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JP6696769B2 - 銅合金板材及びコネクタ - Google Patents

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Description

本発明は、銅合金板材とそれを用いたコネクタに関する。
近年の電気・電子機器の小型化とともに、端子や接点部品の小型化が進行している。例えば電気接点において、バネを構成している部材のサイズが小さくなると、バネ長が短くなることによって、バネ用銅合金への負荷応力が高くなる。その応力が、銅合金材料の降伏点よりも高くなってしまうと、材料が永久変形してしまい、バネとして所望の接圧が得られなくなる。その場合に、接触抵抗が上昇し、電気的な接続が不十分となり、重大な問題となる。従って、銅合金には高強度が求められている。
強度と並んで重要な特性がヤング率である。ヤング率は、端子の設計内容に応じて、高いヤング率が好ましい場合と、低いヤング率が好ましい場合とがある。即ち、ヤング率が高ければ少ない変位で高い接圧を取れるメリットがある。ヤング率が低ければ弾性変形できる量が大きくなり、バネの変位範囲を広く設計できるため、寸法公差を拡大できるなどのメリットがある。ヤング率は含有される合金成分や合金組成が変われば変化するため、従来は、低ヤング率の材料を使用したい場合はCu−Sn系合金(青銅系)などが、高ヤング率の材料を使用したい場合はCu−Ni系合金(白銅系)などが使用されていた。この場合、ヤング率によって、また強度帯によって、使用する材料の種類が増加してしまうため、種々の銅合金プレス屑をまとめてリサイクルする場合にはリサイクル性が悪い問題があった。
さらに、端子の一本一本が小型になることで、通電する断面積が減少し、所望の電流を流せないことが問題となっている。例えば、端子材として一般的な銅合金として、リン青銅が挙げられるが、高強度の成分組成となると導電率が10%IACS前後であり、小型の端子には不十分である。また、電子機器が小型化すると熱容量が小さくなるため、導体のジュール発熱が大きければ機器全体の温度上昇に直結し、問題となる。従って、銅合金には良好な導電性が求められている。
しかし、上記の高強度(例えば、高い降伏強度)と良好な導電性は、銅合金にとっては相反する特性である。これに対して、従来、種々の銅合金で高強度と良好な導電性を達成しようとする試みが行われてきた。
特許文献1では、Cu−Ni−Sn系合金の含有成分を含む合金組成を選定し、特定の工程で時効析出硬化させることで、高強度で疲労特性の良好な銅合金とすることが提案されている。
特許文献2では、Cu−Sn系合金の結晶粒径と仕上げ圧延条件を調整して、高強度の銅合金とすることが提案されている。
特許文献3では、Cu−Ni−Si系合金の中でもNi濃度が高い場合に、特定の工程で調製することで高強度とすることが提案されている。
特許文献4では、Cu−Ti系合金の含有成分を含む合金組成を選定し、特定の工程で時効析出硬化させることで高強度とすることが提案されている。
特許文献5では、Cu−(Ni、Co)−Si系合金板材を特定の製造工程で得ることで、RDに向く(100)面の面積率を高め、RDに向く(111)面の面積率を低めて、圧延方向(RD)で110GPa以下の低ヤング率とすることが提案されている。
特許文献6では、Cu−Ni−Si系合金条を特定の製造工程で得ることで、(220)面への集積を高めて、I(220)が高い所定のX線回折強度と、板幅方向及び板厚方向に所定の関係を有する粒径とを有し、曲げ軸を圧延方向と直角にとったGood Way曲げにおける曲げ加工性を向上させることが提案されている。
特許文献7では、Cu−Ni−Si系合金条を特定の製造工程で得ることで、所定の{110}<001>方位密度とKAM(Karnel Average Misorientation)値とを有し、深絞り加工性と耐疲労特性を向上させることが提案されている。
特許文献8では、Cu−Ni−Si系合金板を特定の製造工程で得ることで、{110}<112>方位と{100}<001>方位の中間的な結晶配向に組織状態を制御し、I(220)が高くI(200)が低い所定のX線回折強度を有し、高強度であって曲げ加工性のRD(LD)とTDでの異方性を低減させることが提案されている。
特開昭63−312937号公報 特開2002−294367号公報 特開2006−152392号公報 特開2011−132594号公報 国際公開WO2011/068134A1号 特開2006−9108号公報 特開2012−122114号公報 特開2008−13836号公報
ところで、特許文献1〜4では、一般的な銅合金から比べると、高い強度は得られているものの、合金系と製造方法によっては導電率が依然低い場合があった。また、近年特に重要となってきている、ヤング率の制御がなされていなかった。また、特許文献5〜8では、高い導電率は得られているものの、降伏強度が低く、また、ヤング率の制御の点でもなお改良の余地があった。
そこで、良好な導電性を有しながら高い降伏強度を有し、かつ、ヤング率が制御された銅合金板材が求められている。
