以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る火花点火式内燃機関の構成を示す概略図である。図2は、前記内燃機関のピストン、燃料噴射弁及び点火プラグを示す斜視図である。図1及び図2に示すように、本発明の第1実施形態に係る火花点火式内燃機関としてのエンジン1は、複数のシリンダ2が列状に配置された多気筒のガソリンエンジンであり、自動車等の車両に搭載され、シリンダ2が形成されたシリンダブロック3と、シリンダ2上に配設されるシリンダヘッド4とを備えている。
シリンダ2内には、ピストン5が往復動可能に配置されている。ピストン5は、シリンダブロック3の下部に回転自在に支持されたクランクシャフト6にコンロッド7を介して連結され、ピストン5の往復運動がクランクシャフト6の回転運動に変換されるようになっている。
ピストン5の上方には、シリンダ2の内周面9とピストン5の頂面10とシリンダヘッド4の下面11に設けられた天井面12とによってペントルーフ型の燃焼室8が形成されている。シリンダヘッド4の天井面12は、ペントルーフ状に形成され、吸気側及び排気側においてそれぞれ傾斜する吸気側傾斜面13及び排気側傾斜面14を有して三角屋根状に形成されている。エンジン1では、天井面12の吸気側傾斜面13及び排気側傾斜面14はそれぞれ、シリンダ2の中心軸2aと直交する直交面とのなす角度が23度及び17度に設定されている。
シリンダヘッド4には、天井面12の吸気側傾斜面13及び排気側傾斜面14にそれぞれ開口する吸気ポート15及び排気ポート16が形成されている。各シリンダ2に2つの吸気ポート15及び排気ポート16が設けられ、2つの吸気ポート15及び排気ポート16はそれぞれ、シリンダ2の中心軸2aと直交するクランク軸6aの軸方向に離間して設けられている。
吸気ポート15には、空気を燃焼室8に供給する吸気通路17が接続され、排気ポート16には、燃焼室8から燃焼ガス(排気ガス)を排出する排気通路18が接続されている。排気通路18には、排気ガスを浄化する触媒を備えた触媒装置(不図示)が介設されている。
吸気ポート15は、燃焼室8内にタンブル流を生成するようにシリンダヘッド4の天井面12に開口し、燃焼室8から斜め上方に直線状に延びている。吸気ポート15からの吸気によって、燃焼室8内に、図2の矢印19で示すように、排気側においてシリンダ2の内周面9に沿うように下方に流れ、ピストン5の頂面10に沿うように排気側から吸気側に流れ、吸気側においてシリンダ2の内周面9に沿うように上方に流れ、シリンダヘッド4の天井面12に沿うように吸気側から排気側に流れるタンブル流が生成される。
シリンダヘッド4には、吸気ポート15及び排気ポート16をそれぞれ開閉する吸気弁20及び排気弁21が配設されている。吸気弁20は、クランクシャフト6に駆動連結された吸気カムシャフト22によって所定のタイミングで吸気ポート15を開閉し、吸気行程において空気を燃焼室8に供給するようになっている。排気弁21は、クランクシャフト6に駆動連結された排気カムシャフト23によって所定のタイミングで排気ポート16を開閉し、排気行程において燃焼室8から排気ガスを排出するようになっている。
吸気弁20及び排気弁21はまた、図示しない可変バルブ機構によって吸気ポート15及び排気ポート16を開閉するタイミングを変更できるようになっている。エンジン1では、排気行程において吸気弁20と排気弁21とを同時に開弁させて吸気ポート15からの吸気を利用して残留排気ガスを排出するようになっている。
吸気弁20及び排気弁21はそれぞれ、弁軸部20a、21aと傘部20b、21bとを有し、傘部底面20c、21cが弁軸部20a、20aの中心軸であるバルブ軸線20d、21dと直交して天井面12の吸気側傾斜面13及び排気側傾斜面14と平行に設けられている。エンジン1では、吸気弁20及び排気弁21はそれぞれ、傘部底面20c、21cがシリンダ2の中心軸2aと直交する直交面とのなす角度が23度及び17度になるように設定されている。
