のいずれかひとつ以上のアミノ酸を置換することを含む、〔20〕に記載の方法、
〔22〕前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
237位のアミノ酸をMet、
248位のアミノ酸をIle、
250位のアミノ酸をAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyr、
252位のアミノ酸をPhe、Trp、またはTyr、
254位のアミノ酸をThr、
255位のアミノ酸をGlu、
256位のアミノ酸をAsp、Asn、Glu、またはGln、
257位のアミノ酸をAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはVal、
258位のアミノ酸をHis、
265位のアミノ酸をAla、
286位のアミノ酸をAlaまたはGlu、
289位のアミノ酸をHis、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をGly、
303位のアミノ酸をAla、
305位のアミノ酸をAla、
307位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyr、
308位のアミノ酸をAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThr、
309位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Pro、またはArg、
311位のアミノ酸をAla、His、またはIle、
312位のアミノ酸をAlaまたはHis、
314位のアミノ酸をLysまたはArg、
315位のアミノ酸をAla、AspまたはHis、
317位のアミノ酸をAla、
332位のアミノ酸をVal、
334位のアミノ酸をLeu、
360位のアミノ酸をHis、
376位のアミノ酸をAla、
380位のアミノ酸をAla、
382位のアミノ酸をAla、
384位のアミノ酸をAla、
385位のアミノ酸をAspまたはHis、
386位のアミノ酸をPro、
387位のアミノ酸をGlu、
389位のアミノ酸をAlaまたはSer、
424位のアミノ酸をAla、
428位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyr、
433位のアミノ酸をLys、
434位のアミノ酸をAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyr、もしくは
436位のアミノ酸をHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal
のいずれかひとつ以上に置換することを含む、〔21〕に記載の方法、
〔23〕前記抗原結合ドメインが、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔20〕から〔22〕のいずれか一項に記載の方法、
〔24〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔23〕に記載の方法、
〔25〕前記抗原結合ドメインが、pHの条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔20〕から〔22〕のいずれか一項に記載の方法、
〔26〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔25〕に記載の方法、
〔27〕前記抗原結合ドメインが抗体の可変領域である、〔20〕から〔26〕のいずれか一項に記載の方法、
〔28〕前記抗原結合分子が抗体である、〔20〕から〔27〕のいずれか一項に記載の方法、
〔29〕イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
234位のアミノ酸がAla、
235位のアミノ酸がAla、LysまたはArgのいずれか、
236位のアミノ酸がArg、238位のアミノ酸がArg、
239位のアミノ酸がLys、
270位のアミノ酸がPhe、
297位のアミノ酸がAla、
298位のアミノ酸がGly、
325位のアミノ酸がGly、
328位のアミノ酸がArg、もしくは329 位のアミノ酸がLys、またはArg、
の中から選択されるいずれかひとつ以上のアミノ酸を含むFc領域を含む抗原結合分子、
〔30〕前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
237位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
238位のアミノ酸がLys
239位のアミノ酸がArg、または
329位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
の中から選択されるいずれかひとつ以上のアミノ酸を含む、〔29〕に記載の抗原結合分子、
〔31〕イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびFc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しないFc領域を含む抗原結合分子、
〔32〕前記Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237、248、250、252、254、255、256、257、258、265、286、289、297、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、および436のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域のアミノ酸と異なるFc領域である、〔29〕から〔31〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、
〔33〕前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyr、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyr、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGln、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはVal、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGlu、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyr、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThr、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArg、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIle、
312位のアミノ酸がAlaまたはHis、
314位のアミノ酸がLysまたはArg、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHis、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHis、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSer、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyr、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyr、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
のいずれかひとつ以上の組合せである、〔32〕に記載の抗原結合分子、
〔34〕前記抗原結合ドメインがカルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔29〕から〔33〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、
〔35〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔34〕に記載の抗原結合分子、
〔36〕前記抗原結合ドメインがpHの条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔29〕から〔33〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、
〔37〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔36〕に記載の抗原結合分子、
〔38〕前記抗原結合ドメインが抗体の可変領域である、〔29〕から〔37〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、
〔39〕前記抗原結合分子が抗体である、〔29〕から〔38〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、
〔40〕〔29〕から〔39〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド、
〔41〕〔40〕に記載のポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクター、
〔42〕〔41〕に記載のベクターが導入された細胞、
〔43〕〔42〕に記載の細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程を含む、〔29〕から〔39〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子の製造方法、
〔44〕〔29〕から〔39〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、または〔43〕に記載の製造方法によって得られる抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物。
アミノ酸
本明細書において、たとえば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、Val/Vと表されるように、アミノ酸は1文字コードまたは3文字コード、またはその両方で表記されている。
本明細書において「抗原」は抗原結合ドメインが結合するエピトープを含む限りその構造は特定の構造に限定されない。別の意味では、抗原は無機物でもあり得るし有機物でもあり得る。抗原としては下記のような分子;17-IA、4-1BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1 アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン、aFGF、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、アルファ-1-アンチトリプシン、アルファ-V/ベータ-1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF-1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7-1、B7-2、B7-H、B-リンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE-1、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、BMP、BMP-2 BMP-2a、BMP-3 オステオゲニン(Osteogenin)、BMP-4 BMP-2b、BMP-5、BMP-6 Vgr-1、BMP-7(OP-1)、BMP-8(BMP-8a、OP-2)、BMPR、BMPR-IA(ALK-3)、BMPR-IB(ALK-6)、BRK-2、RPK-1、BMPR-II(BRK-3)、BMP、b-NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE-DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD-8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、癌関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7-1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、ボツリヌス菌毒素、ウェルシュ菌毒素、CKb8-1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、COX、C-Ret、CRG-2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、補体制御因子(Decay accelerating factor)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR(ErbB-1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E-セレクチン、ET-1、ファクターIIa、ファクターVII、ファクターVIIIc、ファクターIX、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF3、FGF-8、FGFR、FGFR-3、フィブリン、FL、FLIP、Flt-3、Flt-4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas6、GCP-2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa-1、GFR-アルファ1、GFR-アルファ2、GFR-アルファ3、GITR、グルカゴン、Glut4、糖タンパク質IIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、GM-CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP-capまたはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCMV gBエンベロープ糖タンパク質、HCMV gHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her2、Her2/neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV) gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV gp120、HIV IIIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I-309、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1R、IGFBP、IGF-I、IGF-II、IL、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-18R、IL-23、インターフェロン(INF)-アルファ、INF-ベータ、INF-ガンマ、インヒビン、iNOS、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インスリン様増殖因子1、インテグリンアルファ2、インテグリンアルファ3、インテグリンアルファ4、インテグリンアルファ4/ベータ1、インテグリンアルファ4/ベータ7、インテグリンアルファ5(アルファV)、インテグリンアルファ5/ベータ1、インテグリンアルファ5/ベータ3、インテグリンアルファ6、インテグリンベータ1、インテグリンベータ2、インターフェロンガンマ、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF-1)、潜在的TGF-1、潜在的TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティ、ルイス-Y抗原、ルイス-Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺表面、黄体形成ホルモン、リンホトキシンベータ受容体、Mac-1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK-2、MCP、M-CSF、MDC、Mer、METALLOPROTEASES、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA-DR)、MIF、MIG、MIP、MIP-1-アルファ、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管抑制物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N-Cアドヘリン、NCA 90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン-3、-4、または-6、ニュールツリン、神経成長因子(NGF)、NGFR、NGF-ベータ、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG-3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PDGF、PDGF、PDK-1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤性アルカリホスファターゼ(PLAP)、PlGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロレラキシン、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、レラキシンA鎖、レラキシンB鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマイド因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF-1、SERINE、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP-II、TACE、TACI、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質-72)、TARC、TCA-3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体アルファ/ベータ)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、睾丸PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、TGF-ベータRI(ALK-5)、TGF-ベータRII、TGF-ベータRIIb、TGF-ベータRIII、TGF-ベータ1、TGF-ベータ2、TGF-ベータ3、TGF-ベータ4、TGF-ベータ5、トロンビン、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55-60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TRF、Trk、TROP-2、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、腫瘍関連抗原発現ルイスY関連炭水化物、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-Cadherin、VE-cadherin-2、VEFGR-1(flt-1)、VEGF、VEGFR、VEGFR-3(flt-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィレブランド因子、WIF-1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、HMGB1、IgA、Aβ、CD81, CD97, CD98, DDR1, DKK1, EREG、Hsp90, IL-17/IL-17R、IL-20/IL-20R、酸化LDL, PCSK9, prekallikrein , RON, TMEM16F、SOD1, Chromogranin A, Chromogranin B、tau, VAP1、高分子キニノーゲン、IL-31、IL-31R、Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3、Nav1.4、Nav1.5、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9、EPCR、C1, C1q, C1r, C1s, C2, C2a, C2b, C3, C3a, C3b, C4, C4a, C4b, C5, C5a, C5b, C6, C7, C8, C9, factor B, factor D, factor H, properdin、sclerostin、fibrinogen, fibrin, prothrombin, thrombin, 組織因子, factor V, factor Va, factor VII, factor VIIa, factor VIII, factor VIIIa, factor IX, factor IXa, factor X, factor Xa, factor XI, factor XIa, factor XII, factor XIIa, factor XIII, factor XIIIa, TFPI, antithrombin III, EPCR, トロンボモデュリン、TAPI, tPA, plasminogen, plasmin, PAI-1, PAI-2、GPC3、Syndecan-1、Syndecan-2、Syndecan-3、Syndecan-4、LPA、S1Pならびにホルモンおよび成長因子のための受容体が例示され得る。
下記にIL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子によるエピトープへの結合の確認方法が例示されるが、IL-6R以外の抗原に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子によるエピトープへの結合の確認方法も下記の例示に準じて適宜実施され得る。
FACSCantoTM II
FACSAriaTM
FACSArrayTM
FACSVantageTM SE
FACSCaliburTM (いずれもBD Biosciences社の商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta / Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulter社の商品名)
本明細書において、「抗原結合ドメイン」は目的とする抗原に結合するかぎりどのような構造のドメインも使用され得る。そのようなドメインの例として、例えば、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域、生体内に存在する細胞膜タンパクであるAvimerに含まれる35アミノ酸程度のAドメインと呼ばれるモジュール(WO2004/044011、WO2005/040229)、細胞膜に発現する糖たんぱく質であるfibronectin中のタンパク質に結合するドメインである10Fn3ドメインを含むAdnectin(WO2002/032925)、ProteinAの58アミノ酸からなる3つのヘリックスの束(bundle)を構成するIgG結合ドメインをscaffoldとするAffibody(WO1995/001937)、33アミノ酸残基を含むターンと2つの逆並行ヘリックスおよびループのサブユニットが繰り返し積み重なった構造を有するアンキリン反復(ankyrin repeat:AR)の分子表面に露出する領域であるDARPins(Designed Ankyrin Repeat proteins)(WO2002/020565)、好中球ゲラチナーゼ結合リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL))等のリポカリン分子において高度に保存された8つの逆並行ストランドが中央方向にねじれたバレル構造の片側を支える4つのループ領域であるAnticalin等(WO2003/029462)、ヤツメウナギ、ヌタウナギなど無顎類の獲得免疫システムとしてイムノグロブリンの構造を有さない可変性リンパ球受容体(variable lymphocyte receptor(VLR))のロイシン残基に富んだリピート(leucine-rich-repeat(LRR))モジュールが繰り返し積み重なった馬てい形の構造の内部の並行型シート構造のくぼんだ領域(WO2008/016854)が好適に挙げられる。本発明の抗原結合ドメインの好適な例として、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域を含む抗原結合ドメインが挙げられる。こうした抗原結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
特異的とは、特異的に結合する分子の一方の分子がその一または複数の結合する相手方の分子以外の分子に対しては何ら有意な結合を示さない状態をいう。また、抗原結合ドメインが、ある抗原中に含まれる複数のエピトープのうち特定のエピトープに対して特異的である場合にも用いられる。また、抗原結合ドメインが結合するエピトープが複数の異なる抗原に含まれる場合には、当該抗原結合ドメインを有する抗原結合分子は当該エピトープを含む様々な抗原と結合することができる。
本明細書において、抗体とは、天然のものであるかまたは部分的もしくは完全合成により製造された免疫グロブリンをいう。抗体はそれが天然に存在する血漿や血清等の天然資源や抗体を産生するハイブリドーマ細胞の培養上清から単離され得るし、または遺伝子組換え等の手法を用いることによって部分的にもしくは完全に合成され得る。抗体の例としては免疫グロブリンのアイソタイプおよびそれらのアイソタイプのサブクラスが好適に挙げられる。ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のクラス(アイソタイプ)が知られている。本発明の抗体には、これらのアイソタイプのうちIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれ得る。
-IL-6Rのような膜蛋白質の構造を維持して免疫刺激が与えられ得る
-免疫抗原を精製する必要が無い
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施され得る。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤が添加されて使用される。
-グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18 (24), 5294-5299)
-AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162 (1), 156-159)
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をIL-6R発現細胞に接触させる工程、
(2)IL-6R発現細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)IL-6R発現細胞に結合する抗体を選択する工程。
(1)哺乳類細胞、:CHO、COS、ミエローマ、BHK (baby hamster kidney )、Hela、Vero、HEK(human embryonic kidney)293など
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
-酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces )属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
-糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus )属
本発明で使用されている方法によると、抗体のCDRとFRに割り当てられるアミノ酸位置はKabatにしたがって規定される(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., 1987年および1991年)。本明細書において、抗原結合分子が抗体または抗原結合断片である場合、可変領域のアミノ酸はKabatナンバリングにしたがい、定常領域のアミノ酸はKabatのアミノ酸位置に準じたEUナンバリングにしたがって表される。
金属イオン濃度の条件
本発明の一つの態様では、イオン濃度とは金属イオン濃度のことをいう。「金属イオン」とは、水素を除くアルカリ金属および銅族等の第I族、アルカリ土類金属および亜鉛族等の第II族、ホウ素を除く第III族、炭素とケイ素を除く第IV族、鉄族および白金族等の第VIII族、V、VIおよびVII族の各A亜族に属する元素と、アンチモン、ビスマス、ポロニウム等の金属元素のイオンをいう。金属原子は原子価電子を放出して陽イオンになる性質を有しており、これをイオン化傾向という。イオン化傾向の大きい金属は、化学的に活性に富むとされる。
(a) 低カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、
(b) 高カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、
(c) 低カルシウム濃度の条件における抗原結合活性が、高カルシウム濃度の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体を選択する工程。
(a) 高カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗体を低カルシウム濃度条件下に置く工程、
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗体を単離する工程。
(a) 低カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗体を高カルシウム濃度条件下で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
(a) 抗原を固定したカラムに高カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗体を低カルシウム濃度条件下でカラムから溶出する工程、
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
