本発明の印刷物の製造方法は、吸水量15g/m2以下の層(a)を有する段ボール(A)に、水性インクで印刷を施した後、印刷面に送風する工程[1−1]を含む工程[1]を経ることによって前記水性インクを乾燥させることを特徴とする。
本発明では、前記段ボール(A)に水性インクで印刷を施した後、その印刷面に風を当てる。これにより、前記色ムラの原因と考えられる段ボール(A)表面の乾燥性の差を小さくすることができ、その結果、前記色ムラを低減できると考えられる。
前記送風する風の温度は、特に制限は無いが、印刷面の温度を20〜140℃の範囲に調整可能な温度に設定することが好ましく、40〜90℃の範囲に調整可能な温度に設定することが、印刷面の良好な乾燥性(タック感の低減)を付与するうえでより好ましい。前記温度で乾燥させる溶媒は、主に水であるため、前記範囲内の温度で乾燥させることによって、乾燥速度の向上による印刷物の生産効率の向上と、高温による乾燥設備の劣化や段ボール(A)の変色の防止と、エネルギーロスの低減とを実現することができる。
送風温度を前記した範囲に設定する方法としては、例えば赤外線やマイクロ波等で加熱可能な装置を使用する方法が挙げられる。
前記送風速度は、特に制限は無いが、印刷面の表面での速度が0.1〜20m/sとなる範囲に設定することが好ましく、1〜10m/sとなる範囲に設定することがより好ましい。送風速度を前記範囲内に設定することによって、水性インクの乾燥性の違いに起因した色ムラの発生を防止でき、かつ、送風速度が速すぎることによって水性インクが段ボール(A)の表面で面方向に流れることに起因した印刷物のにじみ等の発生を防止することができる。
前記送風は、前記段ボール(A)の印刷面に対して、およそ垂直方向から行うことが、水性インクが段ボール(A)の表面で面方向に流れることに起因した印刷物のにじみ等の発生を防止するうえで好ましい。具体的には、前記送風は、前記段ボール(A)の印刷面の垂線方向に対して、−85°〜+85°の範囲の方向から行うことが好ましく、−45°〜+45°の範囲の方向から行うことがより好ましく、−20°〜+20°の範囲がさらに好ましく、−10°〜+10°の範囲が特に好ましい。
前記送風時間は、印刷物の製造効率を向上するうえで短い方が好適であり、好ましくは1秒〜1分、より好ましくは1秒〜30秒、さらに好ましくは1秒〜5秒、特に好ましくは1秒〜2秒である。
前記送風工程[1−1]における送風温度、送風方向及び送風速度は、前記工程[1]の間、一定であってもよく、必要に応じて変化させてもよい。例えば前記送風する工程[1−1]の初期においては送風速度を遅く設定し、次第に速く変化させるなどしてもよい。
前記送風は、印刷物の製造環境と同じ空気で行ってもよく、フィルター等を通した埃等の含有量が少ない空気で行ってもよい。
本発明の印刷物の製造方法を構成する工程[1]は、前記送風工程[1−1]の他に必要に応じて他の工程を含む工程であっても良い。
前記その他の工程としては、例えば加熱工程[1−2]を採用することが好ましい。前記送風工程[1−1]と前記加熱工程[1−2]とを組み合わせることによって、印刷物のモットリング(まだら模様の色ムラ)の発生をより一層効果的に防止でき、かつ、印刷面の良好な乾燥性(タック感の低減)を付与することができる。
前記加熱工程[1−2]は、輻射熱による加熱が挙げられ、より具体的には、赤外線やマイクロ波等を用いた加熱工程が、段ボール(A)の発火や変色を防止するうえで好ましい。
前記加熱工程[1−2]であることが、吸水量が15g/m2以下の層(a)を有する段ボール(A)に水性インクを印刷した場合であっても、短時間(およそ10秒以内)で乾燥させることができ、印刷物の生産効率をより一層向上できるため好ましい。
前記加熱工程[1−2]としては、例えば赤外線、マイクロ波等によって加熱する工程が挙げられ、なかでも、赤外線を用いた加熱工程であることが、水性インクに含まれる水に吸収されやすいためインクの乾燥を効率的かつ均一に行うことができるためより好ましい。
前記赤外線の波長は、一般的な0.7〜1000μmであることが好ましく、0.8〜4μmの近赤外領域であることが、赤外線が水性インクに含まれる水に吸収されやすく、効果的に乾燥することができるため好ましい。
赤外線を用いた加熱方法としては、例えばタングステン線を用いたハロゲンヒーター、ニクロム線を用いた石英管ヒーター、カーボンヒーター等を備えた放射熱型乾燥機を使用する方法が挙げられ、なかでも放射率の高いカーボンヒーターを備えた放射熱型乾燥機を使用する方法が好ましい。
前記加熱工程[1−2]は、印刷物の表面温度が150℃以下となる範囲で行うことが、印刷物の生産効率をより一層向上させるうえでより好ましい。
前記工程[1]では、前記送風工程[1−1]を終了した後に、前記加熱工程[1−2]を実施してもよいが、印刷物の製造時間を短縮し、その生産効率をより一層向上するうえで、前記送風工程[1−1]と前記加熱工程[1−2]の一部または全部を重複させることが好ましい。具体的には、吸水量15g/m2以下の層(a)を有する段ボール(A)に、水性インクで印刷を施した後、印刷面に送風する工程[1−1]と前記加熱する工程[1−2]との一部が重複する工程を含む工程[1]を経ることによって前記水性インクを乾燥させることを特徴とする印刷物の製造方法であることが好ましい。
次に、本発明の印刷物の製造方法で使用する段ボール(A)について説明する。
前記段ボール(A)としては、吸水量15g/m2以下の層(a)を有するものを使用する。前記水性インクによる印刷は、前記ダンボール(A)の前記層(a)の表面に施される。
本発明の印刷物の製造方法によれば、前記層(a)の吸水量が15g/m2以下、さらには10g/m2以下である段ボールに対しても、にじみに起因した印刷画像の色ムラがなく、かつ、段ボールを構成するフルートに起因したスジ状の色ムラがない印刷物を製造することができる。
なお、前記吸水量は、以下の方法で測定し算出することによって決定した。
はじめに、23℃、相対湿度50%の条件下、自動走査吸液計(熊谷理機工業(株)社製、KM500win)を用い、前記段ボール(A)の層(a)の表面の任意の1点に、純水を接触させた時から100m秒以内に、前記層(a)に吸収された純水の量を測定した。なお、前記自動走査吸液計は、そのキャピラリー高さ及び給液ヘッド部へかかる荷重をあらかじめ調整することで、王子製紙(株)製OKトップコート+の前記吸水量が5ml/m2となるようにキャリブレーションしたものを使用した。
前記層(a)の任意の19点に対し、上記と同様の方法で吸水量を測定し、合計19点の吸水量の平均値を、本発明でいう吸水量とした。測定条件を以下に示す。
[Spiral Method]
Contact Time:0.010〜1.0(sec)
Pitch:7(mm)
Lencth per sampling:180(degree)
Start Radius:20(mm)
End Radius:60(mm)
Min Contact Time:10(ms)
Max Contact Time:1000(ms)
Sampling Pattern:50
Number of sampling points:19
[Square Head]
Slit Span:1(mm)
Width:5(mm)
前記段ボール(A)としては、例えばフルートの少なくとも一方の面にライナーを有し、前記ライナーの表面に前記層(a)を有するもの、または、前記フルートの少なくとも一方の面にライナーとして前記層(a)を有するものを使用することができる。
前記段ボール(A)は、通常、フルートの段の数(波の数)や段の高さによって分類されており、Aフルート、Bフルート、Cフルート、Eフルート、Fフルート、Gフルート、デルタフルート等が挙げられる。
前記ライナーとしては、例えば紙の表面に予め層(a)が設けられたライナーが挙げられ、具体的には、マリコート(北越紀州製紙)、サンコート、OKボール、UFコート、MF用紙、MCコート(王子製紙)、JETスター(日本製紙)等が挙げられる。
前記段ボール(A)を構成する層(a)としては、例えばコート剤を塗布し乾燥させることで形成された層や、フィルムまたはシートからなる層が挙げられる。
前記層(a)としては、例えばバインダー等の樹脂成分と、炭酸カルシウム等の無機物を含有する層が挙げられる。
前記段ボール(A)に水性インクを印刷する方法としては、従来知られた印刷法を適用でき、なかでも、前記印刷方法としては、インクジェット記録装置を用いた印刷法であることが好ましい。
前記インクジェット記録装置を用いた印刷法としては、従来知られた方法を採用できるが、例えばインクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)の垂線と段ボール(A)とが交わる位置(y)までの距離が1mm以上であるインクジェット記録法を適用することが好ましい。
インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、段ボール(A)とが交わる位置(y)までの距離(ギャップ)は、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上である構成を備えたインクジェット記録装置を使用することができる。
前記面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、段ボール(A)とが交わる位置(y)までの距離は、段ボール(A)が大きく、反りやすいものであっても、前記段ボール(A)の表面と前記インク吐出口とが接触することを防止し、前記インク吐出口の損傷や、前記インク吐出口が備える場合の多い撥水機能の低下に起因したインク吐出不良を効果的に防止するとともに、段ボール(A)の表面とインクジェットヘッドとの距離が長い場合であっても、スジを有さない印刷物を製造するうえで、前記距離の下限は3mm以上であることが好ましく、前記距離の上限は、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることが特に好ましい。
