以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
<本発明の実施の形態の概要>
焦電センサを使用した従来方式(例えば、特許文献1、2)によれば、ノイズカットや周波数分解の信号処理が必要であり、処理の高速化や検知時間の遅延が課題である。
本実施の形態の炎検知器は、サーモパイルセンサを用いており、赤外信号の強さに応じた直流成分の電気信号を処理するため、周波数分解処理が不要であり、高感度かつ早期検知が可能である。
しかし、サーモパイルセンサを用いた従来方式(例えば、特許文献4)では、高温の熱風で誤作動する事例もあった。そこで、検知する赤外波長の数を少なくとも3つ以上備えるようにして、炭酸ガス共鳴放射帯以外の二つ(以上)のセンサの信号を比較して、熱風か否かを判定するようにした。
具体的には、4.0μm近傍、4.5μm近傍、5.0μm近傍の帯域のみを透過する帯域フィルター(バンドパスフィルター)を装着した三つの赤外線センサから出力される信号を増幅し、AD変換を経てCPUに信号入力する。
当該CPUには炎検知アルゴリズムが組み込まれており、当該炎検知アルゴリズムは、当該三つの赤外センサから出力される信号変化の特徴から炎判定を行う。また、当該CPUには熱風と炎とを判別するアルゴリズムも組み込まれている。
有機物が炎を伴って燃焼するときに、二酸化炭素の共鳴放射帯(4.5μm)の赤外線を放射することが知られている。よって4.5μm近傍の帯域とそれ以外の4.0μm近傍の帯域及び5.0μm近傍の帯域の信号の強さを比較することで、炎を検知したか否かを判定できる。
しかし、二酸化炭素を含む高温の気流からも、4.5μm近傍の帯域の放射があり、高感度、早期検知の炎判定アルゴリズムにあっては、高温の熱風で誤作動する事例があった。
そこで、本実施の形態では、4.0μm近傍の帯域及び5.0μm近傍の帯域の信号も比較し、4.0μm近傍の帯域の信号が5.0μm 近傍の帯域の信号よりも大きい(高温の放射を伴う)場合と、そうでない場合の少なくとも二つの場合に分けて炎判定を行う手段を備えることとした。
すなわち、4.0μm 近傍の帯域の信号変化量≦5.0μm 近傍の帯域の信号変化量の場合は火災判定を厳しく行うようにした。
<第1の実施の形態>
<システム構成>
以下、本発明の第1の実施の形態に係る炎検知器について説明する。
図1に示すように、第1の実施の形態に係る炎検知器10は、炎が発する炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域の赤外光を検出する第1センサ12と、炭酸ガス共鳴放射帯より短い波長の帯域の4.0μm近傍の帯域の赤外光を検出する第2センサ14と、炭酸ガス共鳴放射帯より長い波長の帯域の5.0μm近傍の帯域の赤外光を検出する第3センサ16と、第1センサ12からの信号を増幅する増幅部18と、第2センサ14からの信号を増幅する増幅部20と、第3センサ16からの信号を増幅する増幅部22と、増幅部18、20、22からの信号を増幅する増幅部24と、増幅部24からの信号をディジタル値に変換するAD変換部26と、炎検知のための前処理や外部出力部32を制御する第1の演算処理部28と、炎を検知する処理を行う第2の演算処理部30と、外部出力部32とを備えている。
第1センサ12は、炎が発する炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域の赤外光を透過するフィルター12Aと、フィルター12Aを透過した赤外光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子12Bとを備えている。
第2センサ14は、炭酸ガス共鳴放射帯より短い波長の帯域の4.0μm近傍の帯域の赤外光を透過させるフィルター14Aと、フィルター14Aを透過した赤外光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子14Bとを備えている。
第3センサ16は、炭酸ガス共鳴放射帯より長い波長の帯域の5.0μm近傍の帯域の赤外光を透過させるフィルター16Aと、フィルター16Aを透過した赤外光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子16Bとを備えている。
なお、炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm 近傍の帯域の赤外光を検出する弱い電気信号を確実に捉えるために、第1センサ12と同じセンサを更に設けてもよい。
検出素子12B、14B、16Bは、サーモパイルで構成されているが、InAsSb素子など、他の光起電力タイプの素子にて構成することもある。
増幅部18、20、22は、第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16の各々の電気信号をそれぞれ独立して増幅する。
