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JP6345977B2 - 研磨パッド、研磨パッドを用いた研磨方法及び該研磨パッドの使用方法 - Google Patents

研磨パッド、研磨パッドを用いた研磨方法及び該研磨パッドの使用方法 Download PDF

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Description

本発明は、研磨の立ち上がり性と再使用性に優れた、被処理体の表面を研磨する硬質樹脂発泡体の研磨パッド、研磨パッドを用いた研磨方法及び該研磨パッドの使用方法に関する。
従来、ハードディスクドライブ(HDD)内の磁気ディスクや半導体ウェハなどの薄板部材の研磨処理では、被処理体の表面に微小傷や潜傷等が発生しない加工が要求されることから、微小砥粒を含有するスラリーを供給しながら、不織布系あるいは発泡体系の研磨パッドを用いて平滑鏡面加工が行われている。特に、機械的研磨法に化学的作用を組み合わせた研磨は、ケミカル・メカニカルポリッシング(CMP)と呼ばれ、超精密加工分野で幅広く採用されている。
このような研磨処理で使用される研磨パッドとして、例えばスウェード状の研磨布であって、不織布からなる基材部と、ポリウレタン樹脂からなるナップ層とを有する研磨パッドがある(特許文献1)。この研磨パッドでは、ナップ層の厚さを500μm以上とすることにより、被処理体に接するナップ層が適度な弾性を保つことができ、あるいは傷を発生させる原因となり得る微小な不純物が長いナップ層が取り込まれ、これにより微小傷等の発生を防止できると考えられている。
また、他の従来の研磨パッドとして、ポリウレタン樹脂からなる発泡体を有する研磨パッドが提案されている(特許文献2)。この研磨パッドでは、ポリウレタン樹脂製の発泡体により、平坦性に優れた研磨を実現することができ、また、発泡体がエポキシ基含有ウレタンプレポリマー中のエポキシ基とアミン系硬化材反応することによって生成した水酸基を有するため、当該水酸基によってスラリーの保持を向上し、研磨レートを向上することが可能となっている。
特開2002−59356号公報 特開2013−252584号公報
しかしながら、上記従来のスウェード状研磨パッドでは、継続的な使用によりポリウレタン樹脂製のナップ層が摩耗して徐々に短くなるため、研磨速度が一定とならない。特に、研磨開始時の研磨速度は、定常状態での研磨速度に比べて小さくなるため、研磨速度がほぼ一定となるまで予備研磨を行わなければならず、その作業が煩雑である。また、生産過程においては、効率化の観点から、生産ライン上の全ての被処理体について研磨処理時間をなるべく一定にしたいという要望があるが、研磨処理時間を一定にすると、初期段階で処理された被処理体の研磨が不十分となり、研磨処理の信頼性が低下するという問題がある。
また、他の従来の発泡状研磨パッドでは、ポリウレタン樹脂製発泡体を用いた場合の研磨速度が良好となることが開示されるものの、研磨開始時の研磨速度と定常状態での研磨速度の相違についての開示はなく、当該相違に伴う課題についても開示されていない。
本発明の目的は、予備研磨の時間を無くすあるいは極力短くして簡便な研磨を実現することができ、また、初期段階から優れた研磨速度で継続的に研磨を行うことで、効率的且つ信頼性の高い研磨を可能とし、再研磨性にも優れた熱可塑性樹脂からなる硬質樹脂発泡体を有する研磨パッド、研磨パッドを用いた研磨方法及び該研磨パッドの使用方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、高剛性の熱可塑性樹脂発泡体の研磨パッド内の立体構造に着目し、樹脂発泡体を形成するセルのセル径、セル壁の厚さおよびセル径とセル壁の厚さの比率を所定範囲に規定することで、研磨初期段階から優れた研磨速度を実現し、かつ当該研磨速度を継続して発現できるとともに研磨後の製品表面品質にも優れることを見出した。さらには、研磨中の吸水による曲げ弾性率の低下が少なく、研磨を中断した後の再使用性にも優れる高剛性の熱可塑性樹脂発泡体を提供できることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。
すなわち、本発明は以下によって達成される。
(1)複数の気泡である複数のセルとこれらのセルが相互に独立した区画を有するようにセル壁で区画されて構成された3次元セル構造を有する熱可塑性樹脂からなる樹脂発泡体を有し、前記樹脂発泡体の3次元セル構造を構成するセル壁の壁部の引張強さが70MPa〜90MPa、曲げ強さが120MPa〜140MPaで、引張弾性率と曲げ弾性率の最小値がともに2400MPa以上であり、平均セル径が4μm〜50μm、平均セル壁厚さが1μm〜5μm、前記平均セル径と前記平均セル壁厚さの比率が4〜10の範囲にあり、
前記樹脂発泡体が疎水性のポリフェニレンサルファイド樹脂からなり、引張弾性率が3000MPa〜3500MPaで、さらに曲げ弾性率が3800MPa〜4200MPaの範囲にあり、さらに吸水による曲げ弾性率の低下がない特性を有することを特徴とする研磨パッド。
(2)前記研磨パッドがクッション層無しで使用可能であり、さらに硬質ウレタン発泡構造体からなる研磨パッドよりも高速研磨が可能であることを特徴とする、上記(1)記載の研磨パッド。
)前記研磨パッドの吸水率が0.02〜0.20%であり、再使用性に優れることを特徴とする、上記(1)または(2)記載の研磨パッド。
)前記研磨パッド用発泡前のシートの25℃、48時間浸漬試験における吸水前の曲げ弾性率に対する吸水後の曲げ弾性率の低下が20%以下であることを特徴とする、上記(1)または(2)記載の研磨パッド。
)研磨処理が施される被処理体が、ハードディスクドライブ用ガラス板、シリコンウェハ、液晶ガラス、サファイア基板、化合物半導体、GaN基板およびSiC基板のいずれかの硬質材料であることを特徴とする、上記(1)乃至()のいずれかに記載の研磨パッド。
)前記樹脂発泡体の研磨面とは反対側に配置されたクッション層を更に備えることを特徴とする、上記(1)乃至()のいずれかに記載の研磨パッド。
)上記()に記載の研磨パッドにおいて、前記クッション層の圧縮弾性率が前記研磨パッドの弾性率よりも小さなものを用い、さらに、前記クッション層の厚さが、前記クッション層と研磨パッドの研磨層の厚さの合計の10〜40%以内の厚さであることを特徴とする研磨パッド。
)上記(1)乃至()のいずれかに記載のクッション層を有しない研磨パッドを用い、前記研磨パッドの樹脂発泡体と被処理体を圧接した状態で前記被処理体の表面を、砥粒を含有する研磨液を前記樹脂発泡体に供給しながら研磨することを特徴とする研磨方法。
)上記()または()に記載の前記クッション層を備える研磨パッドを用い、前記研磨パッドの樹脂発泡体と被処理体を圧接した状態で前記被処理体の表面を、砥粒を含有する研磨液を前記樹脂発泡体に供給しながら研磨することを特徴とする研磨方法。
10)前記砥粒は、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、コロイダルシリカ粒子、セリア粒子のいずれかであることを特徴とする、上記()または(記載の研磨方法。
11)上記(1)乃至()のいずれか1項に記載の研磨パッドの使用を一旦中断した後に再使用する場合において、前記研磨パッドの表面を洗浄するのみで、再研磨を行わずに再使用する、研磨パッドの使用方法。
本発明によれば、複数のセルとこれらのセルが相互に独立した区画を有するようにセル壁で区画されて構成された3次元セル構造を有する熱可塑性樹脂からなる樹脂発泡体を有し、前記樹脂発泡体の3次元セル構造を構成するセル壁の壁部の引張強さが50MPa〜90MPa、曲げ強さが90MPa〜140MPaで、引張弾性率と曲げ弾性率の最小値がともに2400MPa以上であり、前記樹脂発泡体の平均セル径が4μm〜50μm、セル壁の平均厚さが1μm〜5μm、および平均セル径と平均セル壁厚さの比率が4〜10の範囲にある研磨面近傍および内部に高剛性の構造体が形成される。したがって、研磨開始直後から優れた研磨速度を実現することができる。ここで、製造性やセル構造の安定性などの観点では、セル径は、4μm〜40μmであることが好ましい。
