(積層不織布の製造装置)
本発明の一実施形態に係る積層不織布の製造装置(または製造システム)は、
(1)製造ラインに第1繊維を含む第1不織布を供給する第1不織布供給部と、
(2)第2繊維の原料となる原料樹脂と接着剤とを含む原料液を収容するタンクと、
(3)タンクから供給される原料液を電界紡糸することにより第2繊維を生成させ、接着剤の粒子が付着した第2繊維を第1不織布に堆積させて第1不織布に第2繊維を含む第2不織布を積層する電界紡糸機構と、
(4)第2不織布の第1不織布とは反対側の主面に、第3繊維を含む第3不織布を供給する第3不織布供給部と、
(5)第2不織布と第1不織布および/または第3不織布とを圧着させて積層不織布を形成する圧着部と、を備える。
圧着部では、エンボス加工面の凸部により、接着剤の粒子の一部に、第1繊維、前記第2繊維および第3繊維からなる群より選択される少なくとも一種が押し付けられることで筋状の凹みが形成された第1粒子が形成されるとともに、残りの前記接着剤の粒子は、筋状の凹みが形成されずに第2粒子としてエンボス加工面の凸部以外の領域に対向する位置に存在し、第1粒子を介して、第2不織布と、第1不織布および/または第3不織布とが接着される。第2粒子の個数n2は、第1粒子の個数n1よりも多い。
積層不織布では、各層を構成する不織布が、互いに接着剤により接着されている。しかし、接着強度を高めると、空気清浄機などの濾材用途では一般に圧力損失が高くなる。また、不織布の単位面積当たりの質量が大きくなると、各層間の接着強度を高めることがさらに難しくなる。このような場合にも接着強度を高めようと多量の接着剤を使用すると、積層不織布の質量が大きくなったり、積層不織布の製造過程において、接着剤がこぼれ落ちたりする。また、不織布が剥離すると、積層不織布を濾材として用いた場合に、集塵効率が著しく低下する。
第1粒子の筋状の凹みは、圧着部材のエンボス加工面の凸部により、接着剤粒子に、繊維(第1繊維、第2繊維、および/または第3繊維)が押し付けられることで形成される繊維痕である。筋状の凹みには、繊維が埋め込まれた状態となっていることが好ましい。繊維が押し付けられることで、第1粒子は、潰れて広がった状態となっていてもよい。本実施形態によれば、このような第1粒子を介して、第2不織布と、第1不織布および/または第3不織布とが接着される。そのため、高い接着強度を有する積層不織布を得ることができ、各不織布間の剥離を抑制できる。その一方、凸部以外の領域に対向する位置では、接着剤粒子が、繊維が押し付けられずに(または押し潰されずに)第2粒子として残っていることで、過度な接着が妨げられ、これにより圧力損失を抑制することができる。また、第2粒子の個数n2が第1粒子の個数n1よりも多いことで、圧力損失の抑制効果が得られ易い。よって、濾材として有効利用可能な積層不織布を提供することができる。
圧着部材としては、例えば、一対の加圧ローラが使用される。一対の加圧ローラのうち少なくとも一方の加圧ローラの周面にエンボス加工面が設けられている。このような加圧ローラを用いる場合、積層物第1不織布、第2不織布および第3不織布の積層物を一対のローラ間に供給し、ローラの周面で押圧することにより、上記の積層不織布を容易に得ることができる。
図1は、本実施形態に係る製造装置を用いて得られる積層不織布を模式的に示す縦断面図である。積層不織布10は、第1不織布1と、第1不織布1の一方の主面に積層された第2不織布2と、第2不織布の第1不織布1とは反対側の主面に積層された第3不織布3と、接着剤と、を備える。第1不織布1は、第1繊維を含み、第2不織布2は第2繊維を含み、第3不織布3は第3繊維を含む。第2繊維には、接着剤の粒子が付着している。
以下、図2を参照しながら、積層不織布の製造装置について説明するが、以下の製造装置は、本発明を限定するものではない。図2は、積層不織布10の製造装置の一例の構成を概略的に示す図である。製造装置200は、積層不織布10を製造するための製造ラインを含む。
まず、第1不織布1を準備する。製造装置200では、第1不織布1は、製造ラインの上流から下流に搬送される。製造装置200の最上流には、ローラ状に捲回された第1不織布1を内部に収容した第1不織布供給部201が設けられている。第1不織布供給部201は、モータ13により供給リール12を回転させて、供給リール12に捲回された第1不織布1を製造ラインの搬送ローラ11に供給する。
第1不織布1は、搬送ローラ11により、電界紡糸ユニット(図示せず)を備える電界紡糸装置202に搬送される。電界紡糸ユニットが具備する電界紡糸機構は、装置内の上方に設置された、第2繊維の原料樹脂および接着剤を含む原料液を放出するための放出体23と、放出された原料液をプラスに帯電させる帯電手段(後述参照)と、放出体23と対向するように配置された第1不織布1を上流側から下流側に搬送する搬送コンベア21と、を備えている。搬送コンベア21は、第1不織布1とともに、第2繊維2Fを収集するコレクタ部として機能する。なお、電界紡糸ユニットの台数は、特に限定されるものではなく、1台でも2台以上でもよい。
なお、電界紡糸ユニットおよび/または放出体23が複数ある場合、必要に応じて、電界紡糸ユニットごと、あるいは、放出体23ごとに、形成される第2繊維2Fの平均繊維径を変化させても良い。第2繊維2Fの平均繊維径は、後述する原料液の吐出圧力、印加電圧、原料液の濃度、放出体23と第1不織布1との距離、温度、湿度などを調整することにより、変化させることができる。また、第2繊維2Fの堆積量は、原料液の吐出圧力、印加電圧、原料液の濃度、第1不織布1の搬送速度などを調整することにより、制御される。
放出体23の第1不織布1の主面と対向する側には、原料液の放出口(図示せず)が複数箇所設けられている。放出体23の放出口と、第1不織布1との距離は、製造装置の規模や所望の繊維径にもよるが、例えば、100〜600mmであればよい。放出体23は、電界紡糸ユニットの上方に設置された、第1不織布1の搬送方向と平行な第1支持体24から下方に延びる第2支持体25により、自身の長手方向が第1不織布1の主面と平行になるように支持されている。第1支持体24は、放出体23を第1不織布1の搬送方向とは垂直な方向に揺動させるように、可動であっても良い。