(水性インク)
本発明で使用する水性インクとしては、従来知られたものを使用することができる。
前記水性インクとしては、例えばインクジェット記録法で印刷する場合であれば、32℃における粘度の下限が1mPa・s以上のものを使用することが好ましく、2mPa・s以上のものを使用することが好ましく、3mPa・s以上のものを使用することがより好ましく、4mPa・s以上のものを使用することがさらに好ましく、かつ、32℃における粘度の上限が20mPa・s以下のものを使用することが好ましく、15mPa・s以下のものを使用することが好ましく、12mPa・s以下のものを使用することが好ましく、9mPa・s以下のものを使用することが好ましく、8mPa・s以下のものを使用することがより好ましく、7mPa・s以下のものを使用することがさらに好ましい。
前記範囲の粘度を有する水性インクは、インクジェットヘッドからの吐出液滴が十分な体積を有するため、前記インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)の垂線と段ボール(A)とが交わる位置(y)までの距離が2mm以上であっても、飛行曲がりによって発生する段ボール(A)上の着弾位置のズレを見かけ上軽減し、印刷物のスジ発生を効果的に防止することができる。
また、前記範囲の粘度を有する水性インクは、保存安定性及び吐出安定性の点でより一層優れることから、例えばインクジェット方式での印刷に好適に使用することができる。
前記水性インクの粘度は、E型粘度計に相当する円錐平板形(コーン・プレート形)回転粘度計を使用し、下記条件にて測定した値を指す。
測定装置:TVE−25形粘度計(社製、TVE−25 L)
校正用標準液:JS20
測定温度:32℃
回転速度:10〜100rpm
注入量:1200μL
また、前記水性インクとしては、例えばインクジェット記録法で印刷する場合であれば、25℃における表面張力の下限が20mN/m以上のものを使用することが好ましく、25mN/m以上のものを使用することがより好ましく、28mN/m以上のものを使用することがさらに好ましく、かつ、25℃における表面張力の上限が40mN/m以下のものを使用することが好ましく、35mN/m以下のものを使用することがより好ましく、32mN/m以下のものを使用することがさらに好ましい。
前記範囲の表面張力を有する水性インクは、吐出液滴の段ボール(A)表面での濡れ性良好であり、着弾後十分な濡れ広がりを有する。その結果、インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)の垂線と段ボール(A)とが交わる位置(y)までの距離が2mm以上であっても、吐出液滴の飛行曲がりによって発生する段ボール(A)上の着弾位置のズレを見かけ上軽減し、印刷物におけるスジの発生を効果的に防止することができる。
前記水性インクの表面張力は、ウィルへルミ法を適用した自動表面張力計を使用し、下記条件にて測定した値を指す。前記ウィルへルミ法によれば、静的表面張力及び動的表面張力を測定可能であるが、本発明でいう上記水性インクの表面張力は、静的表面張力の値を表す。
測定装置:自動表面張力計(協和界面科学(株)社製、CBVP−Z型)
測定温度:25℃
測定子:白金プレート
前記水性インクとしては、例えば色材と、水性媒体等の溶媒とを含有する水性インクを使用することができる。なかでも、前記水性インクとしては、耐擦過性に優れた印刷物を得るうえで、さらにバインダー樹脂を含有する水性インクを使用することが好ましく、印刷物のセット性を向上させるうえで、さらに尿素結合を有する化合物を含有する水性インクを使用することがより好ましい。
前記水性インクとしては、前記バインダー樹脂、前記化合物及び前記色材等が、溶媒である水性媒体に溶解または分散した状態で存在するものを使用することが好ましい。
前記バインダー樹脂としては、例えばポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、デキストラン、デキストリン、カラーギーナン(κ、ι、λ等)、寒天、プルラン、水溶性ポリビニルブチラール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を1種もしくは数種併用して使用することができる。なかでも、前記バインダー樹脂としては、アクリル系樹脂を使用することが好ましく、アミド基を有するアクリル系樹脂を使用することが好ましい。
前記バインダー樹脂を含有する水性インクは、乾燥による溶媒蒸発に伴いインク吐出口のインクが凝固した場合であっても、前記吐出口に再び水性インクが流通することによって、前記凝固物が容易に水性インク中に分散できる性質(再分散性)に優れる。その結果、インクジェットヘッドから吐出する際、吐出を一定時間中断した後、再度開始した場合であっても、吐出液滴の飛行曲がりあるいは吐出口の閉塞を引き起こしにくく、印刷物のスジ発生を効果的に防止することができる。
前記アミド基を有するアクリル系樹脂としては、アミド基を有するアクリル系単量体と必要に応じてその他の単量体との重合体を使用することができる。
前記アミド基を有するアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等を使用することができる。
前記アクリル系樹脂の製造に使用可能なその他の樹脂としては、例えば(メタ)アクリル酸やそのアルカリ金属塩、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリルアマイド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアマイド等のアミド基を有するアクリル系単量体、(メタ)アクリロニトリル、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体を使用することができる。
前記アクリル系樹脂の製造に使用可能なその他の単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸などのビニルスルホン酸化合物、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ナフチルビニルピリジン等のビニルピリジン化合物、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を使用することができる。
前記その他の単量体としては、スチレンやベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族基を有する単量体を使用することが、顔料との親和性をより一層向上させるうえで好ましい。
前記アミド基を有するアクリル系樹脂としては、水性インクに再分散性の向上という効果を付与し、かつ、水性媒体中での分散安定性に優れる。前記アミド基を有するアクリル系樹脂としては、その製造に使用する前記単量体の全量に対して、前記アミド基を有するアクリル系単量体を0.5質量%以上5質量%を超えない範囲で使用することが好ましく、0.5質量%〜4質量%の範囲で使用することがより好ましく、1.5質量%〜3質量%の範囲で使用することが、水性インクの再分散性及び水性媒体中での分散安定性をより一層向上させるうえで特に好ましい。
また、前記アクリル系樹脂としては、水性インク中に含まれる水等の溶媒を吸収しにくいプラスチックや疎水性の高いコート紙やアート紙への水性インクの付着性をより一層向上させるうえで、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量測定時の展開溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)に不溶で分子量の測定が困難な成分を含有するものであってもよいが、25℃におけるTHF不溶成分の含有率が20質量%未満であるものが好ましく、5質量%未満であるものがよりも好ましく、THF不溶成分を含有しないものが最も好ましい。
前記アクリル系樹脂としては、前記THFに溶解するアクリル系樹脂の、数平均分子量が10,000〜100,000のものを使用することが好ましく、数平均分子量が20,000〜100,000のものを使用することがより好ましい。また、前記アクリル系樹脂としては、重量平均分子量が30,000〜1,000,000であるものを使用することが好ましく、重量平均分子量が50,000〜1,000,000であるものがより好ましい。
前記バインダー樹脂としては、例えばポリオレフィンを使用することもできる。
前記ポリオレフィンとしては、オレフィン系モノマーを主成分とするモノマーの重合体又は共重合体を使用する。前記オレフィン系モノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、メチルブテン、メチルペンテン、メチルへキセン等のα−オレフィン、ノルボネン等の環状オレフィン等を使用することができる。前記ポリオレフィンとしては、酸化ポリオレフィンを使用することもできる。
前記酸化ポリオレフィンとしては、例えば、ポリオレフィンを、熱分解や酸やアルカリ成分を用いた化学的分解などにより、分子内に酸素原子が導入されたものを使用することができる。前記酸素原子は、例えば、極性を有するカルボキシル基等を構成する。
前記ポリオレフィンとしては、融点が90℃以上200℃以下であるものを使用することが好ましく、120℃以上160℃未満であるものを使用することによって、印刷直後に印刷物を重ね合わせた場合でも、段ボール(A)表面の水性インクが剥離しない良好なセット性と、優れた耐擦過性を付与することができる。なお、前記ポリオレフィンの融点は、JIS K 0064に準拠した融点測定装置によって測定した値を指す。
