JP6322093B2 - ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Description
このフラックス入りワイヤは、Vを、ワイヤ全質量あたり0.020質量%以下に規制してもよい。
また、ワイヤ全質量あたりのC含有量(質量%)を[C]、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Si含有量(質量%)を[Si]、Mo含有量(質量%)を[Mo]、Cr含有量(質量%)を[Cr]としたとき、下記数式(A)を満たす組成とすることもできる。
更に、Tiを、ワイヤ全質量あたり0.04〜0.08質量%含有していてもよい。
更に、金属フッ化物を、ワイヤ全質量あたり、F換算値で0.05〜0.30質量%含有していてもよい。
更に、Na化合物若しくはK化合物又はその両方を、ワイヤ全質量あたり、Na換算値及びK換算値の合計で0.01〜0.30質量%含有していてもよい。
更に、B、B合金及びB酸化物のうち少なくとも1種を、ワイヤ全質量あたり、B換算値の合計で0.001〜0.020質量%含有していてもよい。
一方、このフラックス入りワイヤは、ZrO2を、ワイヤ全質量あたり、0.02質量%未満に規制することもできる。
Cは、溶接のまま及びSR後における溶接金属の強度を確保するために必要な元素である。ただし、C含有量が0.01質量%未満の場合、溶接金属の強度が不足すると共に、靭性の安定化効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.12質量%を超えると、溶接金属の耐高温割れ性が劣化すると共に、溶接金属の強度が過度に上昇して低温靭性も劣化する。よって、C含有量は0.01〜0.12質量%とする。
Siも、溶接のまま及びSR後における溶接金属の強度を確保するために必要な元素である。ただし、Si含有量が0.05質量%未満の場合、脱酸不足により、溶接金属の低温靭性が劣化する。Si含有量が0.30質量%以上の場合、Si量が過多となり、Siがフェライトに固溶し、マトリクッスフェライトの強度が高くなり、溶接金属、特にSR後の溶接金属の低温靭性が低下する。よって、Si含有量は、0.05質量%以上0.30質量%未満とする。
Mnは、溶接時に微細組織生成の起点となる酸化物を形成し、溶接金属の強度向上及び靭性向上に有効な元素である。ただし、Mn含有量が1.0質量%未満の場合、溶接金属の強度が不足したり、靭性が劣化したりする。一方、Mn含有量が3.5質量%を超えると、強度過多及び焼入れ性過多により溶接金属の靭性が低下する。よって、Mn含有量は1.0〜3.5質量%とする。
従来のフラックス入りワイヤでは、低温靭性を完全に確保できる量のNiを溶接金属に添加するため、ワイヤ全質量あたりのNi量を1質量%以上にしていた。しかしながら、溶接金属にNiが多量に含まれていると、H2S環境中において硫化物応力腐食割れ(SSCC)の感受性が高まる。そこで、本実施形態のフラックス入りワイヤでは、NACE規格に合致させるため、Ni含有量を従来よりも低い範囲にした。
Moは、粒界炭化物の粗大化及び焼鈍軟化を抑制し、組織を微細化する効果があり、本実施形態のフラックス入りワイヤにとって重要な元素である。ただし、Mo含有量が0.10質量%未満の場合、溶接金属の強度が不足する。一方、Mo含有量が0.30質量%を超えると、脆性破壊の遷移温度が高温側へに移行し、溶接金属の靭性が劣化する。よって、Mo含有量は、0.10〜0.30質量%とする
Crは、SR時に生成する粒界炭化物を微細化する作用を有する。ただし、Cr含有量が0.1質量%未満の場合、溶接金属の強度が不足すると共に、旧γ粒界に存在する粗大な粒界炭化物を微細化する作用が小さく、結果としてSR後の溶接金属の靭性が劣化する。一方、Cr含有量が0.9質量%を超えると、溶接金属の強度及び焼き入れ性が過多になるため、低温靭性が低下する。よって、Cr含有量は0.1〜0.9質量%とする。Cr含有量は、溶接金属の強度向上及びSR後の靭性向上の観点から0.2質量%以上であることが好ましい。
TiO2は、アーク安定剤であると共に、スラグ剤の主成分である。ただし、TiO2含有量が4.5質量%未満の場合、溶接作業性が劣化し、全姿勢溶接が困難になる。一方、TiO2含有量が8.5質量%を超えると、溶接金属中の酸素量が増加して靭性が低下する。よって、TiO2含有量は4.5〜8.5質量%とする。溶接金属の靭性向上の観点から、TiO2含有量は5.5〜8.0質量%であることが好ましい。なお、本実施形態のフラックス入りワイヤにおけるTiO2源としては、フラックス成分として添加されるルチル及び酸化チタンなどが挙げられる。
