以下に説明する実施例は、ビーム傾斜が可能な荷電粒子線装置に関するものであり、特に、収差の抑制と荷電粒子(二次電子等)の高効率検出を実現する荷電粒子線装置に関するものである。
半導体デバイスのパターン形状や材質は多様化を続けており、それらの検査、計測においては一次電子線照射により試料から発生する二次電子の収量向上や、エネルギー弁別による材料判別など、二次電子に関する解析の要求が高まっている。高精度の弁別、解析を行うために二次電子軌道を制御する機能を持つ装置が要求されている。従って高さ方向に異なる材料を積層した多層膜構造の三次元デバイスの検査、計測、分析が必要とされ、傾斜画像の取得と傾斜時の二次電子分析が両立できる装置の要求が高まると考えられる。
SEMで高さ方向の情報を得るには試料に対して傾斜したビームを照射し画像を取得すれば良い。SEMでの傾斜画像の取得方法には、機械的傾斜方法と電気的傾斜方法がある。インラインでの計測・検査においては試料ステージやカラムを機械的に傾斜させる方法があるがウェーハとカラム構造物との干渉を防ぐために対物レンズと試料の間の作動距離(ワーキングディスタンス:WD)が長くなり、対物レンズの焦点距離が長くなる。そのため対物レンズの収差を小さくすることができず分解能が劣化する。また傾斜のための機械的動作がスループットや観察位置、傾斜角度の再現性を低下させる。
一方、電気的な傾斜方法として偏向器により電子ビームを偏向して試料に対して傾斜させるビーム傾斜方式がある。スループットや傾斜角度の再現性および傾斜角度、方向の可変性という点で機械的傾斜方法を大きく凌駕するため電気的なビーム傾斜方式のSEMが望まれている。しかし、この方式ではビームを傾斜すると対物レンズの軸外収差が増大してビーム径が大きくなり分解能が劣化する。
よって、以下に説明する実施例では、偏向器(第1の偏向器)によってビームを傾斜させ、傾斜に伴って発生する分解能低下要因を抑制可能な光学素子を備えたSEMについて説明する。更に、偏向電場と偏向磁場を直交させて発生させる直交電磁場発生器(以後EXB)、もしくはウィーンフィルタ等の偏向器(第2の偏向器)により、偏向される二次電子等の軌道を、ビーム傾斜によらず、検出器側に適正に導く光学素子を備えたSEMについて説明する。より具体的には、二次電子のエネルギー弁別、分析精度の向上のためには分光器への二次電子の入射軌道を揃える必要がある。また信号収量向上のためには可能な限り多くの二次電子を検出器の検出面に導かねばならない。しかしながら二次電子が二次電子偏向器上で広がっていると、その2次収差の影響を受けて軌道がEXB上の位置により大きく変化し高精度の弁別、分析に必要な入射条件を逸脱したり検出面で二次電子が広がり過ぎ、収量が低下したりする可能性がある。そのために二次電子偏向器上で二次電子の集束点を形成することで二次電子に対する幾何収差を最小限に抑えることが望ましい。
また、対物レンズの軸外をビームが通過することにより発生する像面湾曲を傾斜角度毎に対物レンズ自身の電流、電圧を弱めることで調整し、補正することが考えられるが、二次電子が対物レンズから受けるレンズ作用が傾斜角と共に弱まり、二次電子の集束位置が上昇する。そのため二次電子偏向器上での二次電子が傾斜角と共に広がり、幾何収差が増大し弁別精度が低下する。また、ビーム傾斜時に二次電子を偏向する際に、一次電子に対しても色分散が発生し、対物レンズ以外の色収差が発生し、傾斜時の分解能を劣化させる。
上記条件に鑑み、以下の実施例では、主に荷電粒子線を供給するための荷電粒子線源と、前記荷電粒子線源から放出された前記荷電粒子線の集束位置と集束角度を制御するための複数のコンデンサレンズと、前記荷電粒子線を試料上に集束させる対物レンズと、前記荷電粒子線を試料上走査させるための走査手段と、荷電粒子線照射によって試料から発生する二次電子を検出するための検出器を備え、ビームを傾斜して試料に照射し傾斜画像を取得する荷電粒子線装置において、ビームを傾斜するために一次電子を偏向する偏向器(傾斜用偏向器:第1の偏向器)と、前記対物レンズの上方に配置され、試料から発生した二次電子を一次荷電粒子線と分離し、検出器へ導くための二次電子偏向器(第2の偏向器)と、試料と前記二次電子偏向器の間に配置され、二次電子を前記二次電子偏向器の位置に集束させるレンズ(二次電子集束レンズ:荷電粒子集束レンズ)と、前記二次電子偏向器の上方に配置されるビーム傾斜時の収差補正ユニット(収差補正レンズもしくは収差発生用多極子と、収差発生用偏向器及びエネルギーの異なる一次電子線を対物レンズ主面に集束させる高次色収差抑制光学要素)と、前記二次電子偏向器の上方に配置される前記二次電子集束レンズによる収差特性の変化を補償するレンズ(収差特性補償レンズ)を備える荷電粒子線装置について説明する。
