以下では、図面を参照しながら、本発明に係る実施例について説明する。
図14を参照し、本発明について説明する。本図は、矩形構造材および制振装置を、矩形構造材における柱や梁などの各部および制振装置における外フレームや内フレームなどの各部における力の作用線である中心線で表現したものである。本明細書における「相似形」とは、矩形構造材の柱と梁および制振装置の外フレームや内フレームにおける力の作用線である中心線が相似形であることを言う。すなわち、矩形構造材および制振装置が相似形であるという場合、両者の各部の太さや厚さの概念を含まない。
本図(A)に示す制振装置10Aは、1つの矩形の外フレーム11Aと、外フレーム11Aより小さく、外フレーム11Aと相似形を有する1つの内フレーム12Aと、外フレーム11Aの(図中一点鎖線で示す)対角線DL上に外方向に各角OCOからそれぞれ延在する継手13Aとを備える。外フレーム11Aを構成する各辺(中心線)および内フレーム12Aを構成する各辺(中心線)は、互いに剛接または一体成型されており、外フレーム11Aおよび内フレーム12Aの各角は剛性がある。外フレーム11Aの各隅ICOは、内フレーム12Aの角OCIと同一面内で間接的に結合されている。すなわち、外フレーム11Aの各隅ICOは、内フレーム12Aの角OCIと直線材14Aを介して連結されている。本例では、外フレーム11Aの隅ICOと内フレーム12Aの角OCIを連結するのは直線を構成する直線材14Aであるが、これに限定されず、多少湾曲や蛇行する線材であってもよい。
内フレーム12Aと外フレーム11Aは同一面内にあり、内フレーム12Aの矩形を構成する各辺は、外フレーム11Aの矩形を構成する各辺と平行または垂直をなす。たとえば、内フレーム12Aの縦の辺は、外フレーム11Aの縦の辺とは平行であり、外フレーム11Aの横の辺とは垂直である。また、内フレーム12Aの横の辺は、外フレーム11Aの縦の辺とは垂直であり、外フレーム11Aの横の辺とは平行である。なお、外フレーム11Aより小さい内フレーム12Aは、対角線DL上に配置されて内フレーム12Aの対角を連結する斜材を有さない。
本図(A)に示す制振装置10Aは、本図(E)に示すように、建築構造体(図示せず)の一部をなす制振構造100に組み込まれる。制振構造100は、柱102と梁103からなる矩形構造材101と、矩形構造材101の対角線DL上に配置される斜材104と、斜材104の中間において、継手13Aにより斜材104と連結された制振装置10Aとを備える。したがって、制振装置10Aは、矩形構造材101を備える建築構造体を、矩形構造材101の対角線DL上に配置される斜材104を介して制振する制振装置である。
「矩形構造材」とは、より一般的に言えば、構造物の一つの構面において一方向に延びる2条の構造材、およびこれらと直交する方向に延びる2条の構造材をいう。本発明を垂直壁の構面に適用するときには、本例のように、2条の柱および2条の梁とすることができる。本明細書では主要な適用例を垂直壁の構面としているが、発明の趣旨からはこれに限定されることはない。なお、制振構造100を備える建築構造体は、すべて矩形構造材で構成されている必要はなく、トラス構造や壁式構造を含んでもいてもよい。また、建築構造体に備えられる矩形構造材は、すべてにおいて本制振装置を備えている必要はなく、一部において備えていてもよい。また、本明細書における建築構造体は、木造建築物、鉄骨構造物、鉄筋コンクリート構造物など、いずれの構造体であってもよい。
制振装置10Aは、柱102と梁103からなる矩形構造材101を所定の比率(α)で縮小した、当該矩形構造材101と相似形を有する外フレーム11Aを備える。図示例では、作図上の都合から、矩形構造材101に対する外フレーム11Aの寸法比がα=0.2程度としているが、これに限定されるものではない。内フレーム12Aは、矩形構造材101をその所定の比率(α)よりさらに小さな比率(β)で縮小したフレームからなる。すなわち、内フレーム12Aの各辺は、外フレーム11Aの対応する各辺より短い辺からなる。
発明者の解析によると、外フレームまたは内フレームの剛性は、矩形構造材に対する外フレームまたは内フレームの縮小する比率の三乗に反比例することが分かっている。また、外フレームまたは内フレームの耐力は、矩形構造材に対する外フレームまたは内フレームの縮小する比率に反比例することが分かっている。そうすると、制振構造100の剛性は、矩形構造材101の寸法に対する制振装置10Aの寸法の縮小率の三乗に反比例するので、より小さな比率(β)で縮小した内フレーム12Aの剛性により、より大きく影響を受けることとなる。
強度計算のシミュレーションを重ねた結果、内フレーム12Aのみを有する制振装置において、矩形構造材101に対する制振装置の内フレーム12Aの大きさの縮小率βとして最も好適な数値はβ=0.05である。縮小率βの上限値は、強度計算の結果からβ=0.3である。縮小率βの下限値は0.02としている。この下限値は理論的に導かれた数値というよりは実施上の制約に基づく。一般的な矩形構造材101の柱102の高さを3m、梁103の長さを2mとし、これに縮小率0.02を乗ずると、内フレーム12Aの大きさは、上下長さ60mm、左右長さ40mmということになる。これよりも小さい大きさとなると、内フレーム12Aの単位断面積に生ずる負荷も大きくなるし、加工も難しくなるからである。
内フレーム12Aの左右長さ40mmである場合において、たとえば、内フレーム12Aの正面視の厚さを10mm、変形するための遊びを考慮して、外フレーム11Aとの隙間を10mmとした場合、外フレーム11Aの左右長さ下限値は60mmとなり、相似形なので上下長さの下限値は90mmとなる。この場合の、矩形構造材101に対する外フレーム11Aの縮小率αは、α=0.03である。また、本例の場合、内フレーム12Aの大きさと外フレーム11Aの大きさとの間には、明確な相関関係はないが、実質的に外フレーム11Aの大きさは、実質的に最大で矩形構造材101の大きさの半分程度である。したがって、外フレーム11Aの縮小率αの上限値は、0.5とすることができる。そうすると、外フレーム11Aにおける矩形構造材を縮小した所定の比率とはα=0.03〜0.5であり、内フレーム12Aにおける矩形構造材を所定の比率(縮小率α)より小さな比率で縮小した比率とはβ=0.02〜0.3である。
