最初に、図1を参照し、本発明の実施例に係る作業機械について説明する。なお、図1は作業機械の側面図である。図1に示す作業機械の下部走行体1には旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載される。上部旋回体3にはアタッチメントが取り付けられる。アタッチメントは、作業体としてのブーム4、アーム5、及びグラップル6で構成される。具体的には、上部旋回体3にはブーム4が取り付けられる。ブーム4の先端にはアーム5が取り付けられ、アーム5の先端にはエンドアタッチメントとしてグラップル6が取り付けられる。ブーム4はブームシリンダ7で回動され、アーム5はアームシリンダ8で回動される。また、グラップル6はバケットシリンダ(グラップルチルト用シリンダ)9で回動され、且つ、グラップル開閉シリンダ10で爪6aが開閉される。なお、バケットシリンダ9は、グラップル6の代わりにバケットが用いられる場合にそのバケットを回動させる一般的な油圧シリンダであり、本実施例ではグラップル6を回動(チルト)させるために用いられる。また、上部旋回体3にはキャビンが設けられ且つエンジン11等が搭載される。なお、図1は、グラップル6で作業対象を掴む最中のアタッチメントの状態A1と、グラップル6で作業対象を掴んだ後で持ち上げるときのアタッチメントの状態A2とを同時に示す。
図2は、図1の作業機械の駆動系の構成例を示すブロック図であり、機械的動力系、高圧油圧ライン、パイロットライン、及び電気制御系をそれぞれ二重線、実線、破線、及び一点鎖線で示す。
作業機械の駆動系は、主に、エンジン11、レギュレータ13、メインポンプ14、パイロットポンプ15、コントロールバルブ17、操作装置26、圧力センサ29、及びコントローラ30を含む。
エンジン11は作業機械の駆動源である。本実施例では所定の回転数を維持するように動作する内燃機関としてのディーゼルエンジンである。また、エンジン11の出力軸は、メインポンプ14及びパイロットポンプ15の入力軸に接続される。
メインポンプ14は高圧油圧ラインを介して作動油をコントロールバルブ17に供給する。本実施例ではメインポンプ14は斜板式可変容量型油圧ポンプである。
レギュレータ13はメインポンプ14の吐出量を制御する。本実施例ではレギュレータ13はコントローラ30からの制御信号に応じてメインポンプ14の斜板傾転角を調節することによってメインポンプ14の吐出量を制御する。
パイロットポンプ15はパイロットラインを介して操作装置26に作動油を供給する。本実施例ではパイロットポンプ15は固定容量型油圧ポンプである。
コントロールバルブ17は作業機械における油圧システムを制御する油圧制御装置である。本実施例では、コントロールバルブ17は、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、グラップル開閉シリンダ10、左側走行用油圧モータ1A、右側走行用油圧モータ1B、及び旋回用油圧モータ2Aのうちの1又は複数のものに対しメインポンプ14が吐出する作動油を選択的に供給する。なお、以下では、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、グラップル開閉シリンダ10、左側走行用油圧モータ1A、右側走行用油圧モータ1B、及び旋回用油圧モータ2Aを集合的に「油圧アクチュエータ」と称する。
操作装置26は、操作者が油圧アクチュエータの操作のために用いる装置である。本実施例では、操作装置26は、パイロットポンプ15が吐出する作動油をコントロールバルブ17内における制御弁のパイロットポートに供給する。具体的には、操作装置26は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する制御弁のパイロットポートにパイロットポンプ15が吐出する作動油を供給する。なお、パイロットポートのそれぞれに供給される作動油の圧力(パイロット圧)は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26のレバー又はペダル(図示せず。)の操作方向及び操作量に応じた圧力である。
