JP6749578B2 - 耐遅れ破壊特性及び冷間加工性に優れた高強度ボルト用鋼並びにそれを用いた高強度ボルトの製造方法 - Google Patents
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Description
遅れ破壊防止手法としては、P、Sなどの不純物元素の低下、粒界のフィルム状セメンタイトの球状化、合金炭化物による水素トラップなどが浸透している。しかし、不純物元素、フィルム状セメンタイト、合金炭化物など各要素の遅れ破壊に対する影響度に不明な点が多く、ボルトの成分設計に生かし難いのが現状である。また、ボルトの高強度化には、ボルトの高合金化に付随して冷間加工性が低下するという別の課題もあり、高合金化するとしても可能な限り素材強度の向上を抑えることが不可欠である。
下記特許文献1、2では、ボルト表面にパルスレーザービームを照射し、あるいは超音波振動端子により打撃処理を施してボルト表面に圧縮残留応力を付与することで、それぞれ耐遅れ破壊特性の向上を図るようにしている。
一方、下記特許文献3では、焼戻し時の合金炭化物析出に関して、急速加熱後、短時間保持する処理を施し、合金炭化物の良好な二次析出により遅れ破壊が発現する臨界の水素量(限界拡散水素量)を増加させることで、耐遅れ破壊特性の向上を図るようにしている。さらに、下記特許文献4では、1700MPaの超高鋼材であっても、ねじ部における塑性ひずみ及び応力集中が低減されるようボルトの軸部の最適化を図ることで、水素許容量を増大化させ、ひいては耐遅れ破壊特性の向上を図るようにしている。
2.202[C]+0.996[Mo]−0.041Wp≧1.50 …式(1)
式(1)の[C]、[Mo]、Wpは単位をいずれも質量%とし、[C]、[Mo]は930℃におけるC、Moの固溶量の計算値を示し、Wpは前記930℃における未固溶の炭化物量の計算値を示し、いずれも統合型熱力学計算システムであるThermo-Calc(Version S, Database fe6)により前記930℃を入力して求めた計算値である。
4.957C+3.541Si+1.372Cr+2.473Mo≦15.2 …式(2)
式(2)のC、Si、Cr、Moは単位をいずれも質量%とする添加量を示す。
19.304[C]+13.169[Mo]+3.434[Si]
+1.781[Cr]≧25.0 …式(3)
式(3)の[C]、[Mo]、[Si]、[Cr]は単位をいずれも質量%とする、前記930℃におけるC、Mo、Si、Crの固溶量の計算値を示し、いずれも前記Thermo-Calc(Version S, Database fe6)により前記930℃を入力して求めた計算値である。
また、本発明の高強度ボルトの製造方法は、上記高強度ボルト用鋼を用いて、A1点からA3点までの間の任意の温度で1時間以上保持し、670℃以下の任意の温度まで40℃/時間以下の冷却速度で冷却し、その後室温まで空冷する軟化熱処理を施した後にボルト形状に加工し、その後850℃〜950℃より焼入れ処理を施し、500℃以上で焼戻し処理を施すことを特徴とする。
また、その高強度ボルト用鋼に上記熱処理を施しつつボルト形状に加工することで、遅れ破壊強度比に優れた、焼戻し後の硬さが47.5HRC以上(引張強度で1600MPa以上)の高強度ボルトを得ることができる。
Cは強度を確保するための必須元素である。C含有量が0.35%未満では所望の強度が得られない一方、0.55%を超えて添加すると加工性が低下するため、上限を0.55%とする。好ましくは0.40〜0.50%である。
Siは焼戻し軟化抵抗の上昇に寄与するとともに、耐応力緩和性を高めるのに有効な元素である。このために1.50%以上添加する。ただし、2.60%を超えて添加すると、加工性が低下するため、上限を2.60%とする。好ましくは2.00〜2.50%である。
MnはMnSの形で靭性劣化元素であるSを固定する働きをするとともに、焼入れ性を改善する働きもする。これらのために0.15%以上添加する。ただし、Mnは焼戻し脆性を促進する元素であるため、上限を0.85%とする。好ましくは0.20〜0.30%である。
Pは遅れ破壊特性を低下させる不純物元素であるため、0.015%以下の含有量とする。
SはPと同様に遅れ破壊特性を低下させる不純物元素であるため、0.015%以下の含有量とする。
Crは焼戻し軟化抵抗の上昇に有効であるとともに、焼入れ性の調整にも有効である。ただし、過度の添加は未固溶炭化物量の増加による遅れ破壊特性の低下及び加工性の低下を招くので、上限を1.15%とする。好ましくは0.50〜1.00%である。
Moは高温焼戻し時の合金炭化物析出による水素トラップ効果を得るために、0.35%以上添加する。ただし、1.25%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇する他、加工性が低下するため、上限を1.25%とする。好ましくは0.80〜1.10%である。
(8)N:0.010〜0.020%
NはAlとの窒化物を形成し、結晶粒(旧γ粒)の微細化を図るため、0.010〜0.020%の含有とする。
Alは溶鋼処理時の脱酸剤として作用する元素であるとともに、Nとの窒化物を形成し、結晶粒を微細化する。ただし、0.040%を超えて添加すると介在物が増加し、疲労強度の低下を招くため、0.020〜0.040%の含有とする。
なお、表1ではFe及び不可避不純物の記載を省略してある。
2.202[C]+0.996[Mo]−0.041Wp≧1.50
…式(1)
