以下、本発明の実施形態が詳細に説明される。なお以下の実施形態は、本発明の一例を説明するものであり、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態の有機EL発光素子は、図1Cに概略断面図が示されるように、基板21と、基板21上に設けられた第1電極(例えば陽極)22と、第1電極22の少なくとも一部を取り囲むべく形成された絶縁バンク23と、絶縁バンク23によって取り囲まれた第1電極22上に設けられた有機層26と、有機層26上に形成された第2電極27と、第2電極27の上に形成された保護膜28と、を有している。そして、親水性の材料で形成される絶縁バンク23が、順テーパ形状または絶縁バンク23の側壁が第1電極22に対して略垂直である形状を有し、有機層26が、分子量が、300以上、5000以下である、有機材料のオリゴマーを含む塗布型の有機層で形成されている。
ここに「塗布型の有機層」とは、有機材料のディスペンサによる塗膜、スクリーン印刷やインクジェットによる滴下などの印刷法による塗膜などの、塗布によって形成された塗膜を乾燥させた有機層を意味する。また、絶縁バンク23が「順テーパ形状」であるとは、開口を形成している絶縁バンク23の側壁の縦断面における間隔が第1電極22の表面から絶縁バンク23の上面に向かうにつれて広くなっていく形状を意味する。また、「親水性に形成され」とは、特別に親水性処理が施されているものに限らず、撥液性材料を用いたり、撥液性処理をしたりして得られる撥液性がないものを意味する。
前述したように、従来の塗布型の有機EL表示素子では、小さい面積の発光領域で形成することができないという問題がある。表示装置とする場合に、各画素となる領域の電極上に有機材料をインクジェット法などによって塗布する際には、インクジェットのノズルによって吐出される塗布液の物性の調整、吐出される際の塗布液の液滴の吐出速度やインクジェット装置の印刷条件を最適化する必要があるが、このうち、吐出される際の塗布液の液滴のサイズは、有機層が設けられる領域として可能な大きさを決定する重要な因子であり、インクジェット法を用いたパターン形成においては、液滴を所望の大きさに調整することが非常に重要であることを本発明者らは見出した。従来の塗布液では、インクジェット法によって有機材料の塗布液を滴下する際の液滴の量は平均して約5pL〜30pLであり、1滴当たり1pL以下に小さくすることはできない。しかし、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、従来の液滴を小さくすることができない理由が高分子で分子量の大きいことにあることを見出した。そして、分子量を5000以下のオリゴマーとすることで、0.05〜1pLの液滴を得ることができることを見出した。
すなわち、本発明者らがさらに鋭意検討を重ねて試験した結果、図2に示されるように、液滴の大きさは有機材料の分子量に大きく影響していることを見出した。換言すると、従来の塗布液中の溶質(有機材料)が、重合度の大きい高分子化合物であり、その分子量も10000以上と大きいことが、小さい液滴にすることができない原因であることを突き止めた。なお、液滴の大きさは、塗布液中の有機材料の濃度(溶媒に対する有機材料の溶解度)や塗布液の粘度に影響されるが、本発明者らは、滴下が可能で、できるだけ濃度の大きい条件で試験を行った。
その結果、図2から明らかなように、分子量を、300以上で、5000以下、好ましくは3000以下程度にすることによって、さらに好ましくは500以上で、1000以下にすることによって、1滴当たりの液滴の量を0.05pLから1pL程度にすることができることを本発明者らは見出した。重合方法などの検討を重ねると共に、より小さな分子量をもつ、すなわち重合度のより小さい化合物を試験した結果、オリゴマー(通常は20量体前後以下程度)を形成する程度の重合度をもつ有機材料、さらに好ましくは2〜10量体程度を用いることによって、上記の大きさの液滴にし得ることを見出した。
前述したように、従来の塗布型の有機EL発光素子では、最小サイズとして70μm×70μm以下の発光領域の素子を形成することができない。最小サイズの一辺が70μmということは、それ以下のサイズに対しては、液滴があふれ出てしまうことを意味している。従って、従来の塗布型有機EL発光素子では、20インチでQHD相当の画素サイズ、すなわち70μm×210μmを形成するのが限界であった。しかも、この程度の大きさの発光領域とするためには、前述したように、絶縁バンクに種々の工夫をする必要がある。以下、その工夫について説明される。有機EL発光素子は、図1A〜1Cを参照して後で詳細に説明されるが、第1電極22の周縁部に絶縁バンク23が形成され、その絶縁バンク23で囲まれた開口23a内の第1電極22の上に有機層26が積層される。この有機層26の形成領域が発光領域となる。その有機層26の上に、表示装置で有機EL発光素子がマトリクス状に複数個並べて形成される場合には、その全体に亘って連続に第2電極27(図1C参照)が形成される。