圧力センサ29は、操作装置26の操作内容を検出するための操作内容検出部の一例である。本実施例では、圧力センサ29は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26の操作方向及び操作量を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。なお、操作装置26の操作内容は、各種操作レバーの傾きを検出する傾きセンサ等、圧力センサ以外の他のセンサを用いて検出されてもよい。具体的には、圧力センサ29は、左側走行レバー、右側走行レバー、アーム操作レバー、旋回操作レバー、ブーム操作レバー、グラップルチルト操作レバー、グラップル開閉ペダル等の操作装置26のそれぞれに取り付けられる。
コントローラ30は、作業機械を制御するための制御装置である。本実施例では、コントローラ30はCPU、RAM、ROM等を備えたコンピュータで構成される。また、コントローラ30は、各種機能要素に対応するプログラムをROMから読み出してRAMにロードし、各種機能要素に対応する処理をCPUに実行させる。
また、コントローラ30は、圧力センサ29の出力に基づいて操作装置26のそれぞれの操作内容(例えば、レバー操作の有無、レバー操作方向、レバー操作量等である。)を電気的に検出する。
次に、図3を参照し、図1の作業機械に搭載される油圧回路の構成例について説明する。なお、図3は、図1の作業機械に搭載される油圧回路の構成例を示す図である。また、図3は、図2と同様、高圧油圧ライン、パイロットライン、及び電気制御系をそれぞれ実線、破線、及び一点鎖線で示す。
メインポンプ14L、14Rは、エンジン11によって駆動される可変容量型油圧ポンプであり、図2のメインポンプ14に対応する。本実施例では、メインポンプ14Lは、コントロールバルブ17を構成する制御弁171L〜175Lのそれぞれを通るセンターバイパス油路21Lを通じて作動油タンクTまで作動油を循環させる。また、メインポンプ14Lは、センターバイパス油路21Lに平行に伸びるパラレル油路22Lを通じて制御弁172L〜175Lのそれぞれに作動油を供給可能である。同様に、メインポンプ14Rは、コントロールバルブ17を構成する制御弁171R〜175Rのそれぞれを通るセンターバイパス油路21Rを通じて作動油タンクTまで作動油を循環させる。また、メインポンプ14Rは、センターバイパス油路21Rに平行に伸びるパラレル油路22Rを通じて制御弁172R〜175Rのそれぞれに作動油を供給可能である。なお、以下では、メインポンプ14L及びメインポンプ14Rは、集合的に「メインポンプ14」として参照される場合もある。左右一対で構成される他の構成要素についても同様である。
制御弁171Lは、左側走行レバー(図示せず。)が操作された場合に、メインポンプ14Lが吐出する作動油を左側走行用油圧モータ1Aに供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。
制御弁171Rは、走行直進弁としてのスプール弁である。本実施例では、走行直進弁171Rは、4ポート2位置のスプール弁であり、第1弁位置及び第2弁位置を有する。具体的には、第1弁位置は、メインポンプ14Lとパラレル油路22Lとを連通する流路と、メインポンプ14Rと制御弁172Rとを連通する流路と有する。また、第2弁位置は、メインポンプ14Rとパラレル油路22Lとを連通する流路と、メインポンプ14Lと制御弁172Rとを連通する流路とを有する。
制御弁172Lは、グラップル開閉ペダル(図示せず。)が操作された場合に、メインポンプ14Lが吐出する作動油をグラップル開閉シリンダ10に供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。
制御弁172Rは、右側走行レバー(図示せず。)が操作された場合に、メインポンプ14が吐出する作動油を右側走行用油圧モータ1Bに供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。
