図1は、本発明の手動解除機構108が好適に適用されるハイブリッド車両に備えられるハイブリッド車両用駆動装置12の構成を説明する骨子図である。この図1に示すように、本実施例のハイブリッド車両用駆動装置12(以下、「駆動装置12」という。)は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース14(以下、「ケース14」という)内において共通の軸心上に配設された入力軸16と、その入力軸16に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパ(振動減衰装置)等を介して間接に連結された差動部18と、その差動部18と図示しない駆動輪との間の動力伝達経路に伝達部材(伝動軸)20を介して直列に連結されている自動変速部22と、その自動変速部22に連結された出力軸24とを、直列に備えている。
本実施例の駆動装置12は、例えばハイブリッド車両(以下、「車両」という。)において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸16に連結された走行用の駆動力源としての例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン26により発生させられた動力を、出力軸24から図示しない差動歯車装置およびその差動歯車装置と一対の駆動輪との間の図示しない車軸を介して一対の駆動輪へと伝達する。なお、本実施例の駆動装置12において、エンジン26と差動部18とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパ等を介する連結はこの直結に含まれる。また、駆動装置12はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
差動部18は、第1電動機MG1と、前記入力軸16に入力されて前記エンジン26の出力を機械的に分配する機械的機構であってそのエンジン26の出力を第1電動機MG1及び伝達部材20に分配する差動機構としての動力分配装置28と、伝達部材20と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機MG2とを、備えている。本実施例の駆動装置12に備えられた第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、三相コイルが巻回された固定子と永久磁石が備えられた回転子から成る3相交流同期モータから構成されており、何れも発動機及び発電機として機能する所謂モータジェネレータとして機能し、本発明の電動モータに相当する。斯かる構成により、差動部18は、第1電動機MG1及び第2電動機MG2を介して運転状態が制御されることにより、入力回転速度(入力軸16の回転速度)と出力回転速度(伝達部材20の回転速度)の差動状態が制御される電気式差動部として機能する。
動力分配装置28は、シングルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されている。この遊星歯車装置は、サンギヤS0、遊星歯車P0、その遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持するキャリアCA0、遊星歯車P0を介してサンギヤS0と噛み合うリングギヤR0を回転要素(要素)として備えており、キャリアCA0は入力軸16すなわちエンジン26に連結され、サンギヤS0は第1電動機MG1に連結され、リングギヤR0は伝達部材20に連結されている。また、エンジン26が連結された入力軸16は、ブレーキB0を介して非回転部材であるケース14に選択的に連結される。また、エンジン26により回転駆動されて作動油を吐出し、エンジン26の停止により油圧制御回路への作動油の供給を停止する、機械式油圧ポンプ30が入力軸16に連結されている。
自動変速部22は、差動部18と図示しない駆動輪との間の動力伝達経路にシングルピニオン型の遊星歯車装置32、遊星歯車装置34を主体として構成され、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。遊星歯車装置32、34は、それぞれサンギヤS1、S2、遊星歯車P1、P2、それら遊星歯車P1、P2を自転及び公転可能に支持するキャリアCA1、CA2、遊星歯車P1、P2を介してサンギヤS1、S2と噛み合うリングギヤR1、R2を備えている。
また、自動変速部22では、サンギヤS1がブレーキB1を介してケース14に選択的に連結されるようになっている。また、キャリアCA1とリングギヤR2とが一体的に連結され、第2ブレーキB2を介してケース14に選択的に連結されるようになっていると共に、一方向クラッチF1を介してそのケース14に対する一方向の回転が許容されつつ逆方向の回転が阻止されるようになっている。また、サンギヤS2が第1クラッチC1を介して伝達部材20に選択的に連結されるようになっている。また、一体的に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2が第2クラッチC2を介して伝達部材20に選択的に連結されるようになっている。また、リングギヤR1とキャリアCA2とが一体的に連結されると共に出力軸24に連結されている。また、図1には図示しないが、出力軸24には車両用パーキングロック装置36(以下、「パーキングロック装置36」という。)の車両用パーキングロック機構37(以下、「パーキングロック機構37」という。)のパーキングギヤ38が固定的に連結されている。
