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JP6974007B2 - リチウムイオン電池の負極材料、リチウムイオン電池、リチウムイオン電池の負極又は負極材料の製造方法及びその製造装置 - Google Patents

リチウムイオン電池の負極材料、リチウムイオン電池、リチウムイオン電池の負極又は負極材料の製造方法及びその製造装置 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン電池の負極材料、リチウムイオン電池、リチウムイオン電池の負極又は負極材料の製造方法及びその製造装置に関する。
従来から採用されているリチウムイオン電池は、その負極側に、負極活物質(以下、「負極材料」ともいう)の黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛等)と負極材とを結着材を用いて混合した合剤層を備える負電極を有している。また、その正極側は、正極材及び正極活物質のリチウム(Li)酸化物粉末(LiCoO、LiNiO、LiMnO等)と導電性黒鉛(主にカーボンブラック等)とを結着材(PVDF:ポリフッ化ビニリデン等)を用いて混合し、塗布形成した合剤層を備える正電極を有している。また、リチウムイオン電池のセル容器内には電解液が満たされるとともに、負極材と正極材との間にはセパレータ(主に、ポリオレフィン系多孔質材、又は多孔質のポリプロピレン・シート等)が設けられている。
上述のセパレータは、電解液を通過させ、リチウムイオンの移動を生じさせることを可能にして、電気的な短絡が起こらないように電極間を分離するように設けられている。
リチウムイオン電池の充放電は、リチウムイオンが電解液中で負極材と正極材との間を移動することによって行われる。充電時においては、リチウムイオンは負極側に移動し、放電時においては、リチウムイオンは正極側に移動する。充電は、外部接続の電源を通じて行われ、放電は外部接続の抵抗(負荷)を介して行われる。
ところで、リチウムイオン電池の分野で、近年、その負極活物質に、上記の黒鉛に代わる素材として、シリコン粒子を用いる技術が開示されている。例えば、シリコン粒子の例として、単結晶シリコンを乳鉢で粉砕し、メッシュを用いて分級することによって形成した、直径が約38ミクロン(μm)以下の粉末を、アルゴン雰囲気中30℃/分の昇温速度で150℃(到達温度)にまで加熱されたもの(特許文献1参照)がある。また、他の例として、高温高濃度の亜鉛ガス中に液状の四塩化ケイ素を供給し、1050℃以上の高温状態で反応させることによって、四塩化ケイ素を還元してシリコン粒子を形成し、該微細なシリコンを1000℃以下、特に500〜800℃にて結晶成長並びに凝集させた後、形成したシリコン粒子の粒度を調整し、塩化亜鉛水溶液中に集める。この作業により、粒径が1〜100μm程度の高純度シリコン粒子が得られること、及びそれを利用することが開示されている(特許文献2参照)。
特開2005−032733号公報 特開2012−101998号公報
しかしながら、従来技術においては、負極材料としてシリコン粒子を用いる場合、その充放電における電気容量を増大させることができるが、一方で、シリコン粒子内にリチウムを吸蔵・放出して、シリコン粒子が体積変動し、又は破壊されることになる。その結果、充放電のサイクル特性が維持できないという問題が存在している。
また、上述の先行技術文献において開示されているシリコン粒子の場合、高温の合成と採集工程を行う必要があるため、負極材料としてのシリコン粒子を得るまでの製造工程が極めて複雑になる。その結果、生産性の低下を招いたり、製造コスト高になることが避けられない。したがって、従来から開示されているシリコン粒子は、リチウムイオン電池の負極特性が悪い上、産業的な利用性が未だ十分でないという大きな課題がある。すなわち、シリコン粒子を用いたリチウムイオン電池の開発は未だ途上にある。
本発明は、従来のシリコン粒子を用いた負極材料が抱えていた充放電のサイクル特性等に関する諸問題の少なくとも一部を解決することにより、高性能のリチウムイオン電池の負極材料、リチウムイオン電池、リチウムイオン電池の負極又は負極材料の製造方法及びその製造装置の提供に大きく貢献し得る。
また、本発明の1つのリチウムイオン電池の負極材料は、モード径及びメジアン径が50nm未満の体積分布を有するとともに、表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われたシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物を用いて形成される。
また、本発明のもう1つのリチウムイオン電池の負極材料は、表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われたシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物を用いて形成され、かつ複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態のそのシリコン微細粒子の該凝集物又は該集合物を含む。
上述の各負極材料を採用することにより、充放電が繰り返されても充放電容量の変化が少ない、換言すれば充放電のサイクル特性の良いリチウムイオン電池を実現することができる。あるいは、充放電容量の増大を実現し得る。
また、上述の各負極材料となるシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物は、例えば、シリコンの溶融固化された塊又はインゴットを固定砥粒ワイヤによって削り出された、通常は産業廃棄物として扱われている切粉又は切削屑を出発材として採用することができる点は特筆に価する。加えて、その切粉又は切削屑を、ボールミル機及び/又はビーズミル機によって粉砕することにより形成されるシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物は、リチウムイオン電池の充放電のサイクル特性の高レベルでの維持、及び/又はその特性の向上を実現するための好適な一態様である。
また、本発明の1つのリチウムイオン電池は、モード径及びメジアン径が50nm未満の体積分布を有するとともに、表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われたシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物を用いて形成される負極材料を備える。
また、本発明のもう1つのリチウムイオン電池は、表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われたシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物を用いて形成され、かつ複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態のそのシリコン微細粒子の該凝集物又は該集合物を含む、負極材料を備える。
上述のリチウムイオン電池によれば、充放電が繰り返されても充放電容量の変化を低減することができる。あるいは、充放電のサイクル特性の高レベルでの維持、及び/又はその特性の向上をさせることができるのみならず、充放電容量の増大を実現し得る。
また、本発明の1つのリチウムイオン電池の負極材料の製造装置は、結晶性シリコンを粉砕することにより、モード径及びメジアン径が50nm未満の体積分布を有するシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物を形成する粉砕部と、そのシリコン微細粒子あるいは該凝集物又は該集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成部と、を備える。
また、本発明のもう1つのリチウムイオン電池の負極材料の製造装置は、固定砥粒ワイヤによって削り出される切粉又は切削屑である結晶性シリコンを粉砕することにより、複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態のシリコン微細粒子の凝集物又は集合物を含むようにそのシリコン微細粒子を形成する粉砕部と、そのシリコン微細粒子あるいは該凝集物又は該集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成部と、を備える。
