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JP6720686B2 - 継目無鋼管の製造方法 - Google Patents

継目無鋼管の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、継目無鋼管の製造方法に関し、より詳しくは、油井管の材料、又は油井管同士を繋ぐカップリングの材料として好適な継目無鋼管の製造方法に関する。
近年、世界的に高温・高圧の井戸環境が増加してきており、その高圧に耐えられるように油井管の厚肉化が求められている。具体的には、油井管本体の肉厚が1インチ(25.4mm)を超えるサイズになっている。これに伴って、油井管本体同士を繋ぐカップリングの加工前素管であるカップリング素管の肉厚が2インチ(50.8mm)を超えるサイズになっている。
油井管用継目無鋼管に関する代表的な規格の一つであるAPI規格には、耐サワー油井管に関して、焼入れ後、焼入れ前の組織のマルテンサイト分率を90%以上にすることが規定されている。しかし、肉厚が2インチを超えるような厚肉の鋼管では、肉厚中央部においてマルテンサイト分率が90%以上の組織を得ることは困難である。
国際公開第2016/035316号には、40mm以上の肉厚を有し、優れた耐SSC性と、高い強度とを有し、肉厚方向の強度ばらつきが少ない肉厚油井用鋼管が開示されている。同文献には、Mn含有量を1.0%以下、Cr含有量を2.0%以下に抑え、代わりに、C含有量を0.40%以上、Mo含有量を1.15%よりも高く含有させることで、耐SSC性を維持しながら、焼入れ性を高めることができると記載されている。また、焼入れ温度を925〜1100℃にすることで、Mo炭化物が十分に固溶して、焼入れ性が顕著に高まると記載されている。
Maria Jose Canioet.al, "High Strength Low Alloy Steel for HPHT Wells", Offshore Technology Conference-Asia, 25-28 March 2014の図3には、肉厚が59.6mmの鋼管において、肉厚中央部までマルテンサイト分率が95%以上の組織が得られていることが記載されている。
国際公開第2016/035316号
Maria Jose Canioet.al, "High Strength Low Alloy Steel for HPHT Wells", Offshore Technology Conference-Asia, 25-28 March 2014
国際公開第2016/035316号では、化学組成を限定することで焼入れ性を確保しているが、化学組成を限定せずに焼入れ性を向上できる方法が好ましい。
Maria Jose Canioet.al, "High Strength Low Alloy Steel for HPHT Wells", Offshore Technology Conference-Asia, 25-28 March 2014には、熱処理方法についての具体的な開示はない。
本発明の目的は、厚肉の鋼管であっても、肉厚中央部までマルテンサイト分率の高い組織を有する継目無鋼管の製造方法を得ることである。
本発明の一実施形態による継目無鋼管の製造方法は、素材を熱間加工して素管を製造する工程と、前記素管を1回以上焼入れする工程とを備える。前記熱間加工後であって、前記1回以上焼入れする工程のうちの最終の焼入れよりも前に、前記素管の酸化スケールを除去する工程をさらに備える。
本発明によれば、厚肉の鋼管であっても、肉厚中央部までマルテンサイト分率の高い組織を有する継目無鋼管が得られる。
図1は、本発明の一実施形態による継目無鋼管の製造方法のフロー図である。 図2は、焼入れの前にスケール除去工程を実施した継目無鋼管の表層部の断面顕微鏡写真である。 図3は、焼入れの前にスケール除去工程を実施しなかった継目無鋼管の表層部の断面顕微鏡写真である。 図4は、焼入れ時の素管の冷却曲線である。 図5は、焼入れ前にスケール除去工程を実施した継目無鋼管のロックウェル硬さの分布である。 図5は、焼入れ前にスケール除去工程を実施しなかった継目無鋼管のロックウェル硬さの分布である。
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
