<第1実施形態>
以下、本発明にかかる制御装置を、車載空調装置を構成するブロワ用モータに適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、車載モータ制御システムは、モータ10、電力変換器としての3相インバータ20、及び制御装置30を備えている。モータ10は、インバータ20を介して、直流電源としてのバッテリ40に電気的に接続されている。
インバータ20は、上アームスイッチSUp,SVp,SWp及び下アームスイッチSUn,SVn,SWnの直列接続体を3つ備えている。U相上,下アームスイッチSUp,SUnの接続点は、モータ10のステータ12(固定子)を構成するU相ステータ巻線12Uの第1端に接続されている。V相上,下アームスイッチSVp,SVnの接続点は、V相ステータ巻線12Vの第1端に接続され、W相上,下アームスイッチSWp,SWnの接続点は、W相ステータ巻線12Wの第1端に接続されている。各ステータ巻線12U,12V,12Wの第2端同士は、中性点Nで接続されることによりスター結線されている。各スイッチSUp,SVp,SWp,SUn,SVn,SWnには、各フリーホイールダイオードDUp,DVp,DWp,DUn,DVn,DWnが逆並列に接続されている。ちなみに、各スイッチとしては、例えば電圧制御形の半導体スイッチング素子を用いることができ、具体的には例えば、IGBT又はMOSFETを用いることができる。
なお本実施形態では、モータ10として、集中巻の永久磁石同期機を用いている。特に本実施形態では、モータ10として、図2に示すように、アウタロータ型のモータを用いている。ここで図2は、モータ10の軸方向、すなわちロータ14の回転軸方向と直交する面でモータ10を切断した横断面図を示している。なお、図2に示す中心点Oは、回転軸が通る点である。また、図2において、断面を表示するハッチングは省略している。
図2に示すように、モータ10は、1つのステータ12と、ステータ12に対して回転可能に配置された円環状のロータ14を備えている。ロータ14は、ロータ14及びステータ12の径方向において、ステータ12の外側にステータ12に対してギャップを有して配置されている。ロータ14は、複数の永久磁石14aと、これら永久磁石14aを連結する軟磁性体からなるバックヨーク14bとを備えている。本実施形態において、ロータ14は、10個の永久磁石14aを備えている。これら永久磁石14aのそれぞれは、互いに同一形状をなしており、1つの磁極を構成している。永久磁石14aは、ロータ14の径方向に着磁され、かつ、周方向に隣り合う永久磁石14aの極性は、互いに異なる。つまり、S極とN極とが交互に出現するように永久磁石14aが配置されている。なお、図2において、永久磁石14aに記載されている矢印の矢の部分はN極を示している。
ステータ12は、複数のティース12aを備えており、具体的には12個のティース12aを備えている。これにより、ステータ12には、12個のスロット12bが形成されている。12個のティース12aは、スロット12bを介してステータ12の周方向に等ピッチで配列されている。すなわち、本実施形態では、極対数Pが「5」で、スロット数Sが「12」のモータ10を採用している。
図1の説明に戻り、制御装置30は、マイコンを主体として構成され、モータ10の制御量をその指令値に制御すべくインバータ20を操作する。本実施形態において、制御量はモータ10の回転角速度であり、指令値は指令角速度ωtgtである。
制御装置30は、インバータ20を構成する上,下アームスイッチSUp,SUn,SVp,SVn,SWp,SWnを操作すべく、上,下アーム操作信号gUp,gUn,gVp,gVn,gWp,gWnを生成して上,下アームスイッチSUp,SUn,SVp,SVn,SWp,SWnに対して出力する。ここで、上アーム操作信号と、対応する下アーム操作信号とは、互いに相補的な信号となっている。すなわち、上アームスイッチと、これに直列接続された下アームスイッチとは、交互にオンされる。ちなみに、指令角速度ωtgtは、例えば、車両において制御装置30の外部に設けられ、制御装置30よりも上位の外部装置から出力される。
制御装置30には、ロータ14の磁極位置を検出するための磁束検出部の検出信号が入力される。本実施形態において、磁束検出部は、磁気センサとしての第1,第2,第3ホール素子42a,42b,42cを含む。各ホール素子42a,42b,42cは、モータ10の機械角で60°ずつずれた位置に配置されている。また、各ホール素子42a,42b,42cは、永久磁石14aからの主磁束及び漏れ磁束のうち漏れ磁束を検出可能な位置に配置されている。なお本実施形態では、モータ10がケース内に収容されており、そのケース内において、ステータ12及びロータ14のそれぞれに基板面を対向させて配置された基板上に各ホール素子42a,42b,42cが実装されている。これにより、漏れ磁束の検出が可能とされている。
続いて、制御装置30によって実行されるモータ10の駆動制御について説明する。電気角演算器30aは、各ホール素子42a,42b,42cの検出信号に基づいて、モータ10の回転角を算出し、具体的には電気角θeを算出する。なお本実施形態において、電気角演算器30aが回転角算出部に相当する。
角速度算出部30bは、電気角演算器30aによって算出された電気角θeに基づいて、モータ10の回転角速度ωmを算出する。本実施形態において、回転角速度ωmは、機械角速度である。偏差算出部30cは、角速度算出部30bによって算出された回転角速度ωmを指令角速度ωtgtから減算することにより、速度偏差Δωを算出する。
基本波電圧設定部30dは、速度偏差Δω、電気角θe及び回転角速度ωmに基づいて、回転角速度ωmを指令角速度ωtgtにフィードバック制御するための操作量として、下式(eq1)にて表される3相固定座標系におけるU,V,W相基本波電圧VUB,VVB,VWBを設定する。本実施形態において、基本波電圧設定部30dは、速度偏差Δωに基づく比例積分制御によってU,V,W相基本波電圧VUB,VVB,VWBを算出する。より具体的には、上記比例積分制御により、電気角θe1周期に渡る各基本波電圧VUB,VVB,VWBを設定する。ここでは、各基本波電圧VUB,VVB,VWBの変動角速度の算出に、電気角速度ωeが用いられる。電気角速度ωeは、入力された回転角速度ωmに極対数Pを乗算した値として算出されればよい。基本波電圧設定部30dは、設定した各基本波電圧VUB,VVB,VWBを、入力された電気角θeに対応させて出力する。各基本波電圧VUB,VVB,VWBは、波形形状が互いに同一であってかつ、電気角θeで位相が互いに「2π/3」ずれた波形となっている。
