JP6051031B2 - 高力ボルト及びその製造方法 - Google Patents
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最近ではF10Tの約1.5倍に相当する軸力の導入が可能なF14T超高力ボルト(引張強さ1400MPa〜1600MPa)が製品化され、建築分野での利用実績が増えている(例えば、非特許文献1)。
遅れ破壊とは、大気腐食によって水素が発生し、鋼材中に侵入して鋼材が脆化して起こる破壊で、時間遅れ破壊の略称である。室温において鋼中で応力集中部に拡散集積する水素、いわゆる拡散性水素が遅れ破壊の原因である。この遅れ破壊のため、F14T超高力ボルトが開発されるまでの約30年間、土木建築用高力ボルトの高強度化はF10TおよびS10Tの高力ボルトで頭打ち状態であった。
なお、許容水素量とは、ある荷重負荷条件下で、その水素量以下では素材が遅れ破壊しない拡散性水素量の許容値を示し、耐遅れ破壊性能を比較するためのひとつの指標である。
C:0.35〜0.70%、
Si:0.50〜2.50%、
Mn:0.10〜1.00%、
Cr:0.30〜3.00%、
Mo:0.50〜1.50%、
Al:0.001〜0.1%
を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなり、かつボルト頭部1からねじ部3までの部位の90体積%以上が焼戻マルテンサイト組織から成る内部金属組織を有すると共に、上記部位の引張強さが1700MPa以上であり、当該高力ボルトの軸部2において、次式(1)で表される軸部形状パラメータSが0.85以上1.25未満の値であることを特徴とする。
S=Ab/Ae ・・・ (1)
(式中のAbは軸部の有効断面積、Aeはねじ部の有効断面積を示す)
これは、(1)ボルトの軸部2の有効断面積(Ab)とねじ部の有効断面積(Ae)の比率を調整して、ボルトの軸心方向の高張力に対してはねじ部3よりもボルト軸部2が先行して降伏変形することで遅れ破壊の発生点となるねじ部3への応力集中及び塑性ひずみの発生を低減し、かつボルト製品の延性を高めたことによるものである。なお、本発明において、ねじ部の有効断面積(Ae)とは、JIS B 1180の別表1中に規定された有効面積を意味する。また、軸部2の有効断面積(Ab)とは、軸部の最小径で算出される断面積を意味する。
既存のF10T及びS10Tのボルトの場合、前記(1)式におけるS値は1.25から1.28の値であり、ボルト首下軸部の断面積(Ab)がねじ部の有効断面積(Ae)よりも大きいためボルトに張力を付加するとボルトはねじ部で破断する。
本発明のボルトの場合、S値が1.25未満の値となるようなボルト軸部の形状である。このようなボルトではS値を1.25未満とすることでボルトねじ部3への応力集中を低減できる。より好ましくはS値を1.05以下とすることで終局時に軸部破断が生じるため、ねじ部破断が生じるボルトに比べて変形能力が著しく向上する。一方でS値が小さくなりすぎるとボルトに導入できる張力も低くなるため、S値は0.85以上とするのが望ましい。
本発明の高力ボルトは、質量%で
C:0.35〜0.70%、
Si:0.50〜2.50%、
Mn:0.10〜1.00%、
Cr:0.30〜3.00%、
Mo:0.50〜1.50%、
Al:0.001〜0.1%
を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなることを特徴とするものである。
以下に、本発明ボルトの化学成分の限定理由について述べる。
Cは炭化物粒子を形成し、強度増加に最も有効な成分であるが、0.70質量%を超えると靱性劣化を招くことから、含有量を0.70質量%とした。強度増加を充分に期待するためには、0.35質量%以上、好ましくは、0.40質量%以上、より好ましくは0.50質量%を含有させる。
Siは脱酸及びフェライト中に固溶して鋼の強度を高めるとともにセメンタイトを微細に分散させるのに有効な元素である。
従って、脱酸材として添加したもので鋼中に残るものも含め、含有量を0.50質量%以上とする。高強度化を図る上で上限は特に制限しないが、鋼材の冷間鍛造性及び加工性を考慮すれば、2.5質量%以下、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%とすることが好ましい。
Mnはオーステナイト化温度を低下させオーステナイトの微細化に有効であるとともに、焼入れ性並びにセメンタイト中に固溶してセメンタイトの粗大化を抑制するのに有効な元素である。