(a) 抗原を固定したカラムに低カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗体を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗体を高カルシウム濃度条件下で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
(a) 高カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗体を低カルシウム濃度条件下に置く工程、
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
ある一態様によれば、本発明の抗原結合ドメイン又は抗体は、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。イオン濃度の例としては金属イオン濃度や水素イオン濃度が好適に挙げられる。
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はどのように調製されてもよく、例えば、金属イオンがカルシウムイオン濃度である場合には、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリにカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリ(カルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所にカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である 。
また、本発明の一つの態様では、イオン濃度の条件とは水素イオン濃度の条件またはpHの条件をいう。本発明で、プロトンすなわち水素原子の原子核の濃度の条件は、水素指数(pH)の条件とも同義に取り扱われる。水溶液中の水素イオンの活動量をaH+で表すと、pHは-log10aH+と定義される。水溶液中のイオン強度が(例えば10-3より)低ければ、aH+は水素イオン強度にほぼ等しい。例えば25℃、1気圧における水のイオン積はKw=aH+aOH=10-14であるため、純水ではaH+=aOH=10-7である。この場合のpH=7が中性であり、pHが7より小さい水溶液は酸性、pHが7より大きい水溶液はアルカリ性である。
(a) pH酸性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、
(b) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、
(c) pH酸性域の条件における抗原結合活性が、pH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体を選択する工程。
(a) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗体もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗体をpH酸性域の条件に置く工程、
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗体を単離する工程。
(a) pH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗体をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
(a) 抗原を固定したカラムにpH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗体をpH酸性域の条件でカラムから溶出する工程、
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
(a) 抗原を固定したカラムにpH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗体を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗体をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
(a) pH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗体をpH酸性域の条件に置く工程、
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はどのように調製されてもよく、例えば、イオン濃度の条件が水素イオン濃度の条件もしくはpHの条件である場合には、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリに側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異を導入した抗体又はライブラリ(側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である 。
免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFcγレセプターと異なり、ヒトFcRnは構造的には主要組織不適合性複合体(MHC)クラスIのポリペプチドに構造的に類似しクラスIのMHC分子と22から29%の配列同一性を有する(Ghetieら,Immunol. Today (1997) 18 (12), 592-598)。FcRnは、可溶性βまたは軽鎖(β2マイクログロブリン)と複合体化された膜貫通αまたは重鎖よりなるヘテロダイマーとして発現される。MHCのように、FcRnのα鎖は3つの細胞外ドメイン(α1,α2,α3)よりなり、短い細胞質ドメインはタンパク質を細胞表面に繋留する。α1およびα2ドメインが抗体のFc領域中のFcRn結合ドメインと相互作用する(Raghavanら(Immunity (1994) 1, 303-315)。
Fc領域は、抗体重鎖の定常領域に由来するアミノ酸配列を含む。Fc領域は、EUナンバリングで表されるおよそ216のアミノ酸における、パパイン切断部位のヒンジ領域のN末端から、当該ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含める抗体の重鎖定常領域の部分である。
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、および
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表6に記載されるような組合せが挙げられる。
本発明において、抗原結合分子は抗原結合ドメインおよびFc領域を含む分子を表す最も広義な意味として使用されており、具体的には、それらが抗原に対する結合活性を示す限り、様々な分子型が含まれる。例えば、抗原結合ドメインがFc領域と結合した分子の例として、抗体が挙げられる。抗体には、単一のモノクローナル抗体(アゴニストおよびアンタゴニスト抗体を含む)、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体等が含まれ得る。また抗体の断片として使用される場合としては、抗原結合ドメインおよび抗原結合断片(例えば、Fab、F(ab')2、scFvおよびFv)が好適に挙げられ得る。既存の安定なα/βバレルタンパク質構造等の立体構造が scaffold(土台)として用いられ、その一部分の構造のみが抗原結合ドメインの構築のためにライブラリ化されたスキャフォールド分子も、本発明の抗原結合分子に含まれ得る 。
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:17)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:18)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:19)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:20)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:21)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:22)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:23)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:24)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:19))n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:20))n
[nは1以上の整数である]等が好適に挙げられる。但し、ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
Fcγレセプター(FcγRとも記載される)とは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得るレセプターをいい、実質的にFcγレセプター遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒトFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサルを含むが、これらに限定されるものではない、いかなる生物由来でもよい。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIII-2(FcγRIV、CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウスFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。こうしたFcγレセプターの好適な例としてはヒトFcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)、FcγRIIb(CD32)、FcγRIIIa(CD16)及び/又はFcγRIIIb(CD16)が挙げられる。ヒトFcγRIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:25(NM_000566.3)及び26(NP_000557.1)に、ヒトFcγRIIa(アロタイプH131)のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:27(BC020823.1)及び28(AAH20823.1)に(アロタイプR131は配列番号:28の166番目のアミノ酸がArgに置換されている配列である)、FcγRIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:29(BC146678.1)及び30(AAI46679.1)に、FcγRIIIaのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:31(BC033678.1)及び32(AAH33678.1)に、及びFcγRIIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:33(BC128562.1)及び34(AAI28563.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。例えば参考実施例27等でアロタイプV158が用いられている場合にFcγRIIIaVと表記されているように、特記されないかぎり、アロタイプF158が用いられているが、本願で記載されるアイソフォームFcγRIIIaのアロタイプが特に限定して解釈されるものではない。 Fcγレセプターが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合活性を有するか否かは、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認され得る(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
FcRnとIgG抗体との結晶学的研究によって、FcRn-IgG複合体は、二分子のFcRnに対して一分子のIgGから構成され、IgGのFc領域の両側に位置するCH2およびCH3ドメインの接触面付近において、二分子の結合が起こると考えられている(Burmeisterら(Nature (1994) 372, 336-343)。一方、後述する実施例3において確認されたように、抗体のFc領域が二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターの四者を含む複合体を形成できることが明らかとなった(図48)。このヘテロ複合体の形成は、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子の性質について解析を進めた結果明らかとなった現象である。
前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される234、235、236、237、238、239、270、297、298、325、328、および329のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域と異なるアミノ酸に改変されているFc領域が好適に挙げられるが、Fc領域の改変は上記改変に限定されず、例えばCurrent Opinion in Biotechnology (2009) 20 (6), 685-691に記載されている脱糖鎖 (N297A, N297Q)、IgG1-L234A/L235A、IgG1-A325A/A330S/P331S、IgG1-C226S/C229S、IgG1-C226S/C229S/E233P/L234V/L235A、IgG1-L234F/L235E/P331S、IgG1-S267E/L328F、IgG2-V234A/G237A、IgG2-H268Q/V309L/A330S/A331S、IgG4-L235A/G237A/E318A、IgG4-L236E等の改変、および、WO 2008/092117に記載されているG236R/L328R、L235G/G236R、N325A/L328R、N325LL328R等の改変、および、EUナンバリング233位、234位、235位、237位におけるアミノ酸の挿入、WO 2000/042072に記載されている個所の改変であってもよい。
234位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、ThrまたはTrpのいずれか、
235位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはArgのいずれか、
236位のアミノ酸をArg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、ProまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、TyrまたはArgのいずれか、
238位のアミノ酸をAla、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、TrpまたはArgのいずれか、
239位のアミノ酸をGln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、TyrまたはArgのいずれか、
265位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
266位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
267位のアミノ酸をArg、His、Lys、Phe、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
269位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
270位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
271位のアミノ酸をArg、His、Phe、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸をArg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸をArg、Gly、LysまたはProのいずれか、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をArg、Gly、Lys、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
324位のアミノ酸をLysまたはProのいずれか、
325位のアミノ酸をAla、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、TrpTyr、もしくはValのいずれか、
327位のアミノ酸をArg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
328位のアミノ酸をArg、Asn、Gly、His、LysまたはProのいずれか、
329位のアミノ酸をAsn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、ValまたはArgのいずれか、
330位のアミノ酸をProまたはSerのいずれか、
331位のアミノ酸をArg、GlyまたはLysのいずれか、もしくは
332位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、370のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370のアミノ酸のGluに代えてAspであってもよく、EUナンバリングで表される370のアミノ酸のGluに代えて392のアミノ酸のAspであってもよい)、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される439のアミノ酸のGluに代えて360のアミノ酸のAsp、EUナンバリングで表される392のアミノ酸のAsp又は439のアミノ酸のAspであってもよい)、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370のアミノ酸がGlu、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される357のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド、または、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、370のアミノ酸がGlu、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370のアミノ酸をGluに置換しなくてもよく、更に、370のアミノ酸をGluに置換しない上で、439のアミノ酸のGluに代えてAsp又は439のアミノ酸のGluに代えて392のアミノ酸のAspであってもよい)、
が好適に用いられる。
本発明の抗原結合分子に対する免疫応答が改変されたか否かは、抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物が投与された生体の応答反応を測定することによって評価され得る。生体の応答反応としては、主として細胞性免疫(MHCクラスIに結合した抗原結合分子のペプチド断片を認識する細胞障害性T細胞の誘導)と液性免疫(抗原結合分子に結合する抗体産生の誘導)の二つの免疫応答が挙げられるが、特にタンパク質医薬品の場合は、投与された抗原結合分子に対する抗体産生が免疫原性と呼ばれる。免疫原性を評価する方法としては、in vivoで抗体産生を評価する方法と、in vitroで免疫細胞の反応を評価する方法の2種類がある。
本発明は特定の理論により拘束されるものではないが、例えば、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低いように、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子が生体に投与されたときに生体中の細胞への取込みが促進されることによって、一分子の抗原結合分子が結合可能な抗原の数が増加する理由、および、血漿中抗原濃度の消失が促進される理由はたとえば以下のように説明することが可能である。
A値=各時点での抗原のモル濃度
B値=各時点での抗原結合分子のモル濃度
C値=各時点での抗原結合分子のモル濃度あたりの抗原のモル濃度(抗原/抗原結合分子モル比)
C=A/B。
本発明の非限定の一態様では、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが単離された後に、当該ポリヌクレオチドが適切な発現ベクターに挿入される。例えば、抗原結合ドメインが抗体の可変領域である場合には、当該可変領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入された制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗原結合分子の遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗原結合分子の可変領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、本発明の抗原結合分子の発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記可変領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合され得る。
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、および
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表6に記載されるような組合せが挙げられる。
様態1の抗原結合分子は、二分子のFcRnに結合することによって三者複合体を形成するが、活性型FcγRを含めた複合体は形成しない(図49)。活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域は、前記のように天然型Fc領域のアミノ酸を改変することによって作製され得る。改変Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性が、天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いか否かは、前記の結合活性の項で記載された方法を用いて適宜実施され得る。
234位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、ThrまたはTrpのいずれか、
235位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはArgのいずれか、
236位のアミノ酸をArg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、ProまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、TyrまたはArgのいずれか、
238位のアミノ酸をAla、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、TrpまたはArgのいずれか、
239位のアミノ酸をGln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、TyrまたはArgのいずれか、
265位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
266位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
267位のアミノ酸をArg、His、Lys、Phe、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
269位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
270位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか
271位のアミノ酸をArg、His、Phe、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸をArg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸をArg、Gly、LysまたはProのいずれか、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をArg、Gly、Lys、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
324位のアミノ酸をLysまたはProのいずれか、
325位のアミノ酸をAla、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、TrpTyr、もしくはValのいずれか、
327位のアミノ酸をArg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
328位のアミノ酸をArg、Asn、Gly、His、LysまたはProのいずれか、
329位のアミノ酸をAsn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、ValまたはArgのいずれか、
330位のアミノ酸をProまたはSerのいずれか、
331位のアミノ酸をArg、GlyまたはLysのいずれか、もしくは
332位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
様態2の抗原結合分子は、二分子のFcRnと一分子の抑制型FcγRに結合することによってこれら四者を含む複合体を形成し得る。しかしながら、一分子の抗原結合分子は一分子のFcγRとしか結合できないため、一分子の抗原結合分子は抑制型FcγRに結合した状態で他の活性型FcγRに結合することはできない(図50)。さらに、抑制型FcγRに結合した状態で細胞内へと取り込まれた抗原結合分子は、細胞膜上へとリサイクルされ、細胞内での分解を回避することが報告されている(Immunity (2005) 23, 503-514)。すなわち、抑制型FcγRに対する選択的結合活性を有する抗原結合分子は、免疫応答の原因となる活性型FcγRおよび二分子のFcRnを含めたヘテロ複合体を形成することができないと考えられる。
様態3の抗原結合分子は、一分子のFcRnと一分子のFcγRに結合することによって三者複合体を形成しうるが、二分子のFcRnと一分子のFcγRの四者を含むヘテロ複合体は形成しない(図51)。本様態3の抗原結合分子に含まれる、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方のポリペプチドがpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合能活性を有しないFc領域として、二重特異性抗体(bispecific抗体)を起源とするFc領域も適宜使用され得る。二重特異性抗体とは、異なる抗原に対して特異性を有する二種類の抗体である。IgG型の二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが可能である(Milsteinら(Nature (1983) 305, 537-540)。
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409位のアミノ酸がAsp、370位のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399位のアミノ酸がLys、357位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370位のアミノ酸のGluに代えてAspであってもよく、EUナンバリングで表される370位のアミノ酸のGluに代えて392位のアミノ酸のAspであってもよい)、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409位のアミノ酸がAsp、439位のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399位のアミノ酸がLys、356位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される439位のアミノ酸のGluに代えて360位のアミノ酸のAsp、EUナンバリングで表される392位のアミノ酸のAsp又は439位のアミノ酸のAspであってもよい)、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370位のアミノ酸がGlu、439位のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される357位のアミノ酸がLys、356位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド、または、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409位のアミノ酸がAsp、370位のアミノ酸がGlu、439位のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399位のアミノ酸がLys、357位のアミノ酸がLys、356位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370位のアミノ酸をGluに置換しなくてもよく、更に、370位のアミノ酸をGluに置換しない上で、439位のアミノ酸のGluに代えてAsp又は439位のアミノ酸のGluに代えて392位のアミノ酸のAspであってもよい)、
が好適に用いられる。