上記のような課題に鑑み、本発明の課題は、高い降伏強度、制御されたヤング率、良好な導電率を両立した銅合金板材とそれを用いたコネクタを提供することにある。特に、本発明は、電気・電子機器用のリレー、スイッチ、ソケットなど、自動車車載用などのコネクタや端子材などに適した銅合金板材、さらにはオートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材やFPC(Flexible Printed Circuit)用のコネクタなどに適した銅合金板材と、それを用いたコネクタを提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意検討を重ねた結果、{110}<001>方位及び{110}<112>方位の集積度を高めるとともに、最大結晶粒のサイズを小さく制御することで、高い降伏強度と良好な導電率に加えて、圧延平行方向のヤング率は低く、圧延垂直方向のヤング率は高い、という特性が得られることを見いだした。本発明は、この知見に基づき完成されるに至ったものである。
すなわち、本発明によれば以下の手段が提供される。
(1)NiとCoのいずれか1種又は2種を合計で1.80〜8.00質量%、並びにSiを0.40〜2.00質量%含有し、および残部が銅と不可避不純物からなる組成を有し、
母相の結晶粒の長径が12μm以下であり、
{110}<001>方位の方位密度が4以上、{110}<112>方位の方位密度が10以上であることを特徴とする銅合金板材。
(2)NiとCoのいずれか1種又は2種を合計で1.80〜8.00質量%、Siを0.40〜2.00質量%、並びにSn、Zn、Ag、Mn、P、Mg、Cr、Zr、Fe及びTiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を合計で0.005〜2.000質量%含有し、および残部が銅と不可避不純物からなる組成を有し
相の結晶粒の長径が12μm以下であり
110}<001>方位の方位密度が4以上、{110}<112>方位の方位密度が10以上であることを特徴とする銅合金板材
(3)ビッカース硬さが280以上である(1)又は(2)項に記載の銅合金板材。
)(1)〜()のいずれか1項に記載の銅合金板材を含んでなるコネクタ。
本発明の銅合金板材は、高い降伏強度を有し、圧延平行方向のヤング率は低く圧延垂直方向のヤング率は高いという特性を有する。従って、板材に対するプレス(型抜き)方向を変えるだけで、ヤング率の大きいバネとヤング率の小さいバネの両方を製造することができる。この為、本発明の銅合金板材は、コネクタ材として好適である。また、本発明の銅合金板材は、電気・電子機器用のリレー、スイッチ、ソケットなど、自動車車載用などのコネクタや端子材など、さらにはオートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材やFPC(Flexible Printed Circuit)用のコネクタなど、に好適に用いることができる
図1は、{110}<001>方位の結晶の向きを示す。 図2は、{110}<112>方位の2つのバリアントの結晶の向きを示す。 図3は、{001}<100>方位の結晶の向きを示す。 図4は、発明例204のFE−SEM/EBSD測定によって得られた結晶粒界マップである。 図5は、参考例256のFE−SEM/EBSD測定によって得られた結晶粒界マップである。
本発明の銅合金板材の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。ここで、「銅合金材料」とは、銅合金素材が所定の形状(例えば、板、条、箔、棒、線など)に加工されたものを意味する。そのなかで板材とは、特定の厚みを有し形状的に安定しており面方向に広がりをもつものを指し、広義には条材や箔材、板を管状とした管材を含む意味である。
本発明の銅合金板材に用いるCu−(Ni、Co)−Si系は析出硬化型合金であり、(Ni、Co)−Si系化合物が第二相として銅マトリクス中に10nm前後のサイズで分散することで、高強度が得られることが知られている。しかし、このような結晶状態ではヤング率の制御と両立は難しいことから、本発明者は異なる強化機構を研究した。その結果、{110}<001>方位と{110}<112>方位を有する結晶粒を多く集積させることと、全結晶粒の中でも最も大きい結晶粒の長径を小さく制御することとの相乗効果によって、高い強度を得つつヤング率の制御ができることを確認し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、上記結晶の制御によって、結晶のすべり変形における多重すべりを多く引き起こし、これによって高強度化とヤング率の制御の両立を可能にしている。
(X線極点図測定とそれに基づくODF解析による方位密度)
本発明の銅合金板材中における銅合金母相の結晶について、板材表面から{111}、{100}、{110}面の不完全極点図を測定する。測定面の試料サイズは25mm×25mmで行う。試料サイズは、X線のビーム径を細くすれば小さくすることが可能である。測定した3つの極点図に基づいて、ODF(Orintatiaon Distribution Function:方位密度分布関数)解析を行う。方位密度とは、ランダムな結晶方位分布の状態を1とし、それに対して何倍の集積となっているかを示すものであり、結晶方位分布を定量評価する方法として、一般的である。試料の対称性はOrthotropic(RD及びTDに鏡面対象)とし、展開次数は22次とする。そして、{110}<001>方位及び{110}<112>方位の方位密度を求める。なお、{001}<100>方位の方位密度も同様に求める。
