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JP7047813B2 - フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関し、特に、生産性および大気中で加熱した後の耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板に関する。
ステンレス鋼は、鋼中にCrを含有することで、鋼表面に緻密かつ化学的に安定な不動態皮膜が形成され、耐食性に優れる。ステンレス鋼の中でも、フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼と比較して、高価なNiを多く含まないために経済的であることや、熱膨張係数が小さいこと、磁性を有することなどの特徴から、調理器具や自動車排気系部材をはじめとした様々な用途へ適用されている。
自動車排気系部材などの用途では、部材への加工時に溶接を行い、かつ、部材の実使用において600℃程度の温度まで高温となるものがある。
TIG溶接をはじめとした溶接を施されたフェライト系ステンレス鋼板では、その溶接部において、鋼中のCやNがCrとCr炭窒化物を形成し、形成したCr炭窒化物の周辺においてCrが局所的に欠乏することがある。このような現象は鋭敏化と呼ばれ、鋭敏化が生じた溶接部では、溶接部以外の領域に対し耐食性が低下することが知られている。
また、大気中において300~600℃程度の高温に保持されたフェライト系ステンレス鋼板は、その表面において、不動態皮膜に代わり耐食性に劣る酸化皮膜が生成されることがある。これにより、大気中で加熱されたフェライト系ステンレス鋼板は、加熱前と比較して耐食性が低下することが知られている。
すなわち、部材への加工時に溶接を行い、かつ、部材の実使用において高温となる用途に使用されるフェライト系ステンレス鋼には、上述した鋭敏化現象の発生を抑制する特性、すなわち耐鋭敏化性に優れ、かつ、大気中で加熱された後の耐食性(以降、単に「加熱後耐食性」とも称する。)に優れることが求められる。
これまで、上述したような耐鋭敏化性が求められる用途には、SUH409L(11質量%Cr-0.2質量%Ti鋼)やAISI439(18質量%Cr-0.3質量%Ti鋼)などのフェライト系ステンレス鋼が使用されてきた。これらの鋼は、鋼中のCやNの含有量が低減されているとともに、CやNと親和性の高いTiを含有することで、溶接部におけるCr炭窒化物の形成を抑制した材料であり、耐鋭敏化性に優れる。
また、SUH409L、AISI439の両鋼とも再結晶温度が低く、生産性の高い普通鋼-ステンレス鋼兼用の焼鈍ラインで冷延板焼鈍を行うことができる。このため、前記両鋼は、ステンレス鋼専用の焼鈍ラインで冷延板焼鈍を行うステンレス鋼より生産性が高いという利点を有する。
なお、Cr含有量の多いAISI439は、SUH409Lより加熱後耐食性に優れているが、Cr含有量が多いために原料コストが増大することと製鋼工程での製造コストが高くなり、SUH409Lより高価である。このため、これらの鋼種が自動車排気系部品に用いられる場合には、求められる耐食性を厳密に考慮してSUH409Lを適用するかAISI439を適用するかの選択が行われており、部品内の部位によりSUH409LとAISI439を使い分けしたり、同じ部品でも使用される地域によりSUH409LとAISI439を使い分けることさえある。
このようなSUH409LとAISI439の使い分けを簡略化するために、加熱後耐食性がAISI439と同等であり、かつ、SUH409Lに近い価格であるフェライト系ステンレス鋼板が求められるようになった。
そこで本発明者らは、耐食性がAISI439と同等であり、かつ、AISI439と比較して安価なフェライト系ステンレス鋼板について、以下の方針のもと、鋭意検討を行った。すなわち、Cr含有量を16.0質量%未満として原料コストや製造コストを低減する。そして、Cr含有量の低減による加熱後耐食性の低下を、他の元素を含有させることや鋼の製造方法を最適化することによって補う。ただし、冷延板焼鈍を普通鋼-ステンレス鋼兼用の焼鈍ラインで行えるように900℃以下で冷延板焼鈍が行えるものとする。
フェライト系ステンレス鋼の耐食性を向上させる技術は、例えば、特許文献1および2に開示されている。
特許文献1には、質量%で、C:≦0.015%、Si:0.05~0.50%、Mn:0.05~0.50%、P≦0.050%、S:≦0.0100%、N:≦0.015%、Al:0.020~0.100%、Cr:12.5~16.5%を含有し、さらにTi:0.03~0.30%およびNb:0.03~0.30%の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特許文献2には、質量%で、C:0.015%以下、N:0.02%以下、Si:0.03~1.0%、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:10.5~22.5%、Sn:0.02~0.5%、Al:0.003~0.2%を含有し、更に、Ti:0.03~0.35%およびNb:0.03~0.6%の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物より成る加熱後耐食性に優れた排気系部材用フェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特開2010-31315号公報 国際公開第2016/117458号
しかし、本発明者らの検討では、特許文献1、2に開示された成分および製造方法では、Cr含有量が16.0質量%未満で目的とする加熱後耐食性は得られなかった。
本発明は、上記問題点に鑑み開発されたものであって、Cr含有量が16.0質量%未満であり、生産性および加熱後耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを目的としている。