式(1)の[C]、[Mo]、Wpは単位をいずれも質量%とし、[C]、[Mo]は焼入れ時におけるC、Moの固溶量を示し、Wpは焼入れ時における未固溶の炭化物量を示す。上記式(1)において、[C]、[Mo]が多いほど遅れ破壊が抑制される一方、Wpが多いほど遅れ破壊が促進される。このため、[C]、[Mo]、Wpをバランスさせることで、後述する遅れ破壊強度比を向上させることができる。上記式(1)は、後述する実験データから導き出された(図1参照)。
4.957C+3.541Si+1.372Cr+2.473Mo≦15.2
…式(2)
式(2)のC、Si、Cr、Moは単位をいずれも質量%とする添加量を示す。上記式(2)において、C、Si、Cr、Moの添加量が少ないほど軟化熱処理後の硬さが低下する。このため、上記式(1)を踏まえた上で、C、Si、Cr、Moの添加量をバランスさせることで、遅れ破壊強度比を向上させつつも、軟化熱処理後の硬さを低くすることができる。上記式(2)は、後述する実験データから導き出された(図2参照)。
19.304[C]+13.169[Mo]+3.434[Si]
+1.781[Cr]≧25.0 …式(3)
式(3)の[C]、[Mo]、[Si]、[Cr]は単位をいずれも質量%とする、焼入れ時におけるC、Mo、Si、Crの固溶量を示す。上記式(3)において、[C]、[Mo]、[Si]、[Cr]が多いほど、550℃における焼戻し硬さが増加する。つまり、式(3)を満たすことにより、少なくとも550℃(場合によっては600℃程度まで)の焼戻しにおいて目標とする硬さ(47.5HRC以上)が得られ、合金炭化物析出による遅れ破壊特性の向上が可能となる。上記式(3)は、後述する実験データから導き出された(図3参照)。
(ア)A1点からA3点までの間の任意の温度で1時間以上保持し、670℃以下の任意の温度まで40℃/時間以下の冷却速度で冷却し、その後室温まで空冷する軟化熱処理
これは球状化焼きなましを意味する。
(イ)850℃〜950℃での焼入れ処理
これはA3点以上の温度から焼入れを行うことを意味する。より好ましくは900℃〜950℃である。
(ウ)500℃以上の高温での焼戻し処理
これは遅れ破壊特性を向上させるために、十分な量のMo炭化物を析出させる必要があるからである。より好ましくは550℃以上600℃以下である。
次に、本発明の実施例について説明する。
表1に示す化学成分の本発明の実施例A〜Fと比較例G〜Xをそれぞれ溶製した後、造塊し、各鋼を直径20mmの丸棒に鍛造した。鍛造温度は1200℃(鍛造終始温度は1000℃)とした。鍛造後に800℃で2.5時間保持した後に650℃まで15℃/時間で冷却し、その後室温まで空冷する球状化焼きなまし処理(spheroidizing
annealing)を施した。この処理後の硬さ試験の結果をSA硬さ(HRB)として表1に示す。
S」、「Database fe6」仕様のものを用いた。図5に、表1の鋼種Dを用いてWpと[C]を算出した計算結果の1例を示す。
また、その高強度ボルト用鋼に上記(ア)の熱処理を施し、ボルト形状に加工した後、(イ)(ウ)の熱処理を施すことで、遅れ破壊特性に優れ、かつ硬さが47.5HRC以上(引張強度で1600MPa以上)の高強度ボルトを得ることができる。
なお、本発明は上記実施例に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えた態様で実施することが可能である。
20 片持ち曲げ型試験機
Claims (2)
- 質量%で、
C:0.35〜0.55%、
Si:1.50〜2.60%、
Mn:0.15〜0.85%、
P:0.015%以下、
S:0.015%以下、
Cr:0.25〜1.15%、
Mo:0.35〜1.25%、
Al:0.020〜0.040%、
N:0.010〜0.020%、
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする耐遅れ破壊特性及び冷間加工性に優れた高強度ボルト用鋼。
2.202[C]+0.996[Mo]−0.041Wp≧1.50 …式(1)
前記式(1)の[C]、[Mo]、Wpは単位をいずれも質量%とし、[C]、[Mo]は930℃におけるC、Moの固溶量の計算値を示し、Wpは前記930℃における未固溶の炭化物量の計算値を示し、いずれも統合型熱力学計算システムであるThermo-Calc(Version S, Database fe6)により前記930℃を入力して求めた計算値である。
4.957C+3.541Si+1.372Cr+2.473Mo≦15.2 …式(2)
前記式(2)のC、Si、Cr、Moは単位をいずれも質量%とする添加量を示す。
19.304[C]+13.169[Mo]+3.434[Si]
+1.781[Cr]≧25.0 …式(3)
前記式(3)の[C]、[Mo]、[Si]、[Cr]は単位をいずれも質量%とする、前記930℃におけるC、Mo、Si、Crの固溶量の計算値を示し、いずれも前記Thermo-Calc(Version S, Database fe6)により前記930℃を入力して求めた計算値である。 - 請求項1に記載の高強度ボルト用鋼を用いて、A1点からA3点までの間の任意の温度で1時間以上保持し、670℃以下の任意の温度まで40℃/時間以下の冷却速度で冷却し、その後室温まで空冷する軟化熱処理を施した後にボルト形状に加工し、その後850℃〜950℃より焼入れ処理を施し、500℃以上で焼戻し処理を施すことを特徴とする高強度ボルトの製造方法。
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