図1、図2及び図3に示すように、結晶の対称性から、{110}<001>方位のバリアントは1つ、{110}<112>方位のバリアントは2つ、{001}<100>方位のバリアントは1つである。本発明における方位密度とは、バリアント1つ分の方位密度によって定義する。なお、方位の記載は、材料の圧延方向(RD)をX軸、板幅方向(TD)をY軸、圧延法線方向を(ND)をZ軸の直角座標系をとり、材料中の各領域がZ軸に垂直な(圧延面に平行な)結晶面の指数(hkl)とX軸に平行な(圧延面に垂直な)結晶方向の指数[uvw]とを用いて(hkl)[uvw]の形で示している。単独の結晶方位をあらわす場合は(hkl)[uvw]、対称性のもとで等価な方位全体をあらわす場合は{hkl}<uvw>と、括弧の種類を変えて表示する。
ODFはEBSD法による結晶方位分布測定からも得ることが出来る。特に、電子線の径が細く、位置分解能が高いFE−SEM/EBSD法を用いることが好ましい。EBSD法の場合は、菊池パターンによって結晶方位を求めるが、結晶格子の歪みが大きい場合に菊池パターンが不鮮明となり解析不能点が増える。この解析不能点が、全測定点の2割程度以下であれば、X線極点図による集合組織の解析結果と同等の測定結果となる。但し、EBSD法の測定で測定視野が狭い場合は、{110}<112>方位の2つのバリアントである(110)[1−12]方位と(110)[−112]方位の方位密度が異なる場合がある。その場合は、これらの等価な方位バリアントの方位密度が同等となるように視野の数を多くすることが必要である。
なお、FE−SEM/EBSDとは、Field Emission Electron Gun−type Scanning Electron Microscope/Electron Backscatter Diffractionの略である。
本発明では、前記の方法で評価する{110}<001>方位の方位密度が4以上、かつ{110}<112>方位の方位密度が10以上の場合に、圧延平行方向のヤング率は低く、圧延垂直方向のヤング率は高いという特性が得られる。{110}<001>方位は圧延平行方向に(001)面が向いている結晶方位であり、{110}<112>方位は圧延垂直方向に(111)面が向いている結晶方位である。{110}<001>方位は圧延平行方向のヤング率を低減させるのに効果的な方位であり、{110}<112>方位は圧延垂直方向のヤング率を高めるのに効果的な方位である。従って、これらの方位密度を所定量とすることで、圧延平行方向のヤング率は低く、圧延垂直方向のヤング率は高いという特性が得られる。{110}<001>方位の方位密度はより好ましくは6以上であり、更に好ましくは8以上である。また、{110}<112>方位の方位密度はより好ましくは15以上であり、更に好ましくは20以上である。各方位密度の上限値には特に制限はないが、通常100以下である。本発明において、より好ましくは、{110}<001>方位の方位密度が6以上、かつ{110}<112>方位の方位密度が15以上であり、更に好ましくは、{110}<001>方位の方位密度が8以上、かつ{110}<112>方位の方位密度が20以上である。これらの方位密度が低すぎると、圧延平行方向のヤング率が低く、圧延垂直方向のヤング率が高いという特性が得られ難い。
また、{001}<100>方位の方位密度は3以下であることが好ましい。{001}<100>方位の方位密度は、より好ましくは2以下であり、更に好ましくは1以下である。{001}<100>方位の方位密度は、特に好ましくは0であって、つまり{001}<100>方位粒が全く存在しないことが特に好ましい。これは、{001}<100>方位の方位密度が高すぎると圧延垂直方向のヤング率を低下させてしまうためである。
なお、本発明において、板の最表面は加工変質層などの非定常な加工組織が形成されることによって、バルクの結晶方位分布と異なる評価結果となる場合があるため、ハーフエッチングして板厚の半分の位置で方位密度を測定するのが好ましい。
本発明では、X線極点図測定にはPANalytical社製の「X‘Pert PRO」を、またODF解析には株式会社ノルム工学の解析ソフトウェア「Standard
ODF」を用いる。
さらに、EBSD測定には、電子線源のFE−SEMには日本電子株式会社の「JSM−7001F」を、EBSD解析用の菊池パターンの解析カメラには株式会社TSLの「OIM5.0 HIKARI」を、それぞれ用いる。
さらに、EBSDデータの解析には、TSL社のソフトウェア「OIM Analysis5」を用いる。
本発明において、結晶方位分布関数(ODF)は、級数展開法で、奇数項も取り入れた計算により求められる。奇数項の計算方法は、例えば、軽金属、井上博史著、「集合組織の三次元方位解析」、358〜367頁(1992);日本金属学会誌、井上博史ら著、「反復級数展開法による不完全極点図からの結晶方位分布関数の決定」、892〜898頁、第58巻(1994);U. F. Kocks et al.、"Texture