自動変速部22においては、第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により第2速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により第3速ギヤ段が成立させられ、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。また、たとえば第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2の全ての解放によりニュートラル「N」状態とされ、ブレーキB0の係合により第1電動機MG1および第2電動機MG2の両方で一対の駆動輪を駆動可能な状態すなわち両駆動状態のモータ走行となる。
図2は、シフトバイワイヤ方式のパーキングロック装置36の作動を制御するパーキングロック用電子制御装置40(SBW−ECU40)を説明する図である。パーキングロック用電子制御装置40は、CPU、ROM、RAMおよび入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、差動部18および自動変速部22から成る変速機のシフト状態を切替え、且つ出力軸24をパーキングロックする車両用パーキングロック装置36の作動を制御する。パーキングロック用電子制御装置40には、HV−ECU42を介してシフトレバーの操作位置に応じてシフトレバーセンサ44から出力されたシフトレバー位置信号R/N/D、およびPスイッチ45(P−SW45)のスイッチ操作に応じたP位置への切換要求としてのPスイッチ信号Pが、供給される。電動アクチュエータ46は、電動モータ48の相対角変位を計測するエンコーダ50と、シフトセンサ52と、電磁クラッチ88、とを備えている。電磁クラッチ88は、電動モータ48に駆動されるウォームホイール96とその動力を出力する出力ギヤ104との間の動力伝達を断接する。パーキングロック用電子制御装置40は、シフトレバー位置信号R/N/Dに応じて、ブレーキオン且つパーキングロック機構37がパーキングロック状態にある場合には、電動モータ48の回転角度(モータ角度)をエンコーダ50から取得しつつ、電動モータ48を回転駆動させると同時に、電磁クラッチ88を接続させることにより、制御軸64をシフトレバー位置信号R/N/Dに対応する非パーキング位置(NotP位置)の回動位置に回動させ、パーキングロック機構37を非パーキングロック状態へ切替える。また、パーキングロック用電子制御装置40は、Pスイッチ信号Pの入力を検知すると、電動モータ48を回転駆動させると同時に電磁クラッチ88を接続させてパーキング位置(P位置)に対応する回動位置に制御軸64を回転駆動させることによりパーキングロック機構37をパーキングロック状態とする。また、パーキングロック用電子制御装置40は、シフト状態が選択されて、電動モータ48が停止した状態では、電磁クラッチ88の接続を解除させる。また、制御軸64には制御軸64の絶対角を計測するシフトセンサ52が連結されており、パーキングロック機構37がパーキング位置にあるか非パーキング位置にあるかが検出される。パーキングロック機構37をパーキング位置から非パーキング位置に手動で切替えるバックアップレバー110(P解除レバー)が、連結部材112を介して連結されている。バックアップレバー110の手動操作力により、制御軸64はパーキング位置に対応する回動位置から非パーキング位置(NotP位置)に対応する回動位置へ回動させられる。これにより、たとえば電動モータ48が故障しても、パーキングロック機構37が手動でパーキング位置(P位置)から非パーキング位置(NotP位置)へ切替えられるため、車両を移動させることが可能となる。
図3は、車両に備えられるシフトバイワイヤ方式の車両用パーキングロック装置36の構成を示す図である。車両用パーキングロック装置36は、パーキングスイッチ(Pスイッチ)45のスイッチ操作に従って作動する電動アクチュエータ46により、前記変速機をロック状態と非ロック状態とに切替るものであり、また、シフトレバーのシフト操作に応じて作動する電動アクチュエータ46により、前記変速機のシフト状態を切り替える。パーキングロック装置36は、パーキングロック機構37と、油圧式摩擦係合装置に係合圧を供給する油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧制御装置内の油圧回路の油路を切換えるマニュアルバルブ68と、電動アクチュエータ46とを、備えている。