本図(E)に示すように、制振構造100は、自身の矩形中心O3と制振装置10Aの外フレーム11Aの矩形中心O1とが一致するように、制振装置10Aの各継手13Aと矩形構造材101の各隅ICSに対応する各斜材104と連結させることにより制振装置10Aを備える。すなわち、制振構造100においては、制振装置10Aの外フレーム11Aの矩形中心O1は矩形構造材101の矩形中心O3と一致し、制振装置10Aの継手13Aは、矩形構造材101の各隅ICSに対応する斜材104と連結されている。矩形構造材101と相似形のフレーム状の制振装置10Aをこのように連結することで、制振構造100は、制振装置10Aが正負の繰り返し変形を受けても元の形状に戻ることができるため、優れた制振性能を有することができる。
また、本図(F)に示すように、制振構造100に組み込まれた制振装置10Aにおける伸び側対角線の変形(点線)と短縮側対角線の変形(実線)とでは、同じ層間変位では、短縮側対角線の変形の方が大きいことが発明者の考察・実験により分かっている(実験データは後述する)。なお、層間変位とは、下梁と上梁を層と捉え、制振構造の上梁に水平外力が与えられた場合の柱の傾き変位または下梁に対する上梁の水平移動変位を言う。圧縮側の対角線とは、矩形構造材に水平外力が与えられて平行四辺形になった場合に、短い対角線の方に配置され圧縮力を受ける斜材の方を示している。そうすると、圧縮側の斜材は、揺れの小さい間は圧縮力を受けても、揺れが大きくなり変形が大きくなるにつれて圧縮力が緩和されたり解消されたりするようになる。このような大きな揺れを受けてもフレームの短縮側対角線の変形量が大きいという特性を活かすことで、制振装置10Aが組み込まれた制振構造100においては、斜材が座屈して破壊されることがなくなる。
外フレーム11Aの隅ICOと外フレーム11Aより小さい内フレーム12Aの角OCIとを間接的に結合した制振装置10Aは、斜材軸線DLと一致する継手13Aを介して斜材104と連結されることで、大きな揺れを受けてもフレームの短縮側対角線の変形量が大きいので斜材104自体を座屈させて破壊することがなくなる。また、かかる制振装置10Aは、外フレーム11Aと内フレーム12Aを組み合わすことで、内フレーム12A’の剛性の影響を受けて剛性が高くなり、大きな外フレーム11A’の大きさで加工できるので加工性が良くなる。
また、制振構造100は、矩形構造材101の対角線DL上に配置される斜材104と、斜材軸線DLと一致する継手13Aを介して連結された制振装置10Aにより、大きな揺れを受けてもフレームの短縮側対角線の変形量が大きいので斜材自体を座屈させて破壊することがなくなる。また、本発明に係る制振装置および制振構造では、大掛かりな構造を必要せず施工コストが低廉であり、地震や建築構造の特性に拘わらず、制振性能が安定的で信頼性が高く、またメンテナンス不要で耐久性もよいことは言うまでも無い。
本図(A)に示す制振装置10Aでは、さらに、内フレーム12Aの矩形中心O2は、外フレーム11Aの矩形中心O1と一致している。そうすると、外フレーム11Aの矩形中心O1、内フレーム12Aの矩形中心O2、および矩形構造材101の矩形中心O3は、制振構造100においてすべて一致する。また、外フレーム11Aと内フレーム12Aを連結する直線材14Aは、外フレーム11Aおよび矩形構造材101の対角線DLと同一軸上に配置される。その結果、直線材14Aは、対角線DL上に外方向に各角OCOからそれぞれ延在する継手13Aとも同一軸線上に配置されるので、強固な制振装置10Aおよび制振構造100を提供することができる。
この制振装置10Aは、矩形構造材101に対する縮小率が異なる外フレーム11Aと内フレーム12Aを矩形中心が一致するように組み合わせることにより、外フレーム11Aの耐力と内フレーム12Aの耐力の和の耐力を備えることができる。また、異なる剛性と塑性域での異なる応力を兼ね備えるフレームを複数有して各フレームで亀裂や破断のような破壊が起こる変形量が異なることから、制振装置10Aは、複数のフレームが一度に破壊されることがなく、一気に制振性能を喪失することがない。
本図(C)に示す制振装置10Cは、上述した制振装置10Aにさらにもう一つ内フレームを備えたものである。すなわち、制振装置10Cは、1つの矩形の外フレーム11Cと、外フレーム11Cより小さく、外フレーム11Cと相似形を有する内フレーム12C1と、内フレーム12C1よりさらに小さく、内フレーム12C1と相似形を有する内フレーム12C2と、外フレーム11Cの対角線上に外方向に各角からそれぞれ延在する継手13Cとを備える。
外フレーム11Cの各隅は、内フレーム12C1の角と同一面内で間接的に結合されていると共に、内フレーム12C1の各隅は、内フレーム12C2の角と同一面内で間接的に結合されている。すなわち、外フレーム11Cの各隅は、内フレーム12C1の角と直線材14C1を介して連結され、内フレーム12C1の各隅は、内フレーム12C2の角と直線材14C2を介して連結されている。
内フレーム12C1と外フレーム11Cは同一面内にあり、内フレーム12C1の矩形を構成する各辺は、外フレーム11Cの矩形を構成する各辺と平行または垂直をなす。また、内フレーム12C2の矩形を構成する各辺は、内フレーム12C1の矩形を構成する各辺と平行または垂直をなす。なお、内フレーム12C2は、対角線上に配置されて内フレーム12C2の対角を連結する斜材を有さない。
