以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
《第1の実施形態》
図1は、第1の実施形態に係る多層基板101の断面図である。図2は、多層基板101の分解平面図である。なお、図2では、構造を分かりやすくするため、コイル導体パターン31,32,33,34をドットパターンで示している。また、図1において、各部の厚みは誇張して図示している。このことは以降に示す各断面図でも同様である。
多層基板101は、積層体10、段差部SP、コイル3、外部接続電極P1,P2等を備える。
積層体10は、第1領域F1および第2領域F2を有しており、コイル3は第1領域F1に形成されている。また、積層体10は、第1主面VS1と、第1主面VS1に対向する第2主面VS2A,VS2Bと、を有する。第2主面VS2Aは第1領域F1に位置する面であり、第2主面VS2Bは第2領域F2に位置する面である。外部接続電極P1は、第2領域F2の第2主面VS2Bに形成されており、外部接続電極P2は、第1領域F1の第2主面VS2Aに形成されている。
積層体10は、長手方向がX軸方向に一致する矩形の絶縁体平板である。積層体10は、樹脂(熱可塑性樹脂)を主材料とする複数の絶縁基材層15,14,13,12,11をこの順に積層して形成される。積層体10の第1領域F1は、絶縁基材層15,14,13,12,11の順に積層して形成される。第2領域F2は、絶縁基材層12,11の順に積層して形成される。図1に示すように、絶縁基材層11,12は、第1領域F1と第2領域F2とに亘って形成される絶縁基材層である。絶縁基材層11,12,13,14,15は、例えばポリイミド(PI)や液晶ポリマー(LCP)等を主材料とする樹脂シートである。
第2領域F2の絶縁基材層の積層数(2層)は、第1領域F1の絶縁基材層の積層数(5層)よりも少ない。そのため、積層体10の第2領域F2は、第1領域F1よりも曲がり易く、可撓性を有する。第1領域F1は、第2領域F2よりも硬く、第2領域F2よりも曲がり難い。また、複数の絶縁基材層の積層数の相違により、第1領域F1と第2領域F2との境界に段差部SPが形成される。本実施形態に係る段差部SPは、YZ平面に略平行である。
絶縁基材層11,12,13,14,15は、それぞれ長手方向がX軸方向に一致する矩形の平板である。絶縁基材層11,12のX軸方向の長さは、絶縁基材層13,14,15のX軸方向の長さよりも長い。絶縁基材層11,12の平面形状は略同じであり、絶縁基材層13,14,15の平面形状は略同じである。
絶縁基材層11の裏面には、コイル導体パターン31および導体21が形成されている。コイル導体パターン31は、絶縁基材層11の中央より第1辺(図2における絶縁基材層11の左辺)寄りの位置に配置される1ターン弱の矩形ループ状の導体パターンである。導体21は、X軸方向に延伸する線状の導体パターンである。コイル導体パターン31および導体21は、例えばCu箔等の導体パターンである。
絶縁基材層12の裏面には、コイル導体パターン32および外部接続電極P1が形成されている。コイル導体パターン32は、絶縁基材層12の中央より第1辺(図2における絶縁基材層12の左辺)寄りの位置に配置される1ターン弱の矩形ループ状の導体パターンである。外部接続電極P1は、絶縁基材層12の第2辺(図2における絶縁基材層12の右辺)中央付近に配置される矩形の導体パターンである。コイル導体パターン32および外部接続電極P1は、例えばCu箔等の導体パターンである。
また、絶縁基材層12には、層間接続導体V1,V2が形成されている。
絶縁基材層13の裏面には、コイル導体パターン33が形成されている。コイル導体パターン33は、絶縁基材層13の外形に沿って巻回される1ターン弱の矩形ループ状の導体パターンである。コイル導体パターン33は、例えばCu箔等の導体パターンである。
また、絶縁基材層13には、層間接続導体V3が形成されている。
絶縁基材層14の裏面には、コイル導体パターン34が形成されている。コイル導体パターン34は、絶縁基材層14の外形に沿って巻回される1ターン弱の矩形ループ状の導体パターンである。コイル導体パターン34は、例えばCu箔等の導体パターンである。
