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JP7077902B2 - 内燃機関 - Google Patents

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Description

この発明は、内燃機関に関し、より詳細には、燃焼室を構成する壁面に断熱膜が形成された内燃機関に関する。
特開2015-031226号公報は、断熱膜を備える内燃機関を開示する。断熱膜は、燃焼室を構成するアルミニウム系の壁面に形成されている。断熱膜は、アルマイト層と、封止層とを有している。アルマイト層は、アルミニウム系の壁面の陽極酸化処理により形成される。アルマイト層の表面は、陽極酸化処理中に形成されたミクロ孔を有している。封止層は、ミクロ孔の入口部を封止する封止剤から構成されている。封止剤は、ポリシラザンまたはポリシロキサンである。
特開2015-031226号公報
内燃機関は、様々な運転モードで運転される。特定の運転モード(例えば、冷間時の間欠運転、アイドル運転)の多用は、デポジットの生成を促進する。断熱膜の表面で生成したデポジットが膜表面の広い範囲に堆積すると、断熱膜による作用が阻害される。したがって、断熱作用による効果を継続的に発揮させるには、膜表面上でデポジットが生成するのを抑えるための工夫が必要となる。
本発明の1つの目的は、燃焼室を構成する壁面に断熱膜が形成される内燃機関において、膜表面上でデポジットが生成するのを抑えることにある。
第1の発明は、内燃機関であり、次の特徴を有する。
前記内燃機関の燃焼室を構成する壁面には、断熱膜が形成される。
前記断熱膜は、断熱層と、撥油層とを備える。
前記断熱層は、前記壁面に形成される。
前記断熱層は、前記燃焼室の母材よりも低い熱伝導率を有する材料から構成される。
前記撥油層は、前記断熱層の表面に形成される。
前記撥油層は、ポリアルコキシシロキサンから構成される。
前記撥油層のエンジンオイルに対する接触角は、40度以上である。
前記壁面は、ピストンの頂面およびシリンダヘッドの底面である。
前記断熱膜は、第2断熱膜と、第1断熱膜とを備えている。
前記第1断熱膜は、前記頂面に形成される。
前記第2断熱膜は、前記底面に形成される。
第1接触角は、第2接触角よりも大きい。
前記第1接触角は、前記第1断熱膜が備える第1撥油層のエンジンオイルに対する接触角である。
前記第2接触角は、前記第2断熱膜が備える第2撥油層のエンジンオイルに対する接触角である。
第2の発明は、第1の発明において、更に次の特徴を有する。
前記第1撥油層の熱容量が、前記第1断熱膜が備える前記断熱層の熱容量以下であり、前記第2撥油層の熱容量が、前記第2断熱膜が備える前記断熱層の熱容量以下である。
燃焼室に流入したエンジンオイルが固化すると、デポジットが生成される。この点、第1の発明によれば、断熱膜の表面が撥油層で構成されるため、撥油層上でエンジンオイルが固化するのを抑えることが可能となる。したがって、断熱膜の表面上でデポジットが生成するのを抑えることが可能となる。
燃焼室に流入したエンジンオイルの多くは、底面よりも頂面に存在する。この理由は、エンジンオイルの主たる流入原因が、ピストンの上下動であるためである。この点、第1の発明によれば、第1断熱膜が備える第1撥油層のエンジンオイルに対する接触角である第1接触角が第2断熱膜が備える第2撥油層のエンジンオイルに対する接触角である第2接触角よりも大きいため、ピストンの頂面に形成される第1断熱膜の表面上でエンジンオイルが固化するのを適切に抑えることが可能となる。
撥油層の熱容量が高いと、断熱膜の表面が定常的に高温化する。そうすると、燃焼室に吸入された空気(吸気)が加熱されて、異常燃焼が生じ易くなる。この点、第2の発明によれば、第1及び第2断熱膜のそれぞれにおいて撥油層の熱容量が断熱層の熱容量以下であるため、このような弊害の発生を抑えることが可能となる。
本発明の実施の形態1に係るエンジンの主要部の構成を説明する図である。 断熱膜の構成の一例を示す図である。 撥油層上に堆積するデポジットの量と、接触角θとの関係を示すデータである。 撥油層上に堆積するデポジットの量と、表面粗度Raとの関係を示すデータである。 本発明の実施の形態2に係るエンジンの主要部の構成を説明する図である。 本発明の実施の形態3に係るエンジンの主要部の構成を説明する図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
実施の形態1.
