以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸、及び、それに対応するメタクリル酸の総称を表し、「(メタ)アクリレート」等の他の類似の表現においても同様である。
本実施形態に係る印刷物の製造方法は、解像度1000dpi以上のインクジェット記録方式で被記録媒体(被印刷体)にインクを印刷することにより印刷物を得る印刷工程を備え、前記印刷工程において、インクジェットヘッドのインク吐出口と前記被記録媒体との最短距離Dが2mm以上であり、前記インクが顔料及び樹脂成分を含有し、前記顔料及び前記樹脂成分の合計量が前記インクの全量に対して0質量%を超え13質量%以下であり、前記インクの32℃における粘度が5mPa・s以下である。
このような印刷物の製造方法によれば、解像度1000dpi以上のインクジェット記録方式(インクジェット印刷法)においてインクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との距離が長い場合(最短距離が2mm以上の場合)であっても、スジ状の印刷不良が発生することを抑制できると共に、優れた吐出安定性を得ることができる。
インクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との距離が短い場合(例えば最短距離が1mmの場合)には、インク液滴のヨレが生じたとしても、インクの着弾位置が被記録媒体の印刷対象位置から乖離しにくい。一方、インクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との距離が長い場合(最短距離が2mm以上の場合)、インク液滴の飛行距離が長いため、インクの着弾位置が被記録媒体の印刷対象位置から乖離しやすい。
また、解像度が1000dpi以上である場合、インクの液滴のサイズが小さいことからインク吐出ノズルの近傍でインクが乾燥しやすいことにより不具合が生じやすい。また、液滴サイズが小さいために、インクの着弾位置がわずかにずれた場合にスジ状の印刷不良が発生しやすい。
これらに対し、本実施形態では、顔料及び樹脂成分の合計量が上記範囲であると共にインクの粘度が上記範囲であることにより、インク吐出ノズルの近傍でインクが乾燥することを防止できるため、被記録媒体の印刷対象位置へインクを着弾させる精度(吐出の直進性)が向上する。また、液滴の吐出速度が向上すると共に、着弾後の乾燥時のインクの濡れ広がりが好適となる。これらにより、スジ状の印刷不良が発生することを抑制できる。
また、顔料及び樹脂成分の合計量が上記範囲であることにより、前述のとおりインクの乾燥を防止しやすいため、長期印刷試験における吐出安定性が低下することが抑制される。これにより、優れた吐出安定性を得ることができる。
但し、上記効果が得られる要因は当該要因に限定されない。
従来、被記録媒体として、インク中の溶媒を吸収しにくい着色層が板紙の表面に設けられた段ボールや、プラスチックフィルム等の、非吸収性又は難吸収性(緩吸収性)の被記録媒体を用いた場合、着弾したインクが被記録媒体に吸収されにくく、かつ、被記録媒体の表面で濡れ広がりにくいため、スジ状の印刷不良が発生しやすい。一方、本実施形態によれば、非吸収性又は難吸収性の被記録媒体を用いる場合であってもスジ状の印刷不良が発生することを抑制できる。
さらに、本実施形態では、最短距離Dが2mm以上であることにより、被記録媒体が大きく反りやすいものであっても、被記録媒体の表面(記録面)とインク吐出口とが接触することを防止し、インク吐出口の損傷や、インク吐出口が備える場合の多い撥水機能の低下に起因したインク吐出不良を効果的に防止することができる。
最短距離Dは、3mm以上であってよい。最短距離Dは、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点から、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。最短距離Dは、インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)の垂線(面(x)に対して仮定した垂線)と被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離(ギャップ)であってよい。
インクジェット記録方式における解像度は、印刷物の画質が向上する観点から、1100dpi以上であってよく、1200dpi以上であってよい。インクジェット記録方式における解像度は、2400dpi以下であってよい。
本実施形態では、解像度1000dpi以上のインクジェット記録方式においてインク1滴の吐出量は、0.5~5pL以下が好ましく、0.5~3pL以下がより好ましく、0.5~2PL以下が更に好ましい。吐出量が小さいと、高精彩の画像が得られるため、小液滴が好適である。
印刷工程における被記録媒体(例えば被記録媒体の記録面)は、温められていてよい。また、本実施形態に係る印刷物の製造方法は、印刷工程の後に、被記録媒体(例えば被記録媒体の記録面)を温める加熱工程を備えていてよい。これらの場合における被記録媒体の温度は、インクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との距離が長い場合であっても、被記録媒体の表面にインクが着弾する際にスジや混色の発生が抑制された印刷物を製造しやすい観点から、20~80℃が好ましく、25~80℃がより好ましく、40~80℃が更に好ましく、40~60℃が特に好ましく、40~50℃が極めて好ましい。被記録媒体の温度は、意図的に温められることなくこれらの温度を有していてもよい。
被記録媒体の温度の調整方法としては、例えば、被記録媒体の印刷面側(上面側)、下面側又は側面側から、直接、赤外線、マイクロ波等を照射し加温する方法;赤外線、マイクロ波等によって加温された風を当てることによって加温する方法などが挙げられる。また、前記調整方法としては、例えば、被記録媒体が載置されるステージ、搬送台又は搬送ロール等が、電熱線、赤外線、マイクロ波、温風等によって加温され、その熱が被記録媒体に伝熱させる方法が挙げられる。具体的には、前記調整方法としては、電熱線等による加熱手段が設けられた搬送ロール(ヒートローラー)、搬送台、ステージ等を使用する方法が挙げられる。
赤外線を用いた加熱方法としては、例えば、タングステン線を用いたハロゲンヒーター、ニクロム線を用いた石英管ヒーター、カーボンヒーター等を備えた放射熱型乾燥機を使用する方法が挙げられ、中でも、放射率の高い短波長赤外線ヒーター、中波長赤外線ヒーター、中波長カーボンヒーター等を備えた放射熱型乾燥機を使用する方法が好ましい。
本実施形態に係るインク(本実施形態に係る印刷物の製造方法におけるインクジェット記録方式で使用可能なインク)の32℃における粘度は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制する観点から、5mPa・s以下である。インクの粘度は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点から、5mPa・s未満が好ましく、4.5mPa・s以下がより好ましく、4mPa・s以下が更に好ましく、3.7mPa・s以下が特に好ましく、3.6mPa・s以下が極めて好ましい。インクの粘度は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点から、1mPa・s以上が好ましく、1.5mPa・s以上がより好ましく、2mPa・s以上が更に好ましく、2.5mPa・s以上が特に好ましく、3mPa・s以上が極めて好ましい。これらの観点から、インクの粘度は、1~5mPa・sが好ましく、2~4mPa・sがより好ましい。
インクの粘度は、E型粘度計に相当する円錐平板形(コーン・プレート形)回転粘度計を使用し、下記条件にて測定できる。
測定装置:TVE-25形粘度計(東機産業株式会社製、TVE-25 L)
校正用標準液:JS20
測定温度:32℃
回転速度:10~100rpm
注入量:1200μL
本実施形態に係るインクの静的表面張力は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点から、25mN/m以上が好ましく、26mN/m以上がより好ましく、28mN/m以上が更に好ましく、28.5mN/m以上が特に好ましい。インクの静的表面張力は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点から、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましく、31mN/m以下が更に好ましく、30mN/m以下が特に好ましく、29.5mN/m以下が極めて好ましく、29mN/m以下が非常に好ましい。これらの観点から、インクの静的表面張力は、25~35mN/mが好ましい。インクの静的表面張力は、25℃における静的表面張力である。アセチレン系界面活性剤を使用することによって前述の好適な表面張力が得られやすい。
インクの静的表面張力は、ウィルへルミ法を適用した自動表面張力計を使用し、下記条件にて測定できる。
測定装置:自動表面張力計(協和界面科学株式会社製、CBVP-Z型)
測定温度:25℃
測定子:白金プレート
本実施形態に係るインクのpHは、インクの保存安定性及び吐出安定性を向上させやすく、インク非吸収性又は難吸収性の被記録媒体に印刷した際の濡れ広がり、印字濃度、耐擦過性を向上させやすい観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.5以上、更に好ましくは8.0以上である。本実施形態に係るインクのpHの上限は、インクの塗布又は吐出装置を構成する部材(インク吐出口、インク流路等)の劣化を抑制しやすく、かつ、インクが皮膚に付着した場合の影響を小さくしやすい観点から、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは10.0以下である。
本実施形態に係るインクは、インクジェットインクとして用いることができる。本実施形態に係るインクは、顔料及び樹脂成分を含有する。顔料は樹脂成分で被覆されていてもよい。
顔料としては、特に限定はなく、水性グラビアインクや水性インクジェット記録用インクにおいて通常使用される無機顔料又は有機顔料を使用することができる。無機顔料としては、例えば、酸化鉄や、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の方法で製造されたカーボンブラックなどを使用することができる。有機顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料等)、レーキ顔料(塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。顔料としては、未酸性処理顔料及び酸性処理顔料のいずれも使用することができる。