パーキングロック機構37は、図示しない駆動輪と作動的に連結されている出力軸24に固定されたパーキングギヤ38と、パーキングギヤ38と噛み合う噛合位置へ回動可能に設けられて選択的にパーキングギヤ38の回転をロックするパーキングロックポール54と、パーキングロックポール54と当接するテーパカム部56に挿し通されてテーパカム部56を一端部において支持するコントロールロッド58と、コントロールロッド58に設けられてテーパカム部56をその小径方向へ付勢するスプリング60と、制御軸64に固定されることにより支持され、コントロールロッド58の他端部に回動可能に接続されて節度機構によりパーキング位置と非パーキング位置とに位置決めされるディテントレバー62と、ディテントレバー62の回転に節度を与えつつパーキング位置と複数の非パーキング位置とのいずれかにディテントレバー62を保持するディテントスプリング66と、を備えている。制御軸64により支持されたディテントレバー62は、電動モータ48(SBWモータ)により一回動中心線Oまわりに回動させられる。
図3では、パーキングロック機構37が非パーキング位置にある場合を表している。パーキングロックポール54は、コントロールロッド58の一端に設けられているテーパカム部56との当接位置が変化させられることで、その位置が調節される。例えば、矢印A方向にテーパカム部56が移動させられ、パーキングロックポール54がテーパカム部56の小径部と当接する場合、パーキングロックポール54の先端が鉛直下方(矢印B方向)に移動されるに伴って、パーキングギヤ38との噛合いが外れ、パーキングロック機構37のパーキングロック状態が解除される(図3)。一方、パーキングロックポール54がテーパカム部56の大径部と当接する場合、パーキングギヤ38とパーキングロックポール54とが噛み合うことで、パーキングロック機構37が図示しないパーキングロック状態とされる。パーキングロック機構37がパーキングロック状態にある場合、パーキングロックポール54とパーキングギヤ38とが噛み合わされることで、パーキングギヤ38の回転が阻止され、駆動輪の回転も同様に阻止される。
また、コントロールロッド58の軸方向への移動は、制御軸64の回転位置すなわちディテントレバー62の回動位置に応じて調節される。ディテントレバー62は、制御軸64を介して電動アクチュエータ46の出力ギヤ104に作動的に連結されており、コントロールロッド58と共に電動アクチュエータ46により一回動軸線Oまわりに駆動されて、前記変速機のシフト状態を切り換えるための部材として機能する。ディテントレバー62は、板状部材であり、下端部に制御軸64が固定され、その上端部にパーキング位置に対応するパーキング凹溝72と、たとえばニュートラル位置に対応するニュートラル凹溝74などの非パーキング位置のそれぞれに対応する複数の非パーキング凹溝とを、含む係合凹溝76を備えている。また、ディテントスプリング66は、板バネであり、その基端部がバルブボデー67に固定され、その先端部に回転可能に支持された係合ローラ78をディテントレバー62の係合凹溝76の溝底に係合するように付勢した状態で備えている。マニュアルバルブ68は、その一端部においてディテントレバー62のアーム部80に設けられたピン82を介してディテントレバー62に係合している。そして、マニュアルバルブ68のスプール84は、ディテントレバー62の回転により、バルブボデー67内でその軸心方向に移動可能に設けられている。ここで、パーキング凹溝72にディテントスプリング66の係合ローラ78が係合される制御軸64の回転位置がパーキング位置、すなわちパーキングギヤ38とパーキングロックポール54とが噛み合う位置に対応する。一方、ニュートラル凹溝74に係合ローラ78が係合される制御軸64の回転位置は、非パーキング位置、すなわちパーキングギヤ38とパーキングロックポール54との噛合いが解除される位置に対応するとともに、マニュアルバルブ68のスプール84の軸方向位置で決定されるN(ニュートラル)位置に対応する。ニュートラル位置以外の非パーキング位置においても同様に、それぞれの制御軸64の回転位置は、マニュアルバルブ68の各D(ドライブ)位置、R(リバース)位置に対応する。
制御軸64の一端部である図3における左側端部には、断面長方形状の係合部86が形成されている。この係合部86は、電動アクチュエータ46の出力ギヤ104に接続されている。電動アクチュエータ46は、電動モータ48と電磁クラッチ88と減速ギヤ機構90、とを備えている。電動モータ48の出力軸には、ウォームギヤ92が形成されている。ウォームギヤ92には、ケーシング94に回転可能に支持された電磁クラッチ88の入力軸に連結されたウォームホイール96が噛合している。電磁クラッチ88の入力軸の内周側に同心に配置された出力軸98には小径ギヤ100が形成されている。この小径ギヤ100には、ケーシング94に回転可能に支持された中間軸101に形成された大径ギヤ102が噛合している。また、中間軸101に形成された小径ギヤには、部分円弧に噛合歯が形成された扇形状の出力ギヤ104が嵌合されている。出力ギヤ104はケーシング94に回転可能に支持され、その回動中心には、断面長方形状の係合穴106が形成されている。