図1は、本発明の一実施形態による継目無鋼管の製造方法のフロー図である。本実施形態による製造方法は、素材を熱間加工して素管を製造する工程(ステップS1)と、素管を1回以上焼入れする工程(ステップS2−1、S2−2、及びS2−3)とを備えている。本実施形態による製造方法は、熱間加工(ステップS1)後であって、最終の焼入れ(ステップS2−3)よりも前に、素管の酸化スケールを除去する工程(ステップS3)をさらに備えている。
[熱間加工工程]
素材を熱間加工して素管を製造する(ステップS1)。素材は例えば、連続鋳造によって製造されたビレットである。素管は、周知の熱間加工によって製造することができる。熱間加工は例えば、穿孔圧延や熱間押出である。穿孔圧延は例えば、マンネスマン法である。熱間押出は例えば、ユジーンセジュルネ法である。本実施形態による製造方法は、肉厚が50mm以上の厚肉の素管に、特に好適に用いることができる。
素材の化学組成は特に限定しないが、製造しようとする継目無鋼管が油井管である場合、例えばAPI 5CT規格に準拠したものを用いることができる。具体的には、例えば同規格のT95グレードの継目無鋼管では、その化学組成は、質量%で、C:0.45%以下、Mn:1.90%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Si:0.45%以下であり、同規格のC110グレードでは、その化学組成は、質量%で、C:0.35%以下、Mn:1.20%以下、Mo:0.25〜1.00%、Cr:0.40〜1.50%、Ni:0.99%以下、P:0.020%以下、S:0.005%以下である。なお、本実施形態による製造方法は、Cr:0.4〜1.5%、Mo:0.25〜1.00%を含有する素材に対して、特に好適に用いることができる。
[焼入れ工程]
製造した素管を1回以上焼入れする(ステップS2−1、S2−2、及びS2−3)。図1の例では3回の焼入れを実施しているが、焼入れの回数は1回又は2回であってもよいし、4回以上であってもよい。一般的に、焼入れの回数を増やすことで、結晶粒をより微細にすることができる。
焼入れは、オーステナイト領域の温度(Ar点以上の温度)からマルテンサイト変態開始温度(Ms点)以下の温度まで急冷する熱処理である。最初の焼入れ(ステップS2−1)は、熱間加工後の高温の素管を、Ar点以上の温度からそのまま急冷する、いわゆる直接焼入れであってもよいし、熱間加工後の高温の素管を補熱炉でAc点以上の温度に均熱してから急冷する、いわゆるインライン焼入れであってもよい。あるいは、一旦冷却した素管をAc点以上の温度に再加熱してから急冷する、いわゆる再加熱焼入れであってもよい。2回目以降の焼入れ(ステップS2−2及びS2−3)は、必然的に再加熱焼入れになる。
急冷を開始する温度(以下、焼入れ開始温度という。)は、上述のようにAr点以上である。焼入れ開始温度がAr点よりも低いと、急冷開始時にオーステナイト以外の組織が含まれ、マルテンサイト分率の高い組織が得られなくなる。一方、焼入れ開始温度が高すぎると、オーステナイト粒が成長し、微細な組織が得られなくなる。焼入れ開始温度の下限は、好ましくはAr点+50℃である。焼入れ開始温度の上限は、好ましくは1000℃である。
焼入れの冷却速度が小さい場合、又は冷却停止温度がMs点よりも高い場合、素管がAr点からMs点の間の温度に滞在する時間が長くなり、拡散変態が進行してマルテンサイト分率の高い組織が得られなくなる。冷却方法は、素管の化学組成や寸法にも依存するが、好ましくは水冷(シャワー水冷や水槽への浸漬)である。冷却速度は、水冷の場合、冷却水の流量や水温によって調整することができる。冷却停止温度は、Ms点以下であればよいが、好ましくはマルテンサイト変態終了温度(Mf点)以下である。冷却停止温度は、室温以下であってもよい。
焼入れを複数回実施する場合、それぞれの条件を変えてもよい。継目無鋼管の組織は、最終の焼入れ(ステップS2−3)の条件に大きく依存する。そのため、少なくとも最終の焼入(ステップS2−3)では、素管を十分に大きな冷却速度で冷却することが好ましい。換言すれば、焼入れを複数回実施する場合、最終以外の焼入れの冷却速度は、比較的小さくてもよい。
[スケール除去工程]
本実施形態による製造方法では、熱間加工(ステップS1)後であって、最終の焼入れ(ステップS2−3)よりも前に、素管の酸化スケールを除去する(ステップS3)。