前記ポリオレフィンは、前記したとおり水性媒体等の溶媒中に溶解または分散した状態で存在することが好ましく、水性媒体等の溶媒中に分散したエマルジョンの状態であることがより好ましい。
その場合、前記ポリオレフィンによって形成されるポリオレフィン粒子は、平均粒子径10nm〜200nmであることが好ましく、30nm〜150nmであることが、例えばインクジェット記録法で印刷する際に水性インクの良好な吐出安定性と印刷後の良好なセット性とを両立するうえでより好ましい。なお、前記ポリオレフィンの平均粒子径は、日機装社製マイクロトラックUPA粒度分布計を用い、動的光散乱法で測定した値を示す。
本発明において、前記スジの発生を防止すべく、水性インクの組成を過度に変更しようとすると、印刷物の印字濃度や耐擦過性が若干、低下する傾向がみられる場合がある。前記バインダー樹脂は、前記スジの発生を防止するとともに、印刷物の印字濃度や耐擦過性を向上させ、良好な光沢を付与する上で、前記水性インクの全量に対して2質量%〜7質量%の範囲で使用することが好ましく、3質量%〜6質量%の範囲で使用することがより好ましい。また、上記範囲の前記バインダー樹脂を含有する水性インクは、印刷後の加熱工程を経て前記バインダー樹脂が架橋し強固な被膜を形成することで、印刷物の耐擦過性をより一層向上させることができる。また、印刷物に水を滴下した場合あるいは水を含んだ布等でこすった場合でも、段ボール(A)の表面の水性インクが剥離しない良好な耐水性を付与することができる。
本発明で使用する水性インクとしては、前記バインダー樹脂とともに尿素結合を有する化合物を組み合わせ使用することができる。前記化合物を前記バインダー樹脂と組み合わせ使用することによって、印刷物の良好なセット性と、優れた耐擦過性を付与することができる。
前記尿素結合を有する化合物としては、尿素または尿素誘導体を使用することができる。
前記尿素誘導体としては、例えばエチレン尿素、プロピレン尿素、ジエチル尿素、チオ尿素、N,N−ジメチル尿素、ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシブチル尿素、エチレンチオ尿素、ジエチルチオ尿素等を、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
なかでも、前記尿素結合を有する化合物としては、尿素、エチレン尿素または2−ヒドロキシエチル尿素を使用することが、より一層優れたセット性を備えた印刷物を得るうえで特に好ましい。
前記尿素結合を有する化合物の含有量は、本発明で使用する水性インクをインクジェット記録方式で吐出する場合に求められる吐出安定性や、セット性に優れた印刷物を得るうえで、前記インクの全量に対して1質量%〜20質量%であることが好ましく、2質量%〜15質量%であることがより好ましく、3質量%〜10質量%であることがさらに好ましい。
前記バインダー樹脂と前記尿素結合を有する化合物とは、それらの質量割合[バインダー樹脂/尿素結合を有する化合物]が1/6〜6/1となる範囲で使用することが好ましく、1/5〜1/1の範囲で使用することが、印刷物のセット性向上効果を奏するうえでより好ましい。
また、前記尿素及び尿素誘導体は、保湿機能が高く湿潤剤として機能するため、インクジェットヘッドのインク吐出口における水性インクの乾燥や凝固を防止し、優れた吐出安定性を確保することができる。その結果、インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)の垂線と段ボール(A)とが交わる位置(y)までの距離が2mm以上であっても、印刷物のスジ発生を軽減する効果がある。
一方、前記尿素及び尿素誘導体は、加熱されると水を放出しやすいため、前記非吸収性または難吸収性の段ボール(A)に水性インクを印刷後、加熱乾燥を行った場合、より一層優れたセット性を備えた印刷物を得ることができる。
前記水性インクとしては、溶媒として水性媒体を含有するものを使用する。
前記水性媒体としては、水を単独、または、水と後述する有機溶剤との混合溶媒を使用することができる。
前記水としては、具体的にはイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を使用することができる。
前記水性媒体は、前記水性インク全量に対し1質量%〜30質量%の範囲で使用することが好ましく、5質量%〜25質量%の範囲で使用することが、セット性に優れ、インクジェット方式で吐出する場合に求められる高い吐出安定性を備えた、鮮明な印刷物を製造可能な水性インクを得るうえで特に好ましい。
前記有機溶剤(F)としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールおよびこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、および、トリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールや2−ブタノール等のブチルアルコール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;スルホラン;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類などを、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
また、前記有機溶剤(F)としては、前記したものの他に、沸点が100℃以上200℃以下であり、かつ、20℃での蒸気圧が0.5hPa以上である水溶性有機溶剤(f1)を使用することが、吐出液滴が段ボール(A)の表面に着弾した後、段ボール(A)上で速乾効果を奏するうえで好ましい。
前記水溶性有機溶剤(f1)としては、例えば3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチルラクテート等が挙げられ、これらのものを2種以上組み合わせ使用することができる。
なかでも、前記水溶性有機溶剤(f1)としては、水性インクの良好な分散安定性の維持や、例えばインクジェット装置が備えるインク吐出ノズルの、前記水性インクに含まれる溶剤の影響による劣化を抑制するうえで、HSP(ハンセン溶解度パラメータ)の水素結合項δHが6〜20の範囲であるような水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。
前記範囲のHSPの水素結合項を有する水溶性有機溶剤としては、具体的には、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましく、より好ましくは3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールである。
前記水性媒体と組み合わせ使用可能な有機溶剤としては、前記した水溶性有機溶剤(f1)のほかに、または、前記水溶性有機溶剤(f1)とともに、プロピレングリコール(f2)と、グリセリン、グリセリン誘導体、ジグリセリン及びジグリセリン誘導体からなる群より選ばれる1種以上の有機溶剤(f3)とを組み合わせ使用することが、段ボール(A)上での水性インク速乾効果と、インク吐出口における水性インクの乾燥や凝固を防止する効果を両立するうえで好ましい。
前記有機溶剤(f3)としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジグリセリン脂肪酸エステル、一般式(1)で表されるポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテル、一般式(2)で表されるポリオキシエチレン(n)ポリグリセリルエーテル等を、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
なかでも、前記有機溶剤(f3)としては、グリセリン及びn=8〜15のポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテルを使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口における水性インクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
一般式(1)及び一般式(2)中のm、n、o及びpは、各々独立して1〜10の整数を示す。
前記有機溶剤(F)としては、前記水性インク全量に対し1質量%〜30質量%の範囲で使用することが好ましく、5質量%〜25質量%の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口における水性インクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
前記水溶性有機溶剤(f1)とプロピレングリコール(f2)と前記有機溶剤(f3)とは、それらの質量割合[水溶性溶剤(f1)/プロピレングリコール(f2)]、[プロピレングリコール(f2)/有機溶剤(f3)]がそれぞれ1/25〜1/1、1/4〜8/1の範囲で使用することが好ましく、1/20〜1/1、1/2〜5/1の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
本発明の水性インクで使用可能な色材としては、公知慣用の顔料や染料等を使用することができる。なかでも、前記色材としては、耐候性等に優れた印刷物を製造するうえで、顔料を使用することが好ましい。また、前記色材としては、前記顔料が樹脂で被覆された着色剤を使用することもできる。
前記顔料としては、特に限定はなく、水性グラビアインクや水性インクジェット記録用インクにおいて通常使用される有機顔料または無機顔料を使用することができる。
また、前記顔料としては、未酸性処理顔料、酸性処理顔料のいずれも使用することができる。
