発明者らは、治療計画で設定した照射スポットの目標位置とイオンビームが照射された照射スポットの実際の照射位置との間の誤差に起因するイオンビーム照射の計画外停止を低減する対策について検討を行った。
特開2011−177374号公報及び特開2011−206495号公報に記載されたように、イオンビームの患部への照射が停止される、イオンビームが照射された照射スポットが対応する許容範囲外に逸脱する事象は、照射スポットの目標位置とイオンビームが照射された照射スポットの実際の照射位置との間の誤差が大きくなることによって生じる。このため、発明者らは、照射スポットの目標位置とイオンビームが照射された照射スポットの実際の照射位置との間の誤差に着目した。
照射スポットの目標位置に対してイオンビームを照射したときにおける、イオンビームが照射された各照射スポットの実際の照射位置が、図8に示されている。図8において、イオンビームが照射された各照射スポットの実際の照射位置は、小さい四角形の点で示されている。図8に示された例では、照射スポットの目標位置Pに対して、照射スポットの実際の照射位置が右上の方にずれており、各照射スポットの実際の照射位置もこれらの照射スポットの実際の照射位置の平均位置(重心)Pmの周りにばらついている。
イオンビームが照射された照射スポットの実際の照射位置の誤差として、照射スポットの目標位置から一定量の位置ずれを発生させるシステマチック誤差、及び照射スポットの実際の照射位置の平均位置Pmからのずれを発生させるランダム誤差が存在する。
システマチック誤差は、イオンビームが照射された照射スポットの実際の照射位置の平均位置Pmの、照射スポットの目標位置Pからのずれである。換言すれば、実際の照射位置の平均位置Pmは、システマチック誤差により、照射スポットの目標位置からずれている。このシステマチック誤差は、荷電粒子ビーム照射システムの回転ガントリーの傾斜角、及び回転ガントリーに取り付けられた偏向電磁石に起因して生じる。
システマチック誤差Esj(j=1,2,…,n)を求めるためには、まず、イオンビームを照射する照射スポットの目標位置Pj(j=1,2,…,n)とイオンビームが照射された照射スポットの実際の照射位置Paj(j=1,2,…,n)の間の偏差Djを、式(1)により算出する。
Dj = Pj−Paj …(1)
システマチック誤差Esj(j=1,2,…,n)は、偏差Djを反映した式(2)で表される。
実際の照射位置Pajは、或る層内におけるj番目(j=1,2,…,n)の照射スポットに対するものである。
ランダム誤差は、個々の照射スポットの実際の照射位置の、これらの実際の照射位置の平均位置Pmからのずれを示している。換言すれば、個々の照射スポットの実際の照射位置Paは、ランダム誤差により、それらの実際の照射位置の平均位置Pmの周りでばらつくことになる。ランダム誤差が大きくなると、患部の線量分布の一様度が悪化する。ランダム誤差は、シンクロトロンの安定性、シンクロトロンから照射装置にビームを輸送する輸送系電磁石電源の安定性、照射装置に設けられたビーム位置モニターの測定誤差及び走査電磁石によるイオンビームの走査等によって生じる。なお、ランダム誤差Erj(j=1,2,…,n)は、偏差Djを反映した式(3)で算出される。
ここで、Panは患部の或る層内でのn番目の照射スポットの実際の照射位置Paである。
特開2011−177374号公報及び特開2011−206495号公報に記載されているように、従来では、一つの許容範囲が照射スポットの目標位置に対して設定されている。すなわち、図9に示すように、照射スポットの目標位置Pに対してスポット位置の一つの許容範囲が設定される。この許容範囲は、前述のシステマチック誤差及びランダム誤差をカバーしている。
しかしながら、イオンビームが照射される照射スポットの細径化によって、照射スポット位置の誤差に対する線量分布の感度が高くなり、線量分布の一様度の監視を厳しくする必要がある。
照射スポットの細径化に伴う誤差の厳しい監視を実現するためには、図9に示すように、実線で示された照射スポット位置の許容範囲を破線で示された照射スポット位置の許容範囲に狭める必要がある。破線のように照射スポット位置の許容範囲を狭くした場合には、患部にイオンビームを照射するとき、照射スポットの実際の照射位置が破線で示された照射スポット位置の許容範囲を逸脱するケースが増加し、計画外において患部へのイオンビームの照射停止の頻度が増加する。これでは、荷電粒子ビーム照射システムを安定に運転することができなくなる。一日あたりに治療できる人数を増加するためには、荷電粒子ビーム照射システムの安定な運転が望まれる。
このようなニーズに対応するため、発明者らは、システマチック誤差及びランダム誤差のそれぞれに対して別々に許容範囲を設定し、各許容範囲に基づいてシステマチック誤差及びランダム誤差を別々に監視することに思い至った。
図10を用いて、システマチック誤差に対する許容範囲及びランダム誤差に対する許容範囲を説明する。
イオンビームが照射された各照射スポットの実際の照射位置の平均位置Pmの、照射スポットの目標位置Pからのずれが、システマチック誤差Esである。このシステマチック誤差Esに対して、照射スポットの目標位置Pを基準とするシステマチック誤差の許容範囲As(第1許容範囲)が設定される。許容範囲Asは、x方向及びこれと直交するy方向において、目標位置Pを基準としたそれぞれ上限値(+Asx,+Asy)及び下限値(−Asx,−Asy)を有する。
イオンビームが照射された照射スポットの実際の照射位置の、各照射スポットの実際の照射位置の平均位置Pmからのずれが、ランダム誤差Erである。このランダム誤差Erに対して、実際の照射位置の平均位置Pmを基準とするランダム誤差の許容範囲Ar(第2許容範囲)が設定される。許容範囲Arも、X方向及びこれと直交するY方向において、実際の照射位置の平均位置Pmを基準としたそれぞれ上限値(+Arx,+Ary)及び下限値(−Arx,−Ary)を有する。
システマチック誤差の許容範囲Asは、図9に示す従来のスポット位置の許容範囲よりも狭くなっている。また、ランダム誤差の許容範囲Arは、システマチック誤差の許容範囲Asよりも狭くなっている。システマチック誤差Es及びランダム誤差Erのそれぞれに対して、前述のように、許容範囲As及び許容範囲Arがそれぞれ設定されるので、システマチック誤差Es及びランダム誤差Erのそれぞれを厳しく監視することができる。
このように、システマチック誤差及びランダム誤差のそれぞれに対して厳しい監視を行う場合であっても、システマチック誤差の許容範囲及びランダム誤差の許容範囲を別々に設定しているため、システマチック誤差がシステマチック誤差の許容範囲を逸脱し、さらに、ランダム誤差がランダム誤差の許容範囲を逸脱する確率が低減される。このため、患者へのイオンビームの照射停止の確率が著しく低下し、荷電粒子ビーム照射システムのより安定な運転が可能になり、患者へのイオンビームの照射の計画外停止が極めて少なくなる。この結果、一日当たりに治療できる人数を増加することができる。
以上の検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の荷電粒子ビーム照射システムを図1を用いて説明する。本実施例の荷電粒子ビーム照射システム1では、照射目標であるがんの患部に照射するイオンビームとして、陽子イオンビームが用いられる。陽子イオンビームの替りに炭素イオンビームを用いてもよい。
本実施例の荷電粒子ビーム照射システム1は、荷電粒子発生装置2、ビーム輸送系15、回転ガントリー25、照射装置27及び制御システム35を備えている。荷電粒子発生装置2は、加速器としてシンクロトロン加速器3を用いており、図1に示すように、シンクロトロン加速器3以外に、前段加速器である直線加速器(ライナック)14を備えている。
シンクロトロン加速器13は、イオンビームの周回軌道を構成する環状のビームダクト4、入射器5、イオンビームに高周波電圧を印加する加速装置(加速空胴)8、複数の偏向電磁石6、複数の四極電磁石7、出射用の高周波印加装置9、出射用デフレクター13を有する。ビームダクト4に連絡される入射器5は、ビーム経路である真空ダクトにより直線加速器14に接続される。高周波印加装置9は、出射用高周波電極10、高周波電源11及び開閉スイッチ12を含んでいる。出射用高周波電極10は、ビームダクト4に設けられ、そして、開閉スイッチ12を介して高周波電源11に接続される。加速装置8、各偏向電磁石6、各四極電磁石7、加速装置8及び出射用デフレクター13は、図1に示すように、ビームダクト4に沿って配置されている。高周波電源装置(図示せず)が加速装置8に接続される。
ビーム輸送系15は、照射装置27に達するビーム経路(ビームダクト)16を有しており、このビーム経路16に、シンクロトロン加速器3から照射装置27に向かって、偏向電磁石17、複数の4極電磁石21、偏向電磁石18、4極電磁石22,23及び偏向電磁石19,20をこの順に配置して構成されている。放射線遮蔽材で作られたシャッタ24が、出射用デフレクター13と偏向電磁石17の間で、ビーム経路16に開閉可能に取り付けられている。ビーム輸送系15のビーム経路16の一部は、回転ガントリー25に設置されており、偏向電磁石18、4極電磁石22,23及び偏向電磁石19,20も回転ガントリー25に設置されている。ビーム経路16は、出射用デフレクター13付近で、シンクロトロン加速器3の環状のビームダクト4に接続されている。回転ガントリー25は、回転軸26を中心に回転できるように構成されている。
照射装置27は、2台の走査電磁石(荷電粒子ビーム走査装置)28,29、ビーム位置モニター30及び線量モニター31を備えている。走査電磁石28,29、ビーム位置モニター30及び線量モニター31は、照射装置27の中心軸に沿って配置されている。走査電磁石28,29、ビーム位置モニター30及び線量モニター31は照射装置27のケーシング(図示せず)内に配置され、ビーム位置モニター30及び線量モニター31は走査電磁石28,29の下流に配置される。走査電磁石28はイオンビームを照射装置27の中心軸に垂直な平面内において偏向させてy方向に走査し、走査電磁石29はイオンビームをその平面内において偏向させてy方向と直交するx方向に走査する。照射装置27は、回転ガントリー25に取り付けられており、偏向電磁石20の下流に配置される。患者34が載る治療用ベッド33が、照射装置27に対向するように配置される。