このような構造の従来の塗布型の有機EL発光素子では、表示装置でマトリクス状に有機EL発光素子が形成される場合に、前述したようにインクジェット法による液滴の1滴当たりの量が多いため、塗布液がこの絶縁バンク23の開口23aを溢れて隣接する発光素子の領域にも及んでしまう。それを防止するため、絶縁バンク23の開口23a内表面及び上面が撥液化されている。このような撥液化を施すことによって、滴下される塗布液の量が開口23a内の体積より大きくても滴下された塗布液は絶縁バンク23から弾かれることと、塗布液の表面張力によって塗布液が球状になって盛り上がることとで、小さい発光領域から塗布液が絶縁バンク23を乗り越えて隣接する発光領域に溢れることなく、縦方向に盛り上がって開口23a内に納まる。このような撥液性を発揮させるには、フッ素を含むフッ素系樹脂、例えばフッ素を含むポリアミドなどやシリコーン樹脂で絶縁バンク23を形成するか、または、絶縁バンク23の表面をCF4系ガスなどによってプラズマ処理をする必要があり、作業が大変であると共に製造プロセスのコストも上昇する。有機層に対して絶縁バンク材料からのフッ素の浸み出しや、フッ素系ガスを暴露させることが悪影響を及ぼす可能性もある。さらに、塗布液の隣接する発光領域上への濡れ拡がりを完全に防止することは困難であると考えられる。
さらに、塗布型の有機EL発光素子では他の工夫として、絶縁バンク23の第1電極22の表面からの高さh1(図1A参照、以下単に絶縁バンク23の高さという)を高くすることが行われている。すなわち、絶縁バンク23の高さh1を2μm以上に高くすることで、開口23a内の体積が大きくなるので、大きな液滴でも開口23a内に納めることができる。しかし、絶縁バンク23の高さh1が大きくなると、有機層26の表面と絶縁バンク23の上面との差が大きくなる。その結果、この有機層26の表面及び絶縁バンク23の上面の全面に形成される第2電極27に段切れが生じやすいという問題が発生する。そのため、そのような段切れの問題を生じさせないようにするために第2電極27を1μm程度以上と厚くしなければならない。その結果、第2電極27の形成時間が長くなり、また、第2電極27の材料が多く必要となり、コストアップになるという問題があるのみならず、光がほとんど透過しなくなる。その結果、上面の第2電極27から光を取り出すタイプ(トップエミッションタイプ)の発光素子にすることができないという問題がある。また、絶縁バンクの高さが高くなると、斜め方向への発光が遮蔽されてしまうため、視野角特性が劣化することがある。さらには、絶縁バンクを高くするためには、絶縁バンク部の幅も広くする必要がある。そのため、画素ピッチを広くせざるを得なくなり、高精細化が難しいという問題もある。
さらに、他の工夫として、絶縁バンク23を逆テーパ形状(前述の順テーパ形状の逆向きの形状で、絶縁バンク23の側壁の縦断面における間隔が第1電極22の表面から上面に向かうにつれて狭くなっていく形状)にすることによって、塗布液が隣接する発光領域に跨ることを防止している。しかし、このような逆テーパ形状にするには、その作製が困難であると共に、前述したように、この有機層26の表面及び絶縁バンク23の上面に連続して第2電極27が形成されるが、その第2電極27の段切れが益々発生しやすくなるという問題が生じる。そのため、上述の絶縁バンク23の高さh1を大きくする以上に第2電極27の段切れが問題になり、より一層第2電極27を厚くしなければならない。
換言すると、従来の塗布型有機EL発光素子では、絶縁バンク23を撥液化したり、絶縁バンク23を逆テーパ形状にしたり、または、絶縁バンク23の高さを高くしたりする必要があった。そのため、製造工程が複雑になると共に、撥液化に伴うフッ素の浸み出しやフッ素系ガスへの暴露による有機層26の劣化等の問題があった。
これに対して本実施形態では、塗布液に溶解させる有機材料を、前述したように、重合度の小さい、高分子化合物ではないが低分子化合物でもない分子量が300以上で、5000以下、好ましくは3000以下、さらに好ましくは500以上で、1000以下である有機材料にすることによって、換言すると、有機材料をオリゴマー、さらに好ましくは2〜10量体程度のオリゴマーとすることによって、塗布液を1滴当たり0.05pL以上で、1pL以下程度の小さな液滴にすることができた。この結果、塗布液25aが開口23aからあふれ出る可能性が全くないので、絶縁バンク23の高さh1を小さくできる(図1A及びB参照)。例えば1μm程度以下の絶縁バンク23の高さでも、塗布液25aが溢れることはない。
さらに、本実施形態によれば、絶縁バンク23を逆テーパ形状にする必要がない。そのため、絶縁バンク23を、順テーパ形状で、または、絶縁バンク23の側壁が第1電極22の表面に対して略垂直である形状で、形成することができる。すなわち、水平面に対する絶縁バンク23の側壁のテーパ角度θ(図1A参照)を10°以上で90°以下とすることができ、例えば好ましくは、80°程度以下の順テーパ形状にすることができる。その結果、より一層第2電極27の段切れの問題を回避することができる。すなわち、本実施形態によれば、絶縁バンク23の水平面に対するテーパ角度θ(図1A参照)を10°以上で90°以下とすることができる。この場合、逆テーパ形状の絶縁バンク23に比べて絶縁バンク23の作製が容易である。絶縁バンク23はまた、例えば80°程度以下であるテーパ角度θの順テーパ形状で形成されてもよい。これにより、より一層第2電極27の段切れの問題を回避することができる場合がある。その結果、第2電極27を薄く形成しても段切れの問題は発生せず、トップエミッションタイプでも、ボトムエミッションタイプでもどちらでも作製可能となる。