よって、予備研磨の時間を無くすあるいは極力短くして簡便な研磨を実現することができ、また、初期段階から優れた研磨速度で継続的に研磨を行うことで、効率的且つ信頼性の高い研磨を実現することができる。ここで、樹脂発泡体の平均セル径と平均セル壁厚さの比率は4から10の範囲にあることがさらに望ましい。
また、前記樹脂発泡体のセル壁の壁部の引張強さが70MPa〜90MPa、曲げ強さ120MPa〜140MPaで、引張弾性率、曲げ弾性率がともに3000MPa〜4200MPaであれば、研磨速度が高い高精細な研磨を実現することができる。このような樹脂発泡体として、ポリフェニレンサルファイド樹脂又は高強度、高剛性のPET樹脂が好ましい。
ここで、前記樹脂発泡体が疎水性のポリフェニレンサルファイド樹脂からなる場合は、引張弾性率が曲げ弾性率より大きく、引張弾性率が3000MPa〜3500MPaで、曲げ弾性率が3800MPa〜4200MPaの範囲にあることから、セル構造が安定で、安定した研磨が可能である。また、吸水による曲げ弾性率の低下が少なく、セル内部での2次粒子の凝集も起こりにくいことから再使用性に優れるパッドを得ることができる。
特に、樹脂発泡体をポリフェニレンサルファイド樹脂等の樹脂で成形すれば、初期段階からより優れた研磨速度を得ることができ、また、上記平均セル径、上記平均セル壁厚さ、および上記単位面積当たりのセル数を有する樹脂製発泡体を容易に製造することが可能となる。また、ポリフェニレンサルファイド樹脂を使用することで、耐薬品性や耐熱性に優れており、数多くのスラリーの液組成に対応した研磨を実現できる。
さらに、ポリフェニレンサルファイド樹脂の発泡体からなる研磨パッドは、使用する樹脂が疎水性であることから、研磨終了後、研磨パッドの再使用に当たってセル内部に研磨剤粒子が吸着あるは反応してそのまま残留するか、あるいは2次粒子を形成して残留することがほとんどなく再使用性にも優れる。また、ポリフェニレンサルファイド樹脂は、吸水による弾性率の低下がほとんどないことから、再使用に際して弾性率の低下した層を研磨により落す必要がない。本発明の研磨パッドは、吸水率が低くいことから、研磨中の研磨面の吸水による表面品質のばらつきがほとんどなく、しかも弾性率が高く高剛性であることから、クッション層無しで研磨パッドとして使用できる。
上記のように、本発明の研磨パッドは、クッション層無しで使用することができ、クッション層無しで使用することが、最大の目的であるが、クッション層を設けて使用することもできる。脂製発泡体の研磨面とは反対側にクッション層を配置することで、被処理体に加えられる圧力が分散し、局所的な研磨を抑制して、より均一な研磨を実現することができる。また、クッション層を配置することで、樹脂発泡体による研磨を安定的に行なうと同時に、研磨パッドの研磨速度を維持したまま、研磨面の磨耗を抑制することができる。ここで、クッション層としては、本発明の樹脂発泡体よりも、圧縮弾性率の小さい材料を用いることが望ましい。この理由は、弾性率が前記樹脂発泡体よりも小さくないと、研磨時に発生する応力を緩和する効果が得られないからである。
ここで、クッション層の厚さは、樹脂発泡体より薄い方が好ましく、全体厚さの10%〜50%であり、好ましくは10〜40%である。クッション層の厚さが10%未満であると、クッション層を加えた効果を十分に得ることができず、クッション層の厚さが50%を超えると、クッション層が厚すぎて、樹脂発泡体を用いることの発明の特徴が十分に得られない。
クッション層としては、本発明の樹脂発泡体よりも圧縮弾性率の小さい樹脂を用いることが望ましく、高分子樹脂発泡体やゴム性樹脂、感光性樹脂等を用いることができる。以上の他、ポリエステル不織布、ナイロン不織布、アクリル不織布などの繊維不織布やポリウレタンを含浸したポリエステル不織布のような不織布も用いることができる。
本発明の実施形態に係る研磨パッドが取り付けられた研磨機の構成を概略的に示す斜視図である。 図1の研磨パッドの一部を拡大した電子顕微鏡画像であり、(a)は研磨する側の表面、(b)は表面近傍の断面を示す。 従来のスウェード状研磨パッドの一部を拡大した電子顕微鏡画像であり、(a)は研磨する側の表面、(b)は表面近傍の断面を示す。 各研磨パッドにおける研磨時間と研磨速度との関係を示す図であり、(X)は本発明の一例であるPPS硬質樹脂発泡体研磨パッド、(Y)は硬質ウレタン発泡体研磨パッド、(Z)は従来のスウェード状硬質ウレタン研磨パッドを示す。 研磨処理時の本発明の研磨パッドを模式的に示す部分断面図であり、(a)は初期状態、(b)は所定時間経過後の状態を示す。 研磨処理時の従来のスウェード状研磨パッドを模式的に示す部分断面図であり、(a)は初期状態、(b)は所定時間経過後の状態を示す。
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る研磨パッドが取り付けられた研磨機の構成を概略的に示す斜視図である。本発明の研磨パッドは、HDD用ガラス板などの薄板部材(被処理体)を研磨する研磨機に使用され、例えば3B研磨機の上下定盤に装着される。なお、図1における各構成の長さ、幅あるいは厚さは、その一例を示すものであり、本発明の研磨パッドにおける各構成の長さ、幅あるいは厚さは、図1のものに限られない。
具体的には、研磨機10は、上下方向に略同心で配置された円盤状の一対の定盤11,12と、各定盤の内側面に配置された研磨パッド1,2と、該研磨パッドの上面に略90°間隔で配置された4つの平歯車13(キャリア)と、該4つの平歯車の略中央位置に配置され、各平歯車と係合する外歯車14とを備えている。また、定盤11,12の外周面近傍には、各平歯車と係合する不図示の内歯車が設けられている。すなわち、本研磨機は、軸歯車14を中心として4つの平歯車13が自転しながら公転する遊星歯車機構を有している。
定盤11は、被処理体Dの載置台としての機能を有しており、定盤11の上面に、研磨パッド1を介して被処理体Dが載置される。定盤12は、研磨時の錘としての機能を有しており、後述する各貫通孔に被処理体Dが載置された後、4つの平歯車13上に載置される。また、この定盤12には、研磨時に研磨液を各被処理体に供給するための複数のスラリー用孔12aが設けられており、定盤12の上方に配設された配管15から研磨液Aが供給される。本発明で使用される研磨液としては、例えば、一次粒子の粒径が0.5μm〜1.0μmの酸化セリウム粒子等の砥粒を含有したスラリーを好適に使用できるが、平均1次粒子径は1.0μm以下、好ましくは0.8μm以下のスラリーを使用することが望ましい。上記の他、研磨用スラリーとしては、アルミナ系スラリー、ジルコニア系スラリーの他、コロイダルシリカ系スラリーを用いることができる。特に、硬質材料の被処理体Dを研磨する際には、酸化セリウムの他、アルミナ系スラリー、ジルコニア系スラリーのスラリーを用いることが多い。たとえば、コロイダルシリカのようなより微細な研磨粒子としての砥粒を含むスラリーも使用することができる。本発明においては、例えば、三井金属社製の酸化セリウム研磨材を用いることができる。
平歯車13には複数の貫通孔13aが設けられており、研磨時には貫通孔13aの下側開口部が研磨パッド1に、貫通孔13aの上側開口部が研磨パッド2によってそれぞれ閉塞される。また被処理体Dは、研磨パッド1,2と圧接した状態で貫通孔13aに保持される。