上述のリチウムイオン電池の負極材料の製造装置によれば、充放電が繰り返されても充電容量及び/又は放電容量の変化が少ない、換言すれば充放電のサイクル特性の良いリチウムイオン電池を実現し得る、あるいは充放電容量の増大を実現し得るリチウムイオン電池の製造に貢献し得る。
また、本発明の1つのリチウムイオン電池の負極の製造装置は、結晶性シリコンを粉砕することにより、モード径及びメジアン径が50nm未満の体積分布を有する、負極材料となるシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物を形成する粉砕部と、そのシリコン微細粒子あるいは該凝集物又は該集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成部と、を備える。
また、本発明のもう1つのリチウムイオン電池の負極の製造装置は、固定砥粒ワイヤによって削り出される切粉又は切削屑である結晶性シリコンを粉砕することにより、複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態のシリコン微細粒子の凝集物又は集合物を含むように、負極材料となる前記シリコン微細粒子を形成する粉砕部と、そのシリコン微細粒子あるいは該凝集物又は該集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成部と、を備える。
上述のリチウムイオン電池の負極の製造装置によれば、充放電が繰り返されても充電容量及び/又は放電容量の変化が少ない、換言すれば充放電のサイクル特性の良いリチウムイオン電池を実現し得る、あるいは、充放電容量の増大を実現し得るリチウムイオン電池の製造に貢献し得る。
また、本発明の1つのリチウムイオン電池の負極材料の製造方法は、結晶性シリコンを粉砕することにより、モード径及びメジアン径が50nm未満の体積分布を有するシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物を形成する粉砕工程と、そのシリコン微細粒子あるいは該凝集物又は該集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成工程と、を含む。
また、本発明のもう1つのリチウムイオン電池の負極材料の製造方法は、固定砥粒ワイヤによって削り出される切粉又は切削屑である結晶性シリコンを粉砕することにより、複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態のシリコン微細粒子の凝集物又は集合物を含むように該シリコン微細粒子を形成する粉砕工程と、そのシリコン微細粒子あるいは該凝集物又は該集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成工程と、を備える。
上述のリチウムイオン電池の負極材料の製造方法によれば、充放電が繰り返されても充電容量及び/又は放電容量の変化が少ない、換言すれば充放電のサイクル特性の良いリチウムイオン電池を実現し得る、あるいは、充放電容量の増大を実現し得るリチウムイオン電池の製造に貢献し得る。
また、本発明の1つのリチウムイオン電池の負極の製造方法は、結晶性シリコンを粉砕することにより、モード径及びメジアン径が50nm未満の体積分布を有する、負極材料となるシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物を形成する粉砕工程と、そのシリコン微細粒子あるいは該凝集物又は該集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成工程と、を含む。
また、本発明のもう1つのリチウムイオン電池の負極の製造方法は、固定砥粒ワイヤによって削り出される切粉又は切削屑である結晶性シリコンを粉砕することにより、複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態のシリコン微細粒子の凝集物又は集合物を含むように、負極材料となる前記シリコン微細粒子を形成する粉砕工程と、そのシリコン微細粒子あるいは該凝集物又は該集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成工程と、を備える。
上述のリチウムイオン電池の負極の製造方法によれば、充放電容量の増大とともに、充放電が繰り返されても充電容量及び/又は放電容量の変化が少ない、換言すれば充放電のサイクル特性の良いリチウムイオン電池の製造に貢献し得る。
なお、上述の各シリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物の表面上の少なくとも一部を炭素によって覆う手段は特に限定されない。代表的な該手段の例は、アセチレン等に代表される炭化水素等の熱分解によって形成する炭素膜を利用する手段、ファーネス法によって形成された炭素膜を利用する手段、チャネル法によって形成された炭素膜を利用する手段、又はプラズマ処理によって形成される炭素膜を利用する手段である。
なお、上述の各発明における結晶性シリコンには、単結晶シリコンのみならず、多結晶シリコンが含まれる。また、上述の各発明における結晶性シリコンとして金属性のシリコンを選択することもできる。
本発明の1つのリチウムイオン電池の負極材料によれば、充放電が繰り返されても充放電容量の変化が少ない、換言すれば充放電のサイクル特性の良いリチウムイオン電池を実現することができるのみならず、充放電容量の増大を実現し得る。また、本発明の1つのリチウムイオン電池によれば、充放電が繰り返されても充放電容量の変化を低減する、換言すれば充放電のサイクル特性を向上させることができるのみならず、充放電容量の増大を実現し得る。加えて、本発明の1つのリチウムイオン電池の製造装置、及び本発明の1つのリチウムイオン電池の製造方法によれば、充放電が繰り返されても充放電容量の変化が少ない、換言すれば充放電のサイクル特性の良いリチウムイオン電池のみならず、充放電容量の増大を実現し得るリチウムイオン電池の製造に貢献し得る。
第1の実施形態のリチウムイオン電池の負極材料の製造工程を示すフロー図である。 第1の実施形態のリチウムイオン電池の負極材料の製造装置及び製造工程を示す概要図である。 第1の実施形態の被覆形成工程(S4)を経たシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物の一例のTEM(透過型電子顕微鏡)像を示す図である。 第1の実施形態のシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物の一例のSEM像である。 第1の実施形態における、拡大されたシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物の一例のSEM像を示す図である。 第1の実施形態における、(a)シリコン微細粒子の凝集物又は集合物の他の例のSEM像を示す図、及び(b)(a)の一部の拡大図である。 第1の実施形態のシリコン微細粒子のTEM像を示す図である。 第1の実施形態のシリコン微細粒子の結晶子径に対する、(a)個数分布における結晶子径分布と、(b)体積分布における結晶子径分布とを示すグラフである。 第1の実施形態のシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物のX線回折測定の結果((a)広範囲,(b)限定された範囲)を示すグラフである。 第2の実施形態のリチウムイオン電池の概要構成図である。 第2の実施形態のリチウムイオン電池の充電のサイクル特性の一例を示すグラフである。 第2の実施形態のリチウムイオン電池の放電のサイクル特性の一例を示すグラフである。 参考例としてのリチウムイオン電池の充電のサイクル特性を示すグラフである。 参考例としてのリチウムイオン電池の放電のサイクル特性を示すグラフである。 第2の実施形態のリチウムイオン電池について、充放電サイクルが100回行われた後のシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物のTEM像である。 他の実施形態のリチウムイオン電池の負極材料の製造装置及び製造工程を示す概要図である。 他の実施形態のリチウムイオン電池における、電解液中のFECの量を変化させたときのリチウムイオン電池の充電のサイクル特性を示すグラフである。 他の実施形態のリチウムイオン電池における、電解液中のFECの量を変化させたときのリチウムイオン電池の放電のサイクル特性を示すグラフである。 他の実施形態のリチウムイオン電池における、シリコン(Si)と炭素(C)との重量比を変化させたときの、リチウムイオン電池の充電のサイクル特性を示すグラフである。 他の実施形態のリチウムイオン電池における、シリコン(Si)と炭素(C)との重量比を変化させたときの、リチウムイオン電池の放電のサイクル特性を示すグラフである。
