図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
以下の説明において「板」、「シート」及び「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて互いから区別されない。例えば「シート」の用語は「板」や「フィルム」等と呼ばれうる部材をも含みうる概念であり、呼称の違いのみによって必ずしも区別されない。また、本明細書において用いられる形状、幾何学的条件及びそれらの程度を特定する用語(例えば「同一」、「同じ」及び「等しい」等の用語、及びその他の長さや角度の値等の物性値を示す用語)については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待しうる程度の範囲を含めて解釈することとする。
また本明細書に添付される図面に示される各要素は、実物のサイズや配置とは必ずしも一致せず、縮尺、縦横の寸法比及び配置関係等が適宜変更されて図示されている。
まず、複数の導電性細線を含む発熱用導電体を具備する発熱板(図4の符号「10」参照)に関する「光芒の発生防止」、「防眩」及び「光芒の発生防止と防眩との両立」について、本件発明者の知見を説明する。
<光芒の発生防止について>
本件発明者は、鋭意研究の結果、細線状の発熱用導電体(導電性細線)が光芒の発生要因となりうること、とりわけ多数の導電性細線が同一パターンで配設される事例において光芒が発生しやすいことを新たに発見した。一般に光芒は光の回折に起因し、例えば透明発熱板に光が入射するとその入射光は各導電性細線によって回折されるが、とりわけ同一パターンで配設された複数の導電性細線による回折光は相互に干渉して細長く放射状の筋状に伸びる視認可能な光芒をもたらしやすい。
本件発明者は、上述の光芒の発生メカニズムに注目し、複数の導電性細線を不規則に配設することで視認可能な光芒の発生を効果的に防げることを新たに見出した。すなわち視認可能な光芒の発生を防止するという観点からは、「並列的に直線状に配設される複数の導電性細線」や「同一のパターン形状で配設される複数の導電性細線」は好ましくなく、「平面視に於いて様々な曲率を持って不規則に配設される複数の導電性細線」が好ましいことを本件発明者は新たに見出した(後述の図5の符号「30」参照)。尚、平面視とは、発熱用導電体30を有する発熱板10を該発熱板10の表裏面の法線方向(後述の図5に於けるZ方向)から觀察した形状であり、図5が正しく発熱用導電体30の平面視形状を図示するものとなっている。
<防眩について>
一般に、良好な視界を実現する観点からは、視界を損なう虞がある眩輝等の現象がもたらされるウィンドウは好ましくない。例えば車両ウィンドウに透明発熱板が使用される事例において、そのような車両ウィンドウを介して観察される光に、導電性細線(発熱用導電体)の表面に於ける光反射に起因して、特定の入射角と観察者の視線方向との組み合わせの場合に該導電性細線が輝いて視認される、所謂ギラツキや滲み等の眩輝現象が生じていると、ドライバー等の車両乗員の視界が損なわれる虞があるだけではなく、車両乗員の眼精疲労も増大する。したがって、上述のような「平面視に於いて様々な曲率を持って不規則に配設される複数の導電性細線を含む透明発熱板」をウィンドウに使用する事例においても、眩輝等の現象を抑制して良好な視界を確保することが求められている。
複数の導電性細線を含む透明発熱板に入射した光の一部は各導電性細線によって反射されるが、各導電性細線における具体的な光反射態様は、各導電性細線の横断面の形状に応じて様々である。
図1A及び図1Bは、細線状の発熱用導電体30の横断面形状と光反射態様との関係を説明するための図であり、図1Aは横断面が矩形状である発熱用導電体30の一例を示し、図1Bは横断面が非矩形状である発熱用導電体30の一例を示す。なお、ここでいう横断面は、発熱用導電体(導電性細線)の延在方向(例えば導電性細線の中心線の方向(長さ方向))と直角を成す方向に発熱用導電体(導電性細線)を切断することで得られる断面を指す。例えば、後述の図7A及び図7Bも横断面に於ける発熱用導電体を図示している。又、同図では、延在方向がY方向、横断面がZX平面となっている。
図1Aに示されるように、各発熱用導電体30の横断面が、光の入射方向Lと同方向に延在する2つの辺S2、S4と当該入射方向Lと垂直を成す方向に延在する2つの辺S1、S3とによって区画される矩形状を有する場合、入射方向Lと垂直を成す方向の辺S1によって反射される光は入射方向Lとは正反対の方向に進行し、他の辺S2、S3、S4は原理的には入射方向Lに進行する光を反射することはない。したがって発熱板に含まれる発熱用導電体30の横断面が矩形状であれば、入射方向Lに進行する光のうち発熱用導電体30により反射される光成分が、発熱板(車両ウィンドウ)を介して光を観察する車両乗員の視野に入って邪魔することはない。
しかしながら現実的には発熱用導電体30の横断面を正確に矩形状に加工することは非常に難しく、特にエッチング(腐蝕加工)によって発熱用導電体30を形成する場合には、所謂サイドエッチング現象により発熱用導電体30は図1Bに示すような非矩形状の横断面を有するのが通常である。図1Bに示す発熱用導電体30は、光の入射方向Lと垂直を成す方向に延在する2つの辺S1(上底部)、S3(下底部)を有する点は図1Aの発熱用導電体30と共通するが、入射方向Lと垂直を成す方向の辺S1、S3同士を結ぶ辺S2(第1傾斜部)、S4(第2傾斜部)の延在方向が入射方向Lと同じにはならない。すなわち入射方向Lと垂直を成す方向の辺S1、S3の一端間に延在する辺S2及び他端間に延在する辺S4は、それぞれ入射方向Lに対して傾斜を持って湾曲する。したがって、入射方向Lに進行する光の一部は、発熱用導電体30のこれらの傾斜する辺(以下「傾斜部」とも呼ぶ)S2、S4において反射され、本来の入射方向Lとは異なる様々な方向にその後進行する。特に発熱板(車両ウィンドウ等)に入射する実際の観察光は、必ずしも一方向に進行する光成分のみを含むわけではなく、ほとんどの事例では様々な方向に進行する光成分によって観察光は構成されるため、発熱用導電体30の傾斜部S2、S4において反射した光の一部が車両乗員の視野に入ってしまうことがある。そのような反射光は本来の進行方向とは異なる方向に進行する光であり、想定外の角度でユーザ(透過光を観察する観察者)の視野に入射してギラツキや滲み等の眩輝の要因となるため、良好な視界を確保する観点からは好ましくない。
