以下に、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
(実施形態)
実施形態によると、非水電解質電池が提供される。この非水電解質電池は、正極と、負極と、非水電解質とを具備する。正極は、正極活物質と、炭酸リチウムとを含む。正極活物質は、一般式LixNi1-a-bCoaMnbMcO2(式中、0.4<x≦1.25、1−a−b≧0.6、0<a≦0.3、0<b≦0.3、0≦c≦0.1であり、Mは、Mg、Al、Si、Ti、Zn、Zr、Ca及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素である)で表される少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質である。負極は、少なくとも1種のチタン含有酸化物を含む。正極における炭酸リチウムの含有量は、正極活物質の重量に対し、0.2重量%以上0.55重量%以下の範囲内にある。
電池の高容量化のために、例えば、活物質については、高容量が期待できるNi、Co及びMnの三成分を含むNCM系の活物質、その中でもNiの含有量が高いNCM系活物質を使用することができる。
Niの含有量が60%以上であるハイニッケルNCM活物質は、理論容量は高いが、結晶構造中の遷移金属層におけるNiイオンとLi層のLiイオンとが入れ替わるカチオンミキシングが生じやすい。カチオンミキシングが起こると、活物質の実際の容量が低下する。このようなカチオンミキシングの発生を抑制するために、ハイニッケルNCM系活物質は、通常、原料であるLi源の量を増加させるなどの施策を取り入れながら焼成が実施されて合成される。
このような焼成によって得られたハイニッケルNCM系活物質は、焼成後に残留するアルカリ成分(例えば、LiOH及びLi2CO3)の量が多い。このようなアルカリ成分が多いNCM系活物質をフッ素を含むPVdFなどのバインダーと併用してスラリーを調製すると、スラリーの粘度増加が生じ、均一な電極膜を得ることが困難となる。さらに、アルカリ成分が多いNCM系活物質は、活物質重量あたりの電極容量(Ah/g)の低下及び充放電効率の低下などの問題を引き起こし得る。また、アルカリ成分として特にLi2CO3の含有量が高いNCM系活物質を用いて非水電解質電池を作製した場合、その分解物として発生する炭酸ガスCO2が電極間などに留まり、これは、電池抵抗上昇及び電池容量劣化を生じる要因となる。従って、一般的には、ハイニッケルNCM系活物質に残留するアルカリ成分は少ない方が良いとされる。
発明者らは、鋭意研究の結果、このようなハイニッケルNCM系活物質を含む正極において、炭酸リチウムLi2CO3を、NCM系活物質の重量に対して、0.2重量%以上0.55重量%以下の範囲内にある含有量で敢えて含ませ、負極に少なくとも1種のチタン含有酸化物を含ませることにより、優れた電池容量と優れたサイクル特性とを両立できる非水電解質電池を実現することができることを見出した。
非水電解質電池では、非水電解質からフッ化水素HFなどの活性成分が不可避的に生じ得る。この活性成分は、正極活物質の表面結晶構造を劣化させ、充放電容量の低下を引き起こす。実施形態に係る非水電解質電池では、このような活性成分は、正極活物質よりも、正極に含まれる炭酸リチウムと優先的に反応する。したがって、正極活物質の重量に対して0.2重量%以上0.55重量%以下の範囲内にある含有量で正極に存在する炭酸リチウムは、活性成分が正極活物質と反応することを防ぐことができ、その結果、1−a−bの値が0.6以上であるハイニッケルNCM系活物質がサイクルなどの長期使用によって劣化することを防ぐことができる。
また、炭酸リチウムは、活性成分と反応すると、炭酸ガスCO2を発生させる。負極に含まれる少なくとも1種のチタン含有酸化物は、以下の理由により、この炭酸ガスをCOに還元することができる。
チタン含有酸化物の活物質は、意図的に充放電反応を行わずとも、自己放電を起こすことができる。自己放電の際、チタン含有酸化物に含まれている金属カチオンの価数変化、具体的には酸化が起こる。例えば、スピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物、ラムスデライト型構造を有するリチウムチタン複合酸化物、及び単斜晶型二酸化チタンでは、Ti3+がTi4+になる。また、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物では、上記チタンの価数変化に加え、Nb3+がNb5+となる。このようなチタン含有酸化物に炭酸ガスCO2が接触すると、金属カチオンの上記価数変化に伴い、炭酸ガスCO2が一酸化炭素ガスCOに還元される。つまり、負極に含まれるチタン含有酸化物は、CO2の還元触媒として働き、非水電解質電池内での炭酸ガスの滞留を防ぐことができる。
さて、このような還元で生じたCOガスは、電位の高い正極に到達すると、酸化される。COガスは、酸化により、一部はCO2となるが、大部分はLi2CO3又はLiHCO3となる。このように生じたLi2CO3又はLiHCO3は、Li2CO3として再度正極活物質に付着することで、正極に含まれるようになる。
実施形態に係る非水電解質電池では、以上の理由により非水電解質電池内での炭酸ガスCO2の滞留を抑制することができるので、電池抵抗上昇や電池容量の劣化を防ぐことができる。
つまり、実施形態に係る非水電解質電池では、1−a−bの値が0.6以上であるハイニッケルNCM系活物質を正極に含みながらも、活性成分による正極活物質の劣化を防ぐことができ且つ炭酸ガスの滞留を防ぐことができる。その結果、実施形態に係る非水電解質電池は、優れた電池容量及び優れたサイクル特性を示すことができる。
そして、以上に説明したように、実施形態に係る非水電解質電池では、正極に含まれている炭酸リチウムは、活性成分による分解を受けるものの、負極のチタン含有酸化物による還元及び正極での酸化により、少なくともその一部が正極活物質に再付着する。すなわち、実施形態に係る非水電解質電池では、炭酸リチウムが循環する。そのおかげで、実施形態に係る非水電解質電池は、充放電を繰り返しても、正極に含まれる炭酸リチウムの量を0.2重量%以上0.55重量%以下の範囲内に維持することができる。
以下、実施形態に係る非水電解質電池をより詳細に説明する。
実施形態に係る非水電解質電池は、正極、負極及び非水電解質電池を含む。
正極は、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを含むことができる。正極集電体は、表面に正極合材層を担持していない部分を含むことができる。この部分は、正極タブとして働くことができる。或いは、正極は、正極集電体とは別体の正極タブを更に具備することもできる。
正極集電体としては、例えば、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔を使用することができる。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔を使用する場合、その厚さは、例えば20μm以下であり、好ましくは15μm以下である。アルミニウム合金箔には、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等を含めることができる。また、アルミニウム合金箔に含まれる、鉄、銅、ニッケル、クロムといった遷移金属の含有量は1%以下であることが好ましい。
