本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、ポート噴射式の4ストローク火花点火エンジンであり、複数の気筒1(例えば、三気筒。図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部にそれぞれ、点火プラグ12を取り付けてある。
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
排気通路4における触媒41の上流及び/または下流には、排気通路4を流通する排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ43、44を設置する。空燃比センサ43、44はそれぞれ、排気ガスの空燃比に対して非線形な出力特性を有するO2センサであってもよいし、排気ガスの空燃比に比例した出力特性を有するリニアA/Fセンサであってもよい。O2センサ43、44の出力特性は、理論空燃比近傍の一定範囲(ウィンドウ)では空燃比に対する出力の変化率が大きく急峻な傾きを示し、それよりも空燃比が大きいリーン領域では低位飽和値に漸近し、それよりも空燃比が小さいリッチ領域では高位飽和値に漸近する、いわゆるZ特性曲線を描く。
排気ガス再循環装置2は、排気通路4を流れる排気の一部を吸気通路3に還流させて吸気に混交する外部EGR(Exhaust Gas Recirculation)を実現するものである。この外部EGR装置2は、排気通路4における触媒41の上流側と吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流側とを連通する外部EGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における排気マニホルド42またはその下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、特にサージタンク33に接続している。
内燃機関には、各気筒1の少なくとも吸気バルブの開閉タイミングを可変制御できるVVT(Variable Valve Timing)機構5が付帯することがある。吸気バルブタイミングを調節するためのVVT機構5は、例えば、各気筒1の吸気バルブを駆動するカムシャフトのクランクシャフトに対する回転位相を液圧(潤滑油圧)によって変化させるベーン式のものや、電動機によって変化させる電動式のもの(モータドライブVVT)である。周知の通り、カムシャフトは、内燃機関の出力軸であるクランクシャフトから回転駆動力の供給を受け、クランクシャフトに従動して回転する。クランクシャフトとカムシャフトとの間には、回転駆動力を伝達するための巻掛伝動装置(図示せず)が介在している。巻掛伝動装置は、クランクシャフト側に設けたクランクスプロケット(または、プーリ)と、カムシャフト側に設けたカムスプロケット(または、プーリ)と、これらスプロケット(または、プーリ)に巻き掛けるタイミングチェーン(または、タイミングベルト)とを要素とする。VVT機構5は、カムシャフトをカムスプロケットに対し相対的に回動させることを通じて、カムシャフトのクランクシャフトに対する回転位相を変化させ、以て吸気バルブの開閉タイミングを変更する。
排気バルブの開閉タイミングを調節するためのVVT機構は、例えば、各気筒1の排気バルブを駆動するカムシャフトのクランクシャフトに対する回転位相を液圧や電動機によって変化させるものである。なお、このVVT機構は存在しないことがあり、その場合、排気バルブタイミングは不変である。
上述のVVT機構5は、気筒1への吸気の充填効率を高めるとともに、吸気バルブと排気バルブとがともに開くバルブオーバラップ期間を拡縮させるために用いられる。バルブオーバラップ期間の操作により、気筒1から排出されずに気筒1内に残留する内部EGRガスの量を増減させることが可能である。
図2に、火花点火式内燃機関の点火装置の電気回路を例示する。点火プラグ12は、点火コイル14にて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で放電を惹起するものである。点火コイル14は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体スイッチング素子131を有するイグナイタ13とともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0からの点火信号iをイグナイタ13が受けると、まずイグナイタ13の半導体スイッチ131が点弧して点火コイル14の一次側141に電流が流れ、その直後の火花点火のタイミングで半導体スイッチ131が消弧してこの電流が遮断される。すると、自己誘導作用が起こり、一次側141に高電圧が発生する。そして、一次側141と二次側142とは磁気回路及び磁束を共有するので、二次側142にさらに高い誘導電圧が発生する。二次側142の誘導電圧は、10kVないし30kVに達する。この高い誘導電圧が点火プラグ12の中心電極に印加され、中心電極と接地電極との間で放電が起こる。