増幅部24は、増幅部18、20、22によって個別に増幅された電気信号を、一定の時間で順次切り替えて一つの電気信号に集約するスイッチ部(図示省略)を含み、当該スイッチ部により一つに集約された電気信号を、当該電気信号の強さに応じて選択的(信号が小さいときは高利得、信号が大きいときは低利得)に増幅する。
第1の演算処理部28及び第2の演算処理部30は、それぞれCPUで構成されており、第1の演算処理部28及び第2の演算処理部30を、機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、図2に示すように、第1の演算処理部28は、信号取得部40、補正係数設定部42、補正部44、及び警報表示部46Aを備えている。また、第2の演算処理部30は、平均算出部50、変化量算出部52、火災判定部54、回数判定部56、警報制御部58、及び警報出力部46Bを備えている。
信号取得部40は、AD変換部26から出力された信号から、第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、第3センサ16からの電気信号の値を取得する。
補正係数設定部42は、図3に示すように、第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16に対して、黒体炉などの基準光源から赤外光の基準光を照射したときに、信号取得部40によって取得された電気信号の各々の値(図4(A)参照)に基づいて、以下の第1の補正ステップ〜第3の補正ステップにより、補正係数を事前に設定する。
第1の補正ステップでは、図4(B)に示すように、センサ間の感度のばらつきを均等化するための補正係数を設定する。例えば、第1センサ12からの電気信号の値の最大値及び最小値の差分と、第2センサ14からの電気信号の値の最大値及び最小値の差分と、第3センサ16からの電気信号の値の最大値及び最小値の差分とが同一になるように処理するための補正係数を設定する。
第2の補正ステップでは、第1の補正ステップで設定された補正係数を用いた上で、図4(C)に示すように、炎検知器10の個体間の感度のばらつきを均等化するための補正係数を設定する。例えば、第1センサ12からの電気信号の値の最大値及び最小値の差分と、第2センサ14からの電気信号の値の最大値及び最小値の差分と、第3センサ16からの電気信号の値の最大値及び最小値の差分との各々が、それぞれの基準値と同一になるように処理するための補正係数を設定する。
第3の補正ステップでは、第1の補正ステップ及び第2の補正ステップで設定された補正係数を用いた上で、図4(D)に示すように、第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16の各々からの電気信号の値に対して、オフセット補正を行うための補正係数を設定する。
補正部44は、信号取得部40によって取得された、第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、及び第3センサ16からの電気信号の値に対して、補正係数設定部42によって設定された補正係数を用いて補正を行い、第2の演算処理部30へ出力する。
平均算出部50は、補正部44によって補正された第1センサ12からの電気信号の値の移動平均値(例えば過去100秒間の平均値)を、第1センサ12の信号の監視環境信号値として算出する(図5(A)参照)。また、平均算出部50は、同様に、補正部44によって補正された第2センサ14からの電気信号の値の移動平均値を、第2センサ14の信号の監視環境信号値として算出する。また、平均算出部50は、同様に、補正部44によって補正された第3センサ16からの電気信号の値の移動平均値を、第3センサ16の信号の監視環境信号値として算出する。
変化量算出部52は、補正部44によって補正された第1センサ12からの電気信号のライブ値と、平均算出部50によって算出された第1センサ12の信号の監視環境信号値との差を、第一変化量として算出する(図5(B)参照)。また、変化量算出部52は、同様に、補正部44によって補正された第2センサ14からの電気信号のライブ値と、平均算出部50によって算出された第2センサ14の信号の監視環境信号値との差を、第二変化量として算出する。また、変化量算出部52は、同様に、補正部44によって補正された第3センサ16からの電気信号のライブ値と、平均算出部50によって算出された第3センサ16の信号の監視環境信号値との差を、第三変化量として算出する。
ここで、炎を検知する原理について説明する。
まず、図6に示すように、炎が発する炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm 近傍の帯域の赤外光を検出した信号、4.0μm 近傍の帯域の赤外光を検出した信号、5.0μm 近傍の帯域の赤外光を検出した信号を比較すると、熱放射の場合には、ウィーンの変位則により、温度別でスペクトル分布線の傾きが変わる。370℃で約4.5μm近傍の帯域が緩やかにピークを持ち、370℃より高温の場合は左上がりとなり、370℃より低温の場合は右上がりとなる。