正極は、一般式LixNi1-a-bCoaMnbMcO2(式中、0.4<x≦1.25、1−a−b≧0.6、0<a≦0.3、0<b≦0.3、0≦c≦0.1であり、Mは、Mg、Al、Si、Ti、Zn、Zr、Ca及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素である)で表される少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質を含む。この正極活物質は、正極合材層に含まれ得る。
この正極活物質は、例えば、粒子の形状を有することができる。正極活物質の粒子は、一次粒子の形態でもよいし、又は一次粒子が凝集してなる二次粒子の形態をとることもできる。
少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質についての一般式LixNi1-a-bCoaMnbMcO2において、添字xの値は、例えば正極活物質の充電状態に応じて、0.4<x≦1.25の範囲内で変化する。
上記一般式において添字aの値が0.3よりも大きいと、活物質重量あたりの容量が低くなり、電池のエネルギー密度に対して不利である活物質となる。上記一般式において添字bの値が0.3よりも大きいと、活物質重量あたりの容量が低くなり、電池のエネルギー密度に対して不利である活物質となる。一方、上記一般式において添字a又は添字bの何れかの値が0である場合、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質の結晶構造が不安定な方向へ変化するため、寿命特性が低下してしまう可能性がある。リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、Mg、Al、Si、Ti、Zn、Zr、Ca及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素である元素Mを含むこともできる。元素Mは、上記一般式における添字cが0≦c≦0.1の範囲内にあるように含まれることができる。添字cの値が0.1よりも大きくなるように元素Mを含むと、活物質重量あたりの容量が低くなり、電池のエネルギー密度に対して不利である活物質となる。
一般式LixNi1-a-bCoaMnbMcO2において、添字aの値は0.1≦a≦0.2の範囲内にあることが好ましく、添字bの値は0.15≦b≦0.25の範囲内にあることが好ましく、添字cの値は0.01≦c≦0.1の範囲内にあることが好ましい。元素Mは、Al、Ti又はZrであることが好ましい。Al、Ti又はZrである元素Mを含むことにより、活物質NCMの結晶構造が安定化し、高い寿命特性を得ることができる。
一般式LixNi1-a-bCoaMnbMcO2において、1−a−bの値は、0.6以上である。この値が0.6よりも小さいと、優れた正極容量を実現することが困難となる。1−a−bの値は、0.8以下であることが好ましい。
正極は、少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質以外の更なる正極活物質を更に含んでも良い。正極は、更なる正極活物質を含む場合、少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の活物質の重量に対し、30重量%以下の量で更なる正極活物質を含むことが好ましい。更なる正極活物質としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有マンガン酸化物、リチウム含有ニッケル酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト複合酸化物、リチウム含有マンガンコバルト複合酸化物、リチウム含有リン酸鉄などを用いることができる。更なる正極活物質は、1種類でもよいし、或いは複数種類でもよい。
炭酸リチウムLi2CO3は、例えば、正極活物質の粒子の表面に付着した状態で、正極合材層に含まれることができる。
正極における炭酸リチウムの含有量は、正極活物質の重量に対し、0.2重量%以上0.55重量%以下の範囲内にある。炭酸リチウムの含有量が正極活物質の重量に対して0.2重量%よりも低いと、電池内での活性成分と正極活物質との反応を十分に抑制することができず、その結果、充放電サイクルに繰り返して供されることにより正極の劣化が進行してしまう。一方、炭酸リチウムの含有量が正極活物質の重量に対して0.55重量%よりも高いと、電池内において炭酸ガスCO2が過剰に発生して電池内に滞留し、その結果、充放電サイクルが繰り返されると、電池抵抗の上昇や電池容量の劣化が引き起こされる。正極における炭酸リチウムの含有量は、正極活物質の重量に対し、0.25重量%以上0.5重量%以下であることが好ましく、0.35重量%以上0.45重量%以下であることがより好ましい。
正極は、バインダーを更に含むことができる。バインダーは、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体を結着させるために配合される。バインダーとしては、アクリル系共重合体又はアクリルモノマー重合体を用いることが好ましいが、特に限定されない。アクリル系共重合体としては、例えば、アクリル酸メチル、及びアクリル酸エチルなどのアクリル酸モノマーと他モノマーを共重合させたものを用いることができる。アクリルモノマー重合体としては、例えば、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルなどのアクリルモノマーの重合体が挙げられる。他のバインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)系合成ゴム、ポリイミド樹脂を挙げることができる。例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)系合成ゴム、ポリイミド樹脂、アクリル系共重合体、及びアクリルモノマー重合体などのフッ素を含まない材料を用いることで、耐電解液性及び合材層密着性の向上を実現することができ、その結果、高温特性及びサイクル寿命特性の改善が期待できる。また、バインダーは、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素を含むバインダーを含むこともできる。フッ素を含むバインダーは、バインダーの総重量に対して30重量%以下のフッ素を含むように、バインダーに含めることができる。
正極は、導電剤を更に含むこともできる。導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等の炭素質物を挙げることができる。
更なる正極活物質、バインダー、及び導電剤は、正極合材層に含まれることができる。正極合材層における、正極活物質(更なる正極活物質を含む場合は、少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物と更なる正極活物質との合計)、導電剤及びバインダーの割合は、それぞれ、80〜95重量%、3〜20重量%及び2〜7重量%であることが好ましい。