制振装置10Cは、同様に、制振構造100に組み込まれる。制振装置10Cにおける外フレーム11Cの所定の比率(縮小率α)は、上記制振装置10Aと同様の考え方で求めることができ、α=0.04〜0.5である。また、内フレーム12C2の縮小率を上述の縮小率βとみなすことができるので、内フレーム12C2の縮小率βは、β=0.02〜0.3である。内フレーム12C1の縮小率は、外フレーム11Cと内フレーム12C2の中間であり、0.03〜0.4である。
制振装置10Cでは、外フレーム11Cの隅と外フレーム11Cより小さい内フレーム12C1の角とを間接的に結合され、内フレーム12C1の隅と内フレーム12C1より小さい内フレーム12C2の角とを間接的に結合される。かかる制振装置10Cは、斜材軸線と一致する継手13Cを介して斜材104と連結されることで、大きな揺れを受けてもフレームの短縮側対角線の変形量が大きいので斜材104自体を座屈させて破壊することがなくなる。また、制振装置10Cは、外フレーム11Cと内フレーム12C1と内フレーム12C2を組み合わすことで剛性が高くなり加工性が良くなる。
制振装置10Cでは、さらに、内フレーム12C1の矩形中心O21および内フレーム12C2の矩形中心O22は、外フレーム11Cの矩形中心O1と一致している。また、外フレーム11C、内フレーム12C1および内フレーム12C2を連結する直線材14C1および直線材14C2は、外フレーム11Cおよび矩形構造材101の対角線と同一軸上に配置される。その結果、直線材14C1および直線材14C2は、対角線上に外方向に各角からそれぞれ延在する継手13Cとも同一軸線上に配置されるので、強固な制振装置10Cを提供することができる。
この制振装置10Cは、矩形構造材101に対する縮小率が異なる外フレーム11Cと複数の内フレーム12C1、12C2を矩形中心が一致するように組み合わせることにより、外フレーム11Cの耐力、内フレーム12C1および内フレーム12C2の耐力の和の耐力を備えることができる。また、制振装置10Cは、異なる剛性と塑性域での異なる応力を兼ね備えるフレームを複数有して各フレームで亀裂や破断のような破壊が起こる変形量が異なることから、複数のフレームが一度に破壊されることがなく、一気に制振性能を喪失することがなくなる。
本図(B)に示す制振装置10Bは、1つの矩形の外フレーム11Bと、外フレーム11Bより小さく、外フレーム11Bと相似形を有し同じ大きさの4つの内フレーム12B1〜12B4と、外フレーム11Bの(図中一点鎖線で示す)対角線DL上に外方向に各角OCOからそれぞれ延在する継手13Bとを備える。外フレーム11Bを構成する各辺(中心線)および内フレーム12B1〜12B4を構成する各辺(中心線)は、互いに剛接または一体成型されており、外フレーム11Bおよび内フレーム12B1〜12B4の各角は剛性がある。外フレーム11Bの各隅ICOは、内フレーム12B1〜12B4の1つの角OCIと直接的に結合されている。すなわち、外フレーム11Bの各隅ICOは、内フレーム12B1〜12B4の1つの角OCIと一致している。
たとえば、外フレーム11Bの左上の隅ICOは、外フレーム11Bの内側であって左上に存する内フレーム12B1の左上の角OCIと一致するように配置されている。また、外フレーム11Bの右上の隅ICOは、外フレーム11Bの内側であって右上に存する内フレーム12B2の右上の角OCIと一致するように配置されている。また、外フレーム11Bの左下の隅ICOは、外フレーム11Bの内側であって左下に存する内フレーム12B3の左下の角OCIと一致するように配置されている。また、外フレーム11Bの右下の隅ICOは、外フレーム11Bの内側であって右下に存する内フレーム12B4の右下の角OCIと一致するように配置されている。
4つの内フレーム12B1〜12B4と外フレーム11Bは同一面内にあり、それぞれの内フレーム12B1〜12B4の矩形を構成する各辺は、外フレーム11Bの矩形を構成する各辺と平行または垂直をなす。外フレーム11Bの各隅ICOは、内フレーム12B1〜12B4の1つの角OCIと一致しているので、内フレーム12B1〜12B4の縦の辺と横の辺のそれぞれ1つずつは、外フレーム11Bの縦の辺と横の辺に一致している。たとえば、内フレーム12B1の左側の縦の辺は、外フレーム11Bの左側の縦の辺と一致し、内フレーム12B1の上側の横の辺は、外フレーム11Bの上側の縦の辺と一致している。なお、内フレーム12B1〜12B4は、対角線DL上に配置されて内フレーム12B1〜12B4の対角を連結する斜材を有さない。
制振装置10Bは、本図(E)に示した制振装置10Aと同様、建築構造体の一部をなす制振構造100に組み込まれる。制振装置10Bは、柱102と梁103からなる矩形構造材101を所定の比率(α)で縮小した、当該矩形構造材101と相似形を有する外フレーム11Bを備える。内フレーム12B1〜12B4のそれぞれは、矩形構造材101をその所定の比率(α)よりさらに小さな比率(β)で縮小したフレームからなる。すなわち、内フレーム12B1〜12B4の各辺は、外フレーム11Bの対応する各辺より短い辺からなる。
上述したように、制振構造100の剛性は、矩形構造材101の寸法に対する制振装置10Bの寸法の縮小率の三乗に反比例するので、より小さな比率(β)で縮小した内フレーム12B1〜12B4の剛性により、より大きく影響を受けることとなる。また、制振装置10Aで説明したことと同様に、内フレーム12B1〜12B4の縮小率βの上限値は、強度計算の結果からβ=0.3であり、下限値はβ=0.02である。そうすると、外フレーム11Bの縮小率αは、本例の場合は、内部に縦横に2つずつ内フレーム12B1〜12B4が配置されるから、下限値は0.04以上であり、上限値は0.6以上である。ただし、実質的に外フレーム11Aの大きさは、最大で矩形構造材101の大きさの半分程度であることが好ましい。