図1の例では、スケール除去工程(ステップS3)は、最終の焼入れ(ステップS2−3)の直前、すなわち、2回目の焼入れ(ステップS2−2)と最終の焼入れ(ステップS2−3)との間に実施している。しかし、スケール除去工程(ステップS3)は、熱間加工(ステップS1)と最初の焼入れ(ステップS2−1)との間に実施してもよいし、最初の焼入れ(ステップS2−1)と2回目の焼入れ(ステップS2−2)との間に実施してもよい。また、スケール除去工程を2回以上実施してもよい。
酸化スケールの除去方法は、特に限定せず、周知の方法を用いることができる。酸化スケールは、機械的に除去してもよいし、酸等の薬品によって化学的に除去してもよい。機械的に除去する方法としては、ショットブラストや、高圧流体を吹き付ける方法、表面を研削する方法等が挙げられる。酸化スケールの除去方法は、好ましくはショットブラストである。
酸化スケールは、完全に除去する必要はないが、目視で金属光沢が確認できる程度まで除去しておくことが好ましい。
以上の肯定によって、継目無鋼管が製造される。最終の焼入れ(ステップS2−3)後、必要に応じて、さらに焼戻しを実施してもよい。焼戻しは例えば、焼入れされた素管を、400℃〜Ac点以下の温度に加熱することで実施する。焼戻しを実施することで、継目無鋼管の靱性を向上させることができる。
[本実施形態の効果]
本実施形態による製造方法では、熱間加工(ステップS1)後であって、最終の焼入れ(ステップS2−3)よりも前に、素管の酸化スケールを除去する(ステップS3)。酸化スケールを除去することによって、その後の焼入れの際、素管の熱伝導率が向上する。そのため、厚肉の素管であっても、肉厚中央部まで速やかに冷却される。これによって、肉厚中央部の組織がAr点からMs点の間の温度に滞在する時間が減少し、マルテンサイト分率の高い組織が得られる。
図2及び図3は、継目無鋼管の表層部の断面顕微鏡写真である。これらの継目無鋼管は、熱間加工後、2回の再加熱焼入れを実施して製造された。焼入れは、いずれも加熱した素管を水槽に浸漬することで実施した。このとき、槽内の冷却水を管軸方向に15〜70m/sで流動させた。図2は2回目の焼入れの前にスケール除去工程を実施した継目無鋼管の写真であり、図3はスケール除去工程を実施しなかった継目無鋼管の写真である。
図2に示すように、2回目の焼入れの前にスケール除去工程を実施した継目無鋼管においても、母材10の表面に酸化スケール20が形成されている。この酸化スケール20は、2回目の焼入れ熱処理時に形成されたものと考えられる。
図3に示すように、スケール除去工程を実施しなかった継目無鋼管の酸化スケール30は、スケール31と32との二層構造を有する。スケール31は、母材10とスケール32との間に形成され、多孔質である。スケール32は、継目無鋼管の最表層に形成され、比較的緻密である。スケール31は熱間加工で形成されたものと考えられ、スケール32はその後の焼入れ工程で形成されたものと考えられる。なお、スケール31及び32は、焼入れ時の冷却水の流量を大きくしても殆ど除去されなかった。
これらの酸化スケールの化学組成を電子線マイクロアナライザによって分析した。その結果、スケール31には、CrやMoが濃化していることが分かった。詳細は明らかではないが、CrやMoを含有する母材を熱間加工した場合、多孔質なスケール31が形成されやすくなる可能性がある。
スケール31は多孔質であるため、スケール32よりも熱伝導率はさらに低い。そのため、スケール31を除去しておくことが、継目無鋼管の熱伝導率の向上に有効である。本実施形態による製造方法では、熱間加工(ステップS1)後であって、最終の焼入れ(ステップS2−3)よりも前に素管の酸化スケールを除去する。そのため、最終の焼入れの前には、少なくともスケール31は除去されている。したがって、最終の焼入れの際、肉厚中央部まで速やかに冷却することができる。
図2と図3との比較から、図3のスケール32は、図2のスケール20よりも厚いことが分かる。これは、焼入れを繰り返すことによって、酸化スケールの厚さが増加していくことを示唆している。酸化スケールの厚さが増加すると、熱抵抗が増加する。そのため、焼入れを複数回実施する場合には、最終の焼入れの直前にスケール除去処理を実施することがより好ましい。