帯電手段は、放出体23に電圧を印加する電圧印加装置26と、搬送コンベア21と平行に設置された対電極27とで構成されている。対電極27は接地(グランド)されている。これにより、放出体23と対電極27との間には、電圧印加装置26により印加される電圧に応じた電位差(例えば20kV〜200kV)を設けることができる。なお、帯電手段の構成は、特に限定されない。例えば、対電極27はマイナスに帯電されていても良い。また、対電極27を設ける代わりに、搬送コンベア21のベルト部分を導体から構成してもよい。
放出体23は、導体で構成されており、長尺の形状を有し、その内部は中空になっている。中空部は原料液22を収容する収容部となる。原料液22は、放出体23の中空部と連通するポンプ28の圧力により、原料液タンク29から放出体23の中空に供給される。そして、原料液22は、ポンプ28の圧力により、放出口から第1不織布1の主面に向かって放出される。放出された原料液22は、帯電した状態で放出体23と第1不織布1との間の空間(生成空間)を移動中に静電爆発を起し、繊維状物(第2繊維2F)を生成する。このとき、接着剤粒子(および接着剤の糸状体)も生成され、第2繊維2Fの表面に付着する。生成した第2繊維2Fと接着剤粒子(および糸状体)は、第1不織布1に堆積し、第2不織布2を形成する。
接着剤粒子(および糸状体)が付着した第2繊維2Fを形成する電界紡糸機構は、上記の構成に限定されない。所定の繊維の生成空間において、原料液22から静電気力により第2繊維2Fと接着剤粒子(および糸状体)とを生成させ、生成した第2繊維2Fおよび接着剤粒子(および糸状体)を第1不織布1の主面に堆積させることができる機構であれば、特に限定なく用いることができる。ノズルは、特に制限されず、例えば、放出体の長手方向に垂直な断面の形状が上方から下方に向かって次第に小さくなる形状であるV型ノズルや、ニードル型ノズルなどであってもよい。
第2不織布2に第3不織布3を積層する前に、ヒータ42を備える加熱装置204により、接着剤を溶融させてもよい。加熱装置204では、第2不織布2に含まれる溶媒の除去も行われる。製造装置200は、必ずしも加熱装置204を含む必要はないが、加熱装置204を含む場合には、不織布間の接着強度を高め易くなることに加え、接着剤粒子が後続の工程で脱落することを抑制できる。
次いで、第1不織布1に積層された第2不織布2は、第3不織布積層装置205に搬送される。第3不織布積層装置205では、上方から第3不織布3が第2不織布2の主面に供給される。第3不織布3が長尺である場合、第1不織布1と同様に、第3不織布3はリール52に巻き取られていても良い。この場合、第3不織布3は、リール52から捲き出されながら、第2不織布2の主面に配置される。
第3不織布3を第2不織布2の主面に配置した後、得られる積層物を挟んで、上下に配置された一対の加圧ローラ53(53aおよび53b)を備える圧着部で押圧する。加圧ローラの53aおよび53bの少なくとも一方の周面は、凸部を備えるエンボス加工面を構成している。そのため、凸部により一部の接着剤粒子に繊維が押し付けられて(または埋め込まれて)第1粒子を形成する。この第1粒子(および接着剤の糸状体)を介して、第2不織布2と第1不織布1および/または第3不織布3とが接着され、積層不織布10が形成される。
最後に、第3不織布積層装置205から積層不織布10を搬出し、ローラ61を経由して、より下流側に配置されている回収装置206に搬送する。回収装置206は、例えば、搬送されてくる積層不織布10を捲き取る回収リール62を内蔵している。回収リール62はモータ63により回転駆動される。
第2不織布2を形成する前に第1不織布1を、必要に応じて、接着剤散布装置に搬送してもよい。接着剤散布装置では、第1不織布1の上方から接着剤が散布される。接着剤は、例えば、スプレー法、自由落下等により散布してもよいが、電界紡糸装置202と同様のまたは類似の装置を用いて、エレクトロスピニング法により第1不織布1の主面に適用してもよい。同様に、第2不織布2を形成した後、第1不織布1に積層された第2不織布2を、必要に応じて、接着剤散布装置に搬送してもよい。また、電界紡糸装置202を複数備える場合には、複数の電界紡糸装置202間に接着剤散布装置を設けてもよい。
図3は、積層不織布の製造装置の他の構成例を示す模式図である。図3の製造装置は、図2の構成に加え、電界紡糸装置202の前および後に、それぞれ接着剤散布装置203を備えている。接着剤散布装置203は、電界紡糸装置202の前か後のいずれか一方に設けてもよい。接着剤散布装置203では、電界紡糸装置202と同じ原理で、エレクトロスピニング法により、接着剤溶液32を用いて接着剤4を散布する。なお、接着剤溶液には、公知の添加剤、ゲル化防止剤などを添加してもよい。
第1不織布1は、搬送ローラ11により、接着剤散布装置203に搬送される。接着剤散布装置203が備えるエレクトロスピニング機構は、装置内の上方に設置された接着剤および溶媒を含む接着剤溶液32を放出するための放出体33と、放出された接着剤溶液32をプラスに帯電させる帯電手段と、放出体33と対向するように配置され、上流側から下流側に第1不織布1を搬送する搬送コンベア31とを備えている。放出体33の個数は特に限定されるものではなく、1個でも2個以上でもよい。放出体33の第1不織布1の主面と対向する側には、接着剤溶液の放出口(図示せず)が複数箇所設けられている。放出体33は、上方に設置された、第1不織布1の搬送方向と平行な第1支持体34から下方に延びる第2支持体35により、自身の長手方向が第1不織布1の主面と平行になるように支持されている。第1支持体34は、放出体33を第1不織布1の搬送方向とは垂直な方向に揺動させるように、可動であっても良い。
帯電手段は、放出体33に電圧を印加する電圧印加装置36と、搬送コンベア31と平行に設置された対電極37とで構成されている。対電極37は接地されている。対電極37を設ける代わりに、搬送コンベア31のベルト部分を導体で構成してもよい。放出体33は、導体で構成されており、長尺の形状を有し、その内部は中空になっている。中空部は接着剤溶液32を収容する収容部となる。接着剤溶液32は、放出体33の中空部と連通するポンプ38の圧力により、接着剤溶液タンク39から放出体33の中部に供給される。接着剤溶液32は、ポンプ38の圧力により、放出口から第1不織布1の主面に向かって放出される。放出された接着剤溶液32は、帯電した状態で放出体33と第1不織布1との間の空間(生成空間)を移動中に接着剤4の粒子となる。このとき、接着剤4の糸状体が形成される場合もある。生成した接着剤4の粒子(および接着剤4の糸状体)は、第1不織布の主面に付着する。