また、絶縁基材層14には、層間接続導体V4が形成されている。
絶縁基材層15の裏面には、外部接続電極P2が形成されている。外部接続電極P2は、絶縁基材層15の中央より第1辺(図2における絶縁基材層15の左辺)寄りの位置に配置される矩形の導体パターンである。外部接続電極P2は、例えばCu箔等の導体パターンである。
また、絶縁基材層15には、層間接続導体V5が形成されている。
外部接続電極P1は、層間接続導体V1を介して導体21の第1端に接続される。導体21の第2端は、コイル導体パターン31の第1端に接続される。コイル導体パターン31の第2端は、層間接続導体V2を介してコイル導体パターン32の第1端に接続される。コイル導体パターン32の第2端は、層間接続導体V3を介してコイル導体パターン33の第1端に接続される。コイル導体パターン33の第2端は、層間接続導体V4を介してコイル導体パターン34の第1端に接続される。コイル導体パターン34の第2端は、層間接続導体V5を介して外部接続電極P2に接続される。
このように、コイル導体パターン31,32,33,34および層間接続導体V2,V3,V4によって、Z軸方向に巻回軸AXを有する約3.5ターンのヘリカル状のコイル3が構成される。
図1等に示すように、コイル導体パターン31,32,33,34は、複数の絶縁基材層11,12,13,14,15の積層方向(Z軸方向)から視て、互いに略重なるように配置されている。また、図1等に示すように、コイル導体パターン31,32,33,34は、Z軸方向から視て、段差部SPに沿って近接する部分(図2におけるコイル導体パターン31,32,33,34のうち、Y軸方向に延伸する右辺部分)に、他の部分よりも相対的に線幅の広い幅広部WPを有する。
本実施形態では、図2に示すように、幅広部WPが、段差部SPに沿ってY軸方向に延伸する直線状である。
ここで、本発明における「段差部に沿って近接する部分」とは、コイル導体パターン31,32,33,34のうち、段差部SPに沿って延伸する部分で、且つ、他の部分よりも段差部SPに近接して配置されている部分を言う。また、本実施形態では、幅広部WPと段差部SPとが略平行である例を示したが、「段差部に沿って近接する部分」と段差部SPとが厳密に平行であるものに限るものではない。本発明における「段差部に沿った部分」とは、例えば、コイル導体パターンのうち、コイル導体パターンの延伸方向と段差部SPとのなす角度が−30°から+30°の範囲内である部分を言う。
本実施形態に係る多層基板101によれば、次のような効果を奏する。
(a)本実施形態では、コイル導体パターン31,32,33,34のうち、段差部SPに近接する位置に、他の部分よりも線幅の広い幅広部WPが配置される。一般に、段差部SP近傍は、加熱加圧時に高い圧力が加わり、プレス機による熱の影響を受けやすいため、加熱加圧時における絶縁基材層の流動は大きい。一方、上記構成では、加熱加圧時における段差部SP近傍の絶縁基材層の流動が、他の部分よりも線幅の広い幅広部WPによって抑制される。そのため、この構成によれば、加熱加圧時に、段差部SP近傍に位置するコイル導体パターンの位置ずれや変形等を抑制でき、コイル導体パターンの位置ずれや変形等に伴うコイルの特性変化を抑制できる。
なお、本実施形態では、複数の絶縁基材層11,12,13,14,15が熱可塑性樹脂からなる。そのため、接合層(例えば、半硬化状態のプリプレグ樹脂シート)を用いて積層体を形成する場合に比べ、加熱加圧時における絶縁基材層の流動が大きくなりやすく、コイル導体パターンの位置ずれや変形等の伴うコイルの特性変化が生じやすい。したがって、上記構成は、接合層を用いずに積層体を形成する場合に特に有効である。
(b)本実施形態では、幅広部WPが段差部SPに沿って略平行に配置されている。この構成により、加熱加圧時における段差部SP近傍の絶縁基材層の流動を効果的に抑制できる。なお、段差部SPに沿って略平行に配置される幅広部WPの長さは、長い方が好ましい。
(c)また、本実施形態では、幅広部WPが、段差部SPに沿ってY軸方向に延伸する直線状である。この構成では、段差部SPに沿って略平行に配置される幅広部WPが、一定の長さを有した形状となるため、加熱加圧時における段差部SP近傍の絶縁基材層の流動を効果的に抑制できる。