高調波電圧設定部30eは、電気角θeと指令角速度ωtgtとに基づいて、3相固定座標系における第1U,V,W相高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1と、第2U,V,W相高調波電圧VUH2,VVH2,VWH2とを算出する。本実施形態において、高調波電圧設定部30eは、記憶部としてのメモリを備えている。メモリは、具体的には例えば不揮発性メモリである。各高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1,VUH2,VVH2,VWH2は、指令角速度ωtgt及び電気角θeと関係付けられてメモリに記憶されている。高調波電圧設定部30eについては、後に詳述する。
なお本実施形態において、基本波電圧設定部30dが基本波設定部に相当し、高調波電圧設定部30eが高調波設定部に相当する。
第1U,V,W相重畳部30fU,30fV,30fWは、U,V,W相基本波電圧VUB,VVB,VWBに、第1U,V,W相高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1を加算する。第2U,V,W相重畳部30gU,30gV,30gWは、第1U,V,W相重畳部30fU,30fV,30fWから出力された電圧「VUB+VUH1」,「VVB+VVH1」,「VWB+VWH1」に、第2U,V,W相高調波電圧VUH2,VVH2,VWH2を加算する。第2U,V,W相重畳部30gU,30gV,30gWの出力値が、U,V,W相の指令電圧VU,VV,VWとなる。
操作部としての変調器30hは、インバータ20のU,V,W相の出力電圧を、U,V,W相指令電圧VU,VV,VWとするための各操作信号gUp,gUn,gVp,gVn,gWp,gWnを生成する。本実施形態では、各指令電圧VU,VV,VWとキャリア信号との大小比較に基づくPWM処理によって各操作信号gUp,gUn,gVp,gVn,gWp,gWnを生成する。なお、キャリア信号としては、例えば三角波信号を用いることができる。
ところで、モータ10の巻線12U,12V,12Wに電流が流れ、モータ10において回転磁界が生成されると、ロータ14に径方向の電磁力変動が作用する。この電磁力は、ロータ14の周方向の各位置において変動する力であり、ロータ14をステータ12の方に引き付ける吸引力、及びロータ14をステータ12から引き離す反発力として作用する。この電磁力は、弾性体であるロータ14を振動させる加振力となる。この電磁力の周波数が、ロータ14の円環モードの共振周波数と一致する場合、モータ10の騒音(磁気音)が増大するおそれがある。また、電磁力の周波数が上記共振周波数と一致する場合、モータ10の振動が増大することにより、モータ10に機械的に接続された車載機器の振動が増大し、その結果車載機器からの騒音が増大するおそれがある。以下、円環モードについて説明する。
円環モードは、ロータ14の径方向に加わる加振力に起因して、ロータ14に生じる周期的な変動のモードである。図3に、円環モードの例として、0〜5次の円環モードを示す。図3は、ロータ14の鉛直断面の模式図である。図3において、破線は、ロータ14に加振力が作用していない状態におけるロータ14の形状(以下「原形状」という。)を示し、実線は、ロータ14に加振力が作用している状態におけるロータ14の形状を示す。また、一点鎖線は、ロータ14に加振力が作用してロータ14が変位する状態で、互いにπだけ離間する二つの節を結ぶ節線である。隣接する節同士の中間点が腹となる。節の部分においては、ロータ14に加振力が作用しても、ロータ14は原形状からほとんど変位しない。
0次の円環モードは、原形状と相似な形状を維持しつつ、ロータ14が径方向に伸張及び収縮を繰り返すモードである。
1次の円環モードは、ロータ14が、回りつつ1本の節線を基準として変位するモードである。詳しくは、1次の円環モードは、原形状に対して、1か所の腹が径方向に伸長するとともに、伸長する腹からπだけ離間した1か所の腹が径方向に収縮するモードである。2次の円環モードは、ロータ14が、回りつつ2本の節線を基準として変位するモードである。詳しくは、2次の円環モードは、原形状に対して、互いにπだけ離間した2か所の腹が径方向に伸長するとともに、伸長する2か所の腹から「π/2」だけ離間した2か所の腹が径方向に収縮するモードである。
3次の円環モードは、ロータ14が、回りつつ3本の節線を基準として変位するモードである。詳しくは、3次の円環モードは、原形状に対して、「2π/3」間隔で離れた3か所の腹が径方向に伸長するとともに、伸長する3か所の腹から「π/3」だけ離間した3か所の腹が径方向に収縮するモードである。4次の円環モードは、ロータ14が、回りつつ4本の節線を基準として変位するモードである。詳しくは、4次の円環モードは、原形状に対して、「π/2」間隔で離れた4か所の腹が径方向に伸長するとともに、伸長する4か所の腹から「π/4」だけ離間した4か所の腹が径方向に収縮するモードである。
5次の円環モードは、ロータ14が、回りつつ5本の節線を基準として変位するモードである。詳しくは、5次の円環モードは、原形状に対して、「2π/5」間隔で離れた5か所の腹が径方向に伸長するとともに、伸長する5か所の腹から「π/5」だけ離間した5か所の腹が径方向に収縮するモードである。
Xを自然数とすると、X次の円環モードを生じさせる加振力は、吸引力の増加する箇所と吸引力の減少する箇所との角度間隔が、「π/X」となる力である。