1 切粉等
2 シリコン微細粒子
10 洗浄機(洗浄兼予備粉砕機)
11 ボール種
13a ポット
13b 蓋
15 回転軸
20 粉砕機
21 導入口
22 処理室
24 排出口
25 フィルタ
30 乾燥機
40 ロータリーエバポレータ
50 酸化膜除去槽
55 フッ化水素酸又はフッ化アンモニウム水溶液
57 撹拌器
58 遠心分離機
60 被覆形成部
70 混合部
100 リチウムイオン電池の負極材料及び負極の製造装置
500 リチウムイオン電池
510 容器
512 負電極
514 負極材及び負極材料
516 正電極
518 正極材及び正極材料
520 セパレータ
530 電解液
540 電源
550 抵抗
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態のリチウムイオン電池の負極材料の製造工程を示すフロー図である。また、図2は、本実施形態のリチウムイオン電池の負極材料の製造装置及び製造工程を示す概要図である。
本実施形態のリチウムイオン電池の負極材料、及びその負極材料を備えたリチウムイオン電池、並びにそれらの製造方法は、例えば太陽電池等の半導体製品に使用されるシリコンウェハの生産過程におけるシリコンの切削加工において通常は廃棄物とされるシリコンの切粉あるいはシリコンの切削屑又は研磨屑(以下、「シリコンの切粉等」又は「切粉等」ともいう)を出発材料の一例とした、各種の工程を備える。また、切粉等には、廃棄対象となったシリコンウェハを公知の粉砕機によって粉砕した微細な屑も含まれる。図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン電池の製造方法は、以下の(1)、(2)、(4)及び(5)の工程を含む。また、本実施形態のリチウムイオン電池の製造方法は、採用し得る他の一態様として、以下の(3)の工程を含むことができる。
(1)洗浄工程(S1)
(2)粉砕工程(S2)
(3)酸化膜除去工程(S3)
(4)被覆形成工程(S4)
(5)負極形成工程(S5)
また、図2に示すように、本実施形態のリチウムイオン電池の負極材料及び負極の製造装置100は、主として、洗浄機(洗浄兼予備粉砕機)10、粉砕機20、乾燥機(図示しない)、ロータリーエバポレータ40、シリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物(以下、代表して「シリコン微細粒子」とも表現する)の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する被覆形成部60、及びリチウムイオン電池の負極形成の一部を担う混合部70を備える。また、本実施形態のリチウムイオン電池の負極材料及び負極の製造装置100は、採用し得る他の一態様として、酸化膜除去槽50、遠心分離機58を備えることができる。なお、上記の粉砕機20のみ、あるいは洗浄機10及び粉砕機20を、本実施形態における粉砕部という。
(1)洗浄工程(S1)
本実施形態の洗浄工程(S1)においては、例えば、単結晶又は多結晶のシリコン、すなわち、結晶性シリコンの塊又はインゴット(n型の結晶性シリコンの塊又はインゴット)の切削過程において形成されるシリコンの切粉等が洗浄される。代表的なシリコンの切粉等は、シリコンのインゴットが公知のワイヤ等(代表的には、固定砥粒ワイヤ)によって削り出される切粉等である。従って、本実施形態においては、従来、云わば廃材とされてきたシリコンの切粉等を出発材として、リチウムイオン電池の負極材料を構成するシリコン微細粒子を形成するため、製造コスト及び又は原材料の調達の容易性、及び資源の活用性の観点で優れている。
本実施形態の洗浄工程(S1)は、主として、上述のシリコンの切粉等の形成過程において付着する有機物、代表的には、切削過程で使用するクーラント剤及び添加剤等の有機物の除去を目的とする。本実施形態においては、図2に示すように、まず、洗浄対象となる切粉等1を秤量した後、その切粉等1と所定の第1液体、並びにボール11が、有底円筒形のポット13a内に導入される。蓋13bを用いてポット13a内を密閉にした後、洗浄機(洗浄兼予備粉砕機)10であるボールミル機が有する円柱状の2本の回転体15を回転させることによって、回転体15上のポット13aを回転させる。その結果、ポット13a内において、洗浄対象となる切粉等1を第1液体中に分散させることにより切粉等1の洗浄、及び予備的な粉砕処理が行われる。
ここで、本実施形態のボールミル機は、ポット13a及び蓋13bに収められた鋼球、磁性ボール、玉石及びその類似物をボール種11(粉砕媒体)とし、ポット13a及び蓋13bを回転させることによって物理的な衝撃力を与える粉砕機である。また、上述の第1液体の好適な例は、アセトンである。また、より具体的な一態様においては、例えば、シリコンの切粉等の100グラム(g)に対してアセトン300ミリリットル(mL)を添加し、ボールミル機(本実施形態においては、MASUDA社製、Universal BALL MILL)の回転体15上に乗せられたポット13a及び蓋13b内で約1時間撹拌することにより、シリコンの切粉等をアセトン中に分散させた。なお、ボールミル機のボール種は、粒径φ10ミリメートル(mm)のアルミナボールと粒径φ20mmのアルミナボールであった。なお、本実施形態の洗浄工程(S1)においては、ボールミル機内において、シリコンの切粉等を第1液体中で予備粉砕及び撹拌することによって分散処理を行っている。従って、単に第1液体に浸漬させるだけの処理よりも、洗浄効率を格段に高めることになるため、リチウムイオン電池の負極特性の向上、特に充放電サイクル特性の向上の観点で好適なシリコン粒子を得ることが可能となる。
洗浄工程(S1)の後、蓋13bを開けてシリコン粒子を第1液体とともに排出した後、公知の減圧濾過手段により、第1液体は吸引ろ過にて除去されて廃液となる。一方、残ったシリコン粒子は、公知の乾燥機内において乾燥される。なお、必要に応じて、乾燥処理後に得られたシリコン粒子を、同一工程によって再び洗浄機(洗浄兼予備粉砕機)10内において予備粉砕及び洗浄が行われる。なお、洗浄工程(S1)において採用され得る他の洗浄方法の例は、RCA洗浄法を用いた洗浄、又は水(純水を含む)を用いた洗浄である。
(2)粉砕工程(S2)
その後、粉砕工程(S2)においては、洗浄されたシリコン粒子に所定の第2液体を添加して、ビーズミル機内においてシリコン粒子の粉砕処理が行われる。従って、本実施形態においては、前述のボールミル機の後、換言すれば、前述のボールミル機による粉砕の後に用いられるビーズミル機によって、洗浄工程(S1)を経たシリコン粒子がさらに細かく粉砕されることになる。
本実施形態の第2液体の好適な例は、IPA(イソプロピルアルコール)である。粉砕工程の前処理として、第2液体と洗浄工程(S1)で得られたシリコン粒子をポット13a内に、重量比で、第2液体が95%に対してシリコン粒子を5%となるように収めた後、洗浄機(洗浄兼予備粉砕機)10を回転させることによって予備粉砕処理が行われる。予備粉砕処理されたシリコン粒子を含むスラリーを開口部180ミクロンのメッシュに通すことによって比較的粗い粒子が取り除かれた後、得られたシリコン粒子を含むスラリーを、粉砕機20のビーズミル(本実施形態においては、アシザワ・ファインティング社製、スターミルLMZ015)を用いてさらに微粉砕処理する。より具体的には、粒子径180ミクロン以上のシリコン切粉が除去されたシリコン粒子を含むスラリーを粉砕機20の導入口21へ投入し、ポンプ28を用いてスラリーを循環させながらビーズミルの処理室22で微粉砕処理が行われる。具体的なビーズミル機のビーズ種の一例は、粒径φ0.5mmのジルコニアビーズである。微粉砕処理されたシリコン粒子を含むスラリーを回収した後、減圧蒸留を自動で行うロータリーエバポレータ40を用いて第2液体を除去することにより、微粉砕処理された結果物としてのシリコン微細粒子が得られる。
なお、本実施形態においては、粒径φ0.5mmのジルコニアビーズを約450g導入し、回転数2908rpm、4時間の微粉砕処理が行われることによって、シリコン微細粒子を得ることができる。また、粉砕工程(S2)においては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、衝撃波粉砕機の群からなる粉砕機のうちの上述以外のいずれか、又は2種以上の組み合わせによって粉砕処理を行うことも、採用し得る他の一態様である。また、粉砕工程(S2)において用いられる粉砕機として、自動の粉砕機のみならず手動の粉砕機が採用されても良い。但し、確度高く、後述する複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態のシリコン微細粒子の凝集物又は集合物を形成する観点から言えば、ビーズミルによる処理からなる粉砕工程(S2)、又はビーズミルによる処理を含む粉砕工程(S2)が採用されることが好ましい。