ここで、本発明において「生産性に優れる」とは、次に述べる焼鈍にともなう冷延板の硬さ変化の評価にて、900℃×20s(900℃において20s)の冷延板焼鈍を行った冷延焼鈍板の硬さが式(1)を満たすまで低下することを意味する。式(1)を満たせば900℃×20sで冷延板焼鈍が可能であり、普通鋼-ステンレス鋼兼用の焼鈍ラインで冷延板焼鈍を行うことができる。
焼鈍にともなう冷延板の硬さ変化の評価は、熱延焼鈍板を67%の圧下率にて冷間圧延して得た冷延板を対象に、冷延板(冷延板焼鈍未実施の冷延板)の硬さaと、900℃にて20sの冷延板焼鈍を施した冷延焼鈍板の硬さbと、十分に軟質化した場合の指標として1050℃にて20sの冷延板焼鈍を施した冷延焼鈍板の硬さcとを比較することで実施する。前記評価には、前記冷間圧延して得た冷延板より長さ15mm×幅20mmの試験片を3枚切出し、そのうち1枚の試験片の断面のビッカース硬さ(HV)を試験力9.8N、保持時間15秒の条件にて測定し、上記の硬さaとする。また、残り2枚の試験片について、それぞれ900℃において20s、1050℃において20sの冷延板焼鈍を施した後、長さ15mm×幅10mmのサイズに切断し、切断した試験片の断面のビッカース硬さ(HV)を上述した条件にて測定し、それぞれ上記の硬さb、cとする。冷延板焼鈍を施すことで、鋼板の硬さはaからcへ向かって変化(軟質化)するが、その軟質化による硬度低下のうちの90%以上が、900℃における20sの焼鈍で達成されるもの、すなわち、下記式(1)を満たすものを「生産性に優れる」と評価する。
c+0.1×(a-c)≧b ・・・(1)
また、本発明において「加熱後耐食性に優れる」とは、鋼板をエメリー研磨紙で600番まで研磨した後、鋼板を大気雰囲気中にて400℃で24時間保持する熱処理を行い、その後、JASO M609-91に準拠して、5.0質量%NaCl水溶液の噴霧(2時間、35℃、98%RH)、乾燥(4時間、60℃、30%RH)、湿潤(2時間、50℃、95%RH以上)を1サイクルとして、5サイクルの腐食試験を行った結果、銹面積率が20%以下であることを指す。
なお、大気雰囲気中にて400℃で24時間保持する熱処理は、自動車のマフラーに使用された場合に排気ガスにより加熱されて酸化されることを再現し、5サイクルの腐食試験は融雪塩による腐食を再現している。
本発明者らは、上記の課題に対し、Cr含有量が16.0質量%未満であり、生産性および加熱後耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板を検討した。その結果、以下の知見を得た。
すなわち、質量%で、C:0.001~0.020%、Si:0.05~1.50%、Mn:0.05~0.60%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Al:0.001~0.100%、Cr:14.5%以上16.0%未満、Ti:0.15~0.35%、Nb:0.090%以下、V:0.010~0.090%、およびN:0.001~0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼中に0.015質量%以上のNbを固溶した状態で含有するフェライト系ステンレス鋼板とすることによって、生産性および加熱後耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。
その機構は以下のように考えられる。
AISI439に対するCr含有量の低減は、耐食性の低下を招く。しかし、Nbを添加して適切な量の固溶Nbを鋼中に確保することにより加熱後耐食性を向上させることで、AISI439と同等の加熱後耐食性を発現させることが可能となる。
ただし、フェライト系ステンレス鋼の鋼中にNbが含まれると、鋼の再結晶温度は上昇する。これに対しては、Nb含有量に適切な上限を設けるとともに、鋼にNbと適切な量のVとを複合的に含有させることによって再結晶温度の上昇が抑制されることを見出した。Nbによる再結晶温度の上昇は、主に鋼中に微細に分散析出したNbCによる転位および結晶粒界のピンニング効果による。これに対して、鋼中にVを含有させると、析出するNbは主に粗大なTiNとの複合析出物として析出し再結晶温度の上昇が抑制されると考えられる。
上記の通り、Nb含有量を過剰としなければ、鋼中にNbと適切な量のVを複合的に含有させることによって、生産性を低下させることなく鋼の耐食性を向上させることが可能となる。一方、Nbの鋼中における固溶量を適切に制御することで、限られたNb含有量においても、以下に示すように鋼板の加熱後耐食性を優れたものとすることができる。
フェライト系ステンレス鋼板を大気中で加熱した後の耐食性の劣化は、主に鋼板表面での酸化皮膜の生成による。酸化皮膜の生成による耐食性の劣化は、加熱にともない鋼板表面に生成・成長する酸化皮膜が、加熱前に鋼板表面に生成していた不動態皮膜と比較して、周辺環境より飛来して鋼板表面に付着した塩化物イオンを透過しやすく、金属(鋼)表面に塩化物イオンが到達しやすくなって、これにより腐食が起こりやすくなることに起因する。
ここで、鋼中に適切な量のNbを固溶した状態で含有する鋼においては、酸化皮膜の生成初期に酸化皮膜中にNbイオンが含まれることとなる。Nbイオンが含まれた酸化皮膜は、化学的に安定となり、その後の酸化皮膜の成長過程において鋼母材から酸化皮膜中へのFeイオンの拡散を抑制し、酸化皮膜中のCr/Fe比が高くなる。Cr/Fe比が高い酸化皮膜は、塩化物イオンの透過を抑制するため、加熱後耐食性が向上する。
すなわち、鋼中に適切な量のVおよびNbを含有させるとともに、製造方法を調整して鋼中Nbの固溶量を適切に制御することによって、生産性および加熱後耐食性に優れるCr含有量が16.0質量%未満のフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。