制御弁173Lは、旋回操作レバー(図示せず。)が操作された場合に、メインポンプ14が吐出する作動油を旋回用油圧モータ2Aに供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。
制御弁173Rは、グラップルチルト操作レバー(図示せず。)が操作された場合に、メインポンプ14Rが吐出する作動油をバケットシリンダ9へ供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。
制御弁174L、174Rは、ブーム操作レバー(図示せず。)が操作された場合に、メインポンプ14が吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。なお、制御弁174Lは、ブーム操作レバーが所定のレバー操作量以上でブーム上げ方向に操作された場合に、作動油を追加的にブームシリンダ7に供給する。
制御弁175L、175Rは、アーム操作レバー(図示せず。)が操作された場合に、メインポンプ14が吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。なお、制御弁175Rは、アーム操作レバーが所定のレバー操作量以上で操作された場合に、作動油を追加的にアームシリンダ8に供給する。
なお、左側走行用油圧モータ1A、グラップル開閉シリンダ10、旋回用油圧モータ2A、アームシリンダ8のそれぞれから流出する作動油は、戻り油路23Lを通じて作動油タンクTに排出される。同様に、右側走行用油圧モータ1B、バケットシリンダ9、ブームシリンダ7のそれぞれから流出する作動油は、戻り油路23Rを通じて作動油タンクTに排出される。また、アームシリンダ8から流出する作動油の一部は戻り油路23Rを通じて作動油タンクTに排出される場合もある。
センターバイパス油路21L、21Rはそれぞれ、最も下流にある制御弁175L、175Rと作動油タンクTとの間にネガティブコントロール絞り20L、20Rを備える。なお、以下では、ネガティブコントロールを「ネガコン」と略称する。ネガコン絞り20L、20Rは、メインポンプ14L、14Rが吐出する作動油の流れを制限してネガコン絞り20L、20Rの上流でネガコン圧を発生させる。コントローラ30は、このネガコン圧を利用してネガコン制御を実行する。具体的には、ネガコン絞り20L、20Rで発生させたネガコン圧が低いほどメインポンプ14L、14Rの吐出量を増大させる。また、ネガコン絞り20L、20Rで発生させたネガコン圧が所定圧力を上回った場合にメインポンプ14L、14Rの吐出量を所定の下限値まで低減させる。
リリーフ弁50は、グラップル開閉シリンダ10のボトム側油室の圧力を所定の閉じリリーフ圧以下に制御する弁である。
ロードチェック弁51は、グラップル開閉シリンダ10における作動油がパラレル油路22Lに逆流するのを防止する弁である。
圧力センサS1L、S1Rは、ネガコン絞り20L、20Rの上流で発生したネガコン圧を検出し、検出した値を電気的なネガコン圧信号としてコントローラ30に対して出力する。
圧力センサS2L、S2Rは、メインポンプ14L、14Rの吐出圧を検出し、検出した値を電気的な吐出圧信号としてコントローラ30に対して出力する。
圧力センサS3は、グラップル開閉シリンダ10のボトム側油室の圧力(以下、「グラップルボトム圧」とする。)を検出し、検出した値を電気的なグラップルボトム圧信号としてコントローラ30に対して出力する。
圧力センサS4は、圧力センサ29の1つであり、制御弁172Lの右側(グラップル閉じ側)パイロットポートに作用するパイロット圧(以下、「グラップル閉じパイロット圧」とする。)を検出し、検出した値を電気的なグラップル閉じパイロット圧信号としてコントローラ30に対して出力する。
圧力センサS5は、圧力センサ29の1つであり、制御弁174Lの左側(ブーム上げ側)パイロットポート、及び、制御弁174Rの右側(ブーム上げ側)パイロットポートに作用するパイロット圧(以下、「ブーム上げパイロット圧」とする。)を検出し、検出した値を電気的なブーム上げパイロット圧信号としてコントローラ30に対して出力する。