可溶型抗原に対する既存の中和抗体を投与すると、抗原が抗体に結合することで血漿中での持続性が高まることが予想される。抗体は一般的に長い半減期(1週間~3週間)を有するが、一方で抗原は一般的に短い半減期(1日以下)を有する。そのため、血漿中で抗体に結合した抗原は、抗原単独で存在する場合に比べて顕著に長い半減期を有するようになる。その結果として、既存の中和抗体を投与することにより、血漿中の抗原濃度の上昇が起こる。このような事例は様々な可溶型抗原を標的とした中和抗体において報告されており、一例を挙げるとIL-6(J. Immunotoxicol. (2005) 3, 131-139)、amyloid beta(mAbs (2010) 2 (5), 1-13)、MCP-1(ARTHRITIS & RHEUMATISM (2006) 54,2387-2392)、hepcidin(AAPS J. (2010) 4, 646-657) 、sIL-6 receptor(Blood (2008) 112 (10), 3959-64)などがある。既存の中和抗体の投与により、ベースラインからおよそ10倍~1000倍程度(上昇の程度は、抗原によって異なる)の血漿中総抗原濃度の上昇が報告されている。ここで、血漿中総抗原濃度とは、血漿中に存在する抗原の総量としての濃度を意味しており、すなわち抗体結合型と抗体非結合型の抗原濃度の和として表される。このような可溶型抗原を標的とした抗体医薬にとっては、血漿中総抗原濃度の上昇が起こることは好ましくない。なぜなら、可溶型抗原を中和するためには、少なくとも血漿中総抗原濃度を上回る血漿中抗体濃度が必要なためである。つまり、血漿中総抗原濃度が10倍~1000倍上昇するということは、それを中和するための血漿中抗体濃度(すなわち抗体投与量)としても、血漿中総抗原濃度の上昇が起こらない場合に比べて10倍~1000倍が必要になることを意味する。一方で、既存の中和抗体に比較して血漿中総抗原濃度を10倍~1000倍低下することができれば、抗体の投与量を同じだけ減らすことが可能である。このように、血漿中から可溶型抗原を消失させて、血漿中総抗原濃度を低下させることができる抗体は、既存の中和抗体に比較して顕著に有用性が高い。
〔実施例1〕中性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強することによるpH依存的ヒトIL-6レセプター結合ヒト抗体の血漿中滞留性および免疫原性への影響
血漿中からの可溶型抗原を消失させるために、FcRnと相互作用する抗体等の抗原結合分子のFc領域(Nat. Rev. Immunol. (2007) 7 (9), 715-25)等のFcRn結合ドメインにがpH中性域においてFcRnに対する結合活性を有することが重要である。参考実施例5で示したように、FcRn結合ドメインのpH中性域でのFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン変異(アミノ酸置換)体が研究されている。Fc変異体として創生されたF1~F600のpH中性域におけるFcRnに対する結合活性が評価され、pH中性域においてFcRnに対する結合活性を増強することにより血漿中からの抗原の消失を加速することが確認された。こういったFc変異体を医薬品として開発するためには、薬理的な性質(FcRnの結合増強による血漿中からの抗原の消失の加速など)のみならず、抗原結合分子の安定性や純度、抗原結合分子の生体内における血漿中滞留性が優れ、免疫原性が低いことが好ましい。
そこで、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の血漿中滞留性の評価、および、その抗原結合分子の免疫原性の評価を行うために、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するヒトIL-6レセプター結合ヒト抗体として、VH3-IgG1(配列番号:35)とVL3-CK(配列番号:36)からなるFv4-IgG1、VH3-IgG1-F1(配列番号:37)とVL3-CK からなるFv4-IgG1-F1、VH3-IgG1-F157(配列番号:38)とVL3-CK からなるFv4-IgG1-F157、VH3-IgG1-F20(配列番号:39)とVL3-CK からなるFv4-IgG1-F20、VH3-IgG1-F21(配列番号:40)とVL3-CK からなるFv4-IgG1-F21が参考実施例1および参考実施例2に示した方法によって作製された。
重鎖としてVH3-IgG1あるいはVH3-IgG1-F1を含み、軽鎖としてL(WT)-CK(配列番号:41)を含む抗体が参考実施例2に示した方法で作製され、下記のようにマウスFcRnに対する結合活性が評価された。
Biacore T100(GE Healthcare)を用いて、マウスFcRnと抗体との速度論的解析を行った。センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインL(ACTIGEN)を適当量固定化し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、FcRn希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にマウスFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーには50 mmol/Lリン酸ナトリウム、150 mmol/L NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH7.4を用い、FcRnの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/Lグリシン-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25 ℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka (1/Ms)、および解離速度定数 kd (1/s)をもとに各抗体のマウスFcRnに対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出には Biacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
その結果、IgG1のKD (M)は検出されなかった一方で、作製されたIgG1-F1のKD (M)は1.06E-06 (M)であった。作製されたIgG1-F1は、pH中性域(pH7.4)の条件下において、マウスFcRnに対する結合活性が増強されていることが示された。
作製されたpH依存的ヒトIL-6レセプター結合ヒト抗体であるFv4-IgG1およびFv4-IgG1-F1のノーマルマウスを用いたPK試験が下記の方法で実施された。ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の尾静脈あるいは背部皮下に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後5分、7時間、1日、2日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度はELISA法にて測定された。まず、Anti-Human IgG(γ-chain specific)F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度として0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125μg/mLの抗ヒトIL-6レセプター抗体を含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が調製された。これらの検量線試料および血漿測定試料100μLに20 ng/mLの可溶型ヒトIL-6レセプターが200μL加えられた混合液を、室温で1時間静置させた。その後当該混合液が各ウェルに分注されたAnti-Human IgG固相化プレートをさらに室温で1時間静置させた。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)と室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させた反応液の発色反応が、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中の抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
以下の方法により、pH中性域の条件下におけるマウスFcRnに対する結合活性を有するマウス抗体が作製された。
マウス抗体の可変領域として、ヒトIL-6Rへの結合能を有するマウス抗体である、mouse PM-1(Sato K, et al. Cancer Res. (1993) 53(4), 851-856)のアミノ酸配列が用いられた。これ以降、mouse PM-1の重鎖可変領域はmPM1H(配列番号:42)、軽鎖可変領域はmPM1L(配列番号:43)と表記される。
また、重鎖定常領域として天然型マウスIgG1(配列番号:44、以降はmIgG1と表記される)、軽鎖定常領域として天然型マウスkappa(配列番号:45、以降はmk1と表記される)が用いられた。
参考実施例1の方法に従い、重鎖mPM1H-mIgG1(配列番号:46)および軽鎖mPM1L-mk1(配列番号:47)の塩基配列を有する発現ベクターが作製された。また、参考実施例2の方法に従い、mPM1H-mIgG1とmPM1L-mk1からなる、ヒトIL-6R結合マウス抗体であるmPM1-mIgG1が作製された。
作製されたmPM1-mIgG1は、天然型マウスFc領域を含むマウス抗体であり、pH中性域の条件下でのマウスFcRnに対する結合活性を有しない。そこで、pH中性域の条件下でのマウスFcRnに対する結合活性を付与するために、mPM1-mIgG1の重鎖定常領域にアミノ酸改変が導入された。
同様に、mPM1H-mIgG1のEUナンバリングで表される252位のThrがTyrに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される256位のThrがGluに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される433位のHisがLysに置換されたアミノ酸置換が加えられたmPM1H-mIgG1-mF14(配列番号:49)が作製された。
更に、mPM1H-mIgG1のEUナンバリングで表される252位のThrがTyrに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される256位のThrがGluに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される434位のAsnがTrpに置換されたアミノ酸置換が加えられたmPM1H-mIgG1-mF38(配列番号:50)が作製された。
参考実施例2の方法を用いて、pH中性域の条件下でのマウスFcRnに対する結合を有するマウスIgG1抗体として、mPM1H-mIgG1-mF3とmPM1L-mk1からなるmPM1-mIgG1-mF3が作製された。
mPM1-mIgG1またはmPM1-mIgG1-mF3の重鎖および、L(WT)-CK(配列番号:41)の軽鎖を含む抗体が作製され、これらの抗体のpH7.0におけるマウスFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が測定された。結果を以下の表5に示した。
実施例1において、抗原結合分子の中性条件下におけるFcRnへの結合を増強することによって、血漿中滞留性および免疫原性が悪化することが確認された。天然型IgG1は中性領域でヒトFcRnに対して結合活性を有さないため、中性条件下におけるFcRnへの結合を付与したことで血漿中滞留性および免疫原性が悪化したと考えられた。
抗体のFc領域にはFcRnに対する結合ドメインとFcγRに対する結合ドメインが存在する。FcRnに対する結合ドメインはFc領域の2箇所に存在し、抗体1分子のFc領域に対して2分子のFcRnが同時に結合できることが既に報告されている(Nature (1994) 372 (6504), 379-383)。一方で、FcγRに対する結合ドメインもFc領域の2箇所に存在するが、2分子のFcγRが同時に結合することはできないと考えられている。これは、1分子目のFcγRがFc領域に結合することによって生じたFc領域の構造変化によって、2分子目のFcγRが結合できないためである(J. Biol. Chem. (2001) 276 (19), 16469-16477)。
FcγR/二分子のFcRn/IgGの四者複合体の形成できるかどうかは、pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子がFcγRとFcRnに対して同時に結合できるか否かで判断することが可能である。そこで、下記の方法にしたがい、抗原結合分子が含むFc領域のFcRnとFcγRに対する同時結合実験が実施された。
Biacore T100又はT200(GE Healthcare)を用いて、ヒト又はマウスFcRnとヒト又はマウスFcγRsとが抗原結合分子に同時に結合するかが評価された。Sensor chip CM4 (GE Healthcare) 上にアミンカップリング法によって固定化されたヒト又はマウスFcRnに、被験対象の抗原結合分子をキャプチャーさせた。次に、ヒト又はマウスFcγRsの希釈液とブランクとして使用されたランニングバッファーが注入され、センサーチップ上のFcRnに結合した抗原結合分子にヒト又はマウスFcγRsを相互作用させた。ランニングバッファーとして50 mmol/L sodium phosphate、150 mmol/L NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH7.4が用いられ、FcγRsの希釈にもこのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Trsi-HCl、pH9.5が用いられた。結合の測定は全て25℃で実施された。
pH中性域における条件下でヒトFcRnに対する結合能を有するヒト抗体である、実施例1で作製されたFv4-IgG1-F157が、ヒトFcRnに結合するのと同時に、各種ヒトFcγRまたは各種マウスFcγRに結合するか否かが評価された。
その結果、Fv4-IgG1-F157が、 ヒトFcRnに結合するのと同時に、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(R)、FcγRIIa(H)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)に対して結合できることが示された(図3、4、5、6、7)。また、Fv4-IgG1-F157は同様に、ヒトFcRnに結合するのと同時に、マウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIVに対しても結合できることが示された。(図8、9、10、11)
以上のことから、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するヒト抗体が、 ヒトFcRnに結合するのと同時に、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(R)、FcγRIIa(H)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)やマウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIV等の各種ヒトFcγRおよび各種マウスFcγRに対しても結合できることが示された。
pH中性域における条件下でマウスFcRnに対する結合活性を有するヒト抗体である、実施例1で作製されたFv4-IgG1-F20が、マウスFcRnに結合するのと同時に、各種マウスFcγRに結合するか否かが評価された。
その結果、Fv4-IgG1-F20が、マウスFcRnに結合するのと同時に、マウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIVに対して結合できることが示された(図12)。
pH中性域における条件下でマウスFcRnに対する結合能を有するマウス抗体である、実施例2で作製されたmPM1-mIgG1-mF3が、マウスFcRnに結合するのと同時に、各種マウスFcγRに結合するか否かが評価された。
その結果、mPM1-mIgG1-mF3は、マウスFcRnに結合するのと同時に、マウスFcγRIIbおよびFcγRIIIに対して結合できることが示された(図13)。マウスFcγRIおよびIVに対して結合が確認されなかった結果は、マウスIgG1抗体はマウスFcγRIおよびIVに対して結合能を持たないとの報告(J. Immunol. (2011) 187 (4), 1754-1763))から判断すると、妥当な結果であると考えられる。
これらのことから、pH中性域の条件下におけるマウスFcRnに対する結合活性を有するヒト抗体およびマウス抗体は、マウスFcRnに結合するのと同時に各種マウスFcγRに対しても結合できることが示された。
以上のことから、ヒトおよびマウスIgGのFc領域にはFcRnへの結合領域とFcγRへの結合領域が存在するが、それらは互いに干渉することはなく、一分子のFcと二分子のFcRn、一分子のFcγRの四者を含むヘテロ複合体を形成することが可能であることが示された。
すなわち、pH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子は、一分子の活性型FcγRと二分子のFcRnの四者を含むヘテロ複合体を形成することで、抗原提示細胞への取り込みが増大し、血漿中滞留性が悪化し、さらに免疫原性が悪化したと考えられた。
様態1の抗原結合分子は、2分子のFcRnに結合することによって三者を含む複合体を形成するが、活性型FcγRを含めた複合体は形成しない。
様態2の抗原結合分子は、二分子のFcRnと一分子の抑制性FcγRに結合することによってこれら四者を含む複合体を形成し得る。しかしながら、一分子の抗原結合分子は一分子のFcγRとしか結合できないため、一分子の抗原結合分子は抑制性FcγRに結合した状態で他の活性型FcγRに結合することはできない。さらに、抑制性FcγRに結合した状態で細胞内へと取り込まれた抗原結合分子は、細胞膜上へとリサイクルされ、細胞内での分解を回避することが報告されている(Immunity (2005) 23, 503-514)。すなわち、抑制性FcγRに対する選択的結合活性を有する抗原結合分子は、免疫応答の原因となる活性型FcγRを含めた複合体を形成することができないと考えられる。
様態3の抗原結合分子は、一分子のFcRnと一分子のFcγRに結合することによって三者複合体を形成しうるが、二分子のFcRnと一分子のFcγRの四者を含むヘテロ複合体は形成しない。
(4-1)ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性より低く、pH依存的にヒトIL-6レセプターに結合する抗体の作製
実施例3で示された三つの態様のうち、様態1の抗原結合分子、つまり、pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性より低い抗原結合分子が、以下のように作製された。
実施例1で作製された、Fv4-IgG1-F21およびFv4-IgG1-F157は、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、pH依存的にヒトIL-6レセプターに結合する抗体である。これらのアミノ酸配列の、EUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換されたアミノ酸置換によって、マウスFcγRに対する結合を低下させた改変体が作製された。具体的には、VH3-IgG1-F21のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F140(配列番号:51)が作製された。また、VH3-IgG1-F157のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F424(配列番号:52)が作製された。
参考実施例2の方法を用いて、これらの重鎖およびVL3-CKの軽鎖を含む、Fv4-IgG1-F140およびFv4-IgG1-F424が作製された。
作製されたVH3-IgG1-F21、VH3-IgG1-F140、VH3-IgG1-F157、またはVH3-IgG1-F424を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体の、pH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性(解離定数KD)およびpH7.4におけるマウスFcγRに対する結合活性が、下記の方法を用いて測定された。
Biacore T100 又はT200(GE Healthcare)を用いて、ヒトFcRnと前記の抗体との結合の速度論的解析を行った。上にアミンカップリング法でprotein L(ACTIGEN)が適当量固定化されたSensor chip CM4(GE Healthcare)に、被験対象の抗体をキャプチャーさせた。次に、ヒトFcRnの希釈液とブランクとして使用されたランニングバッファーが注入され、センサーチップ上にキャプチャーさした抗体にヒトFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーとして50 mmol/L sodium phosphate、150 mmol/L NaCl、0.05%(w/v)Tween20、pH7.0またはpH7.4が用られ、ヒトFcRnの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Glycine-HCl, pH1.5が用いられた。結合の測定は全て25℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出された、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka(1/Ms)、および解離速度定数 kd(1/s)をもとに各抗体のヒトFcRnに対する KD(M)が算出された。各パラメーターの算出にはBiacore T100 又はT200 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
その結果を以下の表6に示した。
Biacore T100 又はT200(GE Healthcare)を用いて、マウスFcγRI、FcγRII、FcγRIII、FcγRIV(R&D sytems、Sino Biological)(以下、マウスFcγRsと呼ばれる)と抗体との結合活性が評価された。Sensor chip CM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法で適当量固定化されたprotein L(ACTIGEN)に、被験対象の抗体をキャプチャーさせた。次に、マウスFcγRsの希釈液とブランクとして使用されたランニングバッファーが注入され、センサーチップ上にキャプチャーされた抗体に相互作用させた。ランニングバッファーとして20 mmol/L ACES、150 mmol/L NaCl、0.05%(w/v)Tween20、pH7.4が用いられ、マウスFcγRsの希釈にもこのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Glycine-HCl、pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。
マウスFcγRsの結合活性(Y)=(ΔA1 - ΔA2)/X x 1500
作製されたFv4-IgG1-F140、Fv4-IgG1-F424、Fv4-IgG1-F21およびFv4-IgG1-F157がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与された際のPK試験が下記の方法で実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)の尾静脈に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度はELISA法にて測定された。まず、Anti-Human IgG(γ-chain specific)F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup (Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度として0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125μg/mLの抗ヒトIL-6レセプター抗体を含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が調製された。これらの検量線試料および血漿測定試料100μLに20 ng/mLの可溶型ヒトIL-6レセプターが200μL加えられた混合液を、室温で1時間静置させた。その後当該混合液が各ウェルに分注されたAnti-Human IgG固相化プレートをさらに室温で1時間静置させた。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)と室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させた反応液の発色反応が、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中の抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
図14の結果から、Fv4-IgG1-F21に比較してマウスFcγRへの結合が低いFv4-IgG1-F140は、Fv4-IgG1-F21に比べて血漿中滞留性の向上が認められた。同様に、Fv4-IgG1-F157に比較してマウスFcγRへの結合が低いFv4-IgG1-F424は、Fv4-IgG1-F157に比べて血漿中滞留性の延長が認められた。
このことから、pH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する結合を有し、FcγRに対する結合が通常のFcγR結合ドメインよりも低いFcγR結合ドメインを有する抗体は、通常のFcγR結合ドメインを有する抗体よりも血漿中滞留性が高いことが示された。
(5-1)ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性を有しないpH依存的にヒトIL-6レセプターに結合するヒト抗体の作製
ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性を有しないpH依存的にヒトIL-6レセプターに結合するヒト抗体を作製するため、以下のように抗体作製が行われた。
VH3-IgG1のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される235位のLeuがArgに置換されたアミノ酸置換および239位のSerがLysに置換されたアミノ酸置換によって、ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性を有しないVH3-IgG1-F760(配列番号:53)が作製された。
同様に、VH3-IgG1-F11(配列番号:54)、VH3-IgG1-F890(配列番号:55)およびVH3-IgG1-F947(配列番号:56)のそれぞれのアミノ酸配列の、EUナンバリングで表される235位のLeuがArgに置換されたアミノ酸置換および239位のSerがLysに置換されたアミノ酸置換によって、ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性を有しないVH3-IgG1-F821(配列番号:57)、VH3-IgG1-F939(配列番号:58)およびVH3-IgG1-F1009(配列番号:59)が作製された。
参考実施例2の方法を用いて、これらの重鎖およびVL3-CKの軽鎖を含むFv4-IgG1、Fv4-IgG1-F11、Fv4-IgG1-F890、Fv4-IgG1-F947、Fv4-IgG1-F760、Fv4-IgG1-F821、Fv4-IgG1-F939およびFv4-IgG1-F1009が作製された。
参考実施例2の方法で作製されたVH3-IgG1、VH3-IgG1-F11、VH3-IgG1-F890、VH3-IgG1-F947、VH3-IgG1-F760、VH3-IgG1-F821、VH3-IgG1-F939またはVH3-IgG1-F1009を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体のpH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が、実施例4の方法を用いて測定された。測定した結果を以下の表8に示した。
作製されたFv4-IgG1およびFv4-IgG1-F760がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与された際のPK試験が下記の方法で実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)の尾静脈に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は、実施例4の方法と同様にELISA法にて測定された。その結果を図15に示した。Fv4-IgG1のマウスFcγRに対する結合活性を低下させたFv4-IgG1-F760は、Fv4-IgG1-F11に比べてほぼ同等の血漿中滞留性を示し、FcγRに対する結合活性を低下させることによる血漿滞留性の向上効果は見られなかった。
作製されたFv4-IgG1-F11、Fv4-IgG1-F890、Fv4-IgG1-F947、Fv4-IgG1-F821、Fv4-IgG1-F939およびFv4-IgG1-F1009がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与された際のPK試験が下記の方法で実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)の背部皮下に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
一方、Fv4-IgG1とIgG1-F760の両者においては血漿中滞留性の違いは認められず、pH中性域におけるFcRn結合活性を有さないFv4-IgG1は、免疫細胞上でFcγRとの二者複合体を形成し、四者複合体を形成することができないことから、FcγRへの結合活性の低下により血漿中滞留性の向上が認められなかったと考えられた。すなわち、pH中性域におけるFcRn結合活性を有する抗原結合分子に対して、FcγRへの結合活性を低下させ四者複合体の形成を阻害することで初めて血漿中滞留性の向上が認められたと言える。このことからも、四者複合体の形成が血漿中滞留性の悪化に重要な役割を果たしていると考えられる。
VH3-IgG1-F947(配列番号:56)のアミノ酸配列の、EUナンバリングで表される234位のLeuがAlaに置換されたアミノ酸置換および235位のLeuがAlaに置換されたアミノ酸置換によって、ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性が低下されたVH3-IgG1-F1326(配列番号:155)が作製された。
参考実施例2の方法を用いて、VH3-IgG1-F1326の重鎖およびVL3-CKの軽鎖を含むFv4-IgG1-F1326が作製された。
