把持装置は、掌部と、前記掌部の周囲に突出して設けられ、前記掌部を厚さ方向に変形させることにより前記掌部に向かって倒れる複数の指部とを有する袋状の把持本体と、複数の前記指部の先端同士が接触するまでの間に前記掌部と接触し、前記掌部の変形を抑制する抑制機構とを備える。
抑制機構は、掌部の厚さ方向の変形を抑制することによって、指部が設定以上に変形しないように抑制する。したがって、把持装置は、指部の可動範囲の上限を設定することができるので、ワークの破損をより確実に防止することができる。
抑制機構は、複数の前記指部の先端同士が接触するまでの間に前記掌部の少なくとも一部と接触する接触部を備えるのが好ましい。接触部は、掌部に対し環状に接触する場合と、掌部の中央部分に接触する場合とを含む。指部の先端とは、指部の厳密な先端に限定されず、先端から指部の長さ方向にある程度離れた位置までの領域を含む。
把持装置は、掌部の内面側の空間と外部を繋ぐ貫通穴を有する開口部に接触部が設けられている場合と、開口部とは別に接触部を備える場合とを含む。前記貫通穴は、1つ又は2つ以上でもよい。
抑制機構は、掌部と接触する接触部の位置を調整する可変部を備えていてもよい。可変部は、掌部の表面に対し接触部を、平行方向に移動する場合と、垂直方向に移動する場合とを含む。
把持装置は、掌部の外周の収縮を防ぐ形状保持部を備えるのが好ましい。形状保持部は、把持本体内に設けられ、変形した前記掌部を受け入れるガイド穴を有し、前記ガイド穴の軸方向の、指部側先端の外側に湾曲部が設けられている。形状保持部に湾曲部が形成されていることにより、掌部が湾曲部に接触しながら厚さ方向に変形するので、指部が連続的、かつ、ゆるやかに変形する。したがって把持装置は、柔らかくワークを把持することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
1.第1実施形態
(全体構成)
図1に、本実施形態に係る把持装置10Aを適用した産業用ロボット12の構成を示す。産業用ロボット12は、直交ロボットであって、レール14と、レール14に沿って移動する移動体16と、移動体16に固定されたエアシリンダー18とを備える。レール14は、図中Y軸方向に移動可能に設けられている。
エアシリンダー18は、シリンダーチューブ19と、シリンダーチューブ19に対し進退可能に設けられたピストンロッド20とを有する。シリンダーチューブ19には、配管21,22が設けられている。当該配管21,22を通じて、気体が給排気されることにより、ピストンロッド20がシリンダーチューブ19に対し進退可能となっている。ピストンロッド20の先端には、アダプタプレート23に接続された脱着部24を介して把持装置10Aが設けられている。アダプタプレート23は、図示しないボルトによってピストンロッド20の先端に固定されている。
産業用ロボット12は、水平な基台26上に置かれたワークWを、把持装置10Aで把持すると共に、X軸、Y軸、及びZ軸方向に移動することができる。
図2に示すように、把持装置10Aは、脱着部24を介してピストンロッド20に設けられる把持本体28Aを備える。把持本体28Aは、気密性と弾性とを有する材料、例えば、天然ゴムや合成ゴムなどで形成することができる。把持本体28AのJIS K6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準じて測定した硬度は、60~90程度であるのが好ましい。
把持本体28Aは、掌部30と、掌部30の周囲に突出して設けられた複数の指部32とを有する。掌部30は略円盤状をなしている。指部32は、掌部30と一体に形成されており、掌部30を囲むように放射状に5個設けられている(図1参照)。指部32同士の間には、所定の間隔が形成されている。指部32は、内面34が掌部30と一体に形成されている。指部32は中実である。指部32の材質は、掌部30と同じ材質、または異なる材質でもよく、さらに均一である必要はなく、異種材料を組み合わせた複合材、フィラーなどの添加物を含んでもよい。指部32の外形形状は、適宜選択することができ、例えば、円柱、円錐、円錐台、三角柱、四角柱、三角錐、四角錐、四角錐台、直方体などでもよい。複数の指部32は、全て同一形状である必要はなく、形状が異なっていてもよい。本実施形態の場合、指部32は、四角錐台形状を有し、内面34が、掌部30に接合している基端から先端に向かって外側に傾斜するように形成されている。また、複数の指部32は同一形状で構成されている。