本発明は、上記の知見に立脚するものであり、その要旨構成は次のとおりである。
[1]質量%で、
C:0.001~0.020%、
Si:0.05~1.50%、
Mn:0.05~0.60%、
P:0.050%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.001~0.100%、
Cr:14.5%以上16.0%未満、
Ti:0.15~0.35%、
Nb:0.090%以下、
V:0.010~0.090%、および
N:0.001~0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
鋼中に0.015質量%以上のNbを固溶した状態で含有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。
[2]前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ni:0.01~0.60%、
Cu:0.01~0.80%、
Co:0.01~0.50%、
Mo:0.01~1.00%、および
W:0.01~0.50%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[3]前記成分組成が、さらに、質量%で、
Zr:0.01~0.50%、
B:0.0003~0.0030%、
Mg:0.0005~0.0100%、
Ca:0.0003~0.0030%、
Y:0.01~0.20%、
REM(希土類金属):0.01~0.10%、
Sn:0.01~0.50%、および
Sb:0.01~0.50%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[4]自動車排気系部材用であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
前記成分組成を有する鋼素材を、1100~1250℃の温度で10分以上保持した後、熱間圧延して熱延板とする熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の熱延板に950~1050℃の温度で5~180秒保持する熱延板焼鈍を施し熱延焼鈍板を得る熱延板焼鈍工程と、
前記熱延板焼鈍工程後の熱延焼鈍板を冷間圧延して冷延板とした後、当該冷延板に880~900℃の温度で5~180秒保持する冷延板焼鈍を施し冷延焼鈍板を得る冷延板焼鈍工程と、を有することを特徴とする、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
本発明によれば、Cr含有量が16.0質量%未満であり、生産性および加熱後耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することができる。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明で成分組成と析出物の存在形態を限定した理由について説明する。なお、鋼板の成分の含有量を示す「%」は、特に断らない限り質量%を意味する。
C:0.001~0.020%
Cは、鋼の強度を高めるのに有効な元素である。この効果はC含有量を0.001%以上にすることで得られる。しかし、C含有量が0.020%を超えると、鋼が硬質化して成形性が低下したり、耐食性が低下する。よって、C含有量は0.001~0.020%とする。好ましくは、C含有量は0.004%以上である。より好ましくは、C含有量は0.007%以上である。また、好ましくは、C含有量は0.015%以下である。より好ましくは、C含有量は0.012%以下である。
Si:0.05~1.50%
Siは、脱酸作用を有する。また、鋼板の大気中での加熱時に酸化皮膜中に濃化して皮膜を安定化させ、酸化皮膜中の塩化物イオンの透過を抑制して、鋼板の加熱後耐食性を高める元素である。これらの効果は、Si含有量を0.05%以上にすることで得られる。しかし、Si含有量が1.50%を超えると鋼が硬質化して成形性が低下する。よって、Si含有量は0.05~1.50%とする。好ましくは、Si含有量は0.10%以上である。より好ましくは、Si含有量は0.15%以上である。また、好ましくは、Si含有量は1.00%以下である。より好ましくは、Si含有量は0.60%以下である。
Mn:0.05~0.60%
Mnは、脱酸作用を有する。この効果は、Mn含有量を0.05%以上にすることで得られる。しかし、Mn含有量が0.60%を超えるとMnSの析出および粗大化が促進され、このMnSが腐食の起点となって耐食性が低下する。よって、Mn含有量は0.05~0.60%とする。好ましくは、Mn含有量は0.15%以上である。また、好ましくは、Mn含有量は0.30%以下である。
P:0.050%以下
Pは耐食性を低下させる元素である。また、Pは結晶粒界に偏析することで熱間加工性を低下させる。そのため、P含有量は、可能な限り少ないほうが望ましく、0.050%以下とする。好ましくは、P含有量は0.040%以下である。さらに好ましくは、P含有量は0.030%以下である。
S:0.030%以下
Sは、Mnと析出物としてMnSを形成する。このMnSは腐食の起点となり、耐食性を低下させる。よって、S含有量は、低いほうが望ましく、0.030%以下とする。好ましくは、S含有量は0.020%以下である。
Al:0.001~0.100%
Alは、脱酸作用を有する。この効果は、Al含有量が0.001%以上で得られる。しかし、Al含有量が0.100%を超えると鋼板表面に欠陥が生成しやすくなり、製造性が低下する。よって、Al含有量は0.001~0.100%とする。好ましくは、Al含有量は0.030%以上である。また、好ましくは、Al含有量は0.060%以下である。
Cr:14.5%以上16.0%未満