電界紡糸装置202の後に配置される接着剤散布装置203は、電界紡糸装置202から供給される第1不織布1に積層された第2不織布2の主面に、接着剤4が散布される以外は、電界紡糸装置202の前に配置される場合と同じである。
接着剤溶液タンク39や原料液タンク29では、接着剤溶液32や原料液22を連続的または完結的に攪拌することで、接着剤4のゲル化を抑制してもよい。
以下に、製造装置および積層不織布の構成についてより具体的に説明する。
(第1不織布の供給)
第1不織布供給部では、製造ラインの上流側に第1不織布を供給する。
第1不織布は、積層不織布の形状を保持する基材として機能する。なお、積層不織布をプリーツ加工する場合、第1不織布が基材となって、プリーツの形状を保持する。
第1不織布は、第1繊維を含む。第1繊維の材質は特に限定されず、例えば、ガラス繊維、セルロース、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド(PA)などが挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などが例示される。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。第1繊維は、これらの材質を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。形状保持の観点からは、これらの材質のうち、セルロース、ポリエステル、および/またはPAが好ましい。
第1繊維の平均繊維径D1は特に限定されず、例えば、1μm以上、400μm以下であり、5μm以上、200μm以下であっても良い。
なお、平均繊維径とは、繊維の直径の平均値である。繊維の直径とは、繊維の長さ方向に対して垂直な断面の直径である。そのような断面が円形でない場合には、最大径を直径と見なしてよい。また、不織布(または積層不織布)の一方の主面の法線方向から見たときの、繊維の長さ方向に対して垂直な方向の幅を、繊維の直径と見なしてもよい。平均繊維径は、例えば、不織布に含まれる任意の複数(例えば、10本)の繊維の任意の箇所の直径の平均値である。繊維径の計測は、例えば、繊維を含む不織布(または積層不織布)の電子顕微鏡写真を用いて行うことができる。このようにして、第1繊維の平均繊維径を求めることができる。なお、第2繊維および第3繊維のそれぞれの平均繊維径についても同様にして求めることができる。
積層不織布の強度を確保しながらも、圧力損失をできるだけ低減する観点から、第1不織布の単位面積当たりの質量は、10g/m2以上、80g/m2以下であることが好ましく、35g/m2以上、60g/m2以下であることがより好ましい。なお、単位面積当たりの質量は、第1不織布の複数箇所(例えば、10箇所)の所定面積の領域について求めた単位面積当たりの質量の平均値であってもよい。
第1不織布は、例えば、スパンボンド法、乾式法(例えば、エアレイド法)、湿式法、メルトブロー法、ニードルパンチ法等により製造された不織布であり、その製造方法は特に限定されない。なかでも、基材として適する不織布が形成され易い点で、第1不織布は、湿式法により製造されることが好ましい。
第1不織布の圧力損失は特に限定されないが、第1不織布の初期の圧力損失は、1Pa以上、10Pa以下程度であることが好ましい。第1不織布の初期の圧力損失がこの範囲であれば、積層不織布全体の圧力損失も抑制される。
なお、本明細書中、圧力損失は、例えば、JISB9908形式1の規格に準拠した測定機を用いて測定できる。
(原料液)
タンクに収容される原料液は、第2繊維の原料となる原料樹脂と接着剤とを含む。
原料樹脂(つまり、第2繊維の材質)は特に限定されず、例えば、PA、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアリレート(PAR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、PP、PET、ポリウレタン(PU)等のポリマーが挙げられる。ポリマーは、単独重合体または共重合体のいずれであってもよい。また、原料樹脂として、これらのポリマーの前駆体を用いてもよい。例えば、第2繊維をPIで構成する場合には、ポリアミド酸などのPI前駆体を原料樹脂として用いてもよい。これらの原料樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。電界紡糸性に優れる観点からは、PESが好ましく用いられる。第2繊維の平均繊維径(平均繊維径D2)を細くし易い点では、PVDFが好ましく用いられる。
第2繊維の原料樹脂の分子量は、接着剤を構成する樹脂の分子量よりも大きいことが望ましい。特に、第2繊維の原料樹脂と接着剤を構成する樹脂とが同じ種類である場合には、原料樹脂の分子量は、通常、接着剤を構成する樹脂の分子量よりも大きい。第2繊維の原料樹脂の重量平均分子量Mw2と接着剤を構成する樹脂の重量平均分子量Mwaとの差:Mw2−Mwaは、10000以上であることが好ましく、20000以上または50000以上であってもよい。
接着剤の種類は特に限定されず、熱可塑性樹脂を主成分とするホットメルト接着剤等が挙げられる。ホットメルト接着剤は、反応性ホットメルト接着剤および非反応性ホットメルト接着剤のいずれであってもよい。ホットメルト接着剤の具体例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、アクリル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、およびエラストマー系接着剤などが挙げられる。各接着剤に含まれる熱可塑性樹脂は、単独重合体および共重合体のいずれであってもよい。例えば、ポリオレフィン系接着剤としては、PE、PP、エチレン単位やプロピレン単位を含むオレフィン共重合体などが例示できる。ポリエステル系接着剤としては、PETなどのポリアルキレンテレフタレートなどの他、ウレタン変性共重合体ポリエステルなどの変性ポリエステルなどが例示される。接着剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
