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JP6326251B2 - 発光材料及びそれを用いた有機el素子 - Google Patents

発光材料及びそれを用いた有機el素子 Download PDF

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JP6326251B2 JP2014049324A JP2014049324A JP6326251B2 JP 6326251 B2 JP6326251 B2 JP 6326251B2 JP 2014049324 A JP2014049324 A JP 2014049324A JP 2014049324 A JP2014049324 A JP 2014049324A JP 6326251 B2 JP6326251 B2 JP 6326251B2
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Description

本発明は、高発光効率の発光材料、およびそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関する。
有機EL素子は、陽極および陰極からなる一対の電極間に少なくとも1つの発光層を備える。有機EL素子に電圧が印加されると、陽極から正孔が、陰極から電子がそれぞれ発光層に注入される。注入された正孔と電子は、発光層で再結合する。
発光層が、ホスト材料とドーパント材料を含有する場合、主にホスト材料中で正孔と電子の再結合が生じ、ホスト材料が基底状態(S状態)から励起状態へ状態遷移する。この際、スピン統計則により、励起状態に至ったホスト材料の25%が一重項最低励起状態(S1状態)、75%が三重項最低励起状態(T1状態)になる。続いて、励起状態にあるホスト材料からドーパント材料へのエネルギー移動が起こり、ドーパント材料が基底状態から励起状態へ状態遷移する。この時、原則的に、S1状態とT1状態の存在比はホスト材料での値が踏襲される。すなわち、励起状態に至ったドーパント材料の25%がS1状態、75%がT1状態になる。
蛍光材料は、S状態からS状態への遷移の際に、蛍光を放射する。そのため、原理的には、蛍光材料は、S状態にある25%のみを発光に寄与させることができる。一方、燐光は、T状態からS状態への遷移の際の発光である。燐光ドーパント材料内で、S状態からT状態への項間交差が効率的に行われる場合、原理的には、内部量子収率を100%まで高めることができる。そのため、燐光有機EL発光素子が盛んに開発されるようになり、新たなドーパント材料やホスト材料も見出されている。
燐光有機EL素子の発光層では、発光層の燐光ドーパント材料として、イリジウム錯体や白金錯体等が用いられる。ホスト材料は、ドーパント材料よりも大きなT−Sエネルギーギャップを有することが必要であり、4,4’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体が広く用いられている。
一方、CBPやCDBPは、Tが大きいために、正孔や電子を受け取る能力に乏しく、有機EL素子の駆動電圧が高くなるとの問題がある。このような問題に鑑み、特許文献1では、電子求引性部位としてのカルバゾリル基と、電子輸送性部位としてのヘテロアリーレン基とが結合したバイポーラ化合物を、燐光ホスト材料として用いることが提案されており、この燐光有機EL素子は、低駆動電圧で外部量子収率に優れることが開示されている。また、特許文献2では、カルバゾリル基とシアノ置換アリーレン基またはシアノ置換ヘテロアリーレン基とが結合したバイポーラ化合物を、燐光ホスト材料として用いることが提案されている。
上記のように、燐光を利用する有機EL素子は、高発光効率を実現可能である。しかし、特許文献1,2にも記載されているように、燐光を高効率に放出するドーパント材料の多くは、イリジウムや白金のような貴金属を含んだ金属錯体化合物であり、材料価格が極めて高いことが問題である。
近年、安価な蛍光材料を用いつつ、蛍光有機EL素子の理論上限である25%を超える内部量子収率を達成する技術として、熱活性型遅延蛍光を利用した有機EL素子が開発され、注目されている。熱活性型遅延蛍光材料は、SエネルギーとTエネルギーの差ΔESTが小さいため、熱エネルギーによって、T状態からS状態への状態遷移(逆項間交差)が生じる。熱エネルギーによる逆項間交差が起きると、T状態からS状態を経由して蛍光が放射されるため、25%を超える内部量子収率を達成でき、理論上は内部量子収率を100%にまで高めることも可能である。
例えば、非特許文献1および特許文献3では、電子求引性のジシアノベンゼンに電子供与性のカルバゾリル基が結合した特定のシアノベンゼン誘導体が、熱活性型遅延蛍光材料として有用であることが示されている。また、非特許文献2では、熱活性型遅延蛍光材料として、1,2,3,5‐テトラキス(9−カルバゾリル)‐4,6‐ジシアノベンゼン(4CzIPN)を用いた有機EL素子が、電気励起下において本質的に安定であり、従来の燐光有機EL素子に匹敵する耐久寿命を有することが報告されている。
特開2010−241801号公報 特開2009−094486号公報 WO2013/154064号国際公開パンフレット
Nature, 492, 234 (2012) Scientific Reports, 3, 2127 (2013)
熱活性型の熱活性型遅延蛍光材料は、高効率かつ長耐久寿命の有機EL材料として注目されている。上述のように、熱活性型遅延蛍光材料は、ΔESTが小さいことが求められる。一般に、ΔESTが小さい化合物は、発光量子収率が小さい傾向がある。上記非特許文献1では、電子求引性のジシアノベンゼンと電子供与性のカルバゾリル基との立体障害により、両者のπ共役系が非平行に存在するために、低ΔESTと高量子収率を両立であることが記載されている。
しかしながら、このような特性を満たす高量子収率の熱活性型遅延蛍光材料の種類は限られており、一部の化合物について有用性が確認されているに過ぎない。また、電子求引性部位および電子供与性部位の骨格構造や置換基の種類と発光特性との間に、明確な関係が見出されるには至っておらず、化学構造に基づいて、発光効率や発光波長を予測することは困難である。このような現状に鑑み、本発明は、有機EL素子の発光材料、特に熱活性型遅延蛍光材料として有用な材料、およびそれを用いた有機EL素子の提供を目的とする。
本発明者らが検討の結果、電子求引性部位としてのシアノピリジンと、電子供与性部位としてのヘテロアリール基が結合した化合物が、熱活性型遅延蛍光材料として有用であることが見出された。さらに検討の結果、電子供与性部位であるヘテロアリール基の芳香族複素環上に電子求引性の置換基を有することにより、電子供与性部位の電子密度を低下させると、低ΔESTを維持しつつ、発光量子収率を向上可能であることを見出し、本発明に至った。
本発明は、下記一般式(I)で表される化合物からなる発光材料に関する。
Figure 0006326251
上記一般式(I)において、mおよびnはそれぞれ独立に1〜3の整数であり、m+nは2〜4である。Aは電子供与性を有する置換ヘテロアリール基であり、かつ芳香族複素環上の置換基の少なくとも1つは電子求引性基である。mが2以上である場合、それぞれのAは同一でも異なっていてもよい。
本発明の発光材料は、好ましくは遅延蛍光を放射する発光材料であり、有機EL素子の発光層に用いることができる。
上記一般式(I)において、少なくとも1つの置換基Aは、ピリジン環のCN基が結合している炭素原子と隣接する炭素原子に結合していることが好ましい。また、上記一般式(I)で表される化合物は、ピリジン環の4位の炭素原子にCN基が結合していることが好ましい。
上記一般式(I)で表される化合物は、ピリジン環に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトが、低磁場シフトしていることが好ましい。具体的には、上記一般式(I)で表される化合物と、上記一般式(I)における置換基Aの芳香族複素環上の電子求引性基の全てが水素原子に置換された化合物とを比較した場合に、前者のピリジン環に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトは、後者のピリジン環に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトよりも0.02ppm以上低磁場シフトしていることが好ましい。