負極は、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを含むことができる。
負極集電体は、表面に負極合材層を担持していない部分を含むことができる。この部分は、負極タブとして働くことができる。或いは、負極は、負極集電体とは別体の負極タブを更に具備することもできる。
負極集電体には、例えば金属箔または合金箔が用いられる。特にアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム箔、アルミニウム合金箔は、50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは5μm以下の平均結晶粒径を有することが望ましい。アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔の平均結晶粒径を50μm以下にすることによって、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔の強度を飛躍的に増大させることができる。このため、プレス時の圧力を高めて負極材料層を高密度化して負極容量を増大させることが可能になる。また、高温環境下(40℃以上)における過放電サイクルでの集電体の溶解及び腐食を原因とする劣化を防ぐことができる。このため、負極インピーダンスの上昇を抑制することができる。さらに、出力性能、急速充電、充放電サイクル性能も向上させることができる。
負極は、少なくとも1種のチタン含有酸化物を含む。チタン含有酸化物は、負極活物質として、負極合材層に含まれ得る。
チタン含有酸化物としては、例えば、スピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物(例えば、Li4+xTi5O12(添字xの値は、充電状態に応じて0≦x≦3の範囲内で変化する))、ラムスデライト型構造を有するリチウムチタン複合酸化物(例えば、Li2+xTi3O7(添字xの値は、充電状態に応じて0≦x≦3の範囲内で変化する))、単斜晶型二酸化チタン及び単斜晶型ニオブチタン複合酸化物(例えば、LixNb2TiO7(添字xの値は、充電状態に応じて0≦x≦5の範囲内で変化する)を挙げることができる。負極は、これらのうち1種類のチタン含有酸化物を含むこともできるし、又は複数種類のチタン含有酸化物を含むこともできる。スピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物を含むことがより好ましい。
先に説明したように、実施形態に係る非水電解質電池は、負極がチタン含有酸化物を含むことにより、活性成分により炭酸リチウムが分解して生じた炭酸ガスCO2をCOに還元することができる。例えば、チタン含有酸化物を含まないカーボン系の負極は、このような還元触媒作用を十分に発揮することができず、電池内での炭酸ガスの滞留をもたらす。
負極は、バインダー及び導電剤を更に含むことができる。
バインダーは、分散された負極活物質の間隙を埋め、また、活物質と集電体とを結着させるために配合される。バインダーとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴムを用いることができる。
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等の炭素質物を挙げることができる。
バインダー及び導電剤は、負極合材層に含まれることができる。負極合材層における負極活物質(複数種類の負極活物質を含む場合には、その合計)、導電剤及びバインダーの割合は、それぞれ、70〜95重量%、0〜25重量%および2〜10重量%であることが好ましい。
正極及び負極は、電極群を構成することができる。電極群においては、正極合材層と負極合材層とが、例えばセパレータを介して対向することができる。電極群は、様々な構造を有することができる。例えば、電極群は、スタック型の構造を有することができる。スタック型構造の電極群は、例えば、複数の正極及び負極を、正極合材層と負極合材層との間にセパレータを挟んで積層することによって得ることができる。或いは、電極群は、巻回型の構造を有することができる。巻回型の電極群は、例えば、一枚のセパレータと、一枚の正極と、もう一枚のセパレータと、一枚の負極とをこの順で積層させて積層体を作り、この積層体を負極が外側にくるように巻回することによって得ることができる。
実施形態に係る非水電解質電池は、負極端子及び正極端子を更に含むことができる。負極端子は、その一部が負極の一部に電気的に接続されることによって、負極と外部端子との間で電子が移動するための導体として働くことができる。負極端子は、例えば、負極集電体、特に負極タブに接続することができる。同様に、正極端子は、その一部が正極の一部に電気的に接続されることによって、正極と外部回路との間で電子が移動するための導体として働くことができる。正極端子は、例えば、正極集電体、特に正極タブに接続することができる。
実施形態に係る非水電解質電池は、外装部材を更に具備することができる。外装部材は、電極群及び非水電解質を収容することができる。非水電解質は、外装部材内で、電極群に含浸され得る。正極端子及び負極端子のそれぞれの一部は、外装部材から延出させることができる。
以下、非水電解質、セパレータ、正極端子、負極端子及び外装部材について、より詳細に説明する。
(1)非水電解質
非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解される電解質塩を含むことができる。
電解質塩としては、例えばLiPF6、及びLiBF4などを用いることができる。
非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、γ−ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2−MeHF)、1,3−ジオキソラン、スルホラン、アセトニトリル(AN)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)を用いることができる。
非水電解質中の電解質の濃度は、好ましくは0.5〜2モル/Lである。
(2)セパレータ
セパレータは、絶縁性を有するものであれば特に限定されない。例えば、ポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、及びビニロンのようなポリマーで作られた多孔質フィルム又は不織布を用いることができる。セパレータの材料は、1種類であってもよく、或いは、2種類以上を組合せて用いてもよい。
(3)正極端子及び負極端子
正極端子及び負極端子は、電気伝導性の高い材料から形成されていることが好ましい。集電体に接続する場合、接触抵抗を低減させるために、これらの端子は、電極集電体と同様の材料からなるものであることが好ましい。
(4)外装部材
外装部材としては、例えば金属製容器又はラミネートフィルム製容器を用いることができるが、特に限定されない。