電磁クラッチ88の出力軸98の小径ギヤ100、中間軸101の大径ギヤ102、中間軸101の小径ギヤおよび出力ギヤ104などのギヤ列により減速ギヤ機構90が構成されている。出力ギヤ104の係合穴106には、前述の制御軸64の係合部86が係合される。電磁クラッチ88は、不図示の励磁コイルを励磁してウォームホイール96と小径ギヤ100とを接続させる。シフトレバー位置信号R/N/DまたはPスイッチ信号Pがパーキングロック用電子制御装置40に供給されていないときには電磁クラッチ88は解放される。このため、後述する手動操作により制御軸64が回動させられる際には、出力ギヤ104、中間軸101の大径ギヤ102および小径ギヤ、出力軸98の小径ギヤ100なども制御軸64の回動に連動させられるが、電動モータ48は連動しない。
パーキングロック用電子制御装置40は、Pスイッチ信号Pに応じて、電磁クラッチ88を接続させると同時に、制御軸64を図3におけるC方向に回転させて制御軸64の回転位置がパーキング位置になるように電動モータ48を回転駆動させる。また、パーキングロック用電子制御装置40は、シフトレバー位置信号R/N/Dに応じて、電磁クラッチ88を接続させると同時に、制御軸64を図3におけるC方向あるいはD方向に回転させて制御軸64の回転位置がR位置、N位置、D位置のいずれかになるように電動モータ48を回転駆動させる。なお、パーキングロック用電子制御装置40は、電動モータ48の非作動状態では、電磁クラッチ88を解放させて、電動モータ48と制御軸64との接続を解除させる。
上記のように構成されたパーキングロック装置36は、たとえば電動モータ48の故障などにより、電動アクチュエータ46によりパーキングロック機構37をロック状態と非ロック状態とに切替えができない場合などにおいて、手動でパーキングロック機構37をロック状態から非ロック状態へ切替可能とする手動解除機構108を備えている。
図4は、手動解除機構108の構成を説明する斜視図である。また、図中の右側が車両前方であり、図中の左側が車両後方である。手動解除機構108は、手動で操作されるバックアップレバー110と、アウターレバー114と、バックアップレバー110とアウターレバー114とを連結する連結部材112とを備えている。連結部材112は、バックアップレバー110への運転者による手動の操作力によりアウターレバー114を回動させて、制御軸64をロック状態の回動位置から非ロック状態の回動位置へ切替える操作力伝達部材として機能する。連結部材112は、レバー部材として機能するアウターレバー114に連結される第1連結部材116と、バックアップレバー110に連結される第2連結部材118とが結合部120により結合されて構成されている。
図5は、手動解除機構108のアウターレバー114を回動軸線方向に視た正面図であり、図6は、アウターレバー114の側面図である。アウターレバー114は、円環状のレバー本体122と、レバー本体122から径方向外側に突き出して形成されたレバー部124と、レバー部124の突出方向の先端に形成された穴126を備えている。レバー本体122には、回動中心を挟んで対向するように係合穴128の内周面から突き出す一対の突起部130が形成されている。制御軸64は、出力ギヤ104の係合穴106に係合される係合部86とはディテントレバー62を挟んで反対側の先端部に形成された断面長方形状の係合部132を備えている。この係合部132が、図6に示されるように、レバー本体122の一対の突起部130と干渉しないように周方向の間隙を形成して係合穴128に貫通して係合されている。図5の実線の係合部132は、パーキングロック機構37がパーキング位置にあるときの制御軸64の回転位置であり、図5の破線の係合部132は、パーキングロック機構37がニュートラル位置の非パーキング位置にあるときの制御軸64の回転位置である。また、図5において、手動解除機構108のバックアップレバー110が解除方向に操作されていないときのアウターレバー114が実線で示されている。制御軸64の係合部132とレバー本体122の一対の突起部130との間には、電動アクチュエータ46の駆動による制御軸64の回動操作角以上のバックラッシが設けられるとともに、後述するようにアウターレバー114は図5の実線位置に保持されるため、電動アクチュエータ46の駆動により、制御軸64がパーキング位置から非パーキング位置の回動操作角の範囲内で図5の矢印C方向、あるいは矢印D方向に回動されるときに、一対の突起部130は係合部132と干渉しない。係合部132の先端にはナット134が設けられ、レバー本体122に制御軸64が相対回転可能に連結されている。レバー部124の穴126には、後述する第1連結部材116の第1インナーケーブル144の一端に形成された係合突起136が回動可能に嵌め入れられ、ナット138により抜け止めされている。これにより、第1連結部材116がアウターレバー114および制御軸64を介してパーキングロック機構37に連結される。