上記一般式(I)において、置換基Aの芳香族複素環上の電子求引性基の少なくとも1つは、Hammetの置換基定数σが0.1以上の電子求引性基であることが好ましい。電子求引性基としては、シアノ基、パーフルオロアルキル基、およびヘテロアリール基が好ましく、中でも、シアノ基、2‐ピリジル基、3‐ピリジル基、および4‐ピリジル基が好ましい。
上記一般式(I)において、少なくとも1つの置換基Aは、置換カルバゾリル基であることが好ましい。置換カルバゾリル基は、下記A1で表される。下記A1において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子または任意の置換基であり、R〜Rの少なくとも1つは、電子求引性基である。
Figure 0006326251
置換カルバゾリル基A1は、3位の置換基Rが電子求引性基であることが好ましい。また、カルバゾール環の6位の置換基Rは、水素原子または電子求引性基であることが好ましく、1位,2位,4位,5位,7位,および8位の置換基R,R,R,R,RおよびRは、いずれも水素原子であることが好ましい。
本発明の発光材料は、上記一般式(I)において、ピリジン環の4位にシアノ基を有し、3位および5位に上記の置換カルバゾリル基A1を有する化合物、すなわち、下記一般式(II)で表される化合物である。
Figure 0006326251
上記一般式(II)において、R〜R24はそれぞれ独立に、水素原子または任意の置換基であり、R〜R16の少なくとも1つ、およびR17〜R24の少なくとも1つは、電子求引性基である。
上記一般式(II)で表される化合物は、ピリジン環に結合した水素原子(2位および6位の水素原子)のH−NMRの化学シフトが、9.12ppm以上であることが好ましい。
さらに、本発明は、上記発光材料を用いた有機EL素子に関する。本発明の有機EL素子は、一対の電極間に、上記の発光材料を含む発光層を備える。発光層はドーパント材料とホスト材料を含み、ドーパント材料が上記発光材料であることが好ましい。
また、本発明は、上記の有機EL素子を備える照明器具およびディスプレイ装置に関する。
本発明の発光材料は、内部量子収率が高く、発光効率に優れる。特に、本発明の発光材料を有機EL素子の発光層に用いた場合には、遅延蛍光の放射により、発光効率を飛躍的に高めることができる。
本発明の実施形態に係る有機EL素子の構成を表す模式断面構成である。 化合物1〜6のトルエン溶液中での発光スペクトルである。 (A)は、化合物1の蛍光の時間分解スペクトルである。(B)は、化合物4の蛍光の時間分解スペクトルである。 (A)は、化合物1をドーパントとして用いた共蒸着膜の蛍光の時間分解スペクトルである。(B)は、化合物4をドーパントとして用いた共蒸着膜の蛍光の時間分解スペクトルである。
[発光材料]
まず、本発明の発光材料について説明する。本発明の発光材料は、下記一般式(I)で表される化合物からなる。
Figure 0006326251
上記一般式(I)において、mおよびnはそれぞれ独立に1〜3の整数であり、m+nは2〜4である。上記一般式(I)において、置換基Aは、電子供与性を有する置換ヘテロアリール基であり、かつ芳香族複素環上の置換基の少なくとも1つは電子求引性基である。mが2以上である場合、それぞれのAは同一でも異なっていてもよい。
電子供与性を有する置換ヘテロアリール基とは、電子供与性の芳香族複素環上に、少なくとも1つの置換基を有するヘテロアリール基を意味する。上記一般式(I)で表される化合物は、電子求引性のシアノピリジン部位と、電子供与性の置換ヘテロアリール部位とが結合した化合物、すなわちバイポーラ化合物である。
置換基Aの芳香族複素環は、電子供与性を有するものであり、環形成原子数が5〜30であるものが好ましい。ヘテロアリール基による電子供与性を高め、かつ立体障害によりピリジン環のπ共役系と置換基Aの芳香族複素環のπ共役系とを非平行に存在させる観点から、芳香族複素環は縮合多環であることが好ましい。また、芳香族複素環は、含窒素縮合多環であることが好ましい。
電子供与性の芳香族複素環の具体例としては、インドール、イソインドール、チエノインドール、インダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン等の縮合二環;カルバゾール、アクリジン、β-カルボリン、アクリドン、ペリミジン、フェナジン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、1,7−フェナントロリン、1,8−フェナントロリン、1,9−フェナントロリン、1,10−フェナントロリン、2,7−フェナントロリン、2,8−フェナントロリン、2,9−フェナントロリン、3,7−フェナントロリン、3,8−フェナントロリン等の縮合三環;キンドリン、キニンドリン等の縮合四環;アクリンドリン等の縮合五環、等が挙げられる。
上記の電子供与性の芳香族複素環の中でも、置換基Aの芳香族複素環としては、カルバゾール環、インドール環、チエノインドール環、インドリン環、アクリジン環、フェノキサジン環が好ましく、特にカルバゾール環が好ましい。また、上記一般式(I)で表される化合物は、置換基Aの異種原子(例えば窒素)が、ピリジン環の炭素原子と結合していることが好ましい。すなわち、本発明の発光材料は、好ましくは、上記一般式(I)において、置換基Aが下記A1で表される置換カルバゾリル基である化合物からなる。
Figure 0006326251
上記A1において、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子または任意の置換基であり、R〜Rの少なくとも1つは、電子求引性基である。
上記一般式(I)で表される化合物のSエネルギーとTエネルギーの差ΔESTを小さくするためには、HOMOを電子供与性部位に局在化させ、LUMOを電子求引性部位に局在化させることが好ましい。このような局在化を生じさせるためには、分子構造が対称性を有することが好ましい。上記一般式(I)において、分子構造が対称性を有する置換基の位置の組み合わせとしては、下記の構造式が例示できる。なお、下記の構造式(123)および(124)において、複数のAは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、対称性を高めるためには両者が同一であることが好ましい。
Figure 0006326251
上記一般式(I)において、シアノピリジンの電子求引性を高めるためには、ピリジン環の4位の炭素にCN基が結合していることが好ましい。また、少なくとも1つの置換基Aは、CN基が結合している炭素原子と隣接する炭素原子に結合していることが好ましい。置換基AとCN基とが隣接する炭素原子に結合することにより、置換基Aの芳香族複素環とシアノ基との間の立体障害に起因して結合の捻じれが生じ、置換基Aの芳香族複素環のπ共役系は、ピリジン環のπ共役系と非同一平面に存在する。そのため、一重項最低励起状態(S状態)と三重項最低励起状態(T1状態)とのエネルギーの差ΔESTが小さくなり、熱エネルギーによる逆項間交差が生じやすくなる。
これらの置換基の組み合わせを満たす化合物としては、下記の構造式で表される化合物が挙げられる。なお、下記の構造式において、複数のAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
Figure 0006326251
また、上記一般式(I)で表される化合物は、置換基Aを2つ以上有していることが好ましい。上記の例示構造の中で、上記構造式(123)は、前述の条件の全てを満たし、本発明の発光材料の構造として特に好ましい。
前述のように、置換基Aは、芳香族複素環上に少なくとも1つの電子供与性の置換基を有する。電子求引性の置換基とは、芳香族複素環のπ共役系の電子密度を低下させる置換基であり、脂肪族、芳香族のいずれでもよい。