点火コイル14の一次側コイル141は、半導体スイッチ131を介して車載の蓄電装置16に接続する。蓄電装置16は、バッテリ(鉛バッテリ、リチウムイオンバッテリ、ニッケル水素バッテリ、その他)やキャパシタ等である。複数の種類の蓄電装置16を組み合わせて車両に搭載することもあり得る。
半導体スイッチ131を点弧し、蓄電装置16から供給される直流電圧を一次側コイル141に印加して通電を開始すると、一次側コイル141を含む一次側(低圧系)の回路を流れる一次電流は逓増する。蓄電装置16及び一次側コイル141を含む一次側の電気回路をRL直列回路と仮定すると、t=0時点にて直流電圧Eの印加を開始した場合の一次電流I(t)は、
I(t)≒{1-e-(R/L)t}E/R
となる。即ち、過渡現象として一次電流は逓増するが、その増加の速さは徐々に衰える。通電の開始から長時間が経過すると、一次電流はE/Rに飽和する。但し、実際には、後述する電流制限機能が働くことで、一次側コイル141への通電を続けていても一次電流がそれ以上増加しなくなるため、飽和値E/Rには必ずしも到達しない。
一次電流が必要十分に大きくなった状態で、ECU0は、気筒1の点火タイミングに合わせて、当該気筒1に付随するイグナイタ13の半導体スイッチ131を消弧し、当該気筒1に付随する点火コイル14の一次側コイル141への通電を遮断する。それにより、同点火コイル14にて発生する誘導電圧を、当該気筒1の点火プラグ12の中心電極に印加し、以て点火プラグ12の中心電極と接地電極との間での絶縁破壊による放電を惹起する。
因みに、イグナイタ13は、一次電流の過大化を抑制する電流制限機能を有している。この電流制限機能は、今日普及している既製のイグナイタのそれと同様である。具体的には、制御回路132が、検出抵抗133を介して、一次電流を当該抵抗133の両端間電圧の形で恒常的に計測する。そして、その一次電流(抵抗133の両端間電圧)の大きさが規定値以下である間は半導体スイッチ131を点弧する一方、規定値を超えたときには半導体スイッチ131を消弧する。これにより、一次電流の大きさを規定値にクリップする。
また、イグナイタ13には、例えばツェナーダイオード134を使用した一次電圧設定部を付設している。この一次電圧設定部は、半導体スイッチ131を高電圧から保護する目的で、点火コイル14の一次側コイル141に誘導される一次電圧の大きさを所定値に抑制する役割を担う。半導体スイッチ131がIGBTである場合、電圧クランプ用のツェナーダイオード134はIGBT131のコレクタ-ゲート間に介在し、そのアノードがIGBT131のゲートに接続し、カソードがIGBT131のコレクタに接続する。ツェナーダイオード134は、IGBT131を消弧することで点火コイル14の一次側コイル141に誘起される一次電圧の大きさを、例えば350Vないし500Vの範囲内のある値にクリップし、一次電圧がそれ以上大きく高まることを阻止する働きをする。
加えて、イグナイタ13は、点火コイル14またはイグナイタ13自身の温度が上限値を超えるような異常発熱を感知した場合に、一次側コイル141への通電を強制的に遮断する機能をも有している。
点火コイル14の一次側コイル141と二次側コイル142とは、ダイオード15を介して接続している。ダイオード15は、二次側142からの逆流を防ぐノイズ防止用のものである。
点火コイル14への通電やバルブ23、32、モータの駆動、その他車両に実装された電装系等への電力供給源となる発電機17は、内燃機関の出力軸であるクランクシャフトからエンジントルクの供給を受けて発電し、その発電した電力を車載の蓄電装置16に蓄電する。
発電機17は、自動車用発電機として旧来より用いられているオルタネータであることもあれば、内燃機関のクランクシャフトまたは車両の車軸(そして、駆動輪)を駆動する電動機としての機能を兼ね備えたモータジェネレータまたはISG(Integrated Starter Generator)であることもある。内燃機関と発電機17とは、例えばベルト及びプーリを要素とする巻掛伝動装置等を介して接続される。
発電機17に付随するICレギュレータまたはコントローラ171は、ECU0から発される、発電機17の出力電圧の目標値を指令する制御信号mを受け付ける。そして、その指令された目標電圧に蓄電装置16の端子電圧(または、電装系に供給する電源電圧)を追従せしめるべく、半導体スイッチング素子をスイッチ動作させて励磁(界磁)巻線に印加する励磁電流の大きさを調節するPWM(Pulse Width Modulation)制御を実施する。発電機17の出力電圧は、励磁巻線を流れる励磁電流が大きいほど大きくなる。
また、発電機17は、車両の減速時に回生制動を行い、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収することができる。ECU0は、運転者によるアクセルペダルの踏込量が0または0に近い所定値以下となったとき、即ち内燃機関及び車両の減速が要求されているときに、発電機17の励磁巻線を流れる励磁電流の上限値及び発電機17の出力電圧を引き上げる制御信号mをICレギュレータまたはコントローラ171に与える。