上記構成によれば、半導体の形状パターンの検査、計測において高効率な信号検出、高精度の材料判別が可能な三次元観察技術が可能となる。
以下、図面を用いて、ビーム傾斜用の偏向器を備えた走査電子顕微鏡を説明する。なお、以下の実施例では走査電子顕微鏡を例にとって説明するが、以下の実施例は、イオンビームを照射するイオンビーム照射装置への適用も可能である。
図1は第一の実施例の光学構成の概略図である。第一の実施例では、ビーム傾斜時の一次電子の収差補正に要する収差の発生に偏向器とレンズを用いる場合について説明する。
まず一次電子が試料に対し垂直に入射し、二次電子の集束位置が制御されていない場合の動作を説明する。陰極01と第一陽極02の間には電子銃制御部100により電圧が印加され、所定の電流密度で一次電子41が放出される。陰極01と第二陽極03の間には電子銃制御部100により加速電圧が印加され一次電子41が加速されて後段へと打ち出される。一次電子41は第一コンデンサレンズ制御部101により制御される第一コンデンサレンズ04で光軸30上の点P1に集束された後、対物絞り05を通過し不要な電子が除去される。点P1の位置と絞りの穴径により、一次電子41のプローブ電流量と開き角が決定される。
その後、第二コンデンサレンズ制御部102により制御される第二コンデンサレンズ06により、光軸30上の点P2に一次電子41のクロスオーバが形成される。点P2は収差発生用偏向器08の中心位置と一致するように設定される。更に収差補正用レンズ制御部105で制御される収差補正用レンズ09に一次電子41が入射し対物レンズの物面Zm上の点P3にクロスオーバを形成する。高次軸外収差抑制レンズ11は物面Zmを中心に配置されているため一次電子41は高次軸外色収差抑制レンズ11のレンズ作用を受けない。
また、二次電子偏向用EXB制御部110によって制御される二次電子偏向用EXB22の電磁場強度は一次電子41の中心軌道が直進するように調整される。
更に対物レンズ制御部113で制御される対物レンズ14に入射する。対物レンズ14は、電子ビームを通過させる開口を持ち、その開口の中心は、電子ビームの理想光軸(ビームが偏向を受けない場合の電子ビームの通過軌道)となる。
対物レンズ制御部113で制御されるブースター電極33が配置されており、加速電圧が印加されることで対物レンズ14の収差を低減される。またリターディング電圧制御電源34により制御される減速電圧がステージ制御部115で制御されるステージ15に印加されており、試料16と対物レンズ14の間に減速電場を形成することで対物レンズ14の収差が更に低減される。対物レンズ14に入射した一次電子41は試料16上で光軸30上の点Piに集束し微小スポットを形成する。対物レンズ14のレンズ強度は、試料高さ計測装置120により計測されるワーキングディスタンスによって決定される。試料16に照射された一次電子41の微小スポットは走査偏向器制御部111により制御される走査偏向器13により試料16上を平面的に走査される。
このとき試料上を走査する一次電子41により発生する幅広いエネルギーをもった二次電子の内、注目するエネルギーの二次電子42は対物レンズ14による強いレンズ作用を受ける。その結果対物レンズ14の試料側のレンズ場の作用で一度集束する。その後、残りのレンズ場の作用を受ける。このとき二次電子42はワーキングディスタンス、対物レンズ14のレンズ強度、ブースター電極33の加速電場、試料16の減速電場の強度に従ってある所に集束する。その後二次電子42は二次電子偏向用EXB制御部110によって制御される二次電子偏向用EXB22により偏向され、検出器制御部107で制御される検出器17に入射し、信号として検出される。検出信号は光学系制御部116で演算され、画像表示部117にSEM画像として表示される。SEM像の視野を動かす場合は、ステージ制御部114で制御される試料ステージを動かすか、走査偏向器制御部111で制御されるイメージシフト偏向器18を動作させて一次電子41の試料上の到着位置を変更する。制御装置116は、図示しない記憶媒体を備え、当該記憶媒体に記憶された光学条件に基づいて、後述する実施例に記載された制御を実行する。
本実施例では、更に二次電子偏向用EXB22の下方に二次電子集束用レンズ21が配置され、二次電子集束用レンズ21とは対物レンズ14の物面Zmを挟んで反対側で且つ傾斜用偏向器08より下方の位置に収差特性補償レンズ20が配置される。