本研磨機を用いた研磨処理では、先ず、研磨パッド1上に複数の平歯車13を載置し、各平歯車の貫通孔13a内に被処理体Dを載置する。その後、研磨パッド2が下面に位置するように定盤12を載置し、被処理体Dを貫通孔13a内に保持する。そして、上方からスラリー用孔12aを介して研磨液Aを供給し、次いで外歯車14を回転させて、不図示のギヤ機構により定盤11を時計回りに、定盤12を反時計回りにそれぞれ回転させる。また、外歯車14の回転により、平歯車13が外歯車14を中心として時計回りに公転しつつ、平歯車13自体が自転する。これにより、研磨パッド1の上面と被処理体Dの下面との間で摩擦が生じると共に、研磨パッド2の下面と被処理体Dの上面との間に摩擦が生じ、被処理体Dの上下面が同時に研磨される。研磨開始から所定時間経過後、外歯車14の回転を停止して当該被処理体を取り出し、研磨を終了する。その後、新たな被処理体Dを載置して、上記と同様の操作を繰り返す。
ここで、被処理体の生産過程において均一且つ良好な研磨処理を行うには、一定の品質条件を満たす良好な研磨を継続的に実現できる研磨パッドを使用する必要がある。特に、上記研磨処理では研磨パッド1,2が共に被処理体Dと圧接していることから、所定の圧力下において、研磨開始直後からパッドの交換タイミングまでの期間、継続して良好な研磨を実現することができる研磨パッドが求められる。
図2は、本発明の研磨パッド1の一部を拡大した電子顕微鏡画像であり、(a)は研磨する側の表面、(b)は表面近傍の断面を示している。また、図3は、従来のスウェード状研磨パッドの一部を拡大した電子顕微鏡画像であり、(a)は研磨する側の表面、(b)は表面近傍の断面を示している。
本発明の研磨パッド1,2は、図2(a),(b)に示すように、複数のセル(独立気泡)およびセル壁(独立気泡間に形成された樹脂部)で構成される硬質樹脂発泡体を有している。この硬質樹脂発泡体は、複数のセルとこれらのセルが相互に独立した区画を有するようにセル壁で区画されて構成された3次元セル構造を有しており、熱可塑性樹脂からなる。研磨パッド1,2は、セル壁の壁部が所定の引張弾性率、曲げ弾性率を満足し、さらに所定の大きさを有し、平均セル径が4μm〜50μmであり、平均セル壁厚さが1μm〜5μmの構造体で、平均セル径と平均セル壁厚さの比率が4〜10の範囲にあるものである。平均セル径が4μmより小さいと、セル内部に保持される砥粒が少なくなり、研磨速度が低下するとともに安定した研磨面が得られず、平均セル径が50μmを超えると、セル壁の強度が不足し、安定した研磨状態が得られずに表面品質が低下すると同時に、セル内に研磨粒子が多量に集積し2次粒子が発生してスクラッチなどの表面欠陥が発生し易くなる。また、平均セル径は、好ましくは4μm〜40μmである。平均セル径をこの範囲にすることにより、セル構造がより最適化されるので、研磨の立ち上がり性や定常状態の研磨速度に優れる。平均セル径と平均セル壁厚さの比率が4未満であると、セル内部に保持される研磨粒子としての砥粒が少なくなり、研磨速度が低下するとともに安定した研磨面が得られず、10を超えると、セル壁の強度が不足し、安定した研磨状態が得られずに研磨速度が低下する。
好ましくは、上記硬質樹脂発泡体は、特にポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)などの硬質樹脂製シート発泡体を好適に用いることができる。以下、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂は、それぞれPPS樹脂、PET樹脂、PC樹脂と記載する。ここで、これらの樹脂の引張強さは50MPa〜90MPa、曲げ強さが90MPa〜140MPaで、引張弾性率と曲げ弾性率がともに2400MPa以上である。本発明の硬質樹脂発泡体の機械的特性値は、発泡成形の前後において変化しないことから、発泡後の構造体の機械的特性を示す引張強さ、曲げ強さ、引張弾性率、曲げ弾性率などの値は、発泡前の樹脂の値からさほど変化せず、発泡成形前と同一であると推察される。つまり、発泡成形前の樹脂の機械的特性値が例えば高強度、高剛性に相当するものである場合には、当該樹脂の発泡後の構造体におけるセル壁などのミクロ構造でも、ほぼ同一の機械的特性値を有している。また、従来の硬質ウレタンの発泡構造体においても同様に、当該発泡構造体におけるセル壁などのミクロ構造の機械的特性値である引張弾性率は、発泡前の硬質ウレタン樹脂とほぼ同一の引張弾性率を有していると考えられる。よって、例えば、PPS樹脂発泡体のセル壁の引張弾性率を硬質ウレタン製パッドのセル壁の引張弾性率と比べると、PPS樹脂発泡体のセル壁の引張弾性率が硬質ウレタンパッドの引張弾性率よりも高いことになる。したがって、両者を同一の発泡倍率で発泡させ、PPS樹脂発泡体と硬質ウレタンパッドを構成する硬質樹脂発泡体が同様の3次元セル構造を有していれば、PPS樹脂発泡体に外部から応力を付与した場合、PPS樹脂発泡体は、硬質ウレタン発泡体と比べて変形の少ないセル構造を提供することができる。
そのため、本発明の硬質樹脂発泡体を使用し、平均セル径と平均セル壁厚さ、及び平均セル径と平均セル壁厚さの比率をそれぞれ所定の範囲に設計することで、所定のセル径、所定のセル壁厚さ、及び平均セル径と平均セル壁厚さの比率が所定の範囲内となる好ましい3次元セル構造を有する硬質樹脂発泡体が得られ、良好な研磨特性を有する硬質樹脂発泡体からなる研磨パッドを得ることができる。
本発明においては、研磨中の3次元セル構造の変形を少なくすることが、硬質樹脂発泡体の研磨安定性を確保することになるため、本発明で使用される研磨パッドの機械的特性値のうち、特に重要なものは、引張弾性率と曲げ弾性率であるが、材料を塑性変形しにくくするためには、引張強さや曲げ強さを大きくすることが望ましい。
本発明の硬質樹脂発泡体は、曲げ強さ90MPa〜140MPaで,曲げ弾性率が2400MPa〜4200MPaであり、好ましくは、曲げ強さ120MPa〜140MPaで,曲げ弾性率が3000MPa〜4200MPaである必要がある。
ここで、本発明において、引張強さ、引張弾性率に加えて、曲げ強さ、曲げ弾性率が重要な理由について考察する。研磨パッドの3次元セル構造は、研磨時に上側定盤から下側定盤に向かって垂直方向に応力を受けるが、この際に3次元セル構造は、立体的に複雑に連なる連続体を構成しており、定盤の上面(或いは下面)に対して完全に垂直なセル壁は存在しない。すなわち、個々のセルにおいて、研磨パッドの主面に対して種々の方向の成分が混ざったセル壁が存在し、いずれのセル壁においても、定盤からの圧縮荷重を受けて、個々のセルに引張歪みや曲げ歪みが発生する。また、セル構造体の先端部、すなわち研磨面位置におけるセル壁の端部には、研磨装置の被処理体(被削材料)から受ける摩擦力が働き、当該端部でも、摩擦力によって曲げ応力による曲げ歪みが発生する。そこで、本発明では研磨パッドの曲げ強さと曲げ弾性率を高くすることで、曲げ歪みの発生を少なく抑えることができ、その結果、安定した研磨状態を得ることができる。なお、セル壁へのミクロ的な応力集中を防止するためには、引張弾性率の下限値と曲げ弾性率の下限値の双方を高くする必要がある。
本発明における発泡体の材料は、上記立体構造を形成し得る熱可塑性樹脂からなる硬質樹脂発泡体であれば制限はないが、3次元セル構造の安定性や成形容易性、再使用性の観点から、前記のようにPPS樹脂が好適に使用される。
また、PPS樹脂を用いることで耐薬品性および耐熱性を向上することができる。PPS樹脂が特に好適に使用される理由は、構造体の剛性が高く吸水性が低いことにあり、特に吸水性が低いことから、セル内部のセル壁表面に研磨粒子としての砥粒が付着しにくく、また、2次粒子を形成しにくい。また、PPS樹脂からなる研磨パッドは、吸水性が著しく低いため、吸水による弾性率の低下がほとんどない。そのため、一端研磨を終了した後に再度研磨を行う場合に、硬質樹脂発泡体のセル内部に残留した2次粒子を除去することなく再利用することができ、また、弾性率が低下した層を除去するためのドレッシングなどの予備研磨を行うことなく再使用することが可能になる。なお、吸水性はPPS樹脂と同等でなくともよく、吸水率が0.20%以下であれば研磨パッドとしては再使用可能であるが、好ましくは、吸水率が0.10%以下である。