参考実施例2の方法で作製されたVH3-IgG1-F1326を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体のpH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が、実施例4の方法を用いて測定された。また、実施例4の方法と同様に、pH7.4におけるマウスFcγRに対する結合活性が測定された。測定した結果を以下の表10に示した。
作製されたFv4-IgG1-F1326がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与された際のPK試験が実施例5-4の方法と同様に実施された。 マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は、実施例4の方法と同様にELISA法にて測定された。その結果を、実施例5-4で得られたFv4-IgG1-F947の結果とあわせて図54に示した。Fv4-IgG1-F947のマウスFcγRに対する結合活性を低下させたFv4-IgG1-F1326は、Fv4-IgG1-F947に比べて血漿中滞留性の向上が認められた。
以上のことから、中性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強したヒト抗体において、マウスFcγRへの結合活性を低下させ四者複合体の形成を阻害することにより、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性の向上が可能であることが示された。ここで、マウスFcγRへの結合活性を低下させることにより血漿中滞留性向上の効果が示されるためには、好ましくはヒトFcRnへのpH7.0でのアフィニティー(KD)が310 nMよりも強く、更に好ましくは110 nM以下である。
結果として、実施例4と同様に、抗原結合分子に対して様態1の性質を付与することにより血漿中滞留性の向上が確認された。ここで見られている血漿中滞留性の向上は、抗原提示細胞を含む免疫細胞への取り込みを選択的に阻害したためであると考えられ、その結果として免疫応答の誘起を阻害することも可能であると期待される。
(6-1)マウスFcγRに対する結合活性を有しないヒトIL-6レセプターに結合するマウス抗体の作製
実施例4および5において、pH中性域の条件下においてヒトFcRnに対する結合活性を有し、マウスFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含む抗原結合分子は、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性が向上していることが示された。同様に、pH中性域の条件下においてマウスFcRnに対する結合活性を有し、マウスFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含む抗原結合分子の、ノーマルマウスにおける血漿中滞留性が向上されているかどうかが検証された。
実施例2で作製されたmPM1H-mIgG1-mF38のアミノ酸配列の、EUナンバリングで表される235位のProがLysに置換されたアミノ酸置換および239位のSerがLysに置換されたアミノ酸置換によって、mPM1H-mIgG1-mF40(配列番号:60)が、mPM1H-mIgG1-mF14のアミノ酸配列の、EUナンバリングで表される235位のProがLysに置換されたアミノ酸置換および239位のSerがLysに置換されたアミノ酸置換によって、mPM1H-mIgG1-mF39(配列番号:61)が作製された。
実施例2の方法を用いて、pH7.0におけるマウスFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が測定された。その結果を以下の表11に示した。
作製されたmPM1-mIgG1-mF14、mPM1-mIgG1-mF38、mPM1-mIgG1-mF39、mPM1-mIgG1-mF40が、ノーマルマウスに投与された際のPK試験が下記の方法で実施された。
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の背部皮下に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後5分、7時間、1日、2日、4日、7日、14日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプターマウス抗体濃度はELISA法にて測定された。まず、可溶型ヒトIL-6レセプター をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによって可溶型ヒトIL-6レセプター固相化プレートが作成された。血漿中濃度として1.25、0.625、 0.313、0.156、0.078、0.039、0.020μg/mLの抗ヒトIL-6レセプターマウス抗体を含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が調製された。これらの検量線試料および血漿測定試料100μLが各ウェルに分注された可溶型ヒトIL-6レセプター固相化プレートを室温で2時間静置させた。その後Anti-Mouse IgG-Peroxidase antibody(SIGMA)と室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させた反応液の発色反応が、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中の抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中の抗体濃度の推移を図17に示した。
以上のことから、pH中性域の条件下におけるマウスFcRnに対する結合を有し、マウスFcγRに対する結合活性を有しないFcγR結合ドメインを有する抗体は、通常のFcγR結合ドメインを有する抗体よりもノーマルマウスにおける血漿中滞留性が高いことが示された。
結果として、実施例4および5と同様に、抗原結合分子に対して様態1の性質を有する抗原結合分子は血漿中滞留性が高いことが確認された。本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、ここで観察された血漿中滞留性の向上は、抗原提示細胞等の免疫細胞への取り込みを選択的に阻害したためであると考えられ、その結果として免疫応答の誘起を阻害することも可能であると期待される。
様態1の抗原結合分子、つまり、pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含む抗原結合分子の、ヒトにおける免疫原性を評価するために、下記の方法によって当該抗原結合分子に対するin vitroにおけるT細胞応答が評価された。
実施例4で測定された、VH3/L(WT)-IgG1、VH3/L(WT)-IgG1-F21およびVH3/L(WT)-IgG1-F140のpH中性域の条件下(pH7.0)におけるヒトFcRnに対する結合定数(KD)を以下の表13に示した。
以下の方法を用いて、VH3/L(WT)-IgG1、VH3/L(WT)-IgG1-F21、VH3/L(WT)-IgG1-F140のpH7.4におけるヒトFcγRに対する結合活性が測定された。
Biacore T100 又はT200 (GE Healthcare) を用いて、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)(以下、ヒトFcγRsと呼ばれる)と抗体との結合活性が評価された。Sensor chip CM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法で適切な量固定化されたprotein L(ACTIGEN)に、被験対象の抗体をキャプチャーさせた。次に、ヒトFcγRsの希釈液とブランクとして使用されたランニングバッファーが注入され、センサーチップ上にキャプチャーされた抗体に相互作用させた。ランニングバッファーとして20 mmol/L ACES、150 mmol/L NaCl、0.05%(w/v)Tween20、pH7.4が用いられ、ヒトFcγRsの希釈にもこのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Glycine-HCl、pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。
ヒトFcγRsの結合活性(Y)=(ΔA1 - ΔA2)/X x 1500
実施例1で作製されたFv4-IgG1-F21、Fv4-IgG1-F140を用いて、下記の通りin vitro免疫原性試験が実施された。
末梢血単核球細胞(PBMC)が、健常人ボランティアから採取した血液より単離された。Ficoll(GE Healthcare)密度遠心分離によって血液から分離されたPBMCから、Dynabeads CD8(invitrogen)を用いて付属の標準プロトコールに従い、マグネットによってCD8+T細胞が除去された。次いでDynabeads CD25(invitrogen)を用いて付属の標準プロトコールに従い、CD25hiT細胞がマグネットによって除去された。
増殖アッセイが以下のように実施された。CD8+ 及び CD25hiT 細胞が除去され、2×106 /mL となるように 3% 不活性化ヒト血清を含む AIMV 培地 (Invitrogen) に再懸濁された各ドナーのPBMCが、平底の24ウェルプレートに1ウェルあたり 2×106細胞加えられた。37℃、5%CO2の条件下で 2 時間の培養後、各被験物質が終濃度 10、30、100、300μg/mLとなるように添加された細胞が8日間培養された。培養 6、7及び8日の時点で、丸底 96 ウェルプレートに移された培養中の細胞懸濁液 150μLに対してBrdU(Bromodeoxyuridine)が加えられ、さらに当該細胞が24 時間培養された。BrdUとともに培養された細胞の核内に取り込まれた BrdUが、BrdU Flow Kit(BD bioscience)を用いて付属の標準プロトコールに従い染色されるのと同時に抗CD3、CD4 及び CD19 抗体(BD bioscience)によって表面抗原(CD3、CD4 及び CD19)が染色された。次いで BD FACS Calibur 又は BD FACS CantII(BD)によってBrdU陽性CD4+T細胞の割合が検出された。培養6、7及び 8日において、被検物質の10、30、100、300μg/mLの各終濃度でのBrdU陽性CD4+T細胞の割合が算出され、それらの平均値が算出された。
(8-1)hA33-IgG1の作製
実施例7で示されたように、Fv4-IgG1-F21に対するヒトPBMCの免疫応答性が元来低いため、FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含むFv4-IgG1-F140に対する免疫応答の抑制を評価するためには、適さないことが示唆された。そこで、in vitro免疫原性評価系において、免疫原性低減効果の検出力を高めるために、A33 抗原に対するヒト化IgG1抗体であるヒト化A33抗体(hA33-IgG1)が作製された。
hA33-IgG1は、臨床試験において 33-73% の被験者で抗抗体の産生が確認されている(Hwangら(Methods (2005) 36, 3-10)およびWalleら(Expert Opin. Bio. Ther. (2007) 7 (3), 405-418))。hA33-IgG1はこの高い免疫原性は可変領域配列によるものであることから、hA33-IgG1に対してpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を増強させた分子に対して、FcγRに対する結合活性を低下させて四者複合体形成を阻害することによる免疫原性低減効果を検出しやすいと考えられた。
参考実施例1の方法に従い、重鎖hA33H-IgG1および軽鎖hA33L-k0の塩基配列を含む発現ベクターが作製された。また、参考実施例2の方法に従い、重鎖hA33H-IgG1および軽鎖hA33L-k0を含む、ヒト化A33抗体であるhA33-IgG1が作製された。
作製されたhA33-IgG1は、天然型ヒトFc領域を有するヒト抗体であるため、pH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する結合活性を有しない。そこで、pH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する結合能を付与するために、hA33-IgG1の重鎖定常領域にアミノ酸改変が導入された。
具体的には、hA33-IgG1の重鎖定常領域であるhA33H-IgG1のEUナンバリングで表される252位のアミノ酸がMetからTyrに置換され、EUナンバリングで表される308位のアミノ酸がValからProに置換され、EUナンバリングで表される434位のアミノ酸がAsnからTyrに置換されたことにより、hA33H-IgG1-F21(配列番号:65)が作製された。参考実施例2の方法を用いて、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するA33結合抗体として、hA33H-IgG1-F21を重鎖として含み、hA33L-k0を軽鎖として含むhA33-IgG1-F21が作製された。
hA33-IgG1-F21のヒトFcγRに対する結合活性を低下させるため、hA33H-IgG1-F21のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換された、hA33H-IgG1-F140(配列番号:66)が作製された。
実施例7と同様の方法を用いて、作製されたhA33-IgG1-F21、hA33-IgG1-F140に対する免疫原性の評価が行われた。なお、ドナーである健常人ボランティアは実施例7で用いられたPBMCが単離された健常人ボランティアとは同一の個体ではない。つまり、実施例7におけるドナーAと当試験におけるドナーAは別の個体の健常人ボランティアである。
試験の結果を図19に示した。図19では、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合を有するhA33-IgG1-F21と、さらにヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含むhA33-IgG1-F140の結果が比較されている。陰性対照に比べて、ドナーC、DおよびFから単離されたPBMCのhA33-IgG1-F21に対する反応は観察されていないため、ドナーC、DおよびFはhA33-IgG1-F21に対して免疫応答を起こさないドナーであると考えられる。それ以外の7名のドナー(ドナーA、B、E、G、H、IおよびJ)から単離されたPBMCにおいては、hA33-IgG1-F21に対する免疫応答が陰性対照に比べて高いことが観察されており、hA33-IgG1-F21はin vitroにおいて期待通り高い免疫原性を示した。一方で、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含むhA33-IgG1-F140に対する、これら7名の全ドナー(ドナーA、B、E、G、H、IおよびJ)から単離されたPBMCの免疫応答が、hA33-IgG1-F21に対するそれと比較して、低下している効果が観察される。また、hA33-IgG1-F140に対する、ドナーEおよびJから単離されたPBMCの免疫応答は陰性対照と同程度あることからも、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子において、ヒトFcγRに対する結合活性を天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低くして四者複合体の形成を阻害することで免疫原性を低減することできると考えられた。
(9-1)pH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する強い結合活性を有するA33結合抗体の作製
hA33H-IgG1に対してEUナンバリングで表される252位のアミノ酸がMetからTyrに置換され、EUナンバリングで表される286位のアミノ酸がAsnからGluに置換され、EUナンバリングで表される307位のアミノ酸がThrからGlnに置換され、EUナンバリングで表される311位のアミノ酸がGlnからAlaに置換され、EUナンバリングで表される434位のアミノ酸がAsnからTyrに置換されたことにより、hA33H-IgG1-F698(配列番号:67)が参考実施例1の方法で作製された。pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する強い結合活性を有するヒトA33結合抗体として、hA33H-IgG1-F698を重鎖として含み、hA33L-k0を軽鎖として含むhA33-IgG1-F698が作製された。
hA33H-F698のEUナンバリングで表される239番目のSerがLysに置換され、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含む、hA33H-IgG1-F699(配列番号:68)が作製された。
実施例4の方法を用いて、VH3/L(WT)-IgG1、VH3/L(WT)-IgG1-F698およびVH3/L(WT)-IgG1-F699のpH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性が測定された。更に、実施例7の方法を用いて、pH7.4におけるヒトFcγRに対するVH3/L(WT)-IgG1、VH3/L(WT)-IgG1-F698およびVH3/L(WT)-IgG1-F699の結合活性が測定された。その結果を併せて以下の表15に示した。
作製されたhA33-IgG1-F698、hA33-IgG1-F699に対する免疫原性の評価が、実施例7と同様の方法で行われた。なお、ドナーである健常人ボランティアは実施例7および8で用いられたPBMCが単離された健常人ボランティアとは同一の個体ではない。つまり、実施例7および実施例8におけるドナーAと、当試験におけるドナーAは別の個体の健常人ボランティアである。
(9-3)に記載したとおり、hA33-IgG1-F698のEUナンバリングで表される239番のSerをLysに置換することによって各種ヒトFcγRに対する結合活性が低下しているhA33-IgG1-F699は、hFcgRIIa(R)、hFcgRIIa(H)、hFcgRIIb、hFcgRIIIa(F)に対する結合は顕著に低下しているものの、hFcgRIに対する結合は残存していた。
そこで、hFcgRIaも含めた全てのヒトFcγRに対する結合を有しないFcγR結合ドメインを含む、A33結合抗体を作製するために、hA33H-IgG1-F698(配列番号:67)のEUナンバリングで表される235位のLeuがArgに置換され、EUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換された、hA33H-IgG1-F763(配列番号:69)が作製された。
実施例7と同様の方法を用いて、作製されたhA33-IgG1-F698、hA33-IgG1-F763の免疫原性が評価された。なお、これまでと同様に、ドナーである健常人ボランティアは前記実施例で用いられたPBMCが単離された健常人ボランティアとは同一の個体ではない。つまり、前記実施例におけるドナーAと、当試験におけるドナーAは別の個体の健常人ボランティアである。
実施例7、8および9において、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含む抗原結合分子は、FcγR結合活性が低下されていない抗原結合分子に比較して、免疫原性が低減していることがin vitroの実験において示された。この効果がin vivoにおいても示されることを確認するために、下記の試験が実施された。
実施例5で得られたマウス血漿を用いて、Fv4-IgG1-F11、Fv4-IgG1-F890、Fv4-IgG1-F947、Fv4-IgG1-F821、Fv4-IgG1-F939、Fv4-IgG1-F1009に対する抗体産生が下記の方法で評価された。
マウスの血漿中抗投与検体抗体は電気化学発光法にて測定された。まず投与検体がUncoated MULTI-ARRAY Plate(Meso Scale Discovery)に分注され、4℃で1晩静置することにより投与検体固相化プレートが作成された。50倍に希釈されたマウス血漿測定試料が調製され、投与検体固相化プレートに分注し4℃で1晩反応された。その後SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したAnti-Mouse IgG(whole molecule)(SIGMA)を室温で1時間反応させ、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR PR 400(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。測定系毎に、抗体が投与されていない個体5個体の血漿が陰性対照サンプルとして測定され、その5個体の血漿を用いて測定された数値の平均値(MEAN)に、5個体の血漿を用いて測定された数値の標準偏差(SD)の1.645倍を加えた数値(X)が、陽性判定基準として用いられた(式3)。いずれかの採血日において、1度でも陽性判定基準を上回る反応が示された個体が、被検物質に対する抗体産生応答が陽性であると判定された。
抗体産生の陽性判定基準(X)= MEAN + 1.645 x SD
その結果を図22から図27に示した。図22にFv4-IgG1-F11がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F11に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与後いずれの採血日においても、3匹のマウスの内1匹のマウス(#3)において、Fv4-IgG1-F11に対するマウス抗体の産生が陽性であることが示された(陽性率1/3)。一方で、図23にFv4-IgG1-F821がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F821に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与後いずれの採血日においても、3匹のマウス全てにおいて、Fv4-IgG1-F821に対するマウス抗体の産生は陰性であることが示された(陽性率0/3)。
Fv4-IgG1-F11およびFv4-IgG1-F890に対しては、各種マウスFcγRへの結合を低下させることにより、生体内における免疫原性を顕著に低減させることが可能であることが示された。一方、Fv4-IgG1-F947に対しては、各種マウスFcγRへの結合を低下させることによる、生体内における免疫原性を低下させる効果は示されなかった。
実施例3に記載されたように、pH中性域の条件下においてFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子に対して、FcγRへの結合活性を低下させることにより、抗原提示細胞の細胞膜上における四者複合体の形成を阻害することが可能であると考えられる。四者複合体の形成が阻害されることによって、抗原提示細胞への抗原結合分子の取り込みも抑制され、結果的に抗原結合分子に対する免疫原性の誘導が抑制されると考えられる。Fv4-IgG1-F11およびFv4-IgG1-F890については、FcγRへの結合活性を低下させることにより、このようにして免疫原性の誘導が抑制されたとも考えられる。
図16に示されたように、Fv4-IgG1-F947およびFv4-IgG1-F1009の血漿中からの消失は非常に速い。ここで、Fv4-IgG1-F1009はマウスFcγRへの結合活性が低下しており、抗原提示細胞上での四者複合体の形成は阻害されていると考えられる。そのため、Fv4-IgG1-F1009は血管内皮細胞や血球系細胞等の細胞膜上に発現しているFcRnのみに結合することにより、細胞内へと取り込まれていると考えられる。ここで、一部の抗原提示細胞の細胞膜上にもFcRnが発現していることから、Fv4-IgG1-F1009はFcRnのみに結合することによっても、抗原提示細胞に取り込まれ得る。つまり、Fv4-IgG1-F1009の血漿中からの急速な消失のうち、一部は抗原提示細胞への取り込みが起きている可能性がある。
実際、抗原結合分子が抗体である場合、ヒトに投与される抗体は、ヒト化抗体あるいはヒト抗体であることから、同種タンパク質に対する免疫応答が起こることになる。そこで、実施例11において、四者複合体の形成阻害が免疫原性の低減につながるか否かについて、マウス抗体をマウスに投与することで評価された。
(11-1)ノーマルマウスにおけるin vivo免疫原性試験
抗原結合分子が同種タンパク質(マウス抗体をマウスに投与)である場合の、抗原提示細胞上での四者複合体の形成を阻害することによる免疫原性の抑制効果を検証する目的で、以下のような試験が実施された。
実施例6で得られたマウス血漿を用いて、以下の方法を用いて、mPM1-mIgG1-mF38、mPM1-mIgG1-mF40、mPM1-mIgG1-mF14、mPM1-mIgG1-mF39に対する抗体産生が評価された。
マウスの血漿中抗投与検体抗体は電気化学発光法にて測定された。MULTI-ARRAY 96 well plate に投与検体が分注され、室温で1hr反応させた。plateを洗浄後に、50倍希釈されたマウス血漿測定試料が調製され、室温で2hr反応させて洗浄された後、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化した投与検体を分注して4℃で一晩反応させた。翌日plateを洗浄後にRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注され、ただちにSECTOR PR 2400 reader(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。測定系毎に、抗体が投与されていない個体5個体の血漿が陰性対照サンプルとして測定され、その5個体の血漿を用いて測定された数値の平均値(MEAN)に、5個体の血漿を用いて測定された数値の標準偏差(SD)の1.645倍を加えた数値(X)が、陽性判定基準として用いられた(式3)。いずれかの採血日において、1度でも陽性判定基準を上回る反応が示された個体が、被検物質に対する抗体産生応答が陽性であると判定された。
抗体産生の陽性判定基準(X)= MEAN + 1.645 x SD
その結果を図28から図31に示した。図28にmPM1-mIgG1-mF14がノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-mIgG1-mF14に対して産生されたマウス抗体の抗体価が示されている。投与から21日後の時点で、3匹のマウス全てにおいて、mPM1-mIgG1-mF14に対するマウス抗体の産生が陽性であることが示された(陽性率3/3)。一方で、図29にはmPM1-mIgG1-mF39がノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-mIgG1-mF39に対して産生されたマウス抗体の抗体価が示されている。投与後いずれの採血日においても、3匹のマウス全てにおいて、mPM1-mIgG1-mF39に対するマウス抗体の産生は陰性であることが示された(陽性率0/3)。
図30にmPM1-mIgG1-mF38がノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-mIgG1-mF38に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与から28日後の時点で、3匹のマウスの内2匹のマウス(#1、#2)において、mPM1-mIgG1-mF38に対するマウス抗体の産生が陽性であることが示された(陽性率2/3)。一方で、図31にmPM1-mIgG1-mF40がノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-mIgG1-mF40に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与後いずれの採血日においても、3匹のマウス全てにおいて、mPM1-mIgG1-mF40に対するマウス抗体の産生は陰性であることが示された(陽性率0/3)。
これらの結果から、同種タンパク質であるマウス抗体であるmPM1-mIgG1-mF38およびmPM1-mIgG1-mF14をノーマルマウスに投与しても、投与抗体に対する抗体産生が確認され、免疫応答が確認された。これは、実施例1、2で示したように、pH中性域においてFcRnへの結合活性を増強させ、抗原提示細胞上で四者複合体を形成することにより、抗原提示細胞への取り込みが促進されたためであると考えられる。
以上のことから、in vitroおよびin vivoの両方において、pH中性域の条件下におけるFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子に対して、FcγRへの結合活性を低下させることにより、当該抗原結合分子の免疫原性を極めて有効に低下させることが可能であることが示された。言い換えれば、pH中性域の条件下におけるFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性より低い抗原結合分子(すなわち、実施例3で記載した様態1の抗原結合分子)は、天然型FcγR結合ドメインと同程度の結合活性を有する抗原結合分子(すなわち、実施例3で記載した四者複合体を形成し得る抗原結合分子)に比較して、免疫原性が顕著に低下されていることが示された。
(12-1)pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いヒトIgG1抗体の作製および評価
本発明の非限定の一態様では、活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域の例として、前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される234位、235位、236位、237位、238位、239位、270位、297位、298位、325位および329位のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域と異なるアミノ酸に改変されているFc領域が好適に挙げられるが、Fc領域の改変は上記改変に限定されず、例えばCurrent Opinion in Biotechnology (2009) 20 (6), 685-691に記載されている脱糖鎖 (N297A, N297Q)、IgG1-L234A/L235A、IgG1-A325A/A330S/P331S、IgG1-C226S/C229S、IgG1-C226S/C229S/E233P/L234V/L235A、IgG1-L234F/L235E/P331S、IgG1-S267E/L328F、IgG2-V234A/G237A、IgG2-H268Q/V309L/A330S/A331S、IgG4-L235A/G237A/E318A、IgG4-L236E等の改変、および、WO 2008/092117に記載されているG236R/L328R、L235G/G236R、N325A/L328R、N325LL328R等の改変、および、EUナンバリング233位、234位、235位、237位におけるアミノ酸の挿入、WO 2000/042072に記載されている個所の改変であってもよい。