シリンダヘッド4にはまた、燃焼室8に臨むように天井面12の周縁部の吸気側に配設されて燃焼室8内に燃料を噴射する燃料噴射弁24と、燃焼室8に臨むように天井面12の中央部に配設されて燃焼室8内の燃料と空気を含む混合気に点火する点火プラグ25とが備えられている。
点火プラグ25は、先端部に設けられた電極25aが燃焼室8内に臨むようにシリンダヘッド4に配設されると共にシリンダヘッド4の上部に設けられた点火コイルユニット26に接続され、所定のタイミングで電極25a間に火花を生じさせて燃焼室8内の混合気に点火するようになっている。
燃料噴射弁24は、燃料供給システム(不図示)に接続されると共に燃焼室8に臨むように2つの吸気ポート15間に配置されている。燃料噴射弁24は、噴射面27が斜め下方に向くように配置され、ピストン5の頂面10に向けて所定のタイミングで燃焼室8内に燃料を噴射するようになっている。
図3は、燃料噴射弁の噴射面を示す斜視図である。図3に示すように、燃料噴射弁24として、噴射面27に複数の噴口を有するマルチホール型燃料噴射弁が用いられている。噴射面27には、上下方向に延びる中心軸27aに対して噴口が左右対称に配置され、上段中央に1つの第1噴口24aが設けられ、第2段左右両側に2つの第2噴口24bが設けられ、第3段左右両側に第2噴口24bより外側に2つの第3噴口24cが設けられ、下段中央に1つの第4噴口24dが設けられている。燃料噴射弁24の各噴口24a、24b、24c、24dからそれぞれ円錐状の燃料の噴霧が噴射され、燃焼室8内に燃料が均等に噴射されるようになっている。
エンジン1では、吸気ポート15によって燃焼室8内にタンブル流を生成するようになっており、タンブル流によって燃料と空気との混合が促進されると共に、ピストン5が圧縮上死点に近づくにつれて縮小する燃焼室に伴って崩壊するタンブル流から生じる乱流を増大させることによって、燃料と空気とを含む混合気の燃焼が促進されるようになっている。ここで、本明細書において、乱流を増大させるとは、燃焼室8に生じる乱流の流速を増大させ、または乱流の数を増大させることを意味し、さらに、乱流が有する運動エネルギを増大させることを意味するものとする。
図4は、燃料噴射を示すタイムチャートである。図4に示すように、エンジン1の通常運転時、燃料噴射弁24からの燃料噴射は、吸気行程と圧縮行程とに2回に分けて行われる。吸気行程の前半において、例えばクランク角度が80度であるときに燃料噴射を終了する第1噴射が行われると共に、圧縮行程の後半において、例えばクランク角度が325度であるときに燃料噴射を終了するように第2噴射が行われる。
第1噴射は、吸気行程の前半においてピストン5が下降して燃焼室8の容積が相対的に大きいときに行われ、燃料と空気とを含む混合気を均一化する。第2噴射は、圧縮行程の後半においてピストン5が上昇して燃焼室8の容積が相対的に小さいときに行われ、ピストン5の頂面10に噴射されて点火プラグ25周りにその周囲の混合気よりも燃料の濃度が濃い混合気を形成して燃えやすくする。
図5は、燃料噴射弁から噴射される燃料の噴霧を説明するための説明図である。図5では、第2噴射時に燃料噴射弁24から噴射される燃料の噴霧を示している。図5に示すように、第2噴射では、第1噴口24aから噴射される燃料の噴霧F1は、後述するピストン5の頂面10に設けられる隆起部31に形成されたキャビティ40に噴射され、第2噴口24b及び第3噴口24cから噴射される燃料の噴霧F2、F3は、隆起部31の吸気側傾斜面34に噴射されるようになっている。
