以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
本発明のシリコン材料の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ということがある。また、本発明の製造方法で製造されるシリコン材料を「本発明のシリコン材料」ということがある。本発明のシリコン材料のうち炭素で被覆されたものを「本発明の炭素被覆シリコン材料」ということがある。「本発明のシリコン材料」は「本発明の炭素被覆シリコン材料」を包含する。)は、CaSiと含ハロゲンポリマーの共存下、当該含ハロゲンポリマーの炭化温度以上の温度で加熱する工程を含むことを特徴とする。
含ハロゲンポリマーとしてポリ塩化ビニルを採用した場合の本発明の製造方法の反応機構を以下に説明する。
加熱により、まず、ポリ塩化ビニルが分解し、塩化水素を放出する。
−(CH2CHCl)n− → nHCl + −(CH=CH)n−
次に、CaSiが上記放出された塩化水素と作用し、組成式SiH2で表される活性中間体となると推定される。
CaSi + 2HCl → SiH2 + CaCl2
そして、加熱条件下であるので、組成式SiH2で表される活性中間体の水素が離脱して、シリコンが得られると推定される。
SiH2 → Si + H2↑
さらに、ポリ塩化ビニルの分解物である(CH=CH)nはその炭化温度以上の加熱条件において炭化する。その際にシリコンと(CH=CH)nの炭化物が共存するため、シリコン表面に炭素が一体化した炭素被覆シリコン材料が得られる。
Si + (CH=CH)n → 炭素被覆シリコン材料 + nH2↑
以下、詳細に本発明の製造方法について説明する。
CaSiは一般に、CrB型結晶(TlI型結晶)、空間群Cmcmとの構造を有する(Acta Crystallogr.、1967、vol.22、919〜922頁)。なお、従来の製造方法で用いていたCaSi2は、一般に、ダイヤモンド型のSiの(111)面の間にCa原子層が挿入された、Ca層とSi層が積層した層状の結晶構造を有する。したがって、CaSiとCaSi2の結晶構造は異なる。
CaSiは、公知の製造方法で合成してもよく、市販されているものを採用してもよい。CaSiの製造方法としては、例えば、Siの溶湯中にCaを添加して製造すればよい。
本発明の製造方法に用いるCaSiは、あらかじめ粉砕しておくことが好ましい。好ましいCaSiの平均粒子径として、0.1〜50μmの範囲内を例示でき、より好ましくは0.3〜20μmの範囲内、さらに好ましくは0.5〜10μmの範囲内、特に好ましくは1〜5μmの範囲内を例示できる。なお、本明細書における平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。
含ハロゲンポリマーは、ハロゲンを化学構造に含むポリマーであればよい。その理由は、次のとおりである。本発明の製造方法の加熱条件下であれば、含ハロゲンポリマーからは、ハロゲン化水素酸及び/又はハロゲン分子が離脱する。そして、ハロゲン化水素酸又はハロゲン分子を構成するマイナスチャージされたハロゲンが、CaSiのCaと反応する。すなわち、含ハロゲンポリマーであれば、マイナスチャージされたハロゲンの供給源となり、所望の反応が進行する。なお、CaSiがハロゲン化水素酸と反応した場合には組成式SiH2で表される活性中間体とハロゲン化カルシウムが生成し、CaSiがハロゲン分子と反応した場合には組成式SiX2(Xはハロゲン元素)で表される活性中間体とハロゲン化カルシウムが生成すると考えられる。
含ハロゲンポリマーとしては、一般式(1)のモノマーユニットを有するものを挙げることができる。
一般式(1)
炭化水素には、飽和炭化水素、不飽和炭化水素がある。飽和炭化水素には、鎖状飽和炭化水素と環状飽和炭化水素がある。不飽和炭化水素には、鎖状不飽和炭化水素と環状不飽和炭化水素がある。
R1の化学構造のうち、モノマーユニットの主鎖となる化学構造(重合反応に関与する炭素を含む化学構造)は、鎖状飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状不飽和炭化水素のいずれでもよい。モノマーユニットの主鎖となる化学構造として、具体的にCH、CH2−CH、CH=CH、シクロヘキサン環、ベンゼン環などを挙げることができる。
R1の化学構造のうち、モノマーユニットの主鎖に結合する化学構造(以下、側鎖ということがある。)は、水素、鎖状飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状不飽和炭化水素のいずれでもよい。また、各炭化水素の水素は、他の元素や他の炭化水素で置換されていても良い。
Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかである。nが2以上の場合、各Xは同一の種類でもよいし、他の種類でもよい。Xはモノマーユニットの主鎖となる炭素に直接結合していてもよいし、側鎖の炭素に結合していてもよい。nの上限数はR1の化学構造により定まる。