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される235位のLeuがLysに置換され、239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F938(配列番号:156)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される237位のGlyがLysに置換され、239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F1315(配列番号:157)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される237位のGlyがArgに置換され、239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F1316(配列番号:158)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換され、329位のProがLysに置換されたVH3-IgG1-F1317(配列番号:159)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換され、329位のProがArgに置換されたVH3-IgG1-F1318(配列番号:160)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される234位のLeuがAlaに置換され、235位のLeuがAlaに置換されたVH3-IgG1-F1324(配列番号:161)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される234位のLeuがAlaに置換され、235位のLeuがAlaに置換され、297位のAsnがAlaに置換されたVH3-IgG1-F1325(配列番号:162)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される235位のLeuがArgに置換され、236位のGlyがArgに置換され、239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F1333(配列番号:163)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される236位のGlyがArgに置換され、328位のLeuがArgに置換されたVH3-IgG1-F1356(配列番号:164)、
VH3-IgG1-F947のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される234位のLeuがAlaに置換され、235位のLeuがAlaに置換されたVH3-IgG1-F1326(配列番号:155)、
VH3-IgG1-F947のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される234位のLeuがAlaに置換され、235位のLeuがAlaに置換され、297位のAsnがAlaに置換されたVH3-IgG1-F1327(配列番号:165)が作製された。
(12-1)で作製されたそれぞれのアミノ酸配列を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体のpH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が、実施例4の方法を用いて測定された。また、pH7.4におけるヒトFcγRに対する結合活性が実施例7の方法を用いて測定された。測定した結果を以下の表18に示した。
天然型IgG1と比較してFcgRへの結合が低下している改変を見出すため、IgG1のFc領域においてFcγRに対する結合部位と考えられるアミノ酸残基の改変体の各FcγRに対する結合が網羅的に解析された。 抗体H鎖として、WO2009/041062に開示されている血漿中動態が改善した抗グリピカン3抗体であるGpH7のCDRを含むグリピカン3抗体の可変領域(配列番号:74)が使用された。同様に、抗体L鎖として、 WO2009/041062に開示される血漿中動態が改善したグリピカン3抗体のGpL16-k0(配列番号:75)が共通に使用された。また、抗体H鎖定常領域として、IgG1のC末端のGlyおよびLysが欠失されたG1dに、K439Eの変異が導入されたB3(配列番号:76)が使用された。以後、このH鎖はGpH7-B3(配列番号:77)、L鎖はGpL16-k0(配列番号:75)と呼ばれる。
まずGpH7-B3/GpL16-k0をコントロールとして網羅的に解析することの妥当性を検証するため、GpH7-B3/GpL16-k0と、GpH7-G1d/GpL16-k0の各FcgRに対する結合能が比較された(表19)。参考実施例2の方法により発現、精製された両抗体の各ヒトFcγR(FcγRIa、FcγRIIa H型、FcγRIIa R型、FcγRIIb、FcγRIIIaF型)に対する結合が以下の方法により評価された。
次に、GpH7-B3のアミノ酸配列において、FcγRの結合に関与すると考えられるアミノ酸とその周辺のアミノ酸(EUナンバリングで表される234位から239位、265位から271位、295位、296位、298位、300位、324位から337位)が元のアミノ酸とCysを除く18種類のアミノ酸にそれぞれ置換された。これらのFc変異体はB3 variantと呼ばれる。参考実施例2の方法により発現、精製されたB3 variantの各FcγR(FcγRIa、FcγRIIa H型、FcγRIIa R型、FcγRIIb、FcγRIIIaF型)に対する結合が、(12-4)の方法により網羅的に評価された。
そのため、各種ヒトFcγRに対する結合活性を天然型FcγR結合ドメインの結合活性に比べて低下させるために導入されるアミノ酸改変は、特に限定されず、表20に示されたアミノ酸改変を少なくとも1箇所導入することによって、達成可能であることが示された。また、ここで導入されるアミノ酸改変は、1箇所であってもよいし、複数箇所の組合せであってもよい。
ヒトIgG2あるいはヒトIgG4を用いて、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFc領域を以下のように作製した。
(12-6)で作製された抗体(表21)のpH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が、実施例4の方法を用いて測定された。また、pH7.4におけるヒトFcγRに対する結合活性が実施例7の方法を用いて測定された。測定した結果を以下の表22に示した。
実施例3において様態3として示された、FcRn結合ドメインを構成する二つのポリペプチドの一方のみpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合を有し、もう一方はpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しない抗原結合分子の作製が、以下のように行われた。
まず、pH中性域の条件下におけるFcRnに対する結合を有する抗ヒトIL-6R抗体の重鎖として、VH3-IgG1-F947(配列番号:70)が参考実施例1の方法で作製された。また、pH酸性域およびpH中性域の両方の条件下においてFcRnに対する結合活性を有しない抗原結合分子として、VH3-IgG1に対してEUナンバリングで表される253位のIleをAlaに置換するアミノ酸を加えてVH3-IgG1-F46(配列番号:71)が作製された。
抗体のヘテロ二量体を高純度で得るための方法として、抗体のうちの一方のFc領域がEUナンバリングで表される356位のAspがLysに、およびEUナンバリングで表される357位のGluがLysに置換されており、もう一方のFc領域がEUナンバリングで表される370位のLysがGluに、EUナンバリングで表される435位のHisがArgに、およびEUナンバリングで表される439位のLysがGluに置換されたFc領域を用いることが知られている(WO2006/106905)。
Fv4-IgG1-F947およびFv4-IgG1-FA6a/FB4aが、ヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与された際のPK試験が下記の方法で実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)の背部皮下に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
そのため、図32で示したような、pH中性域の条件下において1箇所のFcRn結合領域を有するFv4-IgG1-FA6a/FB4aにおいて、血漿中滞留性の向上が見られるという現象は、天然型IgGの場合とは逆であることから、完全に予想外のものであった。
一般的に、皮下に投与された抗体はリンパ系を介して吸収され、血漿中へと移行すると考えられている(J. Pharm. Sci. (2000) 89 (3), 297-310.)。リンパ系には多量の免疫細胞が存在するため、皮下に投与された抗体は多量の免疫細胞に曝露され、その後血漿中へと移行すると考えられる。一般的に、抗体医薬品が皮下投与された場合、静脈内投与された場合と比べて免疫原性が高まることが知られているが、その一因として、皮下に投与された抗体がリンパ系において多量の免疫細胞に曝露されることが考えられる。実際に、実施例1において示されたように、Fv4-IgG1-F1は皮下投与された場合においてはFv4-IgG1-F1の血漿中からの急速な消失が確認され、Fv4-IgG1-F1に対するマウス抗体の産生が示唆された。一方で、静脈内投与された場合においてはFv4-IgG1-F1の血漿中からの急速な消失は確認されず、Fv4-IgG1-F1に対するマウス抗体は産生されていないことが示唆された。
すなわち、皮下に投与された抗体がその吸収過程において、リンパ系に存在する免疫細胞に取り込まれると、生物学的利用率(Bioavailablity)の低下が起こるとともに、免疫原性の原因にもなり得る。
このような、皮下に投与された抗体の生物学的利用率(Bioavailablity)を上昇させることで血漿中濃度を上昇させる、あるいは免疫原性を低下させる方法は、実施例3において様態3として示された抗原結合分子には限らず、免疫細胞の細胞膜上で四者複合体を形成しない抗原結合分子であれば、いずれを用いても良いと考えられる。すなわち、様態1、2、3のいずれの抗原結合分子においても、四者複合体を形成し得る抗原結合分子に比べ、皮下に投与された際の生物学的利用率(Bioavailablity)を上昇させるとともに血漿中滞留性を向上させ、更に免疫原性を低下させることが可能であると考えられる。
また、中性条件下でのFcRnへの結合を増強させた抗原結合分子に対して、抑制型FcγRIIbに対する選択的な結合活性の増強をもたらす改変を用いることにより、実施例3で示された様態2の抗原結合分子を作製することが可能である。つまり、中性条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、さらに抑制型FcγRIIbに対する選択的な結合活性の増強をもたらす改変が導入された抗原結合分子は、2分子のFcRnと1分子のFcγRを介した四者複合体を形成し得る。しかし、当該改変の効果により、抑制性FcγRに対する選択的結合がもたらされているため、活性型FcγRに対する結合活性は低下している。その結果、抗原提示細胞上では抑制型FcγRを含む四者複合体が優位に形成されると考えられる。先述したとおり、免疫原性には活性型FcγRを含む四者複合体の形成が原因となると考えられ、このように抑制型FcγRを含む四者複合体を形成させることにより、免疫応答の抑制が可能であると考えられる。
そこで、抑制型FcγRIIbに対する選択的な結合活性の増強をもたらすアミノ酸変異を見出すために、以下に示す検討が実施された。
天然型IgG1と比較して、活性型FcγR、特にFcγRIIaのH型およびR型のいずれの遺伝子多型に対してもFcを介した結合が減少し、かつFcγRIIbに対する結合が増強する変異が導入された複数のIgG1抗体改変体の、各FcγRに対する結合活性が網羅的に解析された。
抗体H鎖には、WO2009/041062に開示されている血漿中動態が改善した抗グリピカン3抗体であるGpH7のCDRを含むグリピカン3抗体の可変領域(配列番号:74)が使用された。同様に、抗体L鎖には WO2009/041062に開示される血漿中動態が改善したグリピカン3抗体のGpL16-k0(配列番号:75)が異なるH鎖との組合せにおいて共通に使用された。また、抗体H鎖定常領域として、IgG1のC末端のGlyおよびLysが欠失されたG1dに、K439Eの変異が導入されたB3(配列番号:76)が使用された。以後、このH鎖はGpH7-B3(配列番号:77)、L鎖はGpL16-k0(配列番号:75)とそれぞれ呼ばれる。
それぞれのFcγRについて、以下の方法に従って図が作製された。各B3 variantに由来する抗体と各FcγRに対する結合量の値が、B3に何も変異が導入されていない対照抗体(EUナンバリングで表される234位から239位、265位から271位、295位、296位、298位、300位、324位から337位がヒト天然型IgG1の配列を有する抗体)の値で除された。その値に更に100を乗じた値が、各FcγRに対する結合の値として表された。横軸に各変異体のFcγRIIbに対する結合、縦軸に各変異体の各活性型FcγRであるFcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIIaの値をそれぞれ表示した(図33、34、35、36)。
その結果、図33~36にラベルで表示したように、全改変のうち、mutation A(EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変)およびmutation B(EUナンバリングで表される328位のLeuがGluに置換された改変)天然型IgG1と比べてFcγRIIbに対する結合が顕著に増強され、FcγRIIaの両タイプに対する結合を顕著に抑制する効果があることを見出した。
(14-1)で見出されたEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変体の各FcγRに対する結合がより詳細に解析された。
抗体H鎖可変領域としてWO2009/125825に開示されるヒトインターロイキン6レセプターに対する抗体の可変領域であるIL6R-Hの可変領域(配列番号:78)と、抗体H鎖定常領域としてヒトIgG1のC末端のGlyおよびLysが除去されたG1d定常領域を含むIL6R-G1d(配列番号:79)がIgG1のH鎖として用いられた。IL6R-G1dのEUナンバリングで表される238位のProがAspに改変されたIL6R-G1d_v1(配列番号:80)が作製された。次に、IL6R-G1dのEUナンバリングで表される328位のLeuがGluに改変されたIL6R-G1d_v2(配列番号:81)が作製された。また、比較のために公知の変異(Mol. Immunol. (2008) 45, 3926-3933)であるEUナンバリングで表される267位のSerがGluに置換され、およびEUナンバリングで表される328位のLeuがPheに置換されたIL6R-G1dの改変体であるIL6R-G1d_v3(配列番号:82)が作製された。抗体L鎖としてはトシリズマブのL鎖であるIL6R-L(配列番号:83)がこれらの重鎖との組合せにおいて共通に用いられた。参考実施例2の方法に従い、抗体が発現、精製された。抗体H鎖としてIL6R-G1d、IL6R-G1d_v1、IL6R-G1d_v2、IL6R-G1d_v3を含む抗体は、以下それぞれIgG1、IgG1-v1、IgG1-v2、IgG1-v3と呼ばれる。
1:1 binding modelで相互作用する分子のBiacore上での挙動は以下の式4によって表わされ得る。
Req=C x Rmax / (KD + C) + RI
Req(RU): 定常状態結合レベル(Steady state binding levels)
C(M): アナライト濃度(Analyte concentration)
C: concentration
Rmax(RU):アナライトの表面結合能(Analyte binding capacity of the surface)
RI(RU): 試料中の容積屈折率寄与(Bulk refractive index contribution in the sample)
KD(M): 平衡解離定数(Equilibrium dissociation constant)
で表される。
この式4を変形すると、KDは以下の式5のように表わすことができる。
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
また、表25に示したように、IgG1と比べてIgG1-v2はFcγRIaに対する親和性が0.74倍に低下し、FcγR IIa(R)に対する親和性は0.41倍に低下し、FcγRIIa(H)に対する親和性が0.064倍に低下し、FcγRIIIaに対する親和性は0.14倍に低下していた。一方で、FcγRIIbに対する親和性は2.3倍向上していた。
(14-2)において、ヒト天然型IgG1のEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変体又はEUナンバリングで表される328位のLeuがGluに置換された改変体は、FcγRIa、FcγRIIIaおよびFcγRIIaのいずれの遺伝子多型に対してもFcを介した結合が減少し、かつFcγRIIbに対する結合が向上することが見出された。そこで、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変体又はEUナンバリングで表される328位のLeuがGluに置換された改変体に対して、さらにアミノ酸置換を導入することによって、FcγRI、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIIaのいずれかに対する結合がさらに低減された、あるいは、FcγRIIbに対する結合がさらに向上されたFc改変体の創出が行われる。
VH3-IgG1およびVH3-IgG1-F11に対して、ヒトFcγRIIbに対して選択的に結合活性を増強するため、以下の方法で抗体を作製した。VH3-IgG1に対してEUナンバリングで表される238位のProをAspに置換するためのアミノ酸置換が参考実施例1の方法で導入され、VH3-IgG1-F648(配列番号:84)が作製された。同様にVH3-IgG1-F11に対してEUナンバリングで表される238位のProをAspに置換するためのアミノ酸置換が参考実施例1の方法で導入され、VH3-IgG1-F652(配列番号:85)が作製された。
VH3-IgG1、VH3-IgG1-F648、VH3-IgG1-F11、あるいはVH3-IgG1-F652を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体が、参考実施例2の方法で作製された。
これらの抗体とFcγRIIa(R)およびFcγRIIbとの相互作用をBiacore T100(GE Healthcare)を用いて解析した。ランニングバッファーとして20 mM ACES, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20, pH7.4を用いて25℃の温度で測定した。アミンカップリング法によりProtein Lが固定化されたSeries S Sencor Chip CM4(GE Healthcare)を用いた。目的の抗体をキャプチャーさせたチップに対して、ランニングバッファーで希釈された各FcγRを作用させることによって、各FcγRの抗体に対する相互作用を測定した。測定後は10 mM glycine-HCl、pH1.5を反応させることによって、チップにキャプチャーされた抗体を洗浄し、このように再生したチップは繰り返し用いられた。
マウスFcγRsの結合活性(Y)=(ΔA1 - ΔA2)/X x 1500
QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法で作製された変異体を含むプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入することによって、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターが作製された。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定された。
抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum(Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5~6 × 105細胞/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをlipofection法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌して培養上清を得た。得られた培養上清にrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からProtein Science 1995 ; 4 : 2411-2423に記された方法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した。
抗原であるヒトIL-6レセプターの組み換えヒトIL-6レセプターは以下のように調製された。J. Immunol. (1994) 152, 4958-4968で報告されているN末端側1番目から357番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6レセプター(以下、hsIL-6Rとも表記される)を定常的に発現するCHO株が当業者公知の方法で構築された。当該CHO株を培養することによって、可溶型ヒトIL-6レセプターを発現させた。得られた当該CHO株の培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーの二工程によって可溶型ヒトIL-6レセプターが精製された。最終工程においてメインピークとして溶出された画分が最終精製品として用いられた。
ノーマルマウスにおける可溶型ヒトIL-6レセプターおよびヒト抗体の血漿中滞留性と免疫原性を評価する目的で、以下のような試験が実施された。
(4-1)ノーマルマウスにおける可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中滞留性および免疫原性評価
ノーマルマウスにおける可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中滞留性および免疫原性を評価する目的で、以下の試験が実施された。
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の尾静脈に、可溶型ヒトIL-6レセプター(参考実施例3にて作製)が50μg/kgで単回投与された。可溶型ヒトIL-6レセプターの投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日、14日、21日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中濃度およびマウス抗可溶型ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価は以下の方法で測定された。
可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体が産生されることによる、可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中濃度への影響を評価する目的で、以下の試験が実施された。
可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中濃度を定常状態(約20 ng/mL)に維持するモデルとして以下の試験モデルが構築された。ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の背部皮下に可溶型ヒトIL-6レセプターを充填したinfusion pump(MINI-OSMOTIC PUMP MODEL2004、alzet)を埋め込むことで、血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度が定常状態に維持される動物モデルが作製された。
この方法で測定したノーマルマウスにおける個体別の血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度推移を図38に示した。
(1)可溶型ヒトIL-6レセプターがマウスに投与された後の、血漿中からの消失が非常に早いこと、
(2)マウスにとって異種タンパク質である可溶型ヒトIL-6レセプターは、マウスに投与された場合に免疫原性を有し、可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体の産生が起こること、
(3)可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体の産生が起こると、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失が更に早まり、可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中濃度を一定に維持するモデルにおいても、血漿中濃度の低下が起こること、
の3点が示された。
ノーマルマウスにおけるヒト抗体の血漿中滞留性および免疫原性を評価する目的で、以下の試験が実施された。
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の尾静脈に、抗ヒトIL-6レセプター抗体であるFv4-IgG1が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日、14日、21日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
さらに、ヒト抗体が投与された3匹のマウスの全例において、可溶型ヒトIL-6レセプターの定常状態モデル(図38)で見られたような血漿中濃度の低下は認められなかった。すなわち、ヒトIL-6レセプターとは異なり、ヒト抗体に対してはマウス抗体が産生されていないことが示唆された。
マウスに異種タンパク質であるヒト可溶型IL-6レセプターが投与された場合、ヒト可溶型IL-6レセプターは血漿中から短時間で消失し、またヒト可溶型IL-6レセプターに対する免疫応答が確認された。ここで、血漿中からのヒト可溶型IL-6レセプターの消失が早いということは、多くのヒト可溶型IL-6レセプターが短時間のうちに抗原提示細胞に取り込まれ、細胞内でプロセシングを受けた後、ヒト可溶型IL-6レセプターに特異的に応答するT細胞を活性化すると考えられる。その結果として、ヒト可溶型IL-6レセプターに対する免疫応答(つまりヒト可溶型IL-6レセプターに対するマウス抗体の産生)が起こったと考えられる。
(5-1)中性pHにおけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが増大した様々な抗体Fc改変体の作製とその結合活性評価
pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを増大させることを目的として、様々な変異がVH3-IgG1(配列番号:35)に導入され、評価がなされた。作製された重鎖と軽鎖であるL(WT)-CK(配列番号:41)とを各々含む改変体(IgG1-F1からIgG1-F1052)が、参考実施例2に記載された方法に準じて発現および精製された。
抗体とヒトFcRnとの結合が、実施例4に記載される方法に準じて解析された。すなわち、Biacoreを用いた中性条件下(pH7.0)におけるヒトFcRnに対する改変体の結合活性を表27-1~27-32に示した。
実施例5-1で調製した中性条件下でのヒトFcRnへの結合能を付与した重鎖を用いて、中性条件下でのヒトFcRnへの結合能を有するpH依存的ヒトIL-6レセプター結合抗体を作製し、in vivoでの抗原消失効果の検証を行った。具体的には、
VH3-IgG1(配列番号:35)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1、
VH3-IgG1-F1(配列番号:37)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-v2、
VH3-IgG1-F14(配列番号:86)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F14、
VH3-IgG1-F20(配列番号:39)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F20、
VH3-IgG1-F21(配列番号:40)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F21、
VH3-IgG1-F25(配列番号:87)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F25、
VH3-IgG1-F29(配列番号:88)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F29、
VH3-IgG1-F35(配列番号:89)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F35、
VH3-IgG1-F48(配列番号:90)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F48、
VH3-IgG1-F93(配列番号:91)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F93、
VH3-IgG1-F94(配列番号:92)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F94