SiO2は、ビード形状を良好にする効果がある。ただし、SiO2含有量が0.10質量%未満の場合、その効果が十分に得られず、ビード形状が劣化する。一方、SiO2含有量が0.40質量%を超えると、スパッタ発生量が増大する。よって、SiO2含有量は0.10〜0.40質量%とする。SiO2含有量は、ビード形状向上の観点から0.15質量%以上とすることが好ましく、また、スパッタ抑制の観点から0.35質量%以下とすることが好ましい。なお、本実施形態のフラックス入りワイヤにおけるSiO2源としては、フラックス成分として添加されるシリカ、カリガラス及びソーダガラスなどが挙げられる。
Al2O3も、ビード形状を良好にする効果がある。ただし、Al2O3含有量が0.03質量%未満の場合、その効果が十分に得られず、ビード形状が劣化する。一方、Al2O3含有量が0.23質量%を超えると、スパッタ発生量が増大する。よって、Al2O3含有量は0.03〜0.23質量%とする。Al2O3含有量は、ビード形状向上の観点から0.07質量%以上とすることが好ましく、また、スパッタ抑制の観点から0.19質量%以下とすることが好ましい。なお、本実施形態のフラックス入りワイヤにおけるAl2O3源としては、フラックス成分として添加されるアルミナなどが挙げられる。
例えば全姿勢溶接用フラックス入りワイヤの場合、Fe含有量が80質量%未満の場合、スラグ発生量が過多となり、ビード形状が劣化する。ビード形状向上の観点から、Fe含有量は、82〜93質量%とすることが好ましい。なお、本実施形態のフラックス入りワイヤにおけるFe源は、鋼製外皮の他、フラックスに添加される鉄粉及びFe系合金などが挙げられる。
本実施形態のフラックス入りワイヤにおいては、前述した各成分の含有量に加えて、C量、Mn量、Si量、Mo量及びCr量の関係も重要となる。ワイヤ組成を前述した範囲にすることで、溶接金属の引張強度及び低温靭性と、溶接作業性とを、ある程度のレベルにすることはできるが、本発明者は、更に、C量、Mn量、Si量、Mo量及びCr量の関係が、前述した数式(A)を満たすようにすることで、溶接金属の引張強度及び低温靭性と、溶接作業性とを、更に向上させることができることを見出した。
Vは、SR後の溶接金属の低温靭性に影響するため、その含有量を0.020質量%以下に規制することが好ましい。これにより、SR後の溶接金属の低温靭性を向上させることができる。
ワイヤがZrO2を過剰に含有すると、立向溶接作業性が劣化することがある。このため、ZrO2含有量は0.02質量%未満に規制することが好ましく、これにより溶接作業性を向上させることができる。本実施形態のフラックス入りワイヤにおけるZrO2源としては、ジルコンサンドやジルコニアなどが挙げられる。
Mgは、脱酸元素であり、溶接金属の靭性向上に効果があるため、必要に応じて添加することができる。ただし、Mg含有量が0.2質量%未満では、十分な脱酸効果が得られず、溶接金属の靭性向上は期待できない。また、0.7質量%を超えてMgを含有すると、スパッタ量が増加し、溶接作業性が低下する。よって、Mgを添加する場合は、その含有量が0.2〜0.7質量%になるようにする。なお、本実施形態のフラックス入りワイヤにおけるMg源としては、金属Mg、Al−Mg及びNi−Mgなどが挙げられる。
Tiも、溶接金属の靭性向上の効果があり、必要に応じて添加することができる。ただし、Ti含有量が0.05質量%未満の場合、充分な核生成がされず、溶接金属の靭性向上の効果が不十分となる。一方、0.30質量%を超えてTiを含有させると、固溶Tiが過多となり、溶接金属の強度が過多となり、靭性も劣化する。よって、本実施形態のフラックス入りワイヤにTiを添加する場合は、その含有量が0.05〜0.30質量%になるようにする。これにより、更に靭性に優れた溶接金属が得られる。
金属フッ化物は、溶接時にアークの安定化に寄与する効果があるため、必要に応じて添加することができる。ただし、金属フッ化物の含有量がF換算値で0.05質量%未満の場合、アークの安定化効果が小さく、スパッタ発生量が多くなることがある。一方、金属フッ素化合物の含有量がF換算値で0.30質量%を超えると、ビード形状が劣化する。よって、金属フッ化物を添加する場合は、その含有量がF換算値で0.05〜0.30質量%になるようにする。
Na化合物及びK化合物は、アーク安定剤として、必要に応じて、1種又は2種以上をフラックスに添加することができる。ただし、Na化合物及びK化合物の総含有量が、それぞれNa換算値及びK換算値で、0.01質量%未満の場合、アークの安定化効果が小さく、スパッタ発生量が多くなることがある。一方、Na化合物及びK化合物の総含有量が、それぞれNa換算値及びK換算値で、0.30質量%を超えると、ビード形状が劣化する。よって、Na化合物及びK化合物を添加する場合は、その総含有量が、それぞれNa換算値及びK換算値で0.01〜0.30質量%になるようにする。