本件発明者は、上述の導電性細線による光反射メカニズムに注目し、複数の導電性細線の傾斜部が其の横斷面に於ける傾斜角として多様な角度を持つように導電性細線の横断面形状を調整することで、ギラツキやにじみ等の眩輝を効果的に抑制できることを新たに見出した。すなわち発熱板に含まれる全ての導電性細線について横断面の傾斜部の傾斜角が共通すると、発熱板を介してユーザに観察される光においてギラツキやにじみ等が強調される虞がある。そのため、其の横斷面に於いて複数の導電性細線に多様な角度(傾斜)を持たせることで眩輝が効果的に抑制されることを、本件発明者は新たに見出した。
<光芒の発生防止と防眩との両立について>
上述の発熱板を使ったウィンドウでは、導電性細線がユーザの視界に存在することになるが、クリア(明瞭)な視界を実現する観点からは、導電性細線が可能な限り視認されないように各導電性細線を十分に細くすることが好ましい。
しかしながら導電性細線を細くすると、導電性細線の横断面の傾斜部の傾斜角に多様な角度バリエーションを持たせるのが難しくなる。すなわち極端に細い導電性細線において横断面の傾斜部の傾斜角を小さくして緩やかな傾斜を実現しようとすると、例えば図1Bに示す例では、辺S1(上底部)と辺S3(下底部)と間で長さの相違が大きくなり、とりわけ短い方の辺S1(上底部)において十分な長さを確保できなくなる。導電性細線の横断面の上底部S1が極端に短いと、製造誤差等のために導電性細線において断線が生じてしまう虞が高まる。
そのため、各導電性細線において相対的に太い箇所と相対的に細い箇所とを混在させることで、各導電性細線の横断面の傾斜部の傾斜角に所望の角度バリエーションを持たせることが容易になる。特に、導電性細線のうち相対的に太い箇所の傾斜部で「傾斜角が小さい緩やかな傾斜」を実現し、導電性細線のうち相対的に細い箇所の傾斜部で「傾斜角が大きい急な傾斜」を実現することが、導電性細線の断線を防ぐ観点からも望ましい。
一方、光芒の発生防止のために様々な曲率を持って配設される複数の導電性細線に関しては、配設スペースに関する制約の下で、曲率が大きく曲がり具合が大きい箇所よりも、曲率が小さく曲がり具合が小さい箇所の方が、導電性細線の幅を大きくしやすい。したがって、各導電性細線のうち曲率が小さい箇所を太くして横断面の傾斜部の傾斜を緩やかにする一方で、曲率が大きい箇所を細くして横断面の傾斜部の傾斜を急にすることで、傾斜部の傾斜角にバリエーションを持たせることが好ましい。
なお導電性細線の形成手法として、例えば導電性細線の元になる膜をエッチングして所望の配線形状の導電性細線を形成する方法が好適に用いられる。エッチングによって導電性細線を形成する場合、傾斜部の傾斜を急にするにはエッチングによる膜の浸食度合いを相対的に強くし、傾斜部の傾斜を緩やかにするにはエッチングによる膜の浸食度合いを相対的に弱くすることで、多様な傾斜部を持つ導電性細線を形成することが可能である。なお、エッチングを利用して導電性細線の細い箇所で傾斜部の傾斜を緩やかにしようとすると、膜のうちレジストで覆われてエッチングに曝される側の浸食が膜の他の部分の浸食よりも進行してしまい、導電性細線全体のエッチングが完了する前にレジストで覆われた側の膜部分が全て浸食されて導電性細線の断線を招く虞がある。
本件発明者は、上述の分析及び知見を踏まえ、「導電性細線(後述の導電性主細線及び導電性副細線)の横断面のうち大曲率部分(後述の図5の第1の大曲率部分31b)の横断面の傾きを、小曲率部分(後述の図5の第1の小曲率部分31a)の横断面の傾きよりも大きくする」ことで光芒の発生防止と防眩とを高いレベルで両立できるという知見を新たに得るに至った。
なお、このような「導電性細線が曲率に応じて異なる横断面の傾きを有する」ことは、発熱板(導電性細線)の全体に亘って実現されることが好ましいが、発熱板(導電性細線)の一部のみにおいて実現されてもよい。例えば、車両ウィンドウに発熱板を適用する場合には、車両ウィンドウのうち車両乗員の通常の視野の一部又は全部に対応する範囲のみにおいて、導電性細線の横断面の傾きを曲率に応じて定めてもよい。また、導電線細線の一部のみにおいて、導電性細線の横断面の傾きを曲率に応じて定めてもよい。
以下、上述の分析及び知見に基づく本発明の具体的な一実施形態について説明する。
図2は、バッテリー(電源)7を搭載する自動車(乗り物)1を概略的に示す斜視図である。
一般に自動車1は、フロントウィンドウ、リアウィンドウ、サイドウィンドウ及びサンルーフウィンドウなどの各種のウィンドウを備える。本発明の一実施形態に係る透明の発熱板10はこれらのウィンドウのいずれに対しても適用可能であるが、以下では、フロントウィンドウ5が透明の発熱板10によって構成される例について説明する。
図3は、透明の発熱板10によって構成されるフロントウィンドウ5の正面図である。