把持本体28Aは、掌部30を厚さ方向(Z方向)に変形させる力が作用すると、当該力によって内面34が引っ張られ、指部32が掌部30へ向かって倒れるように弾性変形する。
把持本体28Aは、掌部30及び指部32が形成されている表面とは逆側の面に開口を有する袋状の部材からなる。把持本体28Aの開口は、ケース36Aによって密閉されている。把持本体28Aとケース36Aは、把持本体28Aの外周に巻かれたバンド37によって固定される。
ケース36Aは、ステンレスなどの金属製、又はプラスチックなどの硬質の樹脂製であるのが好ましい。ケース36Aは、筒状部40と、筒状部40の上端に設けられた上部41Aと、上部41Aに設けられた継手42とを有する。筒状部40は円筒状の部材である。上部41Aは円盤状の部材である。筒状部40と上部41Aは一体に形成されている。上部41Aの中央には厚さ方向に貫通する貫通穴43が設けられている。継手42は貫通穴43と連通する。継手42はシール材44を介して上部41Aにねじ止めされている。継手42は、脱着部24とワンタッチで着脱自在に連結される。
脱着部24は、ワンタッチ継手であり、一端がアダプタプレート23に接続され、他端が継手42に接続される。脱着部24は、継手42が差し込み方向に差し込まれると接続され、リリース部45が差し込み方向に押されることによって接続が解除される。脱着部24は、ワンタッチ継手に限らず、ねじによって継手42と接続される継手でもよい。
脱着部24には、周面に給排気口46が設けられている。当該給排気口46は、図示しないが、配管の一端に接続される。この配管の他端は、例えば三方弁を介して真空ポンプに接続される。三方弁は、真空ポート、給排気ポート、大気解放ポートを有し、真空ポートが真空ポンプに、給排気ポートが把持装置10Aに、大気解放ポートが外部にそれぞれ接続される。当該配管を通じて、気体が、把持本体28Aの内から外へ、及び把持本体28Aの外から内へ、流通する。脱着部24は、天面に設けられた図示しない取り付け穴を通じてボルトをアダプタプレート23にねじ込むことによって、アダプタプレート23に固定される。
把持本体28Aは、内部に、筒状部40の下端に設けられた開口部52と、掌部30の外周が収縮しないように把持本体28Aを保持する形状保持部53とを有する。本図では、開口部52と形状保持部53が一体に形成されている。
開口部52は、円盤状の部材であり、厚さ方向に貫通する貫通穴54を有する。貫通穴54は、開口部52の下面52aと掌部30の内面30aの間に形成された内部空間56を、継手42を介して図示しない配管と接続する。これにより内部空間56と図示しない配管の間で気体が流通する。
本実施形態では、貫通穴54は、開口部52の中央に形成されている。このため、貫通穴54には、厚さ方向に変形した掌部30が入り込む。すなわち、開口部52は、変形した掌部30を受け入れる。
形状保持部53は、内部空間56に配置されている。形状保持部53の材質は、把持本体28Aの減圧下において変形しなければ足り、例えば硬質樹脂や金属を用いることができる。形状保持部53の材質は、必ずしも均一である必要はなく、異種材料を組み合わせた複合材でもよい。
本図に示す形状保持部53は、変形した掌部30を貫通穴54へ案内するガイド穴58と、ガイド穴58の軸方向の指部32側先端の外側に湾曲部60とを有する枠状の部材である。本実施形態の場合、形状保持部53は、円筒状の部材であって、全体として先端に向かって先細に形成されている。形状保持部53の指部32側に湾曲部60が設けられている。湾曲部60は、外側に向かって凸形状である。ガイド穴58は、掌部30に対応した形状保持部53の中央に形成される。
湾曲部60とガイド穴58が面で交差する形状保持部53の指部側先端は、面取り加工が施されているのが好ましい。面取り加工は、形状保持部53の指部側先端を削り、角面や丸面とする加工が適用できる。形状保持部53は、面取り加工が施されていることにより、上記先端における欠けなどの破損を防止することができる。