第2噴射では、第1噴口24aからの燃料F1が、キャビティ40の周面部42にガイドされて上方へ点火プラグ25周りに移動されると共に、第2噴口24b及び第3噴口24cからの燃料F2、F3が、吸気側傾斜面34に衝突した後に点火プラグ25周りに移動され、点火プラグ25周りにその周囲の混合気よりも燃料の濃度が濃い混合気を形成する。
そして、第2噴射後に、点火プラグ25による点火が、圧縮行程の後半に、例えばクランク角度が340度であるときに行われ、混合気が燃焼される。エンジン1では、燃料を2回に分けて噴射することで混合気の均一性を高めると共に、点火プラグ25周りに燃料の濃度が濃い混合気を形成して燃焼安定性を向上させている。
通常運転時には、点火プラグ25による点火が、圧縮行程の後半に、例えばクランク角度が340度であるときに行われるが、冷間始動時には、触媒の温度を上昇させて触媒を活性化させるため、点火プラグ25による点火時期を遅らせて排気ガス温度を上昇させることが行われる。具体的には、点火時期を遅らせることによって、有効膨張比を低下させて排気ガスの温度低下を抑制しつつ、触媒側に排出される排気ガスを高温に維持することが行われる。かかる場合においても、点火プラグ25周りに燃料の濃度が濃い混合気を形成することによって、燃焼安定性を向上させている。
エンジン1には、図示されていないが、エンジン1及びそれに関係する構成を制御する制御ユニットが備えられ、制御ユニットは、各種制御情報に基づいて燃料噴射弁24、点火プラグ25、可変バルブ機構等の各種制御を行うようになっている。
次に、本実施形態に係るエンジン1のピストン5について説明する。
図6は、ピストンの斜視図、図7は、ピストンの平面図、図8は、図7におけるY8−Y8線に沿ったピストンの断面図、図9は、図7におけるY9−Y9線に沿ったピストンの断面図、図10は、図7におけるY10−Y10線に沿ったピストンの断面図である。
本実施形態に係るエンジン1は、幾何学的圧縮比が12以上に設定されており、図6から図10に示すように、ピストン5は、ピストン5の頂面10に、シリンダ2の中心軸2aと直交するベース面30に対してシリンダヘッド4の天井面12に沿ってピストン5の中央側に向けて隆起する隆起部31が設けられると共に、隆起部31の中央に点火プラグ25に対応して下方に窪むキャビティ40が設けられている。
ピストン5の頂面10には、隆起部31の吸気側及び排気側にそれぞれベース面30である吸気側水平面32及び排気側水平面33が設けられ、吸気側水平面32及び排気側水平面33は、ピストン5の軸方向と直交するように設けられている。吸気側水平面32には、吸気弁20との接触を回避するように吸気弁20に対応して下方に窪む吸気弁リセス32aが設けられている。
隆起部31は、シリンダヘッド4の天井面12に沿ってペントルーフ状に形成され、天井面12の吸気側傾斜面13及び排気側傾斜面14に沿って吸気側及び排気側においてそれぞれ傾斜する吸気側傾斜面34及び排気側傾斜面35を有している。隆起部31の吸気側傾斜面34及び排気側傾斜面35はそれぞれ、平面状に形成され、吸気弁20及び排気弁21のバルブ軸線20d、21dと直交するように設けられている。
隆起部31はまた、吸気側傾斜面34及び排気側傾斜面35間に、ピストン5の中央側にベース面30と平行にキャビティ40の周縁部に設けられた上面36と、上面36からピストン5の外周側に傾斜する両側の側面37とを有している。上面36は平面状に形成され、両側の側面37は円錐面状に形成されている。
両側の側面37はそれぞれ、ピストン5の中央側に配置されて上面36からピストン5の外周側に下方に傾斜する第1傾斜面37aと、ピストン5の外周側に配置されて第1傾斜面37aからピストン5の外周側に第1傾斜面37aよりも傾斜角度が大きく下方に傾斜する第2傾斜面37bとを有している。第1傾斜面37a及び第2傾斜面37bはそれぞれ円錐面状に形成されている。