を、参考実施例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg 系統276 +/+マウス、Jackson Laboratories、Methods Mol Biol. 2010;602:93-104.)および正常マウス(C57BL/6Jマウス、Charles River Japan)にhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6レセプター:参考例3にて調製)を単独投与もしくは可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体を同時投与した後の可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の生体内における薬物動態を評価した。可溶型ヒトIL-6レセプター溶液(5μg/mL)もしくは可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液(それぞれ5μg/mL、0.1 mg/mL)を尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。このとき、可溶型ヒトIL-6レセプターに対して抗ヒトIL-6レセプター抗体は十分量過剰に存在することから、可溶型ヒトIL-6レセプターはほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与15分後、7時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、7日後、14日後、21日後、28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調製された可溶型ヒトIL-6レセプター検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料を、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびTocilizumabと混合することによって37℃で1晩反応させた。Tocilizumabの終濃度は333μg/mLとなるように調製された。その後、反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに室温で1時間反応させた反応液を洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。その後ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
(6-1)ナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリの作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型として当業者に公知な方法にしたがい、互いに異なるヒト抗体配列のFabドメインを提示する複数のファージからなるヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築された。
構築されたナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリからの最初の選抜は、抗原(IL-6レセプター)への結合能をもつ抗体断片のみの濃縮、または、Ca濃度依存的な抗原(IL-6レセプター)への結合能を指標とした抗体断片の濃縮によって実施された。Ca濃度依存的な抗原(IL-6レセプター)への結合能を指標として抗体断片の濃縮は、CaイオンをキレートするEDTAを用いてCaイオン存在下でIL-6レセプターと結合させたファージライブラリからファージを溶出することによって実施された。抗原としてビオチン標識されたIL-6レセプターが用いられた。
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。
終濃度4%BSAおよび1.2 mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原を含む100μLのPBSにて一晩コートされた。当該プレートの各ウェルをPBSTにて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが1時間以上250μLの4%BSA-TBSにてブロッキングされた。4%BSA-TBSが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを37℃で1時間静置することによって、ファージを提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された各ウェルに、1.2 mM CaCl2/TBSもしくは1 mM EDTA/TBSが加えられ、当該プレートは37℃で30分間静置しインキュベートされた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された後に、終濃度4%のBSAおよび1.2 mMのイオン化カルシウム濃度としたTBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)が各ウェルに添加されたプレートを1時間インキュベートさせた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。
上記のファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断される抗体断片を鋳型として特異的なプライマーによって増幅された遺伝子の塩基配列解析が行われた。
ファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断されたクローンが、動物細胞発現用プラスミドへ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ蒔きこまれた。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われる。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
参考実施例6で取得された抗体6RL#9-IgG1(重鎖(配列番号:9にIgG1由来の定常領域配列が連結されたもの)、軽鎖(配列番号:93))、および、FH4-IgG1(重鎖(配列番号:94)、軽鎖(配列番号:95))のヒトIL-6レセプターに対する結合活性がCa依存的であるかどうかを判断するため、これらの抗体とヒトIL-6レセプターとの抗原抗体反応の速度論的解析がBiacore T100(GE Healthcare)を用いて行われた。ヒトIL-6レセプターに対するCa依存性の結合活性を有しない対照抗体として、WO2009/125825に記載されているH54/L28-IgG1(重鎖可変領域(配列番号:96)、軽鎖可変領域(配列番号:97))が用いられた。高カルシウムイオン濃度および低カルシウムイオン濃度の条件として、それぞれ2 mMおよび3 μMのカルシウムイオン濃度の溶液中で抗原抗体反応の速度論的解析が行われた。アミンカップリング法でprotein A(Invitrogen)が適当量固定化されたSensor chip CM4(GE Healthcare)上に、目的の抗体がキャプチャーされた。ランニングバッファーには10 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、2 mM CaCl2(pH7.4)または10 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、3 μmol/L CaCl2(pH7.4)の2種類の緩衝液が用いられた。ヒトIL-6レセプターの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。測定は全て37℃で実施された。
この方法により決定された2 mM CaCl2存在下における各抗体とIL-6レセプターとの解離定数KDを表28に示した。
表30にH54/L28-IgG1、FH4-IgG1、6RL#9-IgG1の3種類の抗体の2 mM CaCl2存在下および3μM CaCl2存在下におけるKD値、および、KD値のCa依存性についてまとめた。
次に、抗体へのカルシウムイオンの結合の評価の指標として、示差走査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)が測定された(MicroCal VP-Capillary DSC、MicroCal)。熱変性中間温度(Tm値)は安定性の指標であり、カルシウムイオンの結合によってタンパク質が安定化すると、熱変性中間温度(Tm値)はカルシウムイオンが結合していない場合に比べて高くなる(J. Biol. Chem. (2008) 283, 37, 25140-25149)。抗体溶液中のカルシウムイオン濃度の変化に応じた抗体のTm値の変化を評価することによって、抗体へのカルシウムイオンの結合活性が評価された。精製された抗体が20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、2 mM CaCl2(pH7.4)または20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl, 3μM CaCl2(pH7.4)の溶液を外液とする透析(EasySEP、TOMY)処理に供された。透析に用いられた溶液を用いておよそ0.1 mg/mLに調製された抗体溶液を被験物質として、20℃から115℃まで240℃/hrの昇温速度でDSC測定が行われた。得られたDSCの変性曲線にもとづいて算出された各抗体のFabドメインの熱変性中間温度(Tm値)を表31に示した。
(9-1)X線結晶構造解析
参考実施例8に示されたように、6RL#9抗体はカルシウムイオンと結合することが熱変性温度Tm値の測定から示唆された。しかし、6RL#9抗体のどの部位がカルシウムイオンと結合しているか予想できなかったため、X線結晶構造解析の手法を用いることによって、カルシウムイオンが相互作用する6RL#9抗体の配列中の残基が特定された。
X線結晶構造解析に用いるために発現させた6RL#9抗体が精製された。具体的には、6RL#9抗体の重鎖(配列番号:9にIgG1由来の定常領域配列が連結されたもの)と軽鎖(配列番号:93)をそれぞれ発現させることが出来るように調製された動物発現用プラスミドが動物細胞に一過的に導入された。最終細胞密度1 x 106細胞/mLとなるようにFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)へ懸濁された800 mLのヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)に、リポフェクション法により調製されたプラスミドが導入された。プラスミドが導入された細胞はCO2インキュベーター(37℃、8%CO2、90 rpm)中で5日間培養された。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いた当業者公知の方法にしたがって、上記のように得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いて測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
分子量分画サイズ10000MWCOの限外ろ過膜 を用いて6RL#9抗体が21 mg/mLまで濃縮された。L-Cystein 4 mM、EDTA 5 mM、20 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)を用いて5 mg/mLによって希釈された2.5 mLの当該抗体の試料が調製された。0.125 mgのPapain(Roche Applied Science)を加えて攪拌された当該試料が35℃にて2時間静置された。静置後、プロテアーゼインヒビターカクテルミニ、EDTAフリー(Roche Applied Science)1錠を溶かした10 mLの25 mM MES 緩衝液(pH6)をさらに当該試料に加え、氷中に静置することによって、Papainによるプロテアーゼ反応が停止された。次に、当該試料が、下流に1 mLサイズのProteinA担体カラムHiTrap MabSelect Sure(GE Healthcare)がタンデムにつながれた25 mM MES 緩衝液pH6で平衡化された1 mLサイズの陽イオン交換カラムHiTrap SP HP(GE Healthcare)に添加された。同緩衝液中NaCl濃度を300 mMまで直線的に上げて溶出をおこなうことで6RL#9抗体のFabフラグメントの精製画分が得られた。次に、得られた精製画分が5000MWCOの限外ろ過膜 により0.8 mL程度まで濃縮された。50 mM NaCl を含む100 mM HEPES緩衝液(pH 8)で平衡化されたゲルろ過カラムSuperdex 200 10/300 GL(GE Healthcare)に濃縮液が添加された。結晶化用の精製6RL#9抗体のFabフラグメントが同緩衝液を用いてカラムから溶出された。なお、上記のすべてのカラム操作は6から7.5℃の低温下にて実施された。
予め一般的な条件設定で6RL#9 Fabフラグメントの種結晶が得られた。つぎに5 mM となるようにCaCl2が加えられた精製6RL#9抗体のFabフラグメントが5000MWCOの限外ろ過膜を用いて12 mg/mLに濃縮された。つぎに、ハンギングドロップ蒸気拡散法によって、前記のように濃縮された試料の結晶化が実施された。リザーバー溶液として20-29%のPEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)が用いられた。カバーグラス上で0.8μlのリザーバー溶液および0.8μlの前記濃縮試料の混合液に対して、29% PEG4000および5 mM CaCl2を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)中で破砕された前記種結晶が100-10000倍に希釈された希釈系列の溶液0.2μlを加えることによって結晶化ドロップが調製された。当該結晶化ドロップを20℃に2日から3日静置することによって得られた薄い板状の結晶のX線回折データが測定された。
精製6RL#9抗体のFabフラグメントが5000MWCOの限外ろ過膜 を用いて15 mg/mlに濃縮された。つぎに、ハンギングドロップ蒸気拡散法によって、前記のように濃縮された試料の結晶化が実施された。リザーバー溶液として18-25%のPEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)が用いられた。カバーグラス上で0.8μlのリザーバー溶液および0.8μlの前記濃縮試料の混合液に対して、25% PEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)中で破砕されたCa存在下で得られた6RL#9抗体のFabフラグメントの結晶が100-10000倍に希釈された希釈系列の溶液0.2μlを加えることによって結晶化ドロップが調製された。当該結晶化ドロップを20℃に2日から3日静置することによって得られた薄い板状の結晶のX線回折データが測定された。
35% PEG4000および5 mM CaCl2を含む100mM HEPES緩衝液(pH7.5)の溶液に浸された6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下で得られた単結晶一つを、微小なナイロンループ付きのピンを用いて外液ごとすくいとることによって、当該単結晶が液体窒素中で凍結された。高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーのビームラインBL-17Aを用いて、前記の凍結結晶のX線回折データが測定された。なお、測定中は常に-178℃の窒素気流中に凍結結晶を置くことで凍結状態が維持された。ビームラインに備え付けられたCCDディテクタQuantum315r(ADSC)を用い、結晶を1°ずつ回転させながらトータル180枚の回折画像が収集された。格子定数の決定、回折斑点の指数付け、および回折データの処理がプログラムXia2(CCP4 Software Suite)、XDS Package(Walfgang Kabsch)ならびにScala(CCP4 Software Suite)によって行われた。最終的に分解能2.2Åまでの回折強度データが得られた。本結晶は、空間群P212121に属し、格子定数a=45.47Å、b=79.86Å、c=116.25Å、α=90°、β=90°、γ=90°であった。
35% PEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)の溶液に浸された6RL#9抗体のFabフラグメントのCa非存在下で得られた単結晶一つを、微小なナイロンループ付きのピンを用いて外液ごとすくいとることによって、当該単結晶が液体窒素中で凍結された。高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーのビームラインBL-5Aを用いて、前記の凍結結晶のX線回折データが測定された。なお、測定中は常に-178℃の窒素気流中に凍結結晶を置くことで凍結状態が維持された。ビームラインに備え付けられたCCDディテクタQuantum210r(ADSC)を用い、結晶を1°ずつ回転させながらトータル180枚の回折画像が収集された。格子定数の決定、回折斑点の指数付け、および回折データの処理がプログラムXia2(CCP4 Software Suite)、XDS Package(Walfgang Kabsch)ならびにScala(CCP4 Software Suite)によって行われた。最終的に分解能2.3Åまでの回折強度データが得られた。本結晶は、空間群P212121に属し、格子定数a=45.40Å、b=79.63Å、c=116.07Å、α=90°、β=90°、γ=90°であり、Ca存在下の結晶と同型であった。
プログラムPhaser(CCP4 Software Suite)を用いた分子置換法によって、6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶の構造が決定された。得られた結晶格子の大きさと6RL#9抗体のFabフラグメントの分子量から、非対称単位中の分子数が一個であると予想された。一次配列上の相同性をもとにPDB code: 1ZA6の構造座標から取り出されたA鎖112-220番およびB鎖116-218番のアミノ酸残基部分が、CLおよびCH1領域の探索用モデル分子とされた。次にPDB code: 1ZA6の構造座標から取り出されたB鎖1-115番のアミノ酸残基部分が、VH領域の探索用モデル分子とされた。最後にPDB code 2A9Mの構造座標から取り出された軽鎖3-147番のアミノ酸残基が、VL領域の探索用モデル分子とされた。この順番にしたがい各探索用モデル分子の結晶格子内での向きと位置を回転関数および並進関数から決定することによって、6RL#9抗体のFabフラグメントの初期構造モデルが得られた。当該初期構造モデルに対してVH、VL、CH1、CLの各ドメインを動かす剛体精密化をおこなうことにより、25-3.0Åの反射データに対する結晶学的信頼度因子R値は46.9%、Free R値は48.6%となった。さらにプログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foとモデルから計算された構造因子Fcおよび位相を用い計算された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップを参照しながらモデル修正を繰り返しプログラムCoot(Paul Emsley)上でおこなうことによってモデルの精密化がおこなわれた。最後に2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとにCaイオンおよび水分子をモデルに組み込むことによって、プログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いて精密化がおこなわれた。分解能25-2.2Åの21020個の反射データを用いることによって、最終的に3440原子のモデルに対する結晶学的信頼度因子R値は20.0%、Free R値は27.9%となった。
6RL#9抗体のFabフラグメントのCa非存在下での結晶の構造は、同型であるCa存在下結晶の構造を使って決定された。6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶の構造座標から水分子とCaイオン分子がのぞかれ、VH、VL、CH1、CLの各ドメインを動かす剛体精密化がおこなわれた。25-3.0Åの反射データに対する結晶学的信頼度因子R値は30.3%、Free R値は31.7%となった。さらにプログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foとモデルから計算された構造因子Fcおよび位相を用い計算された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップを参照しながらモデル修正を繰り返しプログラムCoot(Paul Emsley)上でおこなうことによってモデルの精密化がおこなわれた。最後に2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとに水分子をモデルに組み込むことによって、プログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いて精密化がおこなわれた。分解能25-2.3Åの18357個の反射データを用いることによって、最終的に3351原子のモデルに対する結晶学的信頼度因子R値は20.9%、Free R値は27.7%となった。
6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶およびCa非存在下での結晶の構造を比較すると、重鎖CDR3に大きな変化がみられた。X線結晶構造解析で決定された6RL#9抗体のFabフラグメントの重鎖CDR3の構造を図41に示した。具体的には、Ca存在下での6RL#9抗体のFabフラグメントの結晶では、重鎖CDR3ループ部分の中心部分にカルシウムイオンが存在していた。カルシウムイオンは、重鎖CDR3の95位、96位および100a番目位(Kabatナンバリング)と相互作用していると考えられた。Ca存在下では、抗原との結合に重要である重鎖CDR3ループがカルシウムと結合することによって安定化し、抗原との結合に最適な構造となっていることが考えられた。抗体の重鎖CDR3にカルシウムが結合する例は今までに報告されておらず、抗体の重鎖CDR3にカルシウムが結合した構造は新規な構造である。
6RL#9抗体のFabフラグメントの構造から明らかになった重鎖CDR3に存在するカルシウム結合モチーフも、Caライブラリのデザインの新たな要素となりうる。たとえば6RL#9抗体の重鎖CDR3を含み、軽鎖を含むそれ以外のCDRにフレキシブル残基を含むライブラリが考えられる。
(10-1)ナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリの作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型として当業者に公知な方法にしたがい、互いに異なるヒト抗体配列のFabドメインを提示する複数のファージからなるヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築された。
構築されたナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリからの最初の選抜は、抗原(IL-6)への結合能をもつ抗体断片のみの濃縮によって実施された。抗原としてビオチン標識されたIL-6が用いられた。
構築されたファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、ファージライブラリ液に終濃度4%BSAおよび1.2mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が添加された。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18 (2) 212-20、Mol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。
終濃度4%BSAおよび1.2 mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原を含む100μLのPBSにて一晩コートされた。当該プレートの各ウェルをPBSTにて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが1時間以上250μLの4%BSA-TBSにてブロッキングされた。4%BSA-TBSが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを37℃で1時間静置することによって、ファージを提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された各ウェルに、1.2 mM CaCl2/TBSもしくは1 mM EDTA/TBSが加えられ、当該プレートは37℃で30分間静置しインキュベートされた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された後に、終濃度4%のBSAおよび1.2 mMのイオン化カルシウム濃度としたTBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)が各ウェルに添加されたプレートを1時間インキュベートさせた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。
ファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断されたクローン6KC4-1#85が、動物細胞発現用プラスミドへ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ蒔きこまれた。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(11-1)6KC4-1#85抗体のカルシウムイオン結合評価
ヒト抗体ライブラリから取得されたカルシウム依存的抗原結合抗体6KC4-1#85抗体がカルシウムと結合するか評価された。イオン化カルシウム濃度が異なる条件で、測定されるTm値が変動するか否かが参考実施例6に記載された方法で評価された。
参考実施例11の(11-1)で6KC4-1#85抗体にカルシウムイオンと結合することが示されたが、6KC4-1#85はhVk5-2配列の検討から明らかになったカルシウム結合モチーフを持たない。そこで、カルシウムイオンが6KC4-1#85抗体のどの残基とカルシウムイオンが結合しているか同定するために、6KC4-1#85抗体のCDRに存在するAsp(D)残基をカルシウムイオンの結合もしくはキレートに関与できないAla(A)残基に置換した改変重鎖(6_H1-11(配列番号:102)、6_H1-12(配列番号:103)、6_H1-13(配列番号:104)、6_H1-14(配列番号:105)、6_H1-15(配列番号:106))、または改変軽鎖(6_L1-5(配列番号:107)および6_L1-6(配列番号:108))が作製された。改変抗体遺伝子を含む発現ベクターが導入された動物細胞の培養液から、改変抗体が参考実施例6に記載された方法にしたがって精製された。精製された改変抗体のカルシウム結合が、参考実施例6に記載された方法にしたがって測定された。測定された結果を表33に示した。表33に示されているように、6KC4-1#85抗体の重鎖CDR3の95位または101位(Kabatナンバリング)をAla残基に置換することによって6KC4-1#85抗体のカルシウム結合能が失われることから、この残基がカルシウムとの結合に重要であると考えられる。6KC4-1#85抗体の改変抗体のカルシウム結合性から明らかになった6KC4-1#85抗体の重鎖CDR3のループ付け根付近に存在するカルシウム結合モチーフも、参考実施例9で記載されるようなCaライブラリのデザインの新たな要素となりうる。すなわち、参考実施例20等で具体例が挙げられた軽鎖可変領域にカルシウム結合モチーフが導入されたライブラリのほかに、たとえば6KC4-1#85抗体の重鎖CDR3に存在するカルシウム結合モチーフを含み、それ以外のアミノ酸残基にフレキシブル残基を含むライブラリが考えられる。
(12-1)ノーマルマウスを用いたin vivo試験
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)にhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6レセプター:参考実施例3にて作製)を単独投与もしくは可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体を同時投与した後の可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の体内動態が評価された。可溶型ヒトIL-6レセプター溶液(5μg/mL)、もしくは、可溶型ヒトIL-6レセプターと抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体としては、前記のH54/L28-IgG1、6RL#9-IgG1、FH4-IgG1が使用された。
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度はELISA法にて測定された。まずAnti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度として0.64、0.32、0.16、0.08、0.04、0.02、0.01μg/mLの検量線試料および100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料のそれぞれが分注されたAnti-Human IgG固相化プレートが25℃で1時間インキュベーションされた。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)を25℃で1時間反応させた後にStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を25℃で0.5時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて発色反応が行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)によって発色反応が停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて発色液の450 nmにおける吸光度が測定された。解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて、マウス血漿中濃度が検量線の吸光度を基準として算出された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおけるH54/L28-IgG1、6RL#9-IgG1、FH4-IgG1の血漿中の抗体濃度の推移を図42に示した。
マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調整された可溶型ヒトIL-6レセプター検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料と、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびトシリズマブ(重鎖配列番号:109、軽鎖配列番号:83)溶液との混合液を4℃で1晩反応させた。サンプル中のFree Ca濃度を低下させ、サンプル中のほぼ全ての可溶型ヒトIL-6レセプターが6RL#9-IgG1もしくはFH4-IgG1から解離し、添加したトシリズマブと結合した状態とするために、その際のAssay bufferには10 mM EDTAが含まれていた。その後、当該反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに25℃で1時間反応させたプレートの各ウェルが洗浄された後、各ウェルにRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。ただちに反応液はSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)を用いて測定された。可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。前記の方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプターの濃度推移を図43に示した。
(13-1)IgG抗体のFcRnへの結合に関して
IgG抗体はFcRnに結合することで長い血漿中滞留性を有する。IgGとFcRnの結合は酸性条件下(pH6.0)においてのみ認められ、中性条件下(pH7.4)においてその結合はほとんど認められない。IgG抗体は非特異的に細胞に取り込まれるが、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内のFcRnに結合することによって細胞表面上に戻り、血漿中の中性条件下においてFcRnから解離する。IgGのFc領域に変異を導入し、酸性条件下におけるFcRnへの結合を失わせると、エンドソーム内から血漿中にリサイクルされなくなるため、抗体の血漿中滞留性は著しく損なわれる。
IgG抗体の血漿中滞留性を改善させる方法として、酸性条件下におけるFcRnへの結合を向上させる方法が報告されている。IgG抗体のFc領域にアミノ酸置換を導入し、酸性条件下のFcRnへの結合を向上させることによって、エンドソーム内から血漿中へのIgG抗体のリサイクル効率が上昇する。その結果、IgG抗体の血漿中の滞留性が改善する。アミノ酸の置換を導入する際に重要と考えられているのは、中性条件下におけるFcRnへの結合を高めないことであった。中性条件下においてFcRnに結合するIgG抗体は、エンドソーム内の酸性条件下においてFcRnに結合することによって細胞表面上に戻ることはできても、中性条件下の血漿中においてIgG抗体がFcRnから解離せず血漿中にリサイクルされないために、逆にIgG抗体の血漿中滞留性は損なわれると考えられていた。
Ca依存的に抗原に結合する抗体は、可溶型の抗原の消失を加速させ、ひとつの抗体分子が複数回繰り返し可溶型の抗原に結合する効果を有することから、極めて有用である。この抗原消失加速効果をさらに向上させる方法として、中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を増強する方法が検証された。
カルシウム依存的抗原結合能を有するFH4-IgG1、6RL#9-IgG1、および対照として用いられたカルシウム依存的抗原結合能を有しないH54/L28-IgG1のFc領域にアミノ酸変異を導入することによって、中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を有する改変体が作製された。アミノ酸の変異の導入はPCRを用いた当業者公知の方法を用いて行われた。具体的には、IgG1の重鎖定常領域に対して、EUナンバリングで表される434位のアミノ酸であるAsnがTrpに置換されたFH4-N434W(重鎖配列番号:110、軽鎖配列番号:95)と6RL#9-N434W(重鎖配列番号:111、軽鎖配列番号:93)とH54/L28-N434W(重鎖配列番号:112、軽鎖配列番号:97)が作製された。QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法を用いてそのアミノ酸が置換された変異体をコードするポリヌクレオチドが挿入された動物細胞発現ベクターが作製された。抗体の発現、精製、濃度測定は参考実施例6に記載された方法に準じて実施された。
(14-1)ノーマルマウスを用いたin vivo試験
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)にhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6レセプター:参考実施例3にて作製)が単独で投与された、もしくは可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体が同時投与された後の可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の体内動態が評価された。可溶型ヒトIL-6レセプター溶液(5μg/mL)、もしくは、可溶型ヒトIL-6レセプターと抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体として、上述のH54/L28-N434W、6RL#9-N434W、FH4-N434Wが使用された。
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は参考実施例12と同様のELISA法によって測定された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおけるH54/L28-N434W、6RL#9-N434W、FH4-N434W抗体の血漿中の抗体濃度の推移を図44に示した。
マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度が電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調製された可溶型ヒトIL-6レセプター検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料と、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)との混合液を4℃で1晩反応させた。サンプル中のFree Ca濃度を低下させ、サンプル中のほぼ全ての可溶型ヒトIL-6レセプターが6RL#9-N434WもしくはFH4-N434Wから解離し、free体として存在する状態とするために、その際のAssay bufferには10 mM EDTAが含まれていた。その後、当該反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに25℃で1時間反応させたプレートの各ウェルが洗浄された後、各ウェルにRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。ただちに反応液はSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)を用いて測定された。可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。前記の方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプターの濃度推移を図45に示した。
(15-1)カルシウム依存的に抗原に結合する抗体
カルシウム依存的に抗原に結合する抗体(カルシウム依存的抗原結合抗体)はカルシウムの濃度によって抗原との相互作用が変化する抗体である。カルシウム依存的抗原結合抗体は、カルシウムイオンを介して抗原に結合すると考えられるため、抗原側のエピトープを形成するアミノ酸は、カルシウムイオンをキレートすることが可能な負電荷のアミノ酸あるいは水素結合アクセプターとなりうるアミノ酸である。こうしたエピトープを形成するアミノ酸の性質から、ヒスチジンを導入することにより作製されるpH依存的に抗原に結合する結合分子以外のエピトープをターゲットすることが可能となる。カルシウム依存的およびpH依存的に抗原に結合する性質を併せ持つ抗原結合分子を用いることで、幅広い性質を有する多様なエピトープを個々にターゲットすることが可能な抗原結合分子を作製することが可能となると考えられる。そこで、カルシウムが結合するモチーフを含む分子の集合(Caライブラリ)を構築し、この分子の集団から抗原結合分子を取得すれば、カルシウム依存的抗原結合抗体が効率的に得られると考えられる。
カルシウムが結合するモチーフを含む分子の集合の例として、当該分子が抗体である例が考えられる。言い換えればカルシウムが結合するモチーフを含む抗体ライブラリがCaライブラリである場合が考えられる。
ヒト生殖細胞系列配列を含む抗体でカルシウムイオンが結合するものはこれまで報告されていない。そこで、ヒト生殖細胞系列配列を含む抗体がカルシウムイオンと結合するか否かを判定するため、Human Fetal Spreen Poly RNA(Clontech)から調製されたcDNAを鋳型としてヒト生殖細胞系列配列を含む抗体の生殖細胞系列の配列がクローニングされた。クローニングされたDNA断片は動物細胞発現ベクターに挿入された。得られた発現ベクターの塩基配列を当業者公知の方法で決定し、その配列番号を表34に示した。配列番号:5(Vk1)、配列番号:6(Vk2)、配列番号:7(Vk3)、配列番号:8(Vk4)ならびに配列番号:4(Vk5)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によって天然型Kappa鎖の定常領域(配列番号:100)をコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。また、配列番号:113(Vk1)、配列番号:114(Vk2)、配列番号:115(Vk3)、配列番号:116(Vk4)ならびに配列番号:117(Vk5)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によって配列番号:11で表されるIgG1のC末端2アミノ酸が欠失したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。作製された改変体の配列は当業者公知の方法で確認された。
取得された5種類のヒト生殖細胞系列配列を含むDNA断片が挿入された動物細胞発現ベクターが動物細胞へ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ蒔きこまれた。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
精製された抗体のカルシウムイオン結合活性が評価された。抗体へのカルシウムイオンの結合の評価の指標として、示差走査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)が測定された(MicroCal VP-Capillary DSC、MicroCal)。熱変性中間温度(Tm値)は安定性の指標であり、カルシウムイオンの結合によってタンパク質が安定化すると、熱変性中間温度(Tm値)はカルシウムイオンが結合していない場合に比べて高くなる(J. Biol. Chem. (2008) 283, 37, 25140-25149)。抗体溶液中のカルシウムイオン濃度の変化に応じた抗体のTm値の変化を評価することによって、抗体へのカルシウムイオンの結合活性が評価された。精製された抗体が20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、2 mM CaCl2(pH7.4)または20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl, 3μM CaCl2(pH7.4)の溶液を外液とする透析(EasySEP、TOMY)処理に供された。透析に用いられた溶液を用いておよそ0.1 mg/mLに調製された抗体溶液を被験物質として、20℃から115℃まで240℃/hrの昇温速度でDSC測定が行われた。得られたDSCの変性曲線にもとづいて算出された各抗体のFabドメインの熱変性中間温度(Tm値)を表35に示した。
(16-1)hVk5配列
Kabatデータベース中には、hVk5配列としてhVk5-2配列のみが登録されている。以下では、hVk5とhVk5-2は同義で扱われる。WO2010/136598では、hVk5-2配列の生殖細胞系列配列中の存在比は0.4%と記載されている。他の報告でもhVk5-2配列の生殖細胞系列配列中の存在比は0~0.06%と述べられている(J. Mol. Biol. (2000) 296, 57-86、Proc. Natl. Acad. Sci. (2009) 106, 48, 20216-20221)。上記のように、hVk5-2配列は、生殖細胞系列配列中で出現頻度が低い配列であるため、ヒト生殖細胞系列配列で構成される抗体ライブラリやヒト抗体を発現するマウスへの免疫によって取得されたB細胞から、カルシウムと結合する抗体を取得することは非効率であると考えられた。そこで、ヒトhVk5-2配列を含むCaライブラリを設計する可能性が考えられるが、hVk5-2配列の物性は報告されておらず、その可能性の実現は未知であった。
hVk5-2配列は20位(Kabatナンバリング)のアミノ酸にN型糖鎖が付加する配列を有する。タンパク質に付加する糖鎖にはヘテロジェニティーが存在するため、物質の均一性の観点から糖鎖は付加されないほうが望ましい。そこで、20位(Kabatナンバリング)のAsn(N)残基がThr(T)残基に置換された改変体hVk5-2_L65(配列番号:118)が作製された。アミノ酸の置換はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いる当業者公知の方法で行われた。改変体hVk5-2_L65をコードするDNAが動物発現用ベクターに組み込まれた。作製された改変体hVk5-2_L65のDNAが組み込まれた動物発現用ベクターは、重鎖としてCIM_H(配列番号:117)が発現するように組み込まれた動物発現用のベクターと、参考実施例6で記載した方法で共に動物細胞中に導入された。導入された動物細胞中で発現したhVk5-2_L65 およびCIM_Hを含む抗体が、参考実施例6で記載した方法で精製された。
取得された改変配列hVk5-2_L65を含む抗体が、改変に供されたもとのhVk5-2配列を含む抗体よりも、そのヘテロジェニティーが減少しているか否かが、イオン交換クロマトグラフィーを用いて分析された。イオン交換クロマトグラフィーの方法を表36に示した。分析の結果、図46に示したように糖鎖付加部位が改変されたhVk5-2_L65は、元のhVk5-2配列よりもヘテロジェニティーが減少していることが示された。
(17-1)hVk5-2配列のCDR配列を含む改変抗体の作製、発現および精製
hVk5-2_L65配列はヒトVk5-2配列のフレームワークに存在する糖鎖付加部位のアミノ酸が改変された配列である。参考実施例16で糖鎖付加部位を改変してもカルシウムイオンが結合することが示されたが、フレームワーク配列は生殖細胞系列の配列であることが免疫原性の観点から一般的には望ましい。そこで、抗体のフレームワーク配列を、当該抗体に対するカルシウムイオンの結合活性を維持しながら、糖鎖が付加されない生殖細胞系列配列のフレームワーク配列に置換することが可能であるか否かが検討された。
hVk5-2配列以外の生殖細胞系列配列(hVk1、hVk2、hVk3、hVk4)のフレームワーク配列およびhVk5-2配列のCDR配列を含む改変抗体に、カルシウムイオンが結合するか否かが実施例6に記載された方法によって評価された。評価された結果を表38に示した。各改変抗体のFabドメインのTm値は、抗体溶液中のカルシウムイオン濃度の変化によって変動することが示された。よって、hVk5-2配列のフレームワーク配列以外のフレームワーク配列を含む抗体もカルシウムイオンと結合することが示された。
(18-1)hVk5-2配列のCDR配列中の変異部位の設計
参考実施例17に記載されているように、hVk5-2配列のCDR部分が他の生殖細胞系列のフレームワーク配列に導入された軽鎖を含む抗体もカルシウムイオンと結合することが示された。この結果からhVk5-2に存在するカルシウムイオン結合部位はCDRの中に存在することが示唆された。カルシウムイオンと結合する、すなわち、カルシウムイオンをキレートするアミノ酸として、負電荷のアミノ酸もしくは水素結合のアクセプターとなりうるアミノ酸が挙げられる。そこで、hVk5-2配列のCDR配列中に存在するAsp(D)残基またはGlu(E)残基がAla(A)残基に置換された変異hVk5-2配列を含む抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが評価された。
hVk5-2配列のCDR配列中に存在するAspおよび/ またはGlu残基がAla残基に改変された軽鎖を含む抗体分子が作製された。参考実施例16で記載されるように、糖鎖が付加されない改変体hVk5-2_L65はカルシウムイオン結合を維持していたことから、カルシウムイオン結合性という観点ではhVk5-2配列と同等と考えられる。本実施例ではhVk5-2_L65をテンプレート配列としてアミノ酸置換が行われた。作製された改変体を表39に示した。アミノ酸の置換はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)、PCRまたはIn fusion Advantage PCR cloning kit(TAKARA)等の当業者公知の方法によって行われ、アミノ酸が置換された改変軽鎖の発現ベクターが構築された。
得られた精製抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが参考実施例15に記載された方法によって判定された。その結果を表40に示した。hVk5-2配列のCDR配列中に存在するAspまたはGlu残基をカルシウムイオンの結合もしくはキレートに関与できないAla残基に置換することによって、抗体溶液のカルシウムイオン濃度の変化によってそのFabドメインのTm値が変動しない抗体が存在した。Ala置換によってTm値が変動しない置換部位(32位および92位(Kabatナンバリング))はカルシウムイオンと抗体の結合に特に重要であることが示された。
(19-1)カルシウムイオン結合モチーフを有するhVk1配列の作製ならびに抗体の発現および精製
参考実施例18で記載されたAla置換体のカルシウムの結合活性の結果から、hVk5-2配列のCDR配列の中でAspやGlu残基がカルシウム結合に重要であることが示された。そこで、30位、31位、32位、50位および92位(Kabatナンバリング)の残基のみを他の生殖細胞系列の可変領域配列に導入してもカルシウムイオンと結合できるか否かが評価された。具体的には、ヒト生殖細胞系配列であるhVk1配列の30位、31位、32位、50位および92位(Kabatナンバリング)の残基がhVk5-2配列の30位、31位、32位、50位および92位(Kabatナンバリング)の残基に置換された改変体LfVk1_Ca(配列番号:131)が作製された。すなわち、hVk5-2配列中のこれらの5残基のみが導入されたhVk1配列を含む抗体がカルシウムと結合できるか否かが判定された。改変体の作製は参考実施例17と同様に行われた。得られた軽鎖改変体LfVk1_Caおよび軽鎖hVk1配列を含むLfVk1(配列番号:132)を、重鎖CIM_H(配列番号:117)と共に発現させた。抗体の発現および精製は参考実施例18と同様の方法で実施された。
上記のように得られた精製抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが参考実施例15に記載された方法で判定された。その結果を表41に示した。hVk1配列を有するLfVk1を含む抗体のFabドメインのTm値は抗体溶液中のカルシウムの濃度の変化によっては変動しない一方で、LfVk1_Caを含む抗体配列の、Tm値は、抗体溶液中のカルシウムの濃度の変化によって1℃以上変化したことから、LfVk1_Caを含む抗体がカルシウムと結合することが示された。上記の結果から、カルシウムイオンの結合には、hVk5-2のCDR配列がすべて必要ではなく、LfVk1_Ca配列を構築する際に導入された残基のみでも十分であることが示された。
カルシウム結合モチーフとして、例えばhVk5-2配列やそのCDR配列、さらに残基が絞られた30位、31位、32位、50位、92位(Kabatナンバリング)が好適に挙げられる。他にも、カルシウムと結合するタンパク質が有するEFハンドモチーフ(カルモジュリンなど)やCタイプレクチン(ASGPRなど)もカルシウム結合モチーフに該当する。
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型としてPCR法により抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリが増幅された。抗体軽鎖可変領域部分については、参考実施例20に記載されるように、カルシウム結合モチーフを維持しカルシウム濃度依存的に抗原に対して結合可能な抗体の出現頻度を高めた抗体可変領域軽鎖部分が設計された。また、フレキシブル残基のうちカルシウム結合モチーフが導入された残基以外のアミノ酸残基として、天然ヒト抗体でのアミノ酸出現頻度の情報((KABAT, E.A. ET AL.: 'Sequences of proteins of immunological interest', vol. 91, 1991, NIH PUBLICATION)が参考にされ、天然ヒト抗体の配列中で出現頻度の高いアミノ酸を均等に分布させた抗体軽鎖可変領域のライブラリが設計された。このように作製された抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリと抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリとの組合せがファージミドベクターへ挿入され、ヒト抗体配列からなるFabドメインを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリ(Methods Mol Biol. (2002) 178, 87-100)が構築された。上記ライブラリの構築に際しては、ファージミドのFabとファージpIIIタンパク質をつなぐリンカー部分、および、ヘルパーファージpIIIタンパク遺伝子のN2ドメインとCTドメインの間にトリプシン切断配列が挿入されたファージディスプレイライブラリの配列が使用された。抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された抗体遺伝子部分の配列が確認され、290種類のクローンの配列情報が得られた。設計されたアミノ酸分布と、確認された配列中のアミノ酸の分布が、図52に示されている。設計されたアミノ酸分布に対応する多様な配列を含むライブラリが構築された。
(22-1)Caライブラリに含まれる分子のカルシウムイオン結合活性
参考実施例14に示されているように、カルシウムイオンと結合することが示されたhVk5-2配列は生殖細胞系列配列中で出現頻度が低い配列であるため、ヒト生殖細胞系列配列で構成される抗体ライブラリやヒト抗体を発現するマウスへの免疫によって取得されたB細胞から、カルシウムと結合する抗体を取得することは非効率であると考えられた。そこで、参考実施例21でCaライブラリが構築された。構築されたCaライブラリにカルシウム結合を示すクローンが存在するか評価された。
Caライブラリに含まれるクローンが、動物細胞発現用プラスミドへ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ蒔きこまれた。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
上記のように得られた精製抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが参考実施例6に記載された方法で判定された。その結果を表42に示した。Caライブラリに含まれる複数の抗体のFabドメインのTmはカルシウムイオン濃度によって変動し、カルシウムイオンと結合する分子が含まれることが示された。
(23-1)pH依存的結合抗体の取得方法
WO2009/125825は抗原結合分子にヒスチジンを導入することにより、pH中性領域とpH酸性領域で性質が変化するpH依存的抗原結合抗体を開示している。開示されたpH依存的結合抗体は、所望の抗原結合分子のアミノ酸配列の一部をヒスチジンに置換する改変によって取得されている。改変する対象の抗原結合分子を予め得ることなく、pH依存的結合抗体をより効率的に取得するために、ヒスチジンを可変領域(より好ましくは抗原結合に関与する可能性がある位置)に導入した抗原結合分子の集団(Hisライブラリと呼ぶ)から所望の抗原に結合する抗原結合分子を取得する方法が考えられる。Hisライブラリから得られる抗原結合分子は通常の抗体ライブラリよりもヒスチジンが高頻度に出現するため、所望の性質を有する抗原結合分子が効率的に取得できると考えられる。
まず、Hisライブラリでヒスチジンを導入する位置が選択された。WO2009/125825ではIL-6レセプター抗体、IL-6抗体およびIL-31レセプター抗体の配列中のアミノ酸残基をヒスチジンに置換することでpH依存的抗原結合抗体を作製したことが開示されている。さらに、抗原結合分子のアミノ酸配列をヒスチジンに置換することによって、pH依存的抗原結合能を有する、抗卵白リゾチウム抗体(FEBS Letter 11483, 309, 1, 85-88)および抗ヘプシジン抗体(WO2009/139822)が作製されている。IL-6レセプター抗体、IL-6抗体、IL-31レセプター抗体、卵白リゾチウム抗体およびヘプシジン抗体でヒスチジンを導入した位置を表43に示した。表43に示した位置は、抗原と抗体との結合を制御できる位置の候補として挙げられ得る。さらに表43で示された位置以外でも、抗原と接触する可能性が高い位置も、ヒスチジンを導入する位置として適切であると考えられた。
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型としてPCR法により抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリが増幅された。実施例1に記載のHisライブラリ1として設計された抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリが、PCR法を用いて増幅された。このように作製された抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリと抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリとの組合せがファージミドベクターへ挿入され、ヒト抗体配列からなるFabドメインを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築された。構築方法として、(Methods Mol Biol. (2002) 178, 87-100)が参考とされた。上記ライブラリの構築に際しては、ファージミドのFabとファージpIIIタンパク質をつなぐリンカー部分、および、ヘルパーファージpIIIタンパク遺伝子のN2ドメインとCTドメインの間にトリプシン切断配列が挿入されたファージディスプレイライブラリの配列が使用された。抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された抗体遺伝子部分の配列が確認され、132クローンの配列情報が得られた。設計されたアミノ酸分布と、確認された配列中のアミノ酸の分布を、図53に示した。設計されたアミノ酸分布に対応する多様な配列を含むライブラリが構築された。
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型としてPCR法により抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリが増幅された。参考実施例23に記載されるように、pH依存的抗原結合能をもつ抗体の出現頻度を向上させるため、抗体可変領域の軽鎖部分のうち、抗原接触部位となる可能性の高い部位のヒスチジン残基の出現頻度を高めた抗体可変領域軽鎖部分が設計される。また、フレキシブル残基のうちヒスチジンが導入された残基以外のアミノ酸残基として、天然ヒト抗体でのアミノ酸出現頻度の情報から特定される出現頻度の高いアミノ酸が均等に分布させた抗体軽鎖可変領域のライブラリが設計される。上記のように設計された抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリが、合成される。ライブラリの合成は商業的な受託会社等に委託して作製することも可能である。このように作製された抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリと抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリとの組合せがファージミドベクターへ挿入され、公知の方法(Methods Mol Biol. (2002) 178, 87-100)に準じて、ヒト抗体配列からなるFabドメインを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築される。参考実施例24に記載された方法に準じて、抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された抗体遺伝子部分の配列が確認される。
実施例14で見出されたFcγRIIbに対する選択性が向上されたEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変体を改変することによってFcγRIIbに対する選択性を更に増強することが試みられた。
まず、IL6R-G1dのEUナンバリングで表される238位のProをAspに置換した改変が導入されたIL6R-G1d-v1(配列番号:80)に対して、実施例14に記載されたFcγRIIbに対する選択性を増強するEUナンバリングで表される328位のLeuのGluへの置換が導入された改変体IL6R-G1d-v4(配列番号:172)が作製された。L鎖として用いられたIL6R-L (配列番号:83)と組み合わせて発現されたIL6R-G1d-v4、参考実施例2と同様の方法にしたがって調製された。ここで得られた抗体H鎖としてIL6R-G1d-v4に由来するアミノ酸配列を有する抗体はIgG1-v4と記載される。実施例14と同様の方法にしたがって評価されたIgG1、IgG1-v1、IgG1-v2、IgG1-v4のFcγRIIbに対する結合活性を表44に示した。表中の改変とはIL6R-G1dに対して導入された改変を表す。
P238D改変体に対して、実施例14でFcγRIIbに対する増強効果のあった改変(S267E/L328F)が導入された。当該改変の導入前後でのFcγRIIbに対する結合活性の変化を表45に示した。