先ず、図1乃至図4を参照して本発明の実施の形態1について説明する。
1.内燃機関(以下、単に「エンジン」ともいう。)の説明
1.1 主要部の構成の説明
実施の形態1に係るエンジンは、車両に搭載される火花点火式または圧縮自着火式のエンジンである。図1は、実施の形態1に係るエンジンの主要部の構成を説明する図である。図1に示すエンジン10は、燃焼室12を備えている。燃焼室12は、シリンダヘッドの底面14と、シリンダボアの表面16と、ピストンの頂面18と、により区画される空間である。底面14、表面16および頂面18は、燃焼室12を構成する壁面と総称される。燃焼室12には、点火装置20が取り付けられている。点火装置20は、燃焼室12内の混合気に着火する。
図1に示す主要部の構成は、火花点火式エンジンのものである。実施の形態1に係るエンジンが圧縮自着火のエンジンから構成される場合、その燃焼室を構成する壁面は、燃焼室12を構成する壁面の定義と同じように定義される。
1.2 断熱膜の構成の説明
エンジン10は、断熱膜30を備えている。断熱膜30は、頂面18に形成されている。図2は、断熱膜30の構成の一例を示す図である。図2に示すように、断熱膜30は、断熱層32を備えている。断熱層32は、頂面18の陽極酸化処理により形成される多孔質アルミナ(すなわち、アルマイト)から構成される。断熱層32は、2種類の気孔部34および36を有している。これらの気孔部は、陽極酸化処理中に形成される。気孔部34は、断熱層32の内部に形成される。気孔部36は、断熱層32の表面に形成される。これらの気孔部により、アルマイトは、ピストンの母材(具体的には、アルミニウム合金)よりも低い熱伝導率を示す。
断熱膜30が備える断熱層は、多孔質セラミックスから構成されてもよい。多孔質セラミックスは、溶射処理または焼成処理により形成される。溶射処理では、ジルコニア、アルミナ、チタニアといったセラミックスの粉末、または、サーメット、ムライト、コージライト、ステアタイトなどの複合セラミックスの粉末が、溶融状態で頂面18に噴き付けられる。焼成処理では、上述した粉末を含むスラリーが頂面18に塗布され、その後、焼き固められる。なお、気孔部34および36は、アルマイトに特有のものである。そのため、多孔質セラミックスから断熱層が構成される場合、気孔部34および36は形成されない。多孔質セラミックスは、母材よりも低い熱伝導率を示す。
断熱膜30は、撥油層38を更に備えている。撥油層38は、断熱層32の表面に形成される。撥油層38は、ポリアルコキシシロキサンから構成される。撥油層38に好適なポリアルコキシシロキサンについては後述する。撥油層38は、気孔部36の開口を封止している。撥油層38の一部は、気孔部36の途中まで入り込んでいる。撥油層38が気孔部36の途中まで入りこむことで、撥油層38が断熱層32と強固に結合される(アンカー効果)。ポリアルコキシシロキサンは、母材よりも低い熱伝導率を示す。
2 撥油層38の詳細
2.1 ポリアルコキシシロキサン
撥油層38を構成するポリアルコキシシロキサンは、シロキサン骨格の側鎖にアルキル基Rが導入されたシリコーンポリマーである。ポリアルコキシシロキサンの一般式は、次の通りである。
OH-(-SiR1R2O)n-H ・・・(1)
式(1)のアルキル基R1およびR2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基、長鎖アルキル基が例示される。ただし、アルキル基Rの分子量が大きくなると、撥油層38の親油性が高くなる(つまり、撥油性が下がる)。そのため、アルキル基R1およびR2は、その分子量が小さいことが好ましい。アルキル基R1およびR2は、メチル基、エチル基またはプロピル基であることが好ましく、両者ともにメチル基であることがより好ましい。