and Anisotropy"、102〜125頁、Cambridge University Press(1998)に記載されているとおりである。
(最大結晶粒の長径)
最大結晶粒の長径は、EBSD法によって測定し解析する。通常、析出硬化型合金の強度は、析出物のサイズや密度といった分散状態に大きく支配され、結晶粒径の影響は小さい。しかし、本発明における結晶制御においては、結晶粒の大きさ、特に最も大きい結晶粒のサイズを適正に制御することが重要である。前記したFE−SEM/EBSD法によって0.1μm間隔で電子線を走査して結晶方位マップを測定し、方位差が5°以上の境界を結晶粒界とする。結晶粒界で周囲を囲まれた範囲を1つの結晶粒とする。観察視野は50μm×50μmとし、3視野ずつの測定を行う。そして、その中で最も大きい結晶粒について、その粒径、すなわちその長径の長さを求めた。ここで長径とは、圧延方向(RD)、板幅方向(TD)、その中間の方向のいずれの方向でもよく、1つの結晶粒について結晶方位マップ上で観察される最も長い粒径をいう。
本明細書においては、この最も大きい結晶粒の長径の長さを、結晶粒の長径の最大値(L)または最大結晶粒の長径ともいう。これが本発明で規定する母相の結晶粒の長径の意味である。母相の結晶粒の長径が12μm以下の場合に、良好な高い強度、すなわち所定の高い降伏強度が得られる。母相の結晶粒の長径は、より好ましくは9μm以下、更に好ましくは4μm以下である。なお、上記の結晶粒の解析を、透過電子顕微鏡による観察結果に基づいて行うことも可能である。
図4に発明例204、図5に参考例256について、FE−SEM/EBSD測定によって得られた結晶粒界マップを示す。図中の線が結晶粒界を、結晶粒界で囲まれた1つ1つの範囲が結晶粒である。結晶粒の長径の最大値(L)は、図示したとおりである。
(合金組成)
・Ni、Co、Si
上記の第二相を構成する元素である。これらは前記金属間化合物を形成する。これらは本発明の必須添加元素である。NiとCoのいずれか1種又は2種の含有量の総和は、1.8〜8.0質量%であり、好ましくは2.6〜6.5質量%、より好ましくは3.4〜5.0質量%である。また、Siの含有量は0.4〜2.0質量%、好ましくは0.5〜1.6質量%、より好ましくは0.7〜1.2質量%である。これらの必須添加元素の添加量が少なすぎる場合には、得られる効果が不十分となり、多すぎる場合は、圧延工程中に材料割れが発生する場合がある。なお、Coを添加した方が、導電性がやや良好であるが、Coを含んだ状態でこれらの必須添加元素の濃度が高い場合に、熱間圧延及び冷間圧延の条件によっては、圧延割れが生じやすくなる場合がある。よって、本発明におけるより好ましい形態としては、Coを含まない。
・その他の元素
本発明の銅合金板材は、前記必須添加元素の他に、Sn、Zn、Ag、Mn、P、Mg、Cr、Zr、Fe及びTiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を任意添加元素として含有してもよい。これらの元素は、前記{110}<001>方位と{110}<112>方位の方位密度を高めるとともに、結晶粒の長径の最大値(L)を小さくし、ビッカース硬さ(Hv)を良化する作用が確認された。これらの元素を含有する場合、Sn、Zn、Ag、Mn、P、Mg、Cr、Zr、Fe及びTiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の含有量は、合計で0.005〜2.0質量%とすることが好ましい。但し、これらの任意添加元素の含有量が多すぎると、導電率を低下させる弊害を生じる場合や圧延工程中に材料割れが発生する場合がある。
・不可避不純物
銅合金中の不可避不純物は、銅合金に含まれる通常の元素である。不可避不純物としては、例えば、O、H、S、Pb、As、Cd、Sbなどが挙げられる。これらは、その合計の量として0.1質量%程度までの含有が許容される。
(製造方法)
従来法として、通常の析出硬化型銅合金材の製造方法では、溶体化熱処理によって過飽和固溶状態とした後に、時効処理によって析出させ、必要に応じて調質圧延(仕上げ圧延)及び歪取り焼鈍が行われる。後述する参考例の製造方法E、F、G、Hがこれに相当する。
これに対して、本発明においては、結晶方位と最大結晶粒の長径を制御するには、前記従来法とは異なるプロセスが有効となる。例えば、下記のようなプロセスが有効であるが、本発明で規定する結晶状態を満足すれば、製造方法は下記の方法に限定されるものではない。
本発明の銅合金板材の製造方法の一例は、溶解・鋳造[工程1]して鋳塊を得て、この鋳塊に、均質化熱処理[工程2]、熱間圧延等の熱間加工[工程3]、水冷[工程4]、中間の冷間圧延[工程5]、時効析出のための熱処理[工程6]、最終冷間圧延[工程7]、歪取り焼鈍[工程8]をこの順に行う方法が挙げられる。歪取り焼鈍[工程8]は所定の結晶制御と物性が得られていれば省略してもよい。なお、本発明においては、溶体化熱処理は行わない。つまり、熱間圧延以降の工程で、480℃以上の熱処理を行わない。