含ハロゲンポリマーは、単一の種類の一般式(1)のモノマーユニットのみで構成されるものであってもよいし、複数の種類の一般式(1)のモノマーユニットで構成されるものであってもよい。また、含ハロゲンポリマーは、一般式(1)のモノマーユニットと、他の化学構造のモノマーユニットとで構成されていてもよい。
ここで、ハロゲンの質量%が多い含ハロゲンポリマーを採用すれば、より効率的に所望の反応が進行すると考えられるため、含ハロゲンポリマーは一般式(1)のモノマーユニットのみで構成されるのが好ましい。
含ハロゲンポリマーの分子量は、数平均分子量で1000〜100万の範囲内が好ましく、1000〜50万の範囲内がより好ましく、3000〜10万の範囲内がさらに好ましい。含ハロゲンポリマーの重合度は、5〜10万の範囲内が好ましく、10〜5万の範囲内がより好ましく、100〜1万の範囲内がさらに好ましい。
一般式(1)のモノマーユニットのうち、好適なものを以下の一般式(2)で示す。
一般式(2)
炭化水素及びハロゲンについての説明は、上述のとおりである。一般式(2)において好ましい炭化水素として、炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基、フェニル基を挙げることができる。
上述のとおり、含ハロゲンポリマーはハロゲンの質量%が多いものが好ましいと考えられるため、一般式(2)のモノマーユニットのR2、R3、R4はそれぞれ独立に水素又はハロゲンが好ましい。
特に好適な含ハロゲンポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルを挙げることができる。
CaSi及び含ハロゲンポリマーの使用量は、使用するCaSiのCaに対し、ハロゲンのモル比が2以上となる量の含ハロゲンポリマーを使用することが好ましい。
CaSiと含ハロゲンポリマーは、互いに接触した状態であってもよいし、非接触下であってもよい。CaSiと含ハロゲンポリマーを互いに接触した状態とするには、CaSiと含ハロゲンポリマーを混合すればよい。
本発明の製造方法の加熱温度は、含ハロゲンポリマーの炭化温度以上の温度である。ここで、一般に有機化合物は400℃付近から炭化する。そして、加熱温度が高ければ高いほど、導電性の高い炭化物が得られる。よって、本発明の製造方法の加熱温度としては、400〜1500℃の範囲内が好ましく、500〜1300℃の範囲内がより好ましく、600〜1200℃の範囲内がさらに好ましい。加熱温度により、本発明のシリコン材料に含まれるアモルファスシリコン及びシリコン結晶子の割合、並びに、シリコン結晶子の大きさを調製することもできる。
上記シリコン結晶子のサイズは、0.5nm〜300nmの範囲内が好ましく、1nm〜100nmの範囲内がより好ましく、1nm〜70nmの範囲内がさらに好ましく、1nm〜30nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子のサイズは、本発明のシリコン材料に対してX線回折測定(XRD測定)を行い、得られたXRDチャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
なお、本発明の製造方法におけるシリコン結晶子の生成は、原料がCaSi2である従来の製造方法よりも、低温で成し遂げられると考えられる。また、加熱温度が同じ場合、本発明の製造方法の方が、原料がCaSi2である従来の製造方法よりも、シリコン結晶子が多量に生成すると考えられる。これらの理由は以下のとおりである。
従来の製造方法においては、まず、CaSi2が酸で処理されて、Si層を有するSi6H6となる。ここで、該Si6H6が加熱されて水素が離脱してシリコンに変化する際に、シリコン結晶が生じるためには、Si層中でのSi同士の結合の開裂エネルギーと、Si原子のシリコン結晶への再配列エネルギーとを、供給することが必要と考えられる。
他方、本発明の製造方法においては、CaSiが酸で処理された活性中間体は、Si6H6で有していたSi層を有していないし、かつ、不安定である。そうすると、活性中間体が加熱されて水素が離脱してシリコンに変化する際に、シリコン結晶が生じるためには、従来の製造方法で要していたSi層中でのSi結合の開裂エネルギーは不要である。また、Si原子のシリコン結晶への再配列エネルギーは必要であるものの、当該エネルギーを、不安定な活性中間体が安定なシリコン材料又はシリコン結晶に変化する際の安定化エネルギーで補うことができる。不安定な活性中間体の存在が、本発明の製造方法においてシリコン結晶を生成する推進力となっていると推察される。
本発明の製造方法により、内部に空隙が分散して存在する本発明のシリコン材料を得ることができる。この空隙は、走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。本発明のシリコン材料を、リチウムイオン二次電池の活物質として使用することを考慮すると、上記空隙は充放電の際の活物質の膨張収縮を緩和する役割を果たすと考えられ、また、上記空隙が電解液で満たされる場合にはリチウムイオンの移動経路となると考えられる。
また、本発明の製造方法においては、加熱条件を、含ハロゲンポリマーの分解温度以上の温度で加熱する工程、及び、分解後のポリマーの炭化温度以上の温度で加熱する工程を含む2段階以上の多段階加熱条件としてもよい。ここで、含ハロゲンポリマーの分解温度とは、含ハロゲンポリマーからハロゲン化水素酸又はハロゲン分子が離脱する温度である。昇温速度を変化させて、多段階加熱条件としてもよい。