ビーム傾斜時の一次電子の一次軸外色収差と偏向コマ収差を同時に補正するためには、対物レンズ系と収差発生レンズ09の偏向コマ収差と軸上色収差の収差係数の比が等しい必要があり、その条件は次式(1)である。
但しCs OBJとCc OBJは対物レンズ物面Zmで定義される対物レンズ14の磁場、ブースター電極33による加速電場、リターディング電場の合成レンズの球面収差係数と色収差係数である。またCs CORとCc CORは対物レンズ物面Zmで定義される収差発生用レンズ09の球面収差係数と色収差係数である。本実施例では、二次電子集束用レンズ21と収差特性補償用レンズ20がOFFのときに式(1)が成立する収差発生レンズ09が配置されている。
次に、傾斜角が0°のときに注目するエネルギーの二次電子42を二次電子偏向用EXB22の中心に集束させる方法を説明する。図11Aは二次電子集束レンズ21と収差特性補償レンズ20がOFFの時のビーム傾斜時の一次電子の中心軌道を表す図である。注目するエネルギーの二次電子42は対物レンズ物面Zmから外れた場所で集束している。
次に二次電子集束用レンズ21に電流、電圧を加え動作させる。このとき二次電子集束レンズ21の電圧、電流は対物レンズ14の電流変化に対し協働して動作する。一次電子と二次電子はエネルギーが大きく異なるため、同じレンズによる屈折力が異なる。一次電子を試料上の点Piに集束させつつ、二次電子42を対物レンズ14の物面Zm上の点P3に集束させるように対物レンズ14と二次電子集束用レンズ21の強度を同時に調整する(図11B)。
二次電子集束用レンズ21が動作したことにより、ビーム傾斜時の対物レンズ系は対物レンズ14、ブースター電極33、リターディング電場に加えて二次電子集束レンズ21の四者による合成レンズとなる。従って二次電子集束用レンズ21の電磁場によって対物レンズ系の球面収差係数と色収差係数が変化する。傾斜角毎に電磁場強度が異なるためこれらの収差係数は傾斜角毎に変化する。
次に、収差特性補償レンズ20を動作させる。一次電子の集束点P3を保ったまま、次式(2)が成り立つように、二次電子集束レンズ21と対物レンズ14の変化に合わせて、収差特性補償レンズ20と収差発生レンズ09が同時に調整され次式(2)が成立する。
二次電子集束レンズ21を含めた対物レンズ物面Zmで定義される対物レンズ系の球面と色収差係数をC´s OBJ、C´c OBJ、収差発生用レンズ09と収差特性補償レンズ20の合成レンズの球面収差係数と色収差係数をそれぞれC´s COR、C´c CORとする。
この動作により、任意のワーキングディスタンス、対物レンズ14のレンズ強度、ブースター電極33の加速電場、試料16の減速電場の強度に対して無傾斜時の二次電子の集束位置を二次電子偏向用EXB22の中心P3に設定できる。
次にビーム傾斜時の動作を説明する。図12はビーム傾斜時の一次電子の中心軌道である。一次電子43は収差補正用レンズ09の物点P2を中心とする収差発生用偏向器08により偏向され収差補正用レンズ09の軸外を通過する。その後、対物レンズ14の対称面Zmの中心点P3で光軸と交わり、P3と中心が一致する傾斜用偏向器12で振り戻され、対物レンズ14の軸外を通過して試料16に傾斜しながら照射される。
このとき、収差発生レンズ09の軸外を通過した一次電子は一次軸外色収差を受け、エネルギーの高い一次電子44とエネルギーの低い一次電子45に分散する。対物レンズ14の物面に配置された高次軸外色収差抑制レンズ11は、収差発生レンズ09で分散した一次電子を対物レンズ14の主面に集束させるようにレンズ強度が設定される。式(2)が成立するので一次軸外色収差、偏向コマ収差の補正と高次軸外色収差の抑制が行われる。傾斜角、傾斜方向を変える際には収差発生用偏向器08と傾斜用偏向器12による一次電子43の偏向角、偏向方向を変更する。
次に、対物レンズ14の軸外を通過することによる像面湾曲を補正するため対物レンズ14の励磁電流を調整する。対物レンズ14のレンズ強度が弱くなるため注目するエネルギーの二次電子42の集束点が対物レンズ14の物面Zmの点P3より上方にずれる。
次に無傾斜時の際の調整と同様に二次電子集束用レンズ21と対物レンズ14を同時に調整し、一次電子を試料上の点Piに集束させつつ、二次電子42を対物レンズ14の物面Zm上の点P3に集束させる。この調整は傾斜角によって異なるので収差係数は傾斜角毎に変化し、その比も変化する。二次電子集束レンズ21を含めた対物レンズ物面Zmで定義される対物レンズ系の球面と色収差係数を傾斜角θの関数としてC´s OBJ(θ)、C´c OBJ(θ)とする。