形状保持部53の外径とガイド穴58の内径の比は、1.0:0.98~1.0:0.6であるのが好ましい。例えば、形状保持部53の外径が80mmの場合、ガイド穴58の内径が48~78mmの範囲であれば、指部32は掌部30の中心に向かってより確実に弾性変形する。
形状保持部53の指部側先端の位置は、当該形状保持部53の径方向における指部32の基端の中心位置よりも外側に位置するのが好ましい。これにより、指部32が掌部30の中心に向かって弾性変形する際に、形状保持部53の指部側先端と指部32の基端が上記の位置で接触する。この結果、指部32は、上記の接触部分を支点として、掌部30の中心に向かって容易に弾性変形する。
把持装置10Aは、把持本体28Aの内部に、複数の指部32の先端同士が接触するまでの間に掌部30の内面30aと接触する接触部64を有する。接触部64は、掌部30の内面30aから所定の高さHに設けられている。本実施形態では、接触部64は、開口部52の開口縁部、すなわち貫通穴54の縁部分に設けられている。接触部64と接触中の掌部30は、接触部64と非接触の場合よりも変形し難くなる。掌部30の変形が抑制されることにより、指部32の弾性変形が抑制される。
接触部64は、指部32の変位を制限するリミッタとして機能する。指部32の指変位量は、開口部52の開口径、すなわちリミッタ径Aを変えることにより所望の値とすることができる。以下の説明では、開口部の開口径をリミッタ径と称する。リミッタ径Aは、複数の指部32の先端同士が接触する動作、すなわち複数の指部32を閉じきるための動作を抑制しない最小の径Alimit未満とされる。最小径Alimitは、CAE(Computer Aided Engineering)シミュレーション解析を行うことにより得られる。最小径Alimitは、例えば、掌部30の内面30aと開口部52の下面52aとの間の長さ、把持本体28Aの硬度や引張特性、把持本体28Aの外形φ、指部32が閉じきるまでに必要な指変位量などによって決定される。A<Alimitの範囲内では、複数の指部32は、閉じきる前に弾性変形が抑制されるので、互いの先端同士の間に隙間を空けた状態で保持される。例えば、外形φが130mmの把持本体28Aにおいて、リミッタ径Aは60mmである。複数の指部32の先端同士が接触するまでの間に掌部30の変形を抑制する構成要素、例えば開口部52や接触部64などのことを、抑制機構とも称する。
(動作及び効果)
上記のように構成された把持装置10Aが設けられた産業用ロボット12の動作及び効果について説明する。なお、以下に示す条件は、一例である。産業用ロボット12は、ピストンロッド20がシリンダーチューブ19内に退避し、エアシリンダー18が収縮した状態を原点とする。また把持装置10Aは、初期状態において把持本体28A内の圧力が大気圧である。すなわち三方弁は、真空ポートが遮断され、給排気ポートが大気解放ポートと繋がっている状態である。
産業用ロボット12は、移動体16がレール14に沿って移動することで、基台26上に置かれたワークWの鉛直線上に把持装置10Aを位置決めする(図1)。次いで、産業用ロボット12は、ピストンロッド20がシリンダーチューブ19から進出することにより、指部32がワークWの側面に到達するまで、エアシリンダー18を伸長させる。
次いで三方弁は、大気解放ポートが遮断され、給排気ポートが真空ポートと繋がった状態に切り替えられる。これにより把持装置10Aは、配管を通じて、把持本体28A内の気体を吸引し、把持本体28A内の圧力を例えば-0.03MPa以下に減圧する。
図3に示すように、掌部30は、形状保持部53により外周が収縮しないように維持された状態で、ガイド穴58を越えて貫通穴54に吸い込まれるようにして厚さ方向に変形する。掌部30が厚さ方向へ変形するのに伴い、指部32の内面34が掌部30の中心へ引っ張られる。そうすると指部32は、掌部30へ向かって倒れるように弾性変形する。これにより指部32は、主に内面34がワークW表面に接触する。本図に示す立方体のワークWの場合、指部32はワークWの側面に接触する。上記のように把持装置10Aは、把持本体28A内を減圧することにより、ワークWを把持する。