内燃機関の運転制御を司るECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
ECU0の入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求されるエンジン負荷率またはエンジントルク)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、車載の蓄電装置16の端子電圧及び/または端子電流(特に、バッテリ電圧及び/またはバッテリ電流)を検出するセンサから出力される電圧/電流信号e、内燃機関の温度を示唆する冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号g、排気通路4を流れる排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ43、44から出力される空燃比信号h等が入力される。
ECU0の出力インタフェースからは、イグナイタ13に対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l、発電機17のICレギュレータまたはコントローラ171に対して発電機17を制御するための制御信号m、VVT機構5に対してバルブタイミングの制御信号n等を出力する。
ECU0のプロセッサは、メモリに格納しているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気の量、新気の分圧及びEGRガスの分圧を推算する。そして、それらに基づき、吸気量(新気量)に見合った要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、要求EGR率(または、EGRガス量)、発電機17の発電量(出力電圧)、吸気バルブ及び/または排気バルブの開閉タイミング等といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、m、nを出力インタフェースを介して印加する。
内燃機関の運転中、ECU0は、気筒1に充填される混合気の空燃比、ひいては気筒1から排出され触媒41へと導かれる排気ガスの空燃比をフィードバック制御する。ECU0は、まず、吸気圧及び吸気温、エンジン回転数、要求EGR率等から、気筒1に充填される吸気量を算出し、これとの比が目標空燃比(平常は、理論空燃比14.6またはその近傍)となるような燃料の基本噴射量TPを決定する。
次いで、この基本噴射量TPを、触媒41の上流側及び/または下流側の空燃比に応じて定まるフィードバック補正係数FAFで補正する。フィードバック補正係数FAFは、空燃比センサ43、44を介して実測されるガスの空燃比と目標空燃比との偏差に応じて調整され、実測空燃比が目標空燃比に対してリーンであるときには増加し、実測空燃比が目標空燃比に対してリッチであるときには減少する。
そして、状況に応じて定まる各種補正係数Kや、インジェクタ11の無効噴射時間TAUVをも加味して、最終的な燃料噴射時間(インジェクタ11に対する通電時間)Tを算定する。燃料噴射時間Tは、
T=TP×FAF×K+TAUV
となる。ECU0は、燃料噴射時間Tだけインジェクタ11に信号jを入力、インジェクタ11を開弁して燃料を噴射させる。
本実施形態のECU0は、一つの気筒1の一度のサイクル中に、換言すれば当該気筒1における圧縮行程から膨脹行程に亘る期間に、二回以上の火花点火を実行するマルチ点火を実施することができる。マルチ点火における、点火プラグ12の電極間で惹起される各回の放電は何れも、気筒1に充填された混合気即ち気筒1内に存在する燃料への点火を目的とする。マルチ点火は、メインとなる点火の直後に追加的な点火を実行することで、混合気の着火燃焼を補強し、失火の発生または燃焼の不安定化を防止することを企図している。マルチ点火により、吸気のEGR率を従来よりも高めることが可能となり、及び/または、従来であればEGRを行い得なかった運転領域においてもEGRを行うことが許容され、内燃機関の燃費性能の一層の向上やエミッションの良化を見込める。
本実施形態では、メインとなる一回目の点火の後、最大で三回の点火を追加することを想定している。図3に、マルチ点火における火花点火のタイミングを例示する。この図示例は、気筒1の同一サイクル中に、メインの点火の後に点火を一回追加、合計で二回の点火を実行する態様である。図3中、クランク角度が0°CAの時点が気筒1の圧縮上死点であり、クランク角度が負値である時期は同気筒1の圧縮上死点前(BTDC)の圧縮行程中、正値である時期は圧縮上死点後(ATDC)の膨張行程中である。時点S1は一回目のメインの点火のタイミングを表し、時点S2は追加的な二回目の点火のタイミングを表している。一回目の点火タイミングは、従来の火花点火式内燃機関の制御と同様に決定することができる。その上で、一回目の点火に次ぐ二回目の点火のタイミングは、気筒1における質量燃焼割合(Mass Fraction Burnt)が所定値、例えば5%となるようなクランク角度以前に設定することが望ましい。MFBとは、気筒1内に供給される一サイクルあたりの燃料の質量に対する、燃焼した燃料の質量の比である。MFBは、例えば、クランク角度θの関数として下式で表される。
