以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し本発明は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
図1は、本実施形態の診断装置が適用された内燃機関を示す。内燃機関(エンジンともいう)1は、車両(図示せず)に搭載された多気筒エンジンである。本実施形態において、車両はトラック等の大型車両であり、これに搭載される車両動力源としてのエンジン1は直列4気筒ディーゼルエンジンである。しかしながら、車両および内燃機関の種類、形式、用途等に特に限定はなく、例えば車両は乗用車等の小型車両であってもよいし、エンジン1はガソリンエンジンであってもよい。
エンジン1は、エンジン本体2と、エンジン本体2に接続された吸気通路3および排気通路4と、ターボチャージャ14と、燃料噴射装置5とを備える。エンジン本体2は、シリンダヘッド、シリンダブロック、クランクケース等の構造部品と、その内部に収容されたピストン、クランクシャフト、バルブ等の可動部品とを含む。
燃料噴射装置5は、コモンレール式燃料噴射装置からなり、各気筒に設けられた燃料噴射弁すなわちインジェクタ7と、インジェクタ7に接続されたコモンレール8とを備える。インジェクタ7は、シリンダ9内すなわち燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内インジェクタである。コモンレール8は、インジェクタ7から噴射される燃料を高圧状態で貯留する。
吸気通路3は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された吸気マニホールド10と、吸気マニホールド10の上流端に接続された吸気管11とにより主に画成される。吸気マニホールド10は、吸気管11から送られてきた吸気を各気筒の吸気ポートに分配供給する。吸気管11には、上流側から順に、エアクリーナ12、エアフローメータ13、ターボチャージャ14のコンプレッサ14C、インタークーラ15、および電子制御式の吸気スロットルバルブ16が設けられる。エアフローメータ13は、エンジン1の単位時間当たりの吸入空気量すなわち吸気流量を検出するためのセンサであり、マスエアフロー(MAF)センサ等とも称される。
排気通路4は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された排気マニホールド20と、排気マニホールド20の下流側に接続された排気管21とにより主に画成される。排気マニホールド20は、各気筒の排気ポートから送られてきた排気ガスを集合させる。排気管21、もしくは排気マニホールド20と排気管21の間には、ターボチャージャ14のタービン14Tが設けられる。タービン14Tより下流側の排気通路4には、上流側から順に、酸化触媒22、フィルタ23、選択還元型NOx触媒(SCR)24およびアンモニア酸化触媒26が設けられる。これらは排気後処理を実行する後処理部材をなす。フィルタ23とNOx触媒24の間の排気通路4には、還元剤としての尿素水を排気通路4内に噴射する還元剤噴射弁としての尿素インジェクタ25が設けられる。
酸化触媒22は、排気中の未燃成分(炭化水素HCおよび一酸化炭素CO)を酸化して浄化すると共に、このときの反応熱で排気ガスを加熱昇温する。フィルタ23は、所謂連続再生式ディーゼルパティキュレートフィルタであり、排気中に含まれる粒子状物質(PMとも称す)を捕集すると共に、その捕集したPMを貴金属と反応させて連続的に燃焼除去する。フィルタ23には、ハニカム構造の基材の両端開口を互い違いに市松状に閉塞した所謂ウォールフロータイプのものが用いられる。
NOx触媒24は、尿素インジェクタ25から噴射された尿素水を加水分解して得られるアンモニアを、排気中のNOxと反応させて、NOxを還元浄化する。NOx触媒24は、ゼオライト又はアルミナなどの基材表面にPtなどの貴金属を担持したものや、その基材表面にCu等の遷移金属をイオン交換して担持させたもの、その基材表面にチタニヤ/バナジウム触媒(V2O5/WO3/TiO2)を担持させたもの等が例示できる。アンモニア酸化触媒26は、NOx触媒24から排出された余剰アンモニアを酸化して浄化する。
エンジン1はEGR装置30をも備える。EGR装置30は、排気通路4内(特に排気マニホールド20内)の排気ガスの一部(EGRガスという)を吸気通路3内(特に吸気マニホールド10内)に還流させるためのEGR通路31と、EGR通路31を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラ32と、EGRガスの流量を調節するためのEGR弁33とを備える。EGR装置30は外部EGRを実行するためのものである。