制振装置10Aにおいて本図(E)に示したことと同様に、制振構造100は、自身の矩形中心O3と制振装置10Bの外フレーム11Bの矩形中心O1とが一致するように、制振装置10Bの各継手13Bと矩形構造材101の各隅ICSに対応する各斜材104と連結させることにより制振装置10Bを備える。すなわち、制振構造100においては、制振装置10Bの外フレーム11Bの矩形中心O1は矩形構造材101の矩形中心O3と一致し、制振装置10Bの継手13Bは、矩形構造材101の各隅ICSに対応する斜材104と連結されている。矩形構造材101と相似形のフレーム状の制振装置10Bをこのように連結することで、制振構造100は、制振装置10Bが正負の繰り返し変形を受けても元の形状に戻ることができるため、優れた制振性能を有することができる。
また、制振装置10Aにおいて本図(F)に示したことと同様に、制振装置10Bが組み込まれた制振構造100においては、斜材が座屈して破壊されることがなくなる。外フレーム11Bの隅ICOと外フレーム11Bより小さい内フレーム12Bの角OCIとを直接的に結合した制振装置10Bは、斜材軸線DLと一致する継手13Bを介して斜材104と連結されることで、大きな揺れを受けてもフレームの短縮側対角線の変形量が大きいので斜材104自体を座屈させて破壊することがなくなる。また、制振装置10Bは、外フレーム11Bと内フレーム12Bを組み合わすことで剛性が高く加工性が良くなる。
また、制振構造100は、矩形構造材101の対角線DL上に配置される斜材104と斜材軸線DLと一致する継手13Bを介して連結された制振装置10Bにより、大きな揺れを受けてもフレームの短縮側対角線の変形量が大きいので斜材自体を座屈させて破壊することがなくなる。また、本発明に係る制振装置および制振構造では、大掛かりな構造を必要せず施工コストが低廉であり、地震や建築構造の特性に拘わらず、制振性能が安定的で信頼性が高く、またメンテナンス不要で耐久性もよいことは言うまでも無い。
制振装置10Bでは、さらに、内フレーム12B1〜12B4の矩形中心O21〜O24は、外フレーム11Bの矩形中心O1と一致していない。一方、外フレーム11Bの各隅ICOは、内フレーム12B1〜12B4の1つの角OCIと一致し、これらの複数の内フレーム12B1〜12B4は、外フレーム11Bの内側に格子状に配置されている。すなわち、外フレーム11Bの大きさは、内フレームの1つの大きさのちょうど2倍である。そうすると、内フレーム12B1〜12B4における、外フレーム11Bの縦の辺と横の辺に一致している辺とは別の縦の辺および横の辺は、隣接する内フレーム12B1〜12B4の縦の辺および横の辺に一致している。
たとえば、内フレーム12B1の右側の縦の辺は、隣接する内フレーム12B2の左側の縦の辺と一致し、内フレーム12B1の下側の横の辺は、隣接する内フレーム12B3の上側の横の辺と一致している。内フレーム12B1の右下の角、内フレーム12B2の左下の角、内フレーム12B3の右上の角、内フレーム12B4の左上の角は一致している。外フレーム11Bの矩形中心O1は、内フレーム12B1〜12B4の矩形中心O21〜O24の真ん中に位置する。外フレーム11Bの矩形中心O1、内フレーム12B1〜12B4の矩形中心O21〜O24は、すべて対角線DL上に配置される。外フレーム11Bの矩形中心O1、内フレーム12B1〜12B4の矩形中心O21〜O24、および矩形構造材101の矩形中心O3は、すべて対角線DLと同一軸上に配置されるので、強固な制振装置10Bおよび制振構造100を提供することができる。
この制振装置10Bは、複数の内フレーム12B1〜12B4が外フレーム11Bの内側に格子状に配置されることにより、内フレーム12B1〜12B4の耐力を備えるので高い剛性を有すると共に、外フレーム11Bの大きさで製造できるので加工性がよい。また、制振装置10Bは、多数の内フレームを有することで、一部の内フレームが破壊されても一気に制振性能を喪失することがなくなる。
本図(D)に示す制振装置10Dは、上述した制振装置10Bが4つの内フレーム12B1〜12B4を備えたものであったのに対し、16個の内フレーム12D1〜12D16を備えるものである。すなわち、制振装置10Dは、1つの矩形の外フレーム11Dと、外フレーム11Dより小さく、外フレーム11Dと相似形を有し同じ大きさの16個の内フレーム12D1〜12D16と、外フレーム11Dの対角線上に外方向に各角からそれぞれ延在する継手13Dとを備える。なお、本図(D)における内フレームの符号は一部省略するが、左から右へ、上から下へ連番が付されているものとする。
外フレーム11Dの各隅は、内フレーム12D1、12D4、12D13、12D16の角と直接的に結合されている。すなわち、外フレーム11Dの各隅は、内フレーム12D1、12D4、12D13、12D16の1つの角と一致している。
たとえば、外フレーム11Dの左上の隅は、外フレーム11Dの内側であって最も左上に存する内フレーム12D1の左上の角と一致するように配置されている。また、外フレーム11Dの右上の隅は、外フレーム11Dの内側であって最も右上に存する内フレーム12D4の右上の角と一致するように配置されている。また、外フレーム11Dの左下の隅は、外フレーム11Dの内側であって最も左下に存する内フレーム12D13の左下の角と一致するように配置されている。また、外フレーム11Dの右下の隅は、外フレーム11Dの内側であって最も右下に存する内フレーム12D16の右下の角と一致するように配置されている。
16個の内フレーム12D1〜12D16と外フレーム11Dは同一面内にあり、それぞれの内フレーム12D1〜12D16の矩形を構成する各辺は、外フレーム11Dの矩形を構成する各辺と平行または垂直をなす。外フレーム11Dの各隅は、内フレーム12D1、12D4、12D13、12D16の1つの角と一致しているので、内フレーム12D1、12D4、12D13、12D16の縦の辺と横の辺のそれぞれ1つずつは、外フレーム11Dの縦の辺と横の辺に一致している。たとえば、内フレーム12D1の左側の縦の辺は、外フレーム11Dの左側の縦の辺と一致し、内フレーム12D1の上側の横の辺は、外フレーム11Dの上側の横の辺と一致している。なお、内フレーム12D1〜12D16は、内フレーム12D1〜12D16の対角を連結する斜材を有さない。
