上述したように、前記特許文献1に開示された位置決め装置によれば、移動体を駆動する際に生じる構造体の静的な変位を補償しているので、それ以前の位置決め装置と比較して、より正確に移動体を位置決めすることができるが、本願発明者等の知見によれば、前記特許文献1に開示された位置決め装置においても、更に、改良すべき点があった。即ち、前記特許文献1に開示された位置決め装置では、移動体を駆動する際に加えられた加速度(力)の反力によって生じる構造体の静的な変位については補償されているが、移動体に加速度を加えることによって生じる構造体の自由振動に起因した動的な変位については考慮されておらず、この点において、更に改良すべき点が存在したのである。
特許文献1に開示しているように、移動体を駆動する際に生じる構造体の静的な変位は、数十μm程度の変位である。そして、本願発明者等の知見によれば、前記自由振動に起因した構造体の動的な変位も同程度のものとなる。これは、近年求められる位置決め精度(例えば、数μm単位の位置決め精度)を遥かに上回る大きなものである。したがって、この自由振動に起因した動的な変位を補正しなければ、当該位置決め装置の位置決め精度を十分に高精度なものとすることはできない。
本発明は、以上の実情に鑑みなされたもので、前記移動体を駆動することによって生じる前記構造体の動的な変位を補正することができる位置決め装置の提供を、その目的とする。
上記課題を解決するための本発明は、
移動体と、
前記移動体を予め設定した送り軸方向に案内する案内機構部、及び前記移動体を移動させる駆動機構部を有する送り装置と、
前記送り装置を支持する構造体と、
前記駆動機構部の作動を制御して、予め設定した基準位置に対する前記移動体の移動位置を制御する制御装置とを備えた位置決め装置であって、
前記構造体の変位に起因した、前記基準位置に対する前記移動体の前記送り軸方向における変位を導出する導出部と、
前記導出部により導出された変位データを受信して、前記変位を打ち消すための修正データを、前記制御装置における前記駆動機構部を制御するための制御信号に加算する加算部とを設けた位置決め装置において、
前記導出部は、前記移動体に加えられる加速度によって生じる、前記構造体の自由振動に起因した、前記移動体の前記基準位置に対する動的な変位を導出するように構成された位置決め装置に係る。
この位置決め装置によれば、前記移動体を駆動機構部により駆動し、前記案内機構部に沿って移動させる際に生じる、当該移動体の前記基準位置に対する動的な変位であって、前記送り軸方向における動的な変位が、前記導出部によって導出される。この動的な変位は、前記移動体に加えられた加速度によって生じる前記構造体の自由振動に起因するものである。そして、この導出部において導出された動的な変位データを基に、前記加算部において、この動的な変位を打ち消すための修正データが生成され、生成された修正データが前記駆動機構部を制御するための制御信号に加算される。
このように、本発明に係る位置決め装置によれば、駆動機構部を制御するための制御信号に、移動体の動的な変位を打ち消すための修正データを加算するようにしているので、当該移動体は、その動的な変位が補正(補償)された状態で位置決めされる。
また、前記導出部は、前記移動体に加えられる加速度によって生じる前記構造体の静的な変位に起因した、前記移動体の前記基準位置に対する静的な変位を更に導出するように構成されるとともに、前記移動体に加速度が加えられているときには、前記移動体の前記基準位置に対する前記動的変位と前記静的変位とを合計した変位を導出し、前記移動体に加速度が加えられていないときには、前記動的変位のみを導出するように構成されている。
本発明者等の知見によれば、前記移動体に加速度が加えられているときには、その反力が構造体に作用して、当該構造体に前記静的な変位が生じるとともに、当該構造体に自由振動が生じて、この自由振動に起因した動的な変位が生じ、更に、この後、加速度の付加が停止されると、当該構造体には引き続き自由振動が残留し(これを残留振動という)、この残留振動に起因した動的な変位が生じる。そして、この構造体の静的な変位に起因して、前記移動体に静的な変位が生じるとともに、前記構造体の動的な変位に起因して、前記移動体に動的な変位が生じる。