また、本実施形態は、それぞれ排気通路4に設けられた電子制御式の排気スロットルバルブ37と、排気インジェクタ38とを備える。本実施形態において、これらはタービン14Tと酸化触媒22の間の排気通路4に設けられ、排気スロットルバルブ37より下流側に排気インジェクタ38が配置される。但しこれらの設置位置は変更可能である。排気スロットルバルブ37は排気流量を調節するためのバルブである。排気インジェクタ38は、主にフィルタ23の再生時に排気通路4内に燃料を噴射するためのインジェクタである。
このエンジン1を制御するための制御装置が車両に搭載されている。制御装置は、制御ユニットもしくはコントローラをなす電子制御ユニット(ECUと称す)100を有する。ECU100はCPU、ROM、RAM、入出力ポートおよび記憶装置等を含む。ECU100は、筒内インジェクタ7、吸気スロットルバルブ16、尿素インジェクタ25、EGR弁33、排気スロットルバルブ37および排気インジェクタ38を制御するように構成され、プログラムされている。なお特に断らない限り、吸気スロットルバルブ16および排気スロットルバルブ37は全開に制御されているものとする。
制御装置は、以下のセンサ類も有する。このセンサ類に関して、上述のエアフローメータ13の他、エンジンの回転速度、具体的には毎分当たりの回転数(rpm)を検出するための回転速度センサ40と、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ41とが設けられる。また、酸化触媒22、フィルタ23およびNOx触媒24の上流側入口部には排気温度を検出するための排気温センサ42,43,44が設けられている。また、NOx触媒24の下流側出口部には排気温度を検出するための排気温センサ46が設けられている。また、フィルタ23の入口部および出口部の排気圧の差圧を検出するための差圧センサ45が設けられている。
また、NOx触媒24の上流側入口部と下流側出口部には、それぞれ、排気中のNOxを検出するための上流側NOxセンサ47および下流側NOxセンサ48が設けられている。これらNOxセンサ47,48は、排気ガスのNOx濃度に相関した出力を発する。但しNOxセンサ47,48はアンモニアも検出可能である。上流側NOxセンサ47は尿素インジェクタ25よりも上流側に設けられている。以上のセンサ類の出力信号はECU100に送られる。
次に、ECU100により実行される制御の内容について説明する。
まず、尿素インジェクタ25から噴射される尿素水噴射量の制御の概要を説明する。尿素水噴射量Mは、概して後述する第1噴射量MAと第2噴射量MBと第3噴射量MCの和として表され、式:M=MA+MB+MCで表される。そしてECU100は、尿素水噴射量Mを算出すると共に、算出された尿素水噴射量Mに等しい量の尿素水を尿素インジェクタ25から噴射させる。
第一に、NOx触媒24に流入するNOx量(流入NOx量)に見合った第1噴射量MAが算出される。流入NOx量は、上流側NOxセンサ47により検出されたNOx濃度と排気ガス流量の積で表される。排気ガス流量は、エアフローメータ13により検出された吸入空気量の値に基づいて算出される。流入NOx量と第1噴射量MAとの間の予め定められた関係、具体的にはマップ(関数でもよい。以下同様)が、ECU100に記憶され、ECU100はこのマップを参照して流入NOx量に対応した第1噴射量MAを算出する。ここでは、流入NOxを還元浄化するのに必要な最小限の噴射量、言い換えれば流入NOx量に対し当量比が1となるような噴射量が第1噴射量MAとして算出される。
なお、上流側NOxセンサ47は排気通路4のより上流側の位置に設けられてもよい。また流入NOx量は、エンジン運転状態(例えばエンジン回転数と筒内インジェクタ7の燃料噴射量)に基づいてECU100により推定してもよい。また排気ガス流量は、排気通路4に設けられた流量センサにより直接検出してもよい。
第二に、NOx触媒24のアンモニア吸着量を目標吸着量に近づけるための第2噴射量MBが算出される。すなわち、NOx触媒24はアンモニア吸着能を有し、多くのアンモニアを吸着する程、高いNOx浄化性能を発揮する。このため、NOx触媒24のアンモニア吸着量が推定されると共に、この推定吸着量と目標吸着量の差分に基づき、還元剤噴射量が制御される。アンモニア吸着量を推定する理由は、それを実測するのが困難だからである。