内フレーム12D2の上側の横の辺は、外フレーム11Dの上側の横の辺と一致し、内フレーム12D2の左側の縦の辺は、内フレーム12D1の右側の縦の辺と一致する。内フレーム12D3の上側の横の辺は、外フレーム11Dの上側の横の辺と一致し、内フレーム12D3の右側の縦の辺は、内フレーム12D4の左側の縦の辺と一致する。内フレーム12D5の上側の横の辺は、内フレーム12D1の下側の横の辺と一致し、内フレーム12D5の左側の縦の辺は、外フレーム11Dの左側の縦の辺と一致する。内フレーム12D6の上側の横の辺は、内フレーム12D2の下側の横の辺と一致し、内フレーム12D6の左側の縦の辺は、内フレーム12D5の右側の縦の辺と一致する。内フレーム12D8の上側の横の辺は、内フレーム12D4の下側の横の辺と一致し、内フレーム12D8の右側の縦の辺は、外フレーム11Dの右側の縦の辺と一致する。内フレーム12D7の上側の横の辺は、内フレーム12D3の下側の横の辺と一致し、内フレーム12D7の右側の縦の辺は、内フレーム12D8の左側の縦の辺と一致する。内フレーム12D9〜12D16の位置関係も同様である。
制振装置10Dは、本図(E)に示した制振装置10Aと同様、制振構造100に組み込まれる。制振装置10Dにおける外フレーム11Dの所定の比率(縮小率α)は、上記制振装置10Bと同様の考え方で求めることができ、内フレーム12D1〜12D16の縮小率βは、β=0.02〜0.3であり、外フレーム11Dの大きさは、最大で矩形構造材101の大きさの半分程度であることが好ましいので、α=0.08〜0.5である。
外フレーム11Dの隅と外フレーム11Dより小さい内フレーム12D1、12D4、12D13、12D16の角とを直接的に結合した制振装置10Dは、斜材軸線DLと一致する継手13Dを介して斜材104と連結されることで、大きな揺れを受けてもフレームの短縮側対角線の変形量が大きいので斜材104自体を座屈させて破壊することがなくなる。また、制振装置10Dは、外フレーム11Dと内フレーム12D1〜12D16を組み合わすことで剛性が高く加工性が良くなる。
制振装置10Dでは、さらに、内フレーム12D1〜12D16の矩形中心O21〜O216は、外フレーム11Dの矩形中心O1と一致しておらず、一方、外フレーム11Dの各隅は、内フレーム12D1、12D4、12D13、12D16の1つの角と一致し、16個の内フレーム12D1〜12D16は、外フレーム11Dの内側に格子状に配置されている。すなわち、外フレーム11Dの大きさは、内フレームの1つの大きさのちょうど4倍である。そうすると、内フレーム12D1〜12D16は、互いに重なることなくかつ隙間なく外フレーム11Dの内側に格子状に配置される。
たとえば、外フレーム11Dの矩形中心O1は、内フレーム12D1の矩形中心O21と内フレーム12D16の矩形中心O216の真ん中に位置し、また、内フレーム12D6の矩形中心O26と内フレーム12D11の矩形中心O211の真ん中に位置する。また、外フレーム11Dの矩形中心O1、内フレーム12D1、12D6、12D11、12D16の矩形中心O21、O26、O211、O216は対角線DL上に配置され、すべて対角線DLと同一軸上に配置されるので、強固な制振装置10Dおよび制振構造100を提供することができる。
この制振装置10Dは、複数の内フレーム12D1〜12D16が外フレーム11Dの内側に格子状に配置されることにより、内フレーム12D1〜12D16の耐力を備えるので高い剛性を有すると共に、外フレーム11Dの大きさで製造できるので加工性がよい。また、制振装置10Dは、多数の内フレームを有することで、一部の内フレームが破壊されても一気に制振性能を喪失することがない。
<第一実施例>
図1および図2を参照し、本実施例における制振装置10A’および制振構造100A’を説明する。制振装置10A’は、各部の中心線で表現した図14(A)に示した制振装置10Aの実施物であり、制振構造100A’は、各部の中心線で表現した図14(E)に示した制振構造100の実施物である。
制振装置10A’は、1つの矩形の外フレーム11A’と、外フレーム11A’より小さく、外フレーム11A’と相似形を有する1つの内フレーム12A’と、外フレーム11A’の(図中一点鎖線で示す)対角線DL上に外方向に各角OCOからそれぞれ延在する継手13A’とを備える。外フレーム11A’を構成する各辺11A’1、11A’2、11A’3、11A’4は、互いに一体成型されている。また、内フレーム12A’を構成する各辺12A’1、12A’2、12A’3、12A’4は、互いに一体成型されている。したがって、外フレーム11A’および内フレーム12A’の各角は剛性を有する。外フレーム11A’の各隅ICOは、内フレーム12A’の角OCIと同一面内で間接的に直線材14A’を介して一体成型により連結されている。
制振装置10A’の外フレーム11A’、直線材14A’、および内フレーム12A’は、いずれもスチール製であり、ダイカスト法などの鋳造法により一体成型で製造されている。ただし、製造方法については、これに限定されない。たとえば、外フレーム11A’の各辺11A’1、11A’2、11A’3、11A’4の互いが交差する角を剛接してもよい。外フレーム11A’を構成する各辺11A’1、11A’2、11A’3、11A’4の正面視の厚さ、内フレーム12A’を構成する各辺12A’1、12A’2、12A’3、12A’4の正面視の厚さ、および直線材14A’の正面視の厚さは、それぞれ約10mmである。なお、側面視の厚さは特に限定されないが、矩形構造材101A’の側面視における厚さ以下であることが好ましい。