コントローラ30は、圧力センサ29、S1L、S1R、S2L、S2R、S3、S4、S5等の出力を受け、メインポンプ14L、14Rのそれぞれの吐出量を調整するプログラムをCPUに実行させる。
また、コントローラ30は、メインポンプ14Lに関連する油圧アクチュエータ(例えばグラップル開閉シリンダ10)とメインポンプ14Rに関連する油圧アクチュエータ(例えばブームシリンダ7)とが何れもフルレバー/フルペダル(例えば、レバー/ペダルの中立状態を0%とし、最大操作状態を100%とした場合の80%以上の操作量)で継続的に操作されている場合、メインポンプ14Lの吐出量L1とメインポンプ14Rの吐出量L2とを同じにする。以下では、この方式を「吐出量同調方式」とする。
次に、図4を参照し、グラップル6の閉じ操作と操作体の操作との複合操作の際にコントローラ30がメインポンプ14の吐出量を調整する処理(以下、「吐出量調整処理」とする。)の一例について説明する。なお、図4は吐出量調整処理の一例の流れを示すフローチャートであり、コントローラ30は、所定の制御周期で繰り返しこの吐出量調整処理を実行する。
最初に、コントローラ30は、吐出量調整中であるかを判定する(ステップST1)。本実施例では、コントローラ30は、RAM等に記憶された調整中フラグの値を参照し、メインポンプ14の吐出量を調整中であるか否かを判定する。調整中フラグは「非調整中」を意味する初期値「0」を有し、「調整中」を意味する値「1」に切り替え可能である。
吐出量調整中でないと判定した場合(ステップST1のNO)、コントローラ30は、吐出量調整の開始条件が満たされたか否かを判定する(ステップST2)。本実施例では、コントローラ30は、グラップルボトム圧が所定圧力TH1より高く、且つ、グラップル閉じパイロット圧が所定圧力TH2より高いことを開始条件とする。なお、コントローラ30は、制御弁173Lのパイロットポートに作用するパイロット圧(以下、「旋回パイロット圧」とする。)が所定圧力TH3未満であること、すなわち、旋回操作が行われていないことを開始条件に加えてもよい。また、コントローラ30は、制御弁175Lの左側(アーム閉じ側)パイロットポートに作用するパイロット圧(以下、「アーム閉じパイロット圧」とする。)が所定圧力TH4未満であること、すなわち、アーム閉じ操作が行われていないことを開始条件に加えてもよい。なお、所定圧力TH1〜TH4はROM等に予め記憶されている。また、所定圧力TH1は、閉じリリーフ圧よりも僅かに低い圧力に設定される。
開始条件が満たされていないと判定した場合(ステップST2のNO)、コントローラ30は吐出量調整を開始することなく今回の吐出量調整処理を終了させる。
開始条件が満たされたと判定した場合(ステップST2のYES)、コントローラ30は、吐出量調整を開始する(ステップST3)。本実施例では、コントローラ30は、調整中フラグを値「1」に切り替える。その上で、コントローラ30は、メインポンプ14Rの吐出圧P2に応じてメインポンプ14Lの吐出量L1を調整する。具体的には、コントローラ30は、ROM等に予め記憶される吐出圧・吐出量対応テーブルを参照し、吐出圧P2に対応する吐出量L1を導き出す。
図5は吐出圧・吐出量対応テーブルの一例を示す図であり、横軸がメインポンプ14Rの吐出圧P2に対応し、縦軸がメインポンプ14Lの吐出量L1に対応する。また、図5は、吐出圧P2が値P2L以下の場合に吐出量L1の許容最大値が上限値Lmaxとなり、吐出圧P2が値P2Lより高く値P2Hより低い場合に吐出圧P2が上昇するにつれて吐出量L1の許容最大値が減少し、吐出圧P2が値P2H以上の場合に吐出量L1の許容最大値が下限値Lminとなる関係を示す。
また、コントローラ30は、全馬力制御によりメインポンプ14の合計吸収馬力(又は合計吸収トルク)がエンジン11の出力馬力を上回ることがないようにする。なお、メインポンプ14の合計吸収馬力は、メインポンプ14Lの吐出圧P1と吐出量L1の積で表されるメインポンプ14Lの吸収馬力(又は吸収トルク)と、メインポンプ14Rの吐出圧P2と吐出量L2の積で表されるメインポンプ14Rの吸収馬力(又は吸収トルク)との合計である。したがって、コントローラ30は、メインポンプ14Lの吐出量L1が決まれば、メインポンプ14Rの吐出量L2の許容最大値を一意に決定できる。具体的には、吐出量L1の許容最大値を小さくするほど吐出量L2の許容最大値を大きくできる。