Crは、表面に不働態皮膜を形成して耐食性を高める元素である。Cr含有量が14.5%未満では十分な加熱後耐食性が得られない。一方、Cr含有量が16.0%以上となると、原料コストや製造コストの増大を招く。よって、Cr含有量は14.5%以上16.0%未満とする。好ましくは、Cr含有量は15.0%以上である。より好ましくは、Cr含有量は15.3%以上である。また、好ましくは、Cr含有量は15.8%以下である。より好ましくは、Cr含有量は15.5%以下である。
Ti:0.15~0.35%
Tiは、炭窒化物を形成することでC、Nを固定し、鋼の耐鋭敏化性を向上させる元素である。この効果は、Ti含有量を0.15%以上にすることで得られる。しかし、Ti含有量が0.35%を超えると、鋼が硬質化して成形性が低下する。よって、Ti含有量は0.15~0.35%とする。好ましくは、Ti含有量は0.20%以上である。また、好ましくは、Ti含有量は0.30%以下である。
Nb:0.090%以下
後述するように、Nbは鋼中に固溶して存在することで鋼の加熱後耐食性を高める元素である。しかし、Nb含有量が0.090%を超えると、後述するVによる再結晶温度上昇の抑制効果を得たとしても、鋼の再結晶温度が上昇し、鋼の生産性が低下する。よって、Nb含有量は0.090%以下とする。好ましくは、Nb含有量は0.080%以下である。より好ましくは、Nb含有量は0.070%以下である。一方、鋼中に所定量のNbを固溶した状態で存在させるためには、Nb含有量を0.020%以上とすることが好ましい。より好ましくは、Nb含有量は0.025%以上である。さらに好ましくは、Nb含有量は0.030%以上である。
V:0.010~0.090%
Vは、Nbによる鋼の再結晶温度上昇を抑制することで、生産性を高める元素である。この効果は、V含有量を0.010%以上にすることで得られる。一方、V含有量が0.090%を超えると固溶V量が増加して再結晶温度が上昇し、生産性を確保できなくなる。よって、V含有量は0.010~0.090%とする。好ましくは、V含有量は0.020%以上である。より好ましくは、V含有量は0.030%以上である。また、好ましくは、V含有量は0.080%以下である。より好ましくは、V含有量は0.070%以下である。
N:0.001~0.020%
Nは、鋼の強度を高めるのに有効な元素である。この効果はN含有量を0.001%以上にすることで得られる。しかし、N含有量が0.020%を超えると、鋼が硬質化して成形性が低下したり、耐食性が低下したりする。よって、N含有量は0.001~0.020%とする。好ましくは、N含有量は0.003%以上である。より好ましくは、N含有量は0.007%以上である。また、好ましくは、N含有量は0.015%以下である。より好ましくは、N含有量は0.012%以下である。
上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
本発明では上述した成分の他にも、以下のA群、B群のうちから選ばれた1種または2種を含有してもよい。
(A群)Ni:0.01~0.60%、Cu:0.01~0.80%、Co:0.01~0.50%、Mo:0.01~1.00%、およびW:0.01~0.50%のうちから選ばれた1種または2種以上
(B群)Zr:0.01~0.50%、B:0.0003~0.0030%、Mg:0.0005~0.0100%、Ca:0.0003~0.0030%、Y:0.01~0.20%、REM(希土類金属):0.01~0.10%、Sn:0.01~0.50%およびSb:0.01~0.50%のうちから選んだ1種または2種以上
Ni:0.01~0.60%
Niは、低pH環境において、鋼の活性溶解を抑制することで、鋼の耐食性を高める。一方、過剰にNiを含有すると、鋼の成分コストおよび製造コストの上昇を招くとともに、鋼が硬質化して成形性が低下する。そのため、Niを含有する場合は、Ni含有量を0.01~0.60%とする。好ましくは、Ni含有量は0.10%以上である。また、好ましくは、Ni含有量は0.25%以下である。
Cu:0.01~0.80%
Cuは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。一方、過剰にCuを含有すると、鋼の成分コストおよび製造コストの上昇を招くとともに、ε-Cuが析出しやすくなり、耐食性が低下する。そのため、Cuを含有する場合は、Cu含有量を0.01~0.80%とする。好ましくは、Cu含有量は0.30%以上である。より好ましくは、Cu含有量は0.40%以上である。また、好ましくは、Cu含有量は0.50%以下である。より好ましくは、Cu含有量は0.45%以下である。
Co:0.01~0.50%
Coは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。一方、過剰にCoを含有すると、鋼が硬質化して成形性が低下する。そのため、Coを含有する場合は、Co含有量は0.01~0.50%とする。好ましくは、Co含有量は0.03%以上である。より好ましくは、Co含有量は0.05%以上である。また、好ましくは、Co含有量は0.30%以下である。より好ましくは、Co含有量は0.10%以下である。
Mo:0.01~1.00%
Moには、ステンレス鋼の耐食性を向上させる効果がある。一方、過剰にMoを含有すると、鋼の成分コストおよび製造コストの上昇を招くとともに、鋼が硬質化して成形性が低下する。そのため、Moを含有する場合は、Mo含有量を0.01~1.00%とする。好ましくは、Mo含有量は0.03%以上である。より好ましくは、Mo含有量は0.05%以上である。また、好ましくは、Mo含有量は0.50%以下である。より好ましくは、Mo含有量は0.30%以下である。
W:0.01~0.50%