前記顔料のうち、ブラックインクに使用可能なカーボンブラックとしては、例えば、三菱化学株式会社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.960、No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等;デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等を使用することができる。
イエローインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。マゼンタインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、176、184、185、202、209、269、282等;C.I.ピグメントバイオレット19などが挙げられる。シアンインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、16、22、60、63、66等が挙げられる。
白インクに使用可能な顔料の具体例としては、シリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。これらは表面処理されていてもよい。
顔料は、インク中に安定に存在させるために、水性媒体に良好に分散させる手段を講じてあることが好ましい。前記手段としては、例えば、(i)顔料を顔料分散剤と共に、後述の分散方法で水性媒体中に分散させる方法;(ii)顔料の表面に分散性付与基(親水性官能基及び/又はその塩)を、直接に、又は、アルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させた自己分散型顔料を水性媒体に分散及び/又は溶解させる方法が挙げられる。
自己分散型顔料としては、例えば、顔料に物理的処理又は化学的処理を施し、分散性付与基、又は、分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させたものを使用することができる。自己分散型顔料は、例えば、真空プラズマ処理、次亜ハロゲン酸及び/又は次亜ハロゲン酸塩による酸化処理;オゾンによる酸化処理;水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法;p-アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることにより、フェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等によって製造することができる。
自己分散型顔料を含有する水性インクは、顔料分散剤を含む必要がないため、顔料分散剤に起因する発泡等がほとんどなく、吐出安定性に優れたインクを調製しやすい。また、自己分散型顔料を含有する水性インクは、取り扱いが容易で、顔料分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため、顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度の高い印刷物の製造に使用することができる。
自己分散型顔料としては、市販品を利用することも可能であり、そのような市販品としては、マイクロジェットCW-1(商品名、オリヱント化学工業株式会社製)、CAB-O-JET200、CAB-O-JET300(以上、商品名、キャボット社製)等が挙げられる。
顔料の含有量は、スジの発生を防止しやすい観点、及び、顔料の優れた分散安定性を維持し、かつ、印刷物の印字濃度や耐擦過性を向上させやすい観点から、インクの全量に対して、0.5~20質量%が好ましく、0.5質量%を超え20質量%以下がより好ましく、1~20質量%が更に好ましく、1.5~15質量%が特に好ましく、2~10質量%が極めて好ましく、3~8質量%が非常に好ましく、3~6質量%がより一層好ましい。
樹脂成分としては、顔料分散剤、バインダー樹脂等が挙げられる。
顔料分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール類;ポリビニルピロリドン類;アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等のアクリル樹脂;スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等のスチレン-アクリル樹脂;スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体等の水性樹脂;前記水性樹脂の塩などを使用することができる。顔料分散剤としては、味の素ファインテクノ株式会社製品のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン株式会社製のDisperbykシリーズ、BASF社製のEFKAシリーズ、日本ルーブリゾール株式会社製のSOLSPERSEシリーズ、エボニック社製のTEGOシリーズ等を使用することができる。
顔料分散剤としては、粗大粒子を著しく低減でき、その結果、インクをインクジェット記録方式で吐出する場合に求められる良好な吐出安定性を付与しやすい観点から、下記ポリマーPが好ましい。
ポリマーPとしては、アニオン性基を有するものを使用することができる。中でも、水への溶解度が0.1g/100mL以下であり、かつ、塩基性化合物による前記アニオン性基の中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成可能な数平均分子量1000~6000のポリマーを使用することが好ましい。
ポリマーPの水への溶解度は、次のように定義できる。すなわち、まず、目開き250μm及び90μmの篩を用いて250μm~90μmの範囲に粒子径を整えたポリマーP0.5gを、400メッシュ金網を加工した袋に封入し、水50mLに浸漬、25℃の温度下で24時間緩やかに攪拌放置する。24時間浸漬後、ポリマーPを封入した400メッシュ金網を、110℃に設定した乾燥機で2時間乾燥させる。ポリマーPを封入した400メッシュ金網の水浸漬前後の質量の変化を測定し、次式により溶解度を算出する。
溶解度[g/100mL]=(浸漬前のポリマー封入400メッシュ金網[g]-浸漬後のポリマー封入400メッシュ金網[g])×2
また、塩基性化合物によるアニオン性基の中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成するか否かは、次のように判断できる。
(1)ポリマーPの酸価を予め、JIS試験方法K 0070-1992に基づく酸価測定方法により測定する。具体的には、テトラヒドロフランにポリマーP0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することにより酸価を求める。
(2)水50mLに対してポリマーPを1g添加後、得られた酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和とする。
(3)100%中和させた液を、25℃の温度下で、2時間超音波洗浄器(株式会社エスエヌディ製、超音波洗浄器US-102、38kHz自励発振)中で超音波を照射させた後、24時間室温で放置する。
24時間放置後、液面から2cmの深さにある液をサンプル液として、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA-ST150」)を用い、微粒子形成による光散乱情報が得られるか判定することにより、微粒子が存在するか確認する。
前記微粒子の粒子径は、ポリマーPが形成する微粒子の水中での安定性をより一層向上させる観点から、5~1000nmが好ましく、7~700nmがより好ましく、10~500nmが更に好ましい。また、前記微粒子の粒度分布は、狭いほうがより分散安定性に優れる傾向にあるが、粒度分布が広い場合であっても、従来よりも優れた分散安定性を備えたインクを得ることができる。なお、前記粒子径及び粒度分布は、前記微粒子の測定方法と同様に、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA-ST150」)を用いて測定できる。
ポリマーPの中和率は、次式により決定できる。
中和率(%)={(塩基性化合物の質量[g]×56×1000)/(ポリマーPの酸価[mgKOH/g]×塩基性化合物の当量×ポリマーPの質量[g])}×100
ポリマーPの酸価は、JIS試験方法K 0070-1992に基づいて測定できる。具体的には、テトラヒドロフランに試料0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することにより求めることができる。
ポリマーPの数平均分子量は、水性媒体中における顔料等の色材の凝集などを効果的に抑制でき、色材の良好な分散安定性を備えたインクを得やすい観点から、1000~6000が好ましく、1300~5000がより好ましく、1500~4500が更に好ましい。なお、数平均分子量は、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)によって測定されるポリスチレン換算の値とし、具体的には以下の条件で測定した値とする。
[数平均分子量(Mn)の測定方法]
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用する。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成する。
{標準ポリスチレン}
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
ポリマーPとしては、水に対し、未中和の状態では不溶又は難溶性であり、かつ、100%中和された状態では微粒子を形成するポリマーを使用することができ、親水性基であるアニオン性基のほかに疎水性基を1分子中に有するポリマーを用いることができる。
このようなポリマーとしては、例えば、疎水性基を有するポリマーブロックと、アニオン性基を有するポリマーブロックと、を有するブロックポリマーが挙げられる。ポリマーPにおいて、前記アニオン性基の数及び水への溶解度は、必ずしも、酸価や、ポリマー設計時のアニオン性基の数で特定されるものではなく、例えば、同一の酸価を有するポリマーであっても、分子量の低いものは水への溶解度が高くなる傾向にあり、分子量の高いものは水への溶解度は下がる傾向にある。このことから、ポリマーPを水への溶解度で特定する。
ポリマーPは、ホモポリマーであってもよいが、共重合体であることが好ましく、ランダムポリマーであっても、ブロックポリマーであっても、交互ポリマーであってもよいが、中でもブロックポリマーであることが好ましい。また、ポリマーPは、分岐ポリマーであってもよいが、直鎖ポリマーであることが好ましい。
ポリマーPは、設計の自由度からビニルポリマーであることが好ましく、所望される分子量や溶解度特性を有するビニルポリマーを製造する方法として、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、及び、リビングアニオン重合といった「リビング重合」を用いることにより製造することが好ましい。