次に、収差特性補償レンズ20を動作させる。一次電子の集束点P3を常に保ったまま、次式(3)が成り立つように、二次電子集束レンズ21と対物レンズ14の変化に合わせて、傾斜角毎に収差特性補償レンズ20と収差発生レンズ09が同時に調整される。
但し、傾斜角がθのときの対物レンズ物面Zmで定義される収差発生用レンズ09と収差特性補償レンズ20の合成レンズの球面収差係数と色収差係数をそれぞれC´s COR(θ)、C´c COR(θ)とする。
本実施例によれば、任意のビーム傾斜角、傾斜方向に対して一次電子の一次軸外色収差と偏向コマ収差の同時補正と高次軸外色収差の発生抑制及び二次電子集束点の二次電子偏向EXB22の位置に固定でき二次電子の受ける幾何収差が最小化される。なお、検出器17の検出面の大きさは有限であるため、光軸から離間するに従って拡がる二次電子軌道が検出面から外れないように、二次電子収束レンズ21と対物レンズ14の強度を調整することによって、ビーム傾斜の程度に寄らず、二次荷電粒子の高効率検出を実現することが可能となる。
また二次電子EXB22により二次電子を偏向すると一次電子に色分散が発生する。本実施例では、二次電子偏向用EXB22が対物レンズの物面Zmと中心が一致するように配置されるために荷次電子偏向用EXB22により二次電子42が偏向されるときに一次電子に発生する色分散は対物レンズ14により試料上に集束されゼロとなる。また一次電子の傾斜角と二次電子偏向角が共に10°以下の低角度傾斜、偏向では、二次電子EXB22による一次電子の色分散による高次軸外色収差が顕在化しない。更に一次電子が二次電子偏向用EXB22の中心で集束するため二次電子偏向用EXB22のフォーカス作用、非点結像作用、2次収差の一次電子への影響が最小化される。
本実施例では、傾斜角を変えても常に、対物レンズ14の物面Zmが二次電子偏向用EXB22の中心と一致するので、10°以下の低角度傾斜、偏向では、二次電子偏向用EXBの動作によるビーム傾斜時の分解能劣化は顕在化しない。
本実施例によると、ビーム傾斜時の一次電子の収差補正を行いつつ、二次電子が二次電子偏向器22から受ける幾何収差を最小化し、精度の高い二次電子のエネルギー弁別ができるビーム傾斜光学系を提供できる。
本実施例では、傾斜角、傾斜方向毎に発生する偏向場が異なる傾斜用偏向器12と二次電子偏向用EXB22が対物レンズ物面Zmに配置されている。そのため二次電子偏向用EXBは一次電子を直進させる条件を保ったまま、傾斜用偏向器12が二次電子に与える偏向作用を打ち消すように偏向場を発生させる。
また、本実施例では傾斜用偏向器12と二次偏向用EXB22が一つの偏向ユニットであっても良い。
本実施例では、二次電子集束レンズ21が対物レンズ14の上側に、収差特性補償レンズ20が収差発生レンズ09の下側に配置された構成で説明したが、反対側に配置されても良い。
本実施例において弁別を行う二次電子のエネルギー領域の変更により着目する二次電子のエネルギーを変化させたたり、加速電圧、リターディング電圧や、ワーキングディスタンス等を変更したりする場合は、無傾斜時の二次電子42の集束位置の調整を再度実行すればよい。
また、本実施例において検出器17は複数配置しても良く、検出特性を変えた検出器や、エネルギーフィルタ機能を付加した検出器、分光器などを同時に配置しても良い。このとき検出器を切り替える際は、二次偏向用EXBによる二次電子42の偏向方向と角度を各検出器に対して個別に設定すれば良い。
また、本実施例では二次電子42の集束点を対物レンズ14と二次電子集束レンズ21の強度調整により対物レンズ14の物面Zmに固定したが、対物レンズ14の代わりにブースター電極33の加速電圧もしくは試料16のリターディング電圧を二次電子集束レンズ21と協働して調整しても良い。
本実施例における収差特性補償レンズ20と二次電子集束用レンズ21、収差発生用レンズ09及び高次軸外色収差抑制レンズ11は静電レンズ、磁場レンズ、電磁重畳レンズの何れでも良い。また収差発生用偏向器08及び傾斜用偏向器12は静電偏向器、磁場偏向器の何れでも良い。
本実施例では、第一の実施例において設計の制約上、二次電子偏向用EXB22が対物レンズ14の物面Zmに配置できない場合について好適な構成を提供する。図2は本実施例の光学系の構成概要図である。本実施例では二次電子偏向用EXB22が対物レンズ14の物面位置Zmに配置される高次軸外色収差抑制レンズ11と二次電子集束用レンズ21の間に配置される。また二次電子偏向用EXB22と高次軸外色収差抑制用レンズ11の間に新たに分散調整用EXB23が配置される。検出器17は分散調整用EXB23と二次電子偏向用EXB22の間に配置される。