前記無機顔料としては、例えば、酸化鉄や、コンタクト法、ファーネス法またはサーマル法等の方法で製造されたカーボンブラック等を使用することができる。
前記有機顔料としては、例えばアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、レーキ顔料(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
前記顔料のうち、ブラックインクに使用可能なカーボンブラックとしては、三菱化学株式会社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.960、 No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等を使用することができる。
また、イエローインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
また、マゼンタインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209、269、282等、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
また、シアンインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、16、22、60、63、66等が挙げられる。
また、白インクに使用可能な顔料の具体例としては、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、微粉ケイ酸、合成珪酸塩、等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等があげられる。これらは、表面処理されていてもよい。
前記顔料は、水性インク中に安定に存在させるために、水性媒体に良好に分散させるための処理がされていることが好ましい。
前記処理としては、例えば
(i)顔料を顔料分散剤と共に、後述する分散方法で水性媒体中に分散させる方法
(ii)顔料の表面に分散性付与基(親水性官能基および/またはその塩)を直接またはアルキル基、アルキルエーテル基またはアリール基等を介して間接的に結合させた自己分散型顔料を水性媒体に分散および/または溶解させる方法が挙げられる。
前記自己分散型顔料としては、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施し、分散性付与基または分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させたものを使用することができる。前記自己分散型顔料は、例えば、真空プラズマ処理、次亜ハロゲン酸および/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理等や、水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法によって製造することができる。
自己分散型顔料を含有する水性インクは、前記顔料分散剤を含む必要がないため、顔料分散剤に起因する発泡等がほとんどなく、吐出安定性に優れた水性インクを調製しやすい。また、自己分散型顔料を含有する水性インクは、取り扱いが容易で、顔料分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度の高い印刷物の製造に使用することができる。
自己分散型顔料としては、市販品を利用することも可能であり、そのような市販品としては、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キヤボット社製)が挙げられる。
本発明において、前記スジの発生を防止すべく、水性インクの組成を過度に変更しようとすると、印刷物の印字濃度や耐擦過性が若干、低下する傾向がみられる場合がある。前記色材は、前記スジの発生を防止するとともに、色材の優れた分散安定性を維持し、かつ、印刷物の印字濃度や耐擦過性を向上させるうえで、前記水性インクの全量に対して1質量%〜20質量%の範囲で使用することが好ましく、2質量%〜10質量%の範囲で使用することがより好ましい。
(顔料分散剤)
前記顔料分散剤は、前記色材として顔料を使用する場合に、好適に使用することができる。
前記顔料分散剤としては、例えばポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体の水性樹脂、及び、前記水性樹脂の塩を使用することができる。前記顔料分散剤としては、味の素ファインテクノ(株)製品)のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン(株)のDisperbykシリーズ、BASF社製のEFKAシリーズ、日本ルーブリゾール株式会社製のSOLSPERSEシリーズ、エボニック社製のTEGOシリーズ等を使用することができる。
前記顔料分散剤としては、粗大粒子を著しく低減でき、その結果、水性インクをインクジェット方式で吐出する場合に求められる良好な吐出安定性を付与するうえで、後述するポリマー(G)を使用することが好ましい。
前記ポリマー(G)としては、アニオン性基を有するものを使用することができ、なかでも、水への溶解度が0.1g/100ml以下であり、かつ、前記アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成可能な、数平均分子量が1000〜6000の範囲内のポリマーを使用することが好ましい。
前記ポリマー(G)の水への溶解度は、次のように定義した。すなわち、目開き250μmおよび90μmの篩を用い250μm〜90μmの範囲に粒子径を整えたポリマー(G)0.5gを、400メッシュ金網を加工した袋に封入したものを試験片(M)とした。次に、前記試験片(M)を水50mlに浸漬し、25℃の温度下で24時間緩やかに攪拌放置した。24時間後、前記試験片(M)を110℃に設定した乾燥機で2時間乾燥させた。前記試験片(M)を水に浸漬する前後の質量の変化を測定し、次式により溶解度を算出した。
溶解度(g/100ml)=[(水に浸漬する前の試験片(M)の質量(g))−(水に浸漬した後の試験片(M)の質量(g))]×2
また、本発明において、アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成するか否かは、次のように判断した。
(1)ポリマー(G)の酸価を、予め、JIS試験方法K 0070−1992に基づく酸価測定方法により測定する。具体的には、テトラヒドロフランにポリマー(G)0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し酸価を求める。
(2)次に、水50mlに対して、ポリマー(G)を1g添加した後、前記ポリマー(G)が有する酸基を100%中和するために必要な量の0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加えることによって、前記酸基を100%中和した。
(3)次に、前記(2)で得た液を、25℃の温度下で、2時間超音波洗浄器(株式会社エスエヌディ超音波洗浄器US−102、38kHz自励発振)中で超音波を照射させた後24時間室温で放置する。
(4)24時間放置後、液面から2センチメートルの深部にある液をサンプリングしたサンプル液を、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA−ST150」)を用い、微粒子形成による光散乱情報が得られるか判定することにより、微粒子が存在するか確認する。
本発明で使用するポリマー(G)が形成する微粒子の水中で安定をより一層向上させるために、前記微粒子の粒子径は、5nm〜1000nmの範囲であることが好ましく、7nm〜700nmの範囲であることがより好ましく、10nm〜500nmの範囲であることが最も好ましい。また、前記微粒子の粒度分布は、狭いほうがより分散安定性に優れる傾向にあるが、粒度分布が広い場合であっても、従来よりも優れた分散安定性を備えた水性インクを得ることができる。なお、前記粒子径及び粒度分布は、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA−ST150」)を用い測定した。
本発明で使用するポリマー(G)の中和率は、以下の式により決定した。
中和率(%)=[(塩基性化合物の質量(g)×56×1000)/(前記ポリマー(G)の酸価(mgKOH/g)×塩基性化合物の当量×ポリマー(G)の質量(g))]×100
また、前記ポリマー(G)の酸価は、JIS試験方法K 0070−1992に基づいて測定した。具体的には、テトラヒドロフランにポリマー(G)0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムエタノール溶液で滴定することにより求めた。
前記ポリマー(G)の数平均分子量は1000〜6000の範囲のものを使用することが好ましく、1300〜5000であることがより好ましく、1500〜4500であることが、水性媒体中における顔料等の色材の凝集等を効果的に抑制でき、前記色材の良好な分散安定性を備えた水性インクを得るうえでより好ましい。
なお、前記数平均分子量は、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)によって測定されるポリスチレン換算の値とし、具体的には以下の条件で測定した値とする。
(数平均分子量(Mn)の測定方法)
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
前記ポリマー(G)としては、水に対し、未中和の状態では不溶もしくは難溶性であり、且つ100%中和された状態では微粒子を形成するポリマーを使用することができ、親水性基であるアニオン性基のほかに疎水性基を1分子中に有するポリマーであるならば、特に限定はされない。