中でも、ポリマーPは(メタ)アクリレートモノマーを原料の1つとして用いて製造されるビニルポリマーであることが好ましく、そのようなビニルポリマーの製造方法としては、リビングラジカル重合又はリビングアニオン重合が好ましく、さらに、ブロックポリマーの分子量や各セグメントをより精密に設計できる観点から、リビングアニオン重合が好ましい。
リビングアニオン重合によって製造されるポリマーPとしては、具体的には、下記一般式(c1)で表されるポリマーを用いることができる。
一般式(c1)中、A1は、有機リチウム開始剤残基を表し、A2は、疎水性基を有するポリマーブロックを表し、A3は、アニオン性基を有するポリマーブロックを表し、nは、1~5の整数を表し、Bは、芳香族基又はアルキル基を表す。
一般式(c1)中、A1は、有機リチウム開始剤残基を表す。有機リチウム開始剤(重合開始剤)の具体例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム(n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、iso-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウムなど)、ペンチルリチウム、へキシルリチウム、メトキシメチルリチウム、エトシキメチルリチウム等のアルキルリチウム;ベンジルリチウム、α-メチルスチリルリチウム、1,1-ジフェニル-3-メチルペンチルリチウム、1,1-ジフェニルヘキシルリチウム、フェニルエチルリチウム等のフェニルアルキレンリチウム;ビニルリチウム、アリルリチウム、プロペニルリチウム、ブテニルリチウム等のアルケニルリチウム;エチニルリチウム、ブチニルリチウム、ペンチニルリチウム、ヘキシニルリチウムなどのアルキニルリチウム;フェニルリチウム、ナフチルリチウム等のアリールリチウム;2-チエニルリチウム、4-ピリジルリチウム、2-キノリルリチウム等のヘテロ環リチウム;トリ(n-ブチル)マグネシウムリチウム、トリメチルマグネシウムリチウム等のアルキルリチウムマグネシウム錯体などが挙げられる。
有機リチウム開始剤では、有機基とリチウムとの結合が開裂し有機基側に活性末端が生じ、そこから重合が開始される。したがって、得られるポリマー末端には有機リチウム由来の有機基が結合している。本明細書においては、当該ポリマー末端に結合した有機リチウム由来の有機基を「有機リチウム開始剤残基」と称する。例えば、メチルリチウムを開始剤として使用したポリマーであれば、有機リチウム開始剤残基はメチル基となり、ブチルリチウムを開始剤として使用したポリマーであれば、有機リチウム開始剤残基はブチル基となる。
一般式(c1)中、A2は、疎水性基を有するポリマーブロックを表す。A2は、前述のとおり適度な溶解性のバランスを取る目的の他、顔料と接触したときに顔料への吸着の高い基であることが好ましく、同様の観点から、A2は、芳香環又は複素環を有するモノマー由来の構造単位を有するポリマーブロックであることが好ましい。芳香環又は複素環を有するモノマー由来の構造単位を有するポリマーブロックとは、具体的には、スチレン系モノマー等の、芳香族環を有するモノマーや、ビニルピリジン系モノマー等の、複素環を有するモノマーを単独重合又は共重合して得たホモポリマー又はコポリマーのポリマーブロックである。
芳香環を有するモノマーとしては、スチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-(1-エトキシメチル)スチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フロロスチレン、α-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン等のスチレン系モノマーや、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられる。複素環を有するモノマーとしては、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のビニルピリジン系モノマーなどが挙げられる。芳香環又は複素環を有するモノマーのそれぞれは、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
一般式(c1)中、A3は、アニオン性基を有するポリマーブロックを表す。A3は、前述のとおり適度な溶解性を与える目的の他、顔料分散体となったときに水中で分散安定性を付与する目的がある。
ポリマーブロックA3におけるアニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基等が挙げられる。中でも、その調製し易さ、モノマー品種の豊富さ、入手し易さ等の観点から、カルボキシル基が好ましい。また、2つのカルボキシル基が分子内又は分子間において脱水縮合した酸無水基となっていてもよい。
A3のアニオン性基の導入方法は特に限定はなく、例えば、アニオン性基がカルボキシル基の場合は、(メタ)アクリル酸を単独重合又は他のモノマーと共重合させて得たホモポリマー又はコポリマーのポリマーブロック(PB1)であってもよく、脱保護をすることにより、アニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを単独重合又は他のモノマーと共重合させて得たホモポリマー又はコポリマーの、当該アニオン性基に再生可能な保護基の一部又は全てがアニオン性基に再生されたポリマーブロック(PB2)であってもよい。
ポリマーブロックA3で使用する(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸iso-プロピル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸iso-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル、(メタ)アクリル酸n-トリデシル、(メタ)アクリル酸n-ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4-tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸ペンタフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸ペンタデカフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリロニトリル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレンオキサイド基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのモノマーは、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
リビングアニオン重合法においては、使用するモノマーが、アニオン性基等の活性プロトンを持つ基を有するモノマーの場合、リビングアニオン重合ポリマーの活性末端が直ちにこれら活性プロトンを持つ基と反応し失活するため、ポリマーが得られにくい。リビングアニオン重合では、活性プロトンを持つ基を有するモノマーをそのまま重合することは困難であるため、活性プロトンを持つ基を保護した状態で重合し、その後、保護基を脱保護することで活性プロトンを持つ基を再生することが好ましい。
このような理由から、ポリマーブロックA3においては、脱保護をすることによりアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを用いることが好ましい。当該モノマーを使用することで、重合時には前述の重合の阻害を防止できる。また、保護基により保護されたアニオン性基は、ブロックポリマーを得た後に脱保護することによりアニオン性基に再生することが可能である。
例えばアニオン性基がカルボキシル基の場合、カルボキシル基をエステル化し、後工程として加水分解等で脱保護することによりカルボキシル基を再生することができる。この場合のカルボキシル基に変換可能な保護基としては、エステル結合を有する基が好ましく、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基等の第1級アルコキシカルボニル基;イソプロポキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基等の第2級アルコキシカルボニル基;t-ブトキシカルボニル基等の第3級アルコキシカルボニル基;ベンジルオキシカルボニル基等のフェニルアルコキシカルボニル基;エトキシエチルカルボニル基等のアルコキシアルキルカルボニル基などが挙げられる。
アニオン性基がカルボキシル基の場合、使用できるモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコサニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のフェニルアルキレン(メタ)アクリレート;エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、1種単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの(メタ)アクリレートの中でも、カルボキシル基への変換反応が容易である観点から、t-ブチル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、工業的に入手のしやすさの観点から、t-ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
一般式(c1)中、Bは、芳香族基又はアルキル基を表す。アルキル基としては、炭素原子数1~10のアルキル基を用いることができる。また、nは1~5の整数を表す。
リビングアニオン重合法においては、求核性の強いスチレン系ポリマーの活性末端に(メタ)アクリレートモノマーを直接重合しようとした場合、カルボニル炭素への求核攻撃によりポリマー化できない場合がある。このため、前記A1-A2に(メタ)アクリレートモノマーの重合を行う際には反応調整剤を使用し、求核性を調整した後、(メタ)アクリレートモノマーを重合することができる。一般式(c1)におけるBは、反応調整剤に由来する基である。反応調整剤の具体例としては、ジフェニルエチレン、α-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン等が挙げられる。
リビングアニオン重合法は、反応条件を整えることにより、従来のフリーラジカル重合で用いられるようなバッチ方式により実施できる他、マイクロリアクターによる連続的に重合する方法であってもよい。マイクロリアクターは、重合開始剤とモノマーの混合性が良好であるため、反応が同時に開始し、温度が均一で重合速度を揃えることができるため、製造される重合体の分子量分布を狭くできる。また、同時に、成長末端が安定であるため、ブロックの両成分が混じりあわないブロック共重合体を製造することが容易になる。また、反応温度の制御性が良好であるため副反応を抑えることが容易である。