MFB=[1-cos{π(θ-θ0)/θb}]/2
ここで、θ0は燃焼の始まりのクランク角度であり、θbは燃焼の終わりのクランク角度である。図3中、A1はMFBが5%に達する時点を表し、A2はMFBが50%に達する時点を表す。二回目の点火タイミングのクランク角度はあまり変動せず、概ね常時一定である。
マルチ点火を実施するかしないかは、内燃機関の運転領域[エンジン回転数,サージタンク33内吸気圧(または、アクセル開度、エンジン負荷率、エンジントルク、気筒1に充填される吸気に占める新気の分圧、気筒1に充填される吸気量若しくは燃料噴射量)]に応じて定める。図4に、内燃機関の運転領域と、マルチ点火の実施の有無との関係を示す。エンジン回転数が比較的低く、かつアクセル開度が比較的小さい領域R1では、マルチ点火を実施する。
一方で、それよりもアクセル開度が大きい領域R2では、気筒1に充填される吸気量及び燃焼噴射量が多く(特に、高負荷域では、気筒1に新気が多く流入して相対的にEGRガスが少なくなる)、元来燃焼が不安定となりにくいので、マルチ点火を実施する必要性に乏しい。従って、マルチ点火を実施しない、即ち一つの気筒1の一度のサイクル中に一回だけ火花点火を実行するようにして、電力の消費及び点火コイル14の温度上昇、さらには点火プラグ12の電極の損耗を抑制する。また、エンジン回転数が比較的高い領域R3では、必然的に単位時間あたりの火花点火の実行頻度が高くなり、点火コイル14が過剰に昇温して熱害を受ける懸念が生ずるので、マルチ点火を実施しない。
図5に、マルチ点火を実施する場合の、火花点火装置における半導体スイッチ131の点弧/消弧、並びに点火コイル14の一次側コイル141及び二次側コイル142を流れる電流の推移を例示する。この図示例は、気筒1の同一サイクル中に合計で二回の点火を実行する態様である。図5中、時点T0は一回目の点火の準備として半導体スイッチ131を点弧し一次側コイル141への通電を開始する時点を表し、時点T1は一回目の点火のために半導体スイッチ131を消弧し一次側コイルへ141の通電を遮断する時点を表している。時点T1は、点火プラグ12の電極間での一回目の放電の開始時点、つまりは気筒1における一回目の点火タイミングに合致する。
その後の時点T3は、二回目の点火の準備として半導体スイッチ131を点弧し一次側コイル141への通電を再び開始する時点を表し、時点T4は二回目の点火のために半導体スイッチ131を消弧し一次側コイルへ141の通電を遮断する時点を表している。時点T4は、点火プラグ12の電極間での二回目の放電の開始時点、つまりは気筒1における二回目の点火タイミングに合致する。
本実施形態にあって、二回目の点火の準備として半導体スイッチ131を再点弧する時点T3は、直近の一回目の点火のための放電が終息する時点T2よりも早い。仮に、時点T3にて半導体スイッチ131を再点弧しないとすると、一回目の放電が継続されて、図5中に破線で描画しているように、二次側コイル142及び点火プラグ12の電極間の放電路を流れる電流の量が時間の経過に伴って減少してゆき、結果ある時点T2で0または0に近い極小値になるはずである。しかしながら、電流量が低減する放電の後期は、必ずしも気筒1内での燃料の着火燃焼に寄与しないため、電力の浪費であり、にもかかわらず放電を持続することで無為に点火プラグ12の電極を損耗させることにもなり得る。
そこで、本実施形態では、二次側コイル142または点火プラグ12の電極間の放電路を流れる電流の大きさがある量以下となる時点T3で、半導体スイッチ131を再点弧する。点火プラグ12の電極間での放電中に半導体スイッチ131を点弧すると、点火コイル14の一次側141への通電が再開され、点火プラグ12の中心電極に印加される電圧が低落して、電極間での放電が強制的に中断される。このとき、点火コイル14には、中断された先の放電のために誘起された余剰の磁束が残存している。いわば、次回の放電の惹起のために点火コイル14への通電を再開する時点T3で、既にある程度のエネルギが点火コイル14に蓄えられており、これを次回の放電に用いることができる。従って、次回の放電の惹起のために点火コイル14に通電する時間、即ち一次側コイル141を流れる一次電流を火花点火に必要な大きさまで増大させるための所要時間が短縮されるので、一回目の放電と二回目の放電との時間間隔が間延びせず、好適なタイミングで次回の放電を惹起することが可能となる。つまるところ、着火燃焼に必ずしも寄与しない放電の後期に費やされるエネルギを、次回の放電に充当することができる。