図6及び図7は吐出量調整が開始されたときの図3の油圧回路の状態を示す図であり、図中の太実線矢印は作動油の流れ方向を表し、太実線が太いほど作動油の流量が大きいことを表す。
具体的には、図6はアタッチメントが図1の状態A1の場合にグラップル6の閉じ操作が単独で行われてグラップル6が作業対象を掴んだ後(爪6aの閉じ方向への動きが止まった後)の油圧回路の状態を示す。この場合、メインポンプ14Rが吐出する作動油は、センターバイパス油路21Rを通って作動油タンクTに排出されるため、メインポンプ14Rの吐出圧P2は値P2L(図5参照。)よりも低い状態にある。そのため、コントローラ30は、図5の吐出圧・吐出量対応テーブルを参照してメインポンプ14Lの吐出量L1の許容最大値を上限値Lmaxに設定する。その結果、メインポンプ14Lが吐出する作動油は、グラップル開閉シリンダ10のボトム側に接続された油路内及びパラレル油路22L内の作動油(図6の太点線部分参照。)の圧力を閉じリリーフ圧以上としながら、リリーフ弁50を通じて作動油タンクTに排出される。なお、グラップル6が作業対象を掴むまでは、すなわち爪6aの閉じ方向への動きが止まるまでは、グラップルボトム圧が所定圧力TH1に達することはない。爪6aが閉じ方向に動く際にグラップル開閉シリンダ10のボトム側油室が大きくなり、メインポンプ14Lが吐出する作動油を受け入れるためである。また、グラップルボトム圧は、グラップル6が作業対象を圧縮するにつれて、すなわち爪6aの閉じ方向への動きが遅くなるにつれて増大する。そして、グラップルボトム圧が閉じ所定圧力TH1に達するとボトム側油室への作動油の流入が止まり、爪6aの閉じ方向への動きが停止する。したがって、グラップルボトム圧が所定圧力TH1より高い状態は、グラップル6が作業対象を掴み終わった後の状態を表す。
また、図7はグラップル6の閉じ操作とブーム4の上げ操作の複合操作が行われた場合の油圧回路の状態を示す。具体的には、アタッチメントが図1の状態A2のときの油圧回路の状態を示す。この場合、メインポンプ14Rが吐出する作動油はブームシリンダ7のボトム側油室に流入するため、メインポンプ14Rの吐出圧P2は値P2L(図5参照。)よりも高い状態にある。そのため、コントローラ30は、図5の吐出圧・吐出量対応テーブルを参照してメインポンプ14Lの吐出量L1の許容最大値を上限値Lmax未満に設定する。この場合、グラップル6の単独閉じ操作のときに比べて吐出量L1は低減されるものの、メインポンプ14Lが吐出する作動油は、グラップル6の単独閉じ操作のときと同様、グラップル開閉シリンダ10のボトム側に接続された油路内及びパラレル油路22L内の作動油(図7の点線部分参照。)の圧力を閉じリリーフ圧以上としながら、リリーフ弁50を通じて作動油タンクTに排出される。なお、メインポンプ14Rの吐出圧P2はメインポンプ14Lの吐出圧P1よりも高いが、メインポンプ14Rが吐出する作動油がパラレル油路22L内に流入することはない。ロードチェック弁52によってパラレル油路22Lに向かう流れが遮断されるためである。
このように、コントローラ30は、グラップル6の閉じ操作とブーム4の上げ操作とがフルレバー/フルペダルで継続的に行われた場合であっても、メインポンプ14Lの吐出量L1とメインポンプ14Rの吐出量L2とを別々に制御する。具体的には、メインポンプ14の合計吸収馬力がエンジン11の出力馬力未満となるようにしながら、メインポンプ14Rの吐出圧P2が高いほどメインポンプ14Lの吐出量L1を低減させる。その結果、コントローラ30は、吐出量L1と吐出量L2を同じにする場合に比べ、吐出量L2を増大させることができ、ブーム4の上昇速度を増大させることができる。また、コントローラ30は、メインポンプ14Lの吐出量L1を低減させるため、リリーフ弁50から排出される作動油の量を低減させることができる。