マイクロリアクターを使用したリビングアニオン重合の一般的な方法を、マイクロリアクターの模式図である図1を参照しながら説明する。
まず、第一のモノマーと、重合を開始させる重合開始剤とをそれぞれチューブリアクターP1及びP2から、複数の液体を混合可能な流路を備えるT字型マイクロミキサーM1に導入し、T字型マイクロミキサーM1内で、第一のモノマーをリビングアニオン重合して第一の重合体を形成する(工程1)。
次に、得られた第一の重合体をT字型マイクロミキサーM2に移動させ、同ミキサーM2内で、得られた重合体の成長末端を、チューブリアクターP3から導入された反応調整剤によりトラップして反応調節を行う(工程2)。なお、このとき、反応調整剤の種類や使用量により、一般式(c1)におけるnの数をコントロールすることが可能である。
次に、T字型マイクロミキサーM2内の反応調節を行った第一の重合体を、T字型マイクロミキサーM3に移動させ、同ミキサーM3内で、チューブリアクターP4から導入された第二のモノマーと、前記反応調節を行った第一の重合体とを、連続的にリビングアニオン重合を行う(工程3)。
その後、活性プロトンを有する化合物(メタノール等)で反応をクエンチすることでブロック共重合体を製造する。
一般式(c1)で表されるポリマーPを前記マイクロリアクターで製造する場合は、前記第一のモノマーとして、疎水性基を有するモノマー(例えば、芳香環又は複素環を有するモノマー)を使用し、重合開始剤として有機リチウム開始剤を使用して反応させることで、A2の、疎水性基を有するポリマーブロック(例えば、芳香環又は複素環を有するモノマー由来の構造単位を有するポリマーブロック)を得る(ポリマーブロックA2の片末端には、A1の有機リチウム開始剤残基である有機基が結合している)。
次に、反応調整剤を使用して成長末端の反応性を調整した後、前記アニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを前記第二のモノマーとして反応させてポリマーブロックを得る。
この後、加水分解等の脱保護反応によりアニオン性基に再生することにより、前記A3(すなわち、アニオン性基を含むポリマーブロック)が得られる。
前記アニオン性基に再生可能な保護基のエステル結合を加水分解等の脱保護反応によりアニオン性基に再生させる方法を下記のとおり詳細に述べる。
エステル結合の加水分解反応は、酸性条件下でも塩基性条件下でも進行するが、エステル結合を有する基に応じて条件がやや異なる。例えば、エステル結合を有する基が、メトキシカルボニル基等の第1級アルコキシカルボニル基、又は、イソプロポキシカルボニル基等の第2級アルコキシカルボニル基の場合は、塩基性条件下で加水分解を行うことでカルボキシル基を得ることができる。この際、塩基性条件下とする塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物などが挙げられる。
エステル結合を有する基が、t-ブトキシカルボニル基等の第3級アルコキシカルボニル基の場合は、酸性条件下で加水分解を行うことによりカルボキシル基を得ることができる。この際、酸性条件下とする酸性化合物としては、塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸;トリフルオロ酢酸等のブレステッド酸;トリメチルシリルトリフラート等のルイス酸などが挙げられる。t-ブトキシカルボニル基の酸性条件下での加水分解の反応条件については、例えば、「日本化学会編第5版 実験化学講座16 有機化合物の合成IV」に開示されている。
t-ブトキシカルボニル基をカルボキシル基に変換する方法としては、例えば、上記の酸に代えて陽イオン交換樹脂を用いた方法も挙げられる。陽イオン交換樹脂としては、例えば、ポリマー鎖の側鎖にカルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)等の酸基を有する樹脂が挙げられる。これらの中でも、当該樹脂の側鎖にスルホ基を有する、強酸性を示す陽イオン交換樹脂が、反応の進行を速くできることから好ましい。陽イオン交換樹脂の市販品としては、オルガノ株式会社製の強酸性陽イオン交換樹脂「アンバーライト」等が挙げられる。陽イオン交換樹脂の使用量は、効果的に加水分解できる観点から、一般式(c1)で表されるポリマー100質量部に対して、5~200質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましい。
エステル結合を有する基がベンジルオキシカルボニル基等のフェニルアルコキシカルボニル基である場合は、水素化還元反応を行うことによりカルボキシル基に変換できる。この際、反応条件としては、室温下、酢酸パラジウム等のパラジウム触媒の存在下で、水素ガスを還元剤として用いて反応させることにより定量的にフェニルアルコキシカルボニル基をカルボキシル基に再生できる。
上記のように、エステル結合を有する基の種類によってカルボキシル基への変換の際の反応条件が異なるため、例えば、A3の原料としてt-ブチル(メタ)アクリレートとn-ブチル(メタ)アクリレートとを用いて共重合して得られたポリマーは、t-ブトキシカルボニル基とn-ブトキシカルボニル基とを有することになる。ここで、t-ブトキシカルボニル基が加水分解する酸性条件下では、n-ブトキシカルボニル基は加水分解しないことから、t-ブトキシカルボニル基のみを選択的に加水分解してカルボキシル基へ脱保護が可能となる。したがって、A3の原料モノマーである、アニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを適宜選択することにより親水ブロック(A3)の酸価の調整が可能となる。
顔料がポリマーPによって水中に分散された水性顔料分散体の安定性を向上させる観点から、一般式(c1)で表されるポリマーPにおいて、ポリマーブロック(A2)とポリマーブロック(A3)とがランダムに配列して結合したランダム共重合体ではなく、前記ポリマーブロックがある程度の長さのまとまりとなって規則的に結合したブロック共重合体であるほうが有利である。水性顔料分散体は、インクの製造に使用する原料であり、ポリマーPを用いて顔料を高濃度で水中に分散させた液体である。ポリマーブロック(A2)及びポリマーブロック(A3)のモル比A2:A3は、例えばインクジェット記録方式でインクを吐出する際に求められる良好な吐出安定性を維持しやすい観点、及び、発色性等に更に優れた印刷物を製造可能なインクを得やすい観点から、100:10~100:500が好ましく、100:10~100:450がより好ましい。
一般式(c1)で表されるポリマーPにおいて、ポリマーブロック(A2)を与える、芳香環又は複素環を有するモノマー数は、5~40が好ましく、6~30がより好ましく、7~25が更に好ましい。ポリマーブロック(A3)を構成するアニオン性基の数は、3~20が好ましく、4~17がより好ましく、5~15が更に好ましい。
ポリマーブロック(A2)及びポリマーブロック(A3)のモル比A2:A3は、ポリマーブロック(A2)を構成する芳香環又は複素環のモル数と、ポリマーブロック(A3)を構成するアニオン性基のモル数とのモル比で表した場合、100:7.5~100:400が好ましい。
一般式(c1)で表されるポリマーPの酸価は、例えばインクジェット記録方式でインクを吐出する際に求められる良好な吐出安定性を維持しやすい観点、及び、耐擦過性等の点でより一層優れた印刷物を製造可能なインクが得られやすい観点から、40~400mgKOH/gが好ましく、40~300mgKOH/gがより好ましく、40~190mgKOH/gが更に好ましい。ポリマーPの酸価は、ポリマーPの微粒子の測定方法と同様の酸価測定方法による酸価とした。
本実施形態に係るインクにおいて、ポリマーPのアニオン性基は中和されていることが好ましい。
ポリマーPのアニオン性基を中和する塩基性化合物としては、公知慣用のものがいずれも使用でき、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物などの無機塩基性物質や、アンモニア、トリエチルアミン、アルカノールアミン等の有機塩基性化合物を用いることができる。
水性顔料分散体中に存在するポリマーPの中和量は、ポリマーの酸価に対して100%中和されている必要はない。具体的には、ポリマーPの中和率が20~200%になるように中和されることが好ましく、80~150%になるように中和されることがより好ましい。
本実施形態に係るインクは、耐擦過性に優れた印刷物を得やすい観点から、バインダー樹脂を含有することが好ましい。バインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、デキストラン、デキストリン、カラーギーナン(κ、ι、λ等)、寒天、プルラン、水溶性ポリビニルブチラール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどを1種又は数種併用して使用することができる。中でも、バインダー樹脂としては、アクリル系樹脂を使用することが好ましく、アミド基を有するアクリル系樹脂を使用することがより好ましい。
バインダー樹脂を含有するインクは、乾燥による溶媒蒸発に伴いインク吐出口のインクが凝固した場合であっても、吐出口に再びインクが流通することによって、凝固物が容易にインク中に分散できる性質(再分散性)に優れる。その結果、インクジェットヘッドから吐出する際、吐出を一定時間中断した後、再度開始した場合であっても、吐出液滴の飛行曲がり、あるいは、吐出口の閉塞を引き起こしにくく、印刷物のスジ発生を効果的に防止することができる。
アミド基を有するアクリル系樹脂としては、アミド基を有するアクリル系単量体と、必要に応じて使用されるその他の単量体との重合体を使用することができる。
アミド基を有するアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、アクリルアマイド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアマイド等を使用することができる。
前記アクリル系樹脂の製造に使用可能なその他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸やそのアルカリ金属塩;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;(メタ)アクリロニトリル、2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体;芳香族ビニル化合物(スチレン、α-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等)、ビニルスルホン酸化合物(ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等)、ビニルピリジン化合物(2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ナフチルビニルピリジン等)、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを使用することができる。