そこで、上記のように、前記移動体に加速度が加えられているときには、前記導出部において、前記移動体の動的な変位と静的な変位とを合計した変位を導出し、導出された変位データを基に、前記加算部において、この変位を打ち消すための修正データを生成して、前記制御信号に加算し、一方、前記移動体に加速度が加えられていないときには、前記導出部において、前記動的な変位のみを導出し、導出された変位データを基に、前記加算部において、この変位を打ち消すための修正データを生成して、前記制御信号に加算する。
このようにすれば、前記移動体に加速度が加えられているときには、この移動体に生じる静的な変位と動的な変位とを打ち消すように、当該移動体を位置決めすることができ、前記移動体に加速度が加えられていないときには、当該移動体に生じる動的な変位を打ち消すように、これを位置決めすることができる。したがって、前記移動体を、より高精度に位置決めすることができる。
また、上記位置決め装置は、前記構造体の振動加速度を測定する加速度計を備え、前記導出部は、前記加速度計によって測定される前記構造体の振動加速度を基に、前記移動体の前記基準位置に対する動的な変位を導出するように構成されており、前記移動体の動的な変位は、前記導出部において、前記加速度計によって計測される前記構造体の振動加速度を基に、導出される。
ここで、前記移動体の加速により生じる当該移動体の変位であって、前記構造体の自由振動に起因した当該移動体の動的な変位について考察する。
図9に、移動体60、この移動体60を移動させる送り装置61、及び送り装置61を支持する構造体50から構成される機構を物理モデルとして図示した。尚、図中、符号62は駆動モータ、符号63は駆動モータ62の出力軸に直結されるボールねじである。また、構造体50は基準面65上に載置されるものとし、移動体60は基準面65に対して位置決めされるべきものであるとする。
また、この物理モデルにおいて、構造体50は完全な剛体ではないので、これが基準面65に対してバネ(定数K1)及びダンパ(定数C1)を介して接続された構成として近似される。また、構造体50と移動体60とはボールねじを介して接続されるが、ボールねじもまた、剛体ではないので、当該構造体50と移動体60とは、バネ(定数K2)及びダンパ(定数C2)を介して接続された構成として近似される。
斯くして、この物理モデルでは、構造体50に加えられる力をf(t)、構造体50の質量をM1、移動体60の質量(実際の構造体の振動変形に寄与する等価質量)をM2、構造体50の変位をx1、構造体50の速度をx1'、移動体60の速度をx2'、構造体50の加速度をx1"とすると、前記質量M1のみに着目した時の運動方程式は、数式1となる。
(数式1)
M1x1"=−f(t)−C1x1'−K1x1+C2(x2'−x1')
ここで、移動体60の移動を案内するガイドの粘性摩擦係数が十分小さいとすると、C2≒0と近似でき、また、自由振動の場合は、加えられる力f(t)が0であるから、数式1は、数式2と近似され、1自由度系の振動の運動方程式として表現できる。
(数式2)
M1x1"+C1x1'+K1x1=0
一方、数式2の自由振動の解は数式3で与えられることが知られている。
(数式3)
xd=Acos(ωt−ψ)
但し、xdは自由振動系の動的な変位であり、
A=(x0 2+((ζωnx0+v0)/ωd)2)1/2、
ψ=tan−1((ζωnx0+v0)/ωd)、ζ=減衰比、ωn=(K1/M1)1/2、
ωd=(1−ζ2ωn)1/2、位置x0及び速度v0は初期条件(t=0)の値である。
また、速度xd'は、数式3を微分して、数式4で与えられる。
(数式4)
xd'=−Aωsin(ωt−ψ)
さらに、加速度xd"は、数式4を微分して、数式5で与えられる。
(数式5)
xd"=−Aω2cos(ωt−ψ)=−ω2xd
そして、数式5を動的な変位xdについて解くと、数式6となる。
(数式6)
xd=−xd"/ω2