図2には、NOx触媒24のアンモニア吸着特性を示す。線aは、実験等を通じて把握されるアンモニア吸着量の上限値もしくは吸着限界を示し、この上限値は、NOx触媒24の触媒温度が高くなる程、低くなる傾向がある。なお、実際のアンモニア吸着量が上限値のときにアンモニアが供給されると、そのアンモニアはNOx触媒24に吸着できないので、NOx触媒24の下流側に流出し、アンモニアスリップを生じさせる。
線aより所定のマージンだけ低吸着量側の目標値が線bの如く定められ、この線bがマップの形でECU100に記憶されている。
ECU100は、排気温センサ44,46の少なくとも一方の検出値に基づきNOx触媒24の触媒温度を推定する。例えば、いずれか一方の検出値を触媒温度とみなしてもよいし、両方の検出値の平均値を触媒温度とみなしてもよい。そして推定した触媒温度(図2のTc1)に対応したアンモニア吸着量の目標値Wt(図2のc点の値)をマップから算出する。なお触媒温度は直接検出してもよい。推定および検出を総称して取得という。
この目標吸着量Wtと推定吸着量Weの差分ΔWが式:ΔW=Wt−Weにより求められ、この差分ΔWに応じた第2噴射量MBが算出される。差分ΔWが大きい程、大きな第2噴射量MBが算出される。
例えば図2のd点のように、推定吸着量Weが目標吸着量Wtよりも少ない場合、差分ΔWが正であるため、噴射量増大側の正の第2噴射量MBが算出され、この第2噴射量MBが噴射されることにより、推定吸着量Weが増大し、目標吸着量Wtに徐々に近づいていく。他方、例えば図2のe点のように、推定吸着量Weが目標吸着量Wtよりも多い場合、差分ΔWが負であるため、ゼロまたは負の第2噴射量MBが算出される。これにより、NOx触媒24に吸着したアンモニアがNOxの還元に消費され、推定吸着量Weが減少し、目標吸着量Wtに徐々に近づいていく。
アンモニア吸着量の推定方法については、公知方法を含め、様々な方法が採用可能である。本実施形態では、NOx触媒24におけるアンモニアとNOxの反応を表す化学反応式に基づいて数学モデルを構築し、当該モデルに基づいてアンモニア吸着量をECU100により精度良く推定するようになっている。この際、ECU100は、尿素水噴射量M、NOx触媒24の触媒温度、排気ガス流量、上下流側NOxセンサ47,48の検出値、エンジン運転状態を表すエンジンパラメータ(エンジン回転数、燃料噴射量等)等のパラメータに基づいて、アンモニア吸着量を推定する。
第三に、NOx触媒24から流出したNOx量(流出NOx量)に見合った第3噴射量MCが算出される。具体的には、下流側NOxセンサ48の出力(センサ出力)Vが所定の上限値Vup以下のときには、流出NOx量が許容範囲内であるとして、ゼロの第3噴射量MCが算出される。他方、センサ出力Vが上限値Vupを超えたときには、流出NOx量が許容範囲外であるため、尿素水噴射量を増やして流出NOx量を抑制すべく、正の第3噴射量MCが算出される。
このとき、センサ出力Vと上限値Vupの差分ΔV(=V−Vup)が算出され、この差分ΔVに応じた第3噴射量MCが算出される。こうして尿素水噴射量Mは、センサ出力Vに基づきフィードバック制御あるいはフィードバック補正されることとなる。
ここで本実施形態では、第3噴射量MCは補正係数K(≧1)によって表される。つまり前式M=MA+MB+MCは本実施形態の場合、M=K×MA+MB(=MA+MB+(K−1)×MA)で表され、MC=(K−1)×MAとされる。図3に示すようなマップがECU100に記憶され、差分ΔVがゼロから大きくなる程、1より大きな補正係数Kが算出される。また差分ΔVがリミット値ΔV1(>0)以上になったとき、補正係数Kはその上昇が抑制されてリミット値K1(>1)に制限される。差分ΔVがゼロ以下のとき補正係数Kは1である。
センサ出力Vが上限値Vupを超えたとき、差分ΔVに応じた補正係数K(>1)が算出され、ベース噴射量である第1噴射量MAが補正係数Kによって増量補正され、その結果、尿素水噴射量Mが増量補正される。
なお、ここでは単純なフィードバック制御の例を示したが、フィードバック制御は周知のPID制御等の手法を用いたより複雑なものであってもよい。また差分ΔVに応じて第1噴射量MAと無関係な加算項である第3噴射量MCを算出し、式M=MA+MB+MCにより尿素水噴射量Mを算出してもよい。
ところで、下流側NOxセンサ48は、NOxだけでなく、アンモニアも検出可能であり、両者を区別して検出できない。このため、尿素水噴射量に対するNOx触媒下流側の流出NOx量と、下流側NOxセンサ48のセンサ出力と、NOx触媒下流側に流出したアンモニア量(流出アンモニア量)との関係は、図4に示すようになる。