前記その他の単量体としては、顔料との親和性をより一層向上させる観点から、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート等の、芳香族基を有する単量体が好ましい。
前記アミド基を有するアクリル系樹脂は、再分散性の向上という効果をインクに付与し、かつ、水性媒体中での分散安定性に優れる。アミド基を有するアクリル系樹脂において、前記アミド基を有するアクリル系単量体の使用量は、インクの再分散性及びインク成分の水性媒体中での分散安定性をより一層向上させる観点から、アクリル系樹脂の製造に使用する単量体の全量に対して、0.5~5質量%が好ましく、0.5~4質量%がより好ましく、1.5~3質量%が更に好ましい。
前記アクリル系樹脂としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量測定時の展開溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)に不溶で分子量の測定が困難な成分を含有するものであってもよいが、インク中に含まれる水等の溶媒を吸収しにくいプラスチックや金属、又は、疎水性の高いコート紙やアート紙へのインクの付着性をより一層向上させる観点から、25℃におけるTHF不溶成分の含有率が20質量%未満であるものが好ましく、5質量%未満であるものがより好ましく、THF不溶成分を含有しないものが更に好ましい。
前記アクリル系樹脂(例えば、THFに溶解するアクリル系樹脂)の数平均分子量は、10,000~100,000が好ましく、20,000~100,000がより好ましい。前記アクリル系樹脂の重量平均分子量は、30,000~1,000,000が好ましく、50,000~1,000,000がより好ましい。
バインダー樹脂としては、例えばポリオレフィンを使用することもできる。
ポリオレフィンとしては、オレフィン系モノマーを主成分とするモノマーの単独重合体又は共重合体を使用することができる。オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、メチルブテン、メチルペンテン、メチルへキセン等のα-オレフィン;ノルボルネン等の環状オレフィンなどを使用することができる。
ポリオレフィンとしては、酸化ポリオレフィンを使用することもできる。酸化ポリオレフィンとしては、例えば、熱分解、酸、アルカリ成分等を用いた化学的分解などにより、分子内に酸素原子が導入されたポリオレフィンを使用することができる。前記酸素原子は、例えば、極性を有するカルボキシル基等を構成する。
ポリオレフィンの融点は、90~200℃が好ましく、120℃以上160℃未満がより好ましい。これらの場合、印刷直後に印刷物を重ね合わせた場合でも、被記録媒体の表面のインクが剥離しない良好なセット性と、優れた耐擦過性とを付与することができる。なお、ポリオレフィンの融点は、JIS K 0064に準拠した融点測定装置によって測定した値を指す。
ポリオレフィンは、水性媒体等の溶媒中に溶解又は分散した状態で存在することが好ましく、水性媒体等の溶媒中に分散したエマルジョンの状態であることがより好ましい。
その場合、前記ポリオレフィンによって形成されるポリオレフィン粒子の平均粒子径は、例えばインクジェット記録方式で印刷する際にインクの良好な吐出安定性と印刷後の良好なセット性とを両立しやすい観点から、10~200nmが好ましく、30~150nmがより好ましい。ポリオレフィン(A)の平均粒子径は、日機装株式会社製のマイクロトラックUPA粒度分布計を用い、動的光散乱法で測定した値を示す。
バインダー樹脂は、前記スジの発生を防止しやすい観点、及び、印刷物の印字濃度や耐擦過性を向上させ、良好な光沢を付与する観点から、インクの全量に対して、2~7質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。また、これらの範囲でバインダー樹脂を含有するインクは、印刷後の加熱工程を経てバインダー樹脂が架橋し強固な被膜を形成することで、印刷物の耐擦過性をより一層向上させることができる。また、印刷物に水を滴下した場合、あるいは、水を含んだ布等でこすった場合でも、被記録媒体の表面のインクが剥離しない、良好な耐水性を付与することができる。
顔料及び樹脂成分の合計量は、優れた吐出安定性を得る観点から、インクの全量に対して0質量%を超え13質量%以下である。顔料及び樹脂成分の合計量は、優れた吐出安定性を得やすい観点から、インクの全量に対して、11質量%以下が好ましく、10.5質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、9.5質量%以下が特に好ましく、9質量%以下が極めて好ましい。顔料及び樹脂成分の合計量は、印刷濃度を確保する観点、被記録媒体上でのインクの密着性を確保しやすい観点、及び、顔料の分散安定性を確保しやすい観点から、インクの全量に対して、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、6質量%以上が更に好ましく、7質量%以上が特に好ましい。
本実施形態に係るインクは、水性媒体を含有することができる。本実施形態に係るインクは、水性媒体を含有する水性インクであってよい。ところで、インクジェット技術の向上により、インクジェット記録方式は、産業用途においてもデジタル印刷の出力機における利用が期待され、溶剤インキ、UVインキ等による非吸収性又は難吸収性の基材(例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のプラスチック基材)に対しても印刷が可能な印刷機が市販されている。しかし、近年、環境面への対応等の観点から、水性媒体を含有する水性インクの需要が高まっている。近年、インクジェット記録方式の用途拡大が期待されており、コート紙のような難吸収性の基材(塗工紙);段ボール、屋外広告等に使用されるような非吸収性の基材などへの水性インクによる印刷のニーズが高まっている。水性インクはこれらの基材上においてはじかれやすく、従来、本来インクが塗られる箇所の基材が表面に露出しやすい(スジ状の印刷不良が発生しやすい)。一方、本実施形態によれば、インクが水性媒体を含有する場合であっても、スジ状の印刷不良が発生することを抑制できる。
水性媒体としては、水を単独、又は、水と有機溶剤との混合溶媒を使用することができる。水としては、具体的には、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を使用することができる。
水性媒体の含有量は、セット性に優れ、インクジェット記録方式で吐出する場合に求められる高い吐出安定性を備えた、鮮明な印刷物を製造可能なインクを得やすい観点から、インク全量に対して、1~60質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~45質量%が更に好ましく、20~40質量%が特に好ましい。
本実施形態に係るインクの構成成分としては、色材(顔料を除く)、尿素結合を有する化合物(E)(以下、場合により「化合物(E)」という)、有機溶剤、界面活性剤、その他の添加剤等を用いることができる。本実施形態に係るインクは、印刷物のセット性を向上させる観点から、化合物(E)を含有することが好ましい。本実施形態に係るインクは、印刷物の良好なセット性と、優れた耐擦過性とを付与することができる観点から、バインダー樹脂及び化合物(E)を含有することが好ましい。本実施形態に係るインクでは、色材、バインダー樹脂、化合物(E)等が、溶媒である水性媒体に溶解又は分散していることが好ましい。
本実施形態に係るインクは、顔料以外の色材を含有してよい。色材としては、公知慣用の染料等を使用することができる。
顔料及び色材の合計量は、スジの発生を防止しやすい観点、並びに、顔料及び色材の優れた分散安定性を維持し、かつ、印刷物の印字濃度や耐擦過性を向上させやすい観点から、インクの全量に対して、0.5~20質量%が好ましく、0.5質量%を超え20質量%以下がより好ましく、1~20質量%が更に好ましく、1.5~15質量%が特に好ましく、2~10質量%が極めて好ましく、3~8質量%が非常に好ましく、3~6質量%がより一層好ましい。
本実施形態に係るインクは、化合物(E)を含有することが好ましい。化合物(E)としては、尿素及び尿素誘導体からなる群より選ばれる1種以上を使用することができる。尿素及び尿素誘導体は、保湿機能が高く、湿潤剤として機能するため、インクジェットヘッドのインク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止し、優れた吐出安定性を確保しやすい。その結果、インクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との最短距離が2mm以上であっても、印刷物のスジ発生を軽減しやすい効果がある。また、尿素及び尿素誘導体が加熱されると水を放出しやすいため、より一層優れたセット性を備えた印刷物を得る観点から、尿素又は尿素誘導体を用いる場合、非吸収性又は難吸収性の被記録媒体にインクを印刷後に加熱乾燥を行うことが好ましい。
尿素誘導体としては、エチレン尿素、プロピレン尿素、ジエチル尿素、チオ尿素、N,N-ジメチル尿素、ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシブチル尿素、エチレンチオ尿素、ジエチルチオ尿素等が挙げられ、これらは1種単独又は2種以上組み合わせ使用することができる。中でも、化合物(E)としては、より一層優れたセット性を備えた印刷物を得る観点から、尿素、エチレン尿素及び2-ヒドロキシエチル尿素からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
化合物(E)の含有量は、インクをインクジェット記録方式で吐出する場合に求められる吐出安定性や、セット性に優れた印刷物を得やすい観点から、インクの全量に対して、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~10質量%が更に好ましい。
インクがバインダー樹脂及び化合物(E)を含有する場合、化合物(E)に対するバインダー樹脂の質量割合[バインダー樹脂/化合物(E)]は、印刷物のセット性向上効果を得やすい観点から、1/6~6/1が好ましく、1/6~3/1がより好ましく、1/5~1/1が更に好ましい。
本実施形態に係るインクは、有機溶剤を含有してよい。有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、これらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、及び、トリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールや2-ブタノール等のブチルアルコール、ペンチルアルコール、これらと同族のアルコール等のアルコール類;スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類などが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。