原料液は、第2繊維の原料樹脂および接着剤に加え、通常、溶媒を含む。溶媒は、原料樹脂の種類や製造条件に応じて適切なものを選択すればよい。溶媒としては、水や有機溶媒が使用される。原料液は、溶媒を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
有機溶媒としては、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、カルボン酸(ギ酸、酢酸など)、ニトリル(アセトニトリルなど)、アミド、窒素含有複素環化合物(ピリジンなど)、スルホキシド(ジメチルスルホキシドなど)、フェノール、炭化水素などが挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコールなどが挙げられる。エーテルとしては、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテルが好ましい。ケトンとしては、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが例示される。エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピルなどが例示される。アミドとしては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などが例示される。炭化水素としては、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレンo−キシレン、p−キシレン、m−キシレンなどが挙げられる。接着剤やPESなどの原料樹脂を溶解し易い観点からは、DMAcなどのアミドが好ましい。アミドは、電界紡糸にも適した溶媒である。
原料液は、接着剤および原料樹脂を溶媒に溶解することにより調製できる。原料液が接着剤および原料樹脂を含むことで、第2繊維を堆積させて第2不織布を積層する際に、第1不織布と対向する主面および第1不織布とは反対側の主面の双方に、接着剤が露出した状態となる。つまり、第2不織布の両方の主面に接着剤が分散した状態となるため、第2不織布を積層する前および/または後に接着剤を散布する工程を設けなくても、第2不織布と、第1不織布および/または第3不織布との接着強度を高め易くなる。よって、積層不織布の製造工程を簡略化できるとともに、製造装置の省スペース化が可能である。
また、接着剤のみを含む溶液を用いる場合には、ゲル化し易い傾向があるが、原料液が接着剤と原料樹脂とを含むことで、接着剤のゲル化を抑制することができる。ゲル化が抑制される理由は定かではないが、原料液に接着剤以外に原料樹脂が含まれることで、接着剤の結晶化や凝集が抑制されるためと考えられる。
原料液は、接着剤および接着剤を溶解する第1溶媒を含む第1溶液と、原料樹脂および原料樹脂を溶解する第2溶媒を含む第2溶液とを混合することにより調製してもよい。この場合、溶解(調製)工程の時間を短縮することができ、また均一な溶液を作製することができる。第1溶液および第2溶液は、原料液の調製に先立って、予め調製される。第1溶媒および第2溶媒は、それぞれ、接着剤や原料樹脂の種類に応じて、上記で例示した溶媒から適宜選択すればよい。第1溶媒および第2溶媒は、異なるものであってもよい。均一な原料液が得られる点からは、第1溶媒と第2溶媒とは、互いに相溶であることが好ましく、同じ溶媒を含んでもよい。第1溶媒および第2溶媒が同じ溶媒を含む場合、溶液調製やノズルの洗浄も容易になる。電界紡糸の容易さなどを考慮すると、第1溶媒および第2溶媒のそれぞれが、DMAcなどのアミドである場合やDMAcなどのアミドを含む場合が好ましい。
原料液における溶媒の比率は、選定される溶媒の種類、接着剤や原料樹脂の種類により異なる。原料液における溶媒の割合は、例えば、50質量%から95質量%である。
原料液には、必要に応じて、公知の添加剤、ゲル化防止剤などを添加してもよい。原料液には、無機固体材料を添加してもよい。無機固体材料としては、例えば、金属および/または典型非金属(B、Si、P、Asなど)を含む無機化合物(例えば、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等など)が挙げられる。加工性などの観点から、酸化物を用いることが好ましい。酸化物の具体例としては、Al2O3、SiO2、TiO2、MgO、およびCaOなどが挙げられる。無機固体材料は、一種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明では、原料液のゲル化を抑制することができるが、原料液のゲル化の程度は、原料液の粘度変化により測定することができる。例えば、電界紡糸に供する原料液(例えば、原料液の調製から5時間以上経過した後)の粘度の、原料液の調製直後の粘度(初期粘度)に対する増加率を、10%以下に抑えることができる。
(電界紡糸)
電界紡糸機構では、タンクから供給される原料液を電界紡糸(エレクトロスピニング処理)することにより第2繊維を生成させ、接着剤が付着した第2繊維を第1不織布の一方の主面に堆積させる。これにより、第1不織布に第2繊維を含む第2不織布が積層される。電界紡糸機構では、原料液に、高電圧を印加し、電荷をもった原料液をノズルから吐出することにより、第2繊維が生成する。このとき、接着剤もノズルから吐出されて、第2繊維に付着する。電界紡糸機構により第2不織布を形成すると、第2繊維が第1繊維上に集中して堆積する。そのため、不織布同士を接着し易くなることに加え、圧力損失をさらに抑制し易くなる。
接着剤は、第2繊維の原料樹脂に比べて紡糸性が低いため、第2繊維のようにきれいな繊維状とはならずに粒子状となる。ただし、接着剤の種類によっては、エレクトロスピニングにより、接着剤粒子とともに、接着剤粒子に連結した接着剤の糸状体が形成される。接着剤は、第2繊維の原料樹脂に比べて紡糸性が低いため、糸状体が形成されても、その繊維径は第2繊維に比べて極めて細い。このように、原料液を電界紡糸機構によりエレクトロスピニング処理すると、第2不織布全体に接着剤が分散された状態となるため、第2不織布と第1不織布および/または第3不織布との剥離を抑制する効果が高まる。なお、接着剤の紡糸性が第2繊維の原料樹脂に比べて低い理由は定かではないが、接着剤(接着剤を構成する樹脂)と第2繊維の原料樹脂との分子量の違い、溶媒への溶解性の違い、および/または分子間の相互作用力の違いなどが影響しているものと考えられる。