炎の場合には、炭酸ガス共鳴放射により、4.5μm近傍の帯域にピークを持つ波形となる。また、高温生成物(煙等)により高温側(左上がり)の放射が複合する。
熱風の場合には、4.5μm近傍の帯域にピークを持つ波形となるが、高温生成物(煙等)を含まないので低温側(右上がり)の放射が複合する。
本実施の形態の火災判定における判定比の導出概要図を図7に示す。また、火災判定に用いる閾値テーブルの例を図8に示す。
一例として炎の赤外放射を受光し、図7(A)のような信号の変化量が各帯域において得られたとすると火災判定は以下の(1)〜(5)のステップで行われる。
(1)三つの帯域の変化量を使用した一次関数式を導出する。
(2)導出した一次関数式を使用して、各帯域における計算値を算出する。(図7(B)における星プロットを参照)
(3)各帯域における計算値と変化量の比を判定比として算出する。
(4)雑音量を算出する。雑音量は、高温体もしくは何らかの赤外放射体の存在を考慮したパラメータである。
本実施の形態では、4.0μm近傍の帯域の変化量と波長5.0μm近傍の帯域の変化量とを用いた近似直線より、炭酸ガス共鳴放射を無視した波長4.5μm近傍の帯域にあたる計算値を雑音量として算出することで、火災以外の赤外放射体の影響の大きさを表すこととしている。
求めた雑音量を、閾値テーブルの参照値として扱うことにより、火災を検出しにくい環境や監視対象の変化に対応した火災判断が可能となり製品仕様をより確実にしている。
(5)求めた雑音量を参照値として火災判定のための3つの閾値を選択し、判定値をあてはめ火災判定を行う。
4.0μm近傍の帯域および5.0μm近傍の帯域にあっては、判定比が閾値以下であり、4.5μm近傍の帯域では、判定比が閾値以上であるという条件を満たした場合、炎を検知したと判断する。なお、閾値テーブルでは、第一変化量(4.5μm 近傍)の値と、第二変化量(4.0μm近傍)の値と、第三変化量(5.0μm近傍)の値との三点より求まる近似直線から得られる第一変化量(4.5μm 近傍)の計算値、第二変化量(4.0μm近傍)の計算値、及び第三変化量(5.0μm近傍)の計算値についての3つの判定比の閾値が定められている。
以上説明した原理にしたがって、本実施の形態では、火災判定部54は、変化量算出部52によって算出された第一変化量(4.5μm 近傍)の値、第二変化量(4.0μm近傍)の値、及び第三変化量(5.0μm 近傍)の値の少なくとも1つが閾値E以上であり、かつ、三つの変化量の値の近似直線から得られる帯域別の計算値と、第一変化量、第二変化量、第三変化量とのそれぞれの比について、それぞれの閾値と比較した結果が、予め定められた条件を満たした場合に炎を検知したと判定する。なお、閾値Eは、炎判定を行うか否かの最小の信号変化量であり、共通閾値の一例である。一方、炎判定のための閾値テーブルでは、それぞれの比の閾値が、第1閾値、第2閾値、及び第3閾値の一例である。
ここで、火災判定部54は、第二変化量の値が、前記第三変化量の値より大きい場合、第一変化量の計算値を雑音量として、各帯域の比に対する閾値を、閾値テーブルから取得して、判定を行う。一方、火災判定部54は、第二変化量の値が前記第三変化量の値以下である場合、厳しく判定するための予め定められた各帯域の比に対する閾値(例えば、雑音量が0の場合に対応する閾値)を用いて、判定を行う。
上述した火災判定部54による判定は、一定周期で繰り返し実行される。
回数判定部56は、図9に示すように、火災判定部54により連続で炎を検知したと判定された回数が予め定められた連続回数以上の場合、又は火災判定部54により一定の時間内に炎を検知したと判定された回数が予め定められた累積回数以上の場合に、監視環境信号値(移動平均値)を固定値とするとともに、火災信号を出力する。
警報制御部58は、回数判定部56から火災信号が出力された場合、火災を報知するように警報表示部46A及び警報出力部46Bを制御する。例えば、警報表示部46Aは赤色LEDを点灯させ、警報出力部46Bはフォトカプラを導通状態にさせ、外部出力部32を構成する接点出力を作動させる。
<炎検知器の作用>
次に、第1の実施の形態に係る炎検知器10の作用について説明する。
まず、設置前の炎検知器10に対して、事前に補正係数を設定する。具体的には、黒体炉などの基準光源から、第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16に対して赤外光の基準光を照射しているときに、炎検知器10の補正係数設定部42が、上記の第1の補正ステップ〜第3の補正ステップにより、補正係数を設定する。