外装部材として金属製容器を用いることにより、耐衝撃性及び長期信頼性に優れた非水電解質電池を実現することができる。外装部材としてラミネートフィルム製容器を用いることにより、耐腐食性に優れた非水電解質電池を実現することができると共に、非水電解質電池の軽量化を図ることができる。
金属製容器は、例えば、厚さが0.2〜5mmの範囲内にあるものを用いることができる。金属製容器は、厚さが0.5mm以下であることがより好ましい。
金属製容器は、Fe、Ni、Cu、Sn及びAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいることが好ましい。金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作ることができる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は1重量%以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性及び放熱性を飛躍的に向上させることができる。
ラミネートフィルム製容器は、例えば、厚さが0.1〜2mmの範囲内にあるものを用いることができる。ラミネートフィルムの厚さは0.2mm以下であることがより好ましい。
ラミネートフィルムは、金属層と、この金属層を挟み込んだ樹脂層とを含む多層フィルムが用いられる。金属層は、Fe、Ni、Cu、Sn及びAlからなる群より選択される少なくとも1種を含む金属を含むことが好ましい。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装部材の形状に成形することができる。
外装部材の形状としては、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型等が挙げられる。外装部材は、用途に応じて様々な寸法を採ることができる。例えば、第1の実施形態に係る非水電解質電池が携帯用電子機器の用途に用いられる場合は、外装部材は搭載する電子機器の大きさに合わせて小型のものにすることができる。或いは、二輪乃至四輪の自動車等に積載される非水電解質電池である場合、容器は大型電池用容器であり得る。
以上に説明した実施形態に係る非水電解質電池は、例えば、以下の方法により製造することができる。
正極は、例えば、以下のようにして作製することができる。まず、一般式LixNi1-a-bCoaMnbMcO2で表される少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質、任意の更なる正極活物質、バインダー及び導電剤を、適切な分散媒、例えばN−メチルピロリドンに投入し、撹拌する。かくして、正極スラリーが得られる。このスラリーを、正極集電体の表面に塗布する。かくして得られた塗膜を、乾燥させ、プレスすることによって、正極が得られる。必要に応じ、プレス成型後に所定の寸法に切断することもできる。また、スラリーの塗布の際に、スラリー未塗布部を残して、その部分を正極タブとすることができる。或いは、プレス成型して所定の寸法に切断した後、正極集電体に導電タブを溶接してもよい。
例えば、上記方法においてスラリーを調製する際に、少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質に含まれる炭酸リチウムLi2CO3の量と、炭酸リチウムと反応する材料の量と、スラリーの分散条件とを複合的に調整することにより、最終的に得られる正極に含まれる炭酸リチウムの量を制御することができる。
正極活物質に含まれる炭酸リチウムの量は、例えば、原料となる遷移金属含有化合物及びLi源の種類、合成のための焼成条件などを複合的に組み合わせて選択することで調節することができる。
例えば、遷移金属含有化合物としては、遷移金属の水酸化物、酸化物、及び炭酸塩などの塩を挙げることができる。例えばニッケル含有化合物としては、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルなどを用いることができる。コバルト及びマンガン含有化合物についても、同様の化合物を用いることができる。
また、例えば、Li源として、融点の低いLiOH(融点:460℃程度)を用いることができる。それにより、Li源である水酸化リチウムと遷移金属含有化合物との混合物を、600〜700℃程度の温度で焼成することができる。
また、例えば、焼成雰囲気を二酸化炭素濃度が1%以下である雰囲気とすることにより、焼成により得られる正極活物質粉末に、原料に含まれる炭酸塩由来以外の炭酸リチウムが含まれるのを防ぐことができる。
また、例えばバインダーとして用いることができるアクリル系共重合体及びアクリルモノマー重合体は、炭酸リチウムとの反応性が極めて低い。そのため、このようなバインダーは、炭酸リチウムとの反応をほぼ無視することができる。
更に、先に説明した焼成によって得られる正極活物質粉末を用いてスラリーを分散する際、例えば、正極活物質粉末の二次粒子が解砕されるように、ビーズミルにおいて積極的な分散を実施することができる。このような積極的な分散によると、正極活物質粒子の二次粒子の内側に存在していた炭酸リチウムをスラリー中に溶け出させることができる。炭酸リチウムが更に溶け出したこのようなスラリーを正極集電体に塗布し、塗膜を乾燥及びプレスして得られた正極は、正極活物質粒子のそれよりも高い炭酸リチウム含有量を有することができる。ビーズミル分散による炭酸リチウム含有量の増加量は、分散に供する正極活物質粉末の炭酸リチウム含有量、正極活物質粉末に含まれる平均二次粒子径、及びビールミル分散条件(例えば、ビーズ径、回転速度、及び滞留時間)を複合的に調整して制御することができる。
具体的には、例えば、以下に説明する各実施例に記載した正極の作製条件で、正極における炭酸リチウムの含有量が、少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質の重量に対し、0.2重量%以上0.55重量%以下の範囲内にある正極を作製することができる。
負極は、例えば、以下のようにして作製することができる。まず、少なくとも1種のチタン含有酸化物と、任意のバインダー及び導電剤とを、適切な分散媒、例えばN−メチルピロリドンに投入し、撹拌する。かくして、負極スラリーが得られる。このスラリーを、負極集電体の表面に塗布する。かくして得られた塗膜を、乾燥させ、プレスすることによって、負極が得られる。必要に応じ、プレス成型後に所定の寸法に切断することもできる。また、スラリーの塗布の際に、スラリー未塗布部を残して、その部分を負極タブとすることができる。或いは、プレス成型して所定の寸法に切断した後、負極集電体に導電タブを溶接してもよい。
以上のようにして得られた正極及び負極を用いることにより、実施形態に係る非水電解質電池を作製することができる。
なお、例えば、チタン含有酸化物の一例であるチタン酸リチウムは、原料のLi源として炭酸リチウムを用いて製造されることがある。そのため、例えば、炭酸リチウムを原料として用いて作製したチタン含有酸化物を含む負極を用いて作製した非水電解質電池では、先に説明したように電池内を循環する炭酸リチウムが、負極由来の炭酸リチウムを含み得る。