原料液は、ノズルから、第1不織布の面方向に対して垂直な方向に吐出することが好ましい。この場合、紡糸した繊維が舞い上がることが抑制され、比較的薄くて均質な不織布を製造するのに適している。なお、第1不織布の面方向に対して垂直な方向とは、完全に垂直な方向のみならず、垂直に近い方向(例えば、第1不織布の面方向に対して、70°〜100°の範囲)も含むものとする。
なお、必要に応じて、第1不織布の一方の主面に接着剤を含む溶液をエレクトロスピニング処理して接着剤粒子を付着させた後、上記のように第2不織布を積層させてもよい。また、第2不織布を第1不織布に積層した後に、接着剤を含む溶液をエレクトロスピニング処理して、第2不織布の第1不織布とは反対側の主面に接着剤粒子を付着させ、この主面に、後続の第3不織布供給部でさらに第3不織布を積層してもよい。これらの場合、第2不織布と、第1不織布または第3不織布との剥離をさらに抑制することができる。また、エレクトロスピニング処理では接着剤粒子の形成過程で溶媒が除去されるため、特に、別途溶媒の除去を行う必要がない。
第2繊維の平均繊維径D2は、第1繊維の平均繊維径D1よりも小さい(D1>D2)ことが好ましい。比較的細い第2繊維を含むことで、第2不織布は、積層不織布において、ダストを捕捉する機能を有する。
平均繊維径D2は、平均繊維径D1の1/10以下(D2≦D1/10)であることが好ましく、D2≦D1/100であることがより好ましい。また、平均繊維径D2は、平均繊維径D1の1/1000以上(D1/1000≦D2)であることが好ましい。平均繊維径D2がこの範囲である場合、圧力損失をさらに抑制し易いことに加え、集塵効率を高め易い。具体的には、平均繊維径D2は、30nm〜3μmまたは30nm〜1μmであることが好ましい。
第2繊維は、ナノファイバであることが好ましい。この場合、接着剤粒子(特に、第1粒子)により不織布同士をさらに接着し易くなるため、不織布間の剥離を抑制する効果が高まる。また、圧力損失を抑制しながら、集塵効率をさらに高めることができる。このような第2繊維の平均繊維径D2は、例えば、30〜800nmであり、50〜800nmであることが好ましい。
接着剤を、電界紡糸機構を利用して、第2繊維の原料樹脂とともにエレクトロスピニング処理すると、第2繊維が生成する際に、接着剤粒子が形成されて、第2繊維に付着する。接着剤をエレクトロスピニング処理することで、接着剤粒子の粒径を小さくすることができ、接着剤を細かく、より均一に分散させることができる。また、接着剤をエレクトロスピニング処理すると、繊維上に接着剤粒子が集中し易くなる。よって、第2不織布と第1不織布および/または第3不織布との剥離を抑制する効果が高まるとともに、圧力損失の抑制効果をさらに高めることができる。
接着剤は、さらに、糸状体の形態で積層不織布に含まれていてもよい。接着剤をエレクトロスピニング処理すると、接着剤粒子が形成されるとともに、接着剤粒子から糸を引くように糸状体が形成される場合がある。糸状体は、接着剤粒子に連結していてもよく、連結していなくてもよい。積層不織布が、接着剤粒子に加え、このような糸状体も含む場合、接着剤が不織布中に細かく分散されていると言える。よって、接着剤の使用量が少なくとも、不織布間の剥離を抑制し易い。また、圧力損失の増加を抑制する効果をさらに高めることができる。糸状体は、極細であり、第2繊維よりも細いことが望ましい。糸状体の平均繊維径は、例えば、10〜200nmであり、10〜100nmであってもよい。なお、糸状体の平均繊維径は、第1繊維の平均繊維径の場合に準じて求めることができる。
第2不織布の初期の圧力損失は、5Pa以上、40Pa以下程度であることが好ましい。
第2不織布の単位面積当たりの質量は、集塵効率の観点から、0.05g/m2以上、8g/m2以下であることが好ましく、0.5g/m2以上、7g/m2以下であることがさらに好ましい。このように、第2不織布の単位面積当たりの質量が大きい場合であっても、接着剤粒子が第2繊維に付着していることで、不織布間の剥離を抑制することができる。
(第3不織布の積層)
第3不織布供給部では、第1不織布に積層された第2不織布第2不織布の他方の主面(第1不織布とは反対側の主面)に、第3繊維を含む第3不織布が供給され、積層物が得られる。第3不織布は、比較的大きなダストを集塵する機能を有するとともに、種々の外部負荷から第2不織布を保護する保護材として機能する。集塵効率の観点から、第3不織布には帯電処理が施されていることが好ましい。
なお、必要に応じて、第3不織布を第2不織布に配置する前に、接着剤を加熱により溶融させてもよい。接着剤を一旦溶融させることで、第3不織布を配置し易くなることに加え、接着剤が脱落することが抑制される。圧着部において、エンボス加工面の凸部で押圧されなかった接着剤粒子(第2粒子)が脱落し易いが、一旦接着剤を溶融させることで、後続の工程でも接着剤の脱落が抑制される。
接着剤の加熱は、例えば、ヒータなどを用いて行うことができる。加熱は、接着剤を溶融しながらも、不織布を構成する繊維(第1繊維および第2繊維)が溶融しない条件で行うことが好ましい。そのため、接着剤の種類、第1繊維および第2繊維の材質などに応じて、加熱温度や加熱時間を適宜選択すればよい。
接着剤を加熱する場合、少なくとも第2不織布側を加熱すればよいが、第1不織布と第2不織布との積層物に含まれる接着剤全体を溶融するように加熱を行うと、不織布間の接着性を高める上で効果的である。第2不織布の第1不織布とは反対側の主面の温度が、例えば、100〜200℃、好ましくは120〜170℃となるように加熱を行ってもよい。
第2不織布に積層される第3不織布は、第3繊維を含む。第3繊維の材質は特に限定されず、第1不織布について例示した材質から適宜選択できる。帯電され易い観点からは、PPが好ましい。
第3繊維の平均繊維径D3は、特に限定されない。平均繊維径D3は、例えば、0.5μm以上、20μm以下であり、1μm以上、20μm以下である。
第3不織布の製造方法は特に限定されず、第1不織布で例示した方法が同じく例示できる。なかでも、濾材として適する繊維径の細い不織布が形成され易い点で、第3不織布は、メルトブロー法により製造されることが好ましい。
第3不織布の圧力損失は、特に限定されないが、第3不織布の初期の圧力損失は、10Pa以上、50Pa以下程度であることが好ましい。第3不織布の初期の圧力損失がこの範囲であれば、積層不織布全体の圧力損失も抑制される。
第3不織布の単位面積当たりの質量も特に限定されず、10g/m2以上、50g/m2以下であっても良く、10g/m2以上、30g/m2以下であっても良い。