Wは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。一方、過剰にWを含有すると、鋼が硬質化して成形性が低下する。そのため、Wを含有する場合は、W含有量を0.01~0.50%とする。好ましくは、W含有量は0.03%以上である。より好ましくは、W含有量は0.05%以上である。また、好ましくは、W含有量は0.30%以下である。より好ましくは、W含有量は0.10%以下である。
Zr:0.01~0.50%
Zrは、炭窒化物を形成することでC、Nを固定し、鋼の耐食性を向上させる元素である。一方、過剰にZrを含有すると炭窒化物が過度に析出し、鋼の耐食性が低下する。そのため、Zrを含有する場合は、Zr含有量を0.01~0.50%とする。好ましくは、Zr含有量は0.03%以上である。より好ましくは、Zr含有量は0.05%以上である。また、好ましくは、Zr含有量は0.40%以下である。より好ましくは、Zr含有量は0.30%以下である。
B:0.0003~0.0030%
Bには、鋼の強度を向上させる効果がある。一方、過剰にBを含有すると鋼が硬質化して成形性が低下する。そのため、Bを含有する場合は、B含有量を0.0003~0.0030%とする。好ましくは、B含有量は0.0010%以上である。また、好ましくは、B含有量は0.0025%以下である。
Mg:0.0005~0.0100%
Mgは、脱酸剤として作用する。一方、過剰にMgを含有すると表面欠陥が増加する。そのため、Mgを含有する場合は、Mg含有量を0.0005~0.0100%とする。好ましくは、Mg含有量は0.0010%以上である。また、好ましくは、Mg含有量は0.0050%以下である。より好ましくは、Mg含有量は0.0030%以下である。
Ca:0.0003~0.0030%
Caは、脱酸剤として作用する。一方、過剰にCaを含有すると表面欠陥が増加する。そのため、Caを含有する場合は、Ca含有量を0.0003~0.0030%とする。好ましくは、Ca含有量は0.0005%以上である。より好ましくは、Ca含有量は0.0007%以上である。また、好ましくは、Ca含有量は0.0025%以下である。より好ましくは、Ca含有量は0.0015%以下である。
Y:0.01~0.20%
Yは、鋼の清浄度を向上させる元素である。一方、過剰にYを含有すると表面欠陥が増加する。そのため、Yを含有する場合は、Y含有量を0.01~0.20%とする。好ましくは、Y含有量は0.03%以上である。また、好ましくは、Y含有量は0.10%以下である。
REM(希土類金属;Rare Earth Metals):0.01~0.10%
REM(希土類金属:La、Ce、Ndなどの原子番号57~71の元素)は、鋼の清浄度を向上させる元素である。一方、REMを過剰に含有すると、表面欠陥が増加する。そのため、REMを含有する場合は、REM含有量を0.01~0.10%とする。好ましくは、REM含有量は0.02%以上である。また、好ましくは、REM含有量は0.05%以下である。
Sn:0.01~0.50%
Snは、加工肌荒れの抑制に有効な元素である。一方、過剰にSnを含有すると、鋼の熱間加工性が低下する。そのため、Snを含有する場合は、Sn含有量を0.01~0.50%とする。好ましくは、Sn含有量は0.03%以上である。また、好ましくは、Sn含有量は0.20%以下である。
Sb:0.01~0.50%
Sbは、Snと同様に、加工肌荒れの抑制に有効な元素である。一方、過剰にSbを含有すると、表面欠陥が増加する。そのため、Sbを含有する場合は、Sb含有量を0.01~0.50%とする。好ましくは、Sb含有量は0.03%以上である。また、好ましくは、Sb含有量は0.20%以下である。
なお、上記任意成分として説明したNi、Cu、Co、Mo、W、Zr、B、Mg、Ca、Y、REM(希土類金属)、Sn、Sbの含有量が下限値未満の場合、その成分は不可避的不純物として含まれるものとする。
さらに、耐食性の優れたフェライト系ステンレス鋼板とするためには、上述した各元素の含有量をいずれも上述の範囲とすることに加え、鋼中に固溶した状態で存在するNbの量を、以下のように、適切な範囲とすることが必要である。
鋼中に固溶した状態で存在するNb:0.015質量%以上
鋼中に固溶した状態で存在するNbは、鋼の大気中加熱にともなって鋼表面に生成する酸化皮膜中にNbイオンとして含まれることとなり、酸化皮膜を化学的に安定化させることによって、鋼の加熱後耐食性を向上させる。この効果は、鋼中に固溶した状態で存在するNb量(固溶Nb量)を0.015質量%以上にすることで得られる。よって、固溶Nb量は、0.015質量%以上とする。好ましくは、固溶Nb量は、0.020質量%以上である。
上述の固溶Nb量は、以下に示す方法をもって評価できる。まず、フェライト系ステンレス鋼板より、長さ20mm×幅50mmの試験片を切出し、JIS G 1237に規定される誘導結合プラズマ発光分光分析方法に準拠した分析を行い、鋼中の総Nb量(質量%)を評価する。次に、同一のフェライト系ステンレス鋼板より、長さ20mm×幅50mmの試験片を切出し、10vol%アセチルアセトン-1質量%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノールを用いて定電流電解によって析出物を抽出する。抽出残渣のろ過には、セルロースアセテート製メンブランフィルタ(孔径0.2μm、47mmφ)を使用する。捕集した残渣はフィルタごと白金るつぼに入れ580℃で灰化後、0.75gNa+0.75gLiBOを加えガスバーナーで溶融し融成物とする。融成物は0.8質量%酒石酸/10vol%硫酸25mLを加えて溶解し、純水で100mLに定容後、ICP発光分光分析を行い、鋼中の析出Nb量(質量%)を評価する。得られた総Nb量から、析出Nb量を減じることで、固溶Nb量(質量%)を評価する。
なお、鋼中に固溶した状態で存在するNbの量を、上記のように適切な範囲とするためには、後述するような製造方法の調整が必要である。