このようなポリマーとして、疎水性基を有するポリマーブロックとアニオン性基を有するポリマーブロックとを有するブロックポリマーがあげられる。ポリマー(G)において、前記アニオン性基の数と水への溶解度は、必ずしも酸価や、ポリマー設計時のアニオン性基の数で特定されるものではなく、例えば同一の酸価を有するポリマーであっても、分子量の低いものは水への溶解度が高くなる傾向にあり、分子量の高いものは水への溶解度は下がる傾向にある。このことから、本発明においては、ポリマー(G)を水への溶解度で特定している。
前記ポリマー(G)は、ホモポリマーでも良いが、共重合体であることが好ましく、ランダムポリマーであってもブロックポリマーであっても、交互ポリマーであっても良いが、なかでもブロックポリマーであることが好ましい。また、ポリマーは分岐ポリマーであっても良いが、直鎖ポリマーであることが好ましい。
また、前記ポリマー(G)は設計の自由度からビニルポリマーであることが好ましく、本発明において所望される分子量や、溶解度特性を有するビニルポリマーを製造する方法としては、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合といった、「リビング重合」を用いることにより製造することが好ましい。
なかでも、前記ポリマー(G)は(メタ)アクリレートモノマーを原料の1つとして用い製造されるビニルポリマーであることが好ましく、そのようなビニルポリマーの製造方法としては、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合が好ましく、さらにブロックポリマーの分子量や各セグメントをより精密に設計できる観点からリビングアニオン重合が好ましい。
リビングアニオン重合によって製造される前記ポリマー(G)は、具体的には、一般式(3)で表されるポリマーである。
一般式(3)中、A1は有機リチウム開始剤残基を表し、A2は芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックを表し、A3はアニオン性基を含むポリマーブロックを表し、nは1〜5の整数を表し、Bは芳香族基またはアルキル基を表す。
一般式(3)中、A1は有機リチウム開始剤残基を表す。有機リチウム開始剤として具体的にはメチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム(n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、iso−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなど)、ペンチルリチウム、へキシルリチウム、メトキシメチルリチウム、エトシキメチルリチウムなどのアルキルリチウム;ベンジルリチウム、α−メチルスチリルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、フェニルエチルリチウムなどのフェニルアルキレンリチウム;ビニルリチウム、アリルリチウム、プロペニルリチウム、ブテニルリチウムなどのアルケニルリチウム;エチニルリチウム、ブチニルリチウム、ペンチニルリチウム、ヘキシニルリチウムなどのアルキニルリチウム;フェニルリチウム、ナフチルリチウムなどのアリールリチウム;2−チエニルリチウム、4−ピリジルリチウム、2−キノリルリチウムなどのヘテロ環リチウム;トリ(n−ブチル)マグネシウムリチウム、トリメチルマグネシウムリチウムなどのアルキルリチウムマグネシウム錯体などが挙げられる。
有機リチウム開始剤は、有機基とリチウムとの結合が開裂し有機基側に活性末端が生じ、そこから重合が開始される。従って得られるポリマー末端には有機リチウム由来の有機基が結合している。本発明においては、該ポリマー末端に結合した有機リチウム由来の有機基を、有機リチウム開始剤残基と称する。例えばメチルリチウムを開始剤として使用したポリマーであれば、有機リチウム開始剤酸基はメチル基となり、ブチルリチウムを開始剤として使用したポリマーであれば、有機リチウム開始剤酸基はブチル基となる。
前記一般式(3)中、A2は疎水性基を有するポリマーブロックを表す。A2は、前述の通り適度な溶解性のバランスのバランスを取る目的の他、顔料と接触したときに顔料への吸着の高い基であることが好ましく、その観点から、A2は芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックであることが好ましい。
芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックとは、具体的には、スチレン系モノマー等の芳香族環を有するモノマーや、ビニルピリジン系モノマー等の複素環を有するモノマーを単独重合または共重合して得たホモポリマーまたはコポリマーのポリマーブロックである。
芳香環を有するモノマーとしては、スチレン、p−tert−ブチルジメチルシロキシスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレン、p−tert−(1−エトキシメチル)スチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、p−フロロスチレン、α−メチルスチレン、p−メチル−α−メチルスチレン、などのスチレン系モノマーや、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどがあげられる。
また、複素環を有するモノマーとしては、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのビニルピリジン系モノマーがあげられる。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
前記一般式(3)中、A3はアニオン性基を含むポリマーブロックを表す。A3は、前述の通り適度な溶解性を与える目的の他、顔料分散体となったときに水中で分散安定性を付与する目的がある。
前記ポリマーブロックA3におけるアニオン性基は、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基または燐酸基等があげられる。なかでも、カルボキシル基がその調製やモノマー品種の豊富さ入手し易さから好ましい。また2つのカルボキシル基が分子内または分子間において脱水縮合した酸無水基となっていてもよい。
前記A3のアニオン性基の導入方法は特に限定はなく、例えば該アニオン性基がカルボキシル基の場合は、(メタ)アクリル酸を単独重合もしくは他のモノマーと共重合させて得たホモポリマーまたはコポリマーのポリマーブロック(PB1)であってもよいし、脱保護をすることによりアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを単独重合もしくは他のモノマーと共重合させて得たホモポリマーまたはコポリマーの、該アニオン性基に再生可能な保護基の一部または全てがアニオン性基に再生されたポリマーブロック(PB2)であってもよい。
なお、前記ポリマーブロックA3で使用する(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとの総称を表す。
(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸iso−アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ラウリル、(メタ)アクリル酸n−トリデシル、(メタ)アクリル酸n−ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−tert−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸ペンタフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸ペンタデカフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリロニトリル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール−ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリアルキレンオキサイド基含有(メタ)アクリレート等があげられる。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
リビングアニオン重合法においては、使用するモノマーがアニオン性基等の活性プロトンを持つ基を有するモノマーの場合、リビングアニオン重合ポリマーの活性末端が直ちにこれら活性プロトンを持つ基と反応し失活するため、ポリマーが得られない。リビングアニオン重合では活性プロトンを持つ基を有するモノマーをそのまま重合することは困難であるため、活性プロトンを持つ基を保護した状態で重合し、その後、保護基を脱保護することで活性プロトンを持つ基を再生することが好ましい。
このような理由から、前記ポリマーブロックA3においては、脱保護をすることによりアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを用いることが好ましい。該モノマーを使用することで、重合時には前述の重合の阻害を防止できる。また保護基により保護されたアニオン性基は、ブロックポリマーを得た後に脱保護することにより、アニオン性基に再生することが可能である。