(d)本実施形態では、複数の絶縁基材層11,12,13,14,15が熱可塑性樹脂からなる。この構成によれば、後に詳述するように、積層した複数の絶縁基材層11,12,13,14,15を一括プレスすることにより、積層体10を容易に形成できるため、多層基板101の製造工程が削減され、コストを低く抑えることができる。
本実施形態に係る多層基板101は、例えば次に示す製造方法によって製造される。図3は、多層基板101の製造工程を順に示す断面図である。なお、図3では、説明の都合上個片(ワンチップ)での製造工程で説明するが、実際の多層基板の製造工程は集合基板状態で行われる。このことは、以降の製造工程を示す各断面図においても同様である。
まず、図3中の(1)に示すように、複数の絶縁基材層11,12,13,14,15を準備して、複数の絶縁基材層11,12,13,14,15に、コイル導体パターン31,32,33,34、導体21および外部接続電極P1,P2を形成する。具体的には、集合基板状態の絶縁基材層11,12,13,14,15の片側主面(裏面)に金属箔(例えばCu箔)をラミネートし、その金属箔をフォトリソグラフィでパターンニングする。これにより、絶縁基材層11の裏面にコイル導体パターン31および導体21を形成し、絶縁基材層12の裏面にコイル導体パターン32および外部接続電極P1を形成する。また、絶縁基材層13の裏面にコイル導体パターン33を形成し、絶縁基材層14の裏面にコイル導体パターン34を形成し、絶縁基材層15の裏面に外部接続電極P2を形成する。
絶縁基材層11,12,13,14,15は例えばポリイミド(PI)や液晶ポリマー(LCP)等を主材料とする樹脂(熱可塑性樹脂)シートである。
また、複数の絶縁基材層12,13,14、15には、層間接続導体(図2における層間接続導体V1,V2,V3,V4,V5)が形成される。層間接続導体は、絶縁基材層にレーザー等で貫通孔を設けた後、Cu,Sn等のうち1以上もしくはそれらの合金を含む導電性ペーストを配設し、後の加熱加圧で硬化させることによって設けられる。そのため、層間接続導体は、後の加熱加圧の温度よりも融点(溶融温度)が低い材料とする。
次に、図3中の(2)に示すように、上部金型1および下部金型2を用いて、Z軸方向に向かって、積層した複数の絶縁基材層11,12,13,14,15を加熱加圧する(図3中の(2)の白抜き矢印参照)。具体的には、下部金型2の上に、複数の絶縁基材層15,14,13,12,11の順に積層した後、上部金型1および下部金型2を用いて、積層した複数の絶縁基材層11,12,13,14,15を加熱加圧して積層体を形成する。
その後、上部金型1および下部金型2から集合基板状態の積層体を取り外し、集合基板状態の積層体を分断することで、図3中の(3)に示すような個別の多層基板101を得る。
この製造方法によれば、積層した複数の絶縁基材層11,12,13,14,15を一括プレスすることにより、積層体10を容易に形成できる。そのため、多層基板101の製造工程が削減され、コストを低く抑えることができる。
本実施形態に係る多層基板101は、例えば次のように用いられる。図4は、多層基板101を備える通信モジュール201の回路図である。図4において、多層基板101が備えるコイル3をコイルアンテナANTで表している。
通信モジュール201は、コイルアンテナANT(多層基板101)、キャパシタC1およびIC4を備える。図4に示すように、IC4にコイルアンテナANTが接続され、コイルアンテナANTにキャパシタC1が並列接続されている。IC4、キャパシタC1および多層基板101は、図示しない回路基板に実装され、回路基板に形成される導体パターンにより電気的に接続される。多層基板101は、外部接続電極(図1における外部接続電極P1,P2)を、はんだ等の導電性接合材を介して回路基板に接合することによって、回路基板に接続される。
図4に示すコイルアンテナANTとキャパシタC1とIC4自身が持つ容量成分とで、LC共振回路が構成される。IC4は、例えばパッケージングされたRFICチップ(ベアチップ)である。キャパシタC1は、例えばチップ型キャパシタなどである。