さらに把持本体28A内を減圧し続けると、掌部30は、内面30aが接触部64と接触し、厚さ方向への変形が抑制される。掌部30の変形が抑制されるのに伴い、指部32の弾性変形も抑制される。これにより、把持装置10Aは、指部32が設定以上に変形しないように抑制する。
次いで産業用ロボット12は、ピストンロッド20をシリンダーチューブ19内に退避させてエアシリンダー18を収縮することにより、ワークWを基台26から持ち上げることができる。さらに産業用ロボット12は、移動体16がレール14に沿って移動したり、レール14がY軸方向に移動したりすることにより、水平方向へワークWを自在に移動することができる。
所望の場所へ移動した後、産業用ロボット12は、ピストンロッド20がシリンダーチューブ19から進出することにより、ワークWが基台26に接触するまでエアシリンダー18を伸長させる。次いで、三方弁は、真空ポートが遮断され、給排気ポートが大気解放ポートと繋がっている状態に切り替えられる。そうすると把持本体28A内へ大気解放ポートから配管を通じて気体が流入する。把持本体28A内の圧力が大気圧に戻るのに伴い、掌部30が貫通穴54およびガイド穴58から押し出され元の状態に戻る。掌部30が元の状態に戻るのに伴い、指部32が開き、ワークWを手放す。
次いで、産業用ロボット12は、ピストンロッド20をシリンダーチューブ19内に退避させてエアシリンダー18を収縮することにより、把持装置10AをワークWから切り離す。以上のようにして産業用ロボット12は、基台26上に置かれたワークWを、把持装置10Aで把持することにより、所望の位置へ移動することができる。
把持装置10Aは、抑制機構を備えることにより、複数の指部32の先端同士が接触するまでの間に掌部30が接触部64と接触し、掌部30の変形を抑制することができる。したがって、把持装置10Aは、指部32の可動範囲の上限を設定することにより、ワークWの破損をより確実に防止することができる。
接触部64は、リミッタ径Aが小さいほど、変位量が小さい段階で掌部30に接触するので、結果として指部32の可動範囲を狭くすることができる。すなわち把持装置10Aは、リミッタ径Aが小さいほど、指部32の弾性変形前後の指変位量が小さくなる。指変位量は以下のようにして測定した。すなわち、図4に示すように、レーザ変位計66を用いて、把持本体28A内を減圧して指部32を弾性変形させながら指部32に定めた測定点の位置を測定し、指部32の弾性変形前後の各測定点間の距離を算出した。レーザ光は、弾性変形前の指部32のうち、指先から所定高さであり、かつ、指部32の幅方向(図4における紙面奥行方向)の中心に照射した。指変位量は、上記の各測定点間の距離であり、指部32の厚さ方向(図4における紙面左右方向)の成分のみを持つものとする。図5は、リミッタ径Aが80mm,70mm,60mm,55mm,50mm,45mmである6種の開口部について、それぞれのリミッタ径Aにおける指変位量の、把持本体28A内の真空度に伴う変化を測定した結果である。把持本体28A内の真空度は、-0.03MPaと-0.05MPaとした。
図5より、リミッタ径Aが60mm以下の領域で指変形量が著しく小さくなっていることがわかる。これは、リミッタ径Aが最小径Alimit以下となったことで、掌部30の厚さ方向への変形に対する抑制効果、すなわちリミッタ効果が強くなっていることを意味していると考えられる。以上から、リミッタ径Aが小さいほどリミッタ効果が強くなることが確認できた。
また、図5より、真空度が低いほど指変形量が小さいことがわかる。これは、真空度が高くなることで、掌部30を厚さ方向へ変形させる力がより強くなることに由来していると考えられる。以上から、真空度が低いほどリミッタ効果が強くなることが確認できた。
2.第2実施形態
第2実施形態に係る把持装置は、開口部の開口径を可変とする開口径可変部を有する点が、上記第1実施形態と異なる。上記第1実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