内フレーム12A’の辺12A’2は外フレーム11A’の辺11A’2と、内フレーム12A’の辺12A’4は外フレーム11A’の辺11A’4と、互いに平行をなし、これらの辺同士は、変形するための遊びを考慮して、約10mmの隙間を有して隔たっている。内フレーム12A’の辺12A’1は外フレーム11A’の辺11A’1と、内フレーム12A’の辺12A’3は外フレーム11A’の辺11A’3と、互いに平行をなし、これらの辺同士は、両フレームは互いに相似なので、約38mmの隙間を有して隔たっている。力の作用線である中心線における外フレーム11A’の縦の大きさは約230mmであり、横の大きさは約95mmである。また、力の作用線である中心線における内フレーム12A’の縦の大きさは約132mmであり、横の大きさは約55mmである。いずれの縦横比もおよそ2.4であり、互いに相似の矩形である。また、内フレーム12A’の辺12A’1は外フレーム11A’の辺11A’2や辺11A’4と、内フレーム12A’の辺12A’3は外フレーム11A’の辺11A’2や辺11A’4とは、互いに垂直をなす。
継手13A’は、外フレーム11A’の各角OCOから一体成型されることにより延在しており、継手13A’と外フレーム11A’の角とは剛性を有して結合されている。継手13A’は、制振装置10A’を斜材104A’と連結するための部分であり、外フレーム11A’の厚さとほぼ同じ厚さを有し、斜材104A’と連結し易くするように平たく形成されると共に、斜材104A’との強固な結合力を確保するために本実施例では3つのボルト穴を有する。本実施例の場合、継手13A’は、斜材104A’とボルト止めされて連結される。連結の方法は、ボルト止めの他、溶接・ねじ止めなど確実に連結できるならば何でもよい。もっとも、制振装置10A’が地震などにより破壊されたときに容易に交換できるように、斜材104A’に対して継手13A’を着脱自在な構造とすることが好ましい。
図1に示す制振装置10A’は、図2に示すように、制振構造100A’に組み込まれる。制振構造100A’は、柱102A’と梁103A’からなる矩形構造材101A’と、矩形構造材101A’の対角線DL上に配置される斜材104A’と、斜材104A’の中間において、継手13A’により斜材104A’と連結された制振装置10A’とを備える。制振装置10A’は、柱102A’と梁103A’の縦横比が2.4であって外フレーム11A’と相似の矩形構造材101A’に適用することができる。制振装置10A’は、上述したように最も好適なβは0.05だから、柱102A’が約2.64m、梁103A’が約1.1mである矩形構造材101A’に適用することが最も好適である。なお、斜材104A’は、鉄筋、鋼管などの如く張力に耐え得る材料であれば足りる。
制振構造100A’は、自身の矩形中心と制振装置10A’の外フレーム11A’および内フレーム12A’の矩形中心とが一致するように、制振装置10A’の各継手13A’と矩形構造材101A’の各隅に対応する各斜材104A’と連結させることにより制振装置10A’を備える。矩形構造材101A’と相似形のフレーム状の制振装置10A’をこのように連結することで、制振構造100A’は、制振装置10A’が正負の繰り返し変形を受けても元の形状に戻ることができるため、優れた制振性能を有することができる。また、外フレーム11A’と内フレーム12A’とを連結する直線材14A’は、外フレーム11A’および矩形構造材101A’の対角線DLと同一軸上に配置される。その結果、直線材14A’は、対角線DL上に外方向に各角OCOからそれぞれ延在する継手13A’とも同一軸線上に配置されるので、強固な制振装置10A’および制振構造100A’を提供することができる。
図3は、破壊試験において、制振構造100A’に組み込まれた制振装置10A’に負荷を徐々に増加させた様子を示す。本図(A)は、矩形構造材101A’の上の梁103A’に水平荷重を与えた時の制振装置10A’を正面視したもので、本図(B)は、何度か負荷を繰り返した結果破断した時の制振装置10A’を正面視したものである。本図(A)に示すように、斜材104A’と継手13A’を介して力が伝達されて、制振装置10A’における外フレーム11A’、内フレーム12A’および直線材14A’が塑性変形することにより、振動エネルギーを吸収する。制振構造100A’の特性に応じた変形量や変形回数を超えると、内フレーム12A’は、本図(B)に示すように破断などにより破壊される。通常、内フレーム12A’の方が破壊を生じる変形量が小さいので、内フレーム12A’の短い辺において最初に破壊が生じる。
図4は、矩形構造材101A’に水平荷重を与えた場合の制振装置10A’の荷重変形曲線を示す。スチール製なので、後述するアルミニウム製に比し、塑性ひずみは小さい。破断直前の水平荷重とそれに対応する水平変位は、水平荷重が約15kNの時に水平変位が約60mmである。
ここで、本実施例の外フレーム11A’に相当する図5(A)に示す単一のフレームのみからなる制振装置Aと、本実施例の内フレーム12A’に相当する図5(B)に示す単一のフレームのみからなる制振装置Bと、本実施例の制振装置10A’とを比較検討する。なお、本図の場合、水平変位(層間変位)は層間変位角(rad:ラジアン)で表す。これによると、外フレーム11A’に相当する単一のフレームのみからなる制振装置Aにおけるある水平変位における荷重と内フレーム12A’に相当する単一のフレームのみからなる制振装置Bにおけるある水平変位における荷重の和は、いずれの水平変位においても、本実施例の制振装置10A’のある水平変位における荷重とほぼ等しいことが分かる。すなわち、制振装置10A’は、外フレーム11A’の耐力と内フレーム12A’の耐力の和の耐力を備えることが分かる。
