自動車、自動二輪車、農業機械、船舶等のレシプロエンジンは、ピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を取り出すために、クランク軸が不可欠である。クランク軸は、型鍛造によって製造されるものと、鋳造によって製造されるものとに大別される。特に、高強度と高剛性が要求される場合は、それらの特性に優れた前者の鍛造クランク軸が多用される。
一般に、鍛造クランク軸は、断面が丸形又は角形で全長にわたって断面積が一定のビレットを原材料とし、予備成形、型鍛造、バリ抜き、及び整形の各工程を順に経て製造される。通常、予備成形工程は、ロール成形と曲げ打ちの各工程を含み、型鍛造工程は、荒打ちと仕上げ打ちの各工程を含む。
図1は、従来の一般的な鍛造クランク軸の製造工程を説明するための模式図である。同図に例示するクランク軸1(図1(f)参照)は、4気筒エンジンに搭載されるものであり、4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸である。そのクランク軸1は、5つのジャーナル部J1〜J5、4つのピン部P1〜P4、フロント部Fr、フランジ部Fl、及びジャーナル部J1〜J5とピン部P1〜P4をそれぞれつなぐ8枚のクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)A1〜A8から構成される。また、クランク軸1は、8枚の全てのアーム部A1〜A8にカウンターウエイト部(以下、単に「ウエイト部」ともいう)W1〜W8を有する。
以下では、ジャーナル部J1〜J5、ピン部P1〜P4、アーム部A1〜A8及びウエイト部W1〜W8のそれぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「J」、ピン部で「P」、アーム部で「A」、ウエイト部で「W」とも記す。ピン部P及びこのピン部Pにつながる一組のアーム部A(ウエイト部Wを含む)をまとめて「スロー」ともいう。
図1に示す製造方法では、以下のようにして鍛造クランク軸1が製造される。先ず、予め所定の長さに切断した図1(a)に示すビレット2を誘導加熱炉やガス雰囲気加熱炉によって加熱した後、ロール成形を行う。ロール成形工程では、例えば孔型ロールによりビレット2を圧延して絞りつつその体積を長手方向に配分し、中間素材であるロール荒地3を成形する(図1(b)参照)。次に、曲げ打ち工程では、ロール成形によって得られたロール荒地3を長手方向と直角な方向から部分的にプレス圧下してその体積を配分し、更なる中間素材である曲げ荒地4を成形する(図1(c)参照)。
続いて、荒打ち工程では、曲げ打ちによって得られた曲げ荒地4を上下に一対の金型を用いてプレス鍛造し、クランク軸(最終製品)のおおよその形状が造形された鍛造材5を成形する(図1(d)参照)。更に、仕上げ打ち工程では、荒打ちによって得られた荒鍛造材5が供され、荒鍛造材5を上下に一対の金型を用いてプレス鍛造し、最終製品のクランク軸と合致する形状が造形された鍛造材6を成形する(図1(e)参照)。これら荒打ち及び仕上げ打ちのとき、互いに対向する金型の型割面の間から、余材がバリとして流出する。このため、荒鍛造材5及び仕上げ鍛造材6は、いずれも、造形されたクランク軸の周囲にバリ(5a、6a)が大きく付いている。
バリ抜き工程では、仕上げ打ちによって得られたバリ6a付きの仕上げ鍛造材6を上下から金型で保持しつつ、刃物型によってバリ6aを打ち抜き除去する。これにより、図1(f)に示すように、鍛造クランク軸1が得られる。整形工程では、バリを除去した鍛造クランク軸1の要所を上下から金型で僅かにプレス圧下し、最終製品の寸法形状に矯正する。ここで、クランク軸1の要所は、例えば、ジャーナル部J、ピン部P、フロント部Fr、フランジ部Flなどといった軸部、更にはアーム部A及びウエイト部Wが該当する。こうして、鍛造クランク軸1が製造される。