有機溶剤としては、吐出液滴が被記録媒体の表面に着弾した後、被記録媒体上で素早く乾燥する速乾効果を得やすい観点から、前記したものの他に、沸点が100~200℃であり、かつ、20℃での蒸気圧が0.5hPa以上である水溶性有機溶剤(f1)が好ましい。
水溶性有機溶剤(f1)としては、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチルラクテート等が挙げられ、これらを1種単独又は2種以上組み合わせ使用することができる。
中でも、水溶性有機溶剤(f1)としては、インクの良好な分散安定性を維持しやすい観点、及び、例えばインクジェット装置が備えるインク吐出ノズルの、インクに含まれる溶剤の影響による劣化を抑制しやすい観点から、HSP(ハンセン溶解度パラメータ)の水素結合項δHが6~20の範囲であるような水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。
前記範囲のHSPの水素結合項を有する水溶性有機溶剤の具体例としては、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、及び、プロピレングリコールモノプロピルエーテルからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、3-メトキシ-1-ブタノール、及び、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。
水性媒体と組み合わせ使用可能な有機溶剤としては、被記録媒体上でのインク速乾効果と、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果とを両立しやすい観点から、水溶性有機溶剤(f1)のほかに、又は、水溶性有機溶剤(f1)と共に、プロピレングリコール(f2)と、グリセリン、グリセリン誘導体、ジグリセリン及びジグリセリン誘導体からなる群より選ばれる1種以上の有機溶剤(f3)とを組み合わせ使用することが好ましい。
有機溶剤(f3)としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジグリセリン脂肪酸エステル、下記一般式(f1)で表されるポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテル、下記一般式(f2)で表されるポリオキシエチレン(n)ポリグリセリルエーテル等を、1種単独又は2種以上組み合わせ使用することができる。中でも、有機溶剤(f3)は、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を得やすい観点から、グリセリン、及び、n=8~15のポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテルからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
一般式(f1)及び一般式(f2)中のm1、m2、n1、n2、p1、p2、q1及びq2は、各々独立して1~10の整数を示す。
プロピレングリコール(f2)に対する水溶性有機溶剤(f1)の質量割合[水溶性有機溶剤(f1)/プロピレングリコール(f2)]は、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を得やすい観点から、1/25~2/1が好ましく、1/25~1/1がより好ましく、1/20~1/1が更に好ましい。
有機溶剤(f3)に対するプロピレングリコール(f2)の質量割合[プロピレングリコール(f2)/有機溶剤(f3)]は、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を得やすい観点から、1/4~8/1が好ましく、1/3~6/1がより好ましく、1/2~5/1が更に好ましい。
有機溶剤の含有量は、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を得やすい観点から、インク全量に対して、1~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましい。
水性媒体及び有機溶剤の合計量は、インクの粘度を5mPas以下に調整しやすく、インクの乾燥を更に防止する観点から、インクの全量に対して、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましく、50質量%以上が特に好ましく、60質量%以上が極めて好ましい。水性媒体及び有機溶剤の合計量は、インクの全量に対して、90質量%以下であってよく、80質量%以下であってよく、70質量%以下であってよく、65質量%以下であってよい。
本実施形態に係るインクは、界面活性剤を含有してよい。界面活性剤を用いることにより、インクジェットヘッドの吐出口から吐出されたインクが被記録媒体に着弾後、表面で良好に濡れ広がりやすいこと等から、印刷物のスジ発生を防止しやすい。さらに、界面活性剤を用いることにより、インクの表面張力を低下させる等することでインクのレベリング性を向上させることができる。
界面活性剤としては、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を使用することができ、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点から、アニオン性界面活性剤、及び、ノニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩等を挙げることができる。
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー等が挙げられ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、及び、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
本実施形態に係るインクは、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点から、アセチレン系界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレン系界面活性剤は、分子中にアセチレン構造を有する界面活性剤である。アセチレン系界面活性剤は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点から、アセチレングリコール、及び、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物からなる群より選ばれる1種以上が含むことが好ましい。
その他の界面活性剤としては、ポリシロキサンオキシエチレン付加物等のシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテル等のフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチン等のバイオサーファクタントなども使用することができる。
アセチレン系界面活性剤の含有量は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点から、界面活性剤の全量に対して、80~100質量%が好ましく、85~100質量%がより好ましく、90~100質量%が更に好ましく、95~100質量%が特に好ましい。
アセチレン系界面活性剤の主鎖の炭素数は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点、20以下が好ましく、18以下がより好ましく、15以下が更に好ましく、12以下が特に好ましい。アセチレン系界面活性剤の主鎖の炭素数は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点、5以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。これらの観点から、アセチレン系界面活性剤の主鎖の炭素数は、5~20が好ましく、8~15がより好ましく、10~12が更に好ましい。アセチレン系界面活性剤の主鎖の炭素数は、12以上であってもよく、12~20であってもよい。主鎖の炭素数は、アセチレン結合を含む最も長い分子鎖(例えば炭素鎖)の炭素数である。
界面活性剤のHLB値は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点、及び、水を主溶媒とするインクに界面活性剤が溶解した状態を安定的に維持しやすい観点から、1~13が好ましく、1~12がより好ましく、1~10が更に好ましく、2~9が特に好ましく、3~8が極めて好ましく、4~8が非常に好ましく、4~7がより一層好ましく、4~6が更に好ましい。アセチレン系界面活性剤のHLB値は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しやすい観点、及び、水を主溶媒とするインクに界面活性剤が溶解した状態を安定的に維持しやすい観点から、これらの範囲であることが好ましい。界面活性剤のHLB値は、例えばグリフィン法により求めることができる。
界面活性剤の含有量は、インクの全量に対して、0.001~5質量%が好ましく、0.001~3質量%がより好ましく、0.001~2質量%が更に好ましく、0.001~1.5質量%が特に好ましく、0.01~1.5質量%が極めて好ましく、0.1~1.5質量%が非常に好ましく、0.5~1.5質量%がより一層好ましく、0.8~1.5質量%が更に好ましく、1~1.5質量%が特に好ましい。これらの含有量で界面活性剤を含有するインクは、吐出液滴の被記録媒体の表面での濡れ性が良好であり、被記録媒体上で充分な濡れ広がりを有しやすく、印刷物のスジ発生を防止する効果を得やすい。さらに、上記各範囲の界面活性剤を含有するインクは、塗膜のレベリング性を向上させる効果を得やすい。同様の観点から、アセチレン系界面活性剤の含有量が、上記各範囲であることが好ましい。
本実施形態に係るインクは、湿潤剤(乾燥抑止剤)、浸透剤、防腐剤(例えば、ソー・ジャパン株式会社製のACTICIDE B-20)、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等のその他の添加剤を含有することができる。
湿潤剤としては、インクジェットヘッドのインク吐出ノズルにおけるインクの乾燥を防止することを目的として使用することができる。湿潤剤の含有量は、インクの全量に対して3~50質量%が好ましい。
湿潤剤としては、水との混和性があり、インクジェットヘッドの吐出口の閉塞防止効果が得られるものが好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