置換基Aの芳香族複素環上の電子求引性の置換基は、置換基Aが結合しているシアノピリジンのπ共役系の電子密度も低下させる作用を有することが好ましい。置換基Aの芳香族複素環上の置換基が、シアノピリジンのπ共役系の電子密度を低下させるか否かは、ピリジン環に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトから判断することができる。具体的には、上記一般式(I)で表される化合物と、当該化合物の置換基Aの芳香族複素環上の電子求引性基の全てを水素原子に置換した化合物とを対比した場合に、ピリジン環に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトが、低磁場シフトしている(化学シフトが大きい)ことが好ましい。
一例として、一般式(I)で表される化合物が、上記例示構造(123)で表される化合物である場合を挙げて、ピリジン環に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトについて説明する。上記例示構造(123)の化合物は、下記一般式(II)で表すことができる。下記一般式(II)において、R〜R24はそれぞれ独立に、水素原子または任意の置換基であり、R〜R16の少なくとも1つ、およびR17〜R24の少なくとも1つは、電子求引性基である。
Figure 0006326251
上記一般式(II)で表される化合物のピリジン環の2位および6位の炭素原子に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトは、上記一般式(II)で表される化合物のR〜R24のすべてが水素原子である化合物、すなわち下記で表される3,5−ビス(9−カルバゾリル)‐4‐シアノピリジンのピリジン環の2位および6位の炭素に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトよりも低磁場シフトしていることが好ましい。
Figure 0006326251
3,5−ビス(9−カルバゾリル)‐4‐シアノピリジンは、CDCl中のH−NMRにおいて、ピリジン環上の水素由来のピーク(s,2H)が9.10ppmに観測される(後述の合成例5参照)。これに対して、上記一般式(II)で表される化合物は、R〜R16のいずれか1つ以上、およびR17〜R24のいずれか1つ以上が電子求引性の置換基であることにより、シアノピリジンのπ共役系の電子密度が低下して、シアノピリジンの水素由来のH−NMRのピークが、9.10ppmよりも低磁場側に観測されることが好ましい。
上記一般式(I)で表される化合物のピリジン環に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトは、当該化合物の置換基Aの芳香族複素環上の電子求引性基のすべてが水素原子に置換された化合物のピリジン環に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトよりも、0.02ppm以上低磁場シフトしていることが好ましく、0.04ppm以上低磁場シフトしていることがより好ましく、0.06ppm以上低磁場シフトしていることがさらに好ましく、0.07ppm以上低磁場シフトしていることが特に好ましい。
したがって、上記一般式(II)で表される化合物のピリジン環に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトは、9.12ppm以上が好ましく、9.14ppm以上がより好ましく、9.16ppm以上がさらに好ましく、9.17ppm以上が特に好ましい。
上記一般式(I)で表される化合物は、置換基Aの芳香族複素環上に電子求引性の置換基を有することで、SエネルギーとTエネルギーの差ΔESTが小さく、かつ発光量子収率が高くなる傾向がある。そのため、上記一般式(I)で表される化合物は、熱エネルギーによる、T状態からS状態への逆項間交差の発生確率が高く、遅延蛍光を放射する発光材料として有用である。
ここで、ΔESTを小さくするためには、HOMOとLUMOの電子軌道の重なりを制限する必要があり、HOMOを電子供与性部位に、LUMOを電子求引性部位に局在化させることが好ましい。そのため、従来の熱活性型遅延蛍光材料の分子設計においては、バイポーラ材料の電子供与性部位の電子密度をより大きくし、電子求引性部位の電子密度をより小さくする方向が基本となっていた。また、前述の非特許文献1にも記載されているように、バイポーラ材料の電子供与性部位に置換基を導入すると、発光量子収率が低下する傾向があることが知られていた。これに対して、電子求引性部位がシアノピリジンである場合は、電子供与性部位である置換基Aが、芳香族複素環上に電子求引性の置換基を有する場合に、電子求引性部位であるシアノピリジン部分の電子密度が低下し、低ΔESTと高量子収率を両立することができる。
電子求引性の置換基は、Hammetの置換基定数σが0より大きいものが好ましく、0.1以上であるものがより好ましく、0.3以上であるものがさらに好ましく、0.6以上であるものが特に好ましい。なお、Hammetの置換基定数の値が正であれば、電子求引性であり、その値が大きいほど、電子求引性が強いことを表す。Hammetの置換基定数は、Hansch, C. et. al., Chem. Rev., 91, 165-195. (1991)に詳しく記載されている。
電子求引性の置換基の具体例としては、シアノ基;フェニル基;ニトロ基;アシル基;ホルミル基;アシルオキシ基;アシルチオ基;アルキルオキシカルボニル基;アリールオキシカルボニル基;ハロゲン原子;少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基(好ましくは2つ以上のフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基であり、炭素数は1〜6が好ましく、1〜3がより好ましく、具体例としてはトリフルオロメチル基が挙げられる);少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルコキシ基;少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアリールオキシ基;少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキルアミノ基;少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキルチオ基;‐COOR(Rは、水素原子またはアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基である);‐CONR (Rは、それぞれ独立に、水素原子,炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数6〜20のヘテロアリール基であり、好ましくは水素原子である);SOM(Mは、水素原子又はアルカリ金属である);ジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、ジアルキルホスフィニル基、ジアリールホスフィニル基等のフォスフィンオキシド構造を含む基;スルホニル基;アルキルスルホニル基;アリールスルホニル基;アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基;アシルチオ基;スルファモイル基;チオシアネート基;チオカルボニル基;イミノ基;N原子で置換したイミノ基;カルボキシ基またはその塩;アシルアミノ基;アゾ基;セレノシアネート基;ヘテロアリール基;σが0より大きい(好ましくはσが0.3より大きい)電子求引性基の置換基を有するアリール基等が挙げられる。
上記電子求引性の置換基の中でも、シアノ基、パーフルオロアルキル基(中でも、トリフルオロメチル基)、およびヘテロアリール基からなる群から選択されるものが好ましい。ヘテロアリール基は、異種原子として、窒素原子または硫黄原子を含む複素環構造を有することが好ましい。電子求引性のヘテロアリール基の具体例としては、オキサジアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、テトラゾリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、ピリジル基等が挙げられる。ヘテロアリール基は、炭素原子および異種原子のいずれが芳香族複素環に結合していてもよいが、電子求引性を高める観点からは炭素原子が芳香族複素環に結合していることが好ましい。上記ヘテロアリール基の中でも、2‐ピリジル基、3‐ピリジル基、および4‐ピリジル基からなる群から選択されるものが特に好ましい。