さらに、本発明の製造方法においては、加熱条件を、含ハロゲンポリマーの融点若しくはガラス転移点以上の温度で加熱する工程、含ハロゲンポリマーの分解温度以上の温度で加熱する工程、及び、分解後のポリマーの炭化温度以上の温度で加熱する工程を含む3段階以上の多段階加熱条件としてもよい。
ポリ塩化ビニルを例にして説明すると、ポリ塩化ビニルの融点は概ね85〜210℃の範囲内にあり、ポリ塩化ビニルの分解温度、すなわち塩化水素発生温度は概ね210〜300℃の範囲内にある。そうすると、本発明の製造方法において、含ハロゲンポリマーとしてポリ塩化ビニルを採用した場合は、加熱条件を200℃付近で加熱する第1加熱工程、300℃付近で加熱する第2加熱工程、900℃付近で加熱する第3加熱工程とする3段階加熱条件としてもよい。第1加熱工程を経ることで、CaSiがポリ塩化ビニルのマトリックス中により均一に分散することができると推定される。次に、第2加熱工程を経ることで、好適な分散状態のCaSiがHClと効率的に反応できるため、活性中間体及びSiへのCaSiの変換率が高くなると推定される。そして、最後に第3加熱工程を経ることで、CaSiからSiへの最終的な変換率が向上するとともに、シリコン材料中のシリコン結晶の量が増加し、かつ、シリコン材料に対してより均一な炭素被覆が為された炭素被覆シリコン材料が得られると推定される。
本発明の製造方法は、アルゴン、ヘリウム、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
本発明の製造方法において具体的に用いられる製造装置としては、高周波誘導加熱炉、電気炉、アーク炉、ガス炉等の加熱炉を例示できる。加熱炉は複数の部屋に区画されていてもよい。CaSiと含ハロゲンポリマーは加熱炉内に直接配置されてもよいし、同一又は別の容器内に配置されたCaSi及び/又は含ハロゲンポリマーが容器ごと加熱炉内に配置されてもよい。
容器としては、モリブデン、タングステン、タンタル若しくはニオブ等の高融点金属製のもの、又は、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、コージライト、ムライト、ステアタイト、カルシア、マグネシア、サイアロン、石英、バイコール若しくはサファイアガラス等のセラミックス製のものがよい。
容器は、密閉可能であってもよいし、通気部が設けられていてもよく、また、内部圧に応じて開閉する弁を具備していてもよい。容器として、蓋付きの坩堝等を用いてもよい。
CaSiと含ハロゲンポリマーは互いに接触した状態であってもよいし、非接触下であってもよいことは前述した。ここで、CaSiと含ハロゲンポリマーを互いに接触した状態とするには、CaSiと含ハロゲンポリマーを混合した混合物を製造装置に供すればよいし、また、混合機能を有する加熱炉にCaSiと含ハロゲンポリマーを供してもよい。CaSiと含ハロゲンポリマーを非接触下とするには、単純に、加熱炉内で両者を離して配置すればよく、具体的には、加熱炉内の区画された部屋や容器を利用して、両者を非接触状態とすればよい。
CaSiと含ハロゲンポリマーを非接触下とすることで、反応コントロールの容易性の向上、局所的な発熱の抑制、本発明の炭素被覆シリコン材料の粒度分布制御などの有利な効果が奏される。
本発明のシリコン材料は、粉砕や分級を経て、一定の粒度分布の粒子としてもよい。一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合における、本発明のシリコン材料の好ましい粒度分布としては、平均粒子径(D50)が1〜30μmの範囲内であることを例示でき、より好ましくは平均粒子径(D50)が1〜10μmの範囲内であることを例示できる。
本発明のシリコン材料は、Caやハロゲンなどの原料由来の不純物や、不可避の不純物を含有する場合がある。そのような不純物の存在量(質量%)として、以下の範囲を例示できる。
Ca:0〜5質量%、0〜3質量%、0〜2質量%、0.1〜3質量%、0.5〜2質量%
ハロゲン:0〜10質量%、0.001〜6質量%
本発明のシリコン材料は、比誘電率5以上の溶媒で洗浄する洗浄工程に供されるのが好ましい。洗浄工程は、本発明のシリコン材料に付着している不要な成分を、比誘電率5以上の溶媒(以下、「洗浄溶媒」ということがある。)で洗浄することにより除去する工程である。同工程は、主に、ハロゲン化カルシウムなどの洗浄溶媒に溶解し得る塩を除去することを目的としている。例えば、含ハロゲンポリマーとしてポリ塩化ビニルを用いた場合、本発明のシリコン材料には、CaCl2が残存していると推定される。そこで、洗浄溶媒で本発明のシリコン材料を洗浄することにより、CaCl2を含む不要な成分を洗浄溶媒に溶解させて除去できる。洗浄工程は、洗浄溶媒中に本発明のシリコン材料を浸漬させる方法でもよいし、本発明のシリコン材料に対して洗浄溶媒を浴びせる方法でもよい。