浸透剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物;プロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物などが挙げられる。浸透剤の含有量は、インクの全量に対して、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、浸透剤を実質的に含有しないことが更に好ましい。
(インクの製造方法)
本実施形態に係るインクは、例えば、顔料、樹脂成分及び水性媒体を混合することによって製造することが可能であり、顔料、樹脂成分及び水性媒体に加えて、色材(顔料を除く)、化合物(E)、有機溶剤、界面活性剤等を混合することによって製造することができる。
前記混合の際には、例えば、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等の分散機を使用することができる。
本実施形態に係るインクは、各成分を一括して又は逐次的に混合した後に攪拌等することによって製造してよい。得られたインクは、インク中に混入した不純物を除去する観点から、必要に応じて遠心分離処理や濾過処理を行うことが好ましい。
(被記録媒体)
本実施形態に係るインクは、複写機で一般的に使用されているコピー用紙(PPC紙)等の、インク吸収性に優れた被記録媒体、インクの吸収層を有する被記録媒体、インクの吸収性を全く有しない非吸収性の被記録媒体、又は、インクの吸水性の低い難吸収性の被記録媒体に印刷することが可能である。とりわけ、本実施形態に係るインクは、インク非吸収性又は難吸収性の被記録媒体に対して印刷した場合であっても、スジ状の印刷不良が発生することを抑制しつつセット性、耐擦過性、及び、耐水性に優れた印刷物を得ることができる。
被記録媒体としては、具体的には、普通紙、布帛、段ボール、木材、インクジェット専用紙、アート紙、コート紙、微塗工紙、又は、プラスチックフィルム等を使用することができる。段ボールとしては、吸水量10g/m2以下の層を有する段ボールを用いてよい。コート紙としては、軽量コート紙を用いてよい。
より一層優れた耐擦過性及び耐水性を備えた印刷物を得る観点から、前記難吸収性の被記録媒体としては、被記録媒体と水との接触時間100msec(m秒)における前記被記録媒体の吸水量が10g/m2以下である被記録媒体を、本実施形態に係るインクと組み合わせ使用することが好ましい。
なお、前記吸水量は、自動走査吸液計(熊谷理機工業株式会社製、KM500win)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下にて、純水の接触時間100msecにおける転移量を測定し、100msecの吸水量とすることができる。測定条件を以下に示す。
[Spiral Method]
Contact Time:0.010~1.0(sec)
Pitch:7(mm)
Lencth per sampling:86.29(degree)
Start Radius:20(mm)
End Radius:60(mm)
Min Contact Time:10(msec)
Max Contact Time:1000(msec)
Sampling Pattern:50
Number of sampling points:19
[Square Head]
Slit Span:1(mm)
Width:5(mm)
インクの吸収性を有する被記録媒体としては、普通紙、布帛、ダンボール、木材等が挙げられる。また、前記吸収層を有する被記録媒体としては、インクジェット専用紙等が挙げられ、具体的には、株式会社ピクトリコ製のピクトリコプロ・フォトペーパー等が挙げられる。
インクの吸水性の低い難吸収性の被記録媒体には、表面にインク中の溶媒を吸収しにくい着色層が設けられた段ボール、印刷本紙等のアート紙、コート紙(例えば軽量コート紙)、微塗工紙などが使用できる。これら難吸収性の被記録媒体は、セルロースを主体とした、一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものであり、王子製紙株式会社製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙株式会社製の「オーロラS」等の微塗工紙;王子製紙株式会社製の「OKコートL」及び日本製紙株式会社製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3);王子製紙株式会社製の「OKトップコート+(坪量104.7g/m2、接触時間100msecにおける吸水量(以下の吸水量は同じ)4.9g/m2)」;日本製紙株式会社製の「オーロラコート」;UPM社製のFinesse Gloss(UPM社製、坪量115g/m2、吸水量3.1g/m2)及びFiness Matt(坪量115g/m2、吸水量4.4g/m2)等のコート紙(A2、B2);王子製紙株式会社製の「OK金藤+」及び三菱製紙株式会社製の「特菱アート」等のアート紙(A1)などのプラスチックフィルムを使用することが使用できる。
前記プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等からなるポリエステルフィルム;ポリエチレンやポリプロピレン等からなるポリオレフィンフィルム;ナイロン等からなるポリアミド系フィルム;ポリスチレンフィルム;ポリビニルアルコールフィルム;ポリ塩化ビニルフィルム;ポリカーボネートフィルム;ポリアクリロニトリルフィルム;ポリ乳酸フィルムなどが挙げられる。前記プラスチックフィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、又は、ポリアミド系フィルムを使用することが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、又は、ナイロンフィルムを使用することがより好ましい。
前記プラスチックフィルムとしては、バリア性を付与するためのポリ塩化ビニリデン等のコーティングをしたフィルム;アルミニウム等の金属層;シリカ、アルミナ等の金属酸化物からなる蒸着層などを有するフィルムを使用してもよい。
前記プラスチックフィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、1軸又は2軸方向に延伸されたものでもよい。フィルムの表面は、未処理であってもよいが、コロナ放電処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、フレーム処理、グロー放電処理等の、接着性を向上させるための各種処理を施したものが好ましい。
前記プラスチックフィルムの膜厚は、用途に応じて適宜変更されるが、例えば軟包装用途である場合は、柔軟性、耐久性及び耐カール性を有しているものとして、膜厚は、10~100μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。この具体例としては、東洋紡株式会社製のパイレン、エスペット(いずれも登録商標)等が挙げられる。
本実施形態に係るインクは、前記被記録媒体の中でも、もっぱらインクに含まれる溶媒を吸収しやすい板紙によって構成される段ボール;前記板紙の表面にインク中の溶媒を吸収しにくい着色層が設けられた段ボール;プラスチックフィルム;布帛などへの印刷に好適に使用することができる。
前記段ボールとしては、例えば、波形に成形された中芯の片面又は両面にライナーを貼り合わせたものを使用することができ、片面段ボール、両面段ボール、複両面段ボール、複々両面段ボール等を使用することができる。
本実施形態に係るインクは、具体的には、インクに含まれる溶媒を吸収しやすい板紙によって構成される段ボール;前記板紙の表面にインク中の溶媒を吸収しにくい着色層や防水層等が設けられた段ボールなどへの印刷に好適に使用することができる。本実施形態に係るインクは、前記板紙の表面にインク中の溶媒を吸収しにくい着色層や防水層等が設けられた段ボールなどの非吸収性又は難吸収性の被記録媒体を用いた場合であっても、着弾したインクが被記録媒体の表面で濡れ広がりやすく、その結果、印刷物のスジの発生を効果的に抑制することができる。
また、本実施形態に係るインクを段ボールに対してインクジェット印刷を行う場合、インク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)の垂線と被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離が2mm以上であっても、被記録媒体へ着弾後充分に濡れ広がるため、印刷物のスジ発生を効果的に防止することができる。
前記段ボールのうち、表面に着色層や防水層等が設けられた段ボールは、例えば、前記板紙によって構成される段ボールの表面に、着色剤や防水剤を例えばカーテンコート方式やロールコート方式等によって塗布し塗膜を形成したものを使用することができる。
前記着色層としては、例えば白色度70%以上であるものが挙げられる。
段ボールが有する着色層や防水層等の層に関して、段ボール等の被記録媒体の記録面と水との接触時間100msecにおける被記録媒体の吸水量は、印刷物の防水効果を得やすい観点から、10g/m2以下が好ましい。
本実施形態に係る印刷物の製造方法によれば、ノズル抜け、ヨレ、スジ等といった印刷不良が発生することを効果的に抑制された印刷物を得ることができる。よって、このような方法で得られた印刷物は、例えば、段ボール等の包装材料;プラスチックフィルムやそれを用いた包装材料;Tシャツ等の繊維製品などに使用することができる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<ポリマーの準備>
(ポリマー(P-1))
ノルマルブチルリチウム(BuLi)のヘキサン溶液と、スチレンを予めテトラヒドロフランに溶解したスチレン溶液とを、図1に示すチューブリアクターP1及びP2からT字型マイクロミキサーM1に導入し、リビングアニオン重合させることによって重合体を得た。
次に、前記工程で得られた重合体を、図1に示すチューブリアクターR1を通じてT字型マイクロミキサーM2に移動させ、前記重合体の成長末端を、チューブリアクターP3から導入した反応調整剤(α-メチルスチレン(α-MeSt))によりトラップした。
次いで、予めtert-ブチルメタクリレートをテトラヒドロフランに溶解したtert-ブチルメタクリレート溶液を、図1に示すチューブリアクターP4からT字型マイクロミキサーM3に導入し、チューブリアクターR2を通じて移動させた、前記トラップされた重合体と連続的にリビングアニオン重合反応させた。その後、メタノールを供給することによって前記リビングアニオン重合反応をクエンチすることによってブロック共重合体(PA-1)組成物を製造した。ブロック共重合体(PA-1)組成物は、チューブリアクターR3から回収した。
ブロック共重合体(PA-1)組成物を製造する際、図1に示すマイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させることで、反応温度を24℃に設定した。前記方法で得られたブロック共重合体(PA-1)組成物を構成するモノマーのモル比は、(BuLi/スチレン/α-メチルスチレン/tert-ブチルメタクリレート)=1.0/12.0/2.0/8.1であった。得られたブロック共重合体(PA-1)組成物を陽イオン交換樹脂で処理することで加水分解した後、減圧下で留去し、得られた固体を粉砕することによって粉状のポリマー(P-1)を得た。