制御システム35は、中央制御装置36、加速器・輸送系制御装置39、走査制御装置40及びデータベース41を有する。中央制御装置36は、中央演算装置(CPU)37及びCPU37に接続されたメモリ38を有する。加速器・輸送系制御装置39、走査制御装置40及びデータベース41は、中央演算装置37に接続されている。荷電粒子ビーム照射システム1は治療計画装置42を有しており、治療計画装置42はデータベース41に接続されている。
走査制御装置40は、図2A、図2B及び図3に示すように、照射位置制御装置52、線量判定装置(第1線量判定装置)53、層判定装置54及びビーム位置監視装置55を備えている。ビーム位置監視装置55は、誤差演算装置(第1誤差演算装置)56及び誤差判定装置(第1誤差判定装置)57を有する。
荷電粒子ビーム照射システム1を用いた荷電粒子ビームの照射方法を以下に説明する。 荷電粒子ビーム照射システム1を用いて治療を行う患者の患部に対する治療計画が、治療計画装置42を用いて行われる。治療計画の概要を説明する。X線CT装置で撮影された患者の断層画像情報を用いてがんの患部の位置及び形状を認識する。この患部に対する陽子イオンビーム(以下、単にイオンビームという)の照射方向を決定し、この照射方向(患者の体表面からの深さ方向)において患部を複数の層Li(i=1,2,…,m)、すなわち、層L1,L2,L3,…,Lmに分割する(図5参照)。層L1が体表面から最も深い位置に存在し、層の深さは層L2,L3,…,Lmの順に浅くなって層Lmが最も浅い。イオンビームは、矢印50の方向に照射される。さらに、各層において、照射領域である複数の照射スポットAi,j(i=1,2,…,m、j=1,2,…,n)の中心位置(目標位置)Pi,j、及びこれらの中心位置の座標(xi,j,yi,j)が定められ、照射スポットAi,jへのイオンビームの照射順序が決定される。患部全体に対して必要な照射線量に基づいて、照射スポットAi,jごとの目標線量R0i,jを決める。各層Liにイオンビームが到達して層ごとにブラッグピークが形成されるように、それぞれの層の深さに応じて照射に適したイオンビームのエネルギーEiを決定する。
治療計画により得られたイオンビームの照射方向、層Li及び照射スポットAi,jのそれぞれの数、照射スポットAi,jの中心位置Pi,j、照射スポットAi,jごとの目標線量R0i,j、照射スポットAi,jの照射順序及び各層Li対応するイオンビームのエネルギーEi等の治療計画情報は、治療開始前に、治療計画装置42から制御システム35のデータベース41に入力され、データベース41に登録される。中央制御装置36のCPU37は、データベース41に格納されたこれらの治療計画情報を読み出し、メモリ38に格納させる。
システマチック誤差Esの許容範囲As及びランダム誤差Erの許容範囲Arは予めメモリ38に格納されている。
CPU37は、メモリ38に格納された上記の各治療計画情報、及び各層Liの全照射スポットAi,jに関する走査電磁石28,29のそれぞれの電流値、システマチック誤差Esの許容範囲As及びランダム誤差Erの許容範囲Arを、走査制御装置40のメモリ60に格納するために、走査制御装置40に出力する。また、CPU37は、メモリ38に格納されたシンクロトロン加速器13の加速パラメータの情報の全てを加速器・輸送系制御装置39に伝える。加速パラメータの各情報は加速器・輸送系制御装置39のメモリ(図示せず)に記憶される。加速パラメータの情報は、各層Liに照射するイオンビームのエネルギーEiによって定まる、シンクロトロン加速器13及びビーム輸送系15の各電磁石の励磁電流値及び加速装置8に印加する高周波電力値を含む。
治療を受ける患者34が治療用ベッド33に載せられる。治療用ベッド33に載っている患者34のがんの患部にイオンビームを照射する前に、回転ガントリー25を回転ガントリー25の回転軸26を中心に所定の角度だけ回転させ、照射装置27の中心軸を治療計画で設定されたイオンビームの照射方向に合わせる。この結果、照射装置27の中心軸が治療用ベッド33上の患者34のがんの患部に向けられる。
その後、荷電粒子ビーム照射システム1を用いた荷電粒子ビームの照射方法が実施され、治療用ベッド33上の患者34のがんの患部にイオンビームが照射される。この荷電粒子ビームの照射方法を、図2A及び図2Bに示す手順を用いて説明する。図2A及び図2Bに記載されたステップS1〜S18の各工程のうち、ステップS1〜S3、S5及びS19の各工程は加速器・輸送系制御装置39で実行され、ステップS4、S6〜S18の各工程は走査制御装置40で実行される。走査制御装置40で実行されるステップS4、S6〜S9,S9A,S10〜S18の各工程のうち、ステップS4,S14及びS17の各工程が照射位置制御装置52で実施され(図2A参照)、ステップS7〜S9及びS9Aの各工程が線量判定装置53で実施され(図2B参照)、ステップS11〜S13及びS16の各工程が層判定装置54で実施され(図2B参照)、ステップS6A〜S6Cの各工程が誤差演算装置56で実施され(図3参照)、ステップS6D,S6E及びS18の各工程が誤差判定装置57で実施される(図3参照)。
ビーム輸送系の各電磁石を制御する(ステップS1)。患者34の患部にイオンビームが照射されるが、まず、患部における最も深い層L1にイオンビームが照射される。層L1内の全照射スポットA1,jのそれぞれの目標位置P1,jにイオンビームが照射された後、イオンビームが層L2,L3,…,Lmへと浅い位置の層に向かって順次照射される。加速器・輸送系制御装置39は、層L1に照射するイオンビームのエネルギーE1によって定まる、ビーム輸送系15の偏向電磁石17,19,20及び四極電磁石21,22,23のそれぞれの励磁電流値で、これらの電磁石を励磁する。加速されてシンクロトロン加速器3から出射されるイオンビームを照射装置27に供給するために、加速器・輸送系制御装置39はシャッタ24を開く。
直線加速器を起動する(ステップS2)。加速器・輸送系制御装置39は、直線加速器14及び直線加速器14に接続されたイオン源(図示せず)を起動する。イオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオン)が直線加速器14で加速される。
加速器内のイオンビームを加速する(ステップS3)。直線加速器14から出射されたイオンビームは、入射器5を通してシンクロトロン加速器3の周回軌道である環状のビームダクト4内に入射され、ビームダクト4内を周回する。加速器・輸送系制御装置39は、入射されたイオンビームのエネルギーをエネルギーE1まで高めるために、シンクロトロン加速器3の各偏向電磁石6及び各四極電磁石7の各励磁電流値をエネルギーE1に対応するそれぞれの励磁電流値まで徐々に増加させると共に、高周波電源装置から加速装置8に印加する高周波電圧を徐々に増加する。イオンビームは、ビームダクト4内を周回する間に、加速装置8から印加される高周波電圧の増加に伴って加速され、やがて、イオンビームのエネルギーが、イオンビームが層L1に到達するために必要なエネルギーE1まで上昇される。イオンビームのエネルギーがエネルギーE1になったとき、加速装置8によるイオンビームの加速が停止される。エネルギーE1を保有するイオンビームは、環状のビームダクト4内を周回する。
以下に述べるステップS4、S6〜S18(図3に示すステップS6A〜S6Eを含む)の各工程は、これらの工程を実行する各プログラム(または1つのプログラム)が、走査制御装置40のメモリ60に格納されている。これらのプログラムは、走査制御装置40、具体的には、走査制御装置40に含まれる、前述の照射位置制御装置52、線量判定装置53、層判定装置54、及びビーム位置監視装置55(誤差演算装置56及び誤差判定装置57を含む)のうちの該当する装置で実行される。
走査電磁石を制御し、イオンビームの照射位置を、照射スポットの目標位置Pに設定する(ステップS4)。照射位置制御装置52は、走査制御装置40のメモリ60に格納された、各層Liのそれぞれの照射スポットAi,jの目標位置(中心位置)Pi,jの情報に基づいて走査電磁石28及び29のそれぞれに供給される励磁電流を制御し、イオンビームを目標位置Pi,jに照射するように、走査電磁石28及び29のそれぞれに偏向電磁力を発生させる。走査電磁石28、具体的には、走査電磁石28で発生した偏向電磁力が、y方向において、後述のステップS5でシンクロトロン加速器3から出射されたイオンビームの位置を制御する。走査電磁石29、具体的には、走査電磁石29で発生した偏向電磁力が、y方向と直交するx方向において、シンクロトロン加速器3から出射されたイオンビームの位置を制御する。まず、照射位置制御装置52は、層L1における最初の照射スポットA1,1の目標位置(中心位置)P1,1(x1,1,y1,1)にイオンビームが到達するように、走査電磁石28及び29のそれぞれに供給される励磁電流を制御して走査電磁石28及び29のそれぞれに発生する偏向電磁力を調節する。
照射位置制御装置52は、イオンビームが照射スポットAi,jの目標位置Pi,jにイオンビームが到達するように走査電磁石28及び29のそれぞれに供給される励磁電流が制御されたと判定したとき、ビーム照射開始信号を出力する。
イオンビームを加速器から出射する(ステップS5)。照射位置制御装置52から出力されたビーム照射開始信号が、加速器・輸送系制御装置39に入力される。加速器・輸送系制御装置39が、ビーム照射開始信号に基づいて開閉スイッチ12を閉じ、高周波電源11からの高周波を出射用高周波電極10からビームダクト4内を周回しているイオンビームに印加する。周回しているイオンビームは、高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクター13を通ってシンクロトロン加速器3から出射される。出射用デフレクター13の励磁電流も、加速器・輸送系制御装置39により、エネルギーE1に対応する励磁電流に調節されている。