参考実施例26で示されたように、ヒト天然型IgG1に対してEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換されたFcに対し、さらにFcγRIIbへの結合を上げると天然型抗体の解析から予測される他の改変を組み合わせても、期待される組合せ効果は得られなかった。そこで、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変Fcに対して網羅的改変を導入することによって、さらにFcγRIIbへの結合を増強する改変体を見出すことが試みられた。抗体H鎖として用いられたIL6R-G1d(配列番号:79)のEUナンバリングで表される252位のMetをTyrに置換する改変、EUナンバリングで表される434位のAsnをTyrに置換する改変が導入されたIL6R-F11(配列番号:174)が作製された。さらに、IL6R-F11に対してEUナンバリングで表される238位のProをAspに置換する改変が導入されたIL6R-F652(配列番号:175)が作製された。IL6R-F652に対し、EUナンバリングで表される238位の残基の近傍の領域(EUナンバリングで表される234位から237位、239位)が元のアミノ酸とシステインを除く18種類のアミノ酸にそれぞれ置換された抗体H鎖配列を含む発現プラスミドがそれぞれ調製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:83)が共通して用いられた。これらの改変体が参考実施例2と同様の方法により発現、精製された。これらのFc変異体はPD variantと呼ばれる。実施例14と同様の方法により各PD variantのFcγRIIa R型およびFcγRIIbに対する相互作用が網羅的に評価された。
表46に示した改変体のFcγRIa、FcγRIIaR、FcγRIIaH、FcγRIIb、FcγRIIIaVに対するKD値を実施例14と同様の方法で測定した結果を表47に示した。なお、表中の配列番号は評価された改変体のH鎖の配列番号を、また、改変とはIL6R-F11(配列番号:174)に対して導入された改変を表す。ただし、IL6R-F11を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。また、表中のKD(IIaR)/KD(IIb)およびKD(IIaH)/KD(IIb)はそれぞれ、各改変体のFcγRIIaRに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値、各改変体のFcγRIIaHに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を示す。親ポリペプチドのKD(IIb)/改変ポリペプチドのKD(IIb)は、親ポリペプチドのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を指す。これらに加えて、各改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値を表47に示した。ここで親ポリペプチドとは、IL6R-F11(配列番号:27)をH鎖に持つ改変体のことを指す。なお、表47のうち灰色で塗りつぶされたセルは、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、実施例14に記載の
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
先の参考実施例27に示した通り、P238Dを含むFcに対して、FcγRIIbとの結合活性を向上する、あるいはFcγRIIbへの選択性を向上させると天然型IgG1抗体の解析から予測された改変を導入しても、FcγRIIbに対する結合活性が減弱してしまうことが明らかとなり、この原因としてFcとFcγRIIbとの相互作用界面の構造がP238Dを導入することで変化していることが考えられた。そこで、この現象の原因を追及するためP238Dの変異をもつIgG1のFc(以下、Fc(P238D))とFcγRIIb細胞外領域との複合体の立体構造をX線結晶構造解析により明らかにし、天然型 IgG1のFc (以下、Fc(WT)) とFcγRIIb細胞外領域との複合体との立体構造を対比することによって、これらの結合様式が比較された。なお、FcとFcγR細胞外領域との複合体の立体構造に関する複数の報告がすでにあり、Fc(WT) / FcγRIIIb細胞外領域複合体(Nature, 2000, 400, 267-273; J.Biol.Chem. 2011, 276, 16469-16477)、Fc(WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 2011, 108, 12669-126674)、およびFc(WT) / FcγRIIa細胞外領域複合体(J. Imunol. 2011, 187, 3208-3217)の立体構造が解析されている。これまでにFc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体の立体構造は解析されていないが、Fc(WT)との複合体の立体構造が既知であるFcγRIIaとFcγRIIbでは細胞外領域においてアミノ酸配列の93%が一致し、非常に高い相同性を有していることから、Fc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体の立体構造はFc(WT) / FcγRIIa細胞外領域複合体の結晶構造からモデリングにより推定された。
次に詳細な比較のため、Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造とFc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造とを、FcγRIIb細胞外領域ならびにFc CH2ドメインAに対しCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせた(図58)。その際、Fc CH2ドメインB同士の重なりの程度は良好でなく、この部分に立体構造的な違いがあることが明らかとなった。さらにFc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造ならびにFc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造を使い、抽出されたFcγRIIb細胞外領域とFc CH2ドメインBとの間でその距離が3.7Å以下の原子ペアを比較することによって、FcγRIIbとFc(WT) CH2ドメインBとの間の原子間相互作用とFcγRIIbとFc(P238D) CH2ドメインBとの間の原子間相互作用が比較された。表48に示すとおり、Fc(P238D)とFc(WT)では、Fc CH2ドメインBとFcγRIIbとの間の原子間相互作用は一致していなかった。
P238D改変を含むFcの調製は以下のように行われた。まず、hIL6R-IgG1-v1(配列番号:80)のEUナンバリングで表される220位のCysをSerに置換し、EUナンバリングで表される236位のGluからそのC末端をPCRによってクローニングした遺伝子配列Fc(P238D)を参考実施例1および2に記載された方法と同様な方法で発現ベクターの作製、発現、精製が行われた。なお、EUナンバリングで表される220位のCysは通常のIgG1においては、L鎖のCysとdisulfide bondを形成しているが、Fcのみを調製する場合にはL鎖を共発現させないことから、不要なdisulfide bond形成を回避するために当該Cys残基はSerに置換された。
FcγRIIb細胞外領域は、実施例14の方法にしたがって調製された。
結晶化に使用するため得られたFcγRIIb細胞外領域サンプル 2mgに対し、glutathione S-transferaseとの融合蛋白として大腸菌により発現精製したEndo F1(Protein Science 1996, 5, 2617-2622) 0.29mgを加え、0.1M Bis-Tris pH6.5のBuffer条件で、室温にて3日間静置することにより、FcγRIIb細胞外領域のAsnに直接結合したN-acetylglucosamine以外のN型糖鎖が切断された。次に5000MWCOの限外ろ過膜により濃縮された糖鎖切断処理が施されたFcγRIIb細胞外領域サンプルが、20mM HEPS pH7.5, 0.05M NaClで平衡化したゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200 10/300)により精製された。さらに得られた糖鎖切断FcγRIIb細胞外領域画分にFc(P238D)をモル比でFcγRIIb細胞外領域のほうが若干過剰となるよう混合された。10000MWCOの限外ろ過膜により濃縮された前記混合液を20mM HEPS pH7.5、0.05M NaClで平衡化したゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200 10/300)を用いて精製することによって、Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体のサンプルが得られた。
10000MWCOの限外ろ過膜 により約10mg/mlまで濃縮された前記のFc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の試料を用いて、シッティングドロップ蒸気拡散法により当該複合体が結晶化された。結晶化にはHydra II Plus One (MATRIX)を用い、100mM Bis-Tris pH6.5、17% PEG3350、0.2M Ammonium acetate、および2.7%(w/v) D-Galactoseのリザーバー溶液に対し、リザーバー溶液:結晶化サンプルを0.2μl:0.2μlで混合して結晶化ドロップを作成した。シールされた当該結晶化ドロップを20℃に静置することによって、薄い板状の結晶が得られた。
得られたFc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の単結晶一つが100mM Bis-Tris pH6.5、20% PEG3350、Ammonium acetate、2.7%(w/v) D-Galactose、Ethylene glycol 22.5%(v/v) の溶液に浸漬された。微小なナイロンループ付きのピンを用いて溶液ごとすくいとられた単結晶を液体窒素中で凍結させた。高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーBL-1Aにて当該結晶のX線回折データが測定された。なお、測定中は常に-178℃の窒素気流中に置くことによって凍結状態を維持し、ビームラインに備え付けられたCCDディテクタQuantum 270(ADSC)によって、結晶を0.8°ずつ回転させながらトータル225枚のX線回折画像が収集された。得られた回折画像からの格子定数の決定、回折斑点の指数付け、ならびに回折データの処理には、プログラムXia2(CCP4 Software Suite)、XDS Package(Walfgang Kabsch)ならびにScala(CCP4 Software Suite)を用い、最終的に分解能2.46Åまでの当該結晶の回折強度データが得られた。本結晶は、空間群P21に属し、格子定数a=48.85Å、b=76.01Å、c=115.09Å、α=90°、β=100.70°、γ=90°であった。
Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造決定は、プログラムPhaser(CCP4 Software Suite)を用いた分子置換法によりおこなわれた。得られた結晶格子の大きさとFc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の分子量から非対称単位中の複合体の数は一個と予想された。Fc(WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体の結晶構造であるPDB code:3SGJの構造座標から、A鎖239-340番ならびにB鎖239-340番のアミノ酸残基部分を別座標として取り出し、それぞれFc CH2ドメインの探索用モデルと設定した。同じくPDB code:3SGJの構造座標から、A鎖341-444番とB鎖341-443番のアミノ酸残基部分を一つの座標として取り出し、Fc CH3ドメインの探索用モデルと設定した。最後にFcγRIIb細胞外領域の結晶構造であるPDB code:2FCBの構造座標からA鎖6-178番のアミノ酸残基部分を取り出しFcγRIIb細胞外領域の探索用モデルと設定した。Fc CH3ドメイン、FcγRIIb細胞外領域、Fc CH2ドメインの順番に各探索用モデルの結晶格子内での向きと位置を、回転関数および並進関数から決定し、Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体結晶構造の初期モデルが得られた。得られた初期モデルに対し2つのFc CH2ドメイン、2つのFc CH3ドメインならびにFcγRIIb細胞外領域を動かす剛体精密化をおこなったところ、この時点で25-3.0Åの回折強度データに対し、結晶学的信頼度因子R値は40.4%、Free R値は41.9%となった。さらにプログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foとモデルから計算された構造因子Fcならびにモデルから計算された位相をもとに算出された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップを見ながらのモデル修正をプログラムCoot(Paul Emsley)でおこなった。これらの作業を繰り返すことによってモデルの精密化がおこなわれた。最後に2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとに水分子をモデルに組み込み、精密化をおこなうことによって、最終的に分解能25-2.6Åの24291個の回折強度データを用い、4846個の非水素原子を含むモデルに対し、結晶学的信頼度因子R値は23.7%、Free R値は27.6%となった。
Fc(WT) / FcγRIIa細胞外領域複合体の結晶構造であるPDB code:3RY6の構造座標をベースに、プログラムDisovery Studio 3.1(Accelrys)のBuild Mutants機能を使い、FcγRIIbのアミノ酸配列と一致するように構造座標中のFcγRIIaに変異が導入された。その際、Optimization LevelをHigh、Cut Radiusを4.5とし、5つのモデルを発生させ、その中から最もエネルギースコアが良いものを採用し、Fc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造と設定した。
参考実施例28で得られたFc (P238D)とFcγRIIb細胞外領域との複合体のX線結晶構造解析の結果に基づき、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変FcにおいてFcγRIIbとの相互作用に影響を与えることが予測される部位(EUナンバリングで表される233位、240位、241位、263位、265位、266位、267位、268位、271位、273位、295位、296位、298位、300位、323位、325位、326位、327位、328位、330位、332位、334位の残基)に対して網羅的な改変が導入された改変体を構築することによって、P238D 改変に加えてさらにFcγRIIbとの結合を増強する改変の組合せを得ることが可能であるか検討された。
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
参考実施例27および29において得られた改変の中で、FcγRIIbへの結合を増強する効果もしくはFcγRIIbへの結合を維持し、他のFcγRへの結合を抑制する効果がみられた改変同士を組み合わせることによる効果が検証された。
なお、表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:187)に対して導入した改変を表す。ただし、IL6R-B3を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
Claims (18)
- 以下を含む、抗原結合分子を製造する方法:
(a)pH5.8における抗原結合活性がpH7.4においてより低く、かつ、pH5.8での抗原結合活性およびpH7.4での抗原結合活性の比が、KD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値で少なくとも2である抗原結合ドメインであって、ここで、該抗原結合ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸のヒスチジンへの置換の変異、または少なくとも1つのヒスチジンの挿入の変異を含む抗原結合ドメイン;および、
pH7.4でFcRn結合活性を有するFc領域;
を含む抗原結合分子を取得する工程; および
(b)抗原結合分子の該Fc領域を、中性pH域において二分子のFcRnと一分子の活性型Fcγレセプターを含むヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変する工程であって、前記ヘテロ複合体を形成しないFc領域への改変は、Fc領域の活性型Fcγレセプターに対する結合活性が、天然型ヒトIgGのFc領域の当該活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも低いFc領域に改変することを含む、前記工程。 - 前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、請求項1に記載の方法。
- 前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される235位、237位、238位、239位、270位、298位、325位および329位のいずれかひとつ以上のアミノ酸を置換することを含む、請求項1または2に記載の方法。
- 前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
234位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、ThrまたはTrpのいずれか、
235位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはArgのいずれか、
236位のアミノ酸をArg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、ProまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、TyrまたはArgのいずれか、
238位のアミノ酸をAla、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、TrpまたはArgのいずれか、
239位のアミノ酸をGln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、TyrまたはArgのいずれか、
265位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
266位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
267位のアミノ酸をArg、His、Lys、Phe、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
269位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
270位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
271位のアミノ酸をArg、His、Phe、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸をArg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸をArg、Gly、LysまたはProのいずれか、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をArg、Gly、Lys、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
324位のアミノ酸をLysまたはProのいずれか、
325位のアミノ酸をAla、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、TrpTyr、もしくはValのいずれか、
327位のアミノ酸をArg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
328位のアミノ酸をArg、Asn、Gly、His、LysまたはProのいずれか、
329位のアミノ酸をAsn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、ValまたはArgのいずれか、
330位のアミノ酸をProまたはSerのいずれか、
331位のアミノ酸をArg、GlyまたはLysのいずれか、もしくは
332位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
のいずれかひとつ以上に置換することを含む、請求項1または2に記載の方法。 - 以下を含む、抗原結合分子を製造する方法:
(a)pH5.8における抗原結合活性がpH7.4においてより低く、かつ、pH5.8での抗原結合活性およびpH7.4での抗原結合活性の比が、KD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値で少なくとも2である抗原結合ドメインであって、ここで、該抗原結合ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸のヒスチジンへの置換の変異、または少なくとも1つのヒスチジンの挿入の変異を含む抗原結合ドメイン;および、
pH7.4でFcRn結合活性を有するFc領域;
を含む抗原結合分子を取得する工程; および
(b)抗原結合分子の該Fc領域を、中性pH域において二分子のFcRnと一分子の活性型Fcγレセプターを含むヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変する工程であって、前記ヘテロ複合体を形成しないFc領域への改変は、抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高いFc領域に、Fc領域を改変することを含む、前記工程。 - 前記抑制型FcγレセプターがヒトFcγRIIbである、請求項5に記載の方法。
- 前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、請求項5または6に記載の方法。
- EUナンバリングで表される238または328のアミノ酸を置換することを含む、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
- EUナンバリングで表される238のアミノ酸をAsp、または328のアミノ酸をGluに置換することを含む、請求項8に記載の方法。
- EUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
233位のアミノ酸をAsp、
234位のアミノ酸をTrp、またはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Leu、Met、Phe、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸をAsp、
267位のアミノ酸をAla、GlnまたはValのいずれか、
268位のアミノ酸をAsn、Asp、またはGluのいずれか、
271位のアミノ酸をGly、
326位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Leu、Met、SerまたはThrのいずれか、
330位のアミノ酸をArg、Lys、またはMetのいずれか、
323位のアミノ酸をIle、Leu、またはMetのいずれか、
296位のアミノ酸をAsp、
のいずれかひとつ以上に置換することを含む請求項8または9に記載の方法。 - 前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される237、248、250、252、254、255、256、257、258、265、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、および436のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含むFc領域である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
- 前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsn、Asp、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
298位のアミノ酸がGly、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal 、
のいずれかひとつ以上の組合せである、請求項11に記載の方法。 - 以下を含む、抗原結合分子を製造する方法:
(a)pH5.8における抗原結合活性がpH7.4においてより低く、かつ、pH5.8での抗原結合活性およびpH7.4での抗原結合活性の比が、KD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値で少なくとも2である抗原結合ドメインであって、ここで、該抗原結合ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸のヒスチジンへの置換の変異、または少なくとも1つのヒスチジンの挿入の変異を含む抗原結合ドメイン;および、
pH7.4でFcRn結合活性を有するFc領域;
を含む抗原結合分子を取得する工程; および
(b)抗原結合分子の該Fc領域を、中性pH域において二分子のFcRnと一分子の活性型Fcγレセプターを含むヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変する工程であって、前記ヘテロ複合体を形成しないFc領域への改変は、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRn結合活性を有し、他方がpH中性域の条件下でのFcRn結合活性を有しないFc領域に改変することを含む、前記工程。 - 前記Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237、248、250、252、254、255、256、257、258、265、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、および436のいずれかひとつ以上のアミノ酸を置換することを含む、請求項13に記載の方法。
- 前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
237位のアミノ酸をMet、
248位のアミノ酸をIle、
250位のアミノ酸をAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyr、
252位のアミノ酸をPhe、Trp、またはTyr、
254位のアミノ酸をThr、
255位のアミノ酸をGlu、
256位のアミノ酸をAsn、Asp、Glu、またはGln、
257位のアミノ酸をAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはVal、
258位のアミノ酸をHis、
265位のアミノ酸をAla、
286位のアミノ酸をAlaまたはGlu、
289位のアミノ酸をHis、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をGly、
303位のアミノ酸をAla、
305位のアミノ酸をAla、
307位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyr、
308位のアミノ酸をAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThr、
309位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Pro、またはArg、
311位のアミノ酸をAla、His、またはIle、
312位のアミノ酸をAlaまたはHis、
314位のアミノ酸をLysまたはArg、
315位のアミノ酸をAla、AspまたはHis、
317位のアミノ酸をAla、
332位のアミノ酸をVal、
334位のアミノ酸をLeu、
360位のアミノ酸をHis、
376位のアミノ酸をAla、
380位のアミノ酸をAla、
382位のアミノ酸をAla、
384位のアミノ酸をAla、
385位のアミノ酸をAspまたはHis、
386位のアミノ酸をPro、
387位のアミノ酸をGlu、
389位のアミノ酸をAlaまたはSer、
424位のアミノ酸をAla、
428位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyr、
433位のアミノ酸をLys、
434位のアミノ酸をAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyr、もしくは
436位のアミノ酸をHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal
のいずれかひとつ以上に置換することを含む、請求項14に記載の方法。 - 前記抗原結合ドメインが抗体の可変領域である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
- 前記抗原結合ドメインが、以下から選択されるアミノ酸部位における、少なくとも1つのアミノ酸のヒスチジンでの置換変異、または、少なくとも1つのヒスチジンの挿入変異を含む抗原結合ドメインである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法:
重鎖: 27、31、32、33、35、50、58、59、61、62、99、100b、102位(Kabat numbering);
軽鎖: 24、27、28、30、31、32、34、50、51、52、53、54、55、56、89、90、91、92、93、94、95a、および96位(Kabat numbering)。 - 前記抗原結合分子が抗体である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
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