多層基板101では、コイル導体パターン31,32,33,34が、他の部分よりも相対的に線幅の広い幅広部WPを有するため、幅広部WPを有していない場合に比べて、コイルアンテナANTのインダクタンス成分は小さくなる。したがって、幅広部WPを有していない場合に比べて、キャパシタC1の容量成分を少し大きく設定してLC共振回路を構成できる。
なお、図4では、キャパシタC1が、回路基板に実装されるチップ型キャパシタである例を示したが、これに限定されるものではない。キャパシタC1は、例えば多層基板101に実装されていてもよい。また、キャパシタC1はチップ部品に限定されるものではない。キャパシタC1は、例えば、複数の絶縁基材層に形成される、互いに対向する導体パターン間に形成される層間容量でもよい。
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、コイル導体パターンの形状が、第1の実施形態とは異なる例を示す。
図5は、第2の実施形態に係る多層基板102の断面図である。図6は、多層基板102の分解平面図である。なお、図6では、構造を分かりやすくするため、コイル導体パターン31,32,33,34をドットパターンで示している。
多層基板102は、コイル導体パターン31A,32A,33A,34Aおよび外部接続電極P2Aの形状が、第1の実施形態に係る多層基板101と異なる。また、多層基板102は、積層体10の第2主面VS2Aに保護層5が形成されている点で、多層基板101と異なる。多層基板102の他の構成については、多層基板101と実質的に同じである。
以下、第1の実施形態に係る多層基板101と異なる部分について説明する。
コイル導体パターン31Aは、絶縁基材層11の中央より第1辺(図6における絶縁基材層11の左辺)寄りの位置に配置される約1.5ターンの矩形スパイラル状の導体パターンである。
コイル導体パターン32は、絶縁基材層12の中央より第1辺(図6における絶縁基材層12の左辺)寄りの位置に配置される約1.5ターンの矩形スパイラル状の導体パターンである。
コイル導体パターン33は、絶縁基材層13の外形に沿って巻回される約1.5ターンの矩形スパイラル状の導体パターンである。
コイル導体パターン34は、絶縁基材層14の外形に沿って巻回される約1.5ターンの矩形スパイラル状の導体パターンである。
外部接続電極P2Aは、絶縁基材層15の裏面に形成されるL字形の導体パターンである。
保護層5は、平面形状が絶縁基材層15と略同じであり、絶縁基材層15の裏面に積層される。保護層5は、外部接続電極P2Aの位置に応じた位置に、矩形の開口部APを有する。そのため、絶縁基材層15の裏面に保護層5が形成(積層)されることにより、外部接続電極P2Aが積層体10の第2主面VS2Aに露出する。保護層5は、例えばカバーレイフィルム、またはソルダーレジスト膜である。
なお、保護層5は必須の構成ではない。また、本実施形態では、保護層5が、積層体10の第2主面VS2A側に形成される例を示したが、保護層が第1主面VS1側に形成される構成でもよく、第2主面VS2B側に形成される構成でもよい。
外部接続電極P1は、層間接続導体V1を介して導体21の第1端に接続される。導体21の第2端は、コイル導体パターン31Aの第1端に接続される。コイル導体パターン31Aの第2端は、層間接続導体V2を介してコイル導体パターン32Aの第1端に接続される。コイル導体パターン32Aの第2端は、層間接続導体V3を介してコイル導体パターン33Aの第1端に接続される。コイル導体パターン33Aの第2端は、層間接続導体V4を介してコイル導体パターン34Aの第1端に接続される。コイル導体パターン34Aの第2端は、層間接続導体V5を介して外部接続電極P2Aに接続される。
本実施形態では、コイル導体パターン31A,32A,33A,34Aおよび層間接続導体V2,V3,V4によって、Z軸方向に巻回軸AXを有する約6ターンのコイル3Aが構成される。