そして、水平変位量が徐々に大きくなると、内フレーム12A’のみが先に破壊され、外フレーム11A’は破壊されずに残るため、制振装置10A’全体が、一気に制振性能を喪失することがない。すなわち、外フレーム11A’と内フレーム12A’という異なる剛性と塑性域での異なる応力を兼ね備える複数のフレームを有することで、複数のフレームが一度に破壊されることがなく、一気に制振性能を喪失することがない。
また、図6に示すように、制振構造100A’に組み込まれた制振装置10A’における伸び側対角線の変形と短縮側対角線の変形とでは、同じ層間変位では、短縮側対角線の変形の方が大きい。たとえば、層間変位が1/30ラジアンにおいて、伸び側対角線の変位は25mmであるのに対して短縮側対角線の変位は約28mmである。そうすると、圧縮側の斜材は、揺れの小さい間は圧縮力を受けても、揺れが大きくなり変形が大きくなるにつれて圧縮力が緩和されたり解消されたりするようになる。したがって、制振装置10A’が組み込まれた制振構造100A’においては、斜材104A’が座屈して破壊されることがなくなる。
制振装置10A’は、スチール製のフレーム状部材を主構造の斜材の中間に配置するものであるから、大掛かりな構造を必要せず施工コストが低廉であり、地震や建築構造の特性に拘わらず、制振性能が安定的で信頼性が高く、またメンテナンス不要で耐久性もよい。そして、制振装置10A’は、そのようなスチール製のフレーム状部材であり、大きさの異なる外フレーム11A’と内フレーム12A’を組み合わすことで耐力が増加し剛性が高く加工性が良くなる。
<第二実施例>
図7および図8を参照し、本実施例における制振装置10B’および制振構造100B’を説明する。なお、以下では、上記実施例と異なる点を中心に説明する。制振装置10B’は、各部の中心線で表現した図14(B)に示した制振装置10Bの実施物である。
制振装置10B’は、1つの矩形の外フレーム11B’と、外フレーム11B’より小さく、外フレーム11B’と相似形を有する4つの内フレーム12B’1〜12B’4と、外フレーム11B’の(図中一点鎖線で示す)対角線DL上に外方向に各角OCOからそれぞれ延在する継手13B’とを備える。外フレーム11B’を構成する各辺および内フレーム12B’1〜12B’4を構成する各辺は互いに一体成型されており、外フレーム11B’および内フレーム12B’1〜12B’4の各角は剛性を有する。外フレーム11B’の各隅ICOは、内フレーム12B’1〜12B’4の1つの角OCIと直接的に結合されている。すなわち、外フレーム11B’の各隅ICOは、内フレーム12B’1〜12B’4の1つの角OCIと一致している。
制振装置10B’の外フレーム11B’および内フレーム12B’は、いずれもアルミニウム製であり、ダイカスト法などの鋳造法により一体成型で製造されている。ただし、製造方法については、これに限定されない。外フレーム11B’を構成する各辺11B’1、11B’2、11B’3、11B’4の正面視の厚さ、内フレーム12B’1〜12B’4を構成する各辺の正面視の厚さは、それぞれ約16mmである。
内フレーム12B’1〜12B’4の矩形を構成する各辺は、外フレーム11B’の矩形を構成する各辺と平行または垂直をなす。外フレーム11B’の各隅ICOは、内フレーム12B’1〜12B’4の1つの角OCIと一致しているので、内フレーム12B’1〜12B’4の縦の辺と横の辺のそれぞれ1つずつは、外フレーム11B’の縦の辺と横の辺に一致している。力の作用線である中心線における外フレーム11B’の縦の大きさは約230mmであり、横の大きさは約95mmである。また、力の作用線である中心線における内フレーム12B’の縦横の大きさは、外フレーム11B’の縦横の大きさの半分であり、互いに相似形の矩形である。
継手13B’は、外フレーム11B’の各角OCOから一体成型されることにより延在しており、継手13B’と外フレーム11B’の角とは剛性を有して結合されている。継手13B’は、外フレーム11B’の厚さとほぼ同じ厚さを有し、1つのボルト穴を有している。継手13B’は、別部材として成型された拡張継手15B’を介して、制振装置10B’を斜材104B’と連結するための部分である。本実施例の場合、継手13A’は拡張継手15B’とボルト止めされかつ拡張継手15B’は斜材104A’とボルト止めされて、制振装置10B’は制振構造100B’に連結される。本実施例では、拡張継手15B’は、制振装置10B’の継手13B’を斜材104B’と連結するための独立した部材であり、外フレーム11B’の側面視の厚さより薄く、斜材104B’と連結し易くするように平たく形成されると共に、斜材104B’との強固な結合力を確保するために3つのボルト穴を有する。
図7に示す制振装置10B’は、図8に示すように、制振構造100B’に組み込まれる。制振構造100B’は、柱102B’と梁103B’からなる矩形構造材101B’と、矩形構造材101B’の対角線DL上に配置される斜材104B’と、斜材104B’の中間において、対角線DL上に配置される拡張継手15B’および継手13B’により斜材104B’と連結された制振装置10B’とを備える。制振装置10B’は、上記実施例と同様、柱102B’と梁103B’の縦横比が2.4であって外フレーム11B’と相似の矩形構造材101B’に適用することができる。
制振構造100B’は、自身の矩形中心O3と制振装置10B’の外フレーム11B’の矩形中心O1とが一致するように、制振装置10B’の各継手13B’/各拡張継手15B’と矩形構造材101B’の各隅ICSに対応する各斜材104B’と連結させることにより制振装置10B’を備える。矩形構造材101B’と相似形のフレーム状の制振装置10B’をこのように連結することで、制振構造100B’は、制振装置10B’が正負の繰り返し変形を受けても元の形状に戻ることができるため、優れた制振性能を有することができる。