本実施例では、二次電子偏向用EXB22の中心点Psに二次電子42が集束し、対物レンズ14の物面Zmが固定されるように対物レンズ14と二次電子集束用レンズ21の強度が調整される。収差発生レンズ09と収差特性補償レンズ20は対物レンズ14の物面Zmを固定しつつ式(3)が常に成立するようにレンズ強度が傾斜角毎に調整される。これにより、一次電子のビーム傾斜時の一次軸外色収差、偏向コマ収差の補正と高次軸外色収差の抑制及び二次電子の集束位置を二次電子偏向用EXB22の中心Psに固定する。二次電子42は二次電子偏向用EXB22により検出器17に向かって偏向される。
但し二次電子偏向用EXB22が対物レンズ14の物面Zmから離れているため、二次電子偏向用EXBが一次電子に与える色分散が顕在化する。分散調整用EXB23は平均エネルギーの一次電子を直進させ、且つ、二次電子偏向用EXB22を出たエネルギーの異なる一次電子の分散の起点が仮想的に対物レンズ14の物面Zmの中心点P3となるように調整される。その結果、分散調整用EXB23と二次電子偏向用EXB22で生じる一次電子の色分散は対物レンズ14により試料16上に集束されゼロとなり顕在化しない。
本実施例では、二次電子偏向用EXB22及び分散調整用EXB23上で一次電子が広がっているためEXBのレンズ作用と非点結像作用を受ける。但し本実施例では、二次電子偏向用EXB22と分散調整用EXB23の強度が傾斜角、傾斜方向に依らず固定される。従って非点結像作用は非点補正器07の無傾斜時の調整で補正できる。また無傾斜時の対物レンズ14、二次電子集束レンズ21、収差発生レンズ09、収差特性補償レンズ20の調整を二次電子偏向用EXB22と分散調整用EXB23のレンズ作用を加味した上で実施すれば良い。
本実施例では、第一の実施例において、傾斜角10°、二次電子偏向角10°以上の大角度の際に二次電子偏向用EXB22が一次電子に与える色分散がビーム傾斜時の高次軸外色収差を顕在化させる場合について、高次軸外色収差を発生させない好適な構成を提供する。
図3は本実施例の構成概略図である。本実施例では二次電子偏向用EXB22が対物レンズ14の物面位置Zmに配置される高次軸外色収差抑制レンズ11と二次電子集束用レンズ21の間に配置される。検出器17は高次軸外色収差抑制レンズ11と二次電子偏向用EXB22の間に配置される。また高次軸外色収差抑制レンズ11と同位置に分散補償用第二EXB32が配置される。対物レンズ14の物面Zmを挟んで対称な位置に二次電子偏向用EXB22と全く同じEXBである分散補償用第一EXB31が配置される。
本実施例では、第二の実施例と同じく対物レンズ14、二次電子集束レンズ21、収差発生レンズ09、収差特性補償レンズ20の調整が二次電子偏向用EXB22と分散補償用第一EXB31のレンズ作用を加味した上で実施され、二次電子42の集束点が二次電子偏向用EXB22の中心点Psに固定される。
二次電子偏向用EXB22と分散補償用第一EXB31は全く同じEXBであり発生させる双極電磁場の強度も同じである。但し双極電磁場の発生方向は、高次軸外色収差抑制レンズ11が磁場レンズの場合はその回転角だけ回転させる。
これらのEXBの一次電子に対する作用を説明する。分散補償用第一EXB31により一次電子に色分散が発生する。この色分散は分散補償用第一EXB31の中心PAを起点として発生する。分散補償用第二EXB32は分散補償用第一EXB31により発生した色分散が高次軸外色収差抑制レンズ11のレンズ作用を含めて、二次電子偏向用EXB22の中心PSに集束するように双極場を発生する。更に二次電子偏向用EXB22の色分散が加わり、二次電子偏向用EXB22通過後には色分散が完全に補正される。従って対物レンズ14の主面上で二次電子偏向用EXBの色分散はゼロであり、大角度傾斜時、大角度二次電子偏向時でも高次軸外色収差を発生させることは無い。
また、本実施例では一次電子が広がっている二次電子偏向用EXB22と分散補償用第一EXB31の電磁場強度、方向、分布が一次電子の集束面Zmに関して対称なので、二次電子偏向用EXB22と分散補償用第一EXB31の一次電子に対する2次収差が同時に補正される。