(圧着)
圧着部では、第1不織布、第2不織布および第3不織布の積層物を、凸部を有するエンボス加工面を備える圧着部材のエンボス加工面で、厚み方向に押圧して不織布同士を圧着させる。圧着を、圧着部材のエンボス加工面を利用して行うと、エンボス加工面の凸部により、積層物に含まれる接着剤粒子の一部に繊維が押し付けられて筋状の凹みが形成され、これにより第1粒子が形成される。そして、この第1粒子を介して、第2不織布と、第1不織布および/または第3不織布とが接着される。残りの接着剤粒子は、筋状の凹みが形成されずにそのまま第2粒子としてエンボス加工面の凸部以外の領域に対向する位置に存在する。なお、個々の第1粒子では、粒子の少なくとも一部の領域が押し潰された状態であってもよく、粒子全体が押し潰された状態であってもよい。接着剤粒子(第1粒子)の点接着を利用して不織布間が接着され、不織布間の剥離が抑制される。
接着剤粒子の粒径が比較的小さいため、圧着により不織布同士を接着させ難い場合でも、エンボス加工面を有する圧着部材で圧着させることで、接着剤粒子の一部に繊維が埋め込まれて第1粒子が形成され、これにより、不織布同士の接着を確保できる。一方、平滑な圧着部材で、強い圧力で圧着を行うと、接着剤粒子の粒径が小さくても、不織布同士を接着させることができる。しかし、多くの接着剤粒子が潰れて広がることで、積層不織布の圧力損失が大きくなる傾向がある。そのため、圧力損失を抑制する観点から、第2粒子の個数n2が、第1粒子の個数n1よりも多くなるようにする。n2>n1とするには、例えば、エンボス加工面において、凸部領域の面積よりも、それ以外の領域の面積が大きくなるようにすればよい。
圧着は、ローラなどの圧着部材を用いて行うことができる。例えば、一対の加圧ローラの間に積層物を挟み、ローラで圧力を加えることにより第2不織布と、第1不織布および/または第3不織布とを接着剤を介して接着させる。ただし、圧着部材の積層物と接触する主面(ローラでは、周面)は、エンボス加工面を構成している。一対のローラのうち、一方のローラの周面にエンボス加工面を設け、他方のローラの周面を平滑面としてもよい。また、一対のローラのうち両方のローラのそれぞれの周面にエンボス加工面を設けてもよい。
図4および図5は、それぞれ、エンボス加工面を周面に有する加圧ローラを用いた圧着を説明するための模式図である。図4は、一対の加圧ローラのうち、一方のローラ153aが、周面に複数の凸部154が形成されたエンボス加工面を有し、他方のローラ153bの周面は平滑面となっている。図4は、上方のローラ153aにエンボス加工面を有する例を示したが、この場合に限定されず、下方のローラのみにエンボス加工面を配してもよい。図5は、一対のローラ253a、253bの双方の周面にエンボス加工面を配した例である。ローラ253a、253bのそれぞれのエンボス加工面は、複数の凸部254を有する。
圧着は、加熱下で行うことができる。加熱する場合には、加熱したローラで圧着を行うと効率がよい。一対のローラのうち、一方のローラとして、加熱可能なローラを用いてもよく、双方に加熱可能なローラを用いてもよい。エンボス加工面を有するローラと、周面が平滑面であるローラとを用いる場合には、いずれのローラを加熱可能としてもよい。接着剤粒子に繊維を効率よく埋め込む観点からは、エンボス加工面を有するローラとして加熱可能なローラを用いると有利である。接着強度を高め易い観点から、加熱装置204を用いない場合には、圧着を加熱下で行うことが有利である。
予め接着剤を溶融させた状態で、積層物を圧着部材により押圧すると、溶融した接着剤を介して、第2不織布と、第1不織布および/または第3不織布とが接着される。圧着部では、必要に応じて加熱下で圧着を行ってもよい。予め接着剤を溶融させずに、第3不織布を配置した場合には、圧着させる際に加熱を行うことが好ましい。この場合、圧着部より上流側に、接着剤を溶融するためのヒータを別途設ける必要がないため、装置を省スペース化でき、製造工程を簡略化できる。
加熱下で圧着を行う場合、加熱温度は、例えば、40〜200℃である。ローラで圧着させる場合には、加熱可能なローラを用いることで、圧着を加熱下で行うことができる。加熱可能なローラとしては、ヒータを内蔵するローラや接続したヒータから加熱可能なローラなどが例示される。
エンボス加工面において、凸部の形状や分布状態は、特に制限されない。例えば、凸部は、複数のポイント状の凸部が分散した状態であってもよく、複数の線状または帯状の凸部が並んだ状態であってもよい。線状や帯状の凸部の並び方は特に制限されず、例えばストライプ状やジグザグ状であってもよい。例えば、帯状のシートを、ローラの周面に巻き付けて、凸部を形成してもよく、ローラの周面を切削することにより凸部を形成してもよい。ポイント状の凸部は、例えば、角柱状であってもよく、円柱状や楕円柱状であってもよい。また、凸部は、格子状や網状に形成されていてもよい。
比n2/n1を調節し易い観点からは、エンボス加工面において、凸部領域の合計面積S1に対する、それ以外の領域の合計面積S2の比:S2/S1は、例えば、1.1〜10であり、1.2〜5であることが好ましい。
また、接着性を高め易い観点から、エンボス加工面における凸部の高さは、100〜5000μmであることが好ましく、200〜1000μmであることがさらに好ましい。
ローラなどの圧着部材の材質は、圧着に必要な硬度を有する限り特に制限されず、例えば、樹脂、金属、セラミックスなどの圧着部材で使用される公知の材質が使用される。圧着部材は、積層不織布と接触する部分(ローラでは、少なくとも周面やエンボス加工面では凸部など)がこれらの材質で形成されていればよい。
圧着により得られる積層不織布において、第2粒子の個数n2の第1粒子の個数n1に対する比:n2/n1は、1.1〜10であることが好ましく、1.2〜5であることがさらに好ましい。比:n2/n1がこのような範囲である場合、接着強度と圧力損失とのバランスを取り易い。
n1およびn2としては、それぞれ、積層不織布の電子顕微鏡写真において、所定面積(例えば、縦1mm×横1mm、縦10mm×横10mm、縦50mm×横50mmのサイズ)の任意の領域について計測したものが利用でき、積層不織布全体におけるn1およびn2の値に換算したものを用いてもよい。また、複数の任意の領域について計測した値の平均値を利用してもよい。