図1に示す製造工程は、図1(f)に示す4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸に限らず、様々なクランク軸に適用できる。例えば、4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸にも適用できる。ここで、4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸では、8枚のアーム部Aのうち、一部のアームにウエイト部Wを設ける。例えば先頭の第1アーム部A1、最後尾の第8アーム部A8、及び中央の2枚のアーム部(第4アーム部A4、第5アーム部A5)にウエイト部Wを設ける。その他に、3気筒エンジン、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン、8気筒エンジン等に搭載されるクランク軸であっても、製造工程は同様である。なお、ピン部の配置角度の調整が必要な場合は、バリ抜き工程の後に、捩り工程が追加される。
近年、特に自動車用のレシプロエンジンには、燃費の向上のために軽量化が求められている。このため、レシプロエンジンの基幹部品であるクランク軸にも、軽量化の要求が著しくなっている。鍛造クランク軸の軽量化を図る従来技術としては、下記のものがある。
特許文献1及び2には、ジャーナル部側の表面に穴部が成形されたアーム部が記載され、このアーム部を有するクランク軸の製造方法も記載されている。アーム部の穴部は、ジャーナル部の軸心とピン部の軸心とを結ぶ直線(以下、「アーム部中心線」ともいう)上に成形され、ピン部に向けて大きく深く窪む。このような同文献に記載されたアーム部は、穴部の体積分が軽量化される。アーム部の軽量化は、アーム部と対をなすウエイト部の重量軽減につながり、ひいては鍛造クランク軸全体の軽量化につながる。また、同文献に開示されたアーム部は、アーム部中心線を間に挟むピン部近傍の両側部で厚みが厚く維持されていることから、剛性(ねじり剛性及び曲げ剛性)も確保される。
このように、アーム部の両側部の厚みを厚く維持しつつ、アーム部のジャーナル部側の表面に凹みを持たせれば、軽量化と剛性確保を同時に図ることができる。
ただし、そのような独特な形状のアーム部を有する鍛造クランク軸は、従来の製造方法では製造することが困難である。型鍛造工程において、アーム部表面に凹みを成形しようとすれば、当該凹み部位の金型の型抜き勾配が逆勾配になり、成形された鍛造材が金型から抜けなくなる事態が生じるからである。
そのような事態に対処するため、特許文献1及び2に記載された製造方法では、型鍛造工程ではアーム部表面に凹みを成形することなくアーム部を小さく成形することとしている。また、バリ抜き工程の後に、アーム部の表面にパンチを押し込み、そのパンチの痕跡によって凹みを成形することとしている。
以下に、本発明の鍛造クランク軸の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
本発明の鍛造クランク軸の製造方法は、型鍛造工程と、バリ抜き工程とを含む。型鍛造工程の前工程として、予備成形工程を設けてもよい。また、型鍛造工程とバリ抜き工程の間に、仕上げ鍛造工程を設けてもよい。予備成形、型鍛造、仕上げ鍛造及びバリ抜きの各工程は、いずれも熱間で行う。
1.クランク軸の形状
本発明が対象とする鍛造クランク軸は、回転中心となるジャーナル部と、そのジャーナル部に対して偏心したピン部と、ジャーナル部とピン部をつなぎ、かつ、ジャーナル部側の表面に凹みを有するクランクアーム部と、を備える。このような鍛造クランク軸として、図2に示す第1構成例の鍛造クランク軸、及び、図3に示す第2構成例の鍛造クランク軸を採用できる。