以降、本実施形態のECU0が点火タイミングを決定する手法に関して詳述する。図6に、ECUがプログラムに従い実行する処理の手順例を示す。各気筒1の膨脹行程ないし圧縮行程における火花点火のタイミングを決定するにあたり、ECU0は、はじめに、一回目の点火即ち放電のタイミングを決定する(ステップS1)。ステップS1では、従来の火花点火式内燃機関の制御と同様、内燃機関の運転領域に応じて一回目の点火タイミングを調整する。ECU0のメモリには予め、内燃機関の運転領域を表すパラメータ[エンジン回転数,サージタンク33内吸気圧(または、アクセル開度等)]と、一回目の点火タイミングとの関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、現在の内燃機関の運転領域をキーとして当該マップを検索し、一回目の点火タイミングを知得する。
次に、ECU0は、一回目の点火即ち放電の直後に追加的な点火即ち放電を行うマルチ点火を実施するか否かを判断する(ステップS2)。内燃機関の冷却水温が所定以上の高温である場合、吸気温が所定以上の高温である場合、または外気温が所定以上の高温である場合には、点火コイル14の過剰な昇温を避けるべくマルチ点火を実施しない。また、内燃機関の冷間始動後から所定時間内であり、かつ蓄電装置16の蓄電量、特にバッテリ電圧が所定以下である場合にも、マルチ点火を実施しない。点火コイル14の一次側141に印加される電圧が低いと、一次電流の増加の速度が遅くなるためである。蓄電装置16の現在の蓄電量は、電圧/電流信号eを参照して知得または推算することができる。
加えて、既に述べたとおり、マルチ点火を実施するべきかどうかは、内燃機関の運転領域に依存する。ECU0は、現在の内燃機関の運転領域が、エンジン回転数が比較的低くしかもサージタンク33内の吸気圧が比較的低い領域R1にある場合に限りマルチ点火を実施すると判断し、さもなくばマルチ点火を実施しないと判断する。例外的に、内燃機関の冷却水温が所定以下の極低温であるときや、内燃機関の冷間始動直後であり排気浄化用の触媒41の温度上昇を促進するべく一回目の点火タイミングを平常よりも遅角しているときには、マルチ点火を実施することがある。
ステップS2にてマルチ点火を実施するとの判断を下したECU0は、二回目以降の各回の点火即ち放電を惹起するための準備として点火コイル14の一次側コイル141に通電する各回の通電時間の長さを決定する(ステップS3)。各回の通電時間は、各回の点火のタイミングの前に半導体スイッチ131を点弧してからこれを消弧するまでの時間を意味する。半導体スイッチ131の消弧が、当該回の点火のタイミングに合致することは言うまでもない。本実施形態では、メインの点火の後に、最大で三回の点火を追加することとなる。よって、ステップS3では、図7に示すように、それら追加的な点火の各回の準備となる通電時間、即ち二回目の点火前の通電時間tonmulti1、三回目の点火前の通電時間tonmulti2、及び四回目の点火前の通電時間tonmulti3をそれぞれ設定する。尤も、後述するように、メインの点火の後に必ず三回点火を追加するとは限らない。各回の通電時間tonmulti1、tonmulti2、tonmulti3は、同等の値となることもあれば、互いに異なる値となることもある。なお、図7中のtonは、メインとなる一回目の点火前の通電時間であり、従来の火花点火式内燃機関の制御と同様に、一回目の点火タイミングの時点で必要な一次電流が確保されるのに十分な長さに設定すればよい。追加の点火のための各回の通電時間tonmulti1、tonmulti2、tonmulti3は、メインの点火のための通電時間tonよりも短くなることが多い。
ECU0のメモリには予め、内燃機関の運転領域を表すパラメータ[エンジン回転数,サージタンク33内吸気圧(または、アクセル開度等)]と、各回の点火前の通電時間の基本値との関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、現在の内燃機関の運転領域をキーとして当該マップを検索し、各回の点火前の通電時間の基本値を知得する。通電時間の長さは、エンジン回転数が高いほど短くなる傾向にある。これは、エンジン回転数が高いほど内燃機関のクランクシャフトの角速度が速いこと、及び単位時間あたりの点火回数が多くなり点火コイル14の発熱量が増すことによる。
一方で、各回の点火前の通電時間の長さは、その点火の際の点火プラグ12の電極間の電気抵抗の大きさに応じて拡縮する。電極間の抵抗が大きいほど、放電を開始するべく電極間で絶縁破壊を起こすために多くのエネルギが必要になるからである。点火プラグ12の電極間の電気抵抗は、気筒1内に充填された新気の量が大きいほど、また新気の分圧が高いほど大きくなる。ステップS3にて設定する各回の点火前の通電時間は、エンジン回転数が同等であるという条件の下では、点火を実行するのと同じサイクルの(即ち、点火前の直近の)吸気行程におけるサージタンク33内吸気圧が高いほど長く、同サイクルの吸気行程において気筒1に流入する吸気量(または、新気量)が多いほど長く、またはアクセル開度が大きいほど長くなる。