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の好適な製造方法について説明する。上記した成分組成を有する鋼を、転炉、電気炉等の公知の方法で溶製した後、連続鋳造法あるいは造塊-分塊法により鋼素材(鋼スラブ)とする。この鋼素材を1100~1250℃の温度で10分以上保持した後、熱間圧延して熱延板とする。この際、熱延板の板厚が2.0~5.0mmになるように熱間圧延することが好ましい。こうして作製した熱延板に、950~1050℃の温度で5~180秒保持する熱延板焼鈍を施し、熱延焼鈍板とする。熱延板焼鈍の雰囲気は、大気雰囲気が好ましい。次いで酸洗を行ってスケールを除去する。次に、冷間圧延を行い、冷延板とした後、当該冷延板に880~900℃の温度で5~180秒保持する冷延板焼鈍を施し、冷延焼鈍板を得る。冷延板焼鈍後には酸洗あるいは表面研削を行い、スケールを除去する。スケールを除去した冷延焼鈍板にはスキンパス圧延を行ってもよい。
まず、上述した好適な製造方法における析出物の固溶・析出挙動について以下に述べる。精錬および鋳造によって得られた鋼スラブの鋼中には、TiN、TiCやNbC、VCが鋼中に粗大な析出物として析出している。熱間圧延前の鋼スラブを1100℃以上に加熱することによって、TiNやTiC、NbC、VCの鋼中への固溶が起こり、TiNやTiCのサイズが小さくなると共にNbCやVCの多くは鋼中へと固溶する。熱間圧延後、熱延板をコイルとして巻き取った後に熱延板コイルが徐冷される間に、上述した鋼スラブの加熱過程で鋼中に固溶したNbやVの一部は微細なNbCやVCとして鋼中に析出する。
次いで、950℃以上1050℃以下の温度で熱延板焼鈍を行うことで、上述した熱延板コイルの徐冷過程で鋼中に析出したNbは、その多くが鋼中に再度固溶する。本発明は、鋼の生産性を高めるため、900℃以下で冷延板焼鈍を行うが、そのような比較的低温の冷延板焼鈍においては、固溶Nbの一部が鋼中に析出する。しかし、上述のようにスラブ加熱条件や熱延板焼鈍条件を適切なものとすることで、固溶Nb量の多い熱延焼鈍板を得ることができる。これにより、熱延焼鈍板の冷間圧延の後に実施する冷延板焼鈍において一部のNbが鋼中に析出しても、鋼中に十分量の固溶Nbを確保することができる。
上述した過程により、鋼中に固溶した状態のNbが十分量含まれる冷延焼鈍板が高い生産性のもとに得られる。
以下に、上述の好適な製造方法において各工程の条件を上述の範囲とした理由について述べる。
鋼スラブを1100℃以上1250℃以下の温度で10分以上保持してから熱間圧延して熱延板とする工程(熱間圧延工程)
鋼スラブの加熱温度が1100℃未満であると、鋼中のNbCが十分に固溶せず、最終製品である冷延焼鈍板の鋼中に含まれる固溶Nb量が不足し、鋼板の加熱後耐食性が低下する。また、鋼スラブの加熱時間が10分未満であると、鋼中のNbCが十分に固溶せず、最終製品である冷延焼鈍板の鋼中に含まれる固溶Nb量が不足し、鋼板の加熱後耐食性が低下する。また、鋼スラブの加熱温度が1250℃を超えると、鋼スラブの変形を招き熱間圧延工程における熱延板の製造性を低下させる。よって、本発明においては、鋼スラブを1100℃以上1250℃以下に10分以上保持してから熱間圧延して熱延板とすることが好ましい。より好ましくは、鋼スラブの加熱温度は1150℃以上である。また、より好ましくは、上記の加熱時間は30分以上である。また、より好ましくは、鋼スラブの加熱温度は1180℃以下である。また、鋼スラブの過度に長時間の加熱保持は、鋼スラブの変形を招き熱間圧延工程における熱延板の製造性を低下させるため、鋼スラブの加熱時間は2時間以下とすることが好ましい。
熱延板を950℃以上1050℃以下の温度で5~180秒保持する熱延板焼鈍を行い、熱延焼鈍板とする工程(熱延板焼鈍工程)
熱延板焼鈍温度が950℃未満であると、鋼中のNbが十分に固溶せず、冷延焼鈍板中に含まれる固溶Nbの量が不十分となり、冷延焼鈍板の加熱後耐食性が低下する。一方、熱延板焼鈍温度が1050℃を超えると、鋼中におけるTiCの固溶が促進されて熱延焼鈍板中および冷延板中の固溶C量が増大することとなり、冷間圧延後の冷延板焼鈍においてNbCの析出が促進され、冷延焼鈍板の鋼中に含まれる固溶Nb量が不足し、鋼板の加熱後耐食性が低下する。また、熱延板焼鈍の保持時間が5秒未満であると、鋼中のNbが十分に固溶せず、冷延焼鈍板中に含まれる固溶Nbの量が不十分となり、冷延焼鈍板の加熱後耐食性が低下する。一方、熱延板焼鈍の保持時間が180秒を超えると、鋼中におけるTiCの固溶が促進されて熱延焼鈍板中および冷延板中の固溶C量が増大することとなり、冷間圧延後の冷延板焼鈍においてNbCの析出が促進され、冷延焼鈍板の鋼中に含まれる固溶Nb量が不足し、鋼板の加熱後耐食性が低下する。よって、本発明においては、熱延板を950℃以上1050℃以下で5~180秒保持する熱延板焼鈍を行い、熱延焼鈍板とすることが好ましい。より好ましくは、熱延板の焼鈍温度の範囲は1020℃以上1040℃以下である。また、上記の保持時間は、より好ましくは10秒以上である。また、上記の保持時間は、より好ましくは60秒以下である。
次いで、熱延板焼鈍工程後の熱延焼鈍板を冷間圧延して冷延板とする。この際の冷間圧下率は50%以上が好ましい。より好ましくは65%以上である。
冷延板を880℃以上900℃以下の温度で5~180秒保持する冷延板焼鈍を行い、冷延焼鈍板とする工程(冷延板焼鈍工程)
冷延板焼鈍温度が880℃未満であると、鋼の軟質化が不十分となり成形性が低下する。一方、900℃を超える冷延板焼鈍は生産性の高い普通鋼-ステンレス鋼兼用の焼鈍ラインで冷延板焼鈍を行うことができない。また、冷延板焼鈍の保持時間が5秒未満であると、鋼の軟質化が不十分となる。一方、冷延板焼鈍の保持時間が180秒を超えると、結晶粒が粗大化して表面品質が低下する場合ある。よって、本発明においては、冷延板を880℃以上900℃以下の温度で5~180秒保持する冷延板焼鈍を行うことが好ましい。より好ましくは、冷延板の焼鈍温度の範囲は890℃以上である。また、上記の保持時間は、より好ましくは10秒以上である。また、上記の保持時間は、より好ましくは120秒以下である。