この数式6から分かるように、加速度(振動加速度)xd"が得られれば、この振動加速度xd"の値に、−1/ω2を乗じることによって、動的な変位xdを算出(導出)することができる。尚、ω2の値は、例えば、以下のような実験的な手法によって、予め、既定値として得ることができる。即ち、前記数式3からすると、動的な変位xdの振幅はAであり、前記数式5からすれば、振動加速度xd"の振幅はAω2であるので、例えば、光学変位計を用いて、構造体50の動的な変位xdを測定するとともに、加速度計を用いて構造体50の振動加速度xd"を測定した後、これらの測定結果から得られる振動加速度xd"の振幅Aω2を動的な変位xdの振幅Aで除算することにより、前記ω2の値を算出することができる。或いは、光学変位計又は加速度計を用いて測定した前記構造体50の変位又は加速度の振動周波数fを基に、ω(=2π×f)の値を算出することもできる。尚、ω2の値については、同じ構造の位置決め装置であれば、個体差は無視できると考えられるので、上述のようにして求めたω2の値を、同種の他の位置決め装置に適用することができる。
斯くして、前記導出部は、加速度計によって測定された構造体の振動加速度を基に、上記数式6から当該構造体の前記動的な変位を導出することができるとともに、この構造体の動的な変位を基に、前記移動体の動的な変位を導出することができ、導出された移動体の動的な変位データを基に、前記加算部では、この変位を打ち消すための修正データを算出して、前記制御信号に加算する。これにより、上述した如く、前記移動体は、その動的な変位が補正(補償)された状態で位置決めされる。
また、上記位置決め装置において、前記導出部は、前記駆動機構部を制御する前記制御装置の制御信号を基に、前記移動体に加えられる加速度を算出し、算出した加速度を基に、前記構造体の静的な変位に起因した、前記移動体の前記基準位置に対する静的な変位を導出するように構成されてもよい。
ここで、前記移動体の加速によって生じる前記構造体の静的な変位および動的な変位について考察する。
前記移動体の加速時に、一定期間、外力faが作用するとした場合、上記と同様に、移動体60の移動を案内するガイドの粘性摩擦係数が十分小さいとすると、C2≒0と近似できるから、上記数式1から、この場合の運動方程式は、数式7となり、数式7をラプラス変換すると、数式8となる。
(数式7)
M1x1"+C1x1'+K1x1=fa・u(t)
但し、u(t)は、t≧0におけるステップ入力であり、u(t)=1である。
(数式8)
X(s)=(fa/M1)/(s・(s2+2ζωns+ωn 2))
但し、s=jω、ωn=(K1/M1)1/2である。
そして、数式8を部分分数に展開して、逆ラプラス変換をすると、数式9となる。
(数式9)
x1(t)=(fa/K1)・(1−(e-ζωnt/(1−ζ2)1/2)・cos(ωdt−ψ))
但し、ψ=tan−1((ζωnx0+ν0)/ωd)、ζ=減衰比、
ωd=(1−ζ2ωn)1/2、位置x0及び速度v0は初期条件(t=0)の値である。
ここで、x1(t)は、ラプラス変換における応答であり、前記移動体の加速によって生じる前記構造体の変位に相当する。ある一定の加速度が加わった場合、時間遅れを伴って応答x1(t)は最大となり、その後振動しながら、減衰して静的な釣り合い位置で静止する。このように、変位x1(t)は、加速による強制的な変位(静的な変位)と自由振動による変位(動的な変位)とを重ね合わせたものになっている。
加速による強制的な変位である静的な変位に注目すると、この静的な変位は、数式9より、fa/K1とみなすことができ、加速度の値に比例するため、加速度の値に比例定数を乗じることによって求めることができる。即ち、比例定数をBとし、加速度をxs"とし、静的な変位をxsとすると、この静的な変位xsは数式10によって表すことができる。
(数式10)
xs=B・xs"
そして、この比例定数Bは、例えば、以下のような実験的な手法によって、予め、これを既定値として得ることができる。即ち、例えば、前記制御装置において前記駆動機構部を駆動する際に設定される加速度を種々の値に変化させて前記駆動機構部を駆動して、前記移動体を移動させ、その際に、適宜光学変位計を用いて前記構造体の静的な変位を測定することにより得られる加速度と静的な変位との関係から、これら相互間の比例定数Bを算出することができる。尚、この比例定数Bについても、同じ構造の位置決め装置であれば、個体差は無視できると考えられるので、上述のようにして求めた比例定数Bの値を、同種の他の位置決め装置に適用することができる。