図5等に示すように、コイル導体パターン31A,32A,33A,33A,34Aは、Z軸方向から視て、段差部SPに沿って近接する部分(図6におけるコイル導体パターン31A,32A,33A,34Aのうち、Y軸方向に延伸する右辺部分)に、他の部分よりも相対的に線幅の広い幅広部WPを有する。
このような構成でも、多層基板102の基本的な構成は、第1の実施形態に係る多層基板101と同じであり、多層基板101と同様の作用・効果を奏する。
また、本実施形態で示したように、コイルは、矩形スパイラル状のコイル導体パターンを層間接続導体で接続する構成でもよい。
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、複数の第2領域を有する多層基板の例を示す。
図7は、第3の実施形態に係る多層基板103の平面図である。図8(A)は多層基板103の正面図であり、図8(B)は多層基板103の右側面図である。図9は、多層基板103の分解平面図である。なお、図9では、構造を分かりやすくするため、コイル導体パターン31B,32B,33B,34Bをドットパターンで示している。
多層基板103は、積層体の形状が、第1の実施形態に係る多層基板101と異なる。また、多層基板103は、導体22,23および層間接続導体V6等を備える点で、多層基板101と異なる。多層基板103の他の構成については、多層基板101と実質的に同じである。
以下、第1の実施形態に係る多層基板101と異なる部分について説明する。
多層基板103は、積層体10B、段差部SP1,SP2、コイル3B、外部接続電極P1,P2B等を備える。
積層体10Bは、第1領域F1および第2領域F21,F22を有しており、コイル3Bは、第1領域F1に形成されている。また、積層体10Bは、第1主面VS1と、第1主面VS1に対向する第2主面VS2A,VS2B,VS2Cを有する。第2主面VS2Aは第1領域F1に位置する面であり、第2主面VS2Bは第2領域F21に位置する面であり、第2主面VS2Cは第2領域F22に位置する面である。外部接続電極P1は、第2領域F21の第2主面VS2Bに形成されており、外部接続電極P2Bは、第2領域F22の第2主面VS2Cに形成されている。
積層体10Bは、長手方向がX軸方向に一致するL字形の絶縁体平板である。積層体10Bは、樹脂(熱可塑性樹脂)を主材料とする複数の絶縁基材層14b,13b,12b,11bの順に積層して形成される。積層体10Bの第1領域F1は、絶縁基材層14b,13b,12b,11bの順に積層して形成される。第2領域F21,F22は、絶縁基材層12b,11bの順に積層して形成される。図9に示すように、絶縁基材層11b,12bは、第1領域F1と第2領域F21,F22とに亘って形成される絶縁基材層である。
第2領域F21,F22の絶縁基材層の積層数(2層)は、第1領域F1の絶縁基材層の積層数(4層)よりも少ない。そのため、複数の絶縁基材層の積層数の相違により、第1領域F1と第2領域F21との境界に段差部SP1が形成される。また、複数の絶縁基材層の積層数の相違により、第1領域F1と第2領域F22との境界に段差部SP2が形成される。
本実施形態に係る段差部SP1はYZ平面に略平行であり、本実施形態に係る段差部SP2はXZ平面に略平行である。
絶縁基材層11b,12bは、長手方向がX軸方向に一致するL字形の平板である。絶縁基材層13b,14bは、長手方向がX軸方向に一致する矩形の平板である。絶縁基材層11b,12bのX軸方向の長さは、絶縁基材層13b,14bのX軸方向の長さよりも長い。また、絶縁基材層11b,12bの一部(図9における絶縁基材層11b,12bの左下部分)のY軸方向の長さは、絶縁基材層13b,14bのY軸方向の長さよりも長い。絶縁基材層11b,12bの平面形状は略同じであり、絶縁基材層13b,14bの平面形状は略同じである。
絶縁基材層11bの裏面には、コイル導体パターン31Bおよび導体21が形成されている。コイル導体パターン31Bは、絶縁基材層11Bの中央付近に配置される1ターン弱の矩形ループ状の導体パターンである。導体21は、X軸方向に延伸する線状の導体パターンである。