エネルギーE1によって定まるそれぞれ励磁電流によってビーム輸送系15の偏向電磁石17,19,20及び四極電磁石21,22,23がそれぞれ励磁されているので、シンクロトロン加速器3から出射されたイオンビームがビーム経路16を通って照射装置27に入射される。このイオンビームは、走査電磁石28及び29のそれぞれに発生した前述の偏向電磁力によって走査され、患部の層L1内おける照射スポットA1,1の目標位置P1,1(x1,1,y1,1)に照射される。
システマチック誤差及びランダム誤差の判定が行われる(ステップS6)。ステップS6の判定工程は図3に示すステップS6A〜6Eの各工程を含んでおり、ステップS6A〜6Eの各工程を、図3を用いて説明する。
照射スポットの実際の照射位置Pai,jを入力する(ステップS6A)。照射装置27に設けられたビーム位置モニター30が、走査電磁石28及び29によって走査されて照射スポットA1,1の目標位置P1,1(x1,1,y1,1)に照射されるイオンビームの実際の照射位置Pa1,1(x1,1’,y1,1’)を測定する。測定されたイオンビームの実際の照射位置Pa1,1(x1,1’,y1,1’)が、走査制御装置40のビーム位置監視装置55に含まれる誤差演算装置56に入力され、走査制御装置40のメモリ60に格納される。
照射スポットAi,jの目標位置Pi,jと照射スポットAi,jの実際の照射位置Pai,jの偏差Djを算出する(ステップS6B)。誤差演算装置56は、或る層Liを対象に、目標位置Pj及び実際の照射位置Pajを式(1)に代入して偏差Djを求める。ステップS6B〜S6Eの説明及び式(1)〜式(10)では、照射スポットAi,j、目標位置Pi,j、実際の照射位置Pai,j、システマチック誤差Esi,j及びランダム誤差Eri,jにおいて、層のNo.を示す「i(i=1,2,…,m)」の添え字の部分を省略している。
例えば、層L1において、図7に示すように、照射スポットA1の目標位置P1(x1、y1)、照射スポットA2の目標位置P2(x2、y2)及び照射スポットA3の目標位置P3(x3、y3)に対して実際の照射位置Pa1(x1’、y1’)、実際の照射位置Pa2(x2’、y2’)及び実際の照射位置Pa3(x3’、y3’)のそれぞれがビーム位置モニター30で測定されたと仮定する。目標位置P1と実際の照射位置Pa1の偏差D1はDx1(=x1−x1’)及びDy1(=y1−y1’)、目標位置P2と実際の照射位置Pa2の偏差D2はDx2(=x2−x2’)及びDy2(=y2−y2’)及び目標位置P3と実際の照射位置Pa3の偏差D3はDx3(=x3−x3’)及びDy3(=y3−y3’)となる。同様に、偏差D4以降の偏差Dj(j=4,5,…,n)が求められる。なお、Dxjはx方向における目標位置Pjと実際の照射位置Pajの偏差であり、Dyjはy方向における目標位置Pjと実際の照射位置Pajの偏差である。
実際の照射位置Pa2(x2’、y2’)及び偏差D2であるDx2(=x2−x2’)及びDy2(=y2−y2’)は、層L1において照射スポットA1へのイオンビームの照射が終了した後で、次にイオンビームを照射する照射スポットA2に対して求められるものである。また、実際の照射位置Pa3(x3’、y3’)及び偏差D3であるDx3(=x3−x3’)及びDy3(=y3−y3’)は、層L1において照射スポットA2へのイオンビームの照射が終了した後で、次にイオンビームを照射する照射スポットA3に対して求められるものである。しかしながら、理解を助けるため、ここでは、それらを、照射スポットA1の実際の照射位置Pa1及び偏差D1とまとめて説明した。後述のステップS6Cのシステマチック誤差Es及びランダム誤差Erについても、同様な説明を行った。
システマチック誤差Esi,j及びランダム誤差Eri,jを算出する(ステップS6C)。誤差演算装置56が、システマチック誤差Esj及びランダム誤差Erjをそれぞれ算出する。システマチック誤差Esjは、式(2)にステップS6Bで求めた偏差Djを代入することによって求められる。システマチック誤差Esjは、x方向におけるシステマチック誤差Esxjと、y方向におけるシステマチック誤差Esyjをそれぞれ求める。図7に示す層L1の照射スポットA1,A2及びA3の目標位置P1(x1、y1),P2(x2、y2)及びP3(x3、y3)に対するシステマチック誤差Esxj及びEsyjは、それぞれ、表1のようになる。
ランダム誤差Erjは、式(3)に実際の照射位置Paj及びステップS6Bで求めた偏差Djを代入することによって求められる。ランダム誤差Erjも、x方向におけるランダム誤差Erxjと、y方向におけるランダム誤差Eryjをそれぞれ求める。図7に示す層L1の照射スポットA1,A2及びA3の目標位置P1(x1、y1),P2(x2、y2)及びP3(x3、y3)に対するランダム誤差Erxj及びEryjは、それぞれ、表2のようになる。
システマチック誤差Esi,jが第1許容範囲内に存在するかを判定する(ステップS6D)。誤差演算装置56によって求められたシステマチック誤差Esj及びランダム誤差Erjは誤差判定装置57に入力される。誤差判定装置57は、まず、このシステマチック誤差Esjが第1許容範囲内に存在するかを判定する。
第1許容範囲は、図10に示されたシステマチック誤差Esi,jの許容範囲Asである。許容範囲Asは、照射スポットAjの目標位置Pjを基準にして下限値−As及び上限値+Asによって画定されている。システマチック誤差Esjが式(4)を満足しているとき、システマチック誤差Esjが第1許容範囲内に存在していると判定される。すなわち、ステップS6Dの判定は「Yes」となる。システマチック誤差Esjが式(4)を満足していないとき、システマチック誤差Esjが第1許容範囲を逸脱したと判定され、ステップS6Dの判定は「No」になる。
Pj−As≦Esj≦Pj+As …(4)
具体的には、許容範囲Asはx方向の許容範囲Asxの下限値−Asx及び上限値+Asx及びy方向の許容範囲Asyの下限値−Asy及び上限値+Asyを含んでいる。このため、システマチック誤差Esjが第1許容範囲内に存在するかの判定は、式(5)及び式(6)を用いて行われ、システマチック誤差Esjのx方向におけるシステマチック誤差Esxjが式(5)を満足するか、また、システマチック誤差Esjのy方向におけるシステマチック誤差Esyjが式(6)を満足するかを判定する。
Pxj−Asx≦Esxj≦Pxj+Asx …(5)
Pyj−Asy≦Esyj≦Pyj+Asy …(6)
ここで、Pxjは照射スポットAjの目標位置Pjのx方向の座標xjであり、Pyjは照射スポットAjの目標位置Pjのy方向の座標yjである。システマチック誤差Esの許容範囲As(具体的には、Asx及びAsy)は、走査制御装置40のメモリ60に記憶されている。
システマチック誤差Esxjが式(5)を満足し、システマチック誤差Esyjが式(6)を満足しているとき、システマチック誤差Esjが第1許容範囲内に存在していると判定される。すなわち、ステップS6Dの判定は「Yes」となる。式(5)及び式(6)のいずれかが満たされないとき、システマチック誤差Esjが第1許容範囲内に存在していない、すなわち、システマチック誤差Esjが第1許容範囲を逸脱したと判定され、ステップS6Dの判定は「No」となる。
ステップS6Dの判定が「No」であるとき、ビーム照射停止信号が出力される(ステップS18)。システマチック誤差Esjが第1許容範囲を逸脱していると判定されたとき、誤差判定装置57はビーム照射停止信号を出力する。
イオンビームの照射が停止される(ステップS19)。誤差判定装置57から出力されたビーム照射停止信号は加速器・輸送系制御装置39に入力される。ビーム照射停止信号を入力した加速器・輸送系制御装置39は、開閉スイッチ12及びシャッタ24に閉信号を出力する。閉信号を入力した開閉スイッチ12及びシャッタ24のそれぞれのアクチュエータは、開閉スイッチ12及びシャッタ24を閉じる。開閉スイッチ12が開くと、出射用高周波電極10への高周波の印加が停止され、ビームダクト4内を周回しているイオンビームのシンクロトロン加速器3からの出射が停止される。シャッタ24が閉じた場合には、シンクロトロン加速器3からイオンビームが出射されたとしても、このイオンビームは、シャッタ24によって遮られ、照射装置27に到達しない。加速器・輸送系制御装置39は、さらに、直線加速器14(またはイオン源)を停止させる。
このように、システマチック誤差Esi,jが第1許容範囲を逸脱したときには、患者34の患部へのイオンビームの照射が停止される。システマチック誤差Esi,jが第1許容範囲を逸脱したときには、出射用高周波電極10への高周波の印加停止、シャッタ24によるビーム経路16の遮断、及び直線加速器14(またはイオン源)の停止のいずれか1つを実施しても、患者34の患部へのイオンビームの照射は停止される。
ステップS6Dの判定が「Yes」であるとき、ランダム誤差Eri,jが第2許容範囲内に存在するかを判定する(ステップS6E)。誤差判定装置57は、誤差演算装置56から入力したランダム誤差Eri,jが第2許容範囲内に存在するかを判定する。
第2許容範囲は、図10に示されたランダム誤差Eri,jの許容範囲Arである。許容範囲Arは、照射スポットAjの実際の照射位置Pajの平均位置Pmjを基準にして下限値−Ar及び上限値+Arによって画定されている。ランダム誤差Erjが式(7)を満足しているとき、ランダム誤差Erjが第2許容範囲内に存在していると判定される。すなわち、ステップS6Eの判定は「Yes」となる。ランダム誤差Erjが式(7)を満足していないとき、ランダム誤差Erjが第2許容範囲を逸脱したと判定され、ステップS6Eの判定は「No」になる。
Pmj−Ar≦Erj≦Pmj+Ar …(7)
なお、Pmjは式(8)で求められる。
具体的には、許容範囲Arはx方向の許容範囲Arxの下限値−Arx及び上限値+Arx及びy方向の許容範囲Aryの下限値−Ary及び上限値+Aryを含んでいる。このため、ランダム誤差Eri,jが第2許容範囲内に存在するかの判定は、式(9)及び式(10)を用いて行われ、ランダム誤差Erjのx方向におけるランダム誤差Erxjが式(9)を満足するか、また、ランダム誤差Erjのy方向におけるランダム誤差Eryjが式(10)を満足するかを判定する。