これらの円環モードは、それぞれ固有の共振周波数(共振角速度)を有している。そして、各円環モードを生じさせる加振力の周波数が、各円環モードの共振周波数近傍となることで、ロータ14の共振現象が生じる。加振力の実際の周波数が共振周波数近傍となる場合、モータ10の磁気音が増大し、可聴周波数帯域におけるノイズレベルが大きくなる等の問題が生じる。
こうした問題に対処すべく、本実施形態では、制御装置30に高調波電圧設定部30eが備えられている。高調波電圧設定部30eには、磁気音の発生要因となる径方向の電磁力変動を抑制するための第1U,V,W相高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1と、第2U,V,W相高調波電圧VUH2,VVH2,VWH2とが記憶されている。以下、電磁力変動を抑制するための高調波電圧について説明する。
各相の基本波電流IUB,IVB,IWBは,下式(eq2)によって表される。これら基本波電流IUB,IVB,IWBは、電気角θeで位相が互いに「2π/3」ずれた波形となっている。
以下、U相を例にして説明する。モータ10を基本波電流IUB,IVB,IWBによって運転した場合の結果から、騒音抑制のためには、電磁力の6次成分を低減させることが要求される。6次成分とは、巻線12U,12V,12Wに流れる基本波電流の6倍の変動角速度を有する電磁力のことである。ここで、モータ10の径方向の電磁力(節点力)をFで表す。基本波電流を流すことにより、電磁力Fが発生するのであるから、電磁力Fは下式(eq3)によって表すことができる。
電磁力Fの主要成分は、2次,4次,6次等の偶数次数の電磁力であることが知られている。このため、上式(eq3)におけるGは、奇数次数の周期関数として下式(eq4)によって表すことができる。
ここで、通常、基本波電流を流すことにより大きな平均トルクが得られるようにモータが設計される。このことから、Gについて、低次のものほど係数を大きな値に設定する。このため、本実施形態では、上式(eq4)において、「n=1」とする。ここで、高調波電流を下式(eq5)で表す。
上式(eq5)において、βは2以上の整数である。上式(eq4),(eq5)を上式(eq3)に代入することにより、高調波電磁力FHを下式(eq6)によって表すことができる。
ここで、「β=6M−1」(Mは0以上の整数)とする場合、上式(eq6)は下式(eq7)となる。
上式(eq5),(eq7)は、「6M−1」次の高調波電流を巻線12U,12V,12Wに流すと、「6M」次の電磁力と、「6M−2」次の電磁力とがロータ14に作用することを表している。ここで、「6M」次の電磁力,高調波電流とは、「6M」と基本角速度との乗算値を変動角速度とする電磁力,高調波電流のことである。基本角速度とは、巻線12U,12V,12Wに流す基本波電流の変動角速度ωeのことである。上式(eq5),(eq7)は、「6M−1」次の高調波電流を巻線12U,12V,12Wに流すことにより、「6M」次,「6M−2」次の電磁力を制御できることを表している。本実施形態では、「6M−2」次の電磁力を低減するように、上式(eq7)の係数e,fを調整する。ただし、この調整により、「6M」次の電磁力が増大する。
一方、「β=6M+1」とする場合、上式(eq6)は下式(eq8)となる。
上式(eq5),(eq8)は、「6M+1」次の高調波電流を巻線12U,12V,12Wに流すと、「6M」次の電磁力と、「6M+2」次の電磁力とがロータ14に作用することを表している。すなわち、上式(eq5),(eq8)は、「6M+1」次の高調波電流を巻線12U,12V,12Wに流すことにより、「6M」次,「6M+2」次の電磁力を制御できることを表している。本実施形態では、「6M−1」次の高調波電流の重畳によって増大する「6M」次の電磁力を低減するように、上式(eq8)の係数e,fを調整する。ただし、この調整により、「6M+2」次の電磁力が増大する。
本実施形態では、10次の電磁力の変動角速度が2次の円環モードに応じた共振角速度近傍となる場合、騒音が増大する。このため、以上説明した事項に基づいて、「M=2」とし、騒音の発生要因となる10次の電磁力を、11次の高調波電流の重畳によって12次の電磁力に変換する。ここで本実施形態では、12次の電磁力の変動角速度も共振角速度近傍となる。このため、さらに、12次の電磁力を、13次の高調波電流の重畳によって14次の電磁力に変換する。14次の電磁力の変動角速度は共振角速度から十分離間した値となる。このため、騒音の低減が可能となる。
したがって、本実施形態では、ロータ14に作用する電磁力のうち、10次の電磁力を低減可能な11次の高調波電流(以下「第1高調波電流IUH1,IVH1,IWH1」という。)と、11次の高調波電流の重畳によって増大する12次の電磁力を低減可能な13次の高調波電流(以下「第2高調波電流IUH2,IVH2,IWH2」という。)とを、基本波電流IUB,IVB,IWBに重畳する。図4には、U相の各高調波電流IUH1,IUH2を基本波電流IUBに重畳した場合の電流の推移を例示した。下式(eq9)にU相の第1高調波電流IUH1を示し、下式(eq10)にU相の第2高調波電流IUH2を示す。
第1高調波電流IUH1,IVH1,IWH1は、10次の電磁力を低減させるように、上式(eq9)に示した高調波電流の位相及び振幅(各係数e1,f1)が調整された波形となっている。U,V,W相の高調波電流IUH1,IVH1,IWH1は、波形形状が互いに同一であってかつ、電気角θeで位相が互いに「2π/3」ずれた波形となっている。第2高調波電流IUH2,IVH2,IWH2についても同様である。
第1高調波電流IUH1,IVH1,IWH1を巻線12U,12V,12Wに流すための第1高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1と、第2高調波電流IUH2,IVH2,IWH2を巻線12U,12V,12Wに流すための第2高調波電圧VUH2,VVH2,VWH2とが高調波電圧設定部30eのメモリに予め記憶されている。詳しくは、高調波電圧設定部30eには、下式(eq11),(eq12)に示すように、適合された11,13次の高調波電圧VUH1,VVH1,VVW1が予め記憶されている。ここで、高調波電流から高調波電圧への変換は、例えば、モータ10に印加される相電圧と相電流とを関係付ける周知の電圧方程式に基づいて行うことができる。