例えばアニオン性基がカルボキシル基の場合、カルボキシル基をエステル化し、後工程として加水分解等で脱保護することによりカルボキシル基を再生することができる。この場合のカルボキシル基に変換可能な保護基としてはエステル結合を有する基が好ましく、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等の第1級アルコキシカルボニル基;イソプロポキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基等の第2級アルコキシカルボニル基;t−ブトキシカルボニル基等の第3級アルコキシカルボニル基;ベンジルオキシカルボニル基等のフェニルアルコキシカルボニル基;エトキシエチルカルボニル基等のアルコキシアルキルカルボニル基などが挙げられる。
アニオン性基がカルボキシル基の場合、使用できるモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコサニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のフェニルアルキレン(メタ)アクリレート;エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの(メタ)アクリレートのなかでも、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートを用いると、カルボキシル基への変換反応が容易であることから好ましい。また、工業的に入手のしやすさを考慮すると、t−ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
一般式(3)中、Bは芳香族基または炭素原子数1〜10のアルキル基を表す。またnは1〜5の整数を表す。
リビングアニオン重合法においては、(メタ)アクリレートモノマーを求核性の強いスチレン系ポリマーの活性末端に直接重合しようとした場合、カルボニル炭素への求核攻撃により、ポリマー化できない場合がある。このため、前記A1−A2に(メタ)アクリレートモノマーの重合を行う際には反応調整剤を使用し、求核性を調整した後、(メタ)アクリレートモノマーを重合することが行われる。一般式(3)におけるBは該反応調整剤に由来する基である。反応調整剤としては、具体的にはジフェニルエチレンやα−メチルスチレン、p−メチル−α−メチルスチレン等があげられる。
リビングアニオン重合法は、反応条件を整えることにより、従来のフリーラジカル重合で用いられるようなバッチ方式により実施できる他、マイクロリアクターによる連続的に重合する方法を挙げることもできる。マイクロリアクターは、重合開始剤とモノマーの混合性が良好であるため、反応が同時に開始し、温度が均一で重合速度を揃えることができるため、製造される重合体の分子量分布を狭くできる。また同時に、成長末端が安定であるためブロックの両成分が混じりあわないブロック共重合体を製造することが容易になる。また、反応温度の制御性が良好であるため副反応を抑えることが容易である。
マイクロリアクターを使用したリビングアニオン重合の一般的な方法を、マイクロリアクターの模式図である図3を参照しながら説明する。
第一のモノマーと重合を開始させる重合開始剤とを、それぞれチューブリアクターP1及びP2(図1中7及び8)から、複数の液体を混合可能な流路を備えるT字型マイクロミキサーM1(図1中1)に導入し、T字型マイクロミキサーM1内で、第一のモノマーをリビングアニオン重合し第一の重合体を形成する(工程1)。
次に、得られた第一の重合体をT字型マイクロミキサーM2(図3中2)に移動させ、同ミキサーM2内で、得られた重合体の成長末端を、チューブリアクターP3(図3中9)から導入された反応調整剤によりトラップし、反応調節を行う(工程2)。
なお、このとき反応調整剤の種類や使用量により、前記一般式(3)におけるnの数をコントロールすることが可能である。
次に、前記T字型マイクロミキサーM2内の反応調節を行った第一の重合体を、T字型マイクロミキサーM3(図3中3)に移動させ、同ミキサーM3内で、チューブリアクターP4から導入された第二のモノマーと、前記反応調節を行った第一の重合体とを、連続的にリビングアニオン重合を行う(工程3)。
その後メタノール等活性プロトンを有する化合物で反応をクエンチすることで、ブロック共重合体を製造する。
本発明の一般式(3)で表されるポリマー(G)を、前記マイクロリアクターで製造する場合は、前記第一のモノマーとして芳香環または複素環を有するモノマーを使用し、前記開始剤として有機リチウム開始剤により反応させることで、前記A2の芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロック(該ポリマーブロックA2の片末端には前記A1の有機リチウム開始剤残基である有機基が結合している)を得る。
次に、反応調整剤を使用して成長末端の反応性を調整した後、前記アニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを前記第二のモノマーとして反応させポリマーブロックを得る。
この後、加水分解等の脱保護反応によりアニオン性基に再生することにより、前記A3即ちアニオン性基を含むポリマーブロックが得られる。
前記アニオン性基に再生可能な保護基のエステル結合を、加水分解等の脱保護反応によりアニオン性基に再生させる方法を詳細に述べる。
エステル結合の加水分解反応は、酸性条件下でも塩基性条件下でも進行するが、エステル結合を有する基によって条件がやや異なる。例えばエステル結合を有する基がメトキシカルボニル基等の第1級アルコキシカルボニル基又はイソプロポキシカルボニル基等の第2級アルコキシカルボニル基の場合は、塩基性条件下で加水分解を行うことでカルボキシル基を得ることができる。この際、塩基性条件下とする塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物などが挙げられる。
また、エステル結合を有する基が、t−ブトキシカルボニル基等の第3級アルコキシカルボニル基の場合は、酸性条件下で加水分解を行うことにより、カルボキシル基を得ることができる。この際、酸性条件下とする酸性化合物としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸;トリフルオロ酢酸等のブレステッド酸;トリメチルシリルトリフラート等のルイス酸などが挙げられる。t−ブトキシカルボニル基の酸性条件下で加水分解の反応条件については、例えば、「日本化学会編第5版 実験化学講座16 有機化合物の合成IV」に開示されている。
さらに、t−ブトキシカルボニル基をカルボキシル基に変換する方法として、上記の酸に代えて、陽イオン交換樹脂を用いた方法も挙げられる。前記陽イオン交換樹脂としては、例えば、ポリマー鎖の側鎖にカルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)等の酸基を有する樹脂が挙げられる。これらの中でも、当該樹脂の側鎖にスルホ基を有する強酸性を示す陽イオン交換樹脂が、反応の進行を速くできることから好ましい。本発明で使用できる陽イオン交換樹脂の市販品としては、例えば、オルガノ株式会社製強酸性陽イオン交換樹脂「アンバーライト」等が挙げられる。この陽イオン交換樹脂の使用量は、効果的に加水分解できることから、前記一般式(3)で表されるポリマー100質量部に対し、5質量部〜200質量部の範囲が好ましく、10質量部〜100質量部の範囲がより好ましい。
また、エステル結合を有する基が、ベンジルオキシカルボニル基等のフェニルアルコキシカルボニル基の場合は、水素化還元反応を行うことにより、カルボキシル基に変換できる。この際、反応条件としては、室温下、酢酸パラジウム等のパラジウム触媒の存在下で、水素ガスを還元剤として用いて反応させることにより定量的にフェニルアルコキシカルボニル基をカルボキシル基に再生できる。
上記のように、エステル結合を有する基の種類によってカルボキシル基への変換の際の反応条件が異なるため、例えばA3の原料としてt−ブチル(メタ)アクリレートとn−ブチル(メタ)アクリレートを用い共重合して得られたポリマーは、t−ブトキシカルボニル基とn−ブトキシカルボニル基とを有することになる。ここで、t−ブトキシカルボニル基が加水分解する酸性条件下では、n−ブトキシカルボニル基は加水分解しないことから、t−ブトキシカルボニル基のみを選択的に加水分解してカルボキシル基へ脱保護が可能となる。したがって、A3の原料モノマーであるアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを適宜選択することにより親水ブロック(A3)の酸価の調整が可能となる。
また、前記一般式(3)で表されるポリマー(G)において、ポリマーブロック(A2)とポリマーブロック(A3)がランダムに配列して結合したランダム共重合体でなく、前記ポリマーブロックがある程度の長さのまとまりとなって規則的に結合したブロック共重合体であるほうが、前記顔料が前記ポリマー(G)によって水中に分散された水性顔料分散体の安定性を向上させるうえで有利である。水性顔料分散体は、水性インクの製造に使用する原料であり、前記顔料を前記ポリマー(G)を用いて高濃度で水中に分散させた液体である。ポリマーブロック(A2)とポリマーブロック(A3)のモル比A2:A3は、100:10〜100:500の範囲であることが好ましく、A2:A3=100:10〜100:450であることが、例えばインクジェット方式で水性インクを吐出する際に求められる良好な吐出安定性を維持することができ、かつ、より一層、発色性などに優れた印刷物を製造可能な水性インクを得るうえでより好ましい。
また、前記一般式(3)で表されるポリマー(G)において、ポリマーブロック(A2)を構成する芳香環または複素環を有するモノマー数は5〜40の範囲が好ましく、6〜30の範囲がなお好ましく、7〜25の範囲が最も好ましい。またポリマーブロック(A3)を構成するアニオン性基の数は、3〜20の範囲が好ましく、4〜17の範囲がなお好ましく、5〜15の範囲が最も好ましい。