洗浄溶媒としては、塩の溶解しやすさの点から、比誘電率がより高いものが好ましく、比誘電率が10以上や15以上の溶媒をより好ましいものとして提示できる。洗浄溶媒の比誘電率の範囲としては、5〜90の範囲内が好ましく、10〜90の範囲内がより好ましく、15〜90の範囲内がさらに好ましい。また、洗浄溶媒としては、単独の溶媒を用いても良いし、複数の溶媒の混合溶媒を用いても良い。
洗浄溶媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ベンジルアルコール、フェノール、ピリジン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジクロロメタンを挙げることができる。これらの具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換したものを洗浄溶媒として採用しても良い。洗浄溶媒としての水は、蒸留水、逆浸透膜透過水、脱イオン水のいずれかが好ましい。
参考までに、各種の溶媒の比誘電率を表1に示す。
洗浄溶媒としては、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、アセトンが特に好ましい。
洗浄溶媒として複数の溶媒の混合溶媒を用いる場合には、水100容量部に対し、その他の溶媒を好ましくは1〜100容量部、より好ましくは2〜50容量部、さらに好ましくは5〜30容量部の割合で混合した混合溶媒を採用するとよい。洗浄溶媒として混合溶媒を用いることで、本発明のシリコン材料の洗浄溶媒に対する分散性や親和性が向上する場合があり、その結果、不要成分が洗浄溶媒に好適に溶出する。
洗浄工程の後には、濾過及び乾燥にて本発明のシリコン材料から洗浄溶媒を除去することが好ましい。
洗浄工程は複数回繰り返してもよい。その際には、洗浄溶媒を変更しても良い。例えば、初回の洗浄工程の洗浄溶媒として比誘電率の著しく高い水を選択し、次回の洗浄溶媒として水と相溶し、かつ沸点の低いエタノールやアセトンを用いることによって、水を効率的に除去できるとともに、容易に洗浄溶媒の残存を防ぐことができる。
洗浄工程の後の乾燥工程は減圧環境下で行うことが好ましく、洗浄溶媒の沸点以上の温度で行うことが更に好ましい。温度としては80℃〜110℃が好ましい。
本発明のシリコン材料は、上述のとおり、本発明の製造方法を経て製造される。ここで、単に、CaSiと含ハロゲンポリマーの共存下、当該含ハロゲンポリマーの炭化温度以上の温度で加熱する工程のみを経た本発明のシリコン材料は、炭素で被覆されている。本発明の製造方法においては、炭素被覆シリコン材料を1段階の製造工程で製造することができる。
また、本発明の製造方法で得られた炭素被覆シリコン材料に対して、さらに炭素で被覆する、追加炭素被覆工程を行ってもよい。また、追加炭素被覆工程の前に、炭素被覆シリコン材料の少なくとも一部の炭素を除去する炭素除去工程を行ってもよい。
追加炭素被覆工程としては、従来の公知技術を適用すればよい。例えば、材料を非酸化性雰囲気下にて有機物ガスと接触させて加熱し、有機物ガスを炭素化する、いわゆる熱CVD法を適用すればよい。
有機物ガスとしては、有機物が気化したガス、有機物が昇華したガスあるいは有機物の蒸気を用いることができる。また有機物ガスを発生する有機物としては、非酸化性雰囲気下での加熱によって熱分解して炭化し得るものが用いられ、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサンなどの飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、アセチレンなどの不飽和脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、安息香酸、サリチル酸、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル類、脂肪酸類などから選択される一種又は混合物が挙げられる。有機物としては、プロパン等の飽和脂肪族炭化水素が好ましい。
追加炭素被覆工程における処理温度は、有機物の種類によって異なるが、有機物ガスが熱分解する温度より50℃以上高い温度とするのがよい。しかし、温度が高すぎる場合や有機物ガス濃度が高すぎる場合は、いわゆるススが発生するので、ススが発生しない条件を選択するのがよい。形成される炭素層の厚さは、有機物の量と処理時間によって制御することができる。
追加炭素被覆工程は、材料を流動状態にして行うことが望ましい。このようにすることで、材料の全表面を有機物ガスと接触させることができ、均一な炭素層を形成することができる。材料を流動状態にするには、流動床を用いるなど各種方法があるが、材料を撹拌しながら有機物ガスと接触させるのが好ましい。例えば、内部に邪魔板をもつ回転炉を用いれば、邪魔板に留まった材料が回転炉の回転に伴って所定高さから落下することで撹拌され、その際に有機物ガスと接触して炭素層が形成されるので、全体に均一な炭素層を形成することができる。
追加炭素被覆工程を行って得られた本発明の炭素被覆シリコン材料は、2種類の方法で炭素被覆を為された状態となる。このような本発明の炭素被覆シリコン材料は、1種類の炭素被覆方法では不十分であった被覆状態を他の炭素被覆方法で補完された状態となる。そのため、かかる本発明の炭素被覆シリコン材料を負極活物質として具備する二次電池は、電池特性が好適化すると考えられる。