[実施例1]
表1-1に示す成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼を100kg鋼塊(鋼素材)に溶製した後、表1-2に記載の各スラブ加熱温度で、表1-2に記載の各スラブ加熱時間保持した後、熱間圧延を行って板厚3.0mmの熱延板とした。熱間圧延の最終パスが完了した直後より、熱延板を700℃に設定した電気炉に挿入して1時間保持し、その後電気炉内で炉冷した。なお、この熱延板を700℃に設定した電気炉に挿入して1時間保持し、その後電気炉内で炉冷する工程は、実製造ラインにおいて熱間圧延後の熱延板をコイル状に巻き取ってから徐冷する温度履歴を模擬したものである。
Figure 0007047813000001
得られた熱延板を表1-2に記載の各熱延板焼鈍温度で、表1-2に記載の各熱延板焼鈍時間保持した後、空冷し、熱延焼鈍板とした。この熱延焼鈍板を硫酸溶液と続いてフッ酸と硝酸の混合溶液で酸洗し、冷間圧延用素材として、その後、板厚1.0mmまでの冷間圧延を行い、冷延板とした。得られた冷延板の一部は、表1-2に記載の各冷延板焼鈍温度で、表1-2に記載の各冷延板焼鈍時間保持した後、空冷し、その後、表裏面の表面研削を行って表面スケールを除去して、冷延焼鈍板とした。得られた冷延板および冷延焼鈍板を、以下の評価に供した。
(1)生産性の評価
上記の製造条件で得られた冷延板の硬さaと、前記冷延板に、900℃にて20sの冷延板焼鈍を施した冷延焼鈍板の硬さbと、十分に軟質化した場合の指標として1050℃にて20sの冷延板焼鈍を施した冷延焼鈍板の硬さcとを比較することで、焼鈍にともなう冷延板の硬さ変化を評価した。具体的には、前記冷延板より長さ15mm×幅20mmの試験片を3枚切出し、そのうち1枚の試験片の断面のビッカース硬さ(HV)を測定し、上記の硬さaとした。また、残り2枚の試験片について、それぞれ900℃において20s、1050℃において20sの焼鈍を施した後、長さ15mm×幅10mmのサイズに切断し、切断した試験片の断面のビッカース硬さ(HV)を測定し、それぞれ上記の硬さb、cとした。試験片は、樹脂埋めの後に、試験面を鏡面研磨して試験に供した。ビッカース硬さの測定条件は、試験力9.8N、保持時間15秒とした。測定した硬さa、b、およびcが、式(1)を満たすものを「○(合格)」、満たさなかったものを「▲(不合格)」として評価した。この評価で〇であれば、普通鋼-ステンレス鋼兼用の焼鈍ラインで冷延板焼鈍を行うことができ、生産性に優れると評価できる。
c+0.1×(a-c)≧b ・・・(1)
(2)固溶Nb量の評価
上記の製造条件で得られた冷延焼鈍板より、長さ20mm×幅50mmの試験片を切出し、JIS G 1237に規定される誘導結合プラズマ発光分光分析方法に準拠した分析を行い、鋼中の総Nb量(質量%)を評価した。次に、同一の冷延焼鈍板より、長さ20mm×幅50mmの試験片を切出し、10vol%アセチルアセトン-1質量%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノールを用いて定電流電解によって析出物を抽出した。抽出残渣のろ過には、セルロースアセテート製メンブランフィルタ(孔径0.2μm、47mmφ)を使用した。捕集した残渣はフィルタごと白金るつぼに入れ580℃で灰化後、0.75gNa+0.75gLiBOを加えガスバーナーで溶融し融成物とした。融成物は0.8質量%酒石酸/10vol%硫酸25mLを加えて溶解し、純水で100mLに定容後、ICP発光分光分析を行い、鋼中の析出Nb量(質量%)を評価した。そして、得られた総Nb量から、析出Nb量を減じることで、固溶Nb量(質量%)を評価した。
(3)加熱後耐食性評価
上記の製造条件で得られた冷延焼鈍板より、せん断加工により長さ80mm×幅60mmの試験片を切出した。試験片の表面をエメリー紙で600番まで研磨し、アセトンによる脱脂を行った後、大気雰囲気中にて400℃で24時間保持する熱処理を行った後、腐食試験を行って、加熱後耐食性を評価した。腐食試験は、JASO M609-91に準拠して実施した。1サイクルを、5.0質量%NaCl水溶液の噴霧(35℃、相対湿度98%)2h→乾燥(60℃、相対湿度30%)4h→湿潤(50℃、相対湿度95%以上)2hとし、5サイクルの腐食試験を実施した。試験後、試験片表面を撮影した写真から、試験片表面中央の30mm×30mmの領域について、画像解析により発銹面積率を測定した。そして、発銹面積率が20%以下であったものを「○(合格)」、20%超であったものを「▲(不合格)」として評価した。この評価で〇であれば、耐食性(大気中で加熱された後の耐食性)に優れると評価できる。
得られた結果を表1-2に示す。
Figure 0007047813000002
本発明例のフェライト系ステンレス鋼板(試験No.1-1~1-11)は、生産性の評価が「○」であり、固溶Nb量が0.015質量%以上であって、加熱後耐食性の評価が「○」であり、優れた生産性と加熱後耐食性を有することが分かった。
試験No.1-12の比較例は、スラブ加熱温度が本発明の範囲よりも低く、固溶Nb量が本発明の範囲よりも低いため、加熱後耐食性が劣っていた。
試験No.1-13の比較例は、スラブ加熱時間が本発明の範囲よりも短く、固溶Nb量が本発明の範囲よりも低いため、加熱後耐食性が劣っていた。
試験No.1-14の比較例は、熱延板焼鈍温度が本発明の範囲よりも低く、固溶Nb量が本発明の範囲よりも低いため、加熱後耐食性が劣っていた。
試験No.1-15の比較例は、熱延板焼鈍温度が本発明の範囲よりも高く、固溶Nb量が本発明の範囲よりも低いため、加熱後耐食性が劣っていた。