また、本実施例は二次電子偏向用EXB22と分散補償用第一EXB31の対称配置に制約されるものではない。下から順に二次電子偏向用EXB22、分散補償用第二EXB32、分散補償用第一EXB31の3つのEXBが配置されており各々のEXBの双極場強度、方向を適切に設定すると、電磁場分布、配置の如何に関わらずEXBによる色分散を完全に補正でき、EXBの2次収差が顕在化しない範囲で大角度傾斜、大角度二次電子偏向が実現できる。
第一、第二、第三の実施例はビーム傾斜時の対物レンズの収差を補正するための収差は収差発生用レンズ09とその軸外に一次電子を通過させる収差発生用偏向器08により発生させ、ビーム傾斜時の高次軸外色収差の抑制をレンズによって実現する構成である。
本実施例におけるビーム傾斜時の補正収差発生及び高次軸外色収差抑制のためのユニットは、上記の構成に限定されず、多極子を用いても良い。本実施例では斜時の収差発生ユニットに収差補正用多極子を使用し、高次軸外色収差の抑制光学要素として四極子場を発生させることができる多極子を用いる場合を説明する。
図4は本実施例の構成概略図である。本実施例では第一の実施例の光学系構成において、収差発生用レンズ09の代わりに、収差発生用多極子50が、収差特性補償用レンズ20と第二コンデンサレンズ06の間に配置される。対物レンズ14の物面Zmに、傾斜用偏向器12、二次電子偏向用EXB22及び高次軸外色収差抑制用多極子51が配置される。
一次電子は収差発生用多極子50上で適切に広がっており、高次軸外色収差抑制用多極子37の中心点P3で集束し一次電子に対し余計な収差を発生させないようにされている。
収差発生用多極子50は対物レンズ14の物面Zmにおいて対物レンズ14と等価な色収差とコマ収差を発生させるように調整されている。
対物レンズ14と二次電子集束レンズ21は、第一の実施例と同じく、ビーム傾斜角に応じて、一次電子を試料上に集束させ且つ二次電子42を二次電子偏向用EXB22の中心点P3に集束させるように協働して動作する。
また傾斜角、方向毎に高次軸外色収差抑制用多極子51の中心点P3に常に一次電子が集束し、且つ対物レンズ系と同量逆符号の色分散と2次コマ収差が発生するように、収差発生用多極子50、収差特性補償用レンズ20の強度が傾斜角毎に協働して調整される。
高次軸外色収差抑制用多極子51は、四極子場を発生させる。この四極子場の非点結像作用で、ビーム傾斜時の色収差の補正のために収差発生多極子50が発生させる色収差を対物レンズ14の主面に集束させる。この結果、高次軸外色収差の発生が抑制される。ビームの傾斜角、傾斜方向を変更する際は収差発生用多極子50の多極子強度と方向を変更し、高次軸外色収差抑制用多極子51の四極子場の方向を変更すれば良い。
本実施例では二次電子偏向用EXB22が対物レンズ14の物面Zmに配置されるので第一の実施例と同じく二次電子偏向用EXB22が一次電子に与える色分散は試料16上でゼロとなり顕在化しないため低角度傾斜、二次電子低角度偏向時には問題が無い。
大角度傾斜、二次電子大角度偏向を実施する場合には第三の実施例のように二次電子偏向用EXB22の上方に分散補償用のEXBを2段配置すればよい。
第二コンデンサレンズ06と収差発生用多極子50の間に偏向器を追加したユニットを収差発生ユニットとし、収差発生用多極子51の軸外に一次電子を通過させることで色収差とコマ収差の発生比率の調整を行っても良い。
本実施例における収差発生多極子50、高次収差抑制用多極子51は静電型、磁場型、電磁重畳型の何れでも良い。
本実施例ではビーム傾斜時の収差発生ユニット及び高次軸外色収差の抑制光学要素としてウィーンフィルタを用いる場合について説明する。
図5は本実施例の構成外略図である。本実施例では収差発生用レンズ09の代わりに、収差発生用ウィーンフィルタ36が、収差特性補償用レンズ20と第二コンデンサレンズ06の間に配置される。対物レンズ14の物面Zmに、傾斜用偏向器12と高次軸外色収差抑制用ウィーンフィルタ37が配置される。傾斜用偏向器12の偏向場は高次軸外色収差抑制ウィーンフィルタ37に重畳しても良い。また二次電子偏向用EXB22は、二次電子集束用レンズ22と高次軸外色収差抑制用ウィーンフィルタ37の間に配置され、検出器17は二次電子偏向用EXB22と高次軸外色収差抑制用ウィーンフィルタ37の間に配置される。
一次電子は収差発生用ウィーンフィルタ36上で適切に広がっており、高次軸外色収差抑制用ウィーンフィルタ37の中心点P3で集束し一次電子に対し余計な収差を発生させないようにされている。