このように、液滴を小さくすることができた結果、絶縁バンク23に前述した従来の塗布型の有機EL発光素子で行っていた工夫をすることなく、従来の70μm×210μmよりも遥かに小さな発光領域の面積、例えば10μm×10μm程度の小さな発光領域でも、精度よく有機層26を形成することができた。その結果、スマートフォンのような小形で高精細の表示装置に使用する発光素子でも、塗布型の有機層で形成し得る。しかも、有機材料をオリゴマーとすることで塗布液の溶質濃度を10〜30質量%程度に高くすることができ、小さな発光領域にも効率的に有機層を形成することができた。
本実施形態のオリゴマーを含む塗布液は、従来の塗布型の有機EL発光素子程度の大きさに対しても、もちろん好適に使用することができる。しかし、従来、塗布型の有機層では形成し得なかった3500μm2以下、好ましくは2500μm2以下の発光領域に対して特に効果が大きい。
絶縁バンク23の表面を撥液化する必要がないため、フッ素系樹脂や、例えばポリアミドとフッ素樹脂などの含フッ素共重合体などを絶縁バンク23の樹脂材料として使用する必要はなく、また、形成した絶縁バンク23の表面にCF4系ガスなどによるプラズマ処理をする必要もなくなる。その結果、素子の製造工程が非常に簡単に、また低コストになるのみならず、絶縁バンク23からのフッ素の浸み出しやCF4に代表されるフッ素系ガスに暴露することによる有機層26への悪影響も排除できる。その結果として、素子の長寿命化が達成される。従って、本実施形態においては、絶縁バンク23は、フッ素を含まない非フッ素系樹脂で形成することが好ましい。具体的には例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂またはノボラック型フェノール樹脂などの樹脂が挙げられる。特には、フッ素を含まないポリイミド系の樹脂が好ましいが、これに限定されるわけではない。さらに、前述のように絶縁バンク23の表面の撥液化の必要がないのみならず、本実施形態においては、絶縁バンク23の表面を親水性に形成することができる。従って、絶縁バンク23の樹脂材料としては、樹脂表面に極性官能基が形成されている、すなわち樹脂表面が親水性であるような任意の親水性の樹脂を使用することができる。ここで特に親水性である材料としては、これらに限定される訳ではないが、例えばポリイミドやポリアミドのような樹脂が挙げられる。なお、本実施形態における親水性には、撥液性の樹脂でないものや、樹脂に特別な処理を行わないすなわち撥液化を施さないものを含むが、絶縁バンク23の開口23a内を親水性にすると、滴下した塗布液が第1電極22の周縁部まで広がりやすいので好ましい。その結果、第1電極22が端部まで塗膜で覆われる。これにより、第1電極22と塗膜からの有機層26の形成後に有機層26上に形成される第2電極27とが短絡する可能性が避けられる。
例えば、絶縁バンク23の表面の水との接触角は、15°以上、60°以下程度に設定され得る。絶縁バンク23の表面の水との接触角を60°以下程度に設定することにより、開口23a内に滴下され、開口23aに露出している(絶縁バンク23で被覆されていない)第1電極22の表面(開口23aの底面)に薄く広がった塗布液は、絶縁バンク23の側面に接するまで濡れ拡がってほぼ均一な厚さの塗膜を形成し得る。さらに、絶縁バンク23の側面に達した塗布液は、絶縁バンク23の側面を這い上がる(図1B参照)。これにより、成膜された塗膜が乾燥されて有機層を形成するプロセスにおいて、開口23a内の第1電極22の中央への溶質成分の凝集が起こりにくい。塗膜が乾燥により臨界濃度に達すると、図1Cに示されるように、塗膜の乾燥により形成された有機層26と絶縁バンク23の側面との接点(ピニング位置)の第1電極22の表面からの高さh3は、有機層26の最薄部の第1電極22の表面からの高さh2よりも高い位置となる。
ここで、前述のように、絶縁バンク23を水平面に対するテーパ角度θが80°以下であるような順テーパ形状に形成すると、塗布液を開口23a内に納めようとする力が、90°に近いテーパ角度θをもつ絶縁バンク23の場合と比較して弱くなる。そのことによって、さらに均一な膜厚の成膜が行われ得ると共に、膜厚が均一な有機層26の領域を広くすることができる場合がある。また、各画素となる領域の第1電極22の領域上に、最大限に平坦な有機層26を形成することができるため、画素の大きさが小さい場合に、効率よく発光領域として利用することができ、特に有利である。
絶縁バンク23はさらに、絶縁バンク23の形成後にその表面に表面改質処理を施すことによって、より親水性の表面をもつように形成されてもよい。表面改質処理によって、絶縁バンク23の表面は、好ましくは、算術平均粗さ(Ra)で30nm以下、例えば5〜30nm程度の範囲の表面粗さに処理される。絶縁バンク23の表面が、この程度の微細な凸凹構造をもっていれば、0.05pL以上で、1pL以下程度の小さな本実施形態の塗布液の液滴に対しても、良好な親水性を示すと考えられる。このような表面改質を行うための処理方法としては、後述されるが、例えば、絶縁バンク23の再硬化や可溶溶媒への暴露などが例示される。