この場合、正極に含まれる炭酸リチウムの含有量と負極に含まれる炭酸リチウムの含有量との合計が0.2重量%以上0.55重量%以下の範囲内に入るように、正極及び負極の製造条件を調整する。
次に、正極に含まれる炭酸リチウムの量の測定方法を説明する。
まず、測定対象の非水電解質電池を用意する。市販されている電池を測定対象とする場合は、購入直後の電池を測定対象とする。
次いで、用意した非水電解質電池を、放電状態にする。次いで、放電状態にした非水電解質電池を、不活性雰囲気で満たしたグローブボックス内で解体する。解体した電池から、正極を取り出す。この際、正極及び負極が電気的に接触しないように留意する。取り出した正極を適切な大きさに切り出して、正極試料とする。
次いで、正極試料をメチルエチルカーボネート(MEC)で洗浄し、正極試料から支持塩を十分に除去する。次いで、洗浄した正極試料を室温にて減圧乾燥に供する。
次に、正極試料中のアルカリ成分を抽出するため、乾燥後の正極試料を水に浸し、マグネティックスターラーを用いた攪拌を1時間行う。かくして、抽出液が得られる。
その後、得られた抽出液に対して、指示薬としてフェノールフタレインを用い、滴定剤として濃度既知の硫酸を用いて、第1段の摘定を実施する。その後、指示薬としてメチルオレンジを用い、滴定剤として濃度既知の硫酸を用いて第2段の滴定を実施する。
第1段の滴定は、以下の反応を利用する:
LiOH+1/2H2SO4→1/2Li2SO4+H2O
Li2CO3+1/2H2SO4→LiHCO3+1/2Li2SO4
第2段の滴定は、以下の反応を利用する:
LiHCO3+1/2H2SO4→1/2Li2SO4+CO2+H2O
以上の滴定により、抽出液中のLiOH及びLi2CO3を定量することができる。
次に、正極試料を水中から引き上げる。引き上げた正極試料から正極合材層を剥がし取る。次いで、剥がし取った試料を硝酸、硫酸等の酸を用いて、活物質に含まれる金属を溶出する。溶出液についてICP−AES分析を行うことで、溶出液に含まれている金属元素の組成を確認することができる。
これに加えて、正極合材層に対するSEM−EDX及びXRD分析を組み合わせることで、正極合材層に含まれている正極活物質の種類と混合比とを特定することができる。また、ICP−AESの定量分析結果を用いて、正極合材層中に含まれる各正極活物質の重量を算出することができる。これらの結果から、正極試料に含まれていたリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質の重量を知ることができる。
最後に、先に算出した抽出液に含まれる炭酸リチウムの量、すなわち正極試料に含まれていた炭酸リチウムの重量を、正極試料に含まれていたリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質の重量で割ることにより、正極における、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質に対する炭酸リチウムの含有量(単位:重量%)を算出することができる。
負極に含まれる負極活物質の組成は、正極活物質の組成を分析する手段と同じ手段を用いて分析をすることができる。
次に、正極活物質及び負極活物質に含まれる炭酸リチウムの量の測定方法を説明する。以下では、正極活物質についての測定を例に挙げて説明するが、負極活物質についても同様の手順で測定することができる。
まず、測定対象たる正極活物質の組成を、先に説明した手順で分析する。かくして、正極活物質のうちリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が占める重量割合を知ることができる。
次に、活物質の一部分を採り、試料とする。この試料の重量を測定する。この結果及び上記組成分析の結果から、試料に含まれているリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の重量を知ることができる。
次いで、正極試料中のアルカリ成分の抽出と同様の手順で、試料中のアルカリ成分を抽出する。得られた抽出液に対して、先に説明したのと同様の手順で、2段階の滴定を行う。かくして、抽出液中のLiOH及びLi2CO3を定量することができる。
最後に、このようにして定量した、試料に含まれていた炭酸リチウムの重量を、試料に含まれていたリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質の重量で割ることにより、正極活物質における、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質に対する炭酸リチウムの含有量(単位:重量%)を算出することができる。
次に、実施形態に係る非水電解質電池の例を、図面を参照しながら更に詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る第1の例の非水電解質電池の一部切欠斜視図である。図2は、図1に示す非水電解質電池のA部の拡大断面図である。
図1及び図2に示す非水電解質電池100は、扁平型の電極群1を具備する。
扁平型の電極群1は、負極2と、正極3と、セパレータ4とを含む。
負極2は、図2に示すように、負極集電体2aと、負極集電体2a上に担持された負極合材層2bとを具備する。正極3は、図2に示すように、正極集電体3aと、正極集電体3a上に担持された正極層3bとを具備する。
電極群1では、図2に示すように、負極2と正極3とが、負極合材層2bと正極合材層3bとの間にセパレータ4が介在した状態で積層されている。このような電極群1は、以下の手順により得ることができる。まず、一枚の平板状の負極2と一枚の平板状の正極3とを間にセパレータ4を介在させて積層させる。次に、もう一枚のセパレータ4を負極2に対向していない方の正極合材層3bに積層させて、積層体を作る。この積層体を、負極2を外側にして巻回する。ついで、巻き芯を抜いたのち、プレスして、扁平形状にする。かくして、図1及び図2に示す電極群1を得ることができる。
負極2には、図1に示す帯状の負極端子5が電気的に接続されている。正極3には、図1に示す帯状の正極端子6が電気的に接続されている。
図1及び図2に示す非水電解質電池100は、容器としてのラミネートフィルム製の外装袋7を更に具備している。
電極群1は、ラミネートフィルム製の外装袋7内に、負極端子5及び正極端子6の端部を外装袋7から延出させた状態で収容されている。ラミネートフィルム製外装袋7内には、図示しない非水電解質が収容されている。非水電解質は、電極群1に含浸されている。外装袋7は、周縁部がヒートシールされており、それにより、電極群1及び非水電解質を封止している。
次に、第1の実施形態に係る非水電解質電池の第2の例を、図3を参照しながら詳細に説明する。
図3は、第1の実施形態に係る第2の例の非水電解質電池の一部切欠き斜視図である。
図3に示す非水電解質電池100は、外装部材が金属製容器7a及び封口板7bから構成されている点で、第1の例の非水電解質電池100と大きく異なる。
図3に示す非水電解質電池100は、第1の例の非水電解質電池100の電極群1と同様の電極群1を具備する。第1の例との相違点は、図3に示す第2の例では、第1の例で負極端子5として用いていた部材5aを負極タブとして用いている点と、第1の例で正極端子6として用いていた部材6aを正極タブとして用いている点とにある。