補正係数が設定された炎検知器10が、火災判定を行うべき場所に設置され、炎検知器10の第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16の各々から電気信号が出力され、増幅部18、20、22、24、AD変換部26を介して各信号の値が、第1の演算処理部28に入力されているときに、炎検知器10の第1の演算処理部28及び第2の演算処理部30によって、図10、図11に示す火災判定処理ルーチンが一定の周期毎に繰り返し実行される。
ステップ100では、信号取得部40が、AD変換部26から出力された信号から、第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、第3センサ16からの電気信号の値を取得する。
次のステップ102では、補正部44が、上記ステップ100で取得した第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、第3センサ16からの電気信号の値に対して、事前に設定された補正係数を用いて補正を行う。
そして、ステップ104では、平均算出部50は、第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、第3センサ16からの電気信号の値の各々に対して、上記ステップ102で補正されたセンサ値と、過去に上記ステップ102で補正されたセンサ値とに基づいて、移動平均値を算出する。
ステップ106では、変化量算出部52は、第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、第3センサ16からの電気信号の値の各々に対して、上記ステップ102で補正されたセンサ値と、上記ステップ104で算出された移動平均値とに基づいて、第一変化量、第二変化量、第三変化量を算出する
そして、ステップ108では、火災判定部54は、上記ステップ106で算出された第一変化量、第二変化量、第三変化量と、過去に上記ステップ106で算出された第一変化量、第二変化量、第三変化量とに基づいて、第一変化量、第二変化量、第三変化量のいずれかの値が、一定の時間、負の基準値以下となる状態を継続したか否かに応じて、移動平均値をリセットするか否かを判定する。移動平均値をリセットする場合には、ステップ110へ移行し、上記ステップ102で補正されたセンサ値を用いて、第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、第3センサ16からの電気信号の値の各々に対して、移動平均値をリセットする。
一方、移動平均値をリセットしない場合には、ステップ112へ移行する。
ステップ112では、火災判定部54は、上記ステップ106で算出された第一変化量、第二変化量、第三変化量の全てが、予め定められた閾値E未満であるか否かを判定する。第一変化量、第二変化量、第三変化量の全てが、予め定められた閾値E未満であると判定された場合には、ステップ114において、現時点で火災モード又は注意出力モードであれば、通常モードへ移行し、火災判定処理ルーチンを終了する。なお、現時点で通常モードであれば、そのまま通常モードを継続する。
なお、図12に示すように、火炎を伴わない環境変化が発生し、ライブ値がバイアス値から乖離した場合は、環境変化の雑音量による誤作動を防止するために、感度を低感度に切り替える。なお、感度の変更は、最小検出感度(閾値E)の変更により行う。
第一変化量、第二変化量、第三変化量の少なくとも1つが、予め定められた閾値E以上であると判定された場合には、ステップ116において、火災判定部54は、第二変化量が第三変化量以下か否かを判定する。第二変化量が第三変化量以下である場合には、ステップ118において、熱風により炎を誤判定する可能性があることを示す疑惑フラグを成立させる。一方、第二変化量が第三変化量より大きい場合に、ステップ120へ移行する。
ステップ120において、火災判定部54は、上記ステップ106で算出された第一変化量、第二変化量、第三変化量から一次関数式を導出し、導出した一次関数式を用いて、第一変化量、第二変化量、第三変化量の各々に対する計算値を算出する。
そして、ステップ122では、火災判定部54は、上記ステップ106で算出された第二変化量、第三変化量から近似直線を導出し、導出した近似直線を用いて、第一変化量に対応する計算値を、雑音量として算出する。
ステップ124では、火災判定部54は、上記ステップ118で設定された疑惑フラグ、及び/又は上記ステップ122で算出された雑音量に応じて、第一変化量、第二変化量、第三変化量に関する判定比の閾値を取得する。