絶縁基材層12bの裏面には、コイル導体パターン32Bおよび外部接続電極P1,P2Bが形成されている。コイル導体パターン32Bは、絶縁基材層12bの中央付近に配置される1ターン弱の矩形ループ状の導体パターンである。外部接続電極P1は、絶縁基材層12bの第2辺(図9における絶縁基材層12bの右辺)中央付近に配置される矩形の導体パターンである。外部接続電極P2Bは、絶縁基材層12bの第1角(図9における絶縁基材層12bの左下角)付近に配置されるL字形の導体パターンである。
絶縁基材層13bの裏面には、コイル導体パターン33Bおよび導体23が形成されている。コイル導体パターン33Bは、絶縁基材層13bの中央より第2辺(図9における絶縁基材層13bの右辺)寄りの位置に配置される1ターン弱の矩形ループ状の導体パターンである。導体23は、絶縁基材層13bの第1角(図9における絶縁基材層13bの左下角)付近に配置される矩形の導体パターンである。
絶縁基材層14bの裏面には、コイル導体パターン34Bおよび導体22が形成されている。コイル導体パターン34Bは、絶縁基材層14bの中央より第2辺(図9における絶縁基材層14bの右辺)寄りの位置に配置される1ターン弱の矩形ループ状の導体パターンである。導体22は、X軸方向に延伸する線状の導体パターンである。
外部接続電極P1は、層間接続導体V1を介して導体21の第1端に接続される。導体21の第2端は、コイル導体パターン31Bの第1端に接続される。コイル導体パターン31Bの第2端は、層間接続導体V2を介してコイル導体パターン32Bの第1端に接続される。コイル導体パターン32Bの第2端は、層間接続導体V3を介してコイル導体パターン33Bの第1端に接続される。コイル導体パターン33Bの第2端は、層間接続導体V4を介してコイル導体パターン34Bの第1端に接続される。コイル導体パターン34Bの第2端は、導体22の第1端に接続される。導体22の第2端は、層間接続導体V5を介して導体23の第1端に接続される。導体23の第2端は、層間接続導体V6を介して外部接続電極P2Bに接続される。
このように、コイル導体パターン31B,32B,33B,34Bおよび層間接続導体V2,V3,V4によって、Z軸方向に巻回軸を有する約3.5ターンのヘリカル状のコイル3Bが構成される。
図8(A)等に示すように、コイル導体パターン31B,32B,33B,34Bは、Z軸方向から視て、段差部SP1に沿って近接する部分(図9におけるコイル導体パターン31B,32B,33B,34Bのうち、Y軸方向に延伸する右辺部分)に、他の部分よりも相対的に線幅の広い幅広部WP1を有する。
また、図8(B)等の示すように、コイル導体パターン31B,32B,33B,34Bは、Z軸方向から視て、段差部SP2に沿って近接する部分(図9におけるコイル導体パターン31B,32B,33B,34Bのうち、X軸方向に延伸する下辺部分)に、他の部分よりも相対的に線幅の広い幅広部WP2を有する。
図9に示すように、本実施形態に係る幅広部WP1は、段差部SP1に沿ってY軸方向に延伸する直線状である。また、図9に示すように、本実施形態に係る幅広部WP2は、段差部SP2に沿ってX軸方向に延伸する直線状である。
本実施形態で示したように、第2領域の数が複数であってもよい。すなわち、段差部の数が複数でもよい。なお、第1領域および第2領域の形状、個数、位置等は、本発明の作用効果を奏する範囲において適宜変更可能であり、第1領域の数が2以上であってもよい。
また、本実施形態で示したように、段差部の数が複数である場合には、コイル導体パターンのうち、それぞれの段差部に沿って近接する部分に、それぞれ幅広部が形成される構成が好ましい。なお、幅広部は、コイル導体パターンのうち、少なくとも1つの段差部に沿って近接する部分に形成されていれば、本発明の作用効果を奏する。但し、本発明の作用効果の点から、コイル導体パターンのうち、それぞれの段差部に沿って近接する部分にそれぞれ幅広部が形成される構成が好ましい。
《その他の実施形態》
以上に示した各実施形態では、積層体が矩形の平板、またはL字形の平板である例を示したが、この構成に限定されるものではない。積層体の平面形状は、本発明の作用効果を奏する範囲において適宜変更可能であり、例えば多角形、円形、楕円形、クランク形、T字形、Y字形等であってもよい。