ステップS3にて、ECU0は、現在の内燃機関の運転領域に応じた通電時間の基本値に、現在の蓄電装置16の蓄電量またはバッテリ電圧に応じた補正を加える。点火コイル14の一次側を流れる一次電流の増加速度は、一次側コイル141への印加電圧に依存し、印加電圧が高いほど一次電流の増加速度が速く、逆に印加電圧が低いほど一次電流の増加速度が遅くなる。つまり、印加電圧が低いときには、火花点火前により長い時間一次側コイル141に通電する必要性が生じる。このことから、現在の蓄電装置16の蓄電量またはバッテリ電圧が低いほど、各回の点火前の通電時間を延長するように補正する。
但し、各回の点火前の一次側コイルへ141の通電時間に対しては、予め上限値及び/または下限値を設けておく。そして、基本値に補正を加えた結果の通電時間が上限値を上回る場合には通電時間を上限値にクリップし、また基本値に補正を加えた結果の通電時間が下限値を下回る場合には通電時間を下限値にクリップする。通電時間に上限値を設けるのは、点火コイル14の発熱量を抑制してその熱害を予防する意図である。通電時間に下限値を設けるのは、点火プラグ12の電極間に放電を惹起するのに最低限必要な大きさの二次電圧を二次側コイル142に誘起するべく、一次側コイル141を流れる一次電流を増大させる通電時間を確保する意図である。二次側コイル142から点火プラグ12の中心電極に印加できる電圧の大きさは、一次側コイル141への通電を遮断する直前の一次電流の大きさによって決まる。一次電流が小さいと、二次電圧も小さくなり、点火プラグ12の電極間の絶縁破壊に至らずに無放電となってしまう。
引き続き、ECU0は、メインとなる一回目の点火のための放電を持続する時間の長さ、及びこれに追加される二回目以降の点火のための放電を持続する時間の長さを決定する(ステップS4)。各回の放電持続時間は、各回の点火のタイミングにて半導体スイッチ131を消弧してからこれを再び点弧するまでの時間を意味する。放電持続時間を短縮し、放電が未だ終息していない時点で半導体スイッチ131を再点弧するようにすれば、当該回の放電が中途で打ち切られる。本実施形態では、メインの点火の後に、最大で三回の点火を追加する。よって、ステップS4では、図7に示すように、それら追加的な点火の前に実行する各回の点火の放電持続時間、即ち一回目の点火の放電持続時間tonintm、二回目の点火の放電持続時間tonint1、及び三回目の点火の放電持続時間tonint2をそれぞれ設定する。尤も、メインの点火の後に必ず三回点火を追加するとは限らない。各回の通電時間tonintm、toninto1、tonint2は、同等の値となることもあれば、互いに異なる値となることもある。追加の点火の放電持続時間tonint1、tonint2は、メインの点火の放電持続時間tonintomよりも短くなることが多い。なお、図7中のtonint3は、追加の点火のうちの最終回である追加の三回目の点火、メインの点火を含む全体では四回目の点火の放電持続時間であり、従来の火花点火式内燃機関の制御と同様に放電が終息するまで継続してもよいし、点火プラグ12の電極の損耗を少しでも抑制するべくその終息前に半導体スイッチ131を再点弧して中断してしまってもよい。
ECU0のメモリには予め、内燃機関の運転領域を表すパラメータ[エンジン回転数,サージタンク33内吸気圧(または、アクセル開度等)]と、各回の点火の放電持続時間の基本値との関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、現在の内燃機関の運転領域をキーとして当該マップを検索し、各回の点火の放電持続時間の基本値を知得する。放電持続時間の長さは、エンジン回転数が高いほど短くなる傾向にある。これは、エンジン回転数が高いほど内燃機関のクランクシャフトの角速度が速いことによる。
また、放電持続時間の長さは、火花点火のための放電の開始後、二次側コイル142及び点火プラグ12の電極間の放電路を流れる電流の量が減少する速さに応じて拡縮する。電流量が低減する放電の後期は、必ずしも気筒1内での燃料の着火燃焼に寄与しないため、その後期の放電は持続させずに打ち切ってしまって構わない。従って、放電の電流量の減少速度が速いほど、放電持続時間を短縮する。
放電中の電流量の減少する速度は、点火プラグ12の電極間の電気抵抗に依存する。電極間の放電で消費されるエネルギは、点火プラグ12の電極に印加される二次電圧と電極を流れる二次電流との積の時間積分である。電極間で放電が開始されるときの二次電流の大きさは点火コイル14の特性に依拠し、放電が開始されるときの二次電圧の大きさは電極間の抵抗が大きいほど大きくなる。そして、電極間の抵抗が大きいほど、点火コイル14に蓄えられたエネルギの消費が早まり、二次電流及び二次電圧の減少の速度が増す。その上、電極間の抵抗が大きいほど、放電を開始するべく電極間で絶縁破壊を起こすために多くのエネルギが必要になり、その分二次電流が早く低減することとなる。
点火プラグ12の電極間の電気抵抗は、気筒1内に充填された新気の量が大きいほど、また新気の分圧が高いほど大きくなる。ステップS4にて設定する点火の放電持続時間は、エンジン回転数が同等であるという条件の下では、点火を実行するのと同じサイクルの(即ち、点火前の直近の)吸気行程におけるサージタンク33内吸気圧が高いほど短く、同サイクルの吸気行程において気筒1に流入する吸気量(または、新気量)が多いほど短く、またはアクセル開度が大きいほど短くなる。