図3に示す非水電解質電池100では、このような電極群1が、金属製容器7aの中に収容されている。金属製容器7aは、図示しない非水電解質を更に収納している。金属製容器7aは、金属製の封口板7bにより封止されている。
封口板7bには、負極端子5及び正極端子6が備え付けられている。正極端子6と封口板7bとの間には、絶縁部材7cが配されている。それにより、正極端子6と封口板7bとが電気的に絶縁されている。
負極端子5は、図3に示すように、負極タブ5aに接続されている。同様に、正極端子6は、正極タブ6aに接続されている。
実施形態に係る非水電解質電池では、正極が、一般式LixNi1-a-bCoaMnbMcO2(1−a−b≧0.6)で表される少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質と炭酸リチウムとを含む。正極における炭酸リチウムの含有量は、正極活物質の重量に対し、0.2重量%以上0.55重量%以下である。負極は、少なくとも1種のチタン含有酸化物を含む。このような非水電解質電池は、高い電池容量を示すことができると共に、サイクルによる正極活物質の劣化を防ぐことができ且つ炭酸ガスの滞留を防ぐことができる。その結果、実施形態に係る非水電解質電池は、優れた電池容量及び優れたサイクル特性を示すことができる。
[実施例]
以下に例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、発明の主旨を超えない限り本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
(実施例1)
実施例1では、以下の手順により、非水電解質電池を作製した。
[正極の作製]
正極活物質として、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2の粉末を準備した。この粉末は、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の重量に対して、0.12重量%の炭酸リチウムを含んでいた。また、この粉末の平均二次粒子径は、7.5μmであった。
また、バインダーとして、アクリル系共重合体を準備した。このアクリル系共重合体は、アクリル酸メチルを主成分として80重量%の量で含み、フッ素の含有量が0重量%であった。
この正極活物質の粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックと、導電剤としてのグラファイトと、バインダーとしてのアクリル系共重合体とを91:2:4.5:2.5の重量比で、分散媒としてのN−メチルピロリドンに投入して混合物を得た。
かくして得られた混合物を分散に供して、正極スラリーを得た。分散は、アイメックス製のビーズ式湿式微粒分散粉砕機:サンドグラインダーを用いて行った。メディアとしてはビーズ径が2mmであるガラスビーズを用い、充填率は40%とした。分散条件は、回転数を800rpmとし、滞留時間を3000秒とした。
次に、正極スラリーを、正極集電体としての帯状のアルミニウム箔の両面に均一に塗布した。この際、正極集電体に、正極スラリーを塗布しない部分を残した。次いで、塗膜を乾燥させ、乾燥させた塗膜を集電体ごとプレスした。かくして、密度が3.0g/cm3である正極合材層を含む正極を得た。次いで、正極集電体のうち正極スラリーを塗布しなかった部分に正極タブを溶接した。
以上と同様の手順で、同じ正極をもう1つ作製した。
この正極を作用極として用い、金属Liを参照極及び対極として用いて、三電極式セルを組み立てた。三電極式セル用の非水電解質としては、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを体積比1:2で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1.0mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。この三電極式セルを、25℃環境下で、1C相当の電流値(A)にて、充放電を実施した。その際に得られた放電容量(Ah)を、正極合材層の重量(g)で割った値を電極の容量密度(Ah/g)とした。
[負極の作製]
負極活物質として、スピネル型の結晶構造を有するチタン酸リチウムLi4Ti5O12の粉末を準備した。この粉末は、チタン酸リチウムの重量に対して、0.13重量%の炭酸リチウムを含んでいた。
このチタン酸リチウムの粉末と、導電剤としてのグラファイトと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを85:10:5の重量比で、分散媒としてのN−メチルピロリドンに投入し、負極スラリーを調製した。
次に、負極スラリーを、負極集電体としての帯状のアルミニウム箔の両面に均一に塗布した。この際、負極集電体に、負極スラリーを塗布しない部分を残した。次いで、塗膜を乾燥させ、乾燥させた塗膜を集電体ごとプレスした。かくして、密度が2.0g/cm3である負極合材層を含む負極を得た。次いで、負極集電体のうち負極スラリーを塗布しなかった部分に、正極タブを溶接した。
[電極群の作製]
次に、2枚のポリエチレン樹脂製セパレータを用意した。次に、セパレータ、正極、セパレータ及び負極をこの順で重ねて積層体を形成した。次いで、かくして得られた積層体を負極が最外周に位置するように渦巻き状に捲回し、次いで巻き芯を抜いた後に加熱しながらプレスした。かくして、巻回型電極群を作製した。
[非水電解質の調製]
次に、非水電解質を調製した。非水溶媒としては、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを体積比1:2で混合したものを用いた。この非水溶媒に、電解質としてLiPF6を1.0mol/Lとなるように溶解させた。かくして、非水電解質を調製した。
[電池ユニットの組み立て]
以上のようにして作製した電極群を、ラミネートフィルム製の容器に入れた。この際、正極タブの一部及び負極タブの一部がそれぞれ容器の外に出るようにした。
次いで、先に調製した非水電解質を容器内に注入した。その後、容器を封止することにより、実施例1の電池ユニットを完成させた。
[電池の完成]
実施例1の電池ユニットを、25℃の温度環境下で、電圧が2.8Vに達するまで、0.2C相当の電流値で初充電に供した。次いで、初充電に供した実施例1の電池ユニットを、65℃の温度環境下で50時間保管した(エージング)。かくして、実施例1の非水電解質電池を得た。
[充放電サイクル試験]
実施例1の非水電解質電池を、40℃の温度環境下で、1C相当の電流値(A)での充放電サイクル試験に供した。充放電サイクルは以下のようにして行った。まず、非水電解質電池を、1Cの定電流値で、電池電圧が2.8Vに達するまで充電した。次いで、非水電解質電池を、40℃の温度環境下で15分間静置した。次いで、非水電解質電池を、1Cの定電流値で、電池電圧が1.5Vに達するまで放電した。以上の充電、休止及び放電を1サイクルとして、500サイクルの充放電を行った。