0.10質量%未満では所望の効果が得られないため、0.10質量%以上と定めた。より好ましくは0.2質量%以上を含有させる。高強度化を図る上で上限は特に制限しないが、得られる鋼材の靭性を考慮すれば、1.00質量%以下とすることが好ましい。
Crは焼入れ性向上に有効な元素であるとともにセメンタイト中に固溶してセメンタイトの成長を遅滞させる作用が強い元素である。また、比較的多く添加することでセメンタイトよりも熱的に安定な高Cr炭化物を形成したり、耐食性を向上させる、本発明では重要な元素のひとつでもある。
したがって、少なくとも0.30質量%以上含有させる必要がある。好ましくは0.80質量%以上であって、より好ましくは1.00質量%以上を含有させる。ただし、Crを多く添加しすぎると焼入れ処理の際に多くの粗大な炭化物が未固溶で残存し、機械的性質を劣化させる。よってその上限を3.00質量%以下とした。
Moは本発明において鋼の高強度化に有効な元素であり、鋼の焼入れ性向上を向上させるだけでなく、セメンタイト中にも少量固溶してセメンタイトを熱的に安定にする。とくにセメンタイトとはまったく別個に基地相中に新しく転位上に合金炭化物を核生成することで2次硬化を起こして鋼を強化する。しかも形成された合金炭化物は微細粒化に有効であると共に水素トラップサイトとしても有効である。
したがって、好ましくは0.50質量%以上、より好ましくは1.00質量%以上を含有させるが、高価な元素であるとともに過剰な添加は粗大な未固溶炭化物または金属間化合物を形成して靱性を劣化させるため、添加量の上限を1.50質量%に定めた。
なお、W、VについてもMoと同様な効果を示すため、Moの一部をこれらの元素で置き換えることも可能である。
1700MPa以上のボルト引張強さを得るためには、素材をボルトへ成形した後、焼入れおよび焼戻処理を施す必要がある。
以下に、本発明におけるボルト製品の調質処理条件の限定理由について述べる。なお、ここでボルト引張強さは、ボルト製品からJIS Z 2201で規定される形状及び寸法に切削加工された引張試験片の常温での引張強さとする。
この実施例における供試鋼材の化学成分を表1、熱処理条件および常温での引張変形特性を表2に示す。
表1において鋼材A,B,Cは本発明範囲内の化学成分の鋼材、D,Eは発明成分範囲外の鋼材である。なお、比較鋼のD鋼はF10T高力ボルト用鋼としても使用されるJIS−SCM440鋼に相当する。
なお、用いた引張試験片はJIS Z 2201に規定のJIS4号または14号A丸棒試験片であり、引張試験片方法はJIS Z 2241に準じた。
表3に、切欠き底の曲率半径rと応力集中係数の関係を示す。
同じ負荷荷重で拡散性水素の許容量を比べた場合、例えば負荷荷重1400MPaでは、図中に矢印で示すように比較鋼D、比較鋼Eよりも発明鋼Aの方で水素許容量が高い。発明鋼Aでは切欠底の応力集中係数を小さくすること、すなわちねじ部への応力集中を小さくすることでさらに水素許容量を高くできる。
さらに、S値が1.00から0.85の試験体では終局時に軸部破断が生じており、ねじ部3への応力集中が緩和されることに加えて、耐力が維持されかつ変形能力も大きいことが分かる。発明ボルトが優れたエネルギー吸収能力を発揮していることが認められる。なお、S値が0.8では最大荷重が430kNまで低下している。
2 軸部
3 ねじ部
Claims (2)
- 質量%で
C:0.35〜0.70%、
Si:0.50〜2.50%、
Mn:0.10〜1.00%、
Cr:0.30〜3.00%、
Mo:0.50〜1.50%、
Al:0.001〜0.1%
を含有し、残部がFe及び不可避不純物から成る高力ボルトであって、ボルト頭部からねじ部までの部位における内部金属組織の90体積%以上が焼戻マルテンサイト組織であると共に、当該部位の引張強さが1700MPa以上であり、次式(1)で表される軸部形状パラメータSが0.85以上1.25未満の値であることを特徴とする高力ボルト。
S=Ab/Ae ・・・ (1)
(式中のAbは軸部の有効断面積、Aeはねじ部の有効断面積を示す) - 請求項1に記載の高力ボルトの製造方法であって、素材をボルトに成形した後、850℃〜1050℃の温度範囲内でオーステナイト化処理を施した後に焼入れして内部金属組織の90体積%以上をマルテンサイト組織とした後、500℃〜650℃の温度範囲で焼戻処理を施すことを特徴とする高力ボルトの製造方法。
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