本例の発熱板10は、第1の透明板11及び第2の透明板12と、第1の透明板11と第2の透明板12との間に配置される導電体シート20とを備える。導電体シート20は、配線部15を介してバッテリー7に接続される一対のバスバー25と、一対のバスバー25間に配設され一対のバスバー25の各々に接続される発熱用導電体(後述の図4の符号「30」参照)とを含む。バッテリー7によって一対のバスバー25に電圧が印加されると、一対のバスバー25に接続される発熱用導電体は通電されて抵抗加熱により発熱する。これらのバスバー25及び発熱用導電体を含む導電体シート20は、第1の透明板11と第2の透明板12との間の密閉スペースに配置されるが、バスバー25の各々から第1の透明板11及び第2の透明板12の外部に延在する配線部15を介して外部に設けられるバッテリー7と電気的に接続される。
なお図2及び図3に示す例では、発熱板10(フロントウィンドウ5)、第1の透明板11及び第2の透明板12が湾曲しているが、理解を容易にするために、他図では、発熱板10、第1の透明板11及び第2の透明板12が平板状に示されている。
図4は、図3に示すラインIV−IVに沿った発熱板10(フロントウィンドウ5)の横断面図である。
導電体シート20は、支持基材21と、当該支持基材21上に配置されて当該支持基材21に支持される発熱用導電体30とを有する。支持基材21のうち発熱用導電体30が配置される側の面は第1接合層13を介して第1の透明板11と接合し、支持基材21のうち発熱用導電体30が配置される側の面とは反対側の面は第2接合層14を介して第2の透明板12に接合する。したがって本例の発熱板10では、第1の透明板11が発熱用導電体30を覆う被覆部材として機能し、発熱用導電体30は支持基材21と第1の透明板11との間に配置される。
発熱用導電体30で発生した熱は、第1接合層13を介して第1の透明板11に伝わり、また支持基材21及び第2接合層14を介して第2の透明板12に伝わる。これにより第1の透明板11及び第2の透明板12は温められ、第1の透明板11及び第2の透明板12に付着した霜、氷(雪等)及び水等を除去して第1の透明板11及び第2の透明板12の曇りを解消できる。このように上述の発熱板10をデフロスタとして活用することで、フロントウィンドウ5(特に第1の透明板11及び第2の透明板12)に対する着霜、着氷及び結露を防いで、車両乗員の視界を良好に保持できる。
なお本実施形態における発熱板10の透明性は、発熱板10を介して当該発熱板10の一方の側から他方の側を透視しうる程度の透明性であれば特に限定されず、発熱板10は例えば30%以上の可視光透過率を有することが好ましく、70%以上の可視光透過率を有することがより好ましい。ここでいう可視光透過率は、例えば、分光光度計(例えば株式会社島津製作所製の「UV−3100PC」、JISK0115準拠品)を用いて測定波長380nm〜780nmの範囲内で測定したときの、各波長における透過率の平均値として特定される。
本例のように発熱板10がフロントウィンドウ5に用いられる事例では、発熱板10によって、とりわけクリアな視界を確保することが求められる。したがってフロントウィンドウ5に用いられる発熱板10を構成する第1の透明板11及び第2の透明板12は可視光透過率が高いことが好ましく、例えば90%以上の可視光透過率を有することが好ましい。そのような第1の透明板11及び第2の透明板12の材質としては各種の部材を選択可能であり、例えば、樹脂板やガラス板を用いることができる。第1の透明板11及び第2の透明板12をなす樹脂材料として、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、及びメチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体等のアクリル樹脂ポリカーボネートを例示することができる。なおここでいう「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。アクリル樹脂は、高い耐久性を有する点において、発熱板10、とりわけフロントウィンドウ5やリアウィンドウに用いられる発熱板10に好適である。なお、第1の透明板11及び第2の透明板12の一部又は全部において着色等により可視光透過率が低減されてもよい。例えば太陽光の直射を遮ることにより夏期晴天時の車内温度の上昇を抑制したり、車外から車内を視認し難くしたりするために、第1の透明板11及び第2の透明板12の一部又は全部を比較的低い可視光透過率としてもよい。
また第1の透明板11及び第2の透明板12は、優れた強度及び光学特性を確保する観点から、例えば2mm以上20mm以下の厚みを有することが好ましい。また第1の透明板11及び第2の透明板12は、同一材料によって作られてもよいし、同一の構成を有してもよいし、材料及び構成のうち少なくとも一方が互いに異なっていてもよい。また本例の第1の透明板11及び第2の透明板12はほぼ同一の平面形状及びサイズを有するが、必要に応じて異なる平面形状及びサイズを有してもよい。
第1の透明板11と導電体シート20(支持基材21)を接合する「第1接合層13」及び第2の透明板12と導電体シート20(支持基材21)を接合する「第2接合層14」は、それぞれ種々の接着性又は粘着性を有する材料によって層状に形成可能である。クリアな視界を確保する観点からは、第1接合層13及び第2接合層14は可視光透過率が高い材料によって構成されることが好ましく、典型的にはポリビニルブチラール(PVB)によって構成される。第1接合層13及び第2接合層14の厚みは、それぞれ0.15mm以上1mm以下であることが好ましい。また第1接合層13及び第2接合層14は、同一材料によって作られてもよいし、同一の構成を有してもよいし、材料及び構成のうち少なくとも一方が互いに異なっていてもよい。