試験No.1-16の比較例は、熱延板焼鈍時間が本発明の範囲よりも短く、固溶Nb量が本発明の範囲よりも低いため、加熱後耐食性が劣っていた。
試験No.1-17の比較例は、熱延板焼鈍時間が本発明の範囲よりも長く、固溶Nb量が本発明の範囲よりも低いため、加熱後耐食性が劣っていた。
[実施例2]
表2に示す成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼を100kg鋼塊(鋼素材)に溶製した後、1150℃の温度で1時間加熱し、熱間圧延を行って板厚3.0mmの熱延板とした。熱間圧延の最終パスが完了した直後より、熱延板を700℃に設定した電気炉に挿入して1時間保持し、その後電気炉内で炉冷した。得られた熱延板を1030℃で20秒保持した後、空冷し、熱延焼鈍板とした。この熱延焼鈍板を硫酸溶液と続いてフッ酸と硝酸の混合溶液で酸洗し、冷間圧延用素材として、その後、板厚1.0mmまでの冷間圧延を行い、冷延板とした。得られた冷延板の一部は、900℃で100秒保持した後、空冷し、その後、表裏面の表面研削を行って表面スケールを除去して、冷延焼鈍板とした。得られた冷延板および冷延焼鈍板を、上述した評価に供した。なお、試験No.2-28、2-29は参考例であり、前記試験No.2-28はSUH409L規格の成分組成であり、前記試験No.2-29はAISI439規格の成分組成である。
得られた結果を表2に示す。
Figure 0007047813000003
本発明例のフェライト系ステンレス鋼板(試験No.2-1~2-23)は、生産性の評価が「○」であり、固溶Nb量が0.015質量%以上であって、加熱後耐食性の評価が「○」であり、優れた生産性と耐食性を有することが分かった。
試験No.2-24の比較例は、Nbの含有量が本発明の成分範囲よりも高く、生産性が劣っていた。
試験No.2-25の比較例は、Vの含有量が本発明の成分範囲よりも低いため、生産性が劣っていた。
試験No.2-26の比較例は、Vの含有量が本発明の成分範囲よりも高く、生産性が劣っていた。
試験No.2-27の比較例は、Crの含有量が本発明の成分範囲よりも低いため、加熱後耐食性が劣っていた。
試験No.2-28は、SUH409L規格の成分組成を有する参考例である。試験No.2-28では、所望の加熱後耐食性が得られない。
試験No.2-29は、AISI439規格の成分組成を有する参考例である。試験No.2-29は、16.0質量%以上となるCrを含有するため、原料コストと製造コストが高くなる。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、加熱後耐食性(大気中で加熱された後の耐食性)に優れるため、自動車排気系部材、ロッカー、家電製品用部品、建材、厨房機器、鉄道車両、電気装置用部品等に好適であり、特に、自動車排気用配管、コンバーターケース、フロントパイプ、センターパイプ、マフラー、マフラーカッタ等の自動車排気系部材に好適である。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C:0.001~0.020%、
    Si:0.05~1.50%、
    Mn:0.05~0.60%、
    P:0.050%以下、
    S:0.030%以下、
    Al:0.001~0.100%、
    Cr:14.5%以上16.0%未満、
    Ti:0.15~0.35%、
    Nb:0.090%以下、
    V:0.010~0.090%、および
    N:0.001~0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    鋼中に0.015質量%以上のNbを固溶した状態で含有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Ni:0.01~0.60%、
    Cu:0.01~0.80%、
    Co:0.01~0.50%、
    Mo:0.01~1.00%、および
    W:0.01~0.50%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
  3. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Zr:0.01~0.50%、
    B:0.0003~0.0030%、
    Mg:0.0005~0.0100%、
    Ca:0.0003~0.0030%、
    Y:0.01~0.20%、
    REM(希土類金属):0.01~0.10%、
    Sn:0.01~0.50%、および
    Sb:0.01~0.50%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
  4. 自動車排気系部材用であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。
  5. 請求項1~4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
    前記成分組成を有する鋼素材を、1100~1250℃の温度で10分以上保持した後、熱間圧延して熱延板とする熱間圧延工程と、
    前記熱間圧延工程後の熱延板に950~1050℃の温度で5~180秒保持する熱延板焼鈍を施し熱延焼鈍板を得る熱延板焼鈍工程と、
    前記熱延板焼鈍工程後の熱延焼鈍板を冷間圧延して冷延板とした後、当該冷延板に880~900℃の温度で5~180秒保持する冷延板焼鈍を施し冷延焼鈍板を得る冷延板焼鈍工程と、を有することを特徴とする、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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