次のステップ126では、火災判定部54は、上記ステップ106で算出された第一変化量、第二変化量、第三変化量と、上記ステップ120で算出された第一変化量、第二変化量、第三変化量の各々に対する計算値とに基づいて、第一変化量、第二変化量、第三変化量に関する判定比を算出し、上記ステップ124で取得した閾値を用いて、第一変化量に関する判定比が、対応する閾値以上であり、第二変化量に関する判定比が、対応する閾値以下であり、かつ、第三変化量に関する判定比が、対応する閾値以下であるか否かを判定する。第一変化量に関する判定比が、対応する閾値未満であるか、第二変化量に関する判定比が、対応する閾値より大きいか、又は第三変化量に関する判定比が、対応する閾値より大きい場合には、炎を検知しないと判定し、現時点のモードを継続したまま、火災判定処理ルーチンを終了する。
一方、第一変化量に関する判定比が、対応する閾値以上であり、第二変化量に関する判定比が、対応する閾値以下であり、かつ、第三変化量に関する判定比が、対応する閾値以下である場合には、炎を検知したと判定し、ステップ128へ移行する。
ステップ128では、回数判定部56は、上記ステップ126の判定結果と、過去の上記ステップ126の判定結果とに基づいて、連続で炎を検知したと判定された回数が予め定められた連続回数N以上であるか否かを判定する。連続で炎を検知したと判定された回数が連続回数N以上である場合には、火災が発生したと判断し、ステップ134へ移行する。一方、連続で炎を検知したと判定された回数が連続回数N未満である場合には、ステップ130へ移行する。
ステップ130では、回数判定部56は、上記ステップ126の判定結果と、過去の上記ステップ126の判定結果とに基づいて、一定の時間内に炎を検知したと判定された回数が予め定められた累積回数M以上であるか否かを判定する。一定の時間内に炎を検知したと判定された回数が累積回数M以上である場合には、火災が発生したと判断し、ステップ134へ移行する。一方、連続で炎を検知したと判定された回数が累積回数M未満である場合には、ステップ132へ移行し、注意出力モードへ移行して、火災判定処理ルーチンを終了する。
ステップ134では、回数判定部56は、第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、第3センサ16からの電気信号の値の各々に対する移動平均値を、現時点の移動平均値に固定するように設定する。そして、ステップ136において、警報制御部58は、火災モードへ移行して、火災信号を警報制御部46A及び警報出力部46Bに対して出力し、火災判定処理ルーチンを終了する。警報出力部46Bに出力された火災信号は、外部出力部32を構成する接点出力を作動させる。
以上説明したように、第1の実施の形態に係る炎検知器によれば、炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域の赤外光、炭酸ガス共鳴放射帯より短い波長の帯域の4.0μm近傍の帯域の赤外光、及び炭酸ガス共鳴放射帯より長い波長の帯域の5.0μm近傍の帯域の赤外光の各々を検出して直流成分の電気信号に変換し、それぞれの電気信号の、移動平均値からの変化量である第一変化量、第二変化量、及び第三変化量に基づいて、炎を検知したか否かを判定することにより、熱風による誤作動を解消し、精度よく炎を検知することができる。
また、赤外光の各々を検出して直流成分の電気信号に変換するサーモパイルを用いるため、周波数分解処理が不要であり、早期検知が可能である。
なお、上記の第1の実施の形態において、補正された第1センサ12からの電気信号のセンサ値、補正された第2センサ14からの電気信号のセンサ値、補正された第3センサ16からの電気信号のセンサ値に応じて、最小検出感度を表す閾値Eを変更するようにしてもよい。
例えば、火災判定部54が、補正部44によって補正された、第1センサ12からの電気信号のセンサ値、第2センサ14からの電気信号のセンサ値、及び第3センサ16からの電気信号のセンサ値の少なくとも一つが、予め定められた範囲外である場合、火災判定で用いられる閾値Eを高くするように変更する。
ここで、最小検出感度を表す閾値Eを変更する原理について図12を用いて説明する。
火炎を伴わない急な環境変化が起きた場合、環境変化雑音による誤作動(移動平均がライブ値に近づくときの問題)を防止するための措置として、バイアス値を基準として定められた範囲内のライブ値であれば、高感度(標準感度)とし、範囲外であれば、低感度とする。感度の変更は、最小検出感度(閾値E)の変更により行う。なお、感度切り替えの基準となる範囲は、補正係数を用いた補正の影響を考慮して決定すればよい。
このように、火炎を伴わない急な環境変化が起きた場合に、最小検出感度に対応する閾値Eを変更して低感度とすることにより、環境変化雑音による誤作動を解消し、更に精度よく炎を検知することができる。
<第2の実施の形態>
<システム構成>
次に、第2の実施の形態に係る炎検知器について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第2の実施の形態では、移動平均や移動平均からの変化量を計算せずに、第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、及び第3センサ16からの電気信号の値を比較して、炎を検知したか否かを判定している点と、補正部を設けていない点とが、第1の実施の形態と異なっている。