図7は、連結部材112の結合部120のカバーケース140の取付前の状態を車両の下側から示す図である。図8は、カバーケース140内の第1連結部材116の第1インナーケーブル144の他端および第2連結部材118の第2インナーケーブル148の他端との連結状態を説明する図である。図7に示されるように、第1連結部材116は、第1アウターケーブル142と第1アウターケーブル142内に挿通された第1インナーケーブル144とから構成され、第2連結部材118は、第2アウターケーブル146と第2アウターケーブル146内に挿通された第2インナーケーブル148とから構成されている。第1アウターケーブル142のアウターレバー114に嵌合された一端とは反対側の他端が、取付部材150の一端に固定されている。取付部材150は、後述するステー152に第1連結部材116を固定する取付板部154と、取付板部154よりも他端側に後述するカバーケース140の開口部が係止される係止突起156、とを備え、その他端は後述するインナーケース158の開口に嵌入可能に構成されている。また、第1アウターケーブル142の他端から突き出して取付部材150を一端から他端へと貫通した第1インナーケーブル144は、その他端に係合突部160を備えている。第2アウターケーブル146は、その他端が、一端に開口が形成された有底円筒状部材であって、図7に示されるように車両の上方および下方に対応する位置に開口が形成されたインナーケース158の他端に固定されている。第1連結部材116と第2連結部材118との結合部120は、インナーケース158の開口に取付部材150の他端が嵌め入れられることにより、第1アウターケーブル142の他端および第2アウターケーブル146の他端とを連結し、第1アウターケーブル142の他端から取付部材150を介して突き出す第1インナーケーブル144の他端に設けられた係合突部160が、第2アウターケーブル146の他端からインナーケース158内に突き出す第2インナーケーブル148の他端に設けられた係合穴162に図8に示されるように係合されて、インナーケース158内で第1インナーケーブル144の他端と第2インナーケーブル148の他端とを連結している。カバーケース140は、たとえばスチール製の筒状部材であり、取付部材150の係止突起156に係止される係止穴164を開口部において周方向に複数有している。カバーケース140は、取付部材150の係止突起156が係止穴164に係止されることにより取付部材150に取付けられている。これにより、結合部120は、第2アウターケーブル146の他端と第1インナーケーブル144の他端および第2インナーケーブル148の他端とをカバーケース140内に収容して、それらを保護する。また、カバーケース140は、第2アウターケーブル146の外周面に対して摺動可能である。
図4において、ステー152は、第1板部166と第1板部166に略直交するように立設された第2板部168とを備えている。取付板部150は、第1アウターケーブル142の他端が固定された取付部材150の一端側が第2板部168の取付板部154との当接面とは反対側の面へ第2板部168の中央部から突き出すように、ボルトにより第2板部168に固定されている。第1板部166は、後述するマウント170にボルトにより固定されている。結合部120は取付板部154を介して結合部支持部材として機能するステー152に支持される。
図9は、図4の第1連結部材116の第1インナーケーブル144の一端近傍の拡大図である。第1連結部材116は、レバー本体122よりも車両の下方に配置されたレバー部124に回動可能に連結されており、第1連結部材116のレバー部124の穴126に係合された係合突起136は、レバー本体122よりも車両の下方に配置される。そのため、第1連結部材116は、第1インナーケーブル144が変速機を収容するケース14の車両下方側において直線上に変位可能に、反力ブラケット172により支持されている。反力ブラケット172は、ケース14とは別体であり、ボルトにてケース14に固定され、第1連結部材116を支持する本発明の支持部材として機能する。第1インナーケーブル144の第2インナーケーブル148とは反対側の一端が連結されたアウターレバー114のレバー部124と反力ブラケット172との間には、第1インナーケーブル144および第1インナーケーブル144の前述の係合突起136が嵌合されたレバー部124を、図5の矢印C方向すなわち図9の反時計回りに付勢するコイル状のばねである付勢部材としての弾性部材174が第1インナーケーブル144と同軸に配置されている。反力ブラケット172は、弾性部材174からの反力を受ける。この弾性部材174のアウターレバー114の付勢方向は、バックアップレバー110の図4の矢印E方向への手動操作力による連結部材112の変位方向とは逆方向であり、たとえば車両の加速度などに起因したバックアップレバー110への手動操作力以外の外力がアウターレバー114に加わる際のアウターレバー114の図5の矢印D方向への回動が阻止される。これにより、アウターレバー114の一対の突起部130の係合部132への干渉が抑制されて、アウターレバー114と制御軸64との干渉による摩耗が抑制される。また、アウターレバー114のレバー本体122に当接して、弾性部材174の付勢力によるアウターレバー114のレバー部124の反時計回りの所定以上の回動を規制するストッパ176がケース14に固定されて設けられている。