収差発生用ウィーンフィルタ36は、双極場の強度と方向に従って一次電子の色分散と2次収差を発生させる。本構成では発生する2次収差のうち2次コマ収差を対物レンズ14のビーム傾斜時の収差補正に用いる。収差発生用ウィーンフィルタ36は対物レンズ14の物面Zmにおいて対物レンズ14と等価な色分散と2次コマ収差を発生させるように調整されている。
対物レンズ14と二次電子集束レンズ21は、第一の実施例と同じく、ビーム傾斜角に応じて、一次電子を試料上に集束させ且つ二次電子42を二次電子偏向用EXB22の中心点PSに集束させるように協働して動作する。
また傾斜角、方向毎に高次軸外色収差抑制用ウィーンフィルタ37の中心点P3に常に一次電子が集束し、且つ対物レンズ系と同量逆符号の色分散と2次コマ収差が発生するように、収差発生用ウィーンフィルタ36、収差特性補償用レンズ20の強度が傾斜角毎に協働して調整される。
高次軸外色収差抑制用ウィーンフィルタ37は収差発生用ウィーンフィルタ36で発生する色分散を対物レンズ14の主面に集束するように双極場を発生させるように動作させる。傾斜角、傾斜方向を変更する場合は、収差発生用ウィーンフィルタ36と高次軸外色収差抑制用ウィーンフィルタ37の双極場、四極場の発生強度と方向を変更すればよい。
次に二次電子軌道の色分散の補正について説明する。本実施例では第三の実施例における分散補償第一EXB31の役割を収差発生用ウィーンフィルタ36が分散補償第二EXB32の役割を高次軸外色収差抑制用ウィーンフィルタ37が担う。二次電子偏向器22の動作により一次電子に発生する色分散を補正するように収差発生用ウィーンフィルタ36と高次軸外色収差抑制用ウィーンフィルタ37が二次電子の偏向方向に色分散を発生させるように双極場を重畳すれば良い。注目する二次電子のエネルギー、偏向方向、偏向角度に応じて重畳する場の強度と方向を設定する。これによりビーム傾斜時の一次電子の高次軸外色収差の発生が抑制される。
本実施例により、ウィーンフィルタを収差発生ユニット及び高次軸外色収差抑制用光学要素として用いてもビーム傾斜時の一次電子の収差補正と二次電子の高精度弁別のための集束位置の制御が両立する。
第二コンデンサレンズ06と収差発生用ウィーンフィルタ36の間に偏向器を追加したユニットを収差発生ユニットとし、収差発生用ウィーンフィルタ36の軸外に一次電子を通過させることで色分散の2次コマ収差の発生比率の調整を行っても良い。
また第一、第二、第三、第四及び本実施例において、収差発生光学要素はレンズ、多極子、ウィーンフィルタの何れでも可である。また高次軸外色収差抑制用光学要素もレンズ、四極子場の発生できる多極子、ウィーンフィルタの何れでも可である。
本実施例では、第一の実施例の構成において、高次色収差抑制レンズ11と二次電子偏向用EXB22の中心を一致させて同じ位置に配置するための構成の一例を説明する。
図6は本実施例でのレンズとEXBの構成を示す断面図である。図6AはXZ断面図を図6Bは対物レンズ14の物面Zmの位置でのXY断面図である。物面ZmをZ方向の対称中心として常磁性金属の電極150〜153が配置され、その外に強磁性体コアを巻型に使用しない偏向コイル154〜157が配置され、EXBを形成する。またEXBの外側に磁場円レンズ用のコイル158が配置され、これらの構成物は、強磁性金属の円レンズ磁路159でケーシングされる。図示されていないが各電極、コイルには偏向双極電場、偏向双極磁場、円レンズ磁場を発生させるための電圧、電流を供給する電源が接続されている。これらの電源は二次電子偏向用EXB制御部110で制御される。
本実施例の構成ではEXBの偏向双極電場を発生させる電極を最も内側に配置することで発生した電場が静電遮蔽されるのを防ぐことができる。また電極材料を常磁性金属とすることで双極磁場や円レンズ磁場の発生を阻害しない。また双極磁場を発生させるコイル154〜157の巻型に強磁性体コアを使用しないことで、最も外側に配置した円レンズ用コイル158による円レンズ磁場の発生を妨げずに、偏向双極磁場を発生できる。
本実施例では二次電子偏向用EXBの電極数を八極ないし十二極としたり、偏向コイルの巻線数の方位分布を調整したりして、六極子場以上の多極子場の発生を抑制しても良い。
本実施例では、第一から第三の実施例の構成において、高次色収差抑制レンズ11と二次電子偏向用EXB22の中心を一致させて同じ位置に配置するための第二の構成を説明する。