図13に示すように、第2の実施の形態に係る炎検知器の第2の演算処理部30は、火災判定部54、回数判定部56、警報制御部58、及び警報出力部46Bを備えている。
ここで、炎を検知する原理について説明する。
ステファンボルツマンの法則より、黒体の波長別の放射エネルギーは図14のようになることが分かっている。この温度放射別のピークはWienの変位則に従い、例えば4.0μmと5.0μmのエネルギーを比較すると、低温側の放射は右上がり、高温側の放射は左上がりとなることが分かる。
例えば、上記図14に示すように、炭酸ガス共鳴放射帯にピークを含む1000℃(高温)のガスと100℃(低温)のガスでは4.0μmと5.0μmのエネルギー値の傾きは異なる。
従って、4.0μm近傍と5.0μm近傍とを捉える(帯域フィルター付き)赤外センサの信号値の近似直線の傾きを比較することで高温か低温かを区別することができる。すわなち、右上がりであれば低温と判断し、左上がりであれば高温と判断することができる。
次に、4.5μm近傍を捉える(帯域フィルター付き)赤外センサの信号値が、4.0μmと5.0μmとの信号値を結ぶ直線の計算値よりも高ければ、火災と判定することができる。但し、炎には高温の熱放射を伴わないもの(例えば煙が出ないLNGなど)もあるため、単純に4.0μmと5.0μmの信号値の傾き比較ではなく、傾きに応じて、炎判定する4.5μm の計算値に対する閾値を変化させることとする(図15参照)。
すわなち、4.0μm近傍の帯域の信号値が、5.0μm近傍の帯域の信号値より大きい場合は、4.0μmと5.0μmの値を結ぶ直線の計算値よりも4.5μm近傍の帯域の信号値が閾値A以上大きい場合に炎と判定する。また、4.0μm近傍の帯域の信号値が、5.0μm近傍の帯域の信号値以下である場合は、4.0μmと5.0μmの値を結ぶ直線の計算値よりも4.5μm近傍の帯域の信号値が閾値B以上となった場合に炎と判定する。ただし、閾値Aと閾値Bの関係は閾値A<閾値Bである(図16)。
また、閾値は信号全体の強さによっても変化させる(図17参照)。
以上説明した原理にしたがって、本実施の形態では、火災判定部54は、第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、及び第3センサ16からの電気信号の値が閾値E以上であり、かつ、第2センサ14からの電気信号の値、及び第3センサ16からの電気信号の値の近似直線から得られる第1センサ12からの電気信号の計算値について、閾値A又は閾値Bと比較した結果が、予め定められた条件を満たした場合に炎を検知したと判定する。なお、閾値A、閾値Bが、判定閾値の一例である。
また、第2センサ14によって検出された電気信号の値、及び第3センサ16によって検出された電気信号の値から求められる近似直線から得られる、第1センサ12によって検出された電気信号の値に対応する計算値を、雑音量として算出し、算出された雑音量に応じて定められた閾値A1、閾値A2、・・・、閾値Anのテーブルを用いることとする。
ここで、火災判定部54は、第2センサ14からの電気信号の値が第3センサ16からの電気信号の値より大きい場合、閾値Bより小さい閾値Aを用いて、判定を行う。一方、火災判定部54は、第2センサ14からの電気信号の値が第3センサ16からの電気信号の値以下である場合、厳しく判定するための、閾値Aより大きい閾値Bを用いて、判定を行う。
<炎検知器の作用>
次に、第2の実施の形態に係る炎検知器の作用について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
第2の実施の形態における火災判定処理ルーチンについて、図18、図19を用いて説明する。
ステップ100では、信号取得部40が、AD変換部26から出力された信号から、第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、第3センサ16からの電気信号の値を取得する。
そして、ステップ300で、火災判定部54は、上記ステップ100で取得した第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、第3センサ16からの電気信号の値の全てが、予め定められた閾値E未満であるか否かを判定する。第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、第3センサ16からの電気信号の値の全てが、予め定められた閾値E未満であると判定された場合には、ステップ114において、現時点で火災モード又は注意出力モードであれば、通常モードへ移行し、火災判定処理ルーチンを終了する。なお、現時点で通常モードであれば、そのまま通常モードを継続する。