また、本実施形態では、研磨パッド1,2が樹脂製発泡体で構成されており、これら研磨パッドのいずれにもクッション層が設けられていない。このように研磨パッド1,2が硬質ウレタン発泡構造体からなることにより、高速研磨が可能となる。また、研磨パッドが、樹脂製発泡体と、該樹脂製発泡体の研磨面とは反対側に配置されたクッション層とで構成されてもよい。樹脂製発泡体にクッション層を設けることで、被処理体Dに加えられる圧力が分散し、局所的な研磨を抑制して、より均一な研磨を実現することができるとともに、研磨パッドの研磨速度を緩和して、定常状態をより長時間保つことができ、研磨パッドを長時間使用できる。
本発明の研磨パッド1,2は、例えば以下の方法で製造される。先ず、所定特性を有する未発泡樹脂の成形体を準備する。そしてこの成形体を高圧容器中に封入し、この高圧容器に不活性ガスを注入して、加圧下において成形体に不活性ガスを浸透させる。不活性ガスとしては、窒素、酸素、二酸化炭素、アルゴン、水素、メタン、フロン系ガスが挙げられるが、特に未発泡シートへの浸透性(浸透時間、溶解度)を考慮すると、二酸化炭素を用いることが好ましい。
次いで、圧力容器内の圧力を解放した後、成形体を加熱して発泡させ、さらに成形体を冷却して、樹脂製発泡体を得る。これらの工程に関する詳細は後述する。
上記研磨パッド1,2で研磨される被処理体Dは、硬質部材からなり、例えば、ハードディスクドライブ用ガラス板、シリコンウェハ、液晶ガラス、サファイア基板、化合物半導体、GaN基板およびSiC基板である。本発明の研磨パッドは、このような硬質部材に好適に用いることができる。
<研磨時間と研磨速度との関係>
(定常状態の研磨速度)
図4は、本発明の代表例として、実施例2、比較例5及び比較例7相当の研磨パッドを、研磨機10を用いて研磨処理を行った際の研磨時間と研磨速度との関係を示すグラフである。図中、定常状態における研磨速度が最も大きいグラフは、本発明における後述の実施例2(表1)相当の材料からなる硬質樹脂発泡体研磨パッド(図中の実線X)、定常状態における研磨速度が中間の値であるグラフは、後述する比較例7(表2)相当の硬質ウレタンからなる硬質ウレタン発泡体研磨パッド(図中の一点鎖線Y)、定常状態における研磨速度が最も小さいグラフは、後述する比較例5(表2)相当の材料からなる従来のスウェード状軟質ウレタン研磨パッド(図中の点線Z)をそれぞれ示す。なお、試験にあたっては、異なる研磨パットを使用したこと以外の研磨条件は、いずれの材料も同一条件で研磨速度を測定した。図4に示すように、研磨の定常状態では、本発明の硬質樹脂発泡体研磨パッドの研磨速度が最も大きく、次いで、硬質ウレタン発泡体研磨パッド、スウェード状軟質ウレタン研磨パッドの順に大きいことが分かる。
(研磨開始後15分経過時における研磨速度と定常状態の速度との関係)
実施例2相当の硬質樹脂発泡体研磨パッドを使用した場合、研磨開始後15分で研磨速度が約1.30μm/分となり、その後、研磨時間が17時間を経過するまで、およそ1.35μm/minを維持している。特に図示しないが、他の実施例相当の研磨パッドでも、実施例2相当のものと同様の挙動を示した。一方、比較例5相当の従来のスウェード状軟質ウレタン研磨パッドを使用した場合、特に研磨開始後15分での研磨速度が約0.6μm/minと、本発明の研磨パッドを使用した場合と比較して大きな差が生じている。また、比較例7相当の硬質ウレタン発泡体研磨パッドを使用した場合については、研磨開始後15分での研磨速度が0.8μm/minであり、スウェード状軟質ウレタン研磨パッドを使用した場合と比べると、研磨開始後15分での研磨速度の立ち上がり性には優れるが、本発明の実施例2相当の硬質樹脂発泡体研磨パッドより研磨速度の立ち上がり性に劣ることが分かる。
(研磨初期における研磨の立ち上がり性)
各材料の初期段階における研磨速度の立ち上がり性に着目すると、本発明(実施例2)の硬質樹脂発泡体研磨パッドでは、研磨開始後、僅か15分(0.25時間)で研磨速度が約1.30μm/minとなり、その後30分までの間に、1.35μm/分となっている(図中の実線X)。また、研磨開始から4時間が経過するまで、ほぼ上記研磨速度を維持している。
次に本発明の硬質樹脂発泡体研磨パッドと、比較例7の硬質ウレタン発泡体研磨パッドとの比較を行うと、硬質ウレタン発泡体研磨パッドは、研磨開始直後の研磨速度と定常状態の研磨速度の双方が、本発明の硬質樹脂発泡体研磨パッドとスウェード状軟質ウレタン研磨パッドの中間の挙動を示した(図中の一点鎖線Y)。すなわち、硬質ウレタン発泡体研磨パッドでは、立ち上がりから定常状態になるまでに、1時間程度必要とし、定常状態における研磨速度も、1,25μm/minであることから、本発明の硬質樹脂発泡体研磨パッドよりも、研磨開始直後の研磨速度及び定常状態の研磨開始速度の双方が少し低いことが分かる。一方、比較例5の従来のスウェード状軟質ウレタン研磨パッドでは、研磨開始から0.25時間経過後も研磨速度が安定しなかった(図中の点線Z)。また、研磨開始から約2時間経過後に、研磨速度が約1.10μm/minとなり、その後ほぼ同じ1.10μm/minの研磨速度となっており、定常状態の研磨速度はこのまま一定値を示した。研磨開始から研磨速度が一定となるまでに要する時間は、本発明で15分(0.25時間)であるのに対し、スウェード状軟質ウレタン研磨パッドでは2時間であり、その時間の差は1.75時間で、比率で見ると8倍と大きな差が生じている。
したがって本発明の硬質樹脂発泡体研磨パッドを用いると、研磨処理の初期段階において、研磨速度を急峻に増大することができると共に、研磨速度が一定である期間をより長く得られることが分かる。これにより、予備研磨を削減するとともに安定した研磨を実現できることが分かる。
本発明の硬質樹脂発泡体からなる研磨パッドのミクロ構造を説明する模式図を示す。
図5は、本発明の研磨処理時の研磨パッドを模式的に示す部分断面図であり、(a)は初期状態、(b)は所定時間経過後の状態を示す。また図6は、従来の研磨パッドを模式的に示す部分断面図であり、(a)は初期状態、(b)は所定時間経過後の状態を示す。
本発明の研磨パッド1は、図5(a)に示すように、複数の微小セル61と、近接する微小セル61,61間に形成されるセル壁62とで構成されており、各セルの構造は、それぞれ異なり、必ずしも一定の形状をしていないが、セル壁62は、研磨パッド1の主面に対してランダムな方向に向かったセル壁が各セルを取り囲むように3次元的に連続した構造体を形成する。
この3次元構造体は、各セルをセル壁62が取り囲み、セル壁62がランダムに3次元的な連続してネットワークを構成する連続構造体になっており、立体的に連続した所定サイズの緻密な3次元的なセル構造を形成することで、応力を分散する効果がある。また、本発明の3次元セル構造体は、構造体を形成する材料が高強度、高剛性の樹脂を用い、平均セル径と平均セル壁厚さがそれぞれ所定値を満足し、さらに(平均セル径)の(平均セル壁厚さ)に対する比率が所定範囲を満足するため、構造体が剛性に優れている。したがって、所定圧力下で、研磨初期段階から適度な弾性を発揮し、良好な研磨を実現できると推察される。
また、研磨パッド1の上面では、セル壁62の端面63aが複数露出しており、これらの端面が研磨パッド1の研磨面1aを形成している。発泡体を用いて研磨する際には、被処理体Dの表面を切削する作用を有するセル壁端面の存在が必要とされるところ、本発明では、緻密な立体構造からなる発泡体の研磨面1aに、平均セル径が4μm〜50μmで、平均セル壁厚さ1μm〜5μmであるセル壁62の端面63aが存在する(図2(a))。よって、研磨面1aに、セル壁62の端面63aに支持されるセル壁62の連続構造体が数多く存在し、これにより研磨面1aで高精細な切削を実現できると推察される。また、平均セル径を4μm〜50μmとすることにより、平均一次粒径1μm前後の砥粒Mを含有するスラリーを研磨面1a上の微小セル61内に多く保持することができ、研磨速度を増大させることができると推察される。砥粒Mの平均粒径は、1μm以下、例えば、平均粒径0.6〜0.8μmの砥粒を好適に用いることができる。