第1構成例と第2構成例では、アーム部の形状が異なる。具体的には、第1構成例では、図2に示すように、アーム部の両側部(Aa、Ab)で厚みを厚くする。これに対し、第2構成例では、図3に示すように、アーム部の両側部(Aa、Ab)からピン部の偏心方向の頂部Ac(以下、「ピントップ部」ともいう)までの範囲で厚みを厚くする。
図2は、本発明が対象とする第1構成例のクランク軸のアーム部形状を示す模式図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)はジャーナル部側から見たときの正面図、同図(c)は上面図、同図(d)はA−A断面図である。同図では、クランク軸のアーム部(ウエイト部を含む)の1つを代表的に抽出して示しており、残りのクランク軸のアーム部を省略する。また、同図に示すクランク軸は、バリ抜き後の状態であり、最終製品の形状を示す。
第1構成例のアーム部Aは、同図に示すように、ジャーナル部J側の表面のうち、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の内側の領域Asに、凹みを有する。一方、両側部(Aa、Ab)は、ジャーナル部J側に膨らみ、それらの両側部(Aa、Ab)の厚みは、凹みの厚みと比べ、厚肉である。
このような第1構成例のアーム部Aは、両側部(Aa、Ab)の厚みが厚く維持されるとともに、ジャーナル部J側の表面に凹みが成形されている。このため、本発明による鍛造クランク軸は、アーム部Aの凹みによって軽量化を図ることができる。加えて、アーム部Aの両側部(Aa、Ab)の厚み維持によって剛性の確保を図ることができる。
図3は、本発明が対象とする第2構成例のクランク軸のアーム部形状を示す模式図であり、同図(a)はジャーナル部側から見たときの正面図、同図(b)は上面図である。同図では、クランク軸のアーム部(ウエイト部を含む)の1つを代表的に抽出して示しており、残りのクランク軸のアーム部を省略する。また、同図に示すクランク軸は、バリ抜き後の状態であり、最終製品の形状を示す。
第2構成例のアーム部Aでは、同図に示すように、上記の第1構成例と同じく、ジャーナル部J側の表面のうち、両側部(Aa、Ab)の内側の領域Asに、凹みを有する。また、両側部(Aa、Ab)の厚みは、凹みの厚みと比べ、厚肉である。更に、第2構成例のアーム部は、両側部(Aa、Ab)に加え、その両側部(Aa、Ab)からピントップ部Acまでの連続した範囲でも厚肉である。
このような第2構成例のアーム部Aは、両側部(Aa、Ab)からピントップ部Acまでの範囲の厚みが連続的に厚く維持されるとともに、ジャーナル部J側の表面に凹みが成形されている。このため、第2構成例による鍛造クランク軸は、アーム部Aの凹みによって軽量化を図ることができる。加えて、アーム部Aの両側部(Aa、Ab)の厚み維持によって剛性の確保を図ることができる。
ここで、ピン部Pとアーム部Aのつなぎ目であるピンフィレット部には、応力集中が生じ易い。このため、疲労強度の向上を目的とし、高周波誘導加熱による焼入れをピンフィレット部に施す場合が多い。このとき、アーム部Aのピントップ部Acは、焼入れが施されるピンフィレット部に隣接するので、ある程度の厚みが確保されていないと、焼割れが生じるおそれがある。第2構成例による鍛造クランク軸は、焼入れをピンフィレット部に施す場合に、アーム部Aのピントップ部Acの厚みが厚いことから、焼割れに対する抵抗性が優れる。
2.鍛造クランク軸の製造方法
上述のとおり、本発明の鍛造クランク軸の製造方法は、型鍛造工程と、バリ抜き工程とを含み、必要に応じ、予備成形工程と、仕上げ鍛造工程とをさらに含む。これらの工程は、いずれも熱間で一連に行われる。ピン部の配置角度の調整が必要な場合は、バリ抜き工程の後工程として、捩り工程が設けられる。
本発明の鍛造クランク軸の製造方法は、ビレット又はビレットに予備成形を施した荒素材を材料とする。荒素材を材料とする場合、予備成形工程を設ける。
予備成形工程は、前記図1に示す従来の製造方法と同様の工程を採用することができる。例えば、ロール成形工程と、曲げ打ち工程とをその順に行うことにより、荒素材を得る。