図の左端付近のように、尿素水噴射量が比較的少なく流入NOx量に対して不足する場合、NOx触媒24が流入NOxを全て還元できないため、NOx触媒下流側にNOxが流出するNOxスリップが起こる。そして流出NOx量は多くなり、NOxセンサ出力も大きくなる。そして尿素水噴射量が増加するにつれ、尿素水噴射量が流入NOx量に対して徐々に見合うようになって行くため、流出NOx量が徐々に減少し、NOxセンサ出力も徐々に減少する。
しかし、更に尿素水噴射量を増加すると、尿素水噴射量が流入NOx量に対して過剰となり、NOx触媒24から余剰のアンモニアが流出するアンモニアスリップが起こる。尿素水噴射量を増加するにつれ、流出アンモニア量も増加する。NOxセンサ48はこのアンモニアを検出するため、尿素水噴射量を増加するにつれ、NOxセンサ出力は徐々に増加していくこととなる。
NOxスリップとアンモニアスリップがバランスするバランス点、すなわち、流出NOx量と流出アンモニア量の両者をできるだけ最小化できる尿素水噴射量の値を図中Mhで示す。Mhより小噴射量側をNOxスリップ領域、Mhより大噴射量側をアンモニアスリップ領域とする。
NOxセンサ出力は、バランス点で極小値となる曲線を描く。よって、NOxセンサ出力のみによっては、NOxセンサ出力がNOxスリップ領域にあるのか(NOxスリップが起こっているのか)、アンモニアスリップ領域にあるのか(アンモニアスリップが起こっているのか)を判別することができない。このため、尿素水噴射量を強制的に増加または減少し、それに応じてNOxセンサ出力が大小どちら側に変化するかを検出し、その結果に基づいて、NOxセンサ出力がいずれの領域にあるかを判別している。
例えば、尿素水噴射量を増量したときにNOxセンサ出力が減少した場合はNOxスリップ領域にある(NOxスリップが起こっている)と判定し、尿素水噴射量を増量したときにNOxセンサ出力が増加した場合はアンモニアスリップ領域にある(アンモニアスリップが起こっている)と判定する。
さて、本実施形態においては、排気通路4に設けられた触媒の浄化率に基づき診断が実行される。本実施形態では触媒としてNOx触媒24が用いられ、NOx触媒24の浄化対象の特定成分であるNOxの浄化率Rに基づき、浄化率Rが正常か異常かを判定する診断が実行される。診断の実行主体はECU100である。
例えば尿素インジェクタ25、触媒、センサ類等のハードウェア部品の故障や劣化、あるいは各推定値の推定誤差拡大、あるいはソフトウェア上のトラブル等が発生すると、適正な尿素水噴射制御が実行できなくなり、NOx浄化率Rが低下することがある。NOx浄化率Rが低下すれば当然にNOxスリップ量が増加するため、排気エミッション上好ましくない。従って本実施形態ではそのNOx浄化率Rの低下を検出して浄化率異常と診断する。なお実質的な異常原因は必ずしもNOx触媒24でないため、浄化率異常との診断はあくまで形式的なものである。
本実施形態では、当該診断に関して二つの実施例がある。そこでまず第1実施例について説明し、次いで第2実施例について説明する。
[第1実施例]
図5に示すように、第1実施例では、NOx触媒24の浄化率Rに基づき、浄化率Rが正常か異常かを判定する第1診断D1を実行する第1診断部と、浄化率Rに基づき、浄化率Rが正常か異常かを判定する第2診断D2を実行する第2診断部と、第1診断D1および第2診断D2の結果に基づいて、浄化率Rが正常か異常かを判定する総合診断Dtを実行する総合診断部とが備えられる。これら第1診断部、第2診断部および総合診断部はECU100により形成される。
ECU100は、NOx触媒24におけるNOxの流入量、すなわち流入NOx量Ninが所定の第1量Th1になったときに第1診断D1の結果を確定する。またECU100は、複数のサブ診断S2−1〜S2−5を実行すると共に、NOx触媒24における流入NOx量Ninが、第1量Th1より少ない所定の第2量Th2になる度にサブ診断S2−1〜S2−5の結果を確定する。そして全てのサブ診断の結果に基づいて第2診断D2の結果を確定する。
浄化率Rは次の方法でECU100により計算される。単位時間、具体的には演算周期τ(例えば10msec)当たりの流入NOx量dNinが、上流側NOxセンサ47により検出されたNOx濃度と排気ガス流量の積として計算される。また、演算周期τ当たりにNOx触媒24から流出するNOx量である演算周期τ当たりの流出NOx量dNoutが、下流側NOxセンサ48により検出されたNOx濃度と排気ガス流量の積として計算される。dNinおよびdNoutが演算周期τ毎に積算され、積算値ΣdNinおよびΣdNoutが求められる。そして式:R=1−ΣdNout/ΣdNinにより浄化率Rが計算される。積算値ΣdNinが前述の流入NOx量Ninに相当する(ΣdNin=Nin)。またこれに類似して積算値ΣdNoutを流出NOx量Noutともいう(ΣdNout=Nout)。