また、公知のライカイ機(代表的なライカイ機として、株式会社石川工場社製、型式20D型)を用いて、上述の粉砕工程(S2)によって得られたシリコン微細粒子をさらに解砕することは、採用し得る他の好適な一態様である。この解砕処理により、リチウムイオン電池の負極を形成する際の分散性が改善されるため、リチウムの吸蔵・放出によって負極が破壊されることが確度高く防止され又は抑制されるという効果が得られる。
(3)酸化膜除去工程(S3)
本実施形態においては、好適な一態様として酸化膜除去工程(S3)が行われる。ただし、この酸化膜除去工程(S3)が行われなくても、本実施形態の効果の少なくとも一部の効果が奏される。
本実施形態の酸化膜除去工程(S3)においては、粉砕工程(S2)によって得られたシリコン微細粒子2を、フッ化水素酸又はフッ化アンモニウム水溶液に接触させる処理が行われる。粉砕工程(S2)によって得られたシリコン微細粒子2を、フッ化水素酸又はフッ化アンモニウム水溶液中に浸漬することにより分散させる。具体的には、酸化膜除去槽50において、シリコン微細粒子2を、フッ化水素酸又はフッ化アンモニウム水溶液55中に撹拌器57を用いて分散させることによりシリコン微細粒子2の表面の酸化物(主として、酸化シリコン)が除去される。
その後、遠心分離機58によって、表面の酸化物の一部又は全部が除去されたシリコン微細粒子とフッ化水素酸水溶液とが分離される。その後、シリコン微細粒子をエタノール溶液等の第3液体中に浸漬する。第3液体を除去することにより、当初形成されていた表面の酸化物(又は酸化膜)の一部又は全部が除去されたシリコン微細粒子が得られる。なお、シリコン微細粒子2の表面に存在し得る酸化物の除去処理を行わない場合は、シリコン微細粒子は、後述する被覆形成工程(S4)及び負極形成工程(S5)による処理が行われる。
なお、本実施形態の酸化膜除去工程(S3)においては、シリコン微細粒子をフッ化水素酸又はフッ化アンモニウム水溶液に浸漬することによってシリコン微細粒子にフッ化水素酸を接触させているが、その他の方法によってシリコン微細粒子にフッ化水素酸又はフッ化アンモニウム水溶液を接触させる工程も採用し得る。例えば、いわゆるシャワーのようにフッ化水素酸水溶液をシリコン微細粒子に対して散布することも、採用し得る他の一態様である。
(4)被覆形成工程(S4)
本実施形態においては、酸化膜除去工程(S3)を経た、又は経ていないシリコン微細粒子の表面の一部又は全部を炭素の膜によって被覆する被覆形成工程が行われる。従って、本実施形態の被覆形成工程(S4)を経たシリコン微細粒子は、その表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われているため、炭素によって覆われていないシリコン微細粒子に比べて厚みが増すことになる。なお、本実施形態の炭素が導電性を備えることによって、導電性を有する負極材料を形成することができる。また、例えば、その膜厚が数nm〜数μmの炭素によってシリコン微細粒子を覆うことによって、薄い厚みの負極を形成するのみならず、比較的厚い負極の形成が容易になる。なお、図3は、本実施形態の被覆形成工程(S4)を経た、シリコン微細粒子(一部の拡大図)あるいはその凝集物又は集合物(一部の拡大図)の一例のTEM(透過型電子顕微鏡)像である。図3において示される結晶性シリコンは、主として、結晶の面方位(111)(単に、「Si(111)」又は「(111)」とも表記する。他の面方位の表記についても同じ。)が観察された。
加えて、例えば、炭素によってシリコン微細粒子を覆うことによる負極全体としての内部応力の緩和、より微視的には個別のシリコン微細粒子の内部応力の緩和に寄与し得る。その結果、リチウムイオン電池の製造をより容易にすることができるとともに、リチウムイオン電池の性能(例えば、充放電のサイクル特性)の向上にも寄与し得る。
また、表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われたシリコン微細粒子を用いてリチウムイオン電池の負極材料を形成することにより、炭素によって覆われていないシリコン微細粒子に比べて充電容量値及び放電容量値を増加させることも可能となる。例えば、本願発明者らの研究によれば、炭素によって覆われていないシリコン微細粒子の場合、例えば、負極材料の厚みが約30μmである場合は、充電容量値及び放電容量値が、500(mAh/g)未満である。しかしながら、表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われたシリコン微細粒子を用いることにより、充電容量値及び放電容量値が、2倍以上(代表的には、約3〜約5倍)に増加させることができる。
ところで、本実施形態の被覆形成工程(S4)において、シリコン微細粒子の表面の一部又は全部(換言すれば、その表面上の少なくとも一部)を炭素の膜によって被覆する手段は、特に限定されない。例えば、化学気相成長法の一例である熱CVD法によってシリコン微細粒子2の表面上の少なくとも一部を炭素によって覆う方法を採用することができる。具体的には、シリコン微細粒子2を有機物ガス及び/又はその蒸気を含有する雰囲気において、約600℃以上約1200℃以下で加熱することによって、シリコン微細粒子2の表面上の少なくとも一部を炭素の膜によって被覆することができる。従って、化学気相成長装置の一例である熱CVD装置は、本実施形態の被覆形成工程(S4)において採用し得る被覆形成部60の一態様である。また、熱CVD法において採用され得る材料(又は原料)の例は、メタン、エタン、アセチレン、エチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサンの群から選択される1種又は2種以上の炭化水素、及び/又は、1種又は2種以上の公知の芳香族炭化水素である。なお、銅又は銅合金を触媒として採用することにより、約400℃でもアセチレンを熱分解し得る点は、処理温度の低温化に寄与しうる。
上述のとおり、代表的には、炭化水素ガスを、加熱されたシリコン微細粒子2上又はその近傍において熱分解させて炭素化することにより、シリコン微細粒子2の表面上の少なくとも一部をその炭素の膜によって被覆することが、本実施形態において適切な炭素の膜の一例を実現するとともに、生産性及び工業性に優れた手法であるといえる。なお、化学気相成長法の他の一例である減圧熱CVD法又はプラズマCVD法も、適宜採用され得る。
また、シリコン微細粒子2の表面上の少なくとも一部を炭素の膜によって被覆する方法の他の例は、次のとおりである。まず、公知の(塩素化ポリエチレンエラストマー等)の有機化合物、又は該有機化合物と黒鉛粉末とを混合した混合物を、被覆形成部60内において、少なくとも本実施形態の洗浄工程(S1)及び粉砕工程(S2)によって処理されたシリコン微細粒子2に付着又は吸着させる。その後、該有機化合物を熱分解する温度まで加熱し、該有機化合物を炭化させることにより、表面上の少なくとも一部が炭素(代表的には、グラフェン、グラファイト、及び/又は無定形炭素)によって覆われたシリコン微細粒子2を形成することができる。なお、一旦形成された該シリコン微細粒子2を窒素雰囲気下又は水素雰囲気下で、例えば400℃〜1200℃にて焼成する工程を追加的に、及び/又は事前に実施することも、本実施形態の変形例の一態様である。なお、シリコン微細粒子2あるいはその凝集物又は集合物の表面上に酸化膜が形成されることを確度高く防止、抑制、又は除去し得る観点から言えば、シリコン微細粒子2を水素雰囲気下で加熱することが好ましい。