絶縁バンク23の表面はまた、UV照射処理やオゾン処理、プラズマ表面処理のような表面処理によって親水性にされてもよい。UV照射処理やオゾン処理では、UVまたはオゾンにより絶縁バンク23の表面層の化学結合が切断され、オゾン由来の活性酸素やオゾンが、結合が切断された分子と反応することによって、例えばカルボキシ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、アクリル基、アミド基などの親水性の極性官能基が、絶縁バンク23の表面層に導入される。プラズマ表面処理では、プラズマ中に発生した励起活性種が絶縁バンク23の表面に作用することにより、プラズマ原料ガスの種類に依存して種々の親水性の官能基が絶縁バンク23の表面に導入される。プラズマの原料ガスとしては、例えばアルゴン、窒素、水素、アンモニア、酸素などが使用され得、適宜任意に選択される。また、プラズマ表面処理では、有機材料から形成された絶縁バンク23の場合、その表面のみを主に改質でき、また、処理に要する時間が短時間で済むという利点がある。いずれの表面処理でも、上述の極性官能基が絶縁バンク23の表面に導入されることによって、親水性の表面が形成される。
以上のように、本発明者らは、塗布型の有機層26のための有機材料を300以上、5000以下程度、好ましくは3000以下程度、さらに好ましくは500以上、1000以下程度の分子量であって、オリゴマー程度の重合度である化合物にすることによって、1滴当たり0.05pL以上、1pL以下程度の殆ど球状の微小な液滴で、塗布液を親水性の表面を有する絶縁バンク23の開口23a内に滴下できることを見出した。開口23a内に露出している第1電極22の表面の面積が、例えば100μm2以上で、2500μm2以下、好ましくは1200μm2以下、さらには850μm2以下、または、520μm2以上、850μm2以下、換言すると、例えば、中型以上の高精細パネルの場合における17μm×50μm以下、又は携帯用の表示装置などの小型高精細パネルの場合における25μm×25μm以下、さらには一辺が10μm程度などの小さな面積であっても、インクジェットのノズルの滴下口の大きさを直径十数μm程度にすることで、インクジェット法によって塗付型の有機層を得られる。従って、本実施形態の有機EL発光素子は、スマートフォンタイプの大きさで、500ppi前後またはさらに高い画素密度の有機EL表示装置の画素を形成することができる。
しかし、有機層26の形成領域の面積の上限は、上述のものに限定される訳ではない。面積が大きければノズルの滴下口の面積を大きくすることによって、大きい面積でも比較的短時間で形成され得る。従って、矩形形状の画素として前述された一辺の長さは、例示にすぎず、所望の表示装置における各画素形状に対応する面積のサイズとされ得る。また、塗布領域の形状が矩形状の場合は、一辺があまり小さい(矩形の幅が狭い)と的確にその領域に液滴を滴下することができなくなる。従って、有機層26の形成領域の形状が矩形状の場合には、短辺が10μm以上であることが好ましい。換言すると、この短辺の下限の2乗が、本実施形態によって形成され得る画素の大きさの下限になる。また、この有機層26の形成領域の形状、すなわち画素の形状は矩形状や正方形状には限らず、円形、楕円形や多角形でも構わない。
本実施形態においては、前述のように、親水性の樹脂材料で形成されている絶縁バンク23に取り囲まれた小さな発光領域に塗布液25aが塗布されても、塗布液25aが絶縁バンク23を乗り越えてあふれ出るおそれが全くない。この結果、混色という問題が起きることなく、上述のような高精細なパターン状の発光領域の面積にも塗布法で有機層を形成し得た。絶縁バンク23が親水性の樹脂材料で形成されていて、その表面が親水性であるため、開口23aの底面から開口23aの側壁にかけて充分に有機層26が埋まっている。その結果、平坦性の向上した有機層26が得られ、輝度むらや発光色むらなどが抑制される。
有機層26は、発光層の他に正孔輸送層や電子輸送層など、複数の有機層を含んでいてもよい。有機層26が複数層によって形成される場合には、各有機層の材料が前述したオリゴマーを含む有機材料の必要がある。また、本実施形態の有機EL発光素子は、有機層26と第1電極22もしくは第2電極27との間、または、有機層26が複数の有機層で構成されている場合、各有機層の間に、任意の層をさらに有していてもよい。さらに、基板21には、図示しないTFT、平坦化膜などが形成されていてもよい。なお、図1A〜1Cに示され、後述される実施形態に係る有機EL発光素子は、トップエミッション型であるが、前述のように、ボトムエミッション型、両面採光型のいずれであってもよい。
本実施形態の有機EL発光素子は、1個または複数個を少なくとも正面が透明な外囲器(被覆層)によって封止することで照明装置とされてもよく、また、この発光素子をマトリクス状に複数個配列して表示装置とされてもよい。照明装置にする場合、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の発光素子を1個の外囲器内に封入して白色発光の照明装置とされ得る。また、単色発光の発光素子を蛍光樹脂で被覆することによって、白色、その他の所望の発光色の照明装置とされ得る。
また、表示装置にする場合、マトリクス状に配置される各画素(1画素)のそれぞれの画素にR、G、Bの3色のサブ画素が形成され、フルカラーの表示装置とされ得る。この場合、サブ画素は1画素の1/3程度の大きさでその面積は小さくなる。また、サブ画素ごとに有機層の材料及びサブ画素の平面形状は異なり得るが、その第1電極22、有機層26、第2電極27などの積層構造は同じであるので、本明細書では、サブ画素を区別することなく1個の発光素子(1画素)として、説明される。画素の配列としては、特に限定されるものでなく、例えばモザイク配列、デルタ配列、ストライプ配列、ペンタイル配列で配置され得る。各画素において、有機EL発光素子の第1電極22が駆動素子に接続されており、各画素をオン/オフ制御することによって、各画素に対応する所定の色を発光させ、混色することで様々な色が表現される。