特に、上記電子求引性基がシアノ基である場合には、発光波長が短波長化する傾向がある。そのため、上記一般式(I)において、置換基A上の電子求引性基がシアノ基である化合物は、青色遅延蛍光材料として有用である。
上記電子求引性基がピリジル基である場合、特に4−ピリジル基である場合に、発光量子収率が高められる傾向がある。そのため、上記一般式(I)において、置換基A上の電子求引性基がピリジル基である化合物は、高発光効率の遅延蛍光材料として有用である。
置換基Aの芳香族複素環上の電子求引性基の位置は特に限定されない。好ましくは、置換基Aの芳香族複素環の種類に応じて、置換基Aが結合しているシアノピリジンのπ共役系の電子密度を低下させるように、電子求引性基の結合位置が定められる。例えば、置換基Aの芳香族複素環がカルバゾール環である場合、すなわち、置換基Aが上記A1である場合、3位および/または6位に電子求引性の置換基が存在する場合に、電子求引性部位であるシアノピリジンの電子密度が低下する傾向がある。そのため、上記置換基A1において、Rは電子求引性基であることが好ましい。また、Rは、電子求引性基または水素原子であることが好ましい。
置換基Aの芳香族複素環上の置換基のうち、電子求引性基以外は、水素原子または任意の置換基である。電子求引性基以外の置換基の例としては、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数1〜20のアルキル置換アミノ基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数12〜40のジアリールアミノ基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のカルバゾリル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルキニル基等が挙げられる。
芳香族複素環上には、電子求引性の置換基以外の置換基を有していない(すなわち電子供与性の置換基を有していない)ことが好ましい。例えば、上記A1において、R〜Rのうち、電子求引性基以外は、水素原子であることが好ましい。すなわち、置換基R〜Rは、電子求引性基または水素原子であり、R〜Rの少なくとも1つが電子求引性基であることが好ましい。これらを総合すると、A1は、Rが電子求引性基であり、Rが水素原子または電子求引性基であり、R,R,R,R,RおよびRがいずれも水素原子であることが好ましい。
特に、置換基A1は、下記いずれかの構造であることが好ましい。下記(A21)および(A22)において、Pyは、2‐ピリジル基、3‐ピリジル基、または4‐ピリジル基であり、4‐ピリジル基が特に好ましい。下記(A22)において、2つのPyは同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
Figure 0006326251
同様の観点から、上記一般式(II)においても、R〜R24のうち、電子求引性基以外は水素原子であることが好ましい。また、R11およびR19は電子求引性基であることが好ましく、R14およびR22は水素原子または電子求引性基であることが好ましい。これらを総合すると、上記一般式(II)で表される化合物は、R11およびR19が電子求引性基であり、R14およびR22が水素原子または電子求引性基であり、R,R10,R12,R13,R15,R16,R17,R18,R20,R21,R23,R24がいずれも水素原子であることが好ましい。
特に、上記一般式(II)で表される化合物は、下記いずれかの化合物であることが好ましい。下記の化合物(P1)および(P2)において、Pyは、2‐ピリジル基、3‐ピリジル基、または4‐ピリジル基であり、4‐ピリジル基が特に好ましい。下記(P2)において、2つのPyは同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
Figure 0006326251
[有機EL素子]
次に、有機EL素子について説明する。有機EL素子は、陽極および陰極からなる一対の電極間に有機層を備え、有機層のうち少なくとも1層は発光層である。本発明の発光材料は、有機EL素子の発光材料として有用であり、発光層の材料として効果的に用いることができる。上記一般式(I)で表される化合物の中には、遅延蛍光を放射する遅延蛍光材料(遅延蛍光体)が含まれている。遅延蛍光材料を発光材料として用いた有機EL素子は、遅延蛍光を放射し、以下に説明する原理によって、高い発光効率を有する。
<遅延蛍光による高発光効率の原理>
有機EL素子においては、陽極および陰極から発光材料にキャリア(正孔および電子)が注入されると、キャリア再結合により発光材料が励起状態に遷移され、励起子が基底状態へ遷移する際に光が放射される。スピン統計則により、励起子の25%は一重項励起状態(S)、残り75%は三重項励起状態(T)となる。従って、原理上は、三重項励起状態からの発光である燐光を利用する方が、内部量子収率は高くなる。しかし、三重項励起状態は寿命が長いため、励起状態の飽和や他の励起子との相互作用によるエネルギー失活が生じやすく、一般に燐光の内部量子収率は高くないことが多い。
一方、遅延蛍光材料では、三重項−三重項消滅、あるいは熱エネルギーの吸収により、三重項励起状態から一重項励起状態への遷移(逆項間交差)が生じ、一重項励起状態から基底状態への遷移の際に蛍光を放射する。このように、逆項間交差を経由して生じる蛍光が遅延蛍光である。中でも、有機EL素子では、熱エネルギーの吸収により逆項間交差を生じる「熱活性型遅延蛍光材料」が特に有用である。
有機EL素子に遅延蛍光材料を利用した場合、一重項励起状態の励起子は通常通り蛍光を放射する。一方、三重項励起状態の励起子は、デバイスが発する熱エネルギーを吸収して、一重項励起状態へ励起(逆項間交差)され、蛍光を放射する。逆項間交差を経由して生じる蛍光は、一重項励起からの発光であるため、基底状態から直接一重項励起状態へ励起された励起子による発光と同波長での発光である。ただし、逆項間交差を経由して生じる蛍光の寿命(発光寿命)は、通常の蛍光や燐光よりも長くなるため、これらよりも遅延した蛍光として観察される。これを遅延蛍光として定義できる。
このような熱活性型の励起子移動機構を利用すれば、キャリア注入後に熱エネルギーの吸収を経ることにより、通常は25%しか生成しない一重項励起状態の比率を25%以上に引き上げることが可能となる。特に、100℃未満の低い温度でも強い蛍光および遅延蛍光を発する化合物を用いれば、デバイスの熱で充分に三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差が生じて遅延蛍光を放射するため、発光効率を飛躍的に向上させることができる。
<有機EL素子の構成>
図1は、一実施形態にかかる有機EL素子の構成を表す模式断面図である。この素子は、基板1上に、陽極2及び陰極4を備え、これら一対の電極間に有機層3を備える。有機層3は、少なくとも1つの発光層を有する。有機層3は発光層のみからなるものでもよく、発光層の他に1層以上の有機層を有するものでもよい。
発光層以外の有機層としては、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層等が挙げられる。正孔輸送層は正孔注入機能を有する正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有する電子注入輸送層でもよい。図1に示す形態では、有機層3は、発光層33の陽極2側に正孔注入層31および正孔輸送層32を有し、発光層33の陰極4側に電子輸送層34および電子注入層35を有する。なお、本発明の有機EL素子は、一対の電極間に発光層を有していればよく、図1に示す構成に限定されるものではない。以下では、有機EL素子の各部材および各層について説明する。
(基板)
有機EL素子は、基板1上に、一対の電極2,4および有機層3を有することが好ましい。基板の材料は特に限定されず、例えば、ガラスのような透明基板、シリコン基板、フレキシブルなフィルム基板等から適宜選択される。基板側から光を取り出すボトムエミッション型の有機EL素子の場合、基板は、光取り出し効率を高める観点から、可視光域における透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