さらに、点火プラグ12の電極間の電気抵抗は、気筒1内に存在する燃料の量が少ないほど、またEGRガスの分圧が低いほど大きくなる。これは、未燃燃料または既燃燃料の成分にイオンが含まれることが一因である。ステップS4にて設定する点火の放電持続時間は、エンジン回転数並びに上掲の吸気圧、吸気量若しくはアクセル開度が同等であるという条件の下では、点火を実行するのと同じサイクルにおいて気筒1に供給される燃料の量が少ないほど若しくは気筒1に充填される吸気の空燃比が大きいほど短く、または同サイクルの吸気行程において気筒1に充填される吸気に占めるEGRガスの割合であるEGR率が小さいほど短くなる。
同じ考え方に基づき、他の条件が同等である下で、点火を実行するのと同じサイクルの吸気行程において気筒1に充填される吸気の温度が低いほど放電持続時間を短縮したり、内燃機関の冷却水温が低いほど放電持続時間を短縮したりすることもできる。また、他の条件が同等である下で、同サイクルの吸気行程において気筒1に充填される吸気の湿度が低いほど放電持続時間を短縮することもあり得よう。だが、吸気の湿度が増すと点火プラグ12の電極の温度が低下して放電開始時の二次電圧が大きくなることに鑑みれば、吸気の湿度に応じて放電持続時間を調整しなくてもよいかもしれない。
ステップS3にて各回の通電時間を決定し、ステップS4にて各回の放電持続時間を決定した結果として、各回の点火のタイミングが定まる。ECU0は、現在のエンジン回転数から、各回の通電時間及び放電持続時間をクランク角度に換算し、各回の点火タイミングのクランク角度を算出する(ステップS5)。
しかして、ECU0は、現在の状況に応じて、メインとなる一回目の点火の後に何回の点火を追加的に実行するかを決定する(ステップS6)。具体的には、EGR装置2におけるEGRバルブ23を開弁して外部EGRを実施しているか、エンジン回転数がある程度(例えば、1000rpmないし1200rpm)以上に高まっておりVVT機構5により吸気バルブの開閉タイミングを進角させて内部EGRを実施しているときに、追加の点火を所定回数(例えば、二回。その場合、四回目の点火はキャンセルとなる)実行することとする。そうでなくとも、内燃機関の冷却水温が所定以下の極低温であるときには、追加の点火を最大回数(三回)実行することとする。あるいは、内燃機関の冷間始動直後であり触媒41の温度上昇を促進するべく一回目の点火タイミングを平常よりも遅角しているときには、追加の点火を所定回数(例えば、二回)実行することとする。これらの何れにも当てはまらないときには、追加の点火を最小回数(例えば、一回)実行するか、追加の点火を実行しないこととする。
なおかつ、ECU0は、追加の点火によって不適切なアフタファイヤまたはバックファイヤが発生することを抑止するべく、不適切なアフタファイヤまたはバックファイヤを起こさずに済む最も遅い点火タイミングのクランク角度の閾値を設定し、この閾値よりも遅角したタイミングで点火するような回の点火をキャンセルする(ステップS7)。ECU0のメモリには予め、内燃機関の運転領域を表すパラメータ[エンジン回転数,吸気に占める新気の分圧(または、アクセル開度等)]と、点火タイミングのクランク角度の閾値との関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、現在の内燃機関の運転領域をキーとして当該マップを検索し、点火タイミングのクランク角度の閾値を知得する。そして、ステップS5にて算出した各回の点火タイミングのクランク角度をそれぞれ閾値と比較し、閾値よりも点火タイミングが遅くなるような回の点火をキャンセルするものと決定する。このステップS7を通じて、メインの点火に追加する点火の回数が最終的に確定する。その回数は、ステップS6にて決定した点火の回数よりも減少することがあり得る。
マルチ点火を実施しない場合には、従来の火花点火式内燃機関の制御と同様に、一つの気筒1の一度のサイクル中に、メインとなる一回目の火花点火のみを実行することとなる。
本実施形態では、点火コイル14(の一次側141)に通電後その通電を遮断することで(二次側142に)生じる誘導電圧を点火プラグ12の電極に印加しその電極間に放電を惹起する火花点火式内燃機関を制御する制御装置0であって、一つの気筒1の一度のサイクル中に点火を目的として二回以上の放電を実行するものであり、その一回目の放電が持続している間に点火コイル14(の一次側141)への通電を再開して一回目の放電を中断しかつ二回目の放電の実行に備え、エンジン回転数が同等であるという条件の下で、あるサイクル中の一回目の放電の開始から中断までの持続時間を、当該サイクルの吸気行程における吸気圧が高いほど短縮し、当該サイクルの吸気行程において気筒1に流入する吸気量が多いほど短縮し、若しくはアクセル開度が大きいほど短縮する内燃機関の制御装置0を構成した。