図6に示すようには、把持装置10Bは、掌部30と、掌部30の周囲に突出して設けられた複数の指部32とを有する把持本体28Bを備える。把持本体28Bは、バンド37によってケース36Bに固定される。把持本体28Bは、継手71を介して配管72の一端に接続される。配管72の他端は、例えば三方弁を介して真空ポンプに接続されている。三方弁は、真空ポート、給排気ポート、大気解放ポートを有し、真空ポートが真空ポンプに、給排気ポートが把持装置10Bに、大気解放ポートが外部にそれぞれ接続される。なお、把持装置10Bは、図示しないが、アダプタを介してピストンロッドの先端に固定される。
図7に示すように、把持本体28Bは、掌部30及び指部32が形成されている表面とは逆側の面に開口を有する袋状の部材からなる。把持本体28Bの開口は、ケース36Bによって密閉されている。
ケース36Bは、上ケース73と下ケース74を有する。上ケース73は、円柱部73aと、円柱部73aの中心軸上に設けられた第1貫通穴73bと、円柱部73aの中心よりも径方向の外側に設けられた第2貫通穴73cとを有する。円柱部73aの外周面には雄ねじが形成されている。本図では円柱部73aの上部にフランジが形成されている。第1貫通穴73bは継手71と連通する。継手71は、図示しないシール材を介して、第1貫通穴73bにねじ止される。継手71と配管72と第1貫通穴73bを通じて、気体が、把持本体28Bの内から外へ、及び把持本体28Bの外から内へ、流通する。第2貫通穴73cには、後述する操作部83の軸83cが挿入される。下ケース74は、中央に貫通穴74aを有する底部74bと、底部74bの外縁に一体に形成された筒状部74cとを有する。筒状部74cの内周面には雌ねじが形成されている。上ケース73と下ケース74は、円柱部73aを筒状部74cにねじ込むことにより一体化される。
把持本体28Bは、内部に形状保持部53を有する。形状保持部53は、底部74bと掌部30の間に配置されている。形状保持部53は、底部74bとは別体に形成されている。
把持装置10Bは、把持本体28Bの内部に、複数の指部32の先端同士が接触するまでの間に掌部30の変形を抑制する抑制機構80を備える。
抑制機構80は、開口部81と、開口部81のリミッタ径Aを可変とする開口径可変部82と、開口径可変部82を操作するための操作部83とを有する。開口部81と開口径可変部82は円環状に形成されている。開口部81は底部74b上に設けられる。開口径可変部82は開口部81上に設けられる。操作部83は、歯車83aを介して開口径可変部82と連結し、つまみ83bが軸83cを中心に回転することにより、歯車83aに連動させて開口径可変部82を回転させる。軸83cは、図示しないシール材を介して第2貫通穴73cに挿入される。軸83cの一端は、円柱部73aの上面から突出する。軸83cの他端は、底部74bに設けられた図示しない軸受部に配置される。歯車83aは軸83cの一端と他端の間に設けられる。つまみ83bは軸83cの一端に設けられる。つまみ83bは、手動で回転させてもよいし、図示しないサーボモータなどを利用して図示しないコンピュータの制御により回転させてもよい。
開口部81は、変形した掌部30を受け入れる。開口部81の開口縁部には、弾性変形する複数の指部32の先端同士が接触するまでの間に掌部30の内面と接触する接触部86が設けられている。
図8Aに示すように、開口部81は、円環状となるように重ね合わせて配された複数の板部材84により形成される。開口部81の開口縁部は、板部材84の内径側端縁により形成される。板部材84は、基材84aの一面から突出して設けられた係合部84bと、基材84aの他面から突出して設けられた回転軸84cとを有する。係合部84bは、後述する開口径可変部82のガイド溝82bと係合する。回転軸84cは、底部74bに設けられた図示しない軸受部に、軸回転自在に支持される。各板部材84が回転することにより、リミッタ径Aが変化する。