一方、ステップST1において吐出量調整中であると判定した場合(ステップST1のYES)、コントローラ30は、吐出量調整の停止条件が満たされたか否かを判定する(ステップST4)。本実施例では、コントローラ30は、吐出圧P1又はグラップルボトム圧が所定圧力TH5(<TH1)より低いこと、或いは、グラップル閉じパイロット圧が所定圧力TH6(<TH2)より低いことを停止条件とする。なお、コントローラ30は、旋回パイロット圧が所定圧力TH7(>TH3)より高いこと、すなわち、旋回操作が行われていることを停止条件に加えてもよい。また、コントローラ30は、アーム閉じパイロット圧が所定圧力TH8(>TH4)より高いこと、すなわち、アーム閉じ操作が行われていることを停止条件に加えてもよい。なお、所定圧力TH5〜TH8はROM等に予め記憶されている。また、所定圧力TH5、TH6はそれぞれ所定圧力TH1、TH2より小さい値に設定され、所定圧力TH7、TH8はそれぞれ所定圧力TH3、TH4より大きい値に設定される。開始条件と停止条件とが交互に満たされて吐出量調整の開始と停止が頻繁に繰り返されるのを防止するためである。
停止条件が満たされたと判定した場合(ステップST4のYES)、コントローラ30は、吐出量調整を停止させる(ステップST5)。本実施例では、コントローラ30は、調整中フラグを値「0」に切り替える。その上で、コントローラ30は、従来のネガコン制御及び全馬力制御に基づいてメインポンプ14L、14Rの吐出量を制御する。
図8は吐出量調整が停止されたときの図3の油圧回路の状態の一例を示す図であり、図中の太実線矢印は作動油の流れ方向を表す。また、図8はグラップル6の閉じ操作とブーム4の上げ操作の複合操作が行われた場合の油圧回路の状態を示す。具体的には、アタッチメントが図1の状態A2のときの油圧回路の状態を示す。この場合、メインポンプ14Rが吐出する作動油はブームシリンダ7のボトム側油室に流入するため、メインポンプ14Rの吐出圧P2は値P2L(図5参照。)よりも高い状態にある。一方で、アタッチメントの旋回半径は状態A1(図1参照。)のときに比べて小さいため、吐出圧P2も状態A1(図1参照。)のとき、すなわち図7に示す油圧回路の状態のときに比べて小さく、吐出圧P1及び閉じリリーフ圧よりも小さい状態にある。そのため、メインポンプ14Lが吐出する作動油は、パラレル油路22L及び制御弁174Lを通ってメインポンプ14Rが吐出する作動油に合流してブームシリンダ7のボトム側油室に流入する。その結果、吐出圧P1は吐出圧P2と等しくなる。また、グラップル開閉シリンダ10及びブームシリンダ7が何れもフルレバー/フルペダルで継続的に操作されているため、メインポンプ14Lの吐出量L1とメインポンプ14Rの吐出量L2とは同値となるように制御される。また、この場合においても、グラップル開閉シリンダ10のボトム側に接続された油路内の作動油(図8の点線部分参照。)の圧力は閉じリリーフ圧付近で維持される。ロードチェック弁51によってパラレル油路22Lに向かう流れが遮断されるためである。
このように、コントローラ30は、吐出量調整中において停止条件が満たされた場合には吐出量調整を停止させる。例えば、メインポンプ14Rの吐出圧P2が所定圧力TH5を下回り、その結果、メインポンプ14Lの吐出圧P1が所定圧力TH5を下回った場合に吐出量調整を停止させる。そのため、メインポンプ14Lからの作動油がメインポンプ14Rからの作動油に合流してブームシリンダ7に流入する場合に吐出量L1が過度に制限されてブーム4の上昇速度が鈍化してしまうのを防止できる。すなわち、ブームシリンダ7のボトム側油室の圧力が閉じリリーフ圧よりも低い場合には、メインポンプ14Lの吐出量L1を増大させた上でメインポンプ14Lからの作動油をメインポンプ14Rからの作動油に合流させてブームシリンダ7に流入させることができる。
また、コントローラ30は、グラップルボトム圧が所定圧力TH5を下回った場合に吐出量調整を停止させる。そのため、グラップル6が掴んでいる作業対象に荷崩れが生じたときであってもグラップル開閉シリンダ10のボトム側油室に十分な作動油を迅速に供給することでグラップル6の増し掴みを速やかに実現できる。