アウターレバー114は、連結部材112の外周に装着されたコイルスプリングなどの円筒状の弾性部材174の付勢力とその付勢力による回動を規制するストッパ176により、アウターレバー114の図5の実線で示されるレバー軸回りの回動位置(初期位置)への位置決め精度が向上される。このため、電動アクチュエータ46により駆動される制御軸64の回動へのアウターレバー114の干渉が阻止される。また、ストッパ176は、バックアップレバー110に連結された第2インナーケーブル148の一端と連結部材112において最も離れた第1インナーケーブル144の一端が連結されたアウターレバー114のレバー本体122に当接して設けられている。連結部材112のアウターレバー114側端部の第1インナーケーブル144の一端が弾性部材174により付勢されているため、第1インナーケーブル144の一端から第2インナーケーブル148の一端までの連結部材112の全長に渡り、遊びがない。
バックアップレバー110はレバー支持部材180を介して車室内の運転席近傍に回動可能に支持されている。第2アウターケーブル146のインナーケース158に固定された他端とは反対側の一端がクリップ182を介してレバー支持部材180に固定され、第2アウターケーブル146の一端から突き出した第2インナーケーブル148の一端がバックアップレバー110に連結されている。また、バックアップレバー110には、バックアップレバー110を回動中心まわりに図4における矢印E方向に回動させる操作力を加えるための工具が接続される接続部が設けられている。第2連結部材118は、レバー支持部材180とステー152との間で、リテーナ184に設けられたグロメット186内を挿通させられ、取付クランプ188および取付ブラケット190により支持されている。
このように構成された手動解除機構108では、バックアップレバー110の図4の矢印E方向への手動操作により、バックアップレバー110に一端が連結された第2インナーケーブル148と、結合部120において第2インナーケーブル148の他端と連結された第1インナーケーブル144とを介して、第1インナーケーブル144の一端に連結されたアウターレバー114は、図5の実線で示される位置から弾性部材174の付勢力に抗して矢印D方向に破線で示される位置に回動する。このアウターレバー114の矢印D方向への回動により、突起部130が制御軸64の係合部132に周方向にすき間なく係合すなわち当接して、機械的に制御軸64を実線で示されるパーキング位置に対応する回動位置から破線で示されるニュートラル位置に対応する回動位置に回動させる。これにより、パーキングロック機構37がパーキング位置にあるときに、たとえば電動モータ48の故障などにより電動アクチュエータ46で切替えができない場合であっても、手動解除機構108により、パーキングロック機構37のパーキング位置から非パーキング位置のニュートラル位置への切替えが可能となる。なお、手動解除機構108による制御軸64の矢印D方向への回動により、出力ギヤ104、中間軸101の小径ギヤ、大径ギヤ102および出力軸98の小径ギヤ100なども連動されるが、シフト操作時以外では電磁クラッチ88は解放されているため、バックアップレバー110の操作は妨げられない。
次に、手動解除機構108の組立工程を説明する。先ず、車両への取付前の自動変速部22および差動部18の変速機を収容するトランスミッションケース14(図10に示す。)の車両下側にマウント170(図10に示す。)を取り付ける。マウント170の上面にステー152をボルトにより固定する。トランスミッションケース14とマウント170との間に、図示しないゴムブッシュを配設する。次に、取付部材150の取付板部154をボルトによりステー152に固定し、取付部材150の他端から第1インナーケーブル144の他端が突き出した状態とする。次に、車両に変速機を取り付ける。次に、既にレバー支持部材180等が車両に取り付けられ、車両上部から垂れている第2連結部材118の第2インナーケーブル148の他端を収容しているインナーケース158を覆うカバーケース140をバックアップレバー110側へ摺動させて、インナーケース158の周面に設けられた開口を露出させる。第1インナーケーブル144の他端の係合突部160と第2インナーケーブル148の他端の係合穴162とを係合させることにより連結した第1インナーケーブル144の他端と第2インナーケーブル148の他端とをインナーケース158内に収容し、インナーケース158の開口に取付部材150の他端を嵌め入れる。そして、カバーケース140を第2インナーケーブル148の他端側に摺動させて、カバーケース140を取付部材150に取り付ける。以上の手動解除機構108の組立工程において、最終的に連結部材112が第1連結部材116と第2連結部材118との結合部120により結合される以前の工程では、第1連結部材116と第2連結部材118とは分割されて第1連結部材116は変速機に、第2連結部118は車両にそれぞれ別に組み付けられる。このため、車両組立時において、連結部材112が分割されていないときと比較して、バックアップレバー110からの第2連結部材118の垂れ下がりが小さいため、車両組立ての邪魔になりにくく、手動解除機構108の車両への組付けに有利である。また、第2連結部材118と結合されるよりも前に変速機に取り付けられる第1連結部材116の垂れ下がりが小さいので、変速機の運搬に邪魔になりにくいという利点もある。