開口径可変部82は、中央に開口を有する円環状の本体82aと、本体82aに設けられたガイド溝82bとを有する。本体82aの外周には、歯車83aと噛み合う歯が設けられている。ガイド溝82bは係合部84bと係合する。開口径可変部82は、係合部84bをガイド溝82bの一端と他端の間で移動させ、板部材84をそれぞれ回転させるカム部材である。ガイド溝82bの一端と係合部84bが当接した場合は、リミッタ径Aが最大となる。図8Aは、リミッタ径Aが最大の場合を示している。
図8Bに示すように、開口径可変部82が回転すると、ガイド溝82bに沿って係合部84bが移動する。板部材84は、先端が開口の中心へ近づく方向に回動する。ガイド溝82bの他端と係合部84bが当接する位置まで開口径可変部82が回転すると、リミッタ径Aが最小となる。図8Bは、リミッタ径Aが最小の場合を示している。
以上のように、把持装置10Bは、開口径可変部82を備えることにより、リミッタ径Aを変えることができるので、リミッタ効果の強さを変えることができる。したがって、把持装置10Bは、指部32の可動範囲の上限を設定することができるので、ワークWの破損をより確実に防止することができる。
3.第3実施形態
第3実施形態に係る把持装置は、掌部の変形を押えるストッパを有する点が、上記第1,第2実施形態と異なる。上記第1,第2実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
図9に示すように、把持装置10Cは、掌部30と、掌部30の周囲に突出して設けられた複数の指部32とを有する把持本体28Cを備える。把持本体28Cは、バンド37によってケース36Cに固定される。把持本体28Cは、継手71を介して配管72に接続される。把持本体28Cは、開口を有する袋状の部材からなり、開口がケース36Cによって密閉されている。ケース36Cは、筒状部40と、筒状部40の上端に設けられた上部41Cを有する。上部41Cは、中央に貫通穴43が形成されており、貫通穴43に図示しないシール材を介して継手71が設けられる。
把持本体28Cは、内部に、筒状部40の下端に設けられた開口部52と、掌部30の外周が収縮しないように把持本体28Cを保持する形状保持部53とを有する。開口部52と形状保持部53は一体に形成されている。開口部52は、中央に貫通穴90を有する。
把持装置10Cは、把持本体28Cの内部に、掌部30の変形を押さえるストッパ92を有する。ストッパ92は貫通穴90に配置される。ストッパ92と貫通穴90の間には隙間が形成されている。
ストッパ92は、先端が内部空間56に配置され、基端が上部41Cに固定されている。本図では、ストッパ92と上部41Cは一体に形成されている。ストッパ92は円柱状の部材である。ストッパ92は、貫通穴43と接続する流路94を有する。流路94は、貫通穴43に設けられた継手71を介して、配管72と把持本体28Cの内部を連通する。貫通穴90と流路94を介して、内部空間56と配管72の間で気体が流通する。
ストッパ92の先端には、掌部30の厚さ方向への変形を押さえる接触部96が設けられている。接触部96は掌部30の内面30aと接触する。ストッパ92は、接触部96により掌部30を押さえることにより、複数の指部32の先端同士が接触するまでの間に掌部30の変形を抑制する。
ストッパ92の径Bは、接触部96が掌部30の中心部分と接触する程度の大きさとされる。接触部96が掌部30の外周に近い部分と接触すると、形状保持部53の指部側先端を支点とする指部32の弾性変形を制限してしまう。また、ストッパ92と形状保持部53の間に十分な隙間がなく、内部空間56内をストッパ92で充填した場合は、指部32が弾性変形しない。このため、ストッパ92の径Bは、形状保持部53のガイド穴58の内径よりも十分に小さいことが好ましい。ストッパ92と形状保持部53の間に十分な隙間を有することにより、当該隙間に対応する掌部30の一部は、厚さ方向に変形し得る。
ストッパ92は、開口部52の下面52aに対する接触部96の高さCが、掌部30の内面30aと開口部52の下面52aの間の長さ以下とされる。接触部96の高さCが大きいほど、掌部30の厚さ方向への変形に対する抑制効果、すなわちリミッタ効果が強くなる。