第2粒子の平均粒径Dpと第1繊維の平均繊維径D1とは、D1>Dpの関係を満たすことが好ましい。ここでは、第2粒子の平均粒径について記載したが、第2粒子の平均粒径Dpは、エンボス加工面による押圧(エンボス加工)前の接着剤粒子の平均粒径とほぼ同じと考えることができる。エンボス加工前の接着剤粒子の平均粒径が上記の関係を満たす場合、平均繊維径が小さな第2繊維に平均粒径が小さな接着剤粒子が付着していることになる。このような接着剤粒子の一部に筋状の凹みが形成されて第1粒子を形成することで、第2不織布と、第1不織布および/または第3不織布との間で高い接着強度を確保することができ、各不織布間の剥離を抑制できる。また、平均粒径が小さな接着剤粒子を用いて、各不織布を接着するため、圧力損失の増加を抑制できる。
また、第2粒子の平均粒径Dp(つまり、エンボス加工前の接着剤粒子の平均粒径)と第2繊維の平均繊維径D2とは、Dp>D2の関係を満たすことが好ましい。この場合、接着剤の使用量が少量でも、接着剤粒子で多くの第2繊維を一度に補強することができるため、接着性をさらに高めることができ、不織布間の剥離を抑制し易くなる。
第2粒子の平均粒径Dp(つまり、エンボス加工前の接着剤粒子の平均粒径)は、1μm未満であってもよいが、1μm以上であることが好ましく、5μm以上または10μm以上であることがさらに好ましい。平均粒径Dpは、200μm以下であることが好ましく、150μm以下または100μm以下であることがさらに好ましい。これらの下限値と上限値とは、任意に組み合わせることができる。平均粒径Dpは、例えば、1〜200μmであり、5〜150μmまたは10〜100μmであってもよい。
第2粒子の平均粒径Dp(つまり、エンボス加工前の接着剤粒子の平均粒径)がこのような範囲である場合、不織布間の剥離をさらに抑制し易くなる。
第2粒子の平均粒径Dpとは、第2粒子の直径の平均値である。第2粒子の断面形状が円形でない場合には、最大径を直径と見なしてよい。また、不織布(または積層不織布)の一方の主面の法線方向から見たときの第2粒子の直径を、第2粒子の直径と見なしてもよい。平均粒径Dpは、例えば、第2粒子を含む不織布の電子顕微鏡写真において、任意に選択した複数(例えば、10個)の粒子について、それぞれ直径を計測し、これらの平均値として求められる。粒子が球形でない場合には、最大径を直径と見なしてよい。また、エンボス加工前の接着剤粒子について、同様の手順で平均粒径を測定し、第2粒子の平均粒径Dpとして用いてもよい。
積層不織布において、第1不織布の厚み(T1)は、圧力損失の増加をできるだけ抑制する観点から、50μm以上、500μm以下であることが好ましく、150μm以上、400μm以下であることがより好ましい。
第2不織布の厚みT2は、圧力損失をできるだけ小さくする観点から、0.5μm以上、50μm以下(または10μm以下)であることが好ましく、1μm以上、5μm以下であることがより好ましい。このように、比較的厚い(または単位面積当たりの質量が大きい)第2不織布を用いる場合であっても、平均粒径が小さな接着剤粒子が第2繊維に付着していることで、不織布間の剥離を抑制することができる。
第3不織布の厚みT3は特に限定されず、100μm以上、500μm以下であっても良く、150μm以上、400μm以下であっても良い。
本明細書中、不織布の厚みとは、例えば、積層不織布において、不織布の任意の複数箇所(例えば、10箇所)について計測した厚みの平均値である。不織布の厚みは、不織布の2つの主面の間の距離を言う。不織布の厚みは、具体的には、積層不織布の断面写真において、不織布の一方の主面上にある任意の1地点から他方の主面まで、一方の表面に対して垂直な線を引いたとき、この線上にある繊維のうち、最も離れた位置にある2本の繊維の外側の間の距離として求められる。他の任意の複数地点(例えば、9地点)についても同様にして不織布の厚みを計測し、これらを平均化した数値を、不織布の厚みとする。ただし、エンボス加工面の凸部により押圧された領域では、不織布の厚みが小さくなるため、不織布の厚みは、凸部により押圧された領域以外の領域において計測するものとする。上記不織布の厚みの算出に際しては、二値化処理された画像を用いても良い。このようにして、第1不織布の厚みT1、第2不織布の厚みT2および第3不織布の厚みT3をそれぞれ求めることができる。
積層不織布に付着する接着剤の平均の質量は、特に限定されないが、圧力損失を低減しつつ、高い接着性が得られ易い観点から、0.5g/m2以上、15g/m2以下であることが好ましく、1g/m2以上、10g/m2以下であることがより好ましく、3g/m2以上、9g/m2以下であることが特に好ましい。
積層不織布において、エンボス加工面の凸部で押圧された領域の合計面積s1に対する、それ以外の領域の合計面積s2の比:s2/s1は、例えば、1.1〜10であり、1.2〜5であることが好ましい。また、積層不織布において、第3不織布のエンボス加工面の凸部で押圧された領域の平均厚みは、この領域以外の領域において計測された第3不織布の厚みT3の、例えば、50〜95%であり、60〜80%であることが好ましい。比s2/s1および/または第3不織布の凸部で押圧された領域の平均厚みが、このような範囲である場合、圧力損失を抑制しながら、不織布同士の接着強度を高め易くなる。
本発明の製造装置を用いて得られる積層不織布は、第2不織布と、第1不織布および/または第3不織布との接着強度が高く、剥離が抑制されている。このような積層不織布において、第2不織布と、第1不織布および第3不織布のそれぞれとの間の剥離強度は、例えば、JISZ0237に準拠した方法で測定する場合、例えば、50〜300mN/25mmとなる。
積層不織布は、例えば、
第1繊維を含む第1不織布と、第2繊維の原料となる原料樹脂と接着剤とを含む原料液と、第3繊維を含む第3不織布と、を準備する工程(第1工程)、
電界紡糸(エレクトロスピニング)法により、原料液をノズルから吐出させて接着剤粒子が付着した第2繊維を生成させ、第1不織布に接着剤の粒子が付着した第2繊維を堆積させて、第1不織布に前記第2不織布を積層する工程(第2工程)、
第2不織布の第1不織布とは反対側の主面に、第3繊維を含む第3不織布を配置して積層物を得る工程(第3工程)、ならびに
凸部を有するエンボス加工面を備える圧着部材の前記エンボス加工面で、積層物を厚み方向に押圧して、第2不織布と第1不織布および/または第3不織布とを圧着させることにより積層不織布を得る圧着工程(第4工程)、を備える製造方法により得ることができる。