型鍛造工程では、材料(ビレット又は荒素材)から、従来の型鍛造工程と同様に、一対の第1金型を用いて鍛造材を得る。本発明の型鍛造工程では、第2金型をさらに用いる。得られる鍛造材(型鍛造後の材料)は、前記図2又は図3に示す鍛造クランク軸と同様に、回転中心となるジャーナル部Jと、そのジャーナル部Jに対して偏心したピン部Pと、ジャーナル部Jとピン部Pをつなぐアーム部Aとを備える。そのアーム部Aは、ジャーナル部J側の表面に凹みを有する。この型鍛造工程について、前記図2に示す第1構成例のように、アーム部の両側部(Aa、Ab)で厚みを厚くする場合を参照しながら説明する。
図4は、本発明での鍛造前の材料形状を示す模式図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)は正面図、同図(c)は上面図である。同図には、材料であるビレット31を示し、そのビレット31は断面が丸形である。
図5は、本発明での鍛造後の材料(鍛造材)形状を示す模式図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)は正面図、同図(c)は上面図である。同図に示す鍛造後の材料32は、そのアーム部Aの形状が、前記図2に示す第1構成例と同様である。具体的には、アーム部Aは、両側部(Aa、Ab)の厚みが厚く維持されるとともに、ジャーナル部J側の表面に凹みが成形されている。
図6は、本発明の型鍛造工程での第1金型の動作を模式的に示す正面図であり、同図(a)は型打ち初期時、同図(b)は型打ち中期時、同図(c)は型打ち終了時をそれぞれ示す。同図には、鍛造前の材料(ビレット、符号:31)と、鍛造後の材料(鍛造材、符号:32)と、上下で一対の第1金型10と、第2金型20とを示す。また、第2金型20のみをその案内溝20aの幅方向中心における断面形状で示す。
図7は、本発明の型鍛造工程での第2金型の配置を模式的に示す上面図であり、同図(a)は型打ち初期時、同図(b)は型打ち終了時をそれぞれ示す。同図には、鍛造前の材料(ビレット、符号:31)と、鍛造後の材料(鍛造材、符号:32)と、第2金型20とを示し、一対の第1金型10を省略する。
第1金型10は、上下で対をなす上型11と下型12とで構成され、上型11及び下型12には、型彫刻部が彫り込まれている。その型彫刻部には、前記図2に示すクランク軸の形状のうち、第2金型20が当接する領域を除いた部分の形状が反映されている。同図に示す第1金型10では、その型彫刻部に、ジャーナル部Jやピン部P、領域Asの凹みを除いたアーム部Aの形状が反映されている。
第1金型10の上型11及び下型12は、第2金型20を収容するため、アーム部Aの凹みに対応する部位が大きく開放されている。
第2金型20には、型彫刻部が彫り込まれており、その型彫刻部には、少なくともアーム部Aの凹みの形状が反映されている。第2金型20は、アーム部表面の凹みに対して接触したり離間したりするように進退移動が可能である。第2金型20の進退移動は、第2金型20に連結された油圧シリンダ等によって実行される。
加えて、第2金型20は、第1金型10の対間の中央、具体的には、上型11と下型12との中央に位置する状態で圧下方向に移動可能(図6では上下方向に移動可能)である。このように第2金型20を移動させるための機構は、例えば、第2金型20を保持するホルダー(図示なし)と、そのホルダーを上下動可能な状態で下型12とホルダーとを連結する第1弾性体(例えばばね、図示なし)と、第2弾性体(例えばばね、図示なし)とで構成できる。その第2弾性体は、その一端が上型11と連結されるとともに他端がホルダーと当接可能な状態で、設けられる。