あるいは、本発明の銅合金板材の製造方法の別の一例として、溶解・鋳造[工程1]して鋳塊を得て、この鋳塊に、中間の冷間圧延[工程5]、時効析出のための熱処理[工程6]、最終冷間圧延[工程7]、歪取り焼鈍[工程8]をこの順に行う方法が挙げられる。この場合には、溶解・鋳造[工程1]の時点で成分の均質化や板厚の調整をしておくのが好ましい。この工程においても、歪取り焼鈍[工程8]は所定の結晶制御と物性が得られていれば省略してもよい。この場合も、本発明においては、溶体化熱処理は行わない。つまり、熱間圧延以降の工程で、480℃以上の熱処理を行わない。
本発明で規定する結晶方位と結晶粒の大きさの制御は、たとえば時効処理[工程6]の条件を300〜440℃で5分間〜10時間とし、かつ、最終冷間圧延[工程7]の加工率を95%以上とする、という2つの工程における特定の条件の組み合わせによって達成される。この機構は次のように推定される。時効処理[工程6]の熱処理において、数nm以下の微細な大きさで析出した(Ni、Co)−Si化合物の作用によって、その後の最終冷間圧延[工程7]における転位の分布状態や結晶回転が変化する。そして、最終冷間圧延[工程7]の圧延率を高くとることで、最終冷間圧延[工程7]中の結晶粒の分断が誘発されて、最大結晶粒の粒径を小さくするとともに、{110}<001>方位及び{110}<112>方位への結晶回転と集積が促進される。この最大結晶粒が小さくなることで強度が高まり、ビッカース硬さが高まる。
ここで析出物の作用について、従来のCu−(Ni,Co)−Si系では、析出物を10nm前後のサイズで析出させることで、析出物自体が転位の抵抗となって強度を高めていた。これに対し、本発明においては、冷間加工による結晶の方位とサイズの制御に活用している点が、大きく異なる。この新しい作用の発見とそれを活用した新しい組織制御によって、従来得られなかった、圧延平行方向に低いヤング率E(RD)と圧延垂直方向に高いヤング率E(TD)と、高い降伏強度特性との両立が可能になった。
各工程での好ましい熱処理、加工の条件としては、以下のとおりである。
均質化熱処理[工程2]は、960〜1040℃で1時間以上、好ましくは5〜10時間保持する。
熱間圧延等の熱間加工[工程3]は、熱間加工開始から終了までの温度範囲が500〜1040℃で、加工率は10〜90%とする。
水冷[工程4]は、通常、冷却速度が1〜200℃/秒である。
中間の冷間圧延[工程5]は、加工率は1〜19%とする。
時効析出のための熱処理[工程6]は時効処理ともいい、その条件は300〜440℃で5分から10時間の保持であり、好ましい温度範囲は、360〜410℃である。
仕上の冷間圧延[工程7]の加工率は95%以上、好ましくは97%以上である。上限は特に制限されないが、通常、99.999%以下である。
歪取り焼鈍[工程8]は200〜430℃で5秒〜2時間保持する。保持時間が長すぎると強度が低下してしまうため、5秒以上5分以下の短時間焼鈍とすることが好ましい。
ここで、加工率(又は圧延率)は次式によって定義される値である。
加工率(%)={(t−t)/t}×100
式中、tは圧延加工前の厚さを、tは圧延加工後の厚さをそれぞれ表わす。
(物性)
本発明の銅合金板材は、好ましくは以下の物性を有する。
(ビッカース硬さ:Hv)
本発明における降伏強度特性は、降伏強度とほぼ比例関係にあり、かつ降伏強度よりも小さな試験片で定量化することのできる、ビッカース硬さ試験によるビッカース硬さによって定量化するものとする。
本発明の銅合金板材のビッカース硬さは、好ましくは280以上であり、より好ましくは295以上であり、さらに好ましくは310以上である。この板材のビッカース硬さの上限値には特に制限はないが、打ち抜きプレス加工性なども考慮すると、400以下が好ましい。本明細書におけるビッカース硬さとは、JIS Z 2244に準拠して測定された値をいう。ビッカース硬さがこの範囲内のものは降伏強度も高い値となり、本発明の銅合金板材をコネクタなどに使用した場合の電気接点の接圧が十分確保できるという効果を奏する。
(降伏強度:YS)
本発明の銅合金板材の一つの好ましい実施態様では、圧延垂直方向の降伏強度(降伏応力または0.2%耐力とも言う)は好ましくは1020MPa以上、より好ましくは1080MPa以上、更に好ましくは1140MPa以上である。なお、本発明では、圧延平行方向の降伏強度と圧延垂直方向の降伏強度との平均値をその銅合金板材の降伏強度の値として採用した。この板材の降伏強度の上限値には特に制限はないが、たとえば、1400MPa以下である。
(ヤング率:E)
圧延平行方向のヤング率(E(RD))は、好ましくは128GPa以下、より好ましくは125GPa以下、更に好ましくは122GPa以下である。この圧延平行方向のヤング率の下限値には特に制限はないが、通常、100GPaである。圧延垂直方向のヤング率(E(TD))は、好ましくは135GPa以上、より好ましくは139GPa以上、更に好ましくは143GPa以上である。この圧延垂直方向のヤング率の上限値には特に制限はないが、通常、160GPaである。
(導電率:EC)
導電率は好ましくは13%IACS以上、より好ましくは15%IACS以上、更に好ましくは17%IACS以上、特に好ましくは19%IACS以上である。導電率の上限については、40%IACSを超えると強度が低下してしまう場合がある。好ましくは40%IACS以下、より好ましくは34%IACS以下、更に好ましくは31%IACS以下である。