斯くして、前記導出部は、前記駆動機構部を制御する前記制御装置の制御信号から、前記移動体の加速度を取得することができ、得られた加速度から、前記移動体の静的な変位を導出することができる。
以上のように、本発明に係る位置決め装置によれば、駆動機構部の作動を制御するための制御信号に、移動体の動的な変位を打ち消すための修正データを加算するようにしているので、当該移動体を、その動的な変位を補正(補償)した状態で位置決めすることができる。また、前記移動体に加速度が加えられているときには、移動体の動的な変位と静的な変位とを合計した変位を補償し、移動体に加速度が加えられていないときには、その動的な変位のみを補償するようにしているので、当該移動体をより高精度に位置決めすることができる。
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る位置決め装置1は、上辺部2a,下辺部2b,左垂辺部2c及び右垂辺部2dからなるロの字形状を有し、その下辺部2bの上面にテーブルTが載置される構造体2と、この構造体2の上辺部2aの上面に配設された送り装置3と、この送り装置3によりその送り軸方向(図1の矢示方向)に移動される移動体12と、前記送り装置3の作動を制御する制御装置20と、前記左垂辺部2cの上方の外側面に設けられた加速度計11と、前記移動体12の変位量を導出する変位導出部28と、この変位導出部28によって導出された変位データを基に、当該変位を打ち消すような修正データを生成して、前記制御装置20の制御信号に加算する加算部27とから構成される。以下、各部の詳細について説明する。
尚、この位置決め装置1は、これを工作機械に適用する場合には、例えば、前記構造体2がベッド及びフレームに相当し、移動体12が工具主軸に相当する。また、図1及び図3において、符号14は前記工具主軸(移動体12)にこれから垂下するように装着された工具に相当するが、以下では、これを位置決めロッドと称する。そして、この位置決め装置1では、前記位置決めロッド14を前記テーブルTに対して位置決めするものとする。
図1及び図3に示すように、前記送り装置3は、前記移動体12を矢示方向に移動自在に支持する案内機構部4と、前記移動体12を移動させる駆動機構部6とからなる。
前記案内機構部4は、前記構造体2の上辺部2aの上面に、前記矢示方向に沿って平行に配設された2本のガイドレール5aと、このガイドレール5aにそれぞれ係合され、これに案内されて移動する2つのスライダ5bとから構成され、各スライダ5b上に載置,固定された前記移動体12の前記矢示方向への移動を案内する。
また、前記駆動機構部6は、前記2本のガイドレール5a間にこれに沿って配設されたボールねじ7と、前記上辺部2aの上面に固設され、前記ボールねじ7の両端部をそれぞれ回転自在に支持する軸受8と、同じく前記上辺部2aの上面に固設され、前記ボールねじ7をその軸中心に回転させる駆動モータ9と、前記ボールねじ7に螺合し且つ前記移動体12の下面に固設されたナット13と、前記移動体12の矢示方向における位置を検出する位置検出器10とから構成される。
斯くして、前記移動体12は、前記駆動機構部6によって駆動されるボールねじ7の回転に従って、前記案内機構部4に案内されながら、前記矢示方向に移動する。
前記位置検出器10は、例えば、前記駆動モータ9に取り付けたロータリエンコーダから構成され、逐次、即ち、予め設定された時間間隔(サンプリング間隔)で検出した移動体12の位置データを出力する。尚、位置データを検出する手段としては、このロータリエンコーダに限られるものではなく、例えば、移動体12の位置を直接検出するリニアエンコーダなどでも良い。
前記制御装置20は、図2に示すように、動作プログラム記憶部21,プログラム解析部22,位置生成部23,位置制御部24,速度制御部25,電流制御部26から構成され、前記移動体12の矢示方向における移動位置を制御する。