Pmxj−Arx≦Erxj≦Pmxj+Arx …(9)
Pmyj−Ary≦Eryj≦Pmyj+Ary …(10)
ここで、Pmxjは照射スポットAjの実際の照射位置Pajの平均位置Pmjのx方向の座標であり、Pmyjは照射スポットAjの実際の照射位置Pajの平均位置Pmjのy方向の座標jである。なお、Pmjは式(8)で求められる。ランダム誤差Erの許容範囲Ar(具体的には、Arx及びAry)は、走査制御装置40のメモリ60に記憶されている。
x方向におけるランダム誤差Erxjが式(9)を満足し、y方向におけるランダム誤差Eryjが式(10)を満足しているとき、ランダム誤差Eri,jが第2許容範囲内に存在していると判定される。すなわち、ステップS6Eの判定は「Yes」となる。式(9)及び式(10)のいずれかが満たされないとき、ランダム誤差Eri,jが第2許容範囲内に存在していない、すなわち、ランダム誤差Eri,jが第2許容範囲を逸脱したと判定され、ステップS6Eの判定は「No」となる。ステップS6Eの判定が「No」であるとき、上記したステップS18において、誤差判定装置57がビーム照射停止信号を出力する。このビーム照射停止信号が加速器・輸送系制御装置39に入力される。
ランダム誤差Eri,jが第2許容範囲を逸脱したときには、システマチック誤差Esi,jが第1許容範囲を逸脱したときと同様に、ビーム照射停止信号を入力した加速器・輸送系制御装置39が出射用高周波電極10への高周波の印加停止及びシャッタ24によるビーム経路16の遮断を行い、患部へのイオンビームの照射が停止される(ステップS19)。
照射スポットAi,jの線量Ri,jが目標線量R0i,jになったかを判定する(ステップS7)。ステップS6Eの判定が「Yes」であるとき、すなわち、システマチック誤差Esi,jが第1許容範囲As内に存在し、且つランダム誤差Eri,jが第2許容範囲Ar内に存在するとき、線量判定装置53が線量Ri,jの判定を行う。線量モニター31は、照射スポットAi,jの実際の照射位置Pai,jへのイオンビームの照射が開始された時点から、実際の照射位置Pai,jの線量Ri,jを測定する。測定された、その実際の照射位置Pai,jの線量Ri,jが、走査制御装置40の線量判定装置53に入力される。線量判定装置53は、線量Ri,jが目標線量R0i,jになったかを判定する。
線量Ri,jが目標線量R0i,jに到達しないとき、すなわち、ステップS7の判定が「No」であるとき、イオンビームの照射が継続される(ステップS8)。具体的には、実際の照射位置Pai,jへのイオンビームの照射が継続される。
その後、照射スポットAi,jの線量Ri,jが目標線量R0i,jになったかを判定する(ステップS9)。ステップS9の判定は、ステップS7の判定と同じであり、線量判定装置53で行われる。ステップS9の判定が「No」であるとき、ステップS8及びS9の各工程が、ステップS9の判定が「Yes」になるまで、すなわち、照射スポットAi,jの線量Ri,jが目標線量R0i,jになるまで繰り返される。
ステップS9の判定が「Yes」になったとき、ビーム照射停止信号を出力する(ステップS9A)。照射スポットAi,jの線量Ri,jが目標線量R0i,jになったとき、線量判定装置53がビーム照射停止信号を出力する。このビーム照射停止信号が加速器・輸送系制御装置39に入力される。
照射スポットAi,jへのイオンビームの照射を停止する(ステップS10)。ビーム照射停止信号を入力した加速器・輸送系制御装置39が開閉スイッチ12に閉信号を出力する。この閉信号により開閉スイッチ12が開き、出射用高周波電極10への高周波の印加が停止される。このため、シンクロトロン加速器3からのイオンビームの出射が停止され、患部の照射位置Pai,jへのイオンビームの照射が停止される。ステップS7の判定が「Yes」になったときにも、ステップS9Aで、ビーム照射停止信号が線量判定装置53から加速器・輸送系制御装置39に出力される。
層Liへの照射が終了かを判定する(ステップS11)。層判定装置54は、1つの照射スポットAi,jへのイオンビームの照射が終了したとき、層Liにおいてイオンビームが照射されていない照射スポットAi,jが存在しないかを判定する。照射スポットA1,1へのイオンビームの照射が終了したが、まだ、照射スポットA1,2外へのイオンビームの照射が残っているので、ステップS11の判定が「No」となる。
このため、照射位置の偏差Djの情報を格納する(ステップS13)。層1における次の照射スポットA1,2におけるシステマチック誤差Es及びランダム誤差Erの各算出に必要なため、照射スポットA1, 1の照射位置の偏差D1が、層判定装置54によって走査制御装置40のメモリ60に格納される。
j=j+1が実行される(ステップS14)。照射位置制御装置52が「j」を「j+1」に置き換える。これにより、次の照射スポットAi,j+1、例えば、照射スポットA1,2の目標位置P1,2へのイオンビームの照射が可能になる。
周回しているイオンビームの利用が可能であるかが判定される(ステップS15)。加速器・輸送系制御装置39は、照射スポットA1,2の目標位置P1,2への照射が終了したとき、すなわち、開閉スイッチ12に閉信号を出力したとき、周回軌道である環状のビームダクト4内を周回しているイオンビームによって、次の照射スポットA1,2の目標位置P1,2への照射が可能であるかを判定する。照射スポットA1,2の目標位置P1,2への照射が完了できる量のイオンビームがビームダクト4内を周回している場合には、ステップS15の判定が「Yes」になる。次の照射スポットA1,2の目標位置P1,2も、前の照射スポットA1,1の目標位置P1,1と同じ層L1内に存在するため、照射位置制御装置52によるステップS4の工程が実施される。ステップS4の工程で走査電磁石28及び29のそれぞれの偏向電磁力を調節した後、照射位置制御装置52がビーム照射開始信号を加速器・輸送系制御装置39に出力する。ビーム照射開始信号を入力した加速器・輸送系制御装置39は、開閉スイッチ12を閉じる閉信号を出力する。この結果、出射用高周波電極10に高周波が印加され、シンクロトロン加速器3からのイオンビームの出射が開始される。
周回しているイオンビームの量が少なく、照射スポットA1,2の目標位置P1,2への照射の完了にイオンビームの量が不足する場合には、ステップS2において直線加速器14が起動され、直線加速器14からシンクロトロン加速器3にイオンビームが補給される。さらに、ステップS3でのイオンビームの加速が行われる。その後、以下に述べる、ステップS15の判定が「Yes」になった場合に実施される各ステップの工程が、実行される。
ステップS15の判定が「Yes」になったと仮定する。ステップS4(目標位置P1,2にイオンビームを照射するための、走査電磁石28及び29のそれぞれに発生する偏向電磁力の調節)及びステップS5(シンクロトロン加速器3からのイオンビームの出射)の各工程が実施され、層1の照射スポットA1,2の目標位置P1,2に対してイオンビームが照射される。その後、前述したように、ステップS6〜S9,S9A,S10及びS11の各工程が実施される(図2A及び図2B)。ステップS6においては、前述のように、ステップS6A〜ステップS6Eの各工程(必要であれば、ステップS18及びS19)が実行される。このとき、ステップS6Bでは前述した偏差D2であるDx2(=x2−x2’)及びDy2(=y2−y2’)が求められ、ステップ6Cでは層L1の照射スポットA2に対するシステマチック誤差Es2(システマチック誤差Esx2及びEsy2)、及びランダム誤差Er2(ランダム誤差Erx2及びEry2)が求められる。ただし、ステップS6DまたはステップS6Eでの判定が「No」であるとき、ステップS18でのビーム照射停止信号の出力及びステップS19でのイオンビームの照射停止が行われる。
以上に述べたステップS13〜S15、及びS2〜S9,S9A,S10及びS11(またはステップS13〜S15、及びS4〜S9,S9A,S10及びS11)の各工程は、層L1での全照射スポットA1,jへのイオンビームの照射が行われ、ステップS11の判定が「Yes」になるまで繰り返される。ステップS11の判定が「Yes」になったとき、ステップS12の工程が実施される。
照射位置の偏差Djの情報を削除する(ステップS12)。層判定装置54は、ステップS13で走査制御装置40のメモリ60に格納した層L1における全偏差Djの情報を削除する。患部の全層における全ての照射スポットAi,jの目標位置Pi,jへのイオンビームの照射が終了したかを判定する(ステップS16)。層L1内の全照射スポットA1,jへのイオンビームの照射が終了しただけであるため、層判定装置54で行われるステップS16の判定は「No」になる。
このとき、加速器・輸送系制御装置39は、シンクロトロン加速器3の各偏向電磁石6及び各四極電磁石7の各励磁電流値を徐々に減少させると共に、加速装置8に印加する高周波電圧を徐々に減少させる。ビームダクト4内を周回するイオンビームが減速される。さらに、i=i+1が実行される(ステップS17)。照射位置制御装置52が「i」を「i+1」に置き換える。これにより、次の層Li+1、例えば、層L2内の照射スポットAi,jの目標位置Pi,jへのイオンビームの照射が可能になる。加速器・輸送系制御装置39は、前述したように、ステップS2及びS3の各工程を実施する。このステップS3の工程において、シンクロトロン加速器3の各偏向電磁石6及び各四極電磁石7の各励磁電流値を徐々に増加させると共に、加速装置8に印加する高周波電圧を徐々に増加させる。これにより、ビームダクト4内を周回するイオンビームのエネルギーが、イオンビームが層L2に到達するために必要なエネルギーE2まで加速される。その後、ステップS4以降の各ステップが順次実施され、この層L2内の各目標位置Pi,jに対してイオンビームが前述したように順次照射される。ステップS16の判定が「Yes」になったとき、治療用ベッド33に載っている患者34の患部へのイオンビームの照射が終了する。すなわち、患者34の治療が終了する。