図10は、車両に組み付けられた手動解除機構108の結合部120周辺を示す斜視図であり、車両前方が図10における右側であり、車両後方が図10における左側である。第1連結部材116と第2連結部材118との結合部120を支持するステー152は、その第1板部166が車両の変速機を支持するマウント170の上面にボルトで固定されている。このため、ステー152に支持された結合部120は、マウント170よりも車両の上方に位置させられている。また、ステー152は、その第2板部168の中央部から突き出した第1アウターケーブル142の他端が固定された取付部材150の一端が車両の前方側となるように、結合部120の車両前方側端部を支持している。このため、結合部120の取付板部154よりもバックアップレバー110側のカバーケース140に収容されて保護された部分が第2板部168よりも車両後方側に位置させられる。また、ステー152の第1板部166はマウント170の車両後方側端に固定されており、結合部120は車両の下部側から手の届く位置に位置させられている。
上述のように、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、バックアップレバー110の手動操作力による第1連結部材116の第1インナーケーブル144の変位方向とは逆方向にアウターレバー114を付勢する弾性部材174は、第1連結部材116を支持する反力ブラケット172とアウターレバー114との間で第1インナーケーブル144と同軸に配置される。このため、アウターレバー114を初期位置に付勢する弾性部材174は、反力ブラケット172とアウターレバー114との間で第1インナーケーブル144の外周側の空きスペースを利用して配置される。これにより、電動アクチュエータ46の制御軸64とアウターレバー114との干渉を抑制する弾性部材174が、スペースを取ることなく配置される。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、アウターレバー114は、弾性部材174により、バックアップレバー110の手動操作力による第1連結部材116の第1インナーケーブル144の変位方向とは逆方向に付勢される。このため、たとえばバックアップレバー110の手動操作力以外の外力によるアウターレバー114の回動が弾性部材174により抑制される。これにより、アウターレバー114の一対の突起部130の係合部132への干渉が抑制されて、アウターレバー114と制御軸64との干渉による摩耗が抑制される。また、バックアップレバー110への手動操作力が解除されると、弾性部材174は手動操作力が加えられる前の状態に復帰することから、手動解除機構108によるパーキングロック機構37のロック状態から非ロック状態への切替毎の弾性部材174の損傷が抑制される。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、反力ブラケット172は変速機を収容するケース14とは別体にて構成される。このため、第1連結部材116は、第1インナーケーブル144のアウターレバー114側端部が変速機を収容するケース14の車両下側において直線上に変位可能に、ケース14とは別体の反力ブラケット172により支持される。これにより、第1連結部材116を支持する支持部が車両下方にケース14に一体に突設される場合よりも、ケース14の鋳造性を良好なものとすることができる。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、弾性部材174によるアウターレバー114の所定以上の回動を規制するストッパ176が備えられる。このため、手動操作力により第1連結部材116の第1インナーケーブル144の変位方向とは逆方向への弾性部材174によるアウターレバー114の所定以上の回動が、ストッパ176により制限される。これにより、電動アクチュエータ46の駆動による制御軸64の回動操作角範囲において、アウターレバー114の一対の突起部130が係合部132へ干渉しない位置への位置決め精度が向上される。また、弾性部材174がばね定数の小さいばねであっても、ストッパ176により縮めてセット荷重が上げられるので、アウターレバー114の保持力が高められる。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、第1連結部材116はケース14に固定された反力ブラケット172により支持されるとともに、弾性部材174の反力が反力ブラケット172により受けられる。すなわち、反力ブラケット172の一部品で弾性部材174の反力受け機能と第1連結部材116の支持機能とが担われるため、部品点数が削減される。