なお、本発明において、降伏強度はJIS Z 2241に基づく値である。また、上記の「%IACS」とは、万国標準軟銅(International Annealed Copper Standard)の抵抗率1.7241×10−8Ωmを100%IACSとした場合の導電率を表したものである。
(製品の板厚範囲)
本発明に係る銅合金板(銅合金条)の一実施形態においては、厚さが0.6mm以下であり、典型的な実施形態においては厚さが0.03〜0.3mmである。
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
表1に記載の合金成分元素を含有し、残部がCuと不可避不純物から成る合金の原料を高周波溶解炉により溶解し、これを鋳造して鋳塊を得た。以下の工程に記載する圧延率で各圧延工程を経ることによって、矛盾無く最終板厚(0.15mm)になるように鋳塊の大きさを調整した。そして、下記A、B、C、Dのいずれかの製法にて、本発明に従った発明例とこれとは別に参考例の銅合金板材の供試材を、それぞれ製造した。なお、表1にA〜Dのいずれの製法を用いたのかを示した。最終的な銅合金板材の厚さは特に断らない限り0.15mmとした。この最終板厚は、以下に述べる製法E〜Hの場合も特に断らない限り同様である。なお、表中に下線つきで表わした数字等は、本発明で規定する合金成分の含有量、方位密度、結晶粒の長径の最大値(L)もしくは製法を満たさなかったか、または物性が本発明における好ましい範囲を満たさなかったものを意味する。
(製法A)
前記鋳塊に対して、960〜1040℃で1時間以上保持する均質化熱処理を行い、この高温状態のまま板厚12mmまで熱間圧延を行い、直ちに水冷した。そして、面削の後、1〜19%の中間の冷間圧延、300〜440℃に5分〜10時間保持する時効処理、加工率が95%以上の仕上の冷間圧延、歪取り焼鈍をこの順に行った。
(製法B)
前記製法Aの均質化熱処理と熱間圧延を行わずに、前記鋳塊に対して、面削の後、加工率が1〜19%の冷間圧延、300〜440℃に5分〜10時間保持する時効処理、加工率が95%以上の冷間圧延、歪取り焼鈍をこの順に行った。
(製法C)
製法Aの時効処理を500℃を超え700℃以下で5分〜10時間保持の条件で行い、その他の条件は製法Aと同様に行った。
(製法D)
製法Aの仕上の冷間圧延の加工率を80%以上94%未満で行い、その他の条件は製法Aと同様に行った。
製法A〜Dにおける歪取り焼鈍の条件は、200〜430℃で5秒〜2時間保持した。なお、各熱処理や圧延の後に、材料表面の酸化や粗度の状態に応じて、必要により、面削や酸洗浄、又は表面研磨によって、表面の酸化層を除去した。また、形状に応じて、必要により、テンションレベラーによる矯正を行った。また、圧延ロールの凹凸の転写やオイルピットによって、材料表面の粗さが大きい場合は、圧延速度、圧延油、圧延ロールの径、圧延ロールの表面粗さ、圧延時の1パスの圧下量などの圧延条件を調整した。
また、他の参考例として下記の製法E、F、G、Hのいずれかにて試作して、銅合金板材の供試材を得た。製法E〜Hの条件は、各特許文献に記載されている製造方法のものを踏襲したが、溶体化熱処理の条件は、合金中の添加元素濃度によって異なるため、本実施例における発明例104等における各成分の濃度であるNi=3.81質量%及びSi=0.91質量%を十分に固溶せしめる条件として、溶体化熱処理の条件は900℃×1分間を採用した。
(製法E)特許文献5:国際公開WO2011/068134A1号の実施例に記載の製法
下記表1に示した銅合金組成を与える原料をDC法により鋳造し、厚さ30mm、幅100mm、長さ150mmの鋳塊を得た。次にこの鋳塊を800〜1000℃に加熱し、この温度に1時間保持後、厚さ14mmに熱間圧延し、1K/秒の冷却速度で除冷し、300℃以下になったら水冷した。次いで両面を各2mmずつ面削して、酸化被膜を除去した後、圧延率90〜95%の冷間圧延を施した。この後、350〜700℃で30分の中間焼鈍と、10〜30%の冷間圧延率で冷間圧延を行った。その後、700〜950℃で5秒〜10分間の溶体化処理を行い、直ちに15℃/秒以上の冷却速度で冷却した。次に、不活性ガス雰囲気で400〜600℃で2時間の時効処理を施し、その後、圧延率50%以下の仕上げ圧延を行い、最終的な板厚を0.15mmとした。仕上げ圧延後、400℃で30秒の歪取り焼鈍を施した。
(製法F)特許文献6:特開2006−9108号公報に記載の実施例1発明例No.1の製法
下記表1に示した銅合金組成を与える原料を大気溶解炉により溶製し、厚さ20mm×幅60mmのインゴットに鋳造した。このインゴットを1000℃で3時間の均質化焼鈍を施した後、この温度で熱間圧延を開始した。厚みが15、10及び5mmになった時点で、圧延途中の材料を1000℃にて30分、再加熱し、熱間圧延後に3mmの板厚とした。その後に、面削、板厚0.625mmまで冷間圧延(加工率79%)、900℃に1分保持する溶体化処理、水冷、板厚0.5mmまでの冷間圧延(加工率20%)、400〜600℃に3時間保持する時効処理を、この順に行った。
(製法G)特許文献7:特開2012−122114号公報に記載の実施例3の製法