炭素除去工程としては、酸素存在下で炭素被覆シリコン材料を加熱して、炭素を二酸化炭素又は一酸化炭素として除去すればよい。炭素除去工程においては、炭素被覆シリコン材料の一部又は全部の炭素を除去することができる。加熱温度としては、350〜650℃を例示できる。
炭素除去工程においては、炭素被覆シリコン材料中に含まれていた不純物も同時に除去されることが期待できる。そのため、炭素除去工程を経た本発明のシリコン材料は好適な材料であると推察され、さらに、追加炭素被覆工程に供されて製造された本発明の炭素被覆シリコン材料も好適な材料であると推察される。
本発明の炭素被覆シリコン材料は、炭素と珪素を必須の構成要素とする。本発明の炭素被覆シリコン材料を100とした場合に、炭素は1〜30質量%の範囲内で含まれるのが好ましく、3〜20質量%の範囲内で含まれるのがより好ましく、5〜15質量%の範囲内で含まれるのがさらに好ましい。本発明の炭素被覆シリコン材料を100とした場合に、珪素は50〜99質量%の範囲内で含まれるのが好ましく、60〜97質量%の範囲内で含まれるのがより好ましく、65〜95質量%の範囲内で含まれるのがさらに好ましい。
本発明のシリコン材料は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の負極活物質として使用することができる。以下、本発明の二次電池について、その代表としてリチウムイオン二次電池を例にして、説明する。本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のシリコン材料を負極活物質として具備する。具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、本発明のシリコン材料を負極活物質として具備する負極、電解液及びセパレータを具備する。
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
正極活物質としては、層状化合物のLiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)、Li2MnO3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn2O4等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の各組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも正極活物質として使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体(S)、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS2などの金属硫化物、V2O5、MnO2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属または当該イオンを含む化合物を用いればよい。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.005〜1:0.5であるのが好ましく、1:0.01〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.03〜1:0.1であるのがさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
結着剤は、活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースを例示することができる。これらの結着剤を単独で又は複数で採用すれば良い。
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.001〜1:0.3であるのが好ましく、1:0.005〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.01〜1:0.15であるのがさらに好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。集電体については、正極で説明したものを適宜適切に採用すれば良い。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
負極活物質としては、本発明のシリコン材料を含むものであればよく、本発明のシリコン材料のみを採用してもよいし、本発明のシリコン材料と公知の負極活物質を併用してもよい。
負極に用いる導電助剤及び結着剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を混合し、スラリーを調製する。上記溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、フッ素化エチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン・BR>A1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