図11は、隆起部31に設けられたキャビティを説明するための説明図である。エンジン1では、ピストン5の頂面10に隆起部31が設けられているため、点火プラグ25によって点火された初期火炎面がピストン5の頂面10と干渉しやすくなることから、隆起部31に点火プラグ25に対応してキャビティ40を設けて初期火炎面とピストン5との干渉を遅らせるようになっている。
図11に示すように、キャビティ40は、点火プラグ25の電極25a間の中央の点火点25bから球状に成長する火炎を模擬した仮想球面25cとの干渉を遅らせるように形成され、平面状に形成された円形状の底面部41と、底面部41から上方に略円筒状に延びる周面部42とを有し、周面部42の底面部41側が曲面状に形成されて底面部41に接続されている。キャビティ40の周面部42は、点火プラグ25の点火点25bを中心とする球面の少なくとも一部を形成するように形成することも可能である。
ピストン5はまた、吸気側傾斜面34の上端部に切欠部34aが設けられ、燃料噴射弁24の第1噴口24aから第2噴射時に噴射された燃料F1が、切欠部34aを通過して、キャビティ40の排気側の周面部42に衝突するようになっている。前述したように、第1噴口24aからの燃料F1は、キャビティ40の周面部42にガイドされて点火プラグ25周りに上方へ移動される。
エンジン1では、ピストン5の頂面10に隆起部31を設けることで幾何学的圧縮比を高めると共に、ピストン5の隆起部31に点火プラグ25に対応してキャビティ40を設けることで点火プラグ25によって点火された初期火炎面とピストン5との干渉を遅らせて火炎伝播性を高めるようになっている。
本実施形態では、隆起部31の吸気側傾斜面34及び排気側傾斜面35は、図8に示すように、ピストン5の頂面10のベース面30に対して排気側傾斜面35の傾斜角度θ2が吸気側傾斜面34の傾斜角度θ1よりも小さく形成されると共に、吸気側傾斜面34と排気側傾斜面35との傾斜角度差(θ1−θ2)が4度以上であるように形成されている。例えば、吸気側傾斜面34の傾斜角度θ1と排気側傾斜面35の傾斜角度θ2とは23度と17度とに設定され、傾斜角度差(θ1−θ2)が6度に設定される。
これにより、隆起部31の容積を、高圧縮比を実現するように確保しつつ、タンブル流の上流側に位置する排気側傾斜面35の傾斜角度θ2を緩やかに構成することができるので、タンブル流がピストン5の頂面10に沿うように排気側から吸気側に流れる際の、隆起部31によるタンブル流の減速を抑制できる。
なお、隆起部31の容積を確保しつつ吸気側傾斜面34と排気側傾斜面35の傾斜角度差を大きくすると、隆起部31が相対的に低くなる。この結果、キャビティ40の周面部42の高さが低くなることから、第2噴射時にキャビティ40の周面部42による点火プラグ25周りに燃料を移動させるガイド効果が小さくなる。したがって、キャビティ40の周面部42による燃料のガイド効果を十分に発揮させるため、周面部42の高さを確保するべく、吸気側傾斜面34と排気側傾斜面35の傾斜角度差を11度以下とすることが好ましい。
エンジン1ではまた、隆起部31の吸気側傾斜面34及び排気側傾斜面35と両側の側面37とは、図10に示すように、排気側傾斜面35と側面37とのなす角度θ4が吸気側傾斜面34と側面37とのなす角度θ3よりも大きくなるように形成されると共に、吸気側傾斜面34と側面37とのなす角度θ3との角度差(θ4−θ3)が5度以上であるように形成されている。例えば、吸気側傾斜面34と側面37とのなす角度θ3と排気側傾斜面35と側面37とのなす角度θ4とは162.4度と169.8度とに設定され、角度差が7.4度に設定される。