本実施形態によれば、メインとなる一回目の火花点火により気筒1内の燃料または混合気に着火し、さらにその上に二回目以降の火花点火を追加的に実行することで、燃焼を従来よりも安定化させることができる。このようなマルチ点火により、失火のおそれが低下する、即ち失火に対する耐力が向上するため、吸気のEGR率を従来よりも高めることが可能となり、及び/または、従来であればEGRを行い得なかった運転領域においてもEGRを行うことが許容されて、内燃機関の燃費性能の一層の向上やエミッションの良化を見込める。
しかも、本実施形態によれば、着火燃焼に必ずしも寄与しない放電の後期に費やされるエネルギを次回の点火の放電に充当することが可能であり、エネルギを効率的に利用できる。そして、二回目以降の放電の惹起のために点火コイル14(の一次側141)に通電する時間の長さが短縮され、一回目の放電と二回目以降の放電との時間間隔が間延びせず、好適なタイミングで二回目以降の放電を惹起することが可能となって、内燃機関の熱機械変換効率が向上する。
放電中に点火コイル14(の二次側142)及び点火プラグ12の電極間の放電路を流れる電流の量が減少する速さは、気筒1内の吸気圧や気筒1に充填された吸気量に応じて変動する。即ち、吸気圧が高いほど、また吸気量が多いほど、電流量の減少が速くなる。そこで、先の回の放電の開始から中断までの持続時間を、吸気圧が高いほど、吸気量が多いほど、若しくはアクセル開度が大きいほど短縮して、先の回の放電を中断するタイミングを早める。
加えて、放電中に点火コイル14及び点火プラグ12の電極間の放電路を流れる電流の量が減少する速さは、気筒1に充填される混合気の空燃比やEGRガス量によっても変動する。これらは、気筒1内に存在するイオンの量に影響を及ぼし、点火プラグ12の電極間の電気抵抗を増減させる。原理的に、気筒1内に存在する燃料やEGRガスの量が少ないほど、電流量の減少が速くなる。そこで、先の回の放電の開始から中断までの持続時間を、気筒1に供給される燃料の量が少ないほど若しくは気筒1に充填される吸気の空燃比が大きいほど短縮し、及び/または、吸気に占めるEGRガスの割合であるEGR率が小さいほど短縮して、先の回の放電を中断するタイミングを早める。
並びに、本実施形態では、点火コイル14に通電後その通電を遮断することで生じる誘導電圧を点火プラグ12の電極に印加しその電極間に放電を惹起する火花点火式内燃機関を制御する制御装置0であって、一つの気筒1の一度のサイクル中に点火を目的として二回以上の放電を実行するものであり、その二回目以降の放電に備えた点火コイル14への通電時間の長さを、エンジン回転数が同等であるという条件の下で、当該サイクルの吸気行程における吸気圧が高いほど延長し、当該サイクルの吸気行程において気筒1に流入する吸気量が多いほど延長し、若しくはアクセル開度が大きいほど延長するとともに、前記吸気圧、前記吸気量若しくは前記アクセル開度が同等であるという条件の下で、エンジン回転数が高いほど短縮する内燃機関の制御装置0を構成した。
本実施形態によれば、マルチ点火を実施するにあたり、二回目以降の各回の点火即ち放電前に点火コイル14の一次側コイル141に通電する時間の長さを適正化ないし最適化することができる。本実施形態の内燃機関の制御装置0は、点火の際の点火プラグ12の電極間の電気抵抗が大きくなるほど、点火前の点火コイル14への通電時間を延長し、確実に二回目以降の放電を惹起せしめる。それとともに、エンジン回転数が高いほど、点火前の点火コイル14への通電時間を短縮するように調整するので、二回目以降の点火のタイミングが徒に遅延することを回避し、最適なタイミングで各回の点火を実行することが可能となる。この結果、二回目以降の点火が気筒1内の燃料または混合気の着火燃焼に寄与し、電気エネルギの浪費が避けられ、かつ内燃機関の熱機械変換効率の一層の向上を期待できる。
しかも、本実施形態の内燃機関の制御装置0は、二回目以降の放電に備えた点火コイル14への通電時間の長さを、エンジン回転数並びに吸気圧、吸気量若しくはアクセル開度が同等であるという条件の下で、点火コイル14に通電する際に点火コイル14に印加される電圧が低いほど延長する。より具体的には、電源となる蓄電装置16の現在の蓄電量またはバッテリ電圧が低いほど通電時間を延長する。従って、内燃機関及び車両の運用中に刻々と変動する蓄電装置16の蓄電量による影響を吸収して、点火前に点火コイル14に必要なエネルギをチャージすることが可能となり、バッテリ電圧の低下に起因する点火の失敗ひいては着火燃焼の悪化を防止することができる。
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、内燃機関の吸気通路を気筒に向かって流れる吸気(または、新気)の流量を検出可能なエアフローメータが実装されているならば、このエアフローメータを介して計測される吸気量(新気量)に応じて、あるサイクル中の一回目の点火のための放電の開始から中断までの持続時間や、二回目以降の点火前の点火コイル14のへの通電時間の長さを調整することができる。
その他、各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。