本実施例では、二次電子偏向用EXBの電極と磁極を共通の電磁極とし、電場と磁場の分布を一致させ、ウィーンフィルタユニットとする。図7は本ウィーンフィルタユニットの構成を示す断面図である。本実施例では四つの電磁極201、202、203、204が各々方位方向に90°だけ回転して配置されている。各電磁極は強磁性体金属を材料とし、磁場励起用のコイルが巻かれている。図示はしないが、それぞれの電磁極とコイルには、独立に直流電源が接続されている。
電磁極201〜204に同じ電圧を与えると、四つの電磁極が同電位となり静電円レンズ場が発生する。但し、同時に静電八極子場が発生する。電圧が正の場合は加速レンズ、負の場合は減速レンズ場が発生する。
静電円レンズ場を発生させる電圧を全ての電磁極に印加したまま、各電磁極201〜204に独立に電圧を重畳させることで、任意の方向に双極電場を発生させることができる。また電磁極励磁用のコイルに適切に電流を流すことで任意の方向に双極磁場を発生させることができる。
また本実施例は、第一、第二、第三、第四の実施例で用いられるEXB及びウィーンフィルタの構成としても好適である。
第七の実施例で示したウィーンフィルタユニットでは静電円レンズ場とともに静電八極子場が発生する。八極子場は三次幾何収差と三次色収差を発生させる。ビーム傾斜角や二次電子偏向角が大きくなるとこれらの収差が顕在化する可能性がある。そのためここでは、更に好適な例として八個の電磁極を用いたウィーンフィルタユニットを説明する。図8は本実施例の構成を示す断面図である。
本ウィーンフィルタユニットは8個の電磁極211〜218と電磁極を励磁するコイルにより構成されている。各電磁極とコイルには独立に電圧、電流を供給する電源が接続されている。
8個の電磁極に同じ電圧を印加すると静電円レンズ場と共に静電十六極子場が発生する。静電十六極子場の収差は七次の幾何収差と七次の色収差である。これらの収差は実用上問題にならないため無視できる。本構成では8個の電磁極に独立に電圧、電流を印加することで、静電円レンズ場の他に双極電場、双極磁場と四極電場、四極磁場を任意の方向に発生させることができる。
また、電磁極数を12とし、円レンズ場、双極場、四極場、六極場を任意に発生させるようにしても良い。
またウィーンフィルタユニットの電磁極励磁コイルに、全ての電磁極がN極もしくはS極に励磁するように電流を流すと同様に円レンズ磁場と八極子磁場、十六極子磁場を発生させることができる。
また本実施例は、第一、第二、第三、第四、第五の実施例で用いられるEXB及びウィーンフィルタの構成として最も好適である。双極子場に加えて四極子場を自由に発生させることができるので、四極子の色消しをしたままウィーンフィルタの非点結像作用のキャンセルが可能である。また第四の実施例における高次軸外色収差抑制用多極子の構成としても最適である。
本実施例では、ビーム傾斜時の一次電子と二次電子の制御フローを説明する。図10は光学系制御部116の構成を示す図である。また図9は本実施例による一次電子のビーム傾斜のフローチャートである。
ステップ001で観察する光学条件(加速電圧、ブースター電圧、リターディング電圧、集束させる二次電子のエネルギー)を光学条件設定部301により設定する。
ステップ002で観察位置に試料ステージを移動させる。
ステップ003で試料高さ計測装置120によりワーキングディスタンスを計測する。
ステップ004で、画像取得する検出器を選択する。
ステップ005で、傾斜角度、傾斜方向を入力する。
ステップ006で、ステップ001において設定した光学条件、ステップ004において選択した検出器、ステップ005で入力した傾斜角度と傾斜方向に従って、偏向器動作
条件記録部303、レンズ動作条件記録部304、EXB動作条件記録部305、非点補正器動作条件記録部306に記録されている動作条件テーブルを読み出し、ステップ003において計測したワーキングディスタンスに基づいて動作条件演算部302で各レンズ、各EXBもしくはウィーンフィルタ、各多極子、各偏向器、非点補正器の電圧、電流を決定し、各制御部を通じて設定する。
ステップ007で、フォーカス、スティグマの微調整を行う。このとき、フォーカス微調整はステップ005において、演算された動作条件に基づき、対物レンズ14と二次電子集束レンズ20のレンズ強度が連動して変化し、二次電子の集束位置が変化せずに、一次電子のフォーカスだけ変化するように実行される。
ステップ008で傾斜SEM像を取得する。
ステップ009で傾斜角度、方向の変更要否を判断し、変更する場合はステップ005に戻る。
ステップ010で画像取得する検出器の変更要否を判断し、変更する場合はステップ004に戻る。
ステップ110で試料観察位置の変更要否を判断し、変更する場合はステップ002に戻る。