患者34の治療が終了したとき、患部(標的領域)の深さ方向における線量分布は、図6に示す合計線量の分布になり、患部では深さ方向に一様な線量が照射されている。この合計線量分布は、各層Liへの照射による線量分布の合計になる。また、イオンビームの照射方向に垂直な方向における患部の断面における線量分布も、より一様になる。
ここで、メモリ60に記憶されているシステマチック誤差Erの許容範囲As及びランダム誤差Erの許容範囲Arについて説明する。前述したように、許容範囲Asは、照射スポットAi,jの目標位置Pi,jを基準にしてx方向及びy方向において上限値(+Asx、+Asy)及び下限値(−Asx、−Asy)を有して設定されている(図10参照)。最初にイオンビームを照射した照射スポットAi,j(例えば、層L1の照射スポットA1, 1)以降で行われた最初のステップS6Dの判定から、このステップS6Dの判定回数がh回(h<j)に到達するまでの間において、ステップS6Dの判定に用いられるシステマチック誤差Esの許容範囲Asは、図4に示すように、ステップS6Dの判定回数h+1回以降においてステップS6Dの判定に用いられるシステマチック誤差Erの許容範囲Asよりも広く設定されている。
このように、判定回数が1〜h回までのステップS6Dの判定に用いられる許容範囲Asが広く設定される理由は、以下の通りである。例えば、最初にイオンビームを照射した、層L1の照射スポットA1, 1から層L1の照射スポットA1, 2へのイオンビームを照射する照射スポットの切り替え後において、数回のステップS6Dの判定結果は、ランダム誤差Erのばらつきにより、求められた実際の照射位置Pai,jの平均位置Pmi,jの精度が悪くなる。このため、判定回数がh回以下であるステップS6Dの判定に用いられる許容範囲Asが、前述のように広く設定される。なお、判定回数がh回以下であるその判定で用いられる許容範囲Asは、判定回数h+1回以降におけるその判定に用いられる許容範囲Asの、例えば、150%に設定される。
前述したように、ランダム誤差Erの許容範囲Arは、実際の照射位置Pai,jの平均位置Pmi,jを基準にしてx方向及びy方向において上限値(+Arx、+Ary)及び下限値(−Arx、−Ary)を有して設定されている(図10参照)。システマチック誤差Erの許容範囲Arを広げた場合と同じ理由により、判定回数がh回以下であるステップS6Eの判定において用いられるランダム誤差の許容範囲Arも、図4に示すように、判定回数がh+1回以降のステップS6Eの判定に用いられる許容範囲Arよりも広げられる。判定回数がh回以下であるその判定に用いられる許容範囲Arは、判定回数h+1回以降におけるその判定に用いられる許容範囲Arの、例えば、150%に設定される。
前述したように、許容範囲Asはx方向及びy方向においてそれぞれ上限値(+Asx及び+Asy)及び下限値(−Asx及び−Asy)を有しているため、判定回数がh回以下であるその判定で用いられる許容範囲Asでは、第1上限値(第1「+Asx」及び第1「+Asy」)及び第1下限値(第1「−Asx」、第1「−Asy」)のそれぞれの絶対値が、判定回数がh+1回以降での判定に用いられる許容範囲Asのそれぞれの第2上限値(第2「+Asx」及び第2「+Asy」)及び第2下限値(第2「−Asx」、第2「−Asy」)の絶対値よりも大きくなっている。これは許容範囲Arでも同じである。
判定回数がh回以下での、ステップS6Dにおけるシステマチック誤差Esの判定では、x方向及びy方向共に第1上限値及び第1下限値が用いられる。判定回数がh+1回以降での、ステップS6Dにおけるシステマチック誤差Esの判定では、x方向及びy方向共に第2上限値及び第2下限値が用いられる。
判定回数がh回以下での、ステップS6Eにおけるランダム誤差Erの判定では、x方向及びy方向共に許容範囲Arの第1上限値(第1「+Arx」及び第1「+Ary」)及び許容範囲Arの第1下限値(第1「−Asx」、第1「−Asy」)が用いられる。判定回数がh+1回以降での、ステップS6Eにおけるランダム誤差Erの判定では、x方向及びy方向共に許容範囲Arの第2上限値(第2「+Arx」及び第2「+Ary」)及び第2下限値(第2「−Asx」、第2「−Asy」)が用いられる。
本実施例では、照射スポットAi,jの目標位置Pi,jに対する照射スポットAi,jの実際の照射位置Pai,jの誤差として、システマチック誤差Es及びランダム誤差Erを求めており、システマチック誤差Es及びランダム誤差Erのそれぞれの許容誤差からの逸脱の有無を判定するために、システマチック誤差Esの許容範囲As及びランダム誤差Erの許容範囲Arを別々に設定し、これらの許容範囲をそれらの判定に利用している。この結果、許容範囲As及び許容範囲Arをそれぞれ厳しく(狭く)設定することができ、患部へのイオンビームの照射時において患者34の健全な細胞に与えるダメージを軽減することができ、安全性が向上する。
さらに、許容範囲As及び許容範囲Arを別々に設定しているため、イオンビームをより細径化された場合であっても、システマチック誤差がシステマチック誤差の許容範囲を逸脱し、さらに、ランダム誤差がランダム誤差の許容範囲を逸脱する確率が低減される。このため、患者へのイオンビームの照射停止の確率が著しく低下し、荷電粒子ビーム照射システムのより安定な運転が可能になり、患者へのイオンビームの照射の計画外停止が極めて少なくなる。この結果、一日当たりに治療できる人数を増加することができる。
本実施例では、ランダム誤差Erがこれの許容範囲Arを逸脱しないか監視しているため、イオンビームの進行方向と垂直な方向における断面の線量分布をより一様にすることができる。また、システマチック誤差Esがこれの許容範囲Asを逸脱しないか監視しているため、線量分布全体が患部から許容範囲外にずれていないかを監視することができる。
システマチック誤差Esが許容範囲Asを逸脱したとき、またはランダム誤差Erが許容範囲Arを逸脱したときには、患者34へのイオンビームの照射が停止される。このため、患者34に対する安全性が向上する。
また、本実施例では、システマチック誤差Esが許容範囲Asを逸脱しているかを判定する回数がh回以下である範囲において、この範囲で行われるその判定に使用する許容範囲Asを、判定回数h+1回以降のその判定に使用する許容範囲Asの範囲よりも広くしている。このため、ランダム誤差Erのばらつきにより、求められた実際の照射位置Pai,jの平均位置Pmi,jの精度が悪くなる場合であっても、システマチック誤差Esが許容範囲Asを逸脱する確率が低減される。
また、本実施例では、ランダム誤差Erが許容範囲Arを逸脱しているかを判定する回数がh回以下である範囲において、この範囲で行われるその判定に使用する許容範囲Arを、判定回数h+1回以降のその判定に使用する許容範囲Arの範囲よりも広くしている。このため、システマチック誤差Esの場合と同様に、求められた実際の照射位置Pai,jの平均位置Pmi,jの精度が悪くなる場合であっても、ランダム誤差Esが許容範囲Asを逸脱する確率が低減される。
本発明の他の好適な実施例である実施例2の荷電粒子ビーム照射システムを図11を用いて説明する。本実施例の荷電粒子ビーム照射システム1Aは、図1に示された実施例1の荷電粒子ビーム照射システム1において走査制御装置40を走査制御装置40Aに替え、線量モニター31Aを追加した構成を有する。荷電粒子ビーム照射システム1Aの他の構成は荷電粒子ビーム照射システム1と同じである。2つの線量モニターのうち線量モニター31は、実施例1と同様に、イオンビームが照射される各照射スポットAi,jの線量を測定し、他の線量モニター31Aはイオンビームが照射される各照射スポットAi,jにおける、後述のビーム照射区間Skの線量を測定する。
走査制御装置40Aは、図2A、図2B及び図12に示すように、照射位置制御装置52、線量判定装置(第1線量判定装置)53、層判定装置54、ビーム位置監視装置55A及び線量判定装置(第2線量判定装置)59を備えている。ビーム位置監視装置55Aは、誤差演算装置(第1誤差演算装置)56A、誤差判定装置(第1誤差判定装置)57A、誤差演算装置(第2誤差演算装置)56B、誤差判定装置(第2誤差判定装置)57B及びビーム照射区間判定装置58を有する。
また、荷電粒子ビーム照射システム1Aでは、走査制御装置40Aは、実施例1の荷電粒子ビーム照射システム1の走査制御装置40とは異なり、図2A及び図2Bに示されたステップS4,S7〜S9,S9A,S10〜S18、及び図12に示されたステップS6Qに含まれるステップS6A〜S6Pの各工程を実施する。荷電粒子ビーム照射システム1Aの走査制御装置40Aでは、図3に示されたステップS6の各工程の替りに、図12に示されたステップS6Qの各工程が実施される。本実施例の荷電粒子ビーム照射システムは、図2A及び図2Bに示されたステップS4,S7〜S18、及び図12に示されたステップS6A〜S6Pの各工程を実施するプログラムは、走査制御装置40Aのメモリ60に格納される。
走査制御装置40Aで実行されるステップS4、S6Q、S7〜S9,S9A,S10〜S18の各工程のうち、ステップS4,S14及びS17の各工程が照射位置制御装置52で実施され(図2A参照)、ステップS7〜S9及びS9Aの各工程が線量判定装置53で実施され(図2B参照)、ステップS11〜S13及びS16の各工程が層判定装置54で実施され(図2B参照)、ステップS6A〜S6Cの各工程が誤差演算装置56Aで実施され(図12参照)、ステップS6D,S6E及びS18の各工程が誤差判定装置57Aで実施され(図12参照)、ステップS6L〜S6Nの各工程が誤差演算装置56Bで実施され(図12参照)、ステップS6O,S6P及びS18の各工程が誤差判定装置57Bで実施され(図12参照)、ステップS6F〜S6Hの各工程がビーム照射区間判定装置58で実施され(図12参照)、ステップS6I,S6J及びS6Kの各工程が線量判定装置59で実施される(図12参照)。