図9は、破壊試験において、制振構造100B’に組み込まれた制振装置10B’に負荷を徐々に増加させた様子を示す。本図(A)は、矩形構造材101B’の上の梁103B’に水平荷重を与えた時の制振装置10B’を正面視したもので、本図(B)は、何度か負荷を繰り返した結果破断した時の制振装置10B’を正面視したものである。本図(A)に示すように、斜材104B’と拡張継手15B’/継手13B’を介して力が伝達されて、制振装置10B’における外フレーム11B’および内フレーム12B’が塑性変形することにより、振動エネルギーを吸収する。制振構造100B’の特性に応じた変形量や変形回数を超えると、内フレーム12B’は、本図(B)に示すように破断などにより破壊される。通常、内フレーム12B’の方が破壊を生じる変形量が小さいので、内フレーム12B’の短い辺において最初に破壊が生じる。
図10(A)は、矩形構造材101B’に水平荷重を与えた場合の、スチール製(鋼材)の制振装置10B’の荷重変形曲線を、図10(B)はアルミニウム製の制振装置10B’の荷重変形曲線を示す。スチール製の制振装置10B’における、破断直前の水平荷重とそれに対応する水平変位は、水平荷重が約13kNの時に水平変位が約60mmである。水平変位量が大きくなり、内フレーム12B’の短い横の辺が先に破壊され、外フレーム11B’は破壊されずに残るため、制振装置10B’全体が、一気に制振性能を喪失することがない。アルミニウム製の制振装置10B’は、スチール製に比して塑性ひずみは大きく、水平荷重が約22kNの時に水平変位が約95mmであっても、実験においては破断することがなかった。仮に、水平変位量がさらに大きくなっても、同様に、内フレーム12B’の横の辺が先に破壊され、外フレーム11B’は破壊されずに残るため、制振装置10B’全体が、一気に制振性能を喪失することがない。
また、図11に示すように、制振構造100B’に組み込まれた制振装置10B’における伸び側対角線の変形と短縮側対角線の変形とでは、同じ層間変位では、短縮側対角線の変形の方が大きい。たとえば、層間変位が1/30ラジアンにおいて、伸び側対角線の変位は23mmであるのに対して短縮側対角線の変位は約27mmである。そうすると、圧縮側の斜材は、揺れの小さい間は圧縮力を受けても、揺れが大きくなり変形が大きくなるにつれて圧縮力が緩和されたり解消されたりするようになる。したがって、制振装置10B’が組み込まれた制振構造100B’においては、斜材104B’が座屈して破壊されることがなくなる。
制振装置10B’は、金属製のフレーム状部材を主構造の斜材の中間に配置するものであるから、大掛かりな構造を必要せず施工コストが低廉であり、地震や建築構造の特性に拘わらず、制振性能が安定的で信頼性が高く、またメンテナンス不要で耐久性もよい。そして、制振装置10B’は、そのような金属製のフレーム状部材であり、大きさの異なる外フレーム11B’と内フレーム12B’を組み合わすことで剛性が高く加工性が良くなる。
<第三実施例>
図12および図13を参照し、本実施例における制振装置10E’および制振構造100E’を説明する。本実施例の制振装置10E’は、上述した第一実施例の制振装置10A’の変形例と第二実施例の制振装置10B’を組み合わせた制振装置である。第一実施例の制振装置10A’の変形例は、制振装置10A’では継手13A’が連結し易くするように平たく形成されて複数のボルト穴を有しているが、制振装置10B’と同様に外フレーム11A’の厚さとほぼ同じ厚さを有し、1つのボルト穴を有している。第一実施例の制振装置10A’の変形例は、継手以外は、制振装置10A’と同じである。したがって、以下では、第一実施例の制振装置10A’の変形例は、制振装置10A’として説明する。
制振装置10E’は、第一実施例の制振装置10A’と第二実施例の制振装置10B’とを矩形構造材101E’の厚さ方向に備えた制振装置である。矩形構造材101E’の厚さ方向とは、矩形構造材101E’を構成する柱102E’または梁103E’の側面視における厚さの方向(正面視における奥行き方向)を言う。本図に示すように、制振装置10E’は、正面側に制振装置10B’を、背面側に制振装置10A’を備える。制振装置10B’の外フレームの大きさと、制振装置10A’の外フレームの大きさは同じである。ただし、これに限定されず、互いに異なった大きさの外フレームを有していてもよい。また、外フレームの対角線上に外方向に各角からそれぞれ延在する継手13E’の大きさ・形状も同じであり、制振装置10B’の継手と同形である。なお、制振装置10A’の外フレームの矩形中心O1、制振装置10B’の外フレームの矩形中心O1、および矩形構造材101E’の矩形中心O3はすべて一致していることが好ましい。
拡張継手15E’は、制振装置10B’と制振装置10A’の間に挟まれるようにして配置され、継手13E’においてボルト止めされることで、一体として制振装置10E’として機能する。拡張継手15E’は、本実施例では、制振装置10B’と制振装置10A’の外フレームに相当する部分を有すると共に、その外フレームに相当する部分の対角線上に外方向に各角からそれぞれ延在している。もちろん、これに限定されず、外フレームに相当する部分を有さず、継手13E’とボルト止めされる部分とそこから延在する部分から構成されてもよい。制振装置10E’の側面視における厚さは、拡張継手15E’の厚さを含めて、矩形構造材101E’の側面視における厚さ以下が好ましい。
この制振装置10E’を含む制振構造100E’は、制振装置10B’と制振装置10A’という複数の特性を有する制振装置を備えることで、様々な地震の揺れに対応できる。また、制振構造100E’は、各制振装置並びに各制振装置内のフレームにおいて、亀裂や破断のような破壊が起こる変形量が異なることから、一部が破壊された場合であっても一気に制振性能を喪失することがない。
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、数量、適用例、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。