電解質としては、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2等のリチウム塩を例示できる。
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3などのリチウム塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から、外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例および比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
以下のとおり、実施例1のシリコン材料及びリチウムイオン二次電池を製造した。
2gのCaSiと4gのポリ塩化ビニル(重合度1100)を混合し、混合物とした。当該混合物中、CaとClのモル比は、1:2.2であった。アルゴン雰囲気下、当該混合物をアルミナ製坩堝に入れて蓋をし、電気炉内に配置した。電気炉内を以下のプログラムで加熱し、前記混合物を焼成体とした。
室温から250℃まで5℃/min.の速度で昇温
250℃から350℃まで100℃/60min.の速度で昇温
350℃から900℃まで5℃/min.の速度で昇温
900℃に達したら加熱終了
得られた焼成体を水で洗浄した後に、アセトンで洗浄し、次いで減圧乾燥して、炭素で黒色に被覆された実施例1のシリコン材料を得た。
負極活物質として実施例1のシリコン材料45質量部、負極活物質として天然黒鉛40質量部、導電助剤としてアセチレンブラック5質量部、バインダーとしてポリアミドイミド10質量部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを混合し、スラリーを調製した。上記スラリーを、集電体としての厚さ約20μmの電解銅箔の表面にドクターブレードを用いて塗布し、乾燥して、銅箔上に負極活物質層を形成した。その後、ロールプレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させた。これを200℃で2時間真空乾燥し、負極活物質層の厚さが20μmの負極を形成した。
上記の手順で作製した負極を評価極として用い、リチウムイオン二次電池(ハーフセル)を作製した。対極は金属リチウム箔(厚さ500μm)とした。
対極をφ15mm、評価極をφ11mmに裁断し、セパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルター及びCelgard社製「Celgard2400」)を両極の間に介装して電極体とした。この電極体を電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉株式会社製)に収容した。電池ケースに、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1(体積比)で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解した非水電解液を注入し、電池ケースを密閉して、実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
(比較例1)
原料としてCaSi2を用い、1gのCaSi2と1.3gのポリ塩化ビニル(重合度1100)を混合して混合物とした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1のシリコン材料及びリチウムイオン二次電池を製造した。なお、上記混合物中、CaとClのモル比は、1:2であった。
(評価例1)
実施例1のシリコン材料、及び、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。得られたSEM像を図1及び図2に示す。図1及び図2から、実施例1のシリコン材料は、炭素で被覆された粒子であることがわかる。図2からは、シリコン材料の内部に、空隙が数多く分散していることがわかる。
(評価例2)
実施例1のシリコン材料につき、粉末X線回折装置にて、X線回折測定を行った。図3に実施例1のシリコン材料のX線回折チャートを示す。
図3のX線回折チャートから、シリコン結晶子を示すピークが確認された。シェラーの式からシリコン結晶子の大きさを算出したところ、60nm程度であった。
(評価例3)
実施例1のリチウムイオン二次電池及び比較例1のリチウムイオン二次電池について、温度25℃、電流0.2mAで評価極の対極に対する電圧が0.01Vになるまで放電を行い、次いで温度25℃、電流0.2mAで評価極の対極に対する電圧が1Vになるまで充電を行った。この時の充放電曲線を図4に載せる。
図4から、実施例1のリチウムイオン二次電池の充電曲線の方が、0.4V〜0.5Vに存在する電位変化の小さな平坦部分が、広いことがわかる。当該平坦部分は、シリコン結晶が充電に寄与するときに現れると考えられる。そのため、実施例1のシリコン材料の方が、比較例1のシリコン材料よりも、シリコン結晶の量が多いといえる。実施例1のシリコン材料の製造方法と比較例1のシリコン材料の製造方法とでは、同じ加熱条件であったことを鑑みると、CaSiを原料とした実施例1のシリコン材料の製造方法の方が、シリコン結晶をたやすく製造できるといえる。