図2A、図2B及び図3に示されたステップS1〜S5,S7〜S9,S9A,S10〜S19、及びS6A〜S6E(ステップS6Qの一部の工程)の各工程は、実施例1と同様に、本実施例でも実施される。実施例1で行われていない図12に示されたステップS6Qの工程のうち、ステップS6F〜S6Pの工程を中心に説明する。実施例1で実施されるステップS6の工程は、本実施例では図12に示すステップS6Qの手順に替えられている。
荷電粒子ビーム照射システム1Aを用いた荷電粒子ビーム照射方法は、実施例1の荷電粒子ビーム照射システム1を用いた荷電粒子ビーム照射方法で設定された複数の照射スポットAi,jの一部の複数の照射スポット(例えば、図13に示す照射スポットNo.2及びNo.4)に対して、複数のビーム照射区間S(例えば、ビーム照射区間No.1〜No.5)が設定されている。具体的には、照射スポットNo.2は3つのビーム照射区間S(ビーム照射区間No.1〜No.3)を含んでおり、照射スポットNo.4はビーム照射区間S(ビーム照射区間No.4及びNo.5)を含んでいる。
ビーム照射区間No.1(S1),No.2(S2)及びNo.4(S3)、及び照射スポットNo.1〜No.4の各目標線量R0は、イオンビーム照射前に治療計画装置42を用いて予め設定される。照射線量分布をより一様にするため、目標線量R0が大きな照射スポット、具体的には、照射スポットNo.2及びNo.4において、1つのビーム照射区間Sは、目標線量R0が例えば0.033MUになるように設定される。ここでは、一例として目標線量R0を0.033MUとした場合で説明する。ビーム照射区間No.1,No.2及びNo.4、すなわち、ビーム照射区間S1,S2及びS3のそれぞれの目標線量Rs0は0.033MUである。換言すれば、層Li内のビーム照射区間S1,S2及びS3,…は、目標線量Rs0が0.033MUに設定されたビーム照射区間Sk(k=1,2,…,p)である。1つのビーム照射区間Skまたは複数のビーム照射区間Skが設定された照射スポットにおいて、設定されたビーム照射区間Sk以外に0.033MUの2倍にならない線量をイオンビームにより照射するビーム照射区間(例えば、ビーム照射区間No.3及びNo.5)が残っている場合には、このビーム照射区間は複数のビーム照射区間Skに分割しなく、1つのビーム照射区間Sとする。また、例えば、目標線量R0が0.033MUの2倍にならない照射スポット、及び目標線量R0が0.033MU未満の照射スポットは、複数のビーム照射区間Sに分割しない。
1つの照射スポットAi,jにおいて設定された複数のビーム照射区間Sにおける、イオンビームを照射する目標位置Pi,jは、その照射スポットAi,jの目標位置Pi,jである。1つの照射スポットAi,j内において、イオンビームを照射するビーム照射区間が1つのビーム照射区間S(例えば、ビーム照射区間S1)から他のビーム照射区間S(例えば、ビーム照射区間S2)に替った場合においても、走査電磁石28,29によりイオンビームを照射する目標位置Pi,jは、変わらず、その照射スポットAi,jの目標位置Pi,jのままである。例えば、イオンビームの照射が、ビーム照射区間S1からビーム照射区間S2に変わるとき、ビーム照射区間S1の線量を測定した線量モニター31Aがリセットされ、線量モニター31Aはゼロからビーム照射区間S2の線量を測定する。このように、線量モニター31Aは、ビーム照射区間Sごとに線量を測定する。
図13に示す照射スポットNo.1,No.2,No.3及びNo.4を、例えば、層L1の照射スポットA1,11,A1,12,A1,13及びA1,14とする。そして、説明の簡略化のため、照射スポットA1,1〜A1,10は、複数のビーム照射区間Sを設定していないとする。
本実施例の荷電粒子ビーム照射システムを用いた荷電粒子ビーム照射方法を以下に説明する。本実施例の荷電粒子ビーム照射方法では、加速器・輸送系制御装置39によるステップS1〜S3及びS5の各工程(図2A参照)が実施され、複数のビーム照射区間Sが設定されていない照射スポットA1,1の目標位置P1,1から照射スポットA1,11の目標位置P1,11に対して、ステップS6G(図12参照)の判定が「No」になるため、図2A及び図2Bに示されたステップS4、図12に示されたステップS6Qに含まれるステップS6A〜S6Eの各工程、及びS7〜S9,S9A,S10〜S17の各工程が、実施例1と同様に、繰り返し実施される。ただし、ステップS6DまたはステップS6Eでの判定が「No」であるとき、ステップS18でのビーム照射停止信号の出力及びステップS19でのイオンビームの照射停止が行われる。本実施例では、ステップS5とステップS7の間で、図12に示されたステップS6Qの手順が前述のステップS6である図3に示された手順の替りに実施される。
照射スポットA1,1の目標位置P1,1から照射スポットA1,11の目標位置P1,11のそれぞれに対するイオンビームの照射では、ステップS4、S6F,S6G,S6A〜S6E及びS7〜S9,S9A,S10及びS11の各工程が、走査制御装置40Aの照射位置制御装置52、ビーム照射区間判定装置58、誤差演算装置56A、誤差判定装置57A、線量判定装置53及び層判定装置54によって実施される。ステップS4が照射位置制御装置52で実施され、ステップS5が加速器・輸送系制御装置39で実施された後、1つの照射スポットにおけるビーム照射区間Sの設定数を入力する(ステップS6F)。ビーム照射区間判定装置58が、走査制御装置40のメモリ60からその設定数を読み出す。次に、ビーム照射区間Sの設定数が2以上かを判定する(ステップS6G)。照射スポットA1,1〜A1,11は、いずれも、ビーム照射区間Sが設定されていないので、ビーム照射区間判定装置58で行われるステップS6Gの判定が「No」になり、照射スポットA1,1〜A1,11のそれぞれに対して、実施例1で述べたステップS6A〜S6Cの各工程が誤差演算装置56Aにより、さらに、実施例1で述べたステップS6D及びS6Eの各工程が誤差判定装置57Aにより実施される。このとき、ステップS6DまたはS6Eの判定が「No」になったとき、誤差判定装置57AがステップS18においてビーム照射停止信号を出力する。ビーム照射停止信号を入力した加速器・輸送系制御装置39が前述のステップS19における制御を実施するため、患者34の患部へのイオンビームの照射が停止される。ステップS6D及びS6Eの判定が「Yes」であるとき、線量判定装置53は、ステップS7及びS9において、線量モニター31で測定された照射スポットAi,jの実際の照射位置Pai,jの線量Ri,jと照射スポットAi,jの目標線量R0i,jが一致しているかを判定する。
照射スポットA1,11の目標位置P1,11へのイオンビームの照射が終了したとき、層判定装置54によるステップS11の判定が「No」になり、ステップS13〜S15の各工程が実施される。ステップS15の判定結果に応じて、実施例1と同様に、ステップS2またはステップS4からの工程が実施される。ステップ4では、照射位置制御装置52により、イオンビームの照射位置が照射スポットA1,12の目標位置P1,12になるように、走査電磁石28及び29のそれぞれに発生する偏向電磁力を調節する。
照射スポットA1,12(照射スポットNo.2)は、No.1〜No.3の3つのビーム照射区間を有している。ステップS6Fでは、ビーム照射区間の設定数として「3」が入入力され、ステップS6Gの判定は「Yes」になる。
最終のビーム照射区間であるかを判定する(ステップS6H)。ビーム照射区間判定装置58は、照射スポットA1,12で対象となるビーム照射区間S1が照射スポットA1,12での最終のビーム照射区間であるかを判定する。ビーム照射区間S1は、照射スポットA1,12内における最初のビーム照射区間であるので、ステップS6Hの判定は「No」になる。ステップS6Hの判定が「No」になったとき、ステップS6I〜S6Pの各工程が実施される。
ビーム照射区間Si,kでの線量の測定を開始する(ステップ6I)。線量判定装置59が、線量モニター31Aによる、ビーム照射区間Si,k、具体的には、イオンビームが照射される照射スポットA1,12内の最初のビーム照射区間S1での線量の測定を開始させる。線量判定装置59は、線量Rs1が目標線量Rs0(例えば、0.033MU)になったかを判定する(ステップS6J)。線量Rs1が目標線量Rs0に到達しないとき、すなわち、ステップS6Jの判定が「No」であるとき、ステップS6Jの判定が「Yes」になるまで、イオンビームの照射が継続される。
第2線量モニターがクリアされる(ステップS6K)。線量Rs1が目標線量Rs0に到達してステップS6Jの判定が「Yes」になったとき、ビーム照射区間S1の線量Rs1を測定した線量モニター31Aがゼロにクリアされる。
照射スポットのビーム照射区間Si,kにおける照射スポットの実際の照射位置Pasi,kを入力する(ステップS6L)。照射装置27に設けられたビーム位置モニター30が、照射スポットA1, 12内のビーム照射区間S1において照射スポットA1, 12の目標位置P1,12(x1,12,y1,12)に照射されるイオンビームの実際の照射位置Pas1,1(xs1,1’,ys1,1’)を測定する。誤差演算装置56Bが、この実際の照射位置の情報を入力し、走査制御装置40のメモリ60に格納する。
照射スポットAi,jの目標位置Pi,jと照射スポットAi,jにおけるビーム照射区間Si,kの実際の照射位置Pasi,kの偏差dkを算出する(ステップS6M)。誤差演算装置56Bは、或る層Liを対象に、目標位置Pj及びビーム照射区間Skにおける実際の照射位置Paskを式(11)に代入して偏差dk(k=1,2,…,p)を求める。ステップS6K〜S6Pの説明及び式(11)〜式(20)では、照射スポットAi,j、目標位置Pi,j、実際の照射位置Pasi,j、システマチック誤差Essi,j及びランダム誤差Ersi,jにおいて、層のNo.を示す「i(i=1,2,…,m)」の添え字の部分を省略している。
dk = Pj−Pask …(11)
例えば、層L1において、目標位置P12(x12、y12)の照射スポットA12では、ビーム照射区間S1での実際の照射位置Pas1(xs1’、ys1’)がビーム位置モニター30で測定されたと仮定する。目標位置P1と実際の照射位置Pas1の偏差d1はdx1(=xs1−xs1’)及びdy1(=ys1−ys1’)となる。なお、dxkはx方向における目標位置Pjと実際の照射位置Paskの偏差であり、dykはy方向における目標位置Pjと実際の照射位置Paskの偏差である。算出された偏差dk(具体的には、偏差d1)は走査制御装置40のメモリ60に格納される。