2.2 撥油層38の接触角θ38
撥油層38のエンジンオイルに対する接触角θ38は、40度以上である。エンジンオイルは、エンジン10の潤滑油である。エンジンオイルは、ピストンの上下動に伴い燃焼室12内に流入することがある。燃焼室12に流入したエンジンオイルが固化すると、デポジットが生成される。接触角θ38は、一般的な測定手法(例えば、θ/2法、接線法、カーブフィッティング法)で測定される。接触角θ38は、動的接触角でもよい。
2.3 撥油層38の熱容量C38
撥油層38の熱容量C38は、断熱層32の熱容量C32以下であることが望ましい。熱容量C38が高いと、断熱膜30の表面が定常的に高温化する。そうすると、燃焼室12に吸入された空気が加熱されて、異常燃焼が生じ易くなる。この点、熱容量C38が熱容量C32以下であれば、このような弊害の発生を抑えることが可能となる。熱容量C38は、熱容量C32よりも低いことが好ましい。熱容量C38が熱容量C32よりも低ければ、この抑制効果を高めることが可能となる。なお、熱容量Cの大小関係の調整は、撥油層38の体積を増減することにより実現できる。撥油層38の体積は、ポリアルコキシシロキサンの重量を増減することにより実現できる。
3.実験データの説明
図3は、撥油層上に堆積するデポジットの量と、接触角θとの関係を示すデータである。図3に示す接触角θは、次のように測定された。先ず、各種のシリコン系コーティング材を用いて、撥油膜のサンプルが準備された。続いて、これらのサンプルのそれぞれに、ノズルからエンジンオイルを滴下した。接触角θの測定は、25℃の環境温度下で行われた。デポジットの堆積量は、接触角θが測定されたサンプルと同じコーティング材からそれぞれ形成された撥油層を用いて測定された。
図3から、接触角θが40度(より正確には、32度)未満の撥油層が形成されたエンジンでは、撥油層上にデポジットが多く堆積したことが分かる。なお、接触角θ=32度のデータは、ポリシラザンから形成された撥油層のものである。また、図3から、接触角θが40度(より正確には、42度および51度)以上の撥油層が形成されたエンジンでは、デポジットの堆積が抑えられたことも分かる。なお、接触角θ=42度および51度のデータは、ポリジメチルシロキサンから形成された撥油層のものである。
図3に示したデータの傾向は、エンジンオイルに対する接触角θが40度以上の撥油層を用いると、断熱膜上でのデポジットの生成を抑制できる可能性を示している。この理由は、燃焼室内に流入したエンジンオイルが、撥油層上で固化するのを抑えることができたためであると推測される。
図4は、撥油層上に堆積するデポジットの量と、表面粗度Raとの関係を示すデータである。図4に示す表面粗度Raは、撥油層のない断熱膜(つまり、断熱層のみを有する膜)の表面を研磨することで調整された。デポジットの堆積量は、表面粗度Raが測定された断熱膜を用いて測定された。
図4から、表面粗度Raが小さくなるほど、デポジットの堆積量が減少することが分かる。ただし、表面粗度Raが1μm未満の断熱膜を用いた場合であっても、デポジットが一定量堆積することも分かる。
図4に示したデータの傾向は、断熱膜の表面粗度Raを小さくするだけでは、断熱作用による効果を継続的に発揮させるには至らないことを示している。
4.断熱膜30による効果
実施の形態1に係るエンジンによれば、断熱膜上でのデポジットの生成を抑制できる。したがって、断熱作用による効果を継続的に発揮させることが可能となる。また、熱容量C38が熱容量C32以下であれば、燃焼室に吸入された空気の加熱を抑制して、異常燃焼の発生を抑えることができる。
実施の形態2.