図6に示すように、本実施例では、検出、推定または計算される少なくとも一つのパラメータに基づき、第1診断領域A1と、第2診断領域A2とが予め規定されている。図示例は、二つのパラメータP1,P2により各診断領域A1,A2を規定した例であり、これはマップの形でECU100に記憶されている。
そして実際のパラメータP1,P2が第1診断領域A1内にあるときのみ第1診断D1が実行され、実際のパラメータP1,P2が第1診断領域A1内にないときは第1診断D1が停止もしくは中断される。
第2診断D2についても同様である。実際のパラメータP1,P2が第2診断領域A2内にあるときのみ第2診断D2が実行され、実際のパラメータP1,P2が第2診断領域A2内にないときは第2診断D2が停止もしくは中断される。
各診断領域A1,A2は、正常と異常を区別し易く診断を行うのに適したパラメータの数値範囲として規定されている。よって各診断領域A1,A2内にあるときに限定して各診断D1,D2を行うことにより、診断の信頼性を高められる。
パラメータの種類や数は任意であるが、例えば、NOx触媒24に流入する排気ガスの排気温度(排気温センサ44により検出)をメインのパラメータとし、排気ガス流量、尿素水噴射量M、外気温度の少なくとも一つをサブのパラメータとして使用することが可能である。
本実施例では、第1診断領域A1と第2診断領域A2が同一であり、完全に重なっている。従って第1診断D1と第2診断D2は同時に実行される。
また本実施例では、第2診断D2においてN回のサブ診断が実行され、第2量Th2は第1量Th1をN等分した量とされる。Nは2以上の整数である。
本実施例の場合、N=5とされ、5回のサブ診断S2−1〜S2−5が実行される。また第1量Th1は5(g)とされ、第2量Th2は5/5=1(g)とされる。但しこれらの数値はあくまで一例であり、他の数値に変更可能である。
従って、第1診断D1と第2診断D2は、同一の開始時期t0から開始し、同一の終了時期t5に終了する。よって第1診断D1と第2診断D2は互いに同期して実行されることとなる。
図5に示す例において、第1診断D1は時刻t0で開始される。そして診断実行中、演算周期τ当たりの流入NOx量dNinと流出NOx量dNoutが順次積算され、演算周期τ毎に積算値ΣdNinおよびΣdNoutが更新される。図示例では、時刻t5において積算値すなわちトータルの流入NOx量ΣdNinが第1量Th1に達している。よってこの時点で積算は終了され、最終の積算値ΣdNin,ΣdNoutに基づいて浄化率Rが計算される。
浄化率Rが所定の判定閾値Rthと比較され、浄化率Rが判定閾値Rthより大きければ(R>Rth)浄化率Rは正常、浄化率Rが判定閾値Rth以下であれば(R≦Rth)浄化率Rは異常と判定される。この判定は積算値ΣdNinが第1量Th1に達したのと実質的に同時に行われるので、時刻t5で第1診断D1の結果が確定することとなる。
なお、この例では時刻t0から時刻t5までの間に実際のパラメータP1,P2が第1診断領域A1(従って第2診断領域A2)から外れることなく、常に第1診断領域A1内にある。よって診断は途中で停止されず、あるいは中断されない。
他方、図5に示す例において、第2診断D2も時刻t0で開始される。このときまず1回目のサブ診断S2−1が開始され、サブ診断実行中、演算周期τ当たりの流入NOx量dNinと流出NOx量dNoutが順次積算され、演算周期τ毎に積算値ΣdNinおよびΣdNoutが更新される。図示例では、時刻t1において積算値すなわちトータルの流入NOx量ΣdNinが第2量Th2に達している。よってこの時点で積算は一旦終了され、最終の積算値ΣdNin,ΣdNoutに基づいて浄化率Rが計算される。
浄化率Rが判定閾値Rthと比較され、浄化率Rが判定閾値Rthより大きければ(R>Rth)浄化率Rは正常、浄化率Rが判定閾値Rth以下であれば(R≦Rth)浄化率Rは異常と判定される。この判定は積算値ΣdNinが第2量Th2に達したのと実質的に同時に行われるので、時刻t1で1回目のサブ診断S2−1の結果が確定することとなる。
続いて時刻t1で2回目のサブ診断S2−2が開始される。その方法は1回目と同様であり、積算値ΣdNin,ΣdNoutをゼロにリセットした後に積算が開始される。
時刻t2で積算値ΣdNinが第2量Th2に達し、2回目のサブ診断S2−2の浄化率Rが算出されたならば、その浄化率Rが判定閾値Rthと比較され、浄化率Rが正常か異常かが判定される。こうして時刻t2で2回目のサブ診断S2−2の結果が確定する。