これにより、排気側傾斜面35と側面37との間の角度変化が緩やかになるので、タンブル流がピストン5の頂面に沿ってこの外周側部分を流れる場合に、タンブル流を、排気側傾斜面35から両側の側面37へ向けて、剥離を抑制しつつピストン5の頂面10に沿って案内させやすい。
吸気側傾斜面34と側面37とのなす角度θ3は、図7に示すように、ピストン5の上死点における吸気弁20のバルブ軸線20dと吸気側傾斜面34との交点P1を通ってクランク軸6aの軸方向と直交する直交面6bと、吸気側傾斜面34及び側面37間の稜線S1との交点P2における吸気側傾斜面34と側面37とのなす角度θ3である。具体的には、角度θ3は、図10に示すように、交点P2におけるクランク軸6aの軸方向と直交する方向について吸気側傾斜面34と側面37の接線T1とのなす角度とする。
排気側傾斜面35と側面37とのなす角度θ4は、図7に示すように、ピストン5の上死点における排気弁21のバルブ軸線21dと排気側傾斜面35との交点P3を通ってクランク軸6aの軸方向と直交する直交面6cと、排気側傾斜面35及び側面37間の稜線S2との交点P4における排気側傾斜面35と側面37とのなす角度θ4である。具体的には、角度θ4は、図10に示すように、交点P4におけるクランク軸6aの軸方向と直交する方向について排気側傾斜面35と側面37の接線T2とのなす角度とする。
また、隆起部31に設けられるキャビティ40は、図7及び図8に示すように、キャビティ40の直径D1に対するキャビティ40の深さH1の割合(H1/D1)が0.3以下であるように形成されている。例えば、キャビティ40の直径D1に対するキャビティ40の深さH1の割合(H1/D1)は0.25や0.29に設定される。なお、キャビティ40の直径D1は、周面部42の上端部におけるフィレットを除くキャビティ40の直径とする。
これにより、キャビティ40が扁平浅底に構成されるため、キャビティ40における流動の低下が抑制される。この結果、キャビティ40による底面部41側への引き込み作用が低減される。よって、タンブル流がピストン5の頂面10に沿ってこの中央部分を流れる場合に、タンブル流を、排気側傾斜面35から吸気側傾斜面34に向けて、キャビティ40の底面部41側への流動を抑制しつつ案内させやすい。
なお、隆起部31の容積を確保しつつキャビティ40の直径に対するキャビティ40の深さの割合を小さくするとキャビティ40の深さが小さくなることから、第2噴射時にキャビティ40の周面部42によって点火プラグ25周りに燃料を移動するようにガイドするためにはキャビティ40の直径に対するキャビティ40の深さの割合を0.16以上とすることが好ましい。
また、隆起部31の側面37は、図9に示すように、ピストン5の中央側における傾斜角度θ5が10度以下であるように形成され、具体的には側面37の第1傾斜面37aの傾斜角度θ5が10度以下であるように形成されている。例えば、側面37の第1傾斜面37aは、傾斜角度θ5が8度や9.2度に設定される。
これにより、側面37を、ピストン5の中央側に位置する第1傾斜面37aを低く構成しながらも、外周側に所定高さを有するように第2傾斜面37bを構成することができるので、隆起部31の容積を、高圧縮比を実現できるように確保できる。この結果、流量の多い中央側においてタンブル流の阻害が抑制されるので、全体的に見て隆起部31によるタンブル流の減速が抑制される。
また、隆起部31の吸気側傾斜面34及び排気側傾斜面35は、図7及び図8に示すように、ピストン5の中心軸を通ってクランク軸6aの軸方向と直交する直交面において吸気側傾斜面34の長さL1に対する排気側傾斜面35の長さL2の割合(L2/L1)が1.25以上であるように形成されている。例えば、吸気側傾斜面34の長さL1に対する排気側傾斜面35の長さL2の割合(L2/L1)は1.33に設定される。なお、図7に示すように、吸気側傾斜面34及び排気側傾斜面35の長さL1、L2は、これらの傾斜面34、35と吸気側水平面32及び排気側水平面33との境界縁部と、これらの傾斜面34、35と上面36との境界縁部との間の長さである。