上式(eq11),(eq12)におけるγ,δは、上式(eq1)の基本波電圧に対する位相差を示す。本実施形態では、上式(eq11)におけるV11,γを第1振幅,第1位相差と称すこととし、上式(eq12)におけるV13,Δを第2振幅,第2位相差と称すこととする。U,V,W相の第1高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1は、10次の電磁力を低減させるように設定されている。具体的には、第1高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1は、10次の電磁力を低減させるように、上式(eq11)に示した第1位相差γ及び第1振幅V11が調整された波形となっている。また、本実施形態において、U,V,W相の第1高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1は、波形形状が互いに同一であってかつ、電気角θeで位相が互いに「2π/3」ずれた波形となっている。また、U,V,W相の第2高調波電圧VUH2,VVH2,VWH2は、13次の電磁力を低減させるように設定されている。具体的には、第2高調波電圧VUH2,VVH2,VWH2は、14次の電磁力を低減させるように、上式(eq12)に示した第2位相差δ及び第2振幅V13が調整された波形となっている。また、本実施形態において、U,V,W相の第2高調波電圧VUH2,VVH2,VWH2は、波形形状が互いに同一であってかつ、電気角θeで位相が互いに「2π/3」ずれた波形となっている。
本実施形態において、第1,第2高調波電圧は、指令角速度ωtgt及び電気角θeと関係付けられて高調波電圧設定部30eにマップデータとして記憶されている。高調波電圧設定部30eは、都度(例えば、制御装置30の制御周期毎に)入力された指令角速度ωtgtと電気角θeとに基づいて、該当する各高調波電圧を選択し、各重畳部30fU〜30fW、30gU〜30gWに出力する。これにより、基本波電流に第1,第2高調波電流を重畳することができる。
こうした構成によれば、実際の回転角速度ωmが共振角速度に近づくことにより、基本波電圧に第1,第2高調波電圧が重畳されることとなる。そして、実際の回転角速度ωmが共振角速度から離れると、基本波電圧に重畳される第1,第2高調波電圧が小さくなる又は0となる。
ところで、モータ10の個体差に起因して、量産されたモータ10毎に永久磁石14aの磁束特性が異なる。この場合、メモリに記憶されている高調波電圧が、11次,13次の電磁力変動を低減するための適正な高調波電圧からずれ得る。この場合、出力トルクに寄与しないトルク変動成分が増加することにより、騒音が増加する懸念がある。
そこで制御装置30は、図1に示す補正値算出部30iを備えている。補正値算出部30iは、メモリに記憶されている第1,第2高調波電圧を補正する補正処理を行う。以下、補正処理について説明する。
ロータ14の径方向の電磁力Fは、下式(eq13)に示すように、ロータの永久磁石からの磁束φmと、ステータ巻線に流れる電流Iとに比例する。
ここで、ロータ14が一定速度で回転している場合において、磁束φmのうち、正弦波で表される磁束を正弦波磁束φ0とし、正弦波磁束φ0からの歪み成分を磁束歪みΔφとする。また、電流Iのうち、正弦波で表される電流を正弦波電流I0とし、正弦波電流I0からの歪み成分を電流歪みΔIとする。この場合、上式(eq13)が下式(eq14)で表される。
上式(eq14)において、「Δφ×ΔI」は他の項と比較して非常に小さいため、無視している。上式(eq14)において、右辺第1項の「φ0×I0」はモータ10の出力トルクを示し、右辺第2項の「Δφ×I0+φ0×ΔI」は、磁気音を生じさせる加振力を示す。第1,第2高調波電流を流すことにより、右辺第2項の加振力を0とすることができれば、磁気音が低減できる。ただし、この加振力において、磁束歪みΔφがモータ10の個体差によりばらつく。このため、磁束歪みΔφを観測し、観測した磁束歪みΔφに基づいて、下式(eq15)を満たす電流歪みΔIを高調波電流として巻線に流すことにより、加振力を低減できる。
ちなみに、本実施形態において低減対象とする電磁力変動の次数は、永久磁石の磁束変動の次数と同じである。つまり、マクスウェルの応力の式により、ロータの径方向の電磁力Feは、下式(eq16)により表される。
上式(eq16)において、μは透磁率を示し、Bは磁束密度を示し、Φはティース12aと永久磁石14aとの間の磁束を示す。ここで磁束Φは、下式(eq17)に示すように、永久磁石14aの磁石磁束φmと、巻線12U,12V,12Wに電流が流れることにより発生する磁束φeとからなる。
上式(eq17)において、Lは各巻線12U〜12Wのインダクタンスを示し、Iは各巻線12U〜12Wに流れる電流を示す。上式(eq17)を上式(eq16)に代入すると、下式(eq18)が導かれる。
上式(eq18)において、右辺第2項が磁気音を生じさせる加振力を示す。すなわち、本実施形態では、磁石磁束φmを観測して電磁力Feを低減するため、観測対象となる磁石磁束φの変動角速度と、低減対象とする電磁力Feの変動角速度とが同じとなる。
これに対し、上記特許文献1に記載の技術では、磁束を検出するサーチコイルがティースに設けられている。この構成では、サーチコイルにより検出される磁束が、磁石磁束φm及び電流が流れることにより発生する磁束φeが合計された磁束Φとなる。このため上記特許文献1に記載の技術では、上式(eq16)に示すように、観測対象となる磁石磁束φの変動角速度の2倍の角速度が、低減対象とする電磁力Feの変動角速度となる。このため、本実施形態で低減対象とする電磁力の変動角速度と、上記特許文献1で低減対象とする電磁力の変動角速度とは異なる。
図5に、補正値算出部30iにより実行される補正処理の手順を示す。この処理は、工場における制御装置30の出荷前検査時や、モータ10の起動時に実行される。
この一連の処理によれば、まずステップS10において、ロータ14が回転中であるか否かを判定する。