このような構成において、上型11と下型12とが充分に離間して第2弾性体の他端がホルダーと当接していない初期状態では、ホルダーと下型12との距離が一定で維持される。上型11が下型12に近づき、上型11と下型12との中央に第2金型20が位置すると、第2弾性体の他端がホルダーと当接する。上型11が下型12にさらに近づくと、第1弾性体及び第2弾性体がそれぞれ圧縮を開始し、それに伴ってホルダーとともに第2金型20が下降する。その際、第1弾性体と第2弾性体の縮む量が同じになるように調整されているので、第2金型20は、上型11と下型12との中央に位置する状態で下降する。
このような第1金型10及び第2金型20を用いた型鍛造工程は、以下のように行われる。先ず、第1金型10の上型11と下型12とを充分に離間させた状態で、下型12の型彫刻部に材料31を載置する。このとき、材料31の載置を容易にするため、第2金型20は、後退した状態にある。
続いて、第2金型20を進出させ、図7(a)に示すように、領域Asの凹みを成形する位置に第2金型20を配置する。換言すると、型鍛造後におけるアーム部Aの凹みの位置に第2金型20を配置する。その際、材料31と第2金型20との間には隙間が存在する。また、第2金型20の圧下方向の位置は、第1金型10の対間の中央でなく、下型12から所定の距離にある。
この状態で、上型11を下型12に向けて移動させると、図6(b)に示すように、上型11は、第2金型20の圧下方向の位置が第1金型10の対間の中央となる状態となる位置にまで到達する。その際、第2金型20の圧下方向の位置は、下型12から所定の距離の位置で維持される。
図6(b)に示す状態から上型11を下型12に向けてさらに移動させると、第2金型20が圧下方向の移動を開始し、第2金型20は第1金型10の対間の中央に位置するように移動する。より具体的には、前述のホルダーと、第1弾性体と、第2弾性体とで構成される機構を採用する場合、第2弾性体が第2金型20に当接し、第1弾性体と第2弾性体の双方が圧縮を開始する。これに伴い、第2金型20が下降する。その第2金型20の下降の際、第1弾性体と第2弾性体の縮む量が常に同じになるように調整されているので、第2金型20は、上型11と下型12とのほぼ中央に常に位置する状態で下降する。この第2金型20の圧下方向の移動開始とほぼ同時に、第1金型10による材料31の圧下が開始される。
上型11をさらに移動させて上型11を圧下終了位置に到達させ(同図(c)参照)、その上型11の移動に応じ、第2金型20を第1金型10の対間の中央に位置するように移動させる。この第2金型20の移動により、材料31と第2金型20との圧下方向の相対的な位置関係が維持される。また、上型11の圧下終了位置への到達に伴い、材料31の圧下が終了する。
その圧下開始から終了に至る過程で、材料31が圧下されて変形する。これにより、鍛造材32が得られ、その鍛造材32には上型11及び下型12の型彫刻部に対応する形状が造形される。具体的には、ジャーナル部Jやピン部Pが鍛造材32に造形される。また、アーム部Aの両側部(Aa、Ab)は、第1金型10の型彫刻部によって造形され、両側部(Aa、Ab)の厚みは従来のクランク軸と同程度に維持できる。この圧下による造形に伴って材料が張り出し、バリ32aが鍛造材32に形成される。
また、本発明では、アーム部Aの凹みを成形する位置に第2金型20を配置している。このため、材料(31、32)が圧下されて張り出すのに伴い、材料(31、32)の表面が第2金型20と当接し、材料(31、32)が第2金型20の型彫刻部と対応する形状に造形される。これにより、材料(31、32)にアーム部Aの凹みが成形される。
このように、本発明では、アーム部Aの両側部(Aa、Ab)の厚みを厚く維持しつつ、アーム部Aのジャーナル部J側の表面に凹みを成形することが可能となる。このため、本発明は、軽量化と剛性確保を同時に図った鍛造クランク軸を製造することができる。