以下同様に、時刻t2で3回目のサブ診断S2−3が開始され、時刻t3で3回目のサブ診断S2−3の結果が確定して3回目のサブ診断S2−3が終了される。続いて時刻t3で4回目のサブ診断S2−4が開始され、時刻t4で4回目のサブ診断S2−4の結果が確定して4回目のサブ診断S2−4が終了される。続いて時刻t4で5回目のサブ診断S2−5が開始され、時刻t5で5回目のサブ診断S2−5の結果が確定して5回目のサブ診断S2−5が終了される。
こうして、5回のサブ診断の五つの診断結果が得られる。次いで第2診断D2では、その五つの診断結果に基づき、第2診断D2自体の診断結果が確定される。この確定方法ないし確定ルールは任意である。例えば、次のいずれかの方法を採用することが可能である。
(1)サブ診断の五つの診断結果が全て正常の場合のみ、第2診断D2の診断結果を正常とし、それ以外は異常とする。
(2)サブ診断の五つの診断結果が全て異常の場合のみ、第2診断D2の診断結果を異常とし、それ以外は正常とする。
(3)サブ診断の五つの診断結果のうち、正常と異常とで多い方を、第2診断D2の診断結果とする。
5回目のサブ診断S2−5の結果が確定したのと実質的に同時に、第2診断D2の診断結果が確定するので、第2診断D2の診断結果は時刻t5で確定することとなる。
次に、第1診断D1の結果と第2診断D2の結果とに基づいて、総合診断Dtが実行される。本実施例では、第1診断D1の結果と第2診断D2の結果とが合致した場合のみ、その結果と同じ結果を総合診断Dtの結果とし、第1診断D1の結果と第2診断D2の結果とが合致しない場合には総合診断Dtの結果を保留とする。
すなわち、第1診断D1の結果が正常で第2診断D2の結果が正常の場合、総合診断Dtの結果を正常とする。また逆に第1診断D1の結果が異常で第2診断D2の結果が異常の場合、総合診断Dtの結果を異常とする。第1診断D1の結果が正常で第2診断D2の結果が異常の場合、または、第1診断D1の結果が異常で第2診断D2の結果が正常の場合、総合診断Dtの結果を保留とし、正常とも異常とも判定しない。
なお、総合診断Dtの結果が異常の場合、図示しない警告装置(チェックランプ等)を起動させ、ユーザーに点検整備を促すのが好ましい。これにより、排ガス性能が悪化した状態での車両の走行を抑制することができる。
以上述べたように、本実施例によれば、第1診断D1および第2診断D2という二種類の診断の結果に基づいて総合診断Dtを実行するので、診断の信頼性を高められる。
また本実施例によれば、第1診断D1より短時間で実行されるサブ診断の複数の結果に基づいて第2診断D2の結果を確定するので、例えばエンジン運転状態の急変等により、浄化率が一時的に急変したときなどの影響を回避でき、ロバスト性を高められる。
すなわち、図7に示すように、エンジン運転状態の急変等により、本来正常な演算周期τ当たりの浄化率dR(dR=1−dNout/dNin、浄化率の瞬時値ともいえる)が、一時的に大きく急減することがある。そしてこの急減期間を含む時刻t0から時刻t5までの間で第1診断D1が実行された結果、浄化率急減の影響を受けて、第1診断D1の結果が異常(NG)となることがある。すなわち、時刻t5の時点で算出された浄化率Rの値が、判定閾値Rth以下となり、浄化率Rが異常と判定されることがある。
しかし、第2診断D2の結果を加えると必ずしもそうならない。例えば図示するように、第2診断D2において、1回目から3回目までのサブ診断(S2−1、S2−2、S2−3)の結果は、浄化率急減の影響を受けて異常(NG)となるが、4回目と5回目のサブ診断(S2−4、S2−5)の結果は、浄化率が回復した後の結果であるため、正常(OK)となる。第2診断D2の結果確定方法として上記(2)の方法を採用した場合、第2診断D2の結果は正常(OK)となる。
すると、総合診断Dtの結果は正常(OK)となり、正しい結果が得られる。よって本来正常と判定すべきところを誤って異常と誤判定することを防止できる。
このように、エンジン運転状態の急変等により浄化率が一時的に低下したときに誤って異常と診断することを回避でき、ロバスト性を高められる。
また本実施例では、第1診断領域A1内で第1診断D1が実行され、第2診断領域A2内で第2診断D2が実行され、第1診断領域A1と第2診断領域A2が同一とされる。よって同一領域ながら、第1診断D1と異なるタイミングでサブ診断の結果を得られ、ロバスト性を高められる。
また本実施例では、サブ診断がN回実行され、第2量Th2が第1量Th1をN等分した量とされる(但しNは2以上の整数)。よって第1診断D1と第2診断D2を同期して実行でき、最小の診断時間で最大の結果を得ることができる。