ステップS10において肯定判定した場合には、ステップS12に進み、巻線12U,12V,12Wへの通電を一時的に停止する。この処理は、永久磁石14aの磁束を把握しやすくし、演算処理の増加を回避するための処理である。つまり、巻線12U,12V,12Wに通電されると、巻線12U,12V,12Wに電流が流れることにより磁束が発生する。このため、各ホール素子42a〜42cは、電流により発生した磁束と磁石磁束とが合計されたものを検出することとなる。この場合、第1,第2高調波電圧を補正するためには、検出された磁束から、電流により発生した磁束を差し引く必要がある。その結果、補正処理における演算処理が増加する。これに対し、巻線12U,12V,12Wへの通電が停止されている期間における各ホール素子42a〜42cの磁束検出値は、磁石磁束のみとなり、磁束検出値から電流により発生した磁束を差し引く必要がない。なお本実施形態において、本ステップの処理が通電停止部に相当する。
続くステップS14では、ホール素子42a〜42cにより検出された磁束を電気角θeと関係付けて取得する。電気角θeと関係付けて磁石磁束を把握することにより、電気角θeを独立変数とし、磁石磁束を従属変数とした磁束特性を適正に把握できる。なお、本ステップで用いられる磁束検出値は、各ホール素子42a〜42cのうち少なくとも1つの磁束検出値であればよい。
続くステップS16では、ステップS14で取得された磁束検出値に基づいて、電気角θeと関係付けた磁束検出値である磁束の空間分布を算出する。なお本実施形態において、ステップS14,S16の処理が磁束情報取得部に相当する。
続くステップS18では、算出した磁束の空間分布に基づいて、低減対象とする11次,13次の磁束の振幅及び位相差を抽出する。ここで磁束の位相差は、例えば、上式(eq1)で表される基本波電圧に対する位相差、又はモータ10の基準となる電気角に対する位相差とすればよい。そしてステップS18では、抽出した11次の磁束の振幅及び位相差に基づいて、第1振幅V11を補正するための第1振幅補正値、及び第1位相差γを補正するための第1位相補正値を算出する。具体的には、算出した11次の磁束の振幅及び位相差と、予めメモリに記憶されてかつ基準となる11次の磁束の振幅及び位相差とに基づいて、第1振幅補正値及び第1位相補正値を算出する。またステップS18では、抽出した13次の磁束の振幅及び位相差に基づいて、第2振幅V13を補正するための第2振幅補正値、及び第2位相差δを補正するための第2位相補正値を算出する。具体的には、算出した13次の磁束の振幅及び位相差と、予めメモリに記憶されてかつ基準となる13次の磁束の振幅及び位相差とに基づいて、第2振幅補正値及び第2位相補正値を算出する。
そしてステップS18では、算出した第1,第2振幅補正値に基づいて、第1,第2振幅V11,V13を補正し、算出した第1,第2位相補正値に基づいて、第1,第2位相差γ,δを補正する。具体的には例えば、第1高調波の補正を例に説明すると、第1振幅補正値を第1振幅V11に乗算することにより第1振幅V11を補正し、第1位相補正値を第1位相差γに加算することにより第1位相差γを補正すればよい。
なお、ステップS18の処理の完了後、巻線12U,12V,12Wへの通電が再開される。そしてその後、高調波電圧設定部30eでは、振幅及び位相差が補正された第1,第2高調波電圧が設定される。
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を得られるようになる。
第1高調波電圧の第1振幅V11及び第1位相差γを、第1高調波電圧の変動角速度で変動する磁石磁束成分に基づいて補正した。また、第2高調波電圧の第2振幅V13及び第2位相差δを、第2高調波電圧の変動角速度で変動する磁石磁束成分に基づいて補正した。これにより、モータ10に個体差がある場合であっても、ロータ14に作用する径方向の電磁力変動を低減することができる。
メモリに記憶されている第1振幅V11及び第1位相差γを、第1高調波電圧の変動角速度で変動する磁石磁束成分に基づいて補正した。また、メモリに記憶されている第2振幅V13及び第2位相差δを、第2高調波電圧の変動角速度で変動する磁石磁束成分に基づいて補正した。この構成によれば、モータ10の個体差を反映させた第1,第2高調波電圧を0から生成する必要がないため、第1,第2高調波電圧を設定するための制御装置30の演算負荷を低減できる。
電気角θeと関係付けて把握された磁石磁束φmに基づいて、低減対象とする電磁力の変動角速度で変動する磁極磁束成分を抽出した。これにより、実際の磁石磁束分布を適正に把握でき、第1,第2高調波電圧の補正精度を向上できる。
各ホール素子42a〜42cにより検出された磁束情報を、モータ制御に用いる電気角θeの算出に加え、第1,第2高調波電圧の補正のために流用した。このため、第1,第2高調波電圧を補正するための専用の磁束検出部を追加することなく、モータ10の個体差を反映して第1,第2高調波電圧を補正できる。
巻線12U,12V,12Wへの通電が停止されている期間において磁極磁束を取得した。これにより、制御装置30の外部に設けられる外部装置を使用することなく磁極磁束成分の抽出を簡易に行うことができ、制御装置30の演算負荷の増大を回避できる。
モータ10の起動時に補正処理を行った。このため、モータ10の経年劣化の影響を反映させて第1,第2高調波電圧を補正することができる。なお、補正処理は、モータ10が起動されるたびに行われてもよいし、補正処理が前回行われてから所定期間経過した場合におけるモータ10の起動時に行われてもよい。
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。第1実施形態では、各高調波電圧VUH1〜VWH1,VUH2〜VWH2がメモリに予め記憶されており、記憶された各高調波電圧VUH1〜VWH1,VUH2〜VWH2に基づいて高調波電流が重畳される構成とした。本実施形態では、各高調波電圧VUH1〜VWH1,VUH2〜VWH2がメモリに予め記憶されていない構成とする。このため、制御装置30は、高調波電圧設定部30e及び補正値算出部30iに代えて、図6に示すように、高調波生成部30jを備えている。なお図6において、先の図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