前記動作プログラム記憶部21は、予め作成された動作プログラムを記憶する機能部であり、記憶された動作プログラムを前記プログラム解析部22へ送信する。
前記プログラム解析部22は、前記動作プログラム記憶部21から受信した動作プログラムを解析して、前記送り装置3の送り速度や移動位置などに関する指令を抽出し、抽出した指令を前記位置生成部23へ送信する。
前記位置生成部23は、プログラム解析部22から受信した信号を基に予め定められた時定数を加味して、所定のサンプリング間隔ごとの移動目標位置に関する信号(制御信号たる動作指令信号)を生成し、これを前記位置制御部24へ逐次送信する。
前記位置制御部24は、前記位置生成部23から送信される動作指令信号に基づいて速度指令信号を生成し、生成した速度指令信号を前記速度制御部25へ送信し、前記速度制御部25は、前記位置制御部24から送信される速度指令信号に基づいて電流指令信号を生成し、生成した電流指令信号を前記電流制御部26へ送信する。また、前記電流制御部26は、前記速度制御部25から送信される電流指令信号に基づいた駆動電流信号を生成し、生成した駆動電流信号を前記駆動モータ9に送信する。そして、かかる駆動電流によって駆動モータ9の作動が制御される。
尚、特に図示しないが、この制御装置20では、周知のフィードバック制御が行われ、電流に関するフィードバック信号が前記電流制御部26の入力側にフィードバックされ、速度に関するフィードバック信号が前記速度制御部25の入力側にフィードバックされ、位置に関するフィードバック信号が前記位置制御部24の入力側にフィードバックされる。
前記加速度計11は、前記移動体12が移動することにより生じる構造体2の左垂辺部2cの自由振動に起因した振動加速度を、所定のサンプリング間隔で検出し、検出した振動加速度に関するデータを前記変位導出部28に送信する。
前記制御装置20により駆動機構部6の駆動モータ9を駆動して、図4に示すように、移動体12を矢示方向に移動させると、この移動体12に加えられる加速度の反力が構造体2に作用し、この反力により構造体2に静的な変位が生じるとともに、構造体2に自由振動(動的な変位)が生じる。前記加速度計11は、この自由振動に起因した振動加速度を検出して、前記変位導出部28に送信する。尚、図4は、図1に示した位置決め装置を簡略化したモデルであって、移動体12を移動させる際に、当該移動体12に加えられる加速度によって、構造体2に静的な変位が生じた状態を示している。
前記変位導出部28は、前記位置生成部23から出力される動作指令信号、及び前記加速度計11から出力される振動加速度データを、前記サンプリング間隔で受信して、前記移動体12の変位を算出し、算出した変位データを前記サンプリング間隔で前記加算部に出力する処理部であり、具体的には、図5に示した処理を実行する。
図5に示すように、前記変位導出部28は、まず、前記制御装置20の起動時に処理を開始して、前記位置生成部23から入力される動作指令信号を基に、前記移動体12が加速又は減速移動中であるか否かを監視する(ステップS1)。
そして、前記移動体12が加速又は減速移動中のときには、前記位置生成部23から入力される動作指令信号を基に、前記移動体12に加えられている加速度を算出するとともに(ステップS2)、前記加速度計11から前記構造体2の振動加速度を取得し(ステップS3)、これらの加速度及び振動加速度を基に、前記移動体12の静的な変位と動的な変位を算出してこれらを合算し(ステップS4)、合算した変位データを前記加算部27に出力する(ステップS7)。
上述したように、移動体12に加速度が加えられると、その反力が構造体2に作用し、この反力によって前記構造体2及び前記移動体12に静的な変位が生じるとともに、前記構造体2には自由振動が生じ、この自由振動によって、前記移動体12に動的な変位が生じる。したがって、前記変位導出部28は、前記移動体12が加速度を受けて移動しているときには、移動体12の静的な変位と動的な変位を算出し、これを合算して前記加算部27に出力する。
一方、前記移動体12が加速又は減速移動中ではないとき、即ち、定速移動中又は停止中であるときには、前記加速度計11から前記構造体2の振動加速度を取得し(ステップS5)、この振動加速度を基に、前記移動体12の動的な変位を算出して(ステップS6)、算出した変位データを前記加算部27に出力する(ステップS7)。