第1金型10での圧下を完了した後、第2金型20を後退させてアーム部Aのジャーナル部J側の表面から退避させ、その後、第1金型10の上型11を下型12から離間させる。この状態で、材料32(鍛造材)を取り出す。アーム部Aの凹みを成形するための第2金型20の型彫刻部は、型抜き勾配が逆勾配となるが、進退移動によって退避させていることから、材料32(鍛造材)を取り出すことができる。このため、型鍛造は支障なく行える。
続いて、バリ抜き工程で、バリ付きの鍛造材からバリを打ち抜いて除去することにより、クランク軸を得る。その際、鍛造材に造形された主な形状(例えばアーム部Aやジャーナル部J、ピン部P)は、バリ抜き後の鍛造材(得られるクランク軸)でも維持される。
このように本発明によれば、アーム部Aの両側部(Aa、Ab)の厚みを厚く維持しつつ、アーム部Aのジャーナル部J側の表面に凹みを成形することが可能となる。このため、本発明は、軽量化と剛性確保を同時に図った鍛造クランク軸を製造することができる。
型鍛造工程では、材料に第2金型を当接させることによりアーム部Aの凹みを成形するが、第2金型は保持するのみでよく、第2金型を材料に押し込む必要はない。このため、第2金型を保持する力は小さくて済み、本発明は、多大な力が不要であり、簡便に行える。
本発明では、型鍛造工程でバリを形成しつつ形状を造形するので、そのバリが第1金型10(上型11及び下型12)と第2金型20の隙間に侵入する場合がある。この場合、第1金型10や第2金型20の損傷に至るおそれがある。また、第2金型20の進退移動を阻害し、操業停止に陥るおそれもある。
これらを防止するため、第2金型20は、案内溝20aを有し、型鍛造工程の過程で流出するバリ32aを案内溝20aによって誘導するのが好ましい。例えば、前記図6及び図7に示す第2金型20では、第1金型10の上型11と下型12との中央に位置する部分を中心に所定の幅の案内溝20aが設けられる。このように案内溝20aを設けることにより、材料に形成されるバリは、第1金型10(上型11及び下型12)と第2金型20の隙間に侵入することなく、案内溝20aに誘導される。
案内溝20aの形状や寸法は、形成されるバリの大きさに応じて適宜設定すればよい。例えば、案内溝20aの断面形状は、矩形状や台形状、半円状とすることができる。
本発明では、型鍛造工程の圧下過程では、第2金型20が第1金型10の対間の中央に位置するように第2金型20を圧下方向に移動させるのが好ましい。これにより、圧下過程で、凹みを成形する位置に第2金型20を確実に配置でき、凹みの形状の加工精度を向上できる。第1金型10の対間の中央に第2金型20を位置させるための機構は、例えば、前述の機構を採用できる。具体的には、ホルダーと、第1弾性体と、第2弾性体とで構成できる。
上述の型鍛造工程の説明では、第1構成例を用いて説明したが、本発明は第2構成例による鍛造クランク軸にも適用することができる。この場合、第1金型の型彫刻部及び第2金型の型彫刻部を、鍛造クランク軸の形状に適合するように変更すればよい。
本発明は、凹み形状の設計自由度が高い。具体的には、第1構成例及び第2構成例では、アーム部Aの領域Asの凹みは、その底面形状が凸な球面状であるが、本発明では、凹みの底面形状を様々な形状に加工することができる。例えば、凹な球面状とすることができ、凹なV字状、凹な円錐面状、又は、平面状とすることもできる。ここで、凹なV字状とは、具体的には、凹みの底面が、アーム部の中心線から両側に傾斜面が伸び、その傾斜面は、アーム部の中心線から遠ざかるのに伴って凹みの深さが浅くなるような形状である。
また、第1構成例及び第2構成例では、両側部(Aa、Ab)やピントップ部Acで厚肉とし、その厚肉の部分の幅を略一定としている。換言すると、第1構成例及び第2構成例では、ジャーナル部側から見たときの凹み部の輪郭形状が、アーム部Aの両側部(Aa、Ab)やピントップ部Acの輪郭形状に沿う形状である。本発明では、ジャーナル部側から見たときの凹み部の輪郭形状を様々な形状にすることができ、前記図2や図3に示す形状以外に、例えば、円状や半円状、楕円状、矩形状とすることもできる。