図10に示すように、掌部30は、把持本体28C内が減圧されると、形状保持部53により外周が収縮しないように維持された状態で厚さ方向に変形する。掌部30が厚さ方向へ変形するのに伴い、指部32の内面34が掌部30の中心へ引っ張られる。そうすると指部32は、掌部30へ向かって倒れるように弾性変形する。これにより指部32は、主に内面34がワークW表面に接触する。さらに把持本体28C内が減圧された場合、掌部30は、内面30aが接触部96と接触し、厚さ方向への変形が抑制される。掌部30の変形が抑制されるのに伴い、指部32の弾性変形も抑制される。これにより、把持装置10Cは、指部32が設定以上に変形しないように抑制する。
把持装置10Cは、抑制機構を備えることにより、複数の指部32の先端同士が接触するまでの間に掌部30が接触部96と接触し、掌部30の変形を抑制することができる。したがって、把持装置10Cは、指部32の可動範囲の上限を設定することにより、ワークWの破損をより確実に防止することができる。
図11A,Bを用いて、把持本体28CのCAEシミュレーション解析の結果を説明する。図11A,Bは、縦軸が指変位量(mm)、横軸が真空度(MPa)を示している。真空度は、大気圧を0(ゼロ)としたゲージ圧である。図11Aは、ストッパ無し、ストッパ92の径Bが42mmで接触部96の高さCが21mm,ストッパ92の径Bが42mmで接触部96の高さCが7mmの3種の把持本体について、把持本体内の真空度に対する指変位量の変化を測定した結果である。3種の把持本体の外形φは130mmであり、貫通穴90の穴径Aは50mmである。図11Aより、ストッパ有りの2種の把持本体と、ストッパ無しの把持本体を比べると、ストッパ無しの把持本体は、真空度が低い領域で急激に指部32が変形するが、ストッパ有りの2種の把持本体は、真空度が低い領域でも緩やかに指部32が変形することがわかる。接触部96の高さCが21mmの把持本体と、接触部96の高さCが7mmの把持本体を比べると、高さCが大きくなる(すなわち接触部96と掌部30の隙間が小さくなる)と、指変位量が小さくなることがわかる。以上から、高さCが大きくなるほどリミッタ効果が強くなることが確認できた。
図11Aより、ストッパ有りの2種の把持本体では、真空度を高くしていくと、指部32が大きく弾性変形する座屈が発生することがわかる。座屈が発生する最大真空度は、高さCが大きくなるに伴って低下することがわかる。
図11Bは、ストッパ無し、ストッパ92の径Bが27mmで接触部96の高さCが8.5mm,ストッパ92の径Bが27mmで接触部96の高さCが4.25mmの3種の把持本体について、把持本体内の真空度に対する指変位量の変化を測定した結果である。3種の把持本体の外形φは、80mmであり、図11AのCAEシミュレーションに用いた把持本体の外形φよりも小さい。貫通穴90の穴径Aは50mmである。図11Bより、ストッパを有する2種の把持本体を比べると、高さCが大きい場合でも座屈が発生しないことがわかる。これより、把持本体の外形φが小さい場合には座屈が生じにくい傾向があることが確認できた。また、高さCが大きくなるほどリミッタ効果が強くなることも確認できた。
4.第4実施形態
第4実施形態に係る把持装置は、接触部の高さを可変とする高さ可変部を有する点が、上記第3実施形態と異なる。上記第3実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
図12に示すように、把持装置10Dは、掌部30と複数の指部32とを有する把持本体28Cを備える。把持本体28Cは、バンド37によってケース36Dに固定される。ケース36Dは、筒状部40と、筒状部40の上端に設けられた上部41Dとを有する。上部41Dに形成された貫通穴43には図示しないシール材を介して継手71が設けられている。第4実施形態では、貫通穴43は、上部41Dの中心位置よりも径方向の外側に位置する。把持本体28Cは、内部に、開口部52と形状保持部53を有する。開口部52は中央に貫通穴90を有する。形状保持部53と開口部52と貫通穴90は、第3実施形態と同様なので説明を省略する。