初回の放電容量と500サイクル目の放電容量とを測定した。500サイクル目の放電容量の初回放電容量に対する比を、サイクル容量維持率(%)として算出した。実施例1の非水電解質電池のサイクル容量維持率は95%であった。
[抵抗値の測定]
上記サイクル試験を行う前及び500サイクルの充放電サイクルを行った後の実施例1の非水電解質電池について、以下の手順で抵抗値を測定した。
まず、非水電解質電池の充電状態を、25℃において、SOC50%に調整した。ここで、「SOC」とは、非水電解質電池の充電状態(state of charge)を意味する。「SOC100%」とは、対象の非水電解質電池を、0.2Cの定電流で、充電上限電圧に達するまで充電した状態を指す。実施例1の非水電解質電池の充電上限電圧は2.8Vとした。次に、この状態の非水電解質電池を、25℃で、2時間静置した。この状態で、非水電解質電池の開回路電圧を測定し、その電圧を放電前電圧Vbd(V)とした。次いで、非水電解質電池を、10Cにて、10秒間の放電に供した。放電後の非水電解質電池の開回路電圧を測定し、その電圧を放電後電圧Vad(V)とした。放電前後の電圧差Vbd−Vad(V)を放電の電流値10Cで除することにより、非水電解質電池100の抵抗値R(Ω)を算出した。
500サイクルの充放電サイクルを行った後の非水電解質電池の抵抗値Rbcの、上記サイクル試験を行う前の非水電解質電池の抵抗値Racに対する比を、抵抗上昇率(%)として算出した。実施例1の非水電解質電池の抵抗上昇率は10%であった。
[正極に含まれている炭酸リチウムの含有量の測定]
実施例1の非水電解質電池について、先に説明した方法により、正極における炭酸リチウムの含有量を正極活物質の重量に対する重量%として測定した。実施例1の非水電解質電池についての正極における炭酸リチウムの含有量は、正極活物質の重量に対し、0.429重量%であった。
(実施例2)
実施例2では、正極活物質として、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.6Co0.15Mn0.25O2の粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の非水電解質電池を作製した。
この例で用いた正極活物質粉末は、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の重量に対して、0.11重量%の炭酸リチウムを含んでいた。また、この粉末の平均二次粒子径は、7μmであった。正極スラリーを調製するための各材料の混合比及び分散条件は、実施例1のそれらとそれぞれ同様とした。
実施例2で作製した正極の容量密度は、実施例1のそれと同様であった。
(実施例3)
実施例3では、正極活物質として、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.7Co0.15Mn0.15O2の粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の非水電解質電池を作製した。
この例で用いた正極活物質粉末は、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の重量に対して、0.14重量%の炭酸リチウムを含んでいた。また、この粉末の平均二次粒子径は、9.5μmであった。正極スラリーを調製するための各材料の混合比及び分散条件は、それぞれ、実施例1のそれらと同様とした。
実施例3で作製した正極の容量密度は、実施例1のそれを100とした相対値で、107であった。
(実施例4)
実施例4では、以下の点以外は実施例1と同様にして、実施例4の非水電解質電池を作製した。
まず、実施例4では、バインダーとして、実施例1と同じアクリル系共重合体と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを1:1の重量比で混合して得られた混合ポリマーを用いた。この混合ポリマーにおけるフッ素の含有量は、混合ポリマーの重量に対して30重量%であった。
実施例4では、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2の粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックと、導電剤としてのグラファイトと、上記バインダーとを、91.5:2:4.5:2の重量比で、分散媒としてのN−メチルピロリドンに投入して、混合物を得た。この混合物を、回転数を500rpmにし且つ滞留時間を3600秒にしたこと以外は実施例1と同様の条件での分散に供して、正極スラリーを調製した。
実施例4で作製した正極の容量密度は、実施例1のそれと同様であった。
(比較例1)
比較例1では、以下の点以外は実施例1と同様にして、比較例1の非水電解質電池を作製した。
まず、比較例1では、正極スラリーの調製の際に、アクリル系共重合体に代えて、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。PVdFにおけるフッ素の含有量は、PVdFの重量に対して、59重量%であった。
比較例1では、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2の粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックと、導電剤としてのグラファイトと、バインダーとしてのPVdFとを、91:2:4.3:2.7の重量比で、分散媒としてのN−メチルピロリドンに投入して、混合物を得た。この混合物を、実施例1と同様の条件での分散に供して、正極スラリーを調製した。
比較例1で作製した正極の容量密度は、実施例1のそれを100とした相対値で、99であった。
(比較例2)
比較例2では、正極活物質として、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.4Co0.3Mn0.3O2の粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の非水電解質電池を作製した。
この例で用いた正極活物質粉末は、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の重量に対して、0.25重量%の炭酸リチウムを含んでいた。また、この粉末の平均二次粒子径は、8μmであった。
比較例2では、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.4Co0.3Mn0.3O2の粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックと、導電剤としてのグラファイトと、バインダーとしてのアクリル系共重合体とを、91.5:2:4.5:2の重量比で、分散媒としてのN−メチルピロリドンに投入して、混合物を得た。この混合物を、
滞留時間を4200秒に変更したこと以外は実施例1と同様の条件での分散に供して、正極スラリーを得た。
比較例2で作製した正極の容量密度は、実施例1のそれを100とした相対値で、90であった。
(比較例3)
比較例3では、負極活物質として、グラファイトを用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の非水電解質電池を作製した。