以上、本実施形態による継目無鋼管の製造方法及びその効果について説明した。本実施形態による継目無鋼管の製造方法によれば、厚肉の鋼管であっても、肉厚中央部までマルテンサイト分率の高い組織を有する継目無鋼管が得られる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されない。
表1に示す化学組成を有する鋼を熱間加工し、外径265.0mm、肉厚52.6mm、長さ420mmの素管を複数製造した。
これらの素管に対して、再加熱焼入れを実施した。具体的には、素管を910℃で120分保持した後、4分間水槽に浸漬した。冷却水の水温は、浸漬前の温度で約25℃であった。槽内の冷却水は、管軸方向に15〜70m/sで流動させた。後述する硬さ測定は、流速が20m/s程度となる箇所からサンプルを採取して測定した。
焼入れした素管の内外面にショットブラストを実施し、目視で金属光沢が確認できる程度までスケールを除去した。スケールを除去した素管を、1回目と同じ条件で再加熱焼入れして継目無鋼管を製造した。
比較例として、スケール除去処理を実施せずに継目無鋼管を製造した。スケール除去処理を実施しない以外は、上記と同じ条件とした。
各素管の肉厚中央部に熱電対を埋め込み、2回目の焼入れ時の温度の時間変化を測定した。結果を図4に示す。図4において、実線はスケールを除去した素管(実施例)の冷却曲線であり、破線はスケールを除去しなかった素管(比較例)の冷却曲線である。図4から、スケールを除去した素管の方が冷却速度が大きくなっていることを確認できる。
各継目無鋼管を切断し、断面のロックウェル硬さを肉厚方向に沿って、ASTM E18に準拠して測定した。ロックウェル硬さは、継目無鋼管の周方向に90°間隔で4カ所測定した。結果を図5及び図6に示す。図5はスケール除去工程を実施した継目無鋼管(実施例)のロックウェル硬さの分布であり、図6はスケール除去工程を実施しなかった継目無鋼管(比較例)のロックウェル硬さの分布である。
API 5CTには、焼入れ後、焼入れ前の組織のマルテンサイト分率を90%以上にすることが規定されている。マルテンサイト分率は、ロックウェル硬さHRCとC含有量との関係から見積もることができ、API 5CTでは、焼入れまま材のロックウェル硬さHRCが下記の式(1)を満たすことが要求されている。
HRC≧58×[C]+27…(1)
ここで、HRCは継目無鋼管のロックウェル硬さであり、[C]には前記継目無鋼管のC含有量が質量%で代入される。また、「焼入れまま」とは、最終の焼入れ後、焼戻し前の状態を意味する。
図5に示すように、スケール除去工程を実施した継目無鋼管では、肉厚中央部までマルテンサイト分率が90%以上の組織が得られている。一方、図6に示すように、スケール除去工程を実施しなかった継目無鋼管では、肉厚中央部付近でマルテンサイト分率が90%未満になった。
本実施形態による継目無鋼管の製造方法によれば、厚肉の鋼管であっても、肉厚中央部までマルテンサイト分率の高い組織を有する継目無鋼管が得られることが確認された。
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
符合の説明
10 母材
20,30,31,32 酸化スケール

Claims (2)

  1. API 5CT規格に定めるT95グレード又はC110グレードの化学組成を有する素材を熱間加工して素管を製造する工程と、
    前記素管を1回以上焼入れする工程とを備え、
    前記焼入れする工程は、一旦冷却した前記素管をAc 点以上の温度に再加熱してから急冷する再加熱焼入れを含み、
    前記熱間加工後であって、前記1回以上焼入れする工程のうちの最終の焼入れよりも前に、一旦冷却した前記素管を再加熱する前に、ショットブラストすることにより、前記素管の酸化スケールを除去する工程をさらに備える、肉厚中央部までマルテンサイト分率が90%以上の組織を有し、肉厚が50mm以上である油井用継目無鋼管の製造方法。
  2. 請求項1に記載の油井用継目無鋼管の製造方法であって、
    前記素管の酸化スケールを除去する工程は、前記1回以上焼入れする工程のうちの最終の焼入れの直前に実施する、油井用継目無鋼管の製造方法。
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