なお透明の発熱板10は図示された例に限られず、例えば上述の構成に加え、特定の機能を発揮することが期待される他の機能層が設けられてもよい。また発熱板10を構成する各要素が2以上の機能を発揮してもよく、例えば第1の透明板11、第2の透明板12、第1接合層13、第2接合層14及び導電体シート20(発熱用導電体30及び支持基材21)のうちの少なくとも1つの要素に対して、上述の機能以外の機能が更に付与されてもよい。例えば、反射防止(AR:Anti−Reflection)機能、耐擦傷性を有したハードコート(HC:Hard Coating)機能、赤外線遮蔽(反射)機能、紫外線遮蔽(反射)機能、防汚機能及びその他の機能のうちの少なくとも1つの機能をもたらす部材や構成が、発熱板10を構成する各要素に付加されてもよい。
<導電体シート20>
本例の導電体シート20は、上述のように一対のバスバー25と発熱用導電体30とを含み、第1の透明板11及び第2の透明板12とほぼ同一の平面形状及びサイズを有し、第1の透明板11及び第2の透明板12(発熱板10)の全体に亘って配置される。ただし導電体シート20の平面形状及びサイズは特に限定されず、導電体シート20は第1の透明板11及び第2の透明板12よりも小さくてもよい。例えば運転席の正面部分等の特定のエリアのみが導電体シート20によってカバーされるように、発熱板10(第1の透明板11及び第2の透明板12)の一部にのみ導電体シート20が設けられてもよい。
導電体シート20の支持基材21を構成する材料は、発熱用導電体30を適切に支持可能であれば特に限定されず、クリアな視界を確保する観点からは可視光透過率が高い材料であることが好ましい。したがって、可視光線波長域(例えば380nm〜780nm)の波長が透過可能な透明の電気絶縁性フィルムを支持基材21として好適に使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びエチレン−テレフタレート−イソフタレート共重合体等のポリエステル樹脂によって、支持基材21は構成可能である。十分な光透過性を確保しつつ発熱用導電体30を適切に支持するためには、支持基材21は、0.03mm以上0.15mm以下の厚みを有することが好ましい。
一方、発熱用導電体30を構成する材料は、通電により発熱可能であれば、特に限定されない。例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン或いはこれらの合金によって、発熱用導電体30は構成可能である。発熱用導電体30は不透明な金属材料を用いて形成されうるが、不透明な材料や透明性の低い材料によって発熱用導電体30を構成する場合には、ユーザの視界を過剰に遮らないように発熱用導電体30を十分に細くすることが好ましい。
したがって支持基材21の平面領域のうち発熱用導電体30によって覆われていない領域の割合(すなわち非被覆率)は、例えば70%以上98%以下程度と高く設定されることが好ましい。また発熱用導電体30を構成する導電性細線(後述の導電性主細線31及び導電性副細線32)の線幅は2μm以上20μm以下程度であることが好ましい。具体的には、導電性細線のサイズのうち、透明発熱板10の板面に沿う方向に関する幅Wは2μm以上20μm以下程度であることが好ましく、透明発熱板10の板面の法線方向に関する高さ(厚さ)Hは1μm以上20μm以下であることが好ましい。このような幅W及び高さHを有する発熱用導電体30(導電性細線)であれば、発熱用導電体30が十分に細く、発熱用導電体30を視覚上目立たなくさせることができる。このような非被覆率及び線幅に基づいて発熱用導電体30を設けることで、発熱用導電体30が設けられている領域は、全体として高い透明性を持ち、発熱用導電体30の存在が透明発熱板10の透視性を過度に害さない。
このように発熱用導電体30は非被覆率が高くなるように支持基材21上に形成され、第1接合層13は、発熱用導電体30に接触するとともに、発熱用導電体30によって被覆されていない支持基材21の部分(非被覆部分)にも接触する。したがって本例の発熱板10では、発熱用導電体30が第1接合層13に埋め込まれた状態となる。
なお発熱用導電体30は、その表面部分において暗色層(後述の図15等に示す「第1の暗色層37」及び「第2の暗色層38」参照)を有していてもよく、発熱用導電体30の中央の通電部分(図15等に示す「導電層36」参照)の少なくとも一部分が暗色層により覆われてもよい。発熱用導電体30は構成材料によっては比較的高い光反射率を呈し、発熱用導電体30による反射光が視覚上目立ってしまう場合がある。そのような発熱用導電体30による反射光は、車両内部における車両乗員の視界を妨げたり、車両外部からの発熱用導電体30の視認を可能にして意匠性を低下させたりする。したがって発熱用導電体30の中央の通電部分よりも可視光反射率が低い黒色等の暗色層を発熱用導電体30の表面に形成することで、発熱用導電体30による光の反射を抑え、車両乗員の良好な視界を確保するとともに意匠性の低下を防ぐことができる。
次に、本実施形態に係る発熱用導電体30の配線パターンについて説明する。
図5は、発熱用導電体30の配線パターンの一例を示す拡大平面図である。なお図5には、説明の便宜上、発熱板10のうち発熱用導電体30及び支持基材21のみが示されている。
本例の発熱用導電体30は、複数の導電性主細線31と、隣り合って配置される導電性主細線31同士を連結する導電性副細線32とを有する。各導電性主細線31は、一対のバスバー25(図3参照)間において、一方のバスバー25から他方のバスバー25に向かう方向(図5のY方向参照)に延在し、各バスバー25に接続する。導電性主細線31の各々は不規則的な波形状に湾曲して支持基材21上に配設されており、各導電性主細線31は曲率(すなわち曲がり具合)が相互に異なる複数の湾曲部を含み、また導電性主細線31同士は異なる波形状を有する。