比較例3では、以下の手順で負極を作製した。
グラファイトの粉末と、バインダーとしてのPVdFとを95:5の重量比で、分散媒としてのN−メチルピロリドンに投入し、負極スラリーを調製した。
次に、負極スラリーを、負極集電体としての帯状のアルミニウム箔の両面に均一に塗布した。次いで、塗膜を乾燥させ、乾燥させた塗膜を集電体ごとプレスした。かくして、密度が1.5g/cm3である負極合材層を含む負極を得た。
(比較例4)
比較例4では、正極スラリーの調製の際に、アクリル系共重合体に代えて、スチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースを用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4の非水電解質電池を作製した。
比較例4では、ポリマーとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)とを2:1の重量比で混合した混合ポリマーを用いた。この混合ポリマーにおけるフッ素の含有量は、混合ポリマーの重量に対して、0重量%であった。
比較例4では、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2の粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックと、導電剤としてのグラファイトと、バインダーとしての上記ポリマー混合物とを、91:2:4.5:2の重量比で、分散媒としての水に投入して、混合物を得た。この混合物を、実施例1と同様の分散条件での分散に供して、正極スラリーを調製した。
次に、正極スラリーを、正極集電体としての帯状のアルミニウム箔の両面に均一に塗布した。次いで、塗膜を乾燥させ、乾燥させた塗膜を集電体ごとプレスした。かくして、密度が3.0g/cm3である正極合材層を含む正極を得た。
比較例4で作製した正極の容量密度は、実施例1のそれを100とした相対値で、98であった。
以下の表1に、実施例1〜4及び比較例1〜4のそれぞれで用いた正極活物質の詳細をまとめる。また、以下の表2に、実施例1〜4及び比較例1〜4についての正極スラリーの調製条件をまとめる。さらに、以下の表3に、実施例1〜4及び比較例1〜4で用いた負極活物質の詳細、及び負極スラリー作製の際の各材料の混合比をまとめる。
[試験]
実施例2〜4、及び比較例1〜4の非水電解質電池を、実施例1の非水電解質電池と同様の手順で、サイクル試験に供した。また、実施例2〜4、及び比較例1〜4の非水電解質電池について、実施例1の非水電解質電池と同様に、サイクル試験の前後での抵抗測定を行った。なお、充電上限電圧は、実施例2〜4、並びに比較例1、2及び4の非水電解質電池では2.8Vとし、比較例3の非水電解質電池では4.2Vとした。
さらに、実施例2〜4、及び比較例1〜4の非水電解質電池について、実施例1の非水電解質電池と同様に、正極における炭酸リチウムの含有量を正極活物質の重量に対する重量%として測定した。
これらの結果を、以下の表4にまとめて示す。
[結果]
表4に示した結果から、実施例1〜4の非水電解質電池は、高い容量密度を有する正極を具備することができると共に、優れたサイクル特性を示すことができたことが分かる。
一方、比較例1の非水電解質電池は、実施例1〜4の非水電解質電池よりも、サイクル特性に劣っていた。比較例1の非水電解質電池では、正極中の炭酸リチウムの含有量が正極活物質の重量に対して0.165重量%であった。このように正極における炭酸リチウムの含有量が少な過ぎた比較例1の非水電解質電池では、電池内の活性成分と正極活物質との反応を十分に抑制することができず、サイクルを重ねることにより、正極が劣化してしまったと考えられる。
また、比較例2の非水電解質電池は、実施例1〜4の非水電解質電池よりも、正極の容量密度が著しく低かった。これは、正極活物質としてNiの含有量が40%であるリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いたからであると考えられる。
比較例3の非水電解質電池は、実施例1〜4の非水電解質電池よりも、サイクル特性に劣っていた。比較例3の非水電解質電池では、実施例1と同様の正極を用いたが、負極がチタン含有酸化物を含んでいなかった。そのため、比較例1の非水電解質電池は電池内部で発生した炭酸ガスの還元を十分に行うことができず、電池内に二酸化炭素が滞留し、その結果、正極の劣化及び電池の抵抗上昇を引き起こしたと考えられる。
そして、比較例4の非水電解質電池は、実施例1〜4の非水電解質電池よりも、サイクル特性、特に容量維持率に劣っていた。比較例4の非水電解質電池では、正極中の炭酸リチウムの含有量が正極活物質の重量に対して0.736重量%であった。このように正極における炭酸リチウムの含有量が多過ぎた比較例4の非水電解質電池では、過剰に存在していた炭酸リチウムに由来する炭酸ガスが電池内に滞留し、その結果、正極の劣化を引き起こしたと考えられる。
比較例1、3及び4の非水電解質電池において正極の劣化が起こったことを確かめるため、以下の試験を行った。
まず、上記充放電サイクル試験に供した後の比較例1の非水電解質電池から正極を取り出した。取り出した正極について、先に説明した手順で、容量密度を測定した。測定した容量密度を用いて、サイクル前後での正極の容量維持率を算出した。比較例1の非水電解質電池の正極の容量維持率は、85%であった。
比較例3及び4の非水電解質電池の正極についても、比較例1と同様の手順で、容量維持率を算出した。比較例3の非水電解質電池の正極の容量維持率は、90%であった。また、比較例4の非水電解質電池の正極の容量維持率は、90%であった。
更に、比較として、実施例1の非水電解質電池の正極についても、比較例1と同様の手順で、容量維持率を算出した。実施例1の非水電解質電池の正極の容量維持率は、97%であった。
これらの結果から、実施例1の非水電解質電池は、比較例1、比較例3及び比較例4のそれぞれの非水電解質電池よりも、サイクルによる正極の劣化を防ぐことができたことが分かる。言い換えると、比較例1、比較例3及び比較例4のそれぞれの非水電解質電池では、サイクルにより、正極の劣化が起こったことが分かる。
以上に説明した1つ以上の実施形態又は実施例によると、非水電解質電池が提供される。この非水電解質電池では、正極が、一般式LixNi1-a-bCoaMnbMcO2(1−a−b≧0.6)で表される少なくとも1種のリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の正極活物質と炭酸リチウムとを含む。正極における炭酸リチウムの含有量は、正極活物質の重量に対し、0.2重量%以上0.55重量%以下である。負極は、少なくとも1種のチタン含有酸化物を含む。このような非水電解質電池は、高い電池容量を示すことができると共に、サイクルによる正極活物質の劣化を防ぐことができ且つ炭酸ガスの滞留を防ぐことができる。その結果、この非水電解質電池は、優れた電池容量及び優れたサイクル特性を示すことができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。