基板21は、例えばガラス板、ポリイミドフィルム等で形成された支持基板である。基板21が透光性を有する必要がない場合には、金属基板、セラミックス基板などが用いられてもよい。図1A〜1Cには、完全には図示されていないが、表示装置にする場合には、基板21上に、例えばTFT等の駆動素子が画素の配置場所に対応して形成されている。駆動素子上には、平坦化のために、例えばアクリル、ポリイミド等の材料からなる平坦化膜が形成されている。平坦化膜は、これら有機材料には限定されず、SiO2、SOGなどの無機材料でもよいが、表面の凹凸を無くするには有機材料の方が簡単である。さらに、平坦化膜の表面上の有機EL発光素子の形成場所に対応する部位に、AgあるいはAPCなどの金属膜と、ITO膜との組み合せによって第1電極22が形成されている。その第1電極22の上に有機層26が積層されている。
各画素を構成する第1電極22の周囲には、図1A〜1Cに示されるように、画素間を区分すると共に、第1電極22と第2電極27を接触しないようにする酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂またはノボラック型フェノール樹脂などの親水性の樹脂材料からなる絶縁バンク23が形成されている。絶縁バンク23は、第1電極22の少なくとも一部を取り囲むように形成されている。図1Aに示されるように、本実施形態では、絶縁バンク23は、所定の場所に形成された第1電極22の周縁を覆うように形成されている。しかしながら、絶縁バンク23は、第1電極22を覆うことなしに第1電極22と接するように形成されていてもよく、また、第1電極22と離間していてもよい。すなわち、絶縁バンク23が第1電極22の形成領域よりも広い領域を取り囲むように形成されていてもよい。しかし、発光素子の形成領域は、前述したように非常に小さな面積を問題にしているので、第1電極22の周縁に重なるように形成されることが好ましい。
いずれの場合も、第1電極22と有機層26の形成後に形成される第2電極27とが接触(リーク)することのない積層構造を構成されていることが重要である。従って、前述のように、絶縁バンク23によって取り囲まれた領域において絶縁バンク23の開口23a内に露出している第1電極22の表面の全面を覆うように有機層26が設けられていることが好ましい。この有機層26上に第2電極27が形成され得る。しかしながら、有機層26が第1電極22の全面を覆わずに、第1電極22よりも小さなサイズで第1電極22上に有機層26が形成され、第2電極27が有機層26よりもさらに小さなサイズで有機層26上に形成されていてもよい。
塗布型の有機層26のうち、発光層は、R、G、Bの各色に応じた有機材料が用いられる。しかし、発光層は同じ材料で、その表面の上にカラーフィルターを設けて、カラーフィルターによってR、G、Bを形成することもできる。また、発光層以外の有機層26は、正孔輸送層、電子輸送層やそれらの積層構造を含んでいてもよい。このような正孔輸送層、電子輸送層などは、発光性能を重視すれば、発光層に適した材料で別々に積層されることが好ましい場合もある。しかし、塗布法によれば、これらの層を構成する有機材料を混ぜることにより少ない層数の塗布型の有機層26で有機EL発光素子を構成することも可能である。
この有機層26を形成するためには、例えば図1Aに示されるように、インクジェットのノズル31から、オリゴマーを含む有機材料の塗布液25aを、絶縁バンク23で囲まれた第1電極22上に滴下する。オリゴマーとしては、通常、有機EL発光素子の発光層に用いることが可能な材料の発光特性に寄与する構造単位を含むモノマーが、例えば2個以上、10個以下、好ましくは2個以上、5個以下重合されている構造を含む有機化合物が使用され得る。通常、有機EL発光素子の発光層に用いることが可能な材料とは、例えば、従来の色素系材料や高分子系材料として使用されている材料である。具体的には、本実施形態のオリゴマーは、−[Y]−の一般式(I)で示される構造単位を含むモノマーであって、Yが、トリアリールアミン骨格、オキサジアゾ−ル骨格、トリアゾール骨格、シロール骨格、スチリルアリーレン骨格、ピラゾロキノリン骨格、オリゴチオフェン骨格、リレン骨格、ペリノン骨格、ビニルカルバゾール骨格、テトラフェニルエチレン骨格、クマリン骨格、ルブレン骨格、キナクリドン骨格、スクアリウム骨格、ポルフィレン骨格、ピラゾリン骨格、などから選択される骨格を含むモノマーが、2〜10個重合された化合物である。
塗布液25aの滴下によって、図1Bに示されるように塗膜25が形成される。この塗膜25は、絶縁バンク23がダムの役割をして絶縁バンク23によって囲まれた領域内に流れて納まるが、絶縁バンク23に撥液性は無いので、球状になることなく絶縁バンク23に馴染み、塗膜25の表面は平坦化する。これを乾燥させることによって、塗布液25a中の溶媒成分が蒸発し、厚さが塗膜25の1/30程度の厚さで、1層(1材料)当たり、十数nm程度になる。この塗布型の有機層26の形成を必要な材料で続けて行うことによって、図1Cに示されるように、有機層26の最薄部の第1電極22の表面からの高さよりもピニング位置が高くなっている塗布型の有機層26が形成される。図1Cでは、塗布型の有機層26が1層で描かれているが、前述したように、一般的には複数層で形成されている。