B、B合金及びB酸化物は、溶接金属の靭性向上に効果があるため、必要に応じて、1種又は2種以上を添加することができる。ただし、これらの総含有量がB換算値で、0.001質量%未満の場合、溶接金属の靭性向上効果が小さく、また、0.020質量%を超えると、溶接金属の耐高温割れ性が低下する。よって、本実施形態のフラックス入りワイヤにB、B合金及びB酸化物を添加する場合は、総含有量がB換算値で0.001〜0.020質量%になるようにする。これにより、更に靭性に優れた溶接金属が得られる。
本実施形態のフラックス入りワイヤの成分組成における残部は、不可避的不純物である。本実施形態のフラックス入りワイヤにおける不可避的不純物としては、V、S、P、Cu、Sn、Na、Co、Ca、Nb、Li、Sb及びAsなどが挙げられる。また、本実施形態のフラックス入りワイヤには、前述した各成分の他に、本発明の効果が阻害されない範囲で、前述した元素以外の合金元素、スラグ形成剤及びアーク安定剤などが添加されていてもよい。なお、前述した各元素が酸化物や窒化物として添加された場合は、本実施形態のフラックス入りワイヤの残部には、OやNも含まれる。
母材に下記表3に示す鋼板を用いて、下記表4に示す条件で、ガスシールドアーク溶接を行い、得られた溶接金属について、下記表5に示す方法で機械的性質を測定した。なお、下記表3に示す母材組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。機械的性質の評価は、620℃、8時間のSR後の0.2%耐力が500MPa以上、引張強さが600MPa以上で、かつ−40℃の吸収エネルギーが70J以上のものを合格とした。
母材に上記表3に示す鋼板を使用し、下記表6に示す条件でガスシールドアーク溶接にてC形治具拘束突合せ溶接割れ試験(JIS Z 3155)を行い、得られた溶接金属の割れ率を求めた。割れ率は、破断したビードのビード長に対する割れ(クレータ割れを含む)長さの比率(質量%)とし、耐高温割れ性の評価は、割れ率が10質量%以下のものを合格とした。
母材に上記表3に示す鋼板を使用し、下記表7に示す条件でガスシールドアーク溶接を行い、溶接作業性を評価した。その結果、溶接作業性が良好であったものを○、不良であったものを×とした。
Claims (8)
- 鋼製外皮内にフラックスが充填されたフラックス入りワイヤであって、
ワイヤ全質量あたり、
Cを0.01〜0.12質量%、
Siを0.05質量%以上0.30質量%未満、
Mnを1.0〜3.5質量%、
Niを0.1質量%以上1.0質量%未満、
Moを0.10〜0.30質量%、
Crを0.1〜0.9質量%、
TiO2を4.5〜8.5質量%、
SiO2を0.10〜0.40質量%、
Al2O3を0.03〜0.23質量%、
Na化合物若しくはK化合物又はその両方を、Na換算値及びK換算値の合計で0.01〜0.30質量%、及び
Feを80質量%以上
含有するガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。 - Vが、ワイヤ全質量あたり、0.020質量%以下に規制された請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- ワイヤ全質量あたりのC含有量(質量%)を[C]、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Si含有量(質量%)を[Si]、Mo含有量(質量%)を[Mo]、Cr含有量(質量%)を[Cr]としたとき、下記数式(A)を満たす請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- 更に、Mgを、ワイヤ全質量あたり0.2〜0.7質量%含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- 更に、Tiを、ワイヤ全質量あたり0.05〜0.30質量%含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- 更に、金属フッ化物を、ワイヤ全質量あたり、F換算値で0.05〜0.30質量%含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- 更に、B、B合金及びB酸化物のうち少なくとも1種を、ワイヤ全質量あたり、B換算値の合計で0.001〜0.020質量%含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- ZrO2が、ワイヤ全質量あたり、0.02質量%未満に規制された請求項1〜7のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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