また、その他の公知の手段を用いて、表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われたシリコン微細粒子2を形成することも、採用し得る別の一態様である。例えば、公知のカーボンブラックの製造方法(ファーネス法又はチャネル法)によって形成された炭素膜を利用することも可能である。なお、ファーネス法は、コールタールを蒸留して得られるクレオソート油を乱流拡散させた状態の所定のチャンバー内においてクレオソート油の部分燃焼を行った後、飛沫を水冷する方法である。また、チャネル法は、例えば天然ガスを燃焼させて形成した炎をチャンネル鋼の冷却面に衝突させることによって、炭素を析出させる方法である。但し、石油由来の硫黄成分が含まれることになるため、そのような不純物成分が混入され難い方法である、上述の熱CVD法を採用することがより好ましい。また、上述の各方法を採用する際に、例えばシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物に対して、適宜、公知の機械構造を採用して運動エネルギーを与えることによって、シリコン微細粒子2あるいはその凝集物又は集合物の表面上の少なくとも一部を炭素の膜を用いて被覆する方法を採用することは、シリコン微細粒子2あるいはその凝集物又は集合物の表面上に、より均質に(例えば、厚み及び/又は密度において均一性良く)炭素の膜を形成することが可能となるため、好適な一態様である。より具体的には、シリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物を収容するチャンバー又は管を回転させながら、及び/又は、シリコン微細粒子2あるいはその凝集物又は集合物に対して超音波振動を与えながら、シリコン微細粒子2あるいはその凝集物又は集合物の表面上の少なくとも一部を炭素の膜を用いて被覆する方法を採用することは、シリコン微細粒子2あるいはその凝集物又は集合物の表面上に、より均質に炭素の膜を形成することが可能となるため、好適な一態様である。
(4)負極形成工程(S5)
本実施形態のリチウムイオン電池の負極材料及び負極の製造装置100は、被覆形成工程(S4)によって処理された負極材料としてのシリコン微細粒子と、負極の一部を構成する部材(例えば、銅箔)とを結着材(例えば、アンモニウムカルボキシルメチルセルロース(CMC)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)、あるいは、アンモニウムカルボキシルメチルセルロース(CMC)及びポリビニルアルコール(PVA))を用いて混合する混合部70を備えている。この混合部70によって形成される合剤層を用いて負電極が形成される。
<その他の工程>
なお、上述の洗浄工程(S1)、粉砕工程(S2)及び(4)被覆形成工程(S4)によって、あるいは、洗浄工程(S1)、粉砕工程(S2)、酸化膜除去工程(S3)及び(4)被覆形成工程(S4)によって得られたシリコン微細粒子は、例えば、各シリコン微細粒子の結晶子径の個数分布及び/又は体積分布のバラつきを軽減するために分級され得る。
<第1の実施形態において得られたシリコン微細粒子の分析結果>
1.SEM像及びTEM像よるシリコン微細粒子の解析
図4Aは、第1の実施形態の粉砕工程(S2)後のシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物の一例のSEM(走査型電子顕微鏡)像である。また、図4Bは、第1の実施形態の粉砕工程(S2)後における、拡大されたシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物の一例のSEM像を示す図である。また、図4Cは、第1の実施形態における、(a)シリコン微細粒子の凝集物又は集合物の他の例のSEM像を示す図、及び(b)(a)の一部の拡大図である。加えて、図5は、第1の実施形態のシリコン微細粒子の透過電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
図4Aに示すように、個別のシリコン微細粒子のみならず、Y1及びY2に示すシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物が確認された。大変興味深いことに、さらに詳細に分析をすると、図4B、並びに図4C(a),(b)のZ部分に示すように、シリコン微細粒子又はその凝集物は、いわば薄層状のシリコン微細粒子が複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態の凝集物又は集合物であることが確認できた。なお、より詳しく観察すれば、例えば、1つ又は一群の鱗片状のシリコン微細粒子の幅(短径)を1としたときの長さ(長径)の範囲は、3.3〜12.9であった。
また、個別のシリコン微細粒子に着目した図5に示すTEM像から、もう一つの興味深い知見が得られた。具体的には、図5における白線で囲っている領域が示す個別のシリコン微細粒子は、結晶性、すなわち単結晶シリコンであることが確認できた。加えて、シリコン微細粒子の少なくとも一部は、断面視において約2nm〜約10nmの大きさの不定形の多角形の結晶子であることが確認できた。なお、図5においては、白線で囲っている各領域に、結晶の面方位が示されている。
2.X線回折法によるシリコン微細粒子の結晶子径分布の解析
図6は、第1の実施形態のシリコン微細粒子のSi(111)方向の結晶子径に対する、(a)個数分布を示す結晶子径分布と、(b)体積分布を示す結晶子径分布とを示すグラフである。図6は、粉砕工程(S2)後のシリコン微細粒子の結晶子径分布を、X線回折法を用いて解析することによって得られた結果を示している。図6(a)及び図6(b)は、いずれも、横軸が結晶子径(nm)を表し、縦軸は、頻度を表している。
図6(a)及び図6(b)の結果から、個数分布においては、モード径が1.6nm、メジアン径(50%結晶子径)が2.6nmであった。また、体積分布においては、モード径が6.3nm、メジアン径が9.9nmであった。従って、個数分布においてはモード径であってもメジアン径であっても5nm以下であり、より詳細には3nm以下の値が実現されていることが確認された。なお、体積分布においては、モード径であってもメジアン径であっても少なくとも50nm以下であり、特に30nm以下であることが確認されたことは特筆に値する。さらに、図6においては、10nm以下という極めて小さい値が実現されていることが確認された。
図6(a)及び図6(b)の結果より、ビーズミル法を用いた粉砕工程(S2)後に得られるシリコン微細粒子は、平均の結晶子径が約20nm以下、より具体的には、10nm以下を実現する、約9.8nmであることが確認できた。なお、酸化膜除去工程(S3)後のシリコン微細粒子の結晶子径分布も、図6とほぼ同様である。
従って、図6の結果と図4の各図の結果とを合わせて解析すれば、少なくとも粉砕工程(S2)後又は酸化膜除去工程(S3)後のシリコン微細粒子の凝集物又は集合物は、いわば長径約100nm以下の範囲のいわば薄層状のシリコン微細粒子が、複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態であるといえる。また、シリコン微細粒子は、図5及び図6から分かるように、主として長径が10nm以下の結晶子から構成されている。
また、本実施形態のシリコン微細粒子は、図6に示すように、1nm以下の結晶子径のシリコン微細粒子を含んでいることが分かる。また、興味深いことに、本実施形態のシリコン微細粒子の体積分布における平均結晶子径は、約10nmであることも確認された。この数値は、非常に小さい値であるといえる。また、上述のとおり、さらに調査を進めることによって、そのシリコン微細粒子の見かけの体積径として約100nm以下の範囲にあることが確認された。特に、長径が5nm以下の結晶子径の、極微細なシリコン粒子を多数含むことによって、後述するリチウムイオン電池の負極材料として用いるシリコン微細粒子によって導き出される充放電のサイクル特性をより確度高く向上させるものである。また、前述の極微細なシリコン粒子に表面の少なくとも一部が炭素によって覆われているため、より高い充電容量値及び放電容量値、並びに優れた充放電のサイクル特性を実現することができる。
3.X線回折法によるシリコン微細粒子の結晶子の面方位の解析
図7(a)は、第1の実施形態の粉砕工程(S2)前のシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物のX線回折測定の結果(P)及び粉砕工程(S2)後のシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物のX線回折測定の結果(Q)を、広い角度範囲において解析した結果である。また、図7(b)は、図7(a)の結果(P)の一部を拡大したものであり、第1の実施形態の粉砕工程(S2)後のシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物のX線回折測定の結果を限定された角度範囲において解析した結果(R)である。なお、図7(b)内に示されたC(002)面及びC(003)面の各ピーク強度は、約1wt%〜約3wt%のグラファイトの微粒子がシリコン微細粒子群又はシリコン微細粒子の凝集物又は集合物内に含まれていることを示している。なお、一例としてのC(002)面のグラファイトの微粒子の大きさは、約50nm以下、より具体的には、約35nmであり、C(003)面のグラファイトの微粒子の大きさは、約100nm以下、より具体的には、約75nmであった。