システマチック誤差Essi,k及びランダム誤差Ersi,kを算出する(ステップS6L)。誤差演算装置56Bが、システマチック誤差Essk及びランダム誤差Erskをそれぞれ算出する。システマチック誤差Esskは、式(12)にステップS6Mで求めた偏差dkを代入することによって求められる。
システマチック誤差Esskとして、x方向におけるシステマチック誤差Essxk及びy方向におけるシステマチック誤差Essykがそれぞれ求められる。ビーム照射区間S1に対するシステマチック誤差Essx1及びEssy1は、それぞれ、表3のようになる。
ランダム誤差Erskは、式(13)に実際の照射位置Pask及びステップS6Mで求めた偏差dkを代入することによって求められる。
ランダム誤差Erskも、x方向におけるランダム誤差Ersxkと、y方向におけるランダム誤差Ersykをそれぞれ求める。ビーム照射区間S1に対するランダム誤差Ersx1及びErsy1は、それぞれ、表4のようになる。
システマチック誤差Essi,kが第1許容範囲内に存在するかを判定する(ステップS6O)。誤差演算装置56Bによって求められたシステマチック誤差Essk及びランダム誤差Erskは誤差判定装置57Bに入力される。誤差判定装置57Bは、まず、システマチック誤差Esskが第1許容範囲内に存在するかを判定する。
システマチック誤差Essi,kの第1許容範囲は、図10に示されたシステマチック誤差Esi,jの許容範囲Asと同じである。システマチック誤差Esskが式(14)を満足しているとき、システマチック誤差Esskが第1許容範囲内に存在していると判定される。すなわち、ステップS6Oの判定は「Yes」となる。システマチック誤差Esskが式(14)を満足していないとき、システマチック誤差Esskが第1許容範囲を逸脱したと判定され、ステップS6Oの判定は「No」になる。
Pj−As≦Essk≦Pj+As …(14)
具体的には、システマチック誤差Esskが第1許容範囲内に存在するかの判定は、式(15)及び式(16)を用いて行われる。システマチック誤差Esskのx方向におけるシステマチック誤差Essxkが式(15)を満足し、y方向におけるシステマチック誤差Essykが式(16)を満足しているとき、システマチック誤差Esskが第1許容範囲内に存在していると判定される。すなわち、ステップS6Mの判定は「Yes」となる。
Pxj−Asx≦Essxk≦Pxj+Asx …(15)
Pyj−Asy≦Essyk≦Pyj+Asy …(16)
式(15)及び式(16)のいずれかが満たされないとき、システマチック誤差Esskが第1許容範囲内に存在していない、すなわち、システマチック誤差Esskが第1許容範囲を逸脱したと判定され、ステップS6Oの判定は「No」となる。
ステップS6Oの判定が「No」であるとき、誤差判定装置57BはステップS18においてビーム照射停止信号を出力する。イオンビームの照射が停止される。
ステップS6Oの判定が「Yes」であるとき、ランダム誤差Ersi,kが第2許容範囲内に存在するかを判定する(ステップS6P)。誤差判定装置57Bが、ランダム誤差Erskが第2許容範囲内に存在するかを判定する。ランダム誤差Erskの第2許容範囲は、図10に示されたランダム誤差Eri,jの許容範囲Arと同じである。
ランダム誤差Erskが式(17)を満足しているとき、ランダム誤差Erskが第2許容範囲内に存在していると判定される。すなわち、ステップS6Pの判定は「Yes」となる。ランダム誤差Erskが式(17)を満足していないとき、ランダム誤差Erskが第2許容範囲を逸脱したと判定され、ステップS6Pの判定は「No」になる。
Pmsk−Ar≦Ersk≦Pmsk+Ar …(17)
なお、Pmskは、照射スポットAjにおけるビーム照射区間Skの実際の照射位置Paskの平均位置Pmskであり、式(18)で求められる。
具体的には、ランダム誤差Erskが第2許容範囲内に存在するかの判定は、式(19)及び式(20)を用いて行われる。ランダム誤差Erskのx方向におけるランダム誤差Ersxjが式(19)を満足し、y方向におけるランダム誤差Ersyjが式(20)を満足しているとき、ランダム誤差Ersjが第2許容範囲内に存在していると判定される。すなわち、ステップS6Pの判定は「Yes」である。
Pmsxk−Arx≦Ersxk≦Pmsxk+Arx …(19)
Pmsyk−Ary≦Ersyk≦Pmsyk+Ary …(20)
ここで、Pmsxkは実際の照射位置Paskの平均位置Pmskのx方向の座標であり、Pmsykは実際の照射位置Paskの平均位置Pmskのy方向の座標である。
式(19)及び式(20)のいずれかが満たされないとき、ランダム誤差Erskが第2許容範囲内に存在していない、すなわち、ランダム誤差Erskが第2許容範囲を逸脱したと判定され、ステップS6Pの判定は「No」となる。ステップS6Nの判定が「No」であるとき、ステップS18及びS19が実行される。
ステップS6Pが終了した後、s=s+1が算出されてsが2になる。照射スポットA1,12における2つ目のビーム照射区間S2が照射スポットA1,12における最終のビーム照射区間であるかが、ステップS6Hで判定される。照射スポットA1,12には、ビーム照射区間が3つ存在するため、ステップS6Hの判定は「No」になり、ビーム照射区間S2に対するステップS6I〜S6Pの各工程が、ビーム照射区間S1と同様に繰り返される。
特に、ステップS6Lにおいて、ビーム位置モニター30が、照射スポットA1,12におけるビーム照射区間S2において照射スポットA1,12の目標位置P1, 12(x1,12,y1,12)に照射されるイオンビームの実際の照射位置Pas1,2(xs1,2’,ys1,2’)を測定する。ステップS6Mでは、目標位置P1と実際の照射位置Pas2の偏差d2として、dx2(=xs2−xs2’)及びdy2(=ys2−ys2’)が求められる。この偏差d2の情報が走査制御装置40のメモリ60に格納される。ビーム照射区間S2に対するステップS6Nでは、表3に示すシステマチック誤差Essx2及びEssy2が求められ、表4に示すランダム誤差Ersx2及びErsy2が求められる。システマチック誤差Ess2及びランダム誤差Ers2の各判定がステップS6O及びS6Pで行われる。
次のステップS6Hの判定では、照射スポットA1,12におけるビーム照射区間No.3が照射スポットA1,12内の最終のビーム照射区間であるので、ステップS6Hの判定が「Yes」になる。このため、図12に示されたステップS6A〜S6Eの各工程が実施される。ステップS6Aでは、ビーム照射区間No.3で測定された実際の照射位置Pa1,12が入力される。照射スポットA1,12の実際の照射位置Pa1,12を用いたステップS6B〜S6Eの各工程が、実施例1と同様に行われる。ステップS6D及びS6Eの各判定が「Yes」であり、ステップS7において、線量判定装置53は、線量モニター31で測定された実際の照射位置Pa1,12の線量R1,12と照射スポットA1,12の目標線量R01,12が一致しているかを判定する。なお、線量モニター31Aによって、ステップS6Iで照射スポットA1,12におけるビーム照射区間S1の線量の測定を開始したときに、線量モニター31による、照射スポットA1,12の実際の照射位置Pa1,12における線量R1,12の測定が開始される。線量モニター31による線量R1,12の測定は、照射スポットA1,12内のビーム照射区間S1、S2及びNo.3を通して行われる。ステップS7の判定が「Yes」となったとき、線量判定装置53がビーム照射停止信号を出力し(ステップS9A)、加速器・輸送系制御装置39による制御により照射スポットA1,12へのイオンビームの照射が停止される(ステップS10)。次のステップS11の判定が「No」になる。
ステップS13,S14及びS15の各工程が実施される。ステップS15の判定結果に応じて、ステップS2またはステップS4からの工程が実施される。ステップ4では、イオンビームの照射位置が照射スポットA1,13の目標位置P1,13になるように、走査電磁石28,29の各偏向電磁力が調節される。その後、ステップS5の工程が実施される。照射スポットA1,13(照射スポットNo.3)はビーム照射区間Sが設定されていない(図13参照)ので、照射スポットA1,1〜A1,11と同様に、ステップS6Gの判定が「No」になり、ステップS6A〜S6Eの各工程が実施される。ステップS7またはS9で判定が「Yes」となり、ステップS9A,S10及びS11が実行される。もし、ステップS6DまたはS6Eの判定が「No」になったときには、ステップS18及びS19が実施される。
さらに、ステップS13〜S15の各工程が実施される。ステップS15の判定結果に応じて、ステップS2またはステップS4からの工程が実施される。ステップS4では、イオンビームの照射位置が照射スポットA1,14(照射スポットNo.4)の目標位置P1,14になるように、走査電磁石28,29の各偏向電磁力が調節される。その後、ステップS5の工程が実施される。照射スポットA1,14には、2つのビーム照射区間Sが設定されている(図13参照)。照射スポットA1,14に対しては、ステップS6Gの判定が「Yes」となり、照射スポットA1,14におけるビーム照射区間S3が照射スポットA1,14における最終のビーム照射区間ではないので、ステップS6Hの判定は「No」になる。ビーム照射区間S3に対するステップS6I〜S6Pの各工程が、ビーム照射区間S1と同様に繰り返される。もし、ステップS6OまたはS6Pの判定が「No」になったときには、ステップS18及びS19が実施される。