高調波生成部30jは、各ホール素子42a〜42cの少なくとも1つの磁束検出値に基づいて、各高調波電圧VUH1〜VWH1,VUH2〜VWH2を生成する。
図7に、高調波生成部30jにより実行される高調波電圧の生成処理の手順を示す。この処理は、工場における制御装置30の出荷前検査時、制御装置30が工場から出荷された後のモータ10の起動時、及びモータ10が起動された後のモータ10の駆動時に実行される。なお図7において、先の図5に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、ステップS16の処理の完了後、ステップS20に進む。ステップS20では、ステップS16で算出した磁束の空間分布に基づいて、低減対象とする11次,13次の磁束の振幅及び位相差を抽出する。ここで磁束の位相差は、例えば、上式(eq1)で表される基本波電圧に対する位相差、又はモータ10の基準となる電気角に対する位相差とすればよい。
そしてステップS20では、抽出した11,13次の磁束の振幅及び位相差に基づいて、メモリに記憶された高調波電圧を用いることなく、第1U,V,W相高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1と、第2U,V,W相高調波電圧VUH2,VVH2,VWH2とを生成する。
詳しくは、現在の電磁力の周波数をロータ14の円環モードの共振周波数からずらすことのできる磁束の空間分布が実現されるように、抽出した11次の磁束の振幅及び位相差に基づいて第1高調波電流IUH1,IVH1,IWH1の振幅及び位相を算出するとともに、抽出した13次の磁束の振幅及び位相差に基づいて第2高調波電流IUH2,IVH2,IWH2の振幅及び位相を算出する。ここで、磁束の空間分布とは、モータ10の機械角θmと関係付けられた磁束の大きさの分布のことである。本実施形態では、電磁力の周波数が2次の円環モードに応じた共振周波数近傍となる場合に騒音が増大する。このため本実施形態では、現在の電磁力の周波数をロータ14の円環モードの共振周波数からずらすことのできる磁束の空間分布を実現するために、図8に示すように、2次の円環モードに対応する磁束の空間分布が3次の円環モードに対応する磁束の空間分布に変更されるような第1高調波電流IUH1,IVH1,IWH1の振幅及び位相並びに第2高調波電流IUH2,IVH2,IWH2の振幅及び位相を算出する。なお図8では、便宜上、2次の円環モードに対応する磁束の振幅と、3次の円環モードに対応する磁束の振幅とを同じ値として示している。
そして、算出した第1高調波電流IUH1,IVH1,IWH1の振幅及び位相に基づいて第1高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1の第1振幅V11及び第1位相差γを算出する。また、算出した第2高調波電流IUH2,IVH2,IWH2の振幅及び位相に基づいて第2高調波電圧VUH2,VVH2,VWH2の第2振幅V13及び第2位相差δを算出する。ここで、高調波電流から高調波電圧への変換は、例えば、モータ10に印加される相電圧と相電流とを関係付ける周知の電圧方程式に基づいて行うことができる。
ステップS20の処理の完了後、巻線12U,12V,12Wへの通電が再開される。そしてその後、高調波生成部30jは、第1,第2高調波電圧を生成して出力する。
詳しくは、高調波生成部30jは、角速度算出部30bによって算出された回転角速度ωmに基づいて、電気角速度ωeを算出する。高調波生成部30jは、算出した第1振幅V11及び第1位相差γに基づいて、算出した電気角速度ωe及び入力された電気角θeに対応させて第1高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1を出力する。また、高調波生成部30jは、算出した第2振幅V13及び第2位相差δに基づいて、算出した電気角速度ωe及び入力された電気角θeに対応させて第2高調波電圧VUH2,VVH2,VWH2を出力する。
図9に、上述した各高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1,VUH2,VVH2,VWH2が重畳されることにより、2次の円環モードに対応する磁束の空間分布が3次の円環モードに対応する磁束の空間分布に変更される例を示す。磁束の空間分布が変更されることにより、電磁力の周波数成分が2次の円環モードに対応する周波数から3次の円環モードに対応する周波数にシフトされる。その結果、モータ10に個体差がある場合であっても、ロータ14に作用する径方向の電磁力変動を低減することができる。
また本実施形態によれば、メモリに記憶させる各高調波電圧を適合する作業を無くすことができるため、制御装置30を設計する際に要する労力を低減できる。
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。第1実施形態では、モータ10の固定座標系における高調波電圧VUH1〜VWH1,VUH2〜VWH2を設定した。本実施形態では、モータ10の2相回転座標系であるdq座標系における高調波電圧VUH1〜VWH1,VUH2〜VWH2を設定する。
図10に、本実施形態に係るシステム構成図を示す。なお図10において、先の図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
図10に示すように、制御システムは、電流検出部21を備えている。電流検出部21は、モータ10に流れる各相電流のうち、少なくとも2相分の電流を検出する。本実施形態では、電流検出部21は、U,V,W相電流を検出する。電流検出部21の検出値は、制御装置30に入力される。
続いて、制御装置30によって実行されるモータ10の駆動制御について説明する。
2相変換部30kは、電流検出部21により検出された相電流と、電気角演算器30aによって算出された電気角θeとに基づいて、3相固定座標系におけるU,V,W相電流をdq座標系におけるd軸電流Idr及びq軸電流Iqrに変換する。