ここで、平均セル径と平均セル壁厚さとの比率は4〜10を満足することが好ましい。この比率が4未満であると、セル内のスラリー中の1次粒子が不足し研磨速度が安定せず、比率が10を超えると、セル径が大きくなり過ぎて、セルの強度が不足し、研磨中に微小セル61が変形して安定した研磨を行うことができなくなるか、あるいは微小セル61内に砥粒の2次粒子を形成しやすくなる。ここで、平均セル径と平均セル壁厚さとの比率は4〜10であることが望ましい。さらには、この比率が4〜8の範囲がより好ましい。平均セル径と平均セル壁厚さとの比率をこの範囲にすることにより、後述するように研磨の立ち上がり性や定常状態の研磨速度がより優れたものとなる。
また、研磨処理時に被処理体Dを介して研磨面1aに所定圧力が付加されると、当該圧力がセル壁の端面63aを介してセル壁62にほぼ均一に分散し、研磨パッド1内で、平面方向にほぼ均一な圧縮応力が生じる。これにより研磨パッド1の平面方向に関してより均一な研磨が可能となり、非処理体Dの非研磨面では平面方向に関して研磨むらが生じ難く、良好なフラット面を得ることができると推察される。また、本発明の高剛性の熱可塑樹脂発泡体からなる研磨パッドは、引張弾性率だけでなく、曲げ弾性率が硬質ウレタン研磨パッド等と比べて高いことから、研磨中に発泡体のセル壁62に研磨荷重により生じる曲げ変形と研磨面側のセル壁端部に研磨機の摩擦力により生じる曲げ変形をともに少なくでき、高い研磨圧力、高い回転速度で研磨しても発泡体のセル構造は安定している。そのため、研磨面の仕上がり精度が高く安定した研磨状態を維持できる。
図5(b)は、研磨開始から所定時間が経過した、研磨パッド1の摩耗により所定厚さだけ減少したパッドの断面を示す。このとき、新たに露出した研磨パッド1の上面では、複数の異なるセル壁62’の端面63a’が露出しており、これらの端面が研磨パッド1の研磨面1a’を形成している。研磨パッド1の3次元セル構造は、発泡体の厚さ方向でその厚さ方向位置によらずにほぼ一定であることから、研磨開始から所定時間経過後の発泡体上面近傍位置における3次元セル構造もほぼ一定であり、厚さが薄くなること以外は、図5(a)に示す初期状態とほぼ同様の3次元セル構造を有しており、このことにより、平均セル径と平均セル壁厚さ、及び平均セル径と平均セル壁厚さの比率のいずれも所定範囲内の所定値を満足することで、緻密で均一なセル構造を確保できることになる。そのため初期状態と同様の高剛性を維持していると考えられる。また、研磨面1a’の平面視において、セル壁62’の端面63a’の状態は、当該端面を全体的に見れば、初期段階とほぼ同じであり、良好な研磨速度を維持できると推察される。したがって研磨パッド1は、初期状態と所定時間経過後でほぼ同じ研磨速度を有しており、初期段階から良好な研磨速度を実現できる。
一方、図6(a)の部分断面図において、スウェード状研磨パッド100は、襞101と、近接する襞101,101間に形成された間隙102とで構成されている。襞101は、研磨パッド100の主面に対して略垂直に延出していることから、研磨パッド100の主面に並行な方向(横方向)の剛性は相対的に低くなる。したがって、研磨処理の初期段階において、被処理体Dを介して研磨面100aに所定圧力が付加されると、該圧力によって襞101が可撓し、襞101の端面101aが、被処理体Dの下面との摩擦によって横方向に微小に揺動し、研磨面100aに付与した研磨面に垂直方向の圧力が低下する。これにより初期段階の研磨速度が低下すると推察される。つまり、図6(a)に示すスウェード状研磨パッドにおいては、研磨時に加えた圧力がパッド自体の変形により吸収され易く研磨速度を上げることが困難である。また、研磨開始から所定時間経過後には研磨速度が上昇してほぼ一定の値を維持しているが、この理由は、図6(b)に示すように、摩耗によって襞101’の垂直方向長さが短くなることで、剛性が徐々に高くなり、揺動量も比較的少なくなるためと推察される。さらには、スウェード状研磨パッドの場合には、研磨粒子である砥粒Mが蓄積される空間が大きいことから、スラリー中の砥粒Mが近接する壁の間に所定量安定して蓄積され、研磨時の押圧力で研磨面にほぼ一定の状態で供給され、供給量に応じた研磨粒子として砥粒Mを蓄積することで、定常的な研磨を行うのに時間がかかるためと推定される。ここで、スウェード状研磨パッドを一端研磨が終了して再使用する場合には、近接する壁101、101の間には残留するスラリー中の粒子の量や大きさが一定とならなかったり、2次粒子を形成したりすることから、再度予備研磨が必要となる。
以上、上述したように、本実施形態によれば、研磨パッド1が、複数の微小セル61と、これらの微小セル61が相互に独立した区画を有するようにセル壁62で区画されて構成された3次元セル構造を有する、熱可塑性樹脂からなる硬質樹脂発泡体を有している。また、硬質樹脂発泡体の平均セル径が4μm〜50μm、セル壁62の平均厚さが1μm〜5μm、研磨面近傍および内部に高剛性の構造体が形成され、研磨粒子としての砥粒をセル構造体内部に安定的に保持できるとともに、高強度、高剛性のセル壁端面62aが研磨面に数多く存在することで、補助的な切削作用を有する。したがって、研磨開始直後から優れた研磨速度を実現することができる。よって、予備研磨の時間を無くすあるいは極力短くして簡便な研磨を実現することができ、また、初期段階から優れた研磨速度で継続的に研磨を行うことで、効率的且つ信頼性の高い研磨を実現することができる。
更に、樹脂製発泡体の研磨面1aにおけるセル61のセル径の平均とセル61のセル壁62の平均の厚さ比率が4〜10の範囲にあるので、セル構造体が高剛性で研磨粒子を安定して保持できることから、高精細な研磨を実現することができる。
特に、樹脂製発泡体を、引張強さ、曲げ強さ、引張弾性率や曲げ弾性率が高い高剛性のPPS樹脂、PET樹脂、PC樹脂のいずれかで成形すれば、初期段階からより優れた研磨速度を得ることができ、上記寸法のセル61、上記寸法のセル壁62、および上記単位面積当たりのセル数を有する緻密な硬質樹脂発泡体を容易に製造することが可能となる。また、前記硬質樹脂発泡体のセル壁の強度と引張弾性率が高いので、研磨時発泡体のセル壁が作る3次元セル構造の安定性が高く、さらに曲げ弾性率が高いことから、研磨時のセル構造体の先端部の研磨面位置におけるセル壁に係る曲げ歪みの発生量が少ないことから、安定した研磨状態を得ることができる。
より具体的には、発泡体の研磨面側の開口したセル壁端部と被処理体(被削材)との界面における樹脂発泡体の研磨面側のセル壁端部に研磨機の摩擦力により生じるセル壁端部の曲げ変形量が少なく、安定した研磨状態を得ることができる。
以上、本実施形態に係る研磨パッド及び研磨方法について述べたが、本発明は記述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
本発明を以下の実施例に基づき詳細に説明する。なお本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
(実施例、比較例)
先ず、後述する未発泡樹脂の成形体を準備し、この成形体を高圧容器中に封入した。次に、例えば、この高圧容器に不活性ガスを注入し、圧力60kg/cm2にて8時間、成形体に炭酸ガスを浸透させた。次いで、圧力容器内の圧力を解放した後、成形体を加熱して発泡させ、さらに成形体を冷却して、緻密な硬質樹脂発泡体を得た。また、上記の他、表1、表2に示すミクロ構造の異なる各実施例材、各比較例材を得るためには、前記ガス浸透時の圧力、圧力容器内の保持時間、圧力解放後の保持温度などを適宜調整することで、平均セル径(気泡の大きさ)とセル壁厚さの平均を種々変えたミクロ構造の異なるセル組織を有する発泡体を得て試験に供することができる。圧力開放後の加熱温度は、セル径の分布を安定させるためには、非晶性樹脂では、ガラス転移温度以下、結晶性樹脂では、各樹脂の結晶化温度以下ないしは結晶化温度を超えないような条件にて発泡体を成形するのが望ましい。尚、発泡によりセル径の大きな発泡体を得るには、ガス浸透時の圧力や圧力容器内の保持時間、圧力解放後の保持温度の調整だけでなく、例えば、2段発泡などの複数回発泡成形を行うことが望ましい。このように複数回発泡成形を行うことで、セル径が40μm〜50μmを超える範囲の発泡体を得ることができる。ここで、2段発泡の場合は、1段発泡の場合と異なり、結晶化温度を超える高温で保持した方が発泡倍率を高めることができる。