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、第1インナーケーブル144の一端側に連結されたアウターレバー114に、弾性部材174の付勢による回動を規制するストッパ176が設けられるとともに、その第1インナーケーブル144の一端は、弾性部材174によりバックアップレバー110の手動操作力による変位方向とは逆方向に付勢される。このため、第1インナーケーブル144の一端から第2インナーケーブル148の一端までの連結部材112の全長に渡り、遊びがない。これにより、バックアップレバー110の回動操作範囲に考慮される第1インナーケーブル144および第2インナーケーブル148の遊びは、バックアップレバー110に連結される第2インナーケーブル148の一端とアウターレバー114に連結される第1インナーケーブル144の一端との間の長さのバラツキのみである。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、第1連結部材116と第2連結部材118との結合部120を支持するステー152は、車両のマウント170の上面に固定される。このため、ステー152に支持された結合部120は、マウント170よりも車両の上方に位置させられることから、連結部材112の結合部120はマウント170により車両走行中の車両下部からの飛び石などから保護される。また、連結部材112の第1連結部材116は変速機に、第2連結部材118は車両にそれぞれ別に組み付けられた後に、第1連結部材116と第2連結部材118とが結合される。このため、車両への組付時の第2連結部材118の垂れ下がりが小さく、変速機の運搬時での第1連結部材116の垂れ下がりも小さい。これにより、手動解除機構108の車両への組付性が向上されるとともに、結合部120の耐久性の低下を抑制することができる。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、結合部120はマウント170よりも車両の上方に位置させられて、第2板部168よりもアウターレバー114側の第1連結部材116はマウント170よりも車両の上方に位置させられている。このため、マウント170と変速機との間に介在させられたゴムブッシュにより相対変位を有するマウント170および変速機のそれぞれに固定された第1連結部材116は、マウント170との接触が防がれる。これにより、結合部120がマウント170の車両後方側端に固定されても、第1連結部材116のマウント170との擦れによる損傷が抑制される。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、結合部120はマウント170よりも車両の上方に位置させられて、マウント170により車両走行中の車両下部側からの飛び石などから保護されている。このため、結合部120は、カバーケース140により十分に保護されることから、結合部120の強度確保のための部材の追加等による結合部120の大型化を抑制することができる。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、ステー152は、結合部120の車両前方側端部を支持する。このため、結合部120の取付板部154よりもバックアップレバー114側のカバーケース140に収容されて保護された部分が第2板部168よりも車両後方側に位置させられることから、車両前方からの飛び石などから連結部材112の結合部120が保護される。これにより、手動解除機構108の車両への組付性が向上されるとともに、結合部120の耐久性の低下が抑制される。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、ステー152は、マウント170の車両後方側端に固定される。このため、結合部120が車両の下方向から手が届き易い位置に位置させられる。これにより、手動解除機構108の車両への組付性が一層向上される。
また、本実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、結合部120の第2アウターケーブル146の他端および第1インナーケーブル144の他端および第2インナーケーブル148の他端が、カバーケース140により保護される。
以上、本発明を表及び図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
たとえば、前述の実施例の車両用パーキングロック装置36の手動解除機構108によれば、第1インナーケーブル144の一端が連結されたアウターレバー114と反力ブラケット172との間に弾性部材174が設けられていたが、これに限定されるものではなく、たとえば、弾性部材174がアウターレバー114を図9の反時計回りに引っ張るように付勢した状態でアウターレバー114を挟んで反力ブラケット172とは反対側に配置されてもよいし、レバー本体122にゼンマイばねが弾性部材として配置されてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。