前記ポリマーブロック(A2)とポリマーブロック(A3)のモル比A2:A3を、ポリマーブロック(A2)を構成する芳香環または複素環を有するモル数と、(A3)を構成するアニオン性基のモル数のモル比で表した場合は100:7.5〜100:400が好ましい。
また、前記一般式(3)で表されるポリマー(G)の酸価は40mgKOH/g〜400mgKOH/gが好ましく、40mgKOH/g〜300mgKOH/gでより好ましく、40mgKOH/g〜190mgKOH/gであることが、例えばインクジェット方式で水性インクを吐出する際に求められる良好な吐出安定性を維持することができ、かつ、耐擦過性等の点でより一層優れた印刷物を製造可能な水性インクを得るうえでより好ましい。
前記ポリマー(G)のアニオン性基は中和されていることが好ましい。
前記ポリマー(G)のアニオン性基を中和する塩基性化合物としては、公知慣用のものがいずれも使用出来、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等の無機塩基性物質や、アンモニア、トリエチルアミン、アルカノールアミンの様な有機塩基性化合物を用いることができる。
前記水性顔料分散体中に存在する前記ポリマー(G)の中和量は、ポリマーの酸価に対して100%中和されている必要はない。具体的には、前記ポリマー(G)の中和率が20%〜200%になるように中和されることが好ましく、80%〜150%がなお好ましい。
本発明で使用する水性インクは、前記成分のほかに必要に応じて、界面活性剤、湿潤剤(乾燥抑止剤)、浸透剤、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等のその他の添加剤を含有するものを使用することができる。
前記界面活性剤は、水性インクの表面張力を低下させるなどすることで水性インクのレベリング性を向上させるうえで使用することができる。さらに、前記界面活性剤は、インクジェットヘッドの吐出口から吐出された水性インクが段ボール(A)に着弾後、表面で良好に濡れ広がらせることで、印刷物のスジ発生を防止することができる。
前記界面活性剤としては、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー等を使用することができる。なかでも前記ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーを使用することが好ましい。なかでも、前記ノニオン性界面活性剤としては、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物を使用することが、被記録媒体(Z)の前記層(z2)に対するインクジェット記録用インクの液滴の接触角が小さくなり、被記録媒体(Z)の表面でインクが濡れ広がりやすくなり、その結果、白スジのないレベリング性が良好な印刷物を得られるためより好ましい。
その他の界面活性剤としては、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
前記界面活性剤としては、水を主溶媒とする水性インクに前記界面活性剤が溶解した状態を安定的に維持するうえで、HLBが4〜20の範囲であるものを使用することが好ましい。
前記界面活性剤としては、前記水性インクの全量に対し、0.001質量%〜2質量%の範囲で使用することが好ましく、0.001質量%〜1.5質量%の範囲で使用することがより好ましく、0.5質量%〜1.5質量%の範囲で使用することが好ましい。上記範囲の前記界面活性剤を含有するインクジェットインクは、吐出液滴の段ボール(A)表面での濡れ性良好であり、段ボール(A)上で十分な濡れ広がりを有し、印刷物のスジ発生を防止する効果を奏するうえで好ましい。
また、前記水性インクに使用可能な湿潤剤としては、水性インクの乾燥を防止することを目的として使用することができる。湿潤剤は、前記水性インクの全量に対して3質量%〜50質量%の範囲で使用することが好ましい。
湿潤剤としては、水との混和性がありインクジェットヘッドの吐出口の閉塞防止効果が得られるものが好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
前記任意成分に使用可能な浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。前記浸透剤の含有量は、水性インクの全量に対して3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
(水性インクの製造方法)
水性インクは、例えばバインダー樹脂、尿素結合を有する化合物、水性媒体、色材及び必要に応じて前記界面活性剤や有機溶剤(F)などの任意成分を混合することによって製造することができる。
前記混合の際には、例えば、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等の分散機を使用することができる。
前記水性インクの製造方法としては、より具体的にはバインダー樹脂、尿素結合を有する化合物、水性媒体、色材及び必要に応じて前記界面活性剤や有機溶剤(F)などの任意成分を、一括して混合し、攪拌などすることによって製造する方法が挙げられる。
また、前記とは別の水性インクの製造方法としては、例えば<1>前記ポリマー(G)等の顔料分散剤と、前記顔料等の色材と必要に応じて溶媒等とを混合することで色材を高濃度で含有する色材分散体aを製造する工程、<2>前記尿素結合を有する化合物と必要に応じて溶媒とを混合することによって組成物bを製造する工程、<3>前記バインダー樹脂と前記水性媒体等とを含有する組成物cを製造する工程、ならびに、<4>前記色材分散体aと前記組成物bと前記組成物cとを混合する工程を経ることによって製造する方法が挙げられる。
前記方法で得られた水性インクは、必要に応じて遠心分離処理や濾過処理を行うことが、水性インク中に混入した不純物を除去するうえで好ましい。
本発明の水性インクのpHは、水性インクの保存安定性及び吐出安定性を向上させ、インク非吸収性または難吸収性の段ボール(A)に印刷した際の濡れ広がり、印字濃度、耐擦過性を向上させるうえで、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.5以上、更により好ましくは8.0以上である。前記水性インクのpHの上限は、水性インクの塗布または吐出装置を構成する部材(例えば、インク吐出口、インク流路等)の劣化を抑制し、かつ、インクが皮膚に付着した場合の影響を小さくするうえで、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更により好ましくは10.0以下である。
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
(ポリマー(P−1)の調製方法)
(合成例1)
BuLiのヘキサン溶液と、スチレンを予めテトラヒドロフランに溶解したスチレン溶液とを図3に示すチューブリアクターP1及びP2から、T字型マイクロミキサーM1に導入し、リビングアニオン重合させることによって重合体を得た。
次に、前記工程で得られた重合体を図3に示すチューブリアクターR1を通じてT字型マイクロミキサーM2に移動させ、前記重合体の成長末端を、チューブリアクターP3から導入した反応調整剤(α−メチルスチレン(α−MeSt))によりトラップした。
次いで、tert−ブチルメタクリレートを予めテトラヒドロフランに溶解したtert−ブチルメタクリレート溶液を図3に示すチューブリアクターP4からT字型マイクロミキサーM3に導入し、チューブリアクターR2を通じて移動させた前記トラップされた重合体と、連続的なリビングアニオン重合反応を行った。その後、メタノールを供給することによって前記リビングアニオン重合反応をクエンチすることによってブロック共重合体(PA−1)組成物を製造した。
前記ブロック共重合体(PA−1)組成物を製造する際、図3に示すマイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させることで、反応温度を24℃に設定した。
前記方法で得られたブロック共重合体(PA−1)を構成するモノマーのモル比は、(BuLi/スチレン/α−メチルスチレン/tert−ブチルメタクリレート)=1.0/12.0/1.3/8.1であった。
得られたブロック共重合体(PA−1)組成物を、陽イオン交換樹脂で処理することで加水分解した後、減圧下で留去し、得られた固体を粉砕することによって、粉状のポリマー(P−1)を得た。
得られたポリマー(P−1)の物性値は以下のように測定した。
(数平均分子量(Mn)の測定方法)
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
(酸価の測定方法)
JIS試験方法K 0070−1992に準拠して測定した。テトラヒドロフランに試料0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することにより求めた。
(水への溶解度の測定方法)
目開き250μmおよび90μmの篩を用い250μm〜90μmの範囲に粒子径を整えたポリマー0.5gを、400メッシュの金網を加工して得た袋に封入したものを試験片(M)とした。次に、前記試験片(M)を水50mlに浸漬し、25℃の温度下で24時間緩やかに攪拌しながら放置した。24時間後、前記試験片(M)を110℃に設定した乾燥機で2時間乾燥させた。前記試験片(M)を水に浸漬する前後の質量の変化を測定し、次式により溶解度を算出した。
溶解度(g/100ml)=[(水に浸漬する前の試験片(M)の質量(g))−(水に浸漬した後の試験片(M)の質量(g))]×2
(水中での微粒子形成の判断方法および平均粒子径(nm)の測定方法))
(1)前記酸価の測定方法に従い、ポリマーの酸価を求めた。