また、以上に示した各実施形態では、4つまたは5つの絶縁基材層を積層して形成される積層体の例を示したが、この構成に限定されるものではない。積層体を形成する絶縁基材層の積層数は、本発明の作用効果を奏する範囲において適宜変更可能である。積層体を形成する絶縁基材層の積層数は、例えば2つまたは3つでもよく、6つ以上でもよい。さらに、第1領域の絶縁基材層の積層数、および第2領域の絶縁基材層の積層数についても、本発明の作用効果を奏する範囲において適宜変更可能である。
以上に示した各実施形態では、熱可塑性樹脂からなる複数の絶縁基材層を積層して加熱加圧することにより、積層体を形成する例を示したが、この構成に限定されるものではない。例えば、熱硬化性樹脂からなる複数の絶縁基材層の間に、接合層(例えば、半硬化状態のプリプレグ樹脂)を挟んで積層したものを加熱加圧することにより積層体を形成してもよい。
また、以上に示した各実施形態では、Z軸方向に巻回軸を有する約3.5ターンの矩形ヘリカル状のコイル3,3Bや、約6ターンのコイル3Aが構成される例を示したが、コイルの形状、ターン数等はこれらに限定されるものではない。コイルの外形、構成およびターン数は、本発明の作用効果を奏する範囲において適宜変更可能である。コイルの外形(巻回軸AX方向(Z軸方向)から視たコイルの外形)は、矩形に限定されるものではなく、例えば円形、楕円形等であってもよい。また、コイルの巻回軸はZ軸方向に沿っている必要はなく、例えばX軸方向やY軸方向に沿っていてもよい。
以上に示した各実施形態では、全てのコイル導体パターンが、Z軸方向から視て、互いに略重なるように配置されている例を示したが、この構成に限定されるものではない。複数のコイル導体パターンは、Z軸方向から視て、少なくとも一部が互いに重なるように配置される構成であってもよい。
さらに、以上に示した各実施形態では、コイルが、4つの絶縁基材層にそれぞれ形成される4つのコイル導体パターンを含んで構成される例を示したが、この構成に限定されるものではない。コイルは、2以上の絶縁基材層にそれぞれ形成される2以上のコイル導体パターンを含んで構成されていればよい。すなわち、コイルを構成するコイル導体パターンの数は、2以上であればよい。
以上に示した各実施形態では、全てのコイル導体パターンが幅広部を有する例を示したが、この構成に限定されるものではない。幅広部は、複数のコイル導体パターンのうち、少なくとも1つのコイル導体パターンに形成されていれば、本発明の作用効果を奏する。但し、本発明の作用効果の点から、幅広部は、全てのコイル導体パターンに形成されることが好ましい。
また、以上に示した各実施形態では、幅広部が直線状である例を示したが、この構成に限定されるものではない。幅広部は、コイル導体パターンのうち、段差部に沿って近接する部分に形成されていればよく、例えば円弧状、曲線状、クランク状、L字状等であってもよい。
以上に示した各実施形態では、コイルのみ備える多層基板の例を示したが、多層基板(積層体)に形成される回路構成はこれに限定されるものではない。積層体に形成される回路は、本発明の作用・効果を奏する範囲において適宜変更可能である。例えば、導体パターンで形成されたキャパシタや各種伝送線路(ストリップライン、マイクロストリップライン、ミアンダ、コプレーナ等)等が、積層体に形成されていてもよい。また、例えば、チップ型インダクタやチップ型キャパシタ等のチップ部品が、積層体に実装されていてもよい。
また、外部接続電極の個数、配置および形状等は、第1・第2・第3の実施形態で示した構成に限定されるものではない。外部接続電極の個数および配置は、積層体に形成される回路に応じて適宜変更可能である。また、外部接続電極の平面形状は、矩形またはL字形に限定されるものではなく、例えば正方形、多角形、円形、楕円形、T字形等であってもよい。
なお、第1の実施形態では、はんだ等の導電性接合材を介して、多層基板の外部接続電極を回路基板等に接続する例を示したが、この構成に限定されるものではない。多層基板は、例えばコネクタを用いて回路基板等に接続されていてもよい。
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。