(陽極)
陽極の材料は特に制限されないが、仕事関数の大きい(例えば4eV以上)金属、合金、金属酸化物電気伝導性化合物およびこれらの混合物が好ましく用いられる。陽極の材料の具体例としては、Au等の金属の薄膜、インジウム・スズ酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛、酸化錫等の金属酸化物等が挙げられる。中でも、発光層から発生した光の取り出し効率の向上や、パターニングの容易性の観点から、透明性の高い金属酸化物であるITOあるいはIZOが好ましく用いられる。陽極を構成する金属酸化物中には、必要に応じて、アルミニウム、ガリウム、ケイ素、ホウ素、二オブ等のドーパントが含まれていてもよい。
(陰極)
陰極の材料は特に制限されないが、仕事関数の小さい(例えば4eV以下)金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物およびこれらの混合物が好ましく用いられる。仕事関数の小さい金属の例としては、アルカリ金属ではLi、アルカリ土類金属ではMg、Caが挙げられる。また、希土類金属等からなる金属単体、あるいは、これらの金属とAl、In、Ag等の合金を用いることもできる。また、特開2001−102175号公報等に開示されているように、陰極に接する有機層として、アルカリ土類金属イオンおよびアルカリ金属イオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属錯体化合物を用いることもできる。この場合、陰極として、当該錯体化合物中の金属イオンを真空中で金属に還元し得る金属、例えばAl、Zr、Ti、Si等もしくはこれらの金属を含有する合金を用いることが好ましい。
発光層からの光を外部に取り出すため、陽極または陰極のいずれか一方は光透過性であることが好ましく、具体的には、可視光域における透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。なお、陽極および陰極の両方を光透過性とすることにより、陽極側と陰極側の両方から光を取り出し可能な有機EL素子を作製することもできる。
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層である。本発明の有機EL素子は、発光層に、上記一般式(I)で表される化合物からなる発光材料を1種または2種以上含む。本発明の有機EL素子は、上記の発光材料を単独で発光層に用いたものであってもよいが、発光層がドーパント材料とホスト材料を含み、ドーパント材料として上記の発光材料を用いたものが好ましい。発光層が、ドーパント材料とホスト材料とを含む場合、発光材料(ドーパント材料)で生成した一重項励起子および三重項励起子を、発光材料中に閉じ込めることができるため、発光効率が高められる傾向がある。
本発明の有機EL素子では、発光層に含まれるドーパント材料から光が放射される。この発光は、蛍光発光および遅延蛍光発光の両方を含む。なお、発光の一部は、ホスト材料からの発光であってもよい。発光層がホスト材料とドーパント材料を含有する場合、発光層中のドーパント材料の含有量は、0.1〜49重量%が好ましく、0.5〜40重量%がより好ましく、1〜30重量%がさらに好ましい。発光層中のホスト材料の含有量は、51〜99.9重量%が好ましく、60〜99.5重量%がより好ましく、70〜99重量%がさらに好ましい。
ホスト材料は、良好な成膜性を示し、かつ、ドーパント材料の良好な分散性を確保できる化合物であることが好ましい。また、ホスト材料は、一重項励起エネルギーおよび三重項励起エネルギーの少なくともいずれか一方が、ドーパント材料よりも高い値を有することが好ましい。ホスト材料の励起エネルギーが、ドーパント材料の励起エネルギーよりも高いことにより、ドーパントで生成した一重項励起子および三重項励起子を、ドーパント材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、発光効率を高めることができる。
発光効率を高めるためには、ホスト材料の一重項励起子から、ドーパント材料のエネルギー移動が活発に生じることが好ましい。そのため、ホスト材料の一重項励起エネルギーは、ドーパント材料の一重項励起エネルギーよりも大きいことが好ましい。また、ホスト材料とドーパント材料との分子間エネルギー遷移確率を高めるためには、両者の一重項励起エネルギーの差が1eV以下であることが好ましく、0.5eV以下であることがより好ましい。
ホスト材料は、正孔輸送性能と電子輸送性能の双方を併せ持つことが好ましく、かつ正孔輸送性と電子輸送性の差が小さいことが好ましい。具体的には、輸送性能の指標である正孔移動度と電子移動度の比は、0.002〜500の範囲内であることが好ましい。
ホスト材料の具体例としては、カルバゾール系化合物、アリールシラン系化合物、酸化リン系化合物、オキサジアゾール系化合物、キノリノール系金属錯体等が挙げられる。カルバゾール系化合物の例としては、N,N’−ジカルバゾリル−4,4’−ビフェニル(CBP)やN,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(mCP)が挙げられる。アリールシラン系化合物の例としては、p−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(UGH2)が挙げられる。酸化リン系化合物の例としては、4,4’−ビス(ジフェニルフォスフォリル)−1,1’−ビフェニル(PO1)や、ビス(2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル)エーテルオキシド(DPEPO)が挙げられる。ホスト材料は、いずれも1種の材料を単独で用いてもよいし、2種以上の材料を組み合わせて用いてもよい。
Figure 0006326251
(正孔輸送層および正孔注入層)
有機層3は、発光層33の陽極2側に、正孔注入層31や正孔輸送層32を有することが好ましい。正孔輸送材料は、正孔の注入または輸送、あるいは電子障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。
正孔輸送材料は、ラジカルカチオン化し易い化合物が好ましく、例えば、アリールアミン系化合物、イミダゾール系化合物、オキサジアゾール系化合物、オキサゾール系化合物、トリアゾール系化合物、カルコン系化合物、スチリルアントラセン系化合物、スチルベン系化合物、テトラアリールエテン系化合物、トリアリールアミン系化合物、トリアリールエテン系化合物、トリアリールメタン系化合物、フタロシアニン系化合物、フルオレノン系化合物、ヒドラジン系化合物、カルバゾール系化合物、N−ビニルカルバゾール系化合物、ピラゾリン系化合物、ピラゾロン系化合物、フェニルアントラセン系化合物、フェニレンジアミン系化合物、ポリアリールアルカン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリフェニレンビニレン系化合物等が挙げられる。
特に、アリールアミン化合物は、ラジカルカチオン化し易いことに加えてホール移動度が高く、ホール輸送材料として適している。アリールアミン化合物を含有するホール輸送材料の中でも、4、4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α―NPD)等のトリアリールアミン誘導体が好ましい。
Figure 0006326251
(電子輸送層および電子注入層)
有機層3は、発光層33の陰極4側に、電子注入層35や電子輸送層34を有することが好ましい。電子輸送材料は、電子の注入または輸送、あるいは正孔障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。
電子輸送材料は、ラジカルアニオン化し易い化合物が好ましく、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等、チアジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体等が挙げられる。電子輸送材料の具体例としては、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)、トリス[(8−ハイドロキシキノリナート)]アルミニウム(III)(Alq)等が挙げられる。中でも、汎用性の観点から、Alqが好適に用いられる。