指令値設定部30mは、指令角速度ωtgtに基づいて、2相回転座標系における電流指令値であるd軸指令電流Id*と、q軸指令電流Iq*とを設定する。なお、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*は、例えば、指令角速度ωtgtと、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*とが関係付けられたマップ情報を用いて設定されればよい。
基本波電流制御部30nは、d軸電流Idrをd軸指令電流Id*にフィードバック制御するための操作量として、モータ10のd軸電圧成分であるd軸基本波電圧VdBを算出する。本実施形態において、d軸基本波電圧VdBはdq座標系における直流成分である。また、基本波電流制御部30nは、q軸電流Iqrをq軸指令電流Iq*にフィードバック制御するための操作量として、モータ10のq軸電圧成分であるq軸基本波電圧VqBを算出する。本実施形態において、q軸基本波電圧VqBはdq座標系における直流成分である。なお本実施形態において、基本波電流制御部30hが「基本波設定部」に相当する。
高調波電圧設定部30pは、指令角速度ωtgtに基づいて、d軸電圧成分であるd軸高調波電圧Vdhと、q軸電圧成分であるq軸高調波電圧Vqhとを算出する。本実施形態において、高調波電圧設定部30pは、記憶部としてのメモリを備えている。d軸高調波電圧Vdh及びq軸高調波電圧Vqhは、指令角速度ωtgtと関係付けられてメモリに記憶されている。
本実施形態では、10次の電磁力を14次の電磁力にシフトさせるため、低減対象となる電磁力が、固定座標系において11,13次の電磁力となる。11,13次の電磁力は、dq座標系において12次の電磁力に変換される。このため、d軸高調波電圧Vdh及びq軸高調波電圧Vqhは、dq座標系において12次の高調波電圧となる。
d軸重畳部30qは、d軸基本波電圧VdBにd軸高調波電圧Vdhを加算して出力する。q軸重畳部30rは、q軸基本波電圧VqBにq軸高調波電圧Vqhを加算して出力する。
3相変換部30sは、d軸重畳部30qの出力値「VdB+Vdh」と、q軸重畳部30rの出力値「VqB+Vqh」と、電気角θeとに基づいて、U,V,W相の指令電圧VU,VV,VWを算出する。算出された指令電圧VU,VV,VWは、変調器30hに入力される。
制御装置30は、補正値算出部30tを備えている。本実施形態に係る補正値算出部30tは、先の図5のステップS10〜S16の処理を行った後、以下に説明する処理を行う。補正値算出部30tは、ステップS16で算出した磁束の空間分布に基づいて、低減対象とする11次,13次の磁束の振幅及び位相差を抽出する。補正値算出部30tは、抽出した11,13次の磁束の振幅及び位相差に基づいて、d軸高調波電圧Vdh及びq軸高調波電圧Vqhのうちd軸高調波電圧Vdhのみ、又はd軸高調波電圧Vdh及びq軸高調波電圧Vqhの双方を補正するための補正値を算出する。補正値算出部30tは、算出した補正値に基づいて、d軸高調波電圧Vdh及びq軸高調波電圧Vqhのうちd軸高調波電圧Vdhのみ、又はd軸高調波電圧Vdh及びq軸高調波電圧Vqhの双方を補正する。
以上説明した本実施形態によっても、上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、上記第3実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。第3実施形態では、d,q軸高調波電圧Vdh,Vqhがメモリに予め記憶されている構成とした。本実施形態では、d,q軸高調波電圧Vdh,Vqhがメモリに予め記憶されていない構成とする。このため、制御装置30は、高調波電圧設定部30p及び補正値算出部30tに代えて、図11に示すように、高調波生成部30uを備えている。なお図11において、先の図10に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
高調波生成部30uは、各ホール素子42a〜42cの少なくとも1つの磁束検出値に基づいて、d,q軸高調波電圧Vdh,Vqhを生成する。詳しくは、高調波生成部30uは、先の図7のステップS10〜S16の処理を行った後、以下に説明する処理を行う。
高調波生成部30uは、ステップS16で算出した磁束の空間分布に基づいて、低減対象とする11次,13次の磁束の振幅及び位相差を抽出する。高調波生成部30uは、抽出した11,13次の磁束の振幅及び位相差に基づいて、d軸高調波電圧Vdh及びq軸高調波電圧Vqhを生成する。詳しくは、高調波生成部30uは、現在の電磁力の周波数をロータ14の円環モードの共振周波数からずらすことのできる磁束の空間分布が実現されるように、抽出した11次の磁束の振幅及び位相差に基づいて第1高調波電流IUH1,IVH1,IWH1の振幅及び位相を算出するとともに、抽出した13次の磁束の振幅及び位相差に基づいて第2高調波電流IUH2,IVH2,IWH2の振幅及び位相を算出する。
高調波生成部30uは、算出した各高調波電流IUH1,IVH1,IWH1,IUH2,IVH2,IWH2の振幅及び位相に基づいて、d軸高調波電圧Vdh及びq軸高調波電圧Vqhを算出する。その後、巻線12U,12V,12Wへの通電が再開される。そしてその後、高調波生成部30uは、d,q軸高調波電圧Vdh,Vqhを生成して出力する。
以上説明した本実施形態によれば、メモリに記憶させる各高調波電圧を適合する作業を無くすことができるため、制御装置30を設計する際に要する労力を低減できる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記各実施形態において、巻線12U,12V,12Wへと通電されてモータ10が駆動されている期間において、磁石磁束を取得してもよい。より詳しくは、巻線12U,12V,12Wに電流が流れることにより発生する磁束と磁石磁束との合計磁束から、巻線12U,12V,12Wに電流が流れることにより発生する磁束を差し引くことにより、磁石磁束を取得すればよい。なおこの場合、磁石磁束を検出する各ホール素子42a〜42cである第1磁束検出部に加え、ステータ12の鎖交磁束を検出する第2磁束検出部がシステムに備えられる場合、第1,第2磁束検出部の磁束検出値に基づいて、磁石磁束の取得処理が行われればよい。