次に、図9を参照し、吐出量調整が行われる際の各種物理量の時間的推移について説明する。なお、図9は吐出量調整が行われる際の各種物理量の時間的推移を示す図である。具体的には、図9は、グラップル閉じ操作のON/OFF状態、ブーム上げ操作のON/OFF状態、メインポンプ14Lの吐出量L1、メインポンプ14Rの吐出量L2、及び、ブーム流量の時間的推移を示す。また、グラップル閉じ操作のON状態はグラップル開閉シリンダ10をフルペダルで操作する状態を意味し、ブーム上げ操作のON状態はブームシリンダ7をフルレバーで操作する状態を意味する。また、ブーム流量はブームシリンダ7のボトム側油室に流入する作動油の流量を意味する。なお、図9の実線は吐出量調整が実行されるときの時間的推移を示し、破線は吐出量調整が実行されないときの時間的推移を比較対象として示す。
図9に示すように、時刻t1においてグラップル閉じ操作がON状態になると、コントローラ30は吐出量調整を開始する。具体的には、コントローラ30は、圧力センサS3の出力であるグラップルボトム圧が所定圧力TH1より高く、且つ、圧力センサS4の出力であるグラップル閉じパイロット圧が所定圧力TH2より高いことを検出すると、開始条件が満たされたと判定して吐出量調整を開始する。
その結果、メインポンプ14Lの吐出量L1は、関連する油圧アクチュエータが何れも操作されていないときに採用される下限値Lminから上限値Lmaxに増大される。具体的には、コントローラ30は、図5に示すような吐出圧・吐出量対応テーブルを参照し、メインポンプ14Rの吐出圧P2から上限値Lmaxを導き出し、吐出量L1を上限値Lmaxまで増大させる。この場合、メインポンプ14Rの吐出圧P2は値P2L未満である。
その後、時刻t2においてブーム上げ操作がON状態になると、メインポンプ14Lの吐出量L1は下限値Lminまで低減される。具体的には、コントローラ30は、図5に示すような吐出圧・吐出量対応テーブルを参照し、メインポンプ14Rの吐出圧P2から下限値Lminを導き出し、吐出量L1を下限値Lminまで低減させる。この場合、メインポンプ14Rの吐出圧P2は値P2H以上である。
一方、メインポンプ14Rの吐出量L2は、関連する油圧アクチュエータが何れも操作されていないときに採用される下限値Lminから流量Lmに増大される。具体的には、コントローラ30は、全馬力制御の下、メインポンプ14の合計吸収馬力がエンジン11の出力馬力を超えないように吐出量Lmを導き出し、吐出量L2を流量Lmまで増大させる。その結果、ブーム流量は流量Lmまで増大される。なお、合計吸収馬力Tは、T=k(係数)×(P1×L1+P2×L2)で表される。合計吸収馬力Tを一定に維持する場合、吐出量L2(流量Lm)は吐出量L1が小さいほど大きくなる。
このようにして、コントローラ30は、グラップル6の閉じ操作とブーム4の上げ操作との複合操作の際に、メインポンプ14Lの吐出量L1よりもメインポンプ14Rの吐出量L2を大きくする。そのため、ブーム4の上昇動作が鈍化するのを防止できる。
なお、時刻t2において吐出量調整が実行されない場合、メインポンプ14L、14Rの吐出量L1、L2は何れも全馬力制御の下で流量Lpに設定される。具体的には、メインポンプ14Lの吐出量L1は下限値Lminより大きい流量Lpまで低減され、メインポンプ14Rの吐出量L2は流量Lmより小さい流量Lpまで増大される。そのため、ブーム流量は吐出量調整が実行される場合の流量Lmよりも小さい流量Lpに制限される。その結果、ブーム4の上昇速度は吐出量調整が実行される場合に比べて遅くなる。