(空気清浄機)
本発明に係る製造装置により得られる積層不織布は、特に空気清浄機の濾材として用いるのに適している。積層不織布を備える空気清浄機を図6に例示する。空気清浄機100は、気体の吸い込み部101と、気体の吐き出し部102と、気体の吸い込み部101と吐き出し部102との間に配置される積層不織布10と、を備える。積層不織布10は、蛇腹状にプリーツ加工されて配置されても良い。積層不織布10は、大気中のダストを捕捉する濾材である。積層不織布10を備える空気清浄機は、圧力損失が小さく、集塵効率に優れる。集塵効率の点で、積層不織布10は、第2不織布3が吸い込み部101側に位置するように、吸い込み部101と吐き出し部102との間に配置されることが好ましい。
空気清浄機100は、外部の大気を吸い込み部101から空気清浄機100内部に取り込む。取り込まれた大気に含まれるダストは、積層不織布10等を通過する間に捕捉され、清浄化された大気が吐き出し部102から外部に放出される。空気清浄機100は、さらに、吸い込み部101と積層不織布10との間に、大きな塵等を捕捉するプレフィルタ103等を備えても良い。また、積層不織布10と吐き出し部102との間に消臭フィルタ104や加湿フィルタ(図示せず)等が備えられても良い。
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
下記の手順で、積層不織布を作製した。
まず、セルロース繊維、ポリエステル繊維およびアクリル繊維で形成した第1不織布(厚み:300μm、D1:15μm、単位面積当たりの質量:42g/m2)を準備した。
図2に示すような製造装置を用いて、搬送される第1不織布に接着剤粒子および接着剤の糸状体が付着した第2繊維を堆積させて第2不織布を積層した。第2繊維の原料液は、接着剤(ポリエステル系ホットメルト樹脂、融点:約100℃)を20質量%の濃度で含むDMAc溶液(第1溶液)と、PESを20質量%濃度で含むDMAc溶液(第2溶液)とを、質量比1:1で混合した溶液を用いた。得られた第2繊維の平均繊維径D2は273nmであり、単位面積当たりの平均の質量は0.93g/m2であった。
第2不織布側から撮影したSEM写真を図7に示す。図7に示されるように、第2繊維には、接着剤粒子が付着しており、糸を引くように形成された接着剤の糸状体も観察できる。
次いで、第2不織布側から第2不織布の表面が158℃になるように加熱した後、第2不織布側から第3不織布としてポリプロピレン繊維を主体とするメルトブロー不織布(厚み:165μm、D3:5μm、単位面積当たりの質量:18g/m2)を積層した。得られた積層物を、一対の加圧ローラの間に供給して、厚み方向に押圧することにより圧着させ、積層不織布を得た。一対の加圧ローラのうち一方として、周面に複数の凸部(直径5mm×高さ1mmの円柱状、隣接する凸部間の距離10mm)を備えるエンボス加工面を有するローラを用いた。圧着の圧力は10kPaとした。
得られた積層不織布から30cm四方の試料を切り取り、プリーツ状に折り畳んだ(プリーツ幅:2.5cm)。次いで、積層不織布を拡布し、第3不織布側の表面を顕微鏡で確認したところ、第3不織布の浮き上がり(剥離)は確認されなかった。積層不織布における第2不織布の厚みT2(凸部により押圧された領域以外の領域における第2不織布の平均厚み)は2.3μmであった。
別途、積層不織布から、幅25mm×長さ200mmの試料を切り取った。JISZ0237に準拠した方法により、試料の第1不織布と第3不織布との間の剥離強度を測定した。剥離強度は、88mN/25mmであった。
積層不織布を12cm×12cmに裁断し、得られたサンプルに、大気中の粉塵を、面風速5.3cm/secで吸引させた(吸引試験)。サンプルの上流側の空気圧P0および下流側の空気圧P1を測定し、圧力損失(=P0−P1)を算出したところ、48Paであった。なお、空気圧の測定には、JISB9908の規格に準拠した測定機(マノメータ)を使用した。
図8は、積層不織布から第3不織布を剥がし、第2不織布側から撮影したSEM写真である。写真の、向かって左側の領域では、小さな接着剤粒子が球形状を維持している(第2粒子)のに対し、向かって右側の領域では、接着剤粒子が潰れて広がり、繊維が埋め込まれて筋状の凹みが形成されており、接着剤粒子と繊維とが接着した状態(第1粒子)となっている。接着剤粒子に繊維が埋め込まれた部分は、加圧ローラのエンボス加工面の凸部に対応しており、接着剤粒子の球形状が維持されている部分は、凸部以外の領域に対応している。SEM写真の任意に選択した縦10mm×横10mmのサイズの領域について、第1粒子の個数n1および第2粒子の個数n2を計測し、n2/n1比を求めたところ、3.4であった。
(参考例1)
圧着部材として、周面が平滑面である一対の加圧ローラを用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層不織布を得た。
得られた積層不織布から30cm四方の試料を切り取った。実施例1と同様に、得られた試料をプリーツ状に折り畳んだ後、拡布して、第3不織布側の表面を顕微鏡で確認したが、第3不織布の浮き上がり(剥離)は確認されなかった。別途、実施例1と同様の方法により、剥離強度および圧力損失を測定したところ、それぞれ210mN/25mmおよび72Paであった。積層不織布から第3不織布を剥がし、第2不織布側からSEM写真を撮影し、このSEM写真において、接着剤粒子を観察したところ、接着剤粒子のほぼ全てが第1粒子であった。
(参考例2)
圧着部材として、周面が平滑面である一対の加圧ローラを用いるとともに、圧着の圧力を1kPaに変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層不織布を得た。
得られた積層不織布から30cm四方の試料を切り取った。実施例1と同様に、得られた試料をプリーツ状に折り畳んだ後、拡布して、第3不織布側の表面を顕微鏡で確認したところ、第3不織布の浮き上がり(剥離)が確認された。別途、実施例1と同様の方法により、剥離強度および圧力損失を測定したところ、それぞれ19mN/25mmおよび46Paであった。積層不織布から第3不織布を剥がし、第2不織布側からSEM写真を撮影し、このSEM写真において、接着剤粒子を観察したところ、接着剤粒子のほぼ全てが第2粒子であった。