下記表1に示した銅合金組成を与える原料を還元性雰囲気の低周波溶解炉を用いて溶解後に鋳造して厚さ80mm、幅200mm、長さ800mmの寸法の銅合金鋳塊を製造し、この銅合金鋳塊を900〜980℃に加熱した後、熱間圧延にて厚さ11mmの熱延板とし、この熱延板を水冷した後に両面を0.5mm面削した。次に、圧延率87%にて冷間圧延を施して厚さ1.3mmの冷延板を作製した後、710〜750℃にて7〜15秒間保持の条件で連続焼鈍を施し、加工率55%にて冷間圧延(溶体化処理直前の冷間圧延)を施して所定厚さの冷延板を作製した。この冷延板を900℃に1分間保持した後に急冷して溶体化処理を施した後、430〜470℃にて3時間保持して時効化処理を施した。次に、#600の粒度の機械研磨、5質量%の硫酸と10質量%の過酸化水素の処理液中に、50℃の液温で20秒間浸漬する酸洗処理を施した後に、加工率15%の最終冷間圧延を施し、引き続き、300〜400℃にて20〜60秒間保持の条件で連続歪取り焼鈍を施して、銅合金薄板を作製した。
(製法H)特許文献8:特開2008−13836号公報に記載の本発明例No.4の製法
下記表1に示した銅合金組成を与える原料を溶製し、縦型連続鋳造機を用いて鋳造し、得られた鋳片を950℃に加熱し、950〜650℃の温度範囲で熱間圧延を行うことにより厚さ10mmの板材にし、その後、急冷(水冷)した。次いで、面削、91%の圧延率で冷間圧延、平均結晶粒径が25μmを超え〜40μmとなる溶体化処理(900℃に1分間)、450℃で硬さがピークになるだけの時間保持する時効処理、35%の圧延率で最終冷間圧延(板厚0.2mmまで)、400℃で5分保持する歪取り焼鈍を、この順に行った。
これらの本発明に従った発明例比較例及び参考例の供試材について、以下のようにして各特性を測定、評価した。結果を表1に併せて示す。
a.方位密度
ハーフエッチした板厚の1/2の位置で{111}、{100}、{110}の不完全極点図を測定した。測定面の試料サイズは25mm×25mmで行った。測定した3つの極点図に基づいて、ODF解析を行った。試料の対称性はOrthotropic(RD及びTDに鏡面対象)とし、展開次数は22次とした。そして、{110}<001>方位及び{110}<112>方位の方位密度を求めた。併せて、{001}<100>方位の方位密度も求めた。
b.母相の結晶粒の長径の最大値[L]
FE−SEM/EBSD法によって0.1μm間隔で電子線を走査して結晶方位マップを測定、作成した。ここで、方位差が5°以上の境界を結晶粒界とした。観察視野は50μm×50μmとし、3視野ずつの測定を行った。そして、その中で最も粒径の大きい結晶粒について、その長径を求めた。即ち、本発明の銅合金板材の母相の結晶粒の最大長径を求めた。
c.ビッカース硬さ[Hv]
JIS Z 2244に従って、材料表面もしくは鏡面研磨した断面から、ビッカース硬さを測定した。荷重は100gfとし、n=10の平均を求めた。
d.降伏強度[YS]
圧延平行方向(RD)または圧延垂直方向(TD)のいずれかを長手にして各供試材から別々に切り出したJIS Z2201−13B号の試験片をJIS Z2241に準じてそれぞれ3本測定した。接触式の伸び計によって変位を測定し、応力−歪み曲線を得て0.2%耐力を読み取った。そして、圧延平行方向の降伏強度:YS(RD)と圧延垂直方向の降伏強度:YS(TD)の平均値を降伏強度として示した。
e.ヤング率[E]
上記の降伏強度[YS]の測定と同様の方法で、応力−ひずみ曲線を得て、その弾性域の傾きを読み取ってヤング率とした。圧延平行方向のヤング率:E(RD)と圧延垂直方向のヤング率:E(TD)をそれぞれ求めた。
f.導電率[EC]
各供試材について20℃(±0.5℃)に保たれた恒温漕中で四端子法により比抵抗を計測して導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。
表1に示すように、本発明の規定を満足する発明例101〜108は、いずれも全ての特性に優れた。Ni/Co、Siの濃度が所定範囲内で高い程、より高い降伏強度YSを示した。
一方、各比較例又は参考例では、合金組成が本発明で規定する条件を満たさなかったため、{110}<001>方位の方位密度、{110}<112>方位の方位密度、母相の結晶粒の長径の最大値Lの内の少なくとも1つが本発明で規定する条件を満たさないため、ビッカース硬さHv、降伏強度YS、圧延平行方向のヤング率E(RD)、圧延垂直方向のヤング率E(TD)の内の少なくとも1つの特性が劣った。
比較例151では、Ni/Co、Siが少なすぎたので降伏強度YSが劣った。また、Ni/Co、Siが多すぎた比較例152では、熱間圧延割れが発生し、製造性が劣った。製法Cによる参考例153は母相の結晶粒の長径の最大値Lが大きすぎた。また製法Dによる参考例154は{110}<001>方位と{110}<112>方位の方位密度が低すぎた。これらの参考例153と154は、いずれも降伏強度YSが小さすぎ、また、圧延平行方向のヤング率E(RD)は大きすぎて、一方、圧延垂直方向のヤング率E(TD)は小さすぎて、所望のヤング率制御ができずに劣った。
他の参考例として製法E、F、G、Hによる参考例155、156、157、158は、いずれも{110}<112>方位の方位密度が小さすぎるとともに母相の結晶粒の長径の最大値Lが大きすぎ、降伏強度YSが小さすぎ、また、圧延垂直方向のヤング率E(TD)は小さすぎて、所望のヤング率制御ができずに劣った。この内、参考例155、158は、{110}<001>方位の方位密度も小さすぎ、参考例155では、{001}<100>方位の方位密度が大きかった。