ステップS6Lでは、ビーム位置モニター30が、照射スポットA1,14におけるビーム照射区間S3において照射スポットA1,14の目標位置P1,14(x1,14,y1,14)に照射されるイオンビームの実際の照射位置Pas1,3(xs1,3’,ys1,3’)を測定する。ステップS6Mでは、目標位置P14と実際の照射位置Pas3の偏差d3として、dx3(=xs3−xs3’)及びdy1(=ys3−ys3’)が求められる。この偏差d3の情報が走査制御装置40のメモリ60に格納される。ビーム照射区間S3に対するステップS6Nでは、表3に示すシステマチック誤差Essx3及びEssy3が求められ、表4に示すランダム誤差Ersx3及びErsy3が求められる。システマチック誤差Ess3及びランダム誤差Ers3の各判定がステップS6O及びS6Pで行われる。
次は、照射スポットA1,14におけるビーム照射区間No.5でのイオンビームの照射が行われる。ステップS6Hの判定が「Yes」になり、ステップS6A〜S6E,S7〜S11及びS13の各工程が、照射スポットA1,14内のビーム照射区間No.3と同様に実施される。
ステップ14でjが15になり、照射スポットA1,15以降の層L内の各照射スポットA1, jに対するイオンビームの照射が順次行われる。複数のビーム照射区間を含んでいる照射スポットA1,jでは、最終のビーム照射区間以外のビーム照射区間に対して、ステップS6I〜S6Pの各工程が実施され、最終のビーム照射区間に対しては、ステップS6A〜S6E及びS7〜S10の各工程が実施される。層L1内の全照射スポットA1,jへのイオンビームの照射が終了したとき、ステップS11の判定は「Yes」になり、ステップS12で層L1に対する全偏差Dj及び全偏差dkの各情報が削除される。
ステップS16の判定は「No」になり、次の層L2の各照射スポットAi,jの目標位置Pi,jに対して、順次、イオンビームを照射する。最後の層Lmにおいて全照射スポットAi,jの目標位置Pi,jへのイオンビームの照射が終了してステップS16の判定が「Yes」になったとき、患者34へのイオンビーム照射による治療が終了する。
なお、本実施例のステップS6D及びS6Oにおいてシステマチック誤差Esの判定に用いられる許容範囲As、及びステップS6E及びS6Nにおいてランダム誤差Erの判定に用いられる許容範囲Arは、実施例1で用いられるそれらの許容範囲と同様に、判定回数h以下では、判定回数h+1回以降の判定に用いられる許容範囲As、及びステップS6E及びS6Pにおいて許容範囲As及び許容範囲Arよりも広くなっている。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例では、ビーム照射区間に対してもシステマチック誤差Ess及びランダム誤差Ersを求め、それぞれが許容範囲に存在するかを判定しているので、システマチック誤差及びランダム誤差の判定の頻度が増加し、安全性がより増大する。
本発明の他の好適な実施例である実施例3の荷電粒子ビーム照射システムを図14を用いて説明する。
実施例1及び2の荷電粒子ビーム照射システムは、イオンビームを加速する加速器としてシンクロトロン加速器を用いている。これに対して、本実施例の荷電粒子ビーム照射システム1Bは、その加速器として、サイクロトロン加速器45を用いている。荷電粒子ビーム照射システム1Bは、荷電粒子発生装置2A、ビーム輸送系15、回転ガントリー25、照射装置27及び制御システム35を備えている。荷電粒子ビーム照射システム1Bに用いられるビーム輸送系15、回転ガントリー25及び照射装置27は、実施例1の荷電粒子ビーム照射システム1で用いられるそれらと同じ構成を有する。荷電粒子発生装置2Aは、荷電粒子ビーム照射システム1の荷電粒子発生装置2と異なっており、イオン源51及びサイクロトロン加速器45を有する。荷電粒子発生装置2も、直線加速器14に接続されるイオン源51を有する。荷電粒子発生装置2Aは直線加速器14を備えていない。サイクロトロン加速器45は、円形の真空容器(図示せず)、偏向電磁石46A,46B、高周波加速装置47及び出射用デフレクター48を有する。イオン源51に接続された真空ダクトが、サイクロトロン加速器45の真空容器の中心位置まで伸びてこの真空容器に接続される。偏向電磁石46A,46Bは、それぞれ、半円形状をしており、直線部を互いに対向させるように配置され、真空容器の上面及び下面を覆っている。
真空容器のイオンビーム出射口に設けられる出射用デフレクター48は、ビーム輸送系のビーム経路16に接続される。金属製のデグレーダ49が、出射用デフレクター48とシャッタ24の間で、ビーム経路16に取り付けられている。デグレーダ49は、サイクロトロン加速器45から出射されたイオンビームのエネルギーを調節する機能を有し、厚みの異なる複数の金属製の板(図示せず)を有している。これらの金属製の板は、ビーム経路16に垂直な方向に移動可能である。厚みの異なるこの板を、1枚または複数枚、ビーム経路16を横切るようにビーム経路16内に挿入することによって、イオンビームのエネルギーの減衰量が制御される。この結果、患者34の患部に照射されるエネルギーを変えることができ、患部の深さ方向に存在する各層にイオンビームを出射することができる。
荷電粒子ビーム照射システム1Bにおいて、制御システム35の走査制御装置40は、荷電粒子ビーム照射システム1の走査制御装置40と同じ構成を有し、中央制御装置36も、荷電粒子ビーム照射システム1の中央制御装置36と実質的に同じ機能を有する。荷電粒子ビーム照射システム1Bの加速器・輸送系制御装置39は、サイクロトロン加速器45を用いている関係で、荷電粒子ビーム照射システム1の加速器・輸送系制御装置39と制御対象が一部異なっている。荷電粒子ビーム照射システム1Bの加速器・輸送系制御装置39は、荷電粒子ビーム照射システム1の加速器・輸送系制御装置39と同様に、ビーム輸送系15のシャッタ24、及びビーム輸送系15の偏向電磁石17,19,20及び四極電磁石21,22,23を制御し、これら以外に、イオン源51、偏向電磁石46A,46B、高周波加速装置47、出射用デフレクター48及びデグレーダ49も制御する。
荷電粒子ビーム照射システム1Bを用いた荷電粒子ビームの照射方法について説明する。この照射方法では、図2A及び図2Bに示されたステップS1〜S19の各工程が実施される。ステップS2では、イオン源51の起動が行われるが直線加速器の起動は行われない。ステップS6は図3に示されたステップS6A〜S6Eを含んでいる。
加速器・輸送系制御装置39によって、ステップS1〜S3及びS5の各工程を実施する。ステップS1において、実施例1と同様に、加速器・輸送系制御装置39により、シャッタ24が開けられ、ビーム輸送系15に設けられた各電磁石が励磁される。ステップS2で、イオン源51が起動され、イオン源51で発生した陽子イオンが真空ダクトを通ってサイクロトロン加速器45の真空容器の中心に入射される。偏向電磁石46A,46Bは、既に励磁されている。ステップS3では、高周波加速装置47により、真空容器内に入射された陽子イオンが加速され、大きなエネルギーを有する陽子イオンビームが生成される。
ステップS4において、照射位置制御装置52が、このイオンビームが患部の最も深い層L1の照射スポットA1,1の目標位置P1,1に照射されるように、走査電磁石28,29のそれぞれの偏向電磁力を調節する。その後、ステップS3においてサイクロトロン加速器45で加速されたイオンビームは、出射用デフレクター48からビーム経路16に出射され(ステップS5)、照射装置27から治療用ベッド33上の患者34のがんの患部に照射される。その後、ステップS6A〜S6E及びS7〜S9,S9A,S10及びS11の各ステップが、実施例1と同様に、実施される。もし、誤差判定装置57がステップS6DまたはS6Eの判定が「No」であるとき、誤差判定装置57がビーム照射停止信号を出力する(ステップS18)。このビーム照射停止信号を入力した加速器・輸送系制御装置39は、イオン源51を停止すると共にシャッタ24をビーム経路16に挿入させる。これによって、患部へのイオンビームの照射が停止される(ステップS19)。イオン源51の停止及びシャッタ24の挿入のいずれかによっても、患部へのイオンビームの照射が停止される。ステップS6D及びS6Eの各判定が「Yes」であるとき、ステップS7〜S9,S9A,S10及びS11の各ステップが実施される。
照射スポットA1,2の目標位置P1,2,P1,3,…,P1,mと、照射スポットA1,1よりも後の、層L1の全照射スポットA1,j(j=2,3,…,n)のそれぞれの目標位置P1,jに対して、順次、イオンビームが照射される。照射スポットA1,j(j=2,3,…,n)に対して、ステップS6A〜S6E及びS7〜S9,S9A,S10及びS11の各ステップが、順次、実行される。ステップS11の判定が「Yes」になったとき、層L1へのイオンビームの照射が終了し、次は、層L1よりも浅い位置にある層L2の全照射スポットA2,j(j=1,2,…,n)に対して順番にイオンビームが照射される。
層L2に照射されるイオンビームのエネルギーは、層L1に照射されるイオンビームのそれよりも低くする必要がある。このため、加速器・輸送系制御装置39は、デグレーダ49を走査して最も薄い金属製の板をビーム経路16に垂直に挿入する。サイクロトロン加速器45から出射されたイオンビームのエネルギーがデグレーダ49の最も薄い金属製の板によって減衰され、層L2においてブラッグピークを形成するエネルギーを有するイオンビームになる。このイオンビームが、患部の層L2内の照射スポットA2,jに順番に照射される。患部のより浅い層へのイオンビームの照射に際しては、ビーム経路16内にビーム経路16を横切って挿入するデグレーダ49の金属製の板の厚みをさらに厚くする。この板の厚みの増加は、デグレーダ49において、1枚の板だけでなく複数枚の厚みの異なる板を組み合わせても実現できる。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
サイクロトロン加速器45を用いた場合においても、実施例2のように、走査制御装置40により、ステップS6の工程を図12に示すステップS6Qの工程に替えてもよい。
実施例1〜3で用いられる荷電粒子ビーム照射システム1,1A及び1Bは、陽子イオンビームの替りに炭素イオンビームを加速し、加速された炭素イオンビームを患部に照射してもよい。