第1センサ12からの電気信号の値、第2センサ14からの電気信号の値、及び第3センサ16からの電気信号の値の少なくとも1つが、予め定められた閾値E以上であると判定された場合には、ステップ302において、火災判定部54は、第2センサ14からの電気信号の値が第3センサ16からの電気信号の値以下である否かを判定する。第2センサ14からの電気信号の値が第3センサ16からの電気信号の値以下である場合には、ステップ118において、熱風により炎を誤判定する可能性があることを示す疑惑フラグをオンにする。一方、第2センサ14からの電気信号の値が第3センサ16からの電気信号の値より大きい場合に、ステップ120へ移行する。
ステップ304において、火災判定部54は、上記ステップ100で取得した第2センサ14からの電気信号の値、及び第3センサ16からの電気信号の値から近似直線を導出し、導出した近似直線を用いて、第1センサ12からの電気信号の値に対する計算値を算出する。算出した計算値は、雑音量としても用いられる。
ステップ306では、火災判定部54は、上記ステップ118で設定された疑惑フラグ、及び上記ステップ304で算出された計算量に応じて、第1センサ12からの電気信号の値に関する閾値として、閾値A又は閾値Bを取得する。ここで、閾値A及び閾値Bは、計算量毎に定められており、計算量が大きいほど、閾値A及び閾値Bが大きくなるように定められている。また、同一の計算量に対して、閾値A<閾値Bとなるように、閾値A、閾値Bが定められている。
次のステップ308では、火災判定部54は、上記ステップ100で取得した第1センサ12からの電気信号の値と、上記ステップ304で算出された第1センサ12からの電気信号の値に対する計算値とに基づいて、上記ステップ118の疑惑フラグが成立しておらず、かつ、上記ステップ306で取得した閾値A又は閾値Bを用いて、第1センサ12からの電気信号の値に対する計算値との差分が、閾値A又は閾値B以上であるか否かを判定する。第1センサ12からの電気信号の値に対する計算値との差分が、閾値A又は閾値B未満である場合には、炎を検知しないと判定し、現時点のモードを継続したまま、火災判定処理ルーチンを終了する。
一方、第1センサ12からの電気信号の値と、第1センサ12からの電気信号の値に対する計算値との差分が、閾値A以上である場合には、炎を検知したと判定し、ステップ128へ移行する。一方、第1センサ12からの電気信号の値と、第1センサ12からの電気信号の値に対する計算値との差分が、閾値A未満である場合には、現時点のモードを継続したまま、火災判定処理ルーチンを終了する。
ステップ128では、回数判定部56は、上記ステップ126の判定結果と、過去の上記ステップ126の判定結果とに基づいて、連続で炎を検知したと判定された回数が予め定められた連続回数N以上であるか否かを判定する。連続で炎を検知したと判定された回数が連続回数N以上である場合には、火災が発生したと判断し、ステップ136へ移行する。一方、連続で炎を検知したと判定された回数が連続回数N未満である場合には、ステップ130へ移行する。
ステップ130では、回数判定部56は、上記ステップ126の判定結果と、過去の上記ステップ126の判定結果とに基づいて、一定の時間内に炎を検知したと判定された回数が予め定められた累積回数M以上であるか否かを判定する。一定の時間内に炎を検知したと判定された回数が累積回数M以上である場合には、火災が発生したと判断し、ステップ136へ移行する。一方、連続で炎を検知したと判定された回数が累積回数M未満である場合には、ステップ132へ移行し、注意出力モードへ移行して、火災判定処理ルーチンを終了する。
そして、ステップ136において、警報制御部58は、火災モードへ移行して、火災信号を外部出力部32に対して出力し、火災判定処理ルーチンを終了する。
以上説明したように、第2の実施の形態に係る炎検知器によれば、炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域の赤外光、炭酸ガス共鳴放射帯より短い波長の帯域の4.0μm近傍の帯域の赤外光、及び炭酸ガス共鳴放射帯より長い波長の帯域の5.0μm近傍の帯域の赤外光の各々を検出して直流成分の電気信号に変換し、それぞれの電気信号の値を比較して、炎を検知したか否かを判定することにより、熱風による誤作動を解消し、精度よく炎を検知することができる。
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
例えば、上記第1の実施の形態では、第二変化量より第三変化量が大きい場合に、厳しく判定するための閾値を用いて、炎を検知したか否かを判定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。第二変化量より第三変化量が小さい場合にのみ、判定比に関する条件を満たせば、炎を検知したと判定するようにしてもよい。この場合には、第二変化量より第三変化量が大きいと、炎を検知したとは判定されない。