図7(a)及び(b)に示すように、第1の実施形態の粉砕工程(S2)前の2θ=28.4°付近のSiの結晶面(111)に帰属する回折ピークに比べて、粉砕工程(S2)後のSi(111)に帰属する回折ピークは、その半値幅が大きくなっていることが確認された。なお、粉砕工程(S2)後のSi(111)ピークの半値幅から、シェラーの式を用いて計算された平均結晶子径は、9.8nmであった。また、大変興味深いことに、粉砕工程(S2)後の2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属する回折ピークの強度は、その他の回折ピークの強度(例えば、Si(220)又はSi(311)のピーク強度)よりも大きいことが明らかとなった。なお、粉砕工程(S2)後のシリコン微細粒子の結晶格子のSi(111)の配列間隔は、図5に示したとおり、0.31nm(3.1Å)である。
上記の各解析結果を踏まえると、本実施形態の粉砕工程(S2)後のシリコン微細粒子については、主として面方位が(111)である結晶性のシリコン微細粒子が、複層花弁状又は鱗片状に多重に折重なった状態の凝集物又は集合物であるといえる。
そうすると、本実施形態の粉砕工程(S2)後又は酸化膜除去工程(S3)後のシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物をリチウムイオン電池の負極材料として用いることによって、リチウムイオン電池の正極材料中から電離したリチウムイオン(Li)が負極に到達したときに、リチウムイオン(Li)が複層花弁状又は鱗片状に多重に折重なった状態の凝集物又は集合物の襞部間隙に入り込み易く、また出易いという特有の効果が奏され得る。
<第2の実施形態>
本実施形態のリチウムイオン電池は、第1の実施形態において作製した、表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われたシリコン微細粒子を負極材料として用いている。なお、負極材料以外の構成は、従来のCR2032型のコインセル構造リチウムイオン電池の構成と同様である。
図8は、本実施形態のリチウムイオン電池500の概要構成図である。本実施形態のリチウムイオン電池500は、CR2032型コインセルの容器510内に、負極材及び負極材料514に電気的に接続する負電極512と、正極材及び正極材料518に電気的に接続する正電極516と、負極材及び負極材料514と正極材及び正極材料518とを電子的に絶縁するセパレータ520と、電解液530とを備える。また、本実施形態のリチウムイオン電池500は、充放電を実現するために、負電極512及び正電極516につながる電源540と抵抗550を備えた外部回路を有している。
また、本実施形態のリチウムイオン電池500の製造方法は、次のとおりである。
負極の製造方法については、まず、第1の実施形態において作製した、表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われたシリコン微細粒子約0.3gを、1wt%CMCバインダー水溶液、SBRバインダー水分散液(JSR株式会社製、TRD2001)からなる約10mL(ミリリットル)の溶液中に分散させる。
本実施形態においては、乾燥重量比で、シリコン微細粒子、カーボンブラック、CMCバインダー水溶液、SBRバインダー水分散液の順に、67:11:13:9、あるいは、50:25:20:5となるように配合する。また、本実施形態の1つの変形例においては、乾燥重量比で、シリコン微細粒子、カーボンブラック、CMCバインダー水溶液、PVAバインダー水分散液の順に、50:25:20:5となるように配合する。
次に、メノウ乳鉢を用いて混合調製したスラリーを、厚さ15μmであって約9cm(縦)×10cm(横)の銅箔の一面上に、乾燥後約30μm〜約200μmの厚みとなるように塗布した後、ホットプレート上にて大気中、80℃、約1時間の乾燥処理を行う。その後、上述の銅箔を乾燥スラリーとともに電池規格CR2032型コインセル対応の直径が11.3mmの大きさの円形に打ち抜くことにより、作用極を形成する。この作用極の重量を測定した後、グローボックス内で、120℃、6時間の真空加熱により再度乾燥処理したものを、銅箔からなる負電極512の内面に張り付けることにより、本実施形態の負極が製造される。
次に、正極については、ハーフセル構造のリチウムイオン電池を用いて負極材料の特性を評価するため、リチウム基板を直径13mmの円状に打ち抜いたものを、正電極516として採用した。なお、リチウムイオン電池の正極については、上述の正電極516の代わりに公知の正電極を採用することができる。
また、本実施形態のセパレータ520は、多孔質のポリプロレン・シートである。加えて、本実施形態の電解液530は、エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)を容積比で1/1で混合の溶媒(1L)中に、1モルの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解した電解液、あるいは、その電解液にフルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加したものであって、CR2032型コインセルの内容積(約1mL)を満たす量以内の量を注入したものである。
上述の正極材及び正極材料518、正電極516、負極材及び負極材料514、負電極512、セパレータ520及び電解液530を、CR2032型コインセルの容器510内へ配置する。その後、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、該コインセルの外枠の正電極516と負電極512との間を絶縁した状態で、セパレータ520及び電解液530の各構成材を容器510内に密封することにより、CR2032型コインセルのリチウムイオン電池500を試作した。
なお、本実施形態における電解液530を構成する電解溶媒の例は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)(ポリプロレン・シート)の環状カーボネート、及び、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状カーボネート有機溶媒の混合溶媒である。また、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)や四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などの支持塩を前述の電解溶媒中に溶解させて使用することができる。
<リチウムイオン電池500の充放電サイクル特性>
上述の構成を備えるリチウムイオン電池500を採用することにより、充電容量値及び放電容量値を、表面が炭素によって覆われていないシリコン微細粒子を採用した場合(約500(mAh/g)未満と比較して、2倍以上(代表的には約3〜約5倍)に増加させることができる。また、充放電サイクル数が100回以上に至った場合においても、充電容量値及び放電容量値のいずれも、あまり低下していないという極めて良好な充放電サイクル特性を実現することも可能となる。具体的な比較は以下のとおりである。
図9は、本実施形態のリチウムイオン電池500の充電のサイクル特性を示すグラフである。また、図10は、本実施形態のリチウムイオン電池500の放電のサイクル特性を示すグラフである。なお、各図中の丸印は、結着材としてCMCとPVAを採用した例を示し、塗り潰された四角印は、結着材としてCMCとSBRを採用した例を示す。
図9及び図10に示すように、CMCとPVAを採用した例及びCMCとSBRを採用した例のいずれも、充放電回数が少なくとも60回までは、安定的に、充電容量値及び放電容量値が高い値を維持していることが分かる。また、充放電回数が100回に至るまでに、若干、充電容量値及び放電容量値の低下傾向が見られる。しかしながら、CMCとPVAを採用した例及びCMCとSBRを採用した例のいずれも、充放電回数が100回の段階においても、高い充電容量値(約1400〜約1500mAh/g)及び放電容量値(約1400〜約1500mAh/g)を維持していることも分かった。