ここで、両側部(Aa、Ab)の形状も任意の形状にすることができる。例えば、両側部(Aa、Ab)の厚みt1(図2(c)参照)は、必要に応じて増減させ、例えば波打たせてもよい。また、両側部(Aa、Ab)の幅w1(図2(b)参照)についても略一定の場合に限らず、剛性などの性能を満足するために適宜厚みを変化させてもよい。
型鍛造工程とバリ抜き工程の間に、仕上げ鍛造工程を設けてもよい。以下に、仕上げ鍛造工程を設ける場合について説明する。
仕上げ鍛造工程を設ける場合、型鍛造工程では、クランク軸(最終製品)のおおよその形状が造形された鍛造材を造形する。ただし、第2金型の型彫刻部で成形する領域、例えば、アーム部Aの凹みについては、型鍛造工程で最終製品の形状を鍛造材に造形する。また、鍛造材は、仕上げ鍛造工程でバリを形成しつつ仕上げ形状に造形するため、余剰体積を有する。
仕上げ鍛造工程では、一対の第3金型を用い、クランク軸(最終製品)の形状が造形され、かつ、バリ付きである仕上げ鍛造材を得る。その際、アーム部Aの凹みの形状を維持するため、アーム部Aの凹みに第4金型を押し当てる。
第3金型は、前述の第1金型と同様に、型彫刻部が彫り込まれており、その型彫刻部には、前記図2や図3に示すクランク軸の形状のうち、第4金型が当接する領域を除いた部分の形状が反映されている。また、第3金型は、第4金型を収容するため、アーム部Aの凹みに対応する部位が大きく開放されている。
第4金型は、前述の第2金型と同様に、少なくともアーム部Aの凹みに対応する形状の型彫刻部が彫り込まれている。その第4金型は、アーム部Aのジャーナル部J側表面に対して接触したり離間したりするように進退移動が可能である。また、第4金型は、第3金型の上型と下型との中央に位置するように圧下方向に移動可能である。
このような第3金型及び第4金型を用いた仕上げ鍛造工程は、以下のように行われる。先ず、第3金型の上型と下型とを離間させた状態で、下型の型彫刻部に鍛造材を収納する。その際、第4金型は、退避(後退)した状態にある。
続いて、第4金型を進出させ、アーム部Aの凹みに第4金型を押し当てる。この状態で、第3金型の上型を下型に向けて移動させる。これにより、鍛造材が圧下され、上型及び下型の型彫刻部に対応する形状、すなわち、最終製品の形状が鍛造材に造形される。一方、アーム部Aの凹みは、第4金型が押し当てられていることから、その形状が拘束されて保持される。
ここで、第4金型には、第2金型と同様に、案内溝を設けるのが好ましい。これにより、型鍛造工程において第2金型にそってバリが形成されていた場合には、第4金型の案内溝にバリを収納しつつ第4金型を進出させることが可能となる。
第3金型での圧下を完了した後、第4金型を後退させてアーム部Aから退避させ、その後、第3金型の上型を下型から離間させて鍛造材(仕上げ鍛造材)を取り出す。アーム部Aの凹みを保持するための第4金型の型彫刻部は、型抜き勾配が逆勾配となるが、進退移動によって退避させていることから、鍛造材(仕上げ鍛造材)を取り出すことができる。このため、型鍛造は支障なく行える。
続いて、バリ抜き工程で、バリ付きの仕上げ鍛造材からバリを打ち抜いて除去することにより、クランク軸を得る。その際、仕上げ鍛造材に造形された主な形状(例えばアーム部Aやジャーナル部J、ピン部P)は、バリ抜き後の仕上げ鍛造材(得られるクランク軸)でも維持される。
このような仕上げ鍛造工程を設けることにより、軽量化と剛性確保を同時に図った鍛造クランク軸の製造において、寸法精度を向上できる。また、第4金型をアーム部の凹みに押し当てることにより、アーム部の凹みが拘束されていることから、その形状が安定する。アーム部Aの表面に第4金型を押し付けるが、その第4金型をそれ以上に押し込むわけではないことから、第4金型を保持する力は小さくて済む。このため、仕上げ鍛造工程は、多大な力が不要であり、簡便に行える。