Figure 0006326251
(阻止層)
発光層中に存在する正孔や電子、あるいは励起子の発光層外への拡散を阻止する目的で、阻止層を設けることもできる。電子阻止層は、発光層と正孔輸送層の間に配置され、電子が発光層を通過して正孔輸送側層側に拡散することを阻止する。正孔阻止層は、発光層と電子輸送層の間に配置され、正孔が発光層を通過して電子輸送側層側に拡散することを阻止する。正孔阻止層には、前述の電子輸送層と同様の材料を用いることができる。電子阻止層には、前述の正孔輸送層と同様の材料を用いることができる。
励起子阻止層は、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が、電荷輸送層や正孔輸送層に拡散することを阻止するための層である。励起子阻止層を設けることで、励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は、発光層の陽極側、陰極側のいずれにも配置することができ、両方に配置してもよい。阻止層としては、一重項励起エネルギーおよび三重項励起エネルギーの少なくともいずれか一方が、発光ドーパント材料の一重項励起エネルギーおよび三重項励起エネルギーよりも高い材料が好ましく用いられる。
<有機EL素子の作製>
電極および有機層の形成方法は特に制限されず、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法等のドライプロセスや、スピンコート法、各種印刷法等のウェットプロセスが適宜に採用される。ホスト材料とドーパント材料を含有する発光層は、例えば、ホスト材料とドーパント材料を共蒸着することにより形成できる。この際、ホスト材料とドーパント材料をあらかじめ混合しておいてもよい。
本発明の有機EL素子は、発光層以外にも、上記一般式(I)で表される化合物を用いたものでもよい。発光層以外の層に上記一般式(1)で表される化合物が用いられる場合、発光層と発光層以外の層で同一の化合物が用いられてもよく、異なる化合物が用いられてもよい。
有機EL素子は、実用に際して、使用環境における劣化を最小限に抑制するために、素子の一部または全体を、不活性ガス雰囲気下で封止ガラスや金属キャップを用いて封止する、あるいは、紫外線硬化樹脂などによる保護層で被覆することが好ましい。
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、一重項励起エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光および遅延蛍光発光として確認される。また、三重項励起エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長が、燐光として確認される。通常の蛍光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。
上記のように、本発明の発光材料を用いた有機EL素子は、発光層のドーパント材料が熱エネルギーによる逆項間交差を起こすことが好ましい。逆項間交差により一重項励起状態へ遷移された励起子は、熱活性型の遅延蛍光を放射する。そのため、本発明の有機EL素子は、高い内部量子収率を示し、消費電力の少ない省エネルギーの光源となり得る。
本発明の有機EL素子は、照明器具やディスプレイ装置等に有効に適用できる。ディスプレイ装置としては、有機EL素子を照明装置(バックライト)として用いた液晶表示装置や、有機EL素子を表示パネルとして用いた有機EL表示装置等が挙げられる。有機EL表示装置の詳細については、「有機ELディスプレイ」時任静士、安達千波矢、村田英幸 共著(オーム社)等を参照することができる。
以下に、合成例、および合成例で得られた化合物の評価結果を示して、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[合成例1]
合成例1では、以下のスキームにより化合物1を合成した。
Figure 0006326251
窒素雰囲気下、3−ブロモカルバゾール(4.34g,17.6mmol)、およびシアン化銅(3.16g,35.3mmol)を含むNMP(65ml)溶液を、190℃のオイルバス加熱条件下にて攪拌した。反応は薄層クロマトグラフィーで追跡し、4時間後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、目的物を酢酸エチルにて抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し、3−シアノカルバゾールを2.85g(収率84%)得た。
続いて、3,5−ジブロモピリジン−4−カルボニトリル(0.51g,1.95mmol)、3−シアノカルバゾール(0.9g,4.68mmol)、炭酸セシウム(1.83g,5.62mmol)、酢酸パラジウム(11mg,1mol%)、および1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)(39mg,1.5mol%)を含むDMF(20ml)溶液を、100℃のオイルバス加熱条件下にて7時間攪拌した後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、酢酸エチルで抽出し、この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し混合物を得た。得られた混合物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、目的物を0.53g(収率56%)黄色の固体として得た。なお、得られた化合物はさらに昇華精製を行い発光材料として用いた。
得られた化合物は、H−NMRによって化合物1であることを確認した。測定結果は次の通りであった:H−NMR(400MHz、CDCl);δ=9.18(s、2H)、8.51(d、2H)、8.22(dd、2H)、7.80(ddd、2H)、7.64〜7.61(m、2H)、7.54〜7.50(m、2H)、7.40〜7.35(m、4H)。
[合成例2]
合成例2では、以下のスキームにより化合物2を合成した。
Figure 0006326251
窒素雰囲気下、3−ブロモカルバゾール(20g,81.3mmol)、ビス(ピナコレート)ジボロン(Bpin)(23.7g,93.5mmol)、酢酸カリウム(24.7g,0.25mol)、および[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(Pd(dppf)Cl)(1.2g,1.63mmol)を含む1,4−ジオキサン(350ml)溶液を、90℃のオイルバス加熱条件下にて攪拌した。反応は薄層クロマトグラフィーで追跡し、18時間後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、目的物を酢酸エチルにて抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し、そのまま次の反応に用いた。
上で得たカルバゾールのボロン酸エステル全量と、2−ブロモピリジン(7.11g,45mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(Pd(PPh)(0.94g,0.8mmol)、および2Mの炭酸カリウム水溶液(75ml)を含む、2−プロパノール(60ml)とトルエン(60ml)の混合溶媒を、窒素雰囲気下、加熱還流した。反応は薄層クロマトグラフィーで追跡し、10時間後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、目的物を酢酸エチルにて抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し、晶析操作にて精製を行い、目的物を6.92g(2工程での収率70%)得た。