前述したように、本実施形態は、トップエミッション型で、図中、基板21と反対面から光を出す方式になっているので、有機層26上に形成される第2電極27は透光性の材料、例えば、薄膜のMg-Ag共晶膜によって形成される。その他にAlなどが用いられ得る。なお、基板21を介して光が放射されるボトムエミッション型の場合には、第1電極22にITO、In3O4などが用いられ、第2電極27としては、仕事関数の小さい金属、例えばMg、K、Li、Alなどが用いられ得る。この第2電極27の表面には、保護膜(被覆層)28(図1C参照)が形成される。この被覆層28は、次のシール層(外囲器)によって代えられうる。緻密な膜質をもつという点から、保護膜28としては、Si3N4、SiO2などの材料からなる複数層で形成することが好ましい。なお、この全体は、図示しないガラス、耐湿性の樹脂フィルムなどからなるシール層によって封止され、有機層26が水分を吸収しないように構成される。
前述のように、本実施形態の有機層26の有機材料が例えば300〜5000の分子量である、例えば重合度が2〜10のオリゴマーであるため、有機材料は、インクジェットのノズルから吐出されて塗膜25を塗布成膜するためのインクジェット用の塗布液25aとするための、溶媒への十分な溶解性を有する。本実施形態の塗布液25a中のオリゴマーの濃度は、所望の厚さを有する有機層26が形成され得るように調整され得るが、例えば10〜30質量%程度とすることができる。さらに、このような重合度のオリゴマーであるため、合成反応後に、所望の重合度のオリゴマーのみをカラムクロマトグラフィーやゲル浸透クロマトグラフィーのようなクロマトグラフィーによる分離や再沈降、再結晶などの精製法を用いることによって分離精製することができる。分子量分布を有さない高純度化されたオリゴマーを有機層26の有機材料として使用できるため、精製が困難で高純度化しづらい高分子化合物を含む有機材料と比較して、有機EL発光素子に用いたときに、色純度や輝度が高いと考えられる。また、有機材料のオリゴマーを有機材料として用いることで、有機材料を塗布した際に有機材料の結晶化や凝集などが起こりにくく、このため、結晶化等の起こりやすい低分子化合物を含む有機材料と比較して、形成される有機層26の膜の安定性が向上すると考えられる。有機材料の結晶化や凝集が有機層内で起こると、結晶化や凝集が起こって相対的に膜厚が厚くなった領域は、起こらなかった領域と比較して電流が注入されにくくなるため相対的に輝度が低くなり、これによって、画素内で発光強度の分布にバラつきが生じるおそれがある。また、相対的に膜厚が薄い領域に電流が集中して膜厚が薄い領域から劣化が生じてしまうため、素子自体の寿命が短くなるおそれもある。本実施形態の有機材料のオリゴマーを発光素子の有機層26に使用することによって、このような問題の発生が抑制されると考えられる。従って、比較的安価な印刷法による塗布型製造方法で、高精細かつ発光強度に優れ長寿命な有機EL発光素子が提供され得る。
一実施形態において、前述のように、有機EL発光素子の有機層26は、発光性の有機材料に加えて、電子輸送性や正孔輸送性などの特性に優れる一または複数の他の有機材料を含んでいてもよい。例えば発光材料である有機材料のオリゴマーと電子輸送性化合物や正孔輸送性化合物が混合された組成物を含む塗布液25aが有機層26の形成のために用いられ得る。また、異なる種類の有機材料のオリゴマー、例えば発光材料としてのオリゴマーと正孔輸送性のオリゴマーなどが混合され、塗布されて有機層26が形成されてもよい。ただし、もちろん材料の組み合わせはこれらに限定されるものではない。この結果、有機EL発光素子の有機層26内の層数を低減することができる。さらには、有機層26の平坦性が向上され、有機層26が発光した際の輝度むら、発光色むら等の表示むらが抑制され得る。
本発明の第二の実施形態の有機EL発光素子の製造方法は、図3にフローチャートが示されるように、基板21の表面の上に、第1電極22を形成する工程(S1)と、第1電極22の少なくとも一部を取り囲むように絶縁バンク23を形成する工程(S2)と、絶縁バンク23で取り囲まれた領域の第1電極22の上に、塗布型の有機層26を形成する工程(S3)と、有機層26の上に、第2電極27を形成する工程(S4)と、を含んでいる。前記絶縁バンクの形成を、親水性の材料を用いて、水との接触角が15°〜60°になるように形成されている。さらに、この有機層26は、前述した有機材料のオリゴマーを含む液状組成物をインクジェット法によって滴下することによって形成されている。以下、具体的にさらに詳述される。
有機EL表示装置用の発光素子にする場合には、前述したように、基板21に駆動回路構成する駆動用TFTなどがアモルファス半導体などと、リソグラフィ技術などを用いて、通常の方法で形成される。そして、その表面の凹凸を平坦化するため、ポリイミド樹脂などによって平坦化されている。その表面の各画素の位置に合せて第1電極22がマトリクス状に形成される。この第1電極22も、全面に前述した電極用材料が形成され、パターニングすることによって形成される(S1)。