導電性副細線32は、複数の導電性主細線31のうちの少なくとも一部において設けられ、離散的な配置を有する。すなわち、本例の導電性副細線32は複数設けられ、これらの複数の導電性副細線32は、一対のバスバー25の一方から他方に向かう方向(図5のY方向参照)に関して相互に異なる位置に配置される。導電性副細線32の各々は、曲率(すなわち曲がり具合)が相互に異なる複数の湾曲部を含んで不規則的な波形状を有し、また導電性副細線32同士は異なる波形状を有する。なお導電性副細線32は導電性主細線31と同じ組成を有し、導電性主細線31と導電性副細線32とは連続的且つ一体的に形成されている。
上述のように発熱用導電体30を構成する導電性主細線31及び導電性副細線32の各々は、様々な曲率で曲がった部分を含む。特に本実施形態の導電性主細線31は、相互に横断面の傾きが異なる「曲率が相対的に小さい部分(第1の小曲率部分;図5の符号「31a」参照)」及び「曲率が相対的に大きい部分(第1の大曲率部分;図5の符号「31b」参照))」を含む。すなわち、導電性主細線31の横断面のうち曲率が相対的に大きい第1の大曲率部分の横断面の傾きは、曲率が相対的に小さい第1の小曲率部分の横断面の傾きよりも大きい。
図6Aは図5の符号「31a」で示された部分(第1の小曲率部分)の拡大図であり、図6Bは図5の符号「31b」で示された部分(第1の大曲率部分)の拡大図である。また図7Aは図6AのラインVIIA−VIIAに沿った横断面図であり、図7Bは図6BのラインVIIB−VIIBに沿った横断面図である。
本実施形態に係る発熱用導電体30(導電性主細線31及び導電性副細線32)の横断面は、支持基材21に接する下底部S3、当該下底部S3と対向する位置に配置される上底部S1、下底部S3の一端E2と上底部S1の一端E1との間に延在する第1傾斜部S2、及び下底部S3の他端E4と上底部S1の他端E3との間に延在する第2傾斜部S4によって区画される(図7A及び図7B参照)。また本実施形態に係る発熱用導電体30(導電性主細線31及び導電性副細線32)の横断面は、上底部S1の中央及び下底部S3の中央を通る軸を対称軸として、ほぼ線対称に形成されている。
そして発熱用導電体30(導電性主細線31及び導電性副細線32)の横断面の傾きは、下底部S3の一端E2及び上底部S1の一端E1を通る直線の傾き及び下底部S3の他端E4及び上底部S1の他端E3を通る直線の傾きの各々によって表される。
上述のように本実施形態の導電性主細線31では曲率が相対的に大きい大曲率部分(第1の大曲率部分)31bの横断面の傾きは、曲率が相対的に小さい小曲率部分(第1の小曲率部分)31aの横断面の傾きよりも大きい。したがって、図7Aに示す小曲率部分31aの「下底部S3の一端E2及び上底部S1の一端E1を通る直線T1」及び「下底部S3の他端E4及び上底部S1の他端E3を通る直線T1」の各々と下底部S3とによって形成される「傾き角θ1」と、図7Bに示す大曲率部分31bの「下底部S3の一端E2及び上底部S1の一端E1を通る直線T2」及び「下底部S3の他端E4及び上底部S1の他端E3を通る直線T2」の各々と下底部S3とによって形成される「傾き角θ2」とは、以下の関係式1を満たす。
<関係式1>
θ1<θ2
また発熱用導電体30(導電性主細線31及び導電性副細線32)の横断面はほぼ同じ高さを有する。すなわち、図7Aに示す小曲率部分31aの横断面の上底部S1と下底部S3との間の間隔H1は、図7Bに示す大曲率部分31bの横断面の上底部S1と下底部S3との間の間隔H2と等しく、以下の関係式2が満たされる。
<関係式2>
H1=H2
また小曲率部分31aの横断面の支持基材21上への投影のサイズP1(図7A参照)は、大曲率部分31bの横断面の支持基材21上への投影のサイズP2(図7B参照)よりも大きく、以下の関係式3が満たされる。すなわち支持基材21の支持面に沿った方向(図7A及び図7BのX方向参照)に関し、「小曲率部分31aの横断面全体(本実施形態では特に下底部S3)の長さ」は「大曲率部分31bの横断面全体(本実施形態では特に下底部S3)の長さ」よりも大きい。
<関係式3>
P1>P2
また支持基材21上への小曲率部分31aの横断面の「第1傾斜部S2の投影のサイズP3a」及び「第2傾斜部S4の投影のサイズP3b」の和は、支持基材21上への大曲率部分31bの横断面の「第1傾斜部S2の投影のサイズP4a」及び「第2傾斜部S4の投影のサイズP4b」の和よりも大きく、以下の関係式4が満たされる。すなわち支持基材21の支持面に沿った方向に関し、「小曲率部分31aの横断面の第1傾斜部S2及び第2傾斜部S4の長さの和」は「大曲率部分31bの横断面の第1傾斜部S2及び第2傾斜部S4の長さの和」よりも大きい。
<関係式4>
(P3a+P3b)>(P4a+P4b)
また小曲率部分31aの横断面の上底部S1の支持基材21上への投影のサイズW1は、大曲率部分31bの横断面の上底部S1の支持基材21上への投影のサイズW2よりも大きい。
また小曲率部分31aの横断面の面積は、大曲率部分31bの横断面の面積よりも大きい。
以上説明したように本実施形態によれば、発熱用導電体30(導電性細線)の配線の曲率に応じて各導電性細線(導電性主細線31)の横断面の形状及びサイズが定められ、光芒の発生防止と防眩とを高いレベルで両立できる。すなわち、導電性主細線31を「様々な曲率を持って不規則に配設される複数の導電性細線」によって構成することにより、視認可能な光芒の発生を効果的に抑えられる。また「導電性主細線31の横断面において多様な角度(図7Aの「θ1」及び図7Bの「θ2」参照)の傾斜を持たせる」ことによって、ギラツキやにじみ等の眩輝を効果的に抑えられる。そして「導電性主細線31の横断面のうち大曲率部分(大曲率部分31b)の横断面の傾きを、小曲率部分(小曲率部分31a)の横断面の傾きよりも大きくする」ことで、導電性主細線31の断線を回避しつつ、上述の「光芒の発生防止」と「防眩」とを高いレベルで両立できる。