ここで、実施例、比較例の研磨パッドは、0.6mm厚にスライス加工し研磨試験に供した。なお、比較例5に示すスウェードタイプの軟質ウレタンパッドは、市販のウレタンパッドを購入して使用した。
この硬質樹脂発泡体を、3B研磨機(タイセイ社製、装置名「3B両面研磨装置」)の上下定盤に取り付け、下定盤に3つのキャリアを固定した。次に、加工ワークとして、面積6.0cm(3cm×2cm)ガラス板を3枚準備し、各キャリアの孔内に1枚ずつ置いた。下定盤に上定盤をセットした後、酸化セリウム系研磨材(三井金属社製、商品名「MIREK(登録商標) E05」)を10wt%含有するスラリーを250ml/minで供給しながら、上下定盤および3つのキャリアを回転させ、ディスクに研磨処理を施した。ディスクは3枚1セットとし、十分な研磨処理を施した後、各ディスクを取り出し、未研磨である別の1セットに研磨処理を施し、以後、この作業を繰り返した。上記研磨処理時において、上定盤の重量は5700g、研磨面での圧力は317g/cm、キャリア1枚当たりの圧力は1900gであった。また、下定盤の回転速度を60rpm、上定盤の回転速度を20rpm、キャリアの公転速度を20rpm、自転速度を10rpmとした。
(セル構造発泡体の組織評価)
上記のように得られた硬質樹脂発泡体を画像解析し、各材料について、任意の位置における所定視野内の平均セル径、セル壁の厚さの平均を測定し、さらに(平均セル径)/(平均セル壁厚さ)の比率を求めた。
本発明においては、樹脂製発泡構造体の平均の気泡の大きさを表す平均セル径、気泡同士を区画するセル壁の平均厚さ、平均セル径のセル壁厚さの平均に対する比率、単位面積当たりのセル数などは、研磨層の任意の位置における表面を観察して求めることができるが、本発明におけるこれらの値は、各5枚の樹脂製発泡構造体を測定した結果の平均値を用いたものである。なお、本発明においては、セル径、セル壁厚さ、及びこれらの比率に基づいて規定される3次元セル構造、並びに当該3次元セル構造の機械的特性値が基本的な構成要素であり、これらを確保するためには、3次元セル構造内に微小セルが独立して存在することが重要である。そこで、これらの材料について3次元セル構造の組織観察により確認を行ったところ、セル構造体は、基本的に、独立した微小セルにより構成されることが確認できた。
比較例5のスウェード状研磨パッドを除き、実施例及び比較例の硬質樹脂発泡体からなるパッドについて、ASTM D2856−94−C法に準拠した計算法により確認したところ、いずれの材料も独立セル率からなることが確認できた。
セル構造の評価として、平均セル径と平均セル壁厚さは、日本電子製走査電子顕微鏡で観察した樹脂製発泡構造体の組織写真を、画像処理することで求めた。
ここで、気泡径の測定は、視野中にセルの欠損部が存在するものを除いて、観察視野中に気泡のセルの輪郭がすべて含まれているもののみを選択して、各気泡について最大径と最小径を求めて、その平均値を各材料について求めた。
また、セル壁の厚さは、視野中の2つのセルが隣接する部分と、3つ乃至4つのセルが隣接する部分が存在し、セル壁厚さは、これらの部位によって異なる。ただし、構造体としての強度の観点では、これらの2つのセルが隣接する部分でのセル壁の厚さが最も薄いため、2つのセルが隣接する部分に着目し、これらを平均化して評価することが重要であると考えられる。このことから、2つのセルが隣接する部分の厚さの全視野における平均値を、本発明におけるセル壁厚さとした。なお、本発明においては、観察視野によるばらつきを無くすため、各材料の同一の発泡体から、5つの試験片を切り出して観察を行いこの平均値を平均セル壁厚さとした。
(樹脂シートの機械的特性の評価)
実施例、比較例の各種樹脂シートの引張強さ、引張弾性率、曲げ強さ、曲げ弾性率のうち、曲げ試験と後述する曲げ弾性率を除き、引張強さ、引張弾性率、曲げ強さは、各樹脂シートから所定形状の試験片を切り出し、引張試験と曲げ試験を行なうことにより求めた。引張試験はJIS K7161に準拠して行ない、曲げ試験はJIS K7171に基づいて行った。ここで、比較例5の材料は、市販の軟質ウレタンパッドを購入して使用したことから機械的特性は求めなかった。
<研磨試験結果の評価>
(初期研磨速度、定常状態の研磨速度の測定)
なお、ここで、研磨速度は、分析用電子天秤(エーアンドディ社製、装置名「製電子天秤GR−202」)により研磨前後のガラス板の重量を測定し、それぞれのガラス板の密度を用いて、研磨前後の厚さの変化量を算出した後、厚さの変化量を研磨時間で割った値を用いて算出した値であり、これを各3枚について求めて、その平均値を研磨速度とした。
(定常状態での研磨速度の評価)
また、ここで、定常状態での研磨速度を上記の方法により評価し、研磨速度が1.3μm/min以上1.4μm/min未満の場合には「◎」、定常状態での研磨速度が1.2μm/min以上1.3μm/min未満の場合には「○」、定常状態での研磨速度が1.2μm/min未満の場合には「△」とした。
(研磨面の表面品質)
研磨後、ガラス表面の研磨面10箇所について、表面形状測定機(Phase Shift社製、装置名「Optiflat」)を用いて、研磨面の微小うねりを測定した。たとえば、表面研磨を必要とする硬質材料の中でも、表面品質が厳しい記憶媒体用ガラス基板の表面品質としては、微小うねりが0.5nm以下であることが必要とされる。ここで、微小うねりとは、主表面における波長1.5〜5.0mmの領域における算術平均うねりWaのことを言う。
したがって、本発明においても、微小うねりが0.5nm以下を合格「○」、0.5nm以上を不合格「×」とした。
(スクラッチなどの表面欠陥の測定)
スクラッチの評価については、5枚のガラス板に対し、以下の評価を行った。スクラッチを発生し易くするため、研磨時の圧力を2倍に高くして、スラリーの流量も20%に絞って過酷条件にて研磨を行った。その後研磨をしたガラス板の表面の0.16μm以上の大きさの傷の数を、測定装置(KLA−Tencor社製、装置名「Surfscan SP1」)を用いて測定した。5枚のガラス板すべてにおいて、0.16μm以上の大きさの傷の数が、ガラス板1枚につき10個以下を合格「○」とした。5枚のガラス板のうち1枚でも、0.16μm以上の大きさの傷の数が10個を越えた場合を不合格「×」とした。
(発泡前の吸水率の測定)
吸水率は、無発泡の樹脂ブロックを作成し、そのブロックから厚さ2mm×(20mm)sqのサンプルを切り出して、前記サンプルを20℃の蒸留水に24時間浸漬し、浸漬前後の重量変化から下記のように吸水率を算出した。
吸水率(%)=[(浸漬後の重量)―(浸漬前の重量)/(浸漬前の重量)]×100
とした。
(給水前後の曲げ弾性率及び低下率の測定)
吸水による曲げ弾性率の変化は、上記の無発泡の樹脂ブロックから、厚さ2mm×幅1mm×長さ3mmの大きさの材料を切り出し試験片とし、インストロン社製卓上型試験機システムを用いて、下記条件で曲げ弾性率を測定した。
ここで、上記サンプルを25℃で48時間浸漬し、浸漬を行った試験片と浸漬を行わない試験片について浸漬前後の曲げ弾性率を比較した。ここで、浸漬後の吸水前後の曲げ弾性率の変化率は下記式により求めた。
曲げ弾性率の低下率(%)=[(浸漬前の曲げ弾性率−浸漬後の曲げ弾性率)/浸漬前の曲げ弾性率]
ここで、曲げ弾性率の低下率の評価としては、曲げ弾性率の低下がほとんどないか或いは10%以下ものを「◎」、曲げ弾性率の低下が10%を超えて20%以下であるものを、「○」、曲げ弾性率の低下が30%以上であるものを、「×」とした。
(研磨パッドの再使用性)
研磨中に2次粒子を形成しにくく、パッド表面を水洗して再使用時に再研磨なく使用できる場合を「○」、研磨中に2次粒子を形成しやすく使用後にパッド表面の乾燥と研磨粒子としての砥粒の凝集を防止するため、パッドを流水中に保管して、さらに吸水による曲げ剛性の低下層を除去するため、再研磨して使用する場合を不合格「×」とした。