続いて、3,5−ジブロモピリジン−4−カルボニトリル(1.88g,7.2mmol)、3−(2−ピリジル)カルバゾール(3.51g,14.4mmol)、銅(1.09g,17.2mmol)、および炭酸カリウム(4g,28.7mmol)を含むDMAc(40ml)溶液を、180℃のオイルバス加熱条件下にて2時間攪拌した後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、酢酸エチルで抽出し、この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し混合物を得た。得られた混合物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、目的物を1.86g(収率44%)黄色の固体として得た。なお、得られた化合物はさらに昇華精製を行い発光材料として用いた。
得られた化合物は、H−NMRによって化合物2であることを確認した。測定結果は次の通りであった:H−NMR(400MHz、CDCl);δ=9.17(s、2H)、8.86(dd、2H)、8.76(d、2H)、8.27(d、2H)、8.20(ddd、2H)、7.90(dd、2H)、7.81(dd、2H)、7.57(ddd、2H)、7.49〜7.40(m、6H)、7.27(d、2H)。
[合成例3]
合成例3では、以下のスキームにより化合物3を合成した。
Figure 0006326251
窒素雰囲気下、3−ブロモカルバゾール(20g,81.3mmol)、BPin(23.7g、93.5mmol)、酢酸カリウム(24.7g,0.25mol)、Pd(dppf)Cl(1.2g,1.63mmol)を含む1,4−ジオキサン(350ml)溶液を、90℃のオイルバス加熱条件下にて攪拌した。反応は薄層クロマトグラフィーで追跡し、18時間後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、目的物を酢酸エチルにて抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮しそのまま次の反応に用いた。
上で得たカルバゾールのボロン酸エステル(13.2g,45mmol)と、3−ブロモピリジン(7.82g,49.5mmol)、Pd(PPh(1.04g,0.9mmol)、および2Mの炭酸カリウム水溶液(75ml)を含む、2−プロパノール(60ml)とトルエン(60ml)の混合溶媒を、窒素雰囲気下、加熱還流した。反応は薄層クロマトグラフィーで追跡し、4時間後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、目的物を酢酸エチルにて抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し、晶析操作にて精製を行い、目的物を10.19g(2工程での収率93%)得た。
続いて、3,5−ジブロモピリジン−4−カルボニトリル(2.28g、8.7mmol)、3−(3−ピリジル)カルバゾール(4.83g、19.8mmol)、炭酸セシウム(9.66g、30mmol)、酢酸パラジウム(135mg、0.6mmol)、およびdppf(0.5g、0.9mmol)を含むDMF(100ml)溶液を100℃のオイルバス加熱条件下にて30時間攪拌した後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、酢酸エチルで抽出し、この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し混合物を得た。得られた混合物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、目的物を0.57g(収率11%)黄色の固体として得た。なお、得られた化合物はさらに昇華精製を行い発光材料として用いた。
得られた化合物は、H−NMRによって化合物3であることを確認した。測定結果は次の通りであった:H−NMR(400MHz、CDCl);δ=9.17(s、2H)、9.00(d、2H)、8.63(d、2H)、8.38(d、2H)、8.25(d、2H)、8.02(dd、2H)、7.76(ddd、2H)、7.58(ddd、2H)、7.50−7.41(m、8H)。
[合成例4]
合成例4では、以下のスキームにより化合物4を合成した。
Figure 0006326251
窒素雰囲気下、3−ブロモカルバゾール(20g、81.3mmol)、BPin(23.7g、93.5mmol)、酢酸カリウム(24.7g、0.25mol)、およびPd(dppf)Cl(1.2g、1.63mmol)を含む1,4−ジオキサン(350ml)溶液を90℃のオイルバス加熱条件下にて攪拌した。反応は薄層クロマトグラフィーで追跡し、18時間後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、目的物を酢酸エチルにて抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮しそのまま次の反応に用いた。
上で得たカルバゾールのボロン酸エステル(3.5g、11.9mmol)と4−ブロモピリジン塩酸塩(2.55g、13.1mmol)、Pd(PPh(0.58g、0.5mmol)、および2Mの炭酸カリウム水溶液(24ml)を含む、2−プロパノール(18ml)とトルエン(18ml)の混合溶媒を窒素雰囲気下、加熱還流した。反応は薄層クロマトグラフィーで追跡し、5時間後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、目的物を酢酸エチルにて抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し晶析操作にて精製を行い、目的物を2.07g(2工程での収率71%)得た。
続いて、3,5−ジブロモピリジン−4−カルボニトリル(3.51g、13.4mmol)、3−(4−ピリジル)カルバゾール(6.55g、26.8mmol)、銅(2.04g、32.2mmol)、および炭酸カリウム(7.4g、53.6mmol)を含むDMAc(80ml)溶液を180℃のオイルバス加熱条件下にて6時間攪拌した後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、酢酸エチルで抽出し、この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し混合物を得た。得られた混合物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、目的物を1.55g(収率20%)黄色の固体として得た。なお、得られた化合物はさらに昇華精製を行い発光材料として用いた。
得られた化合物は、H−NMRによって化合物4であることを確認した。測定結果は次の通りであった:H−NMR(400MHz、CDCl);δ=9.18(s、2H)、8.72(dd、4H)、8.46(s、2H)、8.26(d、2H)、7.82(ddd、2H)、7.66(dd、4H)、7.59(ddd、2H)、7.48〜7.40(m、6H)。
[合成例5]
合成例5では、以下のスキームにより化合物5を合成した。
Figure 0006326251
窒素雰囲気下、3,5−ジブロモピリジン−4−カルボニトリル(2g、7.6mmol)、カルバゾール(2.81g、16.8mmol)、炭酸セシウム(8.2g、25.2mmol)、酢酸パラジウム(113mg、0.5mmol)、およびdppf(419mg、0.76mmol)を含むDMF(60ml)溶液を、100℃のオイルバス加熱条件下にて17時間攪拌した後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、ジクロロメタンで抽出し、このジクロロメタン層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し混合物を得た。得られた混合物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、目的物を1.29g(収率39%)黄色の固体として得た。なお、得られた化合物はさらに昇華精製を行い発光材料として用いた。
得られた化合物は、H−NMRによって化合物5であることを確認した。測定結果は次の通りであった:H−NMR(400MHz、CDCl);δ=9.10(s、2H)、8.20(s、2H)、8.18(s、2H)、7.55〜7.52(m、4H)、7.43〜7.37(m、8H)。
[合成例6]