なお、上述の導電性主細線31の構成は導電性副細線32(図5参照)に対しても有効であり、上述の導電性主細線31の横断面に関する上述の関係を導電性副細線32の横断面も同様に満たすことが好ましい。したがって導電性副細線32を「様々な曲率を持って不規則に配設される複数の導電性細線」によって構成し、「各導電性副細線32が、曲率が相対的に大きい曲率部分(第2の大曲率部分)と曲率が相対的に小さい曲率部分(第2の小曲率部分)とを含み」、「導電性副細線32の横断面において多様な角度の傾斜を持たせ」、「導電性副細線32の横断面のうち大曲率部分(第2の大曲率部分)の横断面の傾きを、小曲率部分(第2の小曲率部分)の横断面の傾きよりも大きくする」ことで、導電性副細線32の断線を回避しつつ、上述の「光芒の発生防止」と「防眩」とを高いレベルで両立できる。
また、発熱板10は図4に示される構成に限定されず、他の層が追加されてもよいし、発熱用導電体30以外の要素が省略されてもよい。例えば図8に示すように、発熱用導電体30が設けられる支持基材21の面上に発熱用導電体30を覆うように第1の透明板11を直接的に積層し、これらの第1の透明板11、発熱用導電体30及び支持基材21によって発熱板10が構成されてもよい。また図8に示す発熱用導電体30に対して他の機能層が適宜追加されてもよい。
<発熱板10の製造方法>
次に、上述の発熱板10の製造方法について説明する。上述の発熱板10を製造する方法は特に限定されないが、一例として、導電層及び暗色層を含む導電性細線(導電性主細線31及び導電性副細線32)を支持基材21上に形成する方法について以下説明する。なお以下の説明では、図8に示す発熱板10を製造する方法の一例について説明するが、他の構成を有する発熱板10(図4参照)も以下の製造方法を適宜応用することで製造することが可能である。
図9〜図15は、発熱板10の製造方法の一例を説明するための横断面図であり、発熱板10の製造工程を順次示す。
まず図9に示すように、発熱用導電体30(導電性主細線31及び導電性副細線32)の導電層の元になる部材である銅箔膜36a上に、発熱用導電体30(導電性主細線31及び導電性副細線32)の第1の暗色層の元になる暗色膜37aが積層される。銅箔膜36aの形成方法は特に限定されず、公知の方法によって銅箔膜36aを形成できる。例えば、電解めっき及び無電解めっきを含むめっき法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法、又はこれらの二以上の方法を組み合わせた方法に基づいて、銅箔膜36aは形成されうる。一方、暗色膜37aの形成方法も特に限定されず、公知の方法によって暗色膜37aを形成できる。例えば、電解めっき及び無電解めっきを含むめっき法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法、又はこれらの二以上の方法を組み合わせた方法に基づいて、暗色膜37aを銅箔膜36a上に形成することができる。なお、暗色膜37aは種々の公知の材料によって構成可能であり、例えば窒化銅、酸化銅或いは窒化ニッケル等によって構成されてもよい。
次に図10に示すように、暗色膜37aのうち銅箔膜36aが積層される側の面とは反対側の面上に、透明の支持基材21が積層される。なお、粘着剤や接着剤を含む接合層を支持基材21と暗色膜37aとの間に設けて、支持基材21と暗色膜37aとを確実に接合してもよい。支持基材21は、発熱用導電体30を適切に保持することができればいかなる部材で構成されてもよく、例えば2軸延伸処理が施されたポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂が支持基材21の構成材料として挙げられる。ただし、発熱用導電体30の保持性等を考慮すると、支持基材21の厚みは30μm以上150μm以下であることが好ましい。
次に図11に示すように、銅箔膜36aのうち暗色膜37aが積層される側の面とは反対側の面上に、レジストパターン39が設けられる。レジストパターン39は、最終的に支持基材21上に形成されるべき発熱用導電体30の配線パターン(配線形状)に対応した形を持つように、銅箔膜36a上に配置される。すなわち銅箔膜36aのうち最終的に発熱用導電体30(導電性主細線31及び導電性副細線32)を成す箇所の上にのみ、レジストパターン39が設けられる。このレジストパターン39は、公知のフォトリソグラフィー技術を用いたパターニングにより形成可能である。例えばフォトマスクによる近接露光を利用する事例において、ネガ型のフォトレジストを用いる場合には、フォトマスクに遮蔽パターンを形成しておき、パターニングを行うことで、所望のレジストパターン39を銅箔膜36a上に形成できる。
次に、レジストパターン39をマスクとして使用し、銅箔膜36a及び暗色膜37aをエッチングする。このエッチングにより、銅箔膜36a及び暗色膜37aがレジストパターン39とほぼ同一の平面形状となるようにパターニングが行われる。このパターニングの結果、図12に示すように、銅箔膜36aからは導電性細線(導電性主細線31及び導電性副細線32)の一部を成す導電層36が形成され、また暗色膜37aからは導電性細線(導電性主細線31及び導電性副細線32)の一部を成す第1の暗色層37が形成される。
なお、エッチング方法は特に限定されず公知の方法を採用可能であり、例えば塩化第二鉄水溶液等のエッチング液を用いるウェットエッチングや、プラズマエッチングなどのドライエッチングによって、銅箔膜36a及び暗色膜37aのエッチングを行うことができる。
次に図13に示すように、任意の手法によってレジストパターン39が除去される。これにより、支持基材21上に所定パターンで配線される発熱用導電体30(導電層36及び第1の暗色層37)が得られる。