ところで、判定閾値Rthは、第1診断D1と第2診断D2とで共通に設定されてもよいが、第1診断D1と第2診断D2とで個別に設定されるのがより好ましい。第1診断D1では、長時間の浄化率Rに基づいて診断がなされる一方、第2診断D2では、短時間のサブ診断の浄化率Rに基づいて診断がなされ、第1診断D1の最大浄化率とサブ診断の最大浄化率との値が異なることがあるからである。従って、第1診断D1用の判定閾値Rthと第2診断D2用の判定閾値Rthとは異なる値であってもよい。また診断時間の長短に応じて判定閾値Rthの値を異ならせてもよい。
なお、詳しくは後述するが、同様の考え方で、第1診断領域A1と第2診断領域A2とが異なる場合にも、判定閾値Rthを第1診断D1と第2診断D2とで個別に設定するのが好ましい。
[第2実施例]
次に、第2実施例を説明する。なお第1実施例と同様の部分については基本的に説明を割愛し、以下相違点を中心に説明する。
本実施例も第1実施例と同様、第1診断部と第2診断部と総合診断部とを備え、これらはECU100により形成される。
図8に示すように、本実施例でも、二つのパラメータP1,P2により、第1診断D1が実行される第1診断領域A1と、第2診断D2が実行される第2診断領域A2とが規定されている。但し本実施例では、第1診断領域A1と第2診断領域A2が同一でなく、異なっている。従って第1診断D1と第2診断D2は、異なるタイミングで、すなわち非同期で実行することが可能である。
より詳細には、第1診断領域A1と第2診断領域A2が重なるパラメータ領域では、第1診断D1と第2診断D2が同時に実行される。しかし、第1診断領域A1と第2診断領域A2が重ならず、かつ一方の領域にしか属しないパラメータ領域では、その一方の領域に対応した一方の診断のみが実行される。
図9に示すように、ECU100は、第1診断D1および第2診断D2の少なくとも一方の最新結果が出る度に、第1診断D1および第2診断D2の両方の最新結果に基づいて総合診断Dtを実行する。ここで第2診断D2は、第1実施例と異なり、複数のサブ診断からなるものではなく、それ自体単独である。
ECU100は、NOx触媒24の流入NOx量Ninが所定の第1量Th1になったときに第1診断D1の結果を確定する。またECU100は、NOx触媒24の流入NOx量Ninが所定の第2量Th2になったときに第2診断D2の結果を確定する。
第1量Th1と第2量Th2は任意に定めることができ、互いに等しくてもよいし、異なっていてもよい。本実施例では第1実施例と同様、第2量Th2を第1量Th1より少ない量とする。例えば第1量Th1を5(g)、第2量Th2を1(g)とする。
第1診断D1の結果確定方法は第1実施例と同じである。すなわち、積算値ΣdNinが第1量Th1になったら、そのときの積算値ΣdNin,ΣdNoutに基づき、式:R=1−ΣdNout/ΣdNinから浄化率Rが求められ、浄化率Rと判定閾値Rthの比較により正常・異常が判定される。
また本実施例の場合、第2診断D2の結果確定方法は第1診断D1の結果確定方法と同じである。すなわち、流入NOx量の積算値ΣdNinが第2量Th2になったら、そのときの積算値ΣdNin,ΣdNoutに基づき、式:R=1−ΣdNout/ΣdNinから浄化率Rが求められ、浄化率Rと判定閾値Rthの比較により正常・異常が判定される。
図9に示す例において、第1診断D1および第2診断D2の開始後、時刻t1で、1回目の第2診断D2−1の結果が得られている。その後、時刻t2で、1回目の第1診断D1−1の結果が得られている。この時点で、1回目の第2診断D2−1の結果と、1回目の第1診断D1−1の結果とに基づき、1回目の総合診断Dt−1が実行される。総合診断Dtの方法は第1実施例と同様であり、第1診断D1と第2診断D2の両方の結果が正常なら正常、異常なら異常、互いに異なっていれば保留とするものである。
なお、第1診断D1および第2診断D2の積算値ΣdNin,ΣdNoutは、診断結果が出る度にゼロにリセットされ、正常という前提の下で再計算される。
図示例では、第1診断D1の中断期間X1が示されており、この期間は、実際のパラメータP1,P2が第1診断領域A1から外れたために第1診断D1が中断された期間である。この期間内では積算値ΣdNin,ΣdNoutの積算が停止され、積算値ΣdNin,ΣdNoutは中断開始時の値に保持される。中断期間X1が終了すると、保持された値から積算が再開される。この中断期間X1でも、実際のパラメータP1,P2は第2診断領域A2からは外れていないため、第2診断D2は中断されない。
同様に、第2診断D2の中断期間X2も示されている。この中断期間X2でも、実際のパラメータP1,P2は第1診断領域A1からは外れていないため、第1診断D1は中断されない。