ここで、実施例1から実施例7のPPS樹脂発泡体は、引張強さ80MPa、引張弾性率3300MPa、曲げ強さ138MPa、曲げ弾性率3900MPaのPPS樹脂シート(PPS(1))を異なる条件で発泡させた、表1に記載のセル構造を有する発泡体を得たもので、実施例8は、実施例1から実施例7の材料よりも少し高強度、高剛性である他のPPS樹脂(PPS(2))を発泡させて得た材料である。実施例9〜11は、実施例1〜8のいずれとも機械的特性の異なるPET樹脂(PET(1)〜PET(2))で、実施例9が低強度材であり、実施例10及び実施例11が平均セル径と(平均セル径)/(平均セル壁厚さ)の比率が異なる高強度材である。実施例12は、パッド材料が異なり、PPS樹脂やPET樹脂に比べると、少し低強度、低剛性のPC樹脂の発泡体である。
表1に実施例の評価結果を示す。
表1の結果より、実施例1〜実施例12に示すように、前記硬質樹脂発泡体の3次元の連続セル構造を構成するセル壁の壁部の引張強さが52〜85MPa、曲げ強さが92〜138MPaで、引張弾性率と曲げ弾性率の最小値がともに2400MPa以上であり、該樹脂製発泡体の平均セル径が4.8μm〜46μm、平均セル壁厚さが1.1μm〜4.9μm、平均セル径と平均セル壁厚さの比率が4.4〜9.4の範囲に含まれる研磨パッドであると、初期段階における研磨速度が定常状態での研磨速度とほぼ変わらず、研磨速度の立ち上がり特性が良好となることが分かった。
尚、実施例の評価は、発明材間のそれぞれの特性に関する優劣を評価するため、各特性毎に材料間の試験結果を評価し、比較例に関しては、それぞれの材料毎に本発明の材料より劣る特性や試験結果があるかどうかの確認を行った。
<実施例の評価試験結果>
(研磨の立ち上がり性)
実施例1〜実施例8のPPS樹脂と、高強度、高剛性のPET樹脂である実施例10,実施例11の場合には、初期研磨時の立ち上がり時間が約25分以下であり、実施例9の低強度のPET樹脂と実施例12のPC樹脂の場合は、強度と剛性が実施例1から実施例8の材料より劣るため、研磨の立ち上がり時間が25分を超えるものの約30分であった。以上のように、本発明の実施例1から実施例12の材料は、材料間で研磨の立ち上がり性に若干の差はあるものの、全体として、後述する比較例に比べて研磨の立ち上がり性に優れる結果となった。ここで、発泡前の材料が同一材料(PPS(1))である実施例1〜実施例7の範囲では、平均セル径の平均セル壁厚さに対する割合が8を超える実施例3と平均セル径が40μmを超える実施例4の初期研磨時の立ち上がり時間は、その他の実施例での初期研磨時の立ち上がり時間が20分以下であるのに対して、20分を超えており、実施例3、4は初期研磨時の立ち上がり性が僅かに劣る結果となった。したがって、平均セル径は、4μm〜40μmの範囲、平均セル径の平均セル壁厚さに対する割合は4〜8の範囲がそれぞれ望ましいと考えられる。
(定常状態の研磨速度)
また、定常状態の研磨速度も、実施例1から実施例8のPPS樹脂、実施例10、実施例11の高強度、高剛性のPET樹脂の場合は、いずれも定常状態での研磨速度が1.30μm/min以上〜1.4μm/minの範囲にあり、評価は「◎」、実施例9と実施例12の定常状態の研磨速度は、1.25μm/min、1.22μm/minでいずれも「○」の評価であり、実施例9、実施例12は、定常状態の研磨速度が他の実施例より少し劣る結果となった。
また、ここで、実施例1〜実施例8の中で、最も高強度、高剛性の材料である実施例8が最も定常状態の研磨速度が速く、実施例8を除いた発泡前の材料が同一材料(PPS(1))である実施例1〜実施例7において、平均セル径の平均セル壁厚さに対する割合が8を超える実施例3と平均セル径が40μmを超える実施例4の定常状態の研磨速度はそれぞれ1.35μm/min未満であり、実施例3、4の定常状態の研磨速度は、その他の実施例材1、2、5、6、7と比べると少し劣っていた。この理由は、セル壁の強度による砥粒の保持能力に起因するものと考えられる。また、その他の実施例間では、定常状態の研磨速度に大きな差異は認められず、実施例1から実施例7の定常状態での研磨速度の挙動は、研磨速度の立ち上がり性と同様の傾向が認められる。
(研磨面の表面品質と表面欠陥の有無)
実施例材の研磨面の表面品質に関しては、実施例1〜実施例12においては、前記表面の微小うねりの状態が0.5nm以下を満足し、均一な研磨面が得られている。この理由は、実施例1〜実施例12の材料は、引張弾性率、曲げ弾性率などの剛性が高いためと考えられるが、微小セル構造の安定性の高さによるものと考えられる。特に、実施例1〜実施例8に示すPPS樹脂は、樹脂材料の引張弾性率や曲げ弾性率がともに高く、研磨時の3次元セル構造の安定性が最も高いことによると考えられる。さらに、PPS樹脂は吸水率が著しく低いことから、研磨中のパッド表面の吸水による平坦度のばらつきが小さいことから、研磨面の表面品質が向上したものと考えられる。
また、研磨表面のスクラッチの有無についても、実施例1〜実施例12の材料は、比較例8に示すガラス繊維強化樹脂のように、硬質の強化材料を含有しないため、ベース樹脂と強化材料との界面が存在せず、スクラッチの発生が少なかった。
(吸水による曲げ弾性率の低下)
25℃、48時間浸漬試験における吸水による曲げ弾性率の低下に関しては、実施例1から実施例11の材料のPPS樹脂、PET樹脂の場合は、曲げ弾性率の低下がほとんどなく、低下が認められる場合で10%未満である。これに対して、PC樹脂の場合は、10%以上20%以下の範囲の曲げ剛性の低下が認められたが、PC樹脂の場合は、硬質ウレタンパッドの場合と較べると、曲げ弾性率の低下量が少なく、曲げ弾性率が低下した吸水後も曲げ弾性率1920MPaを超える。ここで、硬質ウレタンパッドの曲げ弾性率は、1200MPaであることから、本発明の硬質樹脂発泡体からなるパッドは、吸水により曲げ弾性率が低下した後も硬質ウレタンパッドの吸水前の曲げ弾性率よりも高い弾性率を維持している。再使用の際に十分な剛性を有しており、ドレシッングのための予備研磨を必要としなかった。
(研磨パッドの再使用性)
実施例1〜実施例12の材料は、吸水性が低いことから、研磨を一度中断した後に再研磨を行う場合に、パッド表面を水洗するだけでよく、セル表面の乾燥に伴う表面張力により研磨粒子としての砥粒が凝集した2次粒子がセル内壁に吸着しにくい。実施例9〜実施例12の材料は、実施例1〜実施例7および実施例8のPPS樹脂の場合より、吸水性が高いものの、粒子が凝集し2次粒子が形成してセル壁に2次粒子が吸着したとしても、水洗のみで2次粒子を除去することができた。尚、2次粒子は、PPS樹脂、PET樹脂、PC樹脂の順で形成しにくい傾向が認められた。2次粒子の形成のし易さ並びに2次粒子の吸着の両者を総合すると、PPS樹脂が最も再使用性に優れるものと考えられる。
表2に比較例の評価結果を示す。
比較例1〜比較例4は、実施例1〜実施例7の材料と同じ樹脂シート(PPS(1))を発泡させて得たパッドであるが、PPS樹脂発泡体の構造が本発明の範囲外である。具体的には、比較例1は平均セル径が本発明の規定の上限を超えている。比較例2は、平均セル径が本発明の規定の下限値よりも小さい。比較例3は、平均セル径と平均セル壁厚さは本発明の範囲を満たすが、平均セル径と平均セル壁厚さの比率が本発明の規定の上限を超えている。比較例4は、平均セル径と平均セル壁厚さは本発明の範囲を満たすが、平均セル径と平均セル壁厚さの比率が本発明の規定の下限値よりも小さい。比較例5は、軟質ウレタンスウェード状研磨パッド、比較例6,7は、強度や弾性率などの機械的特性を変えた熱可塑性硬質ウレタンパッド、比較例8は、PPS樹脂にガラス繊維を30質量%加えたガラス繊維強化硬質PPS樹脂パッドである。