また、上記第1の実施の形態〜第2の実施の形態では、火災判定部54により連続で炎を検知したと判定された回数が予め定められた連続回数以上の場合、又は火災判定部54により一定の時間内に炎を検知したと判定された回数が予め定められた累積回数以上の場合に、火災信号を出力する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。火災判定部54により連続で炎を検知したと判定された回数が予め定められた連続回数以上の場合であって、かつ、火災判定部54により一定の時間内に炎を検知したと判定された回数が予め定められた累積回数以上の場合に、火災信号を出力するようにしてもよい。
また、炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域以外に、4.0μm近傍の帯域の赤外線および5.0μm近傍の帯域の赤外線を検出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域以外として、炭酸ガス共鳴放射帯より短い波長の帯域の赤外線と、炭酸ガス共鳴放射帯より長い波長の帯域の赤外線とであれば、他の帯域の赤外線を検出してもよいし、また、炭酸ガス共鳴放射帯より短い波長の帯域として、2つ以上の帯域の赤外線を各々検出してもよいし、炭酸ガス共鳴放射帯より長い波長の帯域として、2つ以上の帯域の赤外線を各々検出してもよい。
また、平均算出部50は、各センサからの電気信号の値の移動平均値を、各センサの信号の監視環境信号値として算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、各センサからの電気信号の値の加重平均値を、各センサの信号の監視環境信号値として算出するようにしてもよい。
また、上記第2の実施の形態において、第2センサ14によって検出された電気信号の値、及び第3センサ16によって検出された電気信号の値から求められる近似直線から得られる、第1センサ12によって検出された電気信号の値に対応する計算値を、雑音量として算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、第1センサ12によって検出された電気信号の値、第2センサ14によって検出された電気信号の値、及び第3センサ16によって検出された電気信号の値から求められる近似直線から得られる、第1センサ12によって検出された電気信号の値に対応する計算値を、雑音量として算出するようにしてもよい。
また、上記第1の実施の形態において、閾値テーブルから、閾値を取得する場合を例に説明したが、閾値を求める関数を導出しておき、当該関数から、閾値を取得するようにしてもよい。
また、上記第2の実施の形態において、上記第1の実施の形態と同様に、補正部により、第1センサ12によって検出された電気信号の値、第2センサ14によって検出された電気信号の値、及び第3センサ16によって検出された電気信号の値に対して、補正係数設定部42によって設定された補正係数を用いて補正を行い、第1センサ12によって検出された電気信号のセンサ値、第2センサ14によって検出された電気信号のセンサ値、及び第3センサ16によって検出された電気信号のセンサ値を用いて、火災判定を行ってもよい。
また、上記第2の実施の形態において、上記第1の実施の形態と同様に、平均算出部50により、第1センサ12からの電気信号のセンサ値の移動平均値、第2センサ14からの電気信号のセンサ値の移動平均値、第3センサ16からの電気信号のセンサ値の移動平均値を算出するようにしてもよい。更に、変化量算出部52により、第1センサ12からの電気信号のライブ値と、平均算出部50によって算出された第1センサ12の信号の移動平均値との差を、第一変化量として算出し、第2センサ14からの電気信号のライブ値と、平均算出部50によって算出された第2センサ14の信号の移動平均値との差を、第二変化量として算出し、第3センサ16からの電気信号のライブ値と、平均算出部50によって算出された第3センサ16の信号の移動平均値との差を、第三変化量として算出するようにしてもよい。この場合、上記第1の実施の形態と同様に、第一変化量、第二変化量、及び第三変化量を用いて、火災判定を行ってもよい。更に、上記第1の実施の形態と同様に、信号の変化量が、負の基準値より小さい状態がとなった場合、移動平均値をリセットするようにしてもよい。
また、上記第2の実施の形態において、火災判定部54が、補正部44によって補正された、第1センサ12からの電気信号のセンサ値、第2センサ14からの電気信号のセンサ値、及び第3センサ16からの電気信号のセンサ値の少なくとも一つが、予め定められた範囲外である場合、火災判定で用いられる閾値Eを高くするように変更してもよい。