得られたポリマー(P-1)の物性値は以下のように測定した。
[数平均分子量(Mn)の測定]
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
{標準ポリスチレン}
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
[酸価の測定]
JIS試験方法K 0070-1992に準拠して酸価を測定した。テトラヒドロフランに試料0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することにより酸価を求めた。
[水への溶解度の測定]
目開き250μm及び90μmの篩を用いて250μm~90μmの範囲に粒子径を整えたポリマー0.5gを、400メッシュ金網を加工した袋に封入し、水50mLに浸漬、25℃の温度下で24時間緩やかに攪拌放置した。24時間浸漬後、ポリマーを封入した400メッシュ金網を、110℃に設定した乾燥機で2時間乾燥させた。ポリマーを封入した400メッシュ金網の水浸漬前後の質量の変化を測定し、次式により溶解度を算出した。
溶解度[g/100mL]=(浸漬前のポリマー封入400メッシュ金網[g]-浸漬後のポリマー封入400メッシュ金網[g])×2
[水中での微粒子形成の判断方法及び体積平均粒子径[nm]の測定]
(1)前記酸価の測定方法に従い、ポリマーの酸価を求めた。
(2)水50mLに対してポリマーを1g添加後、上記(1)で得たポリマーの酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和とした。
(3)100%中和させた液を、25℃の温度下で、2時間超音波洗浄機(株式会社エスエヌディ製の超音波洗浄器US-102、38kHz自励発信)中で超音波を照射し分散させた後、24時間室温で放置した。
前記放置して得た液の、液面から2cmの深さにある液をサンプル液として、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA-ST150」)を用い、粒子の光散乱情報から微粒子形成の有無を確認し、微粒子が存在する場合はその体積平均粒子径を測定した。
[静的表面張力の測定]
前記水中での微粒子形成の判断方法で得たサンプル液と同様のサンプル液を用いて、ウィルヘルミ表面張力計で静的表面張力を測定した。
前記で得られたポリマー(P-1)の原料、反応条件、及び、各種物性値を表1に示す。表1中、BuLiはノルマルブチルリチウムを表し、Stはスチレンを表し、α-MeStはα-メチルスチレンを表し、tBMAはtert-ブチルメタクリレートを表す。
(ポリマー(P-2))
ポリマー(P-2)としてスチレン-アクリル酸樹脂X-1(星光PMC株式会社製)を準備した。
<水性顔料分散体の調製>
(製造例1)
ピグメントブラック7(顔料)150質量部、ポリマー(P-1)(顔料分散剤)45質量部、トリエチレングリコール(有機溶剤)135質量部、及び、34質量%水酸化カリウム水溶液20質量部を、1.0Lのインテンシブミキサー(日本アイリッヒ株式会社)に仕込み、ローター周速2.94m/sec、パン周速1m/secで25分間混練した。
次に、前記インテンシブミキサー容器内の混練物に、撹拌を継続しながら、イオン交換水(第1のイオン交換水)300質量部を徐々に加えた後、イオン交換水(第2のイオン交換水)100質量部を更に加え混合することによって顔料濃度20質量%及び樹脂成分濃度(固形分濃度)6.0質量%の水性顔料分散体K-1を得た。
(製造例2~4)
原料及び配合割合を表2に記載の原料及び配合割合に変更すること以外は、前記製造例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
(製造例5)
ピグメントブラック7(顔料)100質量部、ポリマー(P-1)(顔料分散剤)40質量部をインテンシブミキサー(株式会社日本アイリッヒ製)に仕込み、ローター周速2.9m/s、パン周速1m/sで混合した。次に、前記インテンシブミキサーに、プロピレングリコール(有機溶剤、旭硝子株式会社製)50質量部、及び、34質量%水酸化カリウム水溶液13質量部を添加し、前記と同様のローター周速及びパン周速で2時間混練した。
次に、前記インテンシブミキサー容器内の混練物に、撹拌を継続しながら、イオン交換水(第1のイオン交換水)200質量部を徐々に加えた後、イオン交換水(第2のイオン交換水)97質量部を更に加え混合することによって顔料濃度20質量%及び樹脂成分濃度(固形分濃度)8.0質量%の水性顔料分散体(K-2)を得た。
(製造例6~10)
原料及び配合割合を表2に記載の原料及び配合割合に変更すること以外は、前記製造例5と同様の方法で水性顔料分散体を得た。
表2中のPB7はピグメントブラック7を表し、PB15:3はピグメントブルー15:3を表し、PR122はピグメントレッド122を表し、PY74はピグメントイエロー74を表し、TEGはトリエチレングリコールを表し、PGはプロピレングリコールを表す。
<バインダー樹脂の合成>
攪拌機、温度計、冷却管、及び、窒素導入管を装備した4つ口のフラスコに、「ニューコール707SF」(日本乳化剤株式会社製、アニオン性乳化剤)16g、「ノイゲンTDS-200D」(第一工業製薬株式会社製、ノニオン性乳化剤)6.5g及び脱イオン水220gを仕込み、窒素気流下で80℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム0.8gを脱イオン水16gに溶解させた水溶液を添加した。さらに、2-エチルヘキシルアクリレート60g、スチレン100g、メタクリル酸メチル27g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.4g、アクリルアミド3g、及び、メタクリル酸6gの混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間反応せしめた後、25℃まで冷却し、28質量%アンモニア水1.5gで中和せしめ、脱イオン水を加えることによって、ガラス転移温度(Tg)35℃、平均粒子径50nmのアクリル系樹脂水分散液(X-1)を得た。アクリル系樹脂分散液(X-1)の固形分濃度は39質量%であった。
<水性インクの調製>
(調製例1)
前述の水性顔料分散体(K-1)20.0質量部(水等を含む分散体の質量)に、プロピレングリコール3.0質量部、グリセリン15.0質量部、トリエチレングリコール5.0質量部、エチレン尿素5.0質量部、トリエタノールアミン(pH調整剤)0.2質量部、Surfynоl104PG50(エボニック・ジャパン社製、界面活性剤)1.5質量部、ACTICIDE B-20(ソー・ジャパン株式会社製、防腐剤)0.1質量部、前述のアクリル系樹脂水分散液(X-1)14.1質量部(固形分5.5質量部)、及び、イオン交換水を加えて攪拌し、100質量部の水性インク(J1)を得た。
(調製例2~10)
原料及び配合割合を表3に記載の原料及び配合割合に変更すること以外は、前記調製例1と同様の方法で水性インク(J2)~(J10)を得た。表3中、「顔料と樹脂成分の合計量の割合」は、インクの全量に対する顔料及び樹脂成分の合計量の割合であり、水性顔料分散体に由来する顔料及び樹脂成分と、バインダー樹脂との合計量のインクの全量に対する割合である。
表3中、略語は以下のとおりである。
PG:プロピレングリコール
GLY:グリセリン
TEG:トリエチレングリコール
TEA:トリエタノールアミン
Surfynоl104PG50(エボニック・ジャパン社製、主鎖の炭素数:10、HLB値:4、PG50質量%溶液)
Surfynоl420(エボニック・ジャパン社製、主鎖の炭素数:10、HLB値:4)
B-20:ACTICIDE B-20(ソー・ジャパン社製の防腐剤。有効成分20質量%)
<水性インクの粘度の測定>
E型粘度計に相当する円錐平板形(コーン・プレート形)回転粘度計を使用し、下記条件にて水性インクの粘度を測定した。結果を表4に示す。
測定装置:TVE-25形粘度計(東機産業株式会社製、TVE-25 L)
校正用標準液:JS20
測定温度:32℃
回転速度:10~100rpm
注入量:1200μL
前記水性インクの静的表面張力は、ウィルへルミ法を適用した自動表面張力計を使用し、下記条件にて測定した。結果を表4に示す。
測定装置:自動表面張力計(協和界面科学株式会社社製、CBVP-Z型)
測定温度:25℃
測定子:白金プレート
<印刷物のスジの評価>
京セラ株式会社製のインクジェットヘッドKJ4B-1200(1200dpiヘッド)に前述の水性インクをそれぞれ充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧を-5.0kPaに設定することで供給圧を調整した。また、インクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との最短距離(インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離(ギャップ))は2mm又は3mmに設定した。被記録媒体としては、白の着色層を有する厚さ2mm程度の段ボール(被記録媒体の記録面と水との接触時間100msecにおける被記録媒体の吸水量:5g/m2)を使用した。
段ボールを固定するための台(ステージ)上に前記段ボールを設置し、そのステージの下側から、ヒートローラーを用いて加熱することによって、インクが着弾する表面(記録面)の温度を25℃に調整した。前記被記録媒体の表面の温度は、表面温度計を用いて測定した。
前記ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定して100%ベタ印刷を実施することにより印刷物(ノズルチェックパターン)を得た。インクジェットヘッドの間隔は6cmとし、1200dpiヘッドを用いて印刷物を作製した。
前記印刷物をスキャナーで読み取り、画像解析ソフト『ImageJ』にてインクが塗布されていない部分の割合(スジ率)を算出した。スジ率は、前述の100%ベタ印刷を行った範囲の面積に対する、水性インクが塗布されなかった範囲の面積の割合を示す。下記の基準に基づき評価した結果を表4に示す。
A:印刷物のスジ率3%未満
B:印刷物のスジ率3%以上5%未満
C:印刷物のスジ率5%以上10%未満
D:印刷物のスジ率10%以上
<吐出安定性の評価>
前述の<印刷物のスジの評価>と同様の装置を用いて、インクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との最短距離が2mmの条件において前記と同様の被記録媒体にノズルチェックパターンを印刷し、全ノズルが正常に印刷されていることを確認した。次に、前記印刷を停止し、30分間放置した。前記放置後、直ちに前記と同様の方法でノズルチェックパターンを印刷し、印刷物のスジの数を目視で確認した。下記の基準に基づき評価した結果を表4に示す。
A:スジなし
B:スジあり(数が10箇所未満)
C:スジあり(数が10箇所以上)