これにより、排気側傾斜面35におけるタンブル流の流路が長く構成されるので、排気側傾斜面35によるタンブル流の案内効果を有効に発揮させることができる。この結果、隆起部31によるタンブル流の阻害が抑制されるので、タンブル流の減速が抑制される。
なお、隆起部31の容積を確保しつつ吸気側傾斜面34の長さL1に対する排気側傾斜面35の長さL2の割合(L2/L1)を過度に大きくすると、隆起部31の高さが小さくなると共にキャビティ40の深さ(周面部42の高さ)が小さくなるため、第2噴射時におけるキャビティ40による燃料の点火プラグ25周りへのガイド作用が小さくなってしまう。したがって、キャビティ40の周面部42の高さを確保するためには、上記割合(L2/L1)を1.9以下とすることが好ましい。
また、隆起部31は、図8に示すように、シリンダ2の内径D2に対する隆起部31の高さH2の割合(H2/D2)が0.08以下であるように形成されている。隆起部31の高さH2は、ピストン5の頂面10のベース面30である吸気側水平面32及び排気側水平面33から上面36までの高さH2とする。例えば、シリンダ2の内径D2に対する隆起部31の高さH2の割合(H2/D2)は0.066や0.078に設定される。
これにより、隆起部31を、高圧縮比を実現するように形成しながらも、高さH2の増大を抑制することができる。この結果、タンブル流がピストン5の頂面10に沿うように排気側から吸気側に流れる際の隆起部31によるタンブル流の減速を抑制できる。
なお、隆起部31の容積を確保しつつシリンダ2の内径D2に対する隆起部31の高さH2の割合(H2/D2)を過度に小さくすると、隆起部31の高さが小さくなると共にキャビティ40の深さ(周面部42の高さ)が小さくなるため、第2噴射時におけるキャビティ40による燃料の点火プラグ25周りへのガイド作用が小さくなってしまう。したがって、キャビティ40の周面部42の高さを確保するためには、上記割合(H2/D2)を0.56以上とすることが好ましい。
また、図9に示すように、ピストン5の径方向断面において第2傾斜面37bの長さL4に対する上面36の長さL3の割合(L3/L4)が0.8以下であるように形成されている。例えば、第2傾斜面37bの長さL4に対する上面36の長さL3の割合(L3/L4)は0.34や0.57に設定される。
すなわち、ピストンの外周側に位置する第2傾斜面37bを、ピストンの中央側に位置する上面36よりも長く構成することによって、これらの間を延びる第1傾斜面37aの傾斜角度が小さくなる。これにより、側面37を、ピストン5の中央側において第1傾斜面37aにより低く構成しながらも、外周側に所定高さを有するように第2傾斜面37bを構成できるので、隆起部31の容積を、高圧縮比を実現するように確保できる。この結果、流量の多い中央側においてタンブル流の阻害が抑制されるので、全体的に見て隆起部31によるタンブル流の減速が抑制される。
なお、隆起部31の容積を確保しつつ第2傾斜面37bの長さL4に対する上面36の長さL3の割合(L3/L4)を過度に小さくすると、隆起部31の高さが小さくなると共にキャビティ40の深さ(周面部42の高さ)が小さくなるため、第2噴射時におけるキャビティ40による燃料の点火プラグ25周りへのガイド作用が小さくなってしまう。
このように、本実施形態に係る火花点火式内燃機関1では、ピストン5の頂面10に吸気側傾斜面34及び排気側傾斜面35を有する隆起部31が設けられると共に隆起部31に点火プラグ25に対応してキャビティ40が設けられ、シリンダヘッド4に、タンブル流を生成するように吸気ポート15が設けられている。そして、隆起部31は、吸気側傾斜面34及び排気側傾斜面35間に設けられてピストン5の中央側から外周側に傾斜する両側の側面37を有し、側面37は、ピストン5の中央側における傾斜角度θ5が10度以下であるように形成されている。