また、巻線12U,12V,12Wへと通電されてモータ10が駆動されている期間において、上記第2磁束検出部を用いることなく、上記第1磁束検出部を用いて磁石磁束を取得してもよい。これは、磁束検出部の設置位置によっては、巻線12U,12V,12Wに電流が流れることにより発生する磁束の影響が小さくなり、この影響を無視できることに基づくものである。以下、この構成において、先の図1の補正値算出部30iにより実行される処理の一例を図12に示す。なお図12において、先の図5に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、ステップS10において肯定判定した場合には、ステップS22に進み、高調波電圧設定部30eから各高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1,VUH2,VVH2,VWH2が出力されて各高調波電圧が重畳されているか否かを判定する。
ステップS22において否定判定した場合には、ステップS14に進む。一方、ステップS22において肯定判定した場合には、ステップS24に進み、高調波電圧設定部30eに対して、各高調波電圧VUH1,VVH1,VWH1,VUH2,VVH2,VWH2の生成停止及び出力停止を指示する。この際、基本波電圧設定部30dからの各基本波電圧VUB,VVB,VWBの出力は停止しなくてもよい。ステップS24の処理が完了した場合には、ステップS14に進む。
・上記第2実施形態において、検出した磁石磁束φmに基づいて磁束歪みΔφが算出され、上式(eq15)の関係に基づいて第1,第2高調波電流が算出されてもよい。これにより、第1,第2高調波電圧を適合する工数を削減できる。なお、算出された第1,第2高調波電流は、モータ10の電圧方程式に基づいて、第1,第2高調波電圧に変換されればよい。
・上記第1実施形態において、メモリに記憶される高調波指令値としては、第1,第2高調波電圧に限らず、第1,第2高調波電流であってもよい。この場合、例えば、設定した第1,第2高調波電流をモータ10の電圧方程式に基づいて第1,第2高調波電圧に変換し、変換した第1,第2高調波電圧を各重畳部30fU,30fV,30fW,30gU,30gV,30gWに出力すればよい。なお、上記第3実施形態についても同様である。
・本発明の適用対象としては、ロータ14の回転角を検出する回転角検出部が備えられるシステムに限らない。例えば、回転角検出部が備えられない位置センサレス制御が実施されるシステムに本発明を適用してもよい。
・磁気センサとしては、ホール素子に限らず、例えば、リニアホールIC又は磁束に鎖交するように設置されたサーチコイルであってもよい。また磁気センサとしては、磁極の漏れ磁束を検出できる位置に配置されるものに限らず、モータ10を収容するケース内において磁極及びティース間の主磁束を検出できる位置に配置されるものであってもよい。
・上記実施形態では、10次の電磁力を14次の電磁力に変換すべく、11次,13次の2つの高調波電流を基本波電流に重畳したがこれに限らない。例えば、1つ、又は3つ以上の高調波電流を基本波電流に重畳してもよい。具体的には例えば、共振角速度近傍の電磁力が4次の電磁力である場合、4次の電磁力を共振角速度から大きく離れた12次の電磁力に変換すべく、4次から12次までに含まれるすべての奇数次の高調波電流である5次,7次,9次,11次の4つの高調波電流を基本波電流に重畳すればよい。
・上記第2実施形態において、高調波生成部30jは、ロータ14に作用する径方向の電磁力変動を低減するための高調波電圧を、高調波電圧を重畳しながら決定してもよい。詳しくは、高調波生成部30jは、図7のステップS20で算出した第1振幅V11及び第1位相差γに基づいて、U,V,W相基本波電圧VUB,VVB,VWBに重畳する基本となる第1高調波電圧VUha,VVha,VWhaを算出する。また、高調波生成部30jは、ステップS20で算出した第2振幅V13及び第2位相差δに基づいて、U,V,W相基本波電圧VUB,VVB,VWBに重畳する基本となる第2高調波電圧VUhb,VVhb,VWhbを算出する。高調波生成部30jは、基本となる第1高調波電圧VUha,VVha,VWhaの振幅及び位相を可変させて、かつ、基本となる第2高調波電圧VUhb,VVhb,VWhbの振幅及び位相を可変させることにより、ロータ14に作用する径方向の電磁力変動を最小化する各高調波電圧VUha,VVha,VWha,VUhb,VVhb,VWhbの振幅及び位相を決定する。
・モータの回転角を検出する回転角検出部としては、ホール素子に限らず、例えば、エンコーダ又はレゾルバであってもよい。この場合、制御システムに磁束検出部が別途備えられればよい。
また、制御システムとしては、回転角検出部が備えられないものであってもよい。この場合、ホール素子等の回転角検出部を用いない御である位置センサレス制御が実行される。なお、この場合、制御システムに磁束検出部が別途備えられればよい。
・モータの制御量としては、回転角速度に限らず、例えばトルクであってもよい。この場合、例えば、図10において、指令角速度ωtgtに代えて指令トルクが指令値設定部30mに入力されればよい。また、モータの制御量としては、例えば回転角度位置であってもよい。
・モータとしては、集中巻きのものに限らず、分布巻きのものを用いてもよい。また、モータとしては、アウタロータ型のものに限らず、インナロータ型のものを用いてもよい。巻き方やロータ型が異なる場合であっても、ロータの共振現象によって騒音が生じるなら、本発明の適用が有効である。
さらに、モータとしては、3相モータに限らず、4相以上の多相モータであってもよい。加えて、モータとしては、ロータに永久磁石を備える永久磁石界磁型同期機に限らず、例えば、ロータに界磁巻線を備える巻線界磁型同期機であってもよい。加えて、モータとしては、ブロワ用のものに限らない。