次に、図5を参照して本発明の実施の形態2について説明する。なお、上記実施の形態1と重複する説明については適宜省略する。
1.エンジンの説明
図5は、実施の形態2に係るエンジンの主要部の構成を説明する図である。図5に示すエンジン40は、断熱膜30に加えて断熱膜50を備えている。断熱膜50は、底面14に形成されている。断熱膜50の構成は、断熱膜30の構成と同一である。すなわち、断熱膜50は、断熱層52および撥油層58を備えている。断熱層52は、アルマイトから構成される。撥油層58は、ポリアルコキシシロキサンから構成される。撥油層58のエンジンオイルに対する接触角θ58は、40度以上である。
2.接触角θ58と接触角θ38の大小関係
接触角θ58は、接触角θ38以下であることが望ましい。つまり、接触角θ38は、接触角θ58以上であることが望ましい。燃焼室12に流入したエンジンオイルの多くは、底面14よりも頂面に存在する。この理由は、エンジンオイルの主たる流入原因が、ピストンの上下動であるためである。この点、接触角θ38が接触角θ58以上であれば、エンジンオイルが撥油層38上で固化するのを適切に抑えることが可能となる。接触角θ 58 が接触角θ 38 よりも小さければ、この抑制効果を高めることが可能となる。なお、接触角θの大小関係の調整は、異なるポリアルコキシシロキサンから撥油層38および58を構成すれば実現できる。


3.断熱膜による効果
実施の形態2に係るエンジンによれば、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、接触角θ38が接触角θ58以上であれば、エンジンオイルが撥油層38上で固化するのを適切に抑えることが可能になる。
実施の形態3.
次に、図6を参照して本発明の実施の形態3について説明する。なお、上記実施の形態1および2と重複する説明については適宜省略する。
1.エンジンの説明
図6は、実施の形態3に係るエンジンの主要部の構成を説明する図である。図6に示すエンジン60は、断熱膜30および50に加えて断熱膜70を備えている。断熱膜70は、表面16に形成されている。断熱膜70の構成は、断熱膜30の構成と同一である。すなわち、断熱膜70は、断熱層72および撥油層78を備えている。断熱層72は、アルマイトから構成される。撥油層78は、ポリアルコキシシロキサンから構成される。撥油層78のエンジンオイルに対する接触角θ78は、40度以上である。
2.断熱膜による効果
実施の形態3に係るエンジンによれば、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
その他の実施の形態.
上記実施の形態1~3では、断熱膜30を備えるエンジンを前提として説明した。しかしながら、断熱膜30を備えていないエンジンも、本発明の実施の形態に係るエンジンに含まれる。すなわち、断熱膜50のみを備えるエンジン、断熱膜70のみを備えるエンジン、または、断熱膜50および70を備えるエンジンは、本発明の実施の形態に係るエンジンに含まれる。
なお、以上の実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、この実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
10、40、60 内燃機関
12 燃焼室
14 シリンダヘッドの底面
16 シリンダボアの表面
18 ピストンの頂面
30、50、70 断熱膜
32、52、72 断熱層
34、36 気孔部
38、58,78 撥油層

Claims (2)

  1. 燃焼室を構成する壁面に断熱膜が形成される内燃機関であって、
    前記断熱膜は、
    前記壁面に形成され、前記燃焼室の母材よりも低い熱伝導率を有する材料から構成される断熱層と、
    前記断熱層の表面に形成された撥油層と、を備え、
    前記撥油層は、ポリアルコキシシロキサンから構成され、
    前記撥油層のエンジンオイルに対する接触角が40度以上であり、
    前記壁面は、ピストンの頂面およびシリンダヘッドの底面であり、
    前記断熱膜は、
    前記頂面に形成される第1断熱膜と、
    前記底面に形成される第2断熱膜と、を備え、
    前記第1断熱膜が備える第1撥油層のエンジンオイルに対する接触角である第1接触角が、前記第2断熱膜が備える第2撥油層のエンジンオイルに対する接触角である第2接触角よりも大きい
    ことを特徴とする内燃機関。
  2. 前記第1撥油層の熱容量が、前記第1断熱膜が備える前記断熱層の熱容量以下であり、前記第2撥油層の熱容量が、前記第2断熱膜が備える前記断熱層の熱容量以下であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
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