これにより、側面37を、ピストン5の中央側において低く構成しながらも、外周側に所定高さを有するように構成することができるので、隆起部31の容積を確保できる。この結果、流量の多い中央側においてタンブル流の阻害が抑制されるので、全体的に見て隆起部31によるタンブル流の減速が抑制される。よって、タンブル流の崩壊により生じる乱流が増大し、これにより、燃焼期間を短縮させ、燃費性能を向上できる。
したがって、ピストン5の頂面10に隆起部31が設けられると共に隆起部31に点火プラグ25に対応してキャビティ40が設けられた火花点火式内燃機関1において、隆起部31によって幾何学的圧縮比が高く設定された燃焼室容積を確保しつつキャビティ40によってピストン5と火炎との干渉を遅らせて火炎伝播性を高めると共に、これに加えて、側面37のピストン5の中央側における傾斜角度θ5を小さくすることで隆起部31によるタンブル流の減速を抑制することによって、燃費性能をさらに向上できる。
また、吸気側傾斜面34及び排気側傾斜面35は、排気側傾斜面35の傾斜角度が吸気側傾斜面34の傾斜角度よりも小さくなるように形成される。これにより、図6の矢印F10で示すようにタンブル流がピストン5の頂面10に沿うように排気側から吸気側に流れる際に、吸気側傾斜面34の傾斜角度と排気側傾斜面35の傾斜角度とがほぼ等しく形成される場合に比して、排気側傾斜面35の傾斜角度を小さくすることで隆起部31によるタンブル流の減速が抑制されるので、燃費性能をさらに向上できる。
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
側面37のピストン5の中央側における傾斜角度を種々変更したピストン5を備えたエンジン1についてシミュレーション解析を実施した。具体的には、隆起部31の容積を確保しつつ側面37のピストン5の中央側における傾斜角度θ5を種々変更したピストン5を備えたエンジン1について同一の運転条件においてピストン5の上死点における燃焼室8内の混合気の乱流エネルギをシミュレーション解析した。
図12は、隆起部の側面のピストンの中央側における傾斜角度と乱流エネルギとの関係を示すグラフであり、側面37のピストン5の中央側である第1傾斜面37aにおける傾斜角度θ5と、ピストン5の上死点における燃焼室8内の混合気の乱流エネルギとの関係を示している。
図12では、側面37のピストン5の中央側における傾斜角度θ5が24.1度に形成された従来のピストンを備えたエンジンを従来例として黒四角として表示し、傾斜角度θ5が36度に形成されたピストンを備えたエンジンを比較例として黒丸として表示し、本実施形態に係るピストン5を備えたエンジンを実施例として白四角として表示し、従来例、比較例及び実施例の幾つかについてプロットしている。具体的には、実施例として傾斜角度θ5が8度及び9度に設定されたものがプロットされている。また、解析結果に基づいて側面のピストンの中央側における傾斜角度と乱流エネルギとの関係を示すラインZを合わせて示している。
隆起部31の側面37のピストン5の中央側における傾斜角度と乱流エネルギとは、図12のラインZに示すように、側面37のピストン5の中央側における傾斜角度が小さくなるにつれて乱流エネルギが大きくなり、傾斜角度θ5が24.1度である従来例の乱流エネルギに対して傾斜角度θ5が10度付近では乱流エネルギが少なくとも10%は大きくなっている。従って、側面37のピストン5の中央側における傾斜角度を10度以下(図12の破線参照)とすることで、タンブル流の減速を抑制して、乱流エネルギを効果的に高くすることができる。