合成例6では、以下のスキームにより化合物6を合成した。
Figure 0006326251
窒素雰囲気下、3−ブロモカルバゾール(2.64g、10.6mmol)および臭化銅(0.8g、5.6mmol)を含む酢酸エチルとトルエン(各2ml)の混合溶液に、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(100ml)を加え、80℃のオイルバス加熱条件下にて攪拌した。反応は薄層クロマトグラフィーで追跡し、7時間後、室温まで冷却し、反応溶液を水に注いだ。目的物をジクロロメタンにて抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し3−メトキシカルバゾールを1.81g(収率85%)得た。
続いて、3,5−ジブロモピリジン−4−カルボニトリル(3.29g、12.6mmol)、3−メトキシカルバゾール(5.7g、28.9mmol)、炭酸セシウム(14.1g、43.4mmol)、酢酸パラジウム(195mg、0.87mmol)、およびdppf(721mg、1.3mmol)を含むDMF(120ml)溶液を、100℃のオイルバス加熱条件下にて20時間攪拌した後、室温まで冷却した。反応溶液を水に注いだ後、酢酸エチルで抽出し、この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し混合物を得た。得られた混合物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、目的物を2.38g(収率38%)黄色の固体として得た。なお、得られた化合物はさらに昇華精製を行い発光材料として用いた。
得られた化合物は、H−NMRによって化合物6であることを確認した。測定結果は次の通りであった:H−NMR(400MHz、CDCl);δ=9.06(s、2H)、8.13(d、2H)、7.63(d、2H)、7.51(dd、2H)、7.39〜7.35(m、4H)、7.28(d、2H)、7.15(dd、2H)3.97(s、6H)。
[実施例1:トルエン溶液中での発光特性の評価]
実施例1では、合成例1〜6で得られた化合物1〜6のトルエン溶液を調製して、窒素を約30分バブリングした後、300Kで蛍光スペクトルを測定した。化合物1〜6のトルエン溶液中での発光スペクトルを図2に示す。図2において、発光強度は、ピーク波長における強度の値で規格化されている。
化合物1〜6のトルエン溶液に窒素を約30分バブリングした後、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製 Quantaurus−QY)を用いて内部量子収率を測定した。また、トルエン溶液中の蛍光の時間分解スペクトルを、小型蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社製 Quantaurus−Tau)を用いて測定した。得られた時間分解スペクトルから、発光寿命の短い成分を蛍光、発光寿命が長い成分を遅延蛍光と判断して、それぞれの発光寿命(発光強度の半減期)τおよびτを算出した。化合物1〜6の全てにおいて、寿命τがnsオーダーである蛍光、および寿命τがμsオーダーである遅延蛍光が観測された。
化合物1および化合物4の蛍光の時間分解スペクトルを、それぞれ図3(A)および図3(B)に示す。ここで、環境中に酸素が存在すると、励起子のクエンチ(発光材料の三重項励起状態から酸素分子へのエネルギー移動)が生じるために、遅延蛍光が短寿命化することが知られている(例えば、Endo, A. et al., Appl. Phys. Lett., 98, 83302 (2011). 参照)。溶液中に窒素をバブリングせずに時間分解スペクトルを測定したところ、化合物1〜6の全てにおいて、寿命τが短くなった(図3(A),(B)の“no bubbling”参照)。これらの結果からも、化合物1〜6は、遅延蛍光を放射する材料であることが確認された。
化合物1〜6のトルエン溶液中での発光ピーク波長、内部量子収率、蛍光成分の寿命(τ)、および遅延蛍光成分の寿命(τ)を、各化合物のカルバゾリル基の3位の置換基、およびピリジン環の2位および6位の水素原子のH−NMRの化学シフトとともに表1に示す。
Figure 0006326251
表1に示すように、電子供与性部位のカルバゾール環上に電子求引性の置換基であるシアノ基を有する化合物1は、カルバゾール環上に置換基を有していない化合物5に比して、発光ピーク波長がブルーシフトしており、青色遅延蛍光材料として有用であることが示唆された。また、カルバゾール環上にピリジル基を有する化合物2〜4は、化合物5よりも内部量子収率が高く、高発光効率の遅延蛍光材料として有用であることが示唆された。一方、カルバゾール環上に電子供与性のメトキシ基を有する化合物6は、化合物5に比して発光ピーク波長が大幅にレッドシフトしており、内部量子収率も低いものであった。
[実施例3:ホスト材料を含む真空蒸着膜の製膜および評価]
化合物1〜5をドーパント材料として、ドーパント材料:ホスト材料=94:6の重量比で、石英基板上に真空蒸着により製膜を行い、測定用試料を作製した。ホスト材料としては、ビス(2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル)エーテルオキシド(DPEPO)を用いた。ただし、化合物5についてのみ、N,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(mCP)をホスト材料として用いた。上記の測定試料を用い、蛍光スペクトル、内部量子収率および蛍光寿命を測定した。なお、内部量子収率の測定に際しては、測定装置内に窒素をフローしながら、窒素雰囲気下で測定を行った。測定結果を表2に示す。また、化合物1および化合物4をドーパント材料として用いた試料の蛍光の時間分解スペクトルを、それぞれ図4(A)および図4(B)に示す。
Figure 0006326251
表2に示すように、電子供与性部位のカルバゾール環上に電子求引性の置換基を有する化合物1〜4をドーパントとして用いた共蒸着膜は、いずれも内部量子収率が70%を超えており、有機EL素子の発光材料として有用であることが示された。
中でも、電子求引性の置換基として4‐ピリジル基を有する化合物4をドーパントとして用いた共蒸着膜は、99.0%と、極めて高い量子収率を示した。また、電子供与性の置換基としてシアノ基を有する化合物1をドーパントとして用いた共蒸着膜は、発光ピーク波長が459nmと短波長であり、かつ内部量子収率が76.4%と高いことから、高発光効率の青色遅延蛍光材料として有用であることが分かる。

Claims (9)

  1. 下記一般式(II)で表される化合物からなる発光材料:
    Figure 0006326251
    一般式(II)において、R 〜R 24 はそれぞれ独立に、水素原子または任意の置換基であり、R 〜R 16 の少なくとも1つ、およびR 17 〜R 24 の少なくとも1つは、電子求引性基である。
  2. 前記一般式(II)で表される化合物のピリジン環に結合した水素原子のH−NMRの化学シフトが、9.12ppm以上である、請求項に記載の発光材料。
  3. 前記R11およびR19が電子求引性基であり、前記R14およびR22が水素原子または電子求引性基であり、前記R,R10,R12,R13,R15,R16,R17,R18,R20,R21,R23およびR24がいずれも水素原子である、請求項またはに記載の発光材料。
  4. 前記R11およびR19がシアノ基である、請求項に記載の発光材料。
  5. 前記R11およびR19が、2‐ピリジル基、3‐ピリジル基、および4‐ピリジル基からなる群から選択されるヘテロアリール基である、請求項に記載の発光材料。
  6. 一対の電極間に発光層を備え、
    前記発光層に、請求項1〜のいずれか1項に記載の発光材料を含む、有機EL素子。
  7. 前記発光層は、ドーパント材料とホスト材料を含み、前記ドーパント材料が前記発光材料である、請求項に記載の有機EL素子。
  8. 請求項またはに記載の有機EL素子を備える照明器具。
  9. 請求項またはに記載の有機EL素子を備えるディスプレイ装置。
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