次に図14に示すように、導電層36のうち第1の暗色層37が設けられる面35bとは反対側の面35a上と、導電層36の側面35c、35d上とに、第2の暗色層38が形成される。第2の暗色層38の形成方法は特に限定されず、例えば導電層36の一部分に暗色化処理(黒化処理)を施すことで、導電層36を成していた材料の一部分から暗色層38を形成できる。本例の導電層36は銅(銅箔膜36a)から作られているため、例えば酸化銅や硫化銅から成る第2の暗色層38を導電層36の表面層として形成できる。或いは、暗色材料の塗膜や、ニッケルやクロム等のめっき層、或いは酸化銅(CuO)や窒化銅のスパッタ層等のような第2の暗色層38が、導電層36の表面において付加的に設けられてもよい。なお、第2の暗色層38を付加的に設ける場合には、導電層36の表面(面35a及び側面35c、35d)の少なくとも一部を粗化した後に、導電層36上に第2の暗色層38が設けられてもよい。
上述の一連の工程(図9〜図14参照)を経て、第1の暗色層37及び第2の暗色層38によって導電層36がコーティングされた発熱用導電体30(導電性主細線31及び導電性副細線32)が支持基材21上に形成され、導電体シート20が作製される。このように発熱用導電体30は上述の第1の透明板11(図8参照)とは別個の支持基材21上に形成され、この支持基材21は、発熱用導電体30を形成する際の支持部材として適当な厚みを有していればよく、発熱板10に剛性を付与するための厚みは支持基材21に必要とされない。したがって図9〜図14に示す一連の製造方法によれば、複数の発熱板10に用いられる多数の発熱用導電体30を長尺の支持基材21上に連続して形成することが可能となり、発熱板10毎に発熱用導電体を形成していた従来の手法に比べ、発熱用導電体30を極めて安価に製造できる。加えて、上述の製造方法によれば、図3に示す一対のバスバー25や配線部15の一部を、発熱用導電体30と同一の材料を用いて、発熱用導電体30と並行して形成できるため、導電体シート20及び発熱板10を安価に製造できる。また上述の製造方法によれば、一対のバスバー25や配線部15の一部を、発熱用導電体30と同一の材料を用いて、発熱用導電体30と一体的に形成することも可能である。この場合、発熱用導電体30からバスバー25を介した配線部15までの電気的接続を、より安定的に確保できる。
次に、支持基材21のうち発熱用導電体30(導電層36、第1の暗色層37及び第2の暗色層38)が設けられる面上に、第1の透明板11が積層される。図15は、第1の透明板11が射出成形により形成され、当該第1の透明板11が支持基材21に接合する例を図示する。図15に示す例では、射出成形用の型41のキャビティ41a内に導電体シート20が配置される。支持基材21のうち発熱用導電体30が配置される面がキャビティ41aの内側を向き、型41の樹脂供給口42からキャビティ41aに供給される樹脂が「支持基材21のうち発熱用導電体30が配置される面」上に積層されるように、導電体シート20はキャビティ41a内に配置される。そして、加熱されて流動性を有するアクリル等の樹脂が、型41の樹脂供給口42からキャビティ41aに向かって射出されて支持基材21及び発熱用導電体30(導電層36、第1の暗色層37及び第2の暗色層38)上に積層される。キャビティ41a内に射出された樹脂は、キャビティ41a内で冷却されて支持基材21及び発熱用導電体30上で固化し、最終的には支持基材21及び発熱用導電体30に接合する第1の透明板11を形成する。上述の射出成形によれば、第1の透明板11(発熱板10)が平板状であっても湾曲板状であっても、安価且つ容易に、第1の透明板11(発熱板10)を導電体シート20(支持基材21及び発熱用導電体30)上に形成できる。
なお、導電体シート20(支持基材21)のうち発熱用導電体30が形成されている側の面に、易接着性を確保するためのプライマー層が予め設けられていてもよい。この場合、プライマー層によって導電体シート20(支持基材21)と第1の透明板11との密着性を向上できる。
上述の図9〜図15に示す発熱板10の製造方法によれば、比較的簡単且つ確実に、第1の透明板11と支持基材21との間に発熱用導電体30を配置できる。特に、発熱用導電体30の被覆部材として第1の透明板11を用いることで、重量密度が大きいガラスを発熱用導電体30の支持基材として用いる必要がなく、発熱板10の大幅な軽量化を実現することができる。また、発熱用導電体30は支持材として機能する支持基材21上に形成されるので、取り扱い性に優れた導電体シート20を提供することができる。したがって上述の一連の製造方法によれば、フォトリソグラフィー技術に基づいて、典型的にはロール・トゥ・ロール(role−to−role)の態様で、導電体シート20を容易且つ迅速に形成できる。このように、図9〜図15に示す発熱板10の製造方法によれば、複数の発熱用導電体30を連続的、効率的且つ安価に製造することができ、また最終的には軽量化された発熱板10を安価且つ安定的に製造できる。
<変形例>
本発明は上述の実施形態に限定されず、上述の実施形態に対して様々な変更が加えられてもよい。
例えば上述の製造方法では、図15に示すように支持基材21、発熱用導電体30及び第1の透明板11が順次積層された発熱板10が作られるが、他の層が更に積層されていてもよい。例えば、「第1の透明板11のうち支持基材21に接合される側の面とは反対側の面」及び「支持基材21(導電体シート20)のうち第1の透明板11に接合される側の面とは反対側の面」のうちの少なくとも一方の上に、他の被覆層が積層されていてもよい。