その後、絶縁バンク23が形成される(S2)。この絶縁バンク23は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコンなどの無機材料により形成されていてもよいが、厚く形成するには、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂またはノボラック型フェノール樹脂などの親水性の樹脂材料を用いることによって短時間で形成することができる。好ましい樹脂材料としては、上述の樹脂材料のうちの感光性の樹脂材料、特には感光性のポリイミド樹脂が挙げられる。例えば、絶縁バンク23の必要な高さ、例えば1m程度になる厚さで全面に絶縁膜を形成して、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングすることによって、感光性の樹脂材料の硬化物によって形成されている絶縁バンク23であって、図1Aに示されるように第1電極の少なくとも一部が内部に現れている開口23aを有する絶縁バンク23が形成される。絶縁バンク23は、前述のように、順テーパ形状で、または、その側壁が第1電極22に対して略垂直となるように形成され得る。本実施形態では、塗布液25aの1滴当たりの液滴量が小さく、滴下された塗布液25aが開口23aからあふれ出る恐れがないので、水平面に対するテーパ角度θが80°程度以下の順テーパ形状の絶縁バンク23であっても、混色の問題は起きない。さらに、フォトリソグラフィによって開口23aを形成した場合に、開口23aの側壁と絶縁バンク23の上面とが曲線状につながって形成されても、滴下された塗布液25aが絶縁バンク23を乗り越えることはない。従って、例えばポリイミドなどの感光性の樹脂材料を用いて、簡単に絶縁バンク23を形成できる。
絶縁バンク23の形成後に、開口23a内に露出する第1電極22の表面にアッシングやプラズマ処理などの表面処理を行ってもよい。これにより、第1電極22の表面に親水性を付与すること、第1電極22の表面に付着する有機物を除去(洗浄)すること、第1電極22の表面付近の仕事関数を調整すること等を行うことができる。また、第1電極22上に形成される有機層26の第1電極22との接着力をより強固なものとすることができる。
さらに、絶縁バンク23の開口23a内表面に、表面改質処理が行われてもよい。このような改質処理は、例えば、絶縁バンク23を所望の形状に形成した後に表面を再硬化させることによって行われ得る。例えば絶縁バンク23を樹脂材料の硬化温度で硬化させた後、硬化温度よりも高い温度、例えば15〜30℃程度高い温度で、例えば5〜30分程度絶縁バンク23を焼成する。これにより、絶縁バンク23の表面が一旦軟化し、その後再硬化される。絶縁バンク23の表面の平坦性が向上する。あるいは、改質処理は、例えば、絶縁バンク23の樹脂材料を溶解することのできる溶媒雰囲気に所望の形状に形成した後の絶縁バンク23を、5〜30分程度暴露することによって行われてもよい。これらの表面改質処理により、絶縁バンク23の表面が、5〜30nm程度の算術平均粗さをもつような表面に改質され得る。このことにより、絶縁バンク23の表面の親水性が向上される。
また、絶縁バンク23の開口23a内表面に、UV照射処理やオゾン処理、プラズマ表面処理のような表面改質処理が行われてもよい。このような改質処理は、絶縁バンク23の表面の表面自由エネルギーを増加させ、その結果、絶縁バンク23の表面の親水性が向上する。上述のような親水性の樹脂材料で絶縁バンク23を形成することによって、また、上述のような表面改質処理を行うことによって、絶縁バンクの表面が良好な親水性をもつように、例えば絶縁バンクの表面の水との接触角が15〜60°となるように形成される。
そして、図1Aに示されるように、インクジェット法によって、ノズル31から前述した有機材料の塗布液25aを滴下させる。この塗布液25aの滴下は、絶縁バンク23の開口23aに露出した第1電極22に位置合せをして行われる。滴下した塗布液25aは、図1Bに示されるように、絶縁バンク23の開口23a内で塗膜25になる(S3)。
具体的には、図1Aに示されるように、実施形態のオリゴマーを含む有機材料の塗布液25aが、インクジェットのノズル31から吐出されて、絶縁バンク23で取り囲まれた領域の第1電極22上に滴下される。塗布液25aは、少なくとも実施形態のオリゴマーと溶媒とを含む液状組成物である。溶媒としては、実施形態のオリゴマーを含む有機材料を溶解するものであれば使用することができ、好ましくは有機溶媒が使用される。有機溶媒としては、特に限定されないが、溶媒として低沸点溶媒を用いた場合、インクジェットのノズルに目詰まりが発生したり、ノズル31からの吐出直後から塗布液25aの乾燥が始まって溶質が析出して膜厚むらが生じたりするおそれがあるため、低沸点溶媒は、より高沸点の溶媒と組み合わせて用いることが好ましい。溶媒として例えば、塩素系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒等、及びこれらの混合溶媒が例示される。このうち、成膜の均一性や塗布液25aの粘度特性等の観点から、シクロヘキシルベンゼン、キシレン、アニソール、及びこれらのうちのいずれか一種以上を含む混合溶媒が好ましいが、これらに限定される訳ではない。塗布液25aは例えば、25℃における粘度が約0.6×10-3Pa・s以上であって、3×10-3Pa・s以下となるように、好ましくは、約1×10-3Pa・s以下となるように調製され得る。このような粘度とすることによって、塗布液25aがインクジェットヘッドから略一定の粒径の微小液滴として吐出され得、また、多ノズルを用いた際にもインクジェットによる安定した滴下を行うことができる。
その後、例えばMg-Ag共晶膜を全面に蒸着などによって形成し、有機層26上に、第2電極27が設けられる(S4)。本実施形態の有機EL発光素子においては、第2電極27は、陰極として機能する。第2電極27を構成する具体的な材料としては、前述したとおりであり、5〜30nm程度の厚さに形成される。この第2電極27は、各画素に共通の電極として形成されているので、絶縁バンク23の上も含めて全面に形成されている。