そして、上記ステップS1〜S7の処理を上記サンプリング間隔で実行し、前記制御装置20の停止とともに処理を終了する(ステップS8)。
斯くして、この変位導出部28では、前記移動体12の加速及び減速移動時には、当該移動体12の静的な変位と動的な変位とを合算した変位が算出され、前記移動体12の定速移動時及び停止時には、当該移動体12の動的な変位のみが算出される。
尚、前記移動体12の静的な変位は、上述した数式10に従って算出され、上記比例定数Bは上述した実験的な手法によって予め取得される。また、前記移動体12の動的な変位は、上述した数式6に従って算出され、この算出の際に必要な定数である−1/ω2も、上述した実験的な手法によって予め取得される。
前記加算部27は、前記変位導出部28から上記サンプリング間隔で出力される変位データを受信し、受信した変位データを基に、当該変位を打ち消すための修正データ、即ち、位置補正データを生成し、生成した修正データ(位置補正データ)を上記サンプリング間隔で前記位置制御部24の入力側の制御信号に加算する処理を行う。
以上のように構成された本例の位置決め装置1によれば、前記制御装置20によって前記駆動モータ9を駆動する際、まず、動作プログラム記憶部21に格納された動作プログラムがプログラム解析部22によって読み出され、当該プログラム解析部22により、動作プログラム中の送り速度や移動位置などに関する指令が抽出され、抽出された指令が位置生成部23へ送信される。
そして、位置生成部23は、プログラム解析部22から送信された信号を基に、動作指令信号を生成して位置制御部24に送信し、位置制御部24は、受信した動作指令信号を基に、速度指令信号を生成して速度制御部25に送信し、速度制御部25は、受信した速度指令信号を基に、電流指令信号を生成して電流制御部26に送信し、電流制御部26は、受信した電流指令信号を基に駆動指令信号を生成して駆動モータ9に送信する。斯くして、かかる駆動指令信号によって駆動モータ9が駆動され、前記移動体12が前記案内機構部4によって案内されながら、その案内方向(前記矢示方向)に移動する。
一方、前記変位導出部28では、前記位置生成部23から出力される動作指令信号を基に、前記移動体12の動作状態が監視される。そして、前記移動体12が加速度を伴って移動していると判断されたときには、変位導出部28は、この移動に伴って生じる前記移動体12の変位であって、静的な変位と動的な変位とを合算した変位データを所定のサンプリング間隔で算出し、算出した変位データを加算部27に送信する。そして、加算部27は、変位導出部28から受信した変位データを基に、当該変位を打ち消すための修正データを生成し、生成した修正データを上記サンプリング間隔で前記位置制御部24の入力側の制御信号に加算する処理を行う。これにより、移動体12が加速度を伴って移動する際に生じる、当該移動体12の動的な変位と静的な変位が補正され、当該移動体12を制御目標位置(即ち、前記位置生成部23から出力される移動目標位置)に正確に位置決めすることができる。
他方、前記移動体12が加速度を伴わないで定速で移動していると判断されたとき、又は、前記移動体12が停止していると判断されたときには、変位導出部28は、移動体12の動的な変位データのみを所定のサンプリング間隔で算出し、算出した変位データを加算部27に送信する。そして、加算部27は、同様にして、変位導出部28から受信した変位データを基に、当該変位を打ち消すための修正データを生成し、生成した修正データを上記サンプリング間隔で前記位置制御部24の入力側の制御信号に加算する処理を行う。これにより、移動体12の定速移動中及び停止中に生じる、当該移動体12の動的な変位が補正され、当該移動体12を制御目標位置に正確に位置決めすることができる。
このように、本例の位置決め装置1によれば、構造体2(言い換えれば、送り装置3)の送り軸方向の動的および静的変位を算出して、この変位を打ち消すべく移動体12の位置決め位置を補償しているので、前記基準位置に対する移動体12の位置決めを、従来に増してより高精度に位置決めすることができる。