図16は、発熱板10の他の変形例を示す横断面図である。本例の発熱板10は、上述の支持基材21、発熱用導電体30及び第1の透明板11(図15参照)に加え、第1の透明板11を導電体シート20とは反対側から覆う透明な被覆層45と、導電体シート20を第1の透明板11とは反対側から覆う透明な被覆層46とを更に有する。発熱板10の表面層(最外面)を形成するこれらの被覆層45、46は、耐擦傷性を有するハードコート層として機能し、第1の透明板11及び導電体シート20を保護して発熱板10の耐久性を向上できる。これらの被覆層45、46は、例えば公知のアクリル系紫外線硬化型樹脂を用いて形成可能である。すなわち、第1の透明板11及び導電体シート20(支持基材21)の各々の上に、アクリル系紫外線硬化型樹脂の単量体、プレポリマー、或いはこれら両方及び光重合開始剤を含む組成物が膜状に塗布される。そして、その塗布膜に紫外線を照射して当該塗布膜を架橋反応乃至重合反応によって硬化させることで、硬化樹脂層が得られる。このようにして得られる硬化樹脂層を、ハードコート層として機能する被覆層45、46として用いることができる。
また上述の実施形態(例えば図15参照)では、第1の透明板11は、導電体シート20のうち発熱用導電体30が設けられている側の面と対向するように導電体シート20(支持基材21及び発熱用導電体30)上に積層されているが、第1の透明板11の配置位置はこれに限定されない。
図17は、発熱板10の他の変形例を示す横断面図である。本例の発熱板10では、第1の透明板11が、導電体シート20(支持基材21)のうち発熱用導電体30が設けられている側とは反対側の面と対向するように導電体シート20(支持基材21)上に積層される。本例では、発熱用導電体30が第1の透明板11によっては被覆されずに外部に露出してしまうため、衝撃等の外部からの力が発熱用導電体30に作用して断線したり、空気中の水分等によって発熱用導電体30が錆びたりする虞がある。そのため、発熱用導電体30が第1の透明板11によって被覆されない場合には、別の被覆層によって発熱用導電体30を被覆し、発熱用導電体30が外部に露出するのを防ぐことが好ましい。
図18は、発熱板10の他の変形例を示す横断面図である。本例の発熱板10は、図16に示す被覆層45、46を図17に示す発熱板10に適用することで得られる。すなわち、導電体シート20(支持基材21)のうち発熱用導電体30が設けられる側の面上に被覆層45が設けられ、当該被覆層45によって発熱用導電体30が覆われる。この被覆層45によって、発熱用導電体30が外部から隔離されて保護され、発熱用導電体30の断線や錆化を防ぐことができる。また第1の透明板11のうち支持基材21が設けられる側の面とは反対側の面上に被覆層46が設けられ、当該被覆層46によって第1の透明板11が覆われる。これにより第1の透明板11が外部から隔離されて保護され、発熱板10の耐久性を向上できる。
また、発熱板10の少なくともいずれか1つの層において、その内部に分散された紫外線吸収剤を有してもよい。この場合、紫外線吸収剤が紫外線を吸収し、当該紫外線吸収剤を有する層より内側においては外部から入射する紫外線の量が減少するので、紫外線による黄変等の劣化が紫外線吸収剤を有する層より内側の部材において生じるのを効果的に防げる。すなわち、発熱板10が紫外線吸収剤を含むことで、発熱板10の耐光性を向上させることができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物及びベンゾフェノン系化合物等を例示することができる。紫外線吸収剤を含む層における紫外線吸収剤の質量比は、0.5〜5.0質量%であることが好ましい。
また、発熱板10に被覆層が設けられる場合、その被覆層の透湿度が、支持基材21の透湿度よりも低くなるようにしてもよい。低透湿度の被覆層によれば、水蒸気が発熱用導電体30(導電性主細線31及び導電性副細線32)に達することを効果的に防ぐことができ、発熱用導電体30(導電性主細線31及び導電性副細線32)の錆びによる劣化を防止することができる。なお、透湿度は、JISZ0208で規定されている方法で測定することができる。
また発熱板10は、曲面状であってもよいし、平板状であってもよいし、用途に応じた他の形状であってもよい。
また前述した実施形態において、第1の透明板11の材料としてアクリル樹脂を使用した形態を例示したが、この例に限られない。例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂等を第1の透明板11の材料として使用してもよい。
また前述した実施の形態では、第1の透明板11と導電体シート20との積層手法に関し、第1の透明板11を成形する金型キャビティ内に予め導電体シート20を配置した後、該キャビティ内に第1の透明板11を構成する樹脂の熔融物を射出及び充填することで、第1の透明板11と導電体シート20とを積層一体化した形態(図15参照)を例示したが、この例に限られない。例えば、予め成形した第1の透明板11を用意し、該第1の透明板11の一方の面上に接着剤層を介して導電体シート20を接着することで、第1の透明板11と導電体シート20とを積層一体化してもよい。一具体例として、ポリビニルブチラール(PVB)からなる第1接合層13及び第2接合層14を介し、導電体シート20に対して第1の透明板11及び第2の透明板12を加熱及び加圧しながら接着することで、図4に示された発熱板10を作製することができる。
また発熱板10は、自動車1のウィンドウだけではなく、自動車1以外の乗り物(例えば鉄道、航空機、船舶及び宇宙船等)の窓や扉に用いられてもよい。
また発熱板10は乗り物以外に対しても適用可能であり、例えばビル、店舗及び住宅などの建築物用の窓等といった「スペース(例えば室内及び室外)を区画する箇所」に適宜使用可能である。
また上述の実施形態及び変形例は、適宜組み合わされてもよい。