具体的には、吐出量同調方式、すなわち、グラップル6の閉じ操作とブーム4の上げ操作とがフルレバー/フルペダルで継続的に行われた場合に吐出量L1と吐出量L2とを別々に制御できない方式では、ブームシリンダ7のボトム側油室の圧力が閉じリリーフ圧よりも高い場合にメインポンプ14Lが吐出する作動油を制御弁174L経由でブームシリンダ7のボトム側油室に流入させることができない。そのほとんどがリリーフ弁50を通じて作動油タンクTに排出されてしまうためである。この場合、吐出量L2を増大させることは、吐出量L1を増大させること、すなわち、リリーフ弁50を通じて無駄に排出される作動油の流量を増大させることを意味する。また、吐出量L1を増大させることでメインポンプ14Lの吸収馬力も無駄に増大してしまうため、全馬力制御の下でのメインポンプ14Rの吸収馬力の増大幅すなわち吐出量L2の増大幅も制限されてしまう。
これに対し、吐出量調整を実行するコントローラ30は、ブームシリンダ7のボトム側油室の圧力が閉じリリーフ圧よりも高い場合には、メインポンプ14Rが吐出する作動油のみでブームシリンダ7を駆動させる。すなわち、メインポンプ14Lが吐出する作動油を無理に合流させないようにすることでメインポンプ14Lの吐出量L1を低減させ、ひいては全馬力制御の下でメインポンプ14Rの吐出量L2を大幅に増大できるようにする。その結果、ブーム4の上昇動作が鈍化するのを防止できる。
また、コントローラ30は、グラップル6の閉じ操作とブーム4の上げ操作との複合操作の際に、グラップル6の単独閉じ操作の際に比べてメインポンプ14Lの吐出量を低減させる。そのため、メインポンプ14Lの吸収馬力を低減させた分だけメインポンプ14Rが消費可能な吸収馬力を増大させることができ、メインポンプ14Rの吐出量L2をさらに増大させることができる。
また、コントローラ30は、グラップル6の閉じ操作とブーム4の上げ操作との複合操作の際に、閉じリリーフ圧とグラップルボトム圧との差に応じてメインポンプ14Lの吐出量を変化させる。具体的には、吐出量調整中にその差が大きくなった場合、すなわちグラップルボトム圧が所定圧力TH5を下回った場合に吐出量調整を停止させ、従来のネガコン制御及び全馬力制御に基づいてメインポンプ14L、14Rの吐出量を制御する。そのため、グラップル6が掴んでいる作業対象に荷崩れが生じたときであってもグラップル開閉シリンダ10のボトム側油室に十分な作動油を迅速に供給することでグラップル6の増し掴みを速やかに実現できる。
また、コントローラ30は、グラップル6の閉じ操作とブーム4の上げ操作との複合操作の際に、メインポンプ14Lの吐出量L1をメインポンプ14Rの吐出圧P2に応じて変化させる。例えば、メインポンプ14Rの吐出圧P2が高いほどメインポンプ14Lの吐出量L1を低減させる。その結果、ブームシリンダ7のボトム側油室の圧力が閉じリリーフ圧よりも高い場合には、メインポンプ14Lの吐出量L1を低減させることで、全馬力制御の下でメインポンプ14Rの吐出量L2を増大できるようにする。
また、図3の油圧回路は、ブーム4の上げ操作の際にメインポンプ14Lが吐出する作動油とメインポンプ14Rが吐出する作動油とを合流させる合流路54を有する。そして、その合流路54にはメインポンプ14Rからメインポンプ14Lへの流れを遮断するロードチェック弁52が配置される。そのため、ブームシリンダ7のボトム側油室の圧力が閉じリリーフ圧よりも高い場合には、メインポンプ14Rが吐出する作動油のみでブームシリンダ7を駆動させながら、メインポンプ14Lの吐出量L1を低減させた状態でグラップル6の閉じ操作を継続させることができる。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述の実施例では、吐出量調整はグラップル6の閉じ操作とブーム4の上げ操作との複合操作が行われる場合に実行される。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、吐出量調整は、グラップル6の閉じ操作とアーム5の開き操作との複合操作等、グラップル6の閉じ操作を含む別の複合操作が行われる場合に実行されてもよい。
また、上述の実施例では、吐出量調整は、グラップル開閉シリンダ10を有する作業機械で実行される。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、吐出量調整は、作動油をリリーフさせながら駆動する他の油圧アクチュエータを有する作業機械で実行されてもよい。