次に、時刻t3で、2回目の第2診断D2−2の結果が得られている。よってこの時点で、2回目の第2診断D2−2の結果と、1回目の第1診断D1−1の結果とに基づき、2回目の総合診断Dt−2が実行される。
その後、時刻t4で、2回目の第1診断D1−2の結果が得られている。よってこの時点で、2回目の第1診断D1−2の結果と、2回目の第2診断D2−2の結果とに基づき、3回目の総合診断Dt−3が実行される。
以下同様に、3回目の第2診断D2−3の結果が得られた時点t5で、3回目の第2診断D2−3の結果と、2回目の第1診断D1−2の結果とに基づき、4回目の総合診断Dt−4が実行される。
3回目の第1診断D1−3の結果が得られた時点t6で、3回目の第1診断D1−3の結果と、3回目の第2診断D2−3の結果とに基づき、5回目の総合診断Dt−5が実行される。
4回目の第2診断D2−4の結果が得られた時点t7で、4回目の第2診断D2−4の結果と、3回目の第1診断D1−3の結果とに基づき、6回目の総合診断Dt−6が実行される。
その後の時刻t8では、4回目の第1診断D1−4の結果と、5回目の第2診断D2−5の結果とが同時に得られている。この時点t8では、4回目の第1診断D1−4の結果と、5回目の第2診断D2−5の結果とに基づき、7回目の総合診断Dt−7が実行される。
このように本実施例では、第1診断D1および第2診断D2の少なくとも一方の最新結果が出る度に、第1診断D1および第2診断D2の両方の最新結果に基づいて総合診断Dtが実行される。言い換えれば、第1診断D1および第2診断D2の少なくとも一方の最新結果が出る度に、総合診断Dtの最新結果が得られる。
第1診断D1および第2診断D2という二種類の診断の結果に基づいて総合診断Dtを実行するので、診断の信頼性を高められる。
また、異なる診断領域で第1診断D1および第2診断D2を非同期で実行できると共に、第1診断D1および第2診断D2の少なくとも一方の最新結果が出る度に両方の最新結果に基づいて総合診断Dtを実行する。よって、異なるタイミングで実行された第1診断D1および第2診断D2の両方の最新結果に基づいて総合診断Dtを実行でき、診断の信頼性を高められる。
また本実施例では、第2量Th2を第1量Th1より少ない量としたので、第1診断D1および第2診断D2のタイミングをさらに異ならせることができ、診断の信頼性を高められる。
ところで、判定閾値Rthは、第1診断D1と第2診断D2とで共通に設定されてもよいが、第1診断D1と第2診断D2とで個別に設定されるのがより好ましい。第1診断D1では、第1診断領域A1での浄化率Rに基づいて診断がなされる一方、第2診断D2では、異なる第2診断領域A2での浄化率Rに基づいて診断がなされ、第1診断D1の最大浄化率と第2診断D2の最大浄化率とでその値が異なることがあるからである。従って、第1診断D1用の判定閾値Rthと第2診断D2用の判定閾値Rthとは異なる値であってもよい。また診断領域の違いに応じて判定閾値Rthの値を異ならせてもよい。
結局、判定閾値Rthの値は、診断領域の違いと診断時間の長短との少なくとも一方に応じて異ならせることが可能である。本実施例の第1診断D1と第2診断D2は、診断領域だけでなく、診断時間も異なっている(すなわち第1量Th1と第2量Th2が異なっている)。よって本実施例では、診断領域の違いと診断時間の長短との両方に応じて、判定閾値Rthの値を異ならせることが可能である。
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明は他にも様々な実施形態が可能である。
(1)例えば上記第2実施例では、第1診断D1と第2診断D2の結果が異なっていたら単に総合診断Dtの結果を保留とした。しかしながら、こうした保留が複数回連続した場合に総合診断Dtの結果を異常としてもよい。
(2)また第2実施例において、第2診断D2を第1実施例のそれに類似するよう変形することも可能である。すなわち、第2診断D2を複数のサブ診断から構成し、これらサブ診断の結果から第2診断D2の結果を確定してもよい。
(3)前記実施形態では触媒をNOx触媒24とし、その浄化対象の特定成分をNOx、浄化率をNOx浄化率とした。しかしながら、触媒は変更可能であり、例えば酸化触媒22またはアンモニア酸化触媒26とすることもできる。前者に対する特定成分はCOまたはHC、後者に対する特定成分はアンモニアである。またフィルタ23も触媒を担持しているので触媒とみなすことができ、この場合の特定成分は粒子状物質(PM)である。このほか、触媒は三元触媒であってもよく、この場合の特定成分はCO、HC、NOxのいずれかである。触媒は吸蔵還元型NOx触媒であってもよい。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。