(2)水50mlに対して、ポリマーを1g添加後、上記(1)で得たポリマーの酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和とした。
(3)100%中和させた液を、25℃の温度下で、2時間超音波洗浄機(株式会社エスエヌディ超音波洗浄器US−102、38kHz自励発信)中で超音波を照射し分散させた後、24時間室温で放置した。
前記放置して得た液の、液面から2センチメートルの深さにある液をサンプル液として、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA−ST150」)を用い、粒子の光散乱情報から微粒子形成の有無を確認し、微粒子が存在する場合はその体積平均粒子径を測定した。
(表面張力の測定方法)
前記水中での微粒子形成の判断方法で得たサンプル液と同様のサンプル液を、ウィルヘルミ表面張力計を用い測定した値とした。
前記合成例で得られたポリマーの原料、反応条件、物性値を表1に示す。
表1中、BuLiはノルマルブチルリチウムを表し、Stはスチレンを表し、DPEは1,1−ジフェニルエチレンを表し、α−MeStはαメチルスチレンを表し、
tBMAはメタクリル酸tert−ブチルを表す。
(製造例1 水性顔料分散体(Y)の調製)
顔料としてフタロシアニン系顔料ファストゲンブルーPigment(DIC(株)製:C.I.ピグメント15:3)を150質量部、ポリマー(P−1)を45質量部、トリエチレングリコールを150質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液20質量部を、1.0Lのインテンシブミキサー(日本アイリッヒ株式会社)に仕込み、ローター周速2.94m/s、パン周速1m/sで、25分間混練した。 次に、前記インテンシブミキサー容器内の混練物に、撹拌を継続しながら、分散媒(i)としてイオン交換水450質量部を徐々に加えた後、分散媒(ii)としてイオン交換水185質量部をさらに加え混合することによって、顔料濃度15質量%の水性顔料分散体(Y)を得た。
(バインダー樹脂の調製)
攪拌機、温度計、冷却管、窒素導入管を装備した4つ口のフラスコに、「ニューコール707SF」(日本乳化剤(株)製アニオン性乳化剤)16g、「ノイゲンTDS−200D」(第一工業製薬(株)製ノニオン性乳化剤)6.5gおよび脱イオン水220gを仕込み、窒素気流下に80℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム0.8gを脱イオン水16gに溶解させた水溶液を添加した。さらに2−エチルヘキシルアクリレート60g、スチレン100g、メタクリル酸メチル27g、アクリルアミド3g、メタクリル酸6gの混合液を、3時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間反応せしめた後、25℃まで冷却し、28質量%アンモニア水1.5gで中和せしめ、脱イオン水を加えることによって、ガラス転移温度(Tg)35℃、平均粒子径50nmのアクリル系樹脂水分散液(X−1)を得た。アクリル系樹脂分散液(X−1)の最終固形分濃度は39質量%であった。
(水性インクの調製)
水性顔料分散体(Y)を37.9gに、MB((株)ダイセル製3−メトキシ−1−ブタノール)6.0g、プロピレングリコール8.0g、グリセリン9.0g、トリエチレングリコール0.47g、SC−P1000(阪本薬品工業(株)製ポリオキシプロピレン(14)ポリグリセルエーテル)2.0g、エチレン尿素5.62g、トリエタノールアミン0.2g、SURFYNOL 104PG50(エアープロダクツ社製アセチレンジアルコール系界面活性剤)1.6g、TEGO Wet KL245(巴工業(株)製、ポリエーテル変性シロキサンコポリマー)0.012g、ACTICIDE B−20(ソー・ジャパン(株)製、防腐剤)、ボンコートCM−8430(DIC(株)製、アクリル系樹脂)水溶液13.61g、イオン交換水15.49gを加えて攪拌し、水性インク(Y1)を得た。
(実施例1)
京セラ株式会社製インクジェットヘッドKJ4B−YHに、水性インク(Y1)を充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧−5.0kPaに設定することで供給圧を調整した。また、インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、段ボールとが交わる位置(y)までの距離(ギャップ)は2mmに設定した。
段ボールとしては、吸水量5g/m2の層を備えたライナーを片面に有する全厚3mmのBフルートタイプを使用した。
前記インクジェットヘッドの駆動条件を、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、水性インクの液滴サイズを18pLに設定した。
前記した条件のもと、前記インクジェットヘッドを備えたプリンターを用いて、前記段ボールの層に相当する面に、600×600dpiでベタ印刷を行った。
上記印刷直後の段ボールの印刷面に、段ボールの搬送方向に対して90°、印刷面に対しては垂直から60°の角度で、送風の温度が40℃及び送風速度が5m/sとなるように送風した。送風時間は1秒とした。また、前記送風と同時に、赤外線(ヘレウス社製ZKB1200/340G、カーボンヒーター1000W×7本、出力100%)を用い、前記印刷面の垂直方向の距離100mmの位置から加熱した。加熱、乾燥時間は1秒間、乾燥時の印刷面の温度は60℃であった。
(実施例2)
実施例1で行った送風の温度を常温とした以外は、実施例1と同様の方法で、印刷物を得た。乾燥時の印刷面の温度は60℃であった。
(実施例3)
実施例1で行った送風の温度を常温とし、かつ、送風時間を30秒とし、かつ、赤外線を用いた加熱を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で印刷物を得た。
(実施例4)
段ボールとして、吸水量10g/m2の層を備えたライナーを片面に有する全厚5mmのAフルートタイプを使用した以外は、実施例1と同様にして、印刷・乾燥を行った。
(実施例5)
段ボールとして、吸水量10g/m2の層を備えたライナーを片面に有する全厚5mmのAフルートタイプを使用した以外は、実施例2と同様にして、印刷・乾燥を行った。
(実施例6)
段ボールとして、吸水量10g/m2の層を備えたライナーを片面に有する全厚5mmのAフルートタイプを使用した以外は、実施例3と同様にして、印刷・乾燥を行った。
(比較例1)
乾燥手段を赤外線のみとして送風を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で印刷物を得た。
(比較例2)
送風工程を行わず、無風の環境下で自然乾燥を30秒間行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で印刷物を得た。
(比較例3)
乾燥手段を赤外線のみとして送風を行わなかったこと以外は、実施例4と同様の方法で印刷物を得た。
(比較例4)
送風工程を行わず、無風の環境下で自然乾燥を30秒間行ったこと以外は、実施例4と同様の方法で印刷物を得た。
印刷物の(1)段ボールのフルートに起因した色ムラ、(2)モットリング(まだら模様の色ムラ)の有無を目視で評価した。また、(3)乾燥のしやすさや印刷物の生産効率の指標となるタック性は、前記乾燥直後の印刷物、及び、乾燥後30秒間放置した後の印刷物の表面を、それぞれ不織布で10回擦った際に、不織布にインクが付着したか否かを目視で評価した。
(1)色ムラ
○;フルートに起因した色ムラを確認できなかった。
△;フルートに起因した色ムラをわずかに確認できたが、実用上許容されるレベルのものであった。
×;フルートに起因した色ムラを確認することができた。
(2)モットリング
○;モットリングを確認できなかった。
△;モットリングをわずかに確認できたが、実用上許容されるレベルのものであった。 ×;モットリングを確認することができた。
(3)タック性
○;不織布にインクが付着していなかった
△;不織布に僅かにインクが付着していたものの、実用上許容されるレベルのものであった。
×;不織布にインクが付着していた。
実施例1、2及び3で示すとおり、印刷物の色ムラの発生防止には、印刷面に送風することが効果的であった。また、実施例1で示すとおり、前記送風温度は、40℃とした方が、タック性が軽減し、乾燥時間を短縮することができた。また、実施例1及び2で示すとおり、前記送風工程とともに赤外線による加熱乾燥工程を採用することで、印刷物のモットリングを軽減することができた。一方、比較例1で示すとおり、送風工程を採用せず、赤外線による加熱乾燥のみでは、印刷物に色ムラが発生し、乾燥直後にはタック性が残った。また、比較例2で示すとおり、送風工程を採用せず自然乾燥のみの場合には、モットリング発生、タック性悪化により乾燥時間が長くなる傾向となるため、印刷物の生産性を低下させた。
また比較例3及び4で示すとおり、送風工程を採用しない場合には、吸水量の比較的大きい段ボールにおいて色ムラやモットリングが発生し、タック性が残った。実施例4,5,6に示すように、印刷面に送風することで色ムラの発生が抑制され、モットリングの発生が抑制され、タック性が軽減された。
したがって、波型に形成された中芯の少なくとも片面にライナーが形成され、かつライナーの上に吸水量が15g/m2以下である層を有する段ボールに対して水性インクでインクジェット印刷を施した後に乾燥させる場合に、スジ状のムラの無い意匠性に優れた印刷面を得るためには、印刷面に送風する工程が必須であり、さらには良好な乾燥性及び印刷物の良好な生産性を得るうえで赤外線乾燥の併用が有効であることがわかった。なお、前記乾燥性が良好であることは、前記乾燥時間をより短縮できることを指し、前記生産性が良好であることは、前記乾燥時間を短縮できることによって印刷物の生産効率を向上できることを指す。