さらに、比較例151又は参考例153〜158は、いずれもビッカース硬さHvにも劣った。
(実施例2)
実施例1と同様の製造方法及び試験・測定方法によって、表2に示す各種銅合金を用いて銅合金板材を製造し、その特性を評価した。結果を表2に示す。
表2に示すように、本発明の規定を満足する発明例201〜208は、いずれも全ての特性に優れた。副添加元素の添加効果によって、所望の{110}<001>方位と{110}<112>方位の方位密度がやや高まるとともに、母相の結晶粒の長径の最大値Lがより小さくなり、降伏強度YSが向上したことがわかる。
図4に発明例204の組織写真を示す。これは、FE−SEM/EBSD測定によって得られた結晶粒界マップであり、母相の結晶粒の長径の最大値(L)は3.1μmであった。
一方、各比較例又は参考例では、合金組成が本発明で規定する条件を満たさなかったため、{110}<001>方位の方位密度、{110}<112>方位の方位密度、母相の結晶粒の長径の最大値Lの内の少なくとも1つが本発明で規定する条件を満たさなかったため、ビッカース硬さHv、降伏強度YS、圧延平行方向のヤング率E(RD)、圧延垂直方向のヤング率E(TD)の内の少なくとも1つの特性が劣った。
比較例251では、副添加元素が多すぎ、製造性が劣った。製法Cによる参考例252は母相の結晶粒の長径の最大値Lが大きすぎた。製法Dによる参考例253は{110}<001>方位と{110}<112>方位の方位密度が低すぎた。これらの参考例252と253は、いずれも降伏強度YSが小さすぎ、また、圧延平行方向のヤング率E(RD)は大きすぎて、一方、圧延垂直方向のヤング率E(TD)は小さすぎて、所望のヤング率制御ができずに劣った。
他の参考例として製法E、F、G、Hによる参考例254、255、256及び257は、いずれも{110}<112>方位の方位密度が小さすぎるとともに母相の結晶粒の長径の最大値Lが大きすぎ、降伏強度YSが小さすぎ、また、圧延垂直方向のヤング率E(TD)は小さすぎて、所望のヤング率制御ができずに劣った。この内、参考例254、257は、{110}<001>方位の方位密度も小さすぎ、参考例254では、{001}<100>方位の方位密度が大きかった。
さらに、参考例252〜257は、いずれもビッカース硬さHvにも劣った。
図5に参考例256の組織写真を示す。これは、FE−SEM/EBSD測定によって得られた結晶粒界マップであり、母相の結晶粒の長径の最大値(L)は17.7μmであった。
また、さらに他の参考例として下記の製法Nにて試作して、銅合金板材の供試材を得た。
(製法N)特開2009−074125に記載の実施例1
Cu−2.3Ni−0.45Si−0.13Mg(いずれも質量%)の組成に溶解・鋳造した銅基合金を銅製鋳型で半連続鋳造し、断面サイズ180mm×450mm、長さ4000mmの矩形断面鋳塊を鋳造した。次に、900℃に加熱し、1パス平均加工率22%で熱間圧延して厚さ12mmとし、650℃から冷却を開始して、約100℃/分の冷却速度で水冷した。両面を0.5mmずつ面削した後に、冷間圧延にて厚さ2.5mm(加工率=77.3%)とし、Ar雰囲気中で500℃の温度で3時間の時効処理を行った。更に冷間圧延して厚さ0.3mm(加工率=88.0%)とし、Ar雰囲気中で500℃で1分の焼鈍、仕上げ冷間圧延で厚さ0.15mm(加工率=50.0%)として、Ar雰囲気中で450℃で1分の歪除去焼鈍を行った。
この参考例の供試材について、前記と同様にして各特性を測定、評価した。結果を表3に併せて示す。
製法Nによる参考例258は、{110}<001>方位の方位密度及び母相の結晶粒の長径(結晶サイズ)に関して、本発明の範囲を満たさず、ビッカース硬度[Hv]、圧延平行方向のヤング率[E(RD)]及び降伏強度[YS]が劣った。
以上の実施例から、本発明の有効性が確認された。

Claims (4)

  1. NiとCoのいずれか1種又は2種を合計で1.80〜8.00質量%、並びにSiを0.40〜2.00質量%含有し、および残部が銅と不可避不純物からなる組成を有し、
    母相の結晶粒の長径が12μm以下であり、
    {110}<001>方位の方位密度が4以上、{110}<112>方位の方位密度が10以上であることを特徴とする銅合金板材。
  2. NiとCoのいずれか1種又は2種を合計で1.80〜8.00質量%、Siを0.40〜2.00質量%、並びにSn、Zn、Ag、Mn、P、Mg、Cr、Zr、Fe及びTiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を合計で0.005〜2.000質量%含有し、および残部が銅と不可避不純物からなる組成を有し、
    母相の結晶粒の長径が12μm以下であり、
    {110}<001>方位の方位密度が4以上、{110}<112>方位の方位密度が10以上であることを特徴とする銅合金板材
  3. ッカース硬さが280以上である請求項1又は2に記載の銅合金板材。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載の銅合金板材を含んでなるコネクタ。
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