なお、興味深いことに、CMCとPVAを採用した例の方が、CMCとSBRを採用した例よりも、高い充電容量値及び放電容量値を維持し得ることが確認された。これは、SBRを採用すると、CMC又はシリコン微細粒子等と混合したときに、PVAよりも、均一に混合され難いためであると考えられる。
また、参考例として、被覆形成工程(S4)による処理が行われる前の本実施形態のシリコン微細粒子を用いて、リチウムイオン電池500と同様に製造したリチウムイオン電池の充放電サイクル特性を測定した結果について説明する。図11は、前述の参考例のリチウムイオン電池の充電のサイクル特性を示すグラフである。また、図12は、前述の参考例のリチウムイオン電池の放電のサイクル特性を示すグラフである。なお、この参考例は、結着材としてCMCとPVAを採用した例である。
図11及び図12に示すように、充電容量値及び放電容量値は、500(mAh/g)未満という比較的低い値であることが分かる。
従って、上述の第1の実施形態のシリコン微細粒子及び/又はその凝集物(集合物の場合を含む)を用いることによって、高容量であって、かつ優れた充放電サイクル特性を有するリチウムイオン電池を実現することができることが確認された。特に、参考例としてのリチウムイオン電池の結果と比較して、被覆形成工程(S4)によって表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われたシリコン微細粒子及び/又はその凝集物(集合物の場合を含む)を採用する第2の実施形態のリチウムイオン電池500は、充電容量値及び放電容量値を2倍以上(代表的には約3〜約5倍)に増加させることができることは特筆に値する。加えて、炭素によってシリコン微細粒子の一部又は全部を覆うことによって、厚い負極材料の形成が容易になるため、リチウムイオン電池500の製造をより容易にすることできる。なお、100回を超えて(例えば、数百回〜1000回)充放電サイクルが行われた場合においても、リチウムイオン電池500は、被覆形成工程(S4)による処理が行われる前の本実施形態のシリコン微細粒子が採用されるリチウムイオン電池よりも大幅に優れた充電容量値及び放電容量値、及び/又は充放電サイクル特性を有していると言える。
なお、図13に示すように、本実施形態のリチウムイオン電池500について、充放電サイクルが100回行われた後の、負極材料を構成するシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物のTEM(透過型電子顕微鏡)像を確認したところ、図中の「A」の領域が示すように、約4nmの径を持つ略円形の結晶(微結晶)が確認された。従って、結晶性シリコンの粉砕によって得られたシリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物を用いた負極材料を採用すれば、少なくとも100回の充放電サイクル後であっても、一部の結晶状態が維持されることが明らかとなったことは、もう一つの興味深い事実である。なお、図13に示すリチウムイオン電池500の例は、結着材としてCMCとPVAを採用し、後述するフルオロエチレンカーボネート(FEC)を約5wt%添加した例である。また、図13中の「A」の領域の結晶性シリコンは、主として、Si(111)を有していると考えられる。
<その他の実施形態(1)>
ところで、上述の各実施形態においては、出発材として、単結晶又は多結晶のシリコンの塊又はインゴットの切削過程において形成されるシリコンの切粉等を例示しているが、その他の形態のシリコンの切粉等を出発材とすることも採用し得る他の一態様である。具体的には、シリコンの切粉等は、半導体製品の生産過程におけるシリコンのインゴットの切削加工において必然的に形成されるものに限らず、予め選定した結晶性シリコンのインゴットを切削機で一様に又はランダムに切削して作製することも可能である。また、通常は廃棄物とされるシリコンの切粉やシリコンの研磨屑等のいわゆるシリコン廃材が、上述の各実施形態のシリコン微細粒子の出発材となり得るが、該シリコン廃材には、ウェハの破片、廃棄ウェハ等を粉砕することによって得られる微細な屑も含まれ得る。さらに、金属性のシリコンの切粉又は金属性のシリコンの研磨屑、あるいは金属性のその他の粒子状のシリコンといった材料を出発材料として用いるシリコン微細粒子も、採用し得る。
<その他の実施形態(2)>
また、上述の各実施形態におけるn型結晶性シリコンの不純物濃度は特に限定されない。また、n型のみならず、p型の結晶性シリコンを採用することもできる。さらに、真正半導体である結晶性シリコンも、上述の各実施形態における結晶性シリコンとして採用し得る。なお、リチウムイオン電池の負極材料内における電子の移動が重視されるため、n型の不純物を含有する結晶性シリコンを用いるのがより好適である。また、上述の図7(b)に示す、C(002)面及びC(003)面の各ピーク強度が示す約1wt%〜約3wt%のグラファイトの微粒子がシリコン微細粒子群又はシリコン微細粒子の集合体内に含まれていることから、これらのグラファイトの一部又は全部が、負極材料の導電性の向上に寄与し得る点を付言する。
<その他の実施形態(3)>
また、上述の各実施形態のシリコン微細粒子及びそれを備えたリチウムイオン電池は、第2の実施形態において紹介したコインセル型式の構造への適用に限定されない。従って、コインセル型式の構造より大きな電気容量のリチウムイオン電池を備える、又は利用する各種デバイス又は装置に適用され得る。また、負極材料として、上述の各実施形態のシリコン混合粉末に黒鉛(代表的には、グラファイト)を混合したものを採用することも、採用し得る他の一態様である。
<その他の実施形態(4)>
また、上述の第1の実施形態における図2に示すリチウムイオン電池の負極材料及び負極の製造装置100の代替的な装置として、図14に示すリチウムイオン電池の負極の製造装置200が採用されても良い。具体的には、設備の簡素化及び/又は製造コストの低減の観点から、リチウムイオン電池の負極の製造装置200においては、シリコンの切削過程で形成されるシリコンの切粉等を洗浄する洗浄機10が、洗浄されたシリコンの切粉等を粉砕することによってシリコン微細粒子を形成する粉砕機20を兼ねている態様である。従って、図14に示す装置/方法においては、例えば、洗浄工程においては比較的大きな径のビーズを用い、粉砕工程においては比較的小さい径のビーズを用いることによって、リチウムイオン電池の負極材料として用いるシリコン微細粒子を得ることになる。但し、より確度高く、第1の実施形態において説明したシリコン微細粒子を得るためには、第1の実施形態のように、ボールミル機を用いて処理した後のビーズミル機によって、シリコン微細粒子を形成することが好ましい。
<その他の実施形態(5)>
また、本願発明者らの分析によれば、第2の実施形態における電解液530に添加されたフルオロエチレンカーボネート(FEC)の量が、充電容量値及び放電容量値、並びに充放電サイクルの特性に影響を及ぼし得ることが明らかとなった。図15Aは、電解液530中のFECの量を変化させたときのリチウムイオン電池の充電のサイクル特性を示すグラフである。また、図15Bは、電解液530中のFECの量を変化させたときのリチウムイオン電池の放電のサイクル特性を示すグラフである。なお、測定対象としたFECの量は、それぞれ、5wt%、10wt%、及び15wt%である。また、参考のためにFECの添加をしなかったリチウムイオン電池も測定された。また、図15A及び図15Bについては、においては、重量比として、シリコン(Si)が1としたときに、炭素(C)が0.1であった。加えて、図15A及び図15Bにおいて、充放電回数が5回までは、180mA/gの電流値の条件下において充放電サイクルが行われ、充放電回数が6回以上は、1800mA/gの電流値の条件下において充放電サイクルが行われている。これは、負極材料の表面に良好な(例えば、低抵抗及び/又は薄い)SEI(solid electrolyte interface)を形成するためである。
図15A及び図15Bに示すように、FECの添加量(wt%)が5%超15%以下の範囲であれば、100回の充放電サイクルが行われた場合においても、安定的に、充電容量値及び放電容量値が高い値(代表的には、約1500mAh/g)を維持していることが分かる。特に、FECを10%程度添加することによって、安定的に、充電容量値及び放電容量値が非常に高い値を維持されることが明らかとなった。従って、FECを添加することにより、特に100回の充放電サイクルが行われた場合においても、高い充電容量値及び高い放電容量値が得られることが分かった。