次いで、第2電極27の上に、外部からの水分や酸素などの浸入を防ぐための封止膜として機能する保護膜28が形成される。この保護膜28は、吸湿性のないSi3N4や、SiO2などの無機膜で、第2電極27及び有機層26などを完全に被覆するように、図示されていないが、基板21に接着して形成される。その結果、本実施形態の有機EL発光素子が完成する(図1C参照)。この方法は一例であって、本実施形態の有機EL発光素子の製造方法は、各工程の間に任意の工程をさらに有していてもよい。例えば、前述のように絶縁バンク23によって取り囲まれる領域内の異なる場所に塗布液25aが複数回滴下された場合には、塗膜25の乾燥プロセスの前に領域内に滴下された塗布液25aを平坦化する平坦化プロセスを行ってもよい。
以上のように、有機EL発光素子の有機層26の有機材料を有機材料のオリゴマーを含む有機材料とし、絶縁バンク23を親水性の樹脂材料で形成することによって、電極上の小さなサイズの領域に塗布型の有機層26が良好に設けられる。そのことによって、膜厚むら等の表示むらが抑制され、優れた光学特性を有する高精細なパターンの有機EL発光素子が、低コストで得られる。
(まとめ)
(1)本発明の第一の実施形態に係る有機EL発光素子は、基板と、前記基板の表面の上に設けられた第1電極と、前記第1電極の少なくとも一部を取り囲むべく形成された絶縁バンクと、前記絶縁バンクによって取り囲まれた第1電極の上に形成された有機層と、前記有機層の上に形成された第2電極とを備え、前記絶縁バンクが、親水性のある材料によって形成されると共に、順テーパ形状または前記絶縁バンクの側壁が前記第1電極に対して略垂直である形状を有し、前記有機層が、有機材料のオリゴマーを含む塗布型の有機層であり、前記オリゴマーの分子量が、300以上、5000以下である。
本発明の一実施形態の有機EL発光素子によれば、塗布型の有機層を形成するための有機材料が、300以上、5000以下である分子量のオリゴマーを含む有機材料であるため、塗膜を形成するためにインクジェットのノズルから滴下される液状組成物の液滴の1滴当たりの液滴量を小さくすることができ、この結果、液状組成物が絶縁バンクを乗り越えて、隣接する画素の電極上へと濡れ拡がるおそれがない。よって、塗布法による画素の高精細なパターン形成が可能となる。さらに、絶縁バンクが親水性のある材料によって形成されているため、塗膜を形成するために滴下される塗布液が絶縁バンクの表面と馴染み、この結果、絶縁バンクの開口の側壁まで充分に埋まっている有機層が形成される。第一電極上に平坦性に優れた有機層を形成することができる。
(2)前記絶縁バンクの表面の水との接触角が、15°以上、60°以下であることが好ましい。絶縁バンクの表面がこのような水との接触角をもつことによって良好な親水性が得られる。
(3)前記絶縁バンクが、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びノボラック型フェノール樹脂からなる群より選択されることが好ましい。絶縁バンクをこのような親水性のある材料によって形成することによって、平坦性の向上した有機層を形成することができる。
(4)前記絶縁バンクが、感光性の樹脂材料の硬化物で形成されていることが好ましい。このようにすることによって、親水性の絶縁バンクを簡単に形成することができる。
(5)前記絶縁バンクの表面に、極性官能基が形成されていることが好ましい。絶縁バンクの表面がこのような構造をもつことによって良好な親水性が得られる。
(6)前記絶縁バンクの側壁の、前記第1電極に対する角度が、10°以上、90°以下であることが好ましい。このようにすることによって、有機層の表面及び絶縁バンクの上面の全面に形成される第2電極における段切れの問題を回避することができる。
(7)前記有機層と前記絶縁バンクの側壁との接点である、有機層のピニング位置が、前記有機層の最薄部の高さよりも高い位置にあることが好ましい。このようにすることによって、平坦性の向上した有機層を形成することができ、輝度むらの発生などが抑制され得る。
(8)また、本発明の第二の実施形態の有機EL発光素子の製造方法は、基板の表面の上に、第1電極を形成する工程と、前記第1電極の少なくとも一部を取り囲むように、親水性の樹脂材料で絶縁バンクを形成する工程と、前記絶縁バンクで取り囲まれた領域の前記第1電極の上に、塗布型の有機層を形成する工程と、前記有機層の上に、第2電極を形成する工程と、を含み、前記絶縁バンクの形成を、親水性の材料を用いて、水との接触角が15°〜60°になるように形成し、前記有機層の形成を、有機材料のオリゴマーを含む液状組成物をインクジェット法によって滴下することによって行う。
本発明の第二の実施形態の有機EL発光素子の製造方法によれば、小さな画素でも塗布法によって高精細なパターンで画素の電極上に、平坦性に優れた有機層が形成された有機EL発光素子が得られる。従って、小型で高精細な有機EL発光素子が簡便にかつ安価で製造される。
(9)前記絶縁バンクの形成を、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びノボラック型フェノール樹脂からなる群より選択される材料を成膜し、パターニングすることで行うことが、親水性が向上された絶縁バンクが形成できるので好ましい。