把持装置10Dは、把持本体28Cの内部に、掌部30の変形を押さえるストッパ102を有する。ストッパ102は内部空間56に配置される。ストッパ102は円柱状の部材である。ストッパ102の先端には、掌部30の厚さ方向への変形を押さえる接触部104が設けられている。接触部104は掌部30の内面30aと接触する。ストッパ102は、接触部104で掌部30を押さえることにより、複数の指部32の先端同士が接触するまでの間に掌部30の変形を抑制する。
ストッパ102の径Bは、接触部104が掌部30の中心部分と接触する程度の大きさとされる。ストッパ102の径Bは、形状保持部53のガイド穴58の内径よりも十分に小さいことが好ましい。ストッパ102と形状保持部53の間に十分な隙間を有することにより、当該隙間に対応する掌部30の一部は、厚さ方向に変形し得る。
ストッパ102は、開口部52の下面52aに対する接触部104の高さCが、掌部30の内面30aと開口部52の下面52aの間の長さ以下とされる。ストッパ102の高さCが大きいほどリミッタ効果が強くなる。
ストッパ102は、高さ可変部106に支持されている。高さ可変部106は、接触部104の高さCを可変とする。高さ可変部106は、例えば、上部41Dの中央に設けられた雌ねじ部108と、図示しないシール材を介して雌ねじ部108にねじ込まれた雄ねじ部110と、雄ねじ部110を回すためのつまみ112とを有する。雄ねじ部110の一端にストッパ102が固定されており、雄ねじ部110の他端につまみ112が設けられている。高さ可変部106は、雌ねじ部108に対する雄ねじ部110の進退により、接触部104の高さCを変えることができる。つまみ112は、手動で回転させてもよいし、図示しないサーボモータなどを利用して図示しないコンピュータの制御により回転させてもよい。
把持装置10Dは、高さ可変部106を備えることにより、接触部104の高さCを変えることができるので、リミッタ効果の強さを変えることができる。したがって、把持装置10Dは、指部32の可動範囲の上限を設定することにより、ワークWの破損をより確実に防止することができる。
5.変形例
上記各実施形態の場合、指部32は、掌部30を囲むように放射状に5個設けられている場合について説明したが、本発明はこれに限らない。指部は、2個でも3個でもよいし、6個以上でもよい。
上記各実施形態では、産業用ロボット12として直交ロボットの例を示したが、本発明はこれに限らず、スカラロボット、垂直多関節ロボットなどに適用することができる。すなわち把持装置は、産業用ロボットによってX軸、Y軸、Z軸を中心に回転しても、ワークWを把持すると共に、把持した状態を維持することができる。把持装置は、エアシリンダーに設ける場合に限られず、油圧シリンダーに設けてもよい。
把持装置は、指部に爪部を設けることとしてもよい。爪部は、合成樹脂製の板状部材や、円錐状部材、サック状の部材などを用いることができる。
ケースには、ワークWを撮影するカメラ、把持したワークWの重量を測定する重量計、ワークWと把持本体との距離を測定する近接センサなどを設けてもよい。上記カメラなどは、ピストンロッド20とアダプタプレート23との間に挟んで固定されたブラケットに固定してもよい。アダプタプレート23がブラケットを有する形状であっても良い。
把持本体は、平面視において長方形状でもよい。この場合、指部は、掌部の長辺に沿って2個を一組として、掌部を挟んで両側に複数組設けるのが好ましい。掌部が厚さ方向へ変形するのに伴い、指部の内面が掌部の中心へ引っ張られる。そうすると指部は、掌部へ向かって倒れるように弾性変形する。この場合、指部は、対向する長辺に向かって倒れるように弾性変形する。したがって当該把持本体を備えた把持装置は、円筒形状や角柱形状などの長尺のワークWを容易に把持することができる。
指部は、弾性部を内部に有することとしてもよい。弾性部は、指部内に充填され、当該指部の形を有する。弾性部の形は、把持本体の指部内に挿入され一定の形を保持できれば、指部の内面との間に多少隙間が生じていてもよい。弾性部の材質は、樹脂またはゴムであるのが好ましい。弾性部の材質は、必ずしも均一である必要はなく、異種材料を組み合わせた複合材でもよい。弾性部は、フィラーなどの添加物を含んでもよい。弾性部は、指部の内面との間に隙間がないように配置されるのが好ましい。