ここで、本例の位置決め装置1を用い、前記移動体12を所定距離だけ移動させたときの位置決め精度に関する実験結果を、図6〜図8に示す。
尚、この実験では、図1に示すように、前記位置決めロッド14の下端部にレーザ変位計14aを取り付けた状態で、前記移動体12を移動させて、前記ワークW上に固設した基準ブロック14bとレーザ変位計14aとの間の距離を所定のサンプリング間隔ごとに測定した。
そして、前記位置生成部23から出力される動作指令から前記移動体12の目標移動距離を算出し、得られた目標移動距離と、前記レーザ変位計14aによって測定された移動体12の実際の移動距離との差分を、前記移動体12の移動中の変位として、前記サンプリング間隔ごとに算出した。
図6は、移動体12の移動中に、前記静的な変位及び動的な変位の双方を補正しなかった場合、即ち、本例の変位導出部28及び加算部27を機能させなかった場合の、前記移動体12の変位を示している。また、図7は、移動体12の移動中に、本例の変位導出部28における処理を変更して、移動体12に加速度が加わっているときに、前記静的な変位のみを補正した場合の、前記移動体12の変位を示しており、図8は、本例の変位導出部28及び加算部27を機能させて、移動体12の移動中に、前記静的な変位及び動的な変位の双方を補正した場合の、前記移動体12の変位を示している。
図6に示すように、移動体12は、その加速期間には全体的にマイナス方向に変位(静的な変位)し、減速期間には全体的に+方向に変位(静的な変位)するとともに、定速移動期間を含めた全移動期間中においては、自由振動に伴う動的な変位が付加された変位を生じている。この図6から、上述したように、移動体12に加速度が加えられているときには、当該移動体12に静的な変位と動的な変位が生じ、移動体12に定速移動しているときには、動的な変位のみが生じることが分かる。
また、移動体12に加速度が加わっているときにのみ、前記静的な変位を補正すると、図7に示すように、図6と比較して、移動体12の加速期間及び減速期間の静的な変位は減少するが、全体的には、動的な変位が残り、全く補正しない図6と比較して、その位置決め精度は改善されるものの、十分ではないことが分かる。
一方、本例の前記変位導出部28及び加算部27を機能させて、静的な変位及び動的な変位の双方を補正すると、図8に示すように、静的な変位が減少するとともに、動的な変位の振動が抑制され、移動体12を制御目標位置に高精度に位置決めし得ることが分かる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は、何ら上例のものに限られるものではない。
例えば、上例において、前記加算部27は、変位導出部28から受信した変位データを基に、当該変位を打ち消すための修正データとして位置補正データを生成し、生成した位置補正データを前記位置制御部24の入力側の制御信号に加算するように構成されているが、この構成に限られるものではなく、前記加算部27は、変位導出部28から受信した変位データを微分処理して、当該変位を打ち消すための修正データとして速度補正データを生成し、図2において2点鎖線で示すように、生成した速度補正データを前記速度制御部25の入力側の制御信号に加算するように構成されていても良い。このようにしても、前記移動体12に生じる前記静的な変位と動的な変位の双方を補正することができる。
また、上例では、前記変位導出部28は、前記位置生成部23から入力される動作指令信号を基に、前記移動体12に加えられている加速度を算出し、算出した加速度を基に前記移動体12に生じる静的な変位を算出するように構成されているが、これに限られるものではなく、前記構造体2に歪みゲージなど、当該構造体2の変位を検出することができる変位センサを設けて、この変位センサから出力されるデータから当該構造体2の静的な変位、即ち、前記移動体12の静的な変位を算出するように構成されていても良い。このようにしても、上例と同様な効果が奏される。
また、上例では、加算部27及び変位算出部28を制御装置20とは別の構成としたが、これら加算部27及び変位算出部28を制御装置20内に組み込んだ構成としても良い。