<その他の実施形態(6)>
また、本願発明者は、第2の実施形態において採用された負極材料における、炭素(C)とシリコン(Si)との重量比と、充電容量値及び放電容量値、並びに充放電サイクルの特性との相関性を調査した。図16Aは、シリコン(Si)と炭素(C)との重量比を変化させたときの、リチウムイオン電池の充電のサイクル特性を示すグラフである。また、図16Bは、シリコン(Si)と炭素(C)との重量比を変化させたときの、リチウムイオン電池の放電のサイクル特性を示すグラフである。なお、測定対象としたシリコン(Si)と炭素(C)との重量比は、以下の(1)〜(4)に示す4例である。
(1)炭素(C):シリコン(Si)=0.1:1
(2)炭素(C):シリコン(Si)=0.16:1
(3)炭素(C):シリコン(Si)=0.21:1
(4)炭素(C):シリコン(Si)=0.37:1
また、図16A及び図16Bにおいて、充放電回数が5回までは、180mA/gの電流値の条件下において充放電サイクルが行われ、充放電回数が6回以上は、1800mA/gの電流値の条件下において充放電サイクルが行われている。これは、負極材料の表面に良好な(例えば、低抵抗及び/又は薄い)SEI(solid electrolyte interface)を形成するためである。なお、図16A及び図16Bについては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を約10wt%添加した例である。
図16A及び図16Bに示すように、炭素(C)の比率が最も大きい一例(上記の(4))の充電容量値及び放電容量値がやや低い値であるが、それ以外の3例は、いずれも、安定的に、充電容量値及び放電容量値が高い値を維持していることが分かる。従って、シリコン(Si)を1としたときに、炭素(C)の比率(重量比)が0.1以上0.21以下であれば、100回の充放電サイクルが行われた場合においても、安定的に、充電容量値及び放電容量値が特に高い値(代表的には、約1500mAh/g)が維持され得ることが明らかとなった。但し、上記の(4)の例は、シリコン微細粒子あるいはその凝集物又は集合物の表面上の少なくとも一部が炭素によって覆われていないリチウムイオン電池の充電容量値及び放電容量値よりも、2倍以上(代表的には約3倍)高い充電容量値及び放電容量値を有している。
なお、この実施形態においては、シリコン(Si)を1としたときの炭素(C)の重量比が0.1であったが、シリコン(Si)を1としたときの炭素(C)の重量比が0.05以上であれば、上述の(1)〜(3)の結果とほぼ同等の効果が奏され得る。従って、シリコン(Si)を1としたときに、炭素(C)の比率が0.05以上0.37未満であれば、安定的であって、かつ充電容量値及び放電容量値が高いリチウムイオン電池を得ることができる。
また、この実施形態において、本発明者がさらに詳細に分析した結果、TEM(透過型電子顕微鏡)像によって上述の(1)の場合の炭素(C)がシリコン(Si)に付着している部分の膜厚は、約2nm〜約3nmであった。また、上述の(2)の場合の炭素(C)がシリコン(Si)に付着している部分の膜厚は、約5nm〜約10nmであった。また、上述の(3)の場合の炭素(C)がシリコン(Si)に付着している部分の膜厚も、約5nm〜約10nmであった。加えて、上述の(4)の場合の炭素(C)がシリコン(Si)に付着している部分の膜厚は、約50nm〜約90nmであった。従って、シリコン(Si)に付着している部分の炭素(C)の膜厚が1nm以上50nm未満、特に、該膜厚が、2nm以上10nm以下であれば、安定的であって、かつ充電容量値及び放電容量値が高いリチウムイオン電池を得ることができる。
上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
本発明のシリコン微細粒子及びそれを備えたリチウムイオン電池は、例えば、各種の発電又は蓄電装置(家庭用小型電力貯蔵装置及び大型蓄電システムを含む)、スマートフォン、携帯情報端末、携帯電子機器(携帯電話、携帯用音楽プレイヤー、ノート型パソコン、デジタルカメラ・ビデオ)、電気自動車、ハイブリッド電気自動車(HEV)又はプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、モーターを電力源とする自動二輪車、モーターを電力源とする自動三輪車、その他の輸送機械又は車両等を含む多種のデバイスないし装置に対して適することができる。

Claims (9)

  1. 晶性シリコンを、ボールミル機、及び前記ボールミル機の後に用いられるビーズミル機を用いて粉砕することにより、モード径及びメジアン径が30nm以下の体積分布を有するシリコン微細粒子の凝集物又は集合物であって、複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態の前記凝集物又は前記集合物を形成する粉砕部と、
    前記凝集物又は前記集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成部と、を備え、
    前記結晶性シリコンが、固定砥粒ワイヤによって削り出される切粉又は切削屑である、
    リチウムイオン電池の負極材料の製造装置。
  2. 前記被覆形成部が、化学気相成長装置である、
    請求項1に記載のリチウムイオン電池の負極材料の製造装置。
  3. 前記シリコン微細粒子あるいは前記凝集物又は前記集合物のX線回折測定による、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属する回折ピークの強度が、その他の回折ピークの強度よりも大きい、
    請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池の負極材料の製造装置。
  4. 晶性シリコンを、ボールミル機、及び前記ボールミル機の後に用いられるビーズミル機を用いて粉砕することにより、モード径及びメジアン径が30nm以下の体積分布を有する、負極材料となるシリコン微細粒子の凝集物又は集合物であって、複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態の前記凝集物又は前記集合物を形成する粉砕部と、
    前記凝集物又は前記集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成部と、を備え、
    前記結晶性シリコンが、固定砥粒ワイヤによって削り出される切粉又は切削屑である、
    リチウムイオン電池の負極の製造装置。
  5. 前記被覆形成部が、化学気相成長装置である、
    請求項4に記載のリチウムイオン電池の負極の製造装置。
  6. 晶性シリコンをールミル機による粉砕の後にビーズミル機によって粉砕することにより、モード径及びメジアン径が30nm以下の体積分布を有するシリコン微細粒子の凝集物又は集合物であって、複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態の前記凝集物又は前記集合物を形成する粉砕工程と、
    前記凝集物又は前記集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成工程と、を含み、
    前記結晶性シリコンが、固定砥粒ワイヤによって削り出される切粉又は切削屑である、
    リチウムイオン電池の負極材料の製造方法。
  7. 前記被覆形成工程が、化学気相成長法によって前記炭素を形成する工程である、
    請求項6に記載のリチウムイオン電池の負極材料の製造方法。
  8. 晶性シリコンを、ボールミル機、及び前記ボールミル機の後に用いられるビーズミル機を用いて粉砕することにより、モード径及びメジアン径が30nm以下の体積分布を有する、負極材料となるシリコン微細粒子の凝集物又は集合物であって、複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態の前記凝集物又は前記集合物を形成する粉砕工程と、
    前記凝集物又は前記集合物の表面上の少なくとも一部を覆う炭素を形成する、被覆形成工程と、を含み、
    前記結晶性シリコンが、固定砥粒ワイヤによって削り出される切粉又は切削屑である、
    リチウムイオン電池の負極の製造方法。
  9. 前記被覆形成工程が、化学気相成長法によって前記炭素を形成する工程である、
    請求項8に記載のリチウムイオン電池の負極の製造方法。
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