そして比較例1のPPS樹脂発泡体では、平均セル径の大きさが本発明の範囲を超え、比較例3のPPS樹脂発泡体では、平均セル径の平均セル壁厚さに対する比率が著しく大きく、いずれも本発明の範囲外であることから、研磨の立ち上がり性と定常状態の研磨速度は合格レベルではあるものの、実施例よりは劣る。また、セル構造体の剛性が不足し、再使用性には優れるものの、研磨面の表面品質が低いことから本発明の範囲外となった。特に、平均セル径が60μmと大きい比較例1の場合には、微小セル内に2次粒子が生成し、2次粒子の剥離などの影響でスクラッチが発生した。
比較例2は平均セル径が本発明の下限値より小さく、平均セル壁厚さは本発明の範囲を満たすものの、平均セル径と平均セル壁厚さの比率は本発明の範囲外であり、セル内に保持できる砥粒の数が少ないことから、研磨の立ち上がり性が低く、表面品質の良好な研磨面が得られなかった。
比較例4のPPS樹脂材は、平均セル径が本発明の範囲を満たすものの、平均セル壁厚さが本発明の範囲を超え、平均セル径と平均セル壁厚さの比率が本発明の範囲を下回った。また、セル内部に安定的に保持できる砥粒の数が研磨面全体として少なくなることから、研磨面における研磨材の供給量が不足し、研磨速度の立ち上がり特性、定常状態の研磨速度が劣った。さらに、吸水による曲げ弾性率の低下はなく、再使用性には優れるものの、研磨面の表面品質が低く安定した研磨面が得られないことから、本発明の範囲外となった。
また、比較例5では、材料が軟質ウレタン樹脂製スウェード状研磨パッドであり、初期段階における研磨速度が定常状態での研磨速度の約1/2と大幅に小さくなり、研磨速度の立ち上がり特性が劣った。また、定常状態までの到達時間も2時間と長く、定常状態での研磨速度も他の材料より劣った。また、研磨面の表面品質に優れ、スクラッチの発生割合は低く、研磨特性は優れるものの、2次粒子を形成しやすく、さらに軟質ウレタンは吸水性が高く、吸水後の曲げ弾性率の低下が大きいことから、再使用性に劣った。
比較例6は、樹脂製発泡体として熱可塑性硬質ポリウレタン樹脂(硬質PUR(1))を用いたものである。比較例6では、平均セル径、平均セル壁厚さと、これらの比率も本発明の範囲を満たすことから、研磨速度の立ち上がり特性や定常状態の研磨速度などは、本発明の範囲を満たすものの、硬質ウレタン樹脂の引張弾性率、曲げ弾性率などの剛性に加えて、給水後の曲げ弾性率が本発明の材料より低いことから、研磨中のセル構造の安定性が不足し、研磨面の表面品質は本発明の研磨パッドより劣っていた。
また、硬質ウレタンを使用したパッドは吸水性が高く、吸水後の曲げ弾性率の低下が大きいことから、再使用時にドレシシングのための再研磨を行う必要があり、加えて、流水中に保持しなければならないなど管理上の問題もあった。よって、研磨面の表面品質、給水による曲げ弾性率の低下及び再利用性の点で、実施例より劣った。
また、比較例7は、比較例6のウレタン樹脂と比較して、引張弾性率や曲げ弾性率を少し高く設定した他のウレタン樹脂(硬質PUR(2))であるが、この比較例7においても、吸水後の曲げ弾性率の低下が大きいことから、比較例6とほぼ同様の結果となり、研磨面の表面品質、給水による曲げ弾性率の低下及び再利用性の点で、実施例より劣った。
比較例8は、PPS樹脂にガラス繊維を30質量%加えたガラス繊維強化PPS樹脂の発泡体であり、高剛性の特性を有している。また、平均セル径、平均セル壁厚さ及びこれらの比率は、本発明の範囲を満足するため、研磨速度の立ち上がり特性や定常状態の研磨速度及び再使用性などの点では、ガラス繊維を含有しないPPS樹脂と同様の結果が得られるが、強化用のガラス繊維がPPS樹脂に含有されることにより、被研磨材料の表面にスクラッチが発生し、また、ガラス繊維の離脱による凹凸の発生により、研磨面の表面品質にも劣った。したがって、比較例8の繊維強化PPS樹脂は、発泡体自体は高剛性であり、研磨の立ち上がり性や定常状態の研磨速度などは優れるものの、研磨用パッドには適さないことが分かった。
本発明の研磨パッドは、研磨の立ち上がり性と再使用性に優れるという特徴を有し、高精細な研磨が要求される被処理体、例えば各種電気・電子機器に搭載される磁気ディスク、半導体ウェハ等の研磨処理で好適に使用される。
1 研磨パッド
1a 研磨面
1a’ 研磨面
2 研磨パッド
10 研磨機
11 定盤
12 定盤
12a スラリー用孔
13 平歯車
13a 貫通孔
14 外歯車
15 配管
61 セル
61’ セル
62 セル壁
62’ セル壁
63a 端面
63a’ 端面

Claims (11)

  1. 複数の気泡である複数のセルとこれらのセルが相互に独立した区画を有するようにセル壁で区画されて構成された3次元セル構造を有する、熱可塑性樹脂からなる樹脂発泡体を有し、
    前記樹脂発泡体の3次元セル構造を構成するセル壁の壁部の引張強さが70MPa〜90MPa、曲げ強さが120MPa〜140MPaで、引張弾性率と曲げ弾性率の最小値がともに2400MPa以上であり、
    平均セル径が4μm〜50μm、平均セル壁厚さが1μm〜5μm、前記平均セル径と前記平均セル壁厚さの比率が4〜10の範囲にあり、
    前記樹脂発泡体が疎水性のポリフェニレンサルファイド樹脂からなり、引張弾性率が3000MPa〜3500MPaで、さらに曲げ弾性率が3800MPa〜4200MPaの範囲にあり、さらに吸水による曲げ弾性率の低下がない特性を有することを特徴とする研磨パッド。
  2. 前記研磨パッドがクッション層無しで使用可能であり、さらに硬質ウレタン発泡構造体からなる研磨パッドよりも高速研磨が可能であることを特徴とする、請求項1記載の研磨パッド。
  3. 前記研磨パッドの吸水率が0.02〜0.20%であり、再使用性に優れることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の研磨パッド。
  4. 前記研磨パッド用発泡前のシートの25℃、48時間浸漬試験における吸水前の曲げ弾性率に対する吸水後の曲げ弾性率の低下が20%以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の研磨パッド。
  5. 研磨処理が施される被処理体が、ハードディスクドライブ用板、シリコンウェハ、液晶ガラス、サファイア基板、化合物半導体、GaN基板およびSiC基板のいずれかの硬質材料であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の研磨パッド。
  6. 前記樹脂発泡体の研磨面とは反対側に配置されたクッション層を更に備えることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の研磨パッド。
  7. 請求項に記載の研磨パッドにおいて、前記クッション層の圧縮弾性率が前記研磨パッドの弾性率よりも小さなものを用い、さらに、前記クッション層の厚さが、前記クッション層と研磨パッドの研磨層の厚さの合計の10〜40%以内の厚さであることを特徴とする研磨パッド。
  8. 請求項1乃至のいずれか1項に記載のクッション層を有しない研磨パッドを用い、前記研磨パッドの樹脂発泡体と被処理体を圧接した状態で前記被処理体の表面を、砥粒を含有する研磨液を前記樹脂発泡体に供給しながら研磨することを特徴とする研磨方法。
  9. 請求項または請求項に記載の前記クッション層を備える研磨パッドを用い、前記研磨パッドの樹脂発泡体と被処理体を圧接した状態で前記被処理体の表面を、砥粒を含有する研磨液を前記樹脂発泡体に供給しながら研磨することを特徴とする研磨方法。
  10. 前記砥粒は、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、コロイダルシリカ粒子及びセリア粒子のいずれかであることを特徴とする、請求項または請求項9に記載の研磨方法。
  11. 求項1乃至のいずれか1項に記載の研磨パッドの使用を一旦中断した後に再使用する場合において、前記研磨パッドの表面を洗